説明

転がり軸受の潤滑装置

【課題】 軸受の冷却を兼ねた潤滑油供給が行え、軸受内に必要量以上の潤滑油が入ることを効果的に制限することで、油による攪拌抵抗を抑えられ、動力損失が小さい転がり軸受の潤滑装置を提供する。円筒ころ軸受に適用した場合に、ころ端面の潤滑を向上させる。
【解決手段】 転がり軸受の潤滑装置は、転がり軸受1内に内輪2に向かって潤滑油導入部材7から潤滑油を吐出して潤滑する。内輪2外径面に隙間δを介して被さってこの隙間δから軸受内へ流れる潤滑油を案内する環状鍔部7aを前記潤滑油導入部材7に設ける。この環状鍔部7aは転動体4を保持する保持器5の内径側まで延びている。前記内輪2外径面に、内輪2の回転により溝内の潤滑油を軸受端面側へ搬送するねじ溝55を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械用主軸等の高速スピンドルの支持に用いられる転がり軸受の潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械用主軸では加工能率を上げるため、ますます高速化の傾向にある。主軸の高速化に伴い、主軸軸受ではトルクと発熱量が増加する。これに対処するために、多量の油を軸受内に噴射することで軸受の潤滑と冷却を同時に行うジェット潤滑が用いられている。しかし、このジェット潤滑は、一般的に、軸受内に入った油による攪拌抵抗により動力損失が大きくなる欠点がある。動力損失が大きいと、パワーのあるモータが必要となり、主軸が大型化し、消費電力が多くなる。また、油の攪拌抵抗に起因する主軸の発熱量が多くなり、ワークの加工精度の低下につながる。
【0003】
そこで、軸受内部に入る潤滑油量を制限することにより、油による攪拌抵抗を小さくした新しいジェット潤滑構造が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示される新ジェット潤滑構造は、図6に示すように、外輪側間座等からなる潤滑油導入部材7から吐出した潤滑油を内輪2の端面に当てて、内輪2を冷却するものである。内輪2を冷却した後の潤滑油は、その大半は軸受外に排出されるが、残りの一部が軸受潤滑用として、内輪2の外径面と潤滑油導入部材に設けられた環状鍔部7aとの間に形成される隙間δから、内輪2の軌道面2aに流入する。内輪2の外径面は傾斜面に形成され、潤滑油は表面張力で内輪外径面に沿いながら、内輪2の回転による遠心力で軌道面2a側へ流れる。この流れが、内輪2の外径面と環状鍔部7aとの間の隙間δにより制限される。つまり、上記隙間δを小さくして、軸受の潤滑に必要な少量の潤滑油しか軸受内部には入らないようにしている。このため、攪拌抵抗が小さくなり、軸受の動力損失も小さくなるのである。
【特許文献1】特開2006−226486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のジェット潤滑構造は、アンギュラ玉軸受に適用されたものである。しかし、転がり軸受が円筒ころ軸受の場合、軸の熱膨張により内輪と外輪および潤滑油導入部材とが軸方向にずれ、隙間δの寸法が大きく変わる。そのため、上記隙間の最小値には限界がある。特許文献1には、別の実施形態として、内輪の外径面および環状鍔部の内径面を円筒面としたものも提案されている。円筒面とした場合は、円筒ころ軸受にも適用できる。円筒ころ軸受では、内輪の鍔面ところの端面間の潤滑も必要となる。この点を考慮して、特許文献1の上記別実施形態のジェット潤滑構造を円筒ころ軸受に応用すると、図4または図5のようになる。
図4の提案例は、円筒ころ軸受1の内輪2の両側の鍔2b面と軌道面2a間の隅部に形成された各研磨盗み53に潤滑油を供給するための研磨盗み潤滑油経路を設けたものである。研磨盗み潤滑油経路は、内輪2の端面に設けられた円周溝6と、この円周溝6の底部に連なり内輪2を軸方向に貫通する軸方向貫通孔52と、この軸方向貫通孔52から前記研磨盗み53へ通じる潤滑用給油孔54とでなり、潤滑油導入部材7に設けたノズル8より前記円周溝6内に潤滑油を吐出するようにしてある。
また、図5の提案例は、円筒ころ軸受1の内輪の片側の鍔面と軌道面間の隅部に形成された研磨盗み53に潤滑油を供給するための研磨盗み潤滑油経路を設けたものである。研磨盗み潤滑油経路は、内輪2の端面に設けられた円周溝6と、この円周溝6の底部から前記研磨盗み53へ通じる潤滑油給油孔54とでなり、潤滑油導入部材7に設けたノズル8より前記円周溝6内に潤滑油を吐出するようにしてある。
【0005】
上記各提案例の構成とすると、研磨盗み潤滑油経路6,52,54(または6,54)を通じて研磨盗み53に供給される潤滑油により、円筒ころ軸受1の内輪鍔2b面ところ4の端面間も潤滑することができる。しかし、元から設けられている潤滑油流入隙間δから軸受内に流入する潤滑油とは別に、新たに設けた隙間研磨盗み潤滑油経路6,52,54(または6,54)からも潤滑油が研磨盗み53に軸受内に流入するため、軸受内の潤滑油量が過多となり、油の攪拌抵抗による動力損失が大きくなるという問題がある。なお、潤滑油流入隙間δは、内輪2の外径面と潤滑油導入部材7の環状鍔部7aの内径面との間に形成されている。軸受内への潤滑油流入量を減少させるには前記隙間δの隙間寸法を狭くすればよいが、隙間δを極端に狭くすることは難しい。なぜなら、隙間δを狭くしすぎると、内輪2と潤滑油導入部材7とが干渉する恐れがあるからである。
【0006】
この発明の目的は、軸受の冷却を兼ねた潤滑油供給が行え、軸受内に必要量以上の潤滑油が入ることを効果的に制限することで、油による攪拌抵抗を抑えられ、動力損失が小さい転がり軸受の潤滑装置を提供することである。
この発明の他の目的は、円筒ころ軸受に適用した場合に、ころ端面の潤滑を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の転がり軸受の潤滑装置は、転がり軸受内に内輪に向かって潤滑油導入部材から潤滑油を吐出して潤滑する転がり軸受の潤滑装置において、内輪外径面に隙間を介して被さってこの隙間から軸受内へ流れる潤滑油を案内する環状鍔部を前記潤滑油導入部材に設け、この環状鍔部は転動体を保持する保持器の内径側まで延びるものであり、前記内輪外径面に、内輪の回転により溝内の潤滑油を軸受端面側へ搬送するねじ溝を設けたことを特徴とする。
【0008】
この構成によると、潤滑油導入部材から内輪に向かって吐出された潤滑油の一部が、内輪外径面と潤滑油導入部材の環状鍔部との間の隙間を通って軸受内へ流入し、内輪および外輪の軌道面を潤滑する。軸受内とは、内輪と外輪間の軸受空間のことである。前記内輪外径面に、内輪の回転により溝内の潤滑油を軸受端面側へ搬送するねじ溝が設けられているため、前記隙間を通って軸受内に入ろうとする潤滑油の一部が、ねじ溝の潤滑油搬送作用により軸受外へ戻される。このため、軸受内に入る潤滑油量を軸受の潤滑に必要な最小限の量に制限することができ、油の攪拌抵抗による動力損失を小さくできる。また、前記隙間の寸法を広めに設定することができ、内輪の熱膨張等による内輪と潤滑油導入部材との干渉を防止できる。
潤滑油導入部材から吐出された潤滑油は、内輪に受けられて軸受を冷却する。軸受を冷却した後の潤滑油は、一部が上記したように軸受内の潤滑に使用され、残りは排油として回収される。
【0009】
この発明において、前記転がり軸受が内輪鍔付きの円筒ころ軸受である場合に、前記内輪の端面に円周溝を設け、前記潤滑油導入部材は、前記円周溝は向けて潤滑油を吐出するものであり、前記円周溝の底面から内輪を軸方向に貫通して前記円周溝内の潤滑用を通過させる軸方向貫通孔を、円周方向の複数箇所に設け、前記内輪の両側の鍔面と軌道面間の隅部に形成された各研磨盗みへそれぞれ通じる潤滑用給油孔を、前記軸方向貫通孔から分岐して設けても良い。
このように、円周溝、軸方向貫通孔、および潤滑用給油孔からなる研磨盗み潤滑油経路を設けると、滑り接触やスキューによって潤滑不足となり易い内輪の鍔面ところの端面間に潤滑油が供給されて、潤滑が良好に行われる。また、研磨盗みから内輪軌道面へも潤滑油が供給されるため、内輪軌道面の給油不足が回避できる。両側の研磨盗みに潤滑用給油孔が設けてあるため、片方のノズルからの潤滑油供給でありながら、両側のころ端面に均等な潤滑が行える。研磨盗みに潤滑油給油孔を開口させるため、軌道面に潤滑用給油孔を開口させる場合に比べて、潤滑用給油孔の形成による円筒ころや軌道面の耐久性低下の問題も生じない。
【0010】
この発明において、前記転がり軸受が内輪鍔付きの円筒ころ軸受である場合に、前記内輪の端面に円周溝を設け、前記潤滑油導入部材は、前記円周溝は向けて潤滑油を吐出するものであり、前記内輪の鍔面と軌道面間の隅部に形成された研磨盗みへ通じる潤滑用給油孔を、前記円周溝から設けても良い。円周溝から潤滑油給油孔を開通させても、潤滑油を内輪の鍔面や軌道面へ供給することができる。
【0011】
また、この発明において、前記内輪外径面および前記環状鍔部の内径面を円筒面としても良い。内輪外径面および環状鍔部の内径面を円筒面とすると、軸の熱膨張により内輪と外輪および潤滑油導入部材とが軸方向にずれても、内輪と環状鍔部間の隙間が一定に維持される。
【0012】
この発明において、前記転がり軸受が、工作機械の主軸軸受として用いられるものであっても良い。工作機械の主軸は、加工能率を上げるために高速化の傾向があり、その一方で、主軸の熱膨張は、加工精度の向上のために防止することが重要となる。そのため、この発明における軸受の冷却を兼ねた潤滑油供給が行え、かつ潤滑油の安定した微量供給が行えるという効果が有効に発揮される。
【発明の効果】
【0013】
この発明の転がり軸受の潤滑装置は、転がり軸受内に内輪に向かって潤滑油導入部材から潤滑油を吐出して潤滑する転がり軸受の潤滑装置において、内輪外径面に隙間を介して被さってこの隙間から軸受内へ流れる潤滑油を案内する環状鍔部を前記潤滑油導入部材に設け、この環状鍔部は転動体を保持する保持器の内径側まで延びるものであり、前記内輪外径面に、内輪の回転により溝内の潤滑油を軸受端面側へ搬送するねじ溝を設けたため、軸受の冷却を兼ねた潤滑油供給が行え、軸受内に必要量以上の潤滑油が入ることを効果的に制限して、油による攪拌抵抗を抑え、動力損失を小さくできる。
特に、転がり軸受が円筒ころ軸受である場合に、前記軸方向貫通孔または円周溝から内輪の鍔面と軌道面間の研磨盗みに通じる潤滑油給油孔を設けると、ころ端面の潤滑を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施形態を図1と共に説明する。図1はこの実施形態の転がり軸受の潤滑装置の断面図を示す。この転がり軸受の潤滑装置は、潤滑油導入部材7から転がり軸受1に向けて多量の潤滑油をジェット噴射し、軸受の潤滑と冷却を同時に行うものである。転がり軸受1は、工作機械の主軸軸受として用いられるものであって、内輪2と、外輪3と、これら内外輪2,3の軌道面2a,3a間に介在させた転動体である複数の円筒ころ4とを有する円筒ころ軸受である。これら円筒ころ4は、環状の保持器5により、円周方向に所定間隔を隔てて、この保持器5に設けられた各ポケット5a内で保持されている。内輪2は、軌道面2aの両側に鍔2b,2bを有する鍔付き内輪であり、主軸25の外径面に嵌合している。外輪3は鍔無しであり、図示しない軸受箱内に固定される。
【0015】
内輪2の一端面には円周溝6が設けられる。円周溝6は、端面から奥に行くほど小径となる軸方向に対し傾斜した溝である。内輪2には、前記円周溝6の底面から内輪2を軸方向に貫通する軸方向貫通孔52が、等間隔で円周方向の複数箇所に設けられている。これら軸方向貫通孔52には、半径方向に延びる2本の潤滑用給油孔54が分岐して設けられている。両潤滑用給油孔54は、内輪2の両側へ鍔2bの内面である鍔面と軌道面2a間の隅部に形成された各研磨盗み53へそれぞれ通じる。研磨盗み53は、軌道面2aの研磨作業の妨げとならないように設けられる断面円弧状の溝である。上記の円周溝6、軸方向貫通孔52、および潤滑油給油孔54は、潤滑油導入部材7より吐出される潤滑油の一部を前記研磨盗み53へ供給するための研磨盗み潤滑油経路を構成する。
【0016】
潤滑用給油孔54は、軸方向貫通孔52よりも小径の孔とされている。例えば、直径0.6〜1.0mm程度が望ましい。潤滑用給油孔54は、複数設けられる軸方向貫通孔52のうちの全てに設けても、また一部の軸方向貫通孔52のみに設けても良い。主軸25の回転速度によって必要な潤滑油量が異なり、それに応じて必要な潤滑油給油孔54の数も変わるが、潤滑用給油孔54は円周上に概ね2〜6箇所程度が設けるのが良い。
【0017】
潤滑油導入部材7は、転がり軸受1の内輪2の円周溝6が設けられた端面側で外輪3に隣接して配置される外輪位置決め間座であって、軸受箱内に固定される。対して、内輪2の円周溝6を有する端面側は内輪間座21により位置決めされる。
【0018】
潤滑油導入部材7には、転がり軸受1の内輪2の円周溝6に潤滑油を吐出するノズル8と、潤滑油導入部材7の外径面から内径側に向けて延び前記ノズル8に連通する給油路9とが形成されている。この実施形態では、円周溝6の傾斜角度に合わせてノズル8も傾斜させてある。給油路9は、外径面に設けられた給油路環状溝部9aと、この給油路環状溝部9aの底面から内径側に延びる給油路個別孔部9bとでなる。給油路個別孔部9bの先端にノズル8が連通する。給油路個別孔部9bおよびノズル8は、潤滑油導入部材7の円周方向の等配位置に当たる複数箇所(例えば3箇所)に設けられている。
【0019】
潤滑油導入部材7の転がり軸受1に対向する面には、軸受内に突出する環状鍔部7aが設けられている。この環状鍔部7aは、内輪2と保持器5間の径方向位置に設けられていて、その先端は保持器5の内径側まで延びている。環状鍔部7aの内径面と内輪2の外径面との間には、潤滑油流入隙間δが形成されている。環状鍔部7aの内径面および内輪2の外径面はいずれも円筒面であり、潤滑油流入隙間δは、軸方向の各部の隙間寸法が一定とされている。上記隙間δを構成する内輪2の外径面には、内輪2の回転により溝内の潤滑油を軸受端面側へ搬送するねじ溝55が形成してある。
【0020】
潤滑油導入部材7の円周方向の1カ所には、ノズル8から円周溝6内に吐出された潤滑油のうち、軸方向貫通孔52および隙間δに流れた分を除く余剰の潤滑油を外部に排出する排油口10が設けられている。また、軸方向貫通孔52の出口は、後述する内輪位置決め間座27に設けた排油溝14(図3)に開口している。
【0021】
この構成の転がり軸受の潤滑装置によると、潤滑油導入部材7の外径側から給油路9を経て導入された冷却媒体兼用の潤滑油が、ノズル8から内輪2の円周溝6に向けて噴出される。内輪2の円周溝6で受け止められた潤滑油により、主に円周溝6の底面から内輪2が冷却される。円周溝6で受け止められた潤滑油の一部は、内輪2を軸方向に貫通した軸方向貫通孔52に流入する。そのうちの大半は、軸方向貫通孔52を通過して他端の内輪端面から放出される。その間に、さらに内輪2が冷却される。軸方向貫通孔52の長さ方向の全体で内輪2を冷却するため、内輪2が幅方向に均等に冷却され、内輪軌道面2aの軸方向の冷却分布の差を抑えることができる。それにより、円筒ころ4の面圧分布の不均等が回避できる。
【0022】
軸方向貫通孔52に流入した潤滑油のうちの一部は、潤滑用給油孔54より研磨盗み53に流入し、内輪2の鍔2b面および軌道面2aの潤滑に用いられる。この実施形態では、ころ4の両側の研磨盗み53に潤滑用給油路54が設けられているため、片方のノズル8からの潤滑油供給でありながら、ころ4の両側の端面と内輪鍔2bとの接触部に対し均等な潤滑が行える。これにより、滑り接触やスキューによって潤滑不足となり易い内輪2の鍔2b面に潤滑油が供給され、ころ4の端面の潤滑が良好に行われる。また、内輪2の軌道面2aへの潤滑油の供給も良好に行われる。研磨盗み53に潤滑油給油孔54を開口してあるため、軌道面2aに潤滑用給油孔を開口させた場合に比べて、潤滑用給油孔54の形成による円筒ころ4や軌道面2aの耐久性低下の問題も生じない。
【0023】
また、円周溝6で受け止められた潤滑油のうちのごく少量は、潤滑油導入部材7の環状鍔部7aと内輪2の外径面との間の隙間δから、軸受内に流入し、潤滑に使用される。環状鍔部7aの先端が保持器5の内径側まで延びていて、潤滑油が軸受内の奥深くまで案内されるため、潤滑油が内輪2の鍔2b面や軌道面2aに届きやすい。但し、隙間δを通って軸受内に入ろうとする潤滑油の一部が、内輪2の回転に伴うねじ溝55の潤滑油搬送作用により軸受外へ戻されるため、隙間δを通って軸受内に入る潤滑油量はごく少量である。そのため、軸受内が潤滑油過多とならない。これにより、油による攪拌抵抗を小さくして、主軸25の駆動トルクを抑えることができる。なお、隙間δの寸法を適当に設定することにより、隙間δから潤滑油がほとんど軸受内に入らないようにすることもできる。
内輪2の外径面および環状鍔部7aの内径面が円筒面とされているため、主軸25の熱膨張により内輪2と外輪3および潤滑油導入部材7とが軸方向にずれても、内輪2と環状鍔部7a間の隙間δの寸法が一定に維持される。
【0024】
円周溝6で受け止められた潤滑油のうち、軸方向貫通孔52にも隙間δにも流入しなかった余剰の潤滑油は、排油として潤滑油導入部材7の排油口10から外部へと排出される。また、軸方向貫通孔52を通過した潤滑油、および軸受内から軸方向貫通孔52の出口側の端面に流出した潤滑油は、後で説明する排油溝14,15(図3)を通って、軸受箱に設けられた排油経路から外部に排出される。
【0025】
図2は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、上記実施形態(図1)において、潤滑用給油孔54を軸方向貫通孔52から分岐させる代わりに、内輪2の円周溝6の底面から開通させたものである。潤滑用給油孔54は、例えば等間隔で内輪2の円周方向の複数箇所に設ける。図では潤滑用給油孔54と軸方向貫通孔52とを同じ断面で示しているが、潤滑用給油孔54と軸方向貫通孔52とは円周方向にずれた位置とすることが好ましい。この場合も、潤滑用給油孔54は軸方向貫通孔52よりも小径とする。この実施形態におけるその他の構成は、前記実施形態と同様である。
このように、円周溝6から潤滑用給油孔54を開通させても、潤滑油を内輪2の鍔2b面や軌道面2aへ供給することができる。
【0026】
図示は省略するが、円周溝6から潤滑用給油孔54を開通させた場合に、図1の例の2本の潤滑用給油孔54のうち、円周溝6と反対側の鍔面の研磨盗み53に開通する潤滑用給油孔54のみを設けても良い。
【0027】
なお、上記各実施形態では、転がり軸受1として円筒ころ軸受を用いた例を示したが、これに限定されるものではなく、この発明は、種々の形式の転がり軸受、例えばアンギュラ玉軸受の潤滑にも適用可能である。
【0028】
図3は、この発明の上記いずれかの実施形態に係る転がり軸受の潤滑装置を備えた高速スピンドル装置の一例を示す。このスピンドル装置24は工作機械に応用されるものであり、主軸25の前側(加工側)端部に工具またはワークのチャックが取付けられる。主軸25は、軸方向に離れた複数(ここでは2つ)の転がり軸受1により支持されている。ここでは、主軸25の前側端部がアンギュラ玉軸受からなる転がり軸受1により、主軸25の後ろ側が、例えば図1に示した円筒ころ軸受からなる転がり軸受1によりそれぞれ支持されている。アンギュラ玉軸受からなる転がり軸受1に対しても、円筒ころ軸受からなる転がり軸受1と同様の潤滑装置を設けることができる。
【0029】
各転がり軸受1の内輪2は主軸25の外径面に嵌合し、外輪3は軸受箱26の内径面に嵌合している。主軸前側の転がり軸受1については、その内輪2が主軸25の段面25aにより、外輪3が外輪位置決め間座20を介して押さえ蓋28Aにより、軸受箱26内に固定されている。主軸後ろ側の転がり軸受1については、その内輪2が内輪位置決め間座27により、外輪3が外輪位置決め間座20を介して押さえ蓋28Bにより、軸受箱26内に固定されている。軸受箱26は、内周軸受箱26Aと外周軸受箱26Bの二重構造とされ、内外の軸受箱26A,26B間に冷却溝29が形成されている。両転がり軸受1の外輪3の他方の端面側にはそれぞれ潤滑油導入部材7が配置され、これら潤滑油導入部材7,7間に内周軸受箱26Aが介在している。両転がり軸受1の内輪2,2間には内輪間座30が介在している。主軸25の後端部には、内輪位置決め間座27に押し当てて転がり軸受1を固定する軸受固定ナット31が螺着されている。
【0030】
前記押さえ蓋28A,28Bには、転がり軸受1をジェット潤滑する場合の供給源である冷却油供給装置32から冷却された潤滑油を導入する冷却油導入孔33がそれぞれ設けられている。これら冷却油導入孔33は、内周軸受箱26Aに設けられた冷却油供給路34に連通し、この冷却油供給路34が潤滑油導入部材7の給油路9に連通している。冷却油供給装置32からの給油路は、外周軸受箱26Bの冷却油導入孔43から軸受箱26内の冷却溝29に連通する第1の給油路38と、油ろ過器40および圧力調整弁41を経て押さえ蓋28A,28Bの冷却油導入孔33に連通する第2の給油路39とに分岐される。軸受箱26内の冷却溝29に供給されて軸受箱26の冷却に使用された排油は、外周軸受箱26Bの排油導出孔34から冷却油供給装置32へと回収される。また、押さえ蓋28A,28Bには排油孔35が設けられ、これら排油孔35は内周軸受箱26Aに設けられた排油路36から潤滑油導入部材7の排油口10、外輪位置決め間座20の排油溝15、および内輪位置決め間座27の排油溝14に連通しており、軸受の冷却および潤滑に使用されて排油口10および排油溝14,15から流出した排油が、排油路36→排油孔35→排油ポンプ37を経て冷却油供給装置32に回収される。
【0031】
このように構成されたスピンドル装置24では、上記した転がり軸受の潤滑装置を組み込んでいるので、転がり軸受1内への給油による攪拌抵抗が小さく主軸25の駆動トルクを小さくでき、高速化および温度上昇低減が可能となる。
なお、このスピンドル装置24は、図1の実施形態に係る転がり軸受の潤滑装置を適用した場合につき説明したが、他の実施形態に係る転がり軸受の潤滑装置を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施形態に係る転がり軸受の潤滑装置の断面図である。
【図2】この発明の他の実施形態に係る転がり軸受の潤滑装置の断面図である。
【図3】この発明の転がり軸受の潤滑装置を備えたスピンドル装置の構成図である。
【図4】第1の提案例に係る転がり軸受の潤滑装置の断面図である。
【図5】第2の提案例に係る転がり軸受の潤滑装置の断面図である。
【図6】従来の転がり軸受の潤滑装置の断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1…転がり軸受
2…内輪
2b…内輪鍔
3…外輪
4…円筒ころ(転動体)
5…保持器
6…円周溝
7…潤滑油導入部材
7a…環状鍔部
8…ノズル
21…内輪間座
52…軸方向貫通孔
53…研磨盗み
54…潤滑油給油孔
55…ねじ溝
δ…潤滑油導入隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受内に内輪に向かって潤滑油導入部材から潤滑油を吐出して潤滑する転がり軸受の潤滑装置において、内輪外径面に隙間を介して被さってこの隙間から軸受内へ流れる潤滑油を案内する環状鍔部を前記潤滑油導入部材に設け、この環状鍔部は転動体を保持する保持器の内径側まで延びるものであり、前記内輪外径面に、内輪の回転により溝内の潤滑油を軸受端面側へ搬送するねじ溝を設けたことを特徴とする転がり軸受の潤滑装置。
【請求項2】
請求項1において、前記転がり軸受が内輪鍔付きの円筒ころ軸受であり、前記内輪の端面に円周溝を設け、前記潤滑油導入部材は、前記円周溝は向けて潤滑油を吐出するものであり、前記円周溝の底面から内輪を軸方向に貫通して前記円周溝内の潤滑用を通過させる軸方向貫通孔を、円周方向の複数箇所に設け、前記内輪の両側の鍔面と軌道面間の隅部に形成された各研磨盗みへそれぞれ通じる潤滑用給油孔を、前記軸方向貫通孔から分岐して設けた転がり軸受の潤滑装置。
【請求項3】
請求項1において、前記転がり軸受が内輪鍔付きの円筒ころ軸受であり、前記内輪の端面に円周溝を設け、前記潤滑油導入部材は、前記円周溝は向けて潤滑油を吐出するものであり、前記内輪の鍔面と軌道面間の隅部に形成された研磨盗みへ通じる潤滑用給油孔を、前記円周溝から設けた転がり軸受の潤滑装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記内輪外径面および前記環状鍔部の内径面が円筒面である転がり軸受の潤滑装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記転がり軸受が、工作機械の主軸軸受として用いられるものである転がり軸受の潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−240938(P2008−240938A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83915(P2007−83915)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】