車両運動制御装置
【課題】走行エネルギの損失が少ないスムーズで高燃費な走りと最大の車両運動性能を発揮することを走行状態に応じて的確にバランスさせる。
【解決手段】前後制駆動力制御装置30は、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力を第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteとして算出し、目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力を第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとして算出する。そして、横加速度(d2y/dt2)を基に算出した前後軸のタイヤ横力Fyf、Fyrと路面情報(路面μ)に基づいてグリップマージンMgを設定し、グリップマージンMgに応じて第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteと第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとを基に前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtを算出して制駆動力制御装置20に出力する
【解決手段】前後制駆動力制御装置30は、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力を第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteとして算出し、目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力を第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとして算出する。そして、横加速度(d2y/dt2)を基に算出した前後軸のタイヤ横力Fyf、Fyrと路面情報(路面μ)に基づいてグリップマージンMgを設定し、グリップマージンMgに応じて第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteと第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとを基に前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtを算出して制駆動力制御装置20に出力する
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制駆動力制御による車両運動性能の改善と制御効率あるいは走行抵抗改善の最適化を図る車両運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、様々な車両運動制御装置が搭載されている。例えば、特開2001−233195号公報には、車両がアンダステア状態である時は、旋回内側における前後両方の車輪の制動力を増加させることで、旋回内側への車両ヨーモーメントを発生させ、車両がオーバステア状態である時は旋回外側における前後両方の車輪の制動力を増加させることで、旋回外側への車両ヨーモーメントを発生させる車両の姿勢制御装置が開示されている。
【0003】
また、特開2005−193794号公報には、車両に制動力を生じさせる制動装置の作動と、変速機を相対的に低速用の変速段に変速する動作とにより減速制御を行う装置であって、前方のカーブ路の曲率と、カーブ路までの距離と、車速に基づいて、必要減速度を求め、この必要減速度に基づいて、制動装置の制御量と変速段の変更量を決定する車両の減速制御装置の技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−233195号公報
【特許文献2】特開2005−193794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されるような車両のステア特性を改善するブレーキ制御や、特許文献2に開示されるような車両の走行路に応じて必要なブレーキ制御を行う等の車両の運動制御では、それらの制御に伴う走行抵抗を加味しないと、不必要なエネルギ損失(走行抵抗の増大)をもたらしたり、最大限の車両運動性能を引き出せない虞がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、走行エネルギの損失が少ないスムーズで高燃費な走りと最大の車両運動性能を発揮することを走行状態に応じて的確にバランスさせることができる車両運動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前後軸の制駆動力と路面情報に応じて前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力を算出する最大タイヤ横力算出手段と、上記前後軸の制駆動力と上記前後軸の最大タイヤ横力を基に目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力を第1の前後制駆動力として算出する第1の前後制駆動力算出手段と、上記前後軸の制駆動力と上記前後軸の最大タイヤ横力を基に目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力を第2の前後制駆動力として算出する第2の前後制駆動力算出手段と、車両の走行状態を基に前後輪のグリップの余裕をグリップマージンとして算出するグリップマージン算出手段と、上記グリップマージンに応じて上記第1の前後制駆動力と上記第2の前後制駆動力とを基に前後軸の目標制駆動力を算出する目標制駆動力算出手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両運動制御装置によれば、走行エネルギの損失が少ないスムーズで高燃費な走りと最大の車両運動性能を発揮することを走行状態に応じて的確にバランスさせることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至図11は本発明の実施の一形態を示し、図1は車両運動制御装置を搭載した車両の概略構成を示す説明図、図2は前後制駆動力制御装置の機能ブロック図、図3は前後制駆動力制御プログラムのフローチャート、図4は第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrte算出ルーチンのフローチャート、図5は第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtp算出ルーチンのフローチャート、図6は前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrt算出ルーチンのフローチャート、図7は接地荷重と前後荷重移動に対する非線形性のみを考慮した最大タイヤ横力の特性図、図8は摩擦円の影響のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力の説明図、図9は前後軸の横力係数の説明図、図10は前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した最大タイヤ横力の特性図、図11は制駆動のそれぞれの領域におけるエネルギ損失最小化、コーナリング性能最大化する制駆動力の詳細説明図、図12はグリップマージンにより設定する制御強さ係数Keと制御比率係数Kpの説明図である。
【0009】
図1において、符号1は車両を示し、車両前部に配置されたエンジン2による駆動力は、このエンジン2後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)3からトランスミッション出力軸3aを経てセンターディファレンシャル装置4に伝達され、このセンターディファレンシャル装置4から、リヤドライブ軸5、プロペラシャフト6、ドライブピニオン7を介して後輪終減速装置8に入力される一方、センターディファレンシャル装置4から、フロントドライブ軸9を介して前輪終減速装置10に入力される。ここで、自動変速装置3、センターディファレンシャル装置4および前輪終減速装置10等は、一体に図示しないケース内に設けられている。
【0010】
後輪終減速装置8に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸11rlを経て左後輪12rlに、後輪右ドライブ軸11rrを経て右後輪12rrに伝達される一方、前輪終減速装置10に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸11flを経て左前輪12flに、前輪右ドライブ軸11frを経て右前輪12frに伝達される。
【0011】
符号13は車両のブレーキ駆動部を示し、このブレーキ駆動部13には、ドライバにより操作されるブレーキペダル14と接続されたマスターシリンダ15が接続されており、ドライバがブレーキペダル14を操作するとマスターシリンダ15により、ブレーキ駆動部13を通じて、4輪12fl,12fr,12rl,12rrの各ホイールシリンダ(左前輪ホイールシリンダ16fl,右前輪ホイールシリンダ16fr,左後輪ホイールシリンダ16rl,右後輪ホイールシリンダ16rr)にブレーキ圧が導入され、これにより4輪にブレーキがかかって制動される。
【0012】
ブレーキ駆動部13は、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、入力信号に応じて、各ホイールシリンダ16fl,16fr,16rl,16rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に形成されている。
【0013】
車両1には、エンジン2を制御するエンジン制御装置21、自動変速装置3を制御するトランスミッション制御装置22、ブレーキ駆動部13を制御するブレーキ制御装置23が設けられており、これら各制御装置21、22、23は、制駆動力制御装置20と接続されている。
【0014】
制駆動力制御装置20は、例えば、特開平11−255004号公報等に開示される制御装置であり、走行路前方のカーブを無理なく通過させるため、必要に応じて警報、減速を行うものである。
【0015】
具体的には、路面摩擦係数と道路勾配から基準減速度を演算し、道路形状と路面摩擦係数を基に許容横加速度を演算して許容進入速度を演算する。また、判断対象のカーブまでの間の屈曲部分を等価な直線に補正した等価直線距離を演算する。そして、車速と許容進入速度と等価直線距離を基にした必要減速度を基準減速度から演算した警報減速度及び強制減速度と比較し、この結果に応じて、警報を実行すると共に、エンジン制御装置21、トランスミッション制御装置22、ブレーキ制御装置23に信号出力して必要な強制減速制御を行うように構成されている。
【0016】
また、制駆動力制御装置20は、後述する前後制駆動力制御装置30から前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtが入力されて、現在の前後軸の制駆動力と目標制駆動力Fxft、Fxrtとを比較して、前後軸の制駆動力が目標制駆動力Fxft、Fxrtとなるように制御が行われるようになっている。
【0017】
前後制駆動力制御装置30には、路面摩擦係数μを推定する路面摩擦係数推定装置31、横加速度(d2y/dt2)を検出する横加速度センサ32が接続されている。そして、前後制駆動力制御装置30は、図3のフローチャートに示すように、ステップ(以下、「S」と略称)S101で、必要パラメータ、すなわち、路面摩擦係数μ、横加速度(d2y/dt2)を読み込んだ後、S102で、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力を第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteとして算出し、S103で、目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力を第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとして算出する。そして、S104で、横加速度(d2y/dt2)を基に算出した前後軸のタイヤ横力Fyf、Fyrに基づいてグリップマージンMgを設定し、グリップマージンMgに応じて第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteと第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとを基に前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtを算出して制駆動力制御装置20に出力するように構成されている。
【0018】
すなわち、前後制駆動力制御装置30は、図2に示すように、第1の前後制駆動力算出部30a、第2の前後制駆動力算出部30b、前後軸の目標制駆動力算出部30cから主要に構成されている。
【0019】
第1の前後制駆動力算出部30aは、路面摩擦係数推定装置31から路面摩擦係数μが入力される。そして、図4に示す、第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrte算出ルーチンのフローチャートに従って第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteを算出して前後軸の目標制駆動力算出部30cに出力する。
【0020】
すなわち、図4のフローチャートでは、まず、S201で、前回の第1の前後制駆動力Fxfte(k-1)、Fxrte(k-1)を前後制駆動力Fxf、Fxrとする(Fxf=Fxfte(k-1)、Fxr=Fxrte(k-1))。
【0021】
S202では、以下(1)式により、制駆動による前後軸間の荷重移動dFzを算出する。
dFz=(Fxf+Fxr)・(h/L) …(1)
ここで、hは重心高、Lはホイールベースである。尚、前後制駆動力の符号は、駆動側を(+)とする。
【0022】
次いで、S203に進み、以下の(2)式により前軸の接地荷重Fzf、(3)式により後軸の接地荷重Fzrを算出する。
Fzf=Fzf0−dFz …(2)
Fzr=Fzr0+dFz …(3)
ここで、Fzf0、Fzr0は、制駆動力が0時(静止時)の前後軸接地荷重である。
【0023】
次に、S204に進み、予め設定しておいたマップ(図7参照)等を参照して、S203で算出した前後軸の接地荷重Fzf、Fzrを基に、前後荷重移動に対する非線形性のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf1、Fyr1を算出する。
【0024】
次いで、S205に進み、図8に示す、タイヤに作用する力の関係を基に、以下の(4)式により摩擦円の影響のみを考慮した前軸の最大タイヤ横力Fyf2、(5)式により摩擦円の影響のみを考慮した後軸の最大タイヤ横力Fyr2を算出する。
Fyf2=((Fzf・μ)2−Fxf2)1/2 …(4)
Fyr2=((Fzr・μ)2−Fxr2)1/2 …(5)
【0025】
次に、S206に進み、以下の(6)、(7)式により、摩擦円の影響のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf2、Fyr2を前後軸の横力係数Cyf2、Cyr2に変換する。
Cyf2=Fyf2/(Fzf・μ) …(6)
Cyr2=Fyr2/(Fzr・μ) …(7)
ここで、前後制駆動力Fxf、Fxrの絶対値と前後軸の横力係数Cyf2、Cyr2の関係は、図9に示すようになっている。
【0026】
次いで、S207に進み、以下の(8)、(9)式により、前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf3、Fyr3を算出する。
Fyf3=Fyf1・Cyf2 …(8)
Fyr3=Fyr1・Cyr2 …(9)
ここで、前後制駆動力Fxf、Fxrと前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf3、Fyr3の関係は、図10に示すようになっている。
【0027】
そして、S208に進み、前後制駆動力Fxf、Fxrが、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後制駆動力となっているか否か判定する。すなわち、制駆動に伴うエネルギ損失を、(|制駆動力|・タイヤのスリップ)と考えた場合、タイヤのスリップ(スリップ率)は制駆動力に比例するので、エネルギ損失は制駆動力の二乗に比例する。
【0028】
従って、前後制駆動力の二乗和(Fxf2+Fxr2)が最小であり、且つ、ステア特性であるFyf3、Fyr3の比(Fyf3:Fyr3)が目標とする所定値(Cf:Cr);例えば、ニュートラルステア時の比)か否かを判定する。
【0029】
具体的には、ステア特性が、Fyr3・(Cf−ε)≦Fyf3・Cr≦Fyr3・(Cf+ε)の関係で(εは定数)、略目標ステア特性であり、且つ、(Fxf2+Fxr2)≧(Fxfte(k-1)2+Fxrte(k-1)2)であり、エネルギ損失が前回の算出値を維持若しくは増加傾向の場合の時は、前後制駆動力Fxf、Fxrが、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後制駆動力となっていると判定してS209に進んで、Fxfte=Fxf、Fxrte=Fxrとし、S210に進んで、これら第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteを前後軸の目標制駆動力算出部30cに出力してルーチンを抜ける。
【0030】
一方、S208で、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後制駆動力となっていない場合は、S211に進んで、以下のように、前後制駆動力Fxf、Fxrを修正してS202からの処理を繰り返す。
【0031】
すなわち、Fyr3・(Cf−ε)≧Fyf3・Crであり、前輪側の最大タイヤ横力が小さく、目標ステアに対してアンダステア傾向の場合は、
Fxf=Fxf−sign(Fxf)・Δ1 …(10)
Fxr=Fxr+sign(Fxr)・Δ1 …(11)
ここで、sign(Fxf)はFxfの符号、sign(Fxr)はFxrの符号、Δ1は予め設定する微少量である。
【0032】
また、Fyf3・Cr≧Fyr3・(Cf+ε)であり、前輪側の最大タイヤ横力が大きく、目標ステアに対してオーバステア傾向の場合は、
Fxf=Fxf+sign(Fxf)・Δ1 …(12)
Fxr=Fxr−sign(Fxr)・Δ1 …(13)
更に、Fyr3・(Cf−ε)≦Fyf3・Cr≦Fyr3・(Cf+ε)の関係で、略目標ステア特性であり、且つ、(Fxf2+Fxr2)<(Fxfte(k-1)2+Fxrte(k-1)2)であり、エネルギ損失が前回の算出値に対して減少傾向で更にエネルギ損失を減少させることができる時は、
Fxf=Fxf−Cf・Δ2 …(14)
Fxr=Fxr−Cr・Δ2 …(15)
ここで、Δ2は予め設定する微少量である。
【0033】
このように、S202〜S211の処理を繰り返すことにより、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力を第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteとして算出するのである。
【0034】
第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteは、具体的には、図11に示すように、エネルギ損失最小化時の目標総制駆動力Fxte_b、Fxte_a、エネルギ損失最小化時の制駆動力前後配分比をDe_b、De_aとすると、制動時におけるエネルギ損失最小化の前後制動力Fxfte_b、Fxrte_b、駆動時におけるエネルギ損失最小化の前後駆動力Fxfte_a、Fxrte_aは、以下の(16)式〜(19)式で示される。
【0035】
Fxfte_b=Fxte_b・De_b …(16)
Fxrte_b=Fxte_b・(1−De_b) …(17)
Fxfte_a=Fxte_a・De_a …(18)
Fxrte_a=Fxte_a・(1−De_a) …(19)
このように、第1の前後制駆動力算出部30aは、最大タイヤ横力算出手段、第1の前後制駆動力算出手段として設けられている。
【0036】
第2の前後制駆動力算出部30bは、路面摩擦係数推定装置31から路面摩擦係数μが入力される。そして、図5に示す、第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtp算出ルーチンのフローチャートに従って第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpを算出して前後軸の目標制駆動力算出部30cに出力する。
【0037】
すなわち、図5のフローチャートでは、まず、S301で、前回の第2の前後制駆動力Fxftp(k-1)、Fxrtp(k-1)を前後制駆動力Fxf、Fxrとする(Fxf=Fxftp(k-1)、Fxr=Fxrtp(k-1))。
【0038】
以下、S302〜S307の処理は、前述の、第1の前後制駆動力算出部30aにおけるS202〜S207と同じ処理であり、S302では、前述の(1)式により、制駆動による前後軸間の荷重移動dFzを算出する。
【0039】
次に、S303に進むと、前述の(2)、(3)式により、前後軸の接地荷重Fzf、Fzrを算出する。
【0040】
次いで、S304に進み、予め設定しておいたマップ(図7参照)等を参照して、S303で算出した前後軸の接地荷重Fzf、Fzrを基に、前後荷重移動に対する非線形性のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf1、Fyr1を算出する。
【0041】
次に、S305進み、図8に示す、タイヤに作用する力の関係を基に、前述の(4)、(5)式により、摩擦円の影響のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf2、Fyr2を算出する。
次いで、S306に進み、前述の(6)、(7)式により、摩擦円の影響のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf2、Fyr2を前後軸の横力係数Cyf2、Cyr2に変換する。
【0042】
次に、S307に進み、前述の(8)、(9)式により、前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf3、Fyr3を算出する。
【0043】
そして、S308に進み、前後制駆動力Fxf、Fxrが、目標ステアを実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後制駆動力となっているか否か判定する。すなわち、前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf3、Fyr3の和(Fyf3+Fyr3)が最大であり、且つ、ステア特性であるFyf3、Fyr3の比(Fyf3:Fyr3)が目標とする所定値(Cf:Cr);例えば、ニュートラルステア時の比)か否かを判定する。
【0044】
具体的には、ステア特性が、Fyr3・(Cf−ε)≦Fyf3・Cr≦Fyr3・(Cf+ε)の関係で(εは定数)、略目標ステア特性であり、且つ、(Fyf3+Fyr3)≦(Fyf3(k-1)+Fyr3(k-1))であり、前後軸の最大タイヤ横力の和が前回の算出値を維持若しくは減少傾向の場合の時は、前後制駆動力Fxf、Fxrが、目標ステアを実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後制駆動力となっていると判定してS309に進んで、Fxftp=Fxf、Fxrtp=Fxrとし、S310に進んで、これら第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpを前後軸の目標制駆動力算出部30cに出力してルーチンを抜ける。
【0045】
一方、S308で、目標ステアを実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後制駆動力となっていない場合は、S311に進んで、以下のように、前後制駆動力Fxf、Fxrを修正してS302からの処理を繰り返す。
【0046】
すなわち、Fyr3・(Cf−ε)≧Fyf3・Crであり、前輪側の最大タイヤ横力が小さく、目標ステアに対してアンダステア傾向の場合は、
Fxf=Fxf−sign(Fxf)・Δ1 …(20)
Fxr=Fxr+sign(Fxr)・Δ1 …(21)
ここで、sign(Fxf)はFxfの符号、sign(Fxr)はFxrの符号、Δ1は予め設定する微少量である。
【0047】
また、Fyf3・Cr≧Fyr3・(Cf+ε)であり、前輪側の最大タイヤ横力が大きく、目標ステアに対してオーバステア傾向の場合は、
Fxf=Fxf+sign(Fxf)・Δ1 …(22)
Fxr=Fxr−sign(Fxr)・Δ1 …(23)
更に、Fyr3・(Cf−ε)≦Fyf3・Cr≦Fyr3・(Cf+ε)の関係で、略目標ステア特性であり、且つ、(Fyf3+Fyr3)>(Fyf3(k-1)+Fyr3(k-1))であり、前後軸の最大タイヤ横力の和が前回の算出値に対して増加傾向の場合の時は、
Fxf=Fxf−Cf・Δ2 …(24)
Fxr=Fxr−Cr・Δ2 …(25)
ここで、Δ2は予め設定する微少量である。
【0048】
このように、S302〜S311の処理を繰り返すことにより、目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力を第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとして算出する。換言すれば、第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpは、コーナリング性能を最大にする前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとなっている。
【0049】
第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpは、具体的には、図11に示すように、コーナリング性能最大化時の目標総制駆動力Fxtp_b、Fxtp_a、コーナリング性能最大化時の制駆動力前後配分比をDp_b、Dp_aとすると、制動時におけるコーナリング性能最大化の前後制動力Fxftp_b、Fxrtp_b、駆動時におけるコーナリング性能最大化の前後駆動力Fxftp_a、Fxrtp_aは、以下の(26)式〜(29)式で示される。
【0050】
Fxftp_b=Fxtp_b・Dp_b …(26)
Fxrtp_b=Fxtp_b・(1−Dp_b) …(27)
Fxftp_a=Fxtp_a・Dp_a …(28)
Fxrtp_a=Fxtp_a・(1−Dp_a) …(29)
このように、第2の前後制駆動力算出部30bは、最大タイヤ横力算出手段、第2の前後制駆動力算出手段として設けられている。
【0051】
前後軸の目標制駆動力算出部30cは、横加速度センサ32から横加速度(d2y/dt2)が、第1の前後制駆動力算出部30aから第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteが、第2の前後制駆動力算出部30bから第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpが入力される。そして、図6に示す、前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrt算出ルーチンのフローチャートに従って前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtを算出して制駆動力制御装置20に出力する。
【0052】
すなわち、図6のフローチャートでは、まず、S401で、以下(30)、(31)式により、前後軸のタイヤ横力Fyf、Fyrを算出する。
Fyf=m・(d2y/dt2)・(Lr/L) …(30)
Fyr=m・(d2y/dt2)・(Lf/L) …(31)
ここで、mは車両質量、Lfは前軸−重心間距離、Lrは後軸−重心間距離である。
【0053】
次いで、S402に進み、以下の(32)式により、グリップマージンMgを設定するする。
【0054】
Mg=1−max(Fyf/(Fzf0・μ),Fyr/(Fzr0・μ)) …(32)
すなわち、上述の(32)式からも明らかなように、グリップマージンMgは、前後輪のグリップの余裕を示す値であり、大きな値ほど余裕がある(小さな値ほど余裕がない)ことを示す値となっている。
【0055】
次に、S403に進み、予め設定しておいたマップ(例えば、図12)等を参照して、グリップマージンMgを基に、制御強さ係数Keと制御比率係数Kpを設定する。制御強さ係数Keは、後述の(33)、(34)式に示すように、全体の制御強さを設定する係数であり、図12に示すように、グリップマージンMgが大きいほど小さな値に設定される。また、制御比率係数Kpは、後述の(33)、(34)式に示すように、第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteと第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpの比率を設定する係数であり、図12に示すように、グリップマージンMgが大きいほど小さな値に設定される。
【0056】
次いで、S404に進んで、例えば、以下の(33)、(34)式により、前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtを算出して制駆動力制御装置20に出力してルーチンを抜ける。
Fxft=Ke・((1−Kp)・Fxfte+Kp・Fxftp) …(33)
Fxrt=Ke・((1−Kp)・Fxrte+Kp・Fxrtp) …(34)
すなわち、上述の(33)、(34)式により、グリップマージンMgが大きいほど、制御比率係数Kpが小さく設定され、第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteの比率が大きくなり、第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpの比率が小さくなる。また、グリップマージンMgが大きいほど、制御強さ係数Keが小さく設定され、前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrt全体が小さく設定される。
【0057】
逆に、グリップマージンMgが小さいほど、制御比率係数Kpが大きく設定され、第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteの比率が小さくなり、第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpの比率が大きくなる。また、グリップマージンMgが小さいほど、制御強さ係数Keが大きく設定され、前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrt全体が大きく設定される。
【0058】
このように、前後軸の目標制駆動力算出部30cは、グリップマージン算出手段、目標制駆動力算出手段として設けられている。
【0059】
そして、制駆動力制御装置20は、前後制駆動力制御装置30の前後軸の目標制駆動力算出部30cから前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtが入力されると、現在の前後軸の制駆動力と目標制駆動力Fxft、Fxrtとを比較して、前後軸の制駆動力が目標制駆動力Fxft、Fxrtとなるように制御が行われるようになっている。
【0060】
このように本発明の実施の形態によれば、タイヤのグリップマージンMgが大きいほど、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力(第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrte)の比率が大きくなるように制御する一方、タイヤのグリップマージンMgが小さい領域では、前後軸の最大タイヤ横力を基に目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力(第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtp)の比率が大きくなるように制御する。また、タイヤのグリップマージンMgが大きいほど、前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtが小さくなるように制御する。このため、タイヤのグリップマージンが大きい領域では、目標ステア特性を実現しつつ、制駆動力の制御量を抑制して、エネルギ損失最小の制駆動力として、走行抵抗の増加を抑え、走行エネルギの損失が少ないスムーズで高燃費な走りを実現することが可能となっている。また、タイヤのグリップマージンが小さい、危険回避等の限界領域では、ハンドル操作に対する車両応答(旋回横加速度)が最大になるように制駆動力が制御されることになり、結果的に減速制御の効果も得られる。
【0061】
尚、制駆動力制御装置20は、本実施の形態で説明したものに限るものではなく、他のブレーキ制御装置、駆動力制御装置等であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】車両運動制御装置を搭載した車両の概略構成を示す説明図
【図2】前後制駆動力制御装置の機能ブロック図
【図3】前後制駆動力制御プログラムのフローチャート
【図4】第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrte算出ルーチンのフローチャート
【図5】第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtp算出ルーチンのフローチャート
【図6】前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrt算出ルーチンのフローチャート
【図7】接地荷重と前後荷重移動に対する非線形性のみを考慮した最大タイヤ横力の特性図
【図8】摩擦円の影響のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力の説明図
【図9】前後軸の横力係数の説明図
【図10】前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した最大タイヤ横力の特性図
【図11】制駆動のそれぞれの領域におけるエネルギ損失最小化、コーナリング性能最大化する制駆動力の詳細説明図
【図12】グリップマージンにより設定する制御強さ係数Keと制御比率係数Kpの説明図
【符号の説明】
【0063】
1 車両
2 エンジン
3 自動変速装置
13 ブレーキ駆動部
20 制駆動力制御装置
21 エンジン制御装置
22 トランスミッション制御装置
23 ブレーキ制御装置
30 前後制駆動力制御装置
30a 第1の前後制駆動力算出部(最大タイヤ横力算出手段、第1の前後制駆動力算出手段)
30b 第2の前後制駆動力算出部(最大タイヤ横力算出手段、第2の前後制駆動力算出手段)
30c 前後軸の目標制駆動力算出部(グリップマージン算出手段、目標制駆動力算出手段)
31 路面摩擦係数推定装置
32 横加速度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、制駆動力制御による車両運動性能の改善と制御効率あるいは走行抵抗改善の最適化を図る車両運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、様々な車両運動制御装置が搭載されている。例えば、特開2001−233195号公報には、車両がアンダステア状態である時は、旋回内側における前後両方の車輪の制動力を増加させることで、旋回内側への車両ヨーモーメントを発生させ、車両がオーバステア状態である時は旋回外側における前後両方の車輪の制動力を増加させることで、旋回外側への車両ヨーモーメントを発生させる車両の姿勢制御装置が開示されている。
【0003】
また、特開2005−193794号公報には、車両に制動力を生じさせる制動装置の作動と、変速機を相対的に低速用の変速段に変速する動作とにより減速制御を行う装置であって、前方のカーブ路の曲率と、カーブ路までの距離と、車速に基づいて、必要減速度を求め、この必要減速度に基づいて、制動装置の制御量と変速段の変更量を決定する車両の減速制御装置の技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−233195号公報
【特許文献2】特開2005−193794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されるような車両のステア特性を改善するブレーキ制御や、特許文献2に開示されるような車両の走行路に応じて必要なブレーキ制御を行う等の車両の運動制御では、それらの制御に伴う走行抵抗を加味しないと、不必要なエネルギ損失(走行抵抗の増大)をもたらしたり、最大限の車両運動性能を引き出せない虞がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、走行エネルギの損失が少ないスムーズで高燃費な走りと最大の車両運動性能を発揮することを走行状態に応じて的確にバランスさせることができる車両運動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前後軸の制駆動力と路面情報に応じて前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力を算出する最大タイヤ横力算出手段と、上記前後軸の制駆動力と上記前後軸の最大タイヤ横力を基に目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力を第1の前後制駆動力として算出する第1の前後制駆動力算出手段と、上記前後軸の制駆動力と上記前後軸の最大タイヤ横力を基に目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力を第2の前後制駆動力として算出する第2の前後制駆動力算出手段と、車両の走行状態を基に前後輪のグリップの余裕をグリップマージンとして算出するグリップマージン算出手段と、上記グリップマージンに応じて上記第1の前後制駆動力と上記第2の前後制駆動力とを基に前後軸の目標制駆動力を算出する目標制駆動力算出手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両運動制御装置によれば、走行エネルギの損失が少ないスムーズで高燃費な走りと最大の車両運動性能を発揮することを走行状態に応じて的確にバランスさせることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至図11は本発明の実施の一形態を示し、図1は車両運動制御装置を搭載した車両の概略構成を示す説明図、図2は前後制駆動力制御装置の機能ブロック図、図3は前後制駆動力制御プログラムのフローチャート、図4は第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrte算出ルーチンのフローチャート、図5は第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtp算出ルーチンのフローチャート、図6は前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrt算出ルーチンのフローチャート、図7は接地荷重と前後荷重移動に対する非線形性のみを考慮した最大タイヤ横力の特性図、図8は摩擦円の影響のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力の説明図、図9は前後軸の横力係数の説明図、図10は前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した最大タイヤ横力の特性図、図11は制駆動のそれぞれの領域におけるエネルギ損失最小化、コーナリング性能最大化する制駆動力の詳細説明図、図12はグリップマージンにより設定する制御強さ係数Keと制御比率係数Kpの説明図である。
【0009】
図1において、符号1は車両を示し、車両前部に配置されたエンジン2による駆動力は、このエンジン2後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)3からトランスミッション出力軸3aを経てセンターディファレンシャル装置4に伝達され、このセンターディファレンシャル装置4から、リヤドライブ軸5、プロペラシャフト6、ドライブピニオン7を介して後輪終減速装置8に入力される一方、センターディファレンシャル装置4から、フロントドライブ軸9を介して前輪終減速装置10に入力される。ここで、自動変速装置3、センターディファレンシャル装置4および前輪終減速装置10等は、一体に図示しないケース内に設けられている。
【0010】
後輪終減速装置8に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸11rlを経て左後輪12rlに、後輪右ドライブ軸11rrを経て右後輪12rrに伝達される一方、前輪終減速装置10に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸11flを経て左前輪12flに、前輪右ドライブ軸11frを経て右前輪12frに伝達される。
【0011】
符号13は車両のブレーキ駆動部を示し、このブレーキ駆動部13には、ドライバにより操作されるブレーキペダル14と接続されたマスターシリンダ15が接続されており、ドライバがブレーキペダル14を操作するとマスターシリンダ15により、ブレーキ駆動部13を通じて、4輪12fl,12fr,12rl,12rrの各ホイールシリンダ(左前輪ホイールシリンダ16fl,右前輪ホイールシリンダ16fr,左後輪ホイールシリンダ16rl,右後輪ホイールシリンダ16rr)にブレーキ圧が導入され、これにより4輪にブレーキがかかって制動される。
【0012】
ブレーキ駆動部13は、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、入力信号に応じて、各ホイールシリンダ16fl,16fr,16rl,16rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に形成されている。
【0013】
車両1には、エンジン2を制御するエンジン制御装置21、自動変速装置3を制御するトランスミッション制御装置22、ブレーキ駆動部13を制御するブレーキ制御装置23が設けられており、これら各制御装置21、22、23は、制駆動力制御装置20と接続されている。
【0014】
制駆動力制御装置20は、例えば、特開平11−255004号公報等に開示される制御装置であり、走行路前方のカーブを無理なく通過させるため、必要に応じて警報、減速を行うものである。
【0015】
具体的には、路面摩擦係数と道路勾配から基準減速度を演算し、道路形状と路面摩擦係数を基に許容横加速度を演算して許容進入速度を演算する。また、判断対象のカーブまでの間の屈曲部分を等価な直線に補正した等価直線距離を演算する。そして、車速と許容進入速度と等価直線距離を基にした必要減速度を基準減速度から演算した警報減速度及び強制減速度と比較し、この結果に応じて、警報を実行すると共に、エンジン制御装置21、トランスミッション制御装置22、ブレーキ制御装置23に信号出力して必要な強制減速制御を行うように構成されている。
【0016】
また、制駆動力制御装置20は、後述する前後制駆動力制御装置30から前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtが入力されて、現在の前後軸の制駆動力と目標制駆動力Fxft、Fxrtとを比較して、前後軸の制駆動力が目標制駆動力Fxft、Fxrtとなるように制御が行われるようになっている。
【0017】
前後制駆動力制御装置30には、路面摩擦係数μを推定する路面摩擦係数推定装置31、横加速度(d2y/dt2)を検出する横加速度センサ32が接続されている。そして、前後制駆動力制御装置30は、図3のフローチャートに示すように、ステップ(以下、「S」と略称)S101で、必要パラメータ、すなわち、路面摩擦係数μ、横加速度(d2y/dt2)を読み込んだ後、S102で、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力を第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteとして算出し、S103で、目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力を第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとして算出する。そして、S104で、横加速度(d2y/dt2)を基に算出した前後軸のタイヤ横力Fyf、Fyrに基づいてグリップマージンMgを設定し、グリップマージンMgに応じて第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteと第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとを基に前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtを算出して制駆動力制御装置20に出力するように構成されている。
【0018】
すなわち、前後制駆動力制御装置30は、図2に示すように、第1の前後制駆動力算出部30a、第2の前後制駆動力算出部30b、前後軸の目標制駆動力算出部30cから主要に構成されている。
【0019】
第1の前後制駆動力算出部30aは、路面摩擦係数推定装置31から路面摩擦係数μが入力される。そして、図4に示す、第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrte算出ルーチンのフローチャートに従って第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteを算出して前後軸の目標制駆動力算出部30cに出力する。
【0020】
すなわち、図4のフローチャートでは、まず、S201で、前回の第1の前後制駆動力Fxfte(k-1)、Fxrte(k-1)を前後制駆動力Fxf、Fxrとする(Fxf=Fxfte(k-1)、Fxr=Fxrte(k-1))。
【0021】
S202では、以下(1)式により、制駆動による前後軸間の荷重移動dFzを算出する。
dFz=(Fxf+Fxr)・(h/L) …(1)
ここで、hは重心高、Lはホイールベースである。尚、前後制駆動力の符号は、駆動側を(+)とする。
【0022】
次いで、S203に進み、以下の(2)式により前軸の接地荷重Fzf、(3)式により後軸の接地荷重Fzrを算出する。
Fzf=Fzf0−dFz …(2)
Fzr=Fzr0+dFz …(3)
ここで、Fzf0、Fzr0は、制駆動力が0時(静止時)の前後軸接地荷重である。
【0023】
次に、S204に進み、予め設定しておいたマップ(図7参照)等を参照して、S203で算出した前後軸の接地荷重Fzf、Fzrを基に、前後荷重移動に対する非線形性のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf1、Fyr1を算出する。
【0024】
次いで、S205に進み、図8に示す、タイヤに作用する力の関係を基に、以下の(4)式により摩擦円の影響のみを考慮した前軸の最大タイヤ横力Fyf2、(5)式により摩擦円の影響のみを考慮した後軸の最大タイヤ横力Fyr2を算出する。
Fyf2=((Fzf・μ)2−Fxf2)1/2 …(4)
Fyr2=((Fzr・μ)2−Fxr2)1/2 …(5)
【0025】
次に、S206に進み、以下の(6)、(7)式により、摩擦円の影響のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf2、Fyr2を前後軸の横力係数Cyf2、Cyr2に変換する。
Cyf2=Fyf2/(Fzf・μ) …(6)
Cyr2=Fyr2/(Fzr・μ) …(7)
ここで、前後制駆動力Fxf、Fxrの絶対値と前後軸の横力係数Cyf2、Cyr2の関係は、図9に示すようになっている。
【0026】
次いで、S207に進み、以下の(8)、(9)式により、前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf3、Fyr3を算出する。
Fyf3=Fyf1・Cyf2 …(8)
Fyr3=Fyr1・Cyr2 …(9)
ここで、前後制駆動力Fxf、Fxrと前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf3、Fyr3の関係は、図10に示すようになっている。
【0027】
そして、S208に進み、前後制駆動力Fxf、Fxrが、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後制駆動力となっているか否か判定する。すなわち、制駆動に伴うエネルギ損失を、(|制駆動力|・タイヤのスリップ)と考えた場合、タイヤのスリップ(スリップ率)は制駆動力に比例するので、エネルギ損失は制駆動力の二乗に比例する。
【0028】
従って、前後制駆動力の二乗和(Fxf2+Fxr2)が最小であり、且つ、ステア特性であるFyf3、Fyr3の比(Fyf3:Fyr3)が目標とする所定値(Cf:Cr);例えば、ニュートラルステア時の比)か否かを判定する。
【0029】
具体的には、ステア特性が、Fyr3・(Cf−ε)≦Fyf3・Cr≦Fyr3・(Cf+ε)の関係で(εは定数)、略目標ステア特性であり、且つ、(Fxf2+Fxr2)≧(Fxfte(k-1)2+Fxrte(k-1)2)であり、エネルギ損失が前回の算出値を維持若しくは増加傾向の場合の時は、前後制駆動力Fxf、Fxrが、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後制駆動力となっていると判定してS209に進んで、Fxfte=Fxf、Fxrte=Fxrとし、S210に進んで、これら第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteを前後軸の目標制駆動力算出部30cに出力してルーチンを抜ける。
【0030】
一方、S208で、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後制駆動力となっていない場合は、S211に進んで、以下のように、前後制駆動力Fxf、Fxrを修正してS202からの処理を繰り返す。
【0031】
すなわち、Fyr3・(Cf−ε)≧Fyf3・Crであり、前輪側の最大タイヤ横力が小さく、目標ステアに対してアンダステア傾向の場合は、
Fxf=Fxf−sign(Fxf)・Δ1 …(10)
Fxr=Fxr+sign(Fxr)・Δ1 …(11)
ここで、sign(Fxf)はFxfの符号、sign(Fxr)はFxrの符号、Δ1は予め設定する微少量である。
【0032】
また、Fyf3・Cr≧Fyr3・(Cf+ε)であり、前輪側の最大タイヤ横力が大きく、目標ステアに対してオーバステア傾向の場合は、
Fxf=Fxf+sign(Fxf)・Δ1 …(12)
Fxr=Fxr−sign(Fxr)・Δ1 …(13)
更に、Fyr3・(Cf−ε)≦Fyf3・Cr≦Fyr3・(Cf+ε)の関係で、略目標ステア特性であり、且つ、(Fxf2+Fxr2)<(Fxfte(k-1)2+Fxrte(k-1)2)であり、エネルギ損失が前回の算出値に対して減少傾向で更にエネルギ損失を減少させることができる時は、
Fxf=Fxf−Cf・Δ2 …(14)
Fxr=Fxr−Cr・Δ2 …(15)
ここで、Δ2は予め設定する微少量である。
【0033】
このように、S202〜S211の処理を繰り返すことにより、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力を第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteとして算出するのである。
【0034】
第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteは、具体的には、図11に示すように、エネルギ損失最小化時の目標総制駆動力Fxte_b、Fxte_a、エネルギ損失最小化時の制駆動力前後配分比をDe_b、De_aとすると、制動時におけるエネルギ損失最小化の前後制動力Fxfte_b、Fxrte_b、駆動時におけるエネルギ損失最小化の前後駆動力Fxfte_a、Fxrte_aは、以下の(16)式〜(19)式で示される。
【0035】
Fxfte_b=Fxte_b・De_b …(16)
Fxrte_b=Fxte_b・(1−De_b) …(17)
Fxfte_a=Fxte_a・De_a …(18)
Fxrte_a=Fxte_a・(1−De_a) …(19)
このように、第1の前後制駆動力算出部30aは、最大タイヤ横力算出手段、第1の前後制駆動力算出手段として設けられている。
【0036】
第2の前後制駆動力算出部30bは、路面摩擦係数推定装置31から路面摩擦係数μが入力される。そして、図5に示す、第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtp算出ルーチンのフローチャートに従って第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpを算出して前後軸の目標制駆動力算出部30cに出力する。
【0037】
すなわち、図5のフローチャートでは、まず、S301で、前回の第2の前後制駆動力Fxftp(k-1)、Fxrtp(k-1)を前後制駆動力Fxf、Fxrとする(Fxf=Fxftp(k-1)、Fxr=Fxrtp(k-1))。
【0038】
以下、S302〜S307の処理は、前述の、第1の前後制駆動力算出部30aにおけるS202〜S207と同じ処理であり、S302では、前述の(1)式により、制駆動による前後軸間の荷重移動dFzを算出する。
【0039】
次に、S303に進むと、前述の(2)、(3)式により、前後軸の接地荷重Fzf、Fzrを算出する。
【0040】
次いで、S304に進み、予め設定しておいたマップ(図7参照)等を参照して、S303で算出した前後軸の接地荷重Fzf、Fzrを基に、前後荷重移動に対する非線形性のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf1、Fyr1を算出する。
【0041】
次に、S305進み、図8に示す、タイヤに作用する力の関係を基に、前述の(4)、(5)式により、摩擦円の影響のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf2、Fyr2を算出する。
次いで、S306に進み、前述の(6)、(7)式により、摩擦円の影響のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf2、Fyr2を前後軸の横力係数Cyf2、Cyr2に変換する。
【0042】
次に、S307に進み、前述の(8)、(9)式により、前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf3、Fyr3を算出する。
【0043】
そして、S308に進み、前後制駆動力Fxf、Fxrが、目標ステアを実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後制駆動力となっているか否か判定する。すなわち、前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力Fyf3、Fyr3の和(Fyf3+Fyr3)が最大であり、且つ、ステア特性であるFyf3、Fyr3の比(Fyf3:Fyr3)が目標とする所定値(Cf:Cr);例えば、ニュートラルステア時の比)か否かを判定する。
【0044】
具体的には、ステア特性が、Fyr3・(Cf−ε)≦Fyf3・Cr≦Fyr3・(Cf+ε)の関係で(εは定数)、略目標ステア特性であり、且つ、(Fyf3+Fyr3)≦(Fyf3(k-1)+Fyr3(k-1))であり、前後軸の最大タイヤ横力の和が前回の算出値を維持若しくは減少傾向の場合の時は、前後制駆動力Fxf、Fxrが、目標ステアを実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後制駆動力となっていると判定してS309に進んで、Fxftp=Fxf、Fxrtp=Fxrとし、S310に進んで、これら第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpを前後軸の目標制駆動力算出部30cに出力してルーチンを抜ける。
【0045】
一方、S308で、目標ステアを実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後制駆動力となっていない場合は、S311に進んで、以下のように、前後制駆動力Fxf、Fxrを修正してS302からの処理を繰り返す。
【0046】
すなわち、Fyr3・(Cf−ε)≧Fyf3・Crであり、前輪側の最大タイヤ横力が小さく、目標ステアに対してアンダステア傾向の場合は、
Fxf=Fxf−sign(Fxf)・Δ1 …(20)
Fxr=Fxr+sign(Fxr)・Δ1 …(21)
ここで、sign(Fxf)はFxfの符号、sign(Fxr)はFxrの符号、Δ1は予め設定する微少量である。
【0047】
また、Fyf3・Cr≧Fyr3・(Cf+ε)であり、前輪側の最大タイヤ横力が大きく、目標ステアに対してオーバステア傾向の場合は、
Fxf=Fxf+sign(Fxf)・Δ1 …(22)
Fxr=Fxr−sign(Fxr)・Δ1 …(23)
更に、Fyr3・(Cf−ε)≦Fyf3・Cr≦Fyr3・(Cf+ε)の関係で、略目標ステア特性であり、且つ、(Fyf3+Fyr3)>(Fyf3(k-1)+Fyr3(k-1))であり、前後軸の最大タイヤ横力の和が前回の算出値に対して増加傾向の場合の時は、
Fxf=Fxf−Cf・Δ2 …(24)
Fxr=Fxr−Cr・Δ2 …(25)
ここで、Δ2は予め設定する微少量である。
【0048】
このように、S302〜S311の処理を繰り返すことにより、目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力を第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとして算出する。換言すれば、第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpは、コーナリング性能を最大にする前後制駆動力Fxftp、Fxrtpとなっている。
【0049】
第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpは、具体的には、図11に示すように、コーナリング性能最大化時の目標総制駆動力Fxtp_b、Fxtp_a、コーナリング性能最大化時の制駆動力前後配分比をDp_b、Dp_aとすると、制動時におけるコーナリング性能最大化の前後制動力Fxftp_b、Fxrtp_b、駆動時におけるコーナリング性能最大化の前後駆動力Fxftp_a、Fxrtp_aは、以下の(26)式〜(29)式で示される。
【0050】
Fxftp_b=Fxtp_b・Dp_b …(26)
Fxrtp_b=Fxtp_b・(1−Dp_b) …(27)
Fxftp_a=Fxtp_a・Dp_a …(28)
Fxrtp_a=Fxtp_a・(1−Dp_a) …(29)
このように、第2の前後制駆動力算出部30bは、最大タイヤ横力算出手段、第2の前後制駆動力算出手段として設けられている。
【0051】
前後軸の目標制駆動力算出部30cは、横加速度センサ32から横加速度(d2y/dt2)が、第1の前後制駆動力算出部30aから第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteが、第2の前後制駆動力算出部30bから第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpが入力される。そして、図6に示す、前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrt算出ルーチンのフローチャートに従って前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtを算出して制駆動力制御装置20に出力する。
【0052】
すなわち、図6のフローチャートでは、まず、S401で、以下(30)、(31)式により、前後軸のタイヤ横力Fyf、Fyrを算出する。
Fyf=m・(d2y/dt2)・(Lr/L) …(30)
Fyr=m・(d2y/dt2)・(Lf/L) …(31)
ここで、mは車両質量、Lfは前軸−重心間距離、Lrは後軸−重心間距離である。
【0053】
次いで、S402に進み、以下の(32)式により、グリップマージンMgを設定するする。
【0054】
Mg=1−max(Fyf/(Fzf0・μ),Fyr/(Fzr0・μ)) …(32)
すなわち、上述の(32)式からも明らかなように、グリップマージンMgは、前後輪のグリップの余裕を示す値であり、大きな値ほど余裕がある(小さな値ほど余裕がない)ことを示す値となっている。
【0055】
次に、S403に進み、予め設定しておいたマップ(例えば、図12)等を参照して、グリップマージンMgを基に、制御強さ係数Keと制御比率係数Kpを設定する。制御強さ係数Keは、後述の(33)、(34)式に示すように、全体の制御強さを設定する係数であり、図12に示すように、グリップマージンMgが大きいほど小さな値に設定される。また、制御比率係数Kpは、後述の(33)、(34)式に示すように、第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteと第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpの比率を設定する係数であり、図12に示すように、グリップマージンMgが大きいほど小さな値に設定される。
【0056】
次いで、S404に進んで、例えば、以下の(33)、(34)式により、前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtを算出して制駆動力制御装置20に出力してルーチンを抜ける。
Fxft=Ke・((1−Kp)・Fxfte+Kp・Fxftp) …(33)
Fxrt=Ke・((1−Kp)・Fxrte+Kp・Fxrtp) …(34)
すなわち、上述の(33)、(34)式により、グリップマージンMgが大きいほど、制御比率係数Kpが小さく設定され、第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteの比率が大きくなり、第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpの比率が小さくなる。また、グリップマージンMgが大きいほど、制御強さ係数Keが小さく設定され、前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrt全体が小さく設定される。
【0057】
逆に、グリップマージンMgが小さいほど、制御比率係数Kpが大きく設定され、第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrteの比率が小さくなり、第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtpの比率が大きくなる。また、グリップマージンMgが小さいほど、制御強さ係数Keが大きく設定され、前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrt全体が大きく設定される。
【0058】
このように、前後軸の目標制駆動力算出部30cは、グリップマージン算出手段、目標制駆動力算出手段として設けられている。
【0059】
そして、制駆動力制御装置20は、前後制駆動力制御装置30の前後軸の目標制駆動力算出部30cから前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtが入力されると、現在の前後軸の制駆動力と目標制駆動力Fxft、Fxrtとを比較して、前後軸の制駆動力が目標制駆動力Fxft、Fxrtとなるように制御が行われるようになっている。
【0060】
このように本発明の実施の形態によれば、タイヤのグリップマージンMgが大きいほど、目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力(第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrte)の比率が大きくなるように制御する一方、タイヤのグリップマージンMgが小さい領域では、前後軸の最大タイヤ横力を基に目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力(第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtp)の比率が大きくなるように制御する。また、タイヤのグリップマージンMgが大きいほど、前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrtが小さくなるように制御する。このため、タイヤのグリップマージンが大きい領域では、目標ステア特性を実現しつつ、制駆動力の制御量を抑制して、エネルギ損失最小の制駆動力として、走行抵抗の増加を抑え、走行エネルギの損失が少ないスムーズで高燃費な走りを実現することが可能となっている。また、タイヤのグリップマージンが小さい、危険回避等の限界領域では、ハンドル操作に対する車両応答(旋回横加速度)が最大になるように制駆動力が制御されることになり、結果的に減速制御の効果も得られる。
【0061】
尚、制駆動力制御装置20は、本実施の形態で説明したものに限るものではなく、他のブレーキ制御装置、駆動力制御装置等であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】車両運動制御装置を搭載した車両の概略構成を示す説明図
【図2】前後制駆動力制御装置の機能ブロック図
【図3】前後制駆動力制御プログラムのフローチャート
【図4】第1の前後制駆動力Fxfte、Fxrte算出ルーチンのフローチャート
【図5】第2の前後制駆動力Fxftp、Fxrtp算出ルーチンのフローチャート
【図6】前後軸の目標制駆動力Fxft、Fxrt算出ルーチンのフローチャート
【図7】接地荷重と前後荷重移動に対する非線形性のみを考慮した最大タイヤ横力の特性図
【図8】摩擦円の影響のみを考慮した前後軸の最大タイヤ横力の説明図
【図9】前後軸の横力係数の説明図
【図10】前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した最大タイヤ横力の特性図
【図11】制駆動のそれぞれの領域におけるエネルギ損失最小化、コーナリング性能最大化する制駆動力の詳細説明図
【図12】グリップマージンにより設定する制御強さ係数Keと制御比率係数Kpの説明図
【符号の説明】
【0063】
1 車両
2 エンジン
3 自動変速装置
13 ブレーキ駆動部
20 制駆動力制御装置
21 エンジン制御装置
22 トランスミッション制御装置
23 ブレーキ制御装置
30 前後制駆動力制御装置
30a 第1の前後制駆動力算出部(最大タイヤ横力算出手段、第1の前後制駆動力算出手段)
30b 第2の前後制駆動力算出部(最大タイヤ横力算出手段、第2の前後制駆動力算出手段)
30c 前後軸の目標制駆動力算出部(グリップマージン算出手段、目標制駆動力算出手段)
31 路面摩擦係数推定装置
32 横加速度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後軸の制駆動力と路面情報に応じて前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力を算出する最大タイヤ横力算出手段と、
上記前後軸の制駆動力と上記前後軸の最大タイヤ横力を基に目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力を第1の前後制駆動力として算出する第1の前後制駆動力算出手段と、
上記前後軸の制駆動力と上記前後軸の最大タイヤ横力を基に目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力を第2の前後制駆動力として算出する第2の前後制駆動力算出手段と、
車両の走行状態を基に前後輪のグリップの余裕をグリップマージンとして算出するグリップマージン算出手段と、
上記グリップマージンに応じて上記第1の前後制駆動力と上記第2の前後制駆動力とを基に前後軸の目標制駆動力を算出する目標制駆動力算出手段と、
を備えたことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項2】
上記第1の前後制駆動力算出手段は、上記前後軸の制駆動力の二乗和と上記前後軸の最大タイヤ横力によるステア特性を算出し、この結果に応じて上記前後軸の制駆動力を修正して上記第1の前後制駆動力を算出することを特徴とする請求項1記載の車両運動制御装置。
【請求項3】
上記第2の前後制駆動力算出手段は、上記前後軸の最大タイヤ横力の和と上記前後軸の最大タイヤ横力によるステア特性を算出し、この結果に応じて上記前後軸の制駆動力を修正して上記第2の前後制駆動力を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両運動制御装置。
【請求項4】
上記グリップマージン算出手段は、路面情報と横加速度を基に算出した前後軸のタイヤ横力に基づいて上記グリップマージンを設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の車両運動制御装置。
【請求項5】
上記目標制駆動力算出手段は、上記前後輪のグリップの余裕が少なくなるほど上記第2の前後制駆動力の割合を増加させることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の車両運動制御装置。
【請求項6】
上記目標制駆動力算出手段は、上記前後輪のグリップの余裕が大きくなるほど上記第1の前後制駆動力の割合を増加させることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の車両運動制御装置。
【請求項7】
上記目標制駆動力算出手段は、上記前後輪のグリップの余裕が大きくなるほど上記前後軸の目標制駆動力を小さく設定することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の車両運動制御装置。
【請求項1】
前後軸の制駆動力と路面情報に応じて前後荷重移動に対する非線形性と摩擦円の影響を考慮した前後軸の最大タイヤ横力を算出する最大タイヤ横力算出手段と、
上記前後軸の制駆動力と上記前後軸の最大タイヤ横力を基に目標ステア特性を実現するエネルギ損失最小の前後軸の制駆動力を第1の前後制駆動力として算出する第1の前後制駆動力算出手段と、
上記前後軸の制駆動力と上記前後軸の最大タイヤ横力を基に目標ステア特性を実現しなおかつ前後軸の最大タイヤ横力の和を最大にする前後軸の制駆動力を第2の前後制駆動力として算出する第2の前後制駆動力算出手段と、
車両の走行状態を基に前後輪のグリップの余裕をグリップマージンとして算出するグリップマージン算出手段と、
上記グリップマージンに応じて上記第1の前後制駆動力と上記第2の前後制駆動力とを基に前後軸の目標制駆動力を算出する目標制駆動力算出手段と、
を備えたことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項2】
上記第1の前後制駆動力算出手段は、上記前後軸の制駆動力の二乗和と上記前後軸の最大タイヤ横力によるステア特性を算出し、この結果に応じて上記前後軸の制駆動力を修正して上記第1の前後制駆動力を算出することを特徴とする請求項1記載の車両運動制御装置。
【請求項3】
上記第2の前後制駆動力算出手段は、上記前後軸の最大タイヤ横力の和と上記前後軸の最大タイヤ横力によるステア特性を算出し、この結果に応じて上記前後軸の制駆動力を修正して上記第2の前後制駆動力を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両運動制御装置。
【請求項4】
上記グリップマージン算出手段は、路面情報と横加速度を基に算出した前後軸のタイヤ横力に基づいて上記グリップマージンを設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の車両運動制御装置。
【請求項5】
上記目標制駆動力算出手段は、上記前後輪のグリップの余裕が少なくなるほど上記第2の前後制駆動力の割合を増加させることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の車両運動制御装置。
【請求項6】
上記目標制駆動力算出手段は、上記前後輪のグリップの余裕が大きくなるほど上記第1の前後制駆動力の割合を増加させることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の車両運動制御装置。
【請求項7】
上記目標制駆動力算出手段は、上記前後輪のグリップの余裕が大きくなるほど上記前後軸の目標制駆動力を小さく設定することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の車両運動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−149740(P2010−149740A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330905(P2008−330905)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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