説明

車両位置検出システム、車載装置及び車両位置検出方法

【課題】車両の位置を精度良く検出することができる車両位置検出システム、車載装置及び車両位置検出方法を提供する。
【解決手段】車載装置30は、光ビーコン10との通信により、路上装置21、22、23それぞれの交信位置、その誤差範囲、停止線の位置などを受信し、受信した情報を記憶するとともに、走行距離の計測を開始し、車両位置の推定を所定時間経過の都度繰り返し行う。車載装置30は、路上装置21、22、23との交信により、交信地点の位置及びその誤差範囲を取得し、交信地点の位置の誤差範囲及び走行距離の誤差範囲に基づいて、車両の位置の推定誤差が最小になるように、交信時点の直前に推定した車両位置の推定値を更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の位置を精度良く検出することができる車両位置検出システム、該車両位置検出システムを構成する車載装置及び車両位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場内又はモノレール等において、車両の走行軌道に平行して誘導無線装置を設置し、車両のアンテナで誘導無線装置からの電波を受信して車両の位置を常時正確に把握し、把握した車両の位置を作業員に通知することにより、作業性を向上させるとともに、車両を所定の位置に精度良く停止させることができるシステムが知られている。このシステムでは、車両の位置を常時正確に(例えば10cm程度の誤差範囲内で)得ることができる。しかし、このシステムは、車両が所定の軌道上を移動することが前提であり、誘導無線装置などの地上設備と車両のアンテナとが比較的短い距離の範囲内にある必要がある。このため、走行方向が必ずしも定まらない道路を走行する車両に対しては、このシステムを適用することは不可能である。
【0003】
一方、ナビゲーションで広く利用されている車両の位置を検出する方法として、自立航法、衛星航法、地図マッチング法、ハイブリッド航法などがある。自立航法は、距離センサ、方位センサ又は角速度センサなど用い、例えば、経緯度座標系を基にした直交座標系に対する車両の走行の方位角と単位時間当たりの走行距離に基づいて、逐次車両位置を算出するものであるが、道路との整合性は考慮されておらず、走行距離の増加に応じて車両位置の誤差が累積するという問題がある。
【0004】
また、衛星航法は、GPS(Global Positioning System)を用いるものであり、検出される位置には、10〜20m程度の誤差を含む。GPSを用いるため、距離センサ、方位センサ又は角速度センサ等の車載のセンサは不要である。しかし、高架下の道路、建物に挟まれた道路、山道、街路樹等で覆われた道路では、所定数のGPS衛星から電波を受信することができず、検出精度が大きく劣化するという問題がある。
【0005】
また、地図マッチング法は、自立航法による走行軌跡と道路地図との整合性(マッチング)を考慮して車両の位置を検出するものである(特許文献1参照)。すなわち、自立航法による軌跡と、道路地図データとを比較して相関をとりながら、走行していると考えられる複数の道路候補の中から、最も確からしい道路を選定してゆく。そして、候補となる道路が1本に限定された時点で、自立航法により得られた車両の走行軌跡を道路に合致させる。しかし、限定した道路が間違っている場合、それ以降の位置検出が不能になるという問題がある。
【0006】
また、ハイブリッド航法は、衛星航法と地図マッチング法とを組み合わせたものであり、自立航法と衛星航法の誤差を勘案しながら、合理的に車両の位置を推定し、走行している道路を特定するものである(特許文献2参照)。ハイブリッド航法では、例えば、通常時には、地図マッチング法を用いて車両の位置を検出する。地図マッチング法で車両の位置が検出不能に陥った場合、衛星航法により車両の位置、方位を検出して車両の位置を推定し、道路地図データとの整合性を考慮して車両の位置を検出するものである。ハイブリッド航法を用いれば、特殊な場合を除けば、車両が走行している道路を間違う可能性は殆どなく、道路方向の位置精度も、平均的には10m程度の誤差範囲内であり、道路案内目的のナビゲーションでは、実用上殆ど問題ない精度レベルである。
【0007】
上述のように、ナビゲーションで用いられる方法で検出することができる道路方向の車
両位置は、平均的には10m前後の誤差を有し、車両が長い距離を走行した場合には、車両位置の誤差が累積するとともに、高架下の道路、トンネル内の道路、建物に挟まれた道路、山道、又は街路樹等で覆われた道路を走行した場合には、GPS衛星との通信が不能になり、車両位置の精度が一時的に悪化するときがある。そこで、光ビーコン、電波ビーコン又は磁気ネール等の路上設備と交信し、あるいは超音波感知器などの路上設備を感知して、その時点で一時的に位置を精度良く修正する(例えば、感知範囲が4mであれば、通信した時点での位置誤差は、無駄時間がなければ2シグマで2m程度となる)方法があるが、車両位置を常時高精度に保つためには、道路全体に渡ってこのような設備を設置する必要があり、現実的ではない。一方、近年話題になっている安全運転支援として、車両が交差点を通過することが危険である場合に、車両の減速制御を行って車両を交差点の手前で停止させるための技術開発が行われている。
【特許文献1】特開昭63−148115号公報
【特許文献2】特開平2−275310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の車両位置検出方法にあっては、検出精度が平均的に10m程度の誤差を有するため、交差点付近での交通事故を未然に防止する事態が生じた場合に、車両の位置を検出して停止線手前で停止させようとしたときでも、車両が停止線を越えて停止して横断歩道に進入してしまい、横断している歩行者に危害を与える恐れがある。車両の安全運転支援という目的には、車両位置の検出精度として、少なくとも誤差が1m程度以内である必要があると考えられるものの、従来の車両位置検出方式では対応できないという問題があった。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、車両の位置を精度良く検出することができる車両位置検出システム、該車両位置検出システムを構成する車載装置及び車両位置検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係る車両位置検出システムは、道路に沿って複数設置した送信装置と車載装置とを備え、前記送信装置が送信した信号を前記車載装置で受信して車両の位置を検出する車両位置検出システムであって、前記送信装置は、車両が所定の地点を通過したことを示す信号を前記車載装置へ送信する送信手段を備え、前記車載装置は、前記信号を受信する受信手段と、該受信手段で信号を受信した場合、該信号に対応する地点の位置情報及び該位置情報に関する誤差情報を取得する第1取得手段と、車両の走行距離情報及び該走行距離情報に関する誤差情報を取得する第2取得手段と、前記第1取得手段及び第2取得手段で取得した情報に基づいて、車両の位置を検出する検出手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係る車両位置検出システムは、第1発明において、前記車載装置は、前記第2取得手段で取得した走行距離情報に基づいて、所定時間の経過又は所定距離の走行の都度、車両の位置を推定する推定手段と、前記第1取得手段で取得した位置情報により得られた地点の位置と前記推定手段で推定した位置との位置ずれを算出する算出手段と、前記位置情報及び走行距離情報それぞれに関する誤差情報に基づいて、前記算出手段で算出した位置ずれを補正する補正手段と、前記信号の受信の都度、前記補正手段で補正した位置ずれに基づいて前記推定手段で推定した車両の位置を更新する更新手段とを備え、前記推定手段は、さらに、前記更新手段で更新した車両の位置及び前記第2取得手段で取得した走行距離情報に基づいて、所定時間の経過又は所定距離の走行の都度、車両の位置を推定するように構成してあり、前記検出手段は、前記推定手段で推定した車両の位置又は更新手段で更新した車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする。
【0012】
第3発明に係る車両位置検出システムは、第2発明において、前記車載装置は、車両の走行方位を取得する第3取得手段を備え、前記推定手段は、前記第3取得手段で取得した走行方位に基づいて、車両の位置を推定するように構成してあることを特徴とする。
【0013】
第4発明に係る車両位置検出システムは、第2発明又は第3発明において、前記検出手段は、前記受信手段で信号を受信していない場合、前記推定手段で推定した車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする。
【0014】
第5発明に係る車両位置検出システムは、第3発明において、前記車載装置は、道路方向の方位を取得する第4取得手段と、該第4取得手段で取得した方位と前記第3取得手段で取得した走行方位との方位差を算出する方位差算出手段とを備え、前記検出手段は、該方位差算出手段で算出した方位差が所定の閾値より大きい場合に、前記第2取得手段で取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする。
【0015】
第6発明に係る車両位置検出システムは、第5発明において、前記検出手段は、所定の走行距離以上の間、前記第3取得手段で取得した走行方位と前記第4取得手段で取得した方位とが異なる場合、前記走行距離以上の間に前記第2取得手段で取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする。
【0016】
第7発明に係る車両位置検出システムは、第5発明において、前記検出手段は、所定時間以上の間、前記第3取得手段で取得した走行方位と前記第4取得手段で取得した方位とが異なる場合、前記所定時間以上の間に前記第2取得手段で取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする。
【0017】
第8発明に係る車両位置検出システムは、第5発明において、前記検出手段は、道路上の異なる2地点で、前記第3取得手段で取得した走行方位と前記第4取得手段で取得した方位とが異なる場合、前記2地点間において前記第2取得手段で取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする。
【0018】
第9発明に係る車載装置は、所定の信号を受信して車両の位置を検出する車載装置であって、車両が所定の地点を通過したことを示す信号を受信する受信手段と、該受信手段で信号を受信した場合、該信号に対応する地点の位置情報及び該位置情報に関する誤差情報を取得する第1取得手段と、車両の走行距離情報及び該走行距離情報に関する誤差情報を取得する第2取得手段と、前記第1取得手段及び第2取得手段で取得した情報に基づいて、車両の位置を検出する検出手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
第10発明に係る車両位置検出方法は、道路に沿って複数設置した送信装置が送信した信号を車載装置で受信して車両の位置を検出する車両位置検出方法であって、前記送信装置は、車両が所定の地点を通過したことを示す信号を前記車載装置へ送信し、前記車載装置は、前記信号を受信した場合、該信号に対応する地点の位置情報及び該位置情報に関する誤差情報を取得し、車両の走行距離情報及び該走行距離情報に関する誤差情報を取得し、取得した情報に基づいて、車両の位置を検出することを特徴とする。
【0020】
第1発明、第9発明及び第10発明にあっては、各送信装置は、車両が所定の地点(例えば、車載装置と各送信装置との交信地点)を通過したことを示す信号を車載装置へ送信する。車載装置は、送信装置が送信した信号を受信した場合、受信した信号に対応する地点の位置情報及び位置情報に関する誤差情報を取得する。位置情報は、例えば、予め設定した基準地点から交信地点までの距離でもよく、交信地点の絶対位置でもよい。誤差情報は、車載装置と送信装置との交信範囲を含む誤差範囲とすることができ、例えば、位置誤差の標準偏差を用いることができる。車載装置は、各送信装置の位置情報及び位置情報に関する誤差情報を予め外部の通信装置(例えば、光ビーコン、電波ビーコン、中域通信装置又は広域通信装置など)から受信して記憶しておき、各送信装置からの信号を受信した時点で、記憶した位置情報及び誤差情報を取得することができる。あるいは、地図データベースに各送信装置の位置情報及び誤差情報を予め含めておき、各送信装置からの信号を受信した時点で、地図データベースから取得することもできる。
【0021】
車載装置は、車両の走行に応じて、走行距離情報及び該走行距離情報に関する誤差情報を取得する。走行距離情報は、例えば、予め設定した基準地点(例えば、走行距離の計測を開始する地点)からの走行距離であり、車載の距離計測装置から取得することができる。また、誤差情報は、距離計測装置の誤差範囲であり、例えば、走行距離誤差の標準偏差を用いることができる。車載装置は、取得した情報に基づいて、例えば、所定の基準地点からの走行距離の計測を開始し、走行距離及び走行距離誤差に基づいて車両の位置を時々刻々推定する。車載装置は、各送信装置から信号を受信する都度、交信地点の位置を取得し、走行距離誤差及び位置誤差に基づいて、車両位置の推定誤差が小さくなるように、推定した車両位置を更新する。車載装置は、さらに、更新した車両位置からの走行距離を計測し、走行距離及び走行距離誤差に基づいて車両の位置の推定を繰り返す。これにより、車両の走行距離が長くなるような場合であっても、各送信装置から受信した信号に基づいて、所定の交信地点の位置を取得して車両の推定位置を更新することができ、車両位置の推定誤差を小さくして車両位置を従来に比べて精度良く検出することができる。
【0022】
第2発明にあっては、車載装置は、予め走行距離の計測を開始する時点又は地点を決めておく。例えば、所定の基準地点(例えば、交差点の停止線の上流側の地点)を通過する時点から走行距離の計測を開始することができる。車載装置は、車両の走行距離情報(走行距離)に基づいて、所定時間の経過又は所定距離の走行の都度、車両の位置を推定する。車載装置は、送信装置から信号を受信する都度、所定の地点(交信地点)の位置と推定した車両の位置との位置ずれを算出する。車載装置は、位置情報及び走行距離情報それぞれに関する誤差情報、例えば、位置誤差の標準偏差及び走行距離誤差の標準偏差に基づいて、車両の推定位置の推定誤差が小さくなるように位置ずれを補正し、補正した位置ずれに基づいて、推定した車両の位置を更新する。車載装置は、送信装置との交信の都度、車両の位置を更新する。車載装置は、更新した車両位置及びその後の走行距離情報に基づいて、所定時間の経過又は所定距離の走行の都度、車両位置の推定を繰り返す。車載装置は、所定時間の経過の都度推定する車両の位置又は送信装置との交信地点で更新する車両の位置を検出する。
【0023】
道路上に設置された複数の送信装置との交信により所定の地点(交信地点)の位置情報及び誤差範囲を取得して、車両の走行状態(走行距離)に応じて推定した車両の位置を更新することができるため、道路を走行する車両の位置を精度良く検出することができる。例えば、停止線手前までの正確な位置情報を提供することで、自動制御が可能な車両に対しては、交差点の停止線で確実に車両を停止させることが可能となる。
【0024】
第3発明にあっては、車載装置は、車両の走行方位を取得し、取得した走行方位に基づいて、車両の位置を推定する。例えば、車両の位置は、経緯度座標系を基にした直交座標系において、所定時間の走行距離及びその間の直交座標系に対する走行方位に基づいて、求めることができる。これにより、道路に沿って走行する場合だけでなく、道路内の任意の方向に走行する場合であっても、車両の位置を精度良く検出することができる。
【0025】
第4発明にあっては、車載装置は、送信装置から信号を受信していない場合、直近の交信地点で更新された車両の位置とその地点からの走行距離、走行方位に基づいて車両の位置を推定し、推定した車両の位置を検出する。これにより、車両の位置を推定する都度、推定した車両の位置を更新する必要がなく、所要の離隔距離で送信装置を設置することができるとともに、送信装置との交信地点で信号を受信する都度、車両位置の推定誤差を小さくすることができる。
【0026】
第5発明にあっては、車載装置は、例えば、地図データベースから道路方向の方位を取得し、取得した道路の方位と車両の走行方位との方位差を算出する。車載装置は、算出した方位差が所定の閾値より大きい場合、車両が道路脇の施設に立ち寄ったか、あるいは、頻繁に車線変更を行ったとして、その間に取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して(使用せずに)車両の位置を検出する。これにより、車両の位置を道路方向に沿った一次元座標として特定することができ、車両の位置を二次元座標で表す必要がなく、車両の位置の推定及び更新処理を単純化することができるとともに、処理労力を低減することができる。
【0027】
第6発明にあっては、車載装置は、所定の走行距離以上の間、車両の走行方位と道路の方位とが異なる場合、その間に取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して(使用せずに)車両の位置を検出する。これにより、車両の位置を道路方向に沿った一次元座標として特定することができ、車両の位置を二次元座標で表す必要がなく、車両の位置の推定及び更新処理を単純化することができるとともに、処理労力を低減することができる。
【0028】
第7発明にあっては、車載装置は、所定時間以上の間、車両の走行方位と道路の方位とが異なる場合、その間に取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して(使用せずに)車両の位置を検出する。これにより、車両の位置を道路方向に沿った一次元座標として特定することができ、車両の位置を二次元座標で表す必要がなく、車両の位置の推定及び更新処理を単純化することができるとともに、処理労力を低減することができる。
【0029】
第8発明にあっては、車載装置は、道路上の異なる2地点で、車両の走行方位と道路の方位とが異なる場合、その地点間で取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して(使用せずに)車両の位置を検出する。これにより、車両の位置を道路方向に沿った一次元座標として特定することができ、車両の位置を二次元座標で表す必要がなく、車両の位置の推定及び更新処理を単純化することができるとともに、処理労力を低減することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明にあっては、車両の走行距離が長くなるような場合であっても、各送信装置から受信した信号に基づいて、所定の交信地点の位置を取得して車両の推定位置を更新することができ、車両位置の推定誤差を小さくして車両位置を従来に比べて精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る車両位置検出システムの概要を示す模式図である。本発明に係る車両位置検出システムは、道路に沿って適長の離隔距離を有して設置された路上装置21、22、23、及び車載装置30などを備えている。路上装置21、22、23は、例えば、超音波感知器、ICタグ、磁気ネール、光センサ等であり、電波、音波、光、磁気などをセンシングすることにより交信地点を特定することができるものである。図1の例では、路上装置21、22、23は、交差点付近の停止線の上流側の道路に設置してあるが、必ずしも交差点上流の道路に
限定されるものではなく、幹線道路に合流する道路などであってもよい。
【0032】
路上装置21、22、23は、道路上に車載装置30との交信領域A1、A2、A3を有する。車両が領域A1、A2、A3を通過する際に、車載装置30は、路上装置21、22、23から領域A1、A2、A3を通過することを示す信号を受信する。なお、路上装置21、22、23は、車載装置30との間で一方向通信を行うものでも双方向通信を行うものでもよい。
【0033】
路上装置21の上流側(例えば、交差点の上流1km程度)には、光ビーコン10を設置している。なお、光ビーコン10に代えて、電波ビーコン、DSRC(Dedicated Short Range Communication:狭域通信)などを用いることもできる。光ビーコン10は、道路上に車載装置30との交信領域Bを有する。車両が領域Bを通過する際に、車載装置30は、光ビーコン10から所定の情報を受信する。所定の情報としては、例えば、光ビーコン10の領域Bにおける信号の受信位置(交信地点の位置)とその誤差範囲、路上装置21、22、23の領域A1、A2、A3における信号の受信位置(交信地点の位置)とその誤差範囲などである。また、誤差範囲としては、位置誤差の標準偏差(又は分散)とすることができる。
【0034】
すなわち、車両が交差点に向かって道路を走行する場合、車載装置30は、領域Bを通過する際に光ビーコン10との通信により、光ビーコン10の領域Bにおける信号の受信位置(交信地点の位置)とその誤差範囲、路上装置21、22、23それぞれの交信位置、その誤差範囲、停止線の位置などを受信し、受信した情報を記憶する。さらに、車両が走行して、領域A1内で路上装置21と交信する際に、その位置(交信地点の位置)及びその誤差範囲を記憶した情報の中から取得する。また、車両が走行して、領域A2内で路上装置22と交信する際に、その位置(交信地点の位置)及びその誤差範囲を記憶した情報の中から取得する。さらに、車両が走行して、領域A3内で路上装置23と交信する際に、その位置(交信地点の位置)及びその誤差範囲を記憶した情報の中から取得する。
【0035】
車載装置30は、領域B内で光ビーコン10と通信する際に、計測する走行距離を「0」にリセットして初期化し、この基準地点から走行距離の計測を開始し、所定時間(例えば、0.01秒、0.05秒など)の経過の都度、車両の位置の推定を繰り返し行う。車載装置30は、路上装置21と交信するときに、交信地点の位置を取得するとともに、交信地点の位置の誤差範囲及び走行距離の誤差範囲に基づいて、車両の位置の推定誤差が最小に(小さく)なるように、推定した車両の位置を更新する。なお、車載装置30は、領域B内で光ビーコン10と通信する際の走行距離を基準(初期値)として、これに以降の走行距離を累積加算してもよい。
【0036】
車載装置30は、路上装置21との交信地点で更新した車両位置とその位置からの走行距離に基づいて、同様に所定時間(例えば、0.01秒、0.05秒など)の経過の都度、又は所定の走行距離(例えば、0.1m、0.2mなど)の走行の都度、車両の位置の推定を繰り返し行う。車載装置30は、路上装置22との交信により、交信地点の位置を取得するとともに、交信地点の位置の誤差範囲及び走行距離の誤差範囲に基づいて、車両の位置の推定誤差が最小に(小さく)なるように、推定した車両の位置を更新する。以降、同様の処理を繰り返すことにより、車両の位置を精度良く検出する。
【0037】
図2は車載装置30の構成を示すブロック図である。車載装置30は、各種の演算処理を行うCPUからなる制御部31を備える。なお、制御部31は、専用のハードウエア回路で構成してもよく、又は予め処理手順を定めたコンピュータプログラムを実行する構成であってもよい。制御部31には、内部バスを介して通信部32、測位部33、地図データベース34、表示部35、操作部36、報知部37、記憶部38などが接続され、測位
部33は、GPS(Global Positioning System)331、ジャイロセンサ332、走行距離を計測する距離計333などを備えている。
【0038】
通信部32は、光ビーコン10との間の通信を行う通信機能を有する。なお、通信部32は、光ビーコン10、あるいは、電波ビーコン、DSRCなどの狭域通信に限定されるものではなく、例えば、中域通信としてUHF帯又はVHF帯等の無線LAN機能を備えるものでもよく、あるいは、広域通信として携帯電話、PHS、多重FM放送、インターネット通信などの通信機能を備えるものでもよい。また、通信部32は、路上装置21、22、23が送信する信号を受信する受信機能を備えている。
【0039】
測位部33は、複数のGPS衛星からの電波をGPS331で受け取り、自車の位置を測位する。なお、GPS331に加えて、DGPS(ディファレンシャルGPS)を搭載することもできる。DGPSは、予め位置が分かっている基準局から発信されるFM放送又は中波を受信し、GPS331で算出した位置のずれを補正することができ、自車の位置の精度を向上させることができる。また、測位部33は、距離計333及びジャイロセンサ332から出力される信号に基づいて、車両の走行距離を計測して制御部31へ出力する。また、測位部33は、ジャイロセンサ332から出力される信号及びGPS331及び地図データベース34のデータに基づいて、車両の走行方位を計測するとともに、道路の方向との方位差を算出して制御部31へ出力する。なお、距離計333は、タイヤ又は車輪の回転速センサ又は車速パルスから構成されてもよい。
【0040】
表示部35は、フロントガラスディスプレイ又はヘッドアップディスプレイ、あるいは、カーナビゲーションシステム又は後方監視モニタなどの液晶表示パネルであって、運転者に所要の情報を表示する。
【0041】
操作部36は、各種操作パネルを備え、運転者と車載装置30とのユーザインタフェースとして機能する。例えば、操作部36は、運転者の操作により車載装置30の動作の開始又は停止の操作を受け付ける。
【0042】
報知部37は、スピーカを備え、制御部31の制御のもと、運転者に警告する場合、警告の内容を音声で出力する。例えば、車両を停止線で停止させるために減速処理などの自動運転を行う場合、その旨を出力する。
【0043】
記憶部38は、距離計333で走行距離を計測する場合の走行距離の誤差範囲を記憶している。走行距離の誤差範囲としては、例えば、単位距離走行での走行距離誤差の標準偏差(又は分散)とすることができる。また、走行距離誤差の標準偏差は、車両のタイヤを含む距離計333又は天候に依存するため、タイヤの種類、空気圧、距離計333の種類、天候に応じて標準偏差の値を変更することができる。また、記憶部38は、車両の走行方位と道路方向の方位との方位差の大小を判定するための閾値を記憶している。
【0044】
また、記憶部38は、通信部32を通じて受信された路上装置21、22、23の交信位置及びその誤差範囲を記憶する。
【0045】
図3は路上装置21、22、23の交信位置の誤差範囲の例を示す説明図である。直交座標系(x方向及びy方向)において、路上装置21との道路上の交信範囲(図1において、領域A1に相当)が図3の例のように想定される場合、この交信範囲を囲む矩形領域(x方向の長さが2a、y方向の長さが2b)を交信位置の誤差範囲として設定する。すなわち、路上装置21との交信地点の位置は、矩形領域の中心位置であり、誤差範囲は、中心位置からx方向に±aの範囲だけ広がり、y方向に±bの範囲だけ広がる。例えば、aを2シグマと設定した場合、x方向の分散はa2 /4となり、標準偏差はa/2と設定
することができる。また、bを2シグマと設定した場合、y方向の分散はb2 /4となり、標準偏差はb/2と設定することができる。なお、交信位置の誤差範囲は、路上装置の特性に依存し、路上装置毎に異なる誤差範囲を設定してもよく、あるいは同じ誤差範囲を設定してもよい。以下では、路上装置21、22、23の交信位置の誤差範囲は同じものとする。また、誤差範囲は、実際に道路を走行して計測し、計測結果に基づいて決定することもできる。
【0046】
制御部31は、交差点の上流側の対象道路における位置検出の精度を向上するため、複数の路上装置21、22、23との交信位置を利用する。但し、制御部31は、交信位置をそのまま車両の位置に補正するのではなく、複数の交信位置とその誤差範囲、及び車両の動特性を考慮して、時々刻々の車両位置を精度良く(例えば、1m以内の誤差)検出するための処理を行う。以下、車両の位置検出方法について説明する。なお、車両の位置は、直交座標系における二次元ベクトルで表現する。また、以下、大文字のアルファベットはベクトル又は行列とする。
【0047】
時刻tにおける車両の位置P(t)を式(1)とすると、時刻t+1(時刻t、t+1の間隔は、所定時間であり、例えば、0.01秒、0.05秒などである)における車両の位置P(t+1)は、式(2)で表すことができる。あるいは、時刻tから車両が所定の走行距離(例えば、0.1m、0.2mなど)を走行した時刻を時刻t+1とすることもできる。なお、ベクトルに付した「T」は転置を意味する。また、式(2)は、車両の動特性を示すものである。なお、時刻tにおける車両の位置P(t)は、車両の真の位置(実際の位置)であり、観測不可能な位置である。すなわち、車両の位置検出は、真の位置P(t)に対する最適な推定位置を求めるものである。
【0048】
【数1】

【0049】
ここで、D(t)は、式(3)で表され、d(t)は、時刻tから時刻t+1までに車両が走行した距離、θ(t)は、直交座標系に対する車両の走行の方位角である。また、E(t)は、式(4)で表され、e(t)は、走行距離d(t)の誤差である。また、誤差E(t)の分散Q(t)は、式(5)で表され、qは、単位距離走行での誤差分散であり、一定値とすることができる。
【0050】
また、時刻tにおいて、路上装置との交信により取得した交信位置S(t)は、式(6)で表すことができる。ここで、G(t)は、交信位置S(t)の誤差であり、誤差G(t)の共分散行列R(t)は、式(7)で表すことができる。式(7)において、a、bそれぞれは、図3で示した誤差範囲である矩形領域のx方向及びy方向の長さの2分の1である。すなわち、共分散行列R(t)は、a、bを2シグマとした場合のx方向及びy方向の分散で構成されている。なお、E(t)、G(t)の平均値は0としても一般性は失わない。
【0051】
時刻tにおける車両の位置P(t)の最適な推定位置H(t)は、カルマンフィルタにより式(8)のような漸化式で表される。
【0052】
【数2】

【0053】
ここで、Γ(t)は、推定位置H(t)の推定誤差の分散であり、式(9)のような漸化式で表すことができる。また、行列に付した「-1」は、その行列の逆行列を意味する。また、初期時刻0における推定位置H(0)、その推定誤差の分散Γ(0)は、それぞれ式(10)、式(11)で表すことができる。ここで、Mは、光ビーコン10と通信する前の車両の位置の先験情報であり、Σは、その誤差分散である。仮に先験情報がない場合、M=0、Σ-1=0となり、初期時刻0における推定位置H(0)、その推定誤差の分散Γ(0)は、それぞれ式(12)、式(13)で表される。なお、ナビゲーションにより、先験情報を取得している場合には、その値を用いればよい。
【0054】
なお、式(6)は、路上装置との交信時点でのみ得られるため、路上装置との交信が行われない間は、式(7)における誤差a、bが十分大きな値と考えることにより、式(8)において、R-1(t)=0とすれば、式(8)をそのまま用いて推定位置を繰り返し算出することができる。
【0055】
道路を走行する車両が、道路脇の施設に立ち寄ることなく、あるいは、車線変更を繰り返すことなく、走行していると判断される場合には、上述のように、車両の位置を2次元のベクトルで定式化せず、道路の幅方向の位置を考慮せず、道路方向の位置(距離)のみで定式化することができる。なお、車両が道路脇の施設に立ち寄らず、あるいは、車線変更を繰り返していないことの判断は、車両の走行方位と道路方向の方位との方位差の大小により、走行方位が道路方向の方位とずれているか否かを判定することができる。仮に車両の走行方位がずれている場合には、その間のデータは、車両位置の検出に使用しないことにすればよい。
【0056】
走行方位のずれの有無の判定方法としては、例えば、道路方向の方位と車両の走行方位とが異なる距離が所定の距離閾値以上である場合、道路方向の方位と車両の走行方位とが
異なる時間が所定の時間閾値以上である場合、又は、任意の道路区間の両端地点における、道路方向の方位差と車両の走行方位差とが異なる場合に車両の走行方位ずれがあると判定することができる。
【0057】
次に、車両の位置を道路方向の位置(距離)のみで定式化する場合について説明する。時刻tにおける車両の道路方向の位置をx(t)、時刻tから時刻t+1までに車両が走行した走行距離をd(t)、走行距離d(t)の誤差をe(t)、時刻tにおいて、路上装置との交信により取得した交信位置をs(t)、交信位置s(t)の誤差をg(t)とすると、式(14)及び式(15)が成立する。
【0058】
【数3】

【0059】
この場合、式(14)は、車両の動特性を示すものであり、式(15)は観測式を示す。また、車両の位置x(t)は、車両の真の位置(実際の位置)であり、観測不可能な値である。
【0060】
【数4】

【0061】
時刻tにおける車両の位置x(t)の最適推定値h(t)、及びその推定誤差の分散γ(t)は、カルマンフィルタにより、式(16)、式(18)で表される。ここで、k(t)は、カルマンゲインと称される補正係数であり、式(17)で表される。また、q(t)は、走行距離d(t)の誤差e(t)の分散であり、r(t)は、交信位置s(t)の誤差g(t)の分散である。単位距離走行での誤差分散をqとした場合、q(t)=d(t)・qで表すことができる。また、図3で示したような、路上装置との交信範囲の道路方向の長さを2cとし、誤差範囲を2cに設定した場合、cを2シグマとすれば、分散
r(t)は、c2 /4となる。また、光ビーコン10との通信以前における車両の位置の先験情報はないとすると、式(19)、式(20)が成立する。
【0062】
また、式(15)は、路上装置との交信時点でのみ得られるため、路上装置との交信が行われない間は、式(16)において、誤差cが十分大きな値と考えることにより、k(t)=0とすれば、式(16)をそのまま用いて推定位置を繰り返し算出することができる。
【0063】
上述の式(16)、式(17)、式(18)により、車両の位置検出、すなわち、車両位置の最適推定は、次のように行われる。すなわち、時刻t−1において、車両の最適な推定値h(t−1)が得られ、時刻t−1から時刻tまでの間に車両が走行した走行距離d(t−1)により、時刻tにおける車両の推定位置を、h(t−1)+d(t−1)として推定する。
【0064】
時刻tにおいて、路上装置と交信したときに記憶部38から交信位置s(t)を取得し、取得した車両の交信位置s(t)と直前の推定値h(t−1)+d(t−1)とのずれに補正係数k(t)を積算した値で直前の推定値h(t−1)+d(t−1)を更新することで、時刻tにおける車両位置の最適な推定値h(t)を求める。また、路上装置との交信が行われない場合には、補正係数k(t)を0として、直前の推定値h(t−1)+d(t−1)を時刻tにおける車両位置の最適な推定値h(t)とすることで、路上装置との交信の有無にかかわらず、同じ式を用いて処理を行うことができる。
【0065】
なお、補正係数k(t)は、車両位置の推定値h(t)の推定誤差の分散γ(t)が小さくなるように、走行距離d(t−1)の誤差e(t−1)の分散q(t−1)、交信位置s(t−1)の誤差g(t−1)の分散r(t−1)に基づいて算出される。
【0066】
次に本発明に係る車両位置検出システムによる車両位置の検出例について説明する。図4は本発明に係る車両位置検出システムによる車両位置の検出例を示す説明図である。図4では、説明を簡単にするため、対象とする道路が交差点上流側で直線道路であるとする。図4に示すように、交差点の停止線から上流側800mの地点(通信地点)に光ビーコン10を設置してあり、停止線から上流側500m、300m、150mの地点(交信地点)にそれぞれ路上装置21、22、23を設置している。また、車載装置30を搭載した車両が交差点に向かって矢印の方向に走行するものとする。
【0067】
車載装置30が光ビーコン10と通信する時刻を0とし、車載装置30が路上装置21、22、23と交信する時刻をt1、t2、t3とする。光ビーコン10との通信地点の位置誤差の標準偏差(分散の平方根)を1mとすると、r(0)=1となる。また、光ビーコン10から車載装置30へ送信される路上装置21、22、23との交信地点の誤差の標準偏差を1mとすると、r(t1)=r(t2)=r(t3)=1となる。また、距離計333の誤差の標準偏差を、1mの走行距離当たり0.05mとすると、q=0.0025となる。
【0068】
車両が道路を交差点に向かって走行し、車載装置30が光ビーコン10と通信した時刻0において、車両の走行距離を0に初期化し、この時点から走行距離の計測を開始する。この場合、s(0)=0、h(0)=0、γ(0)=r(0)=1となる。
【0069】
時刻t1において、車載装置30が路上装置21と交信した場合、距離計333で得られた時刻t1−1までの走行距離d(t1−1)を299とする。q(t1−1)=d(t1−1)・q=299×0.0025=0.7475となる。また、r(t1)=1であるから、γ(t1)=0.636、k(t1)=0.636となる。s(t1)=80
0−500=300であるから、時刻t1における車両位置の最適な推定値h(t1)は、h(t1)=299.6となる。
【0070】
また、時刻t2において、車載装置30が路上装置22と交信した場合、時刻t1から時刻t2−1までの走行距離d(t2−1)を199とする。q(t2−1)=d(t2−1)・q=199×0.0025=0.4975となる。また、r(t2)=1であるから、γ(t2)=0.531、k(t2)=0.531となる。s(t2)=800−300=500であるから、時刻t2における車両位置の最適な推定値h(t2)は、h(t2)=499.3となる。
【0071】
また、時刻t3において、車載装置30が路上装置23と交信した場合、時刻t2から時刻t3−1までの走行距離d(t3−1)を151とする。q(t3−1)=d(t3−1)・q=151×0.0025=0.3775となる。また、r(t3)=1であるから、γ(t3)=0.476、k(t3)=0.476となる。s(t3)=800−150=650であるから、時刻t3における車両位置の最適な推定値h(t3)は、h(t3)=650.2となる。
【0072】
以上により、車載装置30が路上装置23と交信した時刻t3における車両位置の推定誤差の分散γ(t3)は、γ(t3)=0.476、その標準偏差は、0.690mとなる。路上装置23から停止線までの距離が150mであるから、路上装置23の地点から停止線までの距離150mを走行する間の距離誤差の分散は、150×0.0025=0.375であり、これにγ(t3)を累計したもの、すなわち、0.476+0.375=0.851が停止線における車両位置の誤差の分散となる。この分散の標準偏差は0.922mとなり、1m以内にすることができる。
【0073】
仮に、路上装置21、22、23との交信により、車両位置の推定値を更新しない場合、すなわち、距離計333から得られる走行距離だけで車両位置を検出すると、停止線での走行距離の誤差の分散は、800×0.0025=2となり、光ビーコン10との通信地点の誤差の分散γ(0)は1であるから、車両位置の誤差の分散は、3となり、その標準偏差は、1.73となり、誤差が大きくなる。一方、本発明に係る車両位置の検出方法にあっては、車両位置の誤差(標準偏差)は0.922であり、約半分に減少するため、安全運転支援に資する程度の車両位置の検出精度を得ることができる。
【0074】
なお、設置する路上装置の数、離隔距離は、対象となる道路の状況、要求される車両位置の検出精度などに応じて適宜設定することができる。一般的には、路上装置の数を増加させるにつれて、車両位置の検出精度は向上するものの、検出精度の向上率は飽和する傾向にあるため、路上装置の設置コストと要求される検出精度とを比較検討して決定すればよい。
【0075】
次に本発明に係る車載装置30の動作について説明する。図5及び図6は車載装置30の車両位置の検出手順を示すフローチャートである。制御部31は、光ビーコン10との通信の有無を判定し(S11)、通信がない場合(S11でNO)、ステップS11の処理を続け、光ビーコン10との通信があるまで待機する。
【0076】
光ビーコン10との通信があった場合(S11でYES)、制御部31は、光ビーコン10から路上装置21、22、23との交信位置(交信地点)、その誤差範囲(例えば、誤差の分散)を受信し(S12)、光ビーコン10との通信地点を基準地点(例えば、計測する走行距離を0にする地点)に設定する(S13)。
【0077】
制御部31は、走行距離を計測し(S14)、車両の走行方位のずれ(車両の走行方位
と道路方向の方位との方位差の大小)の有無を判定する(S15)。なお、走行方位のずれの有無の判定方法としては、例えば、道路方向の方位と車両の走行方位とが異なる距離が所定の距離閾値以上である場合、道路方向の方位と車両の走行方位とが異なる時間が所定の時間閾値以上である場合、又は、任意の道路区間の両端地点における、道路方向の方位差と車両の走行方位差とが異なる場合に車両の走行方位ずれがあると判定することができる。
【0078】
走行方位にずれがない場合(S15でNO)、制御部31は、車両位置の検出に走行距離のデータを用いるべく、走行距離の計測データを有効化し(S16)、所定時間が経過したか否かを判定する(S17)。なお、所定時間が経過したか否かの判定には、車両が所定の距離を走行するのに要する時間を経過したか否かを判定することも含めることもでき、この場合には、所定距離経過の有無を判定することも含む。所定時間が経過していない場合(S17でNO)、制御部31は、ステップS17の処理を続け、所定時間が経過するまで待機する。
【0079】
所定時間が経過した場合(S17でYES)、制御部31は、取得した走行距離に基づいて、車両位置を推定する(S18)。制御部31は、路上装置との交信の有無を判定し(S19)、交信がない場合(S19でNO)、ステップS14以降の処理を続け、車両位置の推定を繰り返す。
【0080】
一方、走行方位にずれがある場合(S15でYES)、制御部31は、例えば、車両が道路脇の施設に立ち寄ったとして、走行距離の計測データを無効化し(S20)、ステップS19以降の処理を続ける。
【0081】
路上装置との交信があった場合(S19でYES)、制御部31は、交信があった路上装置の位置(交信地点の位置)、位置の誤差範囲(例えば、分散)を記憶部38から取得し(S21)、取得した交信地点の位置、位置の誤差範囲、記憶部38から取得した走行距離の誤差範囲などに基づいて、車両位置の推定誤差の分散を求めるととともに、補正係数を算出する(S22)。制御部31は、算出した補正係数に基づいて、路上装置との交信時点の直前に推定した車両の推定位置を更新する(S23)。
【0082】
制御部31は、交信した路上装置が対象道路での最後の路上装置であるか否かを判定し(S24)、最後の路上装置でない場合(S24でNO)、ステップS14以降の処理を続ける。最後の路上装置である場合(S24でYES)、制御部31は、走行距離を計測しつつ停止線までの距離が所定の閾値より短いか否かを判定し(S25)、停止線までの距離が閾値より短くない場合(S25でNO)、ステップS25の処理を続ける。
【0083】
停止線までの距離が閾値より短い場合(S25でYES)、制御部31は、減速の警告を行い(S26)、車両の減速処理を行い(S27)、車両を停止線で停止させて処理を終了する。なお、車両の減速処理は、交差点に信号機が設置されている場合は、信号機の灯色及びその現示時間などに基づいて決定することができ、また、交差点に信号機がない場合、あるいは、幹線道路に合流するような場合には、停止線までの距離に応じて減速処理を行うことができる。
【0084】
車載装置30が所定の交信地点の位置を取得するための信号を車載装置30へ送信する方法は、上述の例に限定されるものではなく、他の構成を用いることができる。図7は本発明に係る車両位置検出システムの概要の他の例を示す模式図である。図7に示すように、路上装置21、22、23に代えて、光ビーコン10、10、10を設置することもできる。この場合には、各光ビーコン10が、自身の交信地点の位置とその誤差範囲を車載装置30へ送信することができる。あるいは、最上流の光ビーコン10が、他の光ビーコ
ン10の交信地点の位置とその誤差範囲を車載装置30へ送信することもできる。なお、光ビーコン10に代えて、電波ビーコン、DSRCなどを用いることもできる。
【0085】
図8は本発明に係る車両位置検出システムの概要の他の例を示す模式図である。図8に示すように、図1の光ビーコン10に代えて、無線LANなどの中域通信機能を備えた通信装置40を設置することもできる。この場合、通信装置40は、路上装置21、22、23の交信地点の位置、位置の誤差範囲を車載装置30へ送信する。なお、通信装置40は、信号制御、交通情報収集、交通情報提供などの処理を行う装置などを利用することも可能である。また、通信装置40は、中域通信に限らず、FM放送、携帯電話、インターネット通信等の広域通信機能を備えた装置でもよい。
【0086】
図9は本発明に係る車両位置検出システムの概要の他の例を示す模式図である。図9に示すように、路上装置21、22、23に代えて、所定の周波数の電波を発信する発信装置50、50を設置し、2つの発信装置50、50からの電波を車載装置30で受信し、受信した電波の位相差の大小により、双曲線航法などの方法を用いて所定の交信地点の位置とその誤差範囲を取得するように構成することもできる。なお、上述の図1、図7〜図9の構成を組み合わせることもできる。
【0087】
以上説明したように、本発明にあっては、従来に比べて、車両の位置を精度良く検出することができる。また、車両を停止線で確実に停止させて安全運転支援に資することができる。また、車両が直線道路を走行する場合だけでなく、任意の方向の道路を走行する場合であっても、車両の位置を精度良く検出することができる。また、車両の位置の推定及び更新処理を単純化することができるとともに、処理労力を低減することができる。
【0088】
本発明は、路上装置との交信後は、GPSを利用しない方式としているが、将来、GPSの精度が向上すれば(例えば、平均1〜2m程度の誤差)、自立航法にGPSを組み合わせることで自立航法を補うことができる。これにより全体的に精度がやや向上するだけでなく、上記のような異常で自立航法が利用できない場合でも、GPSを利用することでGPSの誤差範囲内での位置検出を行うことが可能となる。勿論、その後の路上装置との交信で、初めて精度の向上が実現してゆくことには変わりがない。GPSを利用した考え方を定式化する場合、式(6)で表される観測式にGPSに関する項を追加することになる。すなわち、GPSの項は、式(21)で表される。
【0089】
【数5】

【0090】
ここで、S2(t)は、GPSで得られた測位データ、U(t)は、その誤差である。したがって、式(6)に対応する観測式は、式(6)と式(21)とを合成することにより、式(22)で表すことができる。ここで、SS(t)は、4次元ベクトルである。
【0091】
上述の実施の形態において、路上装置21、22、23との交信地点の位置は、光ビーコン10との通信地点(基準地点)の位置からの位置(距離)でもよく、あるいは、路上
装置22の交信地点は路上装置21の交信地点からの位置(距離)、路上装置23の交信地点の位置は、路上装置22の交信地点からの位置(距離)であってもよい。
【0092】
上述の実施の形態で示した車両の位置を推定するための数式は、一例であって、これらに限定されるものではなく、適宜変形した数式を用いることもできる。
【0093】
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明に係る車両位置検出システムの概要を示す模式図である。
【図2】車載装置の構成を示すブロック図である。
【図3】路上装置の交信位置の誤差範囲の例を示す説明図である。
【図4】本発明に係る車両位置検出システムによる車両位置の検出例を示す説明図である。
【図5】車載装置の車両位置の検出手順を示すフローチャートである。
【図6】車載装置の車両位置の検出手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る車両位置検出システムの概要の他の例を示す模式図である。
【図8】本発明に係る車両位置検出システムの概要の他の例を示す模式図である。
【図9】本発明に係る車両位置検出システムの概要の他の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0095】
10 光ビーコン
21、22、23 路上装置
30 車載装置
31 制御部
32 通信部
33 測位部
34 地図データベース
35 表示部
36 操作部
37 報知部
38 記憶部
40 通信装置
50 発信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路に沿って複数設置した送信装置と車載装置とを備え、前記送信装置が送信した信号を前記車載装置で受信して車両の位置を検出する車両位置検出システムであって、
前記送信装置は、
車両が所定の地点を通過したことを示す信号を前記車載装置へ送信する送信手段を備え、
前記車載装置は、
前記信号を受信する受信手段と、
該受信手段で信号を受信した場合、該信号に対応する地点の位置情報及び該位置情報に関する誤差情報を取得する第1取得手段と、
車両の走行距離情報及び該走行距離情報に関する誤差情報を取得する第2取得手段と、
前記第1取得手段及び第2取得手段で取得した情報に基づいて、車両の位置を検出する検出手段と
を備えることを特徴とする車両位置検出システム。
【請求項2】
前記車載装置は、
前記第2取得手段で取得した走行距離情報に基づいて、所定時間の経過又は所定距離の走行の都度、車両の位置を推定する推定手段と、
前記第1取得手段で取得した位置情報により得られた地点の位置と前記推定手段で推定した位置との位置ずれを算出する算出手段と、
前記位置情報及び走行距離情報それぞれに関する誤差情報に基づいて、前記算出手段で算出した位置ずれを補正する補正手段と、
前記信号の受信の都度、前記補正手段で補正した位置ずれに基づいて前記推定手段で推定した車両の位置を更新する更新手段と
を備え、
前記推定手段は、さらに、前記更新手段で更新した車両の位置及び前記第2取得手段で取得した走行距離情報に基づいて、所定時間の経過又は所定距離の走行の都度、車両の位置を推定するように構成してあり、
前記検出手段は、
前記推定手段で推定した車両の位置又は更新手段で更新した車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の車両位置検出システム。
【請求項3】
前記車載装置は、
車両の走行方位を取得する第3取得手段を備え、
前記推定手段は、
前記第3取得手段で取得した走行方位に基づいて、車両の位置を推定するように構成してあることを特徴とする請求項2に記載の車両位置検出システム。
【請求項4】
前記検出手段は、
前記受信手段で信号を受信していない場合、前記推定手段で推定した車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の車両位置検出システム。
【請求項5】
前記車載装置は、
道路方向の方位を取得する第4取得手段と、
該第4取得手段で取得した方位と前記第3取得手段で取得した走行方位との方位差を算出する方位差算出手段と
を備え、
前記検出手段は、
該方位差算出手段で算出した方位差が所定の閾値より大きい場合に、前記第2取得手段で取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする請求項3に記載の車両位置検出システム。
【請求項6】
前記検出手段は、
所定の走行距離以上の間、前記第3取得手段で取得した走行方位と前記第4取得手段で取得した方位とが異なる場合、前記走行距離以上の間に前記第2取得手段で取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする請求項5に記載の車両位置検出システム。
【請求項7】
前記検出手段は、
所定時間以上の間、前記第3取得手段で取得した走行方位と前記第4取得手段で取得した方位とが異なる場合、前記所定時間以上の間に前記第2取得手段で取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする請求項5に記載の車両位置検出システム。
【請求項8】
前記検出手段は、
道路上の異なる2地点で、前記第3取得手段で取得した走行方位と前記第4取得手段で取得した方位とが異なる場合、前記2地点間において前記第2取得手段で取得した車両の走行距離情報及び誤差情報を除去して車両の位置を検出するように構成してあることを特徴とする請求項5に記載の車両位置検出システム。
【請求項9】
所定の信号を受信して車両の位置を検出する車載装置であって、
車両が所定の地点を通過したことを示す信号を受信する受信手段と、
該受信手段で信号を受信した場合、該信号に対応する地点の位置情報及び該位置情報に関する誤差情報を取得する第1取得手段と、
車両の走行距離情報及び該走行距離情報に関する誤差情報を取得する第2取得手段と、
前記第1取得手段及び第2取得手段で取得した情報に基づいて、車両の位置を検出する検出手段と
を備えることを特徴とする車載装置。
【請求項10】
道路に沿って複数設置した送信装置が送信した信号を車載装置で受信して車両の位置を検出する車両位置検出方法であって、
前記送信装置は、
車両が所定の地点を通過したことを示す信号を前記車載装置へ送信し、
前記車載装置は、
前記信号を受信した場合、該信号に対応する地点の位置情報及び該位置情報に関する誤差情報を取得し、
車両の走行距離情報及び該走行距離情報に関する誤差情報を取得し、
取得した情報に基づいて、車両の位置を検出することを特徴とする車両位置検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−196906(P2008−196906A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30924(P2007−30924)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】