車両用制動装置
【課題】従来の制動装置を大幅に変更することなく、回生協調制御を実行可能な車両用制動装置の提供。
【解決手段】シリンダ部311内には、プライマリピストン36およびセカンダリピストン33が移動可能に設けられており、これにより、プライマリ室PCおよびセカンダリ室SCが形成されている。プライマリ室PCとABSアクチュエータ5との間には、差圧弁91が設けられている。パワー液圧源7からの駆動液圧が駆動室DCに供給されると、プライマリピストン36およびセカンダリピストン33がシリンダ部311内を移動し、プライマリ室PCおよびセカンダリ室SCに液圧が発生する。プライマリ室PCの液圧は差圧弁91によって減圧され、初期制動において、後輪側のホイルシリンダWC3,WC4の液圧は、前輪側のホイルシリンダWC1,WC2よりも低く設定される。
【解決手段】シリンダ部311内には、プライマリピストン36およびセカンダリピストン33が移動可能に設けられており、これにより、プライマリ室PCおよびセカンダリ室SCが形成されている。プライマリ室PCとABSアクチュエータ5との間には、差圧弁91が設けられている。パワー液圧源7からの駆動液圧が駆動室DCに供給されると、プライマリピストン36およびセカンダリピストン33がシリンダ部311内を移動し、プライマリ室PCおよびセカンダリ室SCに液圧が発生する。プライマリ室PCの液圧は差圧弁91によって減圧され、初期制動において、後輪側のホイルシリンダWC3,WC4の液圧は、前輪側のホイルシリンダWC1,WC2よりも低く設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ操作部材の操作に応じた液圧を発生させて車輪ブレーキに供給する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の安定性を維持しながら効率的に制動力を発生させるため、車両の前後輪への制動力を理想配分に近似させるように供給する技術があった。これまで、これに関する技術は、液圧制動に関する制御装置の発達にともなって数々の技術が生み出されてきた。
また、近年は、ハイブリッド車両や電気自動車の普及にともなって、回生制動と液圧制動とを併用して車輪を制動する回生協調制御の需要が増大している。この回生協調制御の技術分野においては、エネルギー回収効率を増大させて車両燃費を向上させるために、駆動輪にできるだけ回生制動力を付与できるように、液圧制動と回生制動とを協調させることが一つの課題となっている。
【0003】
したがって、回生協調制御を実行する車両においては、液圧制動と回生制動とを協調させる手法に関する課題と、前後輪の液圧ブレーキの配分調整に関する課題とが併存した状態にある。特に、後輪駆動車においては、回生制動が実行される車輪と、理想配分に基づいて制動力が制限される車輪とが一致している。また、前後輪駆動車ではあるが後輪の回生能力が前輪の回生能力よりも高い車両においては、回生制動が実行されると相対的に制動力が大きくなる車輪と、理想配分に基づいて制動力が制限される車輪とが一致している。そのため、液圧制動と回生制動とをどのように組み合わせて車両に制動力を発生させるかは、車両の制動効率と安定性に大きな影響を与えるものであった。
【0004】
ここで、後輪が左右個別のモータにより駆動される後輪駆動車において、回生協調制御を実行する制動制御装置に関する従来技術があった(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された制動制御装置によれば、前後輪の液圧制動力を制御ユニットにより個別に制御している。これによって、後輪において回生制動を行ってエネルギー回収を行いながら、前後輪の制動力配分を理想配分に近づけるように液圧制動を実行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9―93711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された制動制御装置においては、前後輪の液圧制動力を個別に制御するために、その構成および制御アルゴリズムが複雑なものとなっており、従来よりある制動装置を大幅に変更する必要が発生する。したがって、制動装置が大型化しコストの増大につながる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、後輪駆動車もしくは前後輪駆動車ではあるが後輪の回生能力が前輪の回生能力よりも高い車両において、従来の制動装置を大幅に変更することなく、好適な回生協調制御を実行可能な車両用制動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る車両用制動装置の発明の構成上の特徴は、前後2系統のブレーキ配管を有し、後輪に回生制動力を付与する回生制動部を備える車両に適用され、シリンダ部内において移動可能なプライマリピストンと、プライマリピストンの前方に配置され、シリンダ部内において移動可能なセカンダリピストンとを有し、プライマリピストンとセカンダリピストンとの間にはプライマリ液圧室が形成されるとともに、セカンダリピストンの前方にはセカンダリ液圧室が形成され、プライマリ液圧室は前輪側ホイルシリンダおよび後輪側ホイルシリンダのうちの一方と接続され、セカンダリ液圧室は前輪側ホイルシリンダおよび後輪側ホイルシリンダのうちの他方と接続され、プライマリピストンが付勢されて前進することにより、プライマリ液圧室に液圧が発生するとともに、プライマリ液圧室に発生した液圧によりセカンダリピストンが前進して、セカンダリ液圧室に液圧が発生して前後輪に制動力を付与するマスタシリンダと、ブレーキ操作部材の操作量を検出するブレーキ操作量検出手段と、後輪側ホイルシリンダとプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室との間に設けられ、後輪側ホイルシリンダの液圧に対してプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室の液圧が所定の設定圧以上高くなると開弁する差圧弁と、ブレーキ操作部材の操作開始から差圧弁が開弁するまでの間に、回生制動部により、ブレーキ操作量検出手段により検出されている操作量に応じた回生制動力を後輪に付与する回生制動制御手段と、を備えていることである。
【0008】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1の車両用制動装置において、ブレーキ操作部材の操作が開始されてから、ブレーキ操作部材の操作量が差圧弁が開弁するブレーキ操作部材の操作量である第1所定値よりも小さい第2所定値に到達するまでは、回生制動制御手段は、ブレーキ操作部材の操作開始からブレーキ操作部材の操作量が第2所定値に到達するまでの間に、ブレーキ操作部材の操作量に応じた回生制動力を後輪に付与することである。
【0009】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2の車両用制動装置において、プライマリピストンの後方には、ブレーキ操作部材と連結されるとともに、シリンダ部内において移動可能な入力ピストンが設けられ、ブレーキ操作部材が操作されていない場合に、プライマリピストンと入力ピストンとの間には、第2所定値に対応する所定の間隔が設けられていることである。
【0010】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至3のうちのいずれかの車両用制動装置において、後輪側ホイルシリンダとプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室との間には、差圧弁と並列に後輪側ホイルシリンダからプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室へ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁が設けられたことである。
【0011】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項4の車両用制動装置において、ブレーキ操作部材の操作量が、差圧弁が開弁するブレーキ操作部材の操作量である第1所定値未満である場合に、回生制動制御手段による後輪の回生制動力の増減に応じて、前輪の液圧制動力を増減させる液圧制動制御手段を備えていることである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る車両用制動装置によれば、プライマリ液圧室やセカンダリ液圧室に液圧が発生したとしても、ブレーキ操作部材の操作開始から、当該液圧と後輪側ホイルシリンダの液圧との差圧が差圧弁の設定圧に達するまでの間は差圧弁が開弁せず、後輪側ホイルシリンダの液圧は上昇しない。よって、この間に、ブレーキ操作部材の操作量に応じた回生制動力を後輪に付与することにより、回生効率の向上を図ることができ、しかも、後輪への回生制動力付与により車両の安定性が損なわれることはない。
【0013】
すなわち、車両の安定性を維持しながら効率的に制動力を付与するとともに、回生効率を高めるという好適な回生協調制御を行うことができる。
また、プライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室と後輪側ホイルシリンダとの間に差圧弁を設けることで、上記好適な回生協調制御を行うことができるため、従来の制動装置を大幅に変更する必要がない。
【0014】
請求項2に係る車両用制動装置では、ブレーキ操作部材の操作が開始されてから、当該ブレーキ操作部材の操作量が第2所定値に到達するまでは、プライマリ液圧室に液圧が発生しない。
そのため、ブレーキ操作部材の操作量が第2所定値に到達するまでの間においては、前後輪に液圧制動力が付与されないため、ブレーキ操作部材の操作量に相当する制動力を全て回生制動力に割り当てることができ、初期制動時において回生制動力を十分に発生させることができる。
【0015】
請求項3に係る車両用制動装置によれば、プライマリピストンの後方には、ブレーキ操作部材と連結されるとともに、シリンダ部内において移動可能な入力ピストンが設けられ、ブレーキ操作部材が操作されていない場合に、プライマリピストンと入力ピストンとの間には、ブレーキ操作部材の操作量が第2所定値に対応する所定の間隔が設けられている。
これにより、初期制動において、ブレーキ操作部材の操作量が第2所定値に到達するまでは、入力ピストンがシリンダ部内を前進しても、プライマリピストンに当接することがないため、プライマリ液圧室に液圧を発生させないブレーキ操作部材の無効ストローク領域を確実に形成することができる。
【0016】
請求項4に係る車両用制動装置によれば、差圧弁と並列に後輪側ホイルシリンダからプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室へ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁が設けられている。
これにより、ブレーキ操作部材の操作を戻すことにより、プライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室の液圧が後輪側ホイルシリンダの液圧より低くなった場合に、逆止弁を介して後輪側ホイルシリンダのブレーキ液がプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室に戻される。
したがって、差圧弁の作動状態にかかわらず、ブレーキ操作部材の操作量の低下に応じて、後輪側ホイルシリンダの液圧を減少させることができる。
【0017】
請求項4に係る車両用制動装置において、後輪側ホイルシリンダのブレーキ液を逆止弁を介してプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室に流出させて、当該後輪側ホイルシリンダの液圧を低下させるためには、上述の如くプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室の液圧を当該後輪側ホイルシリンダの液圧よりも低くする必要があるが、請求項5に記載の発明のように前輪の液圧制動力を増減させることにより、後輪側ホイルシリンダの回生制動力の増減を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1による車両用制御システムを示したブロック図
【図2】図1に示した液圧ブレーキ装置を模式的に示した図
【図3】図1に示した液圧ブレーキ装置の初期制動時の状態を示した図
【図4】図1に示した液圧ブレーキ装置において後輪への液圧制動が開始された状態を示した図
【図5】図1に示した車両用制御システムにおける初期制動時を中心としたフロント制動力とリヤ制動力の関係を示した図
【図6】図1に示した車両用制御システムにおけるブレーキ操作量と車両制動力との関係を示した図
【図7】減圧手段の変形例1を示した図
【図8】減圧手段の変形例2を示した図
【図9】本発明の実施形態2による液圧ブレーキ装置を模式的に示した図
【図10】図9に示した液圧ブレーキ装置の初期制動時の状態を示した図
【図11】図9に示した液圧ブレーキ装置において、前輪への液圧制動力の付与が開始された状態を示した図
【図12】他の実施形態による車両用制御システムにおけるブレーキ操作量と車両制動力との関係を示した図
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態1>
図1乃至図6に基づき、本発明による液圧ブレーキ装置Bをハイブリッド車に適用した実施形態1について説明する。図1はそのハイブリッド車の構成を示す概要図であり、図2は液圧ブレーキ装置Bの構成を示す概要図である。
ハイブリッド車は、図1に示すように、ハイブリッドシステムによって駆動輪である左右後輪RL,RRを駆動させる車両である。ハイブリッドシステムは、エンジン11およびモータ12の2種類の動力源を組み合わせて使用するパワートレーンである。本実施形態の場合、エンジン11およびモータ12の双方で車輪を直接駆動する方式であるパラレルハイブリッドシステムである。なお、これ以外にシリアルハイブリッドシステムがあるが、これはモータ12によって車輪が駆動され、エンジン11は発電用の動力源として機能する。本願発明は、シリアルハイブリッドシステムにも適用可能である。
【0020】
このパラレルハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車において、エンジン11の駆動力は、動力分割機構13および動力伝達機構14を介して左右後輪RL,RRに伝達されるようになっており、モータ12の駆動力は、動力伝達機構14を介して左右後輪RL,RRに伝達されるようになっている。
動力分割機構13は、エンジン11の駆動力を車両駆動力と発電機駆動力に適切に分割するものである。動力伝達機構14は、走行条件に応じてエンジン11およびモータ12の駆動力を適切に統合して駆動輪に伝達するものである。動力伝達機構14はエンジン11とモータ12の伝達される駆動力比を0:100〜100:0の間で調整している。この動力伝達機構14は変速機能を有している。
【0021】
モータ12は、エンジン11の出力を補助し駆動力を高めるものであり、一方車両の制動時には発電を行いバッテリ17を充電するものである。発電機15は、エンジン11の出力により発電を行うものであり、エンジン始動時のスタータの機能を有する。これらモータ12および発電機15は、インバータ16にそれぞれ電気的に接続されている。インバータ16は、直流電源としてのバッテリ17に電気的に接続されており、モータ12および発電機15から入力した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ17に供給したり、逆にバッテリ17からの直流電圧を交流電圧に変換してモータ12および発電機15へ出力したりするものである。
【0022】
本実施形態においては、これらモータ12、インバータ16およびバッテリ17から回生ブレーキ装置Aが構成されており、この回生ブレーキ装置A(回生制動部に該当する)は、ペダルストロークセンサ22aやペダル踏力センサ22bによって検出されたブレーキ操作状態に基づいた回生制動力を、駆動源であるモータ12によって駆動される左右後輪RL,RRに発生させるものである。
エンジン11はエンジンECU(電子制御ユニット)18によって制御されており、エンジンECU18は後述するハイブリッドECU(電子制御ユニット)19からのエンジン出力要求値に従って電子制御スロットルに開度指令を出力し、エンジン11の回転数を調整する。
【0023】
ハイブリッドECU19(回生制動制御手段に該当する)には、インバータ16が相互通信可能に接続されている。ハイブリッドECU19は、アクセル開度およびシフトポジション(図示しないシフトポジションセンサから入力したシフト位置信号から算出する)から必要なエンジン出力、電気モータトルクおよび発電機トルクを導出し、その導出したエンジン出力要求値をエンジンECU18に送信してエンジン11の駆動力を制御し、また導出した電気モータトルク要求値および発電機トルク要求値に従って、インバータ16を通してモータ12および発電機15を制御する。
【0024】
また、ハイブリッドECU19にはバッテリ17が接続されており、バッテリ17の充電状態、充電電流などを監視している。さらに、ハイブリッドECU19は、アクセルペダル(図示省略)に組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ(図示省略)も接続されており、アクセル開度センサからアクセル開度信号を入力している。
【0025】
また、ハイブリッド車は、前後2系統のブレーキ配管を介して、直接各車輪FL,FR,RL,RRに液圧制動力を付与して車両を制動させる液圧ブレーキ装置Bを備えている。液圧ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル22の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダ3と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ3にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク23と、マスタシリンダ3と各車輪FL,FR,RL,RRに取り付けられたホイルシリンダWC1〜WC4(図2示)との間に設けられて、制御液圧を形成するブレーキアクチュエータDを備えている。
また、各車輪FL,FR,RL,RRには、それぞれ車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srrが取り付けられており、それぞれの検出値はブレーキECU21に入力され、ブレーキアクチュエータDによる制御液圧の形成に使用される。
【0026】
液圧ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル22(ブレーキ操作部材に該当する)の踏み込み操作をプッシュロッド24によってマスタシリンダ3に伝達し、ブレーキペダル22の操作量に応じた液圧をマスタシリンダ3にて発生し、発生した液圧をブレーキアクチュエータDを介して連結された各車輪FL,FR,RL,RRのホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与することにより、同各車輪FL,FR,RL,RRにおいて発生した液圧に対応した液圧制動力を発生させる。
【0027】
ブレーキペダル22には、ブレーキペダル22の踏み込みによるブレーキペダルストローク量を検出するペダルストロークセンサ22a(本発明のブレーキ操作量検出手段に該当する)と、ブレーキペダル22が受ける反力を検出するペダル踏力センサ22bが設けられている。このペダルストロークセンサ22aおよびペダル踏力センサ22bはブレーキECU21に接続されており、検出信号がブレーキECU21に送信されるようになっている。
また、ブレーキECU21(本発明の液圧制動制御手段に該当する)はハイブリッドECU19およびブレーキアクチュエータDと接続され、ハイブリッドECU19から入力される回生ブレーキ装置Aの状態に基づいて、ブレーキアクチュエータDの作動を制御する。
【0028】
次に、図2に基づいて、マスタシリンダ3について説明する。尚、説明中において、図2における左方(ブレーキペダル22の踏込みによりプッシュロッド24が移動する方向)をマスタシリンダ3の前方、右方(ブレーキペダル22の戻りによりプッシュロッド24が移動する方向)をマスタシリンダ3の後方として説明する。マスタシリンダ3は、プライマリ室PCとセカンダリ室SCを有するタンデムマスタシリンダにより形成されている。マスタシリンダ3のシリンダボデー31の内部には、シリンダ部311が形成されている。
【0029】
セカンダリピストン33は、断面形状が略コの字状に形成され、シリンダ部311の底部と対向するようにシリンダ部311内に収容されている。セカンダリピストン33の外周面は、シリンダ部311の内周面に設けられた第1シールカップ34aおよび第2シールカップ34bと当接し、シリンダ部311に対して摺動可能かつ液密的に嵌合している。これにより、第1シールカップ34aによってシールされて、シリンダ部311およびセカンダリピストン33によって、セカンダリピストン33の前方にセカンダリ室SC(本発明のセカンダリ液圧室に該当する)が形成されている。また、セカンダリピストン33の前方部には、セカンダリピストン33の外周面とセカンダリ室SCとを接続する第1連通ポート331が貫通している。
【0030】
セカンダリピストン33の凹部332とシリンダ部311の底部との間には、セカンダリスプリング35が弾発的に介装されている。シリンダボデー31には、図示しないストッパボルトが螺着されており、セカンダリスプリング35からの付勢力を受けたセカンダリピストン33の後方部を受け止めている。
【0031】
シリンダ部311内には、セカンダリピストン33の後方に位置するように、プライマリピストン36が移動可能に収容されている。プライマリピストン36は、断面形状が略H字状に形成され、その外周面は、シリンダ部311の内周面に設けられた第3シールカップ34cおよび第4シールカップ34dと当接し、シリンダ部311に対して液密的に嵌合している。
【0032】
これにより、第2シールカップ34bおよび第3シールカップ34cによってシールされて、シリンダ部311、セカンダリピストン33およびプライマリピストン36によってプライマリ室PC(本発明のプライマリ液圧室に該当する)が形成されている。また、プライマリピストン36の前方部には、プライマリピストン36の外周面とプライマリ室PCとを接続する第2連通ポート361が貫通している。
【0033】
セカンダリピストン33の後端部にはスプリング支持部333が突出しており、スプリング支持部333には、プライマリスプリング40の一端部が係合している。プライマリスプリング40の他端部はプライマリピストン36の凹部362に当接しており、プライマリスプリング40は、セカンダリピストン33とプライマリピストン36との間に弾発的に介装されている。
プライマリピストン36の後方において、シリンダボデー31から半径方向内方に向けて支持壁312が突出している。プライマリスプリング40から後方への付勢力を受けるプライマリピストン36は、ブレーキペダル22が操作されていない状態において、その後端が支持壁312の前端面に当接することにより位置決めされる(図2示)。
【0034】
支持壁312には摺動孔312aが貫通しており、摺動孔312aには第1シールリング41aが装着されている。シリンダボデー31には、後方から入力ピストン43が挿入され、入力ピストン43の小径部431は摺動孔312aに移動可能に嵌合している。入力ピストン43の外周面は、第1シールリング41aに当接することにより、摺動孔312aに対して液密的に嵌合している。
小径部431はプライマリピストン36の後端と対向し、第4シールカップ34dおよび第1シール部材41aによってシールされ、シリンダボデー31、プライマリピストン36および入力ピストン43によって、プライマリピストン36の後方に駆動室DCが形成されている。
【0035】
入力ピストン43は前方に形成された小径部431、軸方向の中央部の大径部432および後方に形成された小径の連結部433とにより形成されている。シリンダボデー31内には、支持壁312の後方に位置するように入力シリンダ313(シリンダ部311とともに、本発明のシリンダ部に含まれる)が形成されている。入力シリンダ313には、入力ピストン43の大径部432が摺動可能に嵌合している。大径部432の外周面には第2シールリング41bが装着されており、大径部432は入力シリンダ313に対して液密的に嵌合している。
これにより、第1シール部材41aおよび第2シール部材41bとによってシールされ、入力シリンダ313および入力ピストン43によって、円環状の反力室RCが形成されている。
【0036】
また、入力ピストン43の連結部433の外周面は、シリンダボデー31の後端壁314に形成された挿入孔315に対して摺動可能に嵌合している。連結部433は、挿入孔315に装着された第3シールリング41cに当接し、挿入孔315に対して液密的に嵌合している。これにより、第2シールリング41bおよび第3シールリング41cによってシールされ、大径部432の後方において、入力シリンダ313と入力ピストン43とによって補償室CCが形成されている。
また、入力ピストン43の内部には、小径部431の前端部と連結部433の外周面とに開口する両部連結孔434が形成されている。図2に示すように、両部連結孔434によって駆動室DCと補償室CCとが連通している。
【0037】
入力ピストン43の後方部には係合凹部435が形成されており、係合凹部435には、前述したプッシュロッド24が揺動可能かつ脱落不能に取り付けられている。プッシュロッド24はブレーキペダル22に取り付けられており、これにより、入力ピストン43はプッシュロッド24を介してブレーキペダル22に連結されている。入力ピストン43は、ブレーキペダル22に取り付けられたリタンスプリング(図示せず)による付勢力を受けて後方に牽引され、大径部432の後端面がシリンダボデー31の後端壁314と当接する。
【0038】
大径部432が後端壁314と当接することにより、ブレーキペダル22の非操作時において、入力ピストン43が最も後方にある場合の位置決めが行われる。入力ピストン43が最も後方に位置した状態において、入力ピストン43の前端部と対向したプライマリピストン36の後面との間には、間隔S0が形成されている(図2示)。
この間隔S0は、ブレーキペダル22の操作を開始してから、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接するまでの移動量(以下、「第2所定値」という)であって、本発明の「所定の間隔」に該当する。このように間隔S0を設けることにより、初期制動時に、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に到達するまでは、前輪FL,FRおよび後輪RL,RRのホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与されるブレーキ液圧の増大が抑制される(ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4へ液圧が供給されない)ようになっている。
【0039】
また、シリンダボデー31の上部には、前述したリザーバタンク23が取り付けられる一対のボス316a,316bが形成されている。また、シリンダボデー31には、リザーバタンク23からセカンダリ室SCおよびプライマリ室PCへのブレーキ液の供給を可能にする一対のサプライポート317a,317bが貫通している。
また、シリンダボデー31には、セカンダリ室SCおよびプライマリ室PCをABSアクチュエータ5(後述する)と接続するための出力ポート318a,318bが形成されている。また、シリンダボデー31には、駆動室DCをパワー液圧源7(後述する)と接続するためのパワーポート318cが形成されている。さらに、シリンダボデー31には、反力室RCをパワー液圧源7と接続するためのダミーポート318dが形成されている。
【0040】
次に、図2に基づいて、ブレーキアクチュエータDに含まれたABSアクチュエータ5について説明する。ABSアクチュエータ5は、アンチスキッド制御を行うための公知のものであり、常開型の電磁弁である増圧制御弁51,52,53,54および常閉型の電磁弁である減圧制御弁55,56,57,58、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4から排出されたブレーキ液を収容する調圧リザーバ59,61、調圧リザーバ59,61内のブレーキ液をマスタシリンダ3側に戻す還流ポンプ62,63、還流ポンプ62,63を駆動するモータ66から構成されている。
【0041】
プライマリ室PCに連通した出力ポート318bには、ブレーキ配管である主管路Lpが接続されている。また、セカンダリ室SCに連通した出力ポート318aには、ブレーキ配管である主管路Lsが接続されている。主管路Lpには、一対の増圧管路Lp1,Lp2が接続されており、増圧管路Lp1,Lp2は、それぞれ左後輪RLのホイルシリンダWC3および右後輪RRのホイルシリンダWC4に接続されている。また、主管路Lsには、一対の増圧管路Ls1,Ls2が接続されており、増圧管路Ls1,Ls2は、それぞれ左前輪FLのホイルシリンダWC1および右前輪FRのホイルシリンダWC2に接続されている。
【0042】
増圧管路Lp1,Lp2には、それぞれ増圧制御弁53,54が配設されるとともに、それぞれホイルシリンダWC3,WC4から主管路Lpへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁53a,54aが、増圧制御弁53,54に対し並列に配設されている。増圧制御弁53,54はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によりそれぞれ開閉制御される。
【0043】
また、増圧管路Ls1,Ls2には、それぞれ増圧制御弁51,52が配設されるとともに、それぞれホイルシリンダWC1,WC2から主管路Lsへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁51a,52aが、増圧制御弁51,52に対し並列に配設されている。増圧制御弁51,52はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によりそれぞれ開閉制御される。
【0044】
増圧管路Lp1の増圧制御弁53とホイルシリンダWC3との間の部分には、減圧管路Lp3が接続されている。減圧管路Lp3は、増圧管路Lp1と調圧リザーバ61とを接続している。減圧管路Lp3には、減圧制御弁57が配設されている。減圧制御弁57はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
また、増圧管路Lp2の増圧制御弁54とホイルシリンダWC4との間の部分には、減圧管路Lp4が接続されている。減圧管路Lp4は、増圧管路Lp2と調圧リザーバ61とを接続している。減圧管路Lp4には、減圧制御弁58が配設されている。減圧制御弁58はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
【0045】
また、増圧管路Ls1の増圧制御弁51とホイルシリンダWC1との間の部分には、減圧管路Ls3が接続されている。減圧管路Ls3は、増圧管路Ls1と調圧リザーバ59とを接続している。減圧管路Ls3には、減圧制御弁55が配設されている。減圧制御弁55はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
また、増圧管路Ls2の増圧制御弁52とホイルシリンダWC2との間の部分には、減圧管路Ls4が接続されている。減圧管路Ls4は、増圧管路Ls2と調圧リザーバ59とを接続している。減圧管路Ls4には、減圧制御弁56が配設されている。減圧制御弁56はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
【0046】
調圧リザーバ61は、還流管路Lp5により主管路Lpと接続されている。還流管路Lp5には還流ポンプ63が設けられており、調圧リザーバ61と還流ポンプ63との間の部分および還流ポンプ63と主管路Lpとの間の部分には、調圧リザーバ61から主管路Lpへ向けたブレーキ液の流れを許容する一対の逆止弁65a,65bが配設されている。還流ポンプ63は、ブレーキECU21により制御されて、調圧リザーバ61内のブレーキ液を主管路Lpに還流させている。
【0047】
また、調圧リザーバ59は、還流管路Ls5により主管路Lsと接続されている。還流管路Ls5には還流ポンプ62が設けられており、調圧リザーバ59と還流ポンプ62との間の部分および還流ポンプ62と主管路Lsとの間の部分には、調圧リザーバ59から主管路Lsへ向けたブレーキ液の流れを許容する一対の逆止弁64a,64bが配設されている。還流ポンプ62はブレーキECU21により制御されて、調圧リザーバ59内のブレーキ液を主管路Lsに還流させている。
【0048】
ABSアクチュエータ5は、ブレーキECU21によって制御され、各車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srrの検出値に基づき、マスタシリンダ3が発生した液圧を調圧してホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に供給し、アンチスキッド制御を実行する。ABSアクチュエータ5は公知のものであり、かつ、本発明の主題ではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0049】
一方、ブレーキアクチュエータDに含まれたパワー液圧源7は、リザーバ71、リザーバ71内のブレーキ液を吸引して吐出する一対のパワーポンプ72,73、パワーポンプ72,73を駆動するモータ74、パワーポンプ72,73から吐出されたブレーキ液の一部をリザーバ71に還流して、それぞれ調圧する電磁リニア弁であるリニア減圧弁75,76を有している。
【0050】
一側のパワーポンプ72は、吸込管路PL1によってリザーバ71に接続されている。また、パワーポンプ72の吐出口には出力管路PL3が接続されており、出力管路PL3は、前述したマスタシリンダ3のダミーポート318dへと接続されている。パワーポンプ72はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって作動制御される。また、出力管路PL3のパワーポンプ72とダミーポート318dとの間の部分には、圧力センサ77が配設されている。圧力センサ77による検出値は、ブレーキECU21へと入力される。
【0051】
出力管路PL3のパワーポンプ72とダミーポート318dとの間の部分には、排出管路PL5が接続されており、排出管路PL5は出力管路PL3をリザーバ71に接続している。出力管路PL5にはリニア減圧弁75が設けられており、リニア減圧弁75はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって制御される。また、排出管路PL5には、リザーバ71からダミーポート318dへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁75aが、リニア減圧弁75に対し並列に配設されている。上述した構成によって、発生する液圧を反力室RCに供給する反力パワー系統が構成されている。
【0052】
一方、他側のパワーポンプ73は、吸込管路PL2によってリザーバ71に接続されている。また、パワーポンプ73の吐出口には出力管路PL4が接続されており、出力管路PL4はパワーポート318cへと接続されている。パワーポンプ73は、ブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって作動制御される。また、出力管路PL4のパワーポンプ73とパワーポート318cとの間の部分には、圧力センサ78が配設されている。圧力センサ78による検出値は、ブレーキECU21へと入力される。
【0053】
出力管路PL4のパワーポンプ73とパワーポート318cとの間の部分には、排出管路PL6が接続されており、排出管路PL6は出力管路PL4をリザーバ71に接続している。出力管路PL6にはリニア減圧弁76が設けられており、リニア減圧弁76はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって制御される。また、排出管路PL6には、リザーバ71からパワーポート318cへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁76aが、リニア減圧弁76に対し並列に配設されている。上述した構成によって、発生する液圧を駆動室DCに供給する駆動力パワー系統が構成されている。
【0054】
ブレーキECU21は、ペダルストロークセンサ22aによる検出値、ペダル踏力センサ22bによる検出値および圧力センサ77による検出値に基づき、パワーポンプ72およびリニア減圧弁75を制御する。パワー液圧源7の反力パワー系統において、パワーポンプ72がリザーバ71内のブレーキ液を吸引して吐出するとともに、リニア減圧弁75を介して吐出されたブレーキ液の一部をリザーバ71に還流させることにより調圧して、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力用駆動液圧を発生させる。当該反力用駆動液圧は反力室RCに印加されて、マスタシリンダ3の入力ピストン43を後方に付勢し、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力を発生させる。
【0055】
また、ブレーキECU21は、ペダルストロークセンサ22aによる検出値および圧力センサ78による検出値に基づき、パワーポンプ73およびリニア減圧弁76を制御する。パワー液圧源7の駆動力パワー系統において、パワーポンプ73がリザーバ71内のブレーキ液を吸引して吐出するとともに、リニア減圧弁76を介して吐出されたブレーキ液の一部をリザーバ71に還流させることにより調圧して、ブレーキペダル22のストローク量に応じたサーボ用駆動液圧を発生させる。
【0056】
当該サーボ用駆動液圧は駆動室DCに印加されて、シリンダ部311内においてプライマリピストン36を前進させる。これにより、マスタシリンダ3のプライマリ室PCおよびセカンダリ室SCに、ブレーキペダル22のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生させて車輪FL,FR,RL,RRに制動力を付与する。
上述した内容から明らかなように、パワー液圧源7において、反力用駆動液圧とサーボ用駆動液圧は互いに独立して調圧可能とされており、双方を異なる値とすることが可能である。
【0057】
主管路Lpのプライマリ室PCとABSアクチュエータ5との間には、差圧弁91が設けられている。差圧弁91は常開型のソレノイド制御弁であって、ブレーキアクチュエータDに含まれている。差圧弁91はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって制御される。差圧弁91は、プライマリ室PCが接続されている入力ポートの液圧が、ABSアクチュエータ5に接続されている出力ポートの液圧よりも所定の設定圧以上高くなると開弁し、その設定圧は供給電流によって可変である。
【0058】
これにより、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に達してから第1所定値に到達するまでは、後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4に付与されるブレーキ液圧の増大が抑制される(前輪FL,FR側のホイルシリンダWC1,WC2へのブレーキ液圧は付与されるが、後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4へのブレーキ液圧は付与されない)ようになっている。ここで、第1所定値は、初期制動時に後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4のブレーキ液圧に対するプライマリ室PCのブレーキ液圧が差圧弁91の設定圧に達し、差圧弁91が開弁するブレーキペダル22のストローク量である。
【0059】
主管路Lpのプライマリ室PCとABSアクチュエータ5との間には、差圧弁91に対し並列に、後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4からプライマリ室PCへ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁91aが設けられている。
これにより、ブレーキペダル22のストロークを戻して駆動室DCに供給されたサーボ用駆動液圧が低下した場合、プライマリ室PCの液圧が後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧より低くなると、逆止弁91aを介して後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4のブレーキ液がプライマリ室PCに戻されるようになっている。
【0060】
また、主管路Lpの差圧弁91とABSアクチュエータ5との間には、圧力センサ92が設けられている。本実施形態においては、圧力センサ92によってホイルシリンダWC3,WC4(差圧弁91の下流側)の液圧を検出するようにしている。また、後述するように、駆動室DCに供給されるパワー液圧源7のサーボ用駆動液圧とプライマリ室PCに発生するブレーキ液圧はほぼ等しくなるため、プライマリ室PCに発生する液圧値は、パワー液圧源7に設けられた圧力センサ78の検出値によって代用するようにしている。なお、主管路Lp上におけるプライマリ室PCと差圧弁91との間に圧力センサを配置し、プライマリ室PCの液圧を検出するようにしてもよい。
【0061】
ここで、本実施形態におけるブレーキペダル22のストローク量に関する第1所定値を、液圧ブレーキ装置Bの機械的な構成と関連づけて説明すれば、第1所定値に対応する入力ピストン43のシリンダ部311内における移動量は、St=S0+Tに設定されている(ブレーキペダル22のレバー比によって、ブレーキペダル22のストローク量は入力ピストン43の移動量に換算される)。
【0062】
入力ピストン43の移動量S0は、回生ブレーキ装置Aによる回生制動力が上限に達し、駆動室DCにサーボ用駆動液圧が供給される時のブレーキペダル22の操作量に対応するように設定されている。したがって、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接した時のブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に該当する。
【0063】
また、入力ピストン43の移動量Tは、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接してから、差圧弁91が開弁して、後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4の液圧が上昇を開始するまでの移動量に該当し、その時のブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に該当する。当然、第1所定値>第2所定値の関係にあることは言うまでもない。
以上説明した液圧ブレーキ装置Bにおいて、ブレーキECU21は、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値未満である場合には、パワー液圧源7において、サーボ用駆動液圧を発生させず、反力用駆動液圧を発生させるとともに、回生ブレーキ装置Aにより回生制動力を駆動側(後輪側)の車輪RL,RRに付与させる。
【0064】
一方、ブレーキECU21は、ブレーキペダル22のストロークが第2所定値以上である場合には、パワー液圧源7において、サーボ用駆動液圧および反力用駆動液圧を発生させる。
【0065】
次に、図2乃至図6に基づいて、液圧ブレーキ装置Bの作動方法について説明する。尚、説明中における液圧ブレーキ装置Bの作動は、通常ブレーキ作動を想定しており、ABSアクチュエータ5は作動していないものとする。
(1)正常時の作動
(i)ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値未満である場合の作動
最初に、車両の運転者によりブレーキペダル22のストロークが開始されると、入力ピストン43がプッシュロッド24によって付勢されシリンダ部311内を前進する。しかしながら、ブレーキECU21によりペダルストロークセンサ22aからの信号に基づいて、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値未満であると判定されている場合には、パワー液圧源7の駆動力パワー系統によるサーボ用駆動液圧の発生は行われない。
【0066】
一方、入力ピストン43の移動量がS0に達するまでは、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接せず、シリンダ部311内をプライマリピストン36が前進しないため、プライマリ室PCには液圧は発生しない。プライマリ室PCに液圧が発生していないため、セカンダリピストン33は前進せず、セカンダリ室SCにも液圧は発生しない。このように、プライマリ室PCおよびセカンダリ室SCの両室に液圧が発生しないため、車輪FL,FR,RL,RRのホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4にはブレーキ液圧は供給されない。
【0067】
一方、上記の場合には、駆動側の車輪RL、RRに対し、回生ブレーキ装置Aによる回生制動のみが実行される(図5においてAにて示し、図6においてEにて示す)。これにより、後輪RL,RRの制動力のみが大きくなる。
ここで、この時入力ピストン43の前進にともない、駆動室DCの容積が減少するのであるが、駆動室DCの容積の減少量と、入力ピストン43の前進にともなう補償室CCの容積の増大量とを同等に設定してあるため、入力ピストン43の前進によって、駆動室DC内のブレーキ液が両部連結孔434を介して補償室CCに移動するのみであり、駆動室DCおよび補償室CC内に液圧は発生しない。
【0068】
ところで、ブレーキペダル22がストロークされると、ブレーキECU21は、ペダルストロークセンサ22a、ペダル踏力センサ22bおよび圧力センサ77による検出値に基づいて、パワー液圧源7の反力パワー系統により、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力用駆動液圧を発生させ反力室RCに供給する。反力室RCに供給された反力用駆動液圧により、入力ピストン43は後方に付勢され、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力が発生する。
(ii)ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値以上かつ第1所定値未満である場合の作動
入力ピストン43が移動量S0だけ前進し、ブレーキECU21において、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に到達したと判定されると(図5においてp点にて示す)、ブレーキECU21は、ペダルストロークセンサ22aによる検出値および圧力センサ78による検出値に基づき、パワー液圧源7の駆動力パワー系統により、ブレーキペダル22のストローク量に応じたサーボ用駆動液圧を発生させ、当該サーボ用駆動液圧を駆動室DCに供給する(図3示)。本実施形態においては、この時点において、回生ブレーキ装置Aによる回生制動力は上限に達していることを想定している。このように、第2所定値を設定することにより、回生効率を高めることができる。
【0069】
駆動室DCにサーボ用駆動液圧が供給されると、マスタシリンダ3のプライマリピストン36は、サーボ用駆動液圧に付勢されて、シリンダ部311内において前進する。このプライマリピストン36の前進の際、プライマリピストン36は入力ピストン43から分離してシリンダ部311内を前進する。
その結果、これにより、マスタシリンダ3のプライマリ室PCにおいて、ブレーキペダル22のストロークに応じたブレーキ液圧が発生する。また、プライマリ室PCに発生した液圧により、セカンダリピストン33が付勢されてシリンダ部311内を前進することにより、セカンダリ室SCにもブレーキペダル22のストロークに応じた(プライマリ室PCに発生した液圧とほぼ同等の)ブレーキ液圧が発生する。
【0070】
この時、第3シールカップ34cと第4シールカップ34dのプライマリピストン36に対するシール径が等しいため、駆動室DCに供給されたパワー液圧源7のサーボ用駆動液圧とプライマリ室PCに発生するブレーキ液圧はほぼ等しくなる。
ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に達してから第1所定値に達するまでの間は、前輪FL,FR側のホイルシリンダWC1,WC2には、ブレーキペダル22のストローク量に応じて液圧制動力が供給され、後輪RL,RRには、回生ブレーキ装置Aによる回生制動力のみが継続して付与される(図5においてBにて示し、図6においてFにて示す)。
【0071】
この状態におけるブレーキペダル22のストローク量に応じた車両制動力の制御は、駆動室DCへのサーボ用駆動液圧を変化させることにより、前輪FL,FR側の液圧制動力を調整することによって行われる。また、この状態において、後輪RL,RRへの回生制動力が増減した場合にも、前輪FL,FR側への液圧制動力を増減させることによって、車両制動力の制御が行われる。
【0072】
駆動室DCへ供給されたサーボ用駆動液圧は、両部連結孔434を介して補償室CCにも導入されるようになっている。また、駆動室DC内における入力ピストン43の受圧面積と、補償室CC内における入力ピストン43の大径部432の受圧面積とが等しく設定されている。これにより、入力ピストン43の前面が駆動室DC内においてサーボ用駆動液圧を受けるが、入力ピストン43は、パワー液圧源7からのサーボ用駆動液圧によって入力ピストン43が前後方向に付勢されないようになっている。
【0073】
(iii)ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値以上である場合の作動
ブレーキペダル22のストローク量がさらに増大し、ブレーキECU21により、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に到達(差圧弁91の前後であるプライマリ室PCと後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4との間の液圧が所定の差圧に到達)したと判定されると(図5においてq点にて示す)、ペダルストロークセンサ22aによる検出値および圧力センサ78,92による検出値に基づいてパワー液圧源7が制御されて、ブレーキペダル22のストローク量に応じたサーボ用駆動液圧が駆動室DC内に供給される(図4示)。
その結果、ブレーキペダル22のストローク量に応じて、前輪FL,FR側ホイルシリンダWC1,WC2の液圧とともに、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧が上昇する。
これにより、図5においてCにて示したように、後輪RL,RRへの液圧制動力が前輪FL,FRへの液圧制動力よりも低い状態に維持されながら、ブレーキペダル22のストローク量に応じて、前後輪FL,FR,RL,RRの液圧制動力がともに増大する。
【0074】
図5に示したCにおいては、回生制動力と液圧制動力を含めても、後輪RL,RRへの制動力が前輪FL,FRへの制動力よりも低い状態が維持されることを想定している。
これ以降は、前輪FL,FRに対しては、液圧ブレーキ装置Bによる液圧制動のみが機能し、後輪RL,RRに対しては、回生ブレーキ装置Aによる回生制動と液圧ブレーキ装置Bによる液圧制動がともに機能する(図5においてCにて示し、図6においてGにて示す)。これにより、前輪FL,FRに対する液圧制動力よりも、後輪RL,RRへの液圧制動力を低く設定した分だけ、後輪RL,RRへの制動力を回生制動力によって補うようにしている。
【0075】
(2)車両電源失陥時の作動
液圧ブレーキ装置Bにおいて車両電源が失陥した場合には、入力ピストン43が移動量S0だけ前進した後、入力ピストン43がプライマリピストン36を直接に押圧して、プライマリピストン36がシリンダ部311内を前進すると、プライマリ室PCおよびセカンダリ室SCに液圧が発生する。この時、差圧弁91は非通電状態(開弁状態)となるため、プライマリ室PCと後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4とが連通し、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧が、プライマリ室PCの液圧に対して抑制されることはない。これによって、前輪FL,FR側および後輪RL,RR側ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に対して、液圧ブレーキ装置Bによる液圧制動力のみが付与される。
【0076】
パワー液圧源7の駆動力パワー系統によって、サーボ用駆動液圧の駆動室DCへの供給を開始する時点(図5におけるp点)におけるブレーキペダル22のストローク量(本実施形態においては第2所定値)は、回生ブレーキ装置Aによって後輪RL,RRに付与される回生制動力の特性(図5におけるA)が、前後輪FL,FR,RL,RRに付与される制動力の理想配分線図に近似されるような値にすることが考えられる。例えば、図5におけるp点が、理想配分線図よりも上方に突出しないようなタイミングで、サーボ用駆動液圧の駆動室DCへの供給を開始することが考えられる。
【0077】
また、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4において、差圧弁91を介して液圧の上昇が開始する時点におけるブレーキペダル22のストローク量(本実施形態においては第1所定値)は、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値より大きい領域において、液圧制動と回生制動とを含めた車両制動力の特性(図5におけるC)が、理想配分線図の上方に突出しないような値に設定することが考えられる。
【0078】
本実施形態によれば、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に到達するまでは、差圧弁91の作動によって、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4に液圧を発生させずに、後輪RL,RRへの液圧制動力を前輪FL,FRへの液圧制動力よりも小さくすることにより、初期制動において、後輪RL,RRにおいて回生制動力を十分に発生させることができる。
【0079】
また、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に到達するまでは、回生制動力が増減した場合に、前輪FL,FR側ホイルシリンダWC1,WC2の液圧を制御して車両制動力を調整するようにした。これにより、後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4の液圧を、プライマリ室PCの液圧やセカンダリ室SCの液圧よりも差圧弁91の設定圧以上低くすることなく、後輪RL,RR側の回生制動力の増減を補償することができる。
また、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4とプライマリ室PCとの間に一つの差圧弁91を設けるだけで、回生協調制御を実行する液圧ブレーキ装置Bを形成することができ、その制御方法も簡素化することができる。
【0080】
また、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に到達した後は、差圧弁91の作動により、後輪RL,RRへの液圧制動力が前輪FL,FRへの液圧制動力よりも低い状態を維持しながら、ブレーキペダル22のストローク量に応じて、前輪FL,FR側ホイルシリンダWC1,WC2の液圧および後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧をともに増大させることにより、後輪RL,RRにおける先行ロックを回避して、前後輪FL,FR,RL,RRの制動力配分を理想配分に近似させることができる。
【0081】
また、プライマリピストン36の後方には、ブレーキペダル22と連結されるとともに、シリンダ部311内において移動可能な入力ピストン43が設けられ、ブレーキペダル22が操作されていない場合に、プライマリピストン36と入力ピストン43との間には、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に対応する間隔S0が設けられている。
これにより、初期制動において、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に到達するまでは、入力ピストン43がシリンダ部311内を前進しても、プライマリピストン36に当接することがないため、プライマリ室PCに液圧を発生させないブレーキペダル22の無効ストローク領域を確実に形成することができる。
また、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の減圧手段は、ブレーキECU21によって作動制御される差圧弁91としたことにより、ブレーキペダル22のストローク量に応じて、後輪RL,RRへの液圧制動力を精度よく付与することができる。
【0082】
また、差圧弁91と並列に後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4からプライマリ室PCへ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁91aが設けられている。
これにより、ブレーキペダル22のストロークを戻すことにより、プライマリ室PCの液圧が後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧より低くなった場合に、逆止弁91aを介して後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4のブレーキ液がプライマリ室PCに戻される。
したがって、差圧弁91の作動状態にかかわらず、ブレーキペダル22のストローク量の低下に応じて、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧を減少させることができる。
【0083】
<実施形態1の変形例1>
図7は、実施形態1における減圧手段の変形例1を示している。本変形例においては、減圧手段としてリニア弁91に代えて、主管路Lp上のプライマリ室PCとABSアクチュエータ5との間に残圧弁94が設けられている。残圧弁94は、所定のセット荷重を有する弾性部材941によって弁体942が弁座943に対して付勢されており、プライマリ室PCから後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4へのブレーキ液の流れのみを許容する。
【0084】
残圧弁94は、弾性部材941の付勢力によって、プライマリ室PC側の液圧が所定圧(最大差圧)になるまでは閉弁し、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4に液圧を発生させない。残圧弁94は、プライマリ室PC側の液圧が最大差圧になった場合に開弁し、その後、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧を、プライマリ室PC側の液圧に対して最大差圧だけ低くすることができる。最大差圧は、前述したブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に到達した時の、プライマリ室PC側の液圧と後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧(この時点では0)との差に設定されている。
【0085】
図7に示すように、主管路Lpの後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4とプライマリ室PCとの間には、実施形態1の場合と同様に、残圧弁94に対し並列に後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4からプライマリ室PCへ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁94aが設けられている。
【0086】
<実施形態1の変形例2>
図8は、実施形態1における減圧手段の変形例2を示している。本変形例においては、図7に示した残圧弁94および逆止弁94aに対して並列に、常開型の電磁弁であるオンオフ弁95が並列に設けられている。オンオフ弁95はブレーキECU21によって作動制御され、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧をプライマリ室PCの液圧よりも低く設定する場合に閉状態とされ、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4のブレーキ液をプライマリ室PCに戻す場合には開状態とされる。
【0087】
<実施形態2>
次に、図9乃至図11に基づいて、本発明の実施形態2による液圧ブレーキ装置B1の実施形態1に対する相違点について説明する。
図9に示すように、本実施形態による液圧ブレーキ装置B1においては、主管路Lp上のプライマリ室PCと差圧弁91との間とパワー液圧源7の出力管路PL4とを接続するように、流出管路LCが形成されており、流出管路LC上には、吸収リザーバ96が形成されている。吸収リザーバ96はブレーキアクチュエータD1に含まれ、所定の容量を有するリザーバケース961内に、移動体962が移動可能に設けられている。
【0088】
移動体962は、リザーバケース961に対し液密的に嵌合することによって、その一側の端面(図9における上面)とリザーバケース961とにより貯留室963を形成し、他側の端面(図9における下面)とリザーバケース961とにより背圧室964を形成している。図9に示すように、貯留室963はマスタシリンダ3のプライマリ室PCと接続され、背圧室964は駆動室DCと接続されている。移動体962とリザーバケース961との間には弾性スプリング965が介装され、移動体962は弾性スプリング965によって貯留室963側へ付勢されている。
【0089】
流出管路LC上において、プライマリ室PCと貯留室963との間には、常閉型の電磁弁であるカット弁97が介装されている。カット弁97は、ブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって開閉制御される。カット弁97には、貯留室963からプライマリ室PCへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁97aが並列に形成されている。逆止弁97aは、カット弁97が閉状態にあって、プライマリ室PC内のブレーキ液圧が低下した時に開弁し、貯留室963内のブレーキ液をプライマリ室PC側へ戻す機能を有する。
【0090】
次に、本実施形態による液圧ブレーキ装置B1の作動方法に関する実施形態1との相違点について説明する。尚、本実施形態においては実施形態1の場合と異なり、ブレーキペダル22がストロークされていない場合のプライマリピストン36と入力ピストン43との間の間隔S1は、ブレーキペダル22のストローク量について、実施形態1における第2所定値よりも小さい値に対応するように設定されている。
【0091】
入力ピストン43が移動量S1以上前進すると、入力ピストン43の前端がプライマリピストン36の後面に当接する。これ以降は、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に達するまで、パワー液圧源7によってサーボ用駆動液圧を発生させることはなく、入力ピストン43によってプライマリピストン36を直接に押圧して、双方が一体となって前進する(図10示)。これにより、プライマリピストン36の第2連通ポート361が第3シールカップ34cを通過して、プライマリ室PCがリザーバタンク23から遮断される。
【0092】
入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接した時点において、ブレーキECU21はカット弁97を開状態にするため、シリンダ部311内におけるプライマリピストン36の前進によって、プライマリ室PC内のブレーキ液が、弾性スプリング965の付勢力に抗して吸収リザーバ96の貯留室963に流入する。これにより、プライマリピストン36の前進にかかわらず、プライマリ室PCに液圧が発生することはない。また、プライマリ室PCに液圧が発生していないため、セカンダリピストン33が前進することはなく、セカンダリ室SCにも液圧が発生することはない。したがって、車輪FL,FR,RL,RRに液圧ブレーキが付与されることはない。
【0093】
この時、プライマリピストン36の前進によって発生するプライマリスプリング40の圧縮荷重よりも、セカンダリスプリング35のセット荷重を大きくしておくことが望ましい。
この状態においては、駆動側の車輪RL、RRに対し、ブレーキペダル22のストローク開始から継続して回生ブレーキ装置Aによる回生制動のみが実行される。
【0094】
ブレーキペダル22のストローク量がさらに増大し、ブレーキECU21が、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に到達したと判定した場合、ペダルストロークセンサ22aによる検出値および圧力センサ78による検出値に基づき、パワー液圧源7の駆動力パワー系統において、ブレーキペダル22のストローク量に応じたサーボ用駆動液圧を発生させ、当該サーボ用駆動液圧を駆動室DCに供給する(図11示)。
【0095】
駆動室DCに供給されたサーボ用駆動液圧は、マスタシリンダ3のプライマリピストン36を付勢し、シリンダ部311内においてプライマリピストン36を前進させる。駆動室DCにサーボ用駆動液圧が供給された場合、プライマリピストン36は入力ピストン43から分離してシリンダ部311内を前進することになる。
この時、パワー液圧源7のサーボ用駆動液圧は、流出管路LCを介して吸収リザーバ96の背圧室964にも供給されるため、リザーバケース961内における移動体962の背圧室964方向への移動が阻止される。したがって、プライマリ室PCから貯留室963へ、これ以上ブレーキ液が流入することがない。
これにより、マスタシリンダ3のプライマリ室PCにおいて、ブレーキペダル22のストロークに応じたブレーキ液圧が発生する。しかしながら、上述したように差圧弁91の作動によって、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4において液圧が発生することはない。
【0096】
また、プライマリ室PCに液圧が発生しているため、セカンダリピストン33もシリンダ部311内を前進し、セカンダリ室SCにブレーキペダル22のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生させる。これにより、前輪FL,FRに液圧ブレーキによる制動力を付与することができる。
また、パワー液圧源7の駆動力パワー系統がサーボ用駆動液圧の発生を開始した時点において、カット弁97を閉状態とすることにより、プライマリ室PCから吸収リザーバ96の貯留室963へのブレーキ液の流入を遮断するようにしてもよい。
【0097】
この後、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に達すると、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4にも液圧が付与されることは実施形態1の場合と同様である。
また、液圧ブレーキ装置B1において、車両電源が失陥した場合、カット弁97が閉状態となるため、ブレーキ液がプライマリ室PCから貯留室963に流入することが妨げられ、プライマリ室PCに液圧が発生するため、車輪FL,FR,RL,RRに液圧制動力を付与することができる。
【0098】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
本発明はハイブリッド車両のみではなく、電気自動車(EV)にも適用することができる。
また、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4をセカンダリ室SCに接続し、前輪FL,FR側ホイルシリンダWC1,WC2をプライマリ室PCに接続してもよい。この場合、差圧弁91および逆止弁91aあるいは残圧弁94、逆止弁94aおよびオンオフ弁95は主管路Ls上に設けられることは言うまでもない。
また、ブレーキ操作部材の操作量は、プッシュロッド24のストローク量あるいはマスタシリンダ3の入力ピストン43のストローク量によって検出してもよい。
【0099】
また、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に達してから、第1所定値に到達するまでの間(図5においてBにて示した区間)においては、ブレーキペダル22のストローク量に応じて、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4に、前輪FL,FR側ホイルシリンダWC1,WC2に発生した液圧よりも低い若干の液圧を付与してもよい。すなわち、図5においてBにて示した区間が、やや右上がりに傾いても構わない。
上記実施形態においては、後輪駆動車に本願発明を適用した。しかしながら、本願発明は、前後輪駆動車ではあるが、後輪の回生能力が前輪の回生能力よりも高い車両にも適用可能である。この場合であっても、上記実施形態と同様の効果を奏する(図12参照)。
【符号の説明】
【0100】
図面中、3はマスタシリンダ、19はハイブリッドECU(回生制動制御手段)、21はブレーキECU(液圧制動制御手段)、22はブレーキペダル(ブレーキ操作部材)、22aはペダルストロークセンサ(ブレーキ操作量検出手段)、33はセカンダリピストン、36はプライマリピストン、43は入力ピストン、91は差圧弁、91a,94aは逆止弁、94は残圧弁(差圧弁)、311はシリンダ部、Aは回生ブレーキ装置(回生制動部)、B,B1は液圧ブレーキ装置、FL,FRは前輪、RL,RRは後輪、PCはプライマリ室(プライマリ液圧室)、SCはセカンダリ室(セカンダリ液圧室)、WC1,WC2は前輪側ホイルシリンダ、WC3,WC4は後輪側ホイルシリンダを示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ操作部材の操作に応じた液圧を発生させて車輪ブレーキに供給する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の安定性を維持しながら効率的に制動力を発生させるため、車両の前後輪への制動力を理想配分に近似させるように供給する技術があった。これまで、これに関する技術は、液圧制動に関する制御装置の発達にともなって数々の技術が生み出されてきた。
また、近年は、ハイブリッド車両や電気自動車の普及にともなって、回生制動と液圧制動とを併用して車輪を制動する回生協調制御の需要が増大している。この回生協調制御の技術分野においては、エネルギー回収効率を増大させて車両燃費を向上させるために、駆動輪にできるだけ回生制動力を付与できるように、液圧制動と回生制動とを協調させることが一つの課題となっている。
【0003】
したがって、回生協調制御を実行する車両においては、液圧制動と回生制動とを協調させる手法に関する課題と、前後輪の液圧ブレーキの配分調整に関する課題とが併存した状態にある。特に、後輪駆動車においては、回生制動が実行される車輪と、理想配分に基づいて制動力が制限される車輪とが一致している。また、前後輪駆動車ではあるが後輪の回生能力が前輪の回生能力よりも高い車両においては、回生制動が実行されると相対的に制動力が大きくなる車輪と、理想配分に基づいて制動力が制限される車輪とが一致している。そのため、液圧制動と回生制動とをどのように組み合わせて車両に制動力を発生させるかは、車両の制動効率と安定性に大きな影響を与えるものであった。
【0004】
ここで、後輪が左右個別のモータにより駆動される後輪駆動車において、回生協調制御を実行する制動制御装置に関する従来技術があった(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された制動制御装置によれば、前後輪の液圧制動力を制御ユニットにより個別に制御している。これによって、後輪において回生制動を行ってエネルギー回収を行いながら、前後輪の制動力配分を理想配分に近づけるように液圧制動を実行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9―93711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された制動制御装置においては、前後輪の液圧制動力を個別に制御するために、その構成および制御アルゴリズムが複雑なものとなっており、従来よりある制動装置を大幅に変更する必要が発生する。したがって、制動装置が大型化しコストの増大につながる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、後輪駆動車もしくは前後輪駆動車ではあるが後輪の回生能力が前輪の回生能力よりも高い車両において、従来の制動装置を大幅に変更することなく、好適な回生協調制御を実行可能な車両用制動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る車両用制動装置の発明の構成上の特徴は、前後2系統のブレーキ配管を有し、後輪に回生制動力を付与する回生制動部を備える車両に適用され、シリンダ部内において移動可能なプライマリピストンと、プライマリピストンの前方に配置され、シリンダ部内において移動可能なセカンダリピストンとを有し、プライマリピストンとセカンダリピストンとの間にはプライマリ液圧室が形成されるとともに、セカンダリピストンの前方にはセカンダリ液圧室が形成され、プライマリ液圧室は前輪側ホイルシリンダおよび後輪側ホイルシリンダのうちの一方と接続され、セカンダリ液圧室は前輪側ホイルシリンダおよび後輪側ホイルシリンダのうちの他方と接続され、プライマリピストンが付勢されて前進することにより、プライマリ液圧室に液圧が発生するとともに、プライマリ液圧室に発生した液圧によりセカンダリピストンが前進して、セカンダリ液圧室に液圧が発生して前後輪に制動力を付与するマスタシリンダと、ブレーキ操作部材の操作量を検出するブレーキ操作量検出手段と、後輪側ホイルシリンダとプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室との間に設けられ、後輪側ホイルシリンダの液圧に対してプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室の液圧が所定の設定圧以上高くなると開弁する差圧弁と、ブレーキ操作部材の操作開始から差圧弁が開弁するまでの間に、回生制動部により、ブレーキ操作量検出手段により検出されている操作量に応じた回生制動力を後輪に付与する回生制動制御手段と、を備えていることである。
【0008】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1の車両用制動装置において、ブレーキ操作部材の操作が開始されてから、ブレーキ操作部材の操作量が差圧弁が開弁するブレーキ操作部材の操作量である第1所定値よりも小さい第2所定値に到達するまでは、回生制動制御手段は、ブレーキ操作部材の操作開始からブレーキ操作部材の操作量が第2所定値に到達するまでの間に、ブレーキ操作部材の操作量に応じた回生制動力を後輪に付与することである。
【0009】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2の車両用制動装置において、プライマリピストンの後方には、ブレーキ操作部材と連結されるとともに、シリンダ部内において移動可能な入力ピストンが設けられ、ブレーキ操作部材が操作されていない場合に、プライマリピストンと入力ピストンとの間には、第2所定値に対応する所定の間隔が設けられていることである。
【0010】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至3のうちのいずれかの車両用制動装置において、後輪側ホイルシリンダとプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室との間には、差圧弁と並列に後輪側ホイルシリンダからプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室へ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁が設けられたことである。
【0011】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項4の車両用制動装置において、ブレーキ操作部材の操作量が、差圧弁が開弁するブレーキ操作部材の操作量である第1所定値未満である場合に、回生制動制御手段による後輪の回生制動力の増減に応じて、前輪の液圧制動力を増減させる液圧制動制御手段を備えていることである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る車両用制動装置によれば、プライマリ液圧室やセカンダリ液圧室に液圧が発生したとしても、ブレーキ操作部材の操作開始から、当該液圧と後輪側ホイルシリンダの液圧との差圧が差圧弁の設定圧に達するまでの間は差圧弁が開弁せず、後輪側ホイルシリンダの液圧は上昇しない。よって、この間に、ブレーキ操作部材の操作量に応じた回生制動力を後輪に付与することにより、回生効率の向上を図ることができ、しかも、後輪への回生制動力付与により車両の安定性が損なわれることはない。
【0013】
すなわち、車両の安定性を維持しながら効率的に制動力を付与するとともに、回生効率を高めるという好適な回生協調制御を行うことができる。
また、プライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室と後輪側ホイルシリンダとの間に差圧弁を設けることで、上記好適な回生協調制御を行うことができるため、従来の制動装置を大幅に変更する必要がない。
【0014】
請求項2に係る車両用制動装置では、ブレーキ操作部材の操作が開始されてから、当該ブレーキ操作部材の操作量が第2所定値に到達するまでは、プライマリ液圧室に液圧が発生しない。
そのため、ブレーキ操作部材の操作量が第2所定値に到達するまでの間においては、前後輪に液圧制動力が付与されないため、ブレーキ操作部材の操作量に相当する制動力を全て回生制動力に割り当てることができ、初期制動時において回生制動力を十分に発生させることができる。
【0015】
請求項3に係る車両用制動装置によれば、プライマリピストンの後方には、ブレーキ操作部材と連結されるとともに、シリンダ部内において移動可能な入力ピストンが設けられ、ブレーキ操作部材が操作されていない場合に、プライマリピストンと入力ピストンとの間には、ブレーキ操作部材の操作量が第2所定値に対応する所定の間隔が設けられている。
これにより、初期制動において、ブレーキ操作部材の操作量が第2所定値に到達するまでは、入力ピストンがシリンダ部内を前進しても、プライマリピストンに当接することがないため、プライマリ液圧室に液圧を発生させないブレーキ操作部材の無効ストローク領域を確実に形成することができる。
【0016】
請求項4に係る車両用制動装置によれば、差圧弁と並列に後輪側ホイルシリンダからプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室へ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁が設けられている。
これにより、ブレーキ操作部材の操作を戻すことにより、プライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室の液圧が後輪側ホイルシリンダの液圧より低くなった場合に、逆止弁を介して後輪側ホイルシリンダのブレーキ液がプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室に戻される。
したがって、差圧弁の作動状態にかかわらず、ブレーキ操作部材の操作量の低下に応じて、後輪側ホイルシリンダの液圧を減少させることができる。
【0017】
請求項4に係る車両用制動装置において、後輪側ホイルシリンダのブレーキ液を逆止弁を介してプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室に流出させて、当該後輪側ホイルシリンダの液圧を低下させるためには、上述の如くプライマリ液圧室またはセカンダリ液圧室の液圧を当該後輪側ホイルシリンダの液圧よりも低くする必要があるが、請求項5に記載の発明のように前輪の液圧制動力を増減させることにより、後輪側ホイルシリンダの回生制動力の増減を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1による車両用制御システムを示したブロック図
【図2】図1に示した液圧ブレーキ装置を模式的に示した図
【図3】図1に示した液圧ブレーキ装置の初期制動時の状態を示した図
【図4】図1に示した液圧ブレーキ装置において後輪への液圧制動が開始された状態を示した図
【図5】図1に示した車両用制御システムにおける初期制動時を中心としたフロント制動力とリヤ制動力の関係を示した図
【図6】図1に示した車両用制御システムにおけるブレーキ操作量と車両制動力との関係を示した図
【図7】減圧手段の変形例1を示した図
【図8】減圧手段の変形例2を示した図
【図9】本発明の実施形態2による液圧ブレーキ装置を模式的に示した図
【図10】図9に示した液圧ブレーキ装置の初期制動時の状態を示した図
【図11】図9に示した液圧ブレーキ装置において、前輪への液圧制動力の付与が開始された状態を示した図
【図12】他の実施形態による車両用制御システムにおけるブレーキ操作量と車両制動力との関係を示した図
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態1>
図1乃至図6に基づき、本発明による液圧ブレーキ装置Bをハイブリッド車に適用した実施形態1について説明する。図1はそのハイブリッド車の構成を示す概要図であり、図2は液圧ブレーキ装置Bの構成を示す概要図である。
ハイブリッド車は、図1に示すように、ハイブリッドシステムによって駆動輪である左右後輪RL,RRを駆動させる車両である。ハイブリッドシステムは、エンジン11およびモータ12の2種類の動力源を組み合わせて使用するパワートレーンである。本実施形態の場合、エンジン11およびモータ12の双方で車輪を直接駆動する方式であるパラレルハイブリッドシステムである。なお、これ以外にシリアルハイブリッドシステムがあるが、これはモータ12によって車輪が駆動され、エンジン11は発電用の動力源として機能する。本願発明は、シリアルハイブリッドシステムにも適用可能である。
【0020】
このパラレルハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車において、エンジン11の駆動力は、動力分割機構13および動力伝達機構14を介して左右後輪RL,RRに伝達されるようになっており、モータ12の駆動力は、動力伝達機構14を介して左右後輪RL,RRに伝達されるようになっている。
動力分割機構13は、エンジン11の駆動力を車両駆動力と発電機駆動力に適切に分割するものである。動力伝達機構14は、走行条件に応じてエンジン11およびモータ12の駆動力を適切に統合して駆動輪に伝達するものである。動力伝達機構14はエンジン11とモータ12の伝達される駆動力比を0:100〜100:0の間で調整している。この動力伝達機構14は変速機能を有している。
【0021】
モータ12は、エンジン11の出力を補助し駆動力を高めるものであり、一方車両の制動時には発電を行いバッテリ17を充電するものである。発電機15は、エンジン11の出力により発電を行うものであり、エンジン始動時のスタータの機能を有する。これらモータ12および発電機15は、インバータ16にそれぞれ電気的に接続されている。インバータ16は、直流電源としてのバッテリ17に電気的に接続されており、モータ12および発電機15から入力した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ17に供給したり、逆にバッテリ17からの直流電圧を交流電圧に変換してモータ12および発電機15へ出力したりするものである。
【0022】
本実施形態においては、これらモータ12、インバータ16およびバッテリ17から回生ブレーキ装置Aが構成されており、この回生ブレーキ装置A(回生制動部に該当する)は、ペダルストロークセンサ22aやペダル踏力センサ22bによって検出されたブレーキ操作状態に基づいた回生制動力を、駆動源であるモータ12によって駆動される左右後輪RL,RRに発生させるものである。
エンジン11はエンジンECU(電子制御ユニット)18によって制御されており、エンジンECU18は後述するハイブリッドECU(電子制御ユニット)19からのエンジン出力要求値に従って電子制御スロットルに開度指令を出力し、エンジン11の回転数を調整する。
【0023】
ハイブリッドECU19(回生制動制御手段に該当する)には、インバータ16が相互通信可能に接続されている。ハイブリッドECU19は、アクセル開度およびシフトポジション(図示しないシフトポジションセンサから入力したシフト位置信号から算出する)から必要なエンジン出力、電気モータトルクおよび発電機トルクを導出し、その導出したエンジン出力要求値をエンジンECU18に送信してエンジン11の駆動力を制御し、また導出した電気モータトルク要求値および発電機トルク要求値に従って、インバータ16を通してモータ12および発電機15を制御する。
【0024】
また、ハイブリッドECU19にはバッテリ17が接続されており、バッテリ17の充電状態、充電電流などを監視している。さらに、ハイブリッドECU19は、アクセルペダル(図示省略)に組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ(図示省略)も接続されており、アクセル開度センサからアクセル開度信号を入力している。
【0025】
また、ハイブリッド車は、前後2系統のブレーキ配管を介して、直接各車輪FL,FR,RL,RRに液圧制動力を付与して車両を制動させる液圧ブレーキ装置Bを備えている。液圧ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル22の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダ3と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ3にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク23と、マスタシリンダ3と各車輪FL,FR,RL,RRに取り付けられたホイルシリンダWC1〜WC4(図2示)との間に設けられて、制御液圧を形成するブレーキアクチュエータDを備えている。
また、各車輪FL,FR,RL,RRには、それぞれ車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srrが取り付けられており、それぞれの検出値はブレーキECU21に入力され、ブレーキアクチュエータDによる制御液圧の形成に使用される。
【0026】
液圧ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル22(ブレーキ操作部材に該当する)の踏み込み操作をプッシュロッド24によってマスタシリンダ3に伝達し、ブレーキペダル22の操作量に応じた液圧をマスタシリンダ3にて発生し、発生した液圧をブレーキアクチュエータDを介して連結された各車輪FL,FR,RL,RRのホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与することにより、同各車輪FL,FR,RL,RRにおいて発生した液圧に対応した液圧制動力を発生させる。
【0027】
ブレーキペダル22には、ブレーキペダル22の踏み込みによるブレーキペダルストローク量を検出するペダルストロークセンサ22a(本発明のブレーキ操作量検出手段に該当する)と、ブレーキペダル22が受ける反力を検出するペダル踏力センサ22bが設けられている。このペダルストロークセンサ22aおよびペダル踏力センサ22bはブレーキECU21に接続されており、検出信号がブレーキECU21に送信されるようになっている。
また、ブレーキECU21(本発明の液圧制動制御手段に該当する)はハイブリッドECU19およびブレーキアクチュエータDと接続され、ハイブリッドECU19から入力される回生ブレーキ装置Aの状態に基づいて、ブレーキアクチュエータDの作動を制御する。
【0028】
次に、図2に基づいて、マスタシリンダ3について説明する。尚、説明中において、図2における左方(ブレーキペダル22の踏込みによりプッシュロッド24が移動する方向)をマスタシリンダ3の前方、右方(ブレーキペダル22の戻りによりプッシュロッド24が移動する方向)をマスタシリンダ3の後方として説明する。マスタシリンダ3は、プライマリ室PCとセカンダリ室SCを有するタンデムマスタシリンダにより形成されている。マスタシリンダ3のシリンダボデー31の内部には、シリンダ部311が形成されている。
【0029】
セカンダリピストン33は、断面形状が略コの字状に形成され、シリンダ部311の底部と対向するようにシリンダ部311内に収容されている。セカンダリピストン33の外周面は、シリンダ部311の内周面に設けられた第1シールカップ34aおよび第2シールカップ34bと当接し、シリンダ部311に対して摺動可能かつ液密的に嵌合している。これにより、第1シールカップ34aによってシールされて、シリンダ部311およびセカンダリピストン33によって、セカンダリピストン33の前方にセカンダリ室SC(本発明のセカンダリ液圧室に該当する)が形成されている。また、セカンダリピストン33の前方部には、セカンダリピストン33の外周面とセカンダリ室SCとを接続する第1連通ポート331が貫通している。
【0030】
セカンダリピストン33の凹部332とシリンダ部311の底部との間には、セカンダリスプリング35が弾発的に介装されている。シリンダボデー31には、図示しないストッパボルトが螺着されており、セカンダリスプリング35からの付勢力を受けたセカンダリピストン33の後方部を受け止めている。
【0031】
シリンダ部311内には、セカンダリピストン33の後方に位置するように、プライマリピストン36が移動可能に収容されている。プライマリピストン36は、断面形状が略H字状に形成され、その外周面は、シリンダ部311の内周面に設けられた第3シールカップ34cおよび第4シールカップ34dと当接し、シリンダ部311に対して液密的に嵌合している。
【0032】
これにより、第2シールカップ34bおよび第3シールカップ34cによってシールされて、シリンダ部311、セカンダリピストン33およびプライマリピストン36によってプライマリ室PC(本発明のプライマリ液圧室に該当する)が形成されている。また、プライマリピストン36の前方部には、プライマリピストン36の外周面とプライマリ室PCとを接続する第2連通ポート361が貫通している。
【0033】
セカンダリピストン33の後端部にはスプリング支持部333が突出しており、スプリング支持部333には、プライマリスプリング40の一端部が係合している。プライマリスプリング40の他端部はプライマリピストン36の凹部362に当接しており、プライマリスプリング40は、セカンダリピストン33とプライマリピストン36との間に弾発的に介装されている。
プライマリピストン36の後方において、シリンダボデー31から半径方向内方に向けて支持壁312が突出している。プライマリスプリング40から後方への付勢力を受けるプライマリピストン36は、ブレーキペダル22が操作されていない状態において、その後端が支持壁312の前端面に当接することにより位置決めされる(図2示)。
【0034】
支持壁312には摺動孔312aが貫通しており、摺動孔312aには第1シールリング41aが装着されている。シリンダボデー31には、後方から入力ピストン43が挿入され、入力ピストン43の小径部431は摺動孔312aに移動可能に嵌合している。入力ピストン43の外周面は、第1シールリング41aに当接することにより、摺動孔312aに対して液密的に嵌合している。
小径部431はプライマリピストン36の後端と対向し、第4シールカップ34dおよび第1シール部材41aによってシールされ、シリンダボデー31、プライマリピストン36および入力ピストン43によって、プライマリピストン36の後方に駆動室DCが形成されている。
【0035】
入力ピストン43は前方に形成された小径部431、軸方向の中央部の大径部432および後方に形成された小径の連結部433とにより形成されている。シリンダボデー31内には、支持壁312の後方に位置するように入力シリンダ313(シリンダ部311とともに、本発明のシリンダ部に含まれる)が形成されている。入力シリンダ313には、入力ピストン43の大径部432が摺動可能に嵌合している。大径部432の外周面には第2シールリング41bが装着されており、大径部432は入力シリンダ313に対して液密的に嵌合している。
これにより、第1シール部材41aおよび第2シール部材41bとによってシールされ、入力シリンダ313および入力ピストン43によって、円環状の反力室RCが形成されている。
【0036】
また、入力ピストン43の連結部433の外周面は、シリンダボデー31の後端壁314に形成された挿入孔315に対して摺動可能に嵌合している。連結部433は、挿入孔315に装着された第3シールリング41cに当接し、挿入孔315に対して液密的に嵌合している。これにより、第2シールリング41bおよび第3シールリング41cによってシールされ、大径部432の後方において、入力シリンダ313と入力ピストン43とによって補償室CCが形成されている。
また、入力ピストン43の内部には、小径部431の前端部と連結部433の外周面とに開口する両部連結孔434が形成されている。図2に示すように、両部連結孔434によって駆動室DCと補償室CCとが連通している。
【0037】
入力ピストン43の後方部には係合凹部435が形成されており、係合凹部435には、前述したプッシュロッド24が揺動可能かつ脱落不能に取り付けられている。プッシュロッド24はブレーキペダル22に取り付けられており、これにより、入力ピストン43はプッシュロッド24を介してブレーキペダル22に連結されている。入力ピストン43は、ブレーキペダル22に取り付けられたリタンスプリング(図示せず)による付勢力を受けて後方に牽引され、大径部432の後端面がシリンダボデー31の後端壁314と当接する。
【0038】
大径部432が後端壁314と当接することにより、ブレーキペダル22の非操作時において、入力ピストン43が最も後方にある場合の位置決めが行われる。入力ピストン43が最も後方に位置した状態において、入力ピストン43の前端部と対向したプライマリピストン36の後面との間には、間隔S0が形成されている(図2示)。
この間隔S0は、ブレーキペダル22の操作を開始してから、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接するまでの移動量(以下、「第2所定値」という)であって、本発明の「所定の間隔」に該当する。このように間隔S0を設けることにより、初期制動時に、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に到達するまでは、前輪FL,FRおよび後輪RL,RRのホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与されるブレーキ液圧の増大が抑制される(ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4へ液圧が供給されない)ようになっている。
【0039】
また、シリンダボデー31の上部には、前述したリザーバタンク23が取り付けられる一対のボス316a,316bが形成されている。また、シリンダボデー31には、リザーバタンク23からセカンダリ室SCおよびプライマリ室PCへのブレーキ液の供給を可能にする一対のサプライポート317a,317bが貫通している。
また、シリンダボデー31には、セカンダリ室SCおよびプライマリ室PCをABSアクチュエータ5(後述する)と接続するための出力ポート318a,318bが形成されている。また、シリンダボデー31には、駆動室DCをパワー液圧源7(後述する)と接続するためのパワーポート318cが形成されている。さらに、シリンダボデー31には、反力室RCをパワー液圧源7と接続するためのダミーポート318dが形成されている。
【0040】
次に、図2に基づいて、ブレーキアクチュエータDに含まれたABSアクチュエータ5について説明する。ABSアクチュエータ5は、アンチスキッド制御を行うための公知のものであり、常開型の電磁弁である増圧制御弁51,52,53,54および常閉型の電磁弁である減圧制御弁55,56,57,58、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4から排出されたブレーキ液を収容する調圧リザーバ59,61、調圧リザーバ59,61内のブレーキ液をマスタシリンダ3側に戻す還流ポンプ62,63、還流ポンプ62,63を駆動するモータ66から構成されている。
【0041】
プライマリ室PCに連通した出力ポート318bには、ブレーキ配管である主管路Lpが接続されている。また、セカンダリ室SCに連通した出力ポート318aには、ブレーキ配管である主管路Lsが接続されている。主管路Lpには、一対の増圧管路Lp1,Lp2が接続されており、増圧管路Lp1,Lp2は、それぞれ左後輪RLのホイルシリンダWC3および右後輪RRのホイルシリンダWC4に接続されている。また、主管路Lsには、一対の増圧管路Ls1,Ls2が接続されており、増圧管路Ls1,Ls2は、それぞれ左前輪FLのホイルシリンダWC1および右前輪FRのホイルシリンダWC2に接続されている。
【0042】
増圧管路Lp1,Lp2には、それぞれ増圧制御弁53,54が配設されるとともに、それぞれホイルシリンダWC3,WC4から主管路Lpへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁53a,54aが、増圧制御弁53,54に対し並列に配設されている。増圧制御弁53,54はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によりそれぞれ開閉制御される。
【0043】
また、増圧管路Ls1,Ls2には、それぞれ増圧制御弁51,52が配設されるとともに、それぞれホイルシリンダWC1,WC2から主管路Lsへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁51a,52aが、増圧制御弁51,52に対し並列に配設されている。増圧制御弁51,52はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によりそれぞれ開閉制御される。
【0044】
増圧管路Lp1の増圧制御弁53とホイルシリンダWC3との間の部分には、減圧管路Lp3が接続されている。減圧管路Lp3は、増圧管路Lp1と調圧リザーバ61とを接続している。減圧管路Lp3には、減圧制御弁57が配設されている。減圧制御弁57はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
また、増圧管路Lp2の増圧制御弁54とホイルシリンダWC4との間の部分には、減圧管路Lp4が接続されている。減圧管路Lp4は、増圧管路Lp2と調圧リザーバ61とを接続している。減圧管路Lp4には、減圧制御弁58が配設されている。減圧制御弁58はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
【0045】
また、増圧管路Ls1の増圧制御弁51とホイルシリンダWC1との間の部分には、減圧管路Ls3が接続されている。減圧管路Ls3は、増圧管路Ls1と調圧リザーバ59とを接続している。減圧管路Ls3には、減圧制御弁55が配設されている。減圧制御弁55はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
また、増圧管路Ls2の増圧制御弁52とホイルシリンダWC2との間の部分には、減圧管路Ls4が接続されている。減圧管路Ls4は、増圧管路Ls2と調圧リザーバ59とを接続している。減圧管路Ls4には、減圧制御弁56が配設されている。減圧制御弁56はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21により開閉制御される。
【0046】
調圧リザーバ61は、還流管路Lp5により主管路Lpと接続されている。還流管路Lp5には還流ポンプ63が設けられており、調圧リザーバ61と還流ポンプ63との間の部分および還流ポンプ63と主管路Lpとの間の部分には、調圧リザーバ61から主管路Lpへ向けたブレーキ液の流れを許容する一対の逆止弁65a,65bが配設されている。還流ポンプ63は、ブレーキECU21により制御されて、調圧リザーバ61内のブレーキ液を主管路Lpに還流させている。
【0047】
また、調圧リザーバ59は、還流管路Ls5により主管路Lsと接続されている。還流管路Ls5には還流ポンプ62が設けられており、調圧リザーバ59と還流ポンプ62との間の部分および還流ポンプ62と主管路Lsとの間の部分には、調圧リザーバ59から主管路Lsへ向けたブレーキ液の流れを許容する一対の逆止弁64a,64bが配設されている。還流ポンプ62はブレーキECU21により制御されて、調圧リザーバ59内のブレーキ液を主管路Lsに還流させている。
【0048】
ABSアクチュエータ5は、ブレーキECU21によって制御され、各車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srrの検出値に基づき、マスタシリンダ3が発生した液圧を調圧してホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に供給し、アンチスキッド制御を実行する。ABSアクチュエータ5は公知のものであり、かつ、本発明の主題ではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0049】
一方、ブレーキアクチュエータDに含まれたパワー液圧源7は、リザーバ71、リザーバ71内のブレーキ液を吸引して吐出する一対のパワーポンプ72,73、パワーポンプ72,73を駆動するモータ74、パワーポンプ72,73から吐出されたブレーキ液の一部をリザーバ71に還流して、それぞれ調圧する電磁リニア弁であるリニア減圧弁75,76を有している。
【0050】
一側のパワーポンプ72は、吸込管路PL1によってリザーバ71に接続されている。また、パワーポンプ72の吐出口には出力管路PL3が接続されており、出力管路PL3は、前述したマスタシリンダ3のダミーポート318dへと接続されている。パワーポンプ72はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって作動制御される。また、出力管路PL3のパワーポンプ72とダミーポート318dとの間の部分には、圧力センサ77が配設されている。圧力センサ77による検出値は、ブレーキECU21へと入力される。
【0051】
出力管路PL3のパワーポンプ72とダミーポート318dとの間の部分には、排出管路PL5が接続されており、排出管路PL5は出力管路PL3をリザーバ71に接続している。出力管路PL5にはリニア減圧弁75が設けられており、リニア減圧弁75はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって制御される。また、排出管路PL5には、リザーバ71からダミーポート318dへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁75aが、リニア減圧弁75に対し並列に配設されている。上述した構成によって、発生する液圧を反力室RCに供給する反力パワー系統が構成されている。
【0052】
一方、他側のパワーポンプ73は、吸込管路PL2によってリザーバ71に接続されている。また、パワーポンプ73の吐出口には出力管路PL4が接続されており、出力管路PL4はパワーポート318cへと接続されている。パワーポンプ73は、ブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって作動制御される。また、出力管路PL4のパワーポンプ73とパワーポート318cとの間の部分には、圧力センサ78が配設されている。圧力センサ78による検出値は、ブレーキECU21へと入力される。
【0053】
出力管路PL4のパワーポンプ73とパワーポート318cとの間の部分には、排出管路PL6が接続されており、排出管路PL6は出力管路PL4をリザーバ71に接続している。出力管路PL6にはリニア減圧弁76が設けられており、リニア減圧弁76はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって制御される。また、排出管路PL6には、リザーバ71からパワーポート318cへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁76aが、リニア減圧弁76に対し並列に配設されている。上述した構成によって、発生する液圧を駆動室DCに供給する駆動力パワー系統が構成されている。
【0054】
ブレーキECU21は、ペダルストロークセンサ22aによる検出値、ペダル踏力センサ22bによる検出値および圧力センサ77による検出値に基づき、パワーポンプ72およびリニア減圧弁75を制御する。パワー液圧源7の反力パワー系統において、パワーポンプ72がリザーバ71内のブレーキ液を吸引して吐出するとともに、リニア減圧弁75を介して吐出されたブレーキ液の一部をリザーバ71に還流させることにより調圧して、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力用駆動液圧を発生させる。当該反力用駆動液圧は反力室RCに印加されて、マスタシリンダ3の入力ピストン43を後方に付勢し、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力を発生させる。
【0055】
また、ブレーキECU21は、ペダルストロークセンサ22aによる検出値および圧力センサ78による検出値に基づき、パワーポンプ73およびリニア減圧弁76を制御する。パワー液圧源7の駆動力パワー系統において、パワーポンプ73がリザーバ71内のブレーキ液を吸引して吐出するとともに、リニア減圧弁76を介して吐出されたブレーキ液の一部をリザーバ71に還流させることにより調圧して、ブレーキペダル22のストローク量に応じたサーボ用駆動液圧を発生させる。
【0056】
当該サーボ用駆動液圧は駆動室DCに印加されて、シリンダ部311内においてプライマリピストン36を前進させる。これにより、マスタシリンダ3のプライマリ室PCおよびセカンダリ室SCに、ブレーキペダル22のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生させて車輪FL,FR,RL,RRに制動力を付与する。
上述した内容から明らかなように、パワー液圧源7において、反力用駆動液圧とサーボ用駆動液圧は互いに独立して調圧可能とされており、双方を異なる値とすることが可能である。
【0057】
主管路Lpのプライマリ室PCとABSアクチュエータ5との間には、差圧弁91が設けられている。差圧弁91は常開型のソレノイド制御弁であって、ブレーキアクチュエータDに含まれている。差圧弁91はブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって制御される。差圧弁91は、プライマリ室PCが接続されている入力ポートの液圧が、ABSアクチュエータ5に接続されている出力ポートの液圧よりも所定の設定圧以上高くなると開弁し、その設定圧は供給電流によって可変である。
【0058】
これにより、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に達してから第1所定値に到達するまでは、後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4に付与されるブレーキ液圧の増大が抑制される(前輪FL,FR側のホイルシリンダWC1,WC2へのブレーキ液圧は付与されるが、後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4へのブレーキ液圧は付与されない)ようになっている。ここで、第1所定値は、初期制動時に後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4のブレーキ液圧に対するプライマリ室PCのブレーキ液圧が差圧弁91の設定圧に達し、差圧弁91が開弁するブレーキペダル22のストローク量である。
【0059】
主管路Lpのプライマリ室PCとABSアクチュエータ5との間には、差圧弁91に対し並列に、後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4からプライマリ室PCへ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁91aが設けられている。
これにより、ブレーキペダル22のストロークを戻して駆動室DCに供給されたサーボ用駆動液圧が低下した場合、プライマリ室PCの液圧が後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧より低くなると、逆止弁91aを介して後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4のブレーキ液がプライマリ室PCに戻されるようになっている。
【0060】
また、主管路Lpの差圧弁91とABSアクチュエータ5との間には、圧力センサ92が設けられている。本実施形態においては、圧力センサ92によってホイルシリンダWC3,WC4(差圧弁91の下流側)の液圧を検出するようにしている。また、後述するように、駆動室DCに供給されるパワー液圧源7のサーボ用駆動液圧とプライマリ室PCに発生するブレーキ液圧はほぼ等しくなるため、プライマリ室PCに発生する液圧値は、パワー液圧源7に設けられた圧力センサ78の検出値によって代用するようにしている。なお、主管路Lp上におけるプライマリ室PCと差圧弁91との間に圧力センサを配置し、プライマリ室PCの液圧を検出するようにしてもよい。
【0061】
ここで、本実施形態におけるブレーキペダル22のストローク量に関する第1所定値を、液圧ブレーキ装置Bの機械的な構成と関連づけて説明すれば、第1所定値に対応する入力ピストン43のシリンダ部311内における移動量は、St=S0+Tに設定されている(ブレーキペダル22のレバー比によって、ブレーキペダル22のストローク量は入力ピストン43の移動量に換算される)。
【0062】
入力ピストン43の移動量S0は、回生ブレーキ装置Aによる回生制動力が上限に達し、駆動室DCにサーボ用駆動液圧が供給される時のブレーキペダル22の操作量に対応するように設定されている。したがって、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接した時のブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に該当する。
【0063】
また、入力ピストン43の移動量Tは、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接してから、差圧弁91が開弁して、後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4の液圧が上昇を開始するまでの移動量に該当し、その時のブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に該当する。当然、第1所定値>第2所定値の関係にあることは言うまでもない。
以上説明した液圧ブレーキ装置Bにおいて、ブレーキECU21は、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値未満である場合には、パワー液圧源7において、サーボ用駆動液圧を発生させず、反力用駆動液圧を発生させるとともに、回生ブレーキ装置Aにより回生制動力を駆動側(後輪側)の車輪RL,RRに付与させる。
【0064】
一方、ブレーキECU21は、ブレーキペダル22のストロークが第2所定値以上である場合には、パワー液圧源7において、サーボ用駆動液圧および反力用駆動液圧を発生させる。
【0065】
次に、図2乃至図6に基づいて、液圧ブレーキ装置Bの作動方法について説明する。尚、説明中における液圧ブレーキ装置Bの作動は、通常ブレーキ作動を想定しており、ABSアクチュエータ5は作動していないものとする。
(1)正常時の作動
(i)ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値未満である場合の作動
最初に、車両の運転者によりブレーキペダル22のストロークが開始されると、入力ピストン43がプッシュロッド24によって付勢されシリンダ部311内を前進する。しかしながら、ブレーキECU21によりペダルストロークセンサ22aからの信号に基づいて、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値未満であると判定されている場合には、パワー液圧源7の駆動力パワー系統によるサーボ用駆動液圧の発生は行われない。
【0066】
一方、入力ピストン43の移動量がS0に達するまでは、入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接せず、シリンダ部311内をプライマリピストン36が前進しないため、プライマリ室PCには液圧は発生しない。プライマリ室PCに液圧が発生していないため、セカンダリピストン33は前進せず、セカンダリ室SCにも液圧は発生しない。このように、プライマリ室PCおよびセカンダリ室SCの両室に液圧が発生しないため、車輪FL,FR,RL,RRのホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4にはブレーキ液圧は供給されない。
【0067】
一方、上記の場合には、駆動側の車輪RL、RRに対し、回生ブレーキ装置Aによる回生制動のみが実行される(図5においてAにて示し、図6においてEにて示す)。これにより、後輪RL,RRの制動力のみが大きくなる。
ここで、この時入力ピストン43の前進にともない、駆動室DCの容積が減少するのであるが、駆動室DCの容積の減少量と、入力ピストン43の前進にともなう補償室CCの容積の増大量とを同等に設定してあるため、入力ピストン43の前進によって、駆動室DC内のブレーキ液が両部連結孔434を介して補償室CCに移動するのみであり、駆動室DCおよび補償室CC内に液圧は発生しない。
【0068】
ところで、ブレーキペダル22がストロークされると、ブレーキECU21は、ペダルストロークセンサ22a、ペダル踏力センサ22bおよび圧力センサ77による検出値に基づいて、パワー液圧源7の反力パワー系統により、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力用駆動液圧を発生させ反力室RCに供給する。反力室RCに供給された反力用駆動液圧により、入力ピストン43は後方に付勢され、ブレーキペダル22のストローク量に応じた反力が発生する。
(ii)ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値以上かつ第1所定値未満である場合の作動
入力ピストン43が移動量S0だけ前進し、ブレーキECU21において、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に到達したと判定されると(図5においてp点にて示す)、ブレーキECU21は、ペダルストロークセンサ22aによる検出値および圧力センサ78による検出値に基づき、パワー液圧源7の駆動力パワー系統により、ブレーキペダル22のストローク量に応じたサーボ用駆動液圧を発生させ、当該サーボ用駆動液圧を駆動室DCに供給する(図3示)。本実施形態においては、この時点において、回生ブレーキ装置Aによる回生制動力は上限に達していることを想定している。このように、第2所定値を設定することにより、回生効率を高めることができる。
【0069】
駆動室DCにサーボ用駆動液圧が供給されると、マスタシリンダ3のプライマリピストン36は、サーボ用駆動液圧に付勢されて、シリンダ部311内において前進する。このプライマリピストン36の前進の際、プライマリピストン36は入力ピストン43から分離してシリンダ部311内を前進する。
その結果、これにより、マスタシリンダ3のプライマリ室PCにおいて、ブレーキペダル22のストロークに応じたブレーキ液圧が発生する。また、プライマリ室PCに発生した液圧により、セカンダリピストン33が付勢されてシリンダ部311内を前進することにより、セカンダリ室SCにもブレーキペダル22のストロークに応じた(プライマリ室PCに発生した液圧とほぼ同等の)ブレーキ液圧が発生する。
【0070】
この時、第3シールカップ34cと第4シールカップ34dのプライマリピストン36に対するシール径が等しいため、駆動室DCに供給されたパワー液圧源7のサーボ用駆動液圧とプライマリ室PCに発生するブレーキ液圧はほぼ等しくなる。
ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に達してから第1所定値に達するまでの間は、前輪FL,FR側のホイルシリンダWC1,WC2には、ブレーキペダル22のストローク量に応じて液圧制動力が供給され、後輪RL,RRには、回生ブレーキ装置Aによる回生制動力のみが継続して付与される(図5においてBにて示し、図6においてFにて示す)。
【0071】
この状態におけるブレーキペダル22のストローク量に応じた車両制動力の制御は、駆動室DCへのサーボ用駆動液圧を変化させることにより、前輪FL,FR側の液圧制動力を調整することによって行われる。また、この状態において、後輪RL,RRへの回生制動力が増減した場合にも、前輪FL,FR側への液圧制動力を増減させることによって、車両制動力の制御が行われる。
【0072】
駆動室DCへ供給されたサーボ用駆動液圧は、両部連結孔434を介して補償室CCにも導入されるようになっている。また、駆動室DC内における入力ピストン43の受圧面積と、補償室CC内における入力ピストン43の大径部432の受圧面積とが等しく設定されている。これにより、入力ピストン43の前面が駆動室DC内においてサーボ用駆動液圧を受けるが、入力ピストン43は、パワー液圧源7からのサーボ用駆動液圧によって入力ピストン43が前後方向に付勢されないようになっている。
【0073】
(iii)ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値以上である場合の作動
ブレーキペダル22のストローク量がさらに増大し、ブレーキECU21により、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に到達(差圧弁91の前後であるプライマリ室PCと後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4との間の液圧が所定の差圧に到達)したと判定されると(図5においてq点にて示す)、ペダルストロークセンサ22aによる検出値および圧力センサ78,92による検出値に基づいてパワー液圧源7が制御されて、ブレーキペダル22のストローク量に応じたサーボ用駆動液圧が駆動室DC内に供給される(図4示)。
その結果、ブレーキペダル22のストローク量に応じて、前輪FL,FR側ホイルシリンダWC1,WC2の液圧とともに、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧が上昇する。
これにより、図5においてCにて示したように、後輪RL,RRへの液圧制動力が前輪FL,FRへの液圧制動力よりも低い状態に維持されながら、ブレーキペダル22のストローク量に応じて、前後輪FL,FR,RL,RRの液圧制動力がともに増大する。
【0074】
図5に示したCにおいては、回生制動力と液圧制動力を含めても、後輪RL,RRへの制動力が前輪FL,FRへの制動力よりも低い状態が維持されることを想定している。
これ以降は、前輪FL,FRに対しては、液圧ブレーキ装置Bによる液圧制動のみが機能し、後輪RL,RRに対しては、回生ブレーキ装置Aによる回生制動と液圧ブレーキ装置Bによる液圧制動がともに機能する(図5においてCにて示し、図6においてGにて示す)。これにより、前輪FL,FRに対する液圧制動力よりも、後輪RL,RRへの液圧制動力を低く設定した分だけ、後輪RL,RRへの制動力を回生制動力によって補うようにしている。
【0075】
(2)車両電源失陥時の作動
液圧ブレーキ装置Bにおいて車両電源が失陥した場合には、入力ピストン43が移動量S0だけ前進した後、入力ピストン43がプライマリピストン36を直接に押圧して、プライマリピストン36がシリンダ部311内を前進すると、プライマリ室PCおよびセカンダリ室SCに液圧が発生する。この時、差圧弁91は非通電状態(開弁状態)となるため、プライマリ室PCと後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4とが連通し、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧が、プライマリ室PCの液圧に対して抑制されることはない。これによって、前輪FL,FR側および後輪RL,RR側ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に対して、液圧ブレーキ装置Bによる液圧制動力のみが付与される。
【0076】
パワー液圧源7の駆動力パワー系統によって、サーボ用駆動液圧の駆動室DCへの供給を開始する時点(図5におけるp点)におけるブレーキペダル22のストローク量(本実施形態においては第2所定値)は、回生ブレーキ装置Aによって後輪RL,RRに付与される回生制動力の特性(図5におけるA)が、前後輪FL,FR,RL,RRに付与される制動力の理想配分線図に近似されるような値にすることが考えられる。例えば、図5におけるp点が、理想配分線図よりも上方に突出しないようなタイミングで、サーボ用駆動液圧の駆動室DCへの供給を開始することが考えられる。
【0077】
また、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4において、差圧弁91を介して液圧の上昇が開始する時点におけるブレーキペダル22のストローク量(本実施形態においては第1所定値)は、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値より大きい領域において、液圧制動と回生制動とを含めた車両制動力の特性(図5におけるC)が、理想配分線図の上方に突出しないような値に設定することが考えられる。
【0078】
本実施形態によれば、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に到達するまでは、差圧弁91の作動によって、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4に液圧を発生させずに、後輪RL,RRへの液圧制動力を前輪FL,FRへの液圧制動力よりも小さくすることにより、初期制動において、後輪RL,RRにおいて回生制動力を十分に発生させることができる。
【0079】
また、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に到達するまでは、回生制動力が増減した場合に、前輪FL,FR側ホイルシリンダWC1,WC2の液圧を制御して車両制動力を調整するようにした。これにより、後輪RL,RR側のホイルシリンダWC3,WC4の液圧を、プライマリ室PCの液圧やセカンダリ室SCの液圧よりも差圧弁91の設定圧以上低くすることなく、後輪RL,RR側の回生制動力の増減を補償することができる。
また、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4とプライマリ室PCとの間に一つの差圧弁91を設けるだけで、回生協調制御を実行する液圧ブレーキ装置Bを形成することができ、その制御方法も簡素化することができる。
【0080】
また、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に到達した後は、差圧弁91の作動により、後輪RL,RRへの液圧制動力が前輪FL,FRへの液圧制動力よりも低い状態を維持しながら、ブレーキペダル22のストローク量に応じて、前輪FL,FR側ホイルシリンダWC1,WC2の液圧および後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧をともに増大させることにより、後輪RL,RRにおける先行ロックを回避して、前後輪FL,FR,RL,RRの制動力配分を理想配分に近似させることができる。
【0081】
また、プライマリピストン36の後方には、ブレーキペダル22と連結されるとともに、シリンダ部311内において移動可能な入力ピストン43が設けられ、ブレーキペダル22が操作されていない場合に、プライマリピストン36と入力ピストン43との間には、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に対応する間隔S0が設けられている。
これにより、初期制動において、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に到達するまでは、入力ピストン43がシリンダ部311内を前進しても、プライマリピストン36に当接することがないため、プライマリ室PCに液圧を発生させないブレーキペダル22の無効ストローク領域を確実に形成することができる。
また、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の減圧手段は、ブレーキECU21によって作動制御される差圧弁91としたことにより、ブレーキペダル22のストローク量に応じて、後輪RL,RRへの液圧制動力を精度よく付与することができる。
【0082】
また、差圧弁91と並列に後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4からプライマリ室PCへ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁91aが設けられている。
これにより、ブレーキペダル22のストロークを戻すことにより、プライマリ室PCの液圧が後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧より低くなった場合に、逆止弁91aを介して後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4のブレーキ液がプライマリ室PCに戻される。
したがって、差圧弁91の作動状態にかかわらず、ブレーキペダル22のストローク量の低下に応じて、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧を減少させることができる。
【0083】
<実施形態1の変形例1>
図7は、実施形態1における減圧手段の変形例1を示している。本変形例においては、減圧手段としてリニア弁91に代えて、主管路Lp上のプライマリ室PCとABSアクチュエータ5との間に残圧弁94が設けられている。残圧弁94は、所定のセット荷重を有する弾性部材941によって弁体942が弁座943に対して付勢されており、プライマリ室PCから後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4へのブレーキ液の流れのみを許容する。
【0084】
残圧弁94は、弾性部材941の付勢力によって、プライマリ室PC側の液圧が所定圧(最大差圧)になるまでは閉弁し、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4に液圧を発生させない。残圧弁94は、プライマリ室PC側の液圧が最大差圧になった場合に開弁し、その後、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧を、プライマリ室PC側の液圧に対して最大差圧だけ低くすることができる。最大差圧は、前述したブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に到達した時の、プライマリ室PC側の液圧と後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧(この時点では0)との差に設定されている。
【0085】
図7に示すように、主管路Lpの後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4とプライマリ室PCとの間には、実施形態1の場合と同様に、残圧弁94に対し並列に後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4からプライマリ室PCへ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁94aが設けられている。
【0086】
<実施形態1の変形例2>
図8は、実施形態1における減圧手段の変形例2を示している。本変形例においては、図7に示した残圧弁94および逆止弁94aに対して並列に、常開型の電磁弁であるオンオフ弁95が並列に設けられている。オンオフ弁95はブレーキECU21によって作動制御され、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4の液圧をプライマリ室PCの液圧よりも低く設定する場合に閉状態とされ、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4のブレーキ液をプライマリ室PCに戻す場合には開状態とされる。
【0087】
<実施形態2>
次に、図9乃至図11に基づいて、本発明の実施形態2による液圧ブレーキ装置B1の実施形態1に対する相違点について説明する。
図9に示すように、本実施形態による液圧ブレーキ装置B1においては、主管路Lp上のプライマリ室PCと差圧弁91との間とパワー液圧源7の出力管路PL4とを接続するように、流出管路LCが形成されており、流出管路LC上には、吸収リザーバ96が形成されている。吸収リザーバ96はブレーキアクチュエータD1に含まれ、所定の容量を有するリザーバケース961内に、移動体962が移動可能に設けられている。
【0088】
移動体962は、リザーバケース961に対し液密的に嵌合することによって、その一側の端面(図9における上面)とリザーバケース961とにより貯留室963を形成し、他側の端面(図9における下面)とリザーバケース961とにより背圧室964を形成している。図9に示すように、貯留室963はマスタシリンダ3のプライマリ室PCと接続され、背圧室964は駆動室DCと接続されている。移動体962とリザーバケース961との間には弾性スプリング965が介装され、移動体962は弾性スプリング965によって貯留室963側へ付勢されている。
【0089】
流出管路LC上において、プライマリ室PCと貯留室963との間には、常閉型の電磁弁であるカット弁97が介装されている。カット弁97は、ブレーキECU21と接続され、ブレーキECU21によって開閉制御される。カット弁97には、貯留室963からプライマリ室PCへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁97aが並列に形成されている。逆止弁97aは、カット弁97が閉状態にあって、プライマリ室PC内のブレーキ液圧が低下した時に開弁し、貯留室963内のブレーキ液をプライマリ室PC側へ戻す機能を有する。
【0090】
次に、本実施形態による液圧ブレーキ装置B1の作動方法に関する実施形態1との相違点について説明する。尚、本実施形態においては実施形態1の場合と異なり、ブレーキペダル22がストロークされていない場合のプライマリピストン36と入力ピストン43との間の間隔S1は、ブレーキペダル22のストローク量について、実施形態1における第2所定値よりも小さい値に対応するように設定されている。
【0091】
入力ピストン43が移動量S1以上前進すると、入力ピストン43の前端がプライマリピストン36の後面に当接する。これ以降は、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に達するまで、パワー液圧源7によってサーボ用駆動液圧を発生させることはなく、入力ピストン43によってプライマリピストン36を直接に押圧して、双方が一体となって前進する(図10示)。これにより、プライマリピストン36の第2連通ポート361が第3シールカップ34cを通過して、プライマリ室PCがリザーバタンク23から遮断される。
【0092】
入力ピストン43の前端とプライマリピストン36の後面とが当接した時点において、ブレーキECU21はカット弁97を開状態にするため、シリンダ部311内におけるプライマリピストン36の前進によって、プライマリ室PC内のブレーキ液が、弾性スプリング965の付勢力に抗して吸収リザーバ96の貯留室963に流入する。これにより、プライマリピストン36の前進にかかわらず、プライマリ室PCに液圧が発生することはない。また、プライマリ室PCに液圧が発生していないため、セカンダリピストン33が前進することはなく、セカンダリ室SCにも液圧が発生することはない。したがって、車輪FL,FR,RL,RRに液圧ブレーキが付与されることはない。
【0093】
この時、プライマリピストン36の前進によって発生するプライマリスプリング40の圧縮荷重よりも、セカンダリスプリング35のセット荷重を大きくしておくことが望ましい。
この状態においては、駆動側の車輪RL、RRに対し、ブレーキペダル22のストローク開始から継続して回生ブレーキ装置Aによる回生制動のみが実行される。
【0094】
ブレーキペダル22のストローク量がさらに増大し、ブレーキECU21が、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に到達したと判定した場合、ペダルストロークセンサ22aによる検出値および圧力センサ78による検出値に基づき、パワー液圧源7の駆動力パワー系統において、ブレーキペダル22のストローク量に応じたサーボ用駆動液圧を発生させ、当該サーボ用駆動液圧を駆動室DCに供給する(図11示)。
【0095】
駆動室DCに供給されたサーボ用駆動液圧は、マスタシリンダ3のプライマリピストン36を付勢し、シリンダ部311内においてプライマリピストン36を前進させる。駆動室DCにサーボ用駆動液圧が供給された場合、プライマリピストン36は入力ピストン43から分離してシリンダ部311内を前進することになる。
この時、パワー液圧源7のサーボ用駆動液圧は、流出管路LCを介して吸収リザーバ96の背圧室964にも供給されるため、リザーバケース961内における移動体962の背圧室964方向への移動が阻止される。したがって、プライマリ室PCから貯留室963へ、これ以上ブレーキ液が流入することがない。
これにより、マスタシリンダ3のプライマリ室PCにおいて、ブレーキペダル22のストロークに応じたブレーキ液圧が発生する。しかしながら、上述したように差圧弁91の作動によって、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4において液圧が発生することはない。
【0096】
また、プライマリ室PCに液圧が発生しているため、セカンダリピストン33もシリンダ部311内を前進し、セカンダリ室SCにブレーキペダル22のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生させる。これにより、前輪FL,FRに液圧ブレーキによる制動力を付与することができる。
また、パワー液圧源7の駆動力パワー系統がサーボ用駆動液圧の発生を開始した時点において、カット弁97を閉状態とすることにより、プライマリ室PCから吸収リザーバ96の貯留室963へのブレーキ液の流入を遮断するようにしてもよい。
【0097】
この後、ブレーキペダル22のストローク量が第1所定値に達すると、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4にも液圧が付与されることは実施形態1の場合と同様である。
また、液圧ブレーキ装置B1において、車両電源が失陥した場合、カット弁97が閉状態となるため、ブレーキ液がプライマリ室PCから貯留室963に流入することが妨げられ、プライマリ室PCに液圧が発生するため、車輪FL,FR,RL,RRに液圧制動力を付与することができる。
【0098】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
本発明はハイブリッド車両のみではなく、電気自動車(EV)にも適用することができる。
また、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4をセカンダリ室SCに接続し、前輪FL,FR側ホイルシリンダWC1,WC2をプライマリ室PCに接続してもよい。この場合、差圧弁91および逆止弁91aあるいは残圧弁94、逆止弁94aおよびオンオフ弁95は主管路Ls上に設けられることは言うまでもない。
また、ブレーキ操作部材の操作量は、プッシュロッド24のストローク量あるいはマスタシリンダ3の入力ピストン43のストローク量によって検出してもよい。
【0099】
また、ブレーキペダル22のストローク量が第2所定値に達してから、第1所定値に到達するまでの間(図5においてBにて示した区間)においては、ブレーキペダル22のストローク量に応じて、後輪RL,RR側ホイルシリンダWC3,WC4に、前輪FL,FR側ホイルシリンダWC1,WC2に発生した液圧よりも低い若干の液圧を付与してもよい。すなわち、図5においてBにて示した区間が、やや右上がりに傾いても構わない。
上記実施形態においては、後輪駆動車に本願発明を適用した。しかしながら、本願発明は、前後輪駆動車ではあるが、後輪の回生能力が前輪の回生能力よりも高い車両にも適用可能である。この場合であっても、上記実施形態と同様の効果を奏する(図12参照)。
【符号の説明】
【0100】
図面中、3はマスタシリンダ、19はハイブリッドECU(回生制動制御手段)、21はブレーキECU(液圧制動制御手段)、22はブレーキペダル(ブレーキ操作部材)、22aはペダルストロークセンサ(ブレーキ操作量検出手段)、33はセカンダリピストン、36はプライマリピストン、43は入力ピストン、91は差圧弁、91a,94aは逆止弁、94は残圧弁(差圧弁)、311はシリンダ部、Aは回生ブレーキ装置(回生制動部)、B,B1は液圧ブレーキ装置、FL,FRは前輪、RL,RRは後輪、PCはプライマリ室(プライマリ液圧室)、SCはセカンダリ室(セカンダリ液圧室)、WC1,WC2は前輪側ホイルシリンダ、WC3,WC4は後輪側ホイルシリンダを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後2系統のブレーキ配管を有し、後輪に回生制動力を付与する回生制動部を備える車両に適用され、
シリンダ部内において移動可能なプライマリピストンと、前記プライマリピストンの前方に配置され、前記シリンダ部内において移動可能なセカンダリピストンとを有し、前記プライマリピストンと前記セカンダリピストンとの間にはプライマリ液圧室が形成されるとともに、前記セカンダリピストンの前方にはセカンダリ液圧室が形成され、前記プライマリ液圧室は前輪側ホイルシリンダおよび後輪側ホイルシリンダのうちの一方と接続され、前記セカンダリ液圧室は前記前輪側ホイルシリンダおよび前記後輪側ホイルシリンダのうちの他方と接続され、前記プライマリピストンが付勢されて前進することにより、前記プライマリ液圧室に液圧が発生するとともに、前記プライマリ液圧室に発生した液圧により前記セカンダリピストンが前進して前記セカンダリ液圧室に液圧が発生して、前後輪に制動力を付与するマスタシリンダと、
前記ブレーキ操作部材の操作量を検出するブレーキ操作量検出手段と、
前記後輪側ホイルシリンダと前記プライマリ液圧室または前記セカンダリ液圧室との間に設けられ、前記後輪側ホイルシリンダの液圧に対して前記プライマリ液圧室または前記セカンダリ液圧室の液圧が所定の設定圧以上高くなると開弁する差圧弁と、
前記ブレーキ操作部材の操作開始から前記差圧弁が開弁するまでの間に、前記回生制動部により、前記ブレーキ操作量検出手段により検出されている操作量に応じた回生制動力を前記後輪に付与する回生制動制御手段と、
を備えていることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
前記ブレーキ操作部材の操作が開始されてから、前記ブレーキ操作部材の操作量が前記差圧弁が開弁する前記ブレーキ操作部材の操作量である第1所定値よりも小さい第2所定値に到達するまでは、前記回生制動制御手段は、前記ブレーキ操作部材の操作開始から当該ブレーキ操作部材の操作量が前記第2所定値に到達するまでの間に、前記ブレーキ操作部材の操作量に応じた回生制動力を前記後輪に付与することを特徴とする請求項1記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記プライマリピストンの後方には、前記ブレーキ操作部材と連結されるとともに、前記シリンダ部内において移動可能な入力ピストンが設けられ、
前記ブレーキ操作部材が操作されていない場合に、前記プライマリピストンと前記入力ピストンとの間には、前記第2所定値に対応する所定の間隔が設けられていることを特徴とする請求項2記載の車両用制動装置。
【請求項4】
前記後輪側ホイルシリンダと前記プライマリ液圧室または前記セカンダリ液圧室との間には、前記差圧弁と並列に前記後輪側ホイルシリンダから前記プライマリ液圧室または前記セカンダリ液圧室へ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁が設けられたことを特徴とする請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項5】
前記ブレーキ操作部材の操作量が、前記差圧弁が開弁する前記ブレーキ操作部材の操作量である第1所定値未満である場合に、前記回生制動制御手段による前記後輪の回生制動力の増減に応じて、前記前輪の液圧制動力を増減させる液圧制動制御手段を備えていることを特徴とする請求項4記載の車両用制動装置。
【請求項1】
前後2系統のブレーキ配管を有し、後輪に回生制動力を付与する回生制動部を備える車両に適用され、
シリンダ部内において移動可能なプライマリピストンと、前記プライマリピストンの前方に配置され、前記シリンダ部内において移動可能なセカンダリピストンとを有し、前記プライマリピストンと前記セカンダリピストンとの間にはプライマリ液圧室が形成されるとともに、前記セカンダリピストンの前方にはセカンダリ液圧室が形成され、前記プライマリ液圧室は前輪側ホイルシリンダおよび後輪側ホイルシリンダのうちの一方と接続され、前記セカンダリ液圧室は前記前輪側ホイルシリンダおよび前記後輪側ホイルシリンダのうちの他方と接続され、前記プライマリピストンが付勢されて前進することにより、前記プライマリ液圧室に液圧が発生するとともに、前記プライマリ液圧室に発生した液圧により前記セカンダリピストンが前進して前記セカンダリ液圧室に液圧が発生して、前後輪に制動力を付与するマスタシリンダと、
前記ブレーキ操作部材の操作量を検出するブレーキ操作量検出手段と、
前記後輪側ホイルシリンダと前記プライマリ液圧室または前記セカンダリ液圧室との間に設けられ、前記後輪側ホイルシリンダの液圧に対して前記プライマリ液圧室または前記セカンダリ液圧室の液圧が所定の設定圧以上高くなると開弁する差圧弁と、
前記ブレーキ操作部材の操作開始から前記差圧弁が開弁するまでの間に、前記回生制動部により、前記ブレーキ操作量検出手段により検出されている操作量に応じた回生制動力を前記後輪に付与する回生制動制御手段と、
を備えていることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
前記ブレーキ操作部材の操作が開始されてから、前記ブレーキ操作部材の操作量が前記差圧弁が開弁する前記ブレーキ操作部材の操作量である第1所定値よりも小さい第2所定値に到達するまでは、前記回生制動制御手段は、前記ブレーキ操作部材の操作開始から当該ブレーキ操作部材の操作量が前記第2所定値に到達するまでの間に、前記ブレーキ操作部材の操作量に応じた回生制動力を前記後輪に付与することを特徴とする請求項1記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記プライマリピストンの後方には、前記ブレーキ操作部材と連結されるとともに、前記シリンダ部内において移動可能な入力ピストンが設けられ、
前記ブレーキ操作部材が操作されていない場合に、前記プライマリピストンと前記入力ピストンとの間には、前記第2所定値に対応する所定の間隔が設けられていることを特徴とする請求項2記載の車両用制動装置。
【請求項4】
前記後輪側ホイルシリンダと前記プライマリ液圧室または前記セカンダリ液圧室との間には、前記差圧弁と並列に前記後輪側ホイルシリンダから前記プライマリ液圧室または前記セカンダリ液圧室へ向けたブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁が設けられたことを特徴とする請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項5】
前記ブレーキ操作部材の操作量が、前記差圧弁が開弁する前記ブレーキ操作部材の操作量である第1所定値未満である場合に、前記回生制動制御手段による前記後輪の回生制動力の増減に応じて、前記前輪の液圧制動力を増減させる液圧制動制御手段を備えていることを特徴とする請求項4記載の車両用制動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−71681(P2012−71681A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217788(P2010−217788)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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