説明

通信装置及び通信方法

【課題】PLL回路をベースとしたCDR回路を使用したトランシーバ間において、再同期を高速に行うことを目的とする。
【解決手段】PLL回路により構成されるクロック抽出部16に、受信信号を受信していない非受信状態の場合には、受信信号を受信している受信状態から非受信状態へ移行する時点におけるクロック信号の位相を示す位相情報を保持しておく受信側位相保持部22を追加する。データ送信時には、受信側位相保持部22が保持した位相情報を用いて生成されたクロック信号を用いて送信データを送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、通信装置間の再同期を高速に行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高速なシリアル通信用のトランシーバ(通信装置)では、PLL(Phase Locked Loop)回路をベースとしたCDR(Clock and Data Recovery)回路を利用した受信回路が一般的に用いられている。
このCDR回路を用いたトランシーバ間の通信では、送信側のトランシーバは、データ信号にクロック信号を重畳させた信号を送信する。受信側のトランシーバは、PLL回路を使用して受信データからクロック信号を抽出(分離)し、抽出したクロックを使用してデータのサンプリングを行う。
【0003】
受信側でクロック信号を正しく抽出できるようにするには、データ信号に値の変化がある程度の頻度で出現する必要がある。そこで、送信側では、スクランブル方式や8B10B方式によるエンコードを一般的に用い、同じ値が変化することなく長期間連続するようなデータであっても、数サイクル中に1回は必ず値を変化させている。
【0004】
このように、データ信号にクロック信号を重畳させて送信する通信方式では、データとクロックとを1つの信号線で同時に送ることができ、データとクロックとの間のスキュー(受信時間差)を考慮する必要が無くなる。そのため、伝送レートの高速化や、伝送距離の長距離化に向いている。
【0005】
特許文献1には、データ信号にクロック信号を重畳させて送信する通信方式において、CDR回路でのクロックの抽出にPLL回路を使用しない方法についての記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−268406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のPLL回路をベースとしたCDR回路では、一旦受信信号に対する同期が外れてしまうと、再同期のために長い待ち時間が必要になる。一般的には数百サイクルの同期用のパターンを流してPLL回路を再同期させる必要がある。
この発明は、PLL回路をベースとしたCDR回路を使用したトランシーバ間において、再同期を高速に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る通信装置は、
所定のデータを表すデータ信号にクロック信号が重畳された信号を受信信号として受信する受信部と、
前記受信部が受信した受信信号からクロック信号を抽出するクロック抽出部であって、前記受信部が受信信号を受信していない非受信状態の場合には、前記受信部が受信信号を受信している受信状態から前記非受信状態へ移行する時点におけるクロック信号の位相を示す位相情報を保持しておくクロック抽出部と、
前記クロック抽出部が抽出したクロック信号を用いて、前記受信信号からデータを抽出するデータ抽出部と、
前記クロック抽出部が保持した位相情報を用いて生成されたクロック信号を送信クロック信号として、前記送信クロック信号に同期したデータ信号を送信する送信部であって、前記送信クロック信号をデータ信号に重畳させた信号を送信信号として送信する送信部と
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る通信装置では、非受信状態の場合には、非受信状態への移行時におけるクロック信号の位相情報を保持しておき、再びデータ信号を送信する場合に、保持した位相情報を用いて生成されたクロック信号をデータ信号に重畳させて送信する。そのため、この通信装置間で通信を行う場合、非受信状態であっても、伝送路に接続された各通信装置は、概ね同一の位相情報を保持しており、再同期を高速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】トランシーバ1の基本構成を示す図。
【図2】クロック抽出部16の基本構成を示す図。
【図3】受信信号と抽出されるクロック信号とを示す図。
【図4】1対1の接続関係を維持して、多数のトランシーバ1を接続した例を示す図。
【図5】バス構造の接続関係により、多数のトランシーバ1を接続した例を示す図。
【図6】バス構造の接続関係により、多数のトランシーバ1を接続した例を示す図。
【図7】1対1の接続とした場合と、バス構造の接続とした場合との通信の流れを対比した図。
【図8】実施の形態1に係るトランシーバ1の構成を示す図。
【図9】実施の形態1に係るクロック抽出部16の構成例を示す図。
【図10】実施の形態1に係る送信側位相保持部23の構成例を示す図。
【図11】図1に示すトランシーバ1を用いた場合と、図8に示すトランシーバ1を用いた場合との通信の流れを対比した図。
【図12】実施の形態2に係るトランシーバ1の構成を示す図。
【図13】実施の形態2に係る信号調整部30の構成例を示す図。
【図14】実施の形態3に係るクロック抽出部16の構成例を示す図。
【図15】実施の形態3に係る送信側位相保持部23の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、トランシーバ1の基本構成を示す図である。なお、図1では、トランシーバ1aの構成のみを詳細に示し、トランシーバ1bの構成を省略して示しているが、トランシーバ1bはトランシーバ1aと同じ構成である。
【0012】
トランシーバ1aとトランシーバ1bとは、伝送路2a,2bを介して1対1に接続されている。伝送路2aは、トランシーバ1aからトランシーバ1bへデータを送信する場合に利用される伝送路2であり、伝送路2bは、トランシーバ1bからトランシーバ1aへデータを送信する場合に利用される伝送路2である。
【0013】
各トランシーバ1は、信号を送信する送信系3と、信号を受信する受信系4とを備える。送信系3は、送信バッファ11(送信部)、シリアライザ12を備え、受信系4は、受信バッファ13(受信部)、CDR回路14、デシリアライザ15を備える。
送信バッファ11は、出力制御信号による制御に応じて、シリアライザ12から出力されたデータ信号を送信信号として、伝送路2を介して他方のトランシーバ1へ送信する回路である。送信バッファ11は、出力制御信号による制御に応じて、データ信号の送信時以外は、出力状態をハイ・インピーダンスとするスリーステート機能を有する。ただし、図1の構成の場合には、このスリーステート機能は無くてもよい。シリアライザ12は、送信データをパラレルデータからシリアルデータに変換して、送信クロックに同期したデータ信号に変換する回路である。なお、データ信号には、スクランブル方式や8B10B方式により、送信クロックが重畳されている。
受信バッファ13は、伝送路を介して他方のトランシーバ1が送信したデータ信号を、受信信号として受信する回路である。CDR回路14は、クロック抽出部16、データサンプリング回路17(データ抽出部)を備える。クロック抽出部16は、受信バッファ13が受信した受信信号からクロック信号を抽出する回路である。データサンプリング回路17は、クロック抽出部16が抽出したクロック信号を用いて、受信信号からデータのサンプリングを行う回路である。デシリアライザ15は、データサンプリング回路17がサンプリングしたシリアルデータをパラレルデータに変換する回路である。
【0014】
図2は、クロック抽出部16の基本構成を示す図である。
クロック抽出部16は、いわゆるPLL回路であり、位相比較器18、ループフィルタ19、VCO20(Voltage Controlled Oscillator、電圧制御発振機)を備える。
位相比較器18は、受信バッファ13が受信した受信信号と、VCO20が出力するフィードバック信号との位相差を電位に変換して出力する。ループフィルタ19は、ローパスフィルタであり、位相比較器18が出力した電位から高周波成分を除去して出力する。VCO20は、ループフィルタ19が出力した電位を制御電位として、制御電位に応じた周波数のクロック信号を出力する。なお、VCO20は、出力したクロック信号をフィードバック信号として位相比較器18へ入力する。
つまり、クロック抽出部16は、受信信号と、VCO20が出力するクロック信号(フィードバック信号)との位相差を位相比較器18により検出し、検出した位相差情報をVCO20に入力することにより、受信信号とVCO20が出力するクロック信号との位相を同期させる。これにより、クロック抽出部16は、図3に示すような、受信信号の変化タイミングに同期したクロック信号を出力する。このとき、ループフィルタ19がどの程度の高周波成分を除去するか等により、VCO20の出力信号が受信信号に追随する速度(応答速度)が変わる。
【0015】
ここで、図2に示すPLL回路を用いたCDR回路14では、一旦受信信号に対するVCO20の出力信号(クロック信号)の同期が外れてしまうと、再同期のために長い待ち時間が必要になる。
再同期のために長い待ち時間が必要なのには、受信信号が数サイクルにわたって論理値“1”や“0”の状態が連続しており変化しないような場合でも、CDR回路14の同期が簡単に外れることが無いようにするために、PLL回路の応答速度を極端に早くすることができないという事情が関係している。
【0016】
そこで、一般的なこの種のトランシーバ1を用いた通信では、図1に示すように、トランシーバ1間を1対1の接続としている。そして、トランシーバ1間で有意な通信を行っていない状態においても、ダミーのデータパターン(アイドルパターン)を流し続ける。これにより、CDR回路14の同期が外れないようにしている。
また、接続台数を増やす場合には、図4に示すように、1対1の接続関係を維持するために、スイッチやハブを使用することが必須となる。したがって、拡張可能数がスイッチやハブのポート数により制約を受けてしまう。また、スイッチやハブを追加することによりコストが増加してしまう。
【0017】
一方、図5や図6に示すように、トランシーバ1間を1対1の接続ではないトポロジーの接続、すなわち複数のトランシーバ1が1本の信号線に接続されるバス構造の接続とした場合、データ信号を送信するトランシーバ1が切り替わる度に、CDR回路14の再同期を行う必要がある。そのため、本来送りたいデータの前に再同期用のデータを長時間送信しなければならない。なお、このバス構造の場合には、送信バッファ11が、出力制御信号による制御に応じて、データ信号の送信時以外は、出力状態をハイ・インピーダンスとするスリーステート機能を有することが必須となる。
【0018】
図7は、1対1の接続とした場合と、バス構造の接続とした場合との通信の流れを対比した図である。
上述した通り、1対1の接続とした場合には、通信と通信との間に、ダミーのデータパターンを流しておくことで、再同期の処理を行うことなく次の通信を行える。
これに対して、バス構造の接続とした場合には、通信が一旦終わり、次の通信が開始されるまでには、通信の衝突を防止するためのアイドル期間がとられる。この間にトランシーバ1間の同期が外れてしまうため、次の通信を行うには、再同期の処理を行う必要がある。したがって、再同期の処理を行う分、レイテンシが増大してしまう。
【0019】
実施の形態1では、バス構造の接続とした場合に、再同期の処理に係る時間を短くすることが可能なトランシーバ1について説明する。
【0020】
図8は、実施の形態1に係るトランシーバ1の構成を示す図である。なお、図8では、トランシーバ1aの構成のみを詳細に示し、他のトランシーバ1b,...,1nの構成を省略して示しているが、トランシーバ1b,...,1nはトランシーバ1aと同じ構成である。
図8に示すトランシーバ1a,...,1nは、1対1には接続されず、1本の伝送路2を介してバス構造に接続される。
【0021】
図8に示す各トランシーバ1は、受信系4におけるクロック抽出部16が受信有無検出部21、受信側位相保持部22を備える点と、送信系3が送信側位相保持部23(送信クロック保持部)を備える点とが、図1に示すトランシーバ1と異なる。他は、図1に示すトランシーバ1と同様であるため、同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0022】
受信有無検出部21は、受信バッファ13が受信信号を受信している受信状態か、受信していない非受信状態かを検出する回路である。受信側位相保持部22は、非受信状態であると受信有無検出部21が検出している場合には、受信状態から非受信状態へ移行した時点におけるクロック信号の位相を示す位相情報を保持する回路である。
送信側位相保持部23は、非受信状態であると受信有無検出部21が検出している場合には、受信状態から非受信状態へ移行した時点におけるクロック信号の位相情報を保持する回路である。また、送信側位相保持部23は、送信バッファ11が送信信号を送信している場合には、送信信号を送信する直前のクロック信号の位相情報を保持する回路である。
【0023】
図9は、実施の形態1に係るクロック抽出部16の構成例を示す図である。
図9に示すクロック抽出部16では、受信側位相保持部22は、サンプルホールド回路(保持回路)としている。サンプルホールド回路は、受信有無検出部21が非受信状態であると検出している場合には、受信状態から非受信状態へ移行した時点におけるループフィルタ19の出力電位を位相情報として保持しておく。そして、サンプルホールド回路は、受信有無検出部21が非受信状態であることを検出している場合には、ループフィルタ19の出力電位に代えて、保持した電位をVCO20の制御電位とする。
したがって、図9に示すクロック抽出部16では、非受信状態の場合におけるVCO20の制御電位は一定となり、VCO20から出力されるクロック信号の周波数は一定になる。
【0024】
図10は、実施の形態1に係る送信側位相保持部23の構成例を示す図である。
図10では、送信側位相保持部23をクロック抽出部16と同様に、PLL回路として構成している。ここで、位相比較器24、ループフィルタ25、VCO26は、位相比較器18、ループフィルタ19、VCO20と同一である。但し、位相比較器24の入力信号は、CDR回路14(つまり、クロック抽出部16)が出力したクロック信号である。
サンプルホールド回路27は、受信有無検出部21が非受信状態であることを検出している場合と、出力制御信号が送信信号を送信中であることを示す場合とのいずれかの場合には、その直前の時点におけるループフィルタ25の出力電位を位相情報として保持しておく。そして、サンプルホールド回路27は、前記いずれかの場合には、ループフィルタ25の出力電位に代えて、保持した電位をVCO26の制御電位とする。
したがって、図10に示す送信側位相保持部23では、受信有無検出部21が非受信状態であることを検出している場合と、出力制御信号が送信信号を送信中であることを示す場合とのいずれかの場合には、VCO26の制御電位は一定となり、VCO26から出力されるクロック信号の周波数は一定になる。
【0025】
図8に示す各トランシーバ1の動作について説明する。ここでは、(1)トランシーバ1aが送信信号を送信し、トランシーバ1aが送信した送信信号を他のトランシーバ1b,...,1nが受信信号として受信しており、その後、(2)送信信号が送信されないアイドル期間を経て、(3)トランシーバ1bが送信信号を送信し、トランシーバ1bが送信した送信信号を他のトランシーバ1a,1c,...,1nが受信信号として受信するものとする。
【0026】
<(1)トランシーバ1aが送信信号を送信している場合の動作>
トランシーバ1aでは、送信バッファ11は、データ信号に送信側位相保持部23が出力するクロック信号を重畳させた送信信号を伝送路2へ送信する。このとき、他のトランシーバ1b,...,1nでは、送信バッファ11が、ハイ・インピーダンスを送信する。
【0027】
トランシーバ1aを含む各トランシーバ1a,...,1nでは、受信バッファ13は、トランシーバ1aの送信バッファ11が送信した送信信号を受信信号として受信する。受信バッファ13が受信した受信信号は、クロック抽出部16とデータサンプリング回路17とへ送られる。クロック抽出部16は、受信信号と同期したクロック信号を出力し、データサンプリング回路17は、クロック抽出部16が出力したクロック信号を用いてデータのサンプリングを行う。そして、デシリアライザ15により、サンプリングされたシリアルデータがパラレルデータに変換される。
【0028】
また、各トランシーバ1a,...,1nでは、クロック抽出部16で抽出されたクロック信号は、送信側位相保持部23へ出力される。
トランシーバ1aでは、送信信号の送信中の場合、送信側位相保持部23は送信直前のクロック信号の位相情報を保持しておく。図10に示す送信側位相保持部23であれば、VCO26の制御電位は一定となり、VCO26から出力されるクロック信号は一定になる。つまり、送信バッファ11が利用するクロック周波数は一定になる。
一方、トランシーバ1b,...,1nでは、送信側位相保持部23は、クロック抽出部16で抽出されたクロック信号を出力する。図10に示す送信側位相保持部23であれば、クロック抽出部16で抽出されたクロック信号と同期したクロック信号が出力される。
【0029】
つまり、トランシーバ1aが送信信号を送信している場合、トランシーバ1a,...,1nにおけるクロック抽出部16と送信側位相保持部23とが出力するクロック信号は全て同期している。
【0030】
<(2)アイドル期間中の動作>
トランシーバ1aの送信バッファ11は、送信信号の送信を停止して、他のトランシーバ1b,...,1nと同様に、ハイ・インピーダンスを送信する。
【0031】
すると、トランシーバ1aを含む各トランシーバ1a,...,1nでは、受信有無検出部21は、非受信状態を検出する。非受信状態を受信有無検出部21が検出すると、受信側位相保持部22は、受信状態から非受信状態へ移行した時点におけるクロック信号の位相情報を保持する。これにより、全てのトランシーバ1a,...,1nの受信側位相保持部22が、伝送路2の遅延の分の誤差があるものの、概ね同一の位相情報を保持することになる。
図9に示すクロック抽出部16であれば、受信側位相保持部22は、受信状態から非受信状態へ移行した時点におけるループフィルタ19の出力電位を保持しておく。そして、受信側位相保持部22は、非受信状態の間、ループフィルタ19の出力電位に代えて、保持した電位をVCO20の制御電位とする。これにより、全てのトランシーバ1a,...,1nのVCO20の制御電位が概ね同一となり、全てのトランシーバ1a,...,1nのVCO20から概ね同一のクロック信号が出力される。
【0032】
また、トランシーバ1aを含む各トランシーバ1a,...,1nでは、非受信状態を受信有無検出部21が検出すると、送信側位相保持部23は、受信状態から非受信状態へ移行した時点におけるクロック信号の位相情報を保持する。これにより、トランシーバ1a,...,1nの送信側位相保持部23が、概ね同一の位相情報を保持することになる。
図10に示す送信側位相保持部23であれば、受信状態から非受信状態へ移行した時点におけるループフィルタ25の出力電位を保持しておく。そして、受信側位相保持部22は、非受信状態の間、ループフィルタ25の出力電位に代えて、保持した電位をVCO20の制御電位とする。これにより、全てのトランシーバ1a,...,1nのVCO20の制御電位が概ね同一となり、全てのトランシーバ1a,...,1nのVCO20から概ね同一のクロック信号が出力される。
【0033】
つまり、アイドル期間中においても、トランシーバ1a,...,1nにおけるクロック抽出部16と送信側位相保持部23とが出力するクロック信号は全て概ね同期している。
【0034】
<(3)トランシーバ1bが送信信号を送信している場合の動作>
トランシーバ1bでは、送信バッファ11は、データ信号に送信側位相保持部23が出力するクロック信号を重畳させた送信信号を伝送路2へ送信する。このとき、他のトランシーバ1a,1c,...,1nでは、送信バッファ11が、ハイ・インピーダンスを送信する。
【0035】
トランシーバ1bを含む各トランシーバ1a,...,1nでは、受信バッファ13は、トランシーバ1bの送信バッファ11が送信した送信信号を受信信号として受信する。受信バッファ13が受信した受信信号は、クロック抽出部16とデータサンプリング回路17とへ送られる。クロック抽出部16は、受信信号と同期したクロック信号を出力し、データサンプリング回路17は、クロック抽出部16が出力したクロック信号を用いてデータのサンプリングを行う。そして、デシリアライザ15により、サンプリングされたシリアルデータがパラレルデータに変換される。
【0036】
なお、通常であれば、トランシーバ1bからの受信信号の受信を開始した時点では、受信信号と、クロック抽出部16が出力しているクロック信号との位相は、全く揃っておらず、受信信号と、クロック抽出部16が出力しているクロック信号とは全く同期していない。これは、通常、アイドル期間中は、クロック抽出部16は制御されておらず、自走状態となっているためである。そのため、再同期するのに長い時間がかかる。
しかし、上述したように、実施の形態1に係るトランシーバ1では、アイドル期間中でも、トランシーバ1a,...,1nにおけるクロック抽出部16と送信側位相保持部23とが出力するクロック信号は全て概ね同期している。したがって、トランシーバ1bから送信された送信信号(受信信号)と、他のトランシーバ1a,1c,...,1nのクロック抽出部16が出力するクロック信号とは概ね同期している。そのため、短時間で再同期することができる。
図9に示すクロック抽出部16であれば、受信信号の受信を開始した時点で、受信信号とVCO20が出力するクロック信号との位相差がほとんどないため、短時間で受信信号に同期したクロック信号を出力することができる。
【0037】
図11は、図1に示すトランシーバ1を用いた場合と、図8に示すトランシーバ1を用いた場合との通信の流れを対比した図である。
上述した通り、通信が一旦終わり、次の通信が開始されるまでには、通信の衝突を防止するためのアイドル期間がとられるという点についてはいずれも同じである。しかし、図8に示すトランシーバ1を用いた場合、短時間で再同期することができるため、伝送路の使用効率の低下を抑えることができる。
【0038】
以上のように、実施の形態1に係るトランシーバ1では、PLL回路をベースとしたCDR回路を用いたトランシーバ1を、1対1の接続ではなく、バス構造の接続とした場合であっても、再同期にかかる時間を短くでき、伝送路の使用効率の低下を抑えることができる。
なお、実施の形態1に係るトランシーバ1は、信号の送信中は、送信側位相保持部23が位相情報を保持しておき、一定のクロック信号を利用して信号を送信する。そのため、安定した通信を行うことができる。
【0039】
実施の形態2.
実施の形態2では、送信クロックの切り替えを可能としたトランシーバ1について説明する。
【0040】
図12は、実施の形態2に係るトランシーバ1の構成を示す図である。
図12に示すトランシーバ1は、クロック切替部28を備える点が、図8に示すトランシーバ1と異なる。他は、図8に示すトランシーバ1と同じであるため、同一のものには同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
クロック切替部28は、セレクタ29(クロック選択部)、信号調整部30を備える。
【0042】
セレクタ29は、切替信号に従い、ローカル送信クロック信号と、送信側位相保持部23が出力するクロック信号とのどちらを使用してデータを送信するかを切り替える。送信バッファ11は、セレクタ29が選択したクロック信号を重畳させた送信信号を送信する。
例えば、セレクタ29は、通常動作時には送信側位相保持部23が出力するクロック信号を選択して送信クロックとして使用させる。
一方、セレクタ29は、何らかの理由により高精度なクロックを使用したデータ信号を伝送路2へ送出して、各トランシーバ1の状態を理想的な状態にする必要が生じた場合には、高精度な水晶発振器等を使用して生成したローカル送信クロックを選択して送信クロックとして使用させる。具体的には、システムの起動時やシステムに異常が発生してその是正を行う場合、通信品質向上のために定期的に高精度なクロック信号による通信を行う場合等が考えられる。
【0043】
信号調整部30は、セレクタ29がクロック信号を変更した場合に、急激な位相変化が発生しないように、変更前のクロック信号から変更後のクロック信号に徐々にクロック信号を変化させて出力する。
【0044】
図13は、実施の形態2に係る信号調整部30の構成例を示す図である。
図13では、信号調整部30をクロック抽出部16と同様に、PLL回路として構成している。ここで、位相比較器31、ループフィルタ32、VCO33は、位相比較器18、ループフィルタ19、VCO20と同一である。但し、位相比較器31の入力信号は、セレクタ29が出力したクロック信号である。
セレクタ29で位相状態のまったく異なるクロック信号に切替えたとしても、信号調整部30により急激な位相変化が吸収される。そして、最終的にシリアライザ12に入力される送信クロック信号は徐々に変化しながらセレクタ29で選択されたクロック信号の位相に一致させることができる。そのため、送信バッファ11からの出力信号に大きな影響を与えることなく、送信クロック信号の切替えが可能となる。
【0045】
実施の形態3.
実施の形態3では、より高速な再同期を実現するトランシーバ1について説明する。
【0046】
図14は、実施の形態3に係るクロック抽出部16の構成例を示す図である。なお、図14では、図9に示すクロック抽出部16の構成を変形した例を示している。
図14に示すクロック抽出部16は、ループフィルタ19に代えて、高速応答用ループフィルタ34、低速応答用ループフィルタ35、ループフィルタ選択部36、同期判定部37を備える点が、図9に示すクロック抽出部16と異なる。他は、図9に示すクロック抽出部16と同じであるため、同一のものには同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
高速応答用ループフィルタ34は、VCO20の出力信号が受信信号に追随する速度(応答速度)が速くなるように設定されたループフィルタである。低速応答用ループフィルタ35は、高速応答用ループフィルタ34に比べて、応答速度が遅くなるように設定されたループフィルタである。ループフィルタ選択部36は、高速応答用ループフィルタ34と低速応答用ループフィルタ35とのどちらから出力された電位を受信側位相保持部22へ入力するかを選択する回路である。同期判定部37は、受信信号と、VCO20が出力するクロック信号とが同期したか否かを判定する回路である。
【0048】
実施の形態3に係るクロック抽出部16の動作について説明する。
(1)通常の受信動作時には、ループフィルタ選択部36は低速応答用ループフィルタ35を選択する。そのため、クロック抽出部16は、受信バッファ13が受信した受信信号の変化に対して、ある程度ゆっくりとした追随動作を行ってクロック信号の抽出を行う。これにより、受信信号が数サイクルにわたって論理値“1”や“0”の状態が連続しており変化しないような場合でも、受信信号とクロック信号との同期が簡単に外れることがない。
(2)受信有無検出部21が、受信バッファ13が受信する受信信号が途切れたこと(非受信状態になったこと)を検出すると、サンプルホールド回路(受信側位相保持部22)により保持された電位を制御電位としてVCO20が動作する。したがって、VCO20が出力するクロック信号の位相は保持される。
(3)受信有無検出部21が、受信バッファ13が再び受信信号を受信したことを検出すると、サンプルホールド回路は電位の保持を止め、ループフィルタ選択部36が選択するループフィルタが出力する電位を制御電位としてVCO20が動作する。このとき、ループフィルタ選択部36は高速応答用ループフィルタ34を選択する。そのため、クロック抽出部16は、受信バッファ13が受信した受信信号の変化に対して、高速に追随動作を行ってクロック信号の抽出を行う。この際、同期判定部37は、随時、高速応答用ループフィルタ34が出力する電位が安定しているか否かを監視することにより、受信信号と、VCO20が出力するクロック信号とが同期したか否かを判定する。
(4)同期判定部37が同期したと判定すると、ループフィルタ選択部36は高速応答用ループフィルタ34から低速応答用ループフィルタ35に切り替え、(1)の通常の受信動作へ移行する。
【0049】
送信側位相保持部23についても、クロック抽出部16と同様の変形をすることにより、高速に再同期させることができる。
【0050】
図15は、実施の形態3に係る送信側位相保持部23の構成例を示す図である。なお、図15では、図10に示す送信側位相保持部23の構成を変形した例を示している。
図15に示す送信側位相保持部23は、ループフィルタ25に代えて、高速応答用ループフィルタ38、低速応答用ループフィルタ39、ループフィルタ選択部40、同期判定部41を備える点が、図10に示す送信側位相保持部23と異なる。他は、図10に示す送信側位相保持部23と同じである。
なお、図15に示す送信側位相保持部23の動作は、図14に示すクロック抽出部16の動作と同様であるため、説明を省略する。
【0051】
以上のように、実施の形態3に係るトランシーバ1では、クロック抽出部16に2つのループフィルタを持たせることにより、より高速な再同期を実現する。
【符号の説明】
【0052】
1 トランシーバ、2 伝送路、3 送信系、4 受信系、11 送信バッファ、12 シリアライザ、13 受信バッファ、14 CDR回路、15 デシリアライザ、16 クロック抽出部、17 データサンプリング回路、18,24,31 位相比較器、19,25,32 ループフィルタ、20,26,33 VCO、21 受信有無検出部、22 受信側位相保持部、23 送信側位相保持部、27 サンプルホールド回路、28 クロック切替部、29 セレクタ、30 信号調整部、34,38 高速応答用ループフィルタ、35,39 低速応答用ループフィルタ、36,40 ループフィルタ選択部、37,41 同期判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のデータを表すデータ信号にクロック信号が重畳された信号を受信信号として受信する受信部と、
前記受信部が受信した受信信号からクロック信号を抽出するクロック抽出部であって、前記受信部が受信信号を受信していない非受信状態の場合には、前記受信部が受信信号を受信している受信状態から前記非受信状態へ移行する時点におけるクロック信号の位相を示す位相情報を保持しておくクロック抽出部と、
前記クロック抽出部が抽出したクロック信号を用いて、前記受信信号からデータを抽出するデータ抽出部と、
前記クロック抽出部が保持した位相情報を用いて生成されたクロック信号を送信クロック信号として、前記送信クロック信号に同期したデータ信号を送信する送信部であって、前記送信クロック信号をデータ信号に重畳させた信号を送信信号として送信する送信部と
を備えることを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記受信部は、他の通信装置が送信した送信信号だけでなく、自身が備える前記送信部が送信した送信信号も受信する
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記クロック抽出部は、
前記受信信号とフィードバック信号との位相差を電位に変換する位相比較器と、
前記位相比較器が変換した電位を入力として、高周波成分を除去した電位を出力するループフィルタと、
前記ループフィルタが出力する電位を制御電位として、制御電位に応じた周波数のクロック信号を出力するとともに、出力するクロック信号を前記フィードバック信号として前記位相比較器へ入力する電位制御発振機と、
前記非受信状態の場合には、前記受信状態から前記非受信状態へ移行する時点において前記ループフィルタが出力した電位を前記位相情報として保持しておき、前記ループフィルタが出力する電位に代えて、保持した電位を前記電位制御発振機の前記制御電位とする保持回路と
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記送信部は、前記電位制御発振機が出力したクロック信号を前記送信クロック信号とする
ことを特徴とする請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記通信装置は、さらに、
前記電位制御発振機が出力したクロック信号に同期したクロック信号を出力する送信クロック保持部であって、前記送信部が送信信号を送信している場合には、出力するクロック信号の周波数を一定に保持する送信クロック保持部
を備え、
前記送信部は、前記送信クロック保持部が出力したクロック信号を前記送信クロック信号とする
ことを特徴とする請求項4に記載の通信装置。
【請求項6】
前記通信装置は、さらに、
前記位相情報を用いて生成されたクロック信号と、所定のクロック信号とのいずれかを選択するクロック選択部と、
前記クロック選択部が選択するクロックを切り替えた場合に、切り替え前のクロック信号から切り替え後のクロック信号に徐々にクロック信号を変化させて出力する信号調整部と
を備え、
前記送信部は、前記信号調整部が出力したクロック信号を前記送信クロック信号とする
ことを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の通信装置。
【請求項7】
前記ループフィルタは、前記受信信号に対して応答速度が速い高速フィルタと、前記受信信号に対しての応答速度が遅い低速フィルタとを備え、
前記クロック抽出部は、さらに、
前記ループフィルタの出力電位が所定の安定状態となっているか否かを判定する電位判定部と、
前記非受信状態から前記受信状態に切り替わった場合には、前記高速フィルタから出力された電位を前記電位制御発振機の前記制御電位とする高速フィルタ運転をし、前記高速フィルタ運転時に前記電位判定部が安定状態となっていると判定した場合には、前記低速フィルタから出力された電位を前記電位制御発振機の前記制御電位とする低速フィルタ運転をするフィルタ切替部と
を備えることを特徴とする請求項3から5までのいずれかに記載の通信装置。
【請求項8】
受信部が、所定のデータを表すデータ信号にクロック信号が重畳された信号を受信信号として受信する受信工程と、
クロック抽出部が、前記受信工程で受信した受信信号からクロック信号を抽出するクロック抽出工程であって、前記受信工程で受信信号を受信していない非受信状態の場合には、前記受信工程で受信信号を受信している受信状態から前記非受信状態へ移行する時点におけるクロック信号の位相を示す位相情報を保持しておくクロック抽出工程と、
データ抽出部が、前記クロック抽出工程で抽出したクロック信号を用いて、前記受信信号からデータを抽出するデータ抽出工程と、
送信部が、前記クロック抽出工程で保持した位相情報を用いて生成されたクロック信号を送信クロック信号として、前記送信クロック信号に同期したデータ信号を送信する送信工程であって、前記送信クロック信号をデータ信号に重畳させた信号を送信信号として送信する送信工程と
を備えることを特徴とする通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−205204(P2012−205204A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69846(P2011−69846)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】