説明

転がり軸受ユニット用軌道輪部材、転がり軸受ユニット、転がり軸受ユニット用軌道輪部材の製造方法及び製造装置

【課題】軽量な転がり軸受ユニット用軌道輪部材及び転がり軸受ユニットを、低コストで得られる構造及び製造方法を実現する。
【解決手段】円柱状の素材から造った第三中間素材36に側方押し出し加工を施す事により、外周面の一部に取付フランジ15を有するハブ本体13aとする。この側方押し出し加工を行なう際に、上記第三中間素材36の一部の外径を広げる事で加工硬化させてから、フランジ成形用空間41内に金属材料を進入させる。上記取付フランジ15の基部を、上記加工硬化した部分により構成する。この取付フランジ15の厚さを小さくしても必要とする強度を確保できるので、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の懸架装置に車輪を回転自在に支持する為の車輪支持用ハブユニットの如き転がり軸受ユニット用の軌道輪、その製造方法及び製造装置の改良に関する。具体的には、軽量な転がり軸受ユニット用軌道輪部材を、低コストで得られる構造及び製造方法及び製造装置の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を構成するホイール1、及び、制動用回転部材であって制動装置であるディスクブレーキを構成するロータ2は、例えば図6に示す様な構造により、懸架装置を構成するナックル3に回転自在に支持している。即ち、このナックル3に形成した円形の支持孔4部分に、車輪支持用ハブユニット5を構成する外輪6を、複数本のボルト7により固定している。一方、この車輪支持用ハブユニット5を構成するハブ8に上記ホイール1及びロータ2を、複数本のスタッド9とナット10とにより結合固定している。又、上記外輪6の内周面には複列の外輪軌道11a、11bを、外周面には結合フランジ12を、それぞれ形成している。この様な外輪6は、この結合フランジ12を上記ナックル3に、上記各ボルト7で結合する事により、このナックル3に対し固定している。
【0003】
又、上記ハブ8は、ハブ本体13と内輪14とから成る。このうち、ハブ本体13の外周面の一部で、上記外輪6の外端開口から突出した部分に、取付フランジ15を形成している。尚、軸方向に関して「外」とは、自動車への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、図6、7の左側を言う。反対に、自動車への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、図6、7の右側を、軸方向に関して「内」と言う。上記ホイール1及びロータ2は、上記取付フランジ15の外側面に、上記各スタッド9とナット10とにより結合固定している。
【0004】
又、上記ハブ本体13の外周面の中間部に、上記複列の外輪軌道11a、11bのうちの外側の外輪軌道11aに対向する、内輪軌道16aを形成している。又、同じく内端部に形成した小径段部17に、上記内輪14を外嵌している。この内輪14の外周面には、上記複列の外輪軌道11a、11bのうちの内側の外輪軌道11bに対向する、内輪軌道16bを形成している。この様な内輪14は、上記ハブ本体13の内端部を径方向外方に塑性変形させて形成したかしめ部18により、このハブ本体13に対し固定している。そして、上記各外輪軌道11a、11bと上記各内輪軌道16a、16bとの間に転動体19、19を、それぞれ複数個ずつ転動自在に設けている。尚、図示の例では、上記各転動体19、19として玉を使用しているが、重量の嵩む自動車用のハブユニットの場合には、円すいころを使用する場合もある。又、上記各転動体19、19を設置した円筒状の空間の両端開口部は、それぞれシールリング20a、20bにより密閉している。
【0005】
更に、図示の例は、駆動輪(FF車の前輪、FR車及びRR車の後輪、4WD車の全車輪)用の車輪支持用ハブユニット5である為、上記ハブ8の中心部に、スプライン孔21を形成している。そして、このスプライン孔21に、等速ジョイント用外輪22の外端面に固設したスプライン軸23を挿入している。これと共に、このスプライン軸23の先端部にナット24を螺合し、更に緊締する事により、上記ハブ本体13を、このナット24と上記等速ジョイント用外輪22との間に挟持している。
【0006】
次に、図7は、従来から知られている車輪支持用ハブユニットの第2例として、従動輪(FF車の後輪、FR車及びRR車の前輪)用のものを示している。この第2例の車輪支持用ハブユニット5aは、従動輪用である為、ハブ8aを構成するハブ本体13aの中心部にスプライン孔を設けていない。尚、図示の例では、内輪14の内端面を、上記ハブ本体13aの内端部に設けたかしめ部18により抑えているが、上記内輪14の内端面は、上記ハブ本体13aの内端部に螺合したナットにより抑える事もできる。この場合には、上記ハブ本体13aの内端部に、上記ナットを螺合する為の雄ねじ部を設ける。その他の部分の構造及び作用は、上述した第1例の車輪支持用ハブユニット5の場合と同様である。
【0007】
ところで、上述した様な各車輪支持用ハブユニット5、5aは、何れの構造の場合も、外輪6の外周面に結合フランジ12を、ハブ本体13、13aの外周面に取付フランジ15を、それぞれ形成している。この様な、外周面に外向フランジである結合フランジ12或いは取付フランジ15を形成した、上記外輪6或いは上記ハブ本体13、13aを造る為の方法としては、熱間鍛造或いは冷間鍛造等の塑性加工の他、切削加工等が考えられる。
【0008】
但し、加工能率を良好にすると共に材料の歩留を確保して、コスト低減を図る為には、塑性加工で行なう事が好ましい。又、塑性加工のうちで熱間鍛造は、被加工物を軟らかい状態で加工できる為、成形荷重を小さく抑えられる反面、加工終了後に金属材料が冷却された後の状態でも、構成各部の金属材料が硬化する程度は限られる(温度低下に伴う硬度上昇程度に留まる)為、必ずしも十分な強度を得られない場合がある。又、加工用金型の熱膨張量差を考慮する必要がある為、寸法精度及び形状精度を確保しにくい。一方、上記外輪6の外周面に形成した結合フランジ12の基部、或いは、上記取付フランジ15の外周面に形成した取付フランジ15の基部は、使用時に加わるモーメントに拘らず有害な変形が生じない様にする為に、強度を確保する必要がある。上記外輪6或いは上記ハブ本体13、13aを熱間鍛造により加工した場合、そのままでは、上記結合フランジ12、或いは、上記取付フランジ15の基部に必要とする強度を持たせる事は難しい。この為、別途これら基部の強度を向上させる為の処理が必要になり、上記外輪6或いは上記ハブ本体13、13aの製造コストが嵩む。
【0009】
これに対して、特許文献1に記載されている様に、冷間鍛造の一種である側方押し出し加工により、外周面に結合フランジ12或いは取付フランジ15を有する、外輪6或いはハブ本体13、13aを造る事が考えられている。図8〜9は、この様な、特許文献1に記載された側方押し出し加工により転がり軸受ユニット用軌道輪部材である外輪6或いはハブ本体13aを造る状態を示している。尚、図8は、図6〜7に示した駆動輪用の車輪支持用転がり軸受5、5aを構成する外輪6を、図9は図7に示した従動輪用の車輪支持用転がり軸受5aを構成するハブ本体13aを、それぞれ加工する状態を示している。
【0010】
何れの場合も、外周面を円筒面若しくは段付円筒面とした素材25、25aを、上記結合フランジ12或いは取付フランジ15の外面形状に見合う内面形状を有する、上型26、26aと下型27、27aとから成る金型28、28a内にセットする。この状態では、上記素材25、25aの外周面のうちで、上記結合フランジ12或いは取付フランジ15を形成すべき部分を除いた部分を抑える。一方、これら結合フランジ12或いは取付フランジ15を形成すべき部分の周囲には、これら各フランジ12、15に見合う空間29、29aが存在する状態となる。この状態で、パンチ30、30aにより上記素材25、25aを軸方向に押圧すれば(軸方向寸法を縮めれば)、軸方向寸法の短縮に伴って行き場を失った金属材料が上記空間29、29a内に押し込まれて、上記外周面の一部に、上記結合フランジ12或いは取付フランジ15が形成される。
【0011】
上述の様な側方押し出し加工により、上記結合フランジ12或いは取付フランジ15を備えた、上記外輪6或いはハブ本体13aを造れば、これら外輪6或いはハブ本体13aの外周面に形成した、結合フランジ12或いは取付フランジ15の基部の強度を高くできる。即ち、これら結合フランジ12或いは取付フランジ15は、基部を含めて加工硬化により硬くなるので、この基部の強度を向上させる為の後処理が不要になるか、必要である場合にも簡単で済み、上記外輪6或いはハブ本体13aの製造コストの低減を図れる。又、加工用金型の熱膨張量差を考慮する必要がない為、寸法精度及び形状精度を確保し易く、後加工を簡略化乃至は省略して、この面からも製造コストの低減を図れる。
【0012】
但し、軽量化等を目的として、結合フランジ12或いは取付フランジ15の基部の強度をより一層向上させる為には、上述の様な特許文献1に記載された製造方法の場合も、改良の余地がある。即ち、自動車技術の分野で広く知られている様に、乗り心地、操縦安定性等を中心とする走行性能、或いは燃費性能の向上を図る為には、懸架装置を構成するばねよりも路面側に存在する部材の重量である、所謂ばね下荷重を軽減する事が効果がある。上記結合フランジ12或いは取付フランジ15を備えた上記外輪6或いはハブ本体13aは当然ばね下荷重であり、これら外輪6或いはハブ本体13a(ハブ本体13も同様)の重量を少しでも軽減する事は、上記各性能を向上させる面から非常に有利である。
【0013】
そして、上記外輪6或いはハブ本体13、13aの重量を軽減すべく、上記結合フランジ12或いは取付フランジ15の薄肉化(軸方向寸法の短縮)を可能にする為には、これら結合フランジ12或いは取付フランジ15の強度、特に旋回走行時等に大きなモーメントが加わる基部の強度を向上させる事が有利になる。この面から、上記特許文献1に記載された製造方法は、未だ改良の余地がある。
【0014】
【特許文献1】特開2006−111070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、軽量な転がり軸受ユニット用軌道輪部材及び転がり軸受ユニットを、低コストで得られる、構造、製造方法及び製造装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の対象となる転がり軸受ユニット用軌道輪部材は、炭素鋼等の金属製で、外周面に外向フランジを、この外周面の軸方向一端部でこの外向フランジの軸方向片面よりも突出した部分に位置決め用円筒面部を、何れかの周面に軌道面を、それぞれ備える。
特に、請求項1に記載した転がり軸受ユニット用軌道輪部材では、上記位置決め用円筒面部及び上記外向フランジは、冷間プレスによる塑性加工によって形成されたものである。又、この位置決め用円筒面部は、軸方向一端側に存在する小径部と上記外向フランジ側に存在する大径部とを段部により連続させた、段付形状である。
【0017】
又、請求項2に記載した転がり軸受ユニットは、内周面に複列の外輪軌道を有する外径側軌道輪部材と、外周面に複列の内輪軌道を有する内径側軌道輪部材と、これら両外輪軌道と両内輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備える。そして、上記外径側軌道輪部材と上記内径側軌道輪部材とのうちの少なくとも一方の軌道輪部材を、上述の様な転がり軸受ユニット用軌道輪部材としている。
【0018】
又、請求項3に記載した転がり軸受ユニット用軌道輪部材の製造方法は、上述の様な転がり軸受ユニット用軌道輪部材を造る際に、先ず、外周面を円筒面とした金属製の素材を金型内に収納(セット)する。この金型は、上記外向フランジを構成すべき部分に、径方向外方に向けて凹んだ、フランジ成形用空間を備えたものとする。この様な金型内に上記素材を収納したならば、次いで、上記素材を軸方向に押圧して、この素材を構成する金属材料の一部を上記フランジ成形用空間内に進入させる、側方押し出し加工を施す。そして、上記素材を塑性変形させて、外周面の一部に外向フランジを有する軌道輪部材とする。
【0019】
特に、請求項3に記載した転がり軸受ユニット用軌道輪部材の製造方法の場合には、上記金型として、請求項5に記載した製造装置を構成する金型の如く、大径円筒面部と、段部と、小径円筒面部とを備えたものを使用する。これら大径円筒面部と、段部と、小径円筒面部とは、軸方向に関して上記フランジ成形用空間に隣接する部分に、このフランジ成形用空間の側から軸方向に関して順番に設けられたものとする。又、このうちの大径円筒面部は、上記素材の外径よりも大きな内径を有する。又、上記小径円筒面部は、内径がこの大径側円筒面部よりも小さい。更に、上記段部は、これら両円筒面部同士を連続させる。好ましくは、この段部は、小径円筒面部から大径円筒面部に向かう程内径が漸次大きくなる方向に傾斜した、傾斜段部若しくは断面円弧状の段部とする。
【0020】
請求項3に記載した転がり軸受ユニット用軌道輪部材の製造方法の場合には、上記素材のうちで上記位置決め用円筒面部となるべき部分の少なくとも一部を、先ず、上記小径円筒面部の内側にセットする。次いで、この状態から上記素材を、上記位置決め用円筒面部となるべき部分の側から上記フランジ成形用空間の側に向けて、軸方向に押圧する。そして、上記素材の一部を、軸方向に圧縮しながら上記小径円筒面部の内側から上記大径円筒面部の内側を経て、上記フランジ成形用空間に向けて移動させる。この過程で上記素材の一部は、上記大径円筒面部で外径を広げる事で、少なくとも表層部分が加工硬化する。次いで、この加工硬化した部分が、順次、上記フランジ成形用空間内に入り込む。この為、このフランジ成形用空間内に入り込んで外向フランジを構成する金属材料は、上記小径円筒面部から上記大径円筒面部に移る際と、上記フランジ成形用空間内に入り込む際との2回、塑性変形する事で加工硬化する。そして、上記外向フランジの基部となるべき部分には、この2回分の加工硬化をした部分が存在する状態となる。言い換えれば、少なくとも上記基部となるべき部分を、上記2回分加工硬化した部分で構成する。
【0021】
上述の様な請求項3に記載した転がり軸受ユニット用軌道輪部材の製造方法を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した様に、前記金型の内面のうちで、上記小径側円筒面部の内径を、上記素材のうちで位置決め用円筒面部となるべき部分の外径よりも小さく、同じく大径側円筒面部の内径を、この位置決め用円筒面部となるべき部分の外径よりも大きく、それぞれ形成する。そして、この位置決め用円筒面部となるべき部分の少なくとも一部を上記小径側円筒面部に圧入する事で、上記素材を上記金型内に収納する。
【発明の効果】
【0022】
上述の様に構成する本発明の転がり軸受ユニット用軌道輪部材、転がり軸受ユニット、転がり軸受ユニット用軌道輪部材の製造方法及び製造装置によれば、軽量な転がり軸受ユニット用軌道輪部材及び転がり軸受ユニットを、低コストで得られる。
即ち、転がり軸受ユニット用軌道輪部材の外周面に外向フランジを、冷間での塑性加工である、側方押し出し加工により造る為、加工能率を良好にし、材料の歩留を確保して、コスト低減を図れる。又、上記外向フランジの硬度は、冷間での塑性加工に伴う加工硬化により、素材の硬度よりも向上するので、この外向フランジの強度を確保し易い。
しかも、本発明の場合には、この外向フランジの少なくとも基部の表層部分に、上記素材の外径を変化させる事により形成した加工硬化層を存在させる為、上記外向フランジの基部の強度を、より一層向上させる事ができる。
これらにより、上記外向フランジの強度を十分に高くして、この外向フランジの薄肉化による、転がり軸受ユニット用軌道輪部材の軽量化、延ては転がり軸受ユニットの軽量化を図り易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[実施の形態の第1例]
図1〜4は、請求項1、3、5に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例は、前述の図7に示した様な従動輪用の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成するハブ本体(軌道輪部材)13aを、本発明の製造方法により製造する事を意図したものである。尚、図3は側方押し出し加工の実施状況を示しているが、この図3中、右半部は加工開始直前の状態を、左半部は加工終了直後の状態を、それぞれ示している。
【0024】
本例の製造方法により上記ハブ本体13aを造るには、先ず、図1の(A)に示した円柱状の素材50に、第一段の前方押し出し加工を施して、同図の(B)に示す様な、段付の第一中間素材31を得る。尚、冷間での塑性加工の一種である、上記前方押し出し加工は、この第一中間素材31の外周面形状に合致する内周面形状を有する受型内に上記素材50を、押型で押し込む事により行なう。この様な前方押し出し加工は、金属加工の分野で周知の一般的な方法でも行なえる。尚、上記第一中間素材31の小径部32の外径と大径部33の外径との比率が大きかったり、これら両部32、33同士の間の傾斜部34の傾斜角度が急である等の場合には、この素材50と共に軸方向に移動するフローティングダイを使用する。即ち、このフローティングダイにより上記素材50の外周面を(外径が拡がらない様に)抑えつつ、上記押型によりこの素材50を、上記受型に押し込む。尚、上記フローティングダイを使用した前方押し出し加工に就いては、特願2005−354469に詳しく開示されており、又、本発明の要旨とも関係しない為、図示並びに詳しい説明は省略する。
【0025】
上記第一中間素材31には、第二段の前方押し出し加工を施して、図1の(C)に示す様な第二中間素材35とする。この第二段の前方押し出し加工に就いても、基本的には、上述した第一段の前方押し出し加工と同様にして行なう。上記第二中間素材35の外周面形状に合わせて受型の内周面形状を異ならせる事は勿論である。又、必要に応じてフローティングダイを使用する。
次いで、上記第二中間素材35に、軸方向外側のアンギュラ型の内輪軌道16a(図7参照)を設ける為の段差部等を形成する段付加工及び据え込み加工を施して、同図の(D)に示す様な第三中間素材36とする。この第三中間素材36が、前述の図9の右半部に記載した素材25aに相当する。上記第二中間素材35からこの第三中間素材36を得る為の、上記段付加工及び据え込み加工は、この第二中間素材35の外周面をダイにより抑えつつ、この第二中間素材35を、受型と押型との間で軸方向に押圧する事により行なう。この様な段付加工及び据え込み加工に就いても、金属加工の技術者にとって容易に行なえるし、本発明の要旨とも直接は関係しない為、図示並びに詳しい説明は省略する。
【0026】
上記第三中間素材36を得たならば、この第三中間素材36を、特許請求の範囲並びに前述の[課題を解決するための手段]部分に記載した「素材」として利用する。そして、上記第三中間素材36(素材)に側方押し出し加工及び前記内輪軌道16aを形成する加工を施し、同図の(E)に示す様なハブ本体13aとする。上記側方押し出し加工は、基本的には、前述の特許文献1に記載された方法により行なう。即ち、図3の「右半部」→「左半部」に示す様に、上記第三中間素材36を上型26b及び下型27aの内側に保持した状態で、押型37により軸方向に押圧し、金属材料を径方向外方に逃がして(フローさせて)、取付フランジ15を形成する。但し、上型26bの内周面形状の一部を工夫する(特許文献1に記載された発明の場合と異ならせる)事により、上記ハブ本体13aのうちで取付フランジ15の基端部の表層部分が、加工硬化により十分に硬くなる様にしている。以下、先ず、加工装置の構造に就いて説明する。
【0027】
上記上型26bは、プレス加工機のラムに固定される上板38の下方に、ゴム、金属ばね、油圧シリンダ、エアシリンダ等の弾性構造体39を介して支持されており、上記押型37はこの上板38の下面に固定されている。又、上記下型27aは、上記プレス加工機の基台の上面に固定される下板40の上方に固定されている。そして、上記上型26bの下面と上記下型27aの上面とを突き合わせた状態で、これら両面同士の間に、上記取付フランジ15の外面形状に見合う内面形状を有する、フランジ成形用空間41が形成される様にしている。即ち、上記下型27aの上面に、上記取付フランジ15の軸方向内半部に対応する形状を有する下側凹部42を、上記上型26bの下面に、この取付フランジ15の軸方向外半部に対応する形状を有する上側凹部43を、それぞれ形成している。そして、上記下型27aの上面外径寄り部分と上記上型26bの下面外径寄り部分とを、上記両凹部42、43の位相を一致させて突き合わせた状態で、上記フランジ成形用空間41を画成する様にしている。
【0028】
特に、本例に使用する製造装置の場合には、上記上型26bの内周面で、上記上側凹部43の上方位置部分に、大径円筒面部44と、段部45と、小径円筒面部46とを形成している。即ち、上記上側凹部43の直上位置に上記大径円筒面部44を、この大径円筒面部44の直上位置に上記段部45を、この段部45の直上位置に上記小径円筒面部46を、それぞれ設けている。又、上記大径円筒面部44の内径R44は、素材となる前記第三中間素材36のうちで、最も外径が大きくなった上半部の外径D36よりも大きい(R44>D36)。又、上記小径円筒面部46の内径R46は、この上半部の外径D36と同じか、僅かに大きい(R46≧D36)。更に、上記段部45は、上記両円筒面部44、46同士を滑らかに連続させる為、このうちの小径円筒面部46から大径円筒面部44に向かう程内径が漸次大きくなる方向に傾斜した、傾斜段部若しくは断面形状が複合円弧状としている。この様に、上記段部45の形状を滑らかにする理由は、この段部45に対応して、後述する位置決め筒部48の外周面に形成される段部の形状を滑らかにする為である。
【0029】
上記第三中間素材36を塑性変形させて上記取付フランジ15を形成し、図1の(E)に示したハブ本体13a(又は、このハブ本体13aに近い形状を有する第四中間素材)とする作業は、次の様にして行なう。先ず、上記ラムと共に上記上型26b及び上記押型37を上昇させた状態で、上記第三中間素材36の先半部(下半部)を上記下型27aの中心孔に挿入する事により、この下型27aにセットする。次いで、上記ラムと共に上記上型26b及び上記押型37を下降させて、図3の右半部に示す様に、上記第三中間素材36を、上型26b及び下型27aの内側に保持する。この状態から、上記ラムと共に上記押型37を更に下降させて、上記第三中間素材36の基端面に凹部47を加工しつつ、この第三中間素材36を構成する金属材料を上記フランジ成形用空間41内に流動させて、上記取付フランジ15を形成する。又、上記凹部47の周囲部分は、使用時にディスクブレーキ用のディスク及び車輪用のホイールの中心孔を外嵌する為の位置決め用筒部48とする。
【0030】
この様に、上記第三中間素材36を塑性変形させつつ上記ハブ本体13a(又は上記第四中間素材)に加工する過程で、この第三中間素材36を構成する金属材料の一部は、前記小径円筒面部46から前記大径円筒面部44に向けて移動する。そして、この移動の過程で、前記段部45を通過する事により外径が拡がり、少なくとも表面層部分が加工硬化する。次いで、この加工硬化した部分が、順次、上記フランジ成形用空間41内に入り込む。上記金属材料の一部は、この様にフランジ成形用空間41内に入り込む際にも加工硬化する。この為、このフランジ成形用空間41内に入り込んで上記取付フランジ15を構成する金属材料は、上記小径円筒面部46から上記大径円筒面部44に移る際と、上記フランジ成形用空間41内に入り込む際との2回、塑性変形する事で加工硬化する。そして、上記取付フランジ15の基部となるべき部分、即ち、この取付フランジ15の軸方向外側面のうちの径方向内半部と、上記位置決め筒部48の外周面と、これら両面同士を連続させる折れ曲がり部とには、この2回分の加工硬化をした部分{図1(E)、及び図2の斜格子部分}が存在する状態となる。言い換えれば、少なくとも上記基部となるべき部分の表層部分が、上記2回分加工硬化した部分で構成される。
【0031】
従って、上記位置決め用筒部48及び上記取付フランジ15の厚さ寸法を小さく抑えても必要とする強度を確保できて、前述の様な効果を得られる。即ち、側方押し出し加工により上記取付フランジ15を容易に加工できると言った作用・効果を担保しつつ、高強度な(必要とする強度を確保しつつ軽量な)ハブ本体13aを造れる。尚、上述の様にして側方押し出し加工を行なう場合、この加工の途中で、上記第三中間素材36の一部に、金属材料の一部が前記段部45を通過する事に基づく加工硬化層を生じさせる分、加工荷重は(加工硬化した部分を上記フランジ成形用空間41内に押し込む分)上昇する。但し、この加工硬化層が存在するのは一部であり、しかも、この加工硬化層の厚さは限られている為、加工荷重の上昇は、僅かに抑える事ができる。即ち、図1の(D)に示した上記第三中間素材36を塑性変形させて、同じく(E)に示した前記ハブ本体13aとする際に、上記加工硬化層を曲げ加工しつつ径方向外方に流動させる必要があるが、この曲げ加工及び流動に必要となる、加工荷重の上昇分は僅かで済む。この為、前記上型26b、下型27a、押型37等の各金型に与える負荷の上昇も僅かに抑える事ができ、金型寿命の低下を小さくできる。
【0032】
上述の様にして得られるハブ本体13a(又は、このハブ本体13aに近い形状を有する第四中間素材)は、図3に示した側方押し出し加工装置から取り出して次の工程に送り、(必要に応じ、研磨、熱処理等の仕上加工を施してから)他の部材と組み合わせて、前述の図7に示した様な車輪支持用ハブユニット5aとする(請求項2に記載した転がり軸受ユニットとする)。尚、上記ハブ本体13aを上記側方押し出し加工装置から取り出す作業は、上記ラムと共に上記上型26b及び上記押型37を上昇させてから、上記下型27aの中心部に設けたノックアウトピン49を上昇させて、上記ハブ本体13aをこの下型27aの中心孔から押し出す事により行なう。
【0033】
[実施の形態の第2例]
図5は、請求項1、3、4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。この図5は、前述した図1と同様に、円柱状の素材50を塑性変形させてハブ本体13a(又は、このハブ本体13aに近い形状を有する第四中間素材)とする製造方法を、加工工程順に示している。図面に表れる形状、構造は、基本的には上記図1と同じである。但し、本例の場合には、図5の(D)に示した第三中間素材36aのうちで、最も外径が大きくなった、位置決め用筒部48に加工すべき上半部の外径D36a を、上述した実施の形態の第1例の場合の外径D36よりも大きく(D36a >D36)している。具体的には、上記上半部の外径D36a を、製造装置を構成する上型26bの内面のうちで小径側円筒面部46の内径R46よりも大きく、同じく大径側円筒面部44の内径R44(図3〜4参照)よりも小さく(R44>D36a >R46)している。
【0034】
上述の様な第三中間素材36aを上記ハブ本体13a(又は第四中間素材)に加工する為の側方押し出し加工を行なう際には、上記第三中間素材36aの上端部を、上記上型26bの上記小径側円筒面部46(図3〜4参照)に圧入する。この圧入作業は、この第三中間素材36aの下半部を下型27a(図3参照)に挿入後、上記上型26bを下降させる事で行なう。従って本例の場合には、図3の右半部に示した状態で、既に上記第三中間素材36aの上端部が上記上型26bの上記小径側円筒面部46で扱かれ、この上端部の表層部分に加工硬化層が形成される。
【0035】
本例の場合には、この状態から、更に前述した実施の形態の第1例の場合と同様の加工を行なう為、上記ハブ本体13aの外周面に設けた取付フランジ15の基部となるべき部分には、合計3回分加工硬化した部分{図5(E)の斜格子部分}が存在する状態となる。この為、この部分の硬度をより一層向上させて、より一層の薄肉化、軽量化が可能になる。その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0036】
[本発明を実施する場合の留意事項]
本発明を実施する場合に使用する円柱状若しくは円筒状の素材の容積は、完成後の軌道輪部材の容積以上としなければならない。但し、この素材の容積をこの軌道輪部材の容積よりも大きくする場合でも、大きくする程度は、できるだけ小さく(好ましくはゼロ、即ち、軌道輪部材の容積と同じに)する事が、材料の歩留を向上させると共に、後加工を容易に(取り代を少なく抑えて加工時間を短く)する面からは好ましい。
【0037】
又、上記素材の表面の性状は、そのまま完成後の軌道輪部材の表面の性状として表れるので、この素材の表面には、酸化被膜や錆、傷等の欠陥があってはならない。一方、冷間での塑性加工(冷間鍛造)を容易にする為に、塑性加工前の素材は焼鈍する必要があり、この焼鈍により、表面に酸化被膜が形成される事が避けられない。これらの事を考慮すれば、上記円柱状の素材を得る為の長尺材(バー材)を焼鈍してから、この長尺材の外周面に生じた酸化被膜を、磨き加工、バレル加工、ショット・ピーニング等により除去し、次いで、この長尺材を所定寸法に切断する事が、表面に酸化被膜を持たない良質の素材を得る面からは好ましい。
【0038】
但し、長尺材の外周面の酸化被膜を除去する事が、加工コスト等の面から難しければ、外周面を酸化被膜で覆われた長尺材を切断して得た定尺材の外周面に磨き加工を施して、上記素材を得る事もできる。この場合には、一般的な、スルーフィードのセンタレス研削盤による磨き加工で、上記酸化被膜の除去が可能になる。尚、上記素材が円筒状である場合には、長尺材の内径側に形成された酸化被膜の除去は難しいので、長尺材を切断して得た定尺材の状態で、内周面の酸化被膜を除去する必要がある。この場合、焼鈍処理と切断との前後は問わない。何れの場合でも、上記長尺材を切断する方法は、精度確保の面からは、旋盤による突っ切りが好ましい。但し、切断後に上記酸化膜の除去作業を行なう際に、例えば、バレル加工のメディア、或いはショット・ピーニング処理の為のショットを切断面に衝突させる事で、切断面の性状も整えられるのであれば、低コストで行なえる、鋸引きにより切断しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、外周面の一部に径方向外方に突出した突出部を形成した軌道輪部材であれば、図示の様な従動輪用のハブ本体に限らず、例えば、図6に示した様な駆動輪用のハブ本体でも、或は図6〜8に示した様な外輪でも実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を、加工工程順に示す断面図及び端面図。
【図2】図1のX部拡大図。
【図3】第1例での側方押し出し加工の実施状況を示す断面図。
【図4】図3のY部拡大図。
【図5】本発明の実施の形態の第2例を、加工工程順に示す断面図及び端面図。
【図6】駆動輪用の車輪支持用ハブユニットの1例を、ナックルに組み付けた状態で示す断面図。
【図7】従動輪用の車輪支持用ハブユニットの1例を示す断面図。
【図8】従来から知られている、車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する外輪を側方押し出し加工により造る状態を、加工開始直前の状態と加工終了直後の状態とで示す断面図。
【図9】従来から知られている、従動輪用車輪支持用転がり軸受ユニットを構成するハブ本体を側方押し出し加工により造る状態を、加工開始直前の状態と加工終了直後の状態とで示す断面図。
【符号の説明】
【0041】
1 ホイール
2 ロータ
3 ナックル
4 支持孔
5、5a 車輪支持用ハブユニット
6 外輪
7 ボルト
8、8a ハブ
9 スタッド
10 ナット
11a、11b 外輪軌道
12 結合フランジ
13、13a ハブ本体
14 内輪
15 取付フランジ
16a、16b 内輪軌道
17 小径段部
18 かしめ部
19 転動体
20a、20b シールリング
21 スプライン孔
22 等速ジョイント用外輪
23 スプライン軸
24 ナット
25、25a 素材
26、26a、26b 上型
27、27a 下型
28、28a 金型
29、29a 空間
30、30a パンチ
31 第一中間素材
32 小径部
33 大径部
34 傾斜部
35 第二中間素材
36、36a 第三中間素材
37 押型
38 上板
39 弾性構造体
40 下板
41 フランジ成形用空間
42 下側凹部
43 上側凹部
44 大径円筒面部
45 段部
46 小径円筒面部
47 凹部
48 位置決め円筒部
49 ノックアウトピン
50 素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に外向フランジを、この外周面の軸方向一端部でこの外向フランジの軸方向片面よりも突出した部分に位置決め用円筒面部を、何れかの周面に軌道面を、それぞれ備えた、金属製の転がり軸受ユニット用軌道輪部材であって、上記位置決め用円筒面部及び上記外向フランジは、冷間プレスによる塑性加工によって形成されたものであり、この位置決め用円筒面部は、軸方向一端側に存在する小径部と上記外向フランジ側に存在する大径部とを段部により連続させた段付形状である転がり軸受ユニット用軌道輪部材。
【請求項2】
内周面に複列の外輪軌道を有する外径側軌道輪部材と、外周面に複列の内輪軌道を有する内径側軌道輪部材と、これら両外輪軌道と両内輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備え、上記外径側軌道輪部材と上記内径側軌道輪部材とのうちの少なくとも一方の軌道輪部材が、請求項1に記載した転がり軸受ユニット用軌道輪部材である転がり軸受ユニット。
【請求項3】
外周面に外向フランジを、この外周面の軸方向一端部でこの外向フランジの軸方向片面よりも突出した部分に位置決め用円筒面部を、何れかの周面に軌道面を、それぞれ備えた転がり軸受ユニット用軌道輪部材を造る際に、外周面を円筒面とした金属製の素材を、上記外向フランジを構成すべき部分に径方向外方に向けて凹んだフランジ成形用空間を備えた金型内に収納した後、上記素材を軸方向に押圧してこの素材を構成する金属材料の一部を上記フランジ成形用空間内に進入させる側方押し出し加工を施す事により、上記素材を塑性変形させて、外周面の一部に外向フランジを有する軌道輪部材とする、転がり軸受ユニット用軌道輪部材の製造方法であって、上記金型として、軸方向に関して上記フランジ成形用空間に隣接する部分に、このフランジ成形用空間の側から軸方向に関して順番に、上記素材の外径よりも大きな内径を有する大径円筒面部と、段部と、内径がこの大径側円筒面部よりも小さい小径円筒面部とを備えたものを使用し、上記素材のうちで上記位置決め用円筒面部となるべき部分の少なくとも一部を上記小径円筒面部の内側にセットした状態から上記素材を、上記位置決め用円筒面部となるべき部分の側から上記フランジ成形用空間の側に向けて軸方向に押圧し、上記素材の一部を上記小径円筒面部の内側から上記大径円筒面部の内側に移動させて外径を広げる事で加工硬化させてから、この加工硬化した部分を上記外向フランジの基部となるべき部分に移動させて、少なくともこの基部となるべき部分を上記加工硬化した部分で構成する、転がり軸受ユニット用軌道輪部材の製造方法。
【請求項4】
金型の内面のうちで小径側円筒面部の内径を、素材のうちで位置決め用円筒面部となるべき部分の外径よりも小さく、同じく大径側円筒面部の内径を、この位置決め用円筒面部となるべき部分の外径よりも大きく、それぞれ形成すると共に、この位置決め用円筒面部となるべき部分の少なくとも一部を上記小径側円筒面部に圧入する事で、上記素材を上記金型内に収納する、請求項3に記載した軸受ユニット用軌道輪部材の製造方法。
【請求項5】
外周面に外向フランジを、この外周面の軸方向一端部でこの外向フランジの軸方向片面よりも突出した部分に位置決め用円筒面部を、何れかの周面に軌道面を、それぞれ備えた転がり軸受ユニット用軌道輪部材を造る為の、金型を備えた製造装置であって、この金型が、内面のうちで上記外向フランジを構成すべき部分に径方向外方に向けて凹んだ状態で設けられたフランジ成形用空間と、軸方向に関して上記フランジ成形用空間に隣接する部分に、このフランジ成形用空間の側から軸方向に関して順番に、上記素材の外径よりも大きな内径を有する大径円筒面部と、段部と、内径がこの大径側円筒面部よりも小さい小径円筒面部とを設けたものである転がり軸受ユニット用軌道輪部材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−37272(P2008−37272A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214744(P2006−214744)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】