説明

車両制御装置

【課題】運転者の心理状態(感情)を総合的に判断し、判断結果に基づいた車両制御を行なうこと。
【解決手段】運転者の生体状態(心拍数、血圧、呼吸など)の変化と自車両状態(運転者による操作状態、周辺の物体の有無、周辺の物体との接触など)の変化とを組み合わせて運転者の感情を推定することで、運転者の心理状態を総合的に判断する。さらに、感情推定の結果を車両の状況判断にフィードバックすることで、車両状況をより詳細に識別し、適切な自動制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の状況に応じた制御を行なう車両制御装置に関し、特に運転者の感情に対応した制御を行なう車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行に関する情報を収集して状況判断し、運転者への情報提供や車両の動作制御を行なうことで車両の運転を支援する装置が考案されてきた。
【0003】
さらに近年では、運転者の心理状態などを監視し、運転に適した状態であるか否かを運転者自身に通知する技術も考案されている。例えば、特許文献1は、運転者の表情、眼球挙動、心拍数などから運転者の緊張や疲労、眠気など運転に支障をきたす状態を判別し、判別結果を模擬したシンボルマークを表示する技術を開示している。
【0004】
【特許文献1】特開2003−339681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、判別できるのが身体状態に直結した心理状態のみに限定され、例えば怒りや驚き、恐怖などの感情を判別することができなかった。
【0006】
また、判別した状態を単に通知するのみであり、例えば眠気を感じている場合に判別結果を表示したとしても、眠気によって表示の確認自体が行なわれない可能性が高い。
【0007】
すなわち、従来の技術では、極めて限定された心理状態しか判別できず、また、判別結果を有効利用することができないという問題点があった。そのため、運転者の心理状態(感情)を総合的に判断し、判断結果に基づいて積極的に事故などの防止を行なうことのできる技術の実現が重要な課題となっていた。
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点を解消し、課題を解決するためになされたものであり、運転者の心理状態(感情)を総合的に判断し、該心理状態から生じる危険を予測し、この予測結果に判断結果に基づいた制御を行なう車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明に係る車両制御装置は、自車両の状態を検知するとともに運転者の生体情報を取得し、生体情報と自車両の状態との組み合わせによって運転者の感情を推定し、推定結果を利用して車両の動作制御や運転者への通知制御の内容を決定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば車両制御装置は、生体情報と自車両の状態とを組み合わせることで運転者の心理状態(感情)を総合的に判断し、判断結果に基づいた制御を行なう車両制御装置を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る車両制御装置の好適な実施例について詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の実施例である車両制御装置10の概要構成を示す概要構成図である。同図に示すように車両1に搭載された車両制御装置10は、ナビゲーション装置20、車外カメラ31、車速センサ32、加速度センサ32、通信装置34、レーダ35、衝撃センサ36、心拍数センサ41、呼吸センサ42、圧力センサ43、発汗センサ44、マイクロフォン45、車内カメラ46、血圧センサ47、車内通知系50および車両制御系60に接続する。
【0013】
ナビゲーション装置20は、GPS(Global Positioning System)受信機22が人工衛星と通信して特定した自車両の位置、地図データ21、VICS(Vehicle Information and Communication System)受信機23が受信した道路交通情報などを利用して、走行経路の設定および誘導を行なう車載装置である。
【0014】
この経路の誘導は具体的には車内通知系50を用いて行なう。また、ナビゲーション装置20は、車両制御装置10に対して自車両の位置情報や周辺の地図情報、交通情報などを供給する。
【0015】
車外カメラ31は、自車両の周囲を撮影する撮影手段である。また、速度センサ32は自車両の走行速度を測定する測定手段であり、加速度センサ33は自車両にかかる加速度を測定する測定手段である。
【0016】
さらに、通信装置34は、自車両周辺、例えば他車両や道路近傍に設置された通信機と通信する通信装置であり、レーダ35は、ミリ波やマイクロ波を用いて自車両周辺の物体を検出する検知手段である。
【0017】
衝撃センサ36は、車両1が外部の物体、例えば他車両や壁などと衝突した際に発生する衝撃を検知するセンサである。
【0018】
心拍数センサ41は、運転者の心拍数(脈拍)を計測するセンサであり、血圧センサ47は運転者の血圧を計測するセンサである。同様に、呼吸センサ42は、運転者の呼吸の状態を監視するセンサである。また、圧力センサ43は、運転席の座面にかかる圧力を計測することで、運転者の体勢の変化を監視するセンサである。
【0019】
発汗センサ44は、例えばハンドルなどに設けられ、運転者の発汗状態を監視するセンサである。さらに、マイクロフォン45は運転者の音声や自車両近傍の音を取得する集音手段であり、車内カメラ46は自車両内部、特に運転者を撮影する撮影手段である。
【0020】
車内通知系50は、自車両の乗員に対して通知を行なう装置群であり、表示による通知を行なうディスプレイ51や音声による通知を行なうスピーカ52などを含む。この車内通知系50は、車両制御装置10、ナビゲーション装置20の他、車載オーディオ装置など各種車載装置で共用することができる。
【0021】
車両制御系60は、車両の動作制御を行なう装置群であり、アクセル操作に基づいてエンジンの動作を制御するエンジン制御機構61、ブレーキペダルの操作に基づいて車両の制動を行なうブレーキ制御機構62、ハンドル操作に基づいて車両の舵角を制御する舵角制御機構63、前照灯(ヘッドライト)や方向指示灯(ウインカーランプ)等の灯具を制御する灯火制御機構64、サイドミラーを動かすミラー駆動機構65などを含む。
【0022】
この車両制御系60は、運転者の操作に応答して車両制御を行なう他、車両制御装置10からの制御指示を受けて車両の動作を制御する。また、車両制御系60は、車両の動作状態を車両制御装置10に出力する。
【0023】
車両制御装置10は、自車両の状況に対応して運転者への通知制御や車両の動作制御を行なうことで、運転操作を支援する装置であり、その内部に状況判断部11、自車両状態検知部12、生体状態監視部13、個人識別部14、制御内容決定部15、感情推定部16およびデータベース17を有する。
【0024】
状況判断部11は、自車両の状況を判断する処理部である。この状況判断には、ナビゲーション装置20から取得した自車両の位置情報や周辺の地図情報、交通情報、車外カメラ31が撮影した画像に対する画像認識、車速センサ32が測定した自車両の走行速度、加速度センサ33が測定した自車両に加わる加速度、通知新装置34による通信結果、レーダ35による物体検知結果、衝撃センサ36による衝撃検知結果、マイクロフォン45が集音した音、車両制御系60から取得した車両の動作状態を用いる。
【0025】
また、状況判断部11はその内部に自車両状態検知部12を有する。この自車両状態検知部12は、特に自車両状態の状態を検知する処理を行なう。
【0026】
生体情報監視部13は、運転者の身体状態を監視する処理を行なう。身体状態としては、心拍数センサ41が計測した心拍数、血圧センサ47が計測した血圧、呼吸センサ42が監視した呼吸の状態、圧力センサ43が検知した体勢の変化、発汗センサ44が検知した発汗状態、マイクロフォン45が取得した音声、車内カメラ46が撮影した運転者画像に対する画像認識結果などを用いることができる。
【0027】
個人識別部14は、運転者を識別する処理を行なう処理部である。この運転者の個人識別は、車内カメラ36が撮影した運転者の顔画像に対する画像認識によって実現しても良いし、例えば運転者ごとに個別に割り当てられたキーなどを認識することで行なっても、また運転者自身による入力によって行なっても良い。
【0028】
感情推定部16は、自車両状態検知部12による検知結果と生体情報監視部13による監視結果とを組み合わせて、運転者の感情を推定する処理を行なう。
【0029】
たとえば、先行車両との車間距離が急激に小さくなり、かつ運転者の心拍数や血圧が通常の値から大きく上昇したとき、感情推定部16は、運転者が驚いていると推定する。しかし、運転者の心拍数や血圧が通常状態から変化しなければ、先行車両との車輪距離が急激に小さくなったことは運転者の意図通りの状況であり、運転者に感情変化は生じていないと推定する。
【0030】
同様に、例えば車体やドアミラーが何かに当たったことを検知しても、運転者の心拍数や血圧に変化がなければ運転者の意図通りであると判断するが、心拍数や血圧が変化した場合には運転者に驚きなどの感情が生じていると推定する。
【0031】
ここで、心拍数や血圧などの生体情報が平常状態から変化したことを検知するため、個人識別部14による識別結果を利用し、運転者ごとに平常状態の生体情報をデータベース17に記憶しておく。
【0032】
制御内容決定部15は、状況判断部11による判断結果と、感情推定部16による感情の推定結果と、に基づいて制御内容を決定する。すなわち、車両の状況(状況判断部11の判断結果)が同一であっても、運転者の感情によってそれぞれ異なる適切な制御を選択して実行することができる。
【0033】
また、制御内容決定部15は、その内部に特殊制御開始部15a、予測制御部15b、閾値制御部15c、リソース配分部15dを有する。特殊制御開始部15aは、特定の感情に対応する制御を開始する処理を行なう処理部であり、予測制御部15bは、感情に起因して発生が予測される状態の事前対処を行なう処理部である。また、閾値制御部15cは、運転者の感情に応じて車両制御における閾値の調整する処理部であり、リソース配分部15dは、運転者の感情に応じて車両制御に対するリソース配分を調整する処理部である。
【0034】
このように、車両制御装置10は、運転者の生体情報の変化と自車両状態の検知結果とを組み合わせ、図2に示すように、自車両状態の変化と運転者の生体情報の変化とがともに発生した時、もしくは自車両状態と生体状態とがともに特定の状態となった時に、運転者の感情が変化したと推定する。
【0035】
そのため、自車両の状態によって引き起こされる運転者の感情変化を精度良く推定することが可能である。
【0036】
ここで、2つの状態変化は略同時、或いは所定時間n秒の間に自車両状態の変化と運転者の生体情報の変化が起きていることを感情推定の条件とすることで、車両の状態変化と無関係な生体状態の変化を誤って使用して感情推定を行なうことを防ぐことができる。
【0037】
なお、運転者が予期せずに車体を擦り、これによって運転者が慌てる場合などでは、車両状態の変化(車体への衝撃)が先に発生し、生体情報の変化が後から発生する。しかし、例えば先行車両に追突するような場合には、運転者は衝突(車体への衝撃)が発生する前に衝突を予測して生体情報の変化が先に発生する。そのため、車両状態と生体情報の変化はその順序を問わないことが好適である。
【0038】
さらに、感情推定の結果は、状況判断にフィードバックすることも可能である。この場合、状況判断部11が2各種センサから取得した情報が同一であっても運転者の感情によってその状況をより詳細に判断することができる。
【0039】
例えば上述したように、レーダ35の出力から先行車両との車間距離が急激に小さくなったことを検知した場合、運転者の感情が平静であれば、事故が発生する可能性は低いと判断し、運転者が驚きや恐怖などの感情を示していれば衝突発生の可能性が高いと判断することができる。
【0040】
感情推定部16が使用する生体情報の変化としては、具体的には、心拍数センサ41が計測した心拍数の上昇、血圧センサ47が測定した血圧の上昇、呼吸センサ42が取得した呼吸状態(例えば呼吸頻度)の変化、車内カメラ46の撮影画像に対する画像認識によって認識した顔の向きの変化や表情の変化、マイクロフォン45によって収集した音声(有無、大小、強弱、高さ、ピッチなど)の変化、などを用いることができる。
【0041】
すなわち、それぞれの平常時の状態をデータベース17に格納しておき、生体状態監視部13が取得した状態とデータベースに格納された平常時の状態とを比較してその差が所定量以上であれば生体状態が変化したと判断する。
【0042】
また、生体状態監視部13が取得した値をその直前までの値と比較して変化を検出することもできる。
【0043】
車両状態の変化としては、具体的には、運転者による運転操作状態、外部の物体との距離、外部の物体との接触の有無などを用いることができる。ここで、運転操作状態は、車両制御系60から取得することができ、外部の物体との距離は、レーダ35や車外カメラ32の撮影結果に対する画像処理によって行なうことができる。
【0044】
また、外部の物体との接触の有無は、衝撃センサ36の検知結果や、マイクロフォン45による衝撃音の検出、車外カメラ32の撮影結果に対する画像処理、ミラー駆動機構65によるサイドミラーの状態変化(ユーザ操作が無いにもかかわらずミラーが折り畳まれた等)によって認識することができる。
【0045】
つづいて、生体状態の変化と車両状態の組み合わせによる状況判断と感情推定の具体例について、図3を参照して説明する。
【0046】
同図では、生体状態(取得した生体情報の値)として心拍数と血圧とを用い、車両状態として運転者によるアクセルおよびブレーキの操作状態と、前方車両との車間距離を用いている。
【0047】
そして、一分間の心拍数が通常時よりも30回多く、血圧が30mmHg高く、かつアクセルとブレーキが操作されておらず、前方車間距離が0mであれば、運転者の感情は興奮、恐怖、驚きの全てが最も高いレベル1であり、前方車両と衝突している状況であると判断する。
【0048】
また、一分間の心拍数が通常時よりも20回多く、血圧が30mmHg高く、かつブレーキ30kgfで操作され、前方車間距離が0mである場合には、運転者の感情は興奮と恐怖がレベル1、驚きレベル2であり、前方車両と衝突している状況であると判断する。
【0049】
同様に、一分間の心拍数が通常時よりも30回多く、血圧が20mmHg高く、かつブレーキ30kgfで操作され、前方車間距離が0mである場合には、運転者の感情は興奮と恐怖がレベル1、驚きレベル3であり、前方車両と衝突している状況であると判断する。
【0050】
また、一分間の心拍数が通常時よりも30回多く、血圧が10mmHg高く、かつブレーキ30kgfで操作され、前方車間距離が2mである場合には、運転者の感情は興奮レベル1、恐怖レベル2、驚きレベル2であり、前方車両との衝突可能性が非常に高い衝突前レベル1の状況であると判断する。
【0051】
また、一分間の心拍数が通常時よりも20回多く、血圧が20mmHg高く、かつブレーキ30kgfで操作され、前方車間距離が2mである場合には、運転者の感情は興奮レベル1、恐怖レベル2、驚きレベル3であり、前方車両との衝突可能性が非常に高い衝突前レベル1の状況であると判断する。
【0052】
また、一分間の心拍数が通常時よりも10回多く、血圧が20mmHg高く、かつブレーキ30kgfで操作され、前方車間距離が3mである場合には、運転者の感情は興奮レベル2、恐怖レベル1、驚きレベル1であり、前方車両との衝突可能性が非常に高い衝突前レベル1の状況であると判断する。
【0053】
同様に、一分間の心拍数が通常時よりも10回多く、血圧が20mmHg高く、かつブレーキ30kgfで操作され、前方車間距離が3mである場合には、運転者の感情は興奮レベル2、恐怖レベル1、驚きレベル2であり、前方車両との衝突可能性が非常に高い衝突前レベル1の状況であると判断する。
【0054】
さらに、一分間の心拍数が通常状態であり、血圧が10mmHg高く、かつアクセルが10kgfで操作され、前方車間距離が5mである場合には、運転者の感情は興奮レベル3、恐怖レベル3、驚きレベル3であり、前方車両との衝突可能性が比較的低い衝突前レベル2の状況であると判断する。
【0055】
同様に、一分間の心拍数および血圧が通常状態であり、かつアクセルが10kgfで操作され、前方車間距離が6mである場合には、運転者の感情は興奮レベル3、恐怖レベル3、驚きレベル4であり、前方車両との衝突可能性が比較的低い衝突前レベル2の状況であると判断する。
【0056】
このように、生体情報と車両状態との組み合わせによって、運転者の感情と車両の状況とを判断することが可能である。なお、ここに示したのはあくまで一例であり、任意の生体情報と車両状態を用いて運転者の感情と車両状況を判断することができる。また、生体情報の使用方法についても、例えば、驚きレベル1または2を推定した後、心拍数や血圧の上昇が所定時間継続した場合には運転者が怒っていると判断するなど、適宜変形して実施することができる。
【0057】
つづいて、運転者の感情と制御の具体例について、図4を参照して説明する。同図に示すように、運転者が「興奮」「怒り」などの感情を示している場合には、運転者の状態、すなわち予想される(予測制御部15bが予測する)危険としては、「運転が荒くなる」、「前方や特定の対象に集中し、他への注意が疎かになる」などがある。
【0058】
「運転が荒くなる」ことが予想された場合、車両制御としてエンジン制御機構61に対する加速抑制、ブレーキ制御機構62に対する減速支援などを実行し、運転者への通知制御としてリラックスを促す通知を行なう。リラックスを促す通知の具体例としては、メッセージや音楽などの出力、リラックス効果のある香りを出す、など任意の方法を用いることができる。
【0059】
ここで、加速制御や減速支援は、具体的には、閾値制御部15cがエンジン制御やブレーキ制御にかかる各種閾値を変更することで、加速や減速の開始タイミングや制御強度などを調節する処理である。
【0060】
また、「前方や特定の対象に集中し、他への注意が疎かになる」ことが予想された場合、カメラやレーダの監視範囲や演算処理能力などのリソース配分の調整によって、周辺監視を強化し、周辺監視の結果を運転者に提供する情報通知を行なう。
【0061】
運転者が「驚いている」場合、予想される危険は「見落としの発生、反応遅れ」、「急加速」などである。
【0062】
「見落としの発生、反応遅れ」の発生が予想された場合、車両制御としてブレーキ制御機構62に対する減速支援、カメラやレーダの監視範囲や演算処理能力などのリソース配分の調整による周辺監視の強化を行ない、運転者への通知制御として周辺監視の結果を情報通知や運転への集中を促す通知を行なう。
【0063】
同様に「急加速」の発生が予想された場合、車両制御としてエンジン制御機構61に対する加速抑制などを行ない、運転者への通知制御として安全運転を促す通知を行なう。
【0064】
運転者が「恐怖」「不安」「緊張」などの感情を示している場合、予想される危険としては「発汗、ハンドルを握り締めるなどによる運転ミスの発生」、「特定箇所に意識が集中し、他への注意が疎かになる」などがある。
【0065】
「運転ミスの発生」が予想された場合、車両制御としてブレーキ制御機構62に対する減速支援、舵角制御機構63に対する操舵支援などを実行し、運転者への通知制御としてリラックスを促す通知を行なう。
【0066】
また、「前方や特定の対象に集中し、他への注意が疎かになる」ことが予想された場合、カメラやレーダの監視範囲や演算処理能力などのリソース配分の調整によって、周辺監視を強化し、周辺監視の結果を運転者に提供する情報通知を行なう。
【0067】
つづいて、感情推定を利用した状況判断を行なった場合の車両制御の具体例について図5を参照して説明する。同図に示すように、例えば感情推定を利用して自車両の状況が「衝突」「衝突前レベル1」「衝突前レベル2」であると判断した場合、車両状態(同図ではアクセルとブレーキの操作状態と前方車両との車間距離)に基づいて、必要な制御を自動実行する。
【0068】
具体的には、状況が「衝突」であり、アクセルが操作されておらず、ブレーキが操作されていない、もしくは30kgfで操作されており、前方車間距離が0mである場合、車両制御装置10は、ブレーキを最大強度(制御強度100%)でかけて制動し、ハザードを自動点灯する。
【0069】
また、状況が「衝突前レベル1」であり、アクセルが操作されておらず、ブレーキが30kgfで操作され、前方車間距離が2mである場合、ブレーキを最大強度(制御強度100%)でかけて制動するか、アクセルを40kgfで駆動してステアリングを左(場合によっては右)60度にきって回避するとともに、ハザードを自動点灯する。
【0070】
同様に、状況が「衝突前レベル1」であり、アクセルが操作されておらず、ブレーキが30kgfで操作され、前方車間距離が3mである場合、ブレーキを最大強度(制御強度100%)でかけつつステアリングを左45度にきって制動するか、アクセルを40kgfで駆動してステアリングを右40度にきって回避するとともに、ハザードを自動点灯する。
【0071】
さらに、状況が「衝突前レベル2」であり、アクセルか10kgfで操作され、前方車間距離が5mである場合、アクセルを30kgfで駆動してステアリングを左30度にきって回避する。
【0072】
同様に、状況が「衝突前レベル2」であり、アクセルか10kgfで操作され、前方車間距離が6mである場合、アクセルの制御を0にし、ブレーキを80%の強度でかけるとともにステアリングを左20度にきって衝突を防ぐ。
【0073】
つづいて、車両制御装置10の処理動作について説明する。図6は、車両制御装置10の電源がオンになった場合に開始され、繰り返し実行されるルーチン処理の処理動作を説明するフローチャートである。
【0074】
同図に示すように、車両制御装置10は、まず、運転者の身体状態を生体情報として取得し、生体情報に変化があったか否かを判定する(ステップS101)。その結果、生体情報に変化が無ければ(ステップS101,No)、つぎに自車両状態に変化があったか否かを判定し(ステップS102)、自車両状態にも変化が無ければ(ステップS102,No)、通常の通知や車両挙動の制御を行なって(ステップS103)、処理を終了する。
【0075】
一方、生体情報に変化があった場合(ステップS101,Yes)、つづいて自車両状態に変化がないかを監視し(ステップS104)、変化が無いまま所定時間(n秒)が経過したならば(ステップS105,Yes)、通常の通知や車両挙動の制御を行なって(ステップS103)、処理を終了する。
【0076】
同様に、自車両状態に変化があった場合(ステップS102,Yes)、つづいて生態情報に変化がないかを監視し(ステップS106)、変化が無いまま所定時間(n秒)が経過したならば(ステップS107,Yes)、通常の通知や車両挙動の制御を行なって(ステップS103)、処理を終了する。
【0077】
そして、生体情報の変化から所定時間内に自車両状態が変化した場合(ステップS104,Yes)、および自車両状態の変化から所定時間内に生体情報が変化した場合(ステップS106,Yes)、感情推定部16が運転者の感情を推定し(ステップS108)、推定された感情に基づいて処理内容を変更(ステップS109)した上で通知や車両挙動の制御を行なって(ステップS103)、処理を終了する。
【0078】
上述してきたように、本実施例にかかる車両制御装置10は、運転者の生体状態の変化と自車両状態の変化とを組み合わせて運転者の感情を推定することで、運転者の心理状態を総合的に判断し、制御内容決定部15による運転者への通知制御と、車両の挙動制御へ反映させることで、積極的に事故などを防止することができる。
【0079】
また、感情推定の結果を車両の状況判断にフィードバックすることで、車両状況をより詳細に識別し、適切な自動制御を実行することができる。
【0080】
なお、本実施例はあくまで一例をしめしたものであり、発明の内容を限定するのもではない。本発明の実施に当たっては、その構成を適宜変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上のように、本発明にかかる車両制御装置は、運転操作の支援に有用であり、特に運転者の感情に対応した制御に適している。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施例にかかる車両制御装置の概要構成を示す概要構成図である。
【図2】本実施例における感情推定の概念について説明する説明図である。
【図3】生体状態の変化と車両状態の組み合わせによる状況判断と感情推定の具体例について説明する説明図である。
【図4】運転者の感情と制御の具体例について説明する説明図である。
【図5】感情推定を利用した状況判断を行なった場合の車両制御の具体例について説明する説明図である。
【図6】車両制御装置の処理動作について説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0083】
1 車両
10 車両制御装置
11 状況判断部
12 自車両状態検知部
13 生体状態監視部
14 個人識別部
15 制御内容決定部
15a 特殊制御開始部
15b 予測制御部
15c 閾値制御部
15d リソース配分部
16 感情推定部
17 データベース
20 ナビゲーション装置
21 地図データ
22 GPS受信機
23 VICS受信機
31 車外カメラ
32 車速センサ
33 加速度センサ
34 通信装置
35 レーダ
36 衝撃センサ
41 心拍数センサ
42 呼吸センサ
43 圧力センサ
44 発汗センサ
45 マイクロフォン
46 車内カメラ
47 血圧センサ
50 車内通知系
51 ディスプレイ
52 スピーカ
60 車両制御系
61 エンジン制御機構
62 ブレーキ制御機構
63 舵角制御機構
64 灯火制御機構
65 ミラー駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が現に迎えている状況を判断する状況判断手段と、
自車両の状態を検知する車両状態検知手段と、
運転者の生体情報を取得する生体情報取得手段と、
前記生体情報と前記自車両の状態との組み合わせによって前記運転者の感情を推定する感情推定手段と、
前記状況判断の結果と前記感情の推定結果に基づいて車両の動作制御および/または運転者への通知制御の内容を決定する制御内容決定手段と、
を備えたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記感情推定手段は、前記生体状態の変化を検知し、かつ前記自車両状態が特定の状態となった場合に前記運転者の感情推定を行なうことを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記制御内容決定手段は、前記感情の推定結果に基づいて、特定の感情に対応する制御の起動、感情に起因して発生が予測される状態の事前対処、車両制御における閾値の調整、車両制御に対するリソース配分調整のうち、少なくともいずれかを行なうことを特徴とする請求項1または2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記制御内容決定手段は、前記感情の推定結果に基づいて、感情の変化を促す通知および/または感情に起因して発生が予測される見落としを補う情報提供を行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−62852(P2008−62852A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244629(P2006−244629)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】