説明

車両用エンジンの出力制御装置

【課題】変速時トルク要求に対し高応答トルク制御が可能で、しかも、排気浄化性能の低下を有効に抑制できる車両用エンジンの出力制御装置を提供する。
【解決手段】自動変速機の変速動作に対応するエンジン出力の変更を要求するトルク要求信号がTCC(変速機制御コンピュータ)で生成され、ECC(エンジン制御コンピュータ)が少なくともインジェクタ23の制御をトルク要求信号に応じて実行する車両用エンジンの出力制御装置において、ECCは、トルク要求信号に応じてインジェクタ23を制御する第1制御信号q1を、TCCおよびECCのうちいずれか一方は、第1制御信号q1に対し燃料噴射量要求値が一時的に大きくなりインジェクタ23以外の特定のアクチュエータ24、36、62を制御する第2制御信号q2を、それぞれ生成し、ECCが、トルク要求信号に応じたインジェクタ23の制御とは異なる条件でアクチュエータ24、36、62を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エンジンの出力制御装置に関し、特に電子制御方式のエンジンおよび自動変速機を搭載した車両において変速時にトランスミッションコントロールコンピュータからのトルク要求に対してエンジンの出力トルクを制御する車両用エンジンの出力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子制御方式のエンジンおよび自動変速機を搭載した車両において、変速ショックの低減と応答性の向上との両立を図るべく、自動変速機を電子制御するトランスミッションコントロールコンピュータからエンジンの電子制御を司るエンジンコントロールコンピュータに変速に際してのトルク要求信号(ここでは、トルクアップ要求信号やトルクダウン要求信号といったトルク変更要求信号の意)を出力し、変速に適したエンジンの出力トルク制御を行う装置を搭載したものがある。
【0003】
従来のこの種の車両用エンジンの出力制御装置としては、例えば通常は燃料噴射量に基づいて排気通路から吸気通路へのEGR(Exhaust Gas Recirculation;排気再循環)通路を通したEGR量を制御するものの、変速時にはその制御に代えて、エンジンへの出力要求および変速機の変速態様から予測される変速直後のエンジン出力トルクに基づいてEGR量を制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、道路情報や運転者の運転操作入力等から機関負荷の増大が予測される場合に、その負荷変動が実際に生じる前に、EGR通路を通した外部EGR量に対して、エンジンの排気および吸気行程間のバルブオーバーラップによる内部EGR量の比率を高めておき、機関負荷の増大時にEGR率を即座に低下させ得るようにして、EGRの応答遅れによる排気エミッションの低下や燃料噴射量の制限による応答遅れの解消を図ったものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−144027号公報
【特許文献2】特開2007−303437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来の車両用エンジンの出力制御装置にあっては、変速時に、その変速後に要求されるエンジン出力トルクに基づいてトランスミッションコントロールコンピュータからエンジンコントロールコンピュータにトルク要求信号が出され、そのトルク要求信号に基づいて、燃料噴射量、噴射圧、ディーゼルスロットル、EGR量(外部EGR量)等が同時に制御されていたため、例えばコモンレール式の過給機付のディーゼルエンジンにおいて、シフトダウン時のトルクアップ要求に対して、エンジン側で過給圧や噴射圧の上昇が追い付かないために燃料噴射量が制限されてしまい、トルクアップ要求に対する高応答性が得られ難いという問題があった。
【0006】
また、トルクダウン要求時には、そのトルクダウン要求に対応する噴射量の低下とそれに伴うエンジン回転数の低下に加えて、噴射量−エンジン回転数マップから求められるEGR開度値がトルクダウン要求を反映して急上昇していたため、EGR量の過多によりスモークが発生し易くなり、排気浄化性能が低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、変速時のトランスミッションコントロールコンピュータ側からのトルク要求に対しエンジンコントロールコンピュータでの高応答のトルク制御が可能で、しかも、排気浄化性能の低下を有効に抑制することのできる車両用エンジンの出力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両用エンジンの出力制御装置は、上記目的達成のため、(1)エンジンの運転状態を操作するよう前記エンジンに装着された複数のアクチュエータを制御して前記エンジンを電子制御するエンジンコントロールコンピュータと、前記エンジンと共に車両に搭載され前記エンジンから出力される動力を変速することができる自動変速機の変速を要求する変速要求信号を検出する変速要求検出手段と、前記自動変速機を前記車両の運転状態に応じて電子制御するトランスミッションコントロールコンピュータと、を備え、前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたとき、前記エンジンからの出力トルクを前記自動変速機の変速動作に対応して変化させることを要求するトルク要求信号が前記トランスミッションコントロールコンピュータにより生成され、前記エンジンコントロールコンピュータが、前記複数のアクチュエータのうち少なくとも前記エンジン内の実燃料噴射を実行する第1のアクチュエータを前記トルク要求信号に応じて制御する車両用エンジンの出力制御装置において、前記エンジンコントロールコンピュータは、前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたときに前記トルク要求信号に応じ変化する燃料噴射量を要求する信号であって前記第1のアクチュエータを制御する第1制御信号を生成し、前記トランスミッションコントロールコンピュータおよび前記エンジンコントロールコンピュータのうちいずれか一方は、前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたときに前記第1制御信号に対して燃料噴射量の要求値が一時的に大きくなる信号であって前記複数のアクチュエータのうち前記第1のアクチュエータ以外の特定のアクチュエータを制御する第2制御信号を生成し、前記エンジンコントロールコンピュータが、前記トルク要求信号に応じた前記第1のアクチュエータの制御とは異なる条件で前記特定のアクチュエータを制御するものである。
【0009】
この構成により、変速要求検出手段により変速要求信号が検出されると、トルク要求信号に応じ変化する燃料噴射量を要求する第1制御信号と、第1制御信号に対して燃料噴射量の要求値が一時的に大きくなる第2制御信号とが生成され、トルク要求信号に応じた第1のアクチュエータの制御とは異なる条件で特定のアクチュエータが制御される。したがって、トルクアップ要求に対して、特定のアクチュエータの応答遅れのために噴射量が制限されてしまうという問題が解消され、トルクアップ要求に対する高応答性が得られる。また、トルクダウン要求時に、そのトルクダウン要求に対応する噴射量の低下とそれに伴うエンジン回転数の低下に対して、特定のアクチュエータの制御量が、その噴射量とエンジン回転数に応じて急変してしまい排気浄化性能等に悪影響を及ぼすといったことが未然に防止される。
【0010】
上記(1)に記載の構成を有する車両用エンジンの出力制御装置においては、(2)前記エンジンコントロールコンピュータが、前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたとき、前記トルク要求信号に対応する燃料噴射量を要求する前記第1制御信号を生成する第1制御信号生成部と、前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたとき、前記第1制御信号および前記第2制御信号のうち前記燃料噴射量の要求値が大きい方の制御信号を選択し、前記特定のアクチュエータを該燃料噴射量の要求値が大きい方の制御信号によって制御する制御信号選択部と、を含んで構成され、前記トランスミッションコントロールコンピュータおよび前記エンジンコントロールコンピュータのうちいずれか一方が、前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたとき、前記トルク要求信号に対応しない燃料噴射量を要求する前記第2制御信号を生成する第2制御信号生成部を含んで構成されていることが望ましい。
【0011】
この構成により、トルクアップ要求の場合、変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたときに第1制御信号に先行して第2制御信号を生成するようにすれば、特定のアクチュエータがトルクアップ要求に先行して動かされ、その応答遅れのために噴射量が制限されてしまうことがなくなり、トルクアップ要求に対する高応答性が得られる。また、トルクダウン要求の場合、そのトルクダウン要求に対応する噴射量の低下とそれに伴うエンジン回転数の低下によって第1制御信号が急に低下しても、特定のアクチュエータの制御量が、第2制御信号の制御量でガードされることになり、その制御量の急変による排気浄化性能への悪影響等が未然に防止される。
【0012】
上記(1)、(2)に記載の構成を有する車両用エンジンの出力制御装置においては、(3)前記トランスミッションコントロールコンピュータからの前記トルク要求信号が前記エンジンからの出力トルクを前記自動変速機の変速の動作に対応して増大させることを要求するトルクアップ要求信号となる場合に、前記トランスミッションコントロールコンピュータおよび前記エンジンコントロールコンピュータのうちいずれか一方が、前記変速要求検出手段の検出情報に基づいて前記トルクアップ要求信号の送信前に見込みトルク要求信号を生成し、前記エンジンコントロールコンピュータが、前記トルクアップ要求信号に応じた前記第1のアクチュエータの制御前に、前記特定のアクチュエータの制御を前記見込みトルク要求信号に対応する前記第2制御信号により開始するのが好ましい。
【0013】
この構成により、特定のアクチュエータがトルクアップ要求に先行して動かされ、その応答遅れのために噴射量が制限されてしまうことがなくなり、トルク要求に対して迅速に目標回転数に到達できるような高応答性が確保される。
【0014】
上記(1)、(2)に記載の構成を有する車両用エンジンの出力制御装置においては、(4)前記トランスミッションコントロールコンピュータからの前記トルク要求信号が前記エンジンからの出力トルクを前記自動変速機の変速の動作に対応して減小させることを要求するトルクダウン要求信号となる場合に、前記トランスミッションコントロールコンピュータおよび前記エンジンコントロールコンピュータのうちいずれか一方が、前記自動変速機の変速に際して前記トルク要求信号を反映せず前記実燃料噴射量に応じて変化するよう前記第2制御信号を生成し、前記エンジンコントロールコンピュータが、前記トルクダウン要求信号に応じた前記第1のアクチュエータの制御から独立して、前記特定のアクチュエータの制御を前記第2制御信号により前記実燃料噴射量に応じて変化させるのが好ましい。
【0015】
この構成により、トルクダウン要求の場合に、そのトルクダウン要求に対応する噴射量の低下とそれに伴うエンジン回転数の低下によって第1制御信号が急に低下しても、特定のアクチュエータの制御量が、実燃料噴射量に応じて変化する第2制御信号の制御量でガードされ、その制御量の急変による排気浄化性能への悪影響等が未然に防止される。
【0016】
上記(1)〜(4)に記載の構成を有する車両用エンジンの出力制御装置においては、(5)前記エンジンが、ディーセルエンジンで構成され、前記特定のアクチュエータが、前記エンジンの吸入空気を操作する第2のアクチュエータを含むものであってもよい。
【0017】
この構成により、トルクアップ要求の場合、変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたときに第1制御信号に先行して第2制御信号を生成するようにすれば、吸入空気を操作する第2のアクチュエータがトルクアップ要求に先行して動かされ、吸気系の応答遅れのために噴射量が制限されてしまうことがなくなり、トルクアップ要求に対する高応答性が得られる。また、トルクダウン要求の場合、そのトルクダウン要求に対応する噴射量の低下とそれに伴うエンジン回転数の低下によって第1制御信号が急に低下しても、吸入空気を操作する第2のアクチュエータの制御量が、第2制御信号の制御量でガードされることになり、その制御量の急変による排気浄化性能への悪影響等が未然に防止される。
【0018】
上記(1)〜(5)に記載の構成を有する車両用エンジンの出力制御装置においては、(6)前記エンジンが、燃料を高圧で蓄圧および貯留するコモンレールを備えたディーセルエンジンで構成され、前記特定のアクチュエータが、前記コモンレールへの高圧燃料の供給量を制御する第3のアクチュエータを含むものであってもよい。
【0019】
この構成により、トルクアップ要求の場合に、変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたときに第1制御信号に先行して第2制御信号を生成するようにすれば、コモンレール圧を変化させる第3のアクチュエータがトルクアップ要求に先行して動かされ、燃料噴射圧の応答遅れのために噴射量が制限されてしまうことがなくなり、トルクアップ要求に対する高応答性が得られる。
【0020】
上記(5)に記載の構成を有する車両用エンジンの出力制御装置においては、(7)前記エンジンが、排気側から吸気側への排気再循環通路を有し、前記第2のアクチュエータが、前記エンジンの吸入空気中における新気の吸入量を制御するとともに前記排気再循環通路を通した排気再循環量を変化させるディーゼルスロットルバルブを含むものであってもよい。
【0021】
この構成により、トルクアップ要求の場合、変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたときに第1制御信号に先行して第2制御信号を生成するようにすれば、吸入空気量およびEGR量を操作する第2のアクチュエータがトルクアップ要求に先行して動かされ、吸気系の応答遅れのために噴射量が制限されてしまうことがなくなり、トルクアップ要求に対する高応答性が得られる。また、トルクダウン要求の場合、そのトルクダウン要求に対応する噴射量の低下とそれに伴うエンジン回転数の低下によって第1制御信号が急に低下しても、吸入空気量およびEGR量を操作する第2のアクチュエータの制御量が、第2制御信号の制御量でガードされることになり、そのEGR量の過多による排気浄化性能への悪影響等が未然に防止される。
【0022】
上記(5)、(7)に記載の構成を有する車両用エンジンの出力制御装置においては、(8)前記エンジンが、排気側から吸気側への排気再循環通路を有し、前記第2のアクチュエータが、前記排気再循環通路を通した排気再循環量を制御する排気再循環バルブを含むものであってもよい。
【0023】
この構成により、トルクアップ要求の場合、変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたときに第1制御信号に先行して第2制御信号を生成するようにすれば、EGR量を操作する第2のアクチュエータがトルクアップ要求に先行して動かされ、EGR量の応答遅れのために噴射量が制限されてしまうことがなくなって、トルクアップ要求に対する高応答性が得られる。また、トルクダウン要求の場合、そのトルクダウン要求に対応する噴射量の低下とそれに伴うエンジン回転数の低下によって第1制御信号が急に低下しても、EGR量を操作する第2のアクチュエータの制御量が、第2制御信号の制御量でガードされることになり、EGR量の過多による排気浄化性能への悪影響等が未然に防止される。
【0024】
上記(3)に記載の構成を有する車両用エンジンの出力制御装置においては、(9)前記トランスミッションコントロールコンピュータが、有段の変速操作入力に応じて前記自動変速機を制御する有段変速制御モードを有し、前記トランスミッションコントロールコンピュータおよび前記エンジンコントロールコンピュータのうちいずれか一方が、前記有段変速制御モード下での前記変速操作入力に応じた変速に際して前記見込みトルク要求信号を出力するのが好ましい。
【0025】
この構成により、高トルク応答性が要求される有段変速制御モード下での変速操作入力に対して、高応答のトルクアップが可能になり、車両のドライバビリティが向上する。
【0026】
なお、前記エンジンが、排気側から吸気側への排気再循環通路を有するとともに、前記吸入空気を過給する可変容量式のターボ過給機あるいは排気絞り弁を有する場合、前記第2のアクチュエータが、前記ターボ過給機の容量を可変制御するアクチュエータあるいは排気絞り弁制御用のアクチュエータを含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、変速要求検出手段により変速要求信号が検出されるとき、トルク要求信号に応じ変化する第1制御信号と、第1制御信号に対して燃料噴射量の要求値が一時的に大きくなる第2制御信号とを生成し、トルク要求信号に応じた第1のアクチュエータの制御とは異なる条件で特定のアクチュエータを制御するようにしたので、トルクアップ要求時に特定のアクチュエータの応答遅れのために噴射量が制限されてしまうという問題を解消し、トルクアップ要求に対する高応答性を得ることができる。また、トルクダウン要求に対応する噴射量の低下とそれに伴うエンジン回転数の低下に対して、特定のアクチュエータの制御量がその噴射量とエンジン回転数に応じ急変してしまうのを抑制することで、排気浄化性能等に悪影響を及ぼすことを未然に防止することができる。その結果、変速時のトランスミッションコントロールコンピュータ側からのトルク要求に対しエンジンコントロールコンピュータでの高応答のトルク制御が可能で、しかも、排気浄化性能の低下を有効に抑制することのできる車両用エンジンの出力制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用エンジンの出力制御装置の概念的構成を示すブロック図である。また、図2は、一実施形態に係る車両用エンジンとその出力制御装置の概略構成図で、本発明を多気筒のディーゼルエンジンに適用した例を示している。
【0030】
まず、その構成について説明する。
【0031】
図2に示すエンジン1は、車両用の走行駆動源であり、公知のトルクコンバータ2およびロックアップ機構3を有する自動変速機5に対して、回転動力を出力するようになっている。
【0032】
エンジン1は、例えばディーゼルエンジンであり、そのエンジンブロック10中に複数の気筒11を有している。このエンジン1には、各気筒11内の燃焼室(詳細を図示していない)に燃料を噴射するコモンレール型の燃料噴射装置12と、燃焼室に空気を吸入させる吸気装置13と、燃焼室からの排気ガスを排気させる排気装置14と、排気装置14内の排気エネルギを利用して吸気装置13内の空気を圧縮し燃焼室に空気を過給するターボ過給機15と、排気の一部を吸気側に還流させ再循環させるEGR装置16とが装備されている。
【0033】
自動変速機5は、例えばいわゆるシーケンシャルのマニュアルシフト機能を備えた多段(有段)変速機であり、車室内には、例えばドライバの好みに応じて、複数の走行モード、例えば自動変速モードおよびマニュアルシフトモードのうちいずれかを選択する操作がなされるモード切替えスイッチ26と、このモード切替えスイッチ26の切替え操作を含むマニュアルシフトモードのレバー操作と自動変速モードでのレンジ選択操作とが可能なシフトレバー27と、このシフトレバー27がシーケンシャルのマニュアルシフトモードのレバー操作領域内で操作されるとき、例えばその操作領域の一方側に傾ける操作をシフトアップ要求操作、他方側に傾ける操作をシフトダウン要求操作として検出するシフトポジションセンサ28と、が装備されている。なお、自動変速機5は、いわゆるスポーツシフト等のマニュアルシフト機能を備えた無段変速機(CVT)であってもよい。
【0034】
燃料噴射装置12は、図示しない燃料タンクから燃料(例えば、軽油)を汲み上げるフィードポンプおよび汲み上げた燃料を高燃圧(燃料圧力)に加圧するプランジャー型の加圧ポンプを一体化したサプライポンプ21と、そのサプライポンプ21から吐出される高燃圧の燃料を蓄圧・貯留するコモンレール22と、このコモンレール22を通して供給される燃料を後述するエンジンコントロールコンピュータ(以下、ECCという)50からの噴射指令信号に対応するタイミング及び開度(デューティー比)でエンジン1の燃焼室内に噴射するインジェクタ23と、を含んで構成されている。
【0035】
サプライポンプ21は、そのフィードポンプと加圧ポンプとの間に可変絞り要素である電磁式の調量バルブ24(第3のアクチュエータ)および図示しない吸入側のチェック弁を内蔵しており、燃料吸入量をこの調量バルブ24により調量しつつ吸入側のチェック弁を通し加圧ポンプに燃料を吸入させる。また、サプライポンプ21は、この加圧ポンプにより加圧した高圧の燃料を図示しない吐出側のチェック弁を通してコモンレール22に供給するようになっている。
【0036】
コモンレール22には、公知のリリーフ弁からなる圧力リミッタと燃料圧力センサ25とが装着されており、燃料圧力センサ25により検出される実コモンレール圧(コモンレール22内の燃料の圧力)と運転状態に応じてECC50により設定される目標コモンレール圧とに基づいて調量バルブ24がECC50により制御されることで、コモンレール圧が目標コモンレール圧に制御される。
【0037】
サプライポンプ21は、例えばエンジン1の回転動力を利用して駆動され、コモンレール22はサプライポンプ21から供給された高圧燃料を均等に蓄圧しながら複数のインジェクタ23に分配・供給する。
【0038】
複数のインジェクタ23は、それぞれ公知の電磁駆動式のニードル弁で構成され、これらの駆動ユニットである公知の噴射駆動用電子配電ユニット(Electronic Distribution Unit;以下、EDUという)55に配線接続されている。これらのインジェクタ23は、各気筒11内の燃焼室内に露出する噴孔(符号なし)を有するとともにコモンレール17に接続され、EDU55からの通電時にその噴孔から対応する気筒11内に燃料を噴射するよう開弁駆動される。また、EDU55は、ECC50からの噴射指令信号に基づき、コモンレール22に接続された複数のインジェクタ23のうち圧縮行程中の気筒11に対応するインジェクタ23からその気筒11内の燃焼室に、噴射指令信号に応じた燃料噴射量の高圧燃料を噴射させるようになっている。
【0039】
吸気装置13には、吸気マニホルド31と、それより上流側の吸気管32と、吸気管32の上流側でフィルタにより吸入空気を清浄化するエアクリーナ33と、ターボ過給機15より下流側で過給により昇温した吸入空気を冷却するインタークーラ34と、新気の吸入流量を検出するエアフローメータ35と、エンジン1内への新気の吸入量を調整するとともにEGR装置16の出口圧を変化させることができるディーゼルスロットルバルブ36(第2のアクチュエータ)と、吸気温度センサ37とが、それぞれ装着されている。これらの構成自体は公知のものと同様である。
【0040】
排気装置14は、排気マニホルド41と、それより下流側の排気管42と、ターボ過給機15より下流側の排気管42に装着された排気後処理装置43と、を含んで構成されている。なお、排気後処理装置43は、例えば排気中の未燃燃料分である炭化水素HCや一酸化炭素COを酸化させて水HOや二酸化炭素COとすることができる公知の酸化触媒と、その触媒を通過した排気中のPM成分を捕集するDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)とを併用した公知のものである。
【0041】
ターボ過給機15は、互いに回転方向一体に連結された吸入空気コンプレッサ15aおよび排気タービン15bを有する可変容量型のもので、排気タービン15bを排気エネルギにより回転させて吸入空気コンプレッサ15aを回転させ、エンジン1内に正圧の空気を吸入させることができる。
【0042】
このターボ過給機15における排気タービン15bは、詳細は図示しないが、タービン翼周りの排気通路に複数の可動ノズルベーン15vnが配置され、その可動ノズルベーン15vnの回動によって排気タービン15bを駆動する排気の流速(タービン翼に対する相対流速)を増加させるように可変ノズルを絞り、あるいは、その相対流速を減少させるように可変ノズルを開くことができるようになっている。そして、この可変ノズル方式のターボ過給機15の複数の可動ノズルベーン15vn(可変ノズル)を操作するアクチュエータ15vaが、ECC50によって制御されるようになっている。
【0043】
EGR装置16は、エンジン1内の燃焼室をバイパスして排気マニホルド41内の排気通路と吸気マニホルド31内の吸気通路とを連通させる排気還流用のEGR通路61を有しており、このEGR通路61には排気還流量を調整する例えば負圧作動式のEGRバルブ62(第2のアクチュエータ、排気再循環バルブ)と、EGR通路61を通って還流する排気を冷却するEGRクーラ63(排気冷却器)とが設けられている。EGR通路61は、エンジン1の排気通路側から吸気通路側に排気の一部を還流させる排気再循環通路であり、EGRクーラ63はその排気再循環通路の一部を冷却通路としている。また、EGRバルブ62は排気再循環通路を吸気通路に接続させる開弁状態と、その接続を段階的に制限する絞り状態と、その接続を遮断する閉弁状態とに切替え可能になっている。
【0044】
ECC50は、後述するセンサ群からのセンサ情報を基に複数のアクチュエータを制御して、エンジン1を電子制御するようになっている。ここにいう複数のアクチュエータとは、エンジン1の運転状態を操作するようエンジン1に装着されたアクチュエータ類で、例えば図2中に示すディーゼルスロットルバルブ36の開度を操作するアクチュエータ36m、ダイヤフラム式のEGRバルブ62の開度を制御する負圧制御バルブおよびEGRバルブ62の閉弁(OFF)時に負圧を解放するためのスイッチングバルブ(共に図示していない)、電磁式の調量バルブ24、電磁燃料噴射弁であるインジェクタ23、可動ノズルベーン15vnの制御用アクチュエータ15vaおよび図示しない複数のリレー回路等である。
【0045】
ECC50は、具体的なハードウェアの構成を図示しないが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)および不揮発メモリ等のバックアップ用メモリを含み、さらに、A/D変換器等を含む入力インターフェース回路と、ドライバ回路等を含む出力インターフェース回路と、他の車載ECU、例えば自動変速機5を制御するトランスミッションコントロールコンピュータ(以下、TCC)70との通信のための通信インターフェースと、を含んでいる。
【0046】
このECC50は、エンジン1の回転速度や負荷に応じた最適な噴射時期および噴射量を算出したり、調量バルブ24の開度を調節してコモンレール22内の燃料の圧力をエンジン1の運転状態に適した目標燃料コモンレール圧に追従させたりするための制御プログラムをROMに記憶させて内蔵しており、エンジン1の複数の気筒11のうち圧縮行程がほぼ完了した噴射時期の気筒11中に燃料を噴射させるようにEDU55への指令信号を生成するようになっている。
【0047】
また、ECC50は、燃料圧力センサ25の検出信号Pcを取り込んで、コモンレール22内の燃料の圧力、すなわち実コモンレール圧を検出するとともに、エンジン1の運転状態に応じて設定される目標コモンレール圧と実コモンレール圧とを比較して、コモンレール22内の実コモンレール圧が目標コモンレール圧と一致するように調量バルブ24の開度を調節するようになっている。
【0048】
さらに、ECC50には、燃料圧力センサ25の他に、エンジン1のクランク回転速度を検出する回転数センサ81(回転速度検出手段)、エンジン1を搭載した車両(図示していない)上でアクセル開度を検出するアクセル開度センサ82、その車両の車速を検出する車速センサ83、エンジン1の冷却水温度を検出する水温センサ84、過給圧センサ85等のセンサ群が接続されている。
【0049】
このECC50は、ROM内に予め格納された制御プログラムに従い、例えば回転数センサ81からのパルス信号をエンジン1のクランク回転信号および圧縮行程から膨張行程に移行する気筒を判別可能な気筒判別信号(例えばパルサの欠歯位置に対応する信号)として取り込むとともに、アクセル開度センサ82からのアクセル開度信号を取り込んで、エンジン回転速度、負荷および噴射時期の気筒を把握する。そして、エンジン回転速度および負荷に応じた燃料を最適なタイミングで噴射時期の気筒内に噴射できるように、エンジン1の運転時におけるコモンレール22の目標コモンレール圧を設定するとともに噴射時期および燃料噴射量を算出し、EDU55と協働して、調量バルブ24への開度調整信号(図1参照)やインジェクタ23の電磁弁部への噴射指令信号を適時に出力することで、インジェクタ23による燃料噴射の噴射量、噴射時間および噴射率を制御するようになっている。なお、そのような制御自体は公知であるので、ここでは詳述しない。
【0050】
一方、自動変速機5側のモード切替えスイッチ26およびシフトポジションセンサ28の検出情報は、自動変速機5を車両の運転状態に応じて電子制御するTCC70に入力されるようになっている。
【0051】
このTCC70は、通常、車両の運転状態、例えばECC50からEDU55への指令噴射量のデータ、シフトポジションセンサ28により検出されるシフトポジション、アクセル開度センサ82、車速センサ83および水温センサ84からのセンサ情報等を基に、自動変速機5の変速およびロックアップ動作を最適化する制御を実行するようになっている。また、TCC70は、ECC50に対して変速に際しエンジン出力に要求される情報を出力することで、ECC50によるエンジン1側の出力制御と相俟って滑らかな変速特性が得られる制御を行うようになっている。
【0052】
具体的には、TCC70は、例えばモード切替えスイッチ26によりシーケンシャルのマニュアルシフトモードが設定された状態で、シフトレバー27へのシフトアップまたはシフトダウンの操作入力がなされたとき、その操作をシフトポジションセンサ28により検出し、そのシフト操作入力に対してドライバが体感すべき加速度や減速度が得られるように、エンジン1の燃焼状態、自動変速機5内の各摩擦係合要素の係合状態および変速前後の変速比の組み合わせ等を設定するとともに、ECC50に対してシフトダウン時にはトルクアップ要求を、シフトアップ時にはトルクダウン要求を、それぞれ出力するようになっている。
【0053】
ここで、TCC70は、モード切替えスイッチ26、シフトレバー27およびシフトポジションセンサ28と共に、自動変速機5の変速を要求する変速要求信号を検出する変速要求検出手段91(図1参照)を構成している。なお、この変速要求検出手段91は、パドルシフト操作等のような入力形態の異なる変速要求操作を検出するものであってもよいし、ドライバによるブレーキ操作入力のように変速の要否に影響するような操作入力を検出するものであってもよい。さらに、各種操作入力や運転状態、車両走行環境(路面の傾斜等)に応じてTCC70内で変速が必要であると判定されたときに、変速要求検出手段91により変速要求信号が検出されたものとしてもよい。
【0054】
図1に概略ブロック図で示すように、本実施形態においては、このように少なくともマニュアルシフトモード下で変速要求検出手段91により変速要求信号が検出されたとき、エンジン1からの出力トルクを自動変速機5の変速動作に対応して変化させることを要求するトルク要求信号が、トルクアップ要求またはトルクダウン要求としてTCC70のトルク要求信号生成部92によって生成され、さらに、ECC50が、複数のアクチュエータのうち少なくともエンジン1内の実燃料噴射を実行するインジェクタ23(第1のアクチュエータ)をTCC70からのトルク要求信号に応じて制御する、という統合制御が実行されるようになっている。
【0055】
ここで、ECC50は、機能的には、変速要求検出手段91により変速要求信号が検出されたとき、TCC70からのトルク要求信号に対応する燃料噴射量を要求する第1制御信号q1(トルク変更の要求を反映した要求噴射量値)を生成する第1制御信号生成部101を備えており、ECC50およびTCC70のいずれか一方、例えばTCC70は、機能的には、変速要求検出手段91により変速要求信号が検出されたとき、TCC70からのトルク要求信号に対応しない燃料噴射量q2(トルク変更の要求を反映しない要求噴射量値)を要求する第2制御信号を生成する第2制御信号生成部102を備えている。
【0056】
また、ECC50は、変速要求検出手段91により変速要求信号が検出されたとき、第1制御信号q1および第2制御信号q2のうち燃料噴射量の要求値が大きい方の制御信号q1またはq2を選択し、複数のアクチュエータのうちインジェクタ23以外の特定のアクチュエータ、例えば後述する吸気系および燃料系のアクチュエータをその燃料噴射量の要求値が大きい方の制御信号q1またはq2によって制御するMAX回路103(制御信号選択部)を含んで構成されている。
【0057】
ECC50は、具体的には、MAX回路103の出力に基づいて吸気系および燃料系のアクチュエータ、例えばディーゼルスロットルバルブ36その開度を操作するアクチュエータ36m、EGRバルブ62の負圧制御バルブや閉弁時(OFF時)負圧解放用のスイッチングバルブ並びに電磁式の調量バルブ24、あるいは更に可変ノズル制御用のアクチュエータ15va等(以下、これらを総称して特定のアクチュエータ24、36、62ともいう)の制御量を設定する吸気系・燃料系アクチュエータ制御量設定部104と、TCC70側からのトルクアップ要求を受信したとき、そのトルクアップ分を上乗せしたガバナ噴射量(第1制御信号q1に対応する)にさらにドライバビリティやスモーク抑制等のための補正を加えたいわゆるなまし制御の噴射量を算出するなまし制御用噴射量算出部105と、このなまし制御用噴射量算出部105での算出結果を最大噴射量ガード値でガードするために、吸入空気量等に基づいて最大噴射量ガード値を内蔵マップから算出する最大噴射量ガード設定部106と、を含んで構成されている。そして、その最大噴射量ガード値以下となるように最終噴射量が決定され、噴射時期の気筒11のインジェクタ23からその最終噴射量の燃料が噴射されるようになっている。
【0058】
すなわち、変速要求検出手段91により変速要求信号が検出されたときに、ECC50の第1制御信号生成部101で、TCC70からのトルク要求信号に応じ変化する燃料噴射量を要求する信号であってインジェクタ23を制御する第1制御信号q1を生成し、ECC50およびTCC70のいずれかに設けられる第2制御信号生成部102で、変速要求検出手段91により変速要求信号が検出されたときに第1制御信号q1に対して燃料噴射量の要求値が一時的に大きくなる信号であって複数のアクチュエータのうちインジェクタ23以外の特定のアクチュエータ24、36、62を制御する第2制御信号q2(後述する見込みトルク要求信号または/およびEGR制御噴射量)を生成し、ECC50のMAX回路103で、それら第1制御信号q1および第2制御信号q2のうち燃料噴射量の要求値が大きい方の制御信号q1またはq2が選択されることで、インジェクタ23以外の特定のアクチュエータ、例えばディーゼルスロットルバルブ36の開度を操作するアクチュエータ36m、EGRバルブ62の負圧制御バルブや閉弁時(OFF時)負圧解放用のスイッチングバルブ、電磁式の調量バルブ24、および可変ノズル制御用のアクチュエータ15va等の制御量を、インジェクタ23の制御とは異なる条件で、決定するようになっている。
【0059】
より具体的には、第2制御信号生成部102は、トルク要求信号がエンジン1からの出力トルクを自動変速機5の変速の動作に対応して増大させることを要求するトルクアップ要求信号となる場合に、変速要求検出手段91の検出情報に基づいてトルクアップ要求信号の送信に先立って、見込みトルク要求信号を生成する。
【0060】
ここにいう見込みトルク要求信号は、今回のシフトアップまたはシフトダウンの前後における変速比の組み合わせと、現在のエンジン回転数および現在の負荷とに応じて、変速中に増加または減少させるべきトルク値、あるいは、その増加または減少後のトルク値に相当するものであり、この見込みトルク要求のトルク値が、ECC50側で算出される場合には、変速要求検出手段91による検出情報と変速前後における変速比の組み合わせ等の情報が例えばCAN(Controller Area Network)通信によってTCC70からECC50側に送信される。
【0061】
この見込みトルク要求信号が生成されるとき、すなわち変速要求検出手段91により変速要求信号が検知された後であってTCC70からのトルク要求信号がECC50に受信されるまでの間、MAX回路103の出力は、見込みトルク要求信号に対応する第2制御信号q2となる。
【0062】
この見込みトルク要求信号に対応する第2制御信号q2は、例えばエンジン回転数と現在の負荷、変速比の組み合わせ等に応じてECC50で算出されるいわゆるガバナ噴射量(ドライバビリティやスモーク抑制のための補正がなされる前の噴射量値で、現在のエンジン回転数を目標回転数に一致させるための基本噴射量)に相当する値である。
【0063】
吸気系・燃料系アクチュエータ制御量設定部104は、トルクアップ要求に応じた第1制御信号q1によるインジェクタ23の制御より前に、トルクアップ要求を反映しない見込みトルク要求信号に対応する第2制御信号q2を受けて、EGR装置16のEGRバルブ62の開度、ディーゼルスロットルバルブ36の開度および調量バルブ24の開度をそれぞれ制御するときの制御量を、ECC50内に予め格納された噴射量−エンジン回転数マップからそれぞれ算出するための噴射量相当の制御値a1、a2、a3(吸気系・燃料系のアクチュエータ制御用噴射量)として生成する。すなわち、EGR装置16のEGRバルブ62の開度、ディーゼルスロットルバルブ36の開度および調量バルブ24の開度を、TCC70からの本来のトルク要求信号に応じてインジェクタ23を噴射駆動するより前に、それぞれ噴射量相当の制御値a1、a2、a3に対応する開度に変化させるようになっている。
【0064】
また、EGRバルブ開度やディーゼルスロットル開度、あるいはコモンレール圧をそれぞれ制御するための制御量は、例えば燃料噴射量(Q)とエンジン回転数(NE)に基づいて制御量を特定するQ−NEマップを参照して決定される場合、その燃料噴射量Qとして噴射量相当の制御値a1、a2、a3を決定し、エンジン回転数NEを決定すれば、それらに対応する位置(運転状態)で何%の開度かが特定される。
【0065】
従前であれば、実噴射量の変化に応じてEGR開度等の制御量を算出するところ、本実施形態では、先読みした噴射量(ガバナ噴射量)相当の制御値a1、a2、a3を基に、Q−NEマップからEGR開度、ディーゼルスロットル開度、コモンレール圧に対応する基本噴射圧等の目標となる制御量(目標回転数にするために求められる燃焼状態が得られる制御量)が決まり、それらを操作するアクチュエータであるEGRバルブ62、ディーゼルスロットル開度制御アクチュエータ36mおよび調量バルブ24を、トルクアップ要求を受信する前に先行して動作させるものである。
【0066】
ECC50は、基本的には、変速が無い場合、インジェクタ23により噴射される実際の燃料噴射量に応じて、EGRバルブ62、ディーゼルスロットルバルブ36および調量バルブ24の開度が決定するが、変速要求が有る場合、TCC70側からのトルクアップ要求を受信したときに、そのトルクアップ分を上乗せした出力制御を行う。また、燃料噴射量(負荷)が下がると、EGR率が高くなる設定を行う。
【0067】
一方、TCC70からのトルク要求信号がエンジン1の出力トルクを自動変速機の変速動作に対応して縮小・低下させることを要求するトルクダウン要求信号となる場合、TCC70およびECC50のうちいずれか一方、例えばTCC70は、自動変速機5の変速に際してトルク要求信号を反映せず実燃料噴射量に応じて変化するよう第2制御信号q2を生成する。そして、ECC50は、トルクダウン要求信号に応じたインジェクタ23の制御から独立して、それ以外の特定のアクチュエータであるEGRバルブ62、ディーゼルスロットルバルブ36および調量バルブ24の制御を、第2制御信号q2により実燃料噴射量に応じて実行するようになっている。
【0068】
具体的には、TCC70からのトルク要求信号がトルクダウン要求信号となる場合、第2制御信号生成部102は、変速要求検出手段91の検出情報等あるいはさらにアクセル開度センサ82からのアクセル開度情報等に基づいて、ガバナ噴射量相当の第2制御信号q2を出力する。
【0069】
変速要求検出手段91により変速要求信号が検知された後、TCC70からのトルクダウン要求信号がECC50に受信され、第1制御信号生成部101からの第1制御信号q1がトルクダウン要求を反映して低下することで、実噴射量の低下に伴ってエンジン回転数が低下するとき(図4(b)参照)、MAX回路103の出力は、ガバナ噴射量相当のトルク要求信号となる。
【0070】
この場合、吸気系・燃料系アクチュエータ制御量設定部104は、トルクダウン要求に応じた第1制御信号q1によるインジェクタ23の制御とほぼ同時に、トルクダウン要求を反映しないガバナ噴射量相当の第2制御信号q2を受けて、EGR装置16のEGRバルブ62の開度、ディーゼルスロットルバルブ36の開度および調量バルブ24の開度をそれぞれ制御するときの制御量を、ECC50内に予め格納された噴射量−エンジン回転数マップからそれぞれ算出するための噴射量相当の制御値a1、a2、a3として生成する。
【0071】
次に、作用について説明する。
【0072】
上述のように構成された本実施形態の車両用エンジンの出力制御装置においては、変速が無い場合、ECC50によって、エンジン1の回転速度や負荷に応じた最適な噴射時期および噴射量が算出され、インジェクタ23により噴射される実際の燃料噴射量が制御されるのと同時に、その燃料噴射量に応じて、EGRバルブ62、ディーゼルスロットルバルブ36および調量バルブ24の開度が、それぞれに決定されてエンジン1の運転状態に適した値に制御される。
【0073】
(トルクアップ要求時)
変速要求信号が発生する場合、例えば自動変速機5においてシーケンシャルのマニュアルシフトモードであるスポーツシフト制御が実行される状態下で、シフトダウンのためのトルクアップ要求が有る場合、ECC50では、TCC70側からのトルクアップ要求を受信したときに、そのトルクアップ分を上乗せしたエンジン出力制御が実行される。
【0074】
図3は、本実施形態の車両用エンジンの出力制御装置で実行されるトルクアップ要求時の出力制御の一例を示すタイミングチャートであり、自動変速機5においてシーケンシャルのマニュアルシフトモードであるスポーツシフト制御が実行されるときの主要な制御信号の変化を示している。
【0075】
まず、モード切替えスイッチ26によりマニュアルシフトモードが選択されると、スポーツシフト制御が開始される(図3(d)参照)。
【0076】
この状態においては、シフトレバー27がマニュアルシフトモードのレバー操作領域内で例えばその操作領域の一方側に傾けるようシフトアップ要求操作され、あるいは、他方側に傾けるようシフトダウン要求操作されると、そのような操作、例えばシフトダウン操作がシフトポジションセンサ28等の変速要求検出手段91により検出され、自動変速機5のシフトダウンを実施するか否かがTCC70により判定される(図3(a)参照)。なお、図3(a)中の「シフトダウン実施判定時間」とは、シフト操作入力の検知時点から見込みトルク要求信号を生成できるまでの期間である。
【0077】
ここで、TCC70において、自動変速機5のシフトダウンを実施するとの判定がなされれば、次いで、自動変速機5に装備されたトルクコンバータ2の油圧等が変速前の油圧より高められ、シフト前の摩擦係合要素等の係合状態を解除する等の準備が、同図(a)中に「トルコン準備期間」として示す準備期間、例えば100msec(ミリ秒)程度の期間中に実行される。
【0078】
また、シフトダウン時にトルクアップが必要になる場合であって最終燃料噴射量の燃料噴射を実行すべきときには、吹き上げ要求期間として、TCC70からトルクアップ要求信号が送信され、ECC50に受信される(図3(b)参照)。
【0079】
このとき、ECC50では、TCC70側からのトルクアップ要求を受信すると、トルク要求信号に応じ変化する燃料噴射量、すなわちそのトルクアップ分を上乗せしたガバナ噴射量を要求する第1制御信号q1が算出され、その算出値からドライバビリティやスモーク抑制等のための補正を加えたいわゆるなまし制御の噴射量が算出され、この算出値が吸気量等に基づく最大噴射量のガード値以下となるように最終噴射量が決定されて、噴射時期の気筒11のインジェクタ23からその最終噴射量の燃料が噴射される(図3(e)参照)。
【0080】
一方、TCC70およびECC50のうちいずれか一方、例えばTCC70では、変速要求検出手段91により変速要求信号が検出されると即座に、すなわち、図3(b)に示す吹き上げ要求期間より前のトルクアップ要求期間中に、第1制御信号q1よりも燃料噴射量の要求値が一時的に大きくなる見込みトルク要求信号が生成される(図3(c)参照)。
【0081】
そして、ECC50では、その見込みトルク要求信号に対応する第2制御信号q2としての制御量、すなわち、EGRバルブ62の開度、ディーゼルスロットルバルブ36の開度および調量バルブ24の開度をそれぞれ制御するための制御量が、ECC50内のROM等に格納された噴射量−エンジン回転数マップからそれぞれ噴射量相当の制御値a1、a2、a3として算出される(図3(g)参照)。
【0082】
第1制御信号q1および第2制御信号q2は、MAX回路103で要求噴射量値の大きい方が選択されるので、トルクアップ要求期間より前のトルコン準備期間(図3(a)参照)では、トルクアップ要求を反映しない見込みトルク要求信号に対応する第2制御信号q2が吸気系・燃料系アクチュエータ制御量設定部104に入力され、一方、トルクアップ要求期間になると、トルクアップ分を上乗せしたガバナ噴射量を要求する第1制御信号q1が吸気系・燃料系アクチュエータ制御量設定部104に入力される。
【0083】
したがって、トルコン準備期間においては、吸気系・燃料系アクチュエータ制御量設定部104により、EGR装置16のEGRバルブ62の開度、ディーゼルスロットルバルブ36の開度および調量バルブ24の開度をそれぞれ制御するための制御量が、噴射量相当の制御値a1、a2、a3として生成され、TCC70からの本来のトルク要求信号に応じてインジェクタ23を噴射駆動するのに先立って、EGRバルブ62の開度、ディーゼルスロットルバルブ36の開度および調量バルブ24の開度を、それぞれ噴射量相当の制御値a1、a2、a3に対応する開度にする制御が開始される。
【0084】
そして、トルコン準備期間が経過し、トルクアップ要求期間になると、TCC70からのトルク要求信号に応じてインジェクタ23からの最終噴射量の燃料噴射が実行されるとともに、EGRバルブ62の開度、ディーゼルスロットルバルブ36の開度および調量バルブ24の開度が、それぞれトルコン準備期間とほぼ同様の開度で保持される。
【0085】
したがって、吹き上げ要求期間に同期してEGRバルブ62の開度、ディーゼルスロットルバルブ36の開度および調量バルブ24の開度の制御が実行される従来方式では、図3(f)中に破線で示すように、インジェクタ23によるトルクアップ分を上乗せした噴射が開始されるタイミング(図3(e)参照)より遅れてエンジン回転数が上昇し始めるのに対して、本実施形態では、見込みトルク要求信号に応じてEGRバルブ62の開度、ディーゼルスロットルバルブ36の開度および調量バルブ24の開度の制御が、TCC70からのトルクアップ要求に先行して開始されるので、インジェクタ23によるトルクアップ分を上乗せした噴射が開始されるタイミングとほぼ同時に基本噴射量が高められるときに、ディーゼルスロットル開度およびEGRバルブ開度が十分に縮小されていることになる(図3(g)〜図3(j)参照)。
【0086】
したがって、トルクアップ要求に対して、インジェクタ23以外の吸気系や燃料系のアクチュエータの応答遅れのために噴射量が制限されてしまうという問題が解消され、図3(f)中に実線で示すように、トルクアップ要求に対する応答性が従来よりも確実に高められることになる。
【0087】
(トルクダウン要求時)
一方、例えばスポーツシフト制御が実行される状態下で、シフトアップのためのトルクダウン要求が有る場合、ECC50では、TCC70側からのトルクダウン要求を受信したときに、そのトルクダウン要求分だけをトルク低下させるエンジン出力制御が実行される。
【0088】
図4は、本実施形態の車両用エンジンの出力制御装置で実行されるトルクダウン要求時の出力制御の一例を示すタイミングチャートであり、自動変速機5においてシーケンシャルのマニュアルシフトモードであるスポーツシフト制御が実行されるときの主要な制御信号の変化を示している。
【0089】
この場合、TCC70およびECC50のうちいずれか一方、例えばTCC70によって、自動変速機5の変速に際してトルク要求信号を反映せず実燃料噴射量に応じて変化するよう第2制御信号q2を生成する。また、ECC50は、トルクダウン要求信号に応じたインジェクタ23の制御から独立して、それ以外の特定のアクチュエータ24、36、62の制御を、第2制御信号q2により実燃料噴射量に応じて変化させるようになっている。
【0090】
具体的には、TCC70からのトルク要求信号がトルクダウン要求信号となる場合、第2制御信号生成部102は、変速要求検出手段91の検出情報等あるいはさらにアクセル開度センサ82からのアクセル開度情報等に基づいて、ガバナ噴射量相当の第2制御信号q2を出力する。
【0091】
したがって、変速要求検出手段91により変速要求信号が検知された後、TCC70からのトルクダウン要求信号がECC50に受信され、第1制御信号生成部101からの第1制御信号q1がトルクダウン要求を反映して低下することで、実噴射量の低下に伴ってエンジン回転数が低下するとき(図4(b)参照)、MAX回路103の出力は、ガバナ噴射量相当のトルク要求信号となる。
【0092】
このとき、吸気系・燃料系アクチュエータ制御量設定部104は、トルクダウン要求に応じた第1制御信号q1に基づくインジェクタ23の制御とほぼ同時に、ガバナ噴射量相当の第2制御信号q2に基づいて、トルクダウン要求を反映することなく下限ガード制御される。したがって、吸気系・燃料系アクチュエータ制御量設定部104の噴射量−エンジン回転数マップから、EGR装置16のEGRバルブ62の開度、ディーゼルスロットルバルブ36の開度および調量バルブ24の開度をそれぞれ制御するときの制御量が算出される際、トルクダウン要求を反映した燃料噴射量とその低下に伴うエンジン回転数の低下の影響が重なり、図4(c)〜図4(e)に示すようにインジェクタ以外の吸気系・燃料系のアクチュエータであるEGR装置16のEGRバルブ62の開度、ディーゼルスロットルバルブ36の開度および調量バルブ24の開度が急変(同図中の破線部参照;例えばEGR量が急増)するということがなく、EGR量の過多による酸素不足でスモークが発生する等といった問題が解消されることになる。
【0093】
(作用)
このように、本実施形態の車両用エンジンの出力制御装置では、トルクアップ要求の場合、変速要求検出手段91により変速要求信号が検出されたときに、トルクアップ要求に対応する第1制御信号q1に先行して、先読みした見込みのトルク要求に対応する第2制御信号q2を生成するようにして、インジェクタ23以外の特定のアクチュエータであるEGRバルブ62、ディーゼルスロットルバルブ36および調量バルブ24の制御をトルクアップ要求に先行して開始するので、これら特定のアクチュエータの応答遅れのために噴射量が制限されてしまうことがなくなり、トルクアップ要求に対する高応答性が確保できることになる。その結果、トルクアップ要求に対して迅速に目標回転数に到達できるような高応答性が確保され、シフト操作入力に対してドライバが体感すべき好ましい加速度や減速度が最適なタイミングで得られることになる。また、トルクダウン要求の場合にも、そのトルクダウン要求に対応する噴射量の低下とそれに伴うエンジン回転数の低下によって第1制御信号q1が急に低下しても、特定のアクチュエータ24、36、62の制御量を、第2制御信号q2の制御量でガードすることにより、その制御量の急変による排気浄化性能への悪影響等を未然に防止することができる。
【0094】
すなわち、本実施形態によれば、変速時のTCC70側からのトルク要求に対しECC50での高応答のトルク制御が可能で、しかも、排気浄化性能の低下を有効に抑制することのできる車両用エンジンの出力制御装置を提供することができる。
【0095】
本実施形態においては、エンジン1の吸入空気を操作する第2のアクチュエータとしてのディーゼルスロットルバルブ36およびEGRバルブ62と、コモンレール22への高圧燃料の供給量を制御する第3のアクチュエータとしての調量バルブ24とが、それぞれトルクアップ要求に先行して動かされ、吸気系および燃料系の応答遅れのために噴射量が制限されてしまうことがなくなるので、トルクアップ要求に対する高応答性が得られる。また、トルクダウン要求の場合には、第2および第3のアクチュエータの制御量が、第2制御信号q2の制御量でガードされることから、それらの制御量の急変による排気浄化性能への悪影響等が未然に防止される。
【0096】
しかも、本実施形態では、TCC70が、有段の変速操作入力に応じて自動変速機5を制御する有段変速制御モードを有し、TCC70およびECC50のうちいずれか一方が、有段変速制御モード下での変速操作入力に応じた変速に際して、見込みトルク要求信号を出力するので、高トルク応答性が要求される有段変速制御モード下での変速操作入力に対して、高応答のトルクアップが可能になり、車両のドライバビリティが向上する。
【0097】
なお、上述の実施形態においては、TCC70によって見込みトルク要求信号を生成するものとしたが、ECC50によってTCC70からのトルク要求信号の受信時期より前に見込みトルク要求自体を生成してもよく、その場合、変速要求検出手段91およびTCC70から変速要求信号と変速時期、変速前後の変速比の組み合わせ等の情報を取得すればよい。また、ECC50により、TCC70からのトルク要求とは要求噴射量が異なる(例えば小さい)見込みトルク要求値や、予め設定された複数のうち運転状態に応じて選択される1つの見込みトルク要求値、あるいは予め設定された固定の見込みトルク要求値を用いることも考えられる。すなわち、TCC70からの変速時のトルクアップ要求におけるトルクアップ量は、最適なトルク量として計算され、ECC50に対するトルク要求がなされるが、見込みトルク要求は必ずしも最適値である必要はなく、ECC50側で変速による回転数の上昇分がどの位必要かをTCC70によるトルクアップ要求の算出時に比べて粗く計算して、見込みトルク要求の値を決定してもよい。
【0098】
また、上述の実施形態においては、ディーゼルエンジンとしたが、エンジンは、出力トルクの変更に際してアクチュエータを用いる電子制御式のエンジンであれば、ディーゼルエンジン以外の内燃機関であってもよいし、内燃機関以外のエンジン(原動機)であってもよい。
【0099】
さらに、第2のアクチュエータとして、吸気系のアクチュエータであるディーゼルスロットルバルブ36やEGRバルブ62を例示したが、ターボ過給機15の容量を可変制御するアクチュエータ15vnあるいは排気管42に排気絞り弁が装着される場合にその排気絞り制御用アクチュエータを含むものとしてもよい。
【0100】
また、自動変速機は、自動無段変速機(CVT)や自動有段変速機に限定されず、本発明は、ツインクラッチのDSG(ダイレクトシフトギヤボックス)を装備する車両のエンジン出力制御装置にも適用できる。
【0101】
以上説明したように、本発明は、変速要求検出手段により変速要求信号が検出されるとき、トルク要求信号に応じ変化する第1制御信号と、第1制御信号に対して燃料噴射量の要求値が一時的に大きくなる第2制御信号とを生成し、トルク要求信号に応じた第1のアクチュエータの制御とは異なる条件で特定のアクチュエータを制御するようにしたので、トルクアップ要求時に特定のアクチュエータの応答遅れのために噴射量が制限されてしまうという問題を解消し、トルクアップ要求に対する高応答性を得ることができ、また、トルクダウン要求に対応する噴射量の低下とそれに伴うエンジン回転数の低下に対して、特定のアクチュエータの制御量がその噴射量とエンジン回転数に応じ急変してしまうのを抑制することで、排気浄化性能等に悪影響を及ぼすことを未然に防止することができ、その結果、変速時のトランスミッションコントロールコンピュータ側からのトルク要求に対しエンジンコントロールコンピュータでの高応答のトルク制御が可能で、しかも、排気浄化性能の低下を有効に抑制することのできる車両用エンジンの出力制御装置を提供することができるという効果を奏するものであり、電子制御方式のエンジンおよび自動変速機を搭載した車両において変速時にトランスミッションコントロールコンピュータからのトルク要求に対してエンジンの出力トルクを制御する車両用エンジンの出力制御装置全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用エンジンの出力制御装置の概念的構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用エンジンとその出力制御装置の概略構成図で、本発明を多気筒のディーゼルエンジンに適用した例を示している。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両用エンジンの出力制御装置で実行されるトルクアップ要求時の出力制御の一例を示すタイミングチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る車両用エンジンの出力制御装置で実行されるトルクダウン要求時の出力制御の一例を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0103】
1 エンジン(車両用エンジン)
2 トルクコンバータ
5 自動変速機
12 燃料噴射装置
15 ターボ過給機
15va アクチュエータ
15vn 可動ノズルベーン
16 EGR装置
17 コモンレール
21 サプライポンプ
22 コモンレール
23 インジェクタ(燃料噴射弁、第1のアクチュエータ)
24 調量バルブ(特定のアクチュエータ、第3のアクチュエータ)
25 燃料圧力センサ
31 吸気マニホルド
36 ディーゼルスロットルバルブ(特定のアクチュエータ、第2のアクチュエータ)
41 排気マニホルド
43 排気後処理装置
50 ECC(エンジンコントロールコンピュータ)
55 EDU
61 EGR通路(排気再循環通路)
62 EGRバルブ(排気再循環バルブ、特定のアクチュエータ、第2のアクチュエータ)
70 TCC(トランスミッションコントロールコンピュータ)
91 変速要求検出手段
92 トルク要求信号生成部
101 第1制御信号生成部
102 第2制御信号生成部
103 MAX回路(制御信号選択部)
104 吸気系・燃料系アクチュエータ制御量設定部
105 なまし制御用噴射量算出部
106 最大噴射量ガード設定部
q1 第1制御信号
q2 第2制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの運転状態を操作するよう前記エンジンに装着された複数のアクチュエータを制御して前記エンジンを電子制御するエンジンコントロールコンピュータと、
前記エンジンと共に車両に搭載され前記エンジンから出力される動力を変速することができる自動変速機の変速を要求する変速要求信号を検出する変速要求検出手段と、
前記自動変速機を前記車両の運転状態に応じて電子制御するトランスミッションコントロールコンピュータと、を備え、
前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたとき、前記エンジンからの出力トルクを前記自動変速機の変速動作に対応して変化させることを要求するトルク要求信号が前記トランスミッションコントロールコンピュータにより生成され、前記エンジンコントロールコンピュータが、前記複数のアクチュエータのうち少なくとも前記エンジン内の実燃料噴射を実行する第1のアクチュエータを前記トルク要求信号に応じて制御する車両用エンジンの出力制御装置において、
前記エンジンコントロールコンピュータは、前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたときに前記トルク要求信号に応じ変化する燃料噴射量を要求する信号であって前記第1のアクチュエータを制御する第1制御信号を生成し、
前記トランスミッションコントロールコンピュータおよび前記エンジンコントロールコンピュータのうちいずれか一方は、前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたときに前記第1制御信号に対して燃料噴射量の要求値が一時的に大きくなる信号であって前記複数のアクチュエータのうち前記第1のアクチュエータ以外の特定のアクチュエータを制御する第2制御信号を生成し、
前記エンジンコントロールコンピュータが、前記トルク要求信号に応じた前記第1のアクチュエータの制御とは異なる条件で前記特定のアクチュエータを制御することを特徴とする車両用エンジンの出力制御装置。
【請求項2】
前記エンジンコントロールコンピュータが、前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたとき、前記トルク要求信号に対応する燃料噴射量を要求する前記第1制御信号を生成する第1制御信号生成部と、前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたとき、前記第1制御信号および前記第2制御信号のうち前記燃料噴射量の要求値が大きい方の制御信号を選択し、前記特定のアクチュエータを該燃料噴射量の要求値が大きい方の制御信号によって制御する制御信号選択部と、を含んで構成され、
前記トランスミッションコントロールコンピュータおよび前記エンジンコントロールコンピュータのうちいずれか一方が、前記変速要求検出手段により変速要求信号が検出されたとき、前記トルク要求信号に対応しない燃料噴射量を要求する前記第2制御信号を生成する第2制御信号生成部を含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用エンジンの出力制御装置。
【請求項3】
前記トランスミッションコントロールコンピュータからの前記トルク要求信号が前記エンジンからの出力トルクを前記自動変速機の変速の動作に対応して増大させることを要求するトルクアップ要求信号となる場合に、前記トランスミッションコントロールコンピュータおよび前記エンジンコントロールコンピュータのうちいずれか一方が、前記変速要求検出手段の検出情報に基づいて前記トルクアップ要求信号の送信前に見込みトルク要求信号を生成し、
前記エンジンコントロールコンピュータが、前記トルクアップ要求信号に応じた前記第1のアクチュエータの制御前に、前記特定のアクチュエータの制御を前記見込みトルク要求信号に対応する前記第2制御信号により開始することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用エンジンの出力制御装置。
【請求項4】
前記トランスミッションコントロールコンピュータからの前記トルク要求信号が前記エンジンからの出力トルクを前記自動変速機の変速の動作に対応して減小させることを要求するトルクダウン要求信号となる場合に、前記トランスミッションコントロールコンピュータおよび前記エンジンコントロールコンピュータのうちいずれか一方が、前記自動変速機の変速に際して前記トルク要求信号を反映せず前記実燃料噴射量に応じて変化するよう前記第2制御信号を生成し、
前記エンジンコントロールコンピュータが、前記トルクダウン要求信号に応じた前記第1のアクチュエータの制御から独立して、前記特定のアクチュエータの制御を前記第2制御信号により前記実燃料噴射量に応じて変化させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用エンジンの出力制御装置。
【請求項5】
前記エンジンが、ディーセルエンジンで構成され、
前記特定のアクチュエータが、前記エンジンの吸入空気を操作する第2のアクチュエータを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちいずれか1の請求項に記載の車両用エンジンの出力制御装置。
【請求項6】
前記エンジンが、燃料を高圧で蓄圧および貯留するコモンレールを備えたディーセルエンジンで構成され、
前記特定のアクチュエータが、前記コモンレールへの高圧燃料の供給量を制御する第3のアクチュエータを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項5のうちいずれか1の請求項に記載の車両用エンジンの出力制御装置。
【請求項7】
前記エンジンが、排気側から吸気側への排気再循環通路を有し、
前記第2のアクチュエータが、前記エンジンの吸入空気中における新気の吸入量を制御するとともに前記排気再循環通路を通した排気再循環量を変化させるディーゼルスロットルバルブを含むことを特徴とする請求項5に記載の車両用エンジンの出力制御装置。
【請求項8】
前記エンジンが、排気側から吸気側への排気再循環通路を有し、
前記第2のアクチュエータが、前記排気再循環通路を通した排気再循環量を制御する排気再循環バルブを含むことを特徴とする請求項5または請求項7に記載の車両用エンジンの出力制御装置。
【請求項9】
前記トランスミッションコントロールコンピュータが、有段の変速操作入力に応じて前記自動変速機を制御する有段変速制御モードを有し、
前記トランスミッションコントロールコンピュータおよび前記エンジンコントロールコンピュータのうちいずれか一方が、前記有段変速制御モード下での前記変速操作入力に応じた変速に際して前記見込みトルク要求信号を出力することを特徴とする請求項3に記載の車両用エンジンの出力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−156225(P2010−156225A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333900(P2008−333900)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】