説明

車両用ブレーキ制御装置

【課題】W/C圧の加圧の低下と共に移動部材側に付勢された押圧部材が移動部材と大きな衝撃で衝突することを抑制する。
【解決手段】EPB2によって駐車ブレーキを掛けるときのロック動作時に、推進軸22がピストン23に接触するまでの間は減圧制限制御を実行する。これにより、サービスブレーキ1によるW/C圧の低下とEPB2のモータ駆動によって移動させられた推進軸22がピストン23に接触しようとするタイミングとが一致したとしても、W/C圧の加圧の解除と共に推進軸22側に付勢されたピストン23が推進軸22と大きな衝撃で衝突することを防止でき、推進軸22に大きな負荷が掛からないようにできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバのブレーキ操作に基づいてブレーキ液圧を発生させるサービスブレーキと電動パーキングブレーキ(以下、EPB(Electronic parking brake)という)の双方でホイールシリンダ(以下、W/Cという)に備えられるピストンを移動させることにより、制動力を発生させる車両用ブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、ドライバによる操作とは独立に制動力を発生させることができる電気的に制御可能なサービスブレーキと、制動力を発生させると共にその制動力を維持することができる電気的に制御可能なEPBとを有するブレーキシステムが開示されている。
【0003】
このブレーキシステムでは、駐車ブレーキ時のモータの出力を減らすために、サービスブレーキによるW/C圧の加圧を利用し、EPBの小型化を図れるようにしている。具体的には、このブレーキシステムは、W/C内のピストンの移動が、サービスブレーキによるブレーキ液圧がW/C内に導入されることによって行われるだけでなく、EPBのモータ駆動に基づく推進軸の移動によっても行われるように構成されている。このため、駐車ブレーキ時には、予めサービスブレーキによるW/C圧の加圧を利用してピストンをブレーキパッド側に移動させておくことで、EPBによるモータ出力を低下させることが可能となる。これにより、モータを小型化でき、EPBの小型化を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−519568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなブレーキシステムでは、サービスブレーキによるW/C圧の加圧を解除する際に、W/C圧の加圧によって弾性変形していたピストンおよびブレーキパッドの復元力により、W/C圧の加圧の解除と共にピストンが推進軸側に付勢される。このため、EPBの作動中に、サービスブレーキによるW/C圧の加圧の解除とEPBのモータ駆動によって移動させられた推進軸がピストンに接触しようとするタイミングとが一致すると、W/C圧の加圧の解除と共に推進軸側に付勢されたピストンが推進軸と大きな衝撃で衝突し、推進軸に大きな負荷を掛ける可能性がある。このような衝撃に耐え得る装置にするためには、推進軸などのEPB機構やEPB機構を収納するW/Cやキャリパ本体の大型化を招くことになる。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、W/C圧の加圧の低下と共に推進軸などの移動部材側に付勢されたピストン等の押圧部材が移動部材と大きな衝撃で衝突することを抑制できる車両用ブレーキ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、電子制御手段(26)に、電動パーキングブレーキ(2)の移動部材(22)が押圧部材(23)に当接した移動部材当接状態を判定する移動部材当接判定手段(111〜115、216〜220)を備え、電動パーキングブレーキ(2)がロック動作中で、移動部材当接状態でないときは、ブレーキ液圧調整手段(7)によってブレーキ液圧の低下を制限する減圧制限制御を行い、移動部材当接状態となったときは、減圧制限制御を終了することを特徴としている。
【0008】
このように、駐車ブレーキを掛けるときのロック動作時に、移動部材(22)が押圧部材(23)に接触するまでの間は減圧制限制御を実行している。このため、サービスブレーキ(1)によるホイールシリンダ(6)内のブレーキ液圧の低下とモータ駆動によって移動させられた移動部材(22)が押圧部材(23)に接触しようとするタイミングとが一致したとしても、ブレーキ液圧の低下と共に移動部材(22)側に付勢された押圧部材(23)が移動部材(22)と大きな衝撃で衝突することを防止でき、移動部材(22)に大きな負荷が掛からないようにできる。
【0009】
例えば、請求項2に記載したように、移動部材当接判定手段(111〜115、216〜220)では、電動モータ(15)の駆動負荷に基づいて、移動部材(22)が押圧部材(23)に当接した移動部材当接状態を判定することができる。
【0010】
また、請求項3に記載したように、減圧制限制御は、ホイールシリンダ(6)のブレーキ液圧の減圧速度を所定の速度以下に制限することを意味しており、減圧制限速度を低下させることに加え、ホイールシリンダ(6)のブレーキ液圧の減圧速度を保持することも含まれる。
【0011】
請求項4に記載の発明では、電子制御手段(26)は電動パーキングブレーキ(2)がロック動作中に、ブレーキ液圧の減圧速度が所定の減圧勾配以上で減圧したときに、減圧制限制御を実行することを特徴としている。
【0012】
このように、ブレーキ液圧の減圧速度が所定の減圧勾配以上で減圧したときに、減圧制限制御が実行されるようにしても良い。
【0013】
請求項5に記載の発明では、ロック動作時に電動パーキングブレーキ(2)による移動部材(22)の移動によって発生する押圧部材(23)と移動部材(22)との接触時の衝突力(Sipv)と、ホイールシリンダ(6)内のブレーキ液圧の減圧により押圧部材(23)の発生するブレーキ液圧の減圧速度(VP)から予想される押圧部材(23)と移動部材(22)との接触時の衝突力(Spvp)の和が、所定の閾値(KSLIM)を上回らないように、ブレーキ液圧の減圧速度(VP)を調整することを特徴としている。
【0014】
このように、移動部材(22)と押圧部材(23)の衝突力(Sipv、Spvp)を予測し、これらの和が所定の閾値(KSLIM)を上回らないようにブレーキ液圧の減圧速度(VP)を調整することができる。これにより、より好適な減圧速度(VP)に設定することが可能となる。
【0015】
請求項6に記載の発明では、電子制御手段(26)は、電動パーキングブレーキ(2)の移動部材(22)が押圧部材(23)に当接した移動部材当接状態となる時点である移動部材推定当接時点を推定する移動部材当接推定手段(214)を有し、電動パーキングブレーキ(2)がロック動作開始から、移動部材推定当接時点までの何れかの時点で減圧制限制御を実施することを特徴としている。
【0016】
このように、移動部材(22)が押圧部材(23)に当接した移動部材当接状態となる時点である移動部材推定当接時点を推定し、ロック動作開始から、移動部材推定当接時点までの何れかの時点、つまり移動部材推定当接時点よりも前に減圧制限制御が実行されるようにしても良い。これにより、必要時にのみ減圧制限制御が実行されるようにしつつ、請求項1と同様の効果を得ることが可能となる。
【0017】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。
【図2】ブレーキシステムに備えられる後輪系のブレーキ機構の断面模式図である。
【図3】減圧制限制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図4】減圧制限制御処理を実行した場合のタイミングチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態にかかるブレーキシステムが行う減圧制限制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図6】W/C圧に対するピストン移動距離の関係を示したマップである。
【図7】モータ駆動電圧に対する一制御周期当たりの移動距離の関係を示したマップである。
【図8】前回の相対距離(MLip)の演算を行うための距離演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図9】減圧制限制御処理を実行した場合のタイミングチャートである。
【図10】本発明の第2実施形態にかかるブレーキシステムが行う減圧速度設定処理を示すフローチャートである。
【図11】モータ駆動電圧MV(n)と推進軸22がピストン23に接触する時の衝突力Sipvとの関係を示したマップである。
【図12】W/C圧の減圧速度VPとピストン23が静止している推進軸22に接触した時の衝突力Spvpの関係を示したマップである。
【図13】ブレーキ液圧差P(*)の値ごとにW/C圧の減圧速度VPと増圧制御弁9のデューティ比の関係を示したマップである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、本発明の一実施形態となる車両用ブレーキ制御装置として、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキシステムを例に挙げて説明する。図1は、本実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。また、図2は、ブレーキシステムに備えられる後輪系のブレーキ機構の断面模式図である。以下、これらの図を参照して説明する。
【0021】
図1に示すように、ブレーキシステムは、ドライバの踏力に基づいてブレーキ力を発生させるサービスブレーキ1と駐車時に車両の移動を規制するためのEPB2とが備えられている。
【0022】
サービスブレーキ1は、ブレーキ液圧発生手段に相当するブレーキペダル3、倍力装置4およびマスタシリンダ(以下、M/Cという)5によってブレーキ液圧を発生させる。具体的には、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をM/C5内に発生させ、このブレーキ液圧を各車輪のブレーキ機構に備えられたW/C6に伝えることでブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられており、サービスブレーキ1により発生させるブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行える構造とされている。
【0023】
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ7は、ブレーキ液圧調整手段に相当するもので、第1配管系統7aと第2配管系統7bとを有した構成とされている。第1配管系統7aは、左前輪FLと右後輪RRに加えられるブレーキ液圧を制御し、第2配管系統7bは、右前輪FRと左後輪RLに加えられるブレーキ液圧を制御する。
【0024】
第1配管系統7aと第2配管系統7bとは、同様の構成であるため、以下では第1配管系統7aについて説明し、第2配管系統7bについては説明を省略する。
【0025】
第1配管系統7aは、上述したM/C圧を左前輪FLや右後輪RRに備えられたW/C6に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。管路Aは、連通状態と差圧状態に制御できる差圧制御弁8を備えている。この差圧制御弁8は、ドライバがブレーキペダル3の操作を行う通常ブレーキ時(運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されており、差圧制御弁8に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
【0026】
また、管路Aは、差圧制御弁8よりも下流になるW/C6側において、2つの管路A1、A2に分岐する。各管路A1、A2には左前輪FLや右後輪RRのW/C6へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁9が備えられている。各増圧制御弁9は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。各増圧制御弁9は、当該増圧制御弁9に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
【0027】
管路Aにおける増圧制御弁9及び各W/C6の間と調圧リザーバ11とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される減圧制御弁10が配設されている。減圧制御弁10は、当該減圧制御弁10に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には遮断状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に連通状態に制御されるノーマルクローズ型となっている。
【0028】
調圧リザーバ11と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ11からM/C5側あるいはW/C6側に向けてブレーキ液を吸入吐出する自吸式のポンプ13が設けられており、モータ12によって駆動される。モータ12への電圧供給は、図示しないモータリレーのオンオフによって制御される。
【0029】
そして、調圧リザーバ11とM/C5の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ13にてM/C5からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、横転抑制制御やトラクション(TCS)制御などの運動制御時において、W/C6側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を加圧する。
【0030】
このように構成されるブレーキ液圧制御用アクチュエータ7を用いた各種制御は、ESC(Electronic Stability Control)−ECU14にて実行される。例えば、ESC−ECU14からブレーキ液圧制御用アクチュエータ7に備えられる各種制御弁8〜11やポンプ駆動用のモータ12を制御するための制御電流を出力することにより、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ7に備えられる油圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。
【0031】
一方、EPB2は、電動モータ15にてブレーキ機構を制御することでブレーキ力を発生させるものであり、電動モータ15の駆動を制御するEPB制御装置(以下、EPB−ECUという)26を有して構成されている。
【0032】
ブレーキ機構は、各車輪に対してブレーキ力を発生させる機械的構造であり、前輪系のブレーキ機構はサービスブレーキ1の操作によってブレーキ力を発生させる構造とされているが、後輪系のブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系のブレーキ機構は、後輪系のブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基づいてブレーキ力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられているブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下の説明では後輪系のブレーキ機構について説明する。
【0033】
後輪系のブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、図2に示す摩擦材であるブレーキパッド16を押圧し、ブレーキパッド16によって被摩擦材であるブレーキディスク17を挟み込むことにより、ブレーキパッド16とブレーキディスク17との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
【0034】
具体的には、ブレーキ機構は、図2に示すようにキャリパ18内にブレーキパッド16を押圧するためのW/C6のボディ19が備えられており、このボディ19内に備えられる駆動軸20がギアボックス21を介して電動モータ15に接続されている。そして、電動モータ15を回転させるとにより、ギアボックス21に備えられた図示しないギアを介して駆動軸20に電動モータ15の回転力が所定の減衰比で伝えられる。これにより、ブレーキパッド16が移動させられ、EPB2によるブレーキ力を発生させる。
【0035】
キャリパ18内には、W/C6およびブレーキパッド16に加えて、ブレーキパッド16に挟み込まれるようにしてブレーキディスク17の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ19の中空部19a内に図示しない連通通路を通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部19a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部19a内に駆動軸20、推進軸22、ピストン23などを備えた構成とされている。
【0036】
駆動軸20は、一端がボディ19に形成された挿入孔19bを通じてギアボックス21内の図示しないギアに連結され、ギアが回動させられると、ギアの回動に伴って回動させられる。また、駆動軸20の一端は、挿入孔19bに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔19bを軸受けとして、駆動軸20の一端を軸支している。挿入孔19bにおけるギアボックス21とは反対側には、シール部材としてのOリング24が備えられており、Oリング24にて駆動軸20と挿入孔19bの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされている。
【0037】
推進軸22は、移動部材に相当し、中空状の筒部材にて構成され、内壁面に駆動軸20の雄ネジ溝20aと螺合する雌ネジ溝22aが形成されている。この推進軸22は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、駆動軸20が回動しても共に回動させられない構造になっている。このため、駆動軸20が回動させられると、雄ネジ溝20aと雌ネジ溝22aとの噛合いにより、駆動軸20の回転力が駆動軸20の軸方向に推進軸22を移動させる力に変換される。推進軸22は、電動モータ15の駆動が停止されると、雄ネジ溝20aと雌ネジ溝22aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標制動力になったときに電動モータ15の駆動を停止すれば、その位置に推進軸22を保持することができる。
【0038】
ピストン23は、押圧部材に相当し、推進軸22の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ19に形成された中空部19aの内壁面と接するように配置されている。ピストン23の外周面とボディ19の内壁面との間のブレーキ液洩れが生じないように、ボディ19の内壁面にシール部材25が備えられ、ピストン23の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。また、ピストン23は、駆動軸20が回転しても推進軸22が共に回転させられないように、推進軸22に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸22が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
【0039】
このピストン23の先端にブレーキパッド16が配置され、ピストン23の移動に伴ってブレーキパッド16を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン23は、推進軸22の移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン23の端部(ブレーキパッド16が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸22から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。そして、推進軸22が初期位置(電動モータ15が回転させられる前の状態)のときに、中空部19a内のブレーキ液圧が付与されていない状態(W/C圧=0)であれば、図示しないリターンスプリングもしくは中空部19a内の負圧によりピストン23が紙面右方向に移動させられ、ブレーキパッド16をブレーキディスク17から離間させられるようになっている。また、電動モータ15が回転させられて推進軸22が初期位置から紙面左方向に移動させられているときにW/C圧が0になると、移動した推進軸22によってピストン23の紙面右方向への移動が規制され、ブレーキパッド16がその場所で保持される。
【0040】
このように構成されたブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基づいてピストン23が紙面左方向に移動させられることでブレーキパッド16がブレーキディスク17に押圧され、制動力を発生させる。また、EPB2が操作されると、電動モータ15が駆動されることで駆動軸20が回転させられるため、雄ネジ溝20aおよび雌ネジ溝22aの噛合いに基づいて推進軸22がブレーキディスク17側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴ってピストン23も同方向に移動させられることでブレーキパッド16がブレーキディスク17に押圧され、ブレーキ力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対して制動力を発生させる共用のブレーキ機構とすることが可能となる。
【0041】
また、サービスブレーキ1が作動されることでW/C圧が発生させられている状態でEPB2が操作されると、W/C圧によってピストン23が既に紙面左方向に移動させられているため、推進軸22に掛かる負荷が軽減される。このため、推進軸22がピストン23に当接するまでは電動モータ15はほぼ無負荷状態で駆動される。そして、推進軸22がピストン23に当接するとピストン23を紙面左方向の押す押圧力が加えられ、EPB2によるブレーキ力が発生させられるようになっている。
【0042】
EPB−ECU26は、電子制御手段に相当し、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがって電動モータ15の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。EPB−ECU26は、例えば図示しない車室内のインストルメントパネルに備えられた操作スイッチ(SW)の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SWの操作状態に応じて電動モータ15を駆動する。具体的には、EPB−ECU26は、ドライバが駐車ブレーキを掛けるために操作SWを操作したときには、電動モータ15を正回転駆動させて制動力を発生させ、所望の制動力が発生した時点で電動モータ15の駆動を停止し、ドライバが駐車ブレーキを解除するための操作SWを操作したときには、電動モータ15を逆回転させることで、駐車ブレーキによる制動力を解除する。
【0043】
続いて、上記のように構成されたブレーキシステムの作動について説明する。本実施形態のブレーキシステムでは、駐車ブレーキを掛けるためにドライバが操作SWを操作すると、EPB2が作動してロック動作を行う。具体的には、電動モータ15が駆動され、ギアボックス21を介して駆動軸20が正回転駆動させられる。このとき、本ブレーキシステムでは、ドライバが予めブレーキペダル3を踏み込んでおくことで、サービスブレーキ1によるW/C圧を発生させておくことができ、ピストン23がブレーキパッド16側(紙面左側)に移動させられた状態となるようにできる。そして、このような状態のときにはピストン23の内壁面と推進軸22の先端面との間に隙間が設けられた状態となるため、推進軸22を移動させる時にピストン23を移動させるのに必要な負荷が掛からず、推進軸22がピストン23に当接するまで電動モータ15をほぼ無負荷状態で駆動することができる。
【0044】
続いて、電動モータ15の駆動を続けて推進軸22がピストン23に当接すると、推進軸22がピストン23を押圧する力によってブレーキパッド16が押圧される。これにより、EPB2によって両ブレーキパッド16がブレーキディスク17を挟み込む力を保持することができる。このため、この後にドライバがブレーキペダル3の踏み込みを解除したとしても、EPB2による駐車ブレーキによって制動力を確保することができる。
【0045】
そして、推進軸22とピストン23との接触状態やピストン23によってブレーキパッド16を押圧する力、つまりEPB2によって発生させている制動力の大きさは、電動モータ15に加えられる負荷と比例していることから、図示しない電流計などによって電動モータ15の駆動に用いられているモータ駆動電流MIを測定しておき、これが目標制動力に対応する電流値になったことが検出されたときに電動モータ15の駆動を停止する。これにより、駆動軸20の雄ネジ溝20aと推進軸22の雌ネジ溝22aとの噛合いによる摩擦力により、EPB2によって目標制動力を維持することができる。
【0046】
このような駐車ブレーキのロック動作の途中でドライバによるブレーキペダル3の踏み込みが解除され、サービスブレーキ1によるW/C圧の加圧が解除されると、W/C圧の加圧によって弾性変形していたピストン23およびブレーキパッド16の復元力により、W/C圧の加圧の解除と共にピストン23が推進軸22側に付勢される。このため、EPB2の作動中に、サービスブレーキ1によるW/C圧の加圧の解除とEPB2のモータ駆動によって移動させられた推進軸22がピストン23に接触しようとするタイミングとが一致すると、W/C圧の加圧の解除と共に推進軸22側に付勢されたピストン23が推進軸22と大きな衝撃で衝突し、推進軸22に大きな負荷を掛ける可能性がある。このような衝撃に耐え得るようにするには、W/C6の大型化を招くなどの問題が発生する。特に、大きなW/C圧が加わっている場合には、軸方向においてW/C6全体を撓ませるモーメントが発生した状態になっているため、W/C圧の解除に伴ってこのモーメントに対応する力も加わり、より大きな衝撃となる。
【0047】
このため、本実施形態のブレーキシステムでは、ロック作動中にW/C圧が急に低下することを制限する減圧制限制御処理を実行することで上記問題が発生しないようにする。以下、この減圧制限制御処理の詳細について説明する。
【0048】
図3は、減圧制限制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図に示される減圧制限制御処理は、EPB−ECU26が図示しない内蔵のROMに記憶されたプログラムに従って実行するものであり、例えば、操作SWの作動に連動して所定の制御周期毎に実行される。
【0049】
まず、ステップ101でロック作動中であるか否かを判定する。ロック作動中であるか否かは、例えば操作SWの操作状態によって確認することができる。
【0050】
ここで、ロック作動前のときには、ステップ102に進み、予め、推進軸22とピストン23とが接触しているか否かの状態を示すピストン接触状態フラグ(Fptm)を0にリセットして接触していない状態を表しておく。また、ロック作動が開始したときに減圧制限制御を実行することを許可する減圧制限制御許可フラグ(Frsc)を1にセットし、許可することを表しておく。また、推進軸22とピストン23との接触を判定するために用いるピストン接触判定カウンタ(Cptmc)についてはクリアしておく。さらに、前回の制御周期のモータ駆動電流MI(n−1)と今回の制御周期のモータ駆動電流MI(n)を共に0としておく。
【0051】
そして、ステップ103に進み、今回はロック作動中ではないため、減圧制限制御を行わないようにする。このため、このときにドライバがブレーキペダル3の踏み込みを解除した場合には、その動作通りにサービスブレーキ1によるW/C圧が減圧させられることになる。
【0052】
一方、ステップ101でロック作動中と判定されると、ステップ104で今回の制御周期のモータ駆動電流MI(n)を入力したのち、ステップ110に進む。そして、ステップ110でピストン接触状態フラグ(Fptm)が1であるか否かを判定する。ロック作動中に切り替わった当初には、上述したステップ102でピストン接触状態フラグ(Fptm)が0にセットされていることから、ピストン接触状態ではないとして否定判定される。
【0053】
そして、ステップ111に進み、前回のモータ駆動電流MI(n−1)よりも今回のモータ駆動電流MI(n)の方が大きいか否かを判定する。上述したように、推進軸22がピストン23に接触するまでは、電動モータ15はほぼ無負荷状態で駆動されることになり、推進軸22がピストン23に接触すると、電動モータ15に負荷かが掛かることになる。このため、推進軸22がピストン23に接触するまでは前回のモータ駆動電流MI(n−1)と今回のモータ駆動電流MI(n)との差が生じず、推進軸22がピストン23に接触すると前回のモータ駆動電流MI(n−1)よりも今回のモータ駆動電流MI(n)の方が大きな値となる。
【0054】
したがって、ステップ111で肯定判定されるまではステップ112に進み、ピストン接触判定カウンタ(Cptmc)をクリアしておく。そして、ステップ111で肯定判定されるとステップ113に進み、ピストン接触判定カウンタ(Cptmc)をインクリメントする。
【0055】
この後、ステップ114に進み、ピストン接触判定カウンタ(Cptmc)が接触判定閾値(KPTMC)を超えたか否かを判定する。すなわち、ノイズ的に今回のモータ駆動電流MI(n)が前回のモータ駆動電流MI(n−1)よりも大きくなった可能性もある。したがって、本ステップでモータ駆動電流MIの電流値が規定回数連続的に上昇したことを判定し、ノイズ的にモータ駆動電流MIが大きくなったような場合を排除している。なお、ロック作動中になった直後のモータ起動時もモータ駆動電流が0から無負荷の駆動電流値に変化するため、接触判定閾値(KPTMC)の設定によっては、ロック開始直後をピストン接触状態と誤判定する可能性もある。その場合には、駆動開始直後はステップ114の判定をマスクするなどの処理を行うことで、確実に誤判定を防止することができる。
【0056】
ここで肯定判定されればステップ115に進み、推進軸22がピストン23に接触したことを表すべくピストン接触状態フラグ(Cptmc)を1にセットする。また、減圧制限制御を解除するために減圧制限制御許可フラグ(Frsc)を0にリセットする。
【0057】
このようにして、推進軸22とピストン23との接触状態に応じて減圧制限制御許可フラグ(Frsc)がセットされた状態とリセットされた状態に分けられる。その後、ステップ140に進み、減圧制限制御許可フラグ(Frsc)が1となっているか否かを判定する。そして、否定判定されればステップ141に進み、減圧制限制御を行わないようにする。このため、このときにドライバがブレーキペダル3の踏み込みを解除した場合には、その動作通りにサービスブレーキ1によるW/C圧が減圧させられることになる。
【0058】
逆に、ステップ140で肯定判定されればステップ142に進み、減圧制限制御を行うようにする。このため、このときにドライバがブレーキペダル3の踏み込みを解除した場合には、その動作通りにサービスブレーキ1によるW/C圧が減圧させられず、減圧制限制御が実行される。具体的には、EPB2が備えられている後輪RL、RRの増圧制御弁9を例えばデューティ制御することでW/C圧の減圧が所定勾配に制限されるようにする。これにより、W/C圧が急に低下することが防止されるため、サービスブレーキ1によるW/C圧の加圧の解除とEPB2のモータ駆動によって移動させられた推進軸22がピストン23に接触しようとするタイミングとが一致したとしても、W/C圧の加圧の解除と共に推進軸22側に付勢されたピストン23が推進軸22と大きな衝撃で衝突することを防止でき、推進軸22に大きな負荷が掛からないようにできる。
【0059】
そして、ステップ141、142の処理の後には、ステップ143に進み、前回のモータ駆動電流MI(n−1)として記憶しておいた内容を今回の制御周期のモータ駆動電流MI(n)に更新し、処理を終了する。
【0060】
図4は、上記のような減圧制限制御処理を実行した場合のタイミングチャートであり、ロック動作中にドライバがブレーキペダル3の踏み込みを解除した場合の様子を示している。
【0061】
ドライバが駐車ブレーキを掛けるために操作SWを操作してEPB2のロック動作を指示すると、電動モータ15に対して駆動電流が流される。このときのモータ駆動電流MIは推進軸22がピストン23に接触する前の状態であるため、無負荷電流となって最も小さな電流値となる。また、ドライバがブレーキペダル3を踏み込むことによりサービスブレーキ1によるW/C圧が発生するため、ブレーキパッド16がブレーキディスク17に所定の押圧力で押し付けられた状態となる。
【0062】
ここで、ブレーキパッド16がブレーキディスク17に接触する前の状態でドライバがブレーキペダル3の踏み込みを解除してしまうと、ブレーキペダル3の踏み込みに対応するW/C圧は図中一点鎖線で示したように急に低下してしまう。しかしながら、このような時には上記のように減圧制限制御によってW/C圧の減圧が制限されるため、ブレーキペダル3の踏み込みに対応するW/C圧の減圧勾配と比較して、緩やかな勾配で減圧することになる。
【0063】
そして、推進軸22がピストン23と接触するとモータ駆動電流MIが上昇していき、これと同時に推進軸22がピストン23を押圧することによりブレーキパッド16の押圧力が高まる。このモータ駆動電流MIの上昇が検知されると、減圧制限制御が行われないようにされ、増圧制御弁9の駆動が停止されてW/C圧が低下させられる。
【0064】
これによって一時的にブレーキパッド16の押圧力が低下することがあるが、EPB2によってブレーキパッド16の押圧力が徐々に大きくされるため、特に問題はない。ただし、このときのブレーキパッド16の押圧力の低下を抑制するために、図中破線で示したように、減圧制限制御時と比較して減圧勾配が大きくなるようにしつつ、増圧制御弁9の駆動を完全に停止する場合と比較してW/C圧の減圧勾配が緩やかになるように、増圧制御弁9のデューティ比を調整するようにしても良い。
【0065】
以上説明したように、本実施形態にかかるブレーキシステムでは、EPB2によって駐車ブレーキを掛けるときのロック動作時に、推進軸22がピストン23に接触するまでの間は減圧制限制御を実行している。このため、サービスブレーキ1によるW/C圧の低下とEPB2のモータ駆動によって移動させられた推進軸22がピストン23に接触しようとするタイミングとが一致したとしても、W/C圧の加圧の解除と共に推進軸22側に付勢されたピストン23が推進軸22と大きな衝撃で衝突することを防止でき、推進軸22に大きな負荷が掛からないようにできる。
【0066】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、ピストン位置を推定し、その推定結果に基づいて減圧制限制御を実行の可否を決定するようにしたものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0067】
本実施形態のブレーキシステムは、EPB−ECU26が実行する減圧制限制御処理が第1実施形態と異なるが、それ以外に関しては第1実施形態と同様である。このため、減圧制限制御処理について説明する。
【0068】
図5は、本実施形態のブレーキシステムが行う減圧制限制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図に示される減圧制限制御処理も、例えば、操作SWの作動に連動して所定の制御周期毎に実行される。ただし、本実施形態の減圧制限制御処理の一部については、第1実施形態と同様であるため、主に異なる部分について説明する。
【0069】
まず、ステップ201において、第1実施形態の図3に示したステップ101と同様にロック作動中か否かの判定を行う。そして、ステップ201で否定判定された場合には、ステップ202に進む。このステップでは、基本的には図3のステップ102と同様の処理を行うが、減圧制限制御許可フラグ(Frsc)については、1にセットするのではなく0にリセットする。すなわち、本実施形態では、ピストン位置の推定を行うことにより、推進軸22とピストン23とが衝突するタイミングを推定できることから、その直前に減圧制限制御が実行されるようにする。このため、この段階では、減圧制限制御許可フラグ(Frsc)を0にリセットしておき、ロック作動が開始したと同時に減圧制限制御が実行されないようにする。さらに、前回の制御周期のモータ駆動電流MI(n−1)と今回の制御周期のモータ駆動電流MI(n)を共に0としておく。
【0070】
この後、ステップ203に進み、図3に示したステップ103と同様に、減圧制限制御を行わないようにする。
【0071】
一方、ステップ201でロック作動中と判定されると、ステップ204で今回の制御周期のモータ駆動電流MI(n)を入力したのち、ステップ210に進み、図3のステップ110と同様の処理を行う。そして、続く、ステップ211〜ステップ215において、ピストン位置の推定処理を行う。
【0072】
具体的には、まず、ステップ211で減圧制限制御許可フラグ(Frsc)が1にセットされているか否かを判定する。この処理は、ピストン位置の推定処理によって既に推進軸22とピストン23とが衝突するタイミングに近づいていることが検出されていて減圧制限制御許可フラグ(Frsc)が1にセットされているかを確認するために行っている。ここで否定判定されればステップ212に進む。
【0073】
ステップ212では、ピストン位置(Lp)を油圧推定位置(Lpp)と前回の相対距離(MLip)の和から求める。本処理により、前回戻されたときのピストン23の位置をW/C圧に応じて補正して求めることができる。ここで、ピストン位置(Lp)とは、推進軸22の初期位置(ロック動作開始前の位置)に対するピストン23の相対位置、つまり推進軸22の先端部がピストン23に接触するまでの距離を表している。油圧推定位置(Lpp)とは、W/C圧に対応したピストン23の移動距離を表している。W/C圧に対応したピストン23の移動距離は、例えば図6に示すW/C圧に対するピストン移動距離の関係を示したマップに表されるように、W/C圧が大きいほどピストン移動距離が大きくなることから、このマップ(もしくはこれと対応する関数式)に基づいてピストン23の移動距離を求めることができる。また、前回の相対距離(MLip)とは、前回ピストン23が紙面右側に戻されたときのピストン23と推進軸22との間の距離を表している。この前回の相対距離の演算については、後述する距離演算処理により行われる。
【0074】
なお、W/C圧については、W/C圧センサを備えて、直接W/C圧を測定しても良いし、ブレーキ液圧制御を行っていない通常ブレーキ時にはM/C圧と等しいため、M/C圧センサを備えてM/C圧をW/C圧として用いても良い。
【0075】
続いて、ステップ213では、今回の推進軸22の位置(Lip(n))を前回の推進軸22の位置(Lip(n-1))と一制御周期当たりの移動距離(ALip)の和から求める。一制御周期当たりの移動距離は、電動モータ15の回転に基づいて一制御周期当たりに推進軸22が移動するであろう距離を表している。この一制御周期当たりの移動距離は、電動モータ15の駆動電圧、つまりバッテリ電圧に基づいて変動する。図7に示すモータ駆動電圧に対する一制御周期当たりの移動距離の関係を示したマップに表されるように、モータ駆動電圧が大きくなるほど一制御周期当たりの移動距離が大きくなるという関係となることから、このマップ(もしくはこれと対応する関数式)に基づいて一制御周期当たりの移動距離を求めることができる。バッテリ電圧については、図示しない電源回路などで検出されているバッテリ電圧をLAN等を通じてEPB−ECU26に入力することにより取得することができる。
【0076】
なお、前回の推進軸22の位置(Lip(n-1))は、初期値が0とされ、ロック動作開始から前回の制御周期までの一制御周期当たりの移動距離(ALip)の積算値として演算される。このため、前回の推進軸22の位置(Lip(n-1))と一制御周期当たりの移動距離(ALip)の和を演算すれば、推進軸22の初期位置からの移動距離が求められる。
【0077】
そして、ステップ214に進み、ピストン位置(Lp)と今回の推進軸22の位置(Lip(n))の差(Lp−Lip(n))を演算すると共に、減圧制限制御の開始閾値である制御開始相対距離(KLFST)未満になったか否かを判定する。差(Lp−Lip(n))は、推進軸22の初期位置からのピストン23の移動距離と推進軸22の初期位置からの推進軸22の移動距離、つまり推進軸22とピストン23との相対距離(接触するまでの間隔)に相当する。このため、この判定により、推進軸22とピストン23が接触する直前の状態であるか否かを判定することができる。
【0078】
ここで肯定判定されれば、推進軸22とピストン23が接触する直前の状態であるため、ステップ215に進んで減圧制限制御許可フラグ(Frsc)を1にセットし、減圧制限制御が開始されるようにする。また、否定判定されれば、推進軸22とピストン23とがまだ接触するまでに余裕があるため、減圧制限制御許可フラグ(Frsc)を0のままにする。
【0079】
その後は、ステップ216〜ステップ220において、図3のステップ111〜ステップ115と同様の処理を行い、その後、ステップ240〜ステップ243において、図3のステップ140〜ステップ143と同様の処理を行う。このようにして、本実施形態の減圧制限制御処理が行われる。
【0080】
図8は、前回の相対距離(MLip)の演算を行うための距離演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【0081】
まず、ステップ301で駐車ブレーキの解除作動モードであるか否かを判定する。解除作動モードであるか否かは、操作SWの操作状態および電動モータ15の駆動状態によって確認することができ、操作SWが解除状態のときに解除作動モードが設定された状態となり、電動モータ15が逆回転駆動されている期間中解除作動モードが設定され、電動モータ15の駆動が停止されると解除作動モードが解除される。ここで、解除動作モード前のときには、ステップ302に進む。
【0082】
ステップ302では、前回の制御周期の時に解除動作モードであったか否かを判定する。ここで、肯定判定された場合には、ステップ303に進み、相対距離更新禁止フラグ(Fliprn)が1にセットされているか否かを判定する。相対距離更新禁止フラグ(Fliprn)は、相対距離の更新を禁止する際にセットされるものであり、解除動作モードが設定されていてもW/C圧が発生している状況に設定される。ここで否定判定されればステップ304に進み、離間後戻し距離Lipc(n)を前回の相対距離MLipとして記憶する。離間後戻し距離Lipc(n)とは、ピストン23から推進軸22が離間した後に紙面右側に戻された距離を表している。
【0083】
この後、ステップ305に進み、相対距離更新禁止フラグ(Fliprn)を0にリセットする。また、戻し距離計測中フラグ(Flipd)、離間判定カウンタ(Clipre)、今回の戻し距離(Lipc(n))および前回の戻し距離(Lipc(n))をすべて0にリセットする。戻し距離計測中フラグ(Flipd)とは、推進軸22がピストン23に接している状態から紙面右側に戻されるときの距離を計測中であることを示すフラグである。離間判定カウンタ(Clipre)は、推進軸22がピストン23から離間したか否かの判定に用いるカウンタである。今回の戻し距離(Lipc(n))および前回の戻し距離(Lipc(n))は、今回および前回の制御周期に計測された戻し距離Lipcである。さらに、前回の制御周期のモータ解除電流MIR(n−1)と今回の制御周期のモータ解除電流MIR(n)を共に0としておく。
【0084】
一方、ステップ301で解除作動モードであると判定されると、ステップ304で今回の制御周期のモータ解除電流MIR(n)を入力したのち、ステップ310に進む。そして、ステップ310でステップ303と同様に相対距離更新禁止フラグ(Fliprn)が1にセットされているか否かを判定し、肯定判定されればそのまま処理を終了し、否定判定されたときのみステップ311に進む。そして、ステップ311でW/C圧が0を超えているか否か、つまりW/C圧が発生しているか否かを判定する。ここで、W/C圧が発生している場合にはピストン23がブレーキパッド16側に付勢される力が加わっているということであり、ピストン23と推進軸22との接触状況が正確に把握できない。このため、ステップ312に進んで相対距離更新禁止フラグ(Fliprn)を1にセットそて処理を終了する。
【0085】
また、ステップ311でW/C圧が発生していないと判定された場合には、ステップ313に進み、戻し距離計測中フラグ(Flipd)が1にセットされているか否かを判定する。解除動作モードが設定された当初には、上述したステップ305で戻し距離計測中フラグ(Flipd)は0にリセットされていることから、基本的には否定判定されるが、既に戻し距離計測中フラグ(Plipd)が1にセットされていれば、ステップ314に進んで今回の戻し距離Lipc(n)を前回の戻し距離Lipc(n-1)と一制御周期当たりの移動距離(ALip)の和から求める。一制御周期当たりの移動距離は、電動モータ15の回転に基づいて一制御周期当たりに推進軸22が移動するであろう距離を表している。この一制御周期当たりの移動距離は、上述したように電動モータ15の駆動電圧、つまりバッテリ電圧に基づいて変動し、図7のマップから求めることができる。
【0086】
なお、前回の戻し距離Lipc(n-1)は、初期値が0とされ、解除動作モード設定時から前回の制御周期までの一制御周期当たりの移動距離(ALip)の積算値として演算される。このため、前回の戻し距離Lipc(n-1)と一制御周期当たりの移動距離(ALip)の和を演算すれば、解除動作モード設定時からの推進軸22の移動距離が求められる。
【0087】
そして、ステップ313で否定判定された場合にはステップ315に進み、前回のモータ解除電流MIR(n)と今回のモータ解除電流MIR(n−1)の差が閾値KIREよりも小さいか否かを判定する。閾値KIREは、推進軸22がピストン23から離れたと想定される値であり、推進軸22がピストン23から離れていないときに想定されるモータ解除電流MIRの減少量よりも小さく設定される。つまり、解除動作の時にはモータ解除電流MIRの変化はロック動作のときと逆となり、解除動作モードが設定された当初のように推進軸22がピストン23を押圧している力が大きいときにはモータ解除電流MIRが大きいが、それが低下していき、推進軸22がピストン23から離れると再び無負荷状態の電流値となる。このため、前回のモータ解除電流MIR(n)と今回のモータ解除電流MIR(n−1)の差が閾値KIREよりも小さくなったときには、推進軸22がピストン23から離れたときと想定することができる。
【0088】
したがって、本ステップで否定判定された場合には、まだ推進軸22がピストン23から離れるタイミングではないことから、ステップ316に進み、離間判定カウンタ(Clipre)を0にリセットする。さらに、ステップ317に進んで、今回の戻し距離(Lipc(n))および前回の戻し距離(Lipc(n-1))も0にリセットする。
【0089】
一方、ステップ315で肯定判定された場合には、推進軸22がピストン23から離れるタイミングである可能性があることから、ステップ318に進み、離間判定カウンタ(Clipre)をインクリメントする。そして、ステップ319に進み、上述したステップ314と同様の処理を行うことで、今回の戻し距離Lipc(n)を演算する。
【0090】
その後、ステップ320に進み、離間判定カウンタ(Clipre)が離間判定閾値(KRPC)以下となったか否かを判定する。すなわち、ノイズ的にモータ解除電流MIRの変化が小さくなった可能性もある。したがって、本ステップでモータ解除電流MIRの電流値の変化が規定回数連続的に小さい値であることを判定し、ノイズ的にモータ解除電流MIRの変化が小さくなったような場合を排除している。
【0091】
ここで肯定判定されればステップ321に進み、推進軸22がピストン23から離間したことを表すべく戻し距離計測中フラグ(Flipd)を1にセットし、ステップ322に進む。これにより、この後の制御周期では、ステップ313で肯定判定されることになり、ステップ315以降の処理が行われることなくステップ314で今回の戻し距離Lipc(n)が演算されることになる。また、ステップ320で否定判定されれば、戻し距離計測中フラグ(Flipd)を0としたままステップ322に進む。
【0092】
このようにして、推進軸22とピストン23との接触状態に応じて戻し距離計測を行って良い状況であるか否かが分けられる。そして、ステップ322で前回の戻し距離Lipc(n-1)として記憶しておいた内容を今回の戻し距離Lipc(n)に更新したのち、ステップ323に進み、前回の制御周期のモータ解除電流MIR(n−1)を今回の制御周期のモータ解除電流MIR(n)に更新して、処理を終了する。このようにして、前回の戻し距離Lipc(n-1)を演算することができる。
【0093】
図9は、上記のような減圧制限制御処理を実行した場合のタイミングチャートであり、ロック動作中にドライバがブレーキペダル3の踏み込みを解除した場合の様子を示している。
【0094】
ドライバが駐車ブレーキを掛けるために操作SWを操作してEPB2のロック動作が解除されると、電動モータ15に対して駆動電流が流される。このときのモータ駆動電流MIは推進軸22がピストン23に接触する前の状態であるため、無負荷電流となって最も小さな電流値となる。このとき、図中に示したようにドライバがブレーキペダル3の踏み込みを緩やかに緩めて行ったとしても、それに対応してW/C圧が低下させられる。そして、推進軸22とピストン23が接触する直前に、前以て接触することが検出され、減圧制限制御が実行される。これにより、W/C圧の減圧が制限され、例えば図中に示したようにW/C圧が保持されるため、その後にドライバがブレーキペダル3の踏み込みを緩め、サービスブレーキ1によるW/C圧の加圧の解除とEPB2のモータ駆動によって移動させられた推進軸22がピストン23に接触しようとするタイミングとが一致したとしても、W/C圧の加圧の解除と共に推進軸22側に付勢されたピストン23が推進軸22と大きな衝撃で衝突することを防止でき、推進軸22に大きな負荷が掛からないようにできる。
【0095】
そして、推進軸22がピストン23と接触するとモータ駆動電流MIが上昇していき、これと同時に推進軸22がピストン23を押圧することによりブレーキパッド16の押圧力が高まる。このモータ駆動電流MIの上昇が検知されると、減圧制限制御が行われないようにされ、増圧制御弁9の駆動が停止されてW/C圧が低下させられる。
【0096】
以上説明したように、推進軸22とピストン23の相対距離に基づいてこれらが接触することを検出し、ロック動作と同時に減圧制限制御を開始するのではなく、ロック動作開始から推進軸22とピストン23とが接触する時点までの間のいずれかの時点で減圧制限制御が実行されるようにしても良い。これにより、必要時にのみ減圧制限制御が実行されるようにしつつ、ピストン23が推進軸22と大きな衝撃で衝突することで推進軸22に大きな負荷を掛けることはない。
【0097】
なお、このような制御形態とした場合に、推進軸22とピストン23とが接触しそうになるよりも以前にドライバが急にブレーキペダル3の踏み込みを解除してW/C圧が急に低下したとしても、復元力によって推進軸22の方向に付勢されたピストン23が推進軸22に接触することはない。
【0098】
また、上記のように推進軸22とピストン23とが接触するタイミングを推定した場合に、図9中に示したように、推定したタイミングと実際のタイミングとにズレが生じていることがある。具体的には、ブレーキパッド16の磨耗によって、ピストン23の初期位置が変わってくるため、そのようなズレが発生する可能性がある。このような場合には、推定したタイミングと実際のタイミングとのズレに基づいて、次回の接触推定タイミングの推定結果を補正しても良い。例えば、次回の接触推定タイミングでは、推定したタイミングからそのズレ分を差し引くことで、補正後のタイミングとすることができる。
【0099】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1、第2実施形態に対して、推進軸22とピストン23との衝突力を予測し、許容される衝突力に基づいてW/C圧の減圧速度を設定するようにしたものであり、その他に関しては第1、第2実施形態と同様であるため、第1、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0100】
EPB2における推進軸22とピストン23との衝突力は、推進軸22の移動速度の移動速度の影響が大きい。そして、推進軸22とピストン23との衝突力として許容できる衝突力許容値KSLIMは、W/C6の構造的に予め決められる値であることから、移動速度を決めるモータ駆動電圧ごとに衝突力Sipvを測定し、衝突力許容値KSLIMから衝突力Sipvを差し引けば、W/C圧の減圧により許される衝突力(KSLIM−Sipv)となる。したがって、このW/C圧の減圧により許される衝突力(KSLIM−Sipv)に基づいて減圧制限制御を行うようにし、推進軸22の移動速度に起因する衝突力SipvとW/C圧の減圧による衝突力の和が衝突力許容値KSLIMを超えないようにすれば良い。このような知見に基づいて、本実施形態では、減圧制限制御を実行するときの増圧制御弁9のデューティ比を設定する。
【0101】
図10は、減圧速度設定処理を示すフローチャートである。この処理は、上述した図3や図5に示す減圧制限制御処理とは別フローとして実行され、例えば減圧制限制御許可フラグが1にセットされるときにタイマ割り込み処理として所定の演算周期毎に実行される。
【0102】
まず、ステップ401〜403では、各種検出処理を行う。具体的には、ステップ401では、今回のW/C圧PWC(n)を検出する。ここでは、図示しないW/C圧センサの検出信号に基づいて今回のW/C圧PWC(n)を検出している。ステップ402では、今回のM/C圧PMC(n)を検出する。ここでは、図示しないM/Cセンサの検出信号に基づいて今回のM/C圧PMC(n)を検出している。ステップ403では、今回のモータ駆動電圧MV(n)を検出する。例えば、図示しない電源回路などで検出されているバッテリ電圧をLAN等を通じてEPB−ECU26に入力することによりモータ駆動電圧MV(n)を取得することができる。
【0103】
次に、ステップ404に進み、推進軸22の移動速度に基づいて想定されるEPB2の衝突力Sipvを求める。上述したように、推進軸22の移動速度に基づいて想定される衝突力Sipvは、モータ駆動電圧MV(n)に依存する。図11は、モータ駆動電圧MV(n)と推進軸22がピストン23に接触する時の衝突力Sipvとの関係を示したマップである。モータ駆動電圧MV(n)が大きくなるほど移動速度がそれに比例して早くなり、衝突力Sipvが移動速度の2乗に比例することから、このマップに示されるように、衝突力Sipvはモータ駆動電圧MV(n)の2乗に比例した関係となる。したがって、ステップ403の検出結果と図11に示したマップ(もしくはこれと対応する関数式)に基づいて衝突力Sipvを演算することができる。例えば、図11に示すように、モータ駆動電圧MV(n)がVαの場合、それと対応する衝突力SipvはSαとなる。
【0104】
続いて、ステップ405に進み、予め求めた衝突力許容値KSLIMから先ほど求めた衝突力Sipv(=Sα)を引くことにより、減圧により許される衝突力(KSLIM−Sipv)を求める。上述したように、衝突力SipvがSαの場合には、減圧により許される衝突力(KSLIM−Sipv)はKSLIM−Sαとなる。その後、ステップ406に進み、減圧により許される衝突力(KSLIM−Sipv)から、推進軸22の移動速度に起因する衝突力SipvとW/C圧の減圧により許される衝突力(KSLIM−Sipv)の和が衝突力許容値KSLIMを超えないようにするための減圧速度VPの上限値を求める。図12は、W/C圧の減圧速度VPとピストン23が静止している推進軸22に接触した時の衝突力Spvpの関係を示したマップである。この図に示されるように、衝突力SpvpはW/C圧の減圧速度の2乗に比例した関係となる。したがって、ステップ405で求めた衝突力(KSLIM−Sipv)と図12に示したマップ(もしくはこれと対応する関数式)に基づいてW/C圧の減圧速度VPの上限値を演算することができる。例えば、図12に示すように、衝突力(KSLIM−Sα)に対応するW/C圧の減圧速度VPの上限値はVPαとなる。
【0105】
さらに、ステップ407に進み、ステップ401およびステップ402で求めた今回のW/C圧PWC(n)と今回のM/C圧PMC(n)の差(PWC(n)−PMC(n))より、増圧制御弁9の上下流間に発生しているブレーキ液圧差P(*)を求める。そして、ステップ408に進み、今回のブレーキ液圧差P(*)に基づいて、減圧速度VPの上限値VPαを超えないような増圧制御弁9のデューティ比を求める。増圧制御弁9のデューティ比に対応する減圧速度VPは、ブレーキ液圧差P(*)に応じて変動する。図13は、ブレーキ液圧差P(*)の値ごとにW/C圧の減圧速度VPと増圧制御弁9のデューティ比の関係を示したマップである。この図に示すように、ブレーキ液圧差P(*)の値が大きければ大きいほど、デューティ比が小さくても減圧速度VPが大きくなる関係となる。したがって、ステップ407で求めたブレーキ液圧差P(*)に対応するW/C圧の減圧速度VPと増圧制御弁9のデューティ比の関係を選択し、それに基づいてW/C圧の減圧速度VPの上限値VPαに対応するデューティ比を求める。そして、その求めたデューティ比よりも減圧速度VPが低くなる範囲のデューティ比で増圧制御弁9を制御し、減圧制限制御を実行する。
【0106】
このように、推進軸22とピストン23との衝突力Sipv、Spvpを予測し、許容される衝突力(KSLIM−Sipv)に基づいてW/C圧の減圧速度VPの上限値VPαを設定することができる。そして、この減圧速度VPの上限値VPαを超えないように増圧制御弁9を制御すれば、より好適な減圧速度VPに設定することが可能となる。
【0107】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、EPB2としてサービスブレーキの加圧機能を利用することで、駐車ブレーキ時の電動モータ15の出力を減らせるようなブレーキ構成の一例として図2に示されるものを例に挙げた。また、ブレーキシステムの油圧回路構成として、図1に示すような構成を例に挙げた。しかしながら、これらは単なる一例を示したにすぎず、他の構造のものを採用しても構わない。例えば、ブレーキシステムの油圧回路構成としては、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ7によってW/C圧の減圧勾配を制御できるような制御弁が備えられているような構成であれば、他の構成でも構わない。
【0108】
また、上記実施形態では、W/C圧の減圧制限制御を行うために増圧制御弁9を制御するようにしているが、差圧制御弁8を制御することによって減圧制限制御を行っても良い。さらに、増圧制御弁9をデューティ制御するようにしたが、増圧制御弁9を通電量に応じて上下流間の差圧を変化させられるリニア弁として用いるようにし、通電量を調整することによってW/C圧の減圧速度の制御が行われるようにしても良い。
【0109】
差圧制御弁8を用いて減圧制限制御を行う場合、EPB−ECU26はESC−ECU14を介して差圧制御開始時のM/C圧またはW/C圧を制御開始時の指示圧力として、次第に指示圧力を下げていくようにし、差圧制御弁に指示圧力に応じた通電量を差圧制御弁に付与することでW/C圧を任意の速さで低下させることができる。差圧制限制御中にモータ12は駆動する必要は無いが、モータ12を駆動しても差圧制限制御は実現できる。また、図1のように1つの差圧制御弁8で同一の油圧系統7a、7bの2輪の油圧を制御するように構成されている場合、リア輪RL、RRと同系統にある他の車輪FL、FRまで減圧制限制御が実行されることを防止するには、減圧制限制御を受けたくない車輪FL、FRの増圧弁9を閉じ、減圧制御弁10を使って減圧すればよい。このとき、減圧制御弁10をM/C圧やブレーキペダル3のストロークに応じて細かく開閉させ減圧することで、ドライバの操作に従ってW/C圧を減圧することができる。
【0110】
また、上記第1実施形態では、ロック動作中に推進軸22がピストン23に接触するまで常に減圧制限制御を実行するようにしているが、W/C圧の減圧速度が所定の減圧勾配以上で減圧したときにのみ、減圧制限制御を実行するようにしても良い。
【0111】
また、上記各実施形態では、ディスクブレーキタイプのEPB2を例に挙げたが、他のタイプ、例えばドラムブレーキタイプのものであっても構わない。その場合、摩擦材と被摩擦材は、それぞれブレーキシューとドラムとなる。
【0112】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。すなわち、EPB−ECU26のうち、ステップ104、204の処理を実行する部分が駆動負荷検出手段、ステップ111〜115やステップ、216〜220の処理を実行する部分が移動部材当接判定手段、ステップ214の処理を実行する部分が移動部材当接推定手段に相当する。
相当する。
【符号の説明】
【0113】
1…サービスブレーキ、2…EPB、3…ブレーキペダル、4…倍力装置、5…M/C、6…W/C、7…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、8…差圧制御弁、9…増圧制御弁、10…減圧制御弁、11…調圧リザーバ、12…モータ、13…ポンプ、15…電動モータ、16…ブレーキパッド、17…ブレーキディスク、18…キャリパ、20…駆動軸、20a…雄ネジ溝、21…ギアボックス、22…推進軸、22a…雌ネジ溝、23…ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材(16)と、車輪に取り付けられた被摩擦材(17)と、
前記摩擦材(16)と前記被摩擦材(17)を使って電動で制動力を発生させる電動パーキングブレーキ(2)と、
前記摩擦材(16)と前記被摩擦材(17)を使って油圧で制動力を発生させるサービスブレーキ(1)と、
前記電動パーキングブレーキ(2)と前記サービスブレーキ(1)の動作を制御する電子制御手段(26)からなる制動制御装置であって、
前記電動パーキングブレーキ(2)は、電動モータ(15)を正回転駆動させることで、前記摩擦材(16)が前記被摩擦材(17)に対し当接する方向に移動する移動部材(22)によって押圧部材(23)を移動させ、前記押圧部材(23)により、前記摩擦材(16)を前記被摩擦材(17)に移動押圧するロック動作と、押圧した状態を保持するロック保持動作と、前記電動モータを逆回転駆動させることで、前記摩擦材(16)が前記被摩擦材(17)に対し離間する方向に前記移動部材(22)を移動させることにより前記押圧部材(23)を移動させ、前記摩擦材(16)を前記被摩擦材(17)から離間させる解除動作を行う電動パーキングブレーキ機構と、前記電動モータ(15)の駆動負荷を検出する駆動負荷検出手段(104、204)とを有し、
前記サービスブレーキ(1)は、ブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生手段(3〜5)と、前記ブレーキ液圧発生手段(3〜5)と接続され、前記ブレーキ液圧の増加により前記電動パーキングブレーキ(2)と共通の前記押圧部材(23)により前記摩擦材(16)を前記被摩擦材(17)に対し当接方向に移動し押圧し、前記ブレーキ液圧の減少により、前記押圧部材(23)により前記摩擦材(16)を前記被摩擦材(17)から離間する方向に移動させるホイールシリンダ(6)と、前記ホイールシリンダ(6)のブレーキ液圧を調整可能なブレーキ液圧調整手段(7)とを有し、
前記電子制御手段(26)は、前記電動パーキングブレーキ(2)の前記移動部材(22)が前記押圧部材(23)に当接した移動部材当接状態を判定する移動部材当接判定手段(111〜115、216〜220)を有し、
前記電動パーキングブレーキ(2)が前記ロック動作中で、前記移動部材当接状態でないときは、前記ブレーキ液圧調整手段(7)によって前記ブレーキ液圧の低下を制限する減圧制限制御を行い、前記移動部材当接状態となったときは、前記減圧制限制御を終了することを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記移動部材当接判定手段(111〜115、216〜220)は、前記電動モータ(15)の駆動負荷に基づいて、前記移動部材(22)が前記押圧部材(23)に当接した移動部材当接状態を判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記減圧制限制御は、前記ホイールシリンダ(6)の前記ブレーキ液圧の減圧速度を所定の速度以下に制限することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記電子制御手段(26)は前記電動パーキングブレーキ(2)が前記ロック動作中に、前記ブレーキ液圧の減圧速度が所定の減圧勾配以上で減圧したときに、前記減圧制限制御を実施する請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記ロック動作時に前記電動パーキングブレーキ(2)による前記移動部材(22)の移動によって発生する前記押圧部材(23)と前記移動部材(22)との接触時の衝突力(Sipv)と、前記ホイールシリンダ(6)内のブレーキ液圧の減圧により前記押圧部材(23)の発生するブレーキ液圧の減圧速度(VP)から予想される前記押圧部材(23)と前記移動部材(22)との接触時の衝突力(Spvp)の和が、所定の閾値(KSLIM)を上回らないように、前記ブレーキ液圧の減少速度(VP)を調整することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記電子制御手段(26)は、前記電動パーキングブレーキ(2)の前記移動部材(22)が前記押圧部材(23)に当接した移動部材当接状態となる時点である移動部材推定当接時点を推定する移動部材当接推定手段(214)を有し、
前記電動パーキングブレーキ(2)が前記ロック動作開始から、前記移動部材推定当接時点までの何れかの時点で前記減圧制限制御を実施することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両用ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−213205(P2011−213205A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82318(P2010−82318)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】