説明

車体制振構造

【課題】車体の捩り振動を効果的に抑制することができる車体制振構造を得る。
【解決手段】車体制振構造10では、車室Cの前方に配置されたエンジンルームEを上側から覆うエンジンフード32の自動車車体Bに対する支持剛性を調整することで、該エンジンフード32の捩り振動の共振周波数feを、自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbに一致させている。これにより、エンジンフード32をダイナミックダンパとして機能させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の捩り振動を抑制するための車体制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両衝突時の折れを促進するための折れ促進ビードが形成されたエンジンフードにてエンジンルームを覆い、かつエンジンフードにおける折れ促進ビードよりも前方部分と車体とを補強部材で繋ぐことで、エンジンフードの曲げ共振の振幅を抑制し、これにより車体曲げ振動を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実公平7−19959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の如き従来の技術は、エンジンフードの振動に起因する車体の曲げ振動を抑制するものであり、車体の捩り振動の抑制には寄与しない。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、車体の捩り振動を効果的に抑制することができる車体制振構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る車体制振構造は、車室の前方又は後方に配置された空間を上側から覆うフード部材の捩り振動の共振周波数を、車体の捩り振動の共振周波数に一致させた。
【0006】
請求項1記載の車体制振構造では、フード部材の捩り振動の共振周波数が車体の捩り振動の共振周波数に略一致しているため、車体の捩り振動の共振周波数の起振力又は変位が車体に入力されると、フード部材がダイナミックダンパ(動吸振器)として機能する。これにより、この周波数(帯域)では、主にフードが捩り振動して車体の捩り振動が抑制される。
【0007】
このように、請求項1記載の車体制振構造では、車体の捩り振動を効果的に抑制することができる。
【0008】
請求項2記載の発明に係る車体制振構造は、 車室の前方又は後方に配置された空間を上側から覆うフード部材の捩り振動の共振周波数を、車体の捩り振動の共振周波数に一致させるための共振周波数合致手段を備えた。
【0009】
請求項2記載の車体制振構造では、共振周波数合致手段によって、フード部材の捩り振動の共振周波数が車体の捩り振動の共振周波数に略一致されているため、車体の捩り振動の共振周波数の起振力又は変位が車体に入力されると、フード部材がダイナミックダンパ(動吸振器)として機能する。これにより、この周波数(帯域)では、主にフードが捩り振動して車体の捩り振動が抑制される。
【0010】
このように、請求項2記載の車体制振構造では、車体の捩り振動を効果的に抑制することができる。
【0011】
請求項3記載の発明に係る車体制振構造は、請求項2記載の車体制振構造において、前記共振周波数合致手段は、前記フード部材の捩り振動の共振周波数を前記車体の捩り振動の共振周波数に一致させるように、前記車体に対する前記フード部材の支持剛性を設定している。
【0012】
請求項3記載の車体制振構造では、車体に対するフード部材の支持剛性すなわちダイナミックダンパのばね定数の設定によって、該フード部材の捩り振動の共振周波数を車体の捩り振動の共振周波数に略一致させている。
【0013】
請求項4記載の発明に係る車体制振構造は、請求項2記載の車体制振構造において、前記共振周波数合致手段は、前記フード部材の捩り振動の共振周波数を前記車体の捩り振動の共振周波数に一致させるように、前記フード部材の車幅方向両端側の質量を設定している。
【0014】
請求項4記載の車体制振構造では、フード部材における捩り振動の振幅が大きくなり易い(腹位置に近い)車幅方向両端側において、該フード部材(の部分)質量が設定されることによって、該フード部材の捩り振動の共振周波数を車体の捩り振動の共振周波数に略一致させている(車体の捩り振動の共振周波数でフードの捩り振動が起こり易く設定されている)。
【0015】
請求項5記載の発明に係る車体制振構造は、請求項2記載の車体制振構造において、前記共振周波数合致手段は、前記フード部材の捩り振動の共振周波数を前記車体の捩り振動の共振周波数に一致させるように、前記フード部材の捩り剛性を設定している。
【0016】
請求項5記載の車体制振構造では、フード部材自体の捩り剛性すなわちダイナミックダンパのばね定数の設定によって、該フード部材の捩り振動の共振周波数を車体の捩り振動の共振周波数に略一致させている。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明に係る車体制振構造は、車体の捩り振動を効果的に抑制することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態に係る車体制振構造10について、図1乃至図5に基づいて説明する。なお、図中矢印FRは車体前後方向の前方向を、矢印UPは車体上下方向の上方向を示し、矢印RH、矢印LHは矢印FR方向を見た場合を基準とした右側、左側(車幅方向外側)をそれぞれ示す。
【0019】
図1には、車体制振構造10が適用された自動車車体Bの前部が斜視図にて示されている。この図に示される如く、自動車車体Bは、それぞれ車体前後方向に長手とされた左右一対のフロントサイドメンバ12を備えている。左右一対のフロントサイドメンバ12の前部12Aにおける前端側は、正面視で矩形枠状に形成されたラジエータサポート14にて架け渡されている。また、各フロントサイドメンバ12の長手方向中間部に形成されたキック部12Bは、ダッシュパネル16が接合されており、キック部12Bよりも後側の後部12Cは、図示しないフロアパネルの下面側に接合されている。各フロントサイドメンバ12キック部12B、後部12Cは、車幅方向に長手とされた図示しない複数のクロメンバにて架け渡されている。
【0020】
また、自動車車体Bは、ダッシュパネル16の車幅方向両外端は、それぞれフロントピラー18の下部18Aに接合されている。左右のフロントピラー18の下端18Bは、それぞれ車幅方向外端で車体前後方向に長手の骨格を成すロッカ20の前端20Aに連結されている。一方、左右のフロントピラー18の上端18Cは、それぞれ車体前後方向に長手のルーフサイドレール22の前端22Aに連結されている。ルーフサイドレール22とロッカ20とは、車体前後方向の中間部間、後端部間がそれぞれ図示しないセンタピラー、リヤピラーにて連結されている。
【0021】
左右のルーフサイドレール22は、図示しない複数のルーフクロスにて架け渡され、これらのルーフクロスとでルーフパネル24を支持している。また、左右のフロントピラー18の上下方向中間部間は、車幅方向に長手とされたカウル26にて架け渡されている。左右のフロントピラー18の上部18Dと、カウル26と、ルーフサイドレール22の前端22A間を架け渡す図示しないルーフクロスとで、フロントウインドシールドガラス28を支持している。
【0022】
この自動車車体Bでは、ダッシュパネル16よりも後側に車室Cが形成されており、車室Cは、フロントウインドシールドガラス28、ルーフパネル24、図示しないドア等にて囲まれた空間とされている。
【0023】
さらに、自動車車体Bでは、左右のフロントピラー18の下部18Aにそれぞれエプロン30の後端30Aが接続されている(左側のエプロン30は図示略)。また、左右一対のフロントサイドメンバ12の図示しない前端間は、フロントバンパを構成するバンパリインフォースメントにて架け渡されている。これにより、自動車車体Bでは、車室Cの前方に、ダッシュパネル16と左右のエプロン30とフロントバンパとで囲まれ上向きに開口する空間が形成されている。
【0024】
この空間は、本実施形態では、図示しない内燃機関エンジンを収容するためのエンジンルームEとされている。自動車車体Bは、各フロントサイドメンバ12を含んで構成される前部骨格部がエンジンマウント等を介して内燃機関エンジンを支持している。本実施形態では、内燃機関エンジンはクランクシャフトの軸方向を車体前後方向に一致させて縦置きされている。この実施形態では、車体制振構造10は、エンジンルームEに配置された内燃機関によって後輪を駆動するエンジン前置きの後輪駆動車(FR車)に適用されている。
【0025】
そして、エンジンルームEは、図1に想像線にて示される如く、フード部材としてのエンジンフード32にて上側から覆われている。図2(A)に示される如く、エンジンフード32は、その車幅方向両側部32Aに各後端32Bがそれぞれフードヒンジ34を介して、車幅方向に沿う軸線廻りに回動可能に支持されている。各フードヒンジ34は、エプロン30の後端部に固定されたヒンジブラケット34Aと、エンジンフード32の後端32Bにおける車幅方向外端に固定されたヒンジアーム34Bとを車幅方向に沿うヒンジ軸34Cにて連結して構成されている。これにより、エンジンフード32は、ヒンジアーム34Bのヒンジブラケット34Aに対するヒンジ軸34C廻りの回動位置に応じて、エンジンルームEを上側から覆う閉止位置と、エンジンルームEを開放する開放位置とをとり得る構成とされている。
【0026】
また、エンジンフード32の前端における車幅方向中央部には、ストライカ36が固定されている。ストライカ36は、エンジンフード32が閉止位置に位置する状態で、ラジエータサポート14に固定されたフードロックによってロックされるようになっている。さらに、エンジンフード32の前端32Cにおける左右両側には、それぞれゴム等の弾性体より成るフードストッパ38が設けられている。各フードストッパ38は、ストライカ36がフードロックにてロックされた状態では、車体に設けられたストッパ受け部に押し付けられて弾性変形状態で保持されるようになっている。これらにより、閉止位置に位置するエンジンフード32の開放位置側への移動、ガタツキが防止されている。なお、フードストッパ38は、自動車車体B側に取り付けられても良い。
【0027】
さらにまた、閉止位置に位置するエンジンフード32は、その車幅方向両側部32Aと自動車車体Bにおけるエプロン30の上向き面との間にシール部材であるウェザストリップ40を挟み込んでいる。ウェザストリップ40は、ゴム等の弾性体にて構成され、弾性変形状態でエンジンフード32の車幅方向両側部32Aとエプロン30との間に挟み込まれる構成とされている。
【0028】
以上のように閉止位置で車体Bに支持されるエンジンフード32は、その捩り振動(モード)の共振周波数feの起振力又は変位が入力されると、図2(B)及び図1に矢印Tにて示される如く、一対の対角部に上向きの振幅が生じると共に他対の対角部に下向きの振幅が生じるような捩り振動を生じる。一方、自動車車体Bは、その捩り振動の共振周波数fbの起振力又は変位が入力されると、図1に矢印Sにて示される如く左右のフロントサイドメンバ12が上下逆相で振れるような捩り振動を生じる。このような左右のフロントサイドメンバ12を含む車体骨格の振動モードは自動車車体B全体の振動モードとして把握することができる。
【0029】
そして、車体制振構造10では、エンジンフード32の捩り振動の共振周波数feが、自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbに略一致する構成とされている。この実施形態では、図3に示される如く、フードストッパ38をエンジンフード32の前端32C側に左右各2つ設けることで、エンジンフード32の自動車車体Bに対する支持剛性(捩じり方向の支持剛性)を高めて、エンジンフード32の共振周波数feを自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbに略一致させている。
【0030】
すなわち、フードストッパ38を左右に各1つ設けた一般的な構成では、図4に破線にて示されるようにエンジンフード32の捩り振動の共振周波数felは自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbに対し低周波側にずれているが、車体制振構造10では、フードストッパ38を増設することで捩り自動車車体Bの振動の共振周波数fbに略一致するエンジンフード32の共振周波数feを得た。したがって、この実施形態では、フードストッパ38をエンジンフード32の前端32Cの左右両側にそれぞれ複数設けた構造が、本発明における共振周波数合致手段(の主要部)に相当する。
【0031】
なお、エンジンフード32の捩じり振動系(後述するダイナミックダンパとしての)ばね定数は、エンジンフード32の自動車車体Bに対する支持剛性(支持系のばね特性)と、エンジンフード32自体の捩じり剛性との複合ばねのばね定数として把握される。弧の実施形態では、前者の支持剛性をチューニングすることで、上記共振周波数fbに略一致する共振周波数feを得ている。
【0032】
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
【0033】
上記構成の車体制振構造10が適用された自動車車体Bでは、フロントサイドメンバ12を含む車体骨格に対し、例えば縦置きされた内燃機関エンジンから左右逆相の強制力が入力されたり、路面からサスペンションを介して左右逆相の強制力が入力されたりする。このような強制力の周波数が自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fb、すなわちエンジンフード32の捩り振動の共振周波数feの近傍(例えばエンジンのアイドル周波数等)になると、該エンジンフード32の捩り振動が生じることで、自動車車体Bの捩り振動が抑制される。換言すれば、エンジンフード32がダイナミックダンパとして機能する。
【0034】
これにより、車体制振構造10が適用された自動車車体Bでは、その骨格の捩じれ振動が抑制され、該骨格の振動に起因する車室音の低減が図られる。すなわち、車体骨格の振動は、車室Cを囲むルーフパネル24やフロントウインドシールドガラス28等のパネル材(以下、発音パネルという)の振動を生じさせ、車室内のこもり音の原因となるが、車体制振構造10では車体骨格自体の振動が抑制されるので、車室音(特にこもり音)が効果的に抑制される。
【0035】
図5(A)には、車体制振構造10が適用された自動車車体Bにおけるフロントサイドメンバ12の振動レベルの周波数応答が実線にて示されており、また比較例として車体制振構造10が適用されていない自動車車体におけるフロントサイドメンバ12の振動レベルの周波数応答が破線にて示されている。この比較例に係る構成では、エンジンフード32の捩り振動の共振周波数が図4に示す周波数felとされている。これらの比較から、略44Hz〜51Hzの周波数帯域で左右のフロントサイドメンバ12の振動レベルが低減し、特に48Hz付近での振動レベルのピーク振動が効果的吸収されることが判る。
【0036】
そして、図5(B)車体制振構造10が適用された自動車車体Bにおける車室騒音の音圧レベルの周波数応答が実線にて示されており、また上記した比較例に係る自動車車体における車室騒音の音圧レベルの周波数応答が破線にて示されている。これらの比較から、車体振動が抑えられることで、車室騒音のうち特に48Hz前後のこもり音が効果的に低減されることが確かめられた。この例では、こもり音が略5dB低減された。
【0037】
ところで、例えば、こもり音の原因となる(こもり音が問題となる周波数帯域の)自動車車体Bの捩り振動自体を抑制するためには、フロントサイドメンバ12を含む車体骨格への補強材の付加や骨格部材の板厚増加等の補強を行う方法もあるが、この場合、車体の質量増加が大きくなってしまう。また例えば、車体骨格の捩り振動事態を抑制することに代えて、発音パネルの振動(発音)を抑制する方法もあるが、この場合も、複数の発音パネル毎にダイナミックダンパやマスダンパを付加する等の対策を施す必要があり、車体質量が増すことになる。
【0038】
これらに対して、車体制振構造10では、上記の通りエンジンフード32をダイナミックダンパとして機能させることで自動車車体Bの捩り振動を抑制しているので、換言すれば、エンジンフード32の振動特性のチューニングによって自動車車体Bの捩り振動を抑制することができるため、車体骨格を補強する場合のように質量が増すことが殆どない。また、発音パネルに対する加振源となる車体振動を抑制するため、換言すれば、源流側での振動対策となるため、発音パネル毎の振動抑制対策に頼ることなく効果的に車室音を低減することができる。しかも、自動車車体Bの捩り振動を抑制対策は、発音パネル自体の振動抑制対策よりも該発音パネルの振動を安定的に抑えることができるため、確実なこもり音低減(品質向上)効果を得ることができる。
【0039】
さらに、車体制振構造10は、自動車車体Bの振動特性に合わせてエンジンフード32の振動特性をチューニングすれば車体捩り振動の抑制効果を得ることができるため、換言すれば、自動車車体Bとは独立してエンジンフード32の振動特性を設定することができる(コンポーネント開発が可能であり、車体B側では設計上の制約が減る)ため、自動車車体B(の骨格構造)自体を開発する場合と比較して、自動車車体Bの捩じり振動を抑制するための開発工数の低減を図ることができる。しかも、エンジンフード32を備えるほぼすべての車種に車体制振構造10を適用することができる。このため、車種毎に車体骨格を開発する場合と比較して、開発工数を大幅に低減することができる。
【0040】
このように、第1の実施形態に係る車体制振構造10では、自動車車体Bの捩り振動を効果的に抑制することができる。このため、車体骨格の補強や発音パネルの振動対策によって同等のこもり音低減効果を奏する構造と比較すると、車両全体としての質量低減、開発工数の低減、及びこれらによるコスト低減を図ることができる。
【0041】
(他の実施形態) 次に本発明の他の実施形態を説明する。なお、上記第1の実施系態又は前出の構成と基本的に同一の部品・部分については、上記第1の実施形態又は前出の構成と同一の符号を付して説明を省略し、また図示を省略する場合がある。
【0042】
(第2の実施形態) 図6には、本発明の第2の実施形態に係る車体制振構造50が図3に対応する斜視図にて示されている。この図に示される如く、車体制振構造50は、エンジンフード32の前端32Cに左右各2つ配置されたフードストッパ38に代えて、エンジンフード32の前端32Cの左右両側に各1つ配置された共振周波数合致手段としてのフードストッパ52を備える点で、第1の実施形態に係る車体制振構造10とは異なる。
【0043】
フードストッパ52は、その材質、寸法形状等によって、フードストッパ38よりも硬い弾性特性とされており、エンジンフード32の(ダイナミックダンパとしての)振動系において、1つで2つのフードストッパ38を並列したのと同等のばね定数を実現している。したがって、車体制振構造50では、エンジンフード32の捩じり振動共振周波数feは、自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbに略一致している。車体制振構造50の他の構成は、車体制振構造10の対応する構成と同じである。
【0044】
したがって、第2の実施形態に係る車体制振構造50によっても、第1の実施形態に係る車体制振構造10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0045】
なお、上記各実施形態では、エンジンフード32の前端32Cのフードストッパ38、フードストッパ52による支持剛性を高めることで、エンジンフード32の共振周波数feを高周波側にシフトする例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、エンジンフード32の振動特性のチューニング前における捩じり振動の共振周波数が、自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbよりも高い場合には、フードストッパ52を、フードストッパ38よりもエンジンフード32の支持剛性を低くするように柔らかい(低荷重で弾性変形する)設定とすることで、上記共振周波数fbに一致するエンジンフード32の共振周波数feを得ることができる。
【0046】
(第3の実施形態) 図7には、本発明の第3の実施形態に係る車体制振構造55が図3に対応する斜視図にて示されている。この図に示される如く、車体制振構造55は、エンジンフード32の前端32Cに左右各2つ配置されたフードストッパ38に代えて、エンジンフード32の前端32Cの左右両側に各1つ配置されたフードストッパ38と、エンジンフード32の車幅方向両側部32Aにおける後端32Bにそれぞれ各1つ設けられた共振周波数合致手段としてのフードストッパ56とを備える点で、第1の実施形態に係る車体制振構造10とは異なる。
【0047】
フードストッパ56は、エンジンフード32における通常はウェザストリップ40を介して車体に支持される部分で該エンジンフード32と自動車車体B(エプロン30)との間に介在することで、エンジンフード32の後端32Bにおける支持剛性を高めている。これにより、車体制振構造55では、エンジンフード32の捩じり振動共振周波数feは、自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbに略一致している。車体制振構造55の他の構成は、車体制振構造10の対応する構成と同じである。
【0048】
したがって、第3の実施形態に係る車体制振構造55によっても、第1の実施形態に係る車体制振構造10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0049】
(第4の実施形態) 図8には、本発明の第4の実施形態に係る車体制振構造60が図3に対応する斜視図にて示されている。この図に示される如く、車体制振構造60は、ウェザストリップ40に代えて、該ウェザストリップ40よりもエンジンフード32の支持剛性を高める共振周波数合致手段としてのウェザストリップ62を備える点で、第1の実施形態に係る車体制振構造10とは異なる。
【0050】
この車体制振構造60では、図示は省略するが、第3の実施形態に係る車体制振構造55と同様にフードストッパ38は、エンジンフード32の前端32Cの左右に各1つ設けられており、左右のウェザストリップ62が主たるエンジンフード32の共振周波数feのチューンニング要素とされている。そして、車体制振構造60では、上記の通りウェザストリップ62によってウェザストリップ40を用いた場合と比較してエンジンフード32の支持剛性が高められているため、エンジンフード32の捩じり振動共振周波数feは、自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbに略一致している。車体制振構造60の他の構成は、車体制振構造10の対応する構成と同じである。
【0051】
したがって、第4の実施形態に係る車体制振構造60によっても、第1の実施形態に係る車体制振構造10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0052】
なお、この実施形態においても、例えば、エンジンフード32の振動特性のチューニング前における捩じり振動の共振周波数が、自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbよりも高い場合には、ウェザストリップ62を相対的にやわらかい弾性特性とすることで、ウェザストリップ62によるエンジンフード32の支持剛性をウェザストリップ40による支持剛性よりも低くして、上記共振周波数fbに一致するエンジンフード32の共振周波数feを得ることができる。
【0053】
(第5の実施形態) 図9には、本発明の第5の実施形態に係る車体制振構造65が図3に対応する斜視図にて示されている。この図に示される如く、車体制振構造65は、エンジンフード32の前端32Cを複数のストライカ36にて車体に対しロックする点で、単一のストライカ36にロックされる車体制振構造10とは異なる。
【0054】
この実施形態では、ストライカ36は車幅方向に並列(離間)して2つ設けられており、それぞれフードロックによってロックされるようになっている。これにより、車体制振構造65では、エンジンフード32の車体に対する支持剛性が高められており、このエンジンフード32の捩じり振動共振周波数feは、自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbに略一致している。したがって、この実施形態では、ストライカ36を複数設けた構造が、本発明における共振周波数合致手段に相当する。
【0055】
車体制振構造65の他の構成は、車体制振構造10の対応する構成と同じである。
【0056】
したがって、第5の実施形態に係る車体制振構造65によっても、第1の実施形態に係る車体制振構造10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0057】
(第6の実施形態) 図10には、本発明の第6の実施形態に係る車体制振構造70が側断面図にて示されている。この図に示される如く、車体制振構造70は、エンジンフード32の車幅方向両側部32Aにおける各後端32Bがフードヒンジ34に弾性的に取り付けられている点で、エンジンフード32がフードヒンジ34に剛付けされた車体制振構造10とは異なる。
【0058】
具体的には、フードヒンジ34のヒンジアーム34Bとエンジンフード32の後端32Bとの間には、共振周波数合致手段としての弾性体(弾性素材)72が挟み込まれている。換言すれば、エンジンフード32は、弾性体72を介してフードヒンジ34に連結されている。これにより、エンジンフード32の車体に対する支持剛性が低められており、このエンジンフード32の捩じり振動共振周波数feは、自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbに略一致している。すなわち、この実施形態においては、エンジンフード32の振動特性のチューニング前における捩じり振動の共振周波数が自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbよりも高く、エンジンフード32の捩じり振動の共振周波数は、弾性体72の設置によって低周波側にシフトされて上記共振周波数fbに一致されている。車体制振構造70の他の構成は、車体制振構造10の対応する構成と同じである。
【0059】
したがって、第6の実施形態に係る車体制振構造70によっても、第1の実施形態に係る車体制振構造10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0060】
(第7の実施形態) 図11には、本発明の第7の実施形態に係る車体制振構造75が図3に対応する斜視図にて示されている。この図に示される如く、車体制振構造75は、エンジンフード32に共振周波数のチューニング要素すなわち共振周波数合致手段としてのマス部材76が設けられている点で、エンジンフード32の車体に対する支持剛性をチューニング要素とする車体制振構造10とは異なる。すなわち、車体制振構造75では、図示は省略するが、第3の実施形態に係る車体制振構造55と同様にフードストッパ38はエンジンフード32の前端32Cの左右に各1つ設けられており、マス部材76が主たるエンジンフード32の共振周波数feのチューンニング要素とされている。
【0061】
マス部材76は、エンジンフード32の車幅方向両側部32Aにそれぞれ設けられて、エンジンフード32における捩じり振動による振幅が大きい部分の質量を増している。これにより、エンジンフード32は、振動特性のチューニング前において自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbよりも高い捩じり振動の共振周波数が、該捩り振動の共振周波数fbに一致する共振周波数feにチューニングされている。また、上記の通り振幅が大きくなるエンジンフード32の車幅方向両側部32Aにマス部材76を配置することで、エンジンフード32の捩じり振動を生じ易い構成とされている。車体制振構造75の他の構成は、車体制振構造10の対応する構成と同じである。
【0062】
したがって、第7の実施形態に係る車体制振構造75によっても、第1の実施形態に係る車体制振構造10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。なお。マス部材76に代えて、エンジンフード32の車幅方向両側部32Aに部分的な厚肉部等のマス部を設定しても良い。
【0063】
(第8の実施形態) 図12には、本発明の第8の実施形態に係る車体制振構造80が斜視図にて示されている。この図に示される如く、車体制振構造80は、エンジンフード32に共振周波数のチューニング要素すなわち共振周波数合致手段として、該エンジンフード32自体の捩じり剛性を高め又は弱めるための剛性調整部82が設けられている点で、エンジンフード32の車体に対する支持剛性をチューニング要素とする車体制振構造10とは異なる。すなわち、車体制振構造80では、図示は省略するが、第3の実施形態に係る車体制振構造55と同様にフードストッパ38はエンジンフード32の前端32Cの左右に各1つ設けられており、剛性調整部82が主たるエンジンフード32の共振周波数feのチューンニング要素とされている。
【0064】
剛性調整部82は、この実施形態では、エンジンフード32の捩じり振動の振幅の節となる中央部から振幅の腹となる各対角部に延びる平面視X字状を成している。剛性調整部82は、例えば、エンジンフード32を構成するフードインナパネルにその縁部に倣う段部(折り曲げ部)やリブとして設定されてエンジンフード32のねじり剛性を高めることができ、また例えば他の部分よりも薄肉に構成されて32の捩じり剛性を低めることができる。なお、剛性調整部82は、エンジンフード32の意匠面を構成するフードアウタパネルにキャラクタラインとして形成しても良い。
【0065】
このような剛性調整部82によるエンジンフード32の捩じり剛性のチューニングによって、車体制振構造80では、エンジンフード32の捩じり振動共振周波数feが、自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbに略一致している。車体制振構造80の他の構成は、車体制振構造10の対応する構成と同じである。
【0066】
したがって、第8の実施形態に係る車体制振構造80によっても、第1の実施形態に係る車体制振構造10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0067】
なお、本発明は、上記の如く例示した各実施形態の構成には限られず、各種の構成によってエンジンフード32の捩じり振動の共振周波数feを自動車車体Bの捩り振動の共振周波数fbに一致させることができる。
【0068】
また、上記各実施形態では、車室Cの前方に形成されたエンジンルームEを覆うエンジンフード32を自動車車体Bの捩じれ振動に対するダイナミックダンパとして用いる例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、車室Cの後方に形成された空間を上側から覆うフード部材を自動車車体Bの捩じれ振動に対するダイナミックダンパとして持ちいうことができる。したがって、本発明が適用される車体の構造は、上記実施形態で例示した自動車車体Bに限られることはない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車体制振構造が適用された自動車車体の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車体制振構造を構成するエンジンフードを示す図であって、(A)は静的状態の斜視図、(B)は捩じり振動状態を誇張して示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る車体制振構造の要部を模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る車体制振構造を構成するエンジンフードの震度特性を示す線図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る車体制振構造による振動低減効果を示す図であって、(A)は車体振動の抑制効果を示す線図、(B)は車室音の低減効果を示す線図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る車体制振構造の要部を模式的に示す斜視図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る車体制振構造の要部を模式的に示す斜視図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る車体制振構造の要部を模式的に示す斜視図である。
【図9】本発明の第5の実施形態に係る車体制振構造の要部を模式的に示す斜視図である。
【図10】本発明の第6の実施形態に係る車体制振構造の要部を模式的に示す側断面図である。
【図11】本発明の第7の実施形態に係る車体制振構造の要部を模式的に示す斜視図である。
【図12】本発明の第8の実施形態に係る車体制振構造の要部を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
10 車体制振構造
32 エンジンフード(フード部材)
38 フードストッパ(共振周波数合致手段)
50・55・60・65・70・75・80 車体制振構造
52 フードストッパ(共振周波数合致手段)
56 フードストッパ(共振周波数合致手段)
62 ウェザストリップ(共振周波数合致手段)
72 弾性体(共振周波数合致手段)
76 マス部材(共振周波数合致手段)
82 剛性調整部(共振周波数合致手段)
B 自動車車体(車体)
C 車室
E エンジンルーム(車室の前方又は後方に配置された空間)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の前方又は後方に配置された空間を上側から覆うフード部材の捩り振動の共振周波数を、車体の捩り振動の共振周波数に一致させた車体制振構造。
【請求項2】
車室の前方又は後方に配置された空間を上側から覆うフード部材の捩り振動の共振周波数を、車体の捩り振動の共振周波数に一致させるための共振周波数合致手段を備えた車体制振構造。
【請求項3】
前記共振周波数合致手段は、前記フード部材の捩り振動の共振周波数を前記車体の捩り振動の共振周波数に一致させるように、前記車体に対する前記フード部材の支持剛性を設定している請求項2記載の車体制振構造。
【請求項4】
前記共振周波数合致手段は、前記フード部材の捩り振動の共振周波数を前記車体の捩り振動の共振周波数に一致させるように、前記フード部材の車幅方向両端側の質量を設定している請求項2記載の車体制振構造。
【請求項5】
前記共振周波数合致手段は、前記フード部材の捩り振動の共振周波数を前記車体の捩り振動の共振周波数に一致させるように、前記フード部材の捩り剛性を設定している請求項2記載の車体制振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−24056(P2008−24056A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196099(P2006−196099)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】