説明

車両用の電気式操舵

本発明は、自動車用の接地システム(1)であって、接地システムが、操舵車輪(2)及び操舵車輪の懸架装置(3)を有し、非懸架要素が、車輪スピンドルに固定され、懸架要素が、車体に固定されるよう設計され、車輪の操舵は、電気アクチュエータ(9)によって直接制御され、アクチュエータは、懸架要素(8,10)相互間で直接作用する、接地システムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路用自動車の操舵に関する。特に、本発明は、操舵車輪とステアリングホイールとの間の機械的リンク装置をもたない電気操舵システムに関し、この電気式操舵システムは、縮めて言って「エレクトリカル・ステアリング(electrical steering )」と呼ばれる。この種の操舵は、極めて一般的には、「ステア・バイ・ワイヤ(steer by wire)」とも呼ばれる。
【背景技術】
【0002】
エレクトリカル・ステアリングでは、ステアリングホイールと操舵車輪との間に存在すると共に補助される場合があったり補助されない場合があったりする伝統的な機械式制御装置に代えて以下の機構が用いられる。車輪の高さ位置には、好ましくは各車輪について1つずつ電気アクチュエータが設けられ、この電気アクチュエータの目的は、問題の1つ又は複数の車輪について適当な操舵角を設定することにある。自動車の運転手に利用できる操舵制御装置は、伝統的なステアリングホイール又はレバー、例えばジョイスティック又は任意他の適当な装置である。自動車の運転手により自分の制御装置に与えられる指令は、電気リンクを経由してアクチュエータに送られ、システム全体は、1つ又は複数のアクチュエータを正しくドライブするのに適したプログラムが入れられたコンピュータの監視下に置かれる。
【0003】
この技術の利点の1つは、これがエレクトロニクスと理想的に適合性があるということであり、この技術の進歩は、ますます精巧複雑なフィードバック制御システムの実現を可能にしており、その結果、道路用車輪の操舵は、手動制御を受けるだけでなく、安全システムによる制御を受けることができるようになっている。かくして、例えば、操舵車輪は、自動車の運転手からの命令を考慮に入れるだけでなく、自動車について観察される動的パラメータを考慮に入れた操舵角に合わせて設定できる。
【0004】
かかる電気式操舵システムの原理は、欧州特許第1,428,740号明細書に記載されている。
【0005】
【特許文献1】欧州特許第1,428,740号明細書
【発明の開示】
【0006】
本発明は、特に、自動車の接地システム内におけるエレクトリカル・ステアリングの機械的レイアウトに関する。
【0007】
本発明は、自動車用の接地システムであって、接地システムは、操舵車輪及び操舵車輪用の懸架装置を有し、非懸架要素が、操舵車輪の軸線と一体であり、懸架要素が、自動車の車体と一体であるようになっており、車輪の操舵は、電気アクチュエータによって直接制御され、アクチュエータは、懸架要素相互間で作用することを特徴とする接地システムを提案する。好ましくは、電気アクチュエータは、伸縮式アクチュエータである。
【0008】
より好ましくは、自動車の垂直懸架装置は、車輪の体積内に配置されたスライド機構体により影響され、スライド機構体は、車輪のキャリヤと一体の実質的に垂直なバーと、バー上で摺動するスライダとを有し、スライダそれ自体は、自動車の車体に連結された支持アームに対して回転するよう設けられ、支持アームに対するスライダの回転は、実質的に垂直な軸線回りの車輪キャリヤの操舵運動を可能にする。好ましくは、電気アクチュエータは、支持アームと、スライダと一体のレバーとの間で作用する。
【0009】
好ましくは、アクチュエータは、ナットの回転により軸方向に動かされるねじを有し、ナットは、回転電気モータのシャフトと一体である。好ましくは、アクチュエータは、2つの電気的に独立したモータを有し、シャフトは、2つのモータの2つのロータの各々と一体である。
【0010】
本発明は又、かかる接地システムの操舵のための伸縮式電気ねじアクチュエータであって、アクチュエータは、本体と、ロッドと、少なくとも1つの回転電気モータとを有し、ロッドは、ねじ/ナットシステムによってモータにより動かされ、ナットは、少なくとも1つの電気モータのシャフトによって回転駆動され、ねじの一端部は、本体と一体の管内で並進的に案内され、管は、シャフト内に設けられていることを特徴とするアクチュエータを提案する。
【0011】
好ましくは、アクチュエータは、少なくとも2つの独立ロータ/ステータ組立体を有し、ステータは、アクチュエータの本体と一体であり、ロータは、シャフトによってナットと一体であり、ロッドは、ねじと一体である。好ましくは、シャフトは、転がり軸受によって本体に対して回転的に案内される。好ましくは、管は、更に、シャフト内で半径方向に支承状態にある。
【0012】
好ましくは、アクチュエータは、ロッドの移動に対する機械的停止部を更に有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を添付の図面を参照して説明する。
【0014】
図1及び図2は、本発明の接地システム1を示している。この接地システムは、懸架装置3により車両(図示せず)の車体に連結された操舵車輪2を有している。懸架装置は、この場合、車輪キャリヤ6と一体のバー5及びスライダ7で構成されたスライド機構体4を有し、このスライダ内において、バー5は、車両の車体に対する車輪の実質的に垂直の懸架運動を可能にするよう動く。スライダは、車輪の操舵運動を可能にするために支持アーム8に対して回転するよう設けられている。支持アーム8は、車両(図示せず)と一体であるようになっている。
【0015】
車輪の回転は、支持アーム8と、スライダ7と一体の操舵レバー10との間で作用する電気アクチュエータ9によって制御される。
【0016】
理解されるように、(自動車分野において認められている技術用語によれば)スライダ7、操舵レバー10及び支持アーム8は、これらが懸架運動に関して車体と一体なので懸架要素であり、これに対し、車輪2、バー5及び車輪キャリヤ6は、これらが懸架運動に関し車輪軸線と一体なので、非懸架要素である。
【0017】
かくして、車輪の操舵は、電気アクチュエータにより直接制御され、電気アクチュエータは、接地システムの懸架要素相互間で作用する。事実、アクチュエータの運動を車輪に伝えるのにクランク機構体又はリンクロッドは不要である。
【0018】
接地システムは、電気トラクションモータ11及び欧州特許第878,378号明細書又は仏国特許出願公開第04/09986号明細書に記載されているような懸架運動を制御する電気機械12を更に有するのが良い。さらに、懸架ばね13が、懸架装置の懸架要素と非懸架要素との間で作用するのが良い。電気機械12は、図面を分かりやすくするために図1から省かれている。ばね13は、好ましくは、下側ばね支承面14及び上側ばね支承面15によってそれぞれ車輪キャリヤ6とスライダ7との間で作用する。好ましくは、操舵レバー10は、上側支承面15を介してスライダ7と一体である。
【0019】
図3は、本発明の操舵アクチュエータの好ましい一実施形態の軸方向断面図である。アクチュエータ9は、この場合、その完全引っ込み位置で示されている。図4は、図3のA−A平面矢視断面図であり、ロッドの後端部が管32内でどのように案内されるかを拡大した尺度で示している。
【0020】
図3及び図4では、伸縮式電気アクチュエータ9は、主要構成要素として、本体16及びロッド17を有し、ロッドは、本体に対して並進運動状態で駆動されることが理解できる。ロッド17は、モータシャフト20と一体のナット19と協働するねじ18と一体である。第1のロータ21及び第2のロータ22は、シャフト20と一体であり、それぞれ、第1のステータ23及び第2のステータ24と協働する。かくして、2つの電気的に独立したモータが、共通シャフトで作用する。好ましくは、モータは、ブラシの無い(「ブラシレス」)の同期電動機である。
【0021】
シャフトとナットの組立体は、リヤ転がり軸受25及びフロント転がり軸受26によって本体16に対して回転的に案内される。ロッド17は、フロントジャーナル軸受27によって本体16のフロント部分36に対して並進的に案内される。ロッドの後(リヤ)端部は、管32内に設けられた溝30,31内で転動するローラ28,29によって本体に対して案内される。管32は、モータシャフト20の内部に配置されている。案内の剛性を高めるため、管の前(フロント)端部は、滑りジャーナル軸受又は例えば針状ころ軸受40によってシャフトの内部で半径方向に支承状態にあるのが良い。
【0022】
ロッドの位置は、好ましくは、専用のセンサを除きモータ用の制御装置によって制御される。好ましくは、停止部が、ロッドの伸縮の際の移動を制限する。アクチュエータの伸長方向では、ローラ28,29は、管32のための停止部33,34に当接する。アクチュエータの収縮方向では(即ち、図3に示すロッド位置では)、ロッドの後端部は、本体16の底部35に当接する。これら停止部の当たりは、モータ用の電気制御装置によって検出でき、それにより、電気式操舵システムが、その位置の計算を初期化し又は再初期化することができる。
【0023】
本体16のフロント部分36は、接地システムの懸架要素への連結のための手段(ブラケット37,38)を有している。同様に、ロッド17の遠位端部39は、これら懸架要素への連結のための手段を有している。これら連結部(図1では一層良く理解できる)は、意図した操舵運動のための十分な振動を可能にしなければならない。コンパクトな自動車の場合、一般に、操舵前輪は、外側に向かって(トーアウト)少なくとも35°だけ向くことができ、内側に向かって(トーイン)25°だけ向くことができることが望ましい。
【0024】
かくして、本発明のアクチュエータは、その動作距離に関して極めてコンパクトである。さらに、このアクチュエータが2つの電気的に独立したモータから成るということにより、車輪の操舵に関するデータの冗長性の実現及び出力減少時における単一のモータによる劣化モードでの作動が可能になる。
【0025】
本発明の接地システム及びアクチュエータは、2つ、3つ又は4つ或いはそれ以上の車輪を有する車両内に使用でき、操舵車輪は、これら車両のフロント及び(又は)リヤのところに配置される。
【0026】
本発明の接地システムの一利点は、操舵を制御する手段が懸架状態のままであるが、この接地システムが、機能の全てを車輪内又は車輪のすぐ近くに1つにまとめているということにある。車両が例えば仏国特許出願第04/07897号明細書に記載されている高さ制御手段を更に有する場合、即ち、車両の車体に対する支持アームの位置を変えて車両の車高を変化させることができる場合、本発明によれば、伸縮式操舵アクチュエータを例えば上側ばね支持体と懸架装置支持体4との間又は操舵レバー13とテークアップレバー12(ブラケット14)との間、若しくは懸架装置支持体4と操舵レバー13との間に配置するよう選択することが可能である(なお、部材番号は、この場合、仏国特許出願第04/07897号明細書の部材番号であり、これについては、特に図1及び図3を参照されたい)。支持アーム(本明細書では部材番号8)は、仏国特許出願第04/07897号明細書の部材番号4が付けられた「懸架装置支持体」の機能と同一の機能を有している。
【0027】
仏国特許出願第04/09986号明細書は、本発明の接地システムの懸架手段、トラクション手段及び制動手段の好ましい実施形態を詳細に記載している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の接地システムの好ましい実施形態の斜視図である。
【図2】本発明の接地システムの好ましい実施形態の斜視図である。
【図3】本発明の接地システム用の伸縮式電気アクチュエータの好ましい実施形態の断面図である。
【図4】本発明の接地システム用の伸縮式電気アクチュエータの好ましい実施形態の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の接地システム(1)であって、前記接地システムは、操舵車輪(2)及び前記操舵車輪用の懸架装置(3)を有し、非懸架要素が、前記操舵車輪の軸線と一体であり、懸架要素が、前記自動車の車体と一体であるようになっており、前記車輪の操舵は、電気アクチュエータ(9)によって直接制御され、前記アクチュエータは、懸架要素(8,10)相互間で作用することを特徴とする接地システム。
【請求項2】
前記電気アクチュエータは、伸縮式アクチュエータである請求項1記載の接地システム。
【請求項3】
前記自動車の垂直懸架装置は、前記車輪の体積内に配置されたスライド機構体(4)により影響され、前記スライド機構体は、前記車輪のキャリヤ(6)と一体の実質的に垂直なバー(5)と、前記バー上で摺動するスライダ(7)とを有し、前記スライダそれ自体は、前記自動車の前記車体に連結された支持アーム(8)に対して回転するよう設けられ、前記支持アームに対する前記スライダの回転は、実質的に垂直な軸線回りの前記車輪キャリヤの操舵運動を可能にする請求項1又は2記載の接地システム。
【請求項4】
前記電気アクチュエータ(9)は、前記支持アーム(8)と、前記スライダと一体のレバー(10)との間で作用する請求項2又は3記載の接地システム。
【請求項5】
前記アクチュエータは、ナット(19)の回転により軸方向に動かされるねじ(18)を有し、前記ナットは、回転電気モータ(21,23)のシャフト(20)と一体である、請求項2乃至4の何れか1項に記載の接地システム。
【請求項6】
前記アクチュエータは、2つの電気的に独立したモータを有し、前記シャフト(20)は、前記2つのモータの2つのロータ(21,22)の各々と一体である請求項5記載の接地システム。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の接地システムの操舵のための伸縮式電気ねじアクチュエータであって、前記アクチュエータは、本体(16)と、ロッド(17)と、少なくとも1つの回転電気モータとを有し、前記ロッドは、ねじ/ナットシステム(18,19)によって前記モータにより動かされ、前記ナットは、前記少なくとも1つの電気モータのシャフト(20)によって回転駆動され、前記ねじの一端部は、前記本体と一体の管(32)内で並進的に案内され、前記管は、前記シャフト内に設けられていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項8】
少なくとも2つの独立ロータ/ステータ組立体(21,23,22,24)を有し、前記ステータ(23,24)は、前記アクチュエータの前記本体と一体であり、前記ロータ(21,22)は、前記シャフトによって前記ナット(19)と一体であり、前記ロッド(17)は、前記ねじ(18)と一体である請求項7記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記シャフトは、転がり軸受(25,26)によって前記本体に対して回転的に案内される請求項7又は8記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記管は、更に、前記シャフト内で半径方向に支承状態にある、請求項7乃至9の何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項11】
前記ロッドの移動に対する機械的停止部(33,34,35)を更に有する請求項7乃至10の何れか1項に記載のアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−501107(P2009−501107A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520865(P2008−520865)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【国際出願番号】PCT/EP2006/064084
【国際公開番号】WO2007/006776
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(599105403)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (228)
【Fターム(参考)】