説明

酸化亜鉛の結晶化方法及び結晶膜形成装置

【課題】酸化亜鉛膜の結晶化処理の低温化、処理時間の短縮化を図る。
【解決手段】基材Wに酸化亜鉛膜fをスピンコート法やプラズマCVD等で成膜する。この基材Wを温調手段40で350℃程度に加熱、温調しながら、酸素と窒素の混合ガス等からなる結晶化用処理ガスをプラズマ照射手段10にてプラズマ化し、このプラズマを基材Wに照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛の膜を形成した後、該膜を結晶化する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大面積の酸化亜鉛膜を成膜する方法としては、CVD法やスピンコート法が用いられている。これら成膜方法によって得られた酸化亜鉛膜は結晶性が低く、不純物混入や非金属元素の欠損等も起きやすい。特に、原料に有機化合物が含まれていた場合、膜中に有機物の不純物が出来やすい。そこで、結晶性を高めるべく、成膜後に例えば800℃以上の高温下で焼成を行なっている。
【特許文献1】特開2000−191324
【特許文献2】特開2002−093703
【特許文献3】特開2003−128500
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、焼成工程は時間がかかるだけでなく、高温耐熱設備を要する。また、基材が有機フィルム等での耐熱性の低い材料で構成されている場合、適用が困難である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、基材をあまり高温化することなく効率的に高結晶化できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題点を解決するために、本発明は、基材に金属−非金属化合物として金属酸化物である酸化亜鉛の膜を成膜した後、結晶化用処理ガスにて生成したプラズマを前記基材に照射することを特徴とする。
これによって、酸化亜鉛膜を、比較的低温下で、しかも短時間で効率的に結晶化することができる。ここで、「結晶化」とは、非結晶を結晶化することだけでなく、結晶の結晶度を高めることも含む。
【0005】
前記プラズマ照射時の前記基材の温調温度は、室温〜400℃であるのが好ましく、約350℃であることがより好ましい。これにより、設備の耐熱性要求を緩和できる。また、基材が有機フィルム等の非耐熱性材料で構成されていても、十分に適用可能である。
前記基材温度は、ヒータ等を含む温調手段を用いて制御するのが好ましい。
前記プラズマによる前記基材の加熱可能温度は、前記基材の温調温度より低温であることが好ましい。
前記プラズマによる前記基材の加熱可能温度が、酸化亜鉛の融点より低温であることが好ましい。これによって、酸化亜鉛膜が溶融するのを防止することができる。酸化亜鉛は溶融しなくても元素の再配列が起き、結晶化可能である。
【0006】
酸化亜鉛膜が有機亜鉛錯体等の有機化合物を含む原料にて成膜されたものである場合、膜中に有機物の不純物が混入することがあるが、その場合でも、前記プラズマによって不純物を揮発させることができ、膜の結晶度を確実に高めることができる。
【0007】
前記結晶化用処理ガスは、電界印加によってプラズマ化(ラジカル化、励起・活性化、イオン化等を含む)するものであればよく、酸素、窒素、空気、アルゴン、ヘリウム等の種々のガス種から選択することができ、複数のガス成分の混合ガスを用いてもよい。プラズマにより膜化する成分は、実質的に含んでいないのが好ましい。
前記結晶化用処理ガスは、酸素を含有することが好ましい。これによって、酸化亜鉛の欠損を補填又は抑制することができる。
【0008】
前記プラズマ照射時における圧力環境は、プラズマ発生部と基材表面との間にプラズマを基材に接触させることのできる圧力差があればよく、特に限定されない。プラズマは、大気圧近傍の圧力下で生成する大気圧プラズマが好ましい。ここで、大気圧近傍とは、1.013×104〜50.663×104Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×104〜10.664×104Paが好ましく、9.331×104〜10.397×104Paがより好ましい。
【0009】
酸化亜鉛膜の成膜方法は、膜原料を含む溶液を回転する基板に滴下するスピンコート法を用いてもよく、化合物を気相成長させるCVD法を用いてもよい。CVD法は、プラズマCVDでもよく熱CVDでもよい。
【0010】
プラズマCVDにて成膜する場合、成膜と結晶化を共通のプラズマ処理装置(結晶膜形成装置)にて行なうようにすることができる。この装置は、プラズマ照射手段と、ガス供給系とを備えているのが好ましい。プラズマ照射手段は、互いの間に放電空間を形成する一対の電極を含み、前記放電空間にて生成したプラズマを前記基材に照射する。電極構造は、平行平板電極構造でもよく、ロール電極と平板状又は凹面状電極の組み合わせでもよい。プラズマ照射方式は、基材を放電空間の外部に配置し、これにプラズマを吹き付ける所謂リモート方式でもよく、基材を放電空間の内部に配置し、これにプラズマを直接照射する所謂ダイレクト方式でもよい。
前記ガス供給系は、前記酸化亜鉛膜の原料を含む成膜用処理ガスと、膜化成分を含まない結晶化用処理ガスとの何れか一方を選択的に前記放電空間に導入する。前記ガス供給系は、先ず成膜用処理ガスを選択して、放電空間に導入する。これにより、前記成膜用処理ガスによるプラズマが生成され、このプラズマが基材に照射され、酸化亜鉛膜が生成される。次に、前記ガス供給系は、結晶化用処理ガスを選択して、前記放電空間に導入する。これにより、前記結晶化用処理ガスによるプラズマが生成され、このプラズマが基材に照射され、酸化亜鉛膜が高結晶化される。
プラズマ処理装置は、さらに温調手段を備えているのが好ましい。成膜時又は結晶化処理時には、それぞれ前記温調手段によって前記基板を適切な温度になるように温調することができる。結晶化処理時(前記ガス供給系にて前記結晶化用処理ガスを前記放電空間に導入するとき)は、前記温調手段にて、前記基材を室温〜400℃に温調するのが好ましく、350℃程度に温調するのがより好ましい。
成膜用のプラズマ処理装置と、結晶化用のプラズマ処理装置を別々に備え、成膜用プラズマ処理装置にて成膜を行なった後、結晶化用プラズマ処理装置にて結晶化を行なうことにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸化亜鉛膜の結晶化処理の低温化、処理時間の短縮化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
本実施形態では、例えば酢酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート錯体等の有機亜鉛錯体を膜原料とし、基材に酸化亜鉛を成膜する。成膜方法は、スピンコート法又はCVD法等を用いる。この成膜処理の後、結晶化処理を行なう。結晶化処理は、大気圧プラズマ処理装置を用いて行なう。大気圧プラズマ処理装置は、基材を放電空間の外部に配置し、この基材に向けてプラズマガスを吹出す所謂リモート式であってもよく、基材を放電空間の内部に配置し、プラズマを基材に直接的に照射する所謂ダイレクト式であってもよい。
【0013】
図1は、結晶化処理に用いるリモート式の大気圧プラズマ処理装置M1の基本構成を示したものである。装置M1は、ガス供給系10と、プラズマ照射ユニット30と、温調ユニット40とを有している。ガス供給系10は、結晶化用処理ガス源12と、このガス源12から延びる結晶化用処理ガス路14とを有している。ガス源12は、例えば酸素と窒素を所定の流量比で混合し、この混合ガスからなる結晶化用処理ガスをガス路14へ送出するようになっている。
結晶化用処理ガス(酸素−窒素混合ガス)として空気を用いてもよい。結晶化用処理ガスとして酸素−窒素混合ガスに代えて、酸素又は窒素の何れか一方のみを用いてもよく、ヘリウムやアルゴンを用いてもよい。
【0014】
プラズマ照射ユニット30には、ホット電極31とアース電極32が設けられている。ホット電極31には電源3が接続されている。アース電極32は、電気的に接地されている。
これら電極31,32は互いに左右に対向して配置され、両者31,32の間に厚さ数mmの電極間空間33が形成されている。電極間空間33は、ほぼ大気圧になっている。この電極間空間33の上端部にガス供給系10の処理ガス路14が連なっている。
一対の電極31,32のうち少なくとも一方の対向面には固体誘電体(図示せず)が設けられている。
【0015】
プラズマ照射ユニット30の下方に温調ユニット40が配置されている。温調ユニット40は、基材設置手段を兼ねており、その上面に基材Wが設置されるようになっている。プラズマ照射ユニット10と基材Wとの間の距離は、数mm〜数cm程度に設定されている。基材Wは、半導体基板等で構成されている。温調ユニット40はヒータを有し、基材Wを例えば350℃程度まで加熱するようになっている。
プラズマ照射ユニット10と基材設置手段としての温調ユニット40とは、互いに相対移動可能になっているのが好ましい。
【0016】
上記構成の結晶化処理用大気圧プラズマ処理装置M1は、次のように使用される。
成膜工程
基材Wの表面に酸化亜鉛からなる薄膜fをスピンコート法等にて成膜する。図において膜fの厚さは誇張されている。
【0017】
基材設置工程
成膜後の基材Wを、装置M1の温調ユニット40の上面に設置する。
【0018】
温調工程
この基材Wを温調ユニット40のヒータで約350℃になるように加熱、温調する。この設定温度は、従来の焼成による結晶化の場合(800℃以上)と比べ低温である。したがって、装置M1の各構成部材が高い耐熱性を要求されることがなく、材料選択の範囲を拡大でき、製品コストを抑えることができる。また、基材Wが高分子材料等の耐熱性の低い材料で構成されていても十分に適用することができる。
【0019】
結晶化工程
そして、ガス源12からの酸素−窒素混合ガス(結晶化用処理ガス)を、ガス路14を経て電極間空間33に導入する。併行して、電源3から電極31に電圧を印加し、電極31,32間に大気圧グロー放電を生成する。電極31,32間のピーク間電圧は、例えばVpp=数〜十数kVとし、周波数は、数十〜数百kHzとする。これによって、電極間空間33が放電空間になり、該空間33に導入された酸素−窒素混合ガスがプラズマ化され、酸素−窒素混合プラズマを得ることができる。この酸素−窒素混合プラズマが電極間空間33の下端部を経てプラズマ照射ユニット30から吹き出され、基材Wに吹き付けられる。このプラズマ照射によって、結晶の再配列が進展する。また、酸化亜鉛の膜f中に有機物の不純物が混入されていたとしても、この不純物をプラズマによって揮発させ除去することができる。さらに、酸素プラズマを含むプラズマを用いることにより、酸化亜鉛膜fの酸素欠損を補充したり抑制したりすることができる。これにより、酸化亜鉛膜fの結晶性を高めることができる。さらには、焼成と比べ、処理時間を短縮でき、処理効率を高めることができる。
【0020】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の実施形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を適宜省略する。
上記実施形態の装置M1はリモート式であったが、図2に示すように、ダイレクト式の大気圧プラズマ処理装置M2を用いて結晶化処理を行なうことにしてもよい。ダイレクト式大気圧プラズマ処理装置M2では、一対の電極31,32が上下に対向するように配置されている。結晶化用処理ガス源12からのガス路14が、電極間空間33の一端部に接続されている。
【0021】
下側のアース電極32は、温調ユニット40に一体に組み込まれている。このアース電極32上に基材Wが設置されている。アース電極32ひいては基材Wの上方に離れてホット電極31が配置されている。したがって、基材Wは、電極間空間33の内部に配置されるようになっている。
【0022】
ダイレクト式大気圧プラズマ処理装置M2によれば、電源3から電極31への電圧供給により、電極31,32間に大気圧グロー放電が生成され、電極間空間33内の基材Wがプラズマに直接的に晒される。このプラズマによって膜fの結晶性を高めることができる。
【0023】
酸化亜鉛膜fの成膜を大気圧プラズマCVDにて行なうことにしてもよい。その場合、図3に示すように、該プラズマCVDと結晶化処理とを1つの大気圧プラズマ処理装置M3(結晶膜形成装置)で行なうことができる。装置M3は、図1のリモート式プラズマ処理装置M1をベースするものであり、ガス供給系10が、結晶化用処理ガスの供給ライン12Xだけでなく、成膜用処理ガスの供給ライン11Xをも有している点で、図1の装置M1と異なっている。ガス供給系10の成膜用処理ガス供給ライン11Xには、成膜用処理ガス源11が設けられている。成膜用処理ガス源11は、膜fの原料となる有機金属化合物や酸化剤としての酸素含有ガスやプラズマ源となるガス成分等を適切な流量比で混合し、成膜用処理ガスを得るようになっている。成膜用処理ガス源11から成膜用処理ガス路13が延びている。このガス路13と、結晶化用処理ガス供給ライン12Xのガス路14とが、供給ライン選択手段としての方向切替弁15を介して共通ガス導入路16に接続されている。このガス導入路16が、電極間空間33の上端部に連なっている。
【0024】
成膜工程
成膜・結晶化処理共用のプラズマ処理装置M3によれば、成膜工程においては、方向切替弁15にて結晶化用処理ガス路14を遮断する一方、成膜用処理ガス路13と共通ガス導入路16とを連通する。そして、成膜用処理ガス源11から膜原料成分を含む成膜用処理ガスをガス路13に送出する。この成膜用処理ガスが、導入路16を経て、電極間空間33に導入される。併行して、電源3から電極31に電圧を供給する。電極31,32間のピーク間電圧や周波数は、成膜用処理ガス中のプラズマ源となるガス成分等に応じて設定する。これにより、電極31,32間に大気圧グロー放電が生成され、電極間空間33が放電空間となり、成膜用処理ガスがプラズマ化される。このプラズマ化されたガスがプラズマ照射ユニット30から吹き出され、基材Wに接触する。基材Wは、温調ユニット40によって所定の成膜温度になるよう加温しておく。これにより、基材Wの表面に酸化亜鉛の膜fを成膜することができる。
成膜処理が終了したとき、成膜用処理ガス源11からのガス供給を停止するとともに、電源3からの電圧供給を停止する。
【0025】
温調工程
次に、温調ユニット40により基材Wの温度が例えば350℃程度になるように加熱・温調する。
【0026】
結晶化工程
そして、方向切替弁15を切り替え、成膜用処理ガス路13を遮断するとともに、結晶化用処理ガス路14と共通ガス導入路16とを連通する。これにより、ガス源12からの酸素−窒素混合ガスからなる結晶化用処理ガスが、ガス路14,16を順次経て電極間空間33に導入される。併行して、電源3から電極31に電圧を供給する。このときの電極31,32間のピーク間電圧や周波数は、酸素−窒素混合ガスをプラズマ化して酸素−窒素混合プラズマを得るのに適した大きさに設定する。一般に、結晶化工程は、成膜工程より放電条件が高く、成膜工程よりピーク間電圧及び周波数が大きいが、膜f成分やプラズマガス成分によっては、その逆の場合もあり、ほぼ同じになる場合もある。
【0027】
電極間空間33で生成された酸素−窒素混合プラズマは、電極間空間33の下端部を経てプラズマ照射ユニット30から吹き出され、基材Wに吹き付けられる。これにより、酸化亜鉛膜fの結晶性を高めることができる。
【0028】
成膜・結晶化共用装置M3においては、ガス源が成膜用と結晶化用とに分かれているが、これら2つの用途に共通の成分が含まれている場合、その共通成分についてはガス源を共用することにしてもよい。例えば、成膜工程でのプラズマ形成用のガス成分が、結晶化工程でのプラズマ形成用のガス成分と同一である場合、ガス源11には上記プラズマ形成用ガス以外の成膜用処理ガス成分を蓄えておき、成膜工程では、両ガス源11,12からのガスを混合し、これを成膜用処理ガスとして電極間空間33に供給することにし、結晶化工程では、ガス源12からのガスのみを結晶化用処理ガスとして電極間空間33に供給することとしてもよい。
【0029】
成膜・結晶化共用の結晶膜形成装置として図3のリモート式大気圧プラズマ処理装置M3に代えて、図4に示すように、ダイレクト式の大気圧プラズマ処理装置M4を用いることにしてもよい。装置M4は、図2のダイレクト装置M2をベースとし、ガス供給系10を図3と同様に成膜用と結晶化用の2系統にしたものである。
【0030】
図5は、結晶膜形成装置として成膜・結晶化システムS5を示したものである。システムS5は、成膜用の大気圧プラズマ処理装置M5と、結晶化処理用の大気圧プラズマ処理装置M1とを別々に備えている。システムS5の成膜用プラズマ処理装置M5には、ガス源として成膜用処理ガス源11だけが設けられており、このガス源11からのガス路13が装置M5の電極間空間33に連なっている。システムS5の結晶化用プラズマ処理装置M1には、ガス源として結晶化用処理ガス源12だけが設けられており、このガス源12からのガス路14が装置M1の電極間空間33に連なっている。
【0031】
システムS5には温調ユニット40が1つだけ設けられている。この温調ユニット40が2つの装置M1,M5に共用されるようになっている。温調ユニット40は、移動機構(図示せず)に接続されている。この移動機構によって、温調ユニット40が、成膜用装置M5のプラズマ照射ユニット30に対応する第1位置(図5において実線)と、結晶化用装置M1のプラズマ照射ユニット30に対応する第2位置(図5において仮想線)との間で移動可能になっている。
この温調ユニット40に基材Wを設置したうえで、温調ユニット40を第1位置に位置させ、成膜工程を実行し、基材Wに膜fの生成を行なう。
次いで、温調ユニット40を第2位置へ移動させ、結晶化工程を実行し、膜fを結晶化する。
温調ユニット40が位置固定される一方、装置M5のプラズマ照射ユニット30と装置M1のプラズマ照射ユニット30の何れか一方が選択的に温調ユニット40の上方に移動されるようになっていてもよい。
【0032】
図6は、成膜対象の基材がロールフィルムWrである場合の適用例を示したものである。この成膜・結晶化システムS6は、ロールフィルムWrを巻回する一対のロール50,50を有している点で、図5のシステムS5と異なっている。これらロール50,50は、左右に離れて配置されている。ロールフィルムWrが、これらロール50,50間に架け渡されるとともに、ロール50,50の回転により左から右へ送られるようになっている。一対のロール50,50の間に温調ユニット41が配置されている。温調ユニット41は、左右に長く延び、両端部が左右の各ロール50の近傍に位置されている。この温調ユニット41の上側に、ロール50,50間のロールフィルムWrが被さっている。ロールフィルムWrは、左側のロール50から出て右側のロール50に達するまでのほぼ全期間にわたって温調ユニット41により温調されるようになっている。
【0033】
温調ユニット41の上方には、図5と同様の成膜用大気圧プラズマ処理装置M5のプラズマ照射ユニット30と結晶化用大気圧プラズマ処理装置M1のプラズマ照射ユニット30とが左右に離れて配置されている。成膜用装置M5のプラズマ照射ユニット30は、ロールフィルムWrの送り方向の上流側に配置され、結晶化用装置M1のプラズマ照射ユニット30は、ロールフィルムWrの送り方向の下流側に配置されている。
【0034】
一対のロール50,50間の上流側の位置において、成膜用装置M5によってロールフィルムWrに酸化亜鉛膜fが成膜される。この成膜された部分が下流側に送られ、結晶化用装置M1のプラズマ照射ユニット30の真下に位置するようになったとき、結晶化用装置M1によるプラズマ照射によって膜fの結晶化がなされる。
【0035】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の改変をなすことができる。
例えば、温調工程における基材温調温度は、酸化亜鉛の結晶化を促進可能な温度範囲であればよく、350℃程度に限られず、室温〜400℃の範囲で設定できる。
実施形態では、結晶化工程を、大気圧近傍下におけるプラズマを用いて行なっていたが、減圧プラズマを用いて行なうことにしてもよい。成膜工程を減圧プラズマCVDにて行なうことにしてもよい。
【実施例1】
【0036】
実施例を説明する。
亜鉛錯体原料として亜鉛アセチルアセトナート錯体を用い、スピンコート法により酸化亜鉛の成膜を行った。この酸化亜鉛膜fを350℃で加熱焼成した。焼成後、膜fのX線回折測定を行ったところ、図7(b)に示すように、結晶性は良好でなかった。
次に、図1に示す大気圧プラズマ処理装置M1にて結晶化処理を行った。プラズマ処理条件は以下の通りである。
加熱温度: 350℃
処理ガス: 窒素 10SLM
酸素 5SLM
供給電圧: Vpp=15kV 周波数: 10kHz
処理後、膜fのX線回折測定を行ったところ、図7(a)に示すように、(002)面のピークが同図(b)よりも顕著に現れた。膜fの結晶化が進み、ZnOがC軸方向に配向していることが明らかになった。350℃程度の低温条件においては加熱焼成では十分な結晶性を得るのが困難であるが、プラズマ照射では十分な結晶性を得られることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、例えば半導体装置やフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の結晶化処理に用いるリモート式大気圧プラズマ処理装置の概略構成図である。
【図2】本発明の結晶化処理に用いるダイレクト式大気圧プラズマ処理装置の概略構成図である。
【図3】成膜・結晶化処理共用のリモート式大気圧プラズマ処理装置(結晶膜形成装置)の概略構成図である。
【図4】成膜・結晶化処理共用のダイレクト式大気圧プラズマ処理装置(結晶膜形成装置)の概略構成図である。
【図5】成膜用リモート式大気圧プラズマ処理装置と結晶化用リモート式大気圧プラズマ処理装置を別々に備えた成膜・結晶化システムの概略構成図である。
【図6】ロールフィルムを成膜対象基材とする成膜・結晶化システムの概略構成図である。
【図7】(a)は、実施例1により結晶化した場合のX線回折スペクトル図である。 (b)は、結晶化の比較例として膜を加熱焼成した場合のX線回折スペクトル図である。
【符号の説明】
【0039】
W 基材
Wr ロールフィルム(基材)
f 膜
M1〜M5 大気圧プラズマ処理装置(結晶膜形成装置)
S5,S6 成膜・結晶化システム(結晶膜形成装置)
10 ガス供給系10
11X 成膜用処理ガスの供給ライン
11 成膜用処理ガス源
12X 結晶化用処理ガスの供給ライン
12 結晶化用処理ガス源
13 成膜用処理ガス路
14 結晶化用処理ガス路
15 方向切替弁(選択手段)
16 共通ガス導入路
30 プラズマ照射ユニット(プラズマ照射手段)
31 ホット電極
32 アース電極
3 電源
33 電極間空間
40 温調ユニット(温調手段)
41 温調ユニット(温調手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に酸化亜鉛の膜を形成した後、前記膜を結晶化する方法であって、
前記基材を室温〜400℃に温調し、
膜化成分を含まない処理ガスにて生成したプラズマを、前記温調された基材に照射することを特徴とする膜結晶化方法。
【請求項2】
前記処理ガスが、酸素を含有することを特徴とする請求項1に記載の膜結晶化方法。
【請求項3】
前記酸化亜鉛膜が、有機亜鉛化合物を含む原料にて成膜されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の膜結晶化方法。
【請求項4】
前記プラズマによる前記基材の加熱可能温度が、前記基材の温調温度より低温であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の膜結晶化方法。
【請求項5】
基材に酸化亜鉛の結晶膜を形成する装置であって、
互いの間に放電空間を形成する一対の電極を含み、前記放電空間にて生成したプラズマを前記基材に照射するプラズマ照射手段と、
前記膜の原料を含む成膜用処理ガスと、膜化成分を含まない結晶化用処理ガスとの何れか一方を選択的に前記放電空間に導入するガス供給系と、
前記ガス供給系にて前記結晶化用処理ガスを前記放電空間に導入するとき、前記基材を室温〜400℃に温調する温調手段と、
を備えたことを特徴とする結晶膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−81344(P2008−81344A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261902(P2006−261902)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】