説明

車両の運動制御装置

【課題】
車両の緊急状態(道路からの逸脱、先行車両との衝突等)を回避する回避制御と、車両のステア特性を好適に維持する安定化制御との制御干渉を抑制し、円滑な制動制御を実現できる車両の運動制御装置を提供する。
【解決手段】
車両の緊急状態を回避するために車輪に制動トルクを付与する回避制御を実行するための第1目標量(回避制御の目標量)を演算する回避制御手段と、車両の安定性を確保するために、車輪のうちから選択車輪を決定し、この選択車輪に制動トルクを付与する安定化制御を実行するための第2目標量(安定化制御の目標量)を演算する安定化制御手段とを備え、制動制御手段は、非選択車輪に付与する制動トルクを第1目標量に基づいて制御するとともに、選択車輪に付与する制動トルクを、第1目標量及び前記第2目標量に基づいて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、衝突危険性の判定や衝突回避の制御量算出を少ない演算量にて精度よく行うために、レーダセンサや各ECUから受信した各種情報に基づいて、制御対象とすべきターゲット(先行車)を選択し、ターゲットと衝突することなく、ターゲットとの相対速度がゼロとなるまで自車を減速する場合に必要な衝突回避要求減速度を求め、この衝突回避要求減速度に従って制動力を発生させ、ターゲットとの衝突を回避する衝突回避制御を行うことが記載されている。
【0003】
特許文献2には、詳細で正確な信頼性の高い前方道路情報を検出することを目的として、ナビゲーション装置からのデータを基に第1の道路情報を算出し、撮像装置からのデータを基に第2の道路情報を算出し、第1の道路情報に基づくカーブ曲率半径等と第2の道路情報に基づくカーブ曲率半径等とを比較し、これらが予め設定した条件を満たしたとき、カーブの曲率半径等を設定することが記載されている。さらに、カーブ曲率半径等の情報に基づいて、強制的な減速が必要な場合には、ブレーキ作動等の実行を行うことが記載されている。
【0004】
特許文献3には、減速制御(回避制御ともいう)が実行されている場合に、車両のアンダステア及びオーバステアを抑制する旋回制御(安定化制御ともいう)の実行が開始される際の制御干渉を抑制するために、状況に応じて減速制御(回避制御)及び旋回制御(安定化制御)のうちから何れかが選択されることが記載される。具体的には、減速制御(回避制御)では、車両を減速させるための減速制御量が演算されてこの減速制御量に基づいて車輪制動力が制御される。また、旋回制御(安定化制御)では、車両がアンダステアの場合、車両を減速させるための第2減速制御量が演算されてこの第2減速制御量に基づいて車輪制動力が制御される(アンダステア抑制制御)。車両がオーバステアの場合、旋回外向きのヨーモーメントを車両に発生させるためのヨーモーメント制御量が演算されてこのヨーモーメント制御量に基づいて車輪制動力が制御される(オーバステア抑制制御)。そして、減速制御(回避制御)と旋回制御(安定化制御)との間の制御干渉の発生を回避するために、車両がアンダステアの場合、減速制御(回避制御)の減速制御量と旋回制御(安定化制御)の第2減速制御量のうちで大きい方の値が選択されて、この大きい方の値に基づいて車輪制動力が制御される。他方、車両がオーバステアの場合、旋回制御(安定化制御)のヨーモーメント制御量に基づいて車輪制動力が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−259151号公報
【特許文献2】特開平11−211492号公報
【特許文献3】特開2005−289205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両前方の障害物(例えば、先行車)との距離情報に基づいて、衝突を回避する衝突回避制御(特許文献1)や、車両前方の道路カーブ情報に基づいて、カーブを逸脱しないように減速する逸脱回避制御(特許文献2)を、車両の緊急状態を減速によって回避する緊急回避制御(単に、回避制御ともいう)と称呼する。特許文献3に記載されているように、回避制御と安定化制御との両方の実行条件が満足されている場合に、回避制御及び安定化制御のうちの何れか一方が選択され、制御(制動制御)が単に切り換えられるのでは、車両減速度の過不足が生じ、或いは、車両安定化の十分な効果が得られない場合がある。
【0007】
具体的には、以下の問題が発生し得る。先ず、減速制御(回避制御)が実行されている間において車両がアンダステアとなり、旋回制御(安定化制御)の開始が判定された場合を想定する。この場合、アンダステアを抑制する必要がある。しかしながら、減速制御の減速制御量が旋回制御の第2減速制御量よりも大きくて減速制御の減速制御量が選択された場合、減速制御がなおも継続される。この結果、アンダステア抑制制御が実行されないためアンダステアが解消され得ない。
【0008】
次に、減速制御(回避制御)が実行されている間において車両がオーバステアとなり、旋回制御(安定化制御)の開始が判定された場合を想定する。この場合、車輪制動力の制御に使用される制御量が、減速制御の減速制御量から旋回制御のヨーモーメント制御量に急激に切り替わることになる。この結果、この制御の切り換え時点にて車両制動力の総和に急激な変化が発生する場合があり、この場合、運転者が違和感を覚えることがある。
【0009】
本発明は、係る問題に対処するためになされたものであり、その目的は、車両の緊急状態(道路からの逸脱、先行車両との衝突等)を回避する緊急回避制御(回避制御)と、車両のステア特性を好適に維持する安定化制御との制御干渉を抑制し、円滑な制動制御を実現できる車両の運動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車両の運動制御装置おいて、回避制御手段MKQは、車両の緊急状態を回避する回避制御を実行するための車輪への制動トルク付与の第1目標量(回避制御目標量)Qt**を演算する。安定化制御手段MESは、車両の安定性を確保するために、前後左右の4つの車輪のうちから制動トルクを付与する選択車輪を決定し、この選択車輪への制動トルク付与の第2目標量(安定化制御目標量)Et**を演算する。制動制御手段MBCは、安定化制御手段MESによって選択されない車輪(非選択車輪)に付与する制動トルクを、第1目標量Qt**に基づいて制御する。そして、安定化制御手段MESによって選択された車輪に付与する制動トルクを、第1目標量Qt**、及び、第2目標量Et**に基づいて制御する。例えば、第1目標量Qt**と、第2目標量Et**とを合算した目標量(Qt**+Et**)に基づいて、選択車輪(安定化制御手段MESによって選択された車輪)に対する付与制動トルクが調整され得る。
【0011】
回避制御と安定化制御とが同時に実行される場合(例えば、回避制御が実行されているときに安定化制御の実行が開始される場合)、制動制御手段MBCによって、安定化制御の制御対象とはならない車輪(非選択車輪)の制動手段MBRが回避制御の目標量(第1目標量)に基づいて制御される。安定化制御の対象となる車輪(選択車輪)の制動手段MBRが、回避制御の目標量(第1目標量)、及び安定化制御の目標量(第2目標量)に基づいて制御される。回避制御による車両減速が確保されるとともに、安定化制御により車両のヨーイングモーメントが好適に制御され得る。単純に回避制御から安定化制御に切り換えられる場合に比較して、車両の動き(減速、ヨーイング)が円滑とされ得る。
【0012】
本発明に係る車両の運動制御装置おいて、回避制御手段MKQは、車両の緊急状態を回避する回避制御を実行するための車輪への制動トルク付与の第1目標量(回避制御目標量)Qt**及び第1実際量(回避制御実際量)Qa**を演算する。安定化制御手段MESは、車両の安定性を確保するために、前後左右の4つの車輪のうちから制動トルクを付与する車輪を選択し、この選択された車輪への制動トルク付与の第2目標量Et**を演算する。制動制御手段MBCは、上記の非選択車輪に付与する制動トルクを、非選択車輪の第1目標量Qt**に基づいて制御する。併せて、選択車輪に付与する制動トルクを、非選択車輪の第1実際量Qa**、及び、選択車輪の第2目標量Et**に基づいて制御する。例えば、非選択車輪の第1実際量Qa**と、選択車輪の第2目標量Et**とを合算した目標量(Qa**+Et**)に基づいて、選択車輪に付与する制動トルクが調整される。
【0013】
フィードバック制御においては、目標量と実際量との間に誤差が生じている場合がある。非選択車輪の第1実際量(安定化制御が実行されていない車輪に対する回避制御の実際量)を考慮して、安定化制御が実行されるため、その誤差の影響が補償され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置を備えた車両の全体構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態において図2に示したブレーキアクチュエータBRの全体構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車両の運動制御の処理例を示す機能ブロック図である。
【図5】本発明の実施形態の作用・効果について説明するための時系列図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置の全体構成を示す。車両の運動制御装置(以下、「本装置」という)は、制動手段MBR、回避制御手段MKQ、安定化制御手段MES、及び制動制御手段MBCを備える。
【0016】
制動手段MBRとして、各車輪には、周知のホイールシリンダWC**、ブレーキキャリパBC**、ブレーキパッドPD**、及び、ブレーキロータRT**が備えられる。ブレーキキャリパBC**に設けられたホイールシリンダWC**に制動液圧が与えられることにより、ブレーキパッドPD**がブレーキロータRT**に押し付けられ、その摩擦力によって制動トルクが与えられる。制動手段MBRとして、後述するように、制動液圧を制御する液圧ポンプOP1,OP2、及び電磁弁SS**,SZ**,SG**が備えられる。なお、制動トルクの制御は、制動液圧によるものに限らず、電気ブレーキ装置を利用して行うことも可能である。
【0017】
制動手段MBRには、実際に付与される制動トルクに相当する実際量Pa**,Qa**,Ea**を取得する手段が備えられる。具体的には、制動液圧を検出する液圧センサ、車輪の軸トルクを検出するトルクセンサ、及びブレーキパッドの押付力を検出する力センサの少なくとも1つが設けられ、これらセンサの出力に基づいて実際量が演算され得る。付与した制動トルクにより車輪スリップが発生し、車輪制動力が生じるため、車輪速度Vw**に基づいて実際量が演算され得る。また、液圧ポンプ、及び電磁弁の作動状態(通電状態)に基づいて実際量が演算され得る。
【0018】
回避制御手段MKQは、第1目標量演算FTGとサーボ制御手段SVOaとで構成される。第1目標量演算FTGでは、回避制御における制動トルク相当量の目標量である第1目標量Qt**が演算される。サーボ制御手段SVOaでは、第1目標量Qt**と第1実際量Qa**とに基づいて制動手段MBRn(安定化制御の実行には選択されていないが、回避制御の実行がなされる制動手段)を制御する駆動信号Dt**が形成される。
【0019】
安定化制御手段MESは、第2目標量演算STG、選択車輪決定演算SWK、及びサーボ制御手段SVObで構成される。選択車輪決定演算SWKでは、車両安定性を維持するために制動トルクを付与すべき車輪(選択車輪)が、車両の前後左右にある4つの車輪の中から選択されて決定される。第2目標量演算STGでは、選択された車輪(選択車輪)に対する安定化制御の制動トルク相当量の目標量である第2目標量Et**が演算される。サーボ制御手段SVObでは、第2目標量Et**と第2実際量Ea**とに基づいて制動手段MBRs(選択車輪の制動手段)を制御する駆動信号Dt**が形成される。
【0020】
制動制御手段MBCは、回避制御と安定化制御とが同時に実行される場合に作動する。例えば、回避制御が実行されて車両が減速しているときに、運転者の不適切な操舵操作に起因して安定化制御の実行が開始される場合に、制動制御手段MBCは機能する。制動制御手段MBCは、(目標量)調節演算ATGとサーボ制御手段SVOcとで構成される。調節演算ATGには、非選択車輪演算NSWと選択車輪演算SLWとが含まれ、ここで第1目標量Qt**と第2目標量Et**とが調節されて、最終的な目標量Pt**が演算される。
【0021】
非選択車輪演算NSWでは、非選択車輪(選択車輪決定演算SWKによって制動トルクが付与されるように決定された車輪とは異なる車輪)の制動手段MBRnに対する目標量Pt**が、非選択車輪の第1目標量Qt**に基づいて演算される。選択車輪演算SLWでは、選択車輪(選択車輪決定演算SWKによって制動トルクが付与されるように決定された車輪)の制動手段MBRsに対する目標量Pt**が、選択車輪の目標量Qt**、及び、選択車輪の目標量Et**に基づいて演算される。例えば、調節後の目標量Pt**は、選択車輪の目標量Et**に選択車輪の目標量Qt**が加算されて演算され得る。
【0022】
また、選択車輪演算SLWでは、選択車輪の制動手段MBRsに対する目標量Pt**が、非選択車輪の実際量Qa**、及び、選択車輪の目標量Et**に基づいて演算される。例えば、調節後の目標量Pt**は、選択車輪の目標量Et**に非選択車輪に対応する実際量Qa**が加算されて演算され得る。サーボ制御手段SVOcでは、目標量Pt**と実際量Pa**とに基づいて制動手段MBR(MBRn及びMBRs)を制御する駆動信号Dt**が形成される。制動手段MBRは、駆動信号Dt**に基づいて制御され、車輪WH**に対して制動トルクを付与する。
【0023】
図2は、本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置(「本装置」という)を備えた車両の全体構成を示す図である。
【0024】
本装置は、車両の動力源であるエンジンEGと、ブレーキアクチュエータBRと、電子制御ユニットECUと、ナビゲーション装置NV、前方監視装置ZPとを備える。
【0025】
エンジンEGは、例えば、内燃機関である。即ち、運転者によるアクセルペダル(加速操作部材)APの操作に応じてスロットルアクチュエータTHによりスロットル弁TVの開度が調整される。スロットル弁TVの開度に応じて調整される吸入空気量に比例した量の燃料が燃料噴射アクチュエータFI(インジェクタ)により噴射される。これにより、運転者によるアクセルペダルAPの操作に応じた出力トルクが得られる。
【0026】
ブレーキアクチュエータBRは、複数の電磁弁、液圧ポンプ、モータ等を備えた構成を有している。ブレーキアクチュエータBRは、非ブレーキ制御時では、運転者によるブレーキペダル(制動操作部材)BPの操作に応じた制動圧力(ブレーキ液圧)を車輪WH**のホイールシリンダWC**にそれぞれ供給し、ブレーキ制御時では、ブレーキペダルBPの操作(及びアクセルペダルAPの操作)とは独立してホイールシリンダWC**内の制動圧力を車輪毎に調整できる。
【0027】
なお、各種記号等の末尾に付された「**」は、各種記号等が何れの車輪に関するものであるかを示す「fl」,「fr」等の包括表記であり、「fl」は左前輪、「fr」は右前輪、「rl」は左後輪、「rr」は右後輪を示す。例えば、ホイールシリンダWC**は、左前輪ホイールシリンダWCfl,右前輪ホイールシリンダWCfr,左後輪ホイールシリンダWCrl,右後輪ホイールシリンダWCrrを包括的に示す。
【0028】
本装置は、車輪WH**の車輪速度Vw**を検出する車輪速度センサWS**と、ホイールシリンダWC**内の制動圧力Psa**を検出する制動液圧センサPS**と、ステアリングホイールSWの(中立位置からの)回転角度θswを検出するステアリングホイール角度センサSAと、車体のヨーレイトYraを検出するヨーレイトセンサYRと、車体前後方向の加速度(減速度)Gxaを検出する前後加速度センサGXと、車体横方向の加速度(横加速度)Gyaを検出する横加速度センサGYと、エンジンEGの出力軸の回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサNEと、アクセルペダルAPの操作量Asを検出する加速操作量センサASと、ブレーキペダルBPの操作量Bsを検出する制動操作量センサBSと、スロットル弁TVの開度Tsを検出するスロットル弁開度センサTSを備える。
【0029】
電子制御ユニットECUは、パワートレイン系及びシャシー系を電子制御するマイクロコンピュータである。電子制御ユニットECUは、上述の各種アクチュエータ、及び上述の各種センサと電気的に接続され、又はネットワークで通信される。電子制御ユニットECUは、互いに通信バスCBで接続された複数の制御ユニット(ECUb等)から構成される。
【0030】
電子制御ユニットECU内のECUbは、車輪ブレーキ制御ユニットであり、車輪速度センサWS**、前後加速度センサGX、横加速度センサGY、ヨーレイトセンサYR等からの信号に基づいてブレーキアクチュエータBRを制御する。ブレーキ制御ユニットECUbは、車両のステア特性(アンダステア、オーバステア)を適正に維持する安定化制御(ESC制御)、車両の緊急状態を回避するために車両を減速する緊急回避制御、アンチスキッド制御(ABS制御)、トラクション制御(TCS制御)等の制動トルク制御(制動液圧制御)を実行する。また、ECUbは、車輪速度センサWS**の検出結果である車輪速度Vw**に基づいて、実際の車両速度(車速)Vxaを演算する。
【0031】
電子制御ユニットECU内のECUeは、エンジン制御ユニットであり、加速操作量センサAS等からの信号に基づいてスロットルアクチュエータTH及び燃料噴射アクチュエータFIを制御することでエンジンEGの出力トルク制御(エンジン制御)を実行する。
【0032】
ナビゲーション装置NVは、ナビゲーション処理用の電子制御ユニットECUnを備えている。電子制御ユニットECUnは、記憶部MPを備え、車両位置検出手段(グローバル・ポジショニング・システム)GP、ヨーレイトジャイロYG、入力部NY、及び表示部(ディスプレー)MRと電気的に接続されている。ナビゲーション装置NV(電子制御ユニットECUn)は、電子制御ユニットECUと、電気的に接続され、又は無線で通信する。
【0033】
車両位置検出手段GPは、人工衛星からの測位信号を利用した周知の手法の一つにより車両の位置(緯度、経度等)を検出する。ヨーレイトジャイロYGは、車体のヨー角速度(ヨーレイト)を検出する。入力部NYは、運転者によるナビゲーション機能に係わる操作を入力する。記憶部MPは、地図情報、道路情報等の各種情報を記憶する。電子制御ユニットECUnは、車両位置検出手段GP、ヨーレイトジャイロYG、入力部NY、及び記憶部MPからの信号を総合的に処理し、その処理結果(ナビゲーション機能に係わる情報)を表示部MRに表示する。
【0034】
前方監視装置ZPは、車両の前方を監視するための前方監視用の電子制御ユニットECUzを備えている。電子制御ユニットECUzは、レーダセンサRS、及びカメラ(前方監視カメラ)CMと電気的に接続されている。前方監視装置ZP(電子制御ユニットECUz)は、電子制御ユニットECUと、電気的に接続され、又は無線で通信する。
【0035】
レーダセンサRSは、車両前方の障害物(例えば、先行車両)に向けて、車幅方向の所定角度範囲に、レーザ光(或いは、ミリ波等の電波)をスキャン照射し、その反射を受光する。前方監視用電子制御ユニットECUzは、その反射に基づいて、障害物の有無、障害物が存在する角度、及び障害物までの距離を検出する。カメラCMは、車両前方の映像を取得する。前方監視用電子制御ユニットECUzは、カメラCMからの映像に基づいて、車両前方の障害物(例えば、先行車両)の有無、障害物までの距離、車両前方のカーブ半径を演算する。
【0036】
図3は、ブレーキアクチュエータBRの全体構成を示す図である。運転者が制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPを踏み込むと、倍力装置VBにて踏力が倍力され、マスタシリンダMCに設けられたマスタピストンが押される。これにより、マスタピストンによって区画される第1室と第2室とに同じ圧力のマスタシリンダ圧Pmcが発生する。マスタシリンダ圧Pmcは、ブレーキアクチュエータBRを通じて各車輪WH**のホイールシリンダWC**に与えられる。
【0037】
ブレーキアクチュエータBRは、マスタシリンダMCの第1室に接続される第1配管系統(第1液圧路系統)HP1と、マスタシリンダMCの第2室に接続される第2配管系統(第2液圧路系統)HP2とを有している。第1配管系統HP1は、前輪WHfl、WHfrに加えられる制動液圧(単に液圧ともいう)を伝達する。第2配管系統HP2は、後輪WHrl、WHrrに加えられる制動液圧を伝達する。第1配管系統HP1と第2配管系統HP2とは、同様の構成である。
【0038】
第1配管系統(第1液圧路系統)HP1は、ホイールシリンダWCfl,WCfrに制動液圧(ホイールシリンダ内の液圧)を発生させる管路LA1を備える。この管路LA1には、連通状態と差圧状態に制御される第1差圧制御弁(吸入弁、或いはインテーク弁ともいう)SS1が備えられる。運転者がブレーキペダルBPの操作を行う通常ブレーキ時(ブレーキ制御が実行されていないとき)には、この第1差圧制御弁SS1の弁位置が連通状態(開位置)に調整される。そして、マスタシリンダ圧Pmcが、左前輪WHflに備えられたホイールシリンダWCfl、及び右前輪WHfrに備えられたホイールシリンダWCfrに伝達される。第1差圧制御弁SS1に通電が行われると、弁位置が連通状態から差圧状態に切り換えられる。第1差圧制御弁SS1の通電状態(電流値、電圧デューティ)が制御されることによって、管路LA1の液圧と管路LC1の液圧との圧力差(差圧)が制御される。
【0039】
管路LA1は、第1差圧制御弁SS1よりもホイールシリンダWCfl,WCfrの側において、2つの管路LAfl,LAfrに分岐する。管路LAflにはホイールシリンダWCflへの制動液圧の増加を制御する第1の増圧制御弁(インレット弁ともいう)SZflが備えられる。管路LAfrにはホイールシリンダWCfrへの制動液圧の増圧を制御する第2の増圧制御弁SZfrが備えられる。第1及び第2増圧制御弁SZfl,SZfrは、連通状態(開位置)と遮断状態(閉位置)とを制御できる2位置の電磁弁により構成される。第1及び第2増圧制御弁SZfl,SZfrは、供給電流が「0」のとき(非通電時)には連通状態(弁位置が開位置)となり、電流が流されるとき(通電時)に遮断状態(弁位置が閉位置)に制御される。第1及び第2増圧制御弁SZfl,SZfrは、所謂ノーマルオープン型である。第1及び第2増圧制御弁SZfl,SZfrへの通電状態(電流値、電圧値)が制御されることによって、ホイールシリンダWCfl,WCfrの制動液圧の増加状態が調整される。第1及び第2増圧制御弁SZfl,SZfrが連通状態(開位置)と遮断状態(閉位置)とで交互に切り換えられることによって、ホイールシリンダWCfl,WCfrの液圧が管路LC1の液圧にまで徐々に増加され得る。また、第1及び第2増圧制御弁SZfl,SZfrが遮断状態(閉位置)に保持されることで、ホイールシリンダWCfl,WCfrの液圧の増加が遮断される。
【0040】
管路LB1は、第1及び第2増圧制御弁SZfl,SZfr、及び、ホイールシリンダWCfl,WCfrの間と調圧リザーバRR1とを結ぶ減圧用の管路である。管路LB1には、第1の減圧制御弁(アウトレット弁ともいう)SGflと、第2の減圧制御弁SGfrとが設けられる。第1及び第2減圧制御弁SGfl,SGfrは、通電状態が制御されることで連通状態(開位置)と遮断状態(閉位置)とを制御できる2位置の電磁弁により構成される。第1及び第2減圧制御弁SGfl,SGfrは、非通電時には遮断状態(閉位置)となり、通電時には連通状態(開位置)となる、所謂ノーマルクローズ型である。第1及び第2減圧制御弁SGfl,SGfrが連通状態(開位置)とされることで、ホイールシリンダWCfl,WCfrの液圧が管路LA1の液圧にまで減少される。
【0041】
調圧リザーバRR1と管路LA1との間には、管路LC1が配設される。管路LC1には、液圧ポンプOP1が設けられる。液圧ポンプOP1によって、ブレーキ液が調圧リザーバRR1からを吸入され、マスタシリンダMC、或いは、ホイールシリンダWCfl,WCfrに向けて吐出される。液圧ポンプOP1は、電気モータMTによって駆動される。調圧リザーバRR1とマスタシリンダMCの間には管路LD1が設けられている。車両安定化制御やトラクション制御等の自動加圧が行われるとき、液圧ポンプOP1によってブレーキ液が管路LD1を通してマスタシリンダMCから吸入され、管路LC1,LAfl,LAfrに吐出される。これにより、ブレーキ液がホイールシリンダWCfl,WCfrに供給され、対象となる車輪のホイールシリンダWC**の液圧が、管路LA1の液圧より高い値に増大される。さらに、第1差圧制御弁SS1の通電量(電流値、或いは電圧デューティ)が制御されることによって、制動液圧の増大量(管路LA1の液圧に対する管路LC1の液圧、差圧)が調整される。
【0042】
第2配管系統(第2液圧路系統)HP2については、上述の説明で「前輪」を「後輪」、添字「1」を「2」(例えば、管路「LA1」を「LA2」)、添字「fl」を「rl」、及び添字「fr」を「rr」に置き換えることで説明される。
【0043】
図3のブレーキ配管構成は前後型配管であるが、ブレーキの配管構成はダイアゴナル型配管(X型配管ともいう)であってもよい。ダイアゴナル型配管の場合は、第1配管系統(第1液圧路系統)HP1に左前輪、及び右後輪に対応する部位(管路、電磁弁、ホイールシリンダ等)が設けられ、第2配管系統(第2液圧路系統)HP2に右前輪、及び左後輪に対応する部位が設けられる。すなわち、図3に示される構成において、角括弧内の記号で示されるように、第1液圧路系統(第1配管系統)HP1における右前輪「fr」に対応する部位(管路、電磁弁、ホイールシリンダ等)が右後輪「rr」に対応する部位に置き換えられるとともに、第2液圧路系統(第2配管系統)HP2における右後輪「rr」に対応する部位が右前輪「fr」に対応する部位に置き換えられる。
【0044】
図4は、本実施形態における車両の運動制御の処理例を示す機能ブロック図である。図1の「手段」と同じ記号を有する機能ブロックは、該手段と同様の機能を備える。
【0045】
緊急状態取得演算ブロックKQJにて、通信バスCBを介して得られるセンサ信号、及び/又は、他の電子制御ユニットの内部演算値に基づいて、緊急状態量Kqが取得される。緊急状態量Kqは、車両の緊急状態を表す状態量である。例えば、車両緊急状態が、障害物との衝突の可能性である場合、緊急状態量Kqとして、障害物と自車両との距離と相対速度に基づいて演算される衝突回避車速(障害物との衝突を回避するための目標車速)Vxsと、自車両の速度Vxaとの偏差が演算される。障害物と自車両との距離及び相対速度は、周知の方法によって、レーザセンサ、或いは、カメラ映像に基づいて演算される。また、緊急状態が自車両前方のカーブを逸脱する可能性である場合、緊急状態量Kqとして、カーブ半径に基づいて演算される適正車速(カーブを逸脱せずに安定して通過するための目標車速)Vxtと、実際の車両速度Vxaとの偏差が演算される。カーブ半径は、周知の方法によって、ナビゲーション装置、或いは、カメラ映像に基づいて演算される。緊急状態量Kqの値が大きい程、車両の緊急状態が高い状態にある。緊急状態量Kqは、障害物との衝突を回避するために必要な減速度(目標値)として演算され得る。また、緊急状態量Kqはカーブを安定して通過するために必要な減速度(目標値)として演算され得る。
【0046】
回避制御目標量演算ブロック(第1目標量演算に相当)FTGにて、予め設定された演算マップを用いて、緊急状態量Kqに基づいて目標量(第1目標量)Qt**が演算される。この演算マップは、特性Ck1で示されるように、緊急状態量Kqが所定値kq1未満では目標量Qt**が「0(回避制御の非実行)」に維持され、緊急状態量Kqが所定値kq1以上且つ所定値kq2未満の範囲では緊急状態量Kqの増加に従い目標量Qt**が「0」から増大され、緊急状態量Kqが所定値kq2以上では所定値qt1(上限値)とされる特性として設定される。また、特性Ck2(破線)で示されるように、緊急状態量Kqが所定値kq1未満では目標量Qt**が「0」に維持され、緊急状態量Kqが所定値kq1以上の範囲では目標量Qt**が所定値qt1(上限値)とされる特性として設定され得る。緊急状態量Kqが所定値kq1の場合に、目標量Qt**が「0」から増加するため、所定値kq1が回避制御の実行の開始条件となる。
【0047】
ステア特性量取得演算ブロックSCHにて、通信バスCBを介して得られるセンサ信号、及び/又は、他の電子制御ユニットの内部演算値に基づいて、ステア特性量Schが取得される。ステア特性量Schは、車両のオーバステア傾向、及び/又は、アンダステア傾向の程度を表す状態量である。ステア特性量Schは、目標旋回量Jrt、及び、実旋回量Jraに基づいて演算される。実旋回量Jraと目標旋回量Jrtとが比較されることによって、ステア特性量(車両のオーバステアやアンダステアの程度を表す状態量)Schが演算される。例えば、車速Vxa、及び、ステアリングホイール角θsw(或いは、前輪舵角δfa)に基づいて目標ヨーレイトYrtが演算され、目標ヨーレイトYrtと実ヨーレイトYraとの偏差ΔYr(=Yra−Yrt,ヨーレイト偏差)が、ステア特性量Schとして演算される。ステア特性量Schは、単一の状態量ではなく、複数の状態量の相互関係として演算され得る。例えば、実横滑り角βaと目標横滑り角βtとの偏差Δβ(=βa−βt,横滑り角偏差)、及び、ヨーレイト偏差ΔYrとの相互関係に基づいて、ステア特性量Sch(=K1・Δβ+K2・ΔYr,ここでK1、K2は係数)が演算され得る。旋回量として横滑り角、或いは、横滑り角速度が用いられる場合、それらの目標値を定数(例えば、目標値を「0」)とすることができる。そのため、ステア特性量Schの演算では、目標旋回量Jrtが省略され、実旋回量Jraのみに基づいてステア特性量Schが演算され得る。
【0048】
ステア特性量Schの演算においては、オーバステア傾向の程度を表すステア特性量Sch_osと、アンダステア傾向の程度を表すステア特性量Sch_usとが別個の演算方法に基づいて演算され得る。例えば、ステア特性量Sch_usがヨーレイト偏差ΔYrに基づいて演算され、ステア特性量Sch_osが横滑り角と横滑り角速度との相互関係に基づいて演算される。
【0049】
安定化制御目標量演算ブロック(第2目標量演算に相当)STGにて、ステア特性量Schに基づいて目標量(第2目標量)Et**が演算される。先ず、選択車輪決定演算ブロックSWKにて、ステア特性量Schに基づいて安定化制御を実行するために制動トルクを付与すべき車輪(選択車輪)が決定される。ここで、安定化制御を実行するために、選択車輪決定演算ブロックSWKによって制動トルクを付与すべき車輪として選択される車輪を「選択車輪」と称呼し、車両の前後左右の4つの車輪のうちで、「選択車輪」とは異なる車輪(選択車輪決定演算ブロックSWKによって制動トルクを付与すべき車輪として選択されない車輪)を「非選択車輪」と称呼する。ステア特性量Schがオーバステア傾向を示す場合には、旋回外側の前輪が選択車輪に決定される。ステア特性量Schがアンダステア傾向を示す場合には、旋回内側の後輪が選択車輪に決定される。そして、決定された選択車輪に対する目標量Et**が、ステア特性量Sch(Sch_os、Sch_us)に基づいて決定される。
【0050】
車両がオーバステア傾向を示す場合には、予め設定された演算マップを用いて、ステア特性量Sch_osに基づいて目標量Et**が演算される。この演算マップは、特性Chjoで示されるように、ステア特性量Sch_osが所定値so1未満では目標量Et**が「0(安定化制御の非実行)」に維持され、ステア特性量Sch_osが所定値so1以上且つ所定値so2未満の範囲ではステア特性量Sch_osの増加に従い目標量Et**が「0」から増大され、ステア特性量Sch_osが所定値so2以上では所定値eo1(上限値)とされる特性として設定される。また、特性Chso(一点鎖線)で示されるように、ステア特性量Sch_osが所定値so1未満では目標量Et**が「0」に維持され、ステア特性量Sch_osが所定値so1以上の範囲では目標量Et**が所定値qt1(上限値)とされる特性として設定され得る。ステア特性量Sch_osが所定値so1の場合に、目標量Et**が「0」から増加するため、所定値so1が安定化制御(オーバステア抑制制御)の実行の開始条件となる。
【0051】
車両がアンダステア傾向を示す場合には、予め設定された演算マップを用いて、ステア特性量Sch_usに基づいて目標量Et**が演算される。この演算マップは、特性Chjuで示されるように、ステア特性量Sch_usが所定値su1未満では目標量Et**が「0(安定化制御の非実行)」に維持され、ステア特性量Sch_usが所定値su1以上且つ所定値su2未満の範囲ではステア特性量Sch_usの増加に従い目標量Et**が「0」から増大され、ステア特性量Sch_usが所定値su2以上では所定値eu1(上限値)とされる特性として設定される。また、特性Chsu(二点鎖線)で示されるように、ステア特性量Sch_usが所定値su1未満では目標量Et**が「0」に維持され、ステア特性量Sch_usが所定値su1以上の範囲では目標量Et**が所定値qt1(上限値)とされる特性として設定され得る。ステア特性量Sch_usが所定値su1の場合に、目標量Et**が「0」から増加するため、所定値su1が安定化制御(アンダステア抑制制御)の実行の開始条件となる。
【0052】
目標量調節演算ブロックATGでは、目標量Qt**と目標量Et**との調節が行われ、調節後の最終的な目標量Pt**が演算される。なお、図1では、回避制御のみが作動する場合(回避制御手段MKQ)、安定化制御のみが作動する場合(安定化制御手段MES)、及び、回避制御と安定化制御とが同時に作動する場合(回避制御手段MKQ,安定化制御手段MES,制動制御手段MBC)が別々に説明されるため、目標量調節演算ブロックATGは回避制御と安定化制御とが同時実行される場合にのみ作動することとしている。しかし、目標量Qt**=0により回避制御の非実行が、目標量Et**=0により安定化制御の非実行が表現され得るため、目標量調節演算ブロックATGは回避制御と安定化制御との少なくとも一方が実行される場合に作動し得る。
【0053】
目標量調節演算ブロックATGは、非選択車輪演算ブロックNSWと選択車輪演算ブロックSLWとで構成される。選択車輪演算ブロックSLWにて、選択車輪決定演算ブロックSWKによって決定される安定化制御の選択車輪に対する目標量Pt**が、選択車輪の目標量Qt**(第1目標量)及び選択車輪の目標量Et**(第2目標量)に基づいて演算される。非選択車輪演算ブロックNSWにて、選択車輪決定演算ブロックSWKによって選択されない車輪(選択車輪とはとは異なる車輪である非選択車輪)に対する目標量Pt**が、非選択車輪の目標量Qt**(第1目標量)に基づいて演算される。
【0054】
安定化制御が実行されていない場合(Et**=0のとき)には、選択車輪が存在せず、全ての車輪が非選択車輪とされる。非選択車輪演算ブロックNSWからは、目標量Pt**として目標量Qt**が出力される(Pt**=Qt**)。
【0055】
回避制御が実行されていない場合(Qt**=0のとき)には、非選択車輪演算ブロックNSWから非選択車輪に対して目標量Pt**(=Qt**)=0が出力される。選択車輪演算ブロックSLWから選択車輪に対して目標量Pt**(=Et**+Qt**)=Et**が出力される。
【0056】
回避制御と安定化制御とが同時に実行される場合(例えば、回避制御の実行中に安定化制御の実行が開始される場合)、非選択車輪演算ブロックNSWにて、非選択車輪の目標量Pt**が、その車輪に対する目標量Qt**に基づいて演算される(Pt**=Qt**)。さらに、選択車輪演算ブロックSLWにて、選択車輪の目標量Pt**が、その選択車輪の目標量(第2目標量)Et**、及び、その選択車輪の目標量(第1目標量)Qt**に基づいて演算される。具体的には、選択車輪の目標量Pt**が、選択車輪の目標量Et**に選択車輪の目標量Qt**を加算した値(Pt**=Et**+Qt**)として演算される。
【0057】
サーボ制御手段SVO(図1のサーボ制御手段SVOa,SVOb,SVOcに相当)にて、調節後の目標量Pt**に基づいて制動手段MBRを駆動するための信号Dt**が演算される。駆動信号Dt**に基づいて制動手段MBRが制御され、車輪WH**に制動トルクが与えられる。例えば、駆動信号Dt**に基づいて、電気モータ、液圧ポンプ、及び電磁弁が制御され、ホイールシリンダWC**の制動液圧が増加される。制動手段MBRには、実際に付与される制動トルクに相当する実際量Pa**(安定化制御が作用しない場合には回避制御の実際量Qa**、回避制御が作用しない場合には安定化制御の実際量Ea**)を検出するセンサが設けられる。具体的には、制動液圧を検出する液圧センサ、車輪の軸トルク(制動トルク)を検出するトルクセンサ、及びブレーキパッドの押付力を検出する力センサの少なくとも1つが設けられ、これらセンサの出力に基づいて実際量Pa**が演算され得る。付与した制動トルクにより車輪スリップが発生し、車輪制動力が生じるため、車輪速度センサWS**が検出する車輪速度Vw**に基づいて実際量Pa**が演算され得る。また、液圧ポンプ、及び電磁弁の作動状態(通電状態)に基づいて実際量Pa**が演算され得る。緊急状態取得演算ブロックKQJでは、目標量Pt**と実際量Pa**とに基づいて駆動信号Dt**が演算される。
【0058】
選択車輪演算ブロックSLWでは、調節後の最終的な目標量Pt**が、第1目標量Qt**と第2目標量Et**とに基づいて演算されることとしているが、目標量Pt**が選択車輪の第2目標量Et**、及び、非選択車輪の第1実際量Qa**(非選択車輪には目標量Et**が作用しないため、Pa**=Qa**)に基づいて演算され得る。
【0059】
目標量Qt**と実際量Qa**との間に誤差が生じている場合がある。回避制御のみの影響が反映されている非選択車輪の実際量Qa**(第1実際量)に基づいて安定化制御が実行されるため、誤差の影響が補償され得る。
【0060】
図5を参照して、本発明の実施態様の作用・効果について説明する。回避制御が単独で実行されるときは、第1目標量Qt**と第1実際量Qa**とに基づいて制御が実行される。安定化制御が単独で実行されるときは、第2目標量Et**と第2実際量Ea**とに基づいて制御が実行される。
【0061】
なお、記号末尾の「**」は、何れの車輪に対応するかを示す包括表記であり、「fl」は左前輪、「fr」は右前輪、「rl」は左後輪、「rr」は右後輪を示す。
【0062】
時間t0にて、回避制御手段MKQによって、緊急状態量Kqに基づいて回避制御の実行が、先ず開始される。そして、車両の前後左右の各車輪に設けられた制動手段MBRが、第1目標量Qt**に基づいて駆動し、制御され、第1実際量Qa**(Pa**)に相当する制動トルク(値q1)が発生する。
【0063】
その後、時間t2にて、安定化制御手段MESによって、ステア特性量Schに基づいて安定化制御の実行(選択車輪の決定、及び、決定された選択車輪への制動トルクの付与)が開始される。ステア特性量Schがアンダステア傾向の場合には、旋回の内側後輪が選択車輪(安定化制御によって制動トルク付与の対象となる車輪)に決定される。例えば、車両が右方向に旋回し、ステア特性量Schがアンダステア傾向を表す場合には、右後輪WHrrが選択車輪に決定される。ステア特性量Schがオーバステア傾向の場合には、旋回の外側前輪が選択車輪に決定される。例えば、車両が右方向に旋回し、ステア特性量Schがオーバステア傾向を表す場合には、左前輪WHflが選択車輪に決定される。
【0064】
制動制御手段MBCによって、回避制御と安定化制御とが同時に実行される場合(例えば、回避制御の実行中に安定化制御が開始される場合)、非選択車輪(選択車輪ではない車輪)の制動手段MBRnは、非選択車輪の第1制御量Qt**に基づいて制御される。また、制動制御手段MBCによって、選択車輪の制動手段MBRsは、選択車輪の第1制御量Qt**、及び、選択車輪の第2目標量Et**に基づいて制御される。具体的には、選択車輪の目標量Pt**が、選択車輪の第1目標量Qt**と選択車輪の第2目標量Et**とが合算されて演算される。回避制御(単独実行)によって制動トルクが値q1に増加されているときに安定化制御が開始されると、選択車輪の制動トルクは、値q1から安定化制御による制動トルク分(値e1)が嵩上げされて値s1とされる(時間t3を参照)。
【0065】
選択車輪の制動トルクが、安定化制御の目標量(第2目標量)Et**のみならず、回避制御の目標量(第1目標量)Qt**も考慮されて制御されるため、回避制御の要求する車両減速度を維持しつつ、車両の安定性が確保され得る。その結果、緊急状態を回避する(緊急)回避制御と、車両のヨーイング運動を安定化する安定化制御との干渉が抑制され得る。
【0066】
制動制御手段MBCによって、非選択車輪の制動手段MBRnが非選択車輪の第1目標量Qt**及び第1実際量Qa**に基づいて制御される。併せて、選択車輪の制動手段MBRsが非選択車輪の第1実際量Qa**、及び、選択車輪の第2目標量Et**とに基づいて制御され得る。具体的には、選択車輪の目標量Pt**が、選択車輪の第2目標量Et**に非選択車輪の第1実際量Qa**が加算されて演算される。
【0067】
目標量と実際量との間に誤差が生じている場合があるが、回避制御単独の制動トルクが付与される非選択車輪の第1実際量を考慮して、安定化制御が実行されるため、その誤差の影響が補償され得る。
【符号の説明】
【0068】
WH**…車輪、MBC…制動制御手段、MBR…制動手段、MKQ…回避制御手段、MES…安定化制御手段、ECU…電子制御ユニット

































【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後左右の車輪に制動トルクを付与する制動手段と、
前記車両の緊急状態を回避するために前記制動手段を介して前記車輪に制動トルクを付与する回避制御を実行するための第1目標量を演算する回避制御手段と、
前記車両の安定性を確保するために、前記車輪のうちから制動トルクを付与する選択車輪を決定し、該選択車輪に前記制動手段を介して制動トルクを付与する安定化制御を実行するための第2目標量を演算する安定化制御手段と、
前記選択車輪とは異なる非選択車輪に付与する制動トルクを前記第1目標量に基づいて制御するとともに、
前記選択車輪に付与する制動トルクを、前記第1目標量及び前記第2目標量に基づいて制御する制動制御手段と
を備えたことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項2】
車両の前後左右の車輪に制動トルクを付与する制動手段と、
前記車両の緊急状態を回避するために前記制動手段を介して前記車輪に制動トルクを付与する回避制御を実行するための第1目標量及び第1実際量を演算する回避制御手段と、
前記車両の安定性を確保するために、前記車輪のうちから制動トルクを付与する選択車輪を決定し、該選択車輪に前記制動手段を介して制動トルクを付与する安定化制御を実行するための第2目標量を演算する安定化制御手段と、
前記選択車輪とは異なる非選択車輪に付与する制動トルクを、該非選択車輪に対応する前記第1目標量に基づいて演算するとともに、
前記選択車輪に付与する制動トルクを、前記非選択車輪に対応する前記第1実際量及び前記選択車輪に対応する前記第2目標量に基づいて演算する制動制御手段と
を備えたことを特徴とする車両の運動制御装置。












【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−31851(P2011−31851A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182826(P2009−182826)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】