説明

軸受機構、モータおよび記録ディスク駆動装置

【課題】軸受機構内のピボット軸受においてシャフトに接するスラストプレートがシャフトにより過度に押圧されて損傷することを防止する。
【解決手段】軸受機構内では、有底円筒状のスリーブハウジング63の内側に固定されるスリーブ61にシャフト321が挿入され、シャフト321はスリーブハウジング63の底部634に位置するスラストプレート7に対向して配置されるとともに、下部に円環状の抜止部材322が固定される。抜止部材322はスリーブハウジング63の底部634近傍の2つの段差部632,633およびスリーブ61により形成される中心軸J1を中心とする環状の凹部内に収容される。シャフト321がスリーブ61に挿入される方向の力を受けた場合、抜止部材322の下面が段差部633の上面に当接し、シャフト321の移動が係止され、シャフト321の押圧によりスラストプレート7が損傷してしまうことが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピボット軸受を有する軸受機構に関連する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録ディスク駆動装置のスピンドルモータに採用される軸受機構として、スリーブに挿入されたシャフトを潤滑油の流体動圧を利用して径方向に支持する動圧軸受、および、スラストプレートにシャフトの先端を点接触させてシャフトを軸方向に支持するピボット軸受を有するものが提案されている。
【0003】
特許文献1に開示される軸受機構のピボット軸受では、シャフト部は、先端が球面状のシャフト下部およびシャフト下部よりも径の小さいシャフト上部を有し、シャフト下部は有底円筒状のスリーブ保持部内のスリーブに挿入され、シャフト下部の先端がスリーブ保持部の底面の中央に設けられたスラストプレートに点接触する。さらに、特許文献1のモータでは、スリーブ保持部の開口部においてシャフト上部に挿入されるとともにシャフト下部の径より内径が小さい環状の抜止部が設けられており、シャフト部がスリーブから離れる方向に移動した場合、抜止部がシャフト下部に当接してシャフト部の移動が係止される。
【0004】
特許文献2に開示される軸受機構では、スリーブの一方の端部の開口を塞ぐ板状のスラスト受けが設けられ、スラスト受けのシャフトに当接する面とは反対側の面に皿バネおよび皿バネを固定する底面板が隣接して配置される。振動環境下にてシャフトのスラスト受けへの押圧が大きくなると、皿バネが弾性変形してスラスト受けが移動することによりスラスト受けへの衝撃が吸収され、モータのスラスト軸受の寿命の低下が防止される。また、皿バネの振動幅を適宜選定してスラスト受けの移動する距離を所定の距離以下とすることにより、シャフトが固定されるロータの変動幅を一定の範囲内とし、モータが記録ディスク駆動装置に搭載される場合にロータに固定されるディスクと記録再生ヘッドとが接触することが防止される。
【0005】
一方、近年、特許文献3に示されるように記録ディスク駆動装置では、モータに載置される記録ディスクの両面に近接して情報の読み出しおよび書き込みを行う複数の浮上ヘッドスライダを収容するランプ部材が設けられ、ランプ部材の先端には記録ディスクの外周の一部を挟むように受け入れ溝が形成される。受け入れ溝の上下には浮上ヘッドスライダをランプ部材へと導く傾斜面が形成され、浮上ヘッドスライダが記録ディスクから離れる際には、浮上ヘッドスライダは傾斜面上を移動してランプ部材内に収容される。
【特許文献1】特開2005−113987号公報
【特許文献2】特開2002−78280号公報
【特許文献3】特開2005−353109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ピボット軸受を有する軸受機構の場合、シャフトがスラストプレートに点接触するため、シャフトがスラストプレートを過度に押圧することによりスラストプレートが損傷したり、ハウジングが塑性変形してしまうおそれがある。さらに、記録ディスクに近接して配置されるランプ部材が搭載された記録ディスク駆動装置では、特許文献2に示されるように、皿バネや合成ゴムシートによりスラスト受けへの衝撃を吸収しようとするとシャフトの変位量が大きくなってしまうため、これにより記録ディスクがランプ部材に接触するおそれがある。また、特許文献2の軸受機構では部品点数が多く、構造が複雑になるため、組立工数および製造コストが増大してしまう。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、ピボット軸受を有するモータのシャフト部のスラストプレートへの過度の押圧によるスラストプレートの損傷を防止することを主たる目的とし、モータが記録ディスク駆動装置に搭載される場合に、シャフト部がスリーブハウジングの内底面に向かう力を受けたときに記録ディスクの位置が大幅に移動することを防止することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、記録ディスク駆動装置のモータに利用される軸受機構であって、略有底円筒状のスリーブ部と、前記スリーブ部により潤滑油を介して径方向に支持されるシャフト部と、前記スリーブ部の内底面に配置され、中心軸上において前記シャフト部の端部と接触することにより前記シャフト部を回転可能に軸方向に支持する樹脂製のスラストプレートとを備え、前記スリーブ部の前記内底面に向かう方向に前記シャフト部が力を受けた場合に、前記シャフト部の第1当接部と前記スリーブ部の第2当接部とが当接することにより、前記シャフト部の移動が制限され、前記シャフト部が前記力を受ける前の前記第1当接部と前記第2当接部との間の距離が、前記シャフト部による押圧により前記スラストプレートの変形が残留する前記シャフト部の移動距離よりも小さい。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の軸受機構であって、前記スリーブ部が、スリーブと、前記スリーブが挿入される略有底円筒状のスリーブハウジングとを備え、前記シャフト部が、シャフトと、前記シャフト上の前記端部から所定の距離だけ離れた位置に固定される環状の抜止部材とを備え、前記スリーブハウジングが、前記内底面の中央に前記シャフト部の前記端部が挿入される凹部を有し、前記凹部内に前記スラストプレートが配置され、前記抜止部材が前記凹部の周囲の環状部と前記スリーブの前記内底面側の端面との間に位置し、前記シャフト部の前記第1当接部が前記抜止部材であり、前記スリーブ部の前記第2当接部が前記凹部の周囲の前記環状部である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の軸受機構であって、前記スリーブハウジングが板部材のプレス加工により成形される。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の軸受機構であって、前記板部材が冷間圧延鋼板、亜鉛メッキ鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項2ないし4のいずれかに記載の軸受機構であって、前記スリーブハウジングの外側面のうち所定の穴部に挿入されて固定される部位の径が5mm以上12mm以下であり、前記スリーブハウジングの底部の厚さが0.6mm以上1.2mm以下である。
【0013】
請求項6に記載の発明は、電動式のモータであって、請求項1ないし5のいずれかに記載の軸受機構と、前記軸受機構のシャフト部が固定されるロータ部と、前記軸受機構が取り付けられるステータ部とを備える。
【0014】
請求項7に記載の発明は、記録ディスク駆動装置であって、記録ディスクを回転する請求項6に記載のモータと、前記記録ディスクに対する情報の読み出しまたは書き込みを行うアクセス部と、前記モータおよび前記アクセス部を収容するハウジングとを備える。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の記録ディスク駆動装置であって、前記記録ディスクの少なくとも前記モータ側の面に近接して配置され、前記アクセス部のヘッド部が前記記録ディスクから退避した際に前記ヘッド部の位置を固定するランプをさらに備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シャフト部の移動が制限されることにより、スラストプレートの損傷が防止される。請求項5の発明では、スリーブハウジングの厚さが過度に厚くされることなく剛性が確保され、抜止部材とスリーブハウジングの環状部との当接が抑制される。請求項11の発明では、ランプと記録ディスクとの接触を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電動式のスピンドルモータ(以下、「モータ」という。)を備える記録ディスク駆動装置1の縦断面図である。記録ディスク駆動装置1は、いわゆるハードディスク駆動装置であり、情報を記録する円板状の記録ディスク11、記録ディスク11に対する情報の読み出しおよび書き込みを行うアクセス部12、記録ディスク11を回転する電動式のモータ2、並びに、記録ディスク11、モータ2およびアクセス部12を内部空間に収容して外部から隔離するハウジング13を備える。さらに、記録ディスク駆動装置1は停止時にアクセス部12のヘッド部121を収容する後述のランプ(図示省略)を備える。
【0018】
ハウジング13は上部に開口を有するとともにモータ2およびアクセス部12が内側の底面に取り付けられる無蓋箱状の第1ハウジング部材131、並びに、第1ハウジング部材131の開口を覆うことにより内部空間133を形成する板状の第2ハウジング部材132を備える。記録ディスク駆動装置1では、第1ハウジング部材131に第2ハウジング部材132が接合されてハウジング13が形成され、内部空間133は塵や埃が極度に少ない清浄な空間とされる。
【0019】
記録ディスク11はモータ2の上側に載置されてクランパ14によりモータ2に固定される。アクセス部12は記録ディスク11に近接して情報の読み出しおよび書き込みを磁気的に行うヘッド部121、ヘッド部121を支持するアーム122、並びに、アーム122を移動することによりヘッド部121を記録ディスク11およびモータ2に対して相対的に移動するヘッド移動機構123を有する。これらの構成により、ヘッド部121は回転する記録ディスク11に近接した状態で記録ディスク11上の必要な位置にアクセスし、情報の読み出しおよび書き込みを行う。
【0020】
図2は記録ディスク11上のアクセス部12およびランプ15の配置を示す平面図であり、図3は図2中の矢印Aの位置にてアクセス部12およびランプ15を切断した断面図である。図3に示すように、ランプ15は記録ディスク11を挟むように記録ディスク11の両面に近接して配置され、図2に示すアクセス部12のアーム122およびヘッド部121が記録ディスク11から退避する際には、アーム122がヘッド移動機構123(図1参照)によりランプ15に向かって移動される。ヘッド部121は図3に示すランプ15の先端の傾斜面151および上面152上を経由してランプ15内に移動し、ヘッド部121の位置がランプ15のヘッド収容部(図示省略)にて固定される。
【0021】
図4はモータ2の縦断面図である。モータ2はアウターロータ型のモータであり、回転組立体であるロータ部3、固定組立体であるステータ部4、潤滑油を内側に保持する略有底円筒状のスリーブ部6、および、スリーブ部6の内底面に配置される樹脂製のスラストプレート7を備える。ロータ部3は、スリーブ部6およびスラストプレート7を有する軸受機構5を介してモータ2の中心軸J1を中心にステータ部4に対し回転可能に支持される。以下の説明では、便宜上、中心軸J1に沿ってロータ部3側を上側、ステータ部4側を下側として説明するが、中心軸J1は必ずしも重力方向と一致する必要はない。
【0022】
ロータ部3は略円板状のロータハブ31、ロータハブ31の中央に固定されるシャフト部32、ロータハブ31の外周から下側に突出する略円筒状のヨーク33、および、ヨーク33の内側面に取り付けられる多極着磁された円環状の界磁用磁石34を備える。ロータハブ31はステンレス鋼により形成されており、界磁用磁石34の上方に位置する環状の面には記録ディスク11(図1参照)が載置される。シャフト部32はシャフト321およびシャフト321の下端部3211から僅かに上側に離れた位置に固定された円環状の抜止部材322(図5の平面図参照)を備え、シャフト321では、上端部がロータハブ31の中央の開口311に固定される。また、シャフト321の下端部3211の端面3211aは略球面状となっている。後述するようにシャフト部32は軸受機構5の一部として捉えられてもよく、この場合、シャフト部32は軸受機構5においてロータ部3に固定される部品として機能する。
【0023】
ステータ部4は、中央に穴部411が形成されたベース部であるベースブラケット41、および、穴部411の周囲のホルダ412に取り付けられる電機子42を備える。電機子42は複数の珪素鋼板を積層して形成されるコア、および、コアの複数のティースに巻回されるコイルを備え、界磁用磁石34との間で中心軸J1を中心とする回転力(トルク)を発生する。
【0024】
スリーブ部6は、潤滑油が含浸された多孔質部材である略円筒状のスリーブ61、スリーブ61の上面に当接する環状のシールキャップ62、並びに、スリーブ61およびシールキャップ62が挿入される有底円筒状のスリーブハウジング63を備える。スリーブ61およびスリーブハウジング63の内側にはシャフト321および抜止部材322が保持される。
【0025】
図6はスリーブ部6の底部近傍を拡大して示す図である。スリーブハウジング63は、スリーブ61およびシールキャップ62(図4参照)の外側面が当接する円筒部631、円筒部631の下端から中心軸J1に向かって径が小さくなる環状の第1段差部632、第1段差部632の下側にて径がさらに小さくなる環状の第2段差部633、並びに、第2段差部633の下側にてスリーブハウジング63の下端を閉塞する底部634を有する。これらは1つの部材として金属製の板部材のプレス加工により成形され、板部材として冷間圧延鋼板、亜鉛メッキ鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板が利用される。
【0026】
スリーブ部6では、スリーブハウジング63の円筒部631の外側面のうちベースブラケット41の穴部411に挿入される部位が接着剤により穴部411の内側面に固定され、これにより、軸受機構5(図4参照)全体がステータ部4に取り付けられる。また、円筒部631の外側面の径D1は5mm以上12mm以下とされ、円筒部631よりも下側の部位の外径D2は3mm以上8mm以下とされ、底部634の厚さWは0.6mm以上1.2mm以下とされる。以下の説明では、図7に示すように、第1段差部632の上面(上方を向く面)6321および内側面(中心軸J1に対向する面)6322、第2段差部633の上面6331および内側面6332、並びに、底部634の上面6341をまとめてスリーブハウジング63の「内底面635」と称する。
【0027】
図6に示すように、スリーブハウジング63の内底面635の中央には第2段差部633および底部634により凹部636が形成され、凹部636内にはスラストプレート7が嵌入されるとともにシャフト321の下端部3211が挿入される。また、第2段差部633の内径はスリーブ61の内径とほぼ等しく、図7に示すスリーブ61の下面611、第1段差部632の内側面6322、および、第2段差部633の上面6331により形成される環状の溝部内に、抜止部材322が上下方向および径方向に僅かな間隙を設けつつ収容される。換言すれば、抜止部材322は、凹部636の周囲の環状部である第2段差部633の上面6331とスリーブ61の下面611(内底面635側の端面)との間に位置する。このとき、抜止部材322の下面と第2段差部633の上面6331との間の距離H1は0.03mm以上0.1mm以下とされ、距離H1はランプ15と記録ディスク11(図3参照)との間の距離よりも小さくなるように設計される。
【0028】
図4に示すように、スリーブ部6内では、抜止部材322の周囲の間隙、並びに、シャフト321の外側面とスリーブ61の内側面およびシールキャップ62の内側面との間の間隙に潤滑油が連続して充填される。また、シールキャップ62の内側面は上方に向かって径が漸次増大する傾斜面となっており、シールキャップ62の内側面とシャフト321の外側面との間に上方に向かって幅が漸次増大するテーパ間隙が形成される。これにより、テーパ間隙内に潤滑油の界面が形成されるテーパシールにより潤滑油の流出が防止される。
【0029】
スリーブ61の内側面には潤滑油に流体動圧を発生させるための溝(例えば、ヘリングボーン溝)が形成されており、スリーブ61とシャフト321との間で流体動圧軸受51が構成され、モータ2の回転時にはスリーブ61(の内側面)が潤滑油を介してシャフト部32を径方向(ラジアル方向)に支持する。なお、スリーブ61に代えてシャフト321の外側面に流体動圧発生用の溝が形成されてもよい。また、図6に示すように、中心軸J1上においてスラストプレート7とシャフト321の下端部3211の端面3211aとが(僅かな力で)接触しており、スラストプレート7とシャフト321との間でピボット軸受が構成され、モータ2の回転時にはシャフト部32が回転可能に軸方向(スラスト方向)に支持される。なお、スラストプレート7の表面にDLC(ダイアモンドライクカーボン)等がコーティングされて耐摩耗性が高められてもよい。
【0030】
図4に示すように、軸受機構5は流体動圧軸受51およびピボット軸受52により構成され、シャフト部32は軸受機構5の一部としてスリーブ部6、スラストプレート7および潤滑油と共にこれらの軸受を実現する役割を果たしている。モータ2では、軸受機構5によりロータ部3(図4参照)およびロータハブ31に取り付けられる記録ディスク11(図1参照)が高精度かつ、低騒音にて回転することが実現される。
【0031】
図8はシャフト321がスリーブ61から抜ける方向の力を受けたときの様子を示す図である。シャフト321が矢印91にて示す方向(上方)へと移動してスラストプレート7から離れると、抜止部材322の上面がスリーブ61の下面611に当接し、シャフト321がスリーブ部6から引き抜かれることが防止される。このように、モータ2では抜止部材322、スリーブ61およびスリーブハウジング63によりシャフト321の抜止機構が構成される。
【0032】
図9はシャフト321がスリーブ61に挿入される方向、すなわち、内底面635に向かう方向の力を受けたときの様子を示す図である。シャフト321が矢印92にて示す方向(下方)へ移動すると、抜止部材322の下面が第2段差部633の上面6331に当接し、シャフト321の移動が係止される。このとき、抜止部材322および第2段差部633(すなわち、凹部636の周囲の環状部)がそれぞれ、シャフト部32側の第1の当接部およびスリーブ部6側の第2の当接部として機能し、シャフト321の下端部3211によりスラストプレート7が過度に押圧されることが防止される。なお、抜止部材322とスリーブハウジング63の第2段差部633とが当接するのは、モータ2上に記録ディスク11をクランパ14(図1参照)にて固定する場合等のシャフト321に対して下側(ステータ部4側)に向かう過度の力が働くときであり、モータ2の回転時では、通常、抜止部材322はスリーブハウジング63に接触することはない。
【0033】
以上、第1の実施の形態に係る記録ディスク駆動装置1およびモータ2の構造について説明したが、モータ2ではシャフト321に下側に向かう過度の力が働く場合においても、抜止部材322によりシャフト321の下方への移動が制限されるため、シャフト321による押圧によりスラストプレート7の損傷(塑性変形や破損等のスラストプレート7の変形が残留してしまう現象)が回避される。すなわち、図7に示すシャフト321がスリーブ61に挿入される方向の力を受ける前の抜止部材322の下面と第2段差部633の上面6331との間の距離H1(シャフト321の最大移動距離でもある。)は、このようなスラストプレート7の損傷を生じさせるシャフト321の移動距離よりも小さく設計される。
【0034】
モータ2では、スリーブハウジング63の底部634の厚さを0.6mm以上1.2mm以下とすることにより、底部634の厚さを過度に厚くすることなく剛性が確保され(詳細については図14を参照しつつ後述する。)、モータ2の回転時にシャフト321の位置が下方へ移動してしまうことが防止される。さらに、抜止部材322、スリーブ61およびスリーブハウジング63によりシャフト321の上方への移動も係止されるため、図3に示す記録ディスク11の上下方向の移動が制限され、ランプ15と記録ディスク11との接触が防止される。また、スリーブハウジング63の円筒部631と底部634との間を段差状とすることにより、スリーブハウジング63の剛性がより確保される。スリーブハウジング63の剛性を高めることにより、モータ2の駆動時に抜止部材322とスリーブハウジング63とが当接することが確実に防止される。
【0035】
図10は軸受機構5(図4参照)におけるシャフト321の抜止けを防止する機構の他の例を示す図である。図10に示すスリーブハウジング63は、図6に示すスリーブハウジング63の第1および第2段差部632,633に代えて下方に向かって径が減少する1つの段差部637が設けられ、段差部637の上面6371とスリーブ61の下面611との間に環状のスペーサ65が固定される。抜止部材322は段差部637の上面6371、スリーブ61の下面611およびスペーサ65の内側面651により形成される環状の溝部内に上下方向および径方向に僅かな間隙を設けつつ収容される。
【0036】
これにより、抜止部材322、スリーブ61およびスリーブハウジング63によりシャフト321の抜止機構が形成され、シャフト321が上下方向に移動する際に、抜止部材322がスリーブ61の下面611およびスリーブハウジング63の段差部637の上面6371に当接することによりシャフト321の移動が係止される。特に、ロータ部3(図4参照)に対して下側(ステータ部4側)に向かう過度の力が働く場合においても、シャフト321の下端部3211によりスラストプレート7が過度に押圧されず、スラストプレート7の損傷が防止される。
【0037】
図11は第2の実施の形態に係るモータのスリーブ部6の底部近傍を拡大して示す図である。第2の実施の形態に係るモータは、第1の実施の形態に係るモータ2のシャフト321に代えて下端部3211に中心軸J1を中心とする環状の凹部3212が設けられるシャフト321aを備える。
【0038】
また、抜止部材322の厚さはスリーブハウジング63の第1段差部632の上面6321と第2段差部633の上面6331との間の距離に等しくされ(または、僅かに大きくされ)、抜止部材322の外径は第1段差部632の内側面6322の径に等しくされる(または、僅かに大きくされる。)。これにより、抜止部材322の外周部はスリーブ61の下面611とスリーブハウジング63の第2段差部633の上面6331との間に固定される。
【0039】
シャフト321aの凹部3212の中心軸J1方向の幅は抜止部材322の厚さよりも大きくされ、凹部3212の底面(中心軸J1に平行な面)の径は抜止部材322の内径よりも小さくされ、抜止部材322の内周部が凹部3212に対して上下方向および径方向に僅かな間隙を設けつつ凹部3212内に収容される。図12に示すように、抜止部材322の下面からシャフト321aの凹部3212の下面3212a(上側を向く面)までの距離H2は0.03mm以上0.1mm以下とされる。スリーブハウジング63の外径の大きさやその他の構造は第1の実施の形態に係るモータ2と同様であり、同様の構成には同符号を付している。
【0040】
図11に示すシャフト321aが上方へと移動する際には、抜止部材322の下面がシャフト321aの凹部3212に当接してシャフト321aの移動が係止され、シャフト321aが抜止部材322を含むスリーブ部6から引き抜かれることが防止される。このように、抜止部材322、スリーブ61およびスリーブハウジング63によりシャフト321aの抜止機構が形成される。
【0041】
また、シャフト321aが内底面635に向かう方向の力を受ける際には、抜止部材322の上面がシャフト321aの凹部3212に当接してシャフト321aの移動が係止される。すなわち、シャフト321a側の第1当接部である凹部3212とスリーブ部6側の第2当接部である抜止部材322とが当接してシャフト321aの移動が制限される。さらに、距離H2(図12参照)がシャフト321aによる押圧によりスラストプレート7の変形が残留するシャフト321aの移動距離よりも小さくされることにより、スラストプレート7の損傷(塑性変形や破損)が防止される。また、スリーブハウジング63の円筒部631と底部634との間を段差状とすることにより、スリーブハウジング63の剛性が確保される。
【0042】
図13は軸受機構におけるシャフト321aの抜けを防止する機構の変形例を示す図である。図13に示すスリーブハウジング63aは、図11に示すスリーブハウジング63の第1および第2段差部632,633が省略され、円筒部631の下端を円板状の底部634が閉塞する形状となっている。中心軸J1を含む面で抜止部材322aを切断した断面は、対向する2つのL字を上下反転した形状となっており、抜止部材322aはスリーブハウジング63aの円筒部631および底部634に当接する円筒状の部位3221、および、円筒状の部位3221の上端から内側に向かって突出する環状平板部3222を備える。環状平板部3222の上面にはスリーブ61の下面611が当接し、環状平板部3222の内周部はシャフト321aの環状の凹部3212内に位置する。これにより、図11の軸受機構と同様に、シャフト321aが上下方向に移動する力を受けてもシャフト321aの凹部3212と抜止部材322aの環状平板部3222の内周部とが当接してシャフト321aの移動が係止され、シャフト321aの抜止めおよびスラストプレート7の損傷防止が実現される。
【0043】
次に、シャフトによりスリーブハウジングおよびスラストプレートが押圧される際のスリーブハウジングの撓み量について説明する。図14は、スリーブハウジングの円筒部の外側面の径が共に8mmである図15および図16に示す2種類のスリーブハウジングにおいて、スリーブハウジングの底部の厚さとスリーブハウジングがシャフトから500Nの力を受けたときの底部の中央の変位量との関係をコンピュータを用いて求めた結果を示す図である。図14中の丸のドットを結ぶ折れ線81および四角のドットを結ぶ折れ線82はそれぞれ、図15および図16に示すスリーブハウジングの構造に対応し、スリーブハウジングの底部に加えられる500Nの力は3.5inch(約8.9cm)の記録ディスクがモータに搭載される際にロータ部に加わる押圧力に相当し、スリーブハウジングに必要な耐荷重性能の基準とされる。
【0044】
図15に示すスリーブハウジング63bを有する軸受機構は、図6に示すスリーブハウジング63の底部634近傍のシャフト321の抜止機構が省略された簡易な構造であり、スリーブハウジング63bの底部634の周囲は下方に向かって径が小さくなる環状の1つの段差部638となっている。
【0045】
段差部638の上面6381にはスリーブ61が当接し、スリーブハウジング63bの内底面635(すなわち、段差部638の上面6381および内側面6382並びに底部634の上面6341により構成される面)の中央の凹部636にはスラストプレート7が嵌入される。その他の構造は第1の実施の形態と同様であり、同様の構成には同符号を付している。スリーブハウジング63bは、冷間圧延鋼板、亜鉛メッキ鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板のプレス加工により成形される(図16に示すスリーブハウジングも同様)。
【0046】
スリーブハウジング63bでは、図14の折れ線81に示すように底部634の厚さが0.4mm以上の場合、変位量が0.08mm以下となって底部634はほとんど撓まず、底部634の剛性が確保されることが判る。なお、スラストプレート7はスリーブハウジング63bの剛性に寄与しない。
【0047】
図16に示す軸受機構ではスリーブハウジング63aの構造が図13に示すスリーブハウジングと同様となっており、シャフト321の抜止機構が省略され、スリーブ61は下面611がスラストプレート7に当接するように配置される。スリーブハウジング63aでは、図14の折れ線82に示すように、底部634の厚さが0.6mm以上の場合、変位量が0.06mm以下となって底部634はほとんど撓まず、底部634の剛性が確保されることが判る。
【0048】
以上のことから記録ディスク駆動装置用の小型のモータでは一般的に、スリーブハウジングの円筒部631の外側面の径が8mmの場合に底部634の厚さが0.6mm以上(実用上は1.2mm以下)であればスリーブハウジングの剛性が確保され、シャフト321がスリーブハウジングの内底面635に向かう方向の力を受けたときに、モータ2のロータ部3に取り付けられた記録ディスク11(図1参照)の位置が大幅に下方に移動してしまうことが防止される。さらに、スリーブハウジングの塑性変形も防止され、記録ディスク11の位置が定常的に下方へ移動してしまうことが防止される。
【0049】
また、上記測定結果により円筒部631の外側面の径がおよそ5mm以上12mm以下の範囲の他の大きさであっても、スリーブハウジングの底部634の剛性が確保されると推定され、このような剛性確保は既述のランプを有する記録ディスク駆動装置用のモータに特に適している。図14に示す折れ線81,82を比較すると、スリーブハウジング63aよりもスリーブハウジング63bの方が剛性が高く、段差部を有する構造がより好ましいことが判る。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変更が可能である。
【0051】
上記第1および第2の実施の形態では抜止部材322として図5に示すもの以外にC型止め輪や内歯型の止め輪等が利用されてもよい。上記第1の実施の形態ではシャフト321と抜止部材322とが1つの部材として形成されてもよく、図10に示すスリーブ61およびスペーサ65も1つの部材として設けられてもよい。
【0052】
上記実施の形態では、凸状のシャフト321の端面3211aに対向するスラストプレート7の中心に微小な凹部が設けられてもよい。また、シャフト321の下端部3211が平面状とされ、中央に球面状の凸部が設けられたスラストプレートに点接触することによりシャフト321が軸方向に支持されてもよい。
【0053】
シャフトがスリーブハウジングの内底面に向かう力を受けた場合におけるシャフトを含むシャフト部とシャフトを径方向に支持するスリーブ部との当接は、上記実施の形態に示したものには限定されず、様々な他の構造が採用されてよい。例えば、シャフトの上部に鍔部が設けられ、シャフトの鍔部とスリーブの上端面とが当接することによりスラストプレート7の損傷が防止されてもよい。
【0054】
記録ディスク駆動装置1のランプの構造は記録ディスク11を挟むものには限定されず、様々な構造とされてよく、上記の軸受機構により少なくとも記録ディスク11のモータ2側の面に近接して配置されるランプと記録ディスク11との接触の防止が実現される。記録ディスク駆動装置1は記録ディスク11に対する情報の読み出しおよび書き込みの一方または両方(すなわち、読み出しまたは書き込み)を行うものであれば上記実施の形態に示したものに限定されない。また、モータ2は光ディスクや磁気ディスクを駆動するリムーバブルディスク駆動装置等の様々な装置に利用されてよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1の実施の形態に係る記録ディスク駆動装置の縦断面図である。
【図2】ランプおよびアクセス部の配置を示す平面図である。
【図3】ランプおよびアクセス部の配置を示す断面図である。
【図4】モータの断面図である。
【図5】抜止部材の平面図である。
【図6】スリーブ部の底部近傍を拡大して示す図である。
【図7】スリーブ部の底部近傍を拡大して示す図である。
【図8】スリーブ部の底部近傍を拡大して示す図である。
【図9】スリーブ部の底部近傍を拡大して示す図である。
【図10】シャフトの移動を係止する構造の他の例を示す図である。
【図11】第2の実施の形態に係るシャフトの移動を係止する構造を示す図である。
【図12】抜止部材近傍を拡大して示す図である。
【図13】シャフトの移動を係止する構造の他の例を示す図である。
【図14】スリーブハウジングの底部の厚さとシャフトの押圧によるスリーブハウジングの変位量との関係を示す図である。
【図15】スリーブ部の底部近傍を拡大して示す図である。
【図16】スリーブ部の底部近傍を拡大して示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 記録ディスク駆動装置
2 モータ
3 ロータ部
4 ステータ部
5 軸受機構
6 スリーブ部
7 スラストプレート
11 記録ディスク
12 アクセス部
13 ハウジング
15 ランプ
32 シャフト部
61 スリーブ
63,63a,63b スリーブハウジング
121 (アクセス部の)ヘッド部
321,321a シャフト
322,322a 抜止部材
411 (ベースブラケットの)穴部
611 (スリーブの)下面
631 (スリーブハウジングの)円筒部
632,633,637,638 (スリーブハウジングの)段差部
634 (スリーブハウジングの)底部
635 (スリーブハウジングの)内底面
636 (スリーブハウジングの)凹部
3211 (シャフトの)下端部
J1 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ディスク駆動装置のモータに利用される軸受機構であって、
略有底円筒状のスリーブ部と、
前記スリーブ部により潤滑油を介して径方向に支持されるシャフト部と、
前記スリーブ部の内底面に配置され、中心軸上において前記シャフト部の端部と接触することにより前記シャフト部を回転可能に軸方向に支持する樹脂製のスラストプレートと、
を備え、
前記スリーブ部の前記内底面に向かう方向に前記シャフト部が力を受けた場合に、前記シャフト部の第1当接部と前記スリーブ部の第2当接部とが当接することにより、前記シャフト部の移動が制限され、
前記シャフト部が前記力を受ける前の前記第1当接部と前記第2当接部との間の距離が、前記シャフト部による押圧により前記スラストプレートの変形が残留する前記シャフト部の移動距離よりも小さいことを特徴とする軸受機構。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受機構であって、
前記スリーブ部が、
スリーブと、
前記スリーブが挿入される略有底円筒状のスリーブハウジングと、
を備え、
前記シャフト部が、
シャフトと、
前記シャフト上の前記端部から所定の距離だけ離れた位置に固定される環状の抜止部材と、
を備え、
前記スリーブハウジングが、前記内底面の中央に前記シャフト部の前記端部が挿入される凹部を有し、前記凹部内に前記スラストプレートが配置され、
前記抜止部材が前記凹部の周囲の環状部と前記スリーブの前記内底面側の端面との間に位置し、前記シャフト部の前記第1当接部が前記抜止部材であり、前記スリーブ部の前記第2当接部が前記凹部の周囲の前記環状部であることを特徴とする軸受機構。
【請求項3】
請求項2に記載の軸受機構であって、
前記スリーブハウジングが板部材のプレス加工により成形されることを特徴とする軸受機構。
【請求項4】
請求項3に記載の軸受機構であって、
前記板部材が冷間圧延鋼板、亜鉛メッキ鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板であることを特徴とする軸受機構。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかに記載の軸受機構であって、
前記スリーブハウジングの外側面のうち所定の穴部に挿入されて固定される部位の径が5mm以上12mm以下であり、
前記スリーブハウジングの底部の厚さが0.6mm以上1.2mm以下であることを特徴とする軸受機構。
【請求項6】
電動式のモータであって、
請求項1ないし5のいずれかに記載の軸受機構と、
前記軸受機構のシャフト部が固定されるロータ部と、
前記軸受機構が取り付けられるステータ部と、
を備えることを特徴とするモータ。
【請求項7】
記録ディスク駆動装置であって、
記録ディスクを回転する請求項6に記載のモータと、
前記記録ディスクに対する情報の読み出しまたは書き込みを行うアクセス部と、
前記モータおよび前記アクセス部を収容するハウジングと、
を備えることを特徴とする記録ディスク駆動装置。
【請求項8】
請求項7に記載の記録ディスク駆動装置であって、
前記記録ディスクの少なくとも前記モータ側の面に近接して配置され、前記アクセス部のヘッド部が前記記録ディスクから退避した際に前記ヘッド部の位置を固定するランプをさらに備えることを特徴とする記録ディスク駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−150505(P2009−150505A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330362(P2007−330362)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】