説明

車両の前部車体構造

【課題】導風部により走行風を円滑に熱交換器へ送風案内しつつ、車両の前突時に導風部が後退して熱交換器と接触した際、熱交換器の破損を防止すると共に、車両前部のクラッシュスペースを確保する車両の前部車体構造を提供する。
【解決手段】
バンパレイン3と熱交換器15との間には、車体前部から取入れられた走行風を熱交換器15に導風する導風部26が設けられ、導風部26の剛性は熱交換器15の剛性よりも低く設定されると共に、車両の前突時に導風部26が熱交換器15に当接した時、導風部26が変形されるように構成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両の前部車体構造に関し、詳しくは、車両の前部において前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、これら左右のフロントサイドフレームの前端同士を連結するバンパレインと、このバンパレインの後方に配設された熱交換器と、を備えたような車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図12に示すように、エンジンルーム80の左右両サイドにおいて車両の前後方向に延びるフロントサイドフレーム81,81が設けられ、これらフロントサイドフレーム81,81の前端部にはクラッシュカン82を介して車幅方向に延びるバンパレイン83が配設されており、このバンパレイン83により衝突時の剛性、耐力の向上を図るように構成されている。
【0003】
一方で、車両前部の意匠面を形成するバンパフェイス84には、エンジンルーム80の内部に走行風を取込むための開口部84aが形成されている。この開口部84aの形成位置(高さ、および幅)は車両デザインを大きく左右するものであって、上記開口部84aとバンパレイン83とが図示の如くオーバラップした位置に配設される場合が多い。
【0004】
このように上記開口部84aとバンパレイン83とが重複配置されると、走行風を充分にエンジンルーム80内部に取込むことができず、バンパレイン83の後方に配設された熱交換器85を充分に冷却することができない問題点があった。ここで、熱交換器85は、図12に示すように、空調用のコンデンサ86と、ラジエータ87と、これらを覆うラジエータシュラウド88とを備えている。
加えて、上述の開口部84aからその内部に取入れられた走行風は、同図に仮想線で示すように熱交換器85に至るまでに、上記バンパレイン83の後方部で渦Zを巻き、走行風の流速が低下するという問題点もあった。なお、図12において、Eはエンジン、89はインタクーラ、90はボンネットである。
【0005】
ところで、特許文献1には、車体前部から導入された空気(走行風)を効果的に熱交換器に導くことを目的として、図13に示すような車両の前部車体構造が開示されている。
すなわち、図13に示すように、空調用のコンデンサやラジエータ等を含む熱交換器91を覆うシュラウド92を設ける一方、上述の熱交換器91の車両前方には、車幅方向に延びるバンパレイン93を設け、熱交換器91の左右両側部とバンパレイン93との間には、左右一対の導風板94,95を取付け、これら各導風板94,95の前部を、その後部に対して車幅方向外方に位置させて、車体前部から導入した走行風を、一対の導風板94,95にて効率的に熱交換器91に導き、該熱交換器91の冷却効率の向上を図ったものである。
【0006】
なお、図13において、96はラジエータサポートであり、また図中の矢印Fは車両前方を示し、矢印UPは車両上方を示す。
【0007】
しかしながら、この特許文献1に開示された構造では、上記導風板94,95は車幅方向にわたって設けられておらず、走行風がバンパレイン93の後部において渦を巻き、その流速が低下するものであり、該特許文献1には熱交換器91に走行風を、流速低下を招くことなく円滑に送風するために、バンパレインと熱交換器との間に、導風板を配設するという技術思想については全く開示されておらず、その示唆もないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−284438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明は、バンパレインと熱交換器との間に、車体前部から取入れた走行風を上記熱交換器に導風する導風部を設け、該導風部の剛性を熱交換器のそれよりも低く設定し、かつ車両の前突時に導風部が熱交換器に当接した時、該導風部が変形するように構成することで、上記導風部により走行風を円滑に熱交換器へ送風案内しつつ、車両の前突時に上記導風部が後退して熱交換器と接触した際、該熱交換器の破損を防止すると共に、車両前部のクラッシュスペースを確保することができる車両の前部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による車両の前部車体構造は、車両の前部において前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、上記左右一対のフロントサイドフレームの前端同士を連結するバンパレインと、該バンパレインの後方に配設された熱交換器と、を備えた車両の前部車体構造であって、上記バンパレインと上記熱交換器との間には、車体前部から取入れられた走行風を上記熱交換器に導風する導風部が設けられ、該導風部の剛性は上記熱交換器の剛性よりも低く設定されると共に、車両の前突時に導風部が熱交換器に当接した時、該導風部が変形するように構成されたものである。
上記構成によれば、バンパレインと熱交換器との間に上述の導風部を設けたので、この導風部により走行風を円滑に熱交換器へ送風案内することができる。
【0011】
しかも、導風部の剛性を熱交換器の剛性よりも低く設定し、車両の前突時に該導風部が熱交換器に当接した時、この導風部が変形するように構成したので、車両の前突時に導風部が後退して熱交換器と接触した際、この熱交換器の破損を防止することができると共に、導風部の変形により車両前部のクラッシュスペースを確保することができる。
要するに、熱交換器への円滑な走行風の案内と、熱交換器の破損防止と、クラッシュスペース確保と、を達成することができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記導風部の後端部は、上記熱交換器の前面と近接する位置まで後方に延出され、該後端部には熱交換器の前面と略平行となる当接面を備えたものである。
上記構成によれば、簡単な構造でありながら、車両の衝突時における導風部と熱交換器との接触の際に、上記当接面が熱交換器の前面に接触するので、熱交換器の破損を防止することができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記熱交換器は、ラジエータと、該ラジエータを覆うシュラウド部材とを備え、上記シュラウド部材のラジエータより前方に位置する部位には、前突時に上記導風部を変位させる先当て部が設けられたものである。
上記構成によれば、シュラウド部材にはラジエータよりも前方に位置する先当て部を設けたので、車両の衝突時には導風部がラジエータに接触する以前に先当て部に当接して、該導風部が変位することになり、この結果、ラジエータの破損を防止することができる。
特に、車両の軽衝突時には、ラジエータなどの熱交換器部品の取替えを行なう必要がなくなる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記導風部は上記バンパレインに連結されると共に、上記熱交換器との接触に伴ってバンパレインとの連結が解徐されるように構成されたものである。
上記構成によれば、車両の衝突時に導風部はそのバンパレインとの連結が解徐されるので、該導風部の変位を容易に行なうことができ、熱交換器の破損を防止しつつ、導風部の変位により車両前部のクラッシュスペースを確保することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記導風部は熱交換器との接触に伴って該導風部の下方への変位を促進する変形促進部を備えたものである。
上述の変形促進部は、切欠き部は脆弱部で構成してもよい。
上記構成によれば、導風部は変形促進部を備えているので、車両衝突による導風部と熱交換器との接触の際に、該導風部を容易に変位させることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、バンパレインと熱交換器との間に、車体前部から取入れた走行風を上記熱交換器に導風する導風部を設け、該導風部の剛性を熱交換器のそれよりも低く設定し、かつ車両の前突時に導風部が熱交換器に当接した時、該導風部が変形するように構成したので、上記導風部により走行風を円滑に熱交換器へ送風案内しつつ、車両の前突時に上記導風部が後退して熱交換器と接触した際、該熱交換器の破損を防止すると共に、車両前部のクラッシュスペースを確保することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の車両の前部車体構造を示す正面図
【図2】ボンネットおよびバンパフェイスを取外した状態で示す平面図
【図3】図2の要部斜視図
【図4】車両の前部車体構造を示す側面図
【図5】導風部の斜視図
【図6】図4の要部拡大側面図
【図7】軽衝突時の変形状態を示す側面図
【図8】導風部の他の実施例を示す部分側面図
【図9】導風部取付け構造の他の実施例を示す部分側面図
【図10】車両の前部車体構造の他の実施例を示す部分側面図
【図11】車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示す側面図
【図12】従来の車両の前部車体構造を示す側面図
【図13】従来の車両の前部車体構造を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
車両の前突時に導風部が後退して熱交換器と接触した際、該熱交換器の破損を防止すると共に、車両前部のクラッシュスペースを確保するという目的を、車両の前部において前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、上記左右一対のフロントサイドフレームの前端同士を連結するバンパレインと、該バンパレインの後方に配設された熱交換器と、を備えた車両の前部車体構造において、上記バンパレインと上記熱交換器との間には、車体前部から取入れられた走行風を上記熱交換器に導風する導風部が設けられ、該導風部の剛性は上記熱交換器の剛性よりも低く設定されると共に、車両の前突時に導風部が熱交換器に当接した時、該導風部が変形するように構成することで実現した。
【実施例】
【0019】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両の前部車体構造を示し、図1はバンパレイン前側のクロージングプレートおよび衝撃吸収部材を図示省略して示す正面図であって、車両前部にはその意匠面を形成すると共に、フロントバンパの外表面を構成する合成樹脂製のバンパフェイス1を取付け、このバンパフェイス1には車幅方向にわたる横長形状の開口部2が形成されるが、この開口部2の後方に位置するバンパレイン3(詳しくは、バンパレインフォースメント)により該開口部2は、上部開口部2Aと、下部開口部2Bとに上下に区画されている。
【0020】
なお、図1において、4はインタクーラで、このインタクーラ4はターボチャージャ(過給機)により圧縮されて高温となった吸気を冷却するものであり、また、図中、5はエンジンルームの上方を開閉可能に覆うと共に、車体前部の上面を構成するボンネット、6は前輪である。
図2はボンネット5およびバンパフェイス1を取外した状態で示す平面図、図3は図2の要部斜視図、図4は車両の前部車体構造を示す側面図である。
【0021】
図2、図3において車両前部のエンジンルーム7の両サイドにおいて車両の前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム8,8を設け、これら各フロントサイドフレーム8,8の前端部にはそれぞれクラッシュカン9,9(エネルギ吸収部材)を取付けている。ここで、上述のフロントサイドフレーム8は、例えば、フロントサイドフレームインナとフロントサイドフレームアウタとを接合して車両の前後方向に延びるフロントサイド閉断面をもった車体剛性部材(強度部材)であって、該フロントサイドフレーム8とクラッシュカン9とは、これらの各端部にそれぞれ位置するフランジ部を接合固定することで、これら両者8,9が取付けられたものである。
そして、左右のクラッシュカン9,9の前端部相互間に上述のバンパレイン3を車幅方向に延びるように連結したものである。
【0022】
図4に示すように、上述のバンパレイン3は車両前方側が開放する断面ハット形状に形成されており、このバンパレイン3の前部にはクロージングプレート10が接合固定され、これら両者3,10間には閉断面が形成されている。
このクロージングプレート10はバンパレイン3の前部に沿って車幅方向にわたって設けられたもので、上述のバンパレイン3の前部には、該クロージングプレート10を介して車幅方向にわたるように衝撃吸収部材11(以下単に、EA部材と略記する)が配設されている。このEA部材11は発泡ウレタン等により形成することができる。
【0023】
図4に示すように、バンパフェイス1の上部開口部2Aは、EA部材11の前側直上部に位置し、バンパフェイス1の下部開口部2Bは、EA部材11の前側直下部に位置する。
また、同図に示すように、上部開口部2Aには、合成樹脂製の上部メッシュ部材12を一体的に取付け、この上部メッシュ部材12における走行風取入口12aの下部を、EA部材11の上端と一致させている。
【0024】
さらに、図4に示すように、下部開口部2Bには、合成樹脂製の下部メッシュ部材13を一体的に取付け、この下部メッシュ部材13における走行風取入口13aの上部を、EA部材11の下端と略一致させている。
ここで、上述の上部開口部2Aと下部開口部2Bとは、図1、図4に示すように、上部開口部2Aの開口面積が小さくなり、下部開口部2Bの開口面積が大きくなるように区画形成されている。換言すれば、上部開口部2Aからの走行風取入れ量が相対的に少なくなり、下部開口部2Bからの走行風取入れ量が相対的に多くなるように形成されているが、この開口面積の大小は車両デザインによっては、この実施例のものに限定されるものではない。
【0025】
図2、図3に示すように、上述のエンジンルーム7内にはパワートレインとしてのエンジン14およびトランスミッションを横置きに搭載している。なお、上記エンジンとしては横置きのものに限定されるものではなく、縦置きのエンジンであってもよいことは勿論である。
このエンジン14の前方で、かつ上述のバンパレイン3の後方には、クーラントなどのエンジン冷却水を走行風を利用して空冷するための熱交換器15が車幅方向にわたって配置されている。
【0026】
この熱交換器15は、図4に示すように、放熱器としてコルゲートフィン(放熱フィン)およびウオータチューブを備えたラジエータ16と、このラジエータ16の主として上下左右の四辺を覆う合成樹脂製のシュラウド部材としてのラジエータシュラウド17と、空調用のコンデンサ18(凝縮器)と、ラジエータ16の後面部を覆うラジエータカウリング19と、図示しないクーリングファンと、を一体ユニット化したもの(熱交換器ユニット)である。
【0027】
また、上述のラジエータ16の上部にはアッパタンク20を取付けると共に、下部にはロアタンク21を取付けて、図2、図3に示すように、エンジン14のウオータジャケット(図示せず)とアッパタンク20との間をインレットホース22で接続し、エンジン14のウオータジャケットとロアタンク21との間をアウトレットホース23で接続している。
【0028】
図3、図4に示すように、上述のラジエータシュラウド17においてラジエータ16およびコンデンサ18よりも車両前方に位置する部位には、該ラジエータシュラウド17の上片部と下片部とを上下方向に延びて連結する複数の縦桟部24,24を一体形成して、これらの各縦桟部24を、車両の前突時において導風部26(図4参照)を変位させる先当て部に設定している。
【0029】
上記各縦桟部24は、平面から見て後方が開放するコの字状に形成されており、この実施例においては、別途先当て部を設けることなく、ラジエータシュラウド17の既存の縦桟部24を先当て部として有効利用するものであるが、先当て部を別部材(つまり、別体の先当て部材)にて構成する構造を採用してもよいことは勿論である。
上述のラジエータシュラウド17の上部は、図2、図3に示すように、車幅方向に延びる車体部材としてのシュラウドアッパ25により支持される一方、ラジエータシュラウド17の下部には、該ラジエータシュラウド17から車幅方向の略全幅にわたって車両前方に延びるようにカバー部材30を連結している。
【0030】
しかも、図4に示すように、上述のバンパレイン3と熱交換器15との間、詳しくは、バンパレイン3とラジエータシュラウド17の前面との間には、導風部26を設け、この導風部26により車体前部から取入れた走行風を上述の熱交換器15、なかんずくコンデンサ18およびラジエータ16に導風案内するように構成している。この導風部26の略全体は車両の前後方向から見てバンパレイン3と完全にオーバラップするように配設されている。
【0031】
図5は導風部26の斜視図、図6は図4の要部拡大側面図であって、図5、図6に示すように、この導風部26は、上述のバンパレイン3から後方に行くに従ってその上下幅(上下方向の寸法)が小さくなる形状、いわゆる先細り形状に形成されており、この形状により車体前部の走行風取入口12a,13aから取入れた走行風を、その流速を下げることなく、スムーズに熱交換器15に送るように構成している。
【0032】
また、上述の導風部26の剛性は熱交換器15の剛性よりも低く設定されている。つまり、熱交換器15を構成するラジエータシュラウド17が合成樹脂で形成されるのに対して、導風部26をゴムによって形成することで、導風部26の剛性(ゴムの剛性)を、ラジエータシュラウド17の剛性(樹脂の剛性)よりも低く設定し、車両の前突時(正面衝突時)に該導風部26が熱交換器15に当接した時、該導風部26が容易に変形するように構成している。
これにより、車両の正面衝突時において、導風部26と熱交換器15との接触の際に、該熱交換器15が破損するのを防止するように構成したものである。
【0033】
さらに、図4、図6に示すように、導風部26の後端部は、熱交換器15の前面と所定間隔を隔てて該前面と近接する位置まで後方に延出されており、この導風部26の後端部には熱交換器15の前面、詳しくは、ラジエータシュラウド17の縦桟部24の前面と略平行となる当接面27を備えている。
【0034】
このように、導風部26を熱交換器15の前面と近接する位置まで後方に延出することにより、最大限走行風の乱流を防止しつつ、該走行風を熱交換器15へ送風案内するように構成したものである。さらに、当接面27と縦桟部24との間に所定間隔を形成することで、通常の車両走行時に、これら両者27,24が摺接または当接して、異音が発生するのを防止するように構成したものである。
【0035】
また、車両の前突時に導風部26の当接面27を、コンデンサ18およびラジエータ16よりも前方に位置するラジエータシュラウド17の縦桟部24(つまり先当て部)に当接させることで、前突時に導風部26がコンデンサ18およびラジエータ16に接触する以前に変位して、これらコンデンサ18およびラジエータ16の破損を防止するように構成しており、特に、車両の軽衝突時には熱交換器部品(コンデンサ、ラジエータ、クーリングファンなどの部品)を保護して、その部品交換をしなくてもよい構造に成している。
【0036】
さらに、図2、図3、図5に示すように、上述の導風部26は熱交換器15の前方において該熱交換器15の車幅方向の略全幅(この実施例では、車幅方向の全幅よりも長い距離)にわたって配設されており、これにより、熱交換器15の略全幅に対して走行風をスムーズに送風案内して、熱交換器15の冷却性能を最大限向上させるように構成している。
【0037】
図6に拡大側面図で示すように、上述の導風部26はバンパレイン3の上部に配設された上部導風部26Aと、バンパレイン3の下部に配設された下部導風部26Bとを有し、これら上下の各導風部26A,26Bを一体形成したもので、同図に示すように、上部導風部26Aはその後方が下部導風部26Bの後部直上の当接面27に向けてなだらかに円弧状に垂下するように構成されている。
【0038】
つまり、上述の上部導風部26Aは空力抵抗のうちの離脱抵抗を可及的小さくすべく、なだらかな曲面形状に形成されている。
この構成により、図4、図6に示すように、導風部26の上部導風部26A側に比較して、下部導風部26B側に積極的に走行風を送風案内させて、熱交換器15の冷却に対して有利となるものである。
【0039】
また、図5、図6に示すように、導風部26をバンパレイン3に取付けた時、該導風部26の形状を保持する目的で、下部導風部26Bの下面には車幅方向に所定の間隔を隔てて複数のリブ26C(形状保持要素)を一体形成している。これら複数の各リブ26Cは走行風を乱さないように車両の前後方向に指向させて形成したものであり、これら各リブ26Cにより導風部26の曲げ剛性の向上を図っている。
【0040】
図6に示すように、バンパレイン3の上部には所定量後方に延びる折曲げ部3aを一体形成すると共に、バンパレイン3の下部にも所定量後方に延びる折曲げ部3bを一体形成している。これら各折曲げ部3a,3bはバンパレイン3に沿って車幅方向に延びるもので、導風部26の上部導風部26Aの前部は複数のクリップ28(または、ファスナ)などの取付け部材を用いて上側の折曲げ部3aの上面に取付けられており、下部導風部26Bの前部は接着剤を用いて下側の折曲げ部3bの下面に、軽衝突時に接着が外れる程度の比較的弱い接着力にて、接着固定されている。
【0041】
つまり、上述の導風部26は図6に示すように、バンパレイン3に連結されると共に、熱交換器15との接触に伴ってバンパレイン3との連結が解徐、詳しくは、折曲げ部3bに接着された下部導風部26Bの接着が剥がれるように構成したものである(図7参照)。この連結解徐構造により、導風部26の変位を容易に行なって、熱交換器15の破損を防止しつつ、クラッシュスペースを確保するものである。
さらに、図6に示すように、EA部材11の後端部上面11aおよび後端部下面11bと、バンパレイン3の前側に位置するクロージングプレート10と、導風部26の前端部と、の上下両面は凹凸がなく、走行風を乱さないように面一状に形成されており、この構造により、走行風の渦の発生を防止し、該走行風をスムーズに熱交換器15に送風案内すべく構成している。
【0042】
図3、図4に示すように、導風部26における下部導風部26Bの下方には上述のインタクーラ4が離間して配設されており、このインタクーラ4の上面4aが上述の下部導風部26Bと略平行になるように該インタクーラ4を前傾配設させている。つまり、このインタクーラ4はその上部が下部に対して車両前方に位置するように前傾配置されており、また、該インタクーラ4の後方下部において、上述のラジエータシュラウド17には、車両衝突時に該インタクーラ4を後方へ回動させてクラッシュスペースを拡大するための突起29を一体または一体的に設けている。
【0043】
ここで、図4に側面図で示すように、EA部材11の下面と導風部26における下部導風部26Bの下面とは段差がなく前後方向に連続するフラット面に形成されており、このフラット面により走行風の渦の発生をすべく構成している。
なお、図2、図3において、31はフェンダ、32はホイールハウス、33は該ホイールハウス32と上述のカバー部材30とを連結する連結部材であり、図4において、34はボンネットレインフォースメントである。また、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示し、矢印UPは車両上方を示す。
図示実施例は上記の如く構成するものにして、以下作用を説明する。
【0044】
まず、非衝突時の通常の車両走行時における走行風の流れについて説明する。
上述のバンパレイン3と熱交換器15との間には導風部26を設けて、この導風部26の形状を、バンパレイン3から後方に行くに従ってその上下幅が小さくなる形状、所謂先細り形状と成したので、車体前部の上部開口部2Aにおける上部メッシュ部材12の走行風取入口12a、並びに、下部開口部2Bにおける下部メッシュ部材13の走行風取入口13aから取入れられた走行風は、図4に仮想線で示すように導風部26で案内されてスムーズに熱交換器15に送ることができる。
【0045】
また、該導風部26により、走行風取入口12a,13aから取入れられた走行風が渦を巻くことがなく、この走行風を熱交換器15に案内させることができるので、走行風の流速が低下せず、該熱交換器15の冷却性能(コンデンサ18,ラジエータ16の冷却性能)を向上させることができる。
一方、車両の軽衝突時には、図4に示すノーマル状態から図7に示すようになる。但し、図7の仮想線αは図4と同一のノーマル状態を示す。
【0046】
軽衝突時にEA部材11を介してクロージングプレート10およびバンパレイン3に衝撃荷重が入力されると、フロントサイドフレーム8前端のクラッシュカン9が圧縮変形するので、バンパレイン3は導風部26を伴って後退する。
上述の導風部26が後退すると、この導風部26の当接面27がラジエータシュラウド17の縦桟部24(つまり、先当て部)に接触して、この接触により導風部26における下部導風部26Bの接着が外れて、該導風部26は該下部導風部26Bの前部が車両前方に変位するように変形する。
【0047】
すなわち、導風部26が直接、コンデンサ18およびラジエータ16に接触するのを回避することができる。換言すれば、ラジエータシュラウド17の先当て部としての縦桟部24により、衝突時に導風部26がコンデンサ18およびラジエータ16と接触する以前に、該導風部26が変形するので、コンデンサ18、ラジエータ16等の熱交換器部品が破損するのを防止することができ、斯る軽衝突時には熱交換器部品の取替えを行なわなくてもよい。
上述の軽衝突時には、カバー部材30は図4に示す略水平状態から図7に示すように前下がり状態に変位する。
【0048】
また、インタクーラ4は上記軽衝突時には変位しないが、このインタクーラ4に障害物が直接当たるような衝突時においては、図7に仮想線βで示すように、該インタクーラ4はその後方下部に位置する突起29との当接部を支点として後方へ回動変位し、この回動変位により車体前部のクラッシュスペースを確保するものである。
【0049】
このように、図1〜図7で示した実施例の車両の前部車体構造は、車両の前部において前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム8,8と、上記左右一対のフロントサイドフレーム8,8の前端同士を連結するバンパレイン3と、該バンパレイン3の後方に配設された熱交換器15と、を備えた車両の前部車体構造であって、上記バンパレイン3と上記熱交換器15との間には、車体前部から取入れられた走行風を上記熱交換器15に導風する導風部26が設けられ、該導風部26の剛性は上記熱交換器15の剛性よりも低く設定されると共に、車両の前突時に導風部15が熱交換器15に当接した時、該導風部26が変形するように構成されたものである(図2、図4、図7参照)。
【0050】
この構成によれば、バンパレイン3と熱交換器15との間に上述の導風部26を設けたので、この導風部26により走行風を円滑に熱交換器15へ送風案内することができる。
しかも、導風部26の剛性を熱交換器15の剛性よりも低く設定し、車両の前突時に該導風部26が熱交換器15に当接した時、この導風部26が変形するように構成したので、車両の前突時に導風部26が後退して熱交換器15と接触した際、この熱交換器15の破損を防止することができると共に、導風部26の変形により車両前部のクラッシュスペースを確保することができる。
【0051】
また、上記導風部26の後端部は、上記熱交換器15の前面と近接する位置まで後方に延出され、該後端部には熱交換器15の前面と略平行となる当接面27を備えたものである(図4参照)。
この構成によれば、簡単な構造でありながら、車両の衝突時における導風部26と熱交換器15との接触の際に、上記当接面27が熱交換器15の前面に接触するので、熱交換器15の破損を防止することができる。
【0052】
さらに、上記熱交換器15は、ラジエータ16と、該ラジエータ16を覆うシュラウド部材(ラジエータシュラウド17参照)とを備え、上記シュラウド部材(ラジエータシュラウド17)のラジエータ16より前方(この実施例では、ラジエータ16よりも前側に位置するコンデンサ18よりもさらに前方)に位置する部位には、前突時に上記導風部26を変位させる先当て部(縦桟部24参照)が設けられたものである(図3、図4参照)。
この構成によれば、シュラウド部材(ラジエータシュラウド17)にはラジエータ16よりも前方に位置する先当て部(縦桟部24)を設けたので、車両の衝突時には導風部26がコンデンサ18およびラジエータ16に接触する以前に先当て部(縦桟部24)に当接して、該導風部26が変位することになり、この結果、コンデンサ18、ラジエータ16の破損を防止することができる。
特に、車両の軽衝突時には、コンデンサ18やラジエータ16などの熱交換器部品の取替えを行なう必要がなくなる。
【0053】
加えて、上記導風部26は上記バンパレイン3に連結されると共に、上記熱交換器15との接触に伴ってバンパレイン3との連結が解徐されるように構成されたものである(図7参照)。
この構成によれば、車両の衝突時に導風部26はそのバンパレイン3との連結が解徐されるので、該導風部26の変位を容易に行なうことができ、熱交換器15の破損を防止しつつ、導風部26の変位により車両前部のクラッシュスペースを確保することができる。
【0054】
また、上記実施例で開示したように、バンパレイン3と熱交換器15との間に設けた上記導風部26の形状を、バンパレイン3から後方に行くに従ってその上下幅が小さくなる形状、いわゆる先細り形状になすと、車体前部から取入れられた走行風を該導風部26にてスムーズに熱交換器15に送ることができる。
この場合には、上記導風部15により、走行風が渦巻くことがなく、該走行風を熱交換器15に案内させることができるので、走行風の流速が低下せず、熱交換器15の冷却性能の向上を図ることができる。さらに、車両デザインの自由度を達成しつつ、ラジエータ16を効率的に冷却することができる。
【0055】
さらに、上記実施例で開示したように、上記導風部26を熱交換器15の前面と近接する位置まで後方に延出する構成を採用すると、最大限走行風の乱流を防止しつつ、該走行風を熱交換器15へ送風案内することができる。
さらにまた、上記実施例で開示したように、導風部26を熱交換器15の車幅方向の略全幅にわたって配設すると、該熱交換器15の略全幅に走行風をスムーズに送風案内することができて、熱交換器15の冷却性能を最大限向上させることができる。
【0056】
また、上記実施例で開示したように、インタクーラ4を配設した場合、その上面4aを下部導風部26Bと略平行に成すよう該インタクーラ4を前傾配設すると、導風部26の下部導風部26Bとインタクーラ4との隙(走行風が通過する隙間)を最大限に確保することができる。
さらに、上記実施例で開示したように、衝撃吸収部材(EA部材11)の後端部上面11aおよび後端部下面11bと、バンパレイン3の前端部(この実施例では、クロージングプレート10の上下両端部)と、導風部26の前端部とが面一状になるように形成すると、走行風の渦の発生を防止することができ、該走行風をスムーズに上記熱交換器15に送風案内することができる。
【0057】
図8、図9、図10、図11は車両の前部車体構造の他の実施例を示すものである。
図8に示す実施例は、導風部26の形状を保持するためのリブ26Cを、下部導風部26Bの上面に、車幅方向に所定の間隔を隔てて複数設けたものであり、これら複数のリブ26Cにより導風部26の曲げ剛性の向上を図るように構成している。
【0058】
図8に示す実施例においても、その他の構成、作用、効果については先の実施例とほぼ同様であるから、図8において前図(特に、図6)と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0059】
図9に示す実施例は、導風部26の取付け構造の他の実施例を示す。
図9に示すこの実施例では、上部導風部26Aの前端部上側に凹部26aを形成する一方、合成樹脂製または金属製の押え部材35を設け、バンパレイン3の上側の折曲げ部3aに導風部26の上部導風部26A前端部を上載し、この上部導風部26Aの上記凹部26a上に押え部材35を配置し、クリップ28などの取付け部材で、これら三者3a,26A,35を一体的に取付け固定し、この取付け状態において、EA部材11の後端部上面と、バンパレインの前端部(詳しくは、クロージングプレート10の上端部)と、押え部材の上面35とが面一状になるように形成したものである。
【0060】
このように構成すると、導風部26における上部導風部26Aの締付け強度の向上を図ることができる。図9に示すこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図9において前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0061】
図10に示す実施例は、導風部26における上部導風部26Aおよび下部導風部26Bの前端部を、それぞれクリップ28などの取付け部材を用いて、バンパレイン3の上下の折曲げ部3a,3bに取付けると共に、下部導風部26Bには、熱交換器15との接触に伴って該導風部26の下方への変位を促進する変形促進部としての切欠き部36を形成したものである。該切欠き部36は下部導風部26Bの上面側に形成したが、これは下部導風部26Bの下面側に形成してもよいことは勿論である。
また、図10に示すこの実施例においては、上部導風部26Aの下面側にリブ26Cを一体形成している。
【0062】
このように構成すると、車両の軽衝突時にバンパレイン3と共に、導風部26が後退し、この導風部26の当接面27がラジエータシュラウド17の縦桟部24(先当て部材)に接触すると、上述の変形促進部としての切欠き部36が破断され、該導風部26の下方への変位が促進される。
つまり、導風部26に上記切欠き部36(変形促進部)を設けたので、熱交換器15と導風部26との接触の際に、該導風部26を容易に変位させることができる。
【0063】
なお、図10に示すこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図10において前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略するが、上述の切欠き部36に代えて、薄肉部などの脆弱部によって上述の変形促進部を形成してもよい。
【0064】
図11に示す実施例は、導風部26の側面視形状を上記各実施例に対して上下逆の形状と成したものである。
すなわち、導風部26は、バンパレイン3の上部に配設されたフラットな上部導風部26Aと、バンパレイン3の下部に配設された下部導風部26Bとを有し、この下部導風部26Bはその後方が上部導風部26A後端直下の当接面27に向けて、なだらかに、且つ円弧状に立上がるように構成したものである。
この実施例においても、先の実施例と同様に、上述の下部導風部26Bは空力抵抗のうちの離脱抵抗を可及的小さくすべく、なだらかな曲面形状に形成したものである。
【0065】
この場合、上部導風部26Aの前端はクリップ28(前図参照)などの取付け部材を用いて、バンパレイン3の上側の折曲げ部3aに取付け固定し、下部導風部26Bは接着剤を用いて、バンパレイン3の下側の折曲げ部3bに、軽衝突時に外れるように、接着固定すると共に、上部導風部26Aの下面にはリブ26Cを一体形成して、導風部26の曲げ剛性の向上を図る。
【0066】
図11で示すこの実施例の場合においても、開口面積が相対的に小さい上部開口部2Aからの走行風に対して、開口面積が相対的に大きい下部開口部2Bからの走行風はその流速が速いので、同図に仮想線で示すように熱交換器15の後方下側にオイルクーラ37(油冷却器)が設けられる場合には、下部開口部2Bから取入れた走行風による冷却領域を拡大し、オイルクーラ37(油冷却器)が位置する下側の領域を積極的に冷却することができるので有効となる。
【0067】
図11で示したこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図11において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0068】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のシュラウド部材は、実施例のラジエータシュラウド17に対応し、
以下同様に、
先当て部は、縦桟部24に対応し、
変形促進部は、切欠き部36に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、上記実施例においては、図1、図3で示したように、上述のインタクーラ4を下部導風部26Bの下方において車両の中央に配設したが、該インタクーラ4は車幅方向の左右何れかにオフセットした位置に配設してもよい。
【符号の説明】
【0069】
3…バンパレイン
8…フロントサイドフレーム
15…熱交換器
16…ラジエータ
17…ラジエータシュラウド(シュラウド部材)
24…縦桟部(先当て部)
26…導風部
27…当接面
36…切欠き部(変形促進部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部において前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、
上記左右一対のフロントサイドフレームの前端同士を連結するバンパレインと、
該バンパレインの後方に配設された熱交換器と、を備えた車両の前部車体構造であって、
上記バンパレインと上記熱交換器との間には、車体前部から取入れられた走行風を上記熱交換器に導風する導風部が設けられ、
該導風部の剛性は上記熱交換器の剛性よりも低く設定されると共に、
車両の前突時に導風部が熱交換器に当接した時、該導風部が変形するように構成された
車両の前部車体構造。
【請求項2】
上記導風部の後端部は、上記熱交換器の前面と近接する位置まで後方に延出され、
該後端部には熱交換器の前面と略平行となる当接面を備えた
請求項1記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記熱交換器は、ラジエータと、該ラジエータを覆うシュラウド部材とを備え、
上記シュラウド部材のラジエータより前方に位置する部位には、前突時に上記導風部を変位させる先当て部が設けられた
請求項1または2記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記導風部は上記バンパレインに連結されると共に、上記熱交換器との接触に伴ってバンパレインとの連結が解徐されるように構成された
請求項1〜3の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
上記導風部は熱交換器との接触に伴って該導風部の下方への変位を促進する変形促進部を備えた
請求項1〜4の何れか1に記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−235719(P2011−235719A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107883(P2010−107883)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】