説明

送信指向性を有する無線装置およびその制御方法

【課題】 ユーザ間での干渉を抑制し、基地局の通信可能距離を増大させることが可能な送信指向性を有する無線装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】 アダプティブアレイ2000においては、アンテナ#1〜#4により受信した電波信号にそれぞれ受信ウェイトベクトルを乗算することで各ユーザからの信号を分離する。受信信号と受信ウェイトベクトルとに基づいて、受信電力測定回路2300は、各端末からの電波信号強度を導出する。送信ウェイトベクトル制御部2410と2510は、受信電波信号強度、つまり、基地局と端末間の距離に応じて送信ウェイトベクトルを制御し、送信電力を調節することにより他のセルへの不要干渉を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、送信指向性を有する無線装置およびその制御方法に関し、特に、アダプティブアレイ無線基地局において用いられる無線装置およびその制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、携帯電話等の移動通信システムの無線基地局として、アレイアンテナを用いたアダプティブアレイ(adaptive array)無線基地局が実用化されている。このようなアダプティブアレイ無線基地局の動作原理については、たとえば下記の文献に説明されている。
【0003】B. Widrow, et al. : “Adaptive Antenna Systems, ”Proc. IEEE, vol. 55,No. 12, pp. 2143-2159(Dec. 1967 ).S. P. Applebaum : “Adaptive Arrays ”, IEEE Trans. Antennas & Propag., vol. AP-24, No. 5, pp. 585-598(Sept. 1976).O. L. Frost, III: “Adaptive Least Squares Optimization Subject to Linear Equality Constraints, ”SEL-70-055, Technical Report. No. 6796-2, Information System Lab., Stanford Univ. (Aug. 1970 ).B. Widrow and S. D. Stearns:“Adaptive Signal Processing, ”Prentice-Hall, Englewood Cliffs (1985).R. A. Monzingo and T. W. Miller:“Introduction to Adaptive Arrays,”John Wiley & Sons, New York (1980).J. E. Hudson: “Adaptive Array Principles, ”Peter Peregrinus Ltd., London (1981).R. T. Compton, Jr.: “Adaptive Antennas-Concepts and Performance, ”Prentice-Hall. Englewood Cliffs (1988).E. Nicolau and D. Zaharia:“Adaptive Arrays,”Elsevier, Amsterdam (1989).図10は、このようなアダプティブアレイ無線基地局の動作原理を概略的に示す模式図である。図10において、1つのアダプティブアレイ無線基地局1は、n本のアンテナ♯1,♯2,♯3,…,♯nからなるアレイアンテナ2を備えており、その電波が届く範囲を第1の斜線領域3として表わす。一方、隣接する他の無線基地局6の電波が届く範囲を第2の斜線領域7として表わす。
【0004】領域3内において、ユーザAの端末である携帯電話機4とアダプティブアレイ無線基地局1との間で電波信号の送受信が行なわれる(矢印5)。一方、領域7内において、他のユーザBの端末である携帯電話機8と無線基地局6との間で電波信号の送受信が行なわれる(矢印9)。
【0005】ここで、たまたまユーザAの携帯電話機4の電波信号の周波数とユーザBの携帯電話機8の電波信号の周波数とが等しい場合、ユーザBの位置によっては、ユーザBの携帯電話機8からの電波信号が領域3内において不要な干渉信号となり、ユーザAの携帯電話機4とアダプティブアレイ無線基地局1との間の電波信号に混入してしまうことになる。
【0006】このように、ユーザAおよびユーザBの双方からの混合した電波信号を受信したアダプティブアレイ無線基地局1では、何らかの処理を施さなければ、ユーザAおよびBの双方からの信号が混じった信号を受信することとなり、本来通話すべきユーザAの通話が妨げられてしまうことになる。
【0007】アダプティブアレイ無線基地局1では、受信した信号からユーザBからの信号を除去するために、次のような構成および処理を行なっている。
【0008】[アダプティブアレイアンテナの構成]図1111は、アダプティブアレイ100の構成を示すブロック図である。図11に示した例においては、複数のユーザ信号を含む入力信号から希望するユーザの信号を抽出するため、n個の入力ポート20−1〜20−nが設けられている。
【0009】各入力ポート20−1〜20−nに入力された信号が、スイッチ回路1−1〜10−nを介して、ウエイトベクトル制御部11と乗算器12−1〜12−nとに与えられる。
【0010】ウエイトベクトル制御部11は、入力信号と予めメモリ14に記憶されている特定のユーザの信号に対応したトレーニング信号と加算器13の出力とを用いて、ウエイトベクトルw1i〜wniを計算する。ここで、添字iは、i番目のユーザとの間の送受信に用いられるウエイトベクトルであることを示す。
【0011】乗算器12−1〜12ーnは、各入力ポート20−1〜20−nからの入力信号とウエイトベクトルw1i〜wniとをそれぞれ乗算し、加算器13へ与える。加算器13は、乗算器12−1〜12−nの出力信号を加算して受信信号SRX(t)として出力し、この受信信号SRX(t)は、ウエイトベクトル制御部11にも与えられる。
【0012】さらに、アダプティブアレイ100は、アダプティブアレイ無線基地局1からの出力信号STX(t)を受けて、ウエイトベクトル制御部11により与えられるウエイトベクトルw1i〜wniとそれぞれ乗算して出力する乗算器15−1〜15−nを含む。乗算器15−1〜15−nの出力は、それぞれスイッチ回路10−1〜10−nに与えられる。つまり、スイッチ回路10−1〜10−nは、信号を受信する際は、入力ポート20−1〜20−nから与えられた信号を、信号受信部1Rに与え、信号を送信する際には、信号送信部1Tからの信号を入出力ポート20−1〜20−nに与える。
【0013】[アダプティブアレイの動作原理]次に、図11に示した信号受信部1Rの動作原理について簡単に説明する。
【0014】以下では、説明を簡単にするために、アンテナ素子数を4本とし、同時に受信されるユーザ数PSを2人とする。このとき、各アンテナから受信部1Rに対して与えられる信号は、以下のような式で表わされる。
【0015】
【数1】


【0016】ここで、信号RXj (t)は、j番目(j=1,2,3,4)のアンテナの受信信号を示し、信号Srxi (t)は、i番目(i=1,2)のユーザが送信した信号を示す。
【0017】さらに、係数hjiは、j 番目のアンテナに受信された、i 番目のユーザからの信号の複素係数を示し、nj (t)は、j番目の受信信号に含まれる雑音を示している。
【0018】上の式(1)〜(4)をベクトル形式で表記すると、以下のようになる。
【0019】
【数2】


【0020】なお式(6)〜(8)において、[…]T は、[…]の転置を示す。ここで、X(t)は入力信号ベクトル、Hi はi番目のユーザの受信信号係数ベクトル、N(t)は雑音ベクトルをそれぞれ示している。
【0021】アダプティブアレイアンテナは、図11に示したように、それぞれのアンテナからの入力信号に重み係数w1i〜wniを掛けて合成した信号を受信信号SRX(t)として出力する。なお、ここでは、アンテナの本数nは4である。
【0022】さて、以上のような準備の下に、たとえば、1番目のユーザが送信した信号Srx1 (t)を抽出する場合のアダプティブアレイの動作は以下のようになる。
【0023】アダプティブアレイ100の出力信号y1(t)は、入力信号ベクトルX(t)とウエイトベクトルW1 のベクトルの掛算により、以下のような式で表わすことができる。
【0024】
【数3】


【0025】すなわち、ウエイトベクトルW1 は、j番目の入力信号RXj (t)に掛け合わされる重み係数wj1(j=1,2,3,4)を要素とするベクトルである。
【0026】ここで式(9)のように表わされたy1(t)に対して、式(5)により表現された入力信号ベクトルX(t)を代入すると、以下のようになる。
【0027】
【数4】


【0028】ここで、アダプティブアレイ100が理想的に動作した場合、上述した参考文献中にも記載された周知な方法により、ウエイトベクトルW1 は次の連立方程式を満たすようにウエイトベクトル制御部11により逐次制御される。
【0029】
【数5】


【0030】式(12)および式(13)を満たすようにウエイトベクトルW1 が完全に制御されると、アダプティブアレイ100からの出力信号y1(t)は、結局以下の式のように表わされる。
【0031】
【数6】


【0032】すなわち、出力信号y1(t)には、2人のユーザのうちの第1番目のユーザが送信した信号Srx1 (t)が得られることになる。
【0033】一方、図11において、アダプティブアレイ100に対する入力信号STX(t)は、アダプティブアレイ100中の送信部1Tに与えられ、乗算器15−1,15−2,15−3,…,15−nの一方入力に与えられる。これらの乗算器の他方入力にはそれぞれ、ウエイトベクトル制御部11により以上説明したようにして受信信号に基づいて算出されたウエイトベクトルw1i,w2i,w3i,…,wniがコピーされて印加される。
【0034】これらの乗算器によって重み付けされた入力信号は、対応するスイッチ10−1,10−2,10−3,…,10−nを介して、対応するアンテナ♯1,♯2,♯3,…,♯nに送られ、図10に示した領域3内に送信される。
【0035】ここで、ユーザA,Bの識別は以下に説明するように行なわれる。すなわち、携帯電話機の電波信号はフレーム構成をとって伝達される。携帯電話機の電波信号は、大きくは、無線基地局にとって基地の信号系列からなるプリアンブルと、無線基地局にとって既知の信号系列からなるデータ(音声など)から構成されている。
【0036】プリアンブルの信号系列は、当該ユーザが無線基地局にとって通話すべき所望のユーザかどうかを見分けるための情報の信号列を含んでいる。アダプティブアレイ無線基地局1のウエイトベクトル制御部11は、メモリ14から取出したユーザAに対応したトレーニング信号と、受信した信号系列とを対比し、ユーザAに対応する信号系列を含んでいると思われる信号を抽出するようにウエイトベクトル制御(重み係数の決定)を行なう。
【0037】図12は、ユーザAとアダプティブアレイ無線基地局1との間での電波信号の授受をイメージ化した図である。
【0038】すなわち、受信時と同じアレイアンテナ2を用いて送信される信号には、受信信号と同様にユーザAをターゲットとする重み付けがなされているため、送信された電波信号は、あたかもユーザAに対する指向性を有するかのようにユーザAの携帯電話機4により受信される。
【0039】図10に示したようにアダプティブアレイ無線基地局1から電波が届き得る範囲を示す領域3に対して、図12のように、アダプティブアレイアンテナを適切に制御して電波信号を出力した場合は、図12の領域3aに示すようにアダプティブアレイ無線基地局1からはユーザAの携帯電話機4をターゲットとするような指向性を有する電波信号が出力されることになる。
【0040】
【発明が解決しようとする課題】以上説明したとおり、アダプティブアレイ無線基地局1は、特定のユーザをターゲットとして、そのターゲットに対する指向性を有する電波信号の送受信を行なうことが可能であるため、以下に説明するようなパス分割多元接続移動通信方式(Path Division Multiple Access : PDMA)を実現することが可能である。
【0041】すなわち、携帯型電話機のような移動通信システムにおいて、周波数の有効利用を図るべく、種々の伝送チャネル割当方法が提案されており、上述したPDMAはそのうちの一種である。
【0042】図13は、周波数分割多重接続(Frequency Division Multiple Access :FDMA),時分割多重接続(Time Division Multiple Access : TDMA)およびPDMAの各種の通信システムにおけるチャネルの配置図である。
【0043】図13を参照して、FDMA,TDMAおよびPDMAについて簡単に説明する。図13(a)はFDMAのチャネル割当方式を示す図であって、異なる周波数f1〜f4の電波で、ユーザ1〜4のアナログ信号が周波数分割されて伝送される。各ユーザ1〜4の信号は、周波数フィルタを用いることによって分離される。
【0044】図13(b)に示すTDMAにおいては、各ユーザのデジタル化された信号が、異なる周波数f1〜f4の電波で、かつ一定の時間(タイムスロット)ごとに時分割されて伝送される。各ユーザの信号は、周波数フィルタと基地局および各ユーザ移動端末装置からの時間同期とにより分離される。
【0045】一方、図13(c)に示したPDMA方式においては、同じ周波数における1つのタイムスロットを空間的に分割して、複数のユーザのデータを伝送するものである。このPDMAでは、各ユーザの信号は、周波数フィルタと、基地局および各ユーザ移動端末装置間の時間同期と、アダプティブアレイ等を用いた相互干渉除去装置とを用いることにより分離される。
【0046】すなわち、PDMA方式を用いる場合、図1212に示したように、異なる無線基地局に対応する2人のユーザとの間でやり取りされる電波信号を相互に干渉しないように分離するという場合にとどまらず、同一のアダプティブアレイ無線基地局1が受け持つ領域内において、同一の周波数および同一のタイムスロットで、異なるユーザとの間で送受信される電波信号の相互の干渉を除去する必要がある。
【0047】図12に示した例においては、アダプティブアレイアンテナを用いることによる指向性を利用することで、隣の基地局との間で電波信号の送受信をしているユーザBの端末からの電波信号が、アダプティブアレイ無線基地局1との間で電波信号のやり取りを行なっているユーザAの電波信号に対する干渉を除去することは可能であった。
【0048】しかしながら、ユーザAとユーザBとの距離がさらに近接し、言い換えると同一の無線基地局の担当する領域内にユーザAとユーザBとが入ってきた場合には、このようなアダプティブアレイアンテナの指向性のみでは、両者の電波信号の干渉を十分に除去することは困難な場合がある。
【0049】さらに、たとえば1つの無線基地局がカバーし得る領域を広げることは、基地局の建設コスト等の面から考えると有利である。しかしながら、上述したようなユーザ間の電波信号の干渉という観点からすると、1つの基地局がカバーする領域が広がることは、1つの基地局からの電波強度を強くすることを意味し、隣の基地局からの電波との間での相互干渉を増大させるおそれがある。言い換えると、1つの基地局がカバーし得るエリアの大きさは、相互干渉を防止するためには、あまり大きくすることができないということを意味する。
【0050】本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、その目的は、PDMA方式により、電波信号の送受信を行なうシステムにおいて、ユーザ間の電波信号の相互干渉を抑制することが可能な送信指向性を有する無線装置および送信指向性の制御方法を提供することである。
【0051】この発明の他の目的は、PDMA方式により電波信号の送受信を行なうシステムにおいて、無線基地局のカバーエリアを広げることが可能な送信指向性を有する無線装置および送信指向性制御の方法を提供することである。
【0052】
【課題を解決するための手段】この発明は、要約すれば、複数の端末装置との間でパス分割多元接続を行うための送信指向性を制御するにあたり、各端末からの受信信号強度に応じて、送信信号の指向性に加えて送信強度を制御するものである。
【0053】すなわち、請求項1記載の送信指向性を有する無線装置は、複数の端末装置との間でパス分割多元接続を行うための送信指向性を有する無線装置であって、受信電波信号から特定の端末装置の受信信号を分離するための受信手段を備え、受信手段は、端末装置ごとに対応する受信ウェイトベクトルを受信電波信号に乗算することで受信信号を抽出する複数の受信信号分離手段と、端末装置ごとの受信電波強度を測定するための受信強度測定手段とを含み、特定の端末装置への指向性を有する送信信号を生成するための送信手段をさらに備え、送信手段は、端末装置ごとに、受信電強度測定手段からの受信電波強度に応じて受信ウェイトベクトルに重み付けした送信ウェイトベクトルを送信信号に乗算することで、指向性を有する送信信号を生成する複数の送信信号生成手段を含む。
【0054】請求項2記載の送信指向性を有する無線装置は、請求項1記載の送信指向性を有する無線装置の構成において、複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの受信電波強度をPiとし、受信電波強度PiのM個の端末についての総和をSPとするとき、送信手段は、受信ウェイトベクトルに、(SP−Pi)/SPに比例する係数を乗ずることで、i番目の端末装置に対する送信ウェイトベクトルを生成する。
【0055】請求項3記載の送信指向性を有する無線装置は、請求項1記載の送信指向性を有する無線装置の構成において、複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの受信電波強度をPiとし、受信電波強度Piの平方根のM個の端末についての総和をSRPとするとき、送信手段は、受信ウェイトベクトルに、(SRP−Pi1/2 )/SRPに比例する係数を乗ずることで、i番目の端末装置に対する送信ウェイトベクトルを生成する。
【0056】請求項4記載の送信指向性を有する無線装置は、請求項1記載の送信指向性を有する無線装置の構成において、複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの受信電波強度をPiとし、所定の受信強度基準値をPmとするとき、送信手段は、受信ウェイトベクトルに、i)受信電波強度Piが所定の受信強度基準値Pm未満の場合、Pm/Mに比例する係数を乗ずることで、i番目の端末装置に対する送信ウェイトベクトルを生成し、ii)受信電波強度Piが所定の受信強度基準値Pm以上の場合、Pm/(Pi・M)に比例する係数を乗ずることで、i番目の端末装置に対する送信ウェイトベクトルを生成する。
【0057】請求項5記載の送信指向性を有する無線装置の制御方法は、複数の端末装置との間でパス分割多元接続を行うための送信指向性を有する無線装置の制御方法であって、端末装置ごとに対応する受信ウェイトベクトルをリアルタイムに導出し、端末装置からの受信信号を分離するステップと、受信した電波信号と分離された受信信号とに基づいて、端末装置ごとの受信電波強度を測定するステップと、端末装置ごとに、受信電強度測定手段からの受信電波強度に応じて受信ウェイトベクトルに重み付けした送信ウェイトベクトルを導出するステップと、送信ウェイトベクトルを送信信号に乗算することで、指向性を有する送信信号を生成するステップとを含む。
【0058】請求項6記載の送信指向性を有する無線装置の制御方法は、請求項5記載の送信指向性を有する無線装置の制御方法において、受信ベクトルへの重み付け処理は、複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの受信電波強度をPiとし、受信電波強度PiのM個の端末についての総和をSPとするとき、受信ウェイトベクトルに、(SP−Pi)/SPに比例する係数を乗ずることで、i番目の端末装置に対する送信ウェイトベクトルを生成する。
【0059】請求項7記載の送信指向性を有する無線装置の制御方法は、請求項5記載の送信指向性を有する無線装置の制御方法において、受信ベクトルへの重み付け処理は、複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの受信電波強度をPiとし、受信電波強度Piの平方根のM個の端末についての総和をSRPとするとき、受信ウェイトベクトルに、(SRP−Pi1/2 )/SRPに比例する係数を乗ずることで、i番目の端末装置に対する送信ウェイトベクトルを生成する。
【0060】請求項8記載の送信指向性を有する無線装置の制御方法は、請求項5記載の送信指向性を有する無線装置の制御方法において、受信ベクトルへの重み付け処理は、複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの受信電波強度をPiとし、所定の受信強度基準値をPmとするとき、受信ウェイトベクトルに、i)受信電波強度Piが所定の受信強度基準値Pm未満の場合、Pm/Mに比例する係数を乗ずることで、i番目の端末装置に対する送信ウェイトベクトルを生成し、ii)受信電波強度Piが所定の受信強度基準値Pm以上の場合、Pm/(Pi・M)に比例する係数を乗ずることで、i番目の端末装置に対する送信ウェイトベクトルを生成する。
【0061】
【発明の実施の形態】[実施の形態1]図1は、PDMA用基地局の送受信システム1000の構成を示す概略ブロック図である。
【0062】図1に示した構成においては、ユーザPS1とPS2とを識別するために、4本のアンテナ♯1〜♯4が設けられている。
【0063】受信動作においては、アンテナの出力は、RF回路1010に与えられ、RF回路1010において、受信アンプで増幅され局部発振信号によって周波数変換された後、フィルタで不要な周波数成分を除去し、A/D変換された後、デジタル信号としてデジタルシグナルプロセッサ1020に与えられる。
【0064】デジタルシグナルプロセッサ1020には、チャネル割当基準計算機1030と、チャネル割当装置1040と、アダプティブアレイ2000とが設けられている。チャネル割当基準計算機1030は、2人のユーザからの信号がアダプティブアレイによって分離可能かどうかを予め計算する。その計算結果に応じて、チャネル割当装置1040は、周波数と時間とを選択するユーザ情報を含むチャネル割当情報をアダプティブアレイ2000に与える。アダプティブアレイ2000は、チャネル割当情報に基づいて、4つのアンテナ♯1〜♯4からの信号に対して、リアルタイムに重み付け演算を行なうことで、特定のユーザの信号のみを分離する。
【0065】[アダプティブアレイの指向性を用いて等電力で送信する構成]図2は、図1に示したアダプティブアレイ2000の第1の構成を示す概略ブロック図である。
【0066】すなわち、図2に示したアダプティブアレイにおいては、ユーザが2人であることに対応して、図1111に示した従来のアダプティブアレイの構成を単純に2系統設ける構成としている。
【0067】この場合、2つのユーザPS1とPS2から同一周波数およびタイムスロットを用いることで空間多重通信を行なうとき、4本のアレイアンテナの受信信号RXi (t)は、上述した式(1)〜(4)により表わされる。
【0068】受信動作時においては、アダプティブアレイ無線基地局では、すでに説明したとおり、空間多重された受信信号をアダプティブアレイ技術を用いることで分離する。
【0069】このとき、ユーザPS1から送信された信号Srx1 (t)を抽出するために、基地局の受信回路で計算されるウエイトベクトルWrx1 と、ユーザPS2から送信された信号Srx2 (t)を抽出するためのウエイトベクトルWrx2 をそれぞれ以下のように表わすこととする。
【0070】
Wrx1 =[w11,w21,w31,w41T …(16)
Wrx2 =[w12,w22,w32,w42T …(17)
ここで、Wikはk番目の端末からの信号を抽出するためのウエイトベクトルのi番目の重み係数成分を表わす。
【0071】送信時においては、ユーザPS1への送信信号Stx1 (t)をユーザPS1へ、ユーザPS2への送信信号Stx2 (t)をユーザPS2へそれぞれ送信するようにアンテナの指向性を形成するため、たとえば、次式のように表わされる受信時のウエイトベクトルを規格化したものを送信時のウエイトベクトルとする。
【0072】
【数7】


【0073】ここで、式(18)および(19)において、Mは空間多重接続ユーザ数を示し、上述の例ではM=2である。
【0074】ウエイトベクトルWtx1 は、信号Stx1 (t)をユーザPS1のみに送信するためのウエイトベクトルであって、ユーザPS2の方向へは指向性のヌル点が来るように制御されている。したがって、ウエイトベクトルWtx1 は、ユーザPS1の方向へは電波が放射されるもののユーザPS2の方向へは電波が放射されない指向性を、アンテナ♯1〜♯4に対して形成する。
【0075】また、ウエイトベクトルWtx2 は、同様に、信号Stx2 (t)をユーザPS2のみに送信するためのウエイトベクトルである。よって、ユーザPS1へは信号Stx1 (t)のみが送信され、ユーザPS2へは信号Stx2 (t)のみが送信されるアンテナ指向性が形成されることになる。
【0076】この場合、各ウエイトベクトルの大きさが1/Mに規格化されているため、送信電力は各ユーザに対してすべて等電力となり、基地局からの全送信電力は1に規格化されている。
【0077】図3は、図2に示したアダプティブアレイの構成において、同一基地局内の2人のユーザPS1およびPS2に対して、パス分割された状態で、電波信号がやり取りされている状態を示す図である。すなわち、図3に示した状態においては、基地局1と第1のユーザPS1との距離に対して、基地局と第2のユーザPS2との距離が比較的近い場合を示している。
【0078】このような場合においても、上述したとおり、ユーザPS1への送信電力と同じ送信電力でユーザPS2に対して電波が放射されている。
【0079】上述したとおり、ユーザPS1に対するアンテナの指向性は、そのナル点がユーザPS2に対する方向に相当するように制御されている。しかしながら、基地局から距離の近いユーザPS2に対しても、必要以上に大きな送信電力で電波が送信されているために、ユーザPS1に対する電波信号と基地局からユーザPS2に対する電波信号との間で必要以上の干渉が生じることになる。このことは、各ユーザ間の干渉を十分小さく抑えようとする場合、基地局がカバーし得るエリアを大きくすることが困難になることも意味している。
【0080】[送信電力をユーザに応じて制御するアダプティブアレイアンテナの構成]図4は、以上説明したように、同一の基地局に対して送受信を行なっている2人のユーザ間の電波信号の干渉を抑制するための送信指向性制御可能な無線装置におけるアダプティブアレイ2000の構成を説明するための概略ブロック図である。
【0081】アダプティブアレイ2000は、4本のアンテナ♯1〜♯4からの受信信号を受けて、各ユーザからの受信信号に分離するための受信回路2100と、各ユーザに対する送信信号Stxj (t)を各ユーザに対して指向性をもって送信可能となるように重み付け処理を行なった結果を出力する送信回路2400と、4本のアンテナ♯1〜♯4と、受信回路2100および送信回路2400との間に設けられ、送信時および受信時において、アンテナ♯1〜♯4と受信回路2100または送信回路2400との接続経路をそれぞれ切換えるためのスイッチ回路2010−1〜2010−4とを含む。
【0082】なお、図4においては、説明の簡単のために、アンテナの本数を4本としているが、本発明はこのような場合に限定されることなく、より一般的にはn本(n:自然数)の場合に適用することが可能である。
【0083】さらに、以下では、説明の簡単のために、基地局との間で電波の送受信を行なうユーザの数が2である場合について説明することにする。
【0084】受信回路2100は、スイッチ回路2010−1〜2010−4からの出力を受ける第1の受信ウエイトベクトル制御部2110と、受信ウエイトベクトル制御部2110から出力されるウエイトベクトルWrx1 にそれぞれ応じて、対応するスイッチ回路2010−1〜2010−4からの出力に対して、重み係数を乗算した結果を出力する乗算器2120−1〜2120−4と、乗算器2120−1〜2120−4からの出力を受けてその加算結果を第1のユーザPS1からの受信信号Srx1 (t)として出力する加算器2140とを含む。
【0085】第1の受信ウエイトベクトル制御部2110は、切換回路2110−1〜2110−4からの受信信号と予めメモリ2130に記憶されているユーザPS1からの信号に対応したトレーニング信号あるいは加算器2140からの出力を用いて、ウエイトベクトルW11〜W41を計算する。第2のユーザPS2からの受信信号に対応して、第1のユーザPS1に対応するのと同様の構成の第2の受信ウエイトベクトル制御部2210、乗算器2220−1〜2220−4、メモリ2230および加算器2240が設けられている。
【0086】受信回路2100には、第2のユーザPS2からの受信信号Srx2 (t)を分離するために、第1のユーザPS1に対応するのと同様の構成が設けられている。
【0087】受信回路2100は、さらに、切換回路2010−1〜2010−4からの出力を受けて、受信中の電波信号の受信電力値を測定するための受信電力測定回路2300を含む。
【0088】送信回路2400は、第1のユーザPS1に対して出力される送信信号Stx1 (t)を受けて、第1の受信ウエイトベクトル制御部2110からの第1のユーザPS1に対する受信ウエイトベクトルの値と、受信電力測定回路2300からの第1のユーザPS1に対する受信電力情報とに基づいて、送信ウエイトベクトルを算出する第1の送信ウエイトベクトル制御部2410と、第1の送信ウエイトベクトル制御部2410から出力される送信ウエイトベクトルWtx1 をそれぞれ受けて、送信信号Stx1 (t)に対して、それぞれの重み係数を乗算して出力する乗算器2420−1〜2420−4とを含む。すなわち、乗算器2420−1〜2420−4からは、それぞれ信号Stx1 (t)w11、Stx1 (t)w21、Stx1 (t)w31およびStx1 (t)w41が出力される。
【0089】送信回路2400は、さらに、第1のユーザPS1に対するのと同様に、第2のユーザPS2に対する送信信号を生成するための第2の送信ウエイトベクトル制御部2520と、乗算器2520−1〜2520−4とを含む。
【0090】第2の送信ウエイトベクトル制御部2510には、受信電力測定回路2300から第2のユーザPS2に対する受信電力情報RSP2と、第2の受信ウエイトベクトル制御部2210からの受信ウエイトベクトルの情報とが与えられ、これに基づいて第2の送信ウエイトベクトル制御部2510が、送信ウエイトベクトルWtx2 を出力する。
【0091】[受信電力測定回路2300の動作]続いて、図4に示した受信電力測定回路2300の動作について説明する。
【0092】まず、アンテナ素子数を4本、同時に通信するユーザ数を2人とした場合、各アンテナを経て受信回路から出力される信号は、上述した式(1)〜(4)で表わされる。
【0093】このとき、この式(1)〜(4)で表わされるアンテナの受信信号をベクトルで表記した式を再び記すことにすると、以下の式(5)〜(8)のようになる。
【0094】
【数8】


【0095】ここで、アダプティブアレイが良好に動作していると、各ユーザからの信号を分離・抽出しているため、上記信号Srxi (t)(i=1,2)はすべて既知の値となる。
【0096】まず、信号Srxi (t)が既知の信号であることを利用して、受信信号ベクトルH1 =[h11,h21,h31,h41]およびH2 =[h12,h22,h32,h42]を以下に説明するようにして導出することができる。
【0097】すなわち、受信信号と既知となったユーザ信号、たとえば第1のユーザからの信号Srx1 (t)を掛け合わせて、アンサンブル平均(時間平均)を計算すると以下のようになる。
【0098】
【数9】


【0099】式(20)において、E[…]は、時間平均を示す。この平均をとる時間が十分長い場合、この平均値は以下のようになる。
【0100】
【数10】


【0101】ここで、式(22)の値が0となるのは、信号Srx1 (t)と信号Srx2(t)に互いに相関がないためである。また、式(23)の値が0となるのは、信号Srx1 (t)と雑音信号N(t)との間に相関がないためである。
【0102】したがって、式(20)のアンサンブル平均は結果として以下に示すように、受信信号係数ベクトルH1 に等しくなる。
【0103】
【数11】


【0104】以上のような手続により、第1の番目のユーザPS1から送信された信号の受信信号係数ベクトルH1 を測定することができる。
【0105】同様にして、入力信号ベクトルX(t)と信号Srx2 (t)のアンサンブル平均操作を行なうことで、2番目のユーザPS2から送信された信号の受信信号係数ベクトルH2 を測定することが可能である。
【0106】図5は、以上説明したような受信信号係数ベクトル導出手続に基づいて、さらに各ユーザからの受信電力Pi を導出する手続を示すフローチャートである。
【0107】まず受信電力測定が開始されると(ステップS100)、まず受信電力測定回路2300は、空間多重ユーザ数Mの値を確認する(ステップS102)。
【0108】続いて、受信電力測定回路2300は、空間多重接続ユーザを識別するためのパラメータiの値を1に初期化する(ステップS104)。
【0109】次に、受信時刻を表わすパラメータtの値が1に初期化される(ステップS106)。
【0110】続いて、i番目のユーザに対する受信信号係数ベクトルのk番目のアンテナに対する値hkiが0に初期化され(ステップS107)、アンテナを識別するためのパラメータkの値が1に初期化される(ステップS108)。
【0111】次に、受信電力測定回路2300は、受信信号係数ベクトルの要素のhkiの値を時刻tよりも前の段階での値hkiに、時刻tにおけるk番目のアンテナに受信された受信信号RXk (t)とi番目のユーザ信号Srxi (t)との積の値を加えることで更新する(ステップS110)。
【0112】続いて、パラメータkの間がアンテナ素子数N以上となっているかの判断が行なわれ(ステップS112)、アンテナ素子数だけの処理が完了していない場合は、パラメータkの値が1だけインクリメントされて(ステップS114)、ステップS110の処理が繰返される。
【0113】一方、パラメータkの値がアンテナ素子数の値と等しくなっている場合は、続いて、時刻を表わすパラメータtの値が平均時間T以上であるか否かの判断が行なわれ(ステップS116)、パラメータtの値が平均時間T未満である場合は、さらにパラメータtの値が1だけインクリメントされて、処理はステップS108に復帰する。
【0114】ここで、平均時間Tは、たとえば通信システムで決められている信号系列の長さを表わし、たとえばPHSシステムであれば、120シンボルである。
【0115】一方、パラメータtが、平均時間T以上となっている場合は(ステップS116)、パラメータkの間が再び1に初期化され、さらにi番目のユーザに対する受信信号電力値Piの値が0に初期化される(ステップS120)。
【0116】次に、ステップS108からS116の間に演算された受信信号係数ベクトルの要素hkiの値が、累積値hkiの値を平均時間Tで割ることにより平均処理された値に置換えられ、さらに受信信号電力Piの値が、受信信号電力値Piに受信信号ベクトルの要素値hkiの二乗を加算した値に更新される(ステップS122)。
【0117】続いて、パラメータkの値が、アンテナ素子数N以上となったかが判定され(ステップS124)、パラメータkの値がアンテナ素子数Nに満たない場合は、パラメータKの値が1だけインクリメントされて(ステップS126)、処理はステップS122に復帰する。
【0118】一方、パラメータkの値がアンテナ素子数N以上であると判断された場合は(ステップS124)、受信信号電力値Pi の値を、アンテナ素子数nで割った値が、新たに受信電力Piとしてメモリに格納される(ステップS128)。
【0119】続いて、パラメータiの値が、空間多重ユーザ数M以上であるか否かが判断され、パラメータiの値がユーザ数Mに満たない場合は(ステップS130)、パラメータiの値が1だけインクリメントされて(ステップS132)、処理はステップS106に復帰する。
【0120】一方、パラメータiの値がユーザ数M以上である場合は(ステップS130)、処理が終了する(ステップS134)。
【0121】以上のような処理を行なうことで、各ユーザに対する受信信号係数ベクトルの値Hi に基づいて、i番目のユーザに対する受信電力Pi を測定することが可能である。
【0122】[送信ウエイトベクトルWtxi の制御]以上のようにして各ユーザに対する受信信号電力Pi は以下のようにして表わされることになる。
【0123】
【数12】


【0124】次に、送信ウエイトベクトル制御部2410および2510は、受信電力測定回路2300において上述のようにして求められた受信信号電力に基づいて、各ユーザに対応した送信ウエイトベクトルWtxi (i=1,2)を以下の式に基づいて導出する。
【0125】
【数13】


【0126】上記式(27)および(28)によって導出されたウエイトベクトルWtx1およびWtx2 は、それぞれ対応するユーザの方向へ電波を放射するするものの、対応するユーザ以外の方向へは電波を放射しない指向性を有している。
【0127】以上のようなウエイトベクトルWtx1 およびWtx2 を用いると、ユーザPS2の受信電力P2は、ユーザPS1の受信電力P1に比べて大きくなる。そして、送信電力はウエイトベクトルの大きさに比例するため、ユーザPS1への送信電力の方がユーザPS2への送信電力よりも大きくなる。また、基地局からの全送信電力は、従来同様、1に規格化されているので、従来方式と比較して、基地局から遠い端末(ユーザPS1)への送信電力は増大し、近い端末(ユーザPS2)への送信電力は抑圧される。
【0128】以上の説明では、アンテナ数が4本であって、ユーザが2人である場合について説明したが、本発明はこのような場合に限定されることなく、より一般に、アンテナ素子数がn個であって、空間多重接続端末数がMである場合にも適用することができる。
【0129】この場合、i番目の端末に対する受信電力Pi は、以下の式で表わされる。
【0130】
【数14】


【0131】また、送信ウエイトベクトルWtxi は、以下の式で表わされる。
【0132】
【数15】


【0133】図6は、以上のような手続で、送信ウエイトベクトルを導出する処理のフローを示すフローチャートである。
【0134】まず、送信ウエイトベクトルの計算が開始されると(ステップS200)、送信ウエイトベクトル制御部2410は、空間多重ユーザ数Mとその受信電力Piの測定結果を、受信電力測定回路2300から受取る(ステップS202)。
【0135】続いて、ユーザを示すためのパラメータiの値が1に初期化される(ステップS204)。続いて、送信ウエイトベクトル制御部2410は、送信ウエイトベクトルを式(30)に応じて計算し、メモリに格納する(ステップS206)。
【0136】続いて、パラメータiの値が空間多重ユーザ数M以上であるか否かの判定が行なわれる。パラメータiの値がユーザ数M未満であるならば(ステップS208)、パラメータiの値が1だけインクリメントされて(ステップS210)、処理はステップS206に復帰する。
【0137】一方、パラメータiの値がユーザ数M以上である場合(ステップS208)、送信ウエイトベクトルの計算が終了する(ステップS212)。
【0138】このようにして,計算された送信ウェイトベクトルにより、特定のユーザに対する指向性を有する送信電波信号が生成されることになる。
【0139】図7は、以上のようにして導出された送信ウエイトベクトルに基づいて、ユーザPS1およびユーザPS2について、基地局から送信される電波信号の指向性および到達範囲を示す図であり、図3と対比される図である。
【0140】送信ウエイトベクトルが、受信端末の基地局1からの距離に応じて、言い換えると、受信電力の大きさに応じて制御される構成となっているため、端末が基地局に近い場合は、送信電力は抑圧され他のセルへの不要干渉が減少し、遠い端末への送信電力が増大するため最大到達距離が確立的に増大するという効果を有する。
【0141】なお、受信信号電力測定回路2300としては、以下のような構成とすることも可能である。
【0142】すなわち、たとえばPHSにおいて、基地局が新たにユーザと中心チャネルを確立する場合、まずキャリアセンス(すべての通信チャネルのD/Uを測定する操作)を行ない、信号電力対干渉電力の比(D/U)がある一定以上となるか、あるいは最もD/Uが良いチャネルを、通信チャネルとして端末PSに指定する。次に、端末PS側で基地局CSが指定したチャネルのD/Uを測定して、D/Uが所定値以上の場合、指定された通話チャネルを使い通信が開始される。
【0143】このようなキャリアセンスを行なう場合にも受信電力測定回路が測定されるので、図4に示した受信電力測定回路2300は、このような場合に用いられる回路と共用する構成とすることも可能である。
【0144】[実施の形態2]実施の形態2の送信指向性制御可能な無線装置においては、まず、受信信号に含まれるユーザPSi の受信信号係数Hi の測定を行なう。次に、測定した受信信号係数ベクトルHi から各信号電力Pi を実施の形態1の式(29)により求める。
【0145】次に、それぞれのユーザに対応した送信ウエイトベクトルWtxi を次式で計算する。
【0146】
【数16】


【0147】ここで、ウエイトベクトルWtxi は、所望のユーザPSi の方向へは電波を放射するが、非所望のユーザPSi の方向へは電波を放射しない指向性を形成する。
【0148】図8は、このような手順に従って送信ウエイトベクトルを求めるための処理の流れを示すフローチャートである。
【0149】図8に示したフローチャートでは、ステップS306における送信ウェイトベクトルの計算式(31)が、図6に示したフローチャートにおけるステップS206での送信ウェイトベクトルの計算式(30)を置き換えた構成となっている以外、基本的に図6のフローチャートと同様の処理の流れであるため、その説明は繰り返さない。
【0150】実施の形態2においても、送信ウエイトベクトルが、受信端末の基地局1からの距離に応じて、言い換えると、受信電力の大きさに応じて制御される構成となっているため、端末が基地局に近い場合は、送信電力は抑圧され他のセルへの不要干渉が減少し、遠い端末への送信電力が増大するため最大到達距離が確立的に増大するという効果が奏される。
【0151】[実施の形態3]実施の形態3の送信指向制御が可能な無線装置においては、まず、受信信号に含まれるユーザPSi の受信信号係数ベクトルHi の測定を行なう。次に、測定した受信信号係数ベクトルHi から各信号電力Pi を式(29)によって求める。
【0152】実施の形態3の無線装置においては、各端末ごとの送信電力の最大値Pmaxを予め規定しておく。そして、各ユーザPSi (i=1,2,…,M)に対応した送信ウエイトベクトルWtxi の計算は、以下の式に従って計算する。
【0153】
【数17】


【0154】以上のように送信ウエイトベクトルを導出する構成とすると、基地局に近い端末へは、常に送信電力が抑圧されるため、他セルへの余分な干渉を減少させることが可能である。
【0155】図9は、以上説明したような実施の形態3の送信ウエイトベクトルの導出の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0156】図9を参照して、先ず送信ウエイトベクトルの計算が開始されると(ステップS400)、空間多重ユーザ数Mと、その受信電力Piの測定結果が、受信電力測定回路2300から送信ウエイトベクトル制御部2410に与えられる。
【0157】続いて、送信ウエイトベクトル制御部2410においては、ユーザを識別するためのパラメータiの値が1に初期化される(ステップS404)。
【0158】次に、受信電力Pi が予め定められた最大値Pmax以上であるかの判定が行なわれる(ステップS406)。
【0159】受信電力Pi が最大電力Pmax以上である場合(ステップS406)、送信ウエイトベクトル制御部2410は、送信ウエイトベクトルを式(32)に応じて計算し、メモリに格納する(ステップS408)。
【0160】一方、受信電力Pi が最大電力Pmax未満である場合は、送信ウエイトベクトル制御部2410は、送信ウエイトベクトルを式(33)に応じて計算し、メモリに格納する(ステップS410)。
【0161】続いて、パラメータiの値がユーザ数M以上であるか否かの判定が行なわれ(ステップS412)、パラメータiの値がユーザ数M未満である場合は、パラメータiの値が1だけインクリメントされ(ステップS414)、処理はステップS406に復帰する。
【0162】一方、パラメータiの値がユーザ数M以上である場合(ステップS412)、送信ウエイトベクトルの計算が終了する(ステップS416)。
【0163】以上のような処理が、送信ウエイトベクトル制御部2510においても行なわれる。
【0164】実施の形態3においても、送信ウエイトベクトルが、受信端末の基地局1からの距離に応じて、言い換えると、受信電力の大きさに応じて制御される構成となっているため、端末が基地局に近い場合は、送信電力は抑圧され他のセルへの不要干渉が減少し、遠い端末への送信電力が増大するため最大到達距離が確立的に増大するという効果が奏される。
【0165】今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0166】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明に係る送信指向性制御が可能な無線装置および送信指向性制御方式によれば、基地局に近い端末と電波信号の送受信を行なう場合には、基地局からの送信電力が抑圧され、他セルあるいは他のユーザへの不要な干渉を減少させることが可能である。
【0167】しかも、遠い端末と基地局との間で電波信号の送受信を行なう場合には、基地局からの送信電力が増大するため、基地局から送信される電波信号の最大到達距離が確立的に増大するという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1の無線装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】アダプティブアレイ2000の1つの構成例を示す概略ブロック図である。
【図3】図2に示したアダプティブアレイの構成の場合の送受信電波信号の指向性および到達距離を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1のアダプティブアレイの構成を示す概略ブロック図である。
【図5】受信電力測定回路2300の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】送信ウエイトベクトル制御部2410および2510の動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6に示した処理を行なった場合の送信電波の指向性および到達距離を示すための概略ブロック図である。
【図8】本発明の実施の形態2の送信ウエイトベクトル制御部の動作を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態3の送信ウエイトベクトル制御部の動作を説明するためのフローチャートである。
【図10】アダプティブアレイ無線基地局の基本動作を概念的に示す模式図である。
【図11】従来のアダプティブアレイ無線装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図12】アダプティブアレイ無線基地局とユーザとの間の電波信号の授受をイメージ化した模式図である。
【図13】基地局と移動端末装置との間のデータの送受信の概念を示す図である。
【符号の説明】
1000 無線装置、1010 RF回路、1020 デジタルシグナルプロセッサ、1030 チャネル割当て基準計算器、1040 チャネル割当装置、2000 アダプティブアレイ、2010−1〜2010−4 スイッチ回路、2100 受信回路、2110 受信ウェイトベクトル制御部、2120−1〜2120−4 乗算器、2130 メモリ、2210 受信ウェイトベクトル制御部、2220−1〜2220−4 乗算器、2230 メモリ、2300 受信電力測定回路、2400 送信回路、2410 送信ウェイトベクトル制御部、2420−1〜2420−4 乗算器、2510 送信ウェイトベクトル制御部、2520−1〜2520−4 乗算器、#1〜#4 アンテナ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の端末装置との間でパス分割多元接続を行うための送信指向性を有する無線装置であって、受信電波信号から特定の前記端末装置の受信信号を分離するための受信手段を備え、前記受信手段は、前記端末装置ごとに対応する受信ウェイトベクトルを前記受信電波信号に乗算することで前記受信信号を抽出する複数の受信信号分離手段と、前記端末装置ごとの受信電波強度を測定するための受信強度測定手段とを含み、前記特定の端末装置への指向性を有する送信信号を生成するための送信手段をさらに備え、前記送信手段は、前記端末装置ごとに、前記受信電強度測定手段からの受信電波強度に応じて前記受信ウェイトベクトルに重み付けした送信ウェイトベクトルを送信信号に乗算することで、前記指向性を有する送信信号を生成する複数の送信信号生成手段を含む、送信指向性を有する無線装置。
【請求項2】 前記複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、前記複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの前記受信電波強度をPiとし、前記受信電波強度PiのM個の端末についての総和をSPとするとき、前記送信手段は、前記受信ウェイトベクトルに、(SP−Pi)/SPに比例する係数を乗ずることで、前記i番目の端末装置に対する前記送信ウェイトベクトルを生成する、請求項1記載の送信指向性を有する無線装置。
【請求項3】 前記複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、前記複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの前記受信電波強度をPiとし、前記受信電波強度Piの平方根のM個の端末についての総和をSRPとするとき、前記送信手段は、前記受信ウェイトベクトルに、(SRP−Pi1/2 )/SRPに比例する係数を乗ずることで、前記i番目の端末装置に対する前記送信ウェイトベクトルを生成する、請求項1記載の送信指向性を有する無線装置。
【請求項4】 前記複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、前記複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの前記受信電波強度をPiとし、所定の受信強度基準値をPmとするとき、前記送信手段は、前記受信ウェイトベクトルに、i)前記受信電波強度Piが前記所定の受信強度基準値Pm未満の場合、Pm/Mに比例する係数を乗ずることで、前記i番目の端末装置に対する前記送信ウェイトベクトルを生成し、ii)前記受信電波強度Piが前記所定の受信強度基準値Pm以上の場合、Pm/(Pi・M)に比例する係数を乗ずることで、前記i番目の端末装置に対する前記送信ウェイトベクトルを生成する、請求項1記載の送信指向性を有する無線装置。
【請求項5】 複数の端末装置との間でパス分割多元接続を行うための送信指向性を有する無線装置の制御方法であって、前記端末装置ごとに対応する受信ウェイトベクトルをリアルタイムに導出し、前記端末装置からの受信信号を分離するステップと、受信した電波信号と前記分離された受信信号とに基づいて、前記端末装置ごとの受信電波強度を測定するステップと、前記端末装置ごとに、前記受信電強度測定手段からの受信電波強度に応じて前記受信ウェイトベクトルに重み付けした送信ウェイトベクトルを導出するステップと、前記送信ウェイトベクトルを送信信号に乗算することで、指向性を有する送信信号を生成するステップとを含む、送信指向性を有する無線装置の制御方法。
【請求項6】 前記受信ベクトルへの重み付け処理は、前記複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、前記複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの前記受信電波強度をPiとし、前記受信電波強度PiのM個の端末についての総和をSPとするとき、前記受信ウェイトベクトルに、(SP−Pi)/SPに比例する係数を乗ずることで、前記i番目の端末装置に対する前記送信ウェイトベクトルを生成する、請求項5記載の送信指向性を有する無線装置の制御方法。
【請求項7】 前記受信ベクトルへの重み付け処理は、前記複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、前記複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの前記受信電波強度をPiとし、前記受信電波強度Piの平方根のM個の端末についての総和をSRPとするとき、前記受信ウェイトベクトルに、(SRP−Pi1/2 )/SRPに比例する係数を乗ずることで、前記i番目の端末装置に対する前記送信ウェイトベクトルを生成する、請求項5記載の送信指向性を有する無線装置の制御方法。
【請求項8】 前記受信ベクトルへの重み付け処理は、前記複数の端末装置はM個(M:自然数)であって、前記複数の端末装置のうちのi番目(i:自然数)の端末装置からの前記受信電波強度をPiとし、所定の受信強度基準値をPmとするとき、前記受信ウェイトベクトルに、i)前記受信電波強度Piが前記所定の受信強度基準値Pm未満の場合、Pm/Mに比例する係数を乗ずることで、前記i番目の端末装置に対する前記送信ウェイトベクトルを生成し、ii)前記受信電波強度Piが前記所定の受信強度基準値Pm以上の場合、Pm/(Pi・M)に比例する係数を乗ずることで、前記i番目の端末装置に対する前記送信ウェイトベクトルを生成する、請求項5記載の送信指向性を有する無線装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2000−106539(P2000−106539A)
【公開日】平成12年4月11日(2000.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−273935
【出願日】平成10年9月28日(1998.9.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】