説明

車両用乗員保護装置

【課題】オープンカーの衝突時に乗員の頭部を保護するエアバッグをフロントヘッダー等に装備しておき、衝突時にそのエアバッグを前方から後方へ展開させる場合は、展開するエアバッグにより運転者の視界が遮られ、退避運転に支障を来す虞がある。
【解決手段】オープンボディ型の自動車1 に、2 組のシート装置の後側付近にロールバー2が装備され、このロールバー2には、鋼製パイプ材のロールバー本体と、エアバッグ収納部を形成する合成樹脂製の収納部ケースとが設けられ、自動車1の衝突又はロールオーバーの発生が予知された場合に、エアバッグ収納部のエアバッグ6が後方から前方ヘ向かって乗員の頭部の上方と側方を覆うように膨張展開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用乗員保護装置に関し、特に乗員の頭部の上側を覆うように展開する頭部保護エアバッグを後方から前方へ向かって展開させるように構成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のエアバッグとしては、ステアリングハンドルから運転者の前面に向けて展開するもの、ダッシュボード付近から助手席乗員の前面に向けてエアバッグが展開するもの、サイドドアから乗員の側面側にエアバッグが展開するもの、シートバッグの側部から乗員の側面側にエアバッグが展開するもの、車室側壁に沿ってカーテン状にエアバッグが展開するもの、など種々のエアバッグ装置が実用化されている。これらのエアバッグ装置は、主として乗員の上半身の保護を図るものであるが、乗員の保護の観点からは十分なものとは言い難い。
【0003】
特許文献1には、ルーフを一時的又は常時解放状態にするオープンカーに適した頭部保護エアバッグ装置が開示されている。この頭部保護エアバッグ装置においては、フロントヘッダーのヘッドライナー及びフロントピラーガーニッシュの内側にエアバッグ収納部を設け、側突発生時やロールオーバー発生時に、乗員の頭部の上方近傍を覆うようにエアバッグを前方から後方へ向けて展開させて乗員の頭部を保護するように構成されている。
【特許文献1】特開2003−63342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ルーフを一時的又は常時解放状態にするオープンカーにおいては、ロールオーバーの発生時に、乗員を保護する為のロールバーが設けられているが、乗員の頭部は露出状態になるから頭部を十分に保護することは難しい。
【0005】
特許文献1に記載の頭部保護用エアバッグ装置においては、フロントヘッダーのヘッドライナー及びフロントピラーガーニッシュの内側にエアバッグ収納部を設け、衝突やロールオーバーの発生時に、乗員の頭部の上方を覆うようにエアバッグを後方へ向けて展開させる構成であるから、エアバッグの展開状態如何によっては展開したエアバッグにより運転者の前方視界が遮られ、避難運転に支障を来す虞がある。
【0006】
本発明の目的は、オープンカーに適した車両用乗員保護装置であって、衝突やロールオーバー発生時又は衝突やロールオーバー発生を予知した時に避難運転に支障を来すことなく乗員の頭部を保護可能な車両用乗員保護装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の車両用乗員保護装置は、ルーフが一時的又は常時解放される車両の乗員保護装置において、乗員の頭部の上方を覆うように展開されるエアバッグと、上記エアバッグに気体を供給して展開させる気体供給手段と、上記エアバッグを折り畳んだ状態に収納可能なエアバッグ収納部と、上記エアバッグへ気体を供給して展開させる展開タイミングを判定する展開タイミング判定手段とを備え、上記エアバッグが乗員の頭部の上方において後方から前方へ向かって展開するように構成されたことを特徴とするものである。
【0008】
エアバッグはエアバッグ収納部に折り畳んだ状態に収納されており、展開タイミング判定手段が、エアバッグへ気体を供給して展開させる展開タイミングを判定し、展開タイミングになると、気体供給手段がエアバッグに気体を供給して展開させる。このとき、エアバッグは乗員の頭部の上方覆うように、乗員の頭部の上方において後方から前方へ向かって展開する。上記の展開タイミング判定手段は、車両の衝突やロールオーバーの発生を予知したタイミングを展開タイミングとしてもよく、車両の衝突やロールオーバーが発生したタイミングを展開タイミングとしてもよい。
【0009】
請求項2の車両用乗員保護装置は、請求項1の発明において、上記エアバッグ収納部が車両のリヤデッキ部に設けられたことを特徴としている。
請求項3の車両用乗員保護装置は、請求項1の発明において、上記エアバッグ収納部が車両のベルトライン部とリヤフェンダ部の少なくとも一方に設けられたことを特徴としている。
【0010】
請求項4の車両用乗員保護装置は、請求項1の発明において、上記エアバッグ収納部の大部分がシート装置のシートバックのヘッドレスト部に設けられたことを特徴としている。請求項5の車両用乗員保護装置は、請求項1の発明において、上記エアバッグ収納部がロールバーに設けられたことを特徴としている。
請求項6の車両用乗員保護装置は、請求項1〜3の何れかの発明において、上記エアバッグは、展開状態において乗員の頭部上方を覆うルーフエアバッグ部と、このルーフエアバッグ部の左右両端から下方へ延びるサイドエアバッグ部とを有することを特徴としている。
【0011】
請求項7の車両用乗員保護装置は、請求項1又は4の発明において、上記エアバッグは、展開状態において乗員の頭部上方を覆う平板形に構成されたことを特徴としている。
請求項8の車両用乗員保護装置は、請求項1〜6の何れかの発明において、上記展開タイミング判定手段は、ロールオーバー発生を予知した時を上記展開タイミングとすることを特徴としている。
請求項9の車両用乗員保護装置は、請求項1〜8の何れかの発明において、上記展開タイミング判定手段は、上記展開タイミングが、ロールオーバプロテクションシステムにより、ロールバーが収納位置から起立位置へ切り換えられた時点以降になるように上記展開タイミングを判定することを特徴としている。
【0012】
請求項10の車両用乗員保護装置は、請求項1〜9の何れかの発明において、上記気体供給手段が、ブロアファンを有することを特徴としている。
請求項11の車両用乗員保護装置は、請求項1〜9の何れかの発明において、上記気体供給手段が、インフレータを有することを特徴としている。
請求項12の車両用乗員保護装置は、請求項1〜9の何れかの発明において、上記気体供給手段が、コンプレッサと加圧エアを蓄圧するアキュムレータとを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、乗員の頭部の上方を覆うように展開されるエアバッグと、エアバッグに気体を供給して展開させる気体供給手段と、エアバッグを折り畳んだ状態に収納可能なエアバッグ収納部と、エアバッグへ気体を供給して展開させる展開タイミングを判定する展開タイミング判定手段とを備え、エアバッグが乗員の頭部の上方において後方から前方へ向かって展開するように構成されたので、ルーフが一時的又は常時解放される車両に衝突やロールオーバーの発生が予知されたり、衝突やロールオーバーが発生した際に、乗員の頭部の上方を展開したエアバッグで覆って乗員の頭部を保護することができる。 しかも、エアバッグが展開する時に後方から前方へ向かって展開するため、運転者が退避運転する際に視界が遮られないので、退避運転の面でも乗員保護性能に優れる。
【0014】
請求項2の発明によれば、エアバッグ収納部が車両のリヤデッキ部に設けられたので、リヤデッキ部の内部の空間を活用してエアバッグ収納部を設けることができる。
請求項3の発明によれば、エアバッグ収納部が車両のベルトライン部とリヤフェンダ部の少なくとも一方に設けられたので、乗員に近い位置にエアバッグ収納部を配置でき、エアバッグの小型化を図ることができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、エアバッグ収納部の大部分がシート装置のシートバックのヘッドレスト部に設けられたので、ヘッドレスト部を有効活用してエアバッグ収納部を設けることできる。
請求項5の発明によれば、エアバッグ収納部がロールバーに設けられたので、ロールバーを有効活用してエアバッグ収納部を設けることができる。
【0016】
請求項6の発明によれば、エアバッグは、展開状態において乗員の頭部上方を覆うルーフエアバッグ部と、このルーフエアバッグ部の左右両端から下方へ伸びるサイドエアバッグ部とを有するので、乗員の頭部の上方と側方を確実に覆うことができ、乗員保護性能を高めることができる。
【0017】
請求項7の発明によれば、エアバッグは、展開状態において乗員の頭部上方を覆う平板形に構成されたので、エアバッグの構造を簡単化することができる。
請求項8の発明によれば、展開タイミング判定手段は、ロールオーバー発生を予知した時を上記展開タイミングとするため、ロールオーバー発生までにエアバッグを展開させることができる。
【0018】
請求項9の発明によれば、展開タイミング判定手段は、展開タイミングが、ロールオーバプロテクションシステムにより、ロールバーが収納位置から起立位置へ切り換えられた時点以降になるように展開タイミングを判定するため、ロールバーと展開するエアバッグの干渉を防止することができ、特にロールバーにエアバッグ収納部を設けた場合にエアバッグを確実に展開させることができる。
【0019】
請求項10の発明によれば、気体供給手段がブロアファンを有するため、エアバッグを繰り返し展開させる上で有利である。
請求項11の発明によれば、気体供給手段がインフレータを有するため、エアバッグを急速展開させる上で有利である。
請求項12の発明によれば、気体供給手段がコンプレッサと加圧エアを蓄圧するアキュムレータとを有するため、エアバッグを繰り返し展開させるのに有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る車両用乗員保護装置は、ルーフが一時的又は常時解放される車両の乗員保護装置であって、衝突やロールオーバーの発生を予知した際に、又は衝突やロールオーバーが発生した際に、乗員の頭部の上方覆うように展開されるエアバッグを、後方から前方に向けて展開させるように構成したことを主な特徴とするものである。
【実施例1】
【0021】
本実施例の乗員保護装置について図1〜図5に基づいて説明する。
図1に示すように、車両用乗員保護装置は、ルーフが一時的又は常時解放される2人乗りのオープンカー1(以下、自動車という)において衝突やロールオーバーに対して乗員を保護する為のものである。この自動車1では、座席の後側には、ロールバー2が装備され、このロールバー2にエアバッグ収納部3が設けられている。
【0022】
図1、図2に示すように、ロールバー2は、鋼製パイプ材からなるロールバー本体4と、エアバッグ収納部3を形成する断面矩形状の合成樹脂製の収納部ケース5とを有し、収納部ケース5内に折り畳まれた頭部保護エアバッグ6が収納されている。収納部ケース5の中段位置には、エアバッグ6の展開時に破断するミシン目7が形成されている。
【0023】
エアバッグ6にガスを供給する為のインフレータ8(気体供給手段)が、ロールバー2の左部と右部の下面に設けられ、エアバッグ6にガスを供給可能に接続されている。エアバッグ収納部3はロールバー2の水平部2aと左右の傾斜部2bの内部に形成され、車幅方向に連続したエアバッグ6が収納されている。ロールバー2の水平部2aはシートバックのヘッドレスト部9の上端よりも高い位置にある。
【0024】
図2、図3は、上記のエアバッグ6の展開状態を示すもので、この展開状態のエアバッグ6は、運転席と助手席の乗員の頭部上方を広く覆うルーフエアバッグ部6aと、このルーフエアバッグ部6aの左右両端から下方へ延びるサイドエアバッグ部6bとを有する。そのため、乗員の頭部を含む上半身の上方と側方をエアバッグ6で覆うことができる。展開状態のエアバッグ6の上下方向の厚さが過大にならないように、エアバッグ6の内部には、展開したエアバッグ6の上面膜と下面膜とが所定距離以上離間しないように規制する複数片のメッシュ材又はガス透過性膜材が適当間隔おきに設けられている。
【0025】
次に、この車両用乗員保護装置の制御系について説明する。
図4に示すように、車両用乗員保護装置を制御する為の制御ユニット10であって、入力インタフェースとコンピュータと出力インタフェースと複数の駆動回路を有する制御ユニット10が設けられ、この制御ユニット10のコンピュータには、シートベルト装置のプリテンション用モータ18と、この車両用乗員保護装置のインフレータ8とを駆動制御する乗員保護制御の制御プログラムが予め格納されている。この乗員保護制御の制御プログラムには、衝突予知判定マップも付随的に設けられている。
【0026】
次に、衝突検知用のカメラやセンサ類について説明する。
車速を検出する車速センサ11、前方からの衝突を検知する衝突検知センサ12、車体の左右方向へのローリング傾斜角を検出する車体傾斜角センサ13、車体前方からの衝突を検出する為の前突用カメラ14、車体の左側からの左側突を検出する為の左側突用カメラ15、車体の右側からの右側突を検出する為の右側突用カメラ16、車体後方からの衝突を検出する為の後突用カメラ17などが設けられ、これらが制御ユニット10に接続されている。さらに、制御ユニット10には、制御対象の、頭部保護エアバッグ用インフレータ8と、シートベルトのプリテンション用モータ18とが接続されている。
【0027】
次に、制御ユニット10により実行される乗員保護制御について図5のフローチャートに基づいて説明する。尚、図5におけるSi(i=1,2,・・)は各ステップを示す。 自動車のイグニションキーの投入により制御が開始されと、最初にセンサやカメラ類から各種信号が読み込まれ(S1)、次に衝突予知判定処理が実行される(S2)。
【0028】
この衝突予知判定処理は、カメラ14〜17や車体傾斜角センサ13からの画像信号と検出信号を解析処理し、予め格納されている衝突予知判定マップに基づいて、自動車1の前方から前突、自動車1の左方からの左側突、自動車1の右方からの右側突、自動車1の後方からの後突、ロールオーバー、の発生と衝突形態(前突、左側突、右側突、後突、ロールオーバー)を予知する処理である。そのため、最新の所定微小時間(例えば、1秒)の間のカメラ14〜17からの画像信号及び車体傾斜センサ13からの検出信号はコンピュータのRAMに更新しつつ記憶されており、その記憶している最新の画像信号と検出信号を解析処理して衝突やロールオーバーの発生を予知する。
【0029】
但し、上記の衝突は車両との衝突に限定されず、電柱等の構築物との衝突も含む。例えば、左側突を予知する場合、左側突用カメラ15からの画像信号に基づいて、自車両に左方から所定以上の相対速度以上の速度で接近する衝突対象物が、所定距離以内に存在する場合に左側突発生の可能性有りと判定する。衝突予知判定マップには、例えば、40km/hr以上で15m以内、30km/hr以上で10m以内、・・・のように設定されている。前突、右側突、後突についても同様であるが、前突発生予知は前突用カメラ14からの画像信号に基づいて判定され、右側突発生の予知は右側突用カメラ16からの画像信号に基づいて判定され、後突発生の予知は後突用カメラ17からの画像信号に基づいて判定される。
【0030】
ロールオーバーについては、車体傾斜角センサ13からの検出信号に基づいて、車体傾斜角の変化率が所定値以上で且つ車体傾斜角が所定値以上になった場合に、ロールオーバー発生の可能性ありと判定する。
【0031】
次に、S3において、S2の衝突予知判定処理の結果に基づいて、衝突又はロールオーバ発生の可能性があるか否か判定され、その判定がYesの場合はS4へ移行し、その判定がNoの場合はS1へ戻る。本実施例の乗員保護装置では、衝突やロールオーバーの発生を予知したタイミングを展開タイミングとする。次にS4では、運転席シートベルト装置のプリテンション用モータ18を所定微小時間駆動してシートベルトを軽く引き込んで乗員を拘束する拘束性を高める。
【0032】
次に、S5において頭部保護エアバッグ6のインフレータ8を作動してエアバッグ6を展開させる。このとき、エアバッグ6は乗員の頭部の上方と、上半身の側面側を覆うように後方から前方に向かって展開する。次にS6では、衝突検知センサ12や車体傾斜センサ13からの検出信号、或いはカメラ14〜17からの画像信号の解析処理結果に基づいて衝突又はロールオーバーが実際に発生したか否か判定し、その判定がYesのときはS7において、プリテンション用モータ18を設定微小時間駆動することで、シートベルトを強く引き込んで制御を終了し、また、S6の判定がNoの場合も制御を終了する。
尚,制御ユニット10が、頭部保護エアバッグにガス(気体)を供給して展開させるタイミングを判定する展開タイミング判定手段を構成している。
【0033】
この乗員保護装置においては、衝突やロールオーバーの発生が予知された場合にエアバッグ6が展開し、その展開状態のエアバッグ6が乗員の頭部の上方を覆うルーフエアバッグ部6aと、このルーフエアバッグ部6aの左右両端から下方へ延びるサイドエアバッグ部6bとを有するため、乗員の頭部の上方と側方を覆うことができるから、乗員の頭部の上方と頭部及び上半身の側方をエアバッグ6で覆うことができ、乗員保護性能を格段に高めることができる。
【0034】
しかも、エアバッグ収納部3をロールバー2に設け、エアバッグ6が乗員の頭部の上方において後方から前方へ向かって展開するように構成したので、運転者が退避運転する際に視界が遮られないので、退避運転の面でも乗員保護性能に優れる。
【0035】
次に、上記実施例を部分的に変更する例について説明する。
1)上記実施例では、衝突やロールオーバーの発生を予知した時を展開タイミングとしてエアバッグを展開させるように構成したが、衝突やロールオーバーが実際に発生した時を展開タイミングとしてエアバッグを展開させるように構成してもよい。
【0036】
2)図8に示すように、前記エアバッグ6のうちのサイドエアバッグ部6bを省略し、ルーフエアバッグ部6aのみを展開させるように構成してもよい。この場合、エアバッグ6は乗員の頭部上方を覆う平板形のものとなっている。
【0037】
3)前記ロールバー2と、このロールバー2を図1に示すような起立位置と、この起立位置より下方へ下降又は揺動させた収納位置とに亙って位置切り換えするロールバー駆動アクチュエータ(図示略)を含むロールオーバープロテクションシステムを設け、ロールバー駆動アクチュエータを前記制御ユニット10により駆動制御するように構成する。
【0038】
この構成において、衝突やロールオーバーの発生を予知した場合には、前記S4において、シートベルトを軽く引き込むと共に、ロールバー駆動アクチュエータを介してロールバー2を収納位置から起立位置に切り換え、このロールバー2の起立位置への切り換えの完了直後のタイミングを展開タイミングとして、頭部保護エアバッグ6を膨張展開させるように構成する。
【0039】
4)図6に示すように、前記インフレータ8の代わりに、前記同様の制御ユニット10で駆動制御されるブロア20を設け、このブロア20からエアバッグ6に通ずるエア通路21と、このエア通路21に介装された電磁三方弁22を設け、ブロア20からエアバッグ6に加圧エアを急速に供給して展開させるように構成する。上記の電磁三方弁22は加圧エアを供給する位置と、遮断位置と、エアバッグ6を大気に連通させる排気位置とに切り換え可能に構成されている。この構成によれば、一旦展開させたエアバッグ6から排気して、エアバッグ6をエアバッグ収納部3に再び収納することができる。
【0040】
5)図7に示すように、前記インフレータ8の代わりに、前記同様の制御ユニット10で駆動制御されるコンプレッサ23と、このコンプレッサ23から供給される加圧エアを蓄圧するアキュムレータ24と、このアキュムレータ24からエアバッグ6へ通ずるエア通路25と、このエア通路25に介装された電磁三方弁26を設けてある。上記の電磁三方弁26は加圧エアを供給する位置と、遮断位置と、エアバッグ6を大気に連通させる排気位置とに切り換え可能に構成されている。この構成によれば、一旦展開させたエアバッグ6から排気して、エアバッグ6をエアバッグ収納部3に再び収納することができる。
【実施例2】
【0041】
次に、実施例2の車両用乗員保護装置について説明する。
図9〜図11に示すように、この自動車1Aは、ルーフが一時的又は常時解放されるオープンカーである。この自動車1Aには、前席30と後席31とが設けられ、後席のシートバック32の上側近傍には、ほぼ左右のシートバック32の全幅に亘るヘッドレスト33であって、後席の左側席と右側席の乗員に共通のヘッドレスト33が設けられている。
【0042】
このヘッドレスト33の左部と右部には、ヘッドレスト33を支持する脚部材34が設けられ、この各脚部材34は、シートバック32内に収容された立て向き姿勢のガスシリンダ35のロッドに連結されている。このガスシリンダ35にガスを供給するシリンダ用インフレータ36がガスシリンダ35の下端付近に設けられている。このシリンダ用インフレータ36は前記制御ユニット10と同様の制御ユニットにより制御される。
【0043】
上記のヘッドレスト33はエアバッグ収納部37として構成され、エアバッグ収納部37は合成樹脂製のケース体38と、その内部に折り畳んで収納されたエアバッグ39とを有し、ケース体38の前面の中段位置にはエアバッグ39の展開時に破断するミシン目が形成されている。エアバッグ収納部37の近くにはインフレータ40(気体供給手段)が設けられ、このインフレータ40は上記の制御ユニットで制御される。
【0044】
上記の制御ユニットにより、衝突やロールオーバーの発生が予知されると、前記制御ユニット10と同様に、両インフレータ36,40が次のように駆動制御される。衝突やロールオーバーが発生してない通常状態では、図10に実線で図示のように、ヘッドレスト33は下降させた使用位置に保持され、ヘッドレストとして機能する。
【0045】
衝突やロールオーバーの発生が予知された場合には、最初にシリンダ用インフレータ36が作動され、このインフレータ36で瞬時に発生させたガスがガスシリンダ35に供給されて、ガスシリンダ35のロッドが伸長してヘッドレスト33が図10に鎖線で図示のように所定高さまで上昇し、この上昇完了のタイミングを展開タイミングとして、インフレータ40が作動され、このインフレータ40で発生したガスがエアバッグ39に供給されると、ケース体38のミシン目が破断してエアバッグ39が図10、図11に示すように、後方から前方へ向かって膨張展開し、後席と前席の乗員の頭部の上方を覆うようにエアバッグ39が平板状に展開するように構成されている。上記の制御ユニットが前記制御ユニット10と同様にエアバッグを展開させる展開タイミング判定手段として機能する。
【0046】
この車両用乗員保護装置によれば、衝突やロールオーバーの発生を予知した際に、エアバッグを展開させ、そのエアバッグで乗員の頭部の上方を極力早期に覆うことで、乗員、特にその頭部を保護することができる。エアバッグが後方から前方へ向かって展開するため、展開するエアバッグにより運転者の視界が遮られることがなく、退避運転に支障を来すことがない。
【0047】
しかも、この車両用乗員保護装置では、後席のヘッドレスト33をエアバッグ収納部37として有効活用しているため、エアバッグ収納部37の設置のために特別なスペースが必要でないからスペース的に有利であり、エアバッグ39を展開させる際には、ヘッドレスト33がガスシリンダ35により上昇位置に切り換えてからエアバッグ39が展開するので、展開するエアバッグ39が前席のヘッドレストと干渉せずに確実に展開する。
【0048】
なお、衝突やロールオーバーの発生を予知した時に、エアバッグを展開させる代わりに、衝突やロールオーバーが実際に発生した時に、エアバッグを展開させるように構成してもよい。また、上記のヘッドレスト33の内部に、脚部材34に連結された例えば鋼製パイプ材製のロールバーを組み込み、そのヘッドレスト33をロールバー兼用のものに構成してもよい。この場合、ヘッドレスト33と1対のガスシリンダ35及びガスシリンダ用インフレータ36と制御ユニットと、センサ及びカメラ類でロールオーバープロテクションシステムが構成されることになる。
【実施例3】
【0049】
次に、実施例3の車両用乗員保護装置について説明する。
図12、図13に示すように、自動車1Bは、ルーフが一時的又は常時解放されるオープンカーであり、この自動車1Bには運転席と助手席の2つのシート装置41,42が装備され、この2つのシート装置41,42の後側近傍位置には、車体の左右の側壁を連結するクロスバー43が設けられ、このクロスバー43には運転席の後側に位置するロールバー44と助手席の後側に位置するロールバー45とが固定的に設けられている。
【0050】
この自動車1Bのリヤデッキ部46の内部には、車室のほぼ全幅に亘るエアバッグ収納部47が設けられ、このエアバッグ収納部47には折り畳んだエアバッグ48が収納され、このエアバッグ48にガスを供給する左右1対のインフレータ49もリヤデッキ部46の内部に設けられ、制御ユニット(図示略)により制御される。エアバッグ収納部47の前面を覆う合成樹脂製の表皮材には、エアバッグ展開時に破断するミシン目が形成されている。
【0051】
制御ユニットが衝突やロールオーバーの発生を予知すると、インフレータ49が駆動されてエアバッグ48にガスが供給され、エアバッグ48が膨張しミシン目を破断して後方から前方へ向かって膨張展開し、図13に示すように、乗員の頭部の上方と、頭部の側面側を覆うように展開する。展開状態のエアバッグ48は、乗員の頭部の上方を覆うルーフエアバッグ部48aと、このルーフエアバッグ部48aの左右両端から下方へ延びるサイドエアバッグ部48bを有する。
【0052】
この車両用乗員保護装置によれば、基本的に実施例1のものと同様の作用、効果を奏するが、リアデッキ46内にエアバッグ収納部47を形成するため、リアデッキ46内のデッドスペース的な空間を有効活用してエアバッグ収納部47を形成することができる。
【実施例4】
【0053】
次に、実施例4の車両用乗員保護装置について説明する。
図14に示すように、自動車1Cは、実施例2の自動車と同様の自動車であるが、実施例1,3のような自動車でもよい。自動車1Cは左右1対のサイドドア50を有し、各サイドドア50のベルトライン部の内部にエアバッグ収納部51が設けられ、エアバッグ収納部51には折り畳んだエアバッグ52が収納され、サイドドア50内にはエアバッグ52にガスを供給するインフレータ53も設けられている。
【0054】
助手席用のエアバッグを例として説明すると、展開状態のエアバッグ52は、エアバッグ収納部51から上方へ延びるサイドエアバッグ部52aと、このサイドエアバッグ部52aの上端から車体中心側へ平板状にほぼ水平に延びるルーフエアバッグ部52bと、エアバッグ52の後端部に形成され且つサイドエアバッグ部52aとルーフエアバッグ部52bとを連結する後端エアバッグ部52cとを有する。ルーフエアバッグ部52bで乗員の頭部の上方が覆われ、サイドエアバッグ部52aで乗員の上半身の側面側が覆われる。運転席用のエアバッグ52は、展開状態において上記の助手席用のエアバッグ52と左右に対称の構造である。
【0055】
制御ユニット(図示略)により衝突やロールオーバーの発生が予知されると、制御ユニットにより左右両方のインフレータ53が駆動されてエアバッグ52が膨張展開し、図14に鎖線で図示のように展開する。乗員の頭部の上方がルーフエアバッグ部52bで覆われ、サイドエアバッグ部52aで乗員の上半身の側面側が覆われるため、衝突やロールオーバー発生時に乗員を確実に保護することできる。しかも、サイドエアバッグ部52aがサイドドア50のベルトライン部から延びるため、展開したエアバッグ52と車体との一体性が確保されるから、乗員保護性能を高めることができる。
尚、上記のエアバッグ収納部51の代わりに、リアフェンダー部の内部にエアバッグ収納部を設けることも可能である。
【実施例5】
【0056】
次に、実施例5の車両用乗員保護装置について説明する。
図15に示すように、自動車1Dは、ルーフが一時的又は常時解放されるオープンカーであり、この自動車1Dには運転席と助手席の2つのシート装置60,61が装備され、この2つのシート装置60,61の後側近傍位置には、車体の左右の側壁を連結するクロスバー62が設けられ、このクロスバー62には運転席の後側に位置するロールバー63と助手席の後側に位置するロールバー64とが固定的に設けられている。
【0057】
各ロールバー63,64にエアバッグ収納部65,66が設けられ、エアバッグ収納部65,66には折り畳んだエアバッグ67,68が収納され、各ロールバー63,64の付近にはエアバッグ67,68にガスを供給するインフレータ(図示略)が設けられている。制御ユニットにより衝突やロールオーバーの発生が予知されると、両方のインフレータが駆動されて、エアバッグ67,68が後方から前方へ向かって膨張展開し、夫々、乗員の頭部の上方を覆うように構成されている。
【0058】
この展開したエアバッグ67,68は断面アーチ形の半円筒形をなし、エアバッグ67,68は乗員の頭部と肩部の上方と左右両側を覆うように展開する。実施例1〜4の車両用乗員保護装置と同様に、衝突やロールオーバーの発生時に乗員を確実に保護することができる。特に、このエアバッグ67,68は比較的小型のエアバッグであるので、エアバッグ収納部65,66とインフレータの小型化を図ることができ、製作費の面でも有利である。
【0059】
尚、本発明の車両用乗員保護装置は、以上説明した実施例1〜5のものに限定される訳ではなく、当業者であれば本発明の趣旨を逸脱することなく前記実施例1〜5のものに種々の変更を負荷した形態で実施可能であり、本発明はそのようなものも包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施例1に係る自動車の斜視図である。
【図2】エアバッグ収納部とエアバッグを示す要部断面図である。
【図3】展開したエアバッグを含む自動車の斜視図である。
【図4】制御系のブロック図である。
【図5】乗員保護制御のフローチャートである。
【図6】変更例に係る加圧エア供給系のブロック図である。
【図7】別の変更例に係る加圧エア供給系のブロック図である。
【図8】別の変更例に係る図3相当図である。
【図9】実施例2に係る自動車の斜視図である。
【図10】図9の自動車の乗員保護装置の要部縦断側面図である。
【図11】図9の自動車のエアバッグの展開状態を示す斜視図である。
【図12】実施例3に係る自動車の斜視図である。
【図13】図12の自動車のエアバッグの展開状態を示す斜視図である。
【図14】実施例4に係る自動車の斜視図である。
【図15】実施例5に係る自動車の斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
1,1A〜1D 自動車
2 ロールバー
3 エアバッグ収納部
4 ロールバー本体
5 収納部ケース
6 エアバッグ
6a ルーフエアバッグ部
6b サイドエアバッグ部
8 インフレータ
10 制御ユニット
33 ヘッドレスト
35 ガスシリンダ
36 ガスシリンダ用インフレータ
37 エアバッグ収納部
38 ケース体
39 エアバッグ
40 インフレータ
46 リヤデッキ部
47 エアバッグ収納部
48 エアバッグ
48a ルーフエアバッグ部
48b サイドエアバッグ部
49 インフレータ
50 サイドドア
51 エアバッグ収納部
52 エアバッグ
52a サイドエアバッグ部
52b ルーフエアバッグ部
53 インフレータ
63,64 ロールバー
65,66 エアバッグ収納部
67,68 エアバッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーフが一時的又は常時解放される車両の乗員保護装置において、
乗員の頭部の上方を覆うように展開されるエアバッグと、
上記エアバッグに気体を供給して展開させる気体供給手段と、
上記エアバッグを折り畳んだ状態に収納可能なエアバッグ収納部と、
上記エアバッグへ気体を供給して展開させる展開タイミングを判定する展開タイミング判定手段とを備え、
上記エアバッグが乗員の頭部の上方において後方から前方へ向かって展開するように構成されたことを特徴とする車両用乗員保護装置。
【請求項2】
上記エアバッグ収納部が車両のリヤデッキ部に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項3】
上記エアバッグ収納部が車両のベルトライン部とリヤフェンダ部の少なくとも一方に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項4】
上記エアバッグ収納部の大部分がシート装置のシートバックのヘッドレスト部に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項5】
上記エアバッグ収納部がロールバーに設けられたことを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項6】
上記エアバッグは、展開状態において乗員の頭部上方を覆うルーフエアバッグ部と、このルーフエアバッグ部の左右両端から下方へ延びるサイドエアバッグ部とを有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の車両用乗員保護装置。
【請求項7】
上記エアバッグは、展開状態において乗員の頭部上方を覆う平板形に構成されたことを特徴とする請求項1又は4に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項8】
上記展開タイミング判定手段は、ロールオーバー発生を予知した時を上記展開タイミングとすることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の車両用乗員保護装置。
【請求項9】
上記展開タイミング判定手段は、上記展開タイミングが、ロールオーバプロテクションシステムにより、ロールバーが収納位置から起立位置へ切り換えられた時点以降になるように上記展開タイミングを判定することを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の車両用乗員保護装置。
【請求項10】
上記気体供給手段が、ブロアファンを有することを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の車両用乗員保護装置。
【請求項11】
上記気体供給手段が、インフレータを有することを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の車両用乗員保護装置。
【請求項12】
上記気体供給手段が、コンプレッサと加圧エアを蓄圧するアキュムレータとを有することを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の車両用乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−320522(P2007−320522A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155910(P2006−155910)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】