軌道変位測定装置
【課題】 軌道異常を安価な構成で確実に検出することのできる軌道変位測定装置を提供する。
【解決手段】 鉄道軌道(32)あるいは軌道近傍に配置した複数の撮影用ターゲット(A1〜A4、B1〜B4)と、これら複数のターゲットがすべて含まれる画像を撮影するデジタルカメラ11と、このデジタルカメラの撮影時刻を制御し、撮影画像の保存および該撮影画像を用いた各ターゲットの座標演算ならびに演算結果を保存する制御ユニット10とからなる。制御ユニットは、撮影画像からターゲットの座標を演算し、撮影ごとの座標の演算結果をもとに運用開始からの座標の経時変化から軌道の変位を測定する。
【解決手段】 鉄道軌道(32)あるいは軌道近傍に配置した複数の撮影用ターゲット(A1〜A4、B1〜B4)と、これら複数のターゲットがすべて含まれる画像を撮影するデジタルカメラ11と、このデジタルカメラの撮影時刻を制御し、撮影画像の保存および該撮影画像を用いた各ターゲットの座標演算ならびに演算結果を保存する制御ユニット10とからなる。制御ユニットは、撮影画像からターゲットの座標を演算し、撮影ごとの座標の演算結果をもとに運用開始からの座標の経時変化から軌道の変位を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道線路のような軌道の変位を測定する軌道変位測定装置に属する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路の軌道下で地下道工事を行う場合やシールド工事を行う場合には、これ等の工事に伴って軌道が変位すると列車の脱線などの事故につながることから、軌道の変位を常に監視する必要がある。これ等の工事を安全に進めるため地盤の沈下や隆起を測定することを目的として、変位センサや沈下計などの測定機器を軌道近くの地盤に設置して監視を行っている(例えば特許文献1)。そして、地盤の変位が安全限界を超えるような場合には列車を緊急停止させるなどの対策を取るようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−247108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の沈下計を用いて軌道の変位を監視する方法では、軌道の変位を直接的に確認することが出来ないため、最初の警報が発生した場合には係員が現場に赴き直接軌道測定を行う必要がある。しかし、夜間などは要員確保が難しく、列車の安全管理や瞬時の対応などについても問題が残されている。
【0005】
これ等の問題を解決することを目的として軌道に平行に敷設したケブラー繊維を二点で固定し、その中間点でケブラー繊維と軌道との間の二次元方向の軌道変位を画像処理によって検出する方法や、鉄道軌道に反射型ターゲットを配置し、トータルステーションと呼ばれる計測機器により各ターゲットの位置測定を行った結果から、軌道変位を測定する方法が提案されている。
【0006】
しかし、前者の方法の場合、ケブラー繊維が二次元に変位することで二方向から撮影を行う場合、撮影した画像から得られたデータには歪み成分が含まれており、この歪み成分を補正することが必要とされる。さらに1つの測点を計測するために、測点を中心とした、例えば10m区間にケブラー繊維を敷設する必要があるため、装置構成が複雑となるだけでなく、ケブラー繊維の保護が必要である。
【0007】
また後者の方法の場合、すべてのターゲットに対して同時に計測を行うことは不可能であるため、時間あるいは気象変化の影響がすべてのターゲットの測定結果において同一とは言えないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、軌道異常を安価な構成で確実に検出することのできる軌道変位測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、鉄道軌道あるいは軌道近傍に配置した複数の撮影用ターゲットと、前記複数のターゲットが含まれる画像を撮影するカメラと、前記カメラの撮影時刻を制御し、撮影画像の保存および該撮影画像を用いた各ターゲットの座標演算ならびに演算結果を保存する制御ユニットとからなり、撮影画像からターゲットの座標を演算し、撮影ごとの座標の演算結果をもとに運用開始からの座標の経時変化から軌道の変位を測定することを特徴とする軌道変位測定装置が得られる。
【0010】
本発明による軌道変位測定装置においては、前記ターゲットを、撮影時刻に合わせて自動的に光源を発光させる発光回路を具備し、かつ、明暗の境界を少なくとも2箇所有する発光パターンを持つターゲットとすることが望ましい。
【0011】
また、本発明による軌道変位測定装置においては、前記ターゲットの発光パターンをリング状として中央部に暗部を設けることで、明暗の境界を有するようにしてターゲットの座標の測定精度を向上させることができる。
【0012】
本発明による軌道変位測定装置は、複数のターゲットを1枚の画像に収まるようカメラで撮影し、瞬間的に得られた画像をもとに各ターゲットの座標演算を行うため、ターゲット間の相対的な挙動には時間的な要素が含まれることがない。
【0013】
また、ケブラー繊維を使用せずに画像データを利用することから、座標演算にアナログ的な誤差要因が介入することがなく、ケブラー繊維の保護を一切考慮する必要がなくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安価な電子部品だけで構成されたターゲットとカメラ及びパソコンのような画像処理手段を用いることにより、軌道変位測定を瞬時に自動的に行わせることが可能となり、相対変化における環境に起因する誤差の影響がない。加えて、パソコンで保存、処理されるデータはデジタルデータであり、保存データがデジタル値であることから統計処理など数値演算への展開も容易に行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明による軌道変位測定装置の構成を概略的に示す図である。
【0017】
制御ユニット10は、工業用ボードパソコンなどのようにディスプレイによる画像表示及びデータ保存が可能で、外部に接続された機器の制御が可能なプログラムを実装できる記憶装置を持つ電子回路で構成する。
【0018】
デジタルカメラ11は制御ユニット10からの制御信号により撮影時刻、撮影枚数、シャッタースピードなどが制御され、撮影対象としての複数のターゲット12を同時に撮影する。デジタルカメラ11で撮影されたデジタル画像は制御ユニット10へ転送される。
【0019】
なお、後で詳しく説明するが、本実施例におけるターゲット12は円形で発光機能を有し、発光タイミングは制御ユニット10で制御される。
【0020】
制御ユニット10は転送されてきた画像を記憶装置に保存すると共にこの画像からターゲット12の特定部位、例えば重心の2次元座標を演算し、演算結果を記憶装置に保存する。
【0021】
図2は制御ユニット10で行なわれる座標演算の流れを示す図である。
【0022】
1.初期設定
装置設置時に複数のターゲットを同時撮影して得た画像を初期画像とし、初期画像からターゲットごとに画像を切り出して番号付けを行なったうえで「基準画像」として設定し、初期画像内での重心座標を算出して記憶装置に保存する(ステップS1)。
【0023】
また、デジタルカメラ11から各ターゲット12までの距離L1〜Ln(nはターゲット12の設置数)を実測し、演算用の初期値として記憶装置に保存する。
【0024】
図3を参照して、初期設定に際して得られた初期画像からターゲットごとに基準画像を切り出す手法について説明する。基準画像の切り出しは、ディスプレイ上に初期画像を表示させたうえで、オペレータによるキーボードでの操作により行なわれ、その際、基準画像を中心においた一定範囲の領域(以下、探索範囲と呼ぶ)が設定される。基準画像は通常、四角形とし、その大きさはターゲットごとに異なる。これは、後述するように、デジタルカメラから複数のターゲットまでの距離L1〜Lnがそれぞれ異なることによる。そして、探索範囲も四角形とし、その大きさも基準画像ごとに異なる。
【0025】
図3は初期画像中の複数の基準画像(ターゲットの画像)と基準画像ごとの探索範囲の設定例を示す。オペレータは、デジタルカメラで撮影した初期画像をディスプレイ上に表示させ、各ターゲットが存在する領域を基準画像として順に切り出す。この切り出しは、例えばオペレータがタッチペン、カーソル等で四角形の基準画像の2組の対角のうちの一方(図3ではP1,P2)を指定すると、このP1、P2で規定される四角形の範囲内の画像が基準画像として抽出されることで行なわれる。オペレータはまた、後述する測定画像と基準画像のテンプレートマッチングを行う際の探索範囲として、基準画像を中心として基準画像の2倍以上の面積となる領域の対角座標を探索範囲として設定する。探索範囲の基準画像に対する面積比は、要求される測定範囲が広いほど大きくなる。この設定も、基準画像の切り出しと同様、四角形の探索範囲の2組の対角のうちの一方(図3ではP3,P4)を指定することで行なわれる。探索範囲は基準画像との比較を行なう領域をターゲットごとに限定する目的で設定されるものであり、初期画像内ですべてのターゲットの探索範囲が重ならないようにターゲットを配置することで、各ターゲットの位置を誤認することがない。
【0026】
図3では、ターゲット数が6個であり、サイズの大きい順に番号1〜6が付けられている。以下では、最も大きい基準画像を基準画像1、その探索範囲を探索範囲1、というように呼ぶことがある。
【0027】
以上のようにして、図3の場合、初期設定では、ターゲット番号1について言えば、基準画像1に加えて、P3及びP4の座標(初期画像内での探索範囲1の座標)、基準画像1に含まれるターゲットの重心座標、デジタルカメラからの距離が記憶される。そして、このようなデータが6個のターゲット分について記憶される。なお、ターゲットの重心座標は、後述するテンプレートマッチングの手法で算出することができるが、P3とP4を結ぶ線分の中間点を重心座標として算出しても良い。これは、基準画像ではその中心とターゲットの重心が必ず一致しており、しかも探索範囲の中心とも一致しているからである。このようにしてターゲットの重心座標を求めることで1ピクセル以下の精度でターゲットの重心座標を求めることができる。
【0028】
2.測定(撮影)時刻判定
制御ユニット10は、オペレータにより設定された測定時刻まで待機する(ステップS2)。
【0029】
3.撮影
制御ユニット10は、測定時刻になると複数のターゲット12を発光させ、これをデジタルカメラ11で撮影する(ステップS3)。勿論、この撮影は初期画像の撮影と同じ状態で行なわれる。
【0030】
4.画像保存
制御ユニット10は、撮影した画像を撮影画像として制御ユニット10内の記憶装置に保存する(ステップS4)。
【0031】
5.ターゲット抽出
図4は本発明による測定画像の探索例を示す図であり、図3に対応させて示している。図3の初期画像と図4の撮影画像は、同じ状態で撮影された画像であるので、共通の座標軸で表されることは言うまでも無い。制御ユニット10はまず、図4の左側に示すように、測定時の撮影画像に対し、図3の初期画像において番号1のターゲットに設定された探索範囲1を規定しているP3及びP4と同じ座標に探索範囲を設定する。図4では、設定された探索範囲1内の右斜め下に、ターゲットがずれていることを示している。続いて、制御ユニット10は、図4の右側に示すように、この探索範囲1内において対角の一方から他方へ、基準画像1を1ピクセルずつ移動して、テンプレートマッチングにより基準画像1と相関が最も高い領域を得る。この領域においてターゲットの重心座標を求めることで1ピクセル以下の精度で番号1のターゲットの重心座標を求めることができる。このような処理が、図3で設定された探索範囲2〜6についても行なわれる。
【0032】
テンプレートマッチングは、画像処理分野において基本操作として使用されている。本実施例では、ステップS3で得た撮影画像における探索範囲1から番号1のターゲットを含む測定画像の位置(座標)を抽出するために、制御ユニット10で測定画像に対する基準画像1の相関係数Rを求めながら基準画像1を1画素ずつずらしていき、相関係数Rが最も高い座標を求める。この処理手法によって1画素単位で撮影画像内での測定画像の座標、言い換えればターゲットの領域を示す座標を得ることができる(ステップS5)。なお、ここでは測定画像の座標をその対角の座標(図3で言えば、P1、P2の座標)で表すようにしている。
【0033】
相関係数は基準画像と測定画像の二次元的な輝度分布の類似性を表す値であり、分布が完全に一致すると1となる。基準画像の縦と横のサイズがx、yの場合の相関係数Rは以下の数1で求められる。
【0034】
【数1】
【0035】
但し、f(i,j)は基準画像における座標位置(i,j)の輝度、s(i,j)は測定画像中で基準画像と重なる領域における座標位置(i,j)の輝度、符号fの上、符号sの上にバーのついた記号はそれぞれ基準画像、測定画像中の基準画像と重なる部分の輝度の平均値である。
【0036】
6.座標演算
ステップS5の処理で得られる座標は1画素単位であるが、円形のターゲットの重心計算を行うことで1画素以下の単位でターゲットの重心座標を演算することが可能となる。
【0037】
制御ユニット10はまず、ステップS5で得られた座標で規定される測定画像に対して二値化処理を行うことで、明るい画素を白に、暗い画素を黒に変換する。その後、白い画素のX座標、Y座標の加重平均を行い撮影画像内での円形領域の重心の座標を求める(ステップS6)。
【0038】
7.変位へ変換
制御ユニット10は、ステップS6の処理で得られた重心座標と初期値で示される重心座標の差分を求めて、この差分に距離Lに応じた比例係数を乗じることで、初期値で示される重心座標からの相対変位を求める(ステップS7)。距離Lに応じた比例係数というのは、画像上での重心座標の変位はあくまでも画像内での変位量であるので、実際の変位量にするために距離L1〜Lnに応じて設定される値である。
【0039】
8.データ保存
ステップS6、S7の処理で得られた各測点の重心座標と初期値で示される重心座標からの相対変位量(実際の変位量)を保存する(ステップS8)。
【0040】
図5は本発明による軌道変位を測定する状況を示す図である。路盤上の道床に間隔をおいて埋め込まれた枕木31上に軌道(レール)32が設置されている。軌道32の両側にそれぞれ約5m間隔で枕木31に固定治具を用いて複数のターゲット12(A1、A2、A3、A4、B1、B2、B3、B4、)を固定する。
【0041】
図6は本発明によるデジタルカメラ11の配置状況を示す図である。
【0042】
複数のターゲット12(ここでは片側のターゲットA1〜A4)のすべてを画角内に収めるために、ターゲット設置区間から離れた位置にデジタルカメラ11を配置する。
【0043】
ところで、鉄道各社は、以下に示す軌道計測4項目を軌道管理に用いている。
【0044】
軌間ひずみ:左右レールの間隔の狂いで、軌間の基本寸法に対する増減量を表す。
【0045】
水準ひずみ:左右レールの頭面の高低差を表す。
【0046】
通りひずみ:レール側面の長さ方向の凹凸を表し、一般には、レール側面に10mの糸を張り、中央部におけるレールと糸との水平距離で表す。
【0047】
高低ひずみ:レール頭面の長さ方向の凹凸を表し、一般には、レール頭面に10mの糸を張り、中央部におけるレールと糸との垂直距離で表す。
【0048】
上記の各項目は軌道と直交方向の変位を測定することで得られるため、軌道あるいはその近傍にデジタルカメラを配置する。
【0049】
対象とするターゲットの前後5mにそれぞれ配置した3個のターゲットの座標をもとに直線(10m弦)を計算し、対象とするターゲットから前記直線までの水平、垂直距離を求めることで、上記4項目のうち通りひずみ、高低ひずみが得られる。
【0050】
図7はターゲットの実際の変位と撮影された画像から求まる見かけ上の変位の関係を示す図である。
【0051】
軌道内にデジタルカメラを配置することができないため、すべてのターゲットを同一画像内に収めるためには軌道方向に対してデジタルカメラの光軸を、上下方向、水平方向に関して傾けなければならない。つまり、デジタルカメラ11の位置を軌道32から離れる方向にずらすと共に、軌道32よりも高い位置にあるようにする。
【0052】
デジタルカメラ11の設置位置を原点とした空間座標を考えて、軌道32に対して直交する水平方向をX軸、軌道32と平行方向をY軸、高さ方向をZ軸とする。デジタルカメラ11の光軸は水平面上でY軸に対して角度θxをなすものとし、垂直面上でX軸に対して角度θzをなすものとする。この場合、デジタルカメラ11の撮影画像から求まるあるターゲット12の見かけ上の変位ΔvX、ΔvZと実際の変位ΔX(X軸方向の変位)、ΔZ(Z軸方向の変位)の間には、上記あるターゲット12の空間座標を(X0,Y0,Z0)とした場合、以下の関係が成り立つ。
【0053】
ΔX=ΔvX×(1/cosθx)
=ΔvX×√(X02+Y02)/Y0 (ΔX<<X0のため、近似)
ΔZ=ΔvZ×(1/cosθz)
=ΔvZ×√(Y02+Z02)/Y0 (ΔZ<<Z0のため、近似)
デジタルカメラの設置位置をターゲットから十分離れた場所にとった場合、Y0>>X0、Y0>>Z0が成り立つことから、
ΔX=ΔvX
ΔZ=ΔvZ
が成り立つ。
【0054】
言い換えると、各ターゲットの座標を補正することなく演算を行うことで、実変位と同等の変位測定結果を得ることが可能となる。
【0055】
以上のような変位測定は、ターゲットB1〜B4に対しても行なわれる。制御ユニット10は、すべてのターゲットについて初期値からの変位量があらかじめ設定した範囲内にあるかどうかを判別し、設定した範囲を超えるような変位量を持つターゲットがある場合にはその旨を報知する。
【0056】
図8は本発明による発光回路と光源を具備したターゲットの構成を示す図である。
【0057】
画像処理による座標演算において、ターゲットの輝度とその周囲の輝度とのコントラストが高いほど明暗の境界が明確となり二値化時の誤差が小さくなるため、座標の特定精度が高くなる。
【0058】
本例ではターゲットを見かけ上円形に発光させるようにしており、このために、消費電力が小さく寿命の長いLED12−1を複数個リング状に配置し、発光した光が拡散板12−2を透過する構成として透過光の輝度が均一となるようにしている。
【0059】
拡散板12−2透過後の光は、押え板12−3の中央を円形にくり抜くことで光路を円形に限定し、更に枠状の遮光マスク12−4を設置することで明暗の境界円を明確にしているため、デジタルカメラから見てターゲットの発光部は円形で均一の輝度となり、その周囲との輝度のコントラストが高くなる。
【0060】
ターゲット自体を発光させる方法に代えて、ターゲットに反射コーティングを施し、カメラのフラッシュを利用して反射光を受光するようにしてターゲットとその周囲のコントラストを高める方法もあるが、反射光を受光して撮影するためにフラッシュには大きな光量が必要となる。また撮影範囲全体にフラッシュ光を当てる必要があるため、近隣住民の生活環境を乱すことになる。
【0061】
本例のようにターゲット自体が発光する場合は、デジタルカメラ方向以外をマスクすることで近隣環境への光の漏れを最小限に抑えることが可能であり、反射光による場合の光の散乱を考慮する必要がないため電力的にも効率がよい。
【0062】
図9は図8の構成によるターゲットの明暗の境界を示す図である。
【0063】
1つのターゲットの水平あるいは垂直方向の断面を見た場合、明暗の境界は2箇所あり、発光部が円形であることからこれら2つの境界を結んだ線分の中点が水平あるいは垂直方向のターゲット重心の座標になる。
【0064】
図10はターゲットの発光パターンを可変とするための複数のLEDの制御回路を示す図である。
【0065】
ここでは10個のLED1〜LED10に直流電源30から電源を供給し、直流電源30と各LED1〜LED10との間にはスイッチング素子としてのFET31と抵抗32を接続して、制御ユニット10からの制御信号でFET31のオン、オフを制御することで測定時のみの発光を可能としている。
【0066】
また前記ステップS5の相関係数が低い場合に、FET31を個別に制御してLED1〜LED10を順に消灯させて撮影する自己診断を実施する。例えば、カメラレンズに汚れが付着した場合、焦点距離は遠方であることから画像上ではボケて広範囲に影響を及ぼすが、LEDの個別不良であった場合は不良を生じたLEDが暗く撮影されることから、ターゲットの異常によるものか、カメラレンズの異常によるものかの識別が可能となる。
【0067】
さらにLEDを順に消灯させることで、ターゲットの異常であった場合、ターゲット表面の汚れであれば点灯時と消灯時で撮影画像の輝度に差が出るが、LEDの故障であれば点灯時と消灯時で撮影画像の輝度に差が出ないことから、詳細な故障箇所の特定が可能となり、ターゲットそのものを修理するか、ターゲット表面の清掃で対応可能なのかが判断可能となる。
【0068】
ターゲットの修理・交換には軌道への立入りが必要となるため、事前に鉄道会社へ申請し、鉄道運行がない時間に鉄道会社要員の立会いの下、作業を実施する必要があるが、ターゲットの交換か清掃かを事前に把握することで、軌道への立入り作業内容が明確となる。またカメラレンズの異常であれば、カメラを管理敷地外に設置しておけば、任意の時間に補修が可能であり、迅速な復旧が可能となるため、異常要因を識別できる効果は大きい。
【0069】
図11は本発明による発光パターンをリング状としたターゲットの例を示す図である。
【0070】
本例によるターゲットは、図8で説明したターゲットの押え板12−3に代えて、押え板12−3と同様の押え板の中央に円形の板を遮光マスク12−6として貼り付けた押え板12−5を用いている。
【0071】
このような押え板12−5により、リング状の発光パターンとすることでターゲットの座標演算時に外周円(光透過部の外周縁)の断面と内周円(光透過部の内周縁)の断面とに形成される計4箇所の明暗境界を利用することが可能となる。外周円の断面で形成される2箇所の明暗境界から求まる重心座標と、内周円の断面によって形成される2箇所の明暗境界から求まる重心座標を演算し、両者の平均を求めることで、座標特定精度が向上する。
【0072】
以上説明した軌道変位測定装置によれば、安価な電子部品だけで構成されたターゲットとデジタルカメラを用いることにより、軌道変位測定を瞬時に自動的に行わせることが可能となり、相対変化における環境に起因する誤差の影響がないだけでなく、保存データがデジタル値であることから統計処理など数値演算への展開も容易におこなえる。
【0073】
また、装置の自己診断機能により、装置異常を検出できるなど得られる効果は大である。
【0074】
なお、本発明における撮像手段は、デジタルカメラのみならず、画像信号を得られるカメラであれば良い。画像信号がアナログ信号の場合には、制御ユニット10の前にアナログ−デジタル変換器が設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は本発明による軌道変位測定装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図2は本発明による座標演算の流れを示す図である。
【図3】図3は本発明による基準画像と探索範囲の設定例を示す図である。
【図4】図4は本発明による測定画像の探索例を示す図である。
【図5】図5は本発明による軌道変位を測定する状況を説明する図である。
【図6】図6はデジタルカメラの配置状況の一例を示す図である。
【図7】図7は本発明による実際の変位と見かけ上の変位の関係を説明する図である。
【図8】図8は発光回路と光源を具備したターゲットの一例を示す図である。
【図9】図9は図8の構成におけるターゲットの明暗の境界を示す図である。
【図10】図10は発光パターンを可変とするターゲットの制御回路の一例を示す図である。
【図11】図11は本発明による発光パターンをリング状としたターゲットを示す図である。
【符号の説明】
【0076】
10 制御ユニット
11 デジタルカメラ
12 ターゲット
31 枕木
32 軌道
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道線路のような軌道の変位を測定する軌道変位測定装置に属する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路の軌道下で地下道工事を行う場合やシールド工事を行う場合には、これ等の工事に伴って軌道が変位すると列車の脱線などの事故につながることから、軌道の変位を常に監視する必要がある。これ等の工事を安全に進めるため地盤の沈下や隆起を測定することを目的として、変位センサや沈下計などの測定機器を軌道近くの地盤に設置して監視を行っている(例えば特許文献1)。そして、地盤の変位が安全限界を超えるような場合には列車を緊急停止させるなどの対策を取るようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−247108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の沈下計を用いて軌道の変位を監視する方法では、軌道の変位を直接的に確認することが出来ないため、最初の警報が発生した場合には係員が現場に赴き直接軌道測定を行う必要がある。しかし、夜間などは要員確保が難しく、列車の安全管理や瞬時の対応などについても問題が残されている。
【0005】
これ等の問題を解決することを目的として軌道に平行に敷設したケブラー繊維を二点で固定し、その中間点でケブラー繊維と軌道との間の二次元方向の軌道変位を画像処理によって検出する方法や、鉄道軌道に反射型ターゲットを配置し、トータルステーションと呼ばれる計測機器により各ターゲットの位置測定を行った結果から、軌道変位を測定する方法が提案されている。
【0006】
しかし、前者の方法の場合、ケブラー繊維が二次元に変位することで二方向から撮影を行う場合、撮影した画像から得られたデータには歪み成分が含まれており、この歪み成分を補正することが必要とされる。さらに1つの測点を計測するために、測点を中心とした、例えば10m区間にケブラー繊維を敷設する必要があるため、装置構成が複雑となるだけでなく、ケブラー繊維の保護が必要である。
【0007】
また後者の方法の場合、すべてのターゲットに対して同時に計測を行うことは不可能であるため、時間あるいは気象変化の影響がすべてのターゲットの測定結果において同一とは言えないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、軌道異常を安価な構成で確実に検出することのできる軌道変位測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、鉄道軌道あるいは軌道近傍に配置した複数の撮影用ターゲットと、前記複数のターゲットが含まれる画像を撮影するカメラと、前記カメラの撮影時刻を制御し、撮影画像の保存および該撮影画像を用いた各ターゲットの座標演算ならびに演算結果を保存する制御ユニットとからなり、撮影画像からターゲットの座標を演算し、撮影ごとの座標の演算結果をもとに運用開始からの座標の経時変化から軌道の変位を測定することを特徴とする軌道変位測定装置が得られる。
【0010】
本発明による軌道変位測定装置においては、前記ターゲットを、撮影時刻に合わせて自動的に光源を発光させる発光回路を具備し、かつ、明暗の境界を少なくとも2箇所有する発光パターンを持つターゲットとすることが望ましい。
【0011】
また、本発明による軌道変位測定装置においては、前記ターゲットの発光パターンをリング状として中央部に暗部を設けることで、明暗の境界を有するようにしてターゲットの座標の測定精度を向上させることができる。
【0012】
本発明による軌道変位測定装置は、複数のターゲットを1枚の画像に収まるようカメラで撮影し、瞬間的に得られた画像をもとに各ターゲットの座標演算を行うため、ターゲット間の相対的な挙動には時間的な要素が含まれることがない。
【0013】
また、ケブラー繊維を使用せずに画像データを利用することから、座標演算にアナログ的な誤差要因が介入することがなく、ケブラー繊維の保護を一切考慮する必要がなくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安価な電子部品だけで構成されたターゲットとカメラ及びパソコンのような画像処理手段を用いることにより、軌道変位測定を瞬時に自動的に行わせることが可能となり、相対変化における環境に起因する誤差の影響がない。加えて、パソコンで保存、処理されるデータはデジタルデータであり、保存データがデジタル値であることから統計処理など数値演算への展開も容易に行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明による軌道変位測定装置の構成を概略的に示す図である。
【0017】
制御ユニット10は、工業用ボードパソコンなどのようにディスプレイによる画像表示及びデータ保存が可能で、外部に接続された機器の制御が可能なプログラムを実装できる記憶装置を持つ電子回路で構成する。
【0018】
デジタルカメラ11は制御ユニット10からの制御信号により撮影時刻、撮影枚数、シャッタースピードなどが制御され、撮影対象としての複数のターゲット12を同時に撮影する。デジタルカメラ11で撮影されたデジタル画像は制御ユニット10へ転送される。
【0019】
なお、後で詳しく説明するが、本実施例におけるターゲット12は円形で発光機能を有し、発光タイミングは制御ユニット10で制御される。
【0020】
制御ユニット10は転送されてきた画像を記憶装置に保存すると共にこの画像からターゲット12の特定部位、例えば重心の2次元座標を演算し、演算結果を記憶装置に保存する。
【0021】
図2は制御ユニット10で行なわれる座標演算の流れを示す図である。
【0022】
1.初期設定
装置設置時に複数のターゲットを同時撮影して得た画像を初期画像とし、初期画像からターゲットごとに画像を切り出して番号付けを行なったうえで「基準画像」として設定し、初期画像内での重心座標を算出して記憶装置に保存する(ステップS1)。
【0023】
また、デジタルカメラ11から各ターゲット12までの距離L1〜Ln(nはターゲット12の設置数)を実測し、演算用の初期値として記憶装置に保存する。
【0024】
図3を参照して、初期設定に際して得られた初期画像からターゲットごとに基準画像を切り出す手法について説明する。基準画像の切り出しは、ディスプレイ上に初期画像を表示させたうえで、オペレータによるキーボードでの操作により行なわれ、その際、基準画像を中心においた一定範囲の領域(以下、探索範囲と呼ぶ)が設定される。基準画像は通常、四角形とし、その大きさはターゲットごとに異なる。これは、後述するように、デジタルカメラから複数のターゲットまでの距離L1〜Lnがそれぞれ異なることによる。そして、探索範囲も四角形とし、その大きさも基準画像ごとに異なる。
【0025】
図3は初期画像中の複数の基準画像(ターゲットの画像)と基準画像ごとの探索範囲の設定例を示す。オペレータは、デジタルカメラで撮影した初期画像をディスプレイ上に表示させ、各ターゲットが存在する領域を基準画像として順に切り出す。この切り出しは、例えばオペレータがタッチペン、カーソル等で四角形の基準画像の2組の対角のうちの一方(図3ではP1,P2)を指定すると、このP1、P2で規定される四角形の範囲内の画像が基準画像として抽出されることで行なわれる。オペレータはまた、後述する測定画像と基準画像のテンプレートマッチングを行う際の探索範囲として、基準画像を中心として基準画像の2倍以上の面積となる領域の対角座標を探索範囲として設定する。探索範囲の基準画像に対する面積比は、要求される測定範囲が広いほど大きくなる。この設定も、基準画像の切り出しと同様、四角形の探索範囲の2組の対角のうちの一方(図3ではP3,P4)を指定することで行なわれる。探索範囲は基準画像との比較を行なう領域をターゲットごとに限定する目的で設定されるものであり、初期画像内ですべてのターゲットの探索範囲が重ならないようにターゲットを配置することで、各ターゲットの位置を誤認することがない。
【0026】
図3では、ターゲット数が6個であり、サイズの大きい順に番号1〜6が付けられている。以下では、最も大きい基準画像を基準画像1、その探索範囲を探索範囲1、というように呼ぶことがある。
【0027】
以上のようにして、図3の場合、初期設定では、ターゲット番号1について言えば、基準画像1に加えて、P3及びP4の座標(初期画像内での探索範囲1の座標)、基準画像1に含まれるターゲットの重心座標、デジタルカメラからの距離が記憶される。そして、このようなデータが6個のターゲット分について記憶される。なお、ターゲットの重心座標は、後述するテンプレートマッチングの手法で算出することができるが、P3とP4を結ぶ線分の中間点を重心座標として算出しても良い。これは、基準画像ではその中心とターゲットの重心が必ず一致しており、しかも探索範囲の中心とも一致しているからである。このようにしてターゲットの重心座標を求めることで1ピクセル以下の精度でターゲットの重心座標を求めることができる。
【0028】
2.測定(撮影)時刻判定
制御ユニット10は、オペレータにより設定された測定時刻まで待機する(ステップS2)。
【0029】
3.撮影
制御ユニット10は、測定時刻になると複数のターゲット12を発光させ、これをデジタルカメラ11で撮影する(ステップS3)。勿論、この撮影は初期画像の撮影と同じ状態で行なわれる。
【0030】
4.画像保存
制御ユニット10は、撮影した画像を撮影画像として制御ユニット10内の記憶装置に保存する(ステップS4)。
【0031】
5.ターゲット抽出
図4は本発明による測定画像の探索例を示す図であり、図3に対応させて示している。図3の初期画像と図4の撮影画像は、同じ状態で撮影された画像であるので、共通の座標軸で表されることは言うまでも無い。制御ユニット10はまず、図4の左側に示すように、測定時の撮影画像に対し、図3の初期画像において番号1のターゲットに設定された探索範囲1を規定しているP3及びP4と同じ座標に探索範囲を設定する。図4では、設定された探索範囲1内の右斜め下に、ターゲットがずれていることを示している。続いて、制御ユニット10は、図4の右側に示すように、この探索範囲1内において対角の一方から他方へ、基準画像1を1ピクセルずつ移動して、テンプレートマッチングにより基準画像1と相関が最も高い領域を得る。この領域においてターゲットの重心座標を求めることで1ピクセル以下の精度で番号1のターゲットの重心座標を求めることができる。このような処理が、図3で設定された探索範囲2〜6についても行なわれる。
【0032】
テンプレートマッチングは、画像処理分野において基本操作として使用されている。本実施例では、ステップS3で得た撮影画像における探索範囲1から番号1のターゲットを含む測定画像の位置(座標)を抽出するために、制御ユニット10で測定画像に対する基準画像1の相関係数Rを求めながら基準画像1を1画素ずつずらしていき、相関係数Rが最も高い座標を求める。この処理手法によって1画素単位で撮影画像内での測定画像の座標、言い換えればターゲットの領域を示す座標を得ることができる(ステップS5)。なお、ここでは測定画像の座標をその対角の座標(図3で言えば、P1、P2の座標)で表すようにしている。
【0033】
相関係数は基準画像と測定画像の二次元的な輝度分布の類似性を表す値であり、分布が完全に一致すると1となる。基準画像の縦と横のサイズがx、yの場合の相関係数Rは以下の数1で求められる。
【0034】
【数1】
【0035】
但し、f(i,j)は基準画像における座標位置(i,j)の輝度、s(i,j)は測定画像中で基準画像と重なる領域における座標位置(i,j)の輝度、符号fの上、符号sの上にバーのついた記号はそれぞれ基準画像、測定画像中の基準画像と重なる部分の輝度の平均値である。
【0036】
6.座標演算
ステップS5の処理で得られる座標は1画素単位であるが、円形のターゲットの重心計算を行うことで1画素以下の単位でターゲットの重心座標を演算することが可能となる。
【0037】
制御ユニット10はまず、ステップS5で得られた座標で規定される測定画像に対して二値化処理を行うことで、明るい画素を白に、暗い画素を黒に変換する。その後、白い画素のX座標、Y座標の加重平均を行い撮影画像内での円形領域の重心の座標を求める(ステップS6)。
【0038】
7.変位へ変換
制御ユニット10は、ステップS6の処理で得られた重心座標と初期値で示される重心座標の差分を求めて、この差分に距離Lに応じた比例係数を乗じることで、初期値で示される重心座標からの相対変位を求める(ステップS7)。距離Lに応じた比例係数というのは、画像上での重心座標の変位はあくまでも画像内での変位量であるので、実際の変位量にするために距離L1〜Lnに応じて設定される値である。
【0039】
8.データ保存
ステップS6、S7の処理で得られた各測点の重心座標と初期値で示される重心座標からの相対変位量(実際の変位量)を保存する(ステップS8)。
【0040】
図5は本発明による軌道変位を測定する状況を示す図である。路盤上の道床に間隔をおいて埋め込まれた枕木31上に軌道(レール)32が設置されている。軌道32の両側にそれぞれ約5m間隔で枕木31に固定治具を用いて複数のターゲット12(A1、A2、A3、A4、B1、B2、B3、B4、)を固定する。
【0041】
図6は本発明によるデジタルカメラ11の配置状況を示す図である。
【0042】
複数のターゲット12(ここでは片側のターゲットA1〜A4)のすべてを画角内に収めるために、ターゲット設置区間から離れた位置にデジタルカメラ11を配置する。
【0043】
ところで、鉄道各社は、以下に示す軌道計測4項目を軌道管理に用いている。
【0044】
軌間ひずみ:左右レールの間隔の狂いで、軌間の基本寸法に対する増減量を表す。
【0045】
水準ひずみ:左右レールの頭面の高低差を表す。
【0046】
通りひずみ:レール側面の長さ方向の凹凸を表し、一般には、レール側面に10mの糸を張り、中央部におけるレールと糸との水平距離で表す。
【0047】
高低ひずみ:レール頭面の長さ方向の凹凸を表し、一般には、レール頭面に10mの糸を張り、中央部におけるレールと糸との垂直距離で表す。
【0048】
上記の各項目は軌道と直交方向の変位を測定することで得られるため、軌道あるいはその近傍にデジタルカメラを配置する。
【0049】
対象とするターゲットの前後5mにそれぞれ配置した3個のターゲットの座標をもとに直線(10m弦)を計算し、対象とするターゲットから前記直線までの水平、垂直距離を求めることで、上記4項目のうち通りひずみ、高低ひずみが得られる。
【0050】
図7はターゲットの実際の変位と撮影された画像から求まる見かけ上の変位の関係を示す図である。
【0051】
軌道内にデジタルカメラを配置することができないため、すべてのターゲットを同一画像内に収めるためには軌道方向に対してデジタルカメラの光軸を、上下方向、水平方向に関して傾けなければならない。つまり、デジタルカメラ11の位置を軌道32から離れる方向にずらすと共に、軌道32よりも高い位置にあるようにする。
【0052】
デジタルカメラ11の設置位置を原点とした空間座標を考えて、軌道32に対して直交する水平方向をX軸、軌道32と平行方向をY軸、高さ方向をZ軸とする。デジタルカメラ11の光軸は水平面上でY軸に対して角度θxをなすものとし、垂直面上でX軸に対して角度θzをなすものとする。この場合、デジタルカメラ11の撮影画像から求まるあるターゲット12の見かけ上の変位ΔvX、ΔvZと実際の変位ΔX(X軸方向の変位)、ΔZ(Z軸方向の変位)の間には、上記あるターゲット12の空間座標を(X0,Y0,Z0)とした場合、以下の関係が成り立つ。
【0053】
ΔX=ΔvX×(1/cosθx)
=ΔvX×√(X02+Y02)/Y0 (ΔX<<X0のため、近似)
ΔZ=ΔvZ×(1/cosθz)
=ΔvZ×√(Y02+Z02)/Y0 (ΔZ<<Z0のため、近似)
デジタルカメラの設置位置をターゲットから十分離れた場所にとった場合、Y0>>X0、Y0>>Z0が成り立つことから、
ΔX=ΔvX
ΔZ=ΔvZ
が成り立つ。
【0054】
言い換えると、各ターゲットの座標を補正することなく演算を行うことで、実変位と同等の変位測定結果を得ることが可能となる。
【0055】
以上のような変位測定は、ターゲットB1〜B4に対しても行なわれる。制御ユニット10は、すべてのターゲットについて初期値からの変位量があらかじめ設定した範囲内にあるかどうかを判別し、設定した範囲を超えるような変位量を持つターゲットがある場合にはその旨を報知する。
【0056】
図8は本発明による発光回路と光源を具備したターゲットの構成を示す図である。
【0057】
画像処理による座標演算において、ターゲットの輝度とその周囲の輝度とのコントラストが高いほど明暗の境界が明確となり二値化時の誤差が小さくなるため、座標の特定精度が高くなる。
【0058】
本例ではターゲットを見かけ上円形に発光させるようにしており、このために、消費電力が小さく寿命の長いLED12−1を複数個リング状に配置し、発光した光が拡散板12−2を透過する構成として透過光の輝度が均一となるようにしている。
【0059】
拡散板12−2透過後の光は、押え板12−3の中央を円形にくり抜くことで光路を円形に限定し、更に枠状の遮光マスク12−4を設置することで明暗の境界円を明確にしているため、デジタルカメラから見てターゲットの発光部は円形で均一の輝度となり、その周囲との輝度のコントラストが高くなる。
【0060】
ターゲット自体を発光させる方法に代えて、ターゲットに反射コーティングを施し、カメラのフラッシュを利用して反射光を受光するようにしてターゲットとその周囲のコントラストを高める方法もあるが、反射光を受光して撮影するためにフラッシュには大きな光量が必要となる。また撮影範囲全体にフラッシュ光を当てる必要があるため、近隣住民の生活環境を乱すことになる。
【0061】
本例のようにターゲット自体が発光する場合は、デジタルカメラ方向以外をマスクすることで近隣環境への光の漏れを最小限に抑えることが可能であり、反射光による場合の光の散乱を考慮する必要がないため電力的にも効率がよい。
【0062】
図9は図8の構成によるターゲットの明暗の境界を示す図である。
【0063】
1つのターゲットの水平あるいは垂直方向の断面を見た場合、明暗の境界は2箇所あり、発光部が円形であることからこれら2つの境界を結んだ線分の中点が水平あるいは垂直方向のターゲット重心の座標になる。
【0064】
図10はターゲットの発光パターンを可変とするための複数のLEDの制御回路を示す図である。
【0065】
ここでは10個のLED1〜LED10に直流電源30から電源を供給し、直流電源30と各LED1〜LED10との間にはスイッチング素子としてのFET31と抵抗32を接続して、制御ユニット10からの制御信号でFET31のオン、オフを制御することで測定時のみの発光を可能としている。
【0066】
また前記ステップS5の相関係数が低い場合に、FET31を個別に制御してLED1〜LED10を順に消灯させて撮影する自己診断を実施する。例えば、カメラレンズに汚れが付着した場合、焦点距離は遠方であることから画像上ではボケて広範囲に影響を及ぼすが、LEDの個別不良であった場合は不良を生じたLEDが暗く撮影されることから、ターゲットの異常によるものか、カメラレンズの異常によるものかの識別が可能となる。
【0067】
さらにLEDを順に消灯させることで、ターゲットの異常であった場合、ターゲット表面の汚れであれば点灯時と消灯時で撮影画像の輝度に差が出るが、LEDの故障であれば点灯時と消灯時で撮影画像の輝度に差が出ないことから、詳細な故障箇所の特定が可能となり、ターゲットそのものを修理するか、ターゲット表面の清掃で対応可能なのかが判断可能となる。
【0068】
ターゲットの修理・交換には軌道への立入りが必要となるため、事前に鉄道会社へ申請し、鉄道運行がない時間に鉄道会社要員の立会いの下、作業を実施する必要があるが、ターゲットの交換か清掃かを事前に把握することで、軌道への立入り作業内容が明確となる。またカメラレンズの異常であれば、カメラを管理敷地外に設置しておけば、任意の時間に補修が可能であり、迅速な復旧が可能となるため、異常要因を識別できる効果は大きい。
【0069】
図11は本発明による発光パターンをリング状としたターゲットの例を示す図である。
【0070】
本例によるターゲットは、図8で説明したターゲットの押え板12−3に代えて、押え板12−3と同様の押え板の中央に円形の板を遮光マスク12−6として貼り付けた押え板12−5を用いている。
【0071】
このような押え板12−5により、リング状の発光パターンとすることでターゲットの座標演算時に外周円(光透過部の外周縁)の断面と内周円(光透過部の内周縁)の断面とに形成される計4箇所の明暗境界を利用することが可能となる。外周円の断面で形成される2箇所の明暗境界から求まる重心座標と、内周円の断面によって形成される2箇所の明暗境界から求まる重心座標を演算し、両者の平均を求めることで、座標特定精度が向上する。
【0072】
以上説明した軌道変位測定装置によれば、安価な電子部品だけで構成されたターゲットとデジタルカメラを用いることにより、軌道変位測定を瞬時に自動的に行わせることが可能となり、相対変化における環境に起因する誤差の影響がないだけでなく、保存データがデジタル値であることから統計処理など数値演算への展開も容易におこなえる。
【0073】
また、装置の自己診断機能により、装置異常を検出できるなど得られる効果は大である。
【0074】
なお、本発明における撮像手段は、デジタルカメラのみならず、画像信号を得られるカメラであれば良い。画像信号がアナログ信号の場合には、制御ユニット10の前にアナログ−デジタル変換器が設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は本発明による軌道変位測定装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図2は本発明による座標演算の流れを示す図である。
【図3】図3は本発明による基準画像と探索範囲の設定例を示す図である。
【図4】図4は本発明による測定画像の探索例を示す図である。
【図5】図5は本発明による軌道変位を測定する状況を説明する図である。
【図6】図6はデジタルカメラの配置状況の一例を示す図である。
【図7】図7は本発明による実際の変位と見かけ上の変位の関係を説明する図である。
【図8】図8は発光回路と光源を具備したターゲットの一例を示す図である。
【図9】図9は図8の構成におけるターゲットの明暗の境界を示す図である。
【図10】図10は発光パターンを可変とするターゲットの制御回路の一例を示す図である。
【図11】図11は本発明による発光パターンをリング状としたターゲットを示す図である。
【符号の説明】
【0076】
10 制御ユニット
11 デジタルカメラ
12 ターゲット
31 枕木
32 軌道
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道軌道あるいは軌道近傍に配置した複数の撮影用ターゲットと、前記複数のターゲットが含まれる画像を撮影するカメラと、前記カメラの撮影時刻を制御し、撮影画像の保存および該撮影画像を用いた各ターゲットの座標演算ならびに演算結果を保存する制御ユニットとからなり、撮影画像からターゲットの座標を演算し、撮影ごとの座標の演算結果をもとに運用開始からの座標の経時変化から軌道の変位を測定することを特徴とする軌道変位測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の軌道変位測定装置において、前記ターゲットを、撮影時刻に合わせて自動的に光源を発光させる発光回路を具備し、かつ、明暗の境界を少なくとも2箇所有する発光パターンを持つターゲットとすることを特徴とする軌道変位測定装置。
【請求項3】
請求項1,2記載の軌道変位測定装置において、前記ターゲットの発光パターンをリング状として中央部に暗部を設けることで、ターゲットの明暗の境界を有するようにしてターゲットの座標の測定精度を向上させることを特徴とする軌道変位測定装置。
【請求項1】
鉄道軌道あるいは軌道近傍に配置した複数の撮影用ターゲットと、前記複数のターゲットが含まれる画像を撮影するカメラと、前記カメラの撮影時刻を制御し、撮影画像の保存および該撮影画像を用いた各ターゲットの座標演算ならびに演算結果を保存する制御ユニットとからなり、撮影画像からターゲットの座標を演算し、撮影ごとの座標の演算結果をもとに運用開始からの座標の経時変化から軌道の変位を測定することを特徴とする軌道変位測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の軌道変位測定装置において、前記ターゲットを、撮影時刻に合わせて自動的に光源を発光させる発光回路を具備し、かつ、明暗の境界を少なくとも2箇所有する発光パターンを持つターゲットとすることを特徴とする軌道変位測定装置。
【請求項3】
請求項1,2記載の軌道変位測定装置において、前記ターゲットの発光パターンをリング状として中央部に暗部を設けることで、ターゲットの明暗の境界を有するようにしてターゲットの座標の測定精度を向上させることを特徴とする軌道変位測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−25855(P2010−25855A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189826(P2008−189826)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(390027177)坂田電機株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(390027177)坂田電機株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
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