説明

車輪踏面状態の検知システム

【課題】鉄道列車の車輪踏面状態を走行音に基づいて検知するシステムにおいて、異常のある車輪の位置を車軸単位で特定可能にする。
【解決手段】車輪踏面状態の検知システムは、高架橋直下の集音装置、線路に沿って配置した2つのビームセンサ、列車上のIDタグと沿線のIDタグリーダ、及び、信号処理手段を主たる構成要素とする。信号処理手段は、集音装置で収集した音声信号からAC波形信号を取り出し、これに所定周波数帯域のバンドパスフィルターを通過させて抽出波形とし、ビームセンサの出力から演算して得た列車速度及びIDタグの車両編成番号から割り出した車軸位置と抽出波形とを照合させる。車輪踏面状態の良否を車軸単位で検知でき、このデータは、車両所等の管理用PCへ送信される。異常車輪の臨時転削実行する際、車輪位置の特定が容易且つ正確に行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道列車における車輪踏面状態の良否を走行音に基づいて判定するシステムに関し、詳しくは、車軸単位でそれぞれ個別に車輪踏面状態の良否を把握することを可能とするシステムの提供を目的とする。
【背景技術】
【0002】
鉄道列車の車輪踏面にフラット摩耗や凹凸等の表面荒れが存在すると、転動音や振動音等の走行騒音が増加するため沿線環境を悪化させる。また、車両内の騒音及び車体振動が増大するため、乗り心地が低下するという問題がある。これらの問題は、新幹線等の高速走行する列車で特に対策が要求される事項である。そこで本出願人は、沿線の適当な場所において列車走行音を定点測定し、列車走行音の音圧レベルから車輪踏面状態を検知できるようにしたシステムを、特許文献1で提案した。
【0003】
特許文献1に記載のシステムは、高架橋の直下約1mの位置に集音装置(マイクロフォン)を設置し、このマイクロフォンで収集した音声信号を、所定の処理を行って、音圧レベルの経時変化を示す直流波形信号(DC波形)に変換し、得られたDC波形に現れるピークの値を基準値と比較することにより、異常車輪の有無を検知するというものである。
【特許文献1】特開2006−155536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシステムでは、DC波形の各ピーク(山)が、車両連結部を挟む前後の車輪群(2軸4輪または4軸8輪)によって形成され、ボトム(谷)は車両中央にほぼ対応するという性質から、隣接2台の車両が位置特定の最小単位となり、車両1台ずつの切り分けは不可能である。従って、異常車輪を発見した場合に、それが属している車両の位置を大まかにしか特定することができないため、異常車輪位置の正確な特定には手間がかかる。またDC波形は、マイクロフォンで集音した音声全体から作成するから、列車走行音以外の外来音データを含む場合があり、車輪踏面状態の誤判定を招くおそれがある。さらに、波形に明瞭な山谷形状が現れない場合には、車両位置の特定が困難になる
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記従来技術を改良して、車輪踏面状態を車軸単位で把握することが可能であり、また列車走行音以外の外来音の影響を排除して車輪転動音だけを抽出できる車輪踏面状態の検知システムを提供することを目的とする。本発明に係る検知システムの特徴とするところは、請求項1に記載の如く、軌道が敷設された高架構造物の直下に設置され列車の走行音を収集する集音装置と、集音装置から出力される音声信号を処理する信号処理手段と、列車の速度を検知する速度検知手段とを備え、前記信号処理手段において、音声信号から交流波形信号を取り出し、得られた交流波形信号を、前記速度検知手段から得られた列車速度と構造物特性とに基づいて設定される所定帯域幅のバンドパスフィルターを通過させ、バンドパスフィルター通過後の抽出波形信号と、前記列車速度データ及び列車編成に関する列車編成データとを照合させることにより、車軸単位で個別に音圧レベルを測定することである。
【0006】
前記において、高架構造物は例えば高架橋が代表的である。集音装置にはマイクロフォンが用いられる。集音装置は、高架構造物の下面に密接させるのではなく、下面から若干の距離(例えば1m程度)を空けて設置することが望ましい。これは、高架構造物の下面に直接取着すると、接触状態によって感度が変化すること、及び、同一列車に対する検知データの再現性が低下する場合のあることが知られているからである。構造物下面からの距離は、なるべく高い音圧レベルで集音でき且つ収集する音声データの波形が、山(ピーク)と谷(ボトム)とが容易に判別できるような形態となるように設定する。通常、音声波形は、台車の車軸位置でピークを形成し、台車間でボトムを形成する。構造物に近づけ過ぎると、音の距離減衰が少なくなるため、ピークとボトムとの差が不明瞭になる。しかし、構造物からの距離をあまり遠くすると、外来騒音の影響を受け、外部要因を混入させる可能性が有る。具体的には、ピークとボトムとの間に200ms以上の間隔が有り、且つ、10〜15dB程度のレベル差の有ることが適当である。なお、車輪踏面状態の異常に基づく騒音を明瞭に判別するためには、なるべく最高速度に近い速度で運転される箇所を、集音装置の設置箇所として選定することが望ましい。
【0007】
音声信号の処理手段は、主として音声信号から交流波形信号を取り出す波形処理部と、交流波形信号に所定の演算処理を行う演算部とから構成され、これらは一体でも別体でもよい。また、信号処理手段は、集音装置の近傍に設置して現地装置としてもよいが、集音装置との間に適宜の通信手段を設ければ、集音位置から離れた遠隔地に設置することも可能である。信号処理手段の波形処理部は、列車走行音から交流波形信号を取り出す機能を備えるものであるが、必要に応じ、増幅・聴感補正等の一般的処理を施す機能を持たせてもよい。演算部には、パーソナルコンピュータ(PC)等の電子計算機を用いることができ、取り出した交流波形信号に対しバンドパスフィルター(BPF)を通過させる処理をする機能、BPF通過後の抽出波形信号と列車速度データ及び列車編成データとを照合させる機能を有するものであるが、さらに、照合結果をディスプレイやプリンタへ出力する機能、照合結果に基づき車輪踏面状態の異常の有無を判定する機能、さらに照合結果・判定結果を他の場所に設置されたコンピュータへ送信する機能等を持たせることも適宜なし得る。
【0008】
波形の抽出処理に適用するバンドパスフィルターの周波数帯域幅は、列車速度と構造物特性とに基づいて設定される。車輪踏面の異常に基づく高架下騒音は、車輪の回転による加振が構造物を伝播することによって現れる。従って、高架下騒音の周波数は、主として車輪回転周波数と構造物の固有振動数とにより決まる。車輪回転周波数は、列車速度を車輪踏面の周長で除した値で求められる。(具体例を挙げると、新幹線の運転速度Vが時速300km≒83333.3mm/s、新幹線の車輪直径Dは860mmであるから車輪踏面周長E=D×π(円周率)≒2701.8mm、従って、車輪回転周波数はV÷E≒30.8Hzとなる。)但し、構造物の固有振動数は容易には求められないことが多いので、試験により高架下騒音に影響する周波数を特定すればよい。例えば、特定の高架橋では、新幹線が時速300kmで走行したとき(車輪回転周波数が30.8Hzのとき)、車輪踏面状態の異常が200Hz付近の周波数帯域に影響を及ぼすことが分かっている。従って、BPFの周波数は200を含む帯域、つまり180〜250Hzを適用する。
【0009】
請求項2に記載の如く、前記速度検知手段は、線路方向に沿って所定間隔を空けて配置され、列車の車体先端部の高さ位置において車体側面へ検知光を照射する2個のビームセンサからなるものとしてもよい。この場合、各ビームセンサの立ち上がり時間差から列車速度を算出することが可能である。ビームセンサの検知光は、可視赤色光又は赤外光が使用できるが、使用波長については、状況に応じ適宜選択できる。
【0010】
請求項3に記載の如く、前記ビームセンサによって列車の車体及び車間部位置とを検出するようにしてもよい。
【0011】
さらに請求項4に記載する如く、前記ビームセンサの一方と前記集音装置とを、線路に垂直な同一断面内に配置し、当該ビームセンサが列車を検知すると、前記集音装置が動作するように設定してもよい。
【0012】
さらに請求項5に記載する如く、車両側面に列車編成データを記録したIDタグを配置し、軌道近傍に配置したIDタグリーダにより前記IDタグから取得し、この列車編成データを前記信号処理手段へ出力するようにしてもよい。なお、列車編成データを、PRC(運行管理装置)やCTC(中央制御装置)から予め取得し、これを信号処理手段に保存しておくことも妨げない。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載した本発明に係る検知システムは、集音装置を高架構造物の直下に設置するので、設置作業・保守作業が線路外での作業となり、安全性に優れる。また、高架構造物から若干距離を置いた直下位置は、列車の車体から発生する空力音やその他の外来音の影響を受けにくいこと、集音装置の感度が安定すること、データの再現性が良好であること等の利点を有している。
集音装置から出力される音声信号から取り出した交流波形信号を用いるから、周波数分析やBPF処理が可能である。交流波形信号を所定帯域幅のBPFを通過させることにより、車輪転動音に特化した抽出波形信号が得られる。この抽出波形信号と、列車速度データ及び列車編成データとを照合することにより、音圧レベルの経時的変化を示す抽出波形の時間軸を、車両の位置情報に置き換えることができる。依って、抽出波形上において車軸位置を特定することができるから、車軸ごとに音圧レベルの測定が可能である。
以上のような特性により、踏面状態に異常の有る車輪の特定が容易になるので、臨時添削作業の効率化を図れる。突発的に車輪異常が発生したときに、これを早期に検知できるから、検修計画に反映させて迅速に改善を図れる。本発明に係る検知システムの設置箇所を列車が通過するごとにデータ収集するから、検知データを蓄積してデータベース化することにより、車輪踏面状態を車軸単位又は台車単位又は編成単位で時系列管理することが可能となるので、その結果、従来行っている補完的な車輪検査を廃止でき、これに伴う作業人員・経費の軽減がもたらされる。
【0014】
請求項2に記載するように、線路方向に沿って所定間隔を空けて配置した2個のビームセンサで速度検知手段を構成すれば、低コストで信頼性の高い速度データが得られる。
【0015】
請求項3に記載するように、ビームセンサによって列車の車体及び車間部位置とを検出するようにすれば、得られた車体及び車間部位置データと抽出波形とを照合させて、車輪位置の精度を高めることができる。
【0016】
請求項4に記載する如く、ビームセンサの一方と集音装置とを、線路に垂直な同一断面内に配置し、当該ビームセンサが列車を検知すると集音装置を動作させるように設定した場合は、得られた音声信号波形と列車位置とを対応させるのが容易になり、また、列車が通過しないときに発生した外来騒音を誤って記録するという問題を回避できる。また列車通過時のみデータ収集を実行するので、データ記録に必要な記憶装置の容量を小さくできる。
【0017】
請求項5に記載するように、車両側面に列車編成データを記録したIDタグを配置し、軌道近傍に配置したIDタグリーダにより前記IDタグから列車編成データを取得し、これを信号処理手段へ出力するようにした場合は、列車編成に関するデータの正確性を保持できる。例えば、列車編成データを、PRC(運行管理装置)やCTC(中央制御装置)から取得して信号処理手段に保存して用いることもできるが、この場合、データ取得後に列車運行ダイヤが変更になったときには、信号処理手段に記憶されているデータとは異なる列車が通過し、結果的に誤った列車編成データを使用する可能性がある。しかるに本例の如く、列車ごとに配置したIDタグから列車編成データを取得するように構成すれば、上記の問題を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る車輪踏面状態の検知システム(以下、本発明システムと言う)を、新幹線に適用する場合について述べる。図1〜4は、本発明システムの概略構成を概念的に示すものであり、列車が走行する高架構造物(高架橋)の直下に配置した集音装置(マイクロフォン)(図2)、列車の車体側方に向けて検知光(可視赤色光)を照射するビームセンサ(図3)、列車側面に配置したIDタグ及び沿線に設置したIDタグリーダ(図4)、マイクロフォンから出力される音声データとビームセンサから出力される位置データとIDタグから取得した列車編成データとに基づいて所定の処理を実行する信号処理手段を主たる構成要素とする。さらに、これらに付随して、信号処理手段の処理結果をインターネット等の通信回線を通じて送信する管理用PCが設けられる。
【0019】
図2に示すように、集音装置であるマイクロフォンは、高架橋下面から約1mの位置に配置される。マイクロフォンの設置手段は、橋脚に取り付けた支持具による方式、高架橋下の施設屋根上に設けた支柱を利用する方式等が考えられる。
【0020】
図3に示す如く、ビームセンサは、例えば沿線側方の防音壁を利用して配置される。ビームセンサの種類は反射型光センサであり、使用波長は可視赤色光又は赤外光である。ビームセンサの高さ位置は、列車先頭部(ノーズ)の高さ位置とし、2つのビームセンサを線路方向に沿って一定間隔を空けて配置する。
【0021】
なお、高架橋下側のマイクロフォンと、高架橋上側の一方のビームセンサとは、原則として、線路方向に対し直交する方向の同一の垂直断面内に位置するよう配置する。
【0022】
図4(A)に示すように、IDタグは車両の適所に設けられ、その取付位置は車体部分・台車部分のいずれでもよい。また通常は、列車一編成当たりに一個のIDタグが在ればよい。IDタグに記録されるデータは、列車編成に関するもので、車両に固有の編成番号である。この編成番号に基づき、別途用意するデータベースから、列車長や車軸位置等の必要データを取得することができる。IDタグからデータを取得するためのIDタグリーダは、沿線側方の防音壁などを利用して設置される。IDタグリーダを保持するホルダにはヒンジ等を設けて姿勢調整できるようにし、必要に応じ、IDタグ対し正対できるよう適当角度θだけ傾斜可能にしてもよい。
【0023】
ところでIDタグとIDタグリーダとの距離Lは、両者の設置位置によって決まり、距離Lが決まると、IDタグリーダの交信可能範囲が決まるが、この交信可能範囲の幅は、列車通過時に、所定のデータ量の通信が可能な時間を確保できる長さであることが必要である。例えばIDタグリーダの交信可能領域が、図4(B)の左側に示すような範囲であり、IDタグとIDタグリーダとの距離がLのときの交信可能範囲の幅が900mmであるとすると、時速300kmで走行する新幹線が900mmを通過するのに要する時間は10.8msとなる。他方、IDタグからIDタグリーダが6バイトのデータを取得するのに要する時間が11msであるとする。このような条件では、正確なデータ取得に失敗するおそれがあるので、列車速度を遅くするか又は通信データ量を減らさなくてはならない。そこで図4(B)の右側に示すように、IDタグリーダのアンテナ角度(電波放射角度)を列車進行方向に対し若干傾斜させる。図示のように15度傾斜させることで、IDタグリーダの交信可能範囲の幅を990mmに拡大することができる。これにより、列車速度が時速324kmまでは、IDタグとIDタグリーダとの通信時間11msを確保することが可能となる。
【0024】
本発明システムは、列車がマイクロフォン上を通過したときの走行音を収集し、音声データを信号処理手段へ出力する。なお、マイクロフォンによる集音動作は、上位ビームセンサにより列車先端を検知したときに自動的に開始され、列車後端の通過後、所定時間経過すれば自動的に停止するよう設定するとよい。マイクロフォンで収集した音声信号は、例えば、図5に示すような波形処理部で処理される。図示する波形処理部は、プリアンプで音声信号を増幅し、これに聴感補正部でA特性補正を施したのち、交流波形信号(AC波形)を取り出して出力する。さらに、この波形処理部は、ピーク検波回路を備える動特性回路と対数演算回路とを有し、これらで交流信号をdB換算した直流波形信号(DC波形)として出力する機能も有している。DC波形信号は、聴感上の騒音レベルを示す指標として利用することができる。
【0025】
沿線側方に配置したビームセンサは、列車の車体を検知して検知信号を出力するので、車両間の接続部(車間部)で検知信号が途切れる以外は常時ON状態である。従って上位ビームセンサの出力信号波形は、車体及び車間検知波形であり、基本的にはON状態が持続しOFF状態が一定間隔で現れるものとなる。OFF状態となる位置が車間部位置である。図6(A)に、車体及び車間検知波形を示す。一方、IDタグから読み取った車両編成番号に基づき、列車の編成データを取得することができ、この列車編成データから、車軸位置が分かる。同図(B)に、車軸位置を表示した。なお、このグラフは、3本の線で一つの台車に設けられる2本の車軸を表している。車間部を示す出力線と車軸位置表示線とから、車軸単位で車輪位置の特定が可能である。ビームセンサからの出力信号及び車軸位置データは、信号処理手段に送られて、後述の信号処理に用いられる。
【0026】
信号処理手段は、音声信号から得たAC波形信号と、ビームセンサから得た車体及び車間部検知データと、車軸位置情報と、IDタグから取得した列車編成データに基づき、以下のような演算処理及び信号処理を行う。ますマイクロフォンで収集した音声信号から、AC波形信号を取り出す。取り出したAC波形及び参考に示すDC波形信号は、それぞれ図7(A)(B)のグラフに示すとおりである。各グラフにおいて左側が列車進行方向の前、右側が進行方向の後ろである。これらのグラフには、車軸位置表示線を重ね合わせてある。DC波形は、列車走行音の聴感上の増減を反映するが、車輪踏面状態の異常が有るかどうかが容易には感得できない。また、異常車輪の位置を特定するのが困難である。他方、AC波形も、このままでは、異常車輪の有無及び位置を判定するのが難しい。
【0027】
ビームセンサの出力波形信号は、その持続範囲が列車の検知時間を表している。また列車に取り付けたIDタグから列車の長さデータが与えられる。信号処理手段は、線路方向に適当間隔を空けて2つ配置したビームセンサの各立ち上がり時間差と設置間隔とから、列車速度を演算する。
【0028】
AC波形信号については、試験に基づいて設定した周波数帯域のバンドパスフィルターBPFを通過させる。時速300kmで走行する新幹線の場合、或る有る高架橋では、BPFの周波数帯域は180−250Hzに設定するのが適当であった。BPF通過処理により得られた抽出波形を図7(C)に示す。抽出波形は、車輪転動音に特化した波形であるから、このグラフに示される音圧レベルの大小から、車輪踏面状態の異常の有無を容易に判別することができる。図7(C)のグラフによれば、前から16両目の車両における前側の車軸の車輪に異常の有ることがわかる。また、異常程度の判定基準として、例えば波高率(CF=ピーク値/実行値)を採用し、CF>6.0なら突発的に発生した重大な踏面異常と判定して早急の転削を要請し、6.0≧CF>3.0のときは注意の必要な程度の踏面状態と判定して計画転削の検討を要請し、3.0≧CFのときは正常と判定することが考えられる。なお、上記は異常判定方法の一例であり、これに限定されるものではない。
【0029】
こうして得られた車輪踏面状態の検知データは、適宜通信回線を介し、車両所等に設置した管理用PCに送信される(図1参照)。そして、転削が必要と判断された列車が車両所へ回送されたならば、検知データに基づき、異常を有する車輪の臨時転削を実行する。その際、異常車輪の位置特定が容易且つ正確に行えるので、転削作業がきわめて能率的になる。
【0030】
また本例の検知システムは、定点監視により検知データを収集するものであり、データの再現性に優れるから、管理用PCに検知データを蓄積することで、車輪踏面状態に関する信頼性の高いデータベースを構築できる。その結果、列車編成ごとに車軸単位で車輪状態を時系列管理できるので、効率的な転削計画の立案が可能である。
【0031】
なお、車両所等に設置した管理用PCから、本発明検知システムを構築してある現場の信号処理手段へ、データ又は命令を伝送するように構成することも可能である。例えば、列車走行音の収集開始条件を変更する命令を、車両所から出力するような場合が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に関するものであって、検知システムの概略構成を概念的に示す図面である。
【図2】本発明検知システムの一実施形態に関し、マイクロフォン(集音装置)の設置状況を説明する正面図である。
【図3】本発明検知システムの一実施形態に関し、ビームセンサの設置状況を説明する正面図である。
【図4】図(A)は本発明検知システムにおけるIDタグ及びIDタグリーダの設置状況を説明する図面、図(B)はIDタグリーダにおける交信可能領域を拡大する手段を説明する図面である。
【図5】本発明検知システムの一実施形態に関し、信号処理手段における波形処理部の一例を示すブロック図である。
【図6】本発明検知システムの一実施形態に関し、図(A)はビームセンサによって得られる車体及び車間部検知波形を示すグラフ、図(B)は車軸位置表示線を示すグラフ、図(C)は図(A)と(B)とを重ね合わせて示すグラフである。
【図7】本発明検知システムの一実施形態に関し、図(A)は収集した音声信号から得たDC波形を示すグラフ、図(B)は音声信号から取り出したAC波形を示すグラフ、図(C)はAC波形にバンドパスフィルターの通過処理を施して得られた抽出波形を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道が敷設された高架構造物の直下に設置され列車の走行音を収集する集音装置と、集音装置から出力される音声信号を処理する信号処理手段と、列車の速度を検知する速度検知手段とを備え、前記信号処理手段において、音声信号から交流波形信号を取り出し、得られた交流波形信号を、前記速度検知手段から得られた列車速度と構造物特性とに基づいて設定される所定帯域幅のバンドパスフィルターを通過させ、バンドパスフィルター通過後の抽出波形信号と、前記列車速度データ及び列車編成に関する列車編成データとを照合させることにより、車軸単位で個別に音圧レベルを測定することを特徴とする車輪踏面状態の検知システム。
【請求項2】
前記速度検知手段は、線路方向に沿って所定間隔を空けて配置され、列車の車体先端部の高さ位置において車体側面へ検知光を照射する2個のビームセンサからなる請求項1に記載の車輪踏面状態の検知システム。
【請求項3】
前記ビームセンサによって列車の車体及び車間部位置とを検出する請求項2に記載の車輪踏面状態の検知システム。
【請求項4】
前記ビームセンサの一方と前記集音装置とが、線路に垂直な同一断面内に配置され、当該ビームセンサが列車を検知すると前記集音装置を動作させるように設定した請求項3に記載の車輪踏面状態の検知システム。
【請求項5】
車両側面に列車編成データを記録したIDタグを配置し、軌道近傍に配置したIDタグリーダにより前記IDタグから取得した列車編成データを、前記信号処理手段へ出力する請求項1に記載の車輪踏面状態の検知システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−120258(P2008−120258A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306714(P2006−306714)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【Fターム(参考)】