説明

車両用動力伝達装置の制御装置

【課題】電動機やその制御系に故障が生じて電気式差動部を非差動状態に切り換えるに際して、切換制御時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】差動部11を非差動状態に切り換えるに際して、切換時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減する側に自動変速部20の変速比を変更する変速比変更手段80を備えるため、例えば、通常では差動部11の切換時に駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が発生しやすい運転領域であっても、上記トルク増加が低減され、運転者に違和感を与えることを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動機構に動力伝達可能に連結された電動機とを有し、その電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、その電気式差動部の差動状態を非差動状態に切換可能な差動制限装置とを、備えた車両用動力伝達装置に係り、特に、前記電気式差動部が差動状態での作動中に正常に作動できなくなると、前記差動制限装置によりその電気式差動部を非差動状態に切り換える車両用動力伝達装置の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと駆動輪との間に連結された差動機構と、その差動機構に動力伝達可能に連結された電動機とを有し、その電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、その電気式差動部の差動状態を非差動状態に切換可能な差動制限装置と、動力伝達経路の一部を構成する変速部とを、備えた車両用動力伝達装置がよく知られている。上記構成において、差動制限装置が作動されないときは、電気式差動部が差動状態となり、変速比が無段階的に変化する変速機としても機能する。また、差動制限装置が作動されると、電気式差動部が非差動状態となり、エンジンの動力が機械的に伝達される変速比固定の変速機として機能する。そして、車両の走行状態に応じて差動制限装置の作動が制御されることにより、最適な走行が可能となる。
【0003】
ところで、例えば電気式差動部の回転を制御する電動機やその制御系が故障するなどすると、電気式差動部の差動制御が困難となる。これに対し、特許文献1では、電気式差動部の差動制御が困難となると、摩擦係合要素(差動制限装置)を係合させて電気式差動部(差動装置)を固定することで、走行を継続させる技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−304229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のモータフェイル対応制御装置において、電気式差動部(差動装置)が固定されると固定変速比となるが、通常では実施されない走行領域で電気式差動部が固定されることもあり、固定制御時に通常よりも大きな駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が発生する可能性があり、運転者に違和感を与える可能性があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、差動機構に動力伝達可能に連結された電動機を有し、その電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、その電気式差動部の差動状態を非差動状態に切換可能な差動制限装置とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置において、前記電動機やその制御系に故障が生じて電気式差動部を非差動状態に切り換えるに際して、切換制御時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)エンジンと駆動輪との間に連結された差動機構と、その差動機構に動力伝達可能に連結された電動機とを有し、その電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、その電気式差動部の差動状態を非差動状態に切換可能な差動制限装置と、動力伝達経路の一部を構成する変速部とを、備えた車両用動力伝達装置において、(b)前記電気式差動部が差動状態での動作中に正常に作動できなくなると、前記差動制限装置によりその電気式差動部を非差動状態に切り換える差動制限手段と、(c)前記電気式差動部を非差動状態に切り換えるに際して、切換時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減する側に前記変速部の変速比を変更する変速比変更手段とを、備えることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記電気式差動部は、非差動状態に切り換えるに際して複数個の固定変速比に切換可能であり、前記差動制限手段は、電気式差動部を非差動状態に切り換えるに際して、その電気式差動部を駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が低減される側の固定変速比に切り換えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記電気式差動部を非差動状態に切り換えるに際して、駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が低減されるようにエンジントルクを変更するエンジン出力変更手段を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4にかかる発明の要部とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記変速部は、自動変速されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5にかかる発明の要部とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記変速部は、複数個の変速比を有する有段変速部であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6にかかる発明の要部とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記電気式差動部は、差動ギヤと2つの電動機で構成される電気的な無段変速部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記電気式差動部を非差動状態に切り換えるに際して、切換時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減する側に前記変速部の変速比を変更する変速比変更手段を備えるため、例えば、通常では電気式差動部の切換時に駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が発生しやすい運転領域であっても、上記トルク増加が低減され、運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0014】
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記差動制限手段は、電気式差動部を非差動状態に切り換えるに際して、電気式差動部を駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が低減される側の固定変速比に切り換えるため、電気式差動部の切換時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が低減される。
【0015】
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記電気式差動部を非差動状態に切り換えるに際して、駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が低減されるようにエンジントルクを変更するエンジン出力変更手段を備えるため、電気式差動部の非差動状態への切換時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加をエンジンのトルク制御によっても低減することができる。
【0016】
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速部は自動変速されるため、車両の走行状態に応じた変速段に適宜変速され、好適な駆動力を得ることができる。
【0017】
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速部は、複数個の変速比を有する有段変速部であるため、車両の走行状態に応じて複数個の変速比のうちから最適な変速比に変速され、好適な駆動力を得ることができる。また、電気式差動部の非差動状態への切換時においても、好適な変速比に変速されることで、駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減することができる。
【0018】
また、請求項6にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記電気式差動部は、差動ギヤと2つの電動機で構成される電気的な無段変速部であるため、変速比が車両走行状態に応じて無段階的に変更され、最適な駆動力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ここで、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに動力伝達可能に連結された第1回転要素と前記差動用電動機に動力伝達可能に連結された第2回転要素と前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第3回転要素とを有する遊星歯車装置(差動ギヤ)であり、上記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、上記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、上記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つの遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0020】
また好適には、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型の遊星歯車装置である。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0021】
また好適には、前記自動変速部の変速比と前記差動部の変速比とに基づいて前記車両用動力伝達装置の総合変速比が形成されるものである。このようにすれば、上記自動変速部の変速比を利用することで駆動力が幅広く得られるようになる。
【0022】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0023】
本発明の制御装置は、例えばハイブリッド車両に用いられる。図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」と表す)を説明する骨子図である。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)を介して直接に連結された差動部11と、その差動部11と駆動輪38(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38(図6参照)との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して左右の駆動輪38へ伝達する。
【0024】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。
【0025】
電気式差動部として機能する差動部11は、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、その動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1は、反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備える。そして、駆動輪38に動力伝達可能に連結された第2電動機M2は、走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
【0026】
動力分配機構16は、エンジン8と駆動輪38との間に連結された差動機構であって、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24(差動ギヤ)と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0027】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は差動部サンギヤS0とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び/又は第2電動機M2の運転状態が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
【0028】
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態に切り換えられる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合させられて差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態(固定状態)とされて前記差動作用が不能な非差動状態に切り換えられることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて差動部サンギヤS0がケース12に連結させられると、動力分配機構16は差動部サンギヤS0が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態に切り換えられることから、差動部11も非差動状態とされる。また、差動部リングギヤR0は差動部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0029】
このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態と非差動状態すなわちロック状態とに、すなわち差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動しない変速状態例えば無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動をしないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば固定変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。さらには、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11の差動状態を差動状態もしくは差動が制限される非差動状態に切換可能な本発明の差動制限装置としても機能している。
【0030】
エンジン8と駆動輪38との間の動力伝達経路の一部を構成する変速部としての自動変速部20は、その変速比(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)を段階的に変化させることができる有段式の自動変速機として機能する変速部であり、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備えている。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
【0031】
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0032】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用有段式自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0033】
以上のように構成された動力伝達装置10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、動力伝達装置10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0034】
例えば、動力伝達装置10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
【0035】
しかし、動力伝達装置10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
【0036】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Nを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0037】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0038】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(差動部サンギヤS0)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0039】
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、車速Vに拘束される差動部リングギヤR0の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇或いは下降させられる。また、切換クラッチC0の係合により差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度Nと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合によって差動部サンギヤS0の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度Nよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0040】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0041】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度Nと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度Nよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
【0042】
図4は、本発明に係る動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0043】
電子制御装置40には、図4に示す各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPを示す信号、シフトポジションPSHを表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」という)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」という)を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル41の操作量(アクセル開度)Accを示すアクセル開度信号、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各車輪の車輪速を示す車輪速信号、エンジン8の空燃比A/Fを示す信号などが、それぞれ供給される。
【0044】
また、上記電子制御装置40からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置43(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管95に備えられた電子スロットル弁96の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ97への駆動信号や燃料噴射装置98によるエンジン8の各気筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置99によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42(図6参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0045】
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置48の一例を示す図である。このシフト操作装置48は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー49を備えている。
【0046】
そのシフトレバー49は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0047】
上記シフトレバー49の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路42が電気的に切り換えられる。
【0048】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0049】
具体的には、シフトレバー49が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー49が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー49が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー49が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0050】
図6は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段54は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された図7の実線および一点鎖線に示す関係(変速線図、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の変速を実行する。このとき、有段変速制御手段54は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を除いた油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令)を油圧制御回路42へ出力する。なお、アクセル開度Accと自動変速部20の要求出力トルクTOUT(図7の縦軸)とはアクセル開度Accが大きくなるほどそれに応じて上記要求出力トルクTOUTも大きくなる対応関係にあることから、図7の変速線図の縦軸はアクセル開度Accであっても差し支えない。
【0051】
ハイブリッド制御手段52は、動力伝達装置10の前記無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセルペダル操作量(アクセル開度)Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NとエンジントルクTとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0052】
ハイブリッド制御手段52は、動力伝達装置10の前記無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセルペダル操作量(アクセル開度)Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NとエンジントルクTとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0053】
ハイブリッド制御手段52は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Nと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、例えば図8に示すようなエンジン回転速度Nとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Tとをパラメータとする二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に定められたエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線LEF(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線LEFにエンジン8の動作点PEG(以下、「エンジン動作点PEG」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTとエンジン回転速度Nとなるように動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点PEGとは、エンジン回転速度N及びエンジントルクTなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。
【0054】
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0055】
ハイブリッド制御手段52は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置43に出力して必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、ハイブリッド制御手段52は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度信号Accに基づいてスロットルアクチュエータ97を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
【0056】
前記図7の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図7に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段56に予め記憶されている。
【0057】
そして、ハイブリッド制御手段52は、例えば図7の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT時すなわち低エンジントルクT時、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0058】
ハイブリッド制御手段52は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御例えば空転させて、差動部11の差動作用によりエンジン回転速度Nを零乃至略零に維持する。
【0059】
ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン8の作動状態を運転状態と停止状態との間で切り換える、すなわちエンジン8の始動および停止を行うエンジン始動停止制御手段66を備えている。このエンジン始動停止制御手段66は、ハイブリッド制御手段52により例えば図7の駆動力源切換線図から車両状態に基づいてモータ走行とエンジン走行と切換えが判断された場合に、エンジン8の始動または停止を実行する。
【0060】
例えば、エンジン始動停止制御手段66は、図7の実線Bの点a→点bに示すように、アクセルペダル41が踏込操作されて要求出力トルクTOUTが大きくなり車両状態がモータ走行領域からエンジン走行領域へ変化した場合には、第1電動機M1に通電して第1電動機回転速度NM1を引き上げることで、すなわち第1電動機M1をスタータとして機能させることで、エンジン回転速度Nを引き上げ、所定のエンジン回転速度N’例えば自律回転可能なエンジン回転速度Nで点火装置99により点火させるようにエンジン8の始動を行って、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行からエンジン走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段66は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き上げることでエンジン回転速度Nを速やかに所定のエンジン回転速度N’まで引き上げてもよい。これにより、良く知られたアイドル回転速度NEIDL以下のエンジン回転速度領域における共振領域を速やかに通過できて始動時の振動が抑制される。
【0061】
また、エンジン始動停止制御手段66は、図7の実線Bの点b→点aに示すように、アクセルペダル41が戻されて要求出力トルクTOUTが小さくなり車両状態がエンジン走行領域からモータ走行領域へ変化した場合には、燃料噴射装置98により燃料供給を停止させるように、すなわちフューエルカットによりエンジン8の停止を行って、ハイブリッド制御手段52によるエンジン走行からモータ走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段66は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き下げることでエンジン回転速度Nを速やかに零乃至略零まで引き下げてもよい。これにより、上記共振領域を速やかに回避できて停止時の振動が抑制される。或いは、エンジン始動停止制御手段66は、フューエルカットより先に、第1電動機回転速度NM1を引き下げてエンジン回転速度Nを引き下げ、所定のエンジン回転速度N’でフューエルカットするようにエンジン8の停止を行ってもよい。
【0062】
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置60からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動してエンジン8の動力を補助するトルクアシストが可能である。よって、本実施例ではエンジン8と第2電動機M2との両方を走行用の駆動力源とする車両の走行はモータ走行ではなくエンジン走行に含まれるものとする。
【0063】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止状態又は低車速状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の運転状態を維持させることができる。例えば、車両停止時に蓄電装置60の充電残量SOCが低下して第1電動機M1による発電が必要となった場合には、エンジン8の動力により第1電動機M1が発電させられてその第1電動機M1の回転速度が引き上げられ、車速Vで一意的に決められる第2電動機回転速度NM2が車両停止状態により零(略零)となっても動力分配機構16の差動作用によってエンジン回転速度Nが自律回転可能な回転速度以上に維持される。
【0064】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度Nを任意の回転速度に維持させられる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52はエンジン回転速度Nを引き上げる場合には、車速Vに拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。
【0065】
増速側ギヤ段判定手段62は、動力伝達装置10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて記憶手段56に予め記憶された前記図7に示す変速線図に従って動力伝達装置10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
【0066】
切換制御手段50は、車両状態に基づいて前記差動制限装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記非差動状態(ロック状態)とを選択的に切り換える。例えば、切換制御手段50は、記憶手段56に予め記憶された前記図7の破線および二点鎖線に示す関係(切換線図、切換マップ)から車速Vおよび要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、動力伝達装置10(差動部11)の変速状態を切り換えるべきか否かを判断して、すなわち動力伝達装置10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは動力伝達装置10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定することにより動力伝達装置10の切り換えるべき変速状態を判断して、動力伝達装置10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える変速状態の切換えを実行する。
【0067】
具体的には、切換制御手段50は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された有段変速時の変速を許可する。このときの有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速を実行する。例えば記憶手段56に予め記憶された図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、動力伝達装置10全体すなわち差動部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
【0068】
例えば、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段が判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。このように、切換制御手段50によって動力伝達装置10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、動力伝達装置10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
【0069】
しかし、切換制御手段50は、動力伝達装置10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、動力伝達装置10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶手段56に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段54により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0070】
ここで前記図7について詳述すると、図7は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段56に予め記憶された関係(変速線図、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図7の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。
【0071】
また、図7の破線は切換制御手段50による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1および判定出力トルクT1を示している。つまり、図7の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図7の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図7は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして記憶手段56に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
【0072】
上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。この場合には、切換制御手段50は、車両状態例えば実際の車速が判定車速V1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。また、切換制御手段50は、車両状態例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。
【0073】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクT、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度Nとに基づいて算出されるエンジントルクTなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクT、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
【0074】
また、例えば判定車速V1は、高速走行において動力伝達装置10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において動力伝達装置10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されている。
【0075】
図7の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。
【0076】
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、動力伝達装置10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上する。また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度Nの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度Nの変化が楽しめる。
【0077】
このように、本実施例の差動部11(動力伝達装置10)は無段変速状態と有段変速状態(定変速状態)とに選択的に切換え可能であって、前記切換制御手段50により車両状態に基づいて差動部11の切り換えるべき変速状態が判断され、差動部11が無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。また、本実施例では、ハイブリッド制御手段52により車両状態に基づいてモータ走行或いはエンジン走行が実行されるが、このエンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン始動停止制御手段66によりエンジン8の始動または停止が行われる。
【0078】
また、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、低温による機能低下が発生することにより、差動作用が正常に作動できなくなると、無段制御領域(差動運転領域)であっても車両走行を確保するために、差動制限手段70は、差動部11の切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれか一方を係合させることで、差動部11の差動を制限する、すなわち非差動状態に切り換える。このようにすることで、差動部11の変速比γ0が固定された有段変速状態として機能し、差動部11の電気部(電動機など)やその制御系がフェール(故障)しても車両の走行が可能となる。
【0079】
ところで、差動制限手段70によって差動部11を非差動状態に切り換えるに際して、通常では実施されない走行領域で非作動状態への差動切換が実施されるため、切換時に駆動輪38に伝達される駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が発生し、運転者に違和感を与える可能性があった。これに対し、差動部11の非差動状態への切換に際して、切換時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減する制御を実施することで、運転者に与える違和感を低減する。以下、上記制御について詳細に説明する。
【0080】
図6に戻り、フェール判定手段72は、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の故障や機能低下、すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や機能低下が発生したか否かを判定する。フェール判定手段72は、例えば、回転速度指令値に対する実際の第1電動機回転速度NM1および第2電動機回転速度NM2の比較、差動走行中に適宜実施される通電テスト、或いは電動機温度など様々なフェール検出手段に基づいてフェールや機能低下を判定する。
【0081】
駆動状態判定手段74は、動力伝達状態がエンジン8側から駆動輪38に動力が伝達される駆動状態(走行状態)であるか否かを判定する。駆動状態判定手段74は、例えばアクセル開度Acc(%)(またはスロットル弁開度θTH)を検出し、アクセル開度Acc(スロットル弁開度θTH)が零を越えるとき、駆動状態であると判定する。或いは、エンジントルクTEを検出し、予め設定されたロードマップに基づいて駆動状態か否かを判定することもできる。なお、駆動状態判定手段74が否定される状態とは、駆動輪38側から動力が伝達される被駆動状態であり、例えばエンジンブレーキ状態などがその一例となる。
【0082】
差動制限可否判定手段76は、差動部11を非差動状態とする際に係合させる差動制限装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)が使用可能か否かを判定する。差動制限手段70は、通常、差動状態で走行される運転領域において、差動を制限させるため、場合によっては差動制限装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)のトルク容量不足により差動制限装置で滑りが発生し、差動制限装置の耐久性が低下する可能性がある。例えば、本実施例の切換ブレーキB0は、切換クラッチC0に比べて定格的なトルク容量が低く設計されており、切換ブレーキ係合の際、切換ブレーキB0のトルク容量不足に起因して滑りが発生し、切換ブレーキB0の耐久性が低下する可能性が生じる。差動制限可否判定手段76は、上記状態を回避するため、車両のスロットル弁開度θTH、車速V、および自動変速部20の変速比などに基づいて、選択された差動制限装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)がトルク容量等を考慮して使用可能か否かを判定する。また、差動制限可否判定手段76は、選択された差動制限装置が故障しているか否かに基づいて、その使用を判定することも含むものとする。
【0083】
差動制限手段70は、上記駆動状態判定手段74および差動制限可否判定手段76に基づいて、差動部11を非差動状態に切り換えるに際して、好適な固定変速比を有する側の差動制限装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)を選択し、その差動制限装置を作動(係合)させる。ここで、切換ブレーキB0または切換クラッチC0の係合により差動部11を非差動状態とするに際して、切換ブレーキB0または切換クラッチC0の何れかのうち、係合された場合の駆動トルクが、差動部11が正常に作動できる場合の駆動トルクに対して変化が少ない方の差動制限装置が係合される。なお、変化に相違がない場合は、切換ブレーキB0が係合されるのが好ましい。また、差動制限可否判定手段76によって切換ブレーキB0の係合がトルク容量を考慮して実施不能と判断される場合、差動制限手段70は、非差動状態への切換時に切換クラッチC0を係合させる。
【0084】
図9は、差動制限手段70が実施された際の動力伝達装置10の作動状態を説明するタイムチャートである。なお、図9においては、車両駆動状態において、切換クラッチC0(破線)、並びに切換ブレーキB0(実線)が係合された場合の2つの例が示されている。図9に示すように、t1時点において、フェール判定手段74によってフェール(故障)が判定されると、t2時点において、差動部11の差動制御を停止させるため、第1電動機M1および第2電動機M2のトルク制御が停止される。これと略同時に、切換クラッチC0もしくは切換ブレーキB0の係合が開始される。まず、切換クラッチC0が係合される場合について説明すると、t2時点〜t3時点において、エンジン8にかかる負荷が低減されるため、破線に示すようにエンジン回転速度Nが上昇する。また、第1電動機M1および第2電動機M2の停止に伴って、エンジン8のエンジントルクTが駆動輪38へ伝達されないので、破線に示すように駆動トルク(タイヤ軸トルク)が零となる(t2時点〜t3時点)。そして、t3時点において切換クラッチC0の係合油圧(C0油圧)が増圧されると、差動部11が動力伝達可能状態となるため、t3時点〜t4時点において、駆動トルク(タイヤ軸トルク)が増加し、破線に示すように、差動走行時(t1時点以前)の駆動トルク(タイヤ軸トルク)よりも大きくなる。次に、切換ブレーキB0が係合される場合について説明すると、実線で示すように、t2時点〜t3時点において切換ブレーキB0が半係合される。これに伴い、エンジン回転速度Nが引き下げられると共に、駆動トルク(タイヤ軸トルク)も同様に引き下げられる。そして、t3時点〜t4時点において、駆動トルク(タイヤ軸トルク)が差動走行時(t1時点以前)よりも小さくなる。したがって、図9においては、切換クラッチC0の係合では駆動トルク(タイヤ軸トルク)が増加するため、差動制限手段70は、通常、駆動トルクの増加が低減される側の固定変速比を有する切換ブレーキB0を選択して係合させることで、駆動トルクを低減させる。
【0085】
図10は、差動制限手段70が実施された際における動力伝達装置10の作動状態を説明する他のタイムチャートである。なお、図10においては、車両被駆動状態(例えばエンジンブレーキ状態)において、切換クラッチC0(破線)、並びに切換ブレーキB0(実線)が係合された場合の2つの例が示されている。図10に示すように、t1時点においてフェール判定手段74によってフェールが判定されると、t2時点において差動部11の差動制御を停止させるため、第1電動機M1および第2電動機M2のトルク制御が停止される。これと略同時に、切換クラッチC0もしくは切換ブレーキB0の係合が開始される。まず、切換クラッチC0が係合される場合について説明すると、t2時点〜t4時点において、切換クラッチC0が半係合されることで、エンジン回転速度Nが引き上げられる。このとき、破線で示すように、駆動輪38のタイヤ軸トルクが負の方向に大きくなる、すなわち被駆動トルクが大きくなる。次に、切換ブレーキB0が係合される場合について説明すると、実線で示すように、t2時点〜t3時点において、エンジン8がフューエルカット状態であるので、エンジン回転速度Nが低下する。また、t2時点〜t3時点において、差動部11において動力伝達が為されないので、実線に示すように駆動トルク(タイヤ軸トルク)が零となる。そして、t3時点において、切換ブレーキB0の係合油圧(B0油圧)が増圧されることで、駆動トルク(タイヤ軸トルク)が実線に示すようにt1時点以前のタイヤ軸トルクに比べて正の方向に大きくなる、すなわち被駆動トルクが減少する。したがって、図10において、切換クラッチC0の係合では、被駆動トルクが増加するため、差動制限手段70は、通常、被駆動トルクの増加が低減される側の固定変速比を有する切換ブレーキB0を選択して係合させることで、被駆動トルクを低減させる。
【0086】
ところで、図9および図10において、上述したように切換ブレーキB0が係合されるべきであるが、例えば差動制限可否判定手段76によって切換ブレーキB0の使用が禁止されると、切換クラッチC0を係合させることとなる。切換クラッチC0が係合されると、図9および図10に示すように、駆動輪38に伝達される駆動トルクの増加、および被駆動トルク(逆駆動トルク)の増加が大きくなるため、運転者に与える違和感が大きくなってしまう。また、切換ブレーキB0が係合される場合であっても、車両の走行状態によっては駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が発生し、運転者に違和感を与えることがある。
【0087】
これに対して、エンジン出力変更手段78は、差動部11の非差動状態への切換制御に併せてエンジントルクTを変更することで、駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減する。図11は、図9と同様の車両駆動状態で切換クラッチC0が係合される際に、エンジントルクTを低減させることで、駆動トルクの増加が低減される状態を示すタイムチャートである。t1時点において電動機(M1、M2)やその制御系のフェール(故障)が検出されると、t2時点において第1電動機M1および第2電動機M2のトルク制御が停止され、エンジン8の駆動力が駆動輪38へ伝達されなくなることから、t2時点〜t3時点において駆動トルク(タイヤ軸トルク)が零となる。そして、t3時点において切換クラッチC0の係合油圧(C0油圧)が増圧されると、通常では、破線に示すように駆動トルク(タイヤ軸トルク)が増加するが、t3時点において、エンジン出力変更手段78が実施されてエンジントルクTが低減されるので、駆動トルク(タイヤ軸トルク)が実線で示すように低減され、t1時点以前の駆動トルクと同様のトルクとなる。なお、エンジントルクTEの低減は、例えば、エンジン8の遅角制御やスロットル弁開度θTHの抑制、或いは、燃料噴射量の低減等によって実施され、車両の走行状態に応じてその低減量が好適に制御される。具体的には、スロットル弁開度θTH、車速V、および自動変速部20の変速比等に応じてトルク低減量が適宜変更される。また、車両が被駆動状態(例えばエンジンブレーキ状態)であるとき、差動制限装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)が係合されると、被駆動トルクが増加する場合もある。そのようなとき、エンジン出力変更手段78は、エンジン8を駆動させて被駆動トルクを低減することもある。
【0088】
また、変速比変更手段80は、差動部11の非差動状態への切換制御に併せて自動変速部20の変速比を駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減する側に変更する。具体的には、自動変速部20をアップシフトさせることで駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減させる。図12は、図10と同様の車両被駆動状態で切換クラッチC0が係合される際、自動変速部20をアップシフトさせることで被駆動トルク(逆駆動トルク)の増加を低減する状態を示すタイムチャートである。t1時点において、電動機やその制御系のフェール(故障)が検出されると、t2時点において第1電動機M1および第2電動機M2のトルク制御が停止される。また、切換クラッチC0が半係合されることで、t2時点〜t3時点において、駆動輪38の駆動トルク(タイヤ軸トルク)が負の方向に大きくなり、t3時点以降において、通常では、破線に示すように、タイヤ軸トルクが負の方向に大きくなる、すなわち被駆動トルクが大きくなる。これに対して、変速比変更手段80は、t3時点において、自動変速部20を第3速ギヤ段から第4速ギヤ段へアップシフトさせることで、実線に示すように、タイヤ軸トルクの負の方向への増加、すなわち被駆動トルクの増加が低減される。
【0089】
図13は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわち車両走行中に電動機(M1、M2)もしくはそれらを制御する制御系に故障がフェール(故障)が検出されて差動部11を非作動状態に切り換えるに際して、切換時の駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0090】
先ず、フェール判定手段72に対応するステップSA1(以下、ステップを省略)において、差動部11の差動状態を制御する第1電動機M1および第2電動機M2をはじめとする電気系統にフェール(故障)が生じたか否かが判定される。SA1が否定されると、差動部11の差動制御が継続されて本ルーチンは終了させられる。SA1が肯定されると、駆動状態判定手段74に対応するSA2において、車両の走行状態がエンジン8から動力が伝達される駆動状態であるか否かが判定される。
【0091】
SA2が肯定される、すなわち車両駆動状態であると判定されると、差動制限手段70に対応するSA3において、非差動状態への切換時に駆動トルク増加のない側の差動制限装置(ロック装置)が選択される。そして、差動制限可否判定手段76に対応するSA4において、選択された差動制限装置(ロック装置:切換クラッチC0および切換ブレーキB0)が使用可能か否かが判定される。例えば、SA3で選択された差動制限装置が切換ブレーキB0であれば、切換ブレーキB0が係合された際に切換ブレーキB0のトルク容量不足によって滑りが発生すると判定(予測)されると、SA4が否定されて、差動制限手段70に対応するSA7において、他方の差動制限装置である切換クラッチC0が選択される。また、SA4が肯定される場合、予め選択された差動制限装置が選択される。
【0092】
そして、エンジン出力変更手段78および変速比変更手段80に対応するSA5において、エンジントルクTの低減および自動変速部20のアップシフトが適宜実施され、駆動トルクの増加が低減される。そして、SA5と略同時に差動制限手段70に対応するSA6において、選択された差動制限装置の係合(ロック切換)が実施されることで、駆動トルクの増加が低減される。
【0093】
SA2にもどり、SA2が否定される、すなわち駆動輪38側から動力が伝達される被駆動状態と判定されると、差動制限手段70に対応するSA8において、非差動状態への切換時に被駆動トルク増加の少ない側の差動制限装置(ロック装置)が選択される。そして、差動制限可否判定手段76に対応するSA9において、SA4と同様に選択された差動制限装置が使用可能か否かが判定される。SA9が否定されると、差動制限手段70に対応するSA12において、他方の差動制限装置が選択される。
【0094】
そして、エンジン出力変更手段78および変速比変更手段80に対応するSA10において、エンジントルクTの変更および自動変速20のアップシフトが適宜実施され、被駆動トルクの増加が低減される。なお、通常、被駆動状態では、通常エンジン8は停止状態(フューエルカット状態)にあるが、エンジン8を駆動させることにより、被駆動トルクの増加を低減する場合もある。そして、SA10と略同時に差動制限手段70に対応するSA11において、選択された差動制限装置の係合(ロック切換)が実施されることで、被駆動トルクの増加が低減される。
【0095】
上述のように、本実施例によれば、差動部11を非差動状態に切り換えるに際して、切換時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減する側に自動変速部20の変速比を変更する変速比変更手段80を備えるため、例えば、通常では差動部11の切換時に駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が発生しやすい運転領域であっても、上記トルク増加が低減され、運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0096】
また、本実施例によれば、差動制限手段70は、差動部11を非差動状態に切り換えるに際して、差動部11を駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が低減される側の固定変速比に切り換えるため、差動部11の切換時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が低減される。
【0097】
また、本実施例によれば、差動部11を非差動状態に切り換えるに際して、駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が低減されるようにエンジントルクTを変更するエンジン出力変更手段78を備えるため、差動部11の非差動状態への切換時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加をエンジン8のトルク制御によっても低減することができる。
【0098】
また、本実施例によれば、自動変速部20は自動変速されるため、車両の走行状態に応じた変速段に適宜変速され、好適な駆動力を得ることができる。
【0099】
また、本実施例によれば、自動変速部20は、複数個の変速比を有する有段変速部であるため、車両の走行状態に応じて複数個の変速比のうちから最適な変速比に変速され、好適な駆動力を得ることができる。また、差動部11の非差動状態への切換時においても、好適な変速比に変速されることで、駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減することができる。
【0100】
また、本実施例によれば、差動部11は、差動部遊星歯車装置24と第1電動機M1および第2電動機M2で構成される電気的な無段変速部であるため、変速比が車両走行状態に応じて無段階的に変更され、最適な駆動力を得ることができる。
【0101】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0102】
例えば、前述の実施例では、車両駆動状態では、エンジン出力変更手段78が実施され、車両被駆動状態では、変速比変更手段80が実施されているが、上記実施例は、一例であって、例えば車両駆動状態において変速比変更手段80を実施して、駆動トルクの増加を低減しても構わない。また、車両被駆動状態であっても、エンジン出力変更手段78を実施することで、被駆動トルクの増加を低減することもできる。
【0103】
また、前述の実施例では、差動部11の非差動状態への切換時において、エンジン出力変更手段78または変速比変更手段80のいずれか一方が実施されていたが、特にいずれか一方に限定されるものではなく、両方の制御を同時に実施しても構わない。
【0104】
また、前述の実施例では、切換クラッチC0が選択される場合にエンジン出力変更手段78もしくは変速比変更手段80が実施されているが、切換ブレーキB0が係合される場合であっても、エンジン出力変更手段78および変速比変更手段80を適用しても構わない。
【0105】
また、前述の実施例において、差動部11が差動状態での動作中に正常に作動できなくなった場合に切換ブレーキB0または切換クラッチC0の係合により差動部11を非差動状態とするに際して、切換ブレーキB0または切換クラッチC0のトルク容量応じてエンジン8の出力トルクTあるいはエンジンブレーキトルクを低減する制御を併せて実施しても構わない。
【0106】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。3段以上の変速機として機能すると、非差動状態への切換に際して選択の幅が広がり、駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加をさらに効果的に低減することが可能となる。
【0107】
また、前述の実施例においては、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0108】
また、前述の実施例の動力伝達装置10においてエンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0109】
また、前述の実施例の動力伝達装置10において第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0110】
また前述の実施例では、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20が連結されているが、自動変速部20の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成するように設けられていればよい。
【0111】
また、前述の実施例の図1によれば、差動部11と自動変速部20は直列に連結されているが、動力伝達装置10全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0112】
また、前述の実施例において動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0113】
また前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪38への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2つの遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0114】
また前述の実施例においては、自動変速部20は有段の自動変速機として機能する変速部であるが、無段のCVTであってもよい。
【0115】
また、前述の実施例における切換クラッチC0及び切換ブレーキB0等の油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチ等の磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
【0116】
また前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0117】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0118】
また、前述の実施例においてエンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0119】
また、前述の実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0120】
また、前述の実施例において自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、たとえば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0121】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪38までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
【0122】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の制御装置が適用されるハイブリッド車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1のハイブリッド車両用駆動装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1のハイブリッド車両用駆動装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1のハイブリッド車両用駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1のハイブリッド車両用駆動装置において、車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、動力伝達装置の変速状態の切換判断の基となる予め記憶された切換線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】図1のエンジンの最適燃費率曲線を表す図である。
【図9】差動制限手段が実施された際の動力伝達装置の作動状態を説明するタイムチャートである。
【図10】差動制限手段が実施された際における動力伝達装置の作動状態を説明する他のタイムチャートである。
【図11】図9と同様の車両駆動状態で切換クラッチが係合される際に、エンジントルクを低減させることで、駆動トルクの増加が低減される状態を示すタイムチャートである。
【図12】図10と同様の車両被駆動状態で切換クラッチが係合される際、自動変速部をアップシフトさせることで被駆動トルク(逆駆動トルク)の増加を低減する状態を示すタイムチャートである。
【図13】電子制御装置の制御作動の要部すなわち車両走行中に電動機もしくはそれらを制御する制御系に故障がフェール(故障)が検出されて差動部を非作動状態に切り換えるに際して、切換時の駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減する制御作動を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0124】
8:エンジン
10:車両用動力伝達装置
11:差動部(電気式差動部)
20:自動変速部(変速部)
38:駆動輪
70:差動制限手段
78:エンジン出力変更手段
80:変速比変更手段
C0:切換クラッチ(差動制限装置)
B0:切換ブレーキ(差動制限装置)
M1:第1電動機(電動機)
M2:第2電動機(電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと駆動輪との間に連結された差動機構と、該差動機構に動力伝達可能に連結された電動機とを有し、該電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、該電気式差動部の差動状態を非差動状態に切換可能な差動制限装置と、動力伝達経路の一部を構成する変速部とを、備えた車両用動力伝達装置であって、
前記電気式差動部が差動状態での動作中に正常に作動できなくなると、前記差動制限装置により該電気式差動部を非差動状態に切り換える差動制限手段と、
前記電気式差動部を非差動状態に切り換えるに際して、切換時に発生する駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加を低減する側に前記変速部の変速比を変更する変速比変更手段とを、備えることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記電気式差動部は、非差動状態に切り換えるに際して複数個の固定変速比に切換可能であり、
前記差動制限手段は、電気式差動部を非差動状態に切り換えるに際して、該電気式差動部を駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が低減される側の固定変速比に切り換えることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記電気式差動部を非差動状態に切り換えるに際して、駆動トルクの増加、または被駆動トルクの増加が低減されるようにエンジントルクを変更するエンジン出力変更手段を備えることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記変速部は、自動変速されることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記変速部は、複数個の変速比を有する有段変速部であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記電気式差動部は、差動ギヤと2つの電動機で構成される電気的な無段変速部であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−70170(P2010−70170A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243038(P2008−243038)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】