説明

送受信装置及び同期システム

【課題】2つの送受信装置の間の同期確立と距離を測定する
【解決手段】他の第2送受信装置に対して第1信号を送信し、第2送受信装置において受信した第1信号を折り返して第2信号として返信して、フェズドロックループ(PLL)により同期をとる送受信装置である。基準信号を出力する基準発振器と、送信ベースバンド信号を発生する、位相と周波数が可変の信号発振器と、送信ベースバンド信号により搬送波を変調して得られる第1信号を送信する送信器を有する。第2送受信装置から受信した第2信号を復調して受信ベースバンド信号を得る受信器と、送信ベースバンド信号と基準発振器の出力する基準信号との第1位相差を検出する第1位相比較器と、受信ベースバンド信号と基準発振器の出力する基準信号との第2位相差を検出する第2位相比較器と、第1位相差と第2位相差との絶対値の差を出力する比較器とを有する。比較器の出力が零となるように、信号発振器の位相と周波数をフィードバック制御した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの送受信装置の間において、有線又は無線により信号を送受信して、それら2つの送受信装置間で同期をとったり、装置間の距離を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波を反射する対象物までの距離を測定する装置として、特許文献1に記載の装置が知られている。この装置は、送受信装置と、反射対象物との間でフェーズロックドループを形成して、その時の同期周波数から距離を測定するものである。
また、本発明者により発明された、特許文献2、3のように、送受信装置を2個1組として、2つの送受信装置間でフェーズロックドループを形成し、数MHz程度の方形波を数百乃至数GHzの高周波搬送波に載せて当該数MHz程度の方形波の位相遅れを検出する装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−198306
【特許文献2】特開2008−032535
【特許文献3】特開2008−122255
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示の方法は、送信信号と、その反射波の受信信号との間で、同期のかかる周波数を検出して、その周波数から、送信器と反射物間の距離を測定する方法である。周波数を、順次、変更して、同期する周波数を検出するのが困難であるという問題がある。また、特許文献2、3の方法では、2つの送受信装置間でフェーズロックドループを用いることから、安定して、距離が測定できる。
しかしながら、2つの送受信装置間でフェーズロックドループを形成しても、2つの送受信装置間の距離が変動すると、信号の伝搬遅延時間が変化するために、2つの送受信装置間において、同期をとることはできない。たとえば、あるマスターの送受信装置から、複数のスレーブの送受信装置に対して、信号を送信することで、全てのスレーブの送受信装置及びマスタの送受信装置において、タイミングの同期をとることはできない。複数の送受信装置間で、タイミングの同期をとることができれば、同期時刻を基準にして、時分割によりチャネルを各送受信装置に割り当て、衝突することなくデータ通信を実行することができる。また、特許文献2、3では、送受信装置間の往復距離を測定して、その1/2を両装置間の距離としており、両装置間の距離を直接的には、測定していない。
そこで本発明の目的は、複数の送受信装置間でタイミングの同期をとるための送受信装置を実現することである。
また、2つの送受信装置間の距離を直接的に測定することを実現し、測定精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、他の第2送受信装置に対して第1信号を送信し、第2送受信装置において受信した第1信号を折り返して第2信号として返信することにより、第2送受信装置との間において、フェズドロックループ(PLL)により同期をとる送受信装置において、所定の基準周波数の基準信号を出力する基準発振器と、送信ベースバンド信号を発生する、位相と周波数が可変の信号発振器と、信号発振器により生成された送信ベースバンド信号により搬送波を変調して得られる第1信号を送信する送信器と、第2送受信装置から受信した第2信号を復調して受信ベースバンド信号を得る受信器と、送信器に入力される送信ベースバンド信号と基準発振器の出力する基準信号との第1位相差を検出する第1位相比較器と、受信器による復調により得られた受信ベースバンド信号と基準発振器の出力する基準信号との第2位相差を検出する第2位相比較器と、第1位相差と第2位相差との絶対値の差を出力する比較器とを有し、比較器の出力が零となるように、信号発振器の位相と周波数をフィードバック制御したことを特徴とする送受信装置である。
【0006】
本発明において、本発明に係る送受信装置が第1信号を送信する時に、他の第2送受信装置は、単一でも複数存在しても良い。第2送受信装置は、受信した第1信号を、理想的には遅延時間なく折り返して、第2信号として返信する装置である。装置内での遅延時間は、通常は、回路による処理時間である。装置内遅延時間は、本発明の送受信装置から第2送受信装置までの伝搬遅延時間に比べて、装置内の遅延時間が十分に小さい値であって、既知の変動しない時間であれば、存在してもかまわない。既知の装置内遅延時間だけ、送受信装置間の同期タイミングや測定される距離を補正すれば良い。
【0007】
第1信号、第2信号の送信は、有線であっても無線であっても良い。第2送受信装置において、受信した第1信号を第2信号として返信する場合には、第1信号の搬送波の周波数と異なる周波数の搬送波で返信することが望ましい。本発明に係る送受信装置は、第1信号と異なる周波数の第2信号を受信した場合に、第2送受信装置から折り返し返信された信号であると認識できる。すなわち、第1信号の他の物体による反射による受信信号や、第1信号の回り込みによる受信信号を第2信号として、誤検出することがない。
【0008】
第2送受信装置が複数存在する場合には、各第2信号の搬送波の周波数は、各第1送受信装置間で異なる周波数とするのが望ましい。すなわち、各第2送受信装置には、使用する周波数が割り当てられており、本発明の送受信装置で、第2信号を周波数により選局して復調することで、本送受信装置と、複数の第2送受信装置との間で、順次、走査して、同期をとることができる。本送受信装置を基準に複数の第2送受信装置との間で同期をとることは、全て第2送受信装置間で同期がとれていることを意味する。また、本発明の送受信装置で、第2信号を周波数により選局して復調することで、本送受信装置と、複数の各第2送受信装置との間の距離を、順次、走査して、測定することができる。
【0009】
また、第2送受信装置において、第1信号の受信に同期して第2信号を生成する場合には、高周波信号である第1信号を、単に、周波数変移させたものを第2信号としても良い。すなわち、受信した第1信号の周波数を、所定周波数だけ高い周波数に変移させるのであれば、その所定周波数の正弦波と第1信号とをミキシングして、帯域通過フィルタにより変移後の周波数の第2信号を抽出すれば良い。また、第1信号を復調して、一端、送信ベースバンド信号を得た後に、この送信ベースバンド信号により搬送波を変調して、第2信号を生成して、返信するようにしても良い。
【0010】
また、他の発明は、上記発明において、第1位相比較器の出力する第1位相差又は第2位相比較器の出力する第2位相差から、第2送受信装置までの距離を求める距離測定装置を有することを特徴とする送受信装置である。
【0011】
上記発明において、送信ベースバンド信号は、方形波又は周期的パルスとすることができる。ベースバンド信号については、同期タイミングが分かる信号であれば、任意である。方形波、パルスの他、鋸歯状波、正弦波などを用いることができる。また、拡散符号などの符号データであっても良い。ベースバンド信号には周期関数が望ましいが、同期タイミングが分かるものであれば、必ずしも、周期関数である必要はない。また、変調方式は、振幅変調、周波数変調、位相変調であっても良い。また、振幅変変移変調(ASK)、周波数変移変調(FSK)、位相変移変調(PSK)であっても良い。また、第1位相差、第2位相差は、基準信号の基準位相に対する時間差で測定しても良く、これらの位相差は時間差の概念を含む。
【0012】
また、他の発明は、上記の発明に係る送受信装置と、複数の第2送受信装置とから成り、各第2送受信装置において、第1信号を受信して、復調された各送信ベースバンド信号を、複数の第2送受信装置間における同期信号とすることを特徴とする同期システムである。本発明の送受信装置を用いて第1信号を送信し、第2信号を受信することで、複数の送受信装置間で、PLL同期をとることができる。これにより、各第2送受信装置で復調された送信ベースバンド信号を、同期のためのタイミング信号とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、本発明に係る送受信装置から第2送受信装置へ向けて第1信号が送信される。第2送受信装置では、この第1信号は第2信号として折り返し返信される。本送受信装置では、第2信号を復調して得られる受信ベースバンド信号と基準信号との位相差である第2位相差θ2が測定される。また、送信ベースバンド信号と基準信号との位相差である第1位相差θ1が測定される。そして、この第1位相差θ1と第2位相差θ2の絶対値が等しくなるように、送信ベースバンド信号は、基準信号に対して位相が進められる。今、基準信号の位相を基準にすると、送信ベースバンド信号の位相はθ1(正値)、受信ベースバンド信号の位相はθ2(負値)となる。θ1、θ2は、基準信号に対して進み位相を正、遅れ位相を負として定義する。
【0014】
第2送受信装置において第1信号の受信から第2信号の送信までの遅延時間がなく、本送受信装置と第2送受信装置間の伝搬遅延時間により生じる送信ベースバンド信号の遅れ位相量をΔφ(正値)とする。すると、第2送受信装置において第1信号を受信した時の送信ベースバンド信号の基準信号に対する位相は、θ1−Δφとなる。さらに、第2信号として第2送受信装置から本送受信装置に伝搬する間に、位相は、Δφだけ遅れる。したがって、本送受信装置で第2信号を復調して得られる受信ベースバンド信号の基準信号に対する位相は、θ1−2Δφとなる。この位相が受信ベースバンド信号の位相θ2に等しくなる。よって、θ1−2Δφ=θ2が成立する。
【0015】
第1位相差θ1と第2位相差θ2の絶対値が等しくなるように、送信ベースバンド信号の位相θ1は、フィードバック制御されている。したがって、θ1=−θ2であるので、θ1=Δφである。すなわち、上記の第1位相差θ1又は第2位相差θ2から、本送受信装置と第2送受信装置間の距離Lが、L=cθ1/(2πf)で求められる。ただし、cは光速、fは送信ベースバンド信号の周波数である。このようにして、本送受信装置と第2送受信装置との間でPLL同期をかけた状態で、両装置間の距離を直接的に正確に求めることができる。
【0016】
また、第2送受信装置において、第1信号を復調して得られた送信ベースバンド信号の基準信号に対する位相は、上記したように、θ1−Δφである。そして、上記のように、第1位相差θ1と第2位相差θ2の絶対値が等しくなるように、PLL同期がかかっている場合には、θ1=Δφである。したがって、第2送受信装置において得られる送信ベースバンド信号の位相は、本送受信装置の基準発振器の出力する基準信号と同位相となっている。このようなPLL同期が、本送受信装置と複数の第2送受信装置との間で確立しているならば、全ての第2送受信装置において受信した第1信号を復調して得られる送信ベースバンド信号は、基準信号と同期したものとなる。この結果、本送受信装置、それぞれ異なる距離にある全ての第2送受信装置との間で、同期を確立させることができる。よって、たとえば、この同期した送信ベースバンド信号を基準に、複数の第2送受信装置に各タイムスロットを割り当てることで、時分割多重通信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の具体的な実施例1に係る送受信装置の構成図。
【図2】実施例1に係る送受信装置と通信する第2送受信装置の構成図。
【図3】実施例1に係る送受信装置において、第2送受信装置との間でPLL同期が確立した状態での、送信ベースバンド信号の位相と、受信ベースバンド信号との位相との関係を示した説明図。
【図4】実施例2に係るシステムの構成図。
【図5】実施例3に係る、時分割による送信周波数、受信周波数の制御を行う送受信装置の動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、ブロック図を用いて本発明の具体的な実施例を説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明に係る送受信装置1の構成図である。基準発振器10は、1MHzの方形波の基準信号S0を発振する発振器である。基準発振器10の出力する基準信号S0は、第1位相比較器11と、第2位相比較器12に入力している。第1位相比較器11には、電圧制御発振器17の出力する送信ベースバンド信号B1が入力されている。送信ベースバンド信号B1は、後述するように、基準信号S0に周波数同期し、位相差が所定値となるように位相同期した方形波である。電圧制御発振器17の出力する送信ベースバンド信号B1は変調器(ミキサー)18に入力している。基準発振器10の出力する基準信号S0はPLL電圧制御発振器19に入力しており、PLL電圧制御発振器19は、基準信号S0を元に、その基準信号S0の周波数を逓倍した正弦波を搬送波として発生する。この搬送波は、変調器18に入力しており、変調器18により送信ベースバンド信号B1により搬送波が振幅変調される。そして、変調器18の出力する信号は、帯域通過フィルタ20に入力して、変調信号の上側帯波だけ抽出される。帯域通過フィルタ20の出力信号は増幅器22で増幅された後、送信アンテナ21を介して、空間に、第1送信信号S1として、放射される。
【0020】
第2送受信装置2については後述するが、第2送受信装置2からは、第1信号を受信して、単に、周波数を変移させて、第2信号S2が返信されるものとする。第2信号S2は受信アンテナ30により受信され、受信信号は増幅器31により増幅された後、復調器33に入力する。復調器33は、同期復調器であり、第2信号S2の搬送波に同期した周波数の正弦波の復調搬送波を発生して、その復調搬送波で第2信号S2を同期復調する。復調器33の出力信号は帯域通過フィルタ34を通過して、受信ベースバンド信号B2として第2位相比較器12に入力する。受信ベースバンド信号B2は方形波であり、送信ベースバンド信号B1と同一周波数であり、所定位相だけ遅れた信号である。
【0021】
第2位相比較器12では、受信ベースバンド信号B2と基準信号S0との第2位相差θ2が検出される。第2位相差θ2は、受信ベースバンド信号B2の位相−基準信号の位相として定義される。すなわち、基準信号の位相を0度とした時の受信ベースバンド信号B2の位相である。θ2の負値は、遅れ位相を表す。第2位相比較器12は、良く知られたようにフリップフロップ回路から成る。受信ベースバンド信号B2の基準信号S0に対する位相差に比例した幅のパルス信号が出力される。受信ベースバンド信号B2と基準信号S0とが同相の場合には、第2位相比較器12の出力は、デューティ比50%の方形波となり、受信ベースバンド信号B2が基準信号S0に対してπだけ位相が進んでいる場合には、デューティ比100%の方形波(ハイレベルの直流)となり、受信ベースバンド信号B2が基準信号S0に対してπだけ位相が遅れている場合には、デューティ比0%の方形波(ローレベルの直流)となるように調整されている。第2位相比較器12の出力信号はローパスフィルタ(ループフィルタ)14に入力しており、平滑化(平均化)される。ローパスフィルタ14の出力レベルが第2位相差θ2を与える。後述するように、受信ベースバンド信号B2は基準信号S0に対して、必ず位相が遅れる。したがって、第2位相差θ2は負値である。このため、反転器16において、信号レベルが反転されて、第2位相差θ2の絶対値が求められる。すなわち、反転器16の出力信号は、第2位相差の絶対値(−θ2)を与える。
【0022】
同様に、第1位相比較器11には、基準信号S0と送信ベースバンド信号B1が入力している。第1位相比較器11は、第2位相比較器12と同一の構成をしており、同一の作用をする。したがって、送信ベースバンド信号B1と基準信号S0とが同相の場合には、第1位相比較器11の出力は、デューティ比50%の方形波となり、送信ベースバンド信号B1が基準信号S0に対してπだけ位相が進んでいる場合には、デューティ比100%の方形波(ハイレベルの直流)となり、送信ベースバンド信号B1が基準信号S0に対してπだけ位相が遅れている場合には、デューティ比0%の方形波(ローレベルの直流)となるように調整されている。第1位相比較器11の出力信号はローパスフィルタ(ループフィルタ)15に入力しており、平滑化(平均化)される。ローパスフィルタ15の出力レベルが第1位相差θ1を与える。後述するように、送信ベースバンド信号B1は基準信号S0に対して、必ず位相が進んでいる。したがって、第1位相差θ1は正値である。このため、ローパスフィルタ15の出力レベルは第1位相差θ1の絶対値(θ1)を与えることになる。
【0023】
第1位相差の絶対値θ1と、第2位相差の絶対値(−θ2≧0)とが、比較器13に入力している。比較器13の出力は、第2位相差の絶対値の第1位相差の絶対値に対する差Δθを演算する。したがって、次式が成立する。
【数1】

比較器13の出力信号は、電圧制御発振器17の制御端子に入力している。Δθが正の場合には、電圧制御発振器17の出力する送信ベースバンド信号B1の位相を進めて、比較器13の出力Δθが0となるようにフィードバック制御される。また、Δθが負の場合には、電圧制御発振器17の出力する送信ベースバンド信号B1の位相を遅らせて、比較器13の出力Δθが0となるようにフィードバック制御される。このようにして、比較器13の出力Δθが、常に、0となるように、送信ベースバンド信号B1の位相は制御されることになる。すなわち、送受信装置1と第2送受信装置2との間で、ベースバンド信号に関してPLL同期が確立したことになる。
【0024】
PLL同期が確立した状態では、比較器13の出力であるΔθは零である。すなわち、次式が成立する。
【数2】

第1位相差θ1と第2位相差θ2の絶対値は等しくなる。この同期をした時の第1位相差θ1と第2位相差θ2の関係を図3に示す。
【0025】
次に、この状態での第1位相差θ1、第2位相差θ2は、送受信装置1と第2送受信装置2との間の距離を表している。いま、第2送受信装置において、第1信号の受信してから第2信号を返信するまので装置内遅延時間を零と仮定する。送信装置1から第2送受信装置までの伝搬遅延時間をΔtとし、送信ベースバンド信号B1の周波数をfとする。遅延時間Δtに相当する位相差Δφは、次式で表される。
【数3】

【0026】
基準信号S0の位相をφ0とする。すると、電圧制御発振器17の出力端における送信ベースバンド信号B1の位相φ1は、次式で表される。
【数4】

第1信号S1が伝搬して、第2送受信装置2で受信された時の送信ベースバンド信号B1の位相φ3は、次式で表される。
【数5】

第2送受信装置2では、この送信ベースバンド信号B1の位相は保持されて、第2信号S2として、送受信装置1に返信される。送受信装置1において、この第2信号S2を復調して得られる受信ベースバンド信号B2の位相φ2は、さらに、Δφだけ遅延するので、次式で表される。
【数6】

【0027】
第2位相差θ2は、受信ベースバンド信号B2の位相φ2の基準信号の位相φ0に対する位相差であるので、(6)式を用いて、次式で表される。
【数7】

(2)式の関係があるので、θ1、θ2に関して、次式が成立する。
【数8】

すなわち、送受信装置1と第2送受信装置2との間でPLL同期が確立している状態では、第1位相差θ1と第2位相差θ2とは、送受信装置1と第2送受信装置2の間の伝搬遅延時間Δtに基づく位相差を表す。送受信装置1と第2送受信装置2間の距離をLとすると次式が成立する。
【数9】

【0028】
このようにして、第1位相差θ1、又は、第2位相差θ2を用いて、送受信装置1と第2送受信装置2間の距離Lを測定することができる。この目的のために、ローパスフィルタ15の出力が、距離演算装置70に入力している。距離演算装置70は、(9)式の演算を行う装置であり、コンピュータシステムで構成されている。このように、送受信装置1と第2送受信装置2との間で、PLL同期が確立した後には、両者間の距離が時間的に変動しても、PLL同期は継続されるので、リアルタイムで、連続的に両者間の距離を測定することができる。
【0029】
第2送受信装置2は、第1信号S1を受信して、単に、周波数変換して第2信号として送信する装置である。周波数変換器は、ミキサーと帯域通過フィルタで構成できる。
なお、本発明における信号発振器は、電圧制御発振器17で構成され、本発明における送信器は、変調器18、PLL電圧制御発振器19、基準発振器10、帯域通過フィルタ20、増幅器22、送信アンテナ21により構成されている。また、本発明における受信器は、受信アンテナ30、増幅器31、帯域通過フィルタ32、復調器33、帯域通過フィルタ34により構成されている。
【0030】
次に、第2送受信装置2の他の構成例について説明する。図2において、受信アンテナ51で受信された第1信号S1は、増幅器52で増幅された後に、第1信号S1の搬送波の帯域を抽出する帯域通過フィルタ53に入力する。帯域通過フィルタ53から出力される第1信号S1は、コスタスループなどで構成される同期復調器54により同期復調されて、ベースバンド帯域を抽出するための帯域通過フィルタ55に入力する。帯域通過フィルタ55の出力信号が送信ベースバンド信号B1となる。送信ベースバンド信号B1は、変調器56に入力する。固定周波数発振器58から周波数f2の方形波がPLL電圧制御発振器57に入力する。PLL電圧制御発振器57においては、その方形波の周波数を所定数倍に逓倍した周波数Mf2の正弦波が生成される。PLL電圧制御発振器57の出力は搬送波として、変調器56に入力する。この搬送波の周波数は、受信した第1信号の搬送波の周波数f1と異なり、第2送受信装置2に固有に割り当てられた周波数である。この変調器56により送信ベースバンド信号B1により周波数Mf2の搬送波が振幅変調されて、上側帯波だけ通過させる帯域通過フィルタ59に入力して、増幅器60で増幅された後、第2信号S2として、送信アンテナ61から空間に放射される。この第2信号S2が送受信装置1により受信されて、上記のようにPLL同期が確立される。
【0031】
送受信装置1と第2送受信装置2との間でPLL同期が確立すると、第2送受信装置2で復調されて得られる送信ベースバンド信号B1の位相は、(6)式により、φ3=φ0+θ1−Δφであるが、θ1=Δφが成立しているので、φ3=φ0となる。すなわち、第2送受信装置2で復調されて得られる送信ベースバンド信号B1は、送受信装置1の基準信号S0と同一周波数で、位相同期した信号となる。これにより、送受信装置1と第1送受信装置2との間で、同期を確立させることができる。このように、送受信装置1と第2送受信装置2との間で、PLL同期が確立した後には、両者間の距離が時間的に変動しても、PLL同期は継続されるので、距離の時間的変動に係わらず、送受信装置1と第2送受信装置との間で、共通の基準信号S0を得ることができ、同期をとることができる。
【実施例2】
【0032】
本実施例は、図4に示すように、1台の送受信装置1に対して、複数の第2送受信装置2が存在する場合において、距離測定と同期確立を可能とした実施例である。送受信装置1は、図1に示す第1位相比較器11、第2位相比較器12、比較器13、電圧制御発振器17、変調器18、PLL電圧制御発振器19、復調器33などの送信ベースバンド信号B1と第1信号S1を発生する変調系統、及び、第2信号S2を復調して受信ベースバンド信号B2を得る復調系統とを、第2送受信装置の数nだけ有する。そして、各系統に第1送信信号S1の搬送波の周波数をF1〜Fn、割り当てる。周波数F1〜Fnは、それぞれ、第2送受信装置A1〜Anに、固有に割り当てられている。各第2送受信装置は、自己に割り当てられた周波数以外の第1信号S1は、周波数変移、又は、復調できないように帯域通過フィルタなどを用いて構成されている。又、第2送受信装置A1〜Anの返信する第2信号S2の搬送波の周波数は、それぞれ、Mf1〜Mfnの固有の値に割り当てられている。
【0033】
送受信装置1の各復調器33は、これらの周波数Mf1〜Mfnの第2信号S2を、それぞれ、帯域通過フィルタにより選別して復調するように構成されている。このような構成により、送受信装置1と複数の第2送受信装置A1〜An間で、それらの距離が時間的に変動しても、PLL同期を確立することができる。この結果、送受信装置1と各第2送受信装置A1〜An間の距離を、距離が時間的に変動しても、リアルタイムで連続して測定できる。また、送受信装置1と各第2送受信装置A1〜An間の距離が時間的に変動しても、常に、第2送受信装置A1〜Anで復調される送信ベースバンド信号B1の位相を基準信号S0の位相に同期させることができる。すなわち、送受信装置1、全ての第2送受信装置A1〜Anの全てにおいて、それらの距離が変動しても、同期信号を得ることができ、同期確立が実現できる。これにより、同期信号を基準にして、各第2送受信装置A1〜Anにタイムスロットを割り当てることで、時分割多重通信を実現できる。
【実施例3】
【0034】
実施例3は、実施例2のように送受信装置1の変調及び復調系統を、n系統並列に設けるのではなく、n個の時間区間に分けて、それぞれ、順に、周波数F1〜Fnのn個の第1信号S1の送信と、周波数Mf1〜Mfnの第2信号S2の受信を、繰り返すようにした実施例である。図5に示すように、送受信装置1は、各第2送受信装置A1〜Anと、上記のPLL同期確立を、送信周波数及び受信周波数を変化させて、順次、繰り返して、実行する。本実施例の場合には、各第2送受信装置A1〜Anは、送受信装置1との間で、各時間区間だけPLL同期が確立されることになる。この各時間区間において、各第2送受信装置A1〜Anと送受信装置1との間の距離が測定されることになる。したがって、距離測定は、時間的には離散的に得られるが、周波数変化の1周期を短くすることで、距離が時間的に変動してせ、リアルタイムでの距離測定が可能となる。
【0035】
各第2送受信装置A1〜Anには、PLLが確立た時に復調して得られる送信ベースバンド信号B1に同期した同期信号を発振する同期発振器が設けられている。この同期発振器は、常に、発振周波数と位相とをレジスタに記憶している。同期発振器は、たとえば、ディジタルシンセサイザで構成できる。PLL同期を行う時間区間では、復調して得られた送信ベースバンド信号S1と同期信号との間の周波数差と位相差を、更新パルスや絶対値でフィードバックさせて、レジスタの値が、常時、更新される。これにより、PLL同期が確立する。この同期発振器は、PLL同期を確立する時間区間以外では、フィードバック信号が入力されず、レジスタの値は更新されない。したがって、この同期発振器は、PLL同期を確立する時間区間以外では、PLL同期を確立させる時間区間の最後に、レジスタに保持されている周波数と位相とに同期して同期信号を発振する。
【0036】
このように、第2送受信装置の同期発振器を構成することで、送受信装置1との間でのPLL同期確立を、時分割で行うことができる。送受信装置1と第2送受信装置A1〜Anの全てにおいて、それらの距離が変動しても、同期信号を得ることができ、同期確立が実現できる。なお、複数の第2送受信装置において、同期信号を得る場合には、PLL同期確立により、一端、同期信号が得られた場合には、送受信装置1に対する距離が時間的に変化しても、第2送受信装置における同期信号の位相は、距離によって影響を受けない。したがって、上記のように、ディジタルシンセサイザを用いて同期信号を発生させ、周期的に、送信装置1から送信される送信ベースバンド信号B1に、同期させることで、同期信号の位相を微調整すれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、複数の送受信装置間の距離測定や、同期確立に用いることができる。
【符号の説明】
【0038】
1…送受信装置
2…第2送受信装置
11…第1位相比較器
12…第2位相比較器
13…比較器
17…電圧制御発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の第2送受信装置に対して第1信号を送信し、第2送受信装置において受信した前記第1信号を折り返して第2信号として返信することにより、第2送受信装置との間において、フェズドロックループにより同期をとる送受信装置において、
所定の基準周波数の基準信号を出力する基準発振器と、
送信ベースバンド信号を発生する、位相と周波数が可変の信号発振器と、
前記信号発振器により生成された前記送信ベースバンド信号により搬送波を変調して得られる前記第1信号を送信する送信器と、
前記第2送受信装置から受信した第2信号を復調して受信ベースバンド信号を得る受信器と、
前記送信器に入力される前記送信ベースバンド信号と前記基準発振器の出力する前記基準信号との第1位相差を検出する第1位相比較器と、
前記受信器による復調により得られた前記受信ベースバンド信号と前記基準発振器の出力する前記基準信号との第2位相差を検出する第2位相比較器と、
前記第1位相差と前記第2位相差との絶対値の差を出力する比較器と
を有し、
前記比較器の出力が零となるように、前記信号発振器の位相と周波数をフィードバック制御した
ことを特徴とする送受信装置。
【請求項2】
前記第1位相比較器の出力する前記第1位相差又は前記第2位相比較器の出力する第2位相差から、前記第2送受信装置までの距離を求める距離測定装置を有することを特徴とする請求項1に記載の送受信装置。
【請求項3】
前記送信ベースバンド信号は、方形波又は周期的パルスであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の送受信装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の送受信装置と、複数の前記第2送受信装置とから成り、前記各第2送受信装置において、前記第1信号を受信して、復調された前記各送信ベースバンド信号を、複数の前記第2送受信装置間における同期信号とすることを特徴とする同期システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−108076(P2012−108076A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258872(P2010−258872)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】