説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】AMT付ハイブリッド車両において、EV走行モードにおいて変速機内で発生する歯打ち音によって乗員が不快感を受ける事態の発生を抑制すること。
【解決手段】この動力伝達制御装置では、クラッチトルクがゼロに維持された状態で電動機駆動トルクのみを利用して走行するEV走行モードと、クラッチトルクがゼロより大きい値に調整された状態で内燃機関駆動トルクを利用して走行するEG走行モード(又はHV走行モード)とが、走行状態に応じて選択的に実現される。EG走行モードでは、「実現される変速段」が車両の走行状態(変速マップ)に応じて変更される。「実現される変速段」が複数の走行用変速段の何れかに設定されている場合において、EG走行モードからEV走行モードへの変更がなされた場合、「実現される変速段」がニュートラル段に変更・固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として内燃機関と電動機とを備え、且つクラッチを備えた車両に適用されるものに係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の変速段を有し且つトルクコンバータを備えていない有段変速機と、内燃機関の出力軸と有段変速機の入力軸との間に介装されてクラッチトルク(クラッチが伝達し得るトルクの最大値)を調整可能なクラッチと、車両の走行状態に応じてアクチュエータを用いてクラッチトルク及び有段変速機の変速段を制御する制御手段と、を備えた動力伝達制御装置が開発されてきている(例えば、特許文献1を参照)。係る動力伝達制御装置は、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)とも呼ばれる。
【0003】
AMTを搭載した車両では、通常、「アクセル開度及び車速」と「実現すべき変速段」との関係を規定する事前に作製されたマップと、アクセル開度及び車速の現在値とに基づいて、実現される変速段が決定・変更される。
【0004】
また、近年、動力源としてエンジンと電動機(電動モータ、電動発電機)とを備えた所謂ハイブリッド車両が開発されてきている(例えば、特許文献2を参照)。ハイブリット車両では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、内燃機関の出力軸の駆動トルクを「内燃機関駆動トルク」と呼び、電動機の出力軸の駆動トルクを「電動機駆動トルク」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−97740号公報
【特許文献2】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0006】
以下、AMTを搭載し、且つ、電動機の出力軸が変速機の出力軸に接続される構成を備えたハイブリッド車両(以下、「AMT付ハイブリッド車両」と呼ぶ。)を想定する。AMT付ハイブリッド車両では、クラッチトルクがゼロに維持された状態で電動機駆動トルクのみを利用して走行する「電動機走行モード」と、クラッチトルクがゼロより大きい値に調整された状態で内燃機関駆動トルクのみ又は「内燃機関駆動トルク及び電動機駆動トルクの両方」を利用して走行する「内燃機関走行モード」と、が選択的に実現され得る。
【0007】
電動機走行モードでは、クラッチが分断された状態で、電動機駆動トルクが、変速機を介することなく電動機の出力軸から変速機の出力軸(従って、駆動輪)に伝達される。この結果、電動機走行モードで車両が走行中において、変速機の入力軸と出力軸との間で動力伝達系統が形成されている状態(具体的には、例えば、有段変速機内で走行用の変速段が実現されている状態)では、変速機の入力軸は、変速機の出力軸の回転に起因する駆動トルクを受けて「空回り」させられる(より正確には、他の部材に動力を伝達する目的なしで回転する)。
【0008】
変速機の入力軸が「空回り」している状態では、変速機の出力軸の回転変動が生じたとき、変速機内のギヤ間の噛み合いにおけるバックラッシュの存在等に起因して、歯打ち音(噛み合うギヤの歯面同士が衝突する際に発生する音)が発生し得る。具体的には、例えば、有段変速機の場合、或る変速段が実現された状態(即ち、その変速段に対応する遊転ギヤがスリーブによって出力軸に対して相対回転不能に固定された状態)において、「他の変速段に対応する遊転ギヤ(従って、出力軸に対して相対回転不能に固定されていない状態にある遊転ギヤ)」と「その遊転ギヤと噛み合う固定ギヤ」との間のバックラッシュの存在に起因して、歯打ち音が発生し得る。この歯打ち音によって、乗員は不快感を受ける可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、ハイブリッド車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、電動機走行モードにおいて、変速機内で発生する歯打ち音によって乗員が不快感を受ける事態の発生を抑制できるものを提供することにある。
【0010】
本発明によるハイブリッド車両に適用される車両の動力伝達制御装置に使用される変速機としては、上述したトルクコンバータを備えていない手動変速機のみならず、トルクコンバータを備えた自動変速機も使用され得る。
【0011】
本発明による動力伝達制御装置の特徴は、変速機が「入力軸・出力軸間で動力伝達系統が形成された状態」にある場合において、選択される走行モードが内燃機関走行モードから電動機走行モードへと変更されたことに基づいて、変速機の状態をニュートラル段が実現された状態に変更・固定するように構成されたことにある。特に、複数の走行用変速段を備えた手動変速機が使用される場合、この装置の特徴は、「実現される変速段」が複数の走行用変速段の何れかに設定されている場合において、選択される走行モードが内燃機関走行モードから電動機走行モードへと変更されたことに基づいて、「実現される変速段」をニュートラル段に変更・固定するように構成されたことにある。
【0012】
これによれば、電動機走行モードが選択された場合、変速機の入力軸・出力軸間で動力伝達系統が形成されない。従って、電動機走行モードで車両が走行中において、上述した「変速機の入力軸の空回り」が発生しない(変速機の入力軸は回転しない)。この結果、変速機の出力軸の回転変動が生じても、上述した歯打ち音が発生せず、従って、係る歯打ち音によって乗員が不快感を受ける事態が発生しない。
【0013】
上記本発明に係る動力伝達制御装置においては、電動機走行モードが選択され、且つ「実現される変速段」がニュートラル段に固定された状態において、車速が所定速度以下になったことに基づいて、前記実現される変速段を前記車両の走行状態に応じて変更するように構成されることが好適である。
【0014】
これによれば、電動機走行モードが選択された状態において、走行していた車両が停止することに基づいて、「実現される変速段」が「減速比が最も大きい変速段」(典型的には「1速」)に設定され得る。即ち、車両の停止時、或いは、停止直前において、減速比が最も大きい変速段が既に実現された状態が得られる。従って、例えば、車両の停止後、内燃機関走行モードで直ちに車両が発進するような場合、減速比が最も大きい変速段を用いて速やかに車両を発進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示した変速機の概略構成図である。
【図3】図1に示したクラッチについての「ストローク−トルク特性」を規定するマップを示したグラフである。
【図4】車速及びアクセル開度と、シフト位置との関係を規定したマップを示したグラフである。
【図5】本発明の実施形態によって、EG走行からEV走行への変更に伴って、実現される変速段がニュートラルに設定される場合の一例を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関とモータジェネレータとを備え、且つ、トルクコンバータを備えない有段変速機とクラッチとを使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を備えたハイブリッド車両である。
【0018】
この車両は、エンジンE/Gと、変速機T/Mと、クラッチC/Dと、モータジェネレータM/Gと、を備えている。E/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/Gの出力軸A1は、フライホイールF/W、及び、クラッチC/Dを介して、変速機T/Mの入力軸A2と接続されている。
【0019】
変速機T/Mは、前進用の複数(例えば、5つ)の変速段(シフト位置)、後進用の1つの変速段(シフト位置)、及びニュートラルを有するトルクコンバータを備えない周知の有段変速機の1つである。T/Mの出力軸A3は、ディファレンシャルD/Fを介して車両の駆動輪と接続されている。
【0020】
図2に示すように、T/Mは、
それぞれが入力軸A2に相対回転不能に設けられるとともに、それぞれが前進用の複数の変速段のそれぞれに対応する複数の固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5iと、
それぞれが出力軸A3に相対回転可能に設けられるとともに、それぞれが前進用の複数の変速段のそれぞれに対応するとともに、対応する変速段の固定ギヤと常時歯合する複数の遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oと、
それぞれが出力軸A3に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられるとともに、それぞれが複数の遊転ギヤのうち対応する遊転ギヤを出力軸A3に対して相対回転不能に固定するために対応する遊転ギヤと係合可能な複数のスリーブS1、S2、S3と、
を備える。
【0021】
T/Mの変速段の変更・設定は、変速機アクチュエータACT2(図1を参照)によってスリーブS1、S2、S3を駆動し、スリーブS1、S2、S3の軸方向位置を制御することで実行される。変速段を変更することで、減速比(出力軸A3の回転速度Noに対する入力軸A2の回転速度Niの割合)が調整される。具体的には、「N」速の「減速比」は、「GNoの歯数/GNiの歯数)(N:1,2,3,4,5)で表される。「1速」から「5速」に向けて、減速比は次第に小さくなっていく。
【0022】
クラッチC/Dは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。より具体的には、エンジンE/Gの出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールF/Wに対して、クラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)が互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールF/Wに対するクラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)の軸方向の位置が調整可能となっている。クラッチC/Dの軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT1(図1を参照)により調整される。なお、このクラッチC/Dは、運転者によって操作されるクラッチペダルを備えていない。
【0023】
以下、クラッチC/Dの原位置(クラッチディスクがフライホイールから最も離れた位置)からの接合方向(圧着方向)への軸方向の移動量をクラッチストロークCStと呼ぶ。クラッチC/Dが「原位置」にあるとき、クラッチストロークCStが「0」となる。図3に示すように、クラッチストロークCStを調整することにより、クラッチC/Dが伝達可能な最大トルク(クラッチトルクTc)が調整される。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。
【0024】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。図2に示す例では、M/Gの出力軸は、T/Mの出力軸A3と一体且つ同軸的に接続されているが、所定の歯車列を介してT/Mの出力軸A3と接続されていてもよい。M/Gの出力軸の駆動トルクは、T/M(T/M内の動力伝達系統)を介することなくT/Mの出力軸A3(従って、駆動輪)に伝達される。
【0025】
本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサS1と、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサS2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサS3と、を備えている。
【0026】
また、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S3、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1、ACT2を制御することで、C/DのクラッチストロークCSt(従って、クラッチトルクTc)、及び、T/Mの変速段を制御する。また、ECUは、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでE/Gの出力軸A1の駆動トルクを制御するとともに、インバータ(図示せず)を制御することでM/Gの出力軸の駆動トルクを制御する。
【0027】
以上、この車両は、AMTを搭載し、且つ、M/Gの出力軸がT/Mの出力軸A3に接続される構成を備えた「AMT付ハイブリッド車両」である。以下、説明の便宜上、E/Gの燃焼により出力軸A1に発生する駆動トルクを「EGトルクTe」と呼び、M/Gの出力軸の駆動トルクを「MGトルクTm」と呼ぶ。Te,Tmは、車両の加速方向について正の値を採り、減速方向について負の値を採るものとする。
【0028】
本装置では、EV走行モードと、EG走行モードと、HV走行モードとが選択的に実現される。EV走行モード、EG走行モード、及びHV走行モードのうち何れが実現されるかは、例えば、車速、アクセル開度等の車両の走行状態に基づいて決定される。
【0029】
EV走行モードでは、E/Gが停止し、クラッチC/Dが分断状態(Tc=0)に維持された状態で、MGトルクTm(>0)のみを利用して車両が走行する。EG走行モードでは、MGトルクTmがゼロに維持され、且つ、クラッチC/Dが接合状態(Tc>0)に調整されてEGトルクTe(>0)のみを利用して車両が走行する。HV走行モードでは、クラッチC/Dが接合状態(Tc>0)に調整されてEGトルクTe(>0)及びMGトルクTm(>0)の両方を利用して車両が走行する。EV走行モード及びHV走行モードでは、Tmはアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて調整される。EG走行モード及びHV走行モードでは、Teはアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて調整される。
【0030】
本装置では、シフトレバーSLが「自動モード」に対応する位置(例えば、Dレンジ)にある場合、ECU内のROMに記憶された変速マップ(図4を参照)と、車速及びアクセル開度等の車両の走行状態とに基づいてシフト位置(選択・実現すべき変速段)が選択される。例えば、現在の車速がαで現在のアクセル開度がβの場合、シフト位置として「3速」が選択される。一方、シフトレバーSLが「手動モード」に対応する位置(例えば、M(マニュアル)レンジ)にある場合、シフトレバーSLの位置に基づいてシフト位置が選択される。
【0031】
変速機T/Mでは、通常、選択されたシフト位置に対応する変速段が実現される。シフト位置が変化したとき、T/Mの変速作動(変速段が変更される際の作動)が行われる。変速作動の開始前にクラッチC/Dが接合状態(クラッチトルク>0)から分断状態(クラッチトルク=0)へと変更され、クラッチが分断状態に維持された状態で変速作動が行われ、変速作動の終了後にクラッチが分断状態から接合状態へと戻される。なお、変速作動の開始とは、変速段の変更に関連して移動する部材(具体的には、スリーブ)の移動の開始に対応し、変速作動の終了とは、その部材の移動の終了に対応する。
【0032】
(EV走行モードにおけるニュートラルへの切り替え)
本装置では、SLによって「自動モード」が選択されている場合において、EG走行モード又はHV走行モードが実現されているとき、シフト位置(従って、実現される変速段)が、上述した変速マップ(図4を参照)及び車両の走行状態(アクセル開度及び車速等)に基づいて選択・変更されていく。
【0033】
他方、EV走行モードでは、クラッチC/Dが分断状態に維持されつつ、MGトルクTmが、T/Mの内部を介することなくM/Gの出力軸からT/Mの出力軸A3(従って、駆動輪)に伝達される。従って、EV走行モードで車両が走行中において、T/M内で(ニュートラル以外の)走行用の変速段が実現されている状態(即ち、入力軸A2と出力軸A3との間で動力伝達系統が形成されている状態)では、入力軸A2は、出力軸A3の回転に起因する駆動トルクを受けて「空回り」させられる(より正確には、他の部材に動力を伝達する目的なしで回転する)。
【0034】
入力軸A2が「空回り」している状態では、入力軸A2と一体で回転する固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5iも「空回り」する。以下、一例として、「4速」が実現された状態(即ち、遊転ギヤG4oがスリーブS2によって出力軸A3に対して相対回転不能に固定された状態)について説明する。この場合、出力軸A3の回転変動が生じたとき、「空回り」している固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5iにも回転変動が生じる。このことに起因して、「4速」以外の変速段に対応する遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G5o(即ち、出力軸A3に対して相対回転不能に固定されていない状態にある遊転ギヤ)と、それらの遊転ギヤとそれぞれ噛み合う固定ギヤG1i、G2i、G3i、G5iとの間のそれぞれのバックラッシュの存在に起因して、歯打ち音が発生し得る。この歯打ち音によって、乗員は不快感を受ける可能性がある。なお、この歯打ち音は、「4速」以外の変速段が実現された状態でも同様のメカニズムによって発生する。
【0035】
そこで、本装置では、「自動モード」が選択され、且つ、(ニュートラル以外の)走行用の変速段が実現されている状態において、EVモード以外の走行モードからEV走行モードに移行したことに基づいて、実現される変速段がニュートラルに変更・固定される。
【0036】
以下、このことについて、図5を参照しながら説明する。図5では、SLによって「自動モード」(Dレンジ)が選択・維持され、且つ、時刻t1以前にてEV走行モード以外の走行モード(具体的には、EG走行モード)が選択され、時刻t1以降にてEV走行モードが選択される場合の一例が示されている。図5の「変速段」の欄において、破線は、上述の「ニュートラルへの変更」がされない場合を示し、実線は、本装置によって「ニュートラルへの変更」がなされる場合を示す。
【0037】
図5に示す例では、時刻t1におけるEG走行モードからEV走行モードへの切り替えに伴い、時刻t1以降、EGトルクTe及びクラッチトルクTcがゼロに向けて減少し、MGトルクTmがゼロから増大する。時刻t2にてTeがゼロに達し、時刻t2以降、エンジン回転速度NEはゼロに向けて減少し、時刻t4にてゼロになる。時刻t4以降、E/Gは停止状態(NE=0)に維持される。
【0038】
時刻t2以降、クラッチトルクTcがゼロに維持される(即ち、クラッチC/Dが分断状態に維持される)。換言すれば、時刻t2以降、MGトルクのみを利用して車両が走行する。
【0039】
アクセル開度が時刻t1以前から一定に維持されている。これに伴い、時刻t2以降、MGトルクTmが一定に維持される。この結果、車速も、時刻t1以前から一定に維持されている。
【0040】
「実現される変速段」は、上述の変速マップ(図4を参照)に従って、クラッチトルクTcがゼロに達する時刻t2までは「4速」に維持されている。ここで、上述の「ニュートラルへの変更」がなされない場合(破線を参照)、時刻t2以降も、車速及びアクセル開度に応じて、上述の変速マップ(図4を参照)に従って、「4速」に維持される。この段階では、クラッチC/Dが分断状態となっているので、上述のように、入力軸A2、ひいては、固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5iも「空回り」している。従って、出力軸A3の回転変動が生じたとき、上述と同じメカニズムによって、遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G5oと固定ギヤG1i、G2i、G3i、G5iとの間のそれぞれのバックラッシュの存在に起因して、歯打ち音が発生し得る。
【0041】
これに対し、本装置では、クラッチトルクTcがゼロに達する時刻t2にて、「実現される変速段」を現在の変速段(この例では、「4速」)からニュートラルへ変更する変速作動が開始される。この結果、時刻t2の直後以降、実現される変速段がニュートラルに固定されている。即ち、時刻t2の直後以降、入力軸A2・出力軸A3間で動力伝達系統が形成されない。従って、上述した「入力軸A2の空回り」が発生しない。換言すれば、出力軸A3が回転しても、入力軸A2、ひいては、固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5iが回転しない。この結果、出力軸A3の回転変動が生じても、上述した歯打ち音が発生しない。
【0042】
なお、この例では、EG走行モード(又はHV走行モード)からEV走行モードへの切り替えの後において、クラッチトルクTcがゼロに達した時点でニュートラルへの変速作動が開始されている。これに対し、ニュートラルへの変速作動によるショックが発生しない範囲内で、ニュートラルへの変速作動の応答遅れを考慮して、クラッチトルクTcがゼロに達する前の時点でニュートラルへの変速作動が開始されてもよいし、或いは、アクチュエータACT1、ACT2が同時に作動することによる電子制御ユニットECUの負荷の増大を考慮して、クラッチトルクTcがゼロに達する後の時点でニュートラルへの変速作動が開始されてもよい。
【0043】
また、図5には示していないが、EV走行モードにおいて「実現される変速段」がニュートラルに固定されている場合において、車速が所定速度以下になったことに基づいて、ニュートラルへの固定を解除し、「実現される変速段」が上述した変速マップ(図4を参照)及び車両の走行状態(アクセル開度及び車速等)に基づいて選択・変更されていってもよい。
【0044】
これによれば、その後車両が停止することに基づいて、「実現される変速段」が「減速比が最も大きい変速段」(本例では、「1速」)に設定される。即ち、車両の停止時、或いは、停止直前において、減速比が最も大きい変速段(即ち、発進用の変速段)が既に実現された状態が得られる。従って、例えば、車両の停止後、EG走行モード又はHV走行モードで直ちに車両が発進するような場合、「減速比が最も大きい変速段」を用いて速やかに車両を発進させることができる。
【0045】
以上、本装置によれば、ニュートラル以外の走行用の変速段が実現されている状態において、EVモード以外の走行モードからEV走行モードに走行モードが移行したことに基づいて、「実現される変速段」がニュートラルに変更・固定される。これによれば、EV走行モードが選択された場合、変速機T/Mの入力軸A2・出力軸A3間で動力伝達系統が形成されない。従って、EV走行モードで車両が走行中において、上述した「変速機の入力軸A2の空回り」が発生しない(変速機の入力軸A2は回転しない)。この結果、変速機の出力軸A3の回転変動が生じても、上述した歯打ち音が発生せず、従って、係る歯打ち音によって乗員が不快感を受ける事態が発生しない。
【0046】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、変速機として、トルクコンバータを備えていない手動変速機T/Mが使用されているが、トルクコンバータを備えた自動変速機が使用されてもよい。この場合、クラッチC/Dが不要となる。
【0047】
また、上記実施形態では、EV走行モードと、EG走行モードと、HV走行モードとの3種類の走行モードが選択的に実現されるように構成されているが、EV走行モードと、EG走行モードとの2種類の走行モードが選択的に実現されるように(即ち、HV走行モードが実現できないように)構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
T/M…変速機、E/G…エンジン、C/D…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、A1…エンジンの出力軸、A2…変速機の入力軸、A3…変速機の出力軸、ACT1…クラッチアクチュエータ、ACT2…変速機アクチュエータ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、
前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記入力軸と前記出力軸との間で動力伝達系統が形成された状態における前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である減速比を変更可能であり且つ前記入力軸と前記出力軸との間で動力伝達系統が形成されないニュートラル段を備えた変速機であって、前記入力軸と前記出力軸との間の動力伝達系統を介することなく前記電動機の出力軸から動力が変速機の出力軸に入力される変速機と、
前記車両の走行状態に基づいて、前記内燃機関の出力軸の駆動トルクである内燃機関駆動トルク、前記電動機の出力軸の駆動トルクである電動機駆動トルク、及び前記変速機を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記車両の走行状態に基づいて、前記電動機駆動トルクのみを利用して走行する電動機走行モードと、前記内燃機関駆動トルクのみを利用して又は前記内燃機関駆動トルク及び前記電動機駆動トルクの両方を利用して走行する内燃機関走行モードと、を選択的に実現するように構成された車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機が前記入力軸と前記出力軸との間で動力伝達系統が形成された状態にある場合において、選択される走行モードが前記内燃機関走行モードから前記電動機走行モードへと変更されたことに基づいて、前記変速機の状態を前記ニュートラル段が実現された状態に変更・固定するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、
前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記入力軸と前記出力軸との間で動力伝達系統が形成され且つ前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である減速比が異なる予め定められた複数の走行用変速段と、前記入力軸と前記出力軸との間で動力伝達系統が形成されないニュートラル段とを有する、トルクコンバータを備えていない有段変速機であって、前記入力軸と前記出力軸との間の動力伝達系統を介することなく前記電動機の出力軸から動力が有段変速機の出力軸に入力される有段変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との間に介装されたクラッチであってクラッチが伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを調整可能なクラッチと、
前記クラッチを制御して前記クラッチトルクを調整する第1アクチュエータと、
前記有段変速機を制御して前記複数の走行用変速段及び前記ニュートラル段のうちから実現される変速段を変更する第2アクチュエータと、
前記車両の走行状態に基づいて、前記内燃機関の出力軸の駆動トルクである内燃機関駆動トルク、前記電動機の出力軸の駆動トルクである電動機駆動トルク、前記第1アクチュエータ、及び前記第2アクチュエータを制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記車両の走行状態に基づいて、前記クラッチトルクがゼロに維持された状態で前記電動機駆動トルクのみを利用して走行する電動機走行モードと、前記クラッチトルクがゼロより大きい値に調整された状態で前記内燃機関駆動トルクのみを利用して又は前記内燃機関駆動トルク及び前記電動機駆動トルクの両方を利用して走行する内燃機関走行モードと、を選択的に実現するように構成された車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記内燃機関走行モードが選択された状態において、前記実現される変速段を前記車両の走行状態に応じて変更するように構成され、
前記制御手段は、
前記実現される変速段が前記複数の走行用変速段の何れかに設定されている場合において、選択される走行モードが前記内燃機関走行モードから前記電動機走行モードへと変更されたことに基づいて、前記実現される変速段を前記ニュートラル段に変更・固定するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記有段変速機は、
それぞれが前記有段変速機の入力軸に相対回転不能に設けられるとともに、それぞれが前記複数の走行用変速段のそれぞれに対応する複数の固定ギヤと、
それぞれが前記有段変速機の出力軸に相対回転可能に設けられるとともに、それぞれが前記複数の走行用変速段のそれぞれに対応するとともに、対応する変速段の固定ギヤと常時歯合する複数の遊転ギヤと、
それぞれが前記有段変速機の出力軸に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられるとともに、それぞれが複数の遊転ギヤのうち対応する遊転ギヤを前記出力軸に対して相対回転不能に固定するために対応する遊転ギヤと係合可能な複数のスリーブと、
を備え、
前記第2アクチュエータが前記複数のスリーブの軸方向の位置を制御することによって、前記実現される変速段が変更されるように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記電動機走行モードが選択され、且つ前記実現される変速段が前記ニュートラル段に固定された状態において、前記車両の速度が所定速度以下になったことに基づいて、前記実現される変速段を前記車両の走行状態に応じて変更するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記電動機走行モードが選択された状態において、走行していた前記車両が停止することに基づいて、前記実現される変速段を前記複数の走行用変速段のうち前記減速比が最も大きい変速段に設定するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
選択される走行モードが前記内燃機関走行モードから前記電動機走行モードへと変更された後において前記クラッチトルクがゼロに達したことに基づいて、前記実現される変速段を前記ニュートラル段に変更するための作動を開始するように構成された車両の動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−18391(P2013−18391A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153975(P2011−153975)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】