説明

車両用駆動装置

【課題】内燃機関の始動ショックを抑制可能な車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】電動モータ7の動力で第1変速部としての奇数段変速部を介してEV走行中にエンジン6のクランキングを行うときに、現在走行中の奇数段変速部の変速段の接続状態を維持したまま、現在走行中の奇数段変速部の変速段よりも2つ以上高い第2変速部としての偶数段変速部の変速段を選択して第2クラッチ42を締結することにより、駆動輪DW,DW又は電動モータ7からの動力を利用してエンジン6を始動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるツインクラッチ式変速機を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関と電動モータと、ツインクラッチ式変速機を備えた車両用駆動装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の車両用駆動装置は、第1クラッチを介して奇数段変速部が内燃機関に接続され、第2クラッチを介して偶数段変速部が内燃機関に接続されるとともに偶数段変速部が電動モータに直結され、偶数段変速部を介して電動モータの動力でEV走行を行うことができるように構成されている。
【0003】
また、特許文献1では、偶数段変速部を介してEV走行中に電動モータで内燃機関を始動することが開示されており、その際、奇数段変速部の変速段のうち高速側の変速段から順に、クラッチ係合時に必要回転速度を満たすか否かを判定し、予め設定された必要回転数以上となり且つ最も回転数が低くなる奇数段変速部の変速段を選択して内燃機関を始動することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4285571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の車両用駆動装置では、クランキングする際、奇数段変速部の変速ギヤ段のみならず、走行ギヤ段である偶数段変速部の変速ギヤ段を選択することが記載されている。従って、クランキング時には一度、電動機のトルクが抜けるため内燃機関の始動ショックが生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の始動ショックを抑制可能な車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
内燃機関(例えば、後述の実施形態におけるエンジン6)と、
電動機(例えば、後述の実施形態における電動モータ7)と、
前記電動機に動力を供給する蓄電部(例えば、後述の実施形態のバッテリ3)と、
第1断接手段(例えば、後述の実施形態の第1クラッチ41)を介して前記内燃機関に接続され、複数の変速段のうち第1切替手段(例えば、後述の実施形態のロック機構61、第1奇数段変速用シフター51A、第2奇数段変速用シフター51B)によりいずれかの変速段(例えば、後述の実施形態の遊星歯車機構30、第3速用駆動ギヤ23a、第5速用駆動ギヤ25a、第7速用駆動ギヤ97a)を選択可能な第1変速部(例えば、後述の実施形態の奇数段変速部)と、
第2断接手段(例えば、後述の実施形態の第2クラッチ42)を介して前記内燃機関に接続され、複数の変速段のうち第2切替手段(例えば、後述の実施形態の第1偶数段変速用シフター52A、第2偶数段変速用シフター52B)によりいずれかの変速段(例えば、後述の実施形態の第2速用駆動ギヤ22a、第4速用駆動ギヤ24a、第6速用駆動ギヤ96a)を選択可能な第2変速部(例えば、後述の実施形態の偶数段変速部)と、
前記第1及び第2変速部における変速段の選択と、前記第1及び第2断接手段の断接とを制御する制御手段(例えば、後述の実施形態の電気制御ユニット5)と、を備え、
前記第1変速部には、前記内燃機関と前記電動機の少なくとも一方の動力が入力され、
前記第2変速部には、前記内燃機関の動力が入力され、
前記電動機の動力で前記第1変速部を介してEV走行中に前記第1又は第2断接手段を締結することで前記内燃機関を始動可能な車両用駆動装置(例えば、後述の実施形態の車両用駆動装置1)であって、
前記制御手段は、前記電動機の動力で前記第1変速部を介してEV走行中に前記内燃機関のクランキングを行うときに、現在走行中の前記第1変速部の変速段の接続状態を維持したまま、現在走行中の前記第1変速部の変速段よりも2つ以上高い前記第2変速部の変速段を選択して前記第2断接手段を締結することにより、被駆動部又は前記電動機からの動力を利用して前記内燃機関を始動することを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成に加えて、
前記制御手段は、クランキングに際し、現在走行中の変速段よりも2つ以上高い前記第2変速部の変速段を選択する際の前記第2断接手段の回転数が始動可能内燃機関回転数以上か否かを判定し、
前記第2断接手段の回転数が前記始動可能内燃機関回転数以上であれば、現在走行中の変速段よりも2つ以上高い前記第2変速部の変速段のうち、前記第2断接手段の回転数と前記始動可能内燃機関回転数の回転数との差が最も小さい変速段を選択し、
前記第2断接手段の回転数が前記始動可能内燃機関回転数より低ければ現在走行中の変速段を選択することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2の構成に加えて、
前記制御手段は、前記内燃機関始動後に変速段を切り替えるときは、切り替え後の変速段は要求駆動力を満たすことができ、前記内燃機関を走行可能内燃機関回転数以上で回転させることができる変速段のうち、前記蓄電部のSOCがアシスト可能であれば前記第1変速部の変速段を優先的に選択し、前記蓄電部のSOCがアシスト不可能であれば前記第2変速部の変速段を優先的に選択し、
前記蓄電部のSOCがアシスト不可能であって前記第2変速部の変速段を選択するときには、前記第1変速部のいずれかの変速段を介して前記蓄電部を充電することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1又は2の構成に加えて、
前記内燃機関が初爆又は完爆したのを判断した際に締結していた前記第1断接手段又は第2断接手段を開放し、前記内燃機関が安定した際に、前記第1断接手段又は前記第2断接手段を締結することを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項4の構成に加えて、
前記内燃機関を始動する際の変速段と前記内燃機関始動後の変速段がいずれも前記第2変速部の変速段であって異なる変速段であるとき、前記内燃機関の安定後、前記第2断接手段を再度締結する際に変速も行なうことを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項4の構成に加えて、
前記内燃機関始動後の変速段が前記第1変速部の変速段であって現在走行中の変速段とは異なる変速段であるとき、前記内燃機関の安定後、前記第1断接手段を締結して変速も行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、EV走行中に内燃機関をクランキングする際、現在走行中の第1変速部の変速段の接続状態を維持したまま、第2変速部の変速段でクランキングを行なうので、電動機からトルクが入出力可能な状態が維持されるため、クランキング時のショックを抑制できる。また、クランキング時の第2変速部の変速段は、現在走行中の第1変速部の変速段よりも2つ以上高い第2変速部の変速段なので、内燃機関始動時の消費トルク及び損失トルクを低減できる。
【0014】
請求項2の発明によれば、第2断接手段の回転数が始動可能内燃機関回転数以上であれば、現在走行中の変速段よりも2つ以上高い第2変速部の変速段のうち、第2断接手段の回転数と始動可能内燃機関回転数の回転数の差が最も小さい変速段を選択して第2断接手段を締結することにより内燃機関を始動するので、第2断接手段による熱損失をより低減することができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、アシスト及び回生を効率よく行うことができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、内燃機関の不安定な挙動を被駆動部に伝達しないように内燃機関が安定して自走走行可能になった時点で断接手段を締結することで、内燃機関の始動ショックを低減できる。
【0017】
請求項5又は6の発明によれば、変速段の切り替えを断接手段の締結時に行なうことで、ショックの回数を一度に集約できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の車両用駆動装置を示す概略図である。
【図2】バッテリのSOCと制御マップとの関係を示す模式図である。
【図3】エンジン始動時の制御フローを示すフロー図である。
【図4】車速とその車速における想定されるエンジン回転数との関係と始動パターンの一例を示すグラフである。
【図5】エンジン始動時のクラッチトルクとモータトルクとの関係を示すグラフである。
【図6】第1速EV走行時における車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図7】第1速EV走行中に第4速用ギヤを介してエンジン始動する際の車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図8】第1速EV走行中に第6速用ギヤを介してエンジン始動する際の車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図9】第2速エンジン走行時における車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図10】第5速エンジン走行時における車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の車両用駆動装置の一実施形態ついて図面を参照しながら説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【0020】
車両用駆動装置1は、図1に示すように、ハイブリッド車両(図示せず)の駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWを駆動するためのものであり、駆動源である内燃機関(以下「エンジン」という)6と、電動モータ7と、動力を駆動輪DW,DWに伝達するための変速機20と、を備えている。
【0021】
エンジン6は、例えばガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、このエンジン6のクランク軸6aには、変速機20の第1クラッチ41と第2クラッチ42が接続されている。
【0022】
電動モータ7は、3相ブラシレスDCモータでありステータ71と、このステータ71に対向するように配置されたロータ72とを有し、後述する遊星歯車機構30のリングギヤ35の外周側に配置されている。ロータ72は、遊星歯車機構30のサンギヤ32に連結されて、遊星歯車機構30のサンギヤ32と一体に回転するように構成されている。
【0023】
遊星歯車機構30は、サンギヤ32と、このサンギヤ32と同軸上に配置され、かつ、このサンギヤ32の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ35と、サンギヤ32とリングギヤ35に噛合されたプラネタリギヤ34と、このプラネタリギヤ34を自転可能、かつ、公転可能に支持するキャリア36とを有し、サンギヤ32とリングギヤ35とキャリア36が、相互に差動回転自在に構成されている。
【0024】
リングギヤ35には、同期機構を有しリングギヤ35の回転を停止(ロック)可能に構成されたロック機構61が設けられている。なお、ロック機構61としてブレーキ機構等を用いてもよい。
【0025】
変速機20は、前述した第1クラッチ41と第2クラッチ42と、遊星歯車機構30と、後述する複数の変速ギヤ段を備えた、いわゆるツインクラッチ式変速機である。
【0026】
より具体的に、変速機20は、エンジン6のクランク軸6aと同軸(回転軸線A1)上に配置された第1主軸11、第2主軸12、連結軸13と、回転軸線A1と平行な回転軸線B1を中心として回転自在なカウンタ軸14と、回転軸線A1と平行な回転軸線C1を中心として回転自在な第1中間軸15と、回転軸線A1と平行な回転軸線D1を中心として回転自在な第2中間軸16と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線E1を中心として回転自在なリバース軸17と、を備えている。
【0027】
第1主軸11には、エンジン6側に第1クラッチ41が設けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のサンギヤ32と電動モータ7のロータ72が第1主軸11と一体で回転するように設けられている。従って、第1主軸11は、第1クラッチ41によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結されるとともに電動モータ7と直結され、エンジン6及び/又は電動モータ7の動力が入力されるように構成されている。
【0028】
第2主軸12は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、第2主軸12には、エンジン6側に第2クラッチ42が設けられ、エンジン6側とは反対側にアイドル駆動ギヤ27aが第2主軸12と一体で回転するように設けられている。従って、第2主軸12は、第2クラッチ42によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結され、エンジン6の動力がアイドル駆動ギヤ27aへ入力されるように構成されている。
【0029】
連結軸13は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側とは反対側の周囲を覆うように第1主軸11と相対回転自在に配置されている。また、連結軸13には、エンジン6側に第3速用駆動ギヤ23aが連結軸13と一体で回転するように設けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のキャリア36が連結軸13と一体で回転するように設けられている。従って、プラネタリギヤ34の公転により連結軸13に設けられたキャリア36と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するように構成されている。
【0030】
さらに、第1主軸11には、連結軸13に設けられた第3速用駆動ギヤ23aと第2主軸12に設けられたアイドル駆動ギヤ27aとの間に、第3速用駆動ギヤ23aとともに奇数段変速部を構成する第7速用駆動ギヤ97aと第5速用駆動ギヤ25aとが、第3速用駆動ギヤ23a側からこの順に第1主軸11と相対回転自在に設けられている。また、第5速用駆動ギヤ25aとアイドル駆動ギヤ27aとの間には、第1主軸11と一体に回転する後進用従動ギヤ28bが設けられている。
【0031】
第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aとの間には、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23a又は第7速用駆動ギヤ97aとを連結又は開放する第1奇数段変速用シフター51Aが設けられ、第7速用駆動ギヤ97aと第5速用駆動ギヤ25aとの間には、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aとを連結又は開放する第2奇数段変速用シフター51Bが設けられている。
【0032】
そして、第1奇数段変速用シフター51Aが第3速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが連結して一体に回転し、第7速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第7速用駆動ギヤ97aが連結して一体に回転し、第1奇数段変速用シフター51Aがニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aに対し相対回転する。なお、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するとき、第1主軸11に設けられたサンギヤ32と第3速用駆動ギヤ23aに連結軸13で連結されたキャリア36が一体に回転するとともに、リングギヤ35も一体に回転し、遊星歯車機構30が一体となる。
【0033】
第2奇数段変速用シフター51Bがインギヤするときには、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aが連結して一体に回転し、ニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第5速用駆動ギヤ25aに対し相対回転する。
【0034】
第1中間軸15には、第2主軸12に設けられたアイドル駆動ギヤ27aと噛合する第1アイドル従動ギヤ27bが第1中間軸15と一体で回転するように設けられている。
【0035】
第2中間軸16には、第1中間軸15に設けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第2アイドル従動ギヤ27cが第2中間軸16と一体で回転するように設けられている。第2アイドル従動ギヤ27cは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第1アイドルギヤ列27Aを構成し、エンジン6の動力が第2主軸12から第1アイドルギヤ列27Aを介して第2中間軸16に伝達される。
【0036】
また、第2中間軸16には、第1主軸11に設けられた第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aと第5速用駆動ギヤ25aと対応する位置に、それぞれ偶数段変速部を構成する第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aと第4速用駆動ギヤ24aとが第2中間軸16と相対回転自在に設けられている。
【0037】
第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aとの間には、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22a又は第6速用駆動ギヤ96aとを連結又は開放する第1偶数段変速用シフター52Aが設けられ、第6速用駆動ギヤ96aと第4速用駆動ギヤ24aとの間には、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aとを連結又は開放する第2偶数段変速用シフター52Bが設けられている。
【0038】
そして、第1偶数段変速用シフター52Aが第2速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22aが連結して一体に回転し、第6速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第6速用駆動ギヤ96aが連結して一体に回転し、第1偶数段変速用シフター52Aがニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aに対し相対回転する。
【0039】
第2偶数段変速用シフター52Bがインギヤするときには、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aが連結して一体に回転し、ニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第4速用駆動ギヤ24aに対し相対回転する。
【0040】
カウンタ軸14には、エンジン6側とは反対側から順に第1共用従動ギヤ23bと、第2共用従動ギヤ96bと、第3共用従動ギヤ24bと、パーキングギヤ21と、ファイナルギヤ26aとが一体回転可能に設けられている。
【0041】
ここで、第1共用従動ギヤ23bは、連結軸13に設けられた第3速用駆動ギヤ23aと噛合して第3速用駆動ギヤ23aと共に第3速用ギヤ23を構成し、第2中間軸16に設けられた第2速用駆動ギヤ22aと噛合して第2速用駆動ギヤ22aと共に第2速用ギヤ22を構成する。
【0042】
第2共用従動ギヤ96bは、第1主軸11に設けられた第7速用駆動ギヤ97aと噛合して第7速用駆動ギヤ97aと共に第7速用ギヤ97を構成し、第2中間軸16に設けられた第6速用駆動ギヤ96aと噛合して第6速用駆動ギヤ96aと共に第6速用ギヤ96を構成する。
【0043】
第3共用従動ギヤ24bは、第1主軸11に設けられた第5速用駆動ギヤ25aと噛合して第5速用駆動ギヤ25aと共に第5速用ギヤ25を構成し、第2中間軸16に設けられた第4速用駆動ギヤ24aと噛合して第4速用駆動ギヤ24aと共に第4速用ギヤ24を構成する。
【0044】
ファイナルギヤ26aは差動ギヤ機構8と噛合して、差動ギヤ機構8は、駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWに連結されている。従って、カウンタ軸14に伝達された動力はファイナルギヤ26aから差動ギヤ機構8、駆動軸9,9、駆動輪DW,DWへと出力される。
【0045】
リバース軸17には、第1中間軸15に設けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第3アイドル従動ギヤ27dがリバース軸17と一体回転可能に設けられている。第3アイドル従動ギヤ27dは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第2アイドルギヤ列27Bを構成し、エンジン6の動力が第2主軸12から第2アイドルギヤ列27Bを介してリバース軸17に伝達される。また、リバース軸17には、第1主軸11に設けられた後進用従動ギヤ28bと噛合する後進用駆動ギヤ28aがリバース軸17と相対回転自在に設けられている。後進用駆動ギヤ28aは、後進用従動ギヤ28bとともに後進用ギヤ列28を構成している。さらに後進用駆動ギヤ28aのエンジン6側とは反対側にリバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとを連結又は開放する後進用シフター53が設けられている。
【0046】
そして、後進用シフター53が後進用接続位置でインギヤするときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが一体に回転し、後進用シフター53がニュートラル位置にあるときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが相対回転する。
【0047】
なお、第1、第2奇数段変速用シフター51A、51B、第1、第2偶数段変速用シター52A、52B、後進用シフター53は、接続する軸とギヤの回転数を一致させる同期機構を有するクラッチ機構を用いている。
【0048】
このように構成された変速機20には、2つの変速軸の一方の変速軸である第1主軸11上に第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aと第5速用駆動ギヤ25aからなる奇数段変速部が構成され、2つの変速軸の他方の変速軸である第2中間軸16上に第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aと第4速用駆動ギヤ24aからなる偶数段変速部が構成される。
【0049】
以上の構成により、本実施形態の車両用駆動装置1は、以下の第1〜第5の伝達経路を有している。
【0050】
(1)第1伝達経路は、エンジン6の動力が、第1主軸11、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに伝達される伝達経路である。ここで、遊星歯車機構30の減速比は、第1伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達されるエンジントルクが第1速相当となるように設定されている。即ち、遊星歯車機構30の減速比と第3速用ギヤ23の減速比をかけ合わせた減速比が第1速相当となるように設定されている。この第1伝達経路を介して、第1クラッチ41を締結し、ロック機構61をロックするとともに第1、第2奇数段変速用シフター51A、51Bをニュートラルにすることで、第1速走行がなされる。
【0051】
(2)第2伝達経路は、エンジン6の動力が、第2主軸12、第1アイドルギヤ列27A(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第2アイドル従動ギヤ27c)、第2中間軸16、第2速用ギヤ22(第2速用駆動ギヤ22a、第1共用従動ギヤ23b)又は第4速用ギヤ24(第4速用駆動ギヤ24a、第3共用従動ギヤ24b)又は第6速用ギヤ96(第6速用駆動ギヤ96a、第2共用従動ギヤ96b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに伝達される伝達経路である。この第2伝達経路を介して、第2クラッチ42を締結し、第1偶数段変速用シフター52Aを第2速用接続位置でインギヤすることで第2速走行がなされ、第2偶数段変速用シフター52Bをインギヤすることで第4速走行がなされ、第1偶数段変速用シフター52Aを第6速用接続位置でインギヤすることで第6速走行がなされる。
【0052】
(3)第3伝達経路は、エンジン6の動力が、第1主軸11、第3速用ギヤ23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ25(第5速用駆動ギヤ25a、第3共用従動ギヤ24b)又は第7速用ギヤ97(第7速用駆動ギヤ97a、第2共用従動ギヤ96b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに伝達される伝達経路である。この第3伝達経路を介して、第1クラッチ41を締結し、第1奇数段変速用シフター51Aを第3速用接続位置でインギヤすることで第3速走行がなされ、第2奇数段変速用シフター51Bをインギヤすることで第5速走行がなされ、第1奇数段変速用シフター51Aを第7速用接続位置でインギヤすることで第7速走行がなされる。
【0053】
(4)第4伝達経路は、電動モータ7の動力が、遊星歯車機構30又は第3速用ギヤ23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ25(第5速用駆動ギヤ25a、第3共用従動ギヤ24b)又は第7速用ギヤ97(第7速用駆動ギヤ97a、第2共用従動ギヤ96b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに伝達される伝達経路である。この第4伝達経路を介して、第1及び第2クラッチ41、42を開放した状態で、ロック機構61をロックするとともに第1、第2奇数段変速用シフター51A、51Bをニュートラルにすることで第1速EV走行がなされ、ロック機構61のロックを解除し第1奇数段変速用シフター51Aを第3速用接続位置でインギヤすることで第3速EV走行がなされ、ロック機構61のロックを解除し第2奇数段変速用シフター51Bをインギヤすることで第5速EV走行がなされ、ロック機構61のロックを解除し第1奇数段変速用シフター51Aを第7速用接続位置でインギヤすることで第7速EV走行がなされる。
【0054】
(5)第5伝達経路は、エンジン6の動力が、第2主軸12、第2アイドルギヤ列27B(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第3アイドル従動ギヤ27d)、リバース軸17、後進用ギヤ列28(後進用駆動ギヤ28a、後進用従動ギヤ28b)、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。この第5伝達経路を介して、第2クラッチ42を締結し後進用シフター53を後進用接続位置でインギヤし且つロック機構61をロックすることで後進走行がなされる。
【0055】
また、電動モータ7は、その動作を制御するパワーコントロールユニット(PDU)4を介してバッテリ(BATT)3に接続され、バッテリ3からの電力供給と、バッテリ3へのエネルギー回生がパワーコントロールユニット4を介して行われるようになっている。即ち、電動モータ7は、バッテリ3からパワーコントロールユニット4を介して供給された電力によって駆動され、また、減速走行時における駆動輪DW,DWの回転や、エンジン6の動力により回生発電を行って、バッテリ3の充電を行う。さらに、パワーコントロールユニット4は、車両全体の各種制御をするための制御装置である電気制御ユニット(ECU)5に接続されている。電気制御ユニット5は、車両全体の各種制御をするための制御装置であり、電気制御ユニット5には、加速要求、制動要求、エンジン回転数、モータ回転数、第1、第2主軸11,12の回転数、カウンタ軸14等の回転数、車速、シフトポジション、SOCなどが入力される。一方、電気制御ユニット5からは、エンジン6を制御する信号、電動モータ7を制御する信号、バッテリ3における発電状態・充電状態・放電状態などを示す信号、第1、第2奇数段変速用シフター51A,51B、第1、第2偶数段変速用シフター52A,52B、後進用シフター53を制御する信号、ロック機構61のロックを制御する信号などが出力される。
【0056】
この電気制御ユニット5は、バッテリ3のSOCに応じて各種制御の実施可否を判定する図2に示す制御マップMapを有しており、基本的にはこの制御マップMapに基づいて、ENG始動、アシスト、減速回生、EV走行の可否を判定している。なお、図2中、○は実施可能、×は禁止、△は条件付実施可能となっている。
【0057】
この制御マップMapでは、SOCを少ない方から多い方にCゾーン、Bゾーン、Aゾーン、Dゾーンの4つに分類するとともに、さらにAゾーンをSOCの少ない方から多い方にA−Lゾーン、A−Mゾーン、A−Hゾーンの3つに分類し、トータルで6つのゾーンに区分けしている。そして、最大充電量に近いDゾーンでは、減速回生を条件付で許容し、BゾーンではEV走行を禁止しアシストを条件付で許容し、CゾーンではEV走行とアシストを禁止し、Aゾーンを目標充電量として制御している。
【0058】
このように構成された車両用駆動装置1は、第1及び第2クラッチ41、42の断接(開放/締結)を制御するとともに第1、第2奇数段変速用シフター51A、51B、第1、第2偶数段変速用シフター52A、52Bおよび後進用シフター53の接続位置を制御することにより、エンジン6で第1〜第7速走行および後進走行を行うことができ、電動モータ7で第1、3、5、7速EV走行を行うことができる。また、エンジン走行中に電動モータ7でアシストしたり回生したり、さらにアイドリング中にエンジン6を電動モータ7で始動したりバッテリを充電することもできる。さらに、EV走行中に電動モータ7でエンジン6を始動することもできる。
【0059】
電気制御ユニット5は、EV走行中に高トルクが必要な場合又はバッテリが減少しA−MゾーンからA−Lゾーンに突入した際に、Bゾーンに突入する前にエンジン6を始動させる。
【0060】
図3は、EV走行中におけるエンジン始動時の制御フローを示すフロー図である。
先ず、エンジン6を始動するための変速段(以後、始動ギヤとも呼ぶ。)が選択される(S1)。始動ギヤの選択は、図4に示す車速とその車速における各変速段でのエンジン回転数との関係から、想定されるエンジン回転数が始動可能エンジン回転数以上か否かに基づいて行なわれる。なお、図4のエンジン回転数は、第1及び第2クラッチ41、42の未締結時及び完全締結時は第1及び第2クラッチ41、42の回転数と読み替えることができる。
【0061】
続いて、エンジン6を始動する始動ギヤが決まると、始動ギヤに連結するクラッチ(奇数段変速部ならば第1クラッチ41、偶数段変速部ならば第2クラッチ42)を徐々に締結することで、所定のクラッチトルクに至るとエンジン6のクランク軸6aが回転し始める(S2)。そして、クランク軸6aの回転が始動可能エンジン回転数に至るとエンジン6が点火される(S3)。この段階で一度、クラッチが開放され(S4)、続いて走行段(以下、走行ギヤ)が選択される(S5)。エンジン6の点火後、一旦、締結したクラッチを開放するのは、エンジンの初爆又は完爆後、エンジン6の回転が安定するまではトルク変動が激しいため、ドライバビリティが悪化するおそれがあるからである。なお、初爆とは、電動モータ7による初期回転の付与後に気筒内での燃焼が開始される状態を意味し、完爆とは、エンジン6が 自力で回転を維持できるようになる状態を意味する。
【0062】
走行ギヤの選択は、図4に示す車速とその車速における各変速段でのエンジン回転数との関係から、想定されるエンジン回転数が走行可能エンジン回転数以上であり、さらに要求駆動力、バッテリ3のSOC、エンジン運転点から最適な変速段が選択される。そして、走行ギヤが決まると、ロック機構61、第1、第2奇数段変速用シフター51A、51B、第1、第2偶数段変速用シフター52A、52Bを制御して現在の変速段から新しい変速段に切り替えがなされる。そして、エンジン6の安定後、切り替え後の変速段に連結するクラッチが締結されることで、EV走行からエンジン走行への切り替えと走行段の切り替えが同時になされる(S6)。
【0063】
即ち、偶数段変速部を介してエンジン始動後、選択された走行段が偶数変速部のいずれかの変速段ならば、エンジン点火後に第2クラッチ42を一旦開放し、エンジン6が安定した際に、変速も兼ねて再度第2クラッチ42を締結し、選択された走行段が奇数変速部のいずれかの変速段ならば、エンジン点火後に第2クラッチ42を開放し、エンジン6が安定した際に、変速も兼ねて第1クラッチ41を締結する。一方、奇数段変速部を介してエンジン始動後、選択された走行段が偶数変速部のいずれかの変速段ならば、エンジン点火後に第1クラッチ41を開放し、エンジン6が安定した際に、変速も兼ねて第2クラッチ42を締結し、選択された走行段が奇数変速部のいずれかの変速段ならば、エンジン点火後に第1クラッチ41を一旦開放し、エンジン6が安定した際に、変速も兼ねて再度第1クラッチ41を締結する。
【0064】
ここで、本発明の電気制御ユニット5は、電動モータ7の動力で奇数段変速部を介してEV走行中にエンジン6のクランキングを行うとき、現在走行中の奇数段変速部の変速段の接続状態を維持したまま、現在走行中の奇数段変速部の変速段よりも2つ以上高い偶数段変速部の変速段を選択してエンジン6を始動することを特徴とするものである。本実施形態の車両用駆動装置1であれば、第1速EV走行中であれば、第4速用ギヤ24又は第6速用ギヤ96を選択し、第3速EV走行中であれば、第6速用ギヤ96を選択することとしている。
【0065】
図6は、第1速EV走行時における車両用駆動装置1のトルクの伝達状況を示す図である。上述したように、第1速EV走行では、第1及び第2クラッチ41、42を開放した状態で、ロック機構61でリングギヤ35の回転をロックし、第1及び第2奇数段変速用シフター51A、51Bをニュートラル位置にすることで電動モータ7の動力が第4伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達される。なお、第1及び第2偶数段変速用シフター52A、52Bをいずれかの接続位置でインギヤしてもよいが、偶数段ギヤ等の連れ周りを防止するため、図6では第1及び第2偶数段変速用シフター52A、52Bをニュートラル位置にしている。
【0066】
図6に示した第1速EV走行中にエンジン6を始動する方法としては、例えば、ロック機構61、第1、第2奇数段変速用シフター51A、51Bにより、遊星歯車機構30、第3速用ギヤ23、第5速用ギヤ25又は第7速用ギヤ97のいずれかを選択して第1クラッチ41を締結したり、第1及び第2偶数段変速用シフター52A、52Bにより、第2速用ギヤ22、第4速用ギヤ24又は第6速用ギヤ96のいずれかを選択して第2クラッチ42を締結することでもエンジン6をクランキングして始動することができるが、本発明では、始動可能エンジン回転数との関係を考慮しながら、図4に示す車速がA1より早ければ第4速用ギヤ24を介してエンジン始動し、図4に示す車速がA3より早ければ第4速用ギヤ24又は第6速用ギヤ96を介してエンジン始動することとしている。
【0067】
図7は、第1速EV走行中に第4速ギヤ24を選択してエンジン6を始動する際の車両用駆動装置1のトルクの伝達状況を示す図である。
図7に示すエンジン始動方法では、電動モータ7の回転が遊星歯車機構30で減速されて第3速用ギヤ23を介して駆動輪DW,DWに伝達されるとともに、第2偶数段変速用シフター52Bをインギヤし第2クラッチ42を締結することで、第4速用ギヤ24から第2中間軸16→第1アイドルギヤ列27A→第2主軸12に伝達され、第2主軸12の回転が第2クラッチ42を介してエンジン6のクランク軸6aに伝達される。これにより、クランク軸6aが連れまわされて、エンジン6のクランキングがなされる。
【0068】
図8は、第1速EV走行中に第6速ギヤ96を選択してエンジン6を始動する際の車両用駆動装置1のトルクの伝達状況を示す図である。
図8に示すエンジン始動方法では、電動モータ7の回転が遊星歯車機構30で減速されて第3速用ギヤ23を介して駆動輪DW,DWに伝達されるとともに、第1偶数段変速用シフター52Aを第6速用接続位置でインギヤし第2クラッチ42を締結することで、第6速用ギヤ96から第2中間軸16→第1アイドルギヤ列27A→第2主軸12に伝達され、第2主軸12の回転が第2クラッチ42を介してエンジン6のクランク軸6aに伝達される。これにより、クランク軸6aが連れまわされて、エンジン6のクランキングがなされる。
【0069】
ここで、図5を参照してエンジン始動時のクラッチトルクとモータトルクとの関係について説明する。図7に示すエンジン6の始動方法であっても、図8に示すエンジンの始動方法であっても、停止しているクランク軸6aを連れまわすに際し、締結するクラッチ(図7、8では第2クラッチ42)には、クラッチを締結し始めてエンジン6が回転するまでにエンジン引きずりトルク(ENG引きずりトルク)が作用し、エンジン6の回転後には始動可能回転数までエンジン回転数を引き上げる引き上げトルク(NE引き上げトルク)が作用する(以下、ENG引きずりトルクとNE引き上げトルクとを足し合わせたトルクをクラッチトルクと呼ぶ。)。従って、EV走行中のエンジン始動時には、乗員にクラッチ締結によるショックを与えないように駆動輪DW,DWに伝達すべき駆動トルク(DRV要求トルク)にクラッチトルクを加えたクラッチ始動モータトルク(クラッチ始動MOTトルク)を電動モータ7が出力する必要がある。
【0070】
このことから、エンジン始動時の電動モータ7の持ち出しエネルギーは、クラッチ始動モータトルクにモータ回転数と時間を乗算して得られるエネルギー(クラッチ始動MOTトルク×NMOT×時間)に等しく、そのうち、クラッチトルクにクラッチの回転数(NCL)とエンジンの回転数(NE)との差(ΔN)と時間を乗算して得られるエネルギー(クラッチトルク×ΔN×時間)がクラッチの熱損失として消費されるとともに、エンジン引きずりトルクにエンジン回転数(NE)と時間を乗算したエネルギー(NE引き上げトルク×NE×時間)がエンジン引きずり損失として消費される。一方、エンジンの引き上げトルクにエンジン回転数(NE)と時間を乗算したエネルギー(NE引き上げトルク×NE×時間)がエンジン利得としてエンジン6に保存される。従って、クラッチの回転数(NCL)とエンジンの回転数(NE)との差(ΔN)が低ければ低いほど、クラッチにおける熱損失が低減され燃費が向上することとなる。
【0071】
従って、電気制御ユニット5は、現在走行中の奇数段変速部の変速段よりも2つ以上高い偶数段変速部の変速段の複数が始動可能エンジン回転数以上である場合には、第2クラッチ42の回転数と始動可能エンジン回転数の回転数の差が最も小さい変速段を選択して第2クラッチ42を締結することにより、エンジン6を始動することとしている。即ち、車速が図4に示すA3より早い領域では第6速用ギヤ96を優先的に利用する。これにより、車速がA3より早ければ第6速ギヤ96を介するエンジン始動を行なうことで、第4速用ギヤ24を介してエンジン始動する場合に比べて、クラッチにおける熱損失が低減され燃費が向上することとなる。また、クラッチ始動モータトルクも低く抑えることができ、運転可能モータトルクを十分に確保できる。
【0072】
なお、車速が図3のA1とA3の間のA2以上である場合には、第5速用ギヤ25を選択してエンジン始動を行なうことも可能であるが、第5速用ギヤ25でエンジン始動するためには、ロック機構61のロックを解除するとともに第1奇数段変速用シフター51Aを第3速用接続位置でインギヤさせるため一度電動モータ7をゼロトルク制御する必要があり、その間モータトルクが駆動輪DW,DWに伝達されない状態となるため好ましくない。
【0073】
本発明の電気制御ユニット5は、現在走行中の奇数段変速部の変速段の接続状態を維持したまま、エンジン始動を行なうことでモータトルクが駆動輪DW,DWに伝達されない状態を回避している。即ち、図7及び図8に示した第1速EV走行中のエンジン始動であれば、エンジン点火前は奇数段変速部は第1速走行の状態を維持したままとなっている。
【0074】
なお、電気制御ユニット5は、図4中、車速がA1より遅い場合には、第1速EV走行中に第1クラッチ41を締結してエンジン6を始動している。これにより、現在走行中の奇数段変速部の変速段よりも2つ以上高い偶数段変速部の変速段が始動可能エンジン回転数より低ければ、現在の走行段のまま第1クラッチ41を締結することで、始動制御を簡易且つ迅速に行なうことが可能となる。また、第5速EV走行中にエンジン始動する場合には、本実施形態の車両用駆動装置1では、現在走行中の奇数段変速部の変速段よりも2つ以上高い偶数段変速部の変速段が存在しないため、第1速EV走行中に第1クラッチ41を締結してエンジン6を始動してもよく、第6速用ギヤ96を選択してエンジン始動することもできる。第7速EV走行中にエンジン始動する場合には、同様に現在走行中の奇数段変速部の変速段よりも2つ以上高い偶数段変速部の変速段が存在しないため、第7速EV走行中に第1クラッチ41を締結してエンジン6を始動することができる。本実施形態では、現在走行中の変速段よりも低い変速段を選択すると、クラッチにおける熱損失が増加するため、現在走行中の奇数段変速部の変速段よりも2つ以上高い偶数段変速部の変速段が存在しない場合であっても、現在走行中の奇数段変速部の変速段より低い変速段でエンジン始動しないように制御される。
【0075】
図9は、エンジン始動後にエンジン6の動力で第2速走行をしているときの車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
例えば、図7の第4速用ギヤ24を介してエンジン6を点火した後、図3のS4で第2クラッチ42を開放した際に、ロック機構61のロックを解除するとともに、第2偶数段変速用シフター52Bをニュートラル位置に戻し第1偶数段変速用シフター52Aを第2速用接続位置でインギヤして、図3のS6で再び第2クラッチ42を締結することで図9に示す第2速走行がなされる。このとき、ロック機構61、第1及び第2奇数段変速用シフター51A、51Bでいずれかの奇数段ギヤを接続することで、電動モータ7でアシスト又は回生することができる。
【0076】
例えば、バッテリ3のSOCがBゾーンやCゾーンにあるなど、アシストが制限される状況であれば、積極的に電動モータ7で回生を行なうことが好ましいが、その際、偶数段変速部を介して走行中であれば、ロック機構61、第1、第2奇数段変速用シフター51A、51Bにより効率よく回生できる変速ギヤを選択することで、効率よくバッテリ3を充電することができる。
【0077】
図10は、エンジン始動後にエンジン6の動力で第5速走行をしているときの車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
例えば、図7の第4速用ギヤ24を介してエンジン始動した後、図3のS4で第2クラッチ42を開放した際に、ロック機構61のロックを解除するとともに、第2奇数段変速用シフター51Bをインギヤし第2偶数段変速用シフター52Bをニュートラル位置にして、図3のS6で第1クラッチ41を締結することで図10に示す第5速走行がなされる。このときも、電動モータ7でアシスト又は回生することができる。
【0078】
例えば、バッテリ3のSOCがDゾーンやAゾーンにあるなど、アシスト可能な状況であれば、奇数段変速部を介して走行することで、電動モータ7から駆動輪DW,DWまでのギヤの噛み数が少ないので、アシスト時の損失を低減することができる。
【0079】
従って、電気制御ユニット5は、エンジン始動後における変速段の切り替えに際し、バッテリ3のSOCがアシスト可能であれば奇数段変速部の変速段を優先的に選択し、バッテリ3のSOCがアシスト不可能であれば偶数段変速部の変速段を優先的に選択することとしている。
【0080】
以上説明したように、本実施形態に係る車両用駆動装置1によれば、電気制御ユニット5は、電動モータ7の動力で第1変速部としての奇数段変速部を介してEV走行中にエンジン6のクランキングを行うときに、現在走行中の奇数段変速部の変速段の接続状態を維持したまま、現在走行中の奇数段変速部の変速段よりも2つ以上高い第2変速部としての偶数段変速部の変速段を優先的に選択して第2クラッチ42を締結することにより、駆動輪DW,DW又は電動モータ7からの動力を利用してエンジン6を始動する。これにより、電動モータ7からトルクが入出力可能な状態が維持されるため、クランキング時のショックを抑制でき、且つ、エンジン始動時の消費トルク及び損失トルクを低減できる。
【0081】
また、本実施形態によれば、電気制御ユニット5は、クランキングに際し、現在走行中の変速段よりも2つ以上高い偶数段変速部の変速段を選択する際の第2クラッチ42の回転数が始動可能エンジン回転数以上か否かを判定し、第2クラッチ42の回転数が始動可能エンジン回転数以上であれば、現在走行中の変速段よりも2つ以上高い偶数段変速部の変速段のうち、第2クラッチ42の回転数と始動可能エンジン回転数の回転数との差が最も小さい変速段を選択するので、第2クラッチ42による熱損失をより低減することができる。さらに、第2クラッチ42の回転数が始動可能エンジン回転数より低ければ現在走行中の変速段のまま第1クラッチ41を締結してエンジン6を始動するので、シフト制御が容易になる。
【0082】
また、本実施形態によれば、電気制御ユニット5は、エンジン始動後に変速段を切り替えるときは、切り替え後の変速段は要求駆動力を満たすことができ、エンジン6を走行可能エンジン回転数以上で回転させることができる変速段のうち、バッテリ3のSOCがアシスト可能であれば電動モータ7が連結された奇数段変速部の変速段を優先的に選択し、バッテリ3のSOCがアシスト不可能であれば電動モータ7が連結されていない偶数段変速部の変速段を優先的に選択することにより、アシスト及び回生を効率的に行うことができる。
【0083】
また、本実施形態によれば、エンジン6が初爆又は完爆したのを判断した際に締結していた第1クラッチ41又は第2クラッチ42を開放し、エンジン6が安定した際に、第1クラッチ41又は第2クラッチ42を締結することにより、エンジン6が安定するまでの間のトルク変動の影響を抑制し、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0084】
また、本実施形態によれば、エンジン6を始動する際の変速段とエンジン始動後の変速段がいずれも偶数段変速部の変速段であって異なる変速段であるとき、エンジン6の安定後、第2クラッチ42を再度締結する際に変速も行なうことにより、ショックの回数を一度に集約できる。
【0085】
また、本実施形態によれば、エンジン始動後の変速段が奇数段変速部の変速段であって現在走行中の変速段とは異なる変速段であるとき、エンジン6の安定後、第1クラッチ41を締結して変速も行なうことにより、ショックの回数を一度に集約できる。
【0086】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
上記実施形態では、第1変速部を奇数段変速部、第2変速部を偶数段変速部として記載したが、これに限らず、電動モータ7を偶数段変速部に接続してもよい。この場合、第1変速部が偶数段変速部、第2変速部が奇数段変速部となる。
【符号の説明】
【0087】
1 車両用駆動装置
3 バッテリ(蓄電部)
6 エンジン(内燃機関)
7 電動モータ(電動機)
41 第1クラッチ(第1断接手段)
42 第2クラッチ(第2断接手段)
61 ロック機構(第1切替手段)
51A 第1奇数段変速用シフター(第1切替手段)
51B 第2奇数段変速用シフター(第1切替手段)
52A 第1偶数段変速用シフター(第2切替手段)
52B 第2偶数段変速用シフター(第2切替手段)
22a 第2速用駆動ギヤ
23a 第3速用駆動ギヤ
24a 第4速用駆動ギヤ
25a 第5速用駆動ギヤ
96a 第6速用駆動ギヤ
97a 第7速用駆動ギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
電動機と、
前記電動機に動力を供給する蓄電部と、
第1断接手段を介して前記内燃機関に接続され、複数の変速段のうち第1切替手段によりいずれかの変速段を選択可能な第1変速部と、
第2断接手段を介して前記内燃機関に接続され、複数の変速段のうち第2切替手段によりいずれかの変速段を選択可能な第2変速部と、
前記第1及び第2変速部における変速段の選択と、前記第1及び第2断接手段の断接とを制御する制御手段と、を備え、
前記第1変速部には、前記内燃機関と前記電動機の少なくとも一方の動力が入力され、
前記第2変速部には、前記内燃機関の動力が入力され、
前記電動機の動力で前記第1変速部を介してEV走行中に前記第1又は第2断接手段を締結することで前記内燃機関を始動可能な車両用駆動装置であって、
前記制御手段は、前記電動機の動力で前記第1変速部を介してEV走行中に前記内燃機関のクランキングを行うときに、現在走行中の前記第1変速部の変速段の接続状態を維持したまま、現在走行中の前記第1変速部の変速段よりも2つ以上高い前記第2変速部の変速段を選択して前記第2断接手段を締結することにより、被駆動部又は前記電動機からの動力を利用して前記内燃機関を始動することを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記制御手段は、クランキングに際し、現在走行中の変速段よりも2つ以上高い前記第2変速部の変速段を選択する際の前記第2断接手段の回転数が始動可能内燃機関回転数以上か否かを判定し、
前記第2断接手段の回転数が前記始動可能内燃機関回転数以上であれば、現在走行中の変速段よりも2つ以上高い前記第2変速部の変速段のうち、前記第2断接手段の回転数と前記始動可能内燃機関回転数の回転数との差が最も小さい変速段を選択し、
前記第2断接手段の回転数が前記始動可能内燃機関回転数より低ければ現在走行中の変速段を選択することを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記内燃機関始動後に変速段を切り替えるときは、切り替え後の変速段は要求駆動力を満たすことができ、前記内燃機関を走行可能内燃機関回転数以上で回転させることができる変速段のうち、前記蓄電部のSOCがアシスト可能であれば前記第1変速部の変速段を優先的に選択し、前記蓄電部のSOCがアシスト不可能であれば前記第2変速部の変速段を優先的に選択し、
前記蓄電部のSOCがアシスト不可能であって前記第2変速部の変速段を選択するときには、前記第1変速部のいずれかの変速段を介して前記蓄電部を充電することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記内燃機関が初爆又は完爆したのを判断した際に締結していた前記第1断接手段又は第2断接手段を開放し、前記内燃機関が安定した際に、前記第1断接手段又は前記第2断接手段を締結することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記内燃機関を始動する際の変速段と前記内燃機関始動後の変速段がいずれも前記第2変速部の変速段であって異なる変速段であるとき、前記内燃機関の安定後、前記第2断接手段を再度締結する際に変速も行なうことを特徴とする請求項4に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記内燃機関始動後の変速段が前記第1変速部の変速段であって現在走行中の変速段とは異なる変速段であるとき、前記内燃機関の安定後、前記第1断接手段を締結して変速も行なうことを特徴とする請求項4に記載の車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−162235(P2012−162235A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26207(P2011−26207)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】