説明

車輪用軸受装置

【課題】内方部材に位置決め手段を設け、密封性の向上を図ると共に、車両への組立工数の削減を図った車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】ハブ輪4の端部に凹所20を有する略均一な肉厚の取付部21が形成され、この取付部21にボルト孔22が複数個形成されてハブ輪4と懸架装置が固定ボルトを介して締結されると共に、当該取付部21の外径に遮蔽板23が圧入され、この遮蔽板23が防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成され、取付部の外径に圧入される円筒部23aと、この円筒部23aから径方向外方に延びる立板部23bとを備え、この立板部23bと外方部材2の端部に装着されたパルサーリング12との間にラビリンスシールが形成されると共に、懸架装置と周方向の位置決めを行うための位置決め手段が遮蔽板23の円筒部23aの外周の一部をカットして形成された平面部24で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置、特に、外方部材が車輪と共に回転する、所謂外輪回転タイプに関し、内方部材に位置決め手段を設け、車両への組立工数の削減を図った車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車等の車輪を支持する車輪用軸受装置は、車輪を取り付けるためのハブ輪を転がり軸受を介して回転自在に支承するもので、駆動輪用と従動輪用とがある。構造上の理由から、駆動輪用では内輪回転タイプが、従動輪用では内輪回転と外輪回転の両タイプが一般的に採用されているが、外輪回転タイプの車輪用軸受装置は、懸架装置への取付部の構造を内輪回転タイプよりも簡素化できるため、一部の自動車で従動輪支持用の車輪用軸受装置として使用されている。然しながら、内方部材に比べて直径が大きな外方部材を回転させるため、慣性モーメントが大きくなり、加速性能を中心とする走行性能や燃費性能を確保する面から、内輪回転タイプに比べて不利になる。このような不利を低減乃至解消するためには、外方部材の軽量化が効果的である。このような事情に鑑みて考えられた外輪回転タイプの車輪用軸受装置として、従来から図23、図24に示すような構造が知られている。
【0003】
この車輪用軸受装置100は、内方部材101と、外方部材102と、複列のボール103と、補強部材104とを備えている。このうち内方部材101は、外周面に複列の内側転走面101a、101bが形成され、使用状態で懸架装置に支持固定されて回転しない。一方、外方部材102は、外周面に回転側フランジ105を一体に有し、内周面に複列の外側転走面102a、102bが形成されている。そして、使用状態でこの車輪取付フランジ105に結合固定された車輪(図示せず)と共に回転する。
【0004】
補強部材104は、全体を部分円すい筒状とし、大径側端部を回転側フランジ105の外周縁部に、同じく小径端部を外方部材102の外周面で、この回転側フランジ105よりも軸方向内方寄り部分に、それぞれ溶接により接合固定している。さらに、内方部材101を懸架装置に対し固定するために、この内方部材101の周面に静止側フランジ106が形成されている。
【0005】
ここで、旋回走行時等には、車輪と路面との接触部からの入力が回転側フランジ105に対し、この回転側フランジ105を外方部材102の本体部分に対し曲げる方向のモーメントとして加わる。すなわち、回転側フランジ105と外方部材102の本体部分との間に補強部材104を設けているので、モーメントに拘わらず、回転側フランジ105が外方部材102の本体部分に対し曲がることを抑えられる。このため、外方部材102を薄肉化しても、車輪の支持剛性を確保して、走行安定性等の必要とする性能を確保することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2007 060 627号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
こうした車輪用軸受装置100において、内方部材101の静止側フランジ106に固定ボルト107を締結するためのタップ穴108が設けてあり、懸架装置側から固定ボルト107を組み付ける際、懸架装置と内方部材101との周方向位置決めが難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、内方部材に位置決め手段を設け、密封性の向上を図ると共に、車両への組立工数の削減を図った車輪用軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1記載の発明は、外周に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から傾斜する段部を介して軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成され内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間のインナー側の開口部に装着されたシールとを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部によって前記内輪が軸方向に固定されると共に、前記複列の転動体のうちインナー側の転動体のピッチ円直径がアウター側の転動体のピッチ円直径よりも大径に設定された車輪用軸受装置において、前記ハブ輪のインナー側の端部に凹所を有する略均一な肉厚の取付部が形成され、この取付部にボルト孔が複数個形成されて前記ハブ輪と懸架装置が固定ボルトを介して締結されると共に、当該ハブ輪の取付部の外径に位置決め部材が圧入され、この位置決め部材に前記懸架装置と周方向の位置決めを行うための位置決め手段が設けられている。
【0010】
このように、内方部材と外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、外方部材と内方部材との間に形成される環状空間のインナー側の開口部に装着されたシールとを備え、複列の転動体のうちインナー側の転動体のピッチ円直径がアウター側の転動体のピッチ円直径よりも大径に設定された外輪回転タイプの第3世代構造の車輪用軸受装置において、ハブ輪のインナー側の端部に凹所を有する略均一な肉厚の取付部が形成され、この取付部にボルト孔が複数個形成されてハブ輪と懸架装置が固定ボルトを介して締結されると共に、当該ハブ輪の取付部の外径に位置決め部材が圧入され、この位置決め部材に懸架装置と周方向の位置決めを行うための位置決め手段が設けられているので、ハブ輪と懸架装置との周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
【0011】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記外方部材のインナー側の端部にパルサーリングが装着され、このパルサーリングが、強磁性体の鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、前記外方部材の端部外周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記外方部材のインナー側の端面に密着する鍔部とを備えた芯金と、この芯金に加硫接着によって一体に接合され、エラストマに磁性体粉が混入されて周方向に交互に磁極N、Sが着磁された磁気エンコーダで構成されると共に、前記位置決め部材が、前記取付部の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部とを備え、この立板部と前記パルサーリングが僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシールが形成されていれば、外部からシールに直接泥水が浸入するのを確実に防止することができ、密封性を向上させることができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明のように、前記位置決め部材が防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成されていても良いし、また、請求項4に記載の発明のように、前記位置決め部材が、繊維状強化材が10〜50wt%充填された熱可塑性の合成樹脂で形成されていても良い。
【0013】
また、請求項5に記載の発明のように、前記位置決め手段が前記位置決め部材の円筒部の外周の一部をカットして形成された平面部で構成されていても良い。
【0014】
また、請求項6に記載の発明のように、前記位置決め手段が前記位置決め部材の円筒部のインナー側の端部から径方向外方に突出して形成された係止片で構成されていても良い。
【0015】
また、請求項7に記載の発明のように、前記位置決め手段が前記位置決め部材の円筒部の外周の一部をカットして形成された凹部で構成されていても良い。
【0016】
また、請求項8に記載の発明のように、前記位置決め部材が、前記円筒部から径方向内方に延び、前記取付部の端面に密着する鍔部を備え、前記位置決め手段が前記鍔部に形成されていれば、位置決め部材の位置決め精度を高めることができる。
【0017】
また、請求項9に記載の発明のように、前記位置決め手段が前記鍔部から突出して形成された係止片で構成されていても良い。
【0018】
また、請求項10に記載の発明のように、前記位置決め手段が前記鍔部の周方向一箇所に穿設された係合孔で構成されていても良い。
【0019】
また、請求項11に記載の発明のように、前記位置決め手段が前記鍔部の周方向一箇所に形成されたスリットで構成されていても良い。
【0020】
また、請求項12に記載の発明のように、前記シールが、互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とからなるパックシールで構成され、前記スリンガが防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成され、前記ハブ輪の取付部の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部を備え、この立板部と前記位置決め部材が僅かな軸方向すきまを介して対向し、ラビリンスシールが形成されていれば、外部からシールに直接泥水が浸入するのを確実に防止することができる。
【0021】
また、請求項13に記載の発明のように、前記シールが、互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とからなるパックシールで構成され、前記スリンガが防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成され、前記ハブ輪の取付部の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部を備え、この立板部に前記位置決め部材が一体に接合されていても良い。
【0022】
また、請求項14に記載の発明のように、前記シールが、互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とからなるパックシールで構成され、前記スリンガが防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成され、前記ハブ輪の取付部の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延び、重合して形成された立板部と、この立板部から軸方向に延びる円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記取付部のインナー側の端面に密着する鍔部とを備えると共に、この鍔部に前記位置決め手段が設けられていても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る車輪用軸受装置は、外周に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から傾斜する段部を介して軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成され内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間のインナー側の開口部に装着されたシールとを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部によって前記内輪が軸方向に固定されると共に、前記複列の転動体のうちインナー側の転動体のピッチ円直径がアウター側の転動体のピッチ円直径よりも大径に設定された車輪用軸受装置において、前記ハブ輪のインナー側の端部に凹所を有する略均一な肉厚の取付部が形成され、この取付部にボルト孔が複数個形成されて前記ハブ輪と懸架装置が固定ボルトを介して締結されると共に、当該ハブ輪の取付部の外径に位置決め部材が圧入され、この位置決め部材に前記懸架装置と周方向の位置決めを行うための位置決め手段が設けられているので、ハブ輪と懸架装置との周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】(a)は、図1の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のIII方向から見た矢視図である。
【図4】(a)は、図3の変形例を示す要部拡大図、(b)は、IV方向から見た矢視図である。
【図5】(a)は、図3の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、V方向から見た矢視図である。
【図6】(a)は、図3の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、VI方向から見た矢視図である。
【図7】(a)は、図6の変形例を示す要部拡大図、(b)は、VII方向から見た矢視図である。
【図8】(a)は、図6の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、VIII方向から見た矢視図である。
【図9】(a)は、図6の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、IX方向から見た矢視図である。
【図10】本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図11】図10の側面図である。
【図12】(a)は、図10の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXII方向から見た矢視図である。
【図13】本発明に係る車輪用軸受装置の第3の実施形態を示す縦断面図である。
【図14】図13の側面図である。
【図15】(a)は、図13の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXV方向から見た矢視図である。
【図16】(a)は、図15の変形例を示す要部拡大図、(b)は、XVI方向から見た矢視図である。
【図17】(a)は、図16の変形例を示す要部拡大図、(b)は、XVII方向から見た矢視図である。
【図18】本発明に係る車輪用軸受装置の第4の実施形態を示す縦断面図である。
【図19】図18の側面図である。
【図20】(a)は、図18の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXX方向から見た矢視図である。
【図21】(a)は、図20の変形例を示す要部拡大図、(b)は、XXI方向から見た矢視図である。
【図22】(a)は、図20の変形例を示す要部拡大図、(b)は、XXII方向から見た矢視図である。
【図23】従来の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【図24】図23の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
外周に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から傾斜する段部を介して軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成されて背面合せタイプの複列アンギュラ玉軸受を構成する内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列のボールと、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間のインナー側の開口部に装着されたシールとを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部によって前記内輪が軸方向に固定されると共に、前記複列のボールのうちインナー側のボールのピッチ円直径がアウター側のボールのピッチ円直径よりも大径に設定された車輪用軸受装置において、前記ハブ輪のインナー側の端部に凹所を有する略均一な肉厚の取付部が形成され、この取付部にボルト孔が複数個形成されて前記ハブ輪と懸架装置が固定ボルトを介して締結されると共に、当該ハブ輪の取付部の外径に鋼板からプレス加工によって形成された位置決め部材である遮蔽板が圧入され、この遮蔽板が防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成され、前記取付部の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部とを備え、この立板部と前記外方部材のインナー側の端部に装着されたパルサーリングとの間にラビリンスシールが形成されると共に、前記懸架装置と周方向の位置決めを行うための位置決め手段が前記遮蔽板の円筒部の外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、図2は、図1の側面図、図3(a)は、図1の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のIII方向から見た矢視図、図4(a)は、図3の変形例を示す要部拡大図、(b)は、IV方向から見た矢視図、図5(a)は、図3の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、V方向から見た矢視図、図6(a)は、図3の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、VI方向から見た矢視図、図7(a)は、図6の変形例を示す要部拡大図、(b)は、VII方向から見た矢視図、図8(a)は、図6の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、VIII方向から見た矢視図、図9(a)は、図6の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、IX方向から見た矢視図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0027】
図1、2に示す車輪用軸受装置は第3世代と呼称される従動輪用であって、固定側部材となる内方部材1と、回転側部材となる外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)3、3とを備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0028】
ハブ輪4は、外周に一方(インナー側)の内側転走面4aと、この内側転走面4aから段部7aを介して軸方向に延びる小径段部4bが形成されている。内輪5は、外周に他方(アウター側)の内側転走面5aが形成され、ハブ輪4の小径段部4bに圧入されて背面合せタイプの複列アンギュラ玉軸受を構成すると共に、小径段部4bの端部を塑性変形させて形成した加締部8によって内輪5が軸方向に固定されている。なお、内輪5および転動体3はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0029】
ハブ輪4はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面4aから小径段部4bの外周面に亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、加締部8は鍛造加工後の表面硬さのままとされている。これにより、内輪5の嵌合部となる小径段部4bの耐フレッティング性が向上すると共に、微小なクラック等の発生がなく加締部8の塑性加工をスムーズに行うことができる。
【0030】
外方部材2は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、ハブボルト(図示せず)が螺着されるボルト孔6aが穿設され、このボルト孔6aの周辺は肉厚のリブ6bが形成されている。このリブ6bにより、外方部材2の軽量化と高剛性化を図ることができ、大きな曲げモーメント荷重がこの車輪取付フランジ6に負荷されても充分な強度を確保することができる。
【0031】
また、外方部材2の内周には、内輪5の内側転走面5aに対向するアウター側の外側転走面2aと、この外側転走面2aから段部7bを介してハブ輪4の内側転走面4aに対向するインナー側の外側転走面2bが一体に形成されている。これら両転走面間に複列の転動体3、3が収容され、保持器9、10によって転動自在に保持されている。この外方部材2はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面2a、2bが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0032】
外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間のインナー側の開口部には後述するシール11が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。また、外方部材2のインナー側の端部にパルサーリング12が装着されている。このパルサーリング12は、芯金13と、この芯金13に加硫接着によって一体に接合される磁気エンコーダ14とからなる。
【0033】
芯金13は、強磁性体の鋼板、例えば、フェライト系のステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、外方部材2の端部外周に圧入される円筒状の嵌合部13aと、この嵌合部13aから径方向内方に延び、外方部材2のインナー側の端面2cに密着して位置決め精度を高める鍔部13bとを備えている。磁気エンコーダ14は、ゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入されると共に、周方向に交互に磁極N、Sが着磁され、車輪の回転速度検出用のロータリエンコーダを構成している。なお、ここでは、転動体3にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受を例示したが、これに限らず、転動体3に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受であっても良い。
【0034】
シール11は、図3(a)に拡大して示すように、互いに対向配置されたスリンガ15と環状のシール板16とからなる、所謂パックシールで構成されている。スリンガ15は、防錆能を有する鋼板、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)やフェライト系のステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、ハブ輪4の外径に圧入される円筒部15aと、この円筒部15aから径方向外方に延びる立板部15bとからなる。
【0035】
一方、シール板16は、外方部材2のインナー側の端部に内嵌される芯金17と、この芯金17に加硫接着により一体に接合されたシール部材18とからなる。芯金17は、オーステナイト系ステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成されている。
【0036】
シール部材18はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延び、スリンガ15の立板部15bのアウター側の側面に所定の軸方向シメシロを介して摺接するサイドリップ18aと、この内径側で二股状に傾斜して延び、スリンガ15の円筒部15aに所定の径方向シメシロを介して摺接するダストリップ18bとグリースリップ18cを有している。なお、シール部材18の材質としては、例示したNBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0037】
本実施形態では、図1に示すように、アウター側の転動体3のピッチ円直径PCDoがインナー側の転動体3のピッチ円直径PCDiよりも小径に設定されている(PCDo<PCDi)。そして、複列の転動体3、3のサイズは同じであるが、このピッチ円直径PCDo、PCDiの違いにより、インナー側の転動体3の個数がアウター側の転動体3の個数よりも多く設定されている。
【0038】
ハブ輪4の外郭形状は、内側転走面4aの溝底部からカウンタ部19と、このカウンタ部19から傾斜して形成された段部7a、および内輪5が突き合わされる肩部4cを介して小径段部4bに続いている。一方、外方部材2において、ピッチ円直径PCDo、PCDiの違いに伴い、アウター側の外側転走面2aがインナー側の外側転走面2bよりも縮径して形成され、アウター側の外側転走面2aから傾斜した段部7bを介してインナー側の外側転走面2bが形成されている。この段部7bの傾斜角は、ハブ輪4の段部7aの傾斜角と略同一角度になるように設定されている。
【0039】
こうした構成の車輪用軸受装置では、アウター側の転動体3のピッチ円直径PCDoをインナー側の転動体3のピッチ円直径PCDiよりも小径に設定され、その分、転動体3の個数もインナー側の個数がアウター側の個数よりも多く設定されているため、有効に軸受スペースを活用してアウター側に比べインナー側部分の軸受剛性を増大させることができ、軸受の長寿命化を図ることができる。さらに、ハブ輪4の段部7aと外方部材2の段部7bの傾斜が略同一角度に設定されているので、装置の軽量・コンパクト化と高剛性化という、相反する課題を解決することができる。
【0040】
ここで、ハブ輪4のインナー側の端部にはすり鉢状の凹所20を有する取付部21が形成されている。この凹所20の深さは肩部4c付近までとされ、ハブ輪4の取付部21が略均一な肉厚となっている。これにより、ハブ輪4の強度を保ちつつ軽量化を図ることができる。本実施形態では、この取付部21にボルト孔22が複数個形成され、これらボルト孔22に締結される固定ボルト(図示せず)によって懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられる(図2参照)。
【0041】
本実施形態では、ハブ輪4の取付部21の外径に遮蔽板(位置決め部材)23が装着され、この遮蔽板23に位置決め手段24が設けられている。遮蔽板23は、図3(a)に示すように、防錆能を有する鋼板、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部23aと、この円筒部23aから径方向外方に延びる立板部23bとからなる。この立板部23bは、前述したパルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されると共に、スリンガ15の立板部15bと僅かな軸方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25’が形成されている。これにより、シール11に直接泥水が浸入するのを防止することができ、密封性を向上させることができる。
【0042】
位置決め手段24は、遮蔽板23の円筒部23aの外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている(図3(b)参照)。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの平面部が形成され、これら平面部同士を嵌合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
【0043】
図4に前述した位置決め手段24の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板26が装着され、この遮蔽板26に位置決め手段27が設けられている。遮蔽板26は、オーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部26aと、この円筒部26aから径方向外方に延びる立板部26bとを備えている。この立板部26bは、前述したパルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。これにより、シール11に直接泥水が浸入するのを防止することができ、密封性を向上させることができる。
【0044】
位置決め手段27は円筒部26aのインナー側の端部から径方向外方に折曲された係止片で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係止片に係合する凹部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0045】
図5に前述した位置決め手段24の他の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板28が装着され、この遮蔽板28に位置決め手段29が設けられている。遮蔽板28は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部28aと、この円筒部28aから径方向外方に延びる立板部28bとからなる。この立板部28bは、前述したパルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。これにより、シール11に直接泥水が浸入するのを防止することができ、密封性を向上させることができる。
【0046】
位置決め手段29は、遮蔽板28の円筒部28aの外周の一部をカットして形成された凹部で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルに少なくとも一つの凸部が形成され、これら凹凸を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0047】
図6に前述した位置決め手段24の他の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板30が装着され、この遮蔽板30に位置決め手段31が設けられている。遮蔽板30は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面がクランク状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部30aと、この円筒部30aから径方向外方に延びる立板部30bと、円筒部30aから径方向内方に延び、取付部21の端面21aに密着する鍔部30cとを備え、立板部30bは、パルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。
【0048】
位置決め手段31は、遮蔽板30の鍔部30cから折曲された係止片で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係止片に係合する凹部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0049】
また、遮蔽板30の鍔部30cにより、位置決め手段31の位置決めを精度良く行うことができると共に、遮蔽板30と取付部21の嵌合面への雨水等の浸入によるもらい錆の発生を防止することができる。
【0050】
図7に前述した位置決め手段31の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板32が装着され、この遮蔽板32に位置決め手段33が設けられている。遮蔽板32は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面がクランク状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部30aと、この円筒部30aから径方向外方に延びる立板部30bと、円筒部30aから径方向内方に延び、取付部21の端面21aに密着する鍔部32aとを備え、立板部30bは、パルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。
【0051】
位置決め手段33は、遮蔽板32の鍔部32aの周方向一箇所に穿設された係合孔で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係合孔に係合する凸部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0052】
図8に前述した位置決め手段31の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板34が装着され、この遮蔽板34に位置決め手段35が設けられている。遮蔽板34は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面がクランク状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部30aと、この円筒部30aから径方向外方に延びる立板部30bと、円筒部30aから径方向内方に延び、取付部21の端面21aに密着する鍔部34aとを備え、立板部30bは、パルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。
【0053】
位置決め手段35は、遮蔽板34の鍔部34aの周方向一箇所に形成されたスリットで構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこのスリットに係合する凸部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0054】
図9に前述した位置決め手段31の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板36が装着され、この遮蔽板36に位置決め手段37が設けられている。遮蔽板36は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面がコの字状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部36aと、この円筒部36aから径方向外方に延びる立板部30bとを備え、この立板部30bは、パルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。
【0055】
位置決め手段37は、遮蔽板36の円筒部36aのインナー側の端部から折曲された係止片で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係止片に係合する凹部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【実施例2】
【0056】
図10は、本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図、図11は、図10の側面図、図12(a)は、図10の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXII方向から見た矢視図である。なお、この第2の実施形態は、前述した第1の実施形態(図1)と基本的にはシールの構成と位置決め手段が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0057】
図10、11に示す車輪用軸受装置は、内方部材1と外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体3、3とを備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0058】
外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間のインナー側の開口部にはシール38が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0059】
シール38は、図12(a)に拡大して示すように、互いに対向配置されたスリンガ39と環状のシール板16とからなるパックシールで構成されている。スリンガ39は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて形成され、ハブ輪4の取付部21の外径に圧入される円筒部39aと、この円筒部39aから径方向外方に延び、重合して形成された立板部39bと、この立板部39bから軸方向に延びる円筒状の嵌合部39cと、この嵌合部39cから径方向内方に延び、取付部21のインナー側の端面21aに密着する鍔部39dとを備えている。
【0060】
本実施形態では、位置決め手段40は、シール38を構成するスリンガ39に設けられている。具体的には、スリンガ39の鍔部39dの周方向一箇所に穿設された係止孔で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルの端面には少なくとも凸部が形成され、これら凹凸を嵌合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、部品点数の削減による軸受の組立工数削減および車両への組立工数の削減を図ることができる。
【実施例3】
【0061】
図13は、本発明に係る車輪用軸受装置の第3の実施形態を示す縦断面図、図14は、図13の側面図、図15(a)は、図13の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXV方向から見た矢視図である。なお、この第3の実施形態は、前述した第1の実施形態(図1)と基本的には位置決め手段が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0062】
図13、14に示す車輪用軸受装置は、内方部材1と外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体3、3とを備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0063】
外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間のインナー側の開口部にはシール11が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0064】
本実施形態では、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材41が装着され、この位置決め部材41に位置決め手段42が設けられている。位置決め部材41は、図15(a)に示すように、GF(グラス繊維)等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA(ポリアミド)66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって断面が略L字状に、全体として円環状に形成されている。なお、GFの充填量が10wt%未満ではその補強効果が発揮されず、また、50wt%を超えて充填されると、成形品内の繊維が異方性を引き起こして密度が大きくなって寸法安定性が低下すると共に、靭性が低下し、組立時の弾性変形によって割損する恐れがあるため好ましくない。なお、繊維状強化材としては、GFに限らず、これ以外に、CF(炭素繊維)やアラミド繊維、ホウ素繊維等を例示することができる。
【0065】
なお、位置決め部材41の材質として、前述したPA66以外に、PPA(ポリフタルアミド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の所謂エンジニアリングプラスチックと呼称される熱可塑性の合成樹脂やポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)等の所謂スーパーエンジニアリングプラスチックと呼称される熱可塑性の合成樹脂、あるいは、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、ポリイミド樹脂(PI)等の熱硬化性の合成樹脂であっても良い。また、環境負荷を軽減する生分解性の合成樹脂であっても良い。この生分解性の合成樹脂の成分としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼイン等を例示することができる。
【0066】
位置決め手段42は、位置決め部材41の外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの平面部が形成され、これら平面部同士を嵌合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図った車輪用軸受装置を提供することができる。ここで、位置決め部材41の端部にテーパ状の案内部41aが形成されている。これにより、車両組立時の位置決めを容易にでき、組立工数を削減することができる。なお、この案内部41aはテーパ状に限らず、例えば、円弧面からなるR面であっても良い。
【0067】
図16に前述した位置決め手段42の変形例を示す。ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材43が装着され、この位置決め部材43の外周に位置決め手段44が設けられている。位置決め部材43は、図16(a)に示すように、GF等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって円筒状に形成されている。
【0068】
位置決め手段44は、円筒状の位置決め部材43のインナー側の端部に径方向に突出して形成された係止片で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係止片に係合する凹部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。ここで、位置決め手段44の端部にテーパ状の案内部44aが形成されている。これにより、車両組立時の位置決めを容易にでき、組立工数を削減することができる。なお、位置決め手段44として、図示はしないが、図5で記載したように遮蔽板28の円筒部(位置決め部材)28aの外周の一部をカットして形成された凹部で構成してもよい。
【0069】
図17に前述した位置決め手段44の変形例を示す。ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材45が装着され、この位置決め部材45に位置決め手段46が設けられている。位置決め部材45は、図17(a)に示すように、GF等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって断面が略L字状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部45aと、この円筒部45aのインナー側の端部から径方向内方に延び、ハブ輪4の取付部21の端面21aに密着する鍔部45bを備えている。
【0070】
位置決め手段46は、位置決め部材45の鍔部45bの側面から一部突出して形成された係止片で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係止片に係合する凹部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。ここで、位置決め手段46は断面が円形で、その先端部が尖塔状に形成されている。これにより、車両組立時の位置決めを容易にでき、組立工数を削減することができる。なお、位置決め手段46として、図示はしないが、図7で記載したように位置決め部材45の鍔部45bの周方向一箇所に穿設された係合孔にて構成しても良いし、図8で記載したようにスリットにより構成しても良い。また、位置決め手段46として、図9で記載したようなインナー側の端部から折曲された係止片で構成しても良い。
【実施例4】
【0071】
図18は、本発明に係る車輪用軸受装置の第4の実施形態を示す縦断面図、図19は、図18の側面図、図20(a)は、図18の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXX方向から見た矢視図である。なお、この第4の実施形態は、前述した第3の実施形態(図13)と基本的にはシールの構成と位置決め手段が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0072】
図18、19に示す車輪用軸受装置は、内方部材1と外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体3、3とを備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0073】
外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間のインナー側の開口部にはシール47が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0074】
シール47は、図20(a)に拡大して示すように、互いに対向配置されたスリンガ48と環状のシール板16とからなるパックシールで構成されている。スリンガ48は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて形成され、ハブ輪4の取付部21の外径に圧入される円筒部48aと、この円筒部48aから径方向外方に延びる立板部48bを備えている。
【0075】
本実施形態では、スリンガ48に位置決め部材49が射出成形によって一体に接合され、この位置決め部材49に位置決め手段50が設けられている。位置決め部材49は、GF等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって断面が略L字状に、全体として円環状に形成されている。
【0076】
位置決め部材49は、スリンガ48の立板部48bの先端部からインナー側の側面に亙って接合される立板部49aと、この立板部49aの内径部からインナー側に延び、取付部21の外径に圧入される円筒部49bを備えている。
【0077】
位置決め手段50は、位置決め部材49の円筒部49bの外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの平面部が形成され、これら平面部同士を嵌合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。ここで、位置決め部材49の円筒部49bの端部にテーパ状の案内部50aが形成されている。これにより、車両組立時の位置決めを容易にでき、組立工数を削減することができる。
【0078】
図21に前述した位置決め部材49の変形例を示す。この実施形態は、前述した位置決め部材49の一部形状が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。この位置決め部材51は、(a)に示すように、シール47’を構成するスリンガ48に射出成形によって一体に接合されている。
【0079】
本実施形態では、位置決め部材51は、GF等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって断面が略L字状に、全体として円環状に形成されている。そして、スリンガ48の立板部48bの先端部からインナー側の側面に亙って接合される立板部49aと、この立板部49aの内径部からインナー側に延び、取付部21の外径に圧入される円筒部49bと、立板部49aの外径部から径方向に突出して形成される帯状部51aを備えている。位置決め手段50は、位置決め部材51の円筒部49bの外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている((b)参照)。
【0080】
位置決め部材51の帯状部51aは、外方部材2の端部に装着されたパルサーリング12の磁気エンコーダ14に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されると共に、シール47’を構成するシール板16にL字状の環状すきまを介して対向し、ラビリンスシール52が形成されている。これにより、シール47’に直接泥水が浸入するのを防止することができ、密封性を一層向上させることができる。
【0081】
図22に前述した位置決め部材49の変形例を示す。この実施形態は、前述した位置決め部材49の一部形状が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。この位置決め部材53は、(a)に示すように、シール47”を構成するスリンガ48に射出成形によって一体に接合されている。
【0082】
位置決め部材53は、GF等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって断面が略クランク状に形成されている。そして、スリンガ48の立板部48bの先端部からインナー側の側面に亙って接合される立板部49aと、この立板部49aの内径部からインナー側に延び、取付部21の外径に圧入される円筒部49bと、この円筒部49bから径方向内方に延び、取付部21の端面21aに密着する鍔部53aを備えている。位置決め手段50は、位置決め部材53の円筒部49bの外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている((b)参照)。
【0083】
本実施形態では、位置決め部材53がスリンガ48に一体に接合され、この鍔部53aが取付部21の端面21aに密着されているので、スリンガ48の位置決め精度を向上させると共に、車両への組立時にスリンガ48の位置が変動しないため、シール47”のシメシロを精度良く管理することができる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る車輪用軸受装置は、第3世代構造の外輪回転タイプの車輪用軸受装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 内方部材
2 外方部材
2a、2b 外側転走面
2c 外方部材のインナー側の端面
3 転動体
4 ハブ輪
4a、5a 内側転走面
4b 小径段部
4c 肩部
5 内輪
6 車輪取付フランジ
6a、22 ボルト孔
6b リブ
7a、7b 段部
8 加締部
9、10 保持器
11、38、47、47’、47” シール
12 パルサーリング
13、17 芯金
13a、39c 嵌合部
13b、30c、32a、34a、39d、45b、53a 鍔部
14 磁気エンコーダ
15、39、48 スリンガ
15a、23a、26a、28a、30a、36a、39a、45a、49b、48a 円筒部
15b、23b、26b、28b、30b、39b、48b、49a 立板部
16 シール板
18 シール部材
18a サイドリップ
18b ダストリップ
18c グリースリップ
19 カウンタ部
20 凹所
21 取付部
21a 取付部のインナー側の端面
23、26、28、30、32、34、36 遮蔽板(位置決め部材)
24、27、29、31、33、35、37、40、42、44、46、50 位置決め手段
25、25’、52 ラビリンスシール
41、43、45、49、51、53 位置決め部材
41a、44a、50a 案内部
51a 帯状部
100 車輪用軸受装置
101 内方部材
101a、101b 内側転走面
102 外方部材
102a、102b 外側転走面
103 ボール
104 補強部材
105 回転側フランジ
106 静止側フランジ
107 固定ボルト
108 タップ穴
PCDi インナー側の転動体のピッチ円直径
PCDo アウター側の転動体のピッチ円直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から傾斜する段部を介して軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成され内輪からなる内方部材と、
この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間のインナー側の開口部に装着されたシールとを備え、
前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部によって前記内輪が軸方向に固定されると共に、
前記複列の転動体のうちインナー側の転動体のピッチ円直径がアウター側の転動体のピッチ円直径よりも大径に設定された車輪用軸受装置において、
前記ハブ輪のインナー側の端部に凹所を有する略均一な肉厚の取付部が形成され、この取付部にボルト孔が複数個形成されて前記ハブ輪と懸架装置が固定ボルトを介して締結されると共に、当該ハブ輪の取付部の外径に位置決め部材が圧入され、この位置決め部材に前記懸架装置と周方向の位置決めを行うための位置決め手段が設けられていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記外方部材のインナー側の端部にパルサーリングが装着され、このパルサーリングが、強磁性体の鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、前記外方部材の端部外周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記外方部材のインナー側の端面に密着する鍔部とを備えた芯金と、この芯金に加硫接着によって一体に接合され、エラストマに磁性体粉が混入されて周方向に交互に磁極N、Sが着磁された磁気エンコーダで構成されると共に、前記位置決め部材が、前記取付部の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部とを備え、この立板部と前記パルサーリングが僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシールが形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記位置決め部材が防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成されている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記位置決め部材が、繊維状強化材が10〜50wt%充填された熱可塑性の合成樹脂で形成されている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記位置決め手段が前記位置決め部材の円筒部の外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている請求項1乃至4いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記位置決め手段が前記位置決め部材の円筒部のインナー側の端部から径方向外方に突出して形成された係止片で構成されている請求項1乃至4いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記位置決め手段が前記位置決め部材の円筒部の外周の一部をカットして形成された凹部で構成されている請求項1乃至4いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記位置決め部材が、前記円筒部から径方向内方に延び、前記取付部の端面に密着する鍔部を備え、前記位置決め手段が前記鍔部に形成されている請求項1乃至4いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記位置決め手段が前記鍔部から突出して形成された係止片で構成されている請求項8に記載の車輪用軸受装置。
【請求項10】
前記位置決め手段が前記鍔部の周方向一箇所に穿設された係合孔で構成されている請求項8に記載の車輪用軸受装置。
【請求項11】
前記位置決め手段が前記鍔部の周方向一箇所に形成されたスリットで構成されている請求項8に記載の車輪用軸受装置。
【請求項12】
前記シールが、互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とからなるパックシールで構成され、前記スリンガが防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成され、前記ハブ輪の取付部の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部を備え、この立板部と前記位置決め部材が僅かな軸方向すきまを介して対向し、ラビリンスシールが形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項13】
前記シールが、互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とからなるパックシールで構成され、前記スリンガが防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成され、前記ハブ輪の取付部の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部を備え、この立板部に前記位置決め部材が一体に接合されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項14】
前記シールが、互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とからなるパックシールで構成され、前記スリンガが防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成され、前記ハブ輪の取付部の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延び、重合して形成された立板部と、この立板部から軸方向に延びる円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記取付部のインナー側の端面に密着する鍔部とを備えると共に、この鍔部に前記位置決め手段が設けられている請求項1に記載の車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−18478(P2013−18478A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−133941(P2012−133941)
【出願日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】