説明

車両の制御装置

【課題】負圧回復制御を通じて負圧が確保されたときに、運転者が予期していないタイミングにおいて変速段の変更が実行されることを抑制することのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】本願発明に係る車両の制御装置である電子制御装置100は、ブレーキブースタ30の機能を十分に発揮させるために必要とされる負圧が確保できていないときに、自動変速機20の変速段を、変速制御を通じて選択される変速段よりも変速比の大きな変速段に変更する負圧回復制御を実行する。電子制御装置100は、負圧回復制御を通じて負圧が確保できるようになった場合であってもアクセルペダル40が操作されるまで負圧回復制御を継続させ、アクセルペダル40が操作されたときに負圧回復制御を終了させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動変速機を搭載した車両の制御装置に関し、特に内燃機関の吸気通路内に発生する負圧を利用してブレーキ操作に必要とされる操作力を軽減する真空倍力式のブレーキブースタを備える車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ操作の際に必要とされる操作力を軽減するブレーキブースタとして、内燃機関の吸気通路内に発生する負圧を利用する真空倍力式のブレーキブースタが知られている。
吸気通路内に発生する負圧の大きさは、内燃機関の運転状態によって変化する。例えば、機関回転速度が低い状態が継続しているときには内燃機関に吸入される空気の量が少ない状態が継続するため、吸気通路内に発生する負圧も小さくなる。そのため、真空倍力式のブレーキブースタを備える車両にあっては、機関回転速度が低い状態が継続しているときのように吸気通路内に発生する負圧が小さい状態が継続している場合には、負圧が不足して十分に機能を発揮させることができなくなってしまうおそれがある。
【0003】
これに対して特許文献1には、ブレーキブースタを十分に機能させるために必要な負圧を確保するために、負圧回復制御を実行する車両の制御装置が記載されている。この制御装置にあっては、負圧が不足しているときに負圧回復制御を実行することによって通常の変速制御を通じて選択される変速段よりも変速比の大きな変速段を選択し、機関回転速度を上昇させるようにしている。
【0004】
こうした構成を採用すれば、機関回転速度が上昇することによって内燃機関の各気筒に吸入される空気の量が増大し、吸気通路内に発生する負圧が増大するようになるため、ブレーキブースタを十分に機能させるために必要な負圧を確保することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000‐74208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に記載された車両の制御装置にあっては、負圧を確保するために負圧回復制御を実行する一方で、負圧が確保できたときには直ちに負圧回復制御を終了せさ、通常の変速制御を通じて設定される変速段を選択するようにしている。そのため、負圧が確保されると運転者の操作によらずに変速段の変更が行われるようになり、運転者が予期していないタイミングにおいて変速ショックが生じたり、駆動力が変化したりするため、運転者が違和感を覚えやすくなる。
【0007】
この発明は上記実情に鑑みてなされたものでありその目的は、負圧回復制御を通じて負圧が確保されたときに、運転者が予期していないタイミングにおいて変速段の変更が実行されることを抑制することのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の吸気通路内に発生する負圧を利用してブレーキ操作に必要な操作力を軽減する真空倍力式のブレーキブースタと、自動変速機とを備える車両に搭載され、前記ブレーキブースタの機能を十分に発揮させるために必要とされる負圧が確保できていないときに、前記自動変速機の変速段を、変速制御を通じて選択される変速段よりも変速比の大きな変速段に変更する負圧回復制御を実行する車両の制御装置において、前記負圧回復制御を通じて前記負圧が確保できるようになった場合であってもアクセルが操作されるまで前記負圧回復制御を継続させ、アクセルが操作されたときに前記負圧回復制御を終了させることをその要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、負圧回復制御を通じて負圧を確保することができるようになったときに直ちに負圧回復制御が終了されるのではなく、負圧回復制御を通じて負圧を確保することができるようになったあと運転者によってアクセルが操作されたときに負圧回復制御が終了されるようになる。すなわち、運転者のアクセル操作をきっかけとして負圧回復制御が終了され、自動変速機の変速段が、通常の変速制御を通じて選択される変速段へとシフトアップされるようになる。
【0010】
したがって、上記請求項1に記載の発明によれば、負圧回復制御を通じて負圧が確保されたときに、運転者が予期していないタイミングにおいて変速段の変更が実行されることを抑制することができるようになる。ひいては予期していないタイミングにおいて変速ショックが生じたり、駆動力が変化したりすることを抑制し、運転者に与える違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施形態に係る電子制御装置と、内燃機関、自動変速機、並びにブレーキブースタの関係を示す模式図。
【図2】負圧回復制御の実行可否を判定するための処理の流れを示すフローチャート。
【図3】変更例としての処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1及び図2を参照し、この発明に係る車両の制御装置を車両を統括的に制御する電子制御装置として具体化した一実施形態について説明する。
図1の中央に示されるように内燃機関10には、吸気通路11が接続されている。吸気通路11は途中で分岐しており、分岐した各通路が内燃機関10の各気筒に接続されている。これにより、吸気通路11を通じて内燃機関10の各気筒に空気が導入されるようになっている。
【0013】
吸気通路11における分岐する直前の部分は、吸気通路11の他の部位よりも拡径されたサージタンク11aになっている。これにより、各気筒に導入される空気の脈動が、サージタンク11a内に蓄えられた空気によって平準化されるようになっている。
【0014】
そして、図1の左側に示されるように吸気通路11におけるサージタンク11aよりも上流側の部分には、モータ12aによって駆動され、その開度の変更を通じて内燃機関10の吸入空気量を調量するスロットルバルブ12が設けられている。
【0015】
また、サージタンク11aには、同サージタンク11a内に発生する吸気負圧をブレーキブースタ30に供給する負圧通路36が接続されている。この負圧通路36には、サージタンク11a側からブレーキブースタ30側への気体の流れを規制するチェックバルブ37が設けられている。
【0016】
内燃機関10の出力軸はトルクコンバータ21を介して自動変速機20の入力軸に接続されている。そして、自動変速機20の出力軸は図示しないフィファレンシャルを介して車両の駆動輪に接続されている。
【0017】
尚、自動変速機20の内部には、入力軸の回転方向に対する出力軸の回転方向を切り替える前進後退切替機構と複数の係合要素の断接状態を切り替えることにより変速段を変更する遊星歯車式の変速段切替機構とが直列に連結された状態で収容されている。変速段切替機構は係合要素としての4組の多板式ブレーキ及び4組の多板式クラッチと、4個のワンウェイクラッチ及び遊星歯車からなる3組のギアセットとによって構成されており、各係合要素の断接状態を切り替えることにより、変速段を変更することができるようになっている。これにより、自動変速機20にあっては前進時に選択可能な変速段として、「1速」、「2速」、「3速」、「4速」、「5速」、「6速」の6つの変速段が設定されており、これら各変速段には、「1速」から「6速」まで順に変速比が小さくなるように、それぞれに異なる変速比が割り振られている。
【0018】
これにより、内燃機関10の駆動力は、トルクコンバータ21を介して自動変速機20に入力され、自動変速機20を通じてその回転方向と回転速度が変更されてから図示しないディファレンシャルを介して駆動輪に伝達される。
【0019】
負圧通路36を介してサージタンク11aと接続されているブレーキブースタ30は、図1の右側上部に示されるようにその内部がダイヤフラム33によって負圧室34と差圧室35とに区画されている。負圧通路36はブレーキマスタシリンダ32側に位置する負圧室34に接続されており、ブレーキペダル31側に位置する差圧室35はブレーキペダル31に連結された負圧制御バルブ38を介して負圧室34と接続されている。尚、負圧制御バルブ38はブレーキペダル31が踏み込まれていないときには開弁しているが、ブレーキペダル31が踏み込まれたときに閉弁するようになっている。
【0020】
ブレーキペダル31が踏み込まれていないときには、負圧制御バルブ38が開弁しているため、負圧室34と差圧室35とが連通された状態になっている。そのため、負圧室34内の空気が負圧通路36を通じてサージタンク11a側に吸引され、負圧室34内の圧力が低下すると、それに伴って差圧室35内の圧力も低下することになる。そのため、ブレーキペダル31が踏み込まれていないときには、負圧室34内の圧力と差圧室35内の圧力との間に大きな差が生じることはなく、ダイヤフラム33はスプリング39によってブレーキペダル31側に押し戻された状態になっている。
【0021】
これに対して、ブレーキペダル31が踏み込まれた場合には、負圧制御バルブ38が閉弁する。これにより、負圧室34内の空気が負圧通路36を通じてサージタンク11a側に吸引されて負圧室34内の圧力が低下する一方、差圧室35内の圧力は変化しなくなる。そのため、負圧室34内の圧力が差圧室35内の圧力よりも低くなり、その圧力差によってダイヤフラム33がスプリング39の付勢力に抗してブレーキマスタシリンダ32側に変位するようになる。このように運転者がブレーキペダル31を踏み込んだときには、ブレーキペダル31に作用する踏力に加えて、上記の圧力差による力がブレーキマスタシリンダ32に作用するようになるため、ブレーキ操作に必要とされる操作力、すなわちブレーキ操作に必要とされるブレーキペダル31の踏力が軽減されるようになる。
【0022】
自動変速機20における変速段の変更に係る変速制御や、吸気通路11に設けられたスロットルバルブ12の開度制御等は電子制御装置100によって実行される。
電子制御装置100は、各種演算処理を実施する中央演算処理装置(CPU)、制御用のプログラムやデータが記憶された読み込み専用メモリ(ROM)、演算処理の結果等を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)等によって構成されている。そして、電子制御装置100には、下記のような各種のセンサが接続されている。
【0023】
アクセルポジションセンサ50はアクセルペダル40に取り付けられ、アクセルペダル40の踏み込み量を検出する。図1の右側上部に示されるように、ストップランプスイッチ51は、ブレーキペダル31が踏み込まれていないときにブレーキペダル31の一部が当接するように取り付けられている。ストップランプスイッチ51は、ブレーキペダル31が踏み込まれ、当接しなくなったときに「ON」になり、ブレーキペダル31が操作されていることを検知する。クランクポジションセンサ52は内燃機関の出力軸であるクランクシャフトの回転速度である機関回転速度を検出する。ニュートラルスイッチ53は図示しないシフトレバーがニュートラル位置に操作されていることを検知する。エアフロメータ56は内燃機関10に吸入される空気の量である吸入空気量を検出する。車速センサ54は車輪の回転速度に基づいて車速を検出する。
【0024】
また、電子制御装置100には、アクセル操作を必要とせずに自動的に車両の速度を設定された車速に維持するクルーズコントロール機能の「ON」,「OFF」を切り替えるクルーズコントロールスイッチ55が接続されている。
【0025】
電子制御装置100は、これら各種センサ,スイッチから出力される信号を読み込み、各種演算を行って内燃機関10を制御する機関制御を実行するとともに、自動変速機20の変速段を変更する変速制御を実行する。
【0026】
例えば、電子制御装置100は、アクセルペダル40の操作量に基づいて要求トルクを算出し、スロットルバルブ12の開度を変更することによって吸入空気量を調量するとともに、エアフロメータ56によって検出された吸入空気量に基づいて内燃機関10における燃料噴射量や点火時期を制御することにより、要求トルクに見合ったトルクを発生させる。
【0027】
また、電子制御装置100は、車速とアクセルペダル40の操作量とに基づいて変速段を選択し、選択された変速段に対応する変速信号を自動変速機20に出力する変速制御を実行する。
【0028】
上述したように特許文献1には、ブレーキブースタ30を十分に機能させるために必要な負圧を確保するために、負圧が不足しているときに、通常の変速制御を通じて選択される変速段よりも変速比の大きな変速段を選択し、機関回転速度を上昇させる負圧回復制御を実行する車両の制御装置が記載されている。
【0029】
しかし、特許文献1に記載された車両の制御装置にあっては、負圧を確保するために負圧回復制御を実行する一方で、負圧が確保されたときには直ちに負圧回復制御を終了せさ、通常の変速制御を通じて設定される変速段を選択するようにしている。そのため、負圧が確保されると運転者の操作によらずに変速段の変更が行われるようになり、運転者が予期していないタイミングにおいて変速ショックが生じたり、駆動力が変化したりするため、運転者が違和感を覚えやすくなる。
【0030】
そこで、本実施形態の電子制御装置100にあっては、負圧を確保することができるようになったときに直ちに負圧回復制御を終了させるのではなく、負圧回復制御を通じて負圧が確保できるようになったあともアクセルペダル40が操作されるまでの間、負圧回復制御を継続させるようにしている。
【0031】
以下、本実施形態における負圧回復制御の実行可否を判定する処理の流れを示す図2を参照して、本実施形態に係る電子制御装置100における負圧回復制御について説明する。
【0032】
電子制御装置100は、車両のメインスイッチが「ON」にされており、電力が供給されているときにこの図2に示される処理を所定の制御周期で繰り返し実行する。
この処理を開始すると電子制御装置100はまず、ステップS100において、負圧回復制御を実行するための前提条件が成立しているか否かを判定する。尚、前提条件は、下記の(a)〜(d)の4つの条件を命題とする論理積からなり、このステップS100では電子制御装置100はこの論理積が真である場合に前提条件が成立している旨を判定する。
【0033】
(a)機関始動後であること。
(b)ブレーキブースタ30の負圧室34内の圧力が基準の圧力Pst以上であること。
【0034】
(c)アクセルペダル40の操作量が「0」の状態、すなわちアクセルペダル40が操作されていない状態が所定期間、例えば2秒以上継続していること。
(d)ブレーキペダル31が踏み込まれていないこと。
【0035】
尚、基準の圧力Pstは、負圧室34内の圧力がこの圧力Pst以上であることに基づいてブレーキブースタ30を十分に機能させるための負圧が確保されていないことを判定することができるように、予め行う実験等の結果に基づいて設定される値である。本実施形態の電子制御装置100にあっては、車速に対応するように基準の圧力Pstの値がそれぞれ格納された演算マップを参照することにより、基準の圧力Pstを設定するようにしている。尚、車速が高いときほど、大きな制動力が必要とされる可能性が高いことからこの演算マップにあっては、車速が高いときほど基準の圧力Pstが低い値になるように、基準の圧力Pstの値の大きさが設定されている。
【0036】
また、負圧室34内の圧力は、スロットルバルブ12の開度と機関回転速度とに基づいて推定することができる。また、図1に示されるように負圧通路36に圧力センサ57を設け、圧力センサ57によって検出される負圧通路36内の圧力に基づいて負圧室34内の圧力を推定することもできる。
【0037】
ステップS100において、前提条件が成立している旨の判定がなされた場合(ステップS100:YES)には、ステップS110へと進み、電子制御装置100は負圧回復制御要求フラグをセットする。尚、このとき、既に負圧回復制御要求フラグが設定されている場合には、電子制御装置100はそのまま負圧回復制御要求フラグをセットした状態を維持する。そして、ステップS120へと進み、電子制御装置100はアクセルペダル40が踏み込まれているか否かを判定する。
【0038】
一方、ステップS100において、前提条件が成立していない旨の判定がなされた場合(ステップS100:NO)には、ステップS110をスキップし、そのままステップS120へと進む。そして、ステップS120において、電子制御装置100はアクセルペダル40が踏み込まれているか否かを判定する。
【0039】
ステップS120において、アクセルペダル40が踏み込まれている旨の判定がなされた場合(ステップS120:YES)には、ステップS130へと進み、電子制御装置100は負圧回復制御要求フラグをクリアする。そして、ステップS140へと進み、電子制御装置100は負圧回復制御要求フラグがセットされているか否かを判定する。尚、ステップS130へと進んだときに、負圧回復制御要求フラグがセットされていない場合には、電子制御装置100はそのまま何もせずにステップS140へと進む。
【0040】
ステップS120において、アクセルペダル40が踏み込まれていない旨の判定がなされた場合(ステップS120:NO)には、ステップS130をスキップしてそのままステップS140へと進む。そして、ステップS140において、電子制御装置100は負圧回復制御要求フラグがセットされているか否かを判定する。
【0041】
ステップS140において、負圧回復制御要求フラグがセットされている旨の判定がなされた場合(ステップS140:YES)には、ステップS150へと進み、電子制御装置100は負圧回復制御を実行する。こうして負圧回復制御を実行すると電子制御装置100は一旦この処理を終了する。
【0042】
一方、ステップS140において、負圧回復制御要求フラグがセットされていない旨の判定がなされた場合(ステップS140:NO)には、ステップS160へと進み、電子制御装置100は負圧回復制御を実行せずに、この処理を一旦終了する。
【0043】
尚、ステップS140において、負圧回復制御要求フラグがセットされている旨の判定がなされたときに既に負圧回復制御が実行されている場合には、ステップS150においてそのまま負圧回復制御の実行が継続されることとなる。
【0044】
また、ステップS140において、負圧回復制御要求フラグがセットされていない旨の判定がなされたときに負圧回復制御が実行されている場合には、ステップS160において負圧回復制御が終了されることとなる。
【0045】
本実施形態の電子制御装置100は、こうした処理を繰り返し実行することにより、負圧回復制御の実行可否を判定する。
これにより、前提条件が成立していない場合には、負圧回復制御要求フラグがセットされることはないため、アクセルペダル40が操作されているか否かに拘わらず、ステップS140において負圧回復制御要求フラグがセットされていない旨の判定がなされるようになる。したがって、前提条件が成立していない間は、負圧回復制御が開始されることはない。
【0046】
これに対し、一旦前提条件が成立し、負圧回復制御要求フラグがセットされると、アクセルペダル40が踏み込まれておらず、アイドリング状態が継続している限り、負圧回復制御要求フラグがクリアされることはない。そのため、一旦前提条件が成立し、負圧回復制御が実行されると、負圧が確保されて上記(b)の条件が成立しなくなり、前提条件が成立しなくなった場合であっても、負圧回復制御が継続される。そして、その後、アクセルペダル40が踏み込まれると、負圧回復制御要求フラグがクリアされ、負圧回復制御が終了されるようになる。
【0047】
このように本実施形態の電子制御装置100にあっては、負圧を確保することができるようになったときに直ちに負圧回復制御を終了させるのではなく、負圧回復制御を通じて負圧が確保できるようになったあともアクセルペダル40が操作されるまでの間、負圧回復制御を継続させるようにしている。
【0048】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)負圧回復制御を通じて負圧を確保することができるようになったときに直ちに負圧回復制御が終了されるのではなく、負圧回復制御を通じて負圧を確保することができるようになったあと運転者によってアクセルペダル40が操作されたときに負圧回復制御が終了される。すなわち、運転者のアクセル操作をきっかけとして負圧回復制御が終了され、自動変速機20の変速段が通常の変速制御を通じて選択される変速段へとシフトアップされる。
【0049】
したがって、負圧回復制御を通じて負圧が確保されたとき、運転者が予期していないタイミングにおいて変速段の変更が実行されることを抑制することができるようになり、ひいては予期していないタイミングにおいて変速ショックが生じたり、駆動力が変化したりすることを抑制して運転者に与える違和感を低減することができる。
【0050】
(2)負圧回復制御を実行するための前提条件が成立しているときに負圧回復制御要求フラグをセットする一方、アクセルペダル40が操作されている場合にその負圧回復制御要求フラグをクリアするようにして、負圧回復制御要求フラグがセットされていることを条件に負圧回復制御を実行するようにしている。そのため、アクセルペダル40が操作されたときに負圧回復制御要求フラグがクリアされ、負圧回復制御が終了される。すなわち、負圧回復制御要求フラグの状態を監視することによって負圧回復制御を終了させるタイミングを適切に設定することができる。
【0051】
(3)負圧回復制御を実行するための前提条件をブレーキブースタ30の負圧室34内の圧力が基準の圧力Pstよりも高いことを命題の1つとする論理積とし、この論理積が真である場合に前提条件が成立している旨を判定するようにしている。そのため、前提条件が成立していることに基づいて負圧が不足していることを推定し、負圧回復制御を実行することができる。
【0052】
(4)アクセルペダル40が操作されているときに同時にブレーキペダル31が操作される可能性は低い。これに対してアクセルペダル40が操作されている状態から、その操作が解除され、アクセルペダル40が操作されていない状態に移行したときには、そのあとブレーキペダル31が操作される可能性が高いことが推定される。
【0053】
これに対して上記実施形態にあっては、アクセルペダル40が操作されていないことを負圧回復制御の前提条件となる論理積の命題の1つとして設定するようにしている。そのため、アクセルペダル40が操作されておらず、ブレーキペダル31が操作される可能性が高いことが推定されるときであって、且つ負圧が不足しているときに負圧回復制御を実行させることができるようになる。すなわち、アクセルペダル40が操作されており、ブレーキペダル31が操作される可能性が低いときに不必要に負圧回復制御が実行されてしまうことを抑制して効率的に負圧回復制御を実行することができる。
【0054】
尚、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態にあっては、ステップS120の処理においてアクセルペダル40が踏み込まれているか否かを判定し、その判定結果のみに基づいて負圧回復制御要求フラグをクリアするか否かを決定する構成を示した。これに対して、アクセル操作をきっかけに負圧回復制御を終了させることができるようにする上では、少なくともアクセルペダル40が踏み込まれたときに負圧回復制御要求フラグをクリアするようになっていればよい。
【0055】
そのため、例えば、図2におけるステップS120の処理に替えて図3に示されるようにステップS125の処理を実行するようにしてもよい。
図3に示される処理にあっては、ステップS125に示されるように、下記の(e)〜(g)のいずれかが成立していること、すなわち(e)〜(g)のそれぞれを命題とする論理和が真であることを負圧回復制御要求フラグをクリアする条件として設定している。
【0056】
(e)アクセルペダルが踏み込まれていること。
(f)ニュートラル状態であること。
(g)特定条件下のクルーズ制御中であること。
【0057】
尚、図3におけるその他の処理については上記実施形態と同様であるため、同様の符号を付すのみとしてその詳細な説明を割愛する。
ここで、特定条件下のクルーズ制御中とは、クルーズコントロール機能により、負圧を確保することのできる範囲の車速で定常走行するクルーズ制御が実行されている場合、例えば時速20キロメートル未満又は時速40キロメートル以上の車速が設定されてクルーズコントロール機能による定常走行が実行されている場合のことをいう。
【0058】
上記実施形態における図2に示される処理を実行する構成に替えて、図3に示されるような処理を実行する構成を採用すれば、上記実施形態の効果に加えて、下記の作用効果を得ることができるようになる。
【0059】
(5)アクセルペダル40が踏み込まれていない状態であっても、クルーズコントロールの機能が「ON」にされており、負圧を確保することのできる車速で定常走行が行われているときには、負圧回復制御が実行されなくなる。したがって、無駄に負圧回復制御が実行されることを抑制することができるようになる。
【0060】
(6)自動変速機20がニュートラル状態にされている場合には、負圧回復制御を通じて機関回転速度が上昇させられたとしても、駆動系には影響がない。しかしながら、ニュートラル状態のときに、負圧を確保するために負圧回復制御が実行され、機関回転速度が急に上昇すると、運転者が違和感を覚える可能性がある。これに対して、上記のようにニュートラル状態のときには負圧回復制御要求フラグをクリアする構成を採用すれば、ニュートラル状態のときに負圧回復制御を通じて機関回転速度が上昇させられることがなくなるため、上記のように運転者に違和感を覚えさせてしまうことを抑制することができる。
【0061】
・上記実施形態にあっては負圧回復制御を実行するための前提条件として、(c)アクセルペダル40が所定期間以上操作されていないこと等を命題の1つとして含んでいる論理積を設定する構成を示したが、負圧回復制御を実行するための前提条件は適宜変更することができる。
【0062】
・また、上記実施形態にあっては、負圧回復制御要求フラグ設定し、このフラグがセットされているか否かを判定することにより、負圧回復制御の実行可否を判定する構成を示したが、本願発明は、こうした構成に限定されるものではない。すなわち、負圧回復制御を通じて負圧が確保できるようになった場合であっても、アクセルペダル40が操作されるまで負圧回復制御を継続させ、アクセルペダル40が操作されたときに負圧回復制御を終了させることができる構成であれば、上記実施形態の構成を適宜変更して本願発明を具現化することができる。
【0063】
・車両の制御装置にあっては、スロットルバルブ12の開度を適切に制御することができなくなるスロットルフェールが発生した場合に、スロットルバルブ12の開度を一定の開度に保持することによって退避走行を可能にするフェールセーフ機能が搭載されていることがある。こうしたフェールセーフ機能を備える車両におけるスロットルフェール発生時には、スロットルバルブ12の開度が一定に保持されるため、特に吸気通路11内に発生する負圧が小さくなりやすく、負圧が不足する事態に陥りやすい。そこで、スロットルフェール発生時にのみ負圧回復制御を実行するようにする構成を採用することも考えられる。これに対して、本願発明はスロットルフェール発生時にのみ負圧回復制御を実行するものに適用することもできる。その場合には、スロットルフェール発生中に上記実施形態における図2を参照して説明した処理や、図3を参照して説明した処理を繰り返し実行するようにすればよい。
【符号の説明】
【0064】
10…内燃機関、11…吸気通路、11a…サージタンク、12…スロットルバルブ、12a…モータ、20…自動変速機、21…トルクコンバータ、30…ブレーキブースタ、31…ブレーキペダル、32…ブレーキマスタシリンダ、33…ダイヤフラム、34…負圧室、35…差圧室、36…負圧通路、37…チェックバルブ、38…負圧制御バルブ、39…スプリング、40…アクセルペダル、50…アクセルポジションセンサ、51…ストップランプスイッチ、52…クランクポジションセンサ、53…ニュートラルスイッチ、54…車速センサ、55…クルーズコントロールスイッチ、56…エアフロメータ、57…圧力センサ、100…電子制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路内に発生する負圧を利用してブレーキ操作に必要な操作力を軽減する真空倍力式のブレーキブースタと、自動変速機とを備える車両に搭載され、前記ブレーキブースタの機能を十分に発揮させるために必要とされる負圧が確保できていないときに、前記自動変速機の変速段を、変速制御を通じて選択される変速段よりも変速比の大きな変速段に変更する負圧回復制御を実行する車両の制御装置において、
前記負圧回復制御を通じて前記負圧が確保できるようになった場合であってもアクセルが操作されるまで前記負圧回復制御を継続させ、アクセルが操作されたときに前記負圧回復制御を終了させる
ことを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−92908(P2012−92908A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241049(P2010−241049)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】