車輪用転がり軸受装置
【課題】温度ドリフトの発生を防止して、センサの信頼性をさらに高めることができる車輪用転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】車体側に固定される筒状の固定軌道輪1と、この固定軌道輪1の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪2、3と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体5とを備えた車輪用転がり軸受装置H。前記回転軌道輪2、3の車両インナ側端部の外周面とのギャップを検出する複数の変位センサ24を周方向に有する円環状のセンサハウジング16の車両アウタ側端部が、前記固定軌道輪1の車両インナ側端部内周面に圧入されており、且つ前記変位センサ24が合成樹脂又はゴム系材料で被覆されて前記センサハウジング16と一体化されている。
【解決手段】車体側に固定される筒状の固定軌道輪1と、この固定軌道輪1の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪2、3と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体5とを備えた車輪用転がり軸受装置H。前記回転軌道輪2、3の車両インナ側端部の外周面とのギャップを検出する複数の変位センサ24を周方向に有する円環状のセンサハウジング16の車両アウタ側端部が、前記固定軌道輪1の車両インナ側端部内周面に圧入されており、且つ前記変位センサ24が合成樹脂又はゴム系材料で被覆されて前記センサハウジング16と一体化されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用転がり軸受装置に関する。さらに詳しくは、自動車などの車両に用いられ、当該車両の車輪から情報を得るセンサを備えた車輪用転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車において、走行の際の運転制御を行うために車輪に作用する荷重や車輪の回転速度などといった種々の情報が必要とされている。このような情報を得るために、自動車の車輪が取り付けられる車輪用転がり軸受装置にセンサを設けることが提案されている。
このような車輪用転がり軸受装置として従来から知られているものに、車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の径方向内方に設けられ車輪が取り付けられる回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に設けられている複列の転動体とを備えた軸受装置があり、この軸受装置において、前述したセンサを固定軌道輪に設け、このセンサで回転軌道輪の情報を得るように構成されているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の軸受装置は、固定軌道輪において径方向に貫通する貫通孔が形成され、この貫通孔にセンサが挿入され固定されている。そして、センサの計測部を回転軌道輪の外周面に対向させ、センサが回転軌道輪の情報を取得している。
しかしながら、特許文献1に記載されている車輪用転がり軸受装置は、センサを固定軌道輪に複数設けるために当該固定軌道輪に貫通孔を複数形成する必要がある。この場合、固定軌道輪の製造工程において別の孔開け作業が必要となり、また、それぞれの貫通孔に対してセンサの取り付けが必要であり、組み立て作業が煩雑となる。さらに、センサと回転軌道輪との間のギャップ調整が、それぞれのセンサにおいて必要であり、組み立て工数が多くなるという問題点を有している。
【0004】
そこで本出願人は、さきに、複数のセンサを有していても各センサの位置調整を省略化でき、容易に組み立てることができる車輪用転がり軸受装置を提案した(特願2005−266481。以下、第1の提案という)。
この第1の提案に係る車輪用転がり軸受装置は、車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通されかつ車輪の取付部分をアウタ側に有する回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に設けられている複列の転動体とを備えた車輪用転がり軸受装置であって、前記回転軌道輪のインナ側端部の外周面とのギャップを検出する複数の変位センサを周方向に所定間隔おきに有するケース部材が設けられ、このケース部材が前記固定軌道輪のインナ側端部に取り付けられていることを特徴としている。
【0005】
そして、この構成によれば、ケース部材が複数の変位センサを有しており、このケース部材が固定軌道輪のインナ側端部に取り付けられているため、変位センサを個々に固定軌道輪に取り付ける必要がなく、固定軌道輪にセンサのための貫通孔を設ける必要がない。さらに、ケース部材を固定軌道輪に取り付けることによって、回転軌道輪のインナ側端部の外周面に対して各変位センサの位置決めがされるため、組み立てが容易となる。
また、変位センサは、車輪に作用した径方向の荷重により生じた回転軌道輪のインナ側端部の外周面とのギャップの変化を検出することができる。さらに、回転軌道輪が固定軌道輪に対して傾くような変位をした場合(モーメントが作用した場合)、前記ギャップの変化は、軸方向中央部よりもインナ側端部において大きくなるため、そのインナ側端部の外周面を変位センサが計測することで、検出精度を高めることができる。
【0006】
一方、前記第1の提案に係る車輪用転がり軸受装置では、軸方向の並進荷重を求めるために、回転軌道輪の軸端面での軸方向変位を検出する別の変位センサを、固定軌道輪のインナ側端部を閉塞するケース部材に増設している。このように回転軌道輪の軸端面での軸方向変位を検出する変位センサを増設すると、回転軌道輪の軸端面が自由端となっている従動輪用の軸受装置には採用できるが、回転駆動輪の軸端面にドライブシャフトの等速ジョイントが連結される駆動輪用の軸受装置に採用することができず、また、従動輪用の軸受装置の場合でも、ABSセンサなどの荷重計測以外のセンサを装着し難くなることから、本出願人は、さらに、前記別の変位センサを省略することができる車輪用転がり軸受装置を提案している(特願2005−322651。以下、第2の提案という)。
【0007】
この第2の提案に係る車輪用転がり軸受装置は、車体側との固定部分を有する固定軌道輪と、この固定軌道輪に対して同軸心状に配置されかつ車輪の取付部分を有する回転軌道輪と、これらの両軌道輪を相対回転自在とするために当該両軌道輪間に転動自在に設けられた複列の転動体と、前記回転軌道輪の周側面の変位に伴って変化する物理量を検出するために前記固定軌道輪に設けられたセンサ装置とを備えているセンサ付き転がり軸受装置において、前記センサ装置は、前記回転軌道輪の周側面における軸方向で離れた位置の前記物理量をそれぞれ検出する第一及び第二センサ部材を備えており、これらの各センサ部材で検出された検出値の差に基づいて前記車輪に作用するモーメント荷重を算出する演算機能を有する制御装置に接続されている。
【0008】
そして、この構成によれば、回転軌道輪の周側面の変位に伴って変化する物理量を検出する第一センサ部材と第二センサ部材が、回転軌道輪の周側面における軸方向で離れた位置の当該物理量を検出するので、その各センサ部材で検出された検出値の差に基づいて車輪に作用するモーメント荷重を制御装置によって算出することができる。
また、本出願人は、前記第1又は第2の提案に係る車輪用転がり軸受装置において振動によりセンサが破損したりセンサとして機能しなくなったりするのを防止するとともに、結露によりセンサ回路がショートするのを防止して、センサの信頼性を高めるために、前記変位センサを合成樹脂又はゴム系材料で被覆して前記センサハウジングと一体化した車輪用転がり軸受装置を提案している(特願2006−181956。以下、第3の提案という)。
【0009】
【特許文献1】特開2002−340922号公報(図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前述した第3の提案に係る車輪用軸受装置において、例えば、周囲の温度が上昇すると、前記センサハウジング(通常、アルミニウムで作製される)、固定軌道輪、及び前記変位センサを被覆する合成樹脂又はゴム系材料は、それぞれ線膨張係数が異なることから、センサハウジングと固定軌道輪との間に温度膨張差が発生する。その際、前記センサハウジングは、その一端側(車両アウタ側)が、止めネジによって固定軌道輪の車両インナ側端部に固定されているが、止めネジにより円周上等配で固定する方法では、ネジによる締結力を全固定箇所で均一にするのは難しく、周方向において締結力にバラツキが生じることがある。
【0011】
その結果、線膨張係数の大きな合成樹脂又はゴム系材料が一体化されたセンサハウジングが周方向において片寄って膨張し、これにより、前記変位センサとセンサターゲットとの間にズレが生じ、荷重による変位とは異なる、温度によるターゲットの変位が発生する。このため、実際に荷重が作用していないにもかかわらず、センサが誤って出力信号を発する温度ドリフトが発生する可能性があり、このドリフトを抑制することが重要となる。
【0012】
本発明は、本出願人がさきに提案した第3の提案に係る車輪用転がり軸受装置にさらに改良を加えたものであり、温度ドリフトの発生を防止して、センサの信頼性をさらに高めることができる車輪用転がり軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の車輪用転がり軸受装置は、車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体とを備えた車輪用転がり軸受装置であって、
前記回転軌道輪の車両インナ側端部の外周面とのギャップを検出する複数の変位センサを周方向に有する円環状のセンサハウジングの車両アウタ側端部が、前記固定軌道輪の車両インナ側端部内周面に圧入されており、且つ
前記変位センサが合成樹脂又はゴム系材料で被覆されて前記センサハウジングと一体化されていることを特徴としている。
【0014】
本発明の車輪用転がり軸受装置では、センサハウジングの車両アウタ側端部が、前記固定軌道輪の車両インナ側端部内周面に圧入されているので、当該センサハウジングを、周方向において均一に固定することができる。これにより、周囲温度が上昇して前記センサハウジングが膨張する場合においても、当該膨張を周方向において均一に拘束することができることから、膨張によるセンサハウジングの軸ズレを防止することができる。その結果、温度ドリフトを防止して、センサの信頼性を高めることができる。
【0015】
前記センサハウジングがアルミニウムで作製されており、前記合成樹脂又はゴム系材料中に粉末状のアルミナが混入されているのが好ましい。この構成によれば、アルミナを混入させることで、合成樹脂又はゴム系材料の線膨張係数をセンサハウジングを構成するアルミニウムの線膨張係数に近づけることができ、当該合成樹脂又はゴム系材料の温度膨張を小さくすることができる。これにより、膨張によるセンサハウジングの軸ズレをさらに防止することができる。
【0016】
前記センサハウジングの車両インナ側端部に、当該センサハウジングよりも高剛性の材料からなる蓋部材が外嵌されているのが好ましい。センサハウジングの車両インナ側端部を、当該センサハウジングよりも高剛性の材料からなる蓋部材を外嵌させて拘束することで、センサハウジングの温度膨張を抑制して、膨張によるセンサハウジングの軸ズレをさらに防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車輪用転がり軸受装置によれば、温度ドリフトの発生を防止して、センサの信頼性をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の車輪用転がり軸受装置(以下、単に軸受装置ともいう)の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の軸受装置の一実施の形態の軸方向断面説明図であり、図2は図1に示される軸受装置の部分拡大図である。なお、図1〜2及び後述する図15において、右側が車両アウタ側(車両の外側)であり、左側が車両インナ側(車両の内側)である。
【0019】
〔軸受装置の全体構造〕
図1に示されるように、本実施の形態の軸受装置Hは、筒状の外輪1と、この外輪1の内部に回転自在に挿通されている内軸2と、この内軸2の車両インナ側端部に外嵌された内輪部材3と、この内輪部材3の車両インナ側端部に外嵌されたセンサターゲット4と、周方向に並ぶ複数の玉からなる複列の転動体5、5とを備えたものであり、これらにより複列アンギュラ玉軸受部が構成されている。転動体5、5としての各列の玉は保持器6によって周方向に所定間隔で保持されている。
【0020】
なお、本明細書において、軸受装置Hの中心線Cに沿った方向をy軸方向とし、これに直交する紙面貫通方向の水平方向をx軸方向とし、y軸方向及びx軸方向に直交する鉛直方向をz軸方向と定義している。従って、図14に示されるように、x軸方向は車輪の前後水平方向となり、y軸方向は車輪の左右水平方向(軸方向)となり、z軸方向は上下方向となる。
【0021】
本実施の形態の軸受装置Hにおいて、前記外輪1は車体側に固定される固定軌道輪とされている。他方、前記内軸2と内輪部材3とセンサターゲット4とが車輪側の回転軌道輪とされており、この固定軌道輪と回転軌道輪との間において前記複列の転動体5、5が転動自在に介在されている。これにより、固定軌道輪と回転軌道輪とは互いに同軸状に配置され、固定軌道輪に対して回転軌道輪が車輪(図14に示すタイヤ及びタイヤホイール)とともに回転自在となっている。
【0022】
回転軌道輪を構成する内軸2は、径方向外方へ延びるフランジ部7を車両アウタ側に有しており、このフランジ部7が車輪のタイヤホイールやブレーキディスクの取付部分となっている。このタイヤホイールなどは図示しない取付ボルトによって当該フランジ部7に取り付けられる。内輪部材3は内軸2の車両インナ側に形成された段差部分に外嵌され、内軸2の車両インナ側端部に螺合したナット8によって内軸2に固定されている。そして、内軸2の外周面と内輪部材3の外周面とに、転動体5、5の内側軌道面9、9がそれぞれ形成されている。
【0023】
固定軌道輪を構成する外輪1は、転動体5、5の外側軌道面10、10が内周面に形成された円筒状の本体筒部11と、この本体筒部11の外周面から径方向外方へ伸びるフランジ部12とを有している。このフランジ部12は、車体側部材である懸架装置が有するナックル(図示せず)に固定され、これによって当該軸受装置Hが車体側に固定されるようになっている。
【0024】
本実施の形態の軸受装置Hは、回転軌道輪に設けたセンサターゲット4の外周面の変位に伴って変化する物理量(本実施の形態では、センサターゲット4の外周側面とのギャップによって変化するインダクタンス)を検出するためのセンサ装置14と、このセンサ装置14を固定軌道輪である外輪1に取り付けるためのセンサハウジング16とを備えている。このセンサハウジング16は、短円筒状ないしは短円環状の筒部材からなっており、当該筒部材は軸方向に短い円筒状の金属部材で作製されている。この金属部材としては、長期間使用する間にセンサハウジング16が磁化してセンサ装置14の信頼性が低下するのを防ぐために、例えばアルミニウムなどの非磁性材料を用いるのが好ましい。
【0025】
センサハウジング16の車両アウタ側端部の外周には、段差部16aが形成されており、この段差部16aと外輪1の車両インナ側端部とが噛み合うように、前記センサハウジング16の車両アウタ側端部が外輪1の車両インナ側端部内周面に圧入(内嵌)されている。これにより、当該センサハウジング16を、周方向において均一に固定することができ、周囲温度が上昇して前記センサハウジング16が膨張する場合においても、当該膨張を周方向において均一に拘束することができる。その結果、膨張によるセンサハウジング16の軸ズレを防止することができる。なお、前述した圧入による固定に加え、付加的ないしは補助的に止めネジを用いることもできる。
前記センサハウジング16の内周側に、内軸2のインナ側端部に取り付けられたセンサターゲット4の外周側面とのギャップを検出するための前記センサ装置14が搭載されている。
【0026】
前記センサハウジング16の車両インナ側端部には、当該センサハウジング16よりも高剛性の材料からなる蓋部材53が外嵌されている。センサハウジング16がアルミニウムで作製される場合、前記蓋部材53は、アルミニウムよりも高剛性の材料である鉄系材料(例えば、S45CやS55C)で作製することができる。センサハウジング16の車両インナ側端部を、当該センサハウジング16よりも高剛性の材料からなる蓋部材53を外嵌させて拘束することで、センサハウジング16の温度膨張を抑制して、膨張によるセンサハウジング16の軸ズレをさらに防止することができる。なお、防錆性を確保するために、前記鉄系材料に代えてSUS系材料を用いることもできる。
【0027】
〔センサ装置の構造〕
図3及び図5に示されるように、本実施の形態におけるセンサ装置14は、センサターゲット4の外周側面における軸方向で離れた位置のギャップをそれぞれ検出する第一センサ部材21と第二センサ部材22とを備えている。なお、本明細書において、センサ装置14及びセンサターゲット4に関して、「第一」は車両インナ側を意味し、「第二」は車両アウタ側を意味する。
【0028】
第一及び第二センサ部材21、22は、センサターゲット4の外周面とのギャップの変化をインダクタンスの変化によって検出するインダクタンス型の変位センサよりなり、センサハウジング16の内周側に軸方向に離れた二列の状態で取り付けられたリング状のセンサコア23と、このセンサコア23の周方向に所定間隔おきに配置された複数の変位センサ24とを備えている。各センサコア23は、その間に筒状スペーサ51を介在させた状態でセンサハウジング16に対して止めネジ52で固定されている(図1参照)。
【0029】
第一及び第二センサ部材21、22の各変位センサ24は、前後及び上下の4カ所にそれぞれ設けられ、回転軌道輪のセンサターゲット4の外周面とのx軸方向及びz軸方向におけるギャップの変化を検出できるように配設されている。
すなわち、車両インナ側の第一センサ部材21は、回転軌道輪の前後に配置された第一前センサ24f及び第一後センサ24rと、回転軌道輪の上下にそれぞれ配置された第一上センサ24t及び第一下センサ24bとを備えている。また、車両アウタ側の第二センサ部材22も、回転軌道輪の前後に配置された第二前センサ24f及び第二後センサ24rと、回転軌道輪の上下にそれぞれ配置された第二上センサ24t及び第二下センサ24bとを備えている。
【0030】
これら8つの各変位センサ24(f、r、t、b)は、それぞれ、センサターゲット4に対する独立した検出面を有する周方向で近接して配置された一対のコイル素子27、27を直列に連結することによって構成されている。この一対のコイル素子27、27は、センサコア23の内周側から突設した一対の磁極28の周囲にコイルを巻き付けて構成されている。これらの磁極28はセンサコア23から径方向内方へ突出しており、その径内側の端面(検出面)が、センサターゲット4の外周側面に対して径方向の隙間を有して対向するように配置されている。
【0031】
このように、本実施の形態の軸受装置Hでは、前後及び上下に配置された4つの変位センサ24を有する、軸方向で離れた第一及び第二センサ部材21、22がセンサハウジング16に一体に搭載されたセンサユニットとなっているので、軸受装置Hの組み立ての際に当該センサハウジング16を外輪1の車両インナ側端部に取り付けるだけで、すべての変位センサ24を外輪1に取り付けることができる。このため、各変位センサ24を個別に外輪1に取り付ける必要がなく、しかも、外輪1にセンサ装着用の貫通孔を設ける必要もない。
【0032】
また、センサハウジング16を外輪1に取り付けることで、回転軌道輪のセンサターゲット4に対する各変位センサ24の周方向位置及び径方向位置がそれぞれ位置決めされるので、各変位センサ24をそれぞれ位置調整しながら取り付ける必要がなく、この点で軸受装置Hの組み立てが極めて容易となっている。
また、センサハウジング16に組み込まれた各変位センサ24は、回転軌道輪の軸方向中央部(図1に示す軸受中心Oに近い部分)よりも外力に対する変形挙動が大きい回転軌道輪のインナ側端部に位置するセンサターゲット4の変形挙動に伴うギャップを検出することになるので、当該ギャップの検出精度が高まるという利点がある。
【0033】
更に、外輪1の車両インナ側端部にセンサ付きのセンサハウジング16を取り付けた場合、外輪1のフランジ部12から比較的遠く離れた位置に変位センサ24が配置されることになるので、フランジ部12の周囲の歪の影響を受け難く、この点でギャップの変化を精度よく検出できるという利点もある。
【0034】
また、本実施の形態では、前記センサハウジング16と、センサコア23、コイル素子27及び当該センサコア23上に配設され、コイル素子及び検出信号を出力するためのリード線を配線する配線基板40とが、エポキシ系、アクリル系などの熱硬化性樹脂や、PPS、PA、ABSなどの熱可塑性樹脂により封止(モールド)されている。換言すれば、変位センサ24が合成樹脂で被覆されて前記センサハウジング16と一体化されている。これにより、前記配線基板40をセンサコア23に強固に固定することができ、振動により配線基板40上の電気素子が破損したり、コイル素子27が断線したりするのを防止することができる。また、センサコア23をセンサハウジング16に固定している止めネジが振動で緩み、センサコア23にガタが生じて、センサが機能しなくなるのを防止することができる。さらに、配線基板40を封止していることから、結露などの水分によって配線がショートするのを防止することもできる。なお、合成樹脂に代えて、ゴム系材料で前記配線基板40などを封止(モールド)するようにしてもよい。
【0035】
前記センサハウジング16がアルミニウムで作製される場合、変位センサ24を被覆するための前記合成樹脂又はゴム系材料中に粉末状の水酸化アルミナなどのアルミナを混入させることができる。アルミナを混入させることで、合成樹脂又はゴム系材料の線膨張係数をセンサハウジング16を構成するアルミニウムの線膨張係数に近づけることができ、当該合成樹脂又はゴム系材料の温度膨張を小さくすることができる。これにより、膨張によるセンサハウジング16の軸ズレをさらに防止することができる。具体的に、被覆材料としてエポキシ樹脂を用いる場合、このエポキシ樹脂の線膨張係数は67×10−6/Kであり、鉄(12×10−6/K)やアルミニウム(23.1×10−6/K)の線膨張係数に比べてかなり大きな値であるが、このエポキシ樹脂に水酸化アルミナ(12.5×10−6/K)を、エポキシ樹脂3に対し水酸化アルミナ2の重量比で混入させることで、被覆材料の線膨張係数を34.3×10−6/Kとすることができる。これにより、センサハウジング16を構成するアルミニウムの線膨張係数に近づけることができ、被覆材料の温度膨張を小さくすることができる。
【0036】
図6(a)は本実施の形態におけるセンサ装置14によるギャップの検出回路の一例を示している。同図に示されるように各センサ部材21、22の変位センサ24のうち、上下方向で相対向するセンサ(図6では上センサと下センサ)24t、24bはそれぞれ発振器30に接続されており、この発振器30から一定周期の交流電流が各センサ24t、24bに供給される。なお、この各センサ24t、24bには同期用のコンデンサ31が並列に接続されている。
【0037】
そして、本実施の形態では、この各センサ24t、24bでの出力電圧(検出値)を差動アンプ32で差を取って上下方向の変位量に対応する出力電圧(検出値)とすることにより、温度ドリフトを取り除くようにしている。なお、図示していないが、水平方向で相対向するセンサについても、前記と同様に差動アンプで差を取ることによって温度ドリフトを取り除いている。
【0038】
ところで、インダクタンス型の変位センサ24では、コイルのインダクタンスをL、検出面の面積をA、透磁率をμ、コイルの巻き数をN、検出面からセンサターゲット4までの間隔(ギャップ)をxとすると、次の式(a)が成立する。
L=A×μ×N2/x ・・・(a)
従って、センサターゲット4までのギャップxが変化すると、変位センサ24のインダクタンスLが変化して出力電圧が変化するので、この出力電圧の変動を検出することにより、変位センサ24の検出面からセンサターゲットまでの径方向のギャップを検出することができる。
【0039】
そして、本実施の形態では、センサターゲット4に対する独立した検出面を有する一対のコイル素子27を直列に連結することによって一つの変位センサ24を構成しているので、図6(b)に示されるように、一つのコイル素子27で一つの変位センサ24を構成する場合に比べて発生する磁束密度がより高まっており、これにより、センサターゲットとのギャップの検出感度をより向上させるようにしている。
【0040】
〔センサターゲットの構造〕
図1〜2に示されるように、前記センサターゲット4は、内輪部材3の車両インナ側端部に外嵌して取り付けられた円筒部材よりなる。このセンサターゲット4の外周面には、車両インナ側の第一センサ部材21の検出面(磁極28の先端面)に対向する第一被検出部34と、車両アウタ側の第二センサ部材22の検出面に対向する第二被検出部35とが設けられている。本実施の形態では、これらの被検出部34、35は、センサターゲット4の周方向に沿って形成された第一及び第二環状溝により構成されている。
【0041】
図3に示されるように、車両インナ側の第一環状溝34は、その車両アウタ側の溝端面34aが第一センサ部材21の検出面A1の中心近傍に位置するように配置され、車両アウタ側の第二環状溝35は、その車両インナ側の溝端面35aが第二センサ部材22の検出面A2の中心近傍に位置するように配置されている。
このため、回転軌道輪のセンサターゲット4が軸方向の例えば車両インナ側に距離δだけ変位したとすると、車両インナ側においては、第一センサ部材21と第一環状溝34との軸方向のラップ長が減少して、第一センサ部材21によるギャップの検出値が減少し、車両アウタ側においては、第二センサ部材22と第二環状溝35との軸方向のラップ長が増加して、第二センサ部材22によるギャップの検出値が増加する。
【0042】
同様に、回転軌道輪のセンサターゲット4が軸方向の車両アウタ側に距離δだけ変位したとすると、車両インナ側の第一センサ部材21によるギャップの検出値が増加し、車両アウタ側の第二センサ部材22によるギャップの検出値が減少する。
このように、本実施の形態におけるセンサターゲット4は、回転軌道輪が軸方向における同じ向きに変位した場合には、第一及び第二センサ部材21、22が検出する検出値に差を生じさせる、軸方向に離れた一対の環状溝34、35を外周側面に備えている。
【0043】
また、前述の通り、これらの環状溝34、35は、回転軌道輪が軸方向における同じ向きに変位した場合に各センサ部材21、22が検出する検出値を正負逆向きに変化させるように、センサ側に対する軸方向位置が設定されている。
従って、後述の制御装置における検出値の演算方法でも明らかな通り、車両インナ側の第一センサ部材21の検出値と車両アウタ側の第二センサ部材22の検出値の差を取ることにより、回転軌道輪の軸方向への単位並進量に対する検出値が増幅され、これによってセンサ装置全体としての軸方向変位の検出感度を高めることができる。
【0044】
なお、図3に示した配置とは逆に、車両インナ側の第一環状溝34を第一センサ部材21の検出面A1に対して車両アウタ側にずらし、車両アウタ側の第二環状溝35を第二センサ部材22の検出面A2に対して車両インナ側にずらして配置することにしてもよく、この場合でも前記と同様の作用効果が得られる。
前記第一及び第二センサ部材21、22を構成する各変位センサ24は、前記蓋部材53を貫通する信号線36(図5参照)を介して例えば車体側のECUなどからなる制御装置37に接続されている。各センサから得られた出力電圧(検出値)は、その制御装置37において以下に述べる演算方法で演算され、これによって車輪に作用する各方向のモーメント荷重及び並進荷重が求められる。
【0045】
〔各荷重の演算方法〕
以下、図7〜14を参照しつつ、制御装置37で行われる荷重の演算方法について説明する。なお、図12は当該制御装置37での演算方法を示すブロック図である。
【0046】
〔方向及びセンサ検出値の定義〕
図14に示されるように、車輪の前後水平方向をx軸方向、車輪の左右水平方向(軸方向)をy軸方向、車輪の上下方向をz軸方向と定義する。
また、図7に示されるように、車両インナ側(第一センサ部材21)のセンサの検出値に添え字「i」を使用し、車両アウタ側(第二センサ部材22)のセンサに添え字「o」を使用する。更に、前側のセンサの検出値を「f(front)」と定義し、後側のセンサの検出値を「r(rear)」定義し、上側のセンサの検出値を「t(top)」と定義し、下側のセンサの検出値を「b(bottom)」と定義する。
【0047】
従って、第一及び第二センサ部材21、22に設けられた合計8つのセンサの検出値は、次のように定義される。
fi:第一前センサの検出値
ri:第一後センサの検出値
ti:第一上センサの検出値
bi:第一下センサの検出値
fo:第二前センサの検出値
ro:第二後センサの検出値
to:第二上センサの検出値
bo:第二下センサの検出値
【0048】
〔y軸方向の並進荷重Fyに対応する独立変数(sFy)〕
図8(b)に示されるように、車輪にy軸方向の並進荷重Fyが作用した場合、回転軌道輪はその荷重の向きに変位し、前記各環状溝34、35の位置が軸方向にずれる。このため、前記した通り、車両インナ側の各センサの検出値(本実施の形態では出力電圧)fi、ri、ti、biは軸方向の移動量δの増大に伴っていずれも減少し、車両アウタ側の各センサの検出値fo、ro、to、boは軸方向の移動量δの増大に伴っていずれも増加する。
そこで、図8(b)に示されるように、次の式(1)で算出されるsFyをy軸方向の並進荷重Fyに対応する独立変数として採用する(図12の演算ブロックB1参照)。
sFy=(fi+ri+ti+bi)−(fo+ro+to+bo) ・・・(1)
このように、車両インナ側の各センサの検出値と車両アウタ側の各センサの検出値の差を取ることで、回転軌道輪の軸方向への単位並進量に対するsFyが増幅されるので、センサ装置14全体としての軸方向変位の検出感度を高めることができる。
【0049】
〔x軸方向変位とz軸方向変位〕
図12の演算ブロックB2に示されるように、x軸方向については、前センサの検出値fと後センサの検出値rの差によってx軸方向変位の検出値とし、z軸方向については、上センサの検出値tと下センサの検出値bの差によってz軸方向変位の検出値とする。
前後のセンサの出力同士及び上下のセンサの出力同士では、それぞれ同じ方向に同じ量だけ温度の影響が出ることから、前記のように差を取ることによって温度ドリフトが取り除かれる。
【0050】
本実施の形態では車両インナ側とアウタ側に変位センサ24を配置しているので、次に示される通り、車両インナ側と車両アウタ側のそれぞれの位置において、x軸方向変位の検出値とz軸方向変位の検出値が得られる。
車両インナ側でのx軸方向変位の検出値 xi=fi−ri
車両インナ側でのz軸方向変位の検出値 zi=−ti+bi
車両アウタ側でのx軸方向変位の検出値 xo=fo−ro
車両アウタ側でのz軸方向変位の検出値 zo=−to+bo
〔z軸回りのモーメント荷重Mzに対応する独立変数(sMz)〕
次に、図9に示されるように、z軸回りのモーメント荷重Mzのみが作用する純モーメントの状態を仮定する。
この場合、軸受中心Oから車両インナ側センサ(第一センサ部材21)の検出位置までの軸方向距離をLi、軸受中心Oから車両アウタ側センサ(第二センサ部材22)の検出位置までの軸方向距離をLoとすると、z軸回りのモーメント荷重Mzに対応する検出値は、理論的には次の式で算出されるmzで求めることができ、このmzは、θが十分に小さい場合にはxiと一致する筈である。
mz=Li×tanθ
=Li×tan((xi−xo)/(Li−Lo))
しかし、実際には、センサターゲット4に環状溝34、35が形成されているため、図11(a)に示されるように、mzはxiとは一致しない。この図11(a)は、z軸回りのモーメント荷重Mzのみを作用させた場合における、そのMzとmz及びxiの検出値との関係を示す直線グラフであり、このように、mzとxiの検出値の直線グラフは傾きが一致しない。
【0051】
そこで、図11(c)に示されるように、これらの傾きを一致させるために、xi直線の傾きをmz直線の傾きで除算して得られる補正係数kzを導入する。従って、次の式(2)に示す通り、この補正係数kzを前記したmzに乗じることで、z軸回りのモーメント荷重Mzに対応する独立変数sMzが得られる(図12の演算ブロックB3及びB4参照)。なお、右辺のマイナス(−)は、その他の独立変数(前記sFy及び後述のsMxなど)と符号を一致させるためのものである。
sMz=−mz×kz ・・・(2)
【0052】
〔x軸回りのモーメント荷重Mxに対応する独立変数(sMx)〕
x軸方向とz軸方向とは90度だけ座標変換した関係にある。従って、x軸回りのモーメント荷重Mxに対応する独立変数sMxは、前記sMzの場合と同様の考え方により、次の式(3)によって算出することができる。
sMx=mx×kx ・・・(3)
なお、前記式(3)におけるkxは、kzと同じ趣旨で導入した補正係数であり、zi直線の傾きをmx直線の傾きで除算して得られる補正係数である(図11(b)及び図11(c)参照)。
【0053】
〔z軸方向の並進荷重Fzに対応する独立変数(sFz)〕
〔x軸方向の並進荷重Fxに対応する独立変数(sFx)〕
次に、図10に示されるように、z軸回りのモーメント荷重Mzとともにx軸方向の並進加重Fxが作用する状態を仮定する。
この場合、車両インナ側でのx軸方向変位の検出値xiには、z軸回りのモーメント荷重Mzに対応する独立変数sMzの成分と、x軸方向の並進加重Fxに対応する独立変数sFxの成分が含まれている。従って、x軸方向の並進加重Fxに対応する独立変数sFxは、前記xiからsMzを差し引くことによって求めることができる。
なお、このことは、z軸方向の並進荷重Fzに対応する独立変数であるsFzの場合にも、同様に当てはまる。
従って、z軸方向の並進荷重Fzによる独立変数sFzと、x軸方向の並進荷重Fxによる独立変数sFxは、それぞれ次の式(4)及び式(5)で算出することができる(図12の演算ブロックB4参照)。
sFz=zi−mx×kx ・・・(4)
sFx=xi−mz×kz ・・・(5)
【0054】
図13は、前述した式(1)〜(5)によって得られる各独立変数sFx、sFy、sFz、sMx及びsMzと、車輪に作用する実際の荷重であるFx、Fy、Fz、Mx及びMzとの対応関係を表すマトリックス図である。
すなわち、車輪に対して実際に負荷したFx、Fy、Fz、Mx及びMzを入力とし、式(1)〜(5)によって得られる各独立変数sFx、sFy、sFz、sMx及びsMzを出力として、それらの変数間の直線グラフをマトリックス化したものである。
【0055】
図13のマトリックス図に示されるように、Fxに対してはsFxのみが傾きを有する直線グラフとなり、その他のFy、Fz、Mx及びMzには反応がなく、これと同様に、当該マトリックス図の対角部分だけが直線グラフになっている。従って、これら5つの独立変数sFx、sFy、sFz、sMx及びsMzは、車輪に作用する実際の荷重である5分力Fx、Fy、Fz、Mx及びMzと線形独立の関係にある。
このため、それらの独立変数sFx、sFy、sFz、sMx及びsMzが求まれば、車輪に作用する5つの荷重Fx、Fy、Fz、Mx及びMzを未知数とした5元連立一次方程式を解くことにより、その各荷重Fx、Fy、Fz、Mx及びMzを演算することができる。
【0056】
本実施の形態では、ECUなどからなる制御装置37には、前述した各式(1)〜(5)と5元連立一次方程式を解く演算回路(ハードウェア)ないし制御プログラム(ソフトウェア)が組み込まれている。このため、各センサによる8つの検出値fi、ri、ti、bi、fo、ro、to及びboに基づいて、車輪に作用する実際の荷重Fx、Fy、Fz、Mx及びMzを求めることができる。
【0057】
図15は本発明の軸受装置のさらに他の実施の形態を示しており、この実施の形態では変位センサ24は単列であり、また軸受装置の車両インナ側端部は、回転軌道輪の車両インナ側端部の軸端面とのギャップを検出する軸方向変位センサ41を備えた蓋部材42で閉塞されている。なお、図1に示される実施の形態と同一の構成又は要素には、同一の符号を付し、簡単のためにそれらの説明を省略している。
本実施の形態では、変位センサ24が単列であり、またセンサハウジング16の車両アウタ側端部の圧入長さが充分であることから、蓋部材42は、前記センサハウジング16の車両インナ側端部に外嵌されていないが、図1に示される実施の形態のように、センサハウジング16よりも高剛性の蓋部材42を当該センサハウジング16の車両インナ側端部に外嵌させることもできる。さらに、図15に示される実施の形態では、変位センサ24が単列であり、当該変位センサ24による被検出部の軸方向長さをあまり必要としないことから、センサターゲット4を省略しており、変位センサ24は内輪部材3の外周面とのギャップを検出するように構成されている。
【0058】
つぎに、図15に示される実施の形態のように、単列の変位センサ24及び軸方向センサ41を備えた軸受装置における、各荷重の演算方法について説明する。
変位センサ24は周方向に4箇所(上下の2箇所と前後の2箇所)設けられており、一方、軸方向変位センサ41は上下方向に2箇所設けられているものとする。
以上のようにセンサを配置した軸受装置において、作用する荷重(タイヤ力)と回転軌道輪の変位とを予め関連付けることによって、当該荷重を求めることができる。つまり、前記変位センサによって、回転軌道輪に作用した荷重のx軸、y軸、z軸についての各方向成分(Fsx、Fsy、Fsz、Msx、Msz)を算出することができる。
【0059】
前後の変位センサ、上下の変位センサ、上下の軸方向変位センサは演算処理部(図示せず)と接続されている。この演算処理部は、車体側に搭載された制御手段(ECU)とすることができ、各変位センサの出力値を演算処理できる。
図16は、回転軌道輪に取り付けた車輪に力・モーメントを作用させた場合の各変位センサの出力値から求めた回転軌道輪の変位を示したものである。つまり、図16は、車輪に作用させた荷重として、x軸方向の荷重(Fx入力)、y軸方向の荷重(Fy入力)、z軸方向の荷重(Fz入力)、モーメントについて、x軸回りのモーメント(Mx入力)、z軸回りのモーメント(Mz入力)をそれぞれ作用させた場合の、前後の変位センサ、上下の軸方向変位センサ、上下の変位センサによる検出値(ギャップ)から求めた回転軌道輪の各変位をグラフとしてそれぞれ示したものである。
【0060】
そして、この図16を行列式として示した(整理した)一般式が式(6)であり、図16の結果により求めた行列式の行列Mは数2によって表される。つまり、式(6)と式(7)は前記各変位センサと各方向の荷重・モーメントとの関係を行列式で表現したものである。そして、この行列Mの逆行列M−1を求めたものが式(8)であり、各変位センサによって得られた値とこの逆行列M−1とによる式(9)の演算によって、車輪(回転軌道輪)に作用した各軸方向の成分(Fsx,Fsy,Fsz,Msx,Msz)を演算によって求めることができる。
【0061】
【数1】
【0062】
【数2】
【0063】
【数3】
【0064】
【数4】
【0065】
以上の各変位センサと演算処理部とによれば、当該各変位センサからの出力値と、予め記憶させてある所定の関数(逆行列M−1)との演算によって、車輪(回転軌道輪)に作用している荷重(タイヤ力)の各軸方向の成分(Fsx,Fsy,Fsz,Msx,Msz)を算出することができる。なお、変位センサ24は中心線Cを挟んで上下・前後で対称に配置されていることにより、相互の出力値の差を演算することで温度補正を行う必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の軸受装置の一実施の形態の軸方向断面説明図である。
【図2】図1に示される軸受装置の部分拡大図である。
【図3】図1に示される軸受装置における変位センサと段部の位置関係を表す図である。
【図4】図1に示される軸受装置をインナ側から見た図である。
【図5】図1に示される軸受装置であって、そのインナ側シール装置を取り外した状態を車両インナ側から見た図である。
【図6】(a)はセンサ装置によるギャップの検出回路の一例を示す回路図であり、(b)はコイル素子の機能説明図である。
【図7】各変位センサの配置位置とその検出値の定義を示す図である。
【図8】(a)はsXyの演算手法を示すグラフであり、(b)は荷重Fyによる回転軌道輪の変形挙動を示す図である。
【図9】純モーメント状態での回転軌道輪の変形状態を示す図である。
【図10】モーメント荷重と並進荷重が作用した場合の回転軌道輪の変形状態を示す図である。
【図11】(a)は純モーメント状態におけるmzとxiの直線グラフであり、(b)は純モーメント状態におけるmxとziの直線グラフであり、(c)は補正係数kz及びkxの計算方法を示す式である。
【図12】制御手段での演算方法を示すブロック図である。
【図13】センサ出力から演算した独立変数と車輪に作用する実際の荷重との対応関係を示すマトリックス図である。
【図14】x軸方向、y軸方向及びz軸方向と各荷重の定義を示す車輪部分の斜視図である。
【図15】本発明の軸受装置の他の実施の形態の軸方向断面説明図である。
【図16】回転軌道輪に取り付けた車輪に力・モーメントを作用させた場合の各変位センサの出力値から求めた回転軌道輪の変位を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
1 外輪
2 内軸
3 内輪部材
4 センサターゲット
5 転動体
7 フランジ部
8 内側軌道面
9 外側軌道面
14 センサ装置
16 センサハウジング
21 第一センサ部材
22 第二センサ部材
24 変位センサ
40 配線基板
41 軸方向変位センサ
42 蓋部材
53 蓋部材
H 軸受装置
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用転がり軸受装置に関する。さらに詳しくは、自動車などの車両に用いられ、当該車両の車輪から情報を得るセンサを備えた車輪用転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車において、走行の際の運転制御を行うために車輪に作用する荷重や車輪の回転速度などといった種々の情報が必要とされている。このような情報を得るために、自動車の車輪が取り付けられる車輪用転がり軸受装置にセンサを設けることが提案されている。
このような車輪用転がり軸受装置として従来から知られているものに、車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の径方向内方に設けられ車輪が取り付けられる回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に設けられている複列の転動体とを備えた軸受装置があり、この軸受装置において、前述したセンサを固定軌道輪に設け、このセンサで回転軌道輪の情報を得るように構成されているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の軸受装置は、固定軌道輪において径方向に貫通する貫通孔が形成され、この貫通孔にセンサが挿入され固定されている。そして、センサの計測部を回転軌道輪の外周面に対向させ、センサが回転軌道輪の情報を取得している。
しかしながら、特許文献1に記載されている車輪用転がり軸受装置は、センサを固定軌道輪に複数設けるために当該固定軌道輪に貫通孔を複数形成する必要がある。この場合、固定軌道輪の製造工程において別の孔開け作業が必要となり、また、それぞれの貫通孔に対してセンサの取り付けが必要であり、組み立て作業が煩雑となる。さらに、センサと回転軌道輪との間のギャップ調整が、それぞれのセンサにおいて必要であり、組み立て工数が多くなるという問題点を有している。
【0004】
そこで本出願人は、さきに、複数のセンサを有していても各センサの位置調整を省略化でき、容易に組み立てることができる車輪用転がり軸受装置を提案した(特願2005−266481。以下、第1の提案という)。
この第1の提案に係る車輪用転がり軸受装置は、車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通されかつ車輪の取付部分をアウタ側に有する回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に設けられている複列の転動体とを備えた車輪用転がり軸受装置であって、前記回転軌道輪のインナ側端部の外周面とのギャップを検出する複数の変位センサを周方向に所定間隔おきに有するケース部材が設けられ、このケース部材が前記固定軌道輪のインナ側端部に取り付けられていることを特徴としている。
【0005】
そして、この構成によれば、ケース部材が複数の変位センサを有しており、このケース部材が固定軌道輪のインナ側端部に取り付けられているため、変位センサを個々に固定軌道輪に取り付ける必要がなく、固定軌道輪にセンサのための貫通孔を設ける必要がない。さらに、ケース部材を固定軌道輪に取り付けることによって、回転軌道輪のインナ側端部の外周面に対して各変位センサの位置決めがされるため、組み立てが容易となる。
また、変位センサは、車輪に作用した径方向の荷重により生じた回転軌道輪のインナ側端部の外周面とのギャップの変化を検出することができる。さらに、回転軌道輪が固定軌道輪に対して傾くような変位をした場合(モーメントが作用した場合)、前記ギャップの変化は、軸方向中央部よりもインナ側端部において大きくなるため、そのインナ側端部の外周面を変位センサが計測することで、検出精度を高めることができる。
【0006】
一方、前記第1の提案に係る車輪用転がり軸受装置では、軸方向の並進荷重を求めるために、回転軌道輪の軸端面での軸方向変位を検出する別の変位センサを、固定軌道輪のインナ側端部を閉塞するケース部材に増設している。このように回転軌道輪の軸端面での軸方向変位を検出する変位センサを増設すると、回転軌道輪の軸端面が自由端となっている従動輪用の軸受装置には採用できるが、回転駆動輪の軸端面にドライブシャフトの等速ジョイントが連結される駆動輪用の軸受装置に採用することができず、また、従動輪用の軸受装置の場合でも、ABSセンサなどの荷重計測以外のセンサを装着し難くなることから、本出願人は、さらに、前記別の変位センサを省略することができる車輪用転がり軸受装置を提案している(特願2005−322651。以下、第2の提案という)。
【0007】
この第2の提案に係る車輪用転がり軸受装置は、車体側との固定部分を有する固定軌道輪と、この固定軌道輪に対して同軸心状に配置されかつ車輪の取付部分を有する回転軌道輪と、これらの両軌道輪を相対回転自在とするために当該両軌道輪間に転動自在に設けられた複列の転動体と、前記回転軌道輪の周側面の変位に伴って変化する物理量を検出するために前記固定軌道輪に設けられたセンサ装置とを備えているセンサ付き転がり軸受装置において、前記センサ装置は、前記回転軌道輪の周側面における軸方向で離れた位置の前記物理量をそれぞれ検出する第一及び第二センサ部材を備えており、これらの各センサ部材で検出された検出値の差に基づいて前記車輪に作用するモーメント荷重を算出する演算機能を有する制御装置に接続されている。
【0008】
そして、この構成によれば、回転軌道輪の周側面の変位に伴って変化する物理量を検出する第一センサ部材と第二センサ部材が、回転軌道輪の周側面における軸方向で離れた位置の当該物理量を検出するので、その各センサ部材で検出された検出値の差に基づいて車輪に作用するモーメント荷重を制御装置によって算出することができる。
また、本出願人は、前記第1又は第2の提案に係る車輪用転がり軸受装置において振動によりセンサが破損したりセンサとして機能しなくなったりするのを防止するとともに、結露によりセンサ回路がショートするのを防止して、センサの信頼性を高めるために、前記変位センサを合成樹脂又はゴム系材料で被覆して前記センサハウジングと一体化した車輪用転がり軸受装置を提案している(特願2006−181956。以下、第3の提案という)。
【0009】
【特許文献1】特開2002−340922号公報(図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前述した第3の提案に係る車輪用軸受装置において、例えば、周囲の温度が上昇すると、前記センサハウジング(通常、アルミニウムで作製される)、固定軌道輪、及び前記変位センサを被覆する合成樹脂又はゴム系材料は、それぞれ線膨張係数が異なることから、センサハウジングと固定軌道輪との間に温度膨張差が発生する。その際、前記センサハウジングは、その一端側(車両アウタ側)が、止めネジによって固定軌道輪の車両インナ側端部に固定されているが、止めネジにより円周上等配で固定する方法では、ネジによる締結力を全固定箇所で均一にするのは難しく、周方向において締結力にバラツキが生じることがある。
【0011】
その結果、線膨張係数の大きな合成樹脂又はゴム系材料が一体化されたセンサハウジングが周方向において片寄って膨張し、これにより、前記変位センサとセンサターゲットとの間にズレが生じ、荷重による変位とは異なる、温度によるターゲットの変位が発生する。このため、実際に荷重が作用していないにもかかわらず、センサが誤って出力信号を発する温度ドリフトが発生する可能性があり、このドリフトを抑制することが重要となる。
【0012】
本発明は、本出願人がさきに提案した第3の提案に係る車輪用転がり軸受装置にさらに改良を加えたものであり、温度ドリフトの発生を防止して、センサの信頼性をさらに高めることができる車輪用転がり軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の車輪用転がり軸受装置は、車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体とを備えた車輪用転がり軸受装置であって、
前記回転軌道輪の車両インナ側端部の外周面とのギャップを検出する複数の変位センサを周方向に有する円環状のセンサハウジングの車両アウタ側端部が、前記固定軌道輪の車両インナ側端部内周面に圧入されており、且つ
前記変位センサが合成樹脂又はゴム系材料で被覆されて前記センサハウジングと一体化されていることを特徴としている。
【0014】
本発明の車輪用転がり軸受装置では、センサハウジングの車両アウタ側端部が、前記固定軌道輪の車両インナ側端部内周面に圧入されているので、当該センサハウジングを、周方向において均一に固定することができる。これにより、周囲温度が上昇して前記センサハウジングが膨張する場合においても、当該膨張を周方向において均一に拘束することができることから、膨張によるセンサハウジングの軸ズレを防止することができる。その結果、温度ドリフトを防止して、センサの信頼性を高めることができる。
【0015】
前記センサハウジングがアルミニウムで作製されており、前記合成樹脂又はゴム系材料中に粉末状のアルミナが混入されているのが好ましい。この構成によれば、アルミナを混入させることで、合成樹脂又はゴム系材料の線膨張係数をセンサハウジングを構成するアルミニウムの線膨張係数に近づけることができ、当該合成樹脂又はゴム系材料の温度膨張を小さくすることができる。これにより、膨張によるセンサハウジングの軸ズレをさらに防止することができる。
【0016】
前記センサハウジングの車両インナ側端部に、当該センサハウジングよりも高剛性の材料からなる蓋部材が外嵌されているのが好ましい。センサハウジングの車両インナ側端部を、当該センサハウジングよりも高剛性の材料からなる蓋部材を外嵌させて拘束することで、センサハウジングの温度膨張を抑制して、膨張によるセンサハウジングの軸ズレをさらに防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車輪用転がり軸受装置によれば、温度ドリフトの発生を防止して、センサの信頼性をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の車輪用転がり軸受装置(以下、単に軸受装置ともいう)の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の軸受装置の一実施の形態の軸方向断面説明図であり、図2は図1に示される軸受装置の部分拡大図である。なお、図1〜2及び後述する図15において、右側が車両アウタ側(車両の外側)であり、左側が車両インナ側(車両の内側)である。
【0019】
〔軸受装置の全体構造〕
図1に示されるように、本実施の形態の軸受装置Hは、筒状の外輪1と、この外輪1の内部に回転自在に挿通されている内軸2と、この内軸2の車両インナ側端部に外嵌された内輪部材3と、この内輪部材3の車両インナ側端部に外嵌されたセンサターゲット4と、周方向に並ぶ複数の玉からなる複列の転動体5、5とを備えたものであり、これらにより複列アンギュラ玉軸受部が構成されている。転動体5、5としての各列の玉は保持器6によって周方向に所定間隔で保持されている。
【0020】
なお、本明細書において、軸受装置Hの中心線Cに沿った方向をy軸方向とし、これに直交する紙面貫通方向の水平方向をx軸方向とし、y軸方向及びx軸方向に直交する鉛直方向をz軸方向と定義している。従って、図14に示されるように、x軸方向は車輪の前後水平方向となり、y軸方向は車輪の左右水平方向(軸方向)となり、z軸方向は上下方向となる。
【0021】
本実施の形態の軸受装置Hにおいて、前記外輪1は車体側に固定される固定軌道輪とされている。他方、前記内軸2と内輪部材3とセンサターゲット4とが車輪側の回転軌道輪とされており、この固定軌道輪と回転軌道輪との間において前記複列の転動体5、5が転動自在に介在されている。これにより、固定軌道輪と回転軌道輪とは互いに同軸状に配置され、固定軌道輪に対して回転軌道輪が車輪(図14に示すタイヤ及びタイヤホイール)とともに回転自在となっている。
【0022】
回転軌道輪を構成する内軸2は、径方向外方へ延びるフランジ部7を車両アウタ側に有しており、このフランジ部7が車輪のタイヤホイールやブレーキディスクの取付部分となっている。このタイヤホイールなどは図示しない取付ボルトによって当該フランジ部7に取り付けられる。内輪部材3は内軸2の車両インナ側に形成された段差部分に外嵌され、内軸2の車両インナ側端部に螺合したナット8によって内軸2に固定されている。そして、内軸2の外周面と内輪部材3の外周面とに、転動体5、5の内側軌道面9、9がそれぞれ形成されている。
【0023】
固定軌道輪を構成する外輪1は、転動体5、5の外側軌道面10、10が内周面に形成された円筒状の本体筒部11と、この本体筒部11の外周面から径方向外方へ伸びるフランジ部12とを有している。このフランジ部12は、車体側部材である懸架装置が有するナックル(図示せず)に固定され、これによって当該軸受装置Hが車体側に固定されるようになっている。
【0024】
本実施の形態の軸受装置Hは、回転軌道輪に設けたセンサターゲット4の外周面の変位に伴って変化する物理量(本実施の形態では、センサターゲット4の外周側面とのギャップによって変化するインダクタンス)を検出するためのセンサ装置14と、このセンサ装置14を固定軌道輪である外輪1に取り付けるためのセンサハウジング16とを備えている。このセンサハウジング16は、短円筒状ないしは短円環状の筒部材からなっており、当該筒部材は軸方向に短い円筒状の金属部材で作製されている。この金属部材としては、長期間使用する間にセンサハウジング16が磁化してセンサ装置14の信頼性が低下するのを防ぐために、例えばアルミニウムなどの非磁性材料を用いるのが好ましい。
【0025】
センサハウジング16の車両アウタ側端部の外周には、段差部16aが形成されており、この段差部16aと外輪1の車両インナ側端部とが噛み合うように、前記センサハウジング16の車両アウタ側端部が外輪1の車両インナ側端部内周面に圧入(内嵌)されている。これにより、当該センサハウジング16を、周方向において均一に固定することができ、周囲温度が上昇して前記センサハウジング16が膨張する場合においても、当該膨張を周方向において均一に拘束することができる。その結果、膨張によるセンサハウジング16の軸ズレを防止することができる。なお、前述した圧入による固定に加え、付加的ないしは補助的に止めネジを用いることもできる。
前記センサハウジング16の内周側に、内軸2のインナ側端部に取り付けられたセンサターゲット4の外周側面とのギャップを検出するための前記センサ装置14が搭載されている。
【0026】
前記センサハウジング16の車両インナ側端部には、当該センサハウジング16よりも高剛性の材料からなる蓋部材53が外嵌されている。センサハウジング16がアルミニウムで作製される場合、前記蓋部材53は、アルミニウムよりも高剛性の材料である鉄系材料(例えば、S45CやS55C)で作製することができる。センサハウジング16の車両インナ側端部を、当該センサハウジング16よりも高剛性の材料からなる蓋部材53を外嵌させて拘束することで、センサハウジング16の温度膨張を抑制して、膨張によるセンサハウジング16の軸ズレをさらに防止することができる。なお、防錆性を確保するために、前記鉄系材料に代えてSUS系材料を用いることもできる。
【0027】
〔センサ装置の構造〕
図3及び図5に示されるように、本実施の形態におけるセンサ装置14は、センサターゲット4の外周側面における軸方向で離れた位置のギャップをそれぞれ検出する第一センサ部材21と第二センサ部材22とを備えている。なお、本明細書において、センサ装置14及びセンサターゲット4に関して、「第一」は車両インナ側を意味し、「第二」は車両アウタ側を意味する。
【0028】
第一及び第二センサ部材21、22は、センサターゲット4の外周面とのギャップの変化をインダクタンスの変化によって検出するインダクタンス型の変位センサよりなり、センサハウジング16の内周側に軸方向に離れた二列の状態で取り付けられたリング状のセンサコア23と、このセンサコア23の周方向に所定間隔おきに配置された複数の変位センサ24とを備えている。各センサコア23は、その間に筒状スペーサ51を介在させた状態でセンサハウジング16に対して止めネジ52で固定されている(図1参照)。
【0029】
第一及び第二センサ部材21、22の各変位センサ24は、前後及び上下の4カ所にそれぞれ設けられ、回転軌道輪のセンサターゲット4の外周面とのx軸方向及びz軸方向におけるギャップの変化を検出できるように配設されている。
すなわち、車両インナ側の第一センサ部材21は、回転軌道輪の前後に配置された第一前センサ24f及び第一後センサ24rと、回転軌道輪の上下にそれぞれ配置された第一上センサ24t及び第一下センサ24bとを備えている。また、車両アウタ側の第二センサ部材22も、回転軌道輪の前後に配置された第二前センサ24f及び第二後センサ24rと、回転軌道輪の上下にそれぞれ配置された第二上センサ24t及び第二下センサ24bとを備えている。
【0030】
これら8つの各変位センサ24(f、r、t、b)は、それぞれ、センサターゲット4に対する独立した検出面を有する周方向で近接して配置された一対のコイル素子27、27を直列に連結することによって構成されている。この一対のコイル素子27、27は、センサコア23の内周側から突設した一対の磁極28の周囲にコイルを巻き付けて構成されている。これらの磁極28はセンサコア23から径方向内方へ突出しており、その径内側の端面(検出面)が、センサターゲット4の外周側面に対して径方向の隙間を有して対向するように配置されている。
【0031】
このように、本実施の形態の軸受装置Hでは、前後及び上下に配置された4つの変位センサ24を有する、軸方向で離れた第一及び第二センサ部材21、22がセンサハウジング16に一体に搭載されたセンサユニットとなっているので、軸受装置Hの組み立ての際に当該センサハウジング16を外輪1の車両インナ側端部に取り付けるだけで、すべての変位センサ24を外輪1に取り付けることができる。このため、各変位センサ24を個別に外輪1に取り付ける必要がなく、しかも、外輪1にセンサ装着用の貫通孔を設ける必要もない。
【0032】
また、センサハウジング16を外輪1に取り付けることで、回転軌道輪のセンサターゲット4に対する各変位センサ24の周方向位置及び径方向位置がそれぞれ位置決めされるので、各変位センサ24をそれぞれ位置調整しながら取り付ける必要がなく、この点で軸受装置Hの組み立てが極めて容易となっている。
また、センサハウジング16に組み込まれた各変位センサ24は、回転軌道輪の軸方向中央部(図1に示す軸受中心Oに近い部分)よりも外力に対する変形挙動が大きい回転軌道輪のインナ側端部に位置するセンサターゲット4の変形挙動に伴うギャップを検出することになるので、当該ギャップの検出精度が高まるという利点がある。
【0033】
更に、外輪1の車両インナ側端部にセンサ付きのセンサハウジング16を取り付けた場合、外輪1のフランジ部12から比較的遠く離れた位置に変位センサ24が配置されることになるので、フランジ部12の周囲の歪の影響を受け難く、この点でギャップの変化を精度よく検出できるという利点もある。
【0034】
また、本実施の形態では、前記センサハウジング16と、センサコア23、コイル素子27及び当該センサコア23上に配設され、コイル素子及び検出信号を出力するためのリード線を配線する配線基板40とが、エポキシ系、アクリル系などの熱硬化性樹脂や、PPS、PA、ABSなどの熱可塑性樹脂により封止(モールド)されている。換言すれば、変位センサ24が合成樹脂で被覆されて前記センサハウジング16と一体化されている。これにより、前記配線基板40をセンサコア23に強固に固定することができ、振動により配線基板40上の電気素子が破損したり、コイル素子27が断線したりするのを防止することができる。また、センサコア23をセンサハウジング16に固定している止めネジが振動で緩み、センサコア23にガタが生じて、センサが機能しなくなるのを防止することができる。さらに、配線基板40を封止していることから、結露などの水分によって配線がショートするのを防止することもできる。なお、合成樹脂に代えて、ゴム系材料で前記配線基板40などを封止(モールド)するようにしてもよい。
【0035】
前記センサハウジング16がアルミニウムで作製される場合、変位センサ24を被覆するための前記合成樹脂又はゴム系材料中に粉末状の水酸化アルミナなどのアルミナを混入させることができる。アルミナを混入させることで、合成樹脂又はゴム系材料の線膨張係数をセンサハウジング16を構成するアルミニウムの線膨張係数に近づけることができ、当該合成樹脂又はゴム系材料の温度膨張を小さくすることができる。これにより、膨張によるセンサハウジング16の軸ズレをさらに防止することができる。具体的に、被覆材料としてエポキシ樹脂を用いる場合、このエポキシ樹脂の線膨張係数は67×10−6/Kであり、鉄(12×10−6/K)やアルミニウム(23.1×10−6/K)の線膨張係数に比べてかなり大きな値であるが、このエポキシ樹脂に水酸化アルミナ(12.5×10−6/K)を、エポキシ樹脂3に対し水酸化アルミナ2の重量比で混入させることで、被覆材料の線膨張係数を34.3×10−6/Kとすることができる。これにより、センサハウジング16を構成するアルミニウムの線膨張係数に近づけることができ、被覆材料の温度膨張を小さくすることができる。
【0036】
図6(a)は本実施の形態におけるセンサ装置14によるギャップの検出回路の一例を示している。同図に示されるように各センサ部材21、22の変位センサ24のうち、上下方向で相対向するセンサ(図6では上センサと下センサ)24t、24bはそれぞれ発振器30に接続されており、この発振器30から一定周期の交流電流が各センサ24t、24bに供給される。なお、この各センサ24t、24bには同期用のコンデンサ31が並列に接続されている。
【0037】
そして、本実施の形態では、この各センサ24t、24bでの出力電圧(検出値)を差動アンプ32で差を取って上下方向の変位量に対応する出力電圧(検出値)とすることにより、温度ドリフトを取り除くようにしている。なお、図示していないが、水平方向で相対向するセンサについても、前記と同様に差動アンプで差を取ることによって温度ドリフトを取り除いている。
【0038】
ところで、インダクタンス型の変位センサ24では、コイルのインダクタンスをL、検出面の面積をA、透磁率をμ、コイルの巻き数をN、検出面からセンサターゲット4までの間隔(ギャップ)をxとすると、次の式(a)が成立する。
L=A×μ×N2/x ・・・(a)
従って、センサターゲット4までのギャップxが変化すると、変位センサ24のインダクタンスLが変化して出力電圧が変化するので、この出力電圧の変動を検出することにより、変位センサ24の検出面からセンサターゲットまでの径方向のギャップを検出することができる。
【0039】
そして、本実施の形態では、センサターゲット4に対する独立した検出面を有する一対のコイル素子27を直列に連結することによって一つの変位センサ24を構成しているので、図6(b)に示されるように、一つのコイル素子27で一つの変位センサ24を構成する場合に比べて発生する磁束密度がより高まっており、これにより、センサターゲットとのギャップの検出感度をより向上させるようにしている。
【0040】
〔センサターゲットの構造〕
図1〜2に示されるように、前記センサターゲット4は、内輪部材3の車両インナ側端部に外嵌して取り付けられた円筒部材よりなる。このセンサターゲット4の外周面には、車両インナ側の第一センサ部材21の検出面(磁極28の先端面)に対向する第一被検出部34と、車両アウタ側の第二センサ部材22の検出面に対向する第二被検出部35とが設けられている。本実施の形態では、これらの被検出部34、35は、センサターゲット4の周方向に沿って形成された第一及び第二環状溝により構成されている。
【0041】
図3に示されるように、車両インナ側の第一環状溝34は、その車両アウタ側の溝端面34aが第一センサ部材21の検出面A1の中心近傍に位置するように配置され、車両アウタ側の第二環状溝35は、その車両インナ側の溝端面35aが第二センサ部材22の検出面A2の中心近傍に位置するように配置されている。
このため、回転軌道輪のセンサターゲット4が軸方向の例えば車両インナ側に距離δだけ変位したとすると、車両インナ側においては、第一センサ部材21と第一環状溝34との軸方向のラップ長が減少して、第一センサ部材21によるギャップの検出値が減少し、車両アウタ側においては、第二センサ部材22と第二環状溝35との軸方向のラップ長が増加して、第二センサ部材22によるギャップの検出値が増加する。
【0042】
同様に、回転軌道輪のセンサターゲット4が軸方向の車両アウタ側に距離δだけ変位したとすると、車両インナ側の第一センサ部材21によるギャップの検出値が増加し、車両アウタ側の第二センサ部材22によるギャップの検出値が減少する。
このように、本実施の形態におけるセンサターゲット4は、回転軌道輪が軸方向における同じ向きに変位した場合には、第一及び第二センサ部材21、22が検出する検出値に差を生じさせる、軸方向に離れた一対の環状溝34、35を外周側面に備えている。
【0043】
また、前述の通り、これらの環状溝34、35は、回転軌道輪が軸方向における同じ向きに変位した場合に各センサ部材21、22が検出する検出値を正負逆向きに変化させるように、センサ側に対する軸方向位置が設定されている。
従って、後述の制御装置における検出値の演算方法でも明らかな通り、車両インナ側の第一センサ部材21の検出値と車両アウタ側の第二センサ部材22の検出値の差を取ることにより、回転軌道輪の軸方向への単位並進量に対する検出値が増幅され、これによってセンサ装置全体としての軸方向変位の検出感度を高めることができる。
【0044】
なお、図3に示した配置とは逆に、車両インナ側の第一環状溝34を第一センサ部材21の検出面A1に対して車両アウタ側にずらし、車両アウタ側の第二環状溝35を第二センサ部材22の検出面A2に対して車両インナ側にずらして配置することにしてもよく、この場合でも前記と同様の作用効果が得られる。
前記第一及び第二センサ部材21、22を構成する各変位センサ24は、前記蓋部材53を貫通する信号線36(図5参照)を介して例えば車体側のECUなどからなる制御装置37に接続されている。各センサから得られた出力電圧(検出値)は、その制御装置37において以下に述べる演算方法で演算され、これによって車輪に作用する各方向のモーメント荷重及び並進荷重が求められる。
【0045】
〔各荷重の演算方法〕
以下、図7〜14を参照しつつ、制御装置37で行われる荷重の演算方法について説明する。なお、図12は当該制御装置37での演算方法を示すブロック図である。
【0046】
〔方向及びセンサ検出値の定義〕
図14に示されるように、車輪の前後水平方向をx軸方向、車輪の左右水平方向(軸方向)をy軸方向、車輪の上下方向をz軸方向と定義する。
また、図7に示されるように、車両インナ側(第一センサ部材21)のセンサの検出値に添え字「i」を使用し、車両アウタ側(第二センサ部材22)のセンサに添え字「o」を使用する。更に、前側のセンサの検出値を「f(front)」と定義し、後側のセンサの検出値を「r(rear)」定義し、上側のセンサの検出値を「t(top)」と定義し、下側のセンサの検出値を「b(bottom)」と定義する。
【0047】
従って、第一及び第二センサ部材21、22に設けられた合計8つのセンサの検出値は、次のように定義される。
fi:第一前センサの検出値
ri:第一後センサの検出値
ti:第一上センサの検出値
bi:第一下センサの検出値
fo:第二前センサの検出値
ro:第二後センサの検出値
to:第二上センサの検出値
bo:第二下センサの検出値
【0048】
〔y軸方向の並進荷重Fyに対応する独立変数(sFy)〕
図8(b)に示されるように、車輪にy軸方向の並進荷重Fyが作用した場合、回転軌道輪はその荷重の向きに変位し、前記各環状溝34、35の位置が軸方向にずれる。このため、前記した通り、車両インナ側の各センサの検出値(本実施の形態では出力電圧)fi、ri、ti、biは軸方向の移動量δの増大に伴っていずれも減少し、車両アウタ側の各センサの検出値fo、ro、to、boは軸方向の移動量δの増大に伴っていずれも増加する。
そこで、図8(b)に示されるように、次の式(1)で算出されるsFyをy軸方向の並進荷重Fyに対応する独立変数として採用する(図12の演算ブロックB1参照)。
sFy=(fi+ri+ti+bi)−(fo+ro+to+bo) ・・・(1)
このように、車両インナ側の各センサの検出値と車両アウタ側の各センサの検出値の差を取ることで、回転軌道輪の軸方向への単位並進量に対するsFyが増幅されるので、センサ装置14全体としての軸方向変位の検出感度を高めることができる。
【0049】
〔x軸方向変位とz軸方向変位〕
図12の演算ブロックB2に示されるように、x軸方向については、前センサの検出値fと後センサの検出値rの差によってx軸方向変位の検出値とし、z軸方向については、上センサの検出値tと下センサの検出値bの差によってz軸方向変位の検出値とする。
前後のセンサの出力同士及び上下のセンサの出力同士では、それぞれ同じ方向に同じ量だけ温度の影響が出ることから、前記のように差を取ることによって温度ドリフトが取り除かれる。
【0050】
本実施の形態では車両インナ側とアウタ側に変位センサ24を配置しているので、次に示される通り、車両インナ側と車両アウタ側のそれぞれの位置において、x軸方向変位の検出値とz軸方向変位の検出値が得られる。
車両インナ側でのx軸方向変位の検出値 xi=fi−ri
車両インナ側でのz軸方向変位の検出値 zi=−ti+bi
車両アウタ側でのx軸方向変位の検出値 xo=fo−ro
車両アウタ側でのz軸方向変位の検出値 zo=−to+bo
〔z軸回りのモーメント荷重Mzに対応する独立変数(sMz)〕
次に、図9に示されるように、z軸回りのモーメント荷重Mzのみが作用する純モーメントの状態を仮定する。
この場合、軸受中心Oから車両インナ側センサ(第一センサ部材21)の検出位置までの軸方向距離をLi、軸受中心Oから車両アウタ側センサ(第二センサ部材22)の検出位置までの軸方向距離をLoとすると、z軸回りのモーメント荷重Mzに対応する検出値は、理論的には次の式で算出されるmzで求めることができ、このmzは、θが十分に小さい場合にはxiと一致する筈である。
mz=Li×tanθ
=Li×tan((xi−xo)/(Li−Lo))
しかし、実際には、センサターゲット4に環状溝34、35が形成されているため、図11(a)に示されるように、mzはxiとは一致しない。この図11(a)は、z軸回りのモーメント荷重Mzのみを作用させた場合における、そのMzとmz及びxiの検出値との関係を示す直線グラフであり、このように、mzとxiの検出値の直線グラフは傾きが一致しない。
【0051】
そこで、図11(c)に示されるように、これらの傾きを一致させるために、xi直線の傾きをmz直線の傾きで除算して得られる補正係数kzを導入する。従って、次の式(2)に示す通り、この補正係数kzを前記したmzに乗じることで、z軸回りのモーメント荷重Mzに対応する独立変数sMzが得られる(図12の演算ブロックB3及びB4参照)。なお、右辺のマイナス(−)は、その他の独立変数(前記sFy及び後述のsMxなど)と符号を一致させるためのものである。
sMz=−mz×kz ・・・(2)
【0052】
〔x軸回りのモーメント荷重Mxに対応する独立変数(sMx)〕
x軸方向とz軸方向とは90度だけ座標変換した関係にある。従って、x軸回りのモーメント荷重Mxに対応する独立変数sMxは、前記sMzの場合と同様の考え方により、次の式(3)によって算出することができる。
sMx=mx×kx ・・・(3)
なお、前記式(3)におけるkxは、kzと同じ趣旨で導入した補正係数であり、zi直線の傾きをmx直線の傾きで除算して得られる補正係数である(図11(b)及び図11(c)参照)。
【0053】
〔z軸方向の並進荷重Fzに対応する独立変数(sFz)〕
〔x軸方向の並進荷重Fxに対応する独立変数(sFx)〕
次に、図10に示されるように、z軸回りのモーメント荷重Mzとともにx軸方向の並進加重Fxが作用する状態を仮定する。
この場合、車両インナ側でのx軸方向変位の検出値xiには、z軸回りのモーメント荷重Mzに対応する独立変数sMzの成分と、x軸方向の並進加重Fxに対応する独立変数sFxの成分が含まれている。従って、x軸方向の並進加重Fxに対応する独立変数sFxは、前記xiからsMzを差し引くことによって求めることができる。
なお、このことは、z軸方向の並進荷重Fzに対応する独立変数であるsFzの場合にも、同様に当てはまる。
従って、z軸方向の並進荷重Fzによる独立変数sFzと、x軸方向の並進荷重Fxによる独立変数sFxは、それぞれ次の式(4)及び式(5)で算出することができる(図12の演算ブロックB4参照)。
sFz=zi−mx×kx ・・・(4)
sFx=xi−mz×kz ・・・(5)
【0054】
図13は、前述した式(1)〜(5)によって得られる各独立変数sFx、sFy、sFz、sMx及びsMzと、車輪に作用する実際の荷重であるFx、Fy、Fz、Mx及びMzとの対応関係を表すマトリックス図である。
すなわち、車輪に対して実際に負荷したFx、Fy、Fz、Mx及びMzを入力とし、式(1)〜(5)によって得られる各独立変数sFx、sFy、sFz、sMx及びsMzを出力として、それらの変数間の直線グラフをマトリックス化したものである。
【0055】
図13のマトリックス図に示されるように、Fxに対してはsFxのみが傾きを有する直線グラフとなり、その他のFy、Fz、Mx及びMzには反応がなく、これと同様に、当該マトリックス図の対角部分だけが直線グラフになっている。従って、これら5つの独立変数sFx、sFy、sFz、sMx及びsMzは、車輪に作用する実際の荷重である5分力Fx、Fy、Fz、Mx及びMzと線形独立の関係にある。
このため、それらの独立変数sFx、sFy、sFz、sMx及びsMzが求まれば、車輪に作用する5つの荷重Fx、Fy、Fz、Mx及びMzを未知数とした5元連立一次方程式を解くことにより、その各荷重Fx、Fy、Fz、Mx及びMzを演算することができる。
【0056】
本実施の形態では、ECUなどからなる制御装置37には、前述した各式(1)〜(5)と5元連立一次方程式を解く演算回路(ハードウェア)ないし制御プログラム(ソフトウェア)が組み込まれている。このため、各センサによる8つの検出値fi、ri、ti、bi、fo、ro、to及びboに基づいて、車輪に作用する実際の荷重Fx、Fy、Fz、Mx及びMzを求めることができる。
【0057】
図15は本発明の軸受装置のさらに他の実施の形態を示しており、この実施の形態では変位センサ24は単列であり、また軸受装置の車両インナ側端部は、回転軌道輪の車両インナ側端部の軸端面とのギャップを検出する軸方向変位センサ41を備えた蓋部材42で閉塞されている。なお、図1に示される実施の形態と同一の構成又は要素には、同一の符号を付し、簡単のためにそれらの説明を省略している。
本実施の形態では、変位センサ24が単列であり、またセンサハウジング16の車両アウタ側端部の圧入長さが充分であることから、蓋部材42は、前記センサハウジング16の車両インナ側端部に外嵌されていないが、図1に示される実施の形態のように、センサハウジング16よりも高剛性の蓋部材42を当該センサハウジング16の車両インナ側端部に外嵌させることもできる。さらに、図15に示される実施の形態では、変位センサ24が単列であり、当該変位センサ24による被検出部の軸方向長さをあまり必要としないことから、センサターゲット4を省略しており、変位センサ24は内輪部材3の外周面とのギャップを検出するように構成されている。
【0058】
つぎに、図15に示される実施の形態のように、単列の変位センサ24及び軸方向センサ41を備えた軸受装置における、各荷重の演算方法について説明する。
変位センサ24は周方向に4箇所(上下の2箇所と前後の2箇所)設けられており、一方、軸方向変位センサ41は上下方向に2箇所設けられているものとする。
以上のようにセンサを配置した軸受装置において、作用する荷重(タイヤ力)と回転軌道輪の変位とを予め関連付けることによって、当該荷重を求めることができる。つまり、前記変位センサによって、回転軌道輪に作用した荷重のx軸、y軸、z軸についての各方向成分(Fsx、Fsy、Fsz、Msx、Msz)を算出することができる。
【0059】
前後の変位センサ、上下の変位センサ、上下の軸方向変位センサは演算処理部(図示せず)と接続されている。この演算処理部は、車体側に搭載された制御手段(ECU)とすることができ、各変位センサの出力値を演算処理できる。
図16は、回転軌道輪に取り付けた車輪に力・モーメントを作用させた場合の各変位センサの出力値から求めた回転軌道輪の変位を示したものである。つまり、図16は、車輪に作用させた荷重として、x軸方向の荷重(Fx入力)、y軸方向の荷重(Fy入力)、z軸方向の荷重(Fz入力)、モーメントについて、x軸回りのモーメント(Mx入力)、z軸回りのモーメント(Mz入力)をそれぞれ作用させた場合の、前後の変位センサ、上下の軸方向変位センサ、上下の変位センサによる検出値(ギャップ)から求めた回転軌道輪の各変位をグラフとしてそれぞれ示したものである。
【0060】
そして、この図16を行列式として示した(整理した)一般式が式(6)であり、図16の結果により求めた行列式の行列Mは数2によって表される。つまり、式(6)と式(7)は前記各変位センサと各方向の荷重・モーメントとの関係を行列式で表現したものである。そして、この行列Mの逆行列M−1を求めたものが式(8)であり、各変位センサによって得られた値とこの逆行列M−1とによる式(9)の演算によって、車輪(回転軌道輪)に作用した各軸方向の成分(Fsx,Fsy,Fsz,Msx,Msz)を演算によって求めることができる。
【0061】
【数1】
【0062】
【数2】
【0063】
【数3】
【0064】
【数4】
【0065】
以上の各変位センサと演算処理部とによれば、当該各変位センサからの出力値と、予め記憶させてある所定の関数(逆行列M−1)との演算によって、車輪(回転軌道輪)に作用している荷重(タイヤ力)の各軸方向の成分(Fsx,Fsy,Fsz,Msx,Msz)を算出することができる。なお、変位センサ24は中心線Cを挟んで上下・前後で対称に配置されていることにより、相互の出力値の差を演算することで温度補正を行う必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の軸受装置の一実施の形態の軸方向断面説明図である。
【図2】図1に示される軸受装置の部分拡大図である。
【図3】図1に示される軸受装置における変位センサと段部の位置関係を表す図である。
【図4】図1に示される軸受装置をインナ側から見た図である。
【図5】図1に示される軸受装置であって、そのインナ側シール装置を取り外した状態を車両インナ側から見た図である。
【図6】(a)はセンサ装置によるギャップの検出回路の一例を示す回路図であり、(b)はコイル素子の機能説明図である。
【図7】各変位センサの配置位置とその検出値の定義を示す図である。
【図8】(a)はsXyの演算手法を示すグラフであり、(b)は荷重Fyによる回転軌道輪の変形挙動を示す図である。
【図9】純モーメント状態での回転軌道輪の変形状態を示す図である。
【図10】モーメント荷重と並進荷重が作用した場合の回転軌道輪の変形状態を示す図である。
【図11】(a)は純モーメント状態におけるmzとxiの直線グラフであり、(b)は純モーメント状態におけるmxとziの直線グラフであり、(c)は補正係数kz及びkxの計算方法を示す式である。
【図12】制御手段での演算方法を示すブロック図である。
【図13】センサ出力から演算した独立変数と車輪に作用する実際の荷重との対応関係を示すマトリックス図である。
【図14】x軸方向、y軸方向及びz軸方向と各荷重の定義を示す車輪部分の斜視図である。
【図15】本発明の軸受装置の他の実施の形態の軸方向断面説明図である。
【図16】回転軌道輪に取り付けた車輪に力・モーメントを作用させた場合の各変位センサの出力値から求めた回転軌道輪の変位を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
1 外輪
2 内軸
3 内輪部材
4 センサターゲット
5 転動体
7 フランジ部
8 内側軌道面
9 外側軌道面
14 センサ装置
16 センサハウジング
21 第一センサ部材
22 第二センサ部材
24 変位センサ
40 配線基板
41 軸方向変位センサ
42 蓋部材
53 蓋部材
H 軸受装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体とを備えた車輪用転がり軸受装置であって、
前記回転軌道輪の車両インナ側端部の外周面とのギャップを検出する複数の変位センサを周方向に有する円環状のセンサハウジングの車両アウタ側端部が、前記固定軌道輪の車両インナ側端部内周面に圧入されており、且つ
前記変位センサが合成樹脂又はゴム系材料で被覆されて前記センサハウジングと一体化されていることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。
【請求項2】
前記センサハウジングがアルミニウムで作製されており、前記合成樹脂又はゴム系材料中に粉末状のアルミナが混入されている請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置。
【請求項3】
前記センサハウジングの車両インナ側端部に、当該センサハウジングよりも高剛性の材料からなる蓋部材が外嵌されている請求項1〜2のいずれかに記載の車輪用転がり軸受装置。
【請求項1】
車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体とを備えた車輪用転がり軸受装置であって、
前記回転軌道輪の車両インナ側端部の外周面とのギャップを検出する複数の変位センサを周方向に有する円環状のセンサハウジングの車両アウタ側端部が、前記固定軌道輪の車両インナ側端部内周面に圧入されており、且つ
前記変位センサが合成樹脂又はゴム系材料で被覆されて前記センサハウジングと一体化されていることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。
【請求項2】
前記センサハウジングがアルミニウムで作製されており、前記合成樹脂又はゴム系材料中に粉末状のアルミナが混入されている請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置。
【請求項3】
前記センサハウジングの車両インナ側端部に、当該センサハウジングよりも高剛性の材料からなる蓋部材が外嵌されている請求項1〜2のいずれかに記載の車輪用転がり軸受装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−128640(P2008−128640A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309999(P2006−309999)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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