酸化亜鉛系半導体素子の製造方法
【目的】
p型ZnO系化合物半導体の電極の剥離や金属の凝集が生じず高い接着性を有するとともに良好なオーミック接触を有するコンタクト電極の形成方法及び当該電極が形成されたZnO系化合物半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】
基板上にn型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層を含む積層体をp型ZnO系半導体層が表面に形成されるように形成する工程と、p型ZnO系半導体層をその表面温度が250℃ないし500℃の範囲内で熱処理する工程と、550℃未満の温度で、p型ZnO系半導体層上にp側電極金属を上記熱処理の後に形成する工程と、n型n型ZnO系半導体層上にn側電極金属を形成してZnO系半導体素子を形成する工程と、からなる。
p型ZnO系化合物半導体の電極の剥離や金属の凝集が生じず高い接着性を有するとともに良好なオーミック接触を有するコンタクト電極の形成方法及び当該電極が形成されたZnO系化合物半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】
基板上にn型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層を含む積層体をp型ZnO系半導体層が表面に形成されるように形成する工程と、p型ZnO系半導体層をその表面温度が250℃ないし500℃の範囲内で熱処理する工程と、550℃未満の温度で、p型ZnO系半導体層上にp側電極金属を上記熱処理の後に形成する工程と、n型n型ZnO系半導体層上にn側電極金属を形成してZnO系半導体素子を形成する工程と、からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛(ZnO)系半導体素子の製造方法、特に、高い接着性及び良好なオーミック接触を有するコンタクト電極が形成されたZnO系化合物半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、室温で3.37eVのバンドギャップエネルギーを有する直接遷移型の半導体で、青ないし紫外領域の光素子用の材料として期待されている。特に、励起子の束縛エネルギーが60meV、また屈折率n=2.0と半導体発光素子に極めて適した物性を有している。また、発光素子、受光素子に限らず、表面弾性波(SAW)デバイス、圧電素子等の電子デバイスにも広く応用が可能である。さらに、原材料が安価であるとともに、環境や人体に無害であるという特徴を有している。
【0003】
酸化物結晶と金属とは接着性が悪く、剥離し易いことは一般的に知られている。すなわち、酸素を含まない半導体(例えば、AlGaAs,InAlGaP,InGaN等)に関しては、電極金属との密着性、接着性は大きな問題ではなかった。しかしながら、金属酸化物であるZnO系半導体は、特に、金(Au)、銀(Ag)、あるいはロジウム(Rh)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の金属材料との接着性が悪い。従って、p型電極を作製する工程において、ZnO膜上に形成したこれらの金属電極が剥離してしまうという問題があった(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【0004】
一方、ZnO系化合物は、ワイドバンドギャップ半導体であることからp型電極として使用できるオーミック性の良好な金属材料は限られている。従って、良好な低抵抗オーミック接触が得られるとともに接着性の高い金属電極の形成がZnO系半導体素子の実現に極めて重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−110142号公報
【特許文献2】特開2004−207440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまで、ZnO系化合物半導体結晶に関して、良好なオーミック接触及び高い接着性を有するコンタクト電極の形成については十分な検討がなされていなかった。本発明は、p型ZnO系化合物半導体の電極金属として種々の金属について検討した以下の如き結果に基づくものである。
【0007】
まず、Auをp型ZnO系化合物半導体のp側電極金属(透光性電極)として用い、合金化処理を行った場合について検討を行った。当該合金化処理後のAu電極の状態を実体顕微鏡で観察したところ、電極金属に変色が観察された。また、かかる電極金属の変色部分の一部を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。図1は、電極変色部分の断面TEM像である。このTEM像から変色部分にはAu電極の剥離があることが確認された。
【0008】
また、Ni/Auをp側透光性電極として用い、合金化処理を行った。合金化処理後のNi/Au電極の状態を実体顕微鏡で観察したところ、電極金属に変色が観察された。図2は、かかる電極変色部分の断面TEM像である。このTEM像からNi/Au電極の剥離及び凝集が確認された。
【0009】
さらに、Ti/Auをp側透光性電極として用い、合金化処理を行った。合金化処理後のTi/Au電極の状態を実体顕微鏡で観察したが、電極の変色は観察されなかった。また、断面をTEMで観察したが電極の剥離等は観察されなかった。電気的特性を調べるために、カーブトレーサを用いてI−V特性を測定したところ、ショットキー特性を示し、良好なダイオード特性が得られていないことがわかった。
【0010】
このように、p型ZnO系化合物半導体にp電極用金属を蒸着し、単に合金化処理等した場合では、電極の剥離や電極金属の凝集が生じたり、良好なオーミック接触は得られない。
【0011】
本発明は、このようなp型ZnO系化合物半導体の電極の剥離や金属の凝集が生じず高い接着性を有するとともに良好なオーミック接触を有するコンタクト電極の形成方法及び当該電極が形成されたZnO系化合物半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の製造方法は、酸化亜鉛(ZnO)系半導体素子の製造方法であって、
基板上にn型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層を含む積層体を上記p型ZnO系半導体層が表面に形成されるように形成する工程と、
上記p型ZnO系半導体層をその表面温度が250℃ないし500℃の範囲内で熱処理する工程と、
550℃未満の温度で、上記p型ZnO系半導体層上にp側電極金属を上記熱処理の後に形成する工程と、
上記n型ZnO系半導体層上にn側電極金属を形成して上記ZnO系半導体素子を形成する工程と、からなることを特徴としている。
【0013】
本発明において、当該熱処理工程は、O2、H2O、N2O、O3ガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%以上である雰囲気下で行われることができる。
【0014】
また、p側電極金属は、Au,Ag,Ni,Rh,Pt,Pdのいずれか又はこれらのうち少なくとも1つを含む合金又は積層金属からなるようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】Auをp側電極として用い、合金化処理を行った後の電極変色部分の断面TEM像である。
【図2】Ni/Auをp側電極として用い、合金化処理を行った後の電極変色部分の断面TEM像である。
【図3】本発明による半導体素子の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】ZnO系半導体層がZnO基板上に成長されたLED動作層付き基板を示す断面図である。
【図5】p側電極及びn側電極が形成された動作層付き基板を示す断面図である。
【図6】p側及びn側電極が形成されたウエハ(動作層付き基板)のスクライブ及びブレーキングを行って個片化されて形成されたLED素子の断面図である。
【図7】+C面を主面としたZnO基板上に成長されたpドープZnO層のキャリア濃度及び伝導型のアニール温度依存性を示す図である。
【図8】p−ZnO層を400℃、20minの条件でアニールを行った後、Ni/Auを蒸着し、合金化及び透明化処理を行ったLED素子のp側電極近傍の断面TEM像である。
【図9】図8に示すLED素子の電流−電圧特性(I−V特性)を示す図である。
【図10】アニール温度を500℃とし、5min間のアニールを行って形成したLED素子のI−V特性を示す図である。
【図11】MgxZn(1-x)O半導体層がZnO基板上に成長されたLED素子の構造を示す断面図である。
【図12】図11に示すLED素子のI−V特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下においては、酸化亜鉛(ZnO)基板上にZnO系化合物半導体の結晶層を積層し、当該結晶積層体に金属電極を形成する方法及び電極が形成された半導体素子の製造方法について図面を参照して詳細に説明する。また、半導体発光素子(LED:Light Emitting Diode)の製造に用いられる半導体発光動作層を当該半導体結晶積層体として成長する場合を例に説明する。
【実施例1】
【0017】
図3に示すフローチャートを参照して本発明による半導体発光素子の製造方法について詳細に説明する。また、図4は、酸化亜鉛系化合物半導体層(以下、ZnO系半導体層という。)がZnO基板10上に成長されたLED動作層付き基板17を示す断面図である。
【0018】
まず、基板10上にZnO系化合物半導体層が順次積層される(図3、ステップS11)。基板10は、ウルツァイト構造の{0001}面を主面とするZnO単結晶からなり、例えば、500マイクロメートル(μm)の厚さを有している。より詳細には、Zn極性面(+C面)を結晶成長面としてZnO系半導体層が順次成長される。すなわち、図4に示すように、例えば、RS−MBE(ラジカルソース分子線成長)装置を用いて、ZnO基板10の+C面上に、バッファ層11、n型ZnO(n−ZnO)層12、発光層13及びp型ZnO(p−ZnO)層14がこの順で成長される。このようにして、n−ZnO層12、発光層13及びp−ZnO層14から構成される動作層(LED動作層)15が形成される。なお、結晶成長法は、RS−MBE法に限らず、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相堆積)法など他の成長法が用いられてもよい。
【0019】
ここで、動作層又は素子動作層とは、半導体素子がその機能を果たすために含まれるべき半導体で構成される層を指す。例えば、単純なトランジスタであればn型半導体、p型半導体及びn型半導体(またはp型半導体、n型半導体及びp型半導体)のpn接合によって構成される構造層を含む。
【0020】
なお、p型半導体層、発光層及びn型半導体層(または、p型半導体層及びn型半導体層)から構成され、注入されたキャリアの再結合によって発光動作をなす半導体構造層を、特に、発光動作層という。また、特に、LEDの場合にはLED動作層という。
【0021】
これらバッファ層11、n−ZnO層12、発光層13及びp−ZnO層14の構成、すなわち、層厚、ドーパント濃度等は一般的に用いられるものでよい。例えば、バッファ層11は低温成長により形成された数ナノメートル(nm)ないし数μmの厚さで、不純物(例えば、Ga)をドープしたn型のZnO層でも良い。また、n−ZnO層12は、例えば、1×1017〜5×1018cm-3程度の濃度範囲内で不純物(例えば、Ga)をドープした厚さ数10nmないし数μm程度のn型のZnO層とすることができる。発光層14Bは、それぞれ厚さ数nmの量子井戸層及び障壁層からなるMQW(多重量子井戸)層、あるいは単一組成のMgxZn(1-x)O(0≦x<0.5)層からなるように構成することができる。
【0022】
また、p−ZnO層14は、N(窒素)を1×1020cm-3程度の濃度でドープした厚さが数10nmないし数μm程度のp−ZnO層とすることができる。
【0023】
なお、上記したように、これらの数値は単に例示に過ぎず、必要な素子特性(LED特性)が得られるよう適宜選択することができる。
【0024】
次に、このように形成したLED動作層付き基板17(以下、単に、動作層付き基板ともいう。)を用い、金属電極の形成を行う。まず、LED動作層付き基板17の熱処理(アニール)を行う(図3、ステップS12)。より詳細には、RTA(ラピット・サーマル・アニーラ)等の装置を用い、表面温度が500℃以下で、O2、H2O、N2O、O3等のガスが100%の雰囲気中、またはこれらのガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%以上である混合ガス雰囲気中で、数分〜数時間のアニールを行う。なお、当該混合ガスは上記したO2、H2O、N2O、O3等のガスといわゆる希ガス(N2、Ar等)との混合ガスであることが好ましい。
【0025】
次に、図5に示すように、p−ZnO層14の表面に、p側電極21の金属として電子ビーム(EB)蒸着によりNi/Au層を、例えば、それぞれが1nm/10nm の厚さで積層する。Ni/Au層の蒸着後、フォトリソグラフィ技術を用いて、所定のp側電極の形状にNi/Au層をパターニングする。その後、RTA等の装置により、500℃以下の温度で、O2、H2O、N2O、O3ガス等が100%の雰囲気中、またはこれらのガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%(体積百分率)以上である希ガスとの混合ガス中で、合金化及び透明化処理を行う(図3、ステップS13)。これにより、p側電極21を形成する。
【0026】
次に、動作層付き基板17の表面(p側電極21側)を研削機に取り付け、動作層付き基板17の裏面(ZnO基板10の−C面側)を鏡面(光学鏡面)になるまで研磨する。研磨後の動作層付き基板17の厚みは、例えば約200μmである。そして、フォトリソグラフィにより、基板裏面側にn側電極22の形状に開口したレジストマスクを形成する。次に電子ビーム(EB)蒸着によりn側電極22として Ti /Auを10nm /100nmの厚みで積層する。その後、リフトオフ法によってマスク開口部以外の蒸着材料を除去し、500℃以下の温度で合金化処理を行い、n側電極22を形成する(図3、ステップS14)。
【0027】
次に、p側電極21及びn側電極22が形成されたウエハ(動作層付き基板)のスクライブ及びブレーキングを行って素子分離(個片化)がなされ(図3、ステップS15)、図6に示すように、LED素子25が製造される。
【0028】
なお、上記した素子形成プロセスは全工程を通じて、550℃以未満の温度で行う必要がある。また、上記したように、500℃以下の温度で行うのが好ましい。この点については、後に詳細に説明する。
【0029】
[p側電極の形成条件及び特性]
上記したように、p側電極金属を蒸着する前に、LED動作層付き基板17のp−ZnO層14のアニールを行うが、まず、アニールによるp−ZnO層14の変化について評価を行った。
【0030】
まず、+C面を主面としたZnO基板上にバッファ層を成長後、p型ドーパントであるN(窒素)を1×1020cm-3の濃度でドープしたZnO層(pドープZnO層)を成長したエピ基板を用意した。当該エピ基板の表面温度を500〜800度とし、O2雰囲気中で1秒間のアニールを行った。当該pドープZnO層のC−V測定を行い、それぞれの温度でのアニールによるキャリア濃度を算出した結果を図7に示す。
【0031】
図7に示すように、アニール温度(pドープZnO層の表面温度)が500℃以下の場合では、pドープZnO層はp型の伝導性を示すが、550℃以上ではn型化し、さらに高温でアニールするほどドナー濃度(cm-3)が増加することがわかる。これは、高温になるほどZnO結晶から酸素が抜けて酸素空孔が多くできるためにドナー濃度が増加するためであると考えられる。このような高い温度領域でアニールを行うと、ドナー濃度が増えてしまい、n型の伝導性を示すことがわかった。従って、成長させたpドープZnO層がp型伝導性を維持するためには、p側電極金属を蒸着する前のアニールの温度は550℃未満であることが必要である。また、p型伝導性を維持するために500℃以下とすることが確実であり、好ましい。
【0032】
なお、アニール時の表面温度は、基板17を保持するホルダ上にAlを表面に蒸着したサンプルを設置し、その融点(660.4度)とAlが実際に融けた時に示した赤外放射温度計の温度が合うように、放射率を調整して校正した。
【0033】
かかる評価の後、上記した方法により成長したLED動作層付き基板17(図3、ステップS11)を用いて、p側金属電極21の形成を行った。
【0034】
より詳細には、成長した動作層付き基板17をRTA装置を用い、O2ガスが100%の雰囲気中で表面温度が400℃、20min(分)のアニールを行った(図3、ステップS12)。次に、上記したように、電子ビーム(EB)蒸着によりp−ZnO層14の表面にNi/Auを蒸着した後、フォトリソグラフィ技術を用いてNi/Au層をパターニングした。そして、O2ガスが100%の雰囲気中で、RTA装置により表面温度が450℃、30sec(秒)の合金化及び透明化処理を行い、p側電極21を形成した(図3、ステップS13)。
【0035】
その後、上記した方法によりn側電極22を形成し、LED素子25を形成した(図3、ステップS14〜S15)。
【0036】
このように形成したLED素子25のp側電極21を実体顕微鏡で観察した。その結果、p側電極21には変色は見られなかった。また、図8は、動作層付き基板17のp側電極21近傍の透過型電子顕微鏡(TEM)像の一例である。このようなTEM観察から、p側電極21には剥離や金属の凝集などは生じておらず、p側電極21はp−ZnO層14の表面に密着していることが確認された。
【0037】
また、LED素子25のダイオード特性を評価した。図9は、カーブトレーサで測定したLED素子25の電流−電圧特性(I−V特性)を示している。良好なオーミック接触が形成され、順方向特性及び逆方向特性の両者において良好なダイオード特性を有していることが確認された。
【0038】
さらに、アニール条件を変化させて同様な評価を行った。具体的には、アニール温度を500℃とし、アニール時間を5分としてアニールを行った場合について以下に説明する。なお、O2ガスが100%の雰囲気中でアニールを行った点は同様である。上記したのと同様にして形成したLED素子25のp側電極21を実体顕微鏡で観察した。この結果、p側電極21には変色は観測されず、電極の剥離、凝集は起こっていないことが確認された。
【0039】
図10は、このように形成したLED素子25のI−V特性を示している。良好なオーミック接触が形成され、順方向特性及び逆方向特性の両者において良好なダイオード特性を有していることが確認された。このことはアニール温度を高くするほどアニール時間を短くしても同様な効果が得られることを示唆している。さらに、アニールを500℃、2時間行った場合も同様の効果が得られた。すなわち、p型伝導性を維持しつつ、電極の剥離、凝集が起きないことが分かった。アニール時間を長くすることによりこのような効果を損ねることはないが、生産性を考えた場合には、高温(例えば500℃)、短時間(例えば、5分)のアニールを行うことが望ましい。
【0040】
ところで、本発明におけるp側電極金属の蒸着前アニールの効果は、ZnO結晶表面の活性化に関係していると考えられる。すなわち、より高温でアニールするほどZnO結晶表面は活性化されると考えられる。一方、ESR(電子スピン共鳴)の結果から、ZnOにおいては結晶表面温度が250℃以上において不対電子の変化があるといわれている。すなわち、本実施例による電極の剥離、凝集の防止という効果は、p側電極金属の蒸着前のアニールによるZnO結晶表面の活性化に起因するという観点から考えれば、アニール温度の下限は250℃近傍であると考えられる。また、上記したように、pドープZnO層のp型伝導性の維持には550℃未満であることが必要である。従って、電極形成プロセス及び半導体素子形成プロセスは、当該プロセス全体を通じて550℃未満であることが必要である。なお、p型伝導性の維持の確実さからは500℃以下が好ましい。
【実施例2】
【0041】
実施例1においては、ZnO基板10の+C面上に、バッファ層11、n−ZnO層12、発光層13及びp−ZnO層14を成長した動作層付き基板17を用いた場合について説明したが、ZnO結晶に代わり、マグネシウム(Mg)等を含むZnO系半導体結晶を用いた場合についても同様に適用することができる。
【0042】
すなわち、n−ZnO層12及びp−ZnO層14を、MgXZn1-XO(0≦X≦0.5)等のZnO系半導体層としても、上記した実施例1と同様に、p型伝導性を維持しつつ、電極の剥離及び凝集が起きないp側電極を形成することができる。
【0043】
なお、X≦0.5としたのは、この値を超えた場合、MgZnO半導体層自身が六方晶と立方晶の混在した結晶になってしまい、結晶性が悪化するためである。
【0044】
図11は、ZnO系半導体層がZnO基板10上に成長された発光素子(LED素子)35を示す断面図である。より詳細には、ZnO基板10の+C面上に、バッファ層31、n−Mg0.31Zn0.69O層32、ZnO発光層33及びp−Mg0.33Zn0.67O層34をこの順で成長した。このようにして、n−MgxZn(1-x)O層32、ZnO発光層33及びp−MgxZn(1-x)O層34から構成される動作層(LED動作層)35を形成した。なお、p−MgxZn(1-x)O層34は、p型ドーパントであるN(窒素)を1×1020cm-3の濃度でドープして形成した。
【0045】
かかる半導体結晶成長、p側電極金属を蒸着する前のアニール、p側電極形成及びn側電極形成の各プロセス及び条件は実施例1の場合と同様である。すなわち、p側電極金属を蒸着する前に温度400℃、20minのアニールを行った。また、p−MgxZn(1-x)O層34の表面にNi/Auを蒸着した後、フォトリソグラフィ技術を用いてNi/Au層をパターニングした。そして、O2ガスが100%の雰囲気中で、RTA装置により表面温度が450℃、30secの合金化及び透明化処理を行い、p側電極41を形成した。さらに、ZnO基板10の裏面(−C面)を鏡面になるまで研磨し、電子ビーム蒸着によりTi /Auを10nm /100nmの厚みで積層した。そしてTi /Auをパターニングした後、500℃以下の温度で合金化処理を行い、n側電極42を形成した。かかるLED素子35を形成するプロセスは全て500℃以下の温度で行った。
【0046】
このように製造したLED素子35のp側電極41側を実体顕微鏡で観察した。その結果、p側電極41には何ら変色は見られなかった。前述のように、この結果はLED素子35のp側電極41が剥離、凝集せずにp−MgxZn(1-x)O層34の表面に密着していることを示している。
【0047】
このように、Mgを組成として含むZnO系半導体(MgxZn(1-x)O)においても、電極形成前にアニールを行うことにより、p−ZnO系半導体層の表面が活性化され、電極の金属の凝集、剥離を防止でき、接着性の良い電極を形成することができることが分かった。
【0048】
図12は、このように形成したLED素子35のI−V特性を示している。良好なオーミック接触が形成され、順方向特性及び逆方向特性の両者において良好なダイオード特性を有していることが確認された。
【0049】
前述のように、本発明におけるアニールの効果は、ZnO系結晶表面の活性化に起因すると考えられるので、ZnO系半導体素子のすべてに適用可能である。
【0050】
なお、上記した実施例においては、p側電極金属としてNi/Auを用いた場合について説明したが、Au,Ag,Ni,Rh,Pt,Pdのいずれか、又はこれらのうち少なくとも1つを含む合金又は積層体からなっていてもよい。例えば、Ni/Pt/Au、Ni/Rh/Au等の金属を用いてもよい。さらに、第1層目の金属はNiに限らず、Al、Sn、Pbなどを用いてもよい。また、100%のO2ガスを雰囲気ガスとして用いてアニールを行った場合について説明したが、前述のように、O2、H2O、N2O、O3等のガスが100%の雰囲気中、またはこれらのガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%以上である希ガスとの混合ガス中でアニールを行ってもよい。
【0051】
上記実施例においては、半導体発光素子としてLEDを例に説明したが、半導体レーザあるいは他の電子デバイス等の半導体素子に適用することも可能である。
【0052】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、p型ZnO系化合物半導体の電極の剥離や金属の凝集が生じず高い接着性を有するとともに良好なオーミック接触を有するコンタクト電極の形成方法及び当該電極が形成されたZnO系化合物半導体素子の製造方法を提供できる。
【符号の説明】
【0053】
10 基板
12 n−ZnO層
13 発光層
14 p−ZnO層
15 LED動作層
21 p側電極
22 n側電極
25 LED素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛(ZnO)系半導体素子の製造方法、特に、高い接着性及び良好なオーミック接触を有するコンタクト電極が形成されたZnO系化合物半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、室温で3.37eVのバンドギャップエネルギーを有する直接遷移型の半導体で、青ないし紫外領域の光素子用の材料として期待されている。特に、励起子の束縛エネルギーが60meV、また屈折率n=2.0と半導体発光素子に極めて適した物性を有している。また、発光素子、受光素子に限らず、表面弾性波(SAW)デバイス、圧電素子等の電子デバイスにも広く応用が可能である。さらに、原材料が安価であるとともに、環境や人体に無害であるという特徴を有している。
【0003】
酸化物結晶と金属とは接着性が悪く、剥離し易いことは一般的に知られている。すなわち、酸素を含まない半導体(例えば、AlGaAs,InAlGaP,InGaN等)に関しては、電極金属との密着性、接着性は大きな問題ではなかった。しかしながら、金属酸化物であるZnO系半導体は、特に、金(Au)、銀(Ag)、あるいはロジウム(Rh)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の金属材料との接着性が悪い。従って、p型電極を作製する工程において、ZnO膜上に形成したこれらの金属電極が剥離してしまうという問題があった(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【0004】
一方、ZnO系化合物は、ワイドバンドギャップ半導体であることからp型電極として使用できるオーミック性の良好な金属材料は限られている。従って、良好な低抵抗オーミック接触が得られるとともに接着性の高い金属電極の形成がZnO系半導体素子の実現に極めて重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−110142号公報
【特許文献2】特開2004−207440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまで、ZnO系化合物半導体結晶に関して、良好なオーミック接触及び高い接着性を有するコンタクト電極の形成については十分な検討がなされていなかった。本発明は、p型ZnO系化合物半導体の電極金属として種々の金属について検討した以下の如き結果に基づくものである。
【0007】
まず、Auをp型ZnO系化合物半導体のp側電極金属(透光性電極)として用い、合金化処理を行った場合について検討を行った。当該合金化処理後のAu電極の状態を実体顕微鏡で観察したところ、電極金属に変色が観察された。また、かかる電極金属の変色部分の一部を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。図1は、電極変色部分の断面TEM像である。このTEM像から変色部分にはAu電極の剥離があることが確認された。
【0008】
また、Ni/Auをp側透光性電極として用い、合金化処理を行った。合金化処理後のNi/Au電極の状態を実体顕微鏡で観察したところ、電極金属に変色が観察された。図2は、かかる電極変色部分の断面TEM像である。このTEM像からNi/Au電極の剥離及び凝集が確認された。
【0009】
さらに、Ti/Auをp側透光性電極として用い、合金化処理を行った。合金化処理後のTi/Au電極の状態を実体顕微鏡で観察したが、電極の変色は観察されなかった。また、断面をTEMで観察したが電極の剥離等は観察されなかった。電気的特性を調べるために、カーブトレーサを用いてI−V特性を測定したところ、ショットキー特性を示し、良好なダイオード特性が得られていないことがわかった。
【0010】
このように、p型ZnO系化合物半導体にp電極用金属を蒸着し、単に合金化処理等した場合では、電極の剥離や電極金属の凝集が生じたり、良好なオーミック接触は得られない。
【0011】
本発明は、このようなp型ZnO系化合物半導体の電極の剥離や金属の凝集が生じず高い接着性を有するとともに良好なオーミック接触を有するコンタクト電極の形成方法及び当該電極が形成されたZnO系化合物半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の製造方法は、酸化亜鉛(ZnO)系半導体素子の製造方法であって、
基板上にn型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層を含む積層体を上記p型ZnO系半導体層が表面に形成されるように形成する工程と、
上記p型ZnO系半導体層をその表面温度が250℃ないし500℃の範囲内で熱処理する工程と、
550℃未満の温度で、上記p型ZnO系半導体層上にp側電極金属を上記熱処理の後に形成する工程と、
上記n型ZnO系半導体層上にn側電極金属を形成して上記ZnO系半導体素子を形成する工程と、からなることを特徴としている。
【0013】
本発明において、当該熱処理工程は、O2、H2O、N2O、O3ガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%以上である雰囲気下で行われることができる。
【0014】
また、p側電極金属は、Au,Ag,Ni,Rh,Pt,Pdのいずれか又はこれらのうち少なくとも1つを含む合金又は積層金属からなるようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】Auをp側電極として用い、合金化処理を行った後の電極変色部分の断面TEM像である。
【図2】Ni/Auをp側電極として用い、合金化処理を行った後の電極変色部分の断面TEM像である。
【図3】本発明による半導体素子の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】ZnO系半導体層がZnO基板上に成長されたLED動作層付き基板を示す断面図である。
【図5】p側電極及びn側電極が形成された動作層付き基板を示す断面図である。
【図6】p側及びn側電極が形成されたウエハ(動作層付き基板)のスクライブ及びブレーキングを行って個片化されて形成されたLED素子の断面図である。
【図7】+C面を主面としたZnO基板上に成長されたpドープZnO層のキャリア濃度及び伝導型のアニール温度依存性を示す図である。
【図8】p−ZnO層を400℃、20minの条件でアニールを行った後、Ni/Auを蒸着し、合金化及び透明化処理を行ったLED素子のp側電極近傍の断面TEM像である。
【図9】図8に示すLED素子の電流−電圧特性(I−V特性)を示す図である。
【図10】アニール温度を500℃とし、5min間のアニールを行って形成したLED素子のI−V特性を示す図である。
【図11】MgxZn(1-x)O半導体層がZnO基板上に成長されたLED素子の構造を示す断面図である。
【図12】図11に示すLED素子のI−V特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下においては、酸化亜鉛(ZnO)基板上にZnO系化合物半導体の結晶層を積層し、当該結晶積層体に金属電極を形成する方法及び電極が形成された半導体素子の製造方法について図面を参照して詳細に説明する。また、半導体発光素子(LED:Light Emitting Diode)の製造に用いられる半導体発光動作層を当該半導体結晶積層体として成長する場合を例に説明する。
【実施例1】
【0017】
図3に示すフローチャートを参照して本発明による半導体発光素子の製造方法について詳細に説明する。また、図4は、酸化亜鉛系化合物半導体層(以下、ZnO系半導体層という。)がZnO基板10上に成長されたLED動作層付き基板17を示す断面図である。
【0018】
まず、基板10上にZnO系化合物半導体層が順次積層される(図3、ステップS11)。基板10は、ウルツァイト構造の{0001}面を主面とするZnO単結晶からなり、例えば、500マイクロメートル(μm)の厚さを有している。より詳細には、Zn極性面(+C面)を結晶成長面としてZnO系半導体層が順次成長される。すなわち、図4に示すように、例えば、RS−MBE(ラジカルソース分子線成長)装置を用いて、ZnO基板10の+C面上に、バッファ層11、n型ZnO(n−ZnO)層12、発光層13及びp型ZnO(p−ZnO)層14がこの順で成長される。このようにして、n−ZnO層12、発光層13及びp−ZnO層14から構成される動作層(LED動作層)15が形成される。なお、結晶成長法は、RS−MBE法に限らず、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相堆積)法など他の成長法が用いられてもよい。
【0019】
ここで、動作層又は素子動作層とは、半導体素子がその機能を果たすために含まれるべき半導体で構成される層を指す。例えば、単純なトランジスタであればn型半導体、p型半導体及びn型半導体(またはp型半導体、n型半導体及びp型半導体)のpn接合によって構成される構造層を含む。
【0020】
なお、p型半導体層、発光層及びn型半導体層(または、p型半導体層及びn型半導体層)から構成され、注入されたキャリアの再結合によって発光動作をなす半導体構造層を、特に、発光動作層という。また、特に、LEDの場合にはLED動作層という。
【0021】
これらバッファ層11、n−ZnO層12、発光層13及びp−ZnO層14の構成、すなわち、層厚、ドーパント濃度等は一般的に用いられるものでよい。例えば、バッファ層11は低温成長により形成された数ナノメートル(nm)ないし数μmの厚さで、不純物(例えば、Ga)をドープしたn型のZnO層でも良い。また、n−ZnO層12は、例えば、1×1017〜5×1018cm-3程度の濃度範囲内で不純物(例えば、Ga)をドープした厚さ数10nmないし数μm程度のn型のZnO層とすることができる。発光層14Bは、それぞれ厚さ数nmの量子井戸層及び障壁層からなるMQW(多重量子井戸)層、あるいは単一組成のMgxZn(1-x)O(0≦x<0.5)層からなるように構成することができる。
【0022】
また、p−ZnO層14は、N(窒素)を1×1020cm-3程度の濃度でドープした厚さが数10nmないし数μm程度のp−ZnO層とすることができる。
【0023】
なお、上記したように、これらの数値は単に例示に過ぎず、必要な素子特性(LED特性)が得られるよう適宜選択することができる。
【0024】
次に、このように形成したLED動作層付き基板17(以下、単に、動作層付き基板ともいう。)を用い、金属電極の形成を行う。まず、LED動作層付き基板17の熱処理(アニール)を行う(図3、ステップS12)。より詳細には、RTA(ラピット・サーマル・アニーラ)等の装置を用い、表面温度が500℃以下で、O2、H2O、N2O、O3等のガスが100%の雰囲気中、またはこれらのガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%以上である混合ガス雰囲気中で、数分〜数時間のアニールを行う。なお、当該混合ガスは上記したO2、H2O、N2O、O3等のガスといわゆる希ガス(N2、Ar等)との混合ガスであることが好ましい。
【0025】
次に、図5に示すように、p−ZnO層14の表面に、p側電極21の金属として電子ビーム(EB)蒸着によりNi/Au層を、例えば、それぞれが1nm/10nm の厚さで積層する。Ni/Au層の蒸着後、フォトリソグラフィ技術を用いて、所定のp側電極の形状にNi/Au層をパターニングする。その後、RTA等の装置により、500℃以下の温度で、O2、H2O、N2O、O3ガス等が100%の雰囲気中、またはこれらのガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%(体積百分率)以上である希ガスとの混合ガス中で、合金化及び透明化処理を行う(図3、ステップS13)。これにより、p側電極21を形成する。
【0026】
次に、動作層付き基板17の表面(p側電極21側)を研削機に取り付け、動作層付き基板17の裏面(ZnO基板10の−C面側)を鏡面(光学鏡面)になるまで研磨する。研磨後の動作層付き基板17の厚みは、例えば約200μmである。そして、フォトリソグラフィにより、基板裏面側にn側電極22の形状に開口したレジストマスクを形成する。次に電子ビーム(EB)蒸着によりn側電極22として Ti /Auを10nm /100nmの厚みで積層する。その後、リフトオフ法によってマスク開口部以外の蒸着材料を除去し、500℃以下の温度で合金化処理を行い、n側電極22を形成する(図3、ステップS14)。
【0027】
次に、p側電極21及びn側電極22が形成されたウエハ(動作層付き基板)のスクライブ及びブレーキングを行って素子分離(個片化)がなされ(図3、ステップS15)、図6に示すように、LED素子25が製造される。
【0028】
なお、上記した素子形成プロセスは全工程を通じて、550℃以未満の温度で行う必要がある。また、上記したように、500℃以下の温度で行うのが好ましい。この点については、後に詳細に説明する。
【0029】
[p側電極の形成条件及び特性]
上記したように、p側電極金属を蒸着する前に、LED動作層付き基板17のp−ZnO層14のアニールを行うが、まず、アニールによるp−ZnO層14の変化について評価を行った。
【0030】
まず、+C面を主面としたZnO基板上にバッファ層を成長後、p型ドーパントであるN(窒素)を1×1020cm-3の濃度でドープしたZnO層(pドープZnO層)を成長したエピ基板を用意した。当該エピ基板の表面温度を500〜800度とし、O2雰囲気中で1秒間のアニールを行った。当該pドープZnO層のC−V測定を行い、それぞれの温度でのアニールによるキャリア濃度を算出した結果を図7に示す。
【0031】
図7に示すように、アニール温度(pドープZnO層の表面温度)が500℃以下の場合では、pドープZnO層はp型の伝導性を示すが、550℃以上ではn型化し、さらに高温でアニールするほどドナー濃度(cm-3)が増加することがわかる。これは、高温になるほどZnO結晶から酸素が抜けて酸素空孔が多くできるためにドナー濃度が増加するためであると考えられる。このような高い温度領域でアニールを行うと、ドナー濃度が増えてしまい、n型の伝導性を示すことがわかった。従って、成長させたpドープZnO層がp型伝導性を維持するためには、p側電極金属を蒸着する前のアニールの温度は550℃未満であることが必要である。また、p型伝導性を維持するために500℃以下とすることが確実であり、好ましい。
【0032】
なお、アニール時の表面温度は、基板17を保持するホルダ上にAlを表面に蒸着したサンプルを設置し、その融点(660.4度)とAlが実際に融けた時に示した赤外放射温度計の温度が合うように、放射率を調整して校正した。
【0033】
かかる評価の後、上記した方法により成長したLED動作層付き基板17(図3、ステップS11)を用いて、p側金属電極21の形成を行った。
【0034】
より詳細には、成長した動作層付き基板17をRTA装置を用い、O2ガスが100%の雰囲気中で表面温度が400℃、20min(分)のアニールを行った(図3、ステップS12)。次に、上記したように、電子ビーム(EB)蒸着によりp−ZnO層14の表面にNi/Auを蒸着した後、フォトリソグラフィ技術を用いてNi/Au層をパターニングした。そして、O2ガスが100%の雰囲気中で、RTA装置により表面温度が450℃、30sec(秒)の合金化及び透明化処理を行い、p側電極21を形成した(図3、ステップS13)。
【0035】
その後、上記した方法によりn側電極22を形成し、LED素子25を形成した(図3、ステップS14〜S15)。
【0036】
このように形成したLED素子25のp側電極21を実体顕微鏡で観察した。その結果、p側電極21には変色は見られなかった。また、図8は、動作層付き基板17のp側電極21近傍の透過型電子顕微鏡(TEM)像の一例である。このようなTEM観察から、p側電極21には剥離や金属の凝集などは生じておらず、p側電極21はp−ZnO層14の表面に密着していることが確認された。
【0037】
また、LED素子25のダイオード特性を評価した。図9は、カーブトレーサで測定したLED素子25の電流−電圧特性(I−V特性)を示している。良好なオーミック接触が形成され、順方向特性及び逆方向特性の両者において良好なダイオード特性を有していることが確認された。
【0038】
さらに、アニール条件を変化させて同様な評価を行った。具体的には、アニール温度を500℃とし、アニール時間を5分としてアニールを行った場合について以下に説明する。なお、O2ガスが100%の雰囲気中でアニールを行った点は同様である。上記したのと同様にして形成したLED素子25のp側電極21を実体顕微鏡で観察した。この結果、p側電極21には変色は観測されず、電極の剥離、凝集は起こっていないことが確認された。
【0039】
図10は、このように形成したLED素子25のI−V特性を示している。良好なオーミック接触が形成され、順方向特性及び逆方向特性の両者において良好なダイオード特性を有していることが確認された。このことはアニール温度を高くするほどアニール時間を短くしても同様な効果が得られることを示唆している。さらに、アニールを500℃、2時間行った場合も同様の効果が得られた。すなわち、p型伝導性を維持しつつ、電極の剥離、凝集が起きないことが分かった。アニール時間を長くすることによりこのような効果を損ねることはないが、生産性を考えた場合には、高温(例えば500℃)、短時間(例えば、5分)のアニールを行うことが望ましい。
【0040】
ところで、本発明におけるp側電極金属の蒸着前アニールの効果は、ZnO結晶表面の活性化に関係していると考えられる。すなわち、より高温でアニールするほどZnO結晶表面は活性化されると考えられる。一方、ESR(電子スピン共鳴)の結果から、ZnOにおいては結晶表面温度が250℃以上において不対電子の変化があるといわれている。すなわち、本実施例による電極の剥離、凝集の防止という効果は、p側電極金属の蒸着前のアニールによるZnO結晶表面の活性化に起因するという観点から考えれば、アニール温度の下限は250℃近傍であると考えられる。また、上記したように、pドープZnO層のp型伝導性の維持には550℃未満であることが必要である。従って、電極形成プロセス及び半導体素子形成プロセスは、当該プロセス全体を通じて550℃未満であることが必要である。なお、p型伝導性の維持の確実さからは500℃以下が好ましい。
【実施例2】
【0041】
実施例1においては、ZnO基板10の+C面上に、バッファ層11、n−ZnO層12、発光層13及びp−ZnO層14を成長した動作層付き基板17を用いた場合について説明したが、ZnO結晶に代わり、マグネシウム(Mg)等を含むZnO系半導体結晶を用いた場合についても同様に適用することができる。
【0042】
すなわち、n−ZnO層12及びp−ZnO層14を、MgXZn1-XO(0≦X≦0.5)等のZnO系半導体層としても、上記した実施例1と同様に、p型伝導性を維持しつつ、電極の剥離及び凝集が起きないp側電極を形成することができる。
【0043】
なお、X≦0.5としたのは、この値を超えた場合、MgZnO半導体層自身が六方晶と立方晶の混在した結晶になってしまい、結晶性が悪化するためである。
【0044】
図11は、ZnO系半導体層がZnO基板10上に成長された発光素子(LED素子)35を示す断面図である。より詳細には、ZnO基板10の+C面上に、バッファ層31、n−Mg0.31Zn0.69O層32、ZnO発光層33及びp−Mg0.33Zn0.67O層34をこの順で成長した。このようにして、n−MgxZn(1-x)O層32、ZnO発光層33及びp−MgxZn(1-x)O層34から構成される動作層(LED動作層)35を形成した。なお、p−MgxZn(1-x)O層34は、p型ドーパントであるN(窒素)を1×1020cm-3の濃度でドープして形成した。
【0045】
かかる半導体結晶成長、p側電極金属を蒸着する前のアニール、p側電極形成及びn側電極形成の各プロセス及び条件は実施例1の場合と同様である。すなわち、p側電極金属を蒸着する前に温度400℃、20minのアニールを行った。また、p−MgxZn(1-x)O層34の表面にNi/Auを蒸着した後、フォトリソグラフィ技術を用いてNi/Au層をパターニングした。そして、O2ガスが100%の雰囲気中で、RTA装置により表面温度が450℃、30secの合金化及び透明化処理を行い、p側電極41を形成した。さらに、ZnO基板10の裏面(−C面)を鏡面になるまで研磨し、電子ビーム蒸着によりTi /Auを10nm /100nmの厚みで積層した。そしてTi /Auをパターニングした後、500℃以下の温度で合金化処理を行い、n側電極42を形成した。かかるLED素子35を形成するプロセスは全て500℃以下の温度で行った。
【0046】
このように製造したLED素子35のp側電極41側を実体顕微鏡で観察した。その結果、p側電極41には何ら変色は見られなかった。前述のように、この結果はLED素子35のp側電極41が剥離、凝集せずにp−MgxZn(1-x)O層34の表面に密着していることを示している。
【0047】
このように、Mgを組成として含むZnO系半導体(MgxZn(1-x)O)においても、電極形成前にアニールを行うことにより、p−ZnO系半導体層の表面が活性化され、電極の金属の凝集、剥離を防止でき、接着性の良い電極を形成することができることが分かった。
【0048】
図12は、このように形成したLED素子35のI−V特性を示している。良好なオーミック接触が形成され、順方向特性及び逆方向特性の両者において良好なダイオード特性を有していることが確認された。
【0049】
前述のように、本発明におけるアニールの効果は、ZnO系結晶表面の活性化に起因すると考えられるので、ZnO系半導体素子のすべてに適用可能である。
【0050】
なお、上記した実施例においては、p側電極金属としてNi/Auを用いた場合について説明したが、Au,Ag,Ni,Rh,Pt,Pdのいずれか、又はこれらのうち少なくとも1つを含む合金又は積層体からなっていてもよい。例えば、Ni/Pt/Au、Ni/Rh/Au等の金属を用いてもよい。さらに、第1層目の金属はNiに限らず、Al、Sn、Pbなどを用いてもよい。また、100%のO2ガスを雰囲気ガスとして用いてアニールを行った場合について説明したが、前述のように、O2、H2O、N2O、O3等のガスが100%の雰囲気中、またはこれらのガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%以上である希ガスとの混合ガス中でアニールを行ってもよい。
【0051】
上記実施例においては、半導体発光素子としてLEDを例に説明したが、半導体レーザあるいは他の電子デバイス等の半導体素子に適用することも可能である。
【0052】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、p型ZnO系化合物半導体の電極の剥離や金属の凝集が生じず高い接着性を有するとともに良好なオーミック接触を有するコンタクト電極の形成方法及び当該電極が形成されたZnO系化合物半導体素子の製造方法を提供できる。
【符号の説明】
【0053】
10 基板
12 n−ZnO層
13 発光層
14 p−ZnO層
15 LED動作層
21 p側電極
22 n側電極
25 LED素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛(ZnO)系半導体素子の製造方法であって、
基板上にn型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層を含む積層体を前記p型ZnO系半導体層が表面に形成されるように形成する工程と、
前記p型ZnO系半導体層をその表面温度が250℃ないし500℃の範囲内で熱処理する工程と、
550℃未満の温度で、前記p型ZnO系半導体層上にp側電極金属を前記熱処理の後に形成する工程と、
前記n型ZnO系半導体層上にn側電極金属を形成して前記ZnO系半導体素子を形成する工程と、からなることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記熱処理する工程は、O2、H2O、N2O、O3ガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%以上である雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記p側電極金属は、Au,Ag,Ni,Rh,Pt,Pdのいずれか又はこれらのうち少なくとも1つを含む合金又は積層金属からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記p型及びn型ZnO系結晶層はMgxZn(1-x)O層(0≦x≦0.5)であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記積層体は発光層を含み、前記ZnO系半導体素子はLEDであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項6】
p型ZnO系半導体のコンタクト電極の形成方法であって、
前記p型ZnO系半導体をその表面温度が250℃ないし500℃の範囲内で熱処理する半導体熱処理工程と、
550℃未満の温度で、前記半導体熱処理の後に前記p型ZnO系半導体に電極金属を蒸着する工程と、
550℃未満の温度で前記電極金属を熱処理する電極金属熱処理工程と、を有することを特徴とする形成方法。
【請求項7】
前記半導体熱処理工程は、O2、H2O、N2O、O3ガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%以上である雰囲気下で行われることを特徴とする請求項6に記載の形成方法。
【請求項8】
前記電極金属は、Au,Ag,Ni,Rh,Pt,Pdのいずれか又はこれらのうち少なくとも1つを含む合金又は積層金属からなることを特徴とする請求項6又は7に記載の形成方法。
【請求項1】
酸化亜鉛(ZnO)系半導体素子の製造方法であって、
基板上にn型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層を含む積層体を前記p型ZnO系半導体層が表面に形成されるように形成する工程と、
前記p型ZnO系半導体層をその表面温度が250℃ないし500℃の範囲内で熱処理する工程と、
550℃未満の温度で、前記p型ZnO系半導体層上にp側電極金属を前記熱処理の後に形成する工程と、
前記n型ZnO系半導体層上にn側電極金属を形成して前記ZnO系半導体素子を形成する工程と、からなることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記熱処理する工程は、O2、H2O、N2O、O3ガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%以上である雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記p側電極金属は、Au,Ag,Ni,Rh,Pt,Pdのいずれか又はこれらのうち少なくとも1つを含む合金又は積層金属からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記p型及びn型ZnO系結晶層はMgxZn(1-x)O層(0≦x≦0.5)であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記積層体は発光層を含み、前記ZnO系半導体素子はLEDであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項6】
p型ZnO系半導体のコンタクト電極の形成方法であって、
前記p型ZnO系半導体をその表面温度が250℃ないし500℃の範囲内で熱処理する半導体熱処理工程と、
550℃未満の温度で、前記半導体熱処理の後に前記p型ZnO系半導体に電極金属を蒸着する工程と、
550℃未満の温度で前記電極金属を熱処理する電極金属熱処理工程と、を有することを特徴とする形成方法。
【請求項7】
前記半導体熱処理工程は、O2、H2O、N2O、O3ガスの少なくとも1つの合計の含有率が20vol%以上である雰囲気下で行われることを特徴とする請求項6に記載の形成方法。
【請求項8】
前記電極金属は、Au,Ag,Ni,Rh,Pt,Pdのいずれか又はこれらのうち少なくとも1つを含む合金又は積層金属からなることを特徴とする請求項6又は7に記載の形成方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図8】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図8】
【公開番号】特開2010−212498(P2010−212498A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58183(P2009−58183)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]