説明

車両用変速機制御装置

【課題】円滑で確実な発進を確保しつつ、車両発進時にDCTの1つのクラッチにかかる負荷を低減し、クラッチの小型化及び低容量化することのできる車両用変速機制御装置を提供すること。
【解決手段】車両発進時に、発進用変速段(第2速)を有する第2歯車機構8bに対応する第2クラッチ4bを半クラッチ状態とするとともに、発進補助用変速段(第3速)を有する第1歯車機構8aに対応する第1クラッチ4aも半クラッチ状態とし、入力軸6と出力軸10との回転数差が所定範囲内になったときに第1クラッチ4aを切断し、第2クラッチ4bを接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機制御装置に係り、詳しくは2系統のクラッチ及び歯車機構を有するいわゆるデュアルクラッチトランスミッション(DCT)を備えた車両の発進時における変速機制御に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の変速機として、2系統のクラッチ及び歯車機構により構成されたいわゆるデュアルクラッチトランスミッション(以下DCTともいう)が知られている。
例えば、DCTは、一方のクラッチに1、3、5速の奇数段の変速ギヤを有した歯車機構が連結され、他方のクラッチに2、4、6速の偶数段の変速ギヤを有した歯車機構が連結されている。それぞれの系統には、複数ある変速段のうちの一つを選択可能なシンクロ機構が設けられており、当該シンクロ機構により変速段を選択した上で2つのクラッチを交互に切り換えることで変速を行う。この変速は、一方の系統のクラッチが接続されているときに、他方の系統において次の変速ギヤにシンクロ機構を噛合させて準備しておき、変速時には一方のクラッチを切断するとともに他方のクラッチを接続させることで行う。
【0003】
当該DCTを備えた車両の発進については、一般には、発進前の停車時に第1速及び第2速にシンクロ機構を噛合させておき、車両が停車している状態から駆動輪が回転し始めるまでの発進初期時においては、第1速に対応する第1クラッチを接続させていき、車速が所定値以上となった時点から第2速に対応する第2クラッチを接続させていくとともに、第1クラッチを切断させていく(特許文献1、特に段落0055、図9等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−75727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、車両の停車状態から駆動輪を回転させるまでの車両の発進初期時は、クラッチへの負担が最も大きく、上記特許文献1に開示された技術のように、発進初期時において第1クラッチのみを接続する構成であると、発進時の負荷に対応するために当該第1クラッチは比較的大きなサイズ及び容量が必要となる。つまり、発進時に用いるクラッチには、車両発進初期に要する発進負荷に対応したクラッチ吸収エネルギーが必要であり、当該クラッチは車両重量、登坂勾配、車両加速度等を考慮して設計される。
【0006】
特に乗用車に比べて大型で積載量の大きいトラック等の商用車等では、最大積載状態で登坂路を発進する条件等を考慮して円滑で確実な発進が行えるよう十分なクラッチ吸収エネルギーを得られる設計がされるため、クラッチの大型で多数のクラッチ板を有した構成となる。そして、DCTは発進時に使用するクラッチに加え、もう1つのクラッチを備えることから、さらに大型化する。
【0007】
このように、クラッチの大型化すれば車両重量の増加や、変速機等のレイアウトの複雑化等の問題を招き、クラッチ板が多くなれば引き摺り抵抗が増加しエネルギー損失が増加するため燃費が悪化する等の問題も生じる。
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、円滑で確実な発進を確保しつつ、車両発進時にDCTの1つのクラッチにかかる負荷を低減し、クラッチの小型化及び低容量化することのできる車両用変速機制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1の車両用変速機制御装置では、入力軸を介して動力源と接続されており、前記動力源からの駆動力を接続する接続位置と前記動力源からの駆動力を切断する切断位置との間を移動することにより前記動力源からの駆動力を断接可能な第1クラッチ及び第2クラッチと、前記第1クラッチの出力側と接続され、複数の変速段のうち1つを選択可能な第1歯車機構と、前記第2クラッチの出力側と接続され、複数の変速段のうち1つを選択可能な第2歯車機構と、前記第1歯車機構及び前記第2歯車機構から出力される駆動力を車両の駆動輪へと伝達する出力軸と、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、前記第1歯車機構、及び前記第2歯車機構を制御する制御手段と、を有する車両用変速機制御装置であって、前記第1歯車機構及び前記第2歯車機構のうちの一方に発進変速段を有し、他方に発進補助用変速段を有しており、前記制御手段は、前記車両が停車している状態から発進する際に、まず前記第1クラッチ及び第2クラッチの両方を半クラッチ状態とし、前記入力軸と前記出力軸との回転数差が所定範囲内となったときに、前記第1クラッチ及び第2クラッチのうち前記発進補助用変速段を有する歯車機構に対応したクラッチを切断し、前記発進変速段を有する歯車機構に対応したクラッチを接続することを特徴としている。
【0009】
請求項2の車両用変速機制御装置では、請求項1において、前記発進補助用変速段は前記発進変速段に対し1段高速側の変速段であることを特徴としている。
請求項3の車両用変速機制御装置では、請求項1において、前記発進補助用変速段は前記発進変速段に対し1段低速側の変速段であることを特徴としている。
請求項4の車両用変速機制御装置では、請求項1から3のいずれかにおいて、車両を発進させるのに要する負荷を算出する発進負荷算出手段を有し、前記発進負荷算出手段により算出される発進負荷が所定閾値より小である場合は、車両発進時に、前記発進変速段を有する歯車機構に対応したクラッチのみを用いた発進を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記手段を用いる本発明の請求項1の車両用変速機制御装置によれば、第1歯車機構に対応した第1クラッチ、及び第2歯車機構に対応した第2クラッチの2系統からなるクラッチを備えた車両用変速機(DCT)において、第1歯車機構及び前記第2歯車機構のうちの一方に発進変速段を有し、他方に発進補助用変速段を有している。そして、当該DCTを制御する制御手段は、車両発進の際、まず第1クラッチ及び第2クラッチの両クラッチを半クラッチ状態とし、その後当該DCTにおける入力軸と出力軸との回転数差が所定範囲内となったときに、発進補助用変速段を有する歯車機構に対応したクラッチを切断し、発進変速段を有する歯車機構に対応したクラッチを接続することで車両の発進を行う。
【0011】
このように、クラッチへの負荷が最も大きくなる車両の停車状態から駆動輪を回転させるまでの車両の発進初期において、DCTが備える2つのクラッチを両方半クラッチとして駆動力伝達に利用することで、車両の発進負荷に対するクラッチの吸収エネルギーが分散される。
これにより、1つのクラッチに必要な吸収エネルギーを低減することができ、当該クラッチの小型化及び低容量化を図ることができる。特に当該クラッチが湿式多板クラッチである場合には、クラッチ板の枚数を減少させることができ、クラッチ板の枚数を減少させることで、引き摺り抵抗が減少してエネルギー損失を低減することができ、燃費性能等を向上させることができる。
【0012】
一方で、そのまま2つのクラッチを接続位置まで移動させれば、低速変速段と高速変速段とでロックが生じDCTが損傷するおそれがあるのに対し、DCTにおける入力軸と出力軸との回転数差が所定範囲内となったときに、発進補助用変速段側のクラッチを切断することで適切なタイミングでロックを解消することができ、円滑で確実な発進を確保することができる。
【0013】
以上のようにして、円滑で確実な発進を確保しつつ、車両発進時にDCTの1つのクラッチにかかる負荷を低減し、クラッチの小型化及び低容量化することができる。これにより、車両の軽量化、レイアウトの簡易化、燃費改善等を図ることができる。
請求項2の車両用変速機制御装置によれば、発進補助用変速段は発進変速段に対し1段高速側の変速段とする。つまり、発進変速段での発進完了後の次の変速段がそのまま発進補助用変速段となる。
【0014】
これにより、請求項1の効果に加え、両クラッチでの発進から発進補助用変速段側のクラッチを切断した後も特に変速段の変更をすることなく、クラッチの切換のみの円滑な変速を行うことができる。
請求項3の車両用変速機制御装置によれば、発進補助用変速段は発進変速段に対し1段低速側の変速段とする。つまり、両クラッチでの発進が、発進変速段よりも高トルクな発進補助用変速段も用いたものとなり、クラッチの吸収エネルギーがより有効に分散されることとなる。これにより、請求項1の効果をより向上させることができる。
【0015】
請求項4の車両用変速機制御装置によれば、発進負荷算出手段により、車両を発進させるのに要する負荷を算出し、当該発進負荷が所定閾値より小である場合は、車両発進時に、発進変速段を有する歯車機構に対応したクラッチのみの発進を行うこととする。つまり、平地等で発進負荷が低い場合には、発進変速段側のクラッチのみでの発進を行う。これにより、車両の状態に応じた適切な発進を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用変速機制御装置を、駆動力の伝達経路を表すブロック図の形で示す全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る車両用変速機制御装置における車両ECUが実行する車両発進制御ルーチンを表したフローチャートである。
【図3】本発明の第2実施形態に係る車両用変速機制御装置における車両ECUが実行する車両発進制御ルーチンを表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
まず第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両用変速機制御装置を備えた車両について駆動力の伝達経路を表すブロック図の形で示す全体構成図である。
図1に示すように車両1は、走行用の動力源であるエンジン2を搭載しており、エンジン2が出力する回転駆動力(以下、単に駆動力という)はクラッチユニット4に入力軸6を介して入力され、クラッチユニット4内で2系統に分岐される。クラッチユニット4は第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bの2つのクラッチを有しており、クラッチユニット4内で2系統に分岐されたエンジン2の駆動力の一方は第1クラッチ4aの入力側に伝達され、他方は第2クラッチ4bの入力側に伝達されるようになっている。
【0018】
変速機ユニット8は、第1クラッチ4aに対応して設けられ、前進用の変速段として第1速、第3速、及び第5速の各変速段を有した第1歯車機構8aと、第2クラッチ4bに対応して設けられ、前進用の変速段として第2速、第4速、及び第6速の各変速段を有した第2歯車機構8bとを備える。即ち、第1クラッチ4aの出力側は第1歯車機構8aの入力軸に連結され、第2クラッチ4bの出力側は第2歯車機構8bの入力軸に連結されている。当該第1歯車機構8a及び第2歯車機構8bには、図示しないシンクロ機構が設けられており、当該シンクロ機構によりそれぞれの歯車機構における複数の変速段のうち1つを選択可能である。
【0019】
第1歯車機構8aから出力される駆動力、及び第2歯車機構8bから出力される駆動力は、いずれも共通の出力軸10を介してデファレンシャル装置12に伝達され、左右の駆動輪14、14に割り振られるようになっている。したがって、クラッチユニット4及び変速機ユニット8により、いわゆるデュアルクラッチトランスミッション(DCT)16が構成されている。
【0020】
なお、当該変速機ユニット8は、第1速の変速段が最低速変速段となり、第6速の変速段が最高速変速段となっている。更に、図1の全体構成図では、車両後退用の歯車機構の図示を省略している。
車両1には、車両1に搭載された各種装置を制御する車両ECU(制御手段)18が設けられており、上記DCT16も当該車両ECU18により制御される。
【0021】
当該DCT16では、一般的な自動変速機の場合と同じく変速レンジとして、車両駐車時に選択するPレンジ、いずれの変速段も駆動力の伝達に使用しないNレンジ、車両後退時に選択するRレンジ、及び車両前進時に選択するDレンジが設けられている。車両ECU18は、運転者によって選択された変速レンジに応じ、クラッチユニット4が有する第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bの断接を制御するとともに、変速機ユニット8が有する第1歯車機構8a及び第2歯車機構8bの変速段を制御する。
【0022】
なお、本実施形態において、DCTの具体的構成、及び変速レンジがPレンジ、及びNレンジのいずれかにある場合のDCT自体の制御は、従来から知られているものと同様であるので、ここでは更なる説明を省略する。
また車両1には、上記入力軸6の回転数に基づきエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ20、上記出力軸10の回転数に基づき車速を検出する車速センサ22、車両1のアクセル踏込量に応じたアクセル開度を検出するアクセル開度センサ24、車両1に作用する加速度を検出するGセンサ26等の各種センサが設けられている。これら各種センサは車両ECU18と接続されており、当該各種センサからの検出情報や、エンジン2、クラッチユニット4、変速機ユニット8の駆動状態等は車両ECU18に入力される。
【0023】
当該第1実施形態の場合、DCT16が搭載されている車両1は大型トラックであって、平地における発進用変速段は、第2歯車機構8bが有する第2速の変速段が使用されるよう設定されている。一方で、当該第1実施形態では、上記発進用変速段よりも1段高速側である第1歯車機構8aが有する第3速の変速段を上記発進用変速段での発進を補助する発進補助用変速段として使用するよう設定されている。そして、車両ECU18は、車両1が停車状態から発進する際に、上記DCT16について車両発進制御を行う。
【0024】
以下、第1実施形態における車両発進制御について詳しく説明する。
当該第1実施形態における発進制御では、車両発進時に、発進用変速段(第2速)を有する第2歯車機構8bに対応する第2クラッチ4bを半クラッチ状態とするとともに、発進補助用変速段(第3速)を有する第1歯車機構8aに対応する第1クラッチ4aも半クラッチ状態とし、入力軸6と出力軸10との回転数差が所定範囲内になったときに第1クラッチ4aを切断し、第2クラッチ4bを接続する。
【0025】
詳しくは、図2に当該第1実施形態において車両ECUにより実行される車両発進制御ルーチンを表したフローチャートが示されており、以下当該フローチャートに沿って説明する。
図2のステップS1において、車両ECU18は、車両1が停止しているときに、第1歯車機構8aでは発進補助用変速段である第3速を選択し、第2歯車機構8bでは発進用変速段である第2速を選択する。さらに車両ECU18は、この車両停車時に車両重量、登坂勾配を算出する。これは例えば車両重量はGセンサ26より検出される車両走行中の加速度等から算出し、登坂勾配はエンジン2の駆動状態に対する車両加速度等から算出する。
【0026】
続くステップS2では、車両発進要求があるか否かを判定する。具体的には、変速レンジがDレンジまたはRレンジに入っており、且つアクセル開度センサ24の検出情報からアクセル踏込があったか否かにより判定する。車両発進要求がなく、当該判定結果が偽(No)である場合には、車両発進制御を行う必要はなく当該ルーチンを抜ける。一方、車両発進要求があり、当該判定結果が真(Yes)である場合には、次のステップS3に進む。
【0027】
ステップS3では、上記ステップS1で算出した車両重量及び登坂勾配と、上記ステップS2で検出したアクセル開度から車両1の発進に要する発進負荷を算出する。
そして、ステップS4において、算出された発進負荷が予め設定された所定負荷以上であるか否かを判定する。当該所定負荷は発進用変速段を有する第2歯車機構8bに対応した第2クラッチ4bのみを用いて発進可能な負荷の上限値である。当該判定結果が真(Yes)である場合、即ち積載量が多く車両重量が重い場合や勾配の急な登坂路での停車等で発進負荷が所定負荷以上であり、第2クラッチ4bのみでは車両1の発進が困難である場合は、ステップS5に進む。
【0028】
ステップS5では、発進用変速段を有する第2歯車機構8bに対応した第2クラッチ4b、及び発進補助用変速段を有する第1歯車機構8aに対応した第1クラッチ4aの両クラッチを徐々に接続位置へと移動させていき、エンジン2の駆動力が歯車機構へと伝達開始される、いわゆる半クラッチ状態とする。
そして、ステップS6では、上記エンジン回転数センサ20よりDCT16の入力軸6の回転数、及び上記車速センサ22よりDCT16の出力軸10の回転数をそれぞれ検出する。
【0029】
続くステップS7において、入力軸回転数と出力軸回転数との回転数差(入力軸回転数−出力軸回転数)が所定回転数未満であるか否かを判定する。なお、当該所定回転数は低速側の変速段(当該第1実施形態では第2速)のギヤ比から推定される最終回転数に基づき設定される。低速側の変速段に対応したクラッチが完全に接続位置となったときに出力される最終回転数より一定量低い回転数を閾値回転数として、当該所定回転数は、出力軸回転数が当該閾値回転数よりも最終回転数に近いか否かを判定する値に設定される。
【0030】
当該判定結果が偽(No)である場合、即ちDCT16の入力軸6と出力軸10との回転数差が所定回転数の範囲内に達しておらず、両クラッチの移動量にまだ余裕がある場合は、ステップS5に戻り、さらに第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bを接続位置へと移動させ、ステップS6において入力軸6及び出力軸10の回転数を算出する。
そして、入力軸6と出力軸10との回転数差が所定回転数未満まで接近し、当該判定結果が真(Yes)となった場合、即ち第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bが接続位置に近づくにつれて駆動力の伝達割合が増加し、出力軸10の回転数が第2速のギヤ比を介した最終回転数に近づき、閾値回転数に達した場合には、ステップS8に進む。
【0031】
ステップS8では、半クラッチ状態にあった第1クラッチ4aを切断状態とし、第2クラッチ4bは接続位置まで移動を継続させ、発進制御を終了する。
なお、上記ステップS4において、発進負荷が所定負荷未満であり、判定結果が偽(No)となる場合は、ステップS8に進み第1クラッチ4aは切断状態のまま、第2クラッチ4bのみを接続させて発進を行う。
【0032】
このように、クラッチへの負荷が最も大きくなる車両1の停車状態から駆動輪14を回転させるまでの車両の発進初期において、DCT16が備える第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bを両方半クラッチ状態として駆動力伝達に利用することで、車両1の発進負荷に対するクラッチの吸収エネルギーが分散される。
これにより、1つのクラッチに必要な吸収エネルギーを低減することができ、当該クラッチの小型化及び低容量化を図ることができる。特に第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bは湿式多板クラッチであることから、クラッチ板の枚数を減少させることができ、これにより引き摺り抵抗が少なくエネルギー損失が少ないクラッチとすることができ、燃費性能等が向上する。
【0033】
また、2つのクラッチを接続位置まで移動させれば、低速変速段(2速)と高速変速段(3速)とでロックが生じDCT16が損傷するおそれがあるのに対し、ステップS7、8においてDCT16における入力軸6と出力軸10との回転数差が所定回転数より小となったときに、発進補助用変速段側の第1クラッチ4aを切断することで適切なタイミングでロックを解消することができる。
【0034】
さらに、当該第1実施形態では、発進補助用変速段は発進変速段である第2速に対し1段高速側の第3速であり、ステップS8で発進完了した後の次の変速段がそのまま発進補助用変速段となる。これにより、特に変速段の変更をすることなく、第2クラッチ4bから第1クラッチ4aへと接続を切り換えるのみの円滑な変速を行うことができる。
また、ステップ4において発進負荷が所定負荷以下である場合、即ち平地等で発進負荷が低い場合には、第2クラッチ4bのみでの発進を行い、車両1の状態に応じた適切な発進を行うことができる。
【0035】
以上のようにして、本発明の第1実施形態に係る車両用変速機制御装置では、円滑で確実な発進を確保しつつ、車両発進時にDCT16の1つのクラッチにかかる負荷を低減し、クラッチの小型化及び低容量化することができる。これにより、車両1の軽量化、レイアウトの簡易化、燃費改善等を図ることができる。
次に第2実施形態について説明する。
【0036】
当該第2実施形態における車両用変速機制御装置の構成は上記第1実施形態と同様であり、説明を省略する。
当該第2実施形態では、発進用変速段は上記第1実施形態と同様で第2歯車機構8bが有する第2速の変速段を使用するのに対し、発進補助用変速段は発進用変速段よりも1段低速側である第1歯車機構8aが有する第1速の変速段を使用する。
【0037】
そして、車両ECU18は、車両1が停車状態から発進する際に、DCT16について発進制御を行う。
以下、第2実施形態における車両発進制御について詳しく説明する。
図3に当該第2実施形態において車両ECUにより実行される車両発進制御ルーチンを表したフローチャートが示されており、以下当該フローチャートに沿って説明する。なお、上記第1実施形態と同様の制御については詳しい説明を省略する。
【0038】
図3のステップS10において、車両ECU18は、車両1が停止しているときに、第1歯車機構8aでは発進補助用変速段である第1速を選択し、第2歯車機構8bでは発進用変速段である第2速を選択する。さらに車両ECU18は、この車両停車時に車両重量、登坂勾配を算出する。
続くステップS11では、変速レンジ及びアクセル踏込から車両発進要求があるか否かを判定する。車両発進要求がなく、当該判定結果が偽(No)である場合には、当該ルーチンを抜ける。一方、車両発進要求があり、当該判定結果が真(Yes)である場合には、次のステップS12に進む。
【0039】
ステップS12では、上記ステップS10で算出した車両重量及び登坂勾配と、上記ステップS11で検出したアクセル開度から車両1の発進に要する発進負荷を算出する。
そして、ステップS13において、算出された発進負荷が予め設定された所定負荷以上であるか否かを判定する。当該判定結果が真(Yes)である場合は、ステップS14に進む。
【0040】
ステップS14では、第2クラッチ4b及び第1クラッチ4aの両クラッチを徐々に接続位置へと移動させていき半クラッチ状態とする。
そして、ステップS15では、上記エンジン回転数センサ20よりDCT16の入力軸6の回転数、及び上記車速センサ22よりDCT16の出力軸10の回転数をそれぞれ検出する。
【0041】
続くステップS16において、入力軸回転数と出力軸回転数との回転数差(入力軸回転数−出力軸回転数)が所定回転数未満であるか否かを判定する。なお、当該第2実施形態では低速側の変速段は第1速であり、当該第1速のギヤ比から推定される最終回転数に基づき所定回転数が設定される。
当該判定結果が偽(No)である場合は、ステップS14に戻り、さらに第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bを接続位置へと移動させ、ステップS15において入力軸6及び出力軸10の回転数を算出する。一方、当該判定結果が真(Yes)である場合は、ステップS17に進む。
【0042】
ステップS17では、半クラッチ状態にあった第1クラッチ4aを切断状態とし、第2クラッチ4bは接続位置まで移動を継続させる。
さらに、ステップS18において、第1歯車機構8aの変速段の選択をそれまでの第1速から第3速に切り換えて、当該第2実施形態における発進制御を終了する。
なお、上記ステップS13において、発進負荷が所定負荷未満であり、判定結果が偽(No)である場合は、ステップS17に進み第1クラッチ4aは切断状態のまま、第2クラッチ4bのみを接続させて発進を行う。
【0043】
このように、当該第2実施形態における発進制御においても第1実施形態同様、車両1の発進初期において、DCT16が備える第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bを両方半クラッチ状態として駆動力伝達に利用する。これにより、円滑で確実な発進を確保しつつ、車両発進時にDCT16の1つのクラッチにかかる負荷を低減し、クラッチの小型化及び低容量化することができる。
【0044】
そして、当該第2実施形態では、発進補助用変速段は発進変速段である第2速に対し1段低速側の第1速であり、ステップS14における両クラッチでの発進が、発進変速段よりも高トルクな発進補助用変速段も用いたものとなり、クラッチの吸収エネルギーをより有効に分散することができる。
以上で本発明に係る車両用変速機制御装置の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
【0045】
例えば、発進負荷に応じて上記第1実施形態及び第2実施形態を使い分けても構わない。つまり、発進負荷が比較的高い場合は、低速側の変速段を発進補助用変速段とする第2実施形態を適用し、発進負荷が比較的低い場合には、第1実施形態を適用するような構成としても構わない。
また、上記実施形態では動力源としてエンジン2を用いているが、動力源はこれに限られるものではなく、電動機等であっても構わない。
【符号の説明】
【0046】
1 車両
2 エンジン(動力源)
4 クラッチユニット
4a 第1クラッチ
4b 第2クラッチ
6 入力軸
8 変速機ユニット
8a 第1歯車機構
8b 第2歯車機構
10 出力軸
16 デュアルクラッチトランスミッション(DCT)
18 車両ECU(制御手段)
20 エンジン回転数センサ
22 車速センサ
24 アクセル開度センサ
26 Gセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸を介して動力源と接続されており、前記動力源からの駆動力を接続する接続位置と前記動力源からの駆動力を切断する切断位置との間を移動することにより前記動力源からの駆動力を断接可能な第1クラッチ及び第2クラッチと、
前記第1クラッチの出力側と接続され、複数の変速段のうち1つを選択可能な第1歯車機構と、
前記第2クラッチの出力側と接続され、複数の変速段のうち1つを選択可能な第2歯車機構と、
前記第1歯車機構及び前記第2歯車機構から出力される駆動力を車両の駆動輪へと伝達する出力軸と、
前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、前記第1歯車機構、及び前記第2歯車機構を制御する制御手段と、を有する車両用変速機制御装置であって、
前記第1歯車機構及び前記第2歯車機構のうちの一方に発進変速段を有し、他方に発進補助用変速段を有しており、
前記制御手段は、前記車両が停車している状態から発進する際に、まず前記第1クラッチ及び第2クラッチの両方を半クラッチ状態とし、前記入力軸と前記出力軸との回転数差が所定範囲内となったときに、前記第1クラッチ及び第2クラッチのうち前記発進補助用変速段を有する歯車機構に対応したクラッチを切断し、前記発進変速段を有する歯車機構に対応したクラッチを接続することを特徴とする車両用変速機制御装置。
【請求項2】
前記発進補助用変速段は前記発進変速段に対し1段高速側の変速段であることを特徴とする請求項1記載の車両用変速機制御装置。
【請求項3】
前記発進補助用変速段は前記発進変速段に対し1段低速側の変速段であることを特徴とする請求項1記載の車両用変速機制御装置。
【請求項4】
車両を発進させるのに要する負荷を算出する発進負荷算出手段を有し、
前記発進負荷算出手段により算出される発進負荷が所定閾値より小である場合は、車両発進時に、前記発進変速段を有する歯車機構に対応したクラッチのみを用いた発進を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の車両用変速機制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−112174(P2011−112174A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270038(P2009−270038)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】