説明

車両の走行制御装置

【課題】ドライバ操舵との干渉による違和感を緩和しつつ、操舵入力情報を検出するデバイスの機能失陥時においても好適な軌跡追従性を確保する。
【解決手段】車両の走行制御装置は、車両の軌跡が目標路に近付くように舵角可変手段を制御する軌跡制御手段と、車両の運転者によりハンドルを介して操舵入力軸に与えられる操舵入力に関する操舵入力情報を取得する取得手段と、取得された操舵入力情報に応じて軌跡制御手段による軌跡制御の応答性を変更すると共に、操舵入力が取得出来ない場合に軌跡制御の応答性を向上させる応答性変更手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばEPS(Electric Power Steering:電動パワーステアリング装置)、VGRS(Variable Gear Ratio Steering:可変ギア比ステアリング装置)等の各種操舵機構を備えた車両において、例えばLKA(Lane Keeping Assist:車線維持走行)等を行う車両の走行制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば、車両のレーンキープモード時には、目標舵角を達成するために電動式パワーステアリング及び各車輪の制動圧を制御すると共に走行路に対する車両の横方向位置のずれやヨー角のずれを低減するためにステアリングギア比可変装置を制御する装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、操舵制御によって車両の軌跡制御を行う際、軌跡制御の目標舵角に対応する制御量をEPSとVGRSの一方で出力し、他方は一方の出力に応じた制御量を出力する装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、車両の後輪の舵角を制御することにより該車両の操舵制御を行っている際に、運転者の意識的なハンドル操作が検出された場合は、ハンドル操作状態及びハンドル操作方向に応じて操舵制御の制御量を減少補正する装置も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−160998号公報
【特許文献2】特開2008−06651号公報
【特許文献3】特開平11−245832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に記載の装置では、レーンキープに起因する車両の軌跡制御の方向と、車両の運転者の操舵方向とが一致する場合と一致しない場合とで、操舵量に対する車両の応答性が異なるため、運転者が違和感を覚える可能性があるという技術的問題点がある。
【0007】
また、上述の特許文献2に記載の装置では、EPS及びVGRSの二種類の操舵制御デバイスを使用して一方のデバイスによる軌跡制御によって生じる不具合を他方のデバイスで補償しているが、特許文献1と同様に、操舵量に対する車両の応答性に起因して運転者が違和感を覚えるという技術的問題点がある。
【0008】
また、上述の特許文献3に記載の装置では、軌跡制御の方向と操舵方向とが一致するか否かに応じて制御量を変更しているが、運転者が車両の応答性に起因する違和感を覚える可能性があるという技術的問題点がある。
【0009】
ここで特に、このような軌跡追従制御とドライバ操舵とが干渉することによる違和感を緩和するにあたって、軌跡追従制御の応答性を低下させることが考えられる。即ち、ドライバのオーバーライドに対する軌跡追従制御の干渉を抑制することにより、違和感を低減するのである。
【0010】
ところが、このような制御は、ドライバの操舵入力に関する情報(例えば、操舵角や操舵速度等の情報)が、正確に取得されていることが前提となる。このため、何らかの理由により、これら操舵入力に関する情報を検出する各種のセンサのセンサ出力値が読み取れなくなった場合等には、ドライバの操舵入力を正確に把握出来ないことに起因して、応答性を低下させた軌跡追従制御により、軌跡追従制御に係る追従性が十分に確保できないといった新たな問題を生じ得る。
【0011】
本発明は、係る新規な問題点に想到してなされたものであり、ドライバ操舵との干渉による違和感を緩和しつつ、操舵入力情報を検出するデバイスの機能失陥時においても、好適な軌跡追従性を確保可能な車両の走行制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両の走行制御装置は、操舵入力軸の回転角である操舵角と、操舵輪の回転角である舵角との関係を変化させることが可能な舵角可変手段を備えた車両における走行制御装置であって、前記車両の軌跡が目標路に近付くように前記舵角可変手段を制御する軌跡制御手段と、前記車両の運転者によりハンドルを介して前記操舵入力軸に与えられる操舵入力に関する操舵入力情報を取得する取得手段と、前記取得された操舵入力情報に応じて前記軌跡制御手段による軌跡制御の応答性を変更すると共に、前記操舵入力情報が取得出来ない場合に前記軌跡制御の応答性を向上させる応答性変更手段とを具備することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る車両は、舵角可変手段を少なくとも備えて構成される。舵角可変手段は、操舵入力軸の回転角である操舵角と、操舵輪の回転角である舵角との関係を変化させることが可能である。舵角可変手段は、操舵角と舵角との関係を、段階的に又は連続的に可変とし得る、物理的、機械的、電気的又は磁気的な各種装置を包含する概念である。
【0014】
舵角可変手段によれば、操舵角と舵角との関係が一義的に規定されず、例えば操舵角と舵角との比を変化させることが可能となる、或いは、操舵角に無関係に舵角を変化させることが可能となる。
【0015】
本発明に係る車両の走行制御装置によれば、例えばメモリやプロセッサを適宜備え得る軌跡制御手段が、車両の軌跡を該車両の目標路(目標軌跡)に近付けるように舵角可変手段を制御する。
【0016】
具体的には例えば、車載カメラ等により撮像された目標路の画像に基づいて、目標路の曲率、目標路を規定する白線等と車両との位置偏差及びヨー角偏差等(一例である)が算出又は推定され、それらに基づいて目標路に対して車両の軌跡を近付けるための目標横加速度(一例である)が算出又は推定される等した後に、これら算出又は推定された目標横加速度に基づいて、例えば舵角可変手段により舵角が変更されることに起因して該目標横加速度が得られるように制御量が決定され、該決定された制御量に基づいて舵角可変手段が制御される。
【0017】
また、本発明に係る車両の走行制御装置によれば、例えばセンサ或いはプロセッサ等の態様を採り得る取得手段により、操舵入力情報が取得される。
【0018】
操舵入力情報とは、運転者がハンドル(ステアリングホイル)を介して操舵入力軸に与える操舵入力に関する情報であり、具体的には、例えば、操舵角や操舵速度(操舵角速度)等の情報を意味する。操舵入力情報を取得する取得手段は、例えば、操舵角センサ等の検出手段であってもよいが、電気信号等としてこれら検出手段から検出対象の検出結果を取得するプロセッサ等であってもよいし、取得した検出結果に基づいた数値演算処理等を経て操舵入力情報を算出する手段等であってもよい。
【0019】
一方、本願発明者の研究によれば、以下の事項が判明している。即ち、軌跡制御手段を備える車両では、運転者がハンドル等の入力手段を介して操舵入力軸に入力する、人為的な操舵入力があった場合(所謂、オーバーライド時)には、運転者による操舵と、軌跡制御手段による軌跡制御とが互いに干渉し、運転者が違和感を覚える可能性がある。
【0020】
特に、軌跡制御手段による軌跡制御は、フェールセールの観点と、例えば車載カメラの認識時間等とに起因して、比較的緩やかな車両挙動となる。また、運転者による操舵と軌跡制御手段による軌跡制御とは非連動である。このため、軌跡制御手段による軌跡制御の追従遅れに起因して、運転者の意図と、軌跡制御手段による軌跡制御の目標との間にズレが生じ、運転者が違和感を覚える可能性がある、或いは、車両挙動の安定化が妨げられる可能性がある。
【0021】
そこで本発明に係る車両の走行制御装置では、例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる応答性変更手段により、車両の運転者によりステアリングホイルを介して操舵入力軸に操舵入力がある場合(即ち、オーバーライドが生じた場合)に、軌跡制御手段による軌跡制御の応答性が変更される。
【0022】
ここで、「応答性」とは、例えば、車載カメラ等による路面の撮像結果が実際の舵角変化に反映されるまでの応答時間、当該応答時間の逆数としての応答周波数或いはこれらに基づいて算出される各種指標値等、軌跡制御の時間応答の度合いにより規定される性質を意味し、応答性が良い(悪い)又は高い(低い)とは、例えば、上記応答時間が短い(長い)ことを意味する。
【0023】
具体的には例えば、応答性変更手段は、取得される操舵入力情報に応じて、例えばオーバーライドがあるときに、軌跡制御手段による軌跡制御の応答周波数を基準値に対して低下させる。このようにして応答性を低下させれば、ドライバのオーバーライドによる車両の偏向が軌跡制御に反映されるまでの時間的猶予が大きくなるから、軌跡制御がドライバのオーバーライドに干渉する事態が防止され、車両の応答性に起因して運転者が違和感を覚えることを抑制することができる。
【0024】
尚、軌跡制御の応答周波数を低下させた場合、ドライバによるオーバーライド発生時の違和感を緩和し得る反面、軌跡制御における目標路への追従性が低下する懸念がある。このような問題を補償するため、応答性変更手段は、操舵入力情報に応じた応答性変更の一環として、操舵角速度から車両挙動を予測して、基本となる軌跡制御の制御量を、この予測された車両挙動に応じて適宜補正してもよい。この場合、軌跡制御における目標路への追従性を好適に確保することができるため、軌跡制御の応答周波数を低下させることによる違和感の緩和効果のみを享受することができる。
【0025】
ところで、応答性変更手段に係る軌跡制御の応答性変更に係る措置は、操舵入力情報が正確に得られていることを前提としている。従って、操舵入力情報が正確に得られない状況において、軌跡制御の応答性制御に確たる制御上の指針がない場合、軌跡制御による目標路への追従性が低下する、或いは車両挙動の十分な安定化が図られ難くなる。
【0026】
そこで、本発明に係る応答性変更手段は、操舵入力情報が取得出来ない場合に、軌跡制御に係る応答性を向上させる構成となっている。軌跡制御の応答性を向上させるとは、例えば、軌跡制御の応答周波数を基準値まで戻す、或いは、基準値よりも高周波側に上昇させること等を意味する。
【0027】
このように、本発明に係る車両の走行制御装置によれば、操舵入力情報が正確に取得できない場合においては、軌跡制御の軌跡追従性を優先して軌跡制御の応答性を向上させることができる。従って、操舵入力情報が取得できない場合においても軌跡制御を好適に継続することが可能となるのである。
【0028】
本発明に係る車両の走行制御装置の一の態様では、前記応答性変更手段は、操舵速度に応じて前記応答性を変更する。
【0029】
この態様によれば、応答性変更手段は、操舵入力情報としての操舵速度(端的には、ハンドルの回転角速度)に応じて応答性を変更する。
【0030】
この態様によれば、例えば、操舵速度が比較的速い場合、車両挙動の変動が比較的大きいと予測されるため、応答性変更手段は、軌跡制御手段による軌跡制御の応答性(例えば、応答周波数)を向上させる。このように構成すれば、例えば軌跡制御手段による軌跡制御に係る制御量が比較的大きく変動することを抑制することができる。或いは、軌跡制御手段による軌跡制御が、運転者の操舵に追従できなくなり、制御停止に至ることを防止することができる。
【0031】
他方、操舵速度が比較的遅い場合、車両挙動の変動が比較的小さいと予測されるため、応答性変更手段は、軌跡制御手段による軌跡制御の応答性(例えば、応答周波数)を低下させる。このように構成すれば、運転者の操舵と軌跡制御手段による軌跡制御とが互いに干渉することを抑制することができる。この結果、車両の応答性に起因して運転者が違和感を覚えることを抑制することができる。
【0032】
本発明に係る車両の走行制御装置の他の態様では、前記応答性変更手段は、前記車両の走行条件に応じて前記応答性の向上に係る上昇量を補正する。
【0033】
この態様によれば、車両の走行条件に応じて、操舵入力情報取得不能な場合における応答性の向上の度合いが補正される。
【0034】
ここで、「車両の走行条件」とは、軌跡追従制御の安定性を相対的に低下させる要素を伴った条件を意味する。例えば、軌跡追従制御に関する制御ロジックが等しく、ある仮想の目標路に対する追従性が等しい場合であっても、走行路が狭小路である場合とそうでない場合とでは、後者の方が車両は安定的に走行していると言える。同様に、走行路が悪路である場合とそうでない場合とでは、後者の方が車両は安定的に走行していると言える。
【0035】
軌跡追従制御の応答性の向上は、軌跡追従制御の安定性と関連しており、軌跡追従制御の応答性を高めると、ドライバにおける操舵フィーリングが悪化する。その結果、目標路に対する追従性が確保される半面、車両挙動は総じて慌しくなり易い。このため、車両の走行条件によっては、ドライバの不安を煽る結果を招き易い。
【0036】
この態様によれば、そのような意味においての車両の走行条件を勘案して、応答性向上の度合いが補正される。端的には、適宜応答性が減少側に補正される。その結果、車両の走行条件に応じた適切な安定性が確保され、操舵入力情報取得不能時において、車両の走行条件に対してよりロバストな軌跡追従性を確保することができる。
【0037】
尚、この態様では、前記走行条件は、走行路の状態に関する条件であってもよい。
上述したように、走行路の状態、例えば、道幅、路面の荒れ具合、段差の有無等は、軌跡追従制御の応答性を過度に高めた場合には、かえって車両挙動を慌しくさせ易い。従って、これらを勘案して応答性を設定することによって、操舵入力情報取得不能時における好適なフェールセーフが実現される。
【0038】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態に係る車両の構成を概念的に示す概略構成図である。
【図2】図1の車両においてECUが実行するLKA制御のフローチャートである。
【図3】図2のLKA制御におけるヨー角偏差φとLKA基本目標角δ1との関係を例示する図である。
【図4】LKA制御の応答周波数変更に係る概念図である。
【図5】第2実施形態に係り、車両の走行条件と車両の安定性との関係を例示する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係る車両走行制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0041】
<第1実施形態>
本発明に係る車両走行制御装置の第1実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。
【0042】
先ず、本実施形態に係る車両1の構成について、図1を参照して説明する。図1は、車両1の構成を概念的に示す概略構成図である。
【0043】
図1において、車両1は、操舵輪として左右一対の前輪FL及びFRを備え、これら前輪が転舵することにより所望の方向に進行可能に構成されている。車両1は、ECU(Electronic Control Unit)100、VGRSアクチュエータ200、VGRS駆動装置300、EPSアクチュエータ400及びEPS駆動装置500を備える。
【0044】
ECU100は、夫々不図示のCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備え、車両1の動作全体を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両の走行制御装置」の一例である。
【0045】
ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述するLKA制御を実行可能に構成されている。LKA制御は、車両1を目標路(レーン)に追従させる制御であり、本発明に係る「軌跡制御手段」による車両の軌跡制御の一例である。
【0046】
車両1では、ハンドル11を介して運転者より与えられる操舵入力が、ハンドル11と同軸回転可能に連結され、ハンドル11と同一方向に回転可能な軸体たるアッパーステアリングシャフト12に伝達される。アッパーステアリングシャフト12は、本発明に係る「操舵入力軸」の一例である。アッパーステアリングシャフト12は、その下流側の端部においてVGRSアクチュエータ200に連結されている。
【0047】
VGRSアクチュエータ200は、ハウジング201、VGRSモータ202及び減速機構203を備えた、本発明に係る「舵角可変手段」の一例である。
【0048】
ハウジング201は、VGRSモータ202及び減速機構203を収容してなるVGRSアクチュエータ200の筐体である。ハウジング201には、前述したアッパーステアリングシャフト12の下流側の端部が固定されており、ハウジング201は、アッパーステアリングシャフト12と一体に回転可能となっている。
【0049】
VGRSモータ202は、回転子たるロータ202a、固定子たるステータ202b及び駆動力の出力軸たる回転軸202cを有するDCブラシレスモータである。ステータ202bは、ハウジング201内部に固定されており、ロータ202aは、ハウジング201内部で回転可能に保持されている。回転軸202cは、ロータ202aと同軸回転可能に固定されており、その下流側の端部が減速機構203に連結されている。
【0050】
減速機構203は、差動回転可能な複数の回転要素(サンギア、キャリア及びリングギア)を有する遊星歯車機構である。この複数の回転要素のうち、サンギアは、VGRSモータ202の回転軸202cに連結されており、また、キャリアは、ハウジング201に連結されている。そしてリングギアが、ロアステアリングシャフト13に連結されている。
【0051】
このような構成を有する減速機構203によれば、ハンドル11の操作量に応じたアッパーステアリングシャフト12の回転速度(即ち、キャリアに連結されたハウジング201の回転速度)と、VGRSモータ202の回転速度(即ち、サンギアに連結された回転軸202cの回転速度)とにより、残余の一回転要素たるリングギアに連結されたロアステアリングシャフト13の回転速度が一義的に決定される。この際、回転要素相互間の差動作用により、VGRSモータ202の回転速度を増減制御することによって、ロアステアリングシャフト13の回転速度を増減制御することが可能となる。即ち、VGRSモータ202及び減速機構203の作用により、アッパーステアリングシャフト12とロアステアリングシャフト13とは相対回転可能である。また、減速機構203における各回転要素の構成上、VGRSモータ202の回転速度は、各回転要素相互間のギア比に応じて定まる所定の減速比に従って減速された状態でロアステアリングシャフト13に伝達される。
【0052】
このように、車両1では、アッパーステアリングシャフト12とロアステアリングシャフト13とが相対回転可能であることによって、アッパーステアリングシャフト12の回転量たる操舵角MAと、ロアステアリングシャフト13の回転量に応じて一義的に定まる(後述するラックアンドピニオン機構のギア比も関係する)操舵輪たる前輪の舵角との比たる操舵伝達比が、予め定められた範囲で連続的に可変となる。
【0053】
尚、減速機構204は、ここに例示した遊星歯車機構のみならず、他の態様(例えば、アッパーステアリングシャフト12及びロアステアリングシャフト13に夫々歯数の異なるギアを連結し、各ギアと一部分で接する可撓性のギアを設置すると共に、係る可撓性ギアを、波動発生器を介して伝達されるモータトルクにより回転させることによって、アッパーステアリングシャフト12とロアステアリングシャフト13とを相対回転させる態様等)を有していてもよいし、遊星歯車機構であれ上記と異なる物理的、機械的、又は機構的態様を有していてよい。
【0054】
VGRS駆動装置300は、VGRSモータ202のステータ202bに対し通電可能に構成された、PWM回路、トランジスタ回路及びインバータ等を含む電気駆動回路である。VGRS駆動装置300は、図示せぬバッテリと電気的に接続されており、当該バッテリから供給される電力によりVGRSモータ202に駆動電圧を供給することが可能に構成されている。また、VGRS駆動装置300は、ECU100と電気的に接続されており、その動作はECU100により制御される構成となっている。尚、VGRS駆動装置300は、VGRSアクチュエータ200と共に、本発明に係る「舵角可変手段」の一例を構成している。
【0055】
ロアステアリングシャフト13の回転は、ラックアンドピニオン機構に伝達される。ラックアンドピニオン機構は、ロアステアリングシャフト13の下流側端部に接続されたピニオンギア14及び当該ピニオンギアのギア歯と噛合するギア歯が形成されたラックバー15を含む操舵力伝達機構であり、ピニオンギア14の回転がラックバー15の図中左右方向の運動に変換されることにより、ラックバー15の両端部に連結されたタイロッド及びナックル(符号省略)を介して操舵力が各操舵輪に伝達される構成となっている。即ち、車両1では所謂ラックアンドピニオン式の操舵方式が実現されている。
【0056】
EPSアクチュエータ400は、永久磁石が付設されてなる回転子たる不図示のロータと、当該ロータを取り囲む固定子であるステータとを含むDCブラシレスモータとしてのEPSモータを備える。このEPSモータは、EPS駆動装置500を介した当該ステータへの通電によりEPSモータ内に形成される回転磁界の作用によってロータが回転することにより、その回転方向にアシストトルクTAを発生可能に構成されている。
【0057】
一方、EPSモータの回転軸たるモータ軸には、不図示の減速ギアが固定されており、この減速ギアはまた、ピニオンギア14と噛合している。このため、EPSモータから発せられるアシストトルクTAは、ピニオンギア14の回転をアシストするアシストトルクとして機能する。ピニオンギア14は、先に述べたようにロアステアリングシャフト13に連結されており、ロアステアリングシャフト13は、VGRSアクチュエータ200を介してアッパーステアリングシャフト12に連結されている。従って、アッパーステアリングシャフト12に加えられる運転者操舵トルクMTは、アシストトルクTAにより適宜アシストされた形でラックバー15に伝達され、運転者の操舵負担が軽減される構成となっている。
【0058】
EPS駆動装置500は、EPSモータのステータに対し通電可能に構成された、PWM回路、トランジスタ回路及びインバータ等を含む電気駆動回路である。EPS駆動装置500は、図示せぬバッテリと電気的に接続されており、当該バッテリから供給される電力によりEPSモータに駆動電圧を供給することが可能に構成されている。また、EPS駆動装置500は、ECU100と電気的に接続されており、その動作はECU100により制御される構成となっている。
【0059】
一方、車両1には、操舵トルクセンサ16、操舵角センサ17及び回転センサ18を含む各種センサが備わっている。
【0060】
操舵トルクセンサ16は、運転者からハンドル11を介して与えられる運転者操舵トルクMTを検出可能に構成されたセンサである。
【0061】
より具体的に説明すると、アッパーステアリングシャフト12は、上流部と下流部とに分割されており、図示せぬトーションバーにより相互に連結された構成を有している。係るトーションバーの上流側及び下流側の両端部には、回転位相差検出用のリングが固定されている。このトーションバーは、車両1の運転者がハンドル11を操作した際にアッパーステアリングシャフト12の上流部を介して伝達される操舵トルク(即ち、運転者操舵トルクMT)に応じてその回転方向に捩れる構成となっており、係る捩れを生じさせつつ下流部に操舵トルクを伝達可能に構成されている。従って、操舵トルクの伝達に際して、先に述べた回転位相差検出用のリング相互間には回転位相差が発生する。操舵トルクセンサ16は、係る回転位相差を検出すると共に、係る回転位相差を操舵トルクに換算して操舵トルクMTに対応する電気信号として出力可能に構成されている。
【0062】
また、操舵トルクセンサ16は、ECU100と電気的に接続されており、検出された操舵トルクMTは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0063】
操舵角センサ17は、アッパーステアリングシャフト12の回転量を表す操舵角MAを検出可能に構成された角度センサである。操舵角センサ17は、ECU100と電気的に接続されており、検出された操舵角MAは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0064】
回転センサ18は、VGRSアクチュエータ200におけるハウジング201(即ち、回転角で言うならばアッパーステアリングシャフト12と同等である)とロアステアリングシャフト13との回転位相差を検出可能に構成されたロータリーエンコーダである。回転センサ18は、ECU100と電気的に接続されており、検出された回転位相差は、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0065】
車速センサ19は、車両1の速度たる車速Vを検出可能に構成されたセンサである。車速センサ19は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0066】
車載カメラ20は、車両1のフロントノーズに設置され、車両1の前方における所定領域を撮像可能に構成された撮像装置である。車載カメラ20は、ECU100と電気的に接続されており、撮像された前方領域は、画像データとしてECU100に一定又は不定の周期で送出される構成となっている。ECU100は、この画像データを解析し、LKA制御に必要な各種データを取得することが可能である。
【0067】
次に、ECU100が実行するLKA制御について、図2を参照して説明する。図2は、本実施形態に係るECUが実行するLKA制御のフローチャートである。
【0068】
図2において、ECU100は、車両1に備わる各種スイッチ類の操作信号、各種フラグ及び上記各種センサに係るセンサ信号等を含む各種信号を読み込む(ステップS101)と共に、予め車両1の車室内に設置されたLKA制御発動用の操作ボタンがドライバにより操作される等した結果としてLKAモードが選択されているか否かを判別する(ステップS102)。LKAモードが選択されていない場合(ステップS102:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻す。
【0069】
LKAモードが選択されている場合(ステップS102:YES)、ECU100は、車載カメラ20から送出される画像データに基づいて、LKAの目標路を規定する白線(目標路(ここでは、車線)を規定する路面構造物又は路面表示物の一例である)が検出されているか否かを判別する(ステップS103)白線が検出されていない場合(ステップS103:NO)、仮想の目標路を設定できないため、ECU100は、処理をステップS101に戻す。一方、白線が検出されている場合(ステップS103:YES)、ECU100は、車両1を目標路に追従させるに際して必要となる路面情報を算出する(ステップS104)。
【0070】
ステップS104においては、白線と車両1との横方向の偏差たるレーンオフセットY又は白線と車両1とのヨー角偏差φが算出される。ECU100は、このレーンオフセットY又はヨー角偏差φに基づいて、車両1を目標路へ追従させるために必要となる前輪舵角の変化量たる、LKA基本目標角δ1を決定する(ステップS105)。
【0071】
ここで、図3を参照し、LKA基本目標角δ1について説明する。ここに、図3は、LKA基本目標角δ1とヨー角偏差φとの関係を例示する図である。
【0072】
図3において、LKA基本目標角δ1は、ヨー角偏差φに対し、ゼロ点近傍領域のみ比較的急峻であり、それ以降は、ヨー角偏差φの絶対値の増加に対して緩やかに増加する増加関数となる。
【0073】
図2に戻り、LKA基本目標角δ1が決定されると、ECU100は、操舵入力情報の有無を判定する(ステップS106)。尚、本実施形態において、操舵入力情報とは、操舵角MAと操舵角MAの時間微分値である操舵角速度MA’(即ち、本発明に係る「操舵速度」の一例)を意味する。また、ここでは、操舵入力情報が得られているものとして説明を続ける。
【0074】
操舵入力情報が得られている場合(ステップS106:YES)、即ち、操舵角センサ17が異常信号を出力している或いは操舵角センサ17が応答しない等といった事態が発生していない場合、ECU100は、操舵入力が有るか否か、即ちドライバ操舵による操舵角MAがゼロでないか否かを判定する(ステップS107)。操舵入力が無い場合(ステップS107:NO)、処理はステップS110に移行する。ステップS110については後述する。
【0075】
操舵入力が有る場合(ステップS107:YES)、ECU100は、先ずLKA制御の応答周波数fLKAを基準値に対し低減する(ステップS108)。
【0076】
ここで、応答周波数fLKAが高い程、画像処理や演算処理が高速化されることに起因して、操舵対象輪(ここでは、前輪)の舵角制御の頻度が高くなる。その結果、目標路への追従性は良好となるが、ドライバ操舵への干渉の度合いは大きくなる。そこで、ドライバの操舵入力が発生している場合、ECU100は、LKA制御の応答周波数fLKAを、このような干渉が実践的にみて十分に緩和され得る程度の低周波領域まで低下させるのである。
【0077】
一方、このようにLKA制御の応答周波数を低下させてしまうと、LKA制御における目標路への追従性が低下する。そこで、ECU100は、更に、通常角δ2と軌跡補正角δ3を算出する(ステップS109)。
【0078】
ここで、通常角δ2とは、操舵角MAに車速Vに応じた所定の定常ゲインを乗じてなる第1の角度要素と、操舵角速度MA’に車速Vに応じた所定の微分ゲインを乗じてなる第2の角度要素との加算値であり、ドライバの操舵入力に応じてVGRSアクチュエータ200が実現すべき通常の舵角変化量を意味する。
【0079】
これとは別に、軌跡補正角δ3とは、操舵角速度MA’に対して設定される軌跡補正量を車速Vに応じた所定のフィルタ周波数で処理した角度であり、その時点のドライバ操舵が、LKA制御の応答周波数fLKAに従ってLKA制御に反映されるのに先んじて、LKA制御の最終目標角δLKAに当該ドライバ操舵を反映させるための補正量を意味する。
【0080】
ECU100は、最終的に、LKA基本目標角δ1と、通常角δ2と軌跡補正角δ3とを加算することによってLKA最終角δLKAを算出する(ステップS110)。尚、ステップS107においてドライバの操舵入力が無い場合には、LKA基本目標角δ1がLKA最終角δLKAとなる。
【0081】
LKA最終角δLKAが算出されると、VGRSアクチュエータ200が、このLKA最終角δLKAを実現すべく駆動制御され、処理がステップS101に戻される。
【0082】
このようなLKA制御によれば、車両1の軌跡を目標路に追従させると共に、ドライバ操舵に対応する舵角変化と、目標路への追従に係る舵角変化との干渉の度合いが緩和され、ドライバにおける違和感が緩和される。
【0083】
一方、このような効果は、正常に操舵入力情報が得られている場合に限られる。例えば、操舵角センサ17に一時的にせよ恒久的にせよ何らかの異常が生じた場合等においては、操舵角MA及び操舵角速度MA’が正常に入力されないことから、ステップS109に係る処理が実質的に無効となる。その結果、ステップS108に係るLKA制御の応答周波数低減措置のみが有効となり、目標路への追従性の低下が顕在化し易い。
【0084】
そこで、操舵入力情報が無い場合(ステップS106:NO)、ECU100は、LKA制御の応答周波数fLKAを基準値に戻すか、或いは、より目標路への追従性を確保すべく基準値よりも高い周波数まで上昇させる(ステップS111)。
【0085】
その結果、何らかの理由により操舵入力情報が得られない状況においても、操舵角MA及び操舵角速度MA’に依存しないLKA基本目標角δ1に基づいた目標路への追従が好適に実現されるのである。
【0086】
ここで、図4を参照し、LKA制御の応答周波数について説明する。ここに、図4は、応答周波数fLKAと車速Vとの関係を例示する図である。
【0087】
図4において、応答周波数fLKAの基準値の特性が図示PRF_A(実線参照)として示される。また、LKA制御におけるステップS108の応答周波数低下措置により設定される応答周波数の特性が図示PRF_C(鎖線参照)として示される。また、LKA制御におけるステップS111に係る応答周波数上昇措置により設定される応答周波数の特性が図示PRF_B(破線参照)として示される。
【0088】
応答周波数fLKAは、車速の上昇に伴って緩やかに減少する減少関数である。これは、車速が高い程、舵角変化が車両挙動に与える影響が大きくなるためであり、相対的にLKA制御の感度を低下させることによって、車両挙動の不安定化を防止しているのである。
【0089】
<第2実施形態>
次に、図5を参照し、第1実施形態に係るLKA制御の運用上生じ得る問題点について説明する。ここに、図5は、車両の走行路条件と車両の安定性との関係を例示する概念図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0090】
図5において、図5(a)は、車両1が路幅W1の曲路2AをLKA制御に従って走行している状態を示しており、図5(b)は路幅W2(W2<W1)の曲路2Bを同様に走行している状態を示している。
【0091】
ここで、LKA制御におけるステップS111において、LKA制御の応答周波数fLKAを上昇させると、特に、基準値よりも増加させると、車両1は目標路(鎖線)に対して追従するものの、車両挙動は総じて慌しくなる(破線の軌跡参照)。
【0092】
このため、車両1の走行条件、特に走行路の条件によっては、車両挙動が相対的に不安定となる。このような問題点を克服するため、第2実施形態に係るLKA制御では、ECU100が走行路の情報を取得し、この走行路の情報に基づいて、LKA制御の応答周波数fLKAを適宜減少側に補正する。
【0093】
走行路の情報としては、車載カメラ20による走行路の撮像結果に基づいた画像認識処理や、より簡便には、車両1にカーナビゲーション処理装置や各種路車間通信装置等が備わる場合には、これらから必要な情報を取得してもよい。
【0094】
また、ここでは走行路の路幅を例として示したが、走行路の路面状態も、車両の安定性に大きく影響し得る。その点に鑑み、ECU100は、上述した走行路の路幅に替えて又は加えて、走行路の路面状態(摩擦係数や段差の有無等)に基づいて応答周波数を低下させてもよい。
【0095】
このように走行路の情報に基づいて応答周波数fLKAを減少補正することによって、走行路の状態に応じた適切な目標路への追従性が得られ、車両挙動を走行路の状態によらず安定ならしめることが可能となる。
【0096】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の走行制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0097】
1…車両、11…ハンドル、12…アッパーステアリングシャフト、100…ECU、200…VGRSアクチュエータ、300…VGRS駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵入力軸の回転角である操舵角と、操舵輪の回転角である舵角との関係を変化させることが可能な舵角可変手段を備えた車両における走行制御装置であって、
前記車両の軌跡が目標路に近付くように前記舵角可変手段を制御する軌跡制御手段と、
前記車両の運転者によりハンドルを介して前記操舵入力軸に与えられる操舵入力に関する操舵入力情報を取得する取得手段と、
前記取得された操舵入力情報に応じて前記軌跡制御手段による軌跡制御の応答性を変更すると共に、前記操舵入力情報が取得出来ない場合に前記軌跡制御の応答性を向上させる応答性変更手段と、
を具備することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記応答性変更手段は、操舵速度に応じて前記応答性を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記応答性変更手段は、前記車両の走行条件に応じて前記応答性の向上に係る上昇量を補正する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記走行条件は、走行路の状態に関する条件である
ことを特徴とする請求項3に記載の車両の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−166720(P2012−166720A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30049(P2011−30049)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】