説明

車両用駆動装置

【課題】エンジン2とトランスミッション4との結合部分において下側に設けられる開口8に、閉塞部材10が装着されている車両用駆動装置1において、比較的簡易な構成で、開口8から閉塞部材10を外れにくくする。
【解決手段】閉塞部材10には凹状空間9の第1、第2奥壁面91,92に外側面が対応して当接させられる第1、第2凸部12,13が設けられている。閉塞部材10は、第1、第2凸部12,13を開口8から凹状空間9内に嵌め入れた状態において、自重落下力を第1凸部12側を支点として第2凸部13側を旋回させる回転モーメントに変換するような重量バランスに設定されている。閉塞部材10において第1凸部12寄りの領域および第2凸部13の外側面と凹状空間9の第2奥壁面92との当接部には、閉塞部材10の旋回を阻害する力を発生することにより閉塞部材10を開口8に装着した状態を保持するための保持力発生部(17,92b,13b)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとトランスミッションとの結合部分において下側に設けられる開口に、閉塞部材が装着されている車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、エンジンと変速機との結合用に設けた工具挿入空間を、カバーで密閉することが記載されている。また、前記カバーをウレタンやプラスチック材質とすることにより、振動および騒音を吸収することを狙っている。このカバーは変速機ケースにボルトで取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−147400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に係る従来例では、カバーを複数のボルトで変速機ケースに取り付けているため、ボルト留めの作業が面倒で手間がかかるなど、設備コストが嵩むことが懸念される。
【0005】
ところで、例えばエンジンとクラッチハウジングとの結合部分の下側に、スリット状の点検口などを設けることがあるが、その場合、前記点検口から雨水などの水分が浸入するおそれがある。そこで、本願発明者は、前記点検口からの水分浸入を防止するために、前記点検口にグロメットと呼ばれる閉塞部材を装着することを考えている。
【0006】
この閉塞部材の装着形態としては、例えば閉塞部材をゴムなどの弾性体で形成して、それを弾性変形させるような形態で前記点検口にタイトフィット状態で嵌合装着することが考えられる。その場合には、振動などによって点検口から閉塞部材が外れやすくなることが懸念される。
【0007】
このような事情に鑑み、本発明は、エンジンとトランスミッションとの結合部分において下側に設けられる開口に、閉塞部材が装着されている車両用駆動装置において、比較的簡易な構成で、開口から閉塞部材を外れにくくすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エンジンとトランスミッションとの結合部分において下側に設けられる開口に、閉塞部材が装着されている車両用駆動装置であって、前記開口の奥には有底の凹状空間が設けられていて、この凹状空間の底部には互いに離隔した第1、第2奥壁面が設けられており、前記閉塞部材には、前記第1、第2奥壁面に外側面が対応して当接させられる第1、第2凸部が設けられており、この閉塞部材は、第1、第2凸部を前記開口から凹状空間内に嵌め入れた状態において、自重落下力を前記第1凸部側を支点として前記第2凸部側を旋回させる回転モーメントに変換するような重量バランスに設定されており、前記閉塞部材において前記第1凸部寄りの領域および前記第2凸部の外側面と前記第2奥壁面との当接部には、前記閉塞部材の旋回を阻害する力を発生することにより前記閉塞部材を開口に装着した状態を保持するための保持力発生部が設けられている、ことを特徴としている。
【0009】
この構成では、エンジンとトランスミッションとの結合部分において下側に設けられる開口に装着される閉塞部材が前記開口から外れにくくなる。というのは、仮に閉塞部材の中央に重心が設定されている場合には、閉塞部材の重心に自重が鉛直方向真下に作用するために、この閉塞部材が真っ直ぐな姿勢のまま鉛直方向真下に落下するようになる。
【0010】
この落下を防止するためには、例えば開口に対する閉塞部材の嵌合締め代を大きく設定することが考えられるが、その場合、閉塞部材を開口に装着しにくくなることが懸念される。つまり、閉塞部材を開口に比較的簡易に装着可能とするには前記締め代を大きく設定することは好ましくない。
【0011】
そこで、本発明では、閉塞部材の中央から重心をずらすような重量バランスに設定することにより閉塞部材の自重落下力を利用して回転モーメントを発生させるようにしているから、この閉塞部材が真っ直ぐな姿勢のまま鉛直方向真下に落下しなくなって、閉塞部材が開口に装着された状態のまま保持されるようになる。このように、単に閉塞部材の重量バランスを調整するだけで、比較的簡易かつ無駄なコストをかけずに、開口から閉塞部材を外れにくくすることが可能になる。
【0012】
好ましくは、前記凹状空間には、前記エンジンの底部とトランスミッションの底部との間でオイルを流通可能とするための連通路が配置されており、前記開口は、前記連通路を外から視認可能とするための点検口とされている。
【0013】
このように開口を点検口にしている場合には、開放したままにすると車両走行中に雨水などが開口から浸入するおそれがある。このことから、この開口を開放したままにするのが好ましくないことが明らかになる。そして、本発明の構成では、この閉塞部材が開口から外れにくくできるようになるから、前記開口からの水分浸入を防止するうえで有利になる。
【0014】
好ましくは、前記連通路は、前記エンジンの後壁から外側に開放されるエンジン側油孔と、前記トランスミッション側から前記エンジン側油孔の近傍で開放するように設置されるトランスミッション側油孔と、前記エンジンとトランスミッションとの結合部分に設置されて前記両油孔を連通するための筒状継手とを含み、前記エンジン側油孔の開放端部の内径と前記トランスミッション側油孔の開放端部の内径とが、両油孔の内径よりも大きくなるように拡径されており、前記筒状継手の両端部は、それぞれの外周に形成される各溝にシールリングが装着された状態で前記両油孔の各開放端部の内周に嵌合されている。ここでは、開口の奥に配置される連通路の構成を特定している。
【0015】
好ましくは、前記筒状継手の長手方向途中には、前記シールリングの組み付け状態を安定させるために、当該筒状継手をその軸心回りに回動させるための回動操作工具が係合される工具係合部が設けられており、前記開口は前記点検口の他に前記回動操作工具を差し入れるための工具差し入れ口とされており、前記凹状空間は前記回動操作工具の操作を許容するための作業空間とされており、前記閉塞部材の第1、第2凸部の対向間には、前記筒状継手の工具係合部に非接触とするための逃げ部が設けられている。
【0016】
ここでは、開口の役割が点検口の他に工具差し入れ口を兼ねるものであることを特定している。このことから、通常時に開口を開放したままにする必要がないことが明らかになる。
【0017】
好ましくは、前記開口は、外側から見て長方形状とされ、かつ、その長手方向が、前記エンジンとトランスミッションとの結合部分の周方向に沿うように設けられており、前記閉塞部材は、前記長方形状の開口の周縁外面に当接する帯板形状のボディを有し、前記第1、第2凸部は前記ボディの長手方向両端に振り分けて設けられている。ここでは、開口の形状および閉塞部材の形状を特定している。
【0018】
好ましくは、前記閉塞部材は弾性体で形成され、前記第2凸部は前記第1凸部よりも大きな外形でかつ大きな質量を有するものとされ、第1凸部において閉塞部材の短手方向に対応する側面には突起が設けられており、この突起は、前記凹状空間内の第1奥壁面に圧接されて弾性変形させられることに伴い前記自重落下力に対する抵抗を発生することにより当該自重落下力を前記回転モーメントに変換させる。ここでは、閉塞部材の形状を特定することにより、その重量バランスを特定するようにしている。
【0019】
好ましくは、本発明に係る車両用駆動装置は、エンジンからトランスミッションへの動力伝達を遮断または許容するように切断または継合されるクラッチをさらに備えている。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、エンジンとトランスミッションとの結合部分において下側に設けられる開口に、閉塞部材が装着されている車両用駆動装置において、比較的簡易な構成で、開口から閉塞部材を外れにくくすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る車両用駆動装置の一実施形態を模式的に示す図である。
【図2】図1のエンジンとトランスミッションとの結合部分を下から見た図で、この結合部分の開口からグロメットおよびダクトプレートを外した状態で示している。
【図3】図2のグロメットの斜視図である。
【図4】図1のエンジン側からトランスミッション側を見た状態を模式的に示す図である。
【図5】図1のエンジンとトランスミッションとの結合部分を拡大して示す図である。
【図6】エンジンとトランスミッションとに跨って設置される第1連通路の筒状継手を示す斜視図である。
【図7】図5の(7)−(7)線断面の矢視図である。
【図8】図7において筒状継手に回動操作工具を係合した状態を示す図である。
【図9】図7においてグロメットが外れにくくなる理由を説明するための図である。
【図10】図9の(10)−(10)線断面の矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1から図10に、本発明の一実施形態を示している。図中、1は車両用駆動装置の全体を示している。この車両用駆動装置1は、エンジン2と、クラッチ3と、トランスミッション4とを備えている。
【0024】
エンジン2で発生する駆動力は、クラッチ3を介してトランスミッション4に入力され、このトランスミッション4から図示していないデファレンシャルを介して左右の駆動輪に伝達される。
【0025】
エンジン2は、内部の機械構造部分がオイルで潤滑、冷却されるように構成されており、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンなどのいずれでもよい。このエンジン2は、第1、第2オイルポンプ22,23を備えている。
【0026】
第1オイルポンプ22は、オイルタンク24内のオイルを前記潤滑、冷却必要部位に供給するものである。第2オイルポンプ23は、エンジン2内のオイルをトランスミッション4側へ送るものである。
【0027】
クラッチ3は、エンジン2のクランクシャフト21からトランスミッション4のインプットシャフト41への動力伝達を遮断または許容するように切断または継合動作するものである。このクラッチ3は、図示していないが、フライホイールとプレッシャープレートとでクラッチディスクを挟むような公知の構成である。
【0028】
トランスミッション4は、例えばシンクロメッシュ機構付きの常時噛み合い式歯車変速機構42を備える構成である。この歯車変速機構42は、公知のように多数のギヤ段(ドライブギヤとドリブンギヤとの組み合わせ)を備えており、例えば運転者のシフトチェンジ操作に応答して適宜のギヤ段を成立する構成である。
【0029】
そして、エンジン2のシリンダブロック(詳細な図示省略)の後壁25に、トランスミッションケース43がボルト(図示省略)などにより取り付けられている。このトランスミッションケース43は、歯車変速機構42を収納するための箱形のリアケース43aと、このリアケース43aの前端に取り付けられてクラッチ3を覆い隠すための円錐形状のフロントカバー43bとを組み合わせたツーピース構造になっている。
【0030】
トランスミッションケース43内の圧力が所定値以上になったときに、当該圧力を調整するためのブリーザ通路5が設けられている。このブリーザ通路5は、トランスミッションケース43のリアケース43aの上壁部からフロントカバー43bの上壁部を経てエンジン2のシリンダブロックの上部に至る領域に設けられており、トランスミッションケース43とエンジン1のシリンダブロック内とを連通するようになっている。このブリーザ通路5には、トランスミッションケース43内の圧力が所定値以上になると開弁するブリーザ弁(図示省略)が設置されている。
【0031】
さらに、エンジン2とトランスミッション4との間でオイルを流通可能とするために、第1、第2連通路6,7が設けられている。
【0032】
第1連通路6は、トランスミッションケース43内の底部に貯留されるオイルが所定レベルを超えた場合に余剰のオイルをエンジン2のオイルタンク24に送るために設けられている。この第1連通路6は、トランスミッションケース43のリアケース43aの下壁部からフロントカバー43bの下壁部を経てエンジン2のシリンダブロックの下部に至る領域に設けられている。
【0033】
第2連通路7は、第2オイルポンプ23により吐出されるエンジン2内のオイルをトランスミッションケース43内に圧送するために設けられている。この第2連通路7は、トランスミッションケース43のリアケース43aの上壁部からフロントカバー43bの上壁部を経てエンジン2のシリンダブロックの上部に至る領域に設けられている。
【0034】
このように、第1連通路6は、車両用駆動装置1において鉛直方向下側に設置されており、第2連通路7は、車両用駆動装置1において鉛直方向上側で前記ブリーザ通路5の近傍に設置されている。
【0035】
次に、図5から図8を参照して、第1連通路6の構成を詳細に説明する。
【0036】
つまり、鉛直方向下側に配置される第1連通路6は、エンジン2の後壁25から外側に開放されるエンジン側油孔61と、トランスミッション4側からエンジン側油孔61の近傍で開放するように設置されるトランスミッション側油孔62と、エンジン2とトランスミッション4との結合部分に設置されて両油孔61,62を連通するための筒状継手63とを含んだ構成になっている。
【0037】
エンジン側油孔61の開放端部61aの内径とトランスミッション側油孔62の開放端部62aの内径とは、両油孔61,62の内径よりも大きくなるように拡径されている。
【0038】
筒状継手63の両端部は、それぞれ外周が円形に形成されており、当該両外周にはシールリング66,67が嵌合装着される溝64a,64bが設けられている。この筒状継手63の両端部は対応して両油孔61,62の各開放端部61a,62aの内周に嵌合されている。シールリング66,67は、筒状継手63の両端部と両油孔61,62の各開放端部61a,62aとの嵌め合い面をシールするものである。このシールリング66,67は、例えばOリングなどとされる。
【0039】
筒状継手63の長手方向途中には、シールリング66,67の組み付け状態を安定させるために、当該筒状継手63をその軸心回りに回動させるための回動操作工具70(図8参照)が係合される工具係合部65が設けられている。
【0040】
この工具係合部65は、この実施形態において、六角形とされている。そのため、回動操作工具70については、いわゆるスパナと呼ばれるものとされる。詳しくは、筒状継手63の両端部を両油孔61,62の各開放端部61a,62aに嵌合したときに、シールリング66,67が捩れることがあるので、この捩れを戻すために、回動操作工具70で筒状継手63をその軸心回りに往復回転させるようにするのである。このように筒状継手63を往復回転させると、シールリング66,67の捩れが解消されるようになる。
【0041】
そして、エンジン2の後壁25とトランスミッションケース43のフロントカバー43bとの結合部分において鉛直方向下側には、開口8が設けられており、この開口8の奥には有底の凹状空間9が設けられている。
【0042】
この開口8および凹状空間9は、図5に示すように、トランスミッションケース43のフロントカバー43bの前壁面に設けられる凹状切り欠き43cと、エンジン2の後壁25の壁面との組み合わせによって作られるものである。凹状空間9の底部には、図7および図8に示すように、第1、第2奥壁面91,92が設けられている。
【0043】
第1、第2奥壁面91,92は、トランスミッション4のケース43のフロントカバー43bの凹状切り欠き43cに、エンジン2側から見て略「ハ」の字形に互いに向き合うように離れた状態となる傾斜面として形成されている。そして、第1、第2奥壁面91,92は半円形の面で連接されている。
【0044】
また、開口8は、第1連通路6の筒状継手63を外から視認可能とするための点検口と、回動操作工具70を差し入れるための工具差し入れ口とを兼ねるものとされている。この開口8には、閉塞部材としてのグロメット10が装着される。
【0045】
具体的に、開口8は、外側から見て長方形状とされており、その長手方向は、エンジン2の後壁25とトランスミッションケース43のフロントカバー43bとの結合部分に周方向に沿うように設けられている。
【0046】
グロメット10は、図3に示すように、帯板形状のボディ11を有し、このボディ11の長手方向両端に第1、第2凸部12,13が振り分けて設けられている。ボディ11の上面外周は長方形状の開口8の周縁外面に当接されるようになっている。
【0047】
このグロメット10において第1、第2凸部12,13の対向間には、筒状継手63の工具係合部65に非接触とするための逃げ部14が設けられている。この逃げ部14は、側面から見て略半円形の凹みとされている。
【0048】
なお、図2に示すように、エンジン2の後壁25とトランスミッションケース43のフロントカバー43bとの結合部分には、そこを覆い隠すためのダクトプレート18がボルト19などで取り付けられる。このダクトプレート18は、開口8にグロメット10を装着した後で取り付けられることによって、開口8からグロメット10が脱落することを防止するために用いられている。そして、ダクトプレート18を取り付けた状態では、その内面がグロメット10のボディ11の底面に設けられる2つのリブ15,15を弾性変形するようになっていて、それの弾性復元力によってグロメット10を開口8に押し付けるようになっている。
【0049】
また、図4に示すように、エンジン2の後壁25には、エンジン2とトランスミッションケース43のフロントカバー43bとをボルト(図示省略)などで結合するときの作業スペースを確保するために、切り欠き26が設けられている。
【0050】
この実施形態では、グロメット10を開口8に装着してからダクトプレート18を装着するまでの間で、グロメット10が外れることを防止するように工夫しているので、以下で詳細に説明する。
【0051】
グロメット10は、その第1、第2凸部12,13を開口8から凹状空間9内に嵌め入れた状態において、自重落下力を第1凸部12側を支点として第2凸部13側を旋回させるような回転モーメントに変換する重量バランスに設定されている。
【0052】
具体的に、グロメット10は、例えば耐油性や耐熱性を有する弾性体、例えばアクリルゴムなどで形成されている。このグロメット10の第2凸部13は第1凸部12よりも大きな外形でかつ大きな質量となるように形成されている。
【0053】
また、第1、第2凸部12,13は、図7および図9に示すように、凹状空間9と筒状継手63の外周とで作られる空間を埋めるような形状に形成されている。但し、グロメット10の逃げ部14(第1、第2凸部12,13の内側面に相当)は、筒状継手63に対して非接触とされる。
【0054】
そして、第1、第2凸部12,13の外側面は、第1、第2凸部12,13を開口8から凹状空間9内に嵌め入れた状態において、凹状空間9の第1、第2奥壁面91,92に当接されるような形状に形成されている。
【0055】
詳しくは、第1奥壁面91は、横向き平坦面91aと、傾斜面91bと、立ち上がり面91cとを含んだ形状になっている。第2奥壁面92は、傾斜面92a、立ち上がり面92bとを含んだ形状になっている。
【0056】
一方、第1凸部12の外側面は、第1奥壁面91に対応する形状になっている。つまり、第1凸部12の外側面は、横向き平坦面12aと、傾斜面12bと、立ち上がり面12cとを含んだ形状になっている。第2凸部13の外側面は、第2奥壁面92に対応する形状になっている。つまり、第2凸部13の外側面は、傾斜面13aと、立ち上がり面13bとを含んだ形状になっている。
【0057】
さらに、第1凸部12においてグロメット10の短手方向に対応する2つの側面には、突条部16a,16bが設けられている。この2つの突条部16a,16bは、エンジン2の後壁25とトランスミッションケース43のフロントカバー43bとに弾性変形され状態で圧接されることに伴い弾性復元力を発生する。この弾性復元力は前記自重落下力に対する抵抗となるので、当該自重落下力を前記回転モーメントに変換するのに役立つ。なお、突条部16a,16bの弾性復元力は突条部16a,16bを弾性変形させるための嵌合締め代により適宜に調整することが可能である。このことから、第1凸部12は開口8にタイトフィット状態で嵌め入れられるようになる。一方、第2凸部13は開口8にルーズフィット状態で嵌め入れられるようになっている。
【0058】
そして、グロメット10において第1凸部12寄りの領域および第2凸部13の外側面と第2奥壁面92との当接部には、回転モーメントによるグロメット10の旋回を阻害することによりグロメット10を開口8に装着した状態を保持するための保持力発生部が設けられている。
【0059】
具体的に、前記保持力発生部は、グロメット10のボディ11において第1凸部12寄りに設けられかつ開口8の周縁外面に当接させられる平面17と、凹状空間9の第2奥壁面92における立ち上がり面92bと、この立ち上がり面92bに当接するようにグロメット10の第2凸部13の外側面における立ち上がり面13bとを含んでいる。
【0060】
次に、図9および図10を参照して、前記したようなグロメット10を開口8に装着した状態において、グロメット10を保持する作用について説明する。
【0061】
まず、グロメット10を開口8に装着すると、グロメット10の重心Gに鉛直方向下向きの自重落下力Rgが作用する。
【0062】
この自重落下力Rgは、グロメット10の重心Gが帯板形状のボディ11の長手方向中心から第2凸部13寄りになるようにグロメット10の重量バランスが設定されていることによって、グロメット10を旋回させるための回転モーメントMに変換される。
【0063】
この回転モーメントMは、図9に示すように、グロメット10の第1凸部12側を支点Oとして第2凸部13側を図9中の反時計回り方向に旋回させるように作用することになる。
【0064】
つまり、前記回転モーメントMは、グロメット10の第1凸部12側の平面17を開口8の周縁外面(言い換えるとフロントカバー43bの底面において開口8の周縁)に押し付けるように作用するとともに、第2凸部13の立ち上がり面13bを凹状空間9の第2奥壁面92の立ち上がり面92bに押し付けるように作用する。図9中のF2は前記平面17を開口8の周縁外面に押し付ける力の反力である。
【0065】
そのとき、図10に示すように、グロメット10の第1凸部12の突条部16a,16bが弾性変形された状態(図10では弾性変形していない状態で記載)でエンジン2の後壁25とトランスミッションケース43のフロントカバー43bとに圧接されるようになっているので、この突条部16a,16bの弾性復元力F1が第1凸部12を第1奥壁面91に当接させたままの状態に保つための保持力Hになって、第1凸部12が第1奥壁面91から離れて落ちることが防止される。
【0066】
このように、グロメット10の平面17がフロントカバー43bの底面において開口8の周縁外面に押し付けられるとともに、第2凸部13の立ち上がり面13bが凹状空間9の第2奥壁面92の立ち上がり面92bに押し付けられることによって、回転モーメントMによるグロメット10の旋回を阻害する力、つまりグロメット10を開口8に装着した状態を保持させるための保持力Fが発生されることになる。
【0067】
これにより、開口8に装着したグロメット10が真っ直ぐな姿勢のまま鉛直方向真下に落下しなくなって、グロメット10が開口8に装着された状態のまま保持されるようになる。
【0068】
以上説明したように本発明を適用した実施形態では、グロメット10の長手方向中央から重心Gをずらすような重量バランスに設定することによりグロメット10の自重落下力Rgを利用して回転モーメントMを発生させるようにしているから、このグロメット10が真っ直ぐな姿勢のまま鉛直方向真下に落下しなくなって、グロメット10が開口8に装着された状態のまま保持されるようになる。このように、単にグロメット10の重量バランスを調整するだけで、比較的簡易かつ無駄なコストをかけずに、開口8からグロメット10を外れにくくすることが可能になる。
【0069】
これにより、開口8にグロメット10を装着してから、エンジン2の後壁25とトランスミッションケース43のフロントカバー43bとの下部にダクトプレート18を取り付けるまでの間において、開口8にグロメット10を装着した状態のまま保持することができるので、前記ダクトプレート18の取り付け作業を例えば一人で効率良く進めることが可能になる。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。
【0071】
(1)上記実施形態において、グロメット10の形状については特に限定されるものではなく、適宜の変形を加えることは可能である。
【0072】
(2)上記実施形態では、筒状継手63の工具係合部65を六角形として、回動操作工具70をいわゆるスパナとする場合を例に挙げているが、この工具係合部65については特に限定されるものではない。例えば図示していないが、工具係合部65の形成予定領域を断面円形としたうえで、その円周数ヶ所に凹みを設け、この凹みに係合する係合部を先端に有する工具を用いるようにすることが可能である。この場合、工具係合部65の形成予定領域が断面円形になっているので、例えばグロメット10における側面視略半円形の逃げ部14を密に当接させることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、エンジンとトランスミッションとの結合部分において下側に設けられる開口に、閉塞部材が装着されている車両用駆動装置に好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 車両用駆動装置
2 エンジン
21 クランクシャフト
24 オイルタンク
25 シリンダブロックの後壁
3 クラッチ
4 トランスミッション
41 インプットシャフト
43 トランスミッションケース
43a トランスミッションケースのリアケース
43b トランスミッションケースのフロントカバー
6 第1連通路
61 エンジン側油孔
62 トランスミッション側油孔
63 筒状継手
65 筒状継手の工具係合部
7 第2連通路
8 開口
9 凹状空間
91 第1奥壁面
92 第2奥壁面
92b 第2奥壁面の立ち上がり面
10 グロメット(閉塞部材)
11 グロメットのボディ
12 グロメットの第1凸部
13 グロメットの第2凸部
13b 第1凸部の立ち上がり面
16a 突条部(突起)
17 ボディの平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとトランスミッションとの結合部分において下側に設けられる開口に、閉塞部材が装着されている車両用駆動装置であって、
前記開口の奥には有底の凹状空間が設けられていて、この凹状空間の底部には互いに離隔した第1、第2奥壁面が設けられており、
前記閉塞部材には、前記第1、第2奥壁面に外側面が対応して当接させられる第1、第2凸部が設けられており、
この閉塞部材は、第1、第2凸部を前記開口から凹状空間内に嵌め入れた状態において、自重落下力を前記第1凸部側を支点として前記第2凸部側を旋回させる回転モーメントに変換するような重量バランスに設定されており、
前記閉塞部材において前記第1凸部寄りの領域および前記第2凸部の外側面と前記第2奥壁面との当接部には、前記閉塞部材の旋回を阻害する力を発生することにより前記閉塞部材を開口に装着した状態を保持するための保持力発生部が設けられている、ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用駆動装置において、
前記凹状空間には、前記エンジンの底部とトランスミッションの底部との間でオイルを流通可能とするための連通路が配置されており、
前記開口は、前記連通路を外から視認可能とするための点検口とされている、ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用駆動装置において、
前記連通路は、前記エンジンの後壁から外側に開放されるエンジン側油孔と、前記トランスミッション側から前記エンジン側油孔の近傍で開放するように設置されるトランスミッション側油孔と、前記エンジンとトランスミッションとの結合部分に設置されて前記両油孔を連通するための筒状継手とを含み、
前記エンジン側油孔の開放端部の内径と前記トランスミッション側油孔の開放端部の内径とが、両油孔の内径よりも大きくなるように拡径されており、
前記筒状継手の両端部は、それぞれの外周に形成される各溝にシールリングが装着された状態で前記両油孔の各開放端部の内周に嵌合されている、ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用駆動装置において、
前記筒状継手の長手方向途中には、前記シールリングの組み付け状態を安定させるために、当該筒状継手をその軸心回りに回動させるための回動操作工具が係合される工具係合部が設けられており、
前記開口は前記点検口の他に前記回動操作工具を差し入れるための工具差し入れ口とされており、
前記凹状空間は前記回動操作工具の操作を許容するための作業空間とされており、
前記閉塞部材の第1、第2凸部の対向間には、前記筒状継手の工具係合部に非接触とするための逃げ部が設けられている、ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用駆動装置において、
前記開口は、外側から見て長方形状とされ、かつ、その長手方向が、前記エンジンとトランスミッションとの結合部分の周方向に沿うように設けられており、
前記閉塞部材は、前記長方形状の開口の周縁外面に当接する帯板形状のボディを有し、前記第1、第2凸部は前記ボディの長手方向両端に振り分けて設けられている、ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両用駆動装置において、
前記閉塞部材は弾性体で形成され、
前記第2凸部は前記第1凸部よりも大きな外形でかつ大きな質量を有するものとされ、
第1凸部において閉塞部材の短手方向に対応する側面には突起が設けられており、この突起は、前記凹状空間内の第1奥壁面に圧接されて弾性変形させられることに伴い前記自重落下力に対する抵抗を発生することにより当該自重落下力を前記回転モーメントに変換させる、ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の車両用駆動装置は、エンジンからトランスミッションへの動力伝達を遮断または許容するように切断または継合されるクラッチをさらに備えている、ことを特徴とする車両用駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−107733(P2012−107733A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258757(P2010−258757)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】