説明

軸受鋼の精錬方法

【課題】 より清浄度を高めるための軸受鋼の精錬方法を提供する。
【解決手段】 軸受鋼の精錬において、窒素ガスを溶鋼に供給しながら行う転炉で一次精錬工程を行い、転炉から出鋼した溶鋼中に窒素ガスを吹き込み当該窒素ガスで撹拌するバブリング工程を行い、バブリング工程後に行なう真空脱ガス処理工程を行なう。バブリング工程で窒素ガスを用いているので、一次精錬時に窒素濃度がばらついていても窒素濃度を高めた状態で真空脱ガス処理を行うことができる。このため、真空脱ガス処理での非金属介在物の除去効果が向上し、鋼の清浄度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸受鋼の精錬方法に関し、特に清浄度を高める軸受鋼の精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受鋼は、高速で変動する繰り返し荷重に耐える必要性から、転動疲労に対する強さと耐摩耗性が要求される。一般に、転動疲労寿命には鋼中の非金属介在物が悪影響を及ぼすことがよく知られており、このため軸受鋼の製造にあたっては非金属介在物をできる限り除去し、鋼の清浄度を高めることが求められる。
このため、軸受鋼の製造においては、従来から転炉での吹錬後に真空脱ガス処理を行うことで、脱ガスを行うと共に非金属介在物を除去している。さらに、近年では、転炉での吹錬時に転炉内の撹拌ガスとして窒素ガスを用いることで溶鋼中に窒素を高濃度で溶解させ、真空脱ガス処理の際に生じる気泡の上昇に伴って気泡にトラップされた非金属介在物の浮上を促進する技術が採用されている。
【0003】
また、特許文献1にも同様に軸受鋼の清浄度を高めるための技術の一例が示され、この技術では、転炉での吹錬後取鍋で脱酸処理を行なうとともに、MgO系フラックスを添加することで、脱酸過程で生じる非金属介在物であるAl23を取り込みやすいようにスラグを改質している。
【特許文献1】特開2004−169147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、転炉での吹錬時に窒素ガスを供給する方法では、溶鋼の窒素濃度が吹錬の状態によってばらつくため、場合によっては窒素濃度が低く非金属介在物を十分に除去できないこともあった。また、出鋼直後は溶鋼中の窒素濃度が不均一であるため、そのままの状態で真空脱ガス処理に供しても非金属介在物の浮上促進を均一に行うことができず、非金属介在物を完全に取り去ることができなかった。
また、特許文献1に示すようにMgO系フラックスを用いた場合にも、わずかではあるがスラグ中のMgOではなくCaOと結びついてCaO−Al23などの非金属介在物が生じ、溶鋼に残存することがあった。
本発明は上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、より清浄度を高めるための軸受鋼の精錬方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、真空脱ガス処理での非金属介在物の浮上促進作用を強化すべく、本発明の請求項1による軸受鋼の精錬方法は、窒素ガスを溶鋼に供給しながら行う転炉での一次精錬工程と、前記転炉から出鋼した溶鋼中に窒素ガスを吹き込み当該窒素ガスで撹拌するバブリング工程と、前記バブリング工程後に行なう真空脱ガス処理工程と、を有することを特徴とする。
【0006】
このように、転炉での吹錬後、真空脱ガス処理前に、窒素ガスを吹込むバブリング工程を行うことで、撹拌により窒素濃度を均一にするとともに、窒素が溶解するため溶鋼中の窒素濃度を高めることができる。このため、吹錬直後の溶鋼の窒素濃度がばらつき、また窒素成分が不均一であっても、窒素濃度を均一にかつ必要な程度にまで高めた状態で安定的に真空脱ガス処理に供給することができるので、非金属介在物がより安定的かつ高率に浮上除去され、鋼の清浄度が向上する。
【0007】
さらに、バブリングにより溶鋼を撹拌することで、非金属介在物の浮上速度を高め、浮上を促進することができる。この際、窒素ガスを用いると、窒素が溶鋼に溶解するため、他の不活性ガスを用いる場合に比べて弱撹拌となる。このため、強撹拌の場合のように浮上した非金属介在物を再び溶鋼に溶解させることなく、その浮上を効率的に促進することができる。
【0008】
また、本発明の請求項2による軸受鋼の精錬方法は、請求項1において、前記バブリング工程は、脱酸剤を添加して行うことを特徴とする。
また、本発明の請求項3による軸受鋼の精錬方法は、請求項1又は2において、前記バブリング工程においては、溶鋼中の窒素濃度を170ppm以上となるように前記窒素ガスを吹き込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、窒素ガスを用いたバブリングを行うことで、窒素濃度が高い溶鋼を真空脱ガス処理に安定的に供給することができるので、鋼の清浄度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態における軸受鋼の製鋼の様子を示す図である。
本実施形態により製造される軸受鋼は、C:0.80〜1.10質量%、Si:0.15〜0.70質量%、Mn1.15質量%以下、Cr:0.90〜1.60質量%、P:0.025質量%以下、S:0.020質量%以下、O:0.0010質量%以下の成分組成を有する。
【0011】
この軸受鋼は、転炉1での一次精錬工程と、取鍋2での窒素ガスを用いたバブリング工程と、RH槽3を用いた真空脱ガス処理工程と、からなる製鋼工程を経て製造される。
転炉1での一次精錬工程においては、上吹きランス11から酸素を上吹きすることで脱炭及び脱リン反応を進行させる。この際、反応を促進する目的で、炉底羽口12から撹拌ガスを供給するが、軸受鋼の製造ではこの撹拌ガスとして窒素ガスを用いることで窒素ガスを溶鋼に溶解させ(加窒)、溶鋼中の窒素濃度を高める。本実施形態では、この加窒により、約100〜180ppm程度となる。
【0012】
なお、より窒素濃度を高める場合には、例えば、炉底羽口12からの供給とあわせて、例えば吹錬の末期に上吹きランス11からの供給ガスに窒素ガスを混合し、吹き付けてもよい。
前記一次精錬後、転炉から取鍋2に溶鋼を出鋼し、脱酸剤及びフラックス類を添加して、バブリング工程を行う。
脱酸剤は、主としてAl系(金属Al等)を用いるが、Mn系(Fe−Mn等)、Si系(Fe−Si等)、Si−Mn系などを併用することができる。
【0013】
また、フラックス類は、脱酸過程で生じるAl23を吸収しやすいスラグを生成するための原料であり、一次精錬で生じた転炉スラグに加えて、又は、転炉スラグの除去後に代替のスラグを生成するために添加される。フラックス類としては、例えばMgO、CaO及びAl23の各成分からなるものを用いることができる。この際、脱酸剤としてAl23を用いる場合には、上記各成分を調整することで、例えば特開2004−169147号公報に示されるように、スラグの組成をSiO2:10質量%以下、MgO:6質量%以上15質量%未満、Al23:25質量%以上45質量%以下、CaO:45質量%以上60質量%以下の範囲とすることが好ましい。このように、MgOの量を適切に維持したスラグを用いることで、非金属介在物、特に脱酸により生じるAl23とスラグ中のMgOとのスピネル形成を優先的に進行させることができるので、粗大な非金属介在物の根源となるCaO−Al23の形成を効果的に阻止し、より多くのAl23をスラグ中に吸収、除去することができる。
【0014】
上述の脱酸剤及びフラックス類の添加条件下でバブリング工程を開始する。
バブリング工程では、溶鋼浴面下に撹拌用ランス21を装入して窒素ガスを吹き込み、溶鋼を撹拌する。
窒素ガスの流量は、取鍋2内の窒素分圧を高めることで溶鋼中の窒素濃度を高めることができるため、多いことが望ましいが、あまりに多いと撹拌力が強くなりすぎる。このため、許容される撹拌力の強さの範囲で、流量を大きくすることが好ましい。本実施形態では180t取鍋内溶鋼に対し、窒素ガス流量を3.5Nm3/minとしてバブリング工程を加えている。また、本発明ではバブリング工程終了後の窒素濃度を170ppm以上とする。
【0015】
そのために、吹き込み時間は、3分〜20分程度とすることが好ましい。あまりに短いと、窒素の高濃度化、脱酸、浮上促進、温度及び成分の均一化等の点で十分な効果を得ることができない。あまりに長いと溶鋼の温度が下がり、また効果が飽和する。好ましくは5〜10分である。本実施形態では前記流量で5分間としている。
本発明のバブリング工程では、以下のような反応が進行する。
【0016】
バブリング工程を開始すると、撹拌作用により溶融した脱酸剤により脱酸反応が進行し、既に溶鋼中に含まれる非金属介在物に加え、脱酸反応によりAl23等の酸化物が生じる。これらの溶鋼中の非金属介在物は、撹拌されることで浮上が促進され、フラックス類が滓化してできたスラグに吸収される。
この際、スラグ及び溶鋼を混合する撹拌作用があまりに強いとスラグ中に吸収された非金属介在物が溶鋼に溶解するが、窒素ガスを用いた場合は窒素の一部が溶鋼に溶解するので、Arなど他の不活性ガスを用いる場合と比べて撹拌作用の弱い弱撹拌となる。従って、吸収された非金属介在物の溶鋼への溶解を防ぎ、スラグや脱酸剤と溶鋼との反応を効率的に促進することができる。
【0017】
また、窒素ガスが溶解することで、溶鋼の窒素濃度が高まる。前述したように、吹錬直後の溶鋼の窒素濃度は、約100〜180ppmとばらつき、真空脱ガス処理で非金属介在物を除去するのに十分な窒素濃度に満たない場合もあるが、このバブリング工程で窒素ガスをさらに供給することで、安定した窒素濃度となって真空脱ガス処理前に十分な窒素濃度にまで高めることができる。また、撹拌とともに行うので、窒素成分を均一化し、均一な状態で窒素濃度を高めることができる。
なお、バブリングは、撹拌用ランス21を装入し窒素ガスを上吹きする方法に限定されず、例えば、取鍋2の底に設置したポーラスプラグから窒素ガスを底吹きする方法で行ってもよい。
【0018】
上述のようにしてバブリング工程を行なった後、真空脱ガス処理工程を行なう。真空脱ガス処理工程では、RH槽3の一対の浸漬管31を溶鋼に浸し、一方の浸漬管31から吸い上げた溶鋼をRH槽3内部の真空にさらして他方の浸漬管31へ環流させることで、溶鋼の撹拌及び脱ガスを行う。この際、撹拌による非金属介在物の浮上分離作用と併せて、脱ガスにより窒素気泡が発生、上昇し、この窒素気泡に非金属介在物がトラップされ、浮上が促進されるので、溶鋼中の非金属介在物は著しく減少する。本実施形態では、真空脱ガス処理前に窒素濃度を高めて均一に170ppm以上としているので、窒素気泡の上昇に伴う非金属介在物の浮上分離作用による非金属介在物の除去効果が大きく、清浄度の高い鋼の製造が可能である。なお、軸受鋼の製造においては、特開2001−262218号公報に開示されているように、真空脱ガス処理を、30分以上、又は溶鋼環流回数が14回以上となるように行うことが望ましい。
なお、真空脱ガス処理であれば、RH法に限定されず、DH法等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】軸受の製鋼工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0020】
1 転炉
2 取鍋
11 ランス
12 炉底羽口
21 撹拌用ランス
31 浸漬管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素ガスを溶鋼に供給しながら行う転炉での一次精錬工程と、前記転炉から出鋼した溶鋼中に窒素ガスを吹き込み当該窒素ガスで撹拌するバブリング工程と、前記バブリング工程後に行なう真空脱ガス処理工程と、を有することを特徴とする軸受鋼の精錬方法。
【請求項2】
前記バブリング工程は、脱酸剤を添加して行うことを特徴とする請求項1に記載の軸受鋼の精錬方法。
【請求項3】
前記バブリング工程においては、溶鋼中の窒素濃度を170ppm以上となるように前記窒素ガスを吹き込むことを特徴とする請求項1又は2に記載の軸受鋼の精錬方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−283090(P2006−283090A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103449(P2005−103449)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】