説明

酸化物薄膜の成膜装置および成膜方法

【課題】酸化物薄膜の形成の直前に配向金属基板を還元雰囲気下で熱処理を行うに際して、必要以上に熱処理時間を長くしてコストアップを招くことがなく、また、必要以上に熱処理温度を高くして品質の低下を招くことがない酸化物薄膜の成膜装置およびこのような装置を用いた酸化物薄膜の成膜方法を提供する。
【解決手段】長尺の配向金属基板の表面の酸化層を除去する還元熱処理室の直後に、還元熱処理室より搬送された配向金属基板の表面に酸化物薄膜を成膜する成膜室を備えた酸化物薄膜の成膜装置であって、還元熱処理室と成膜室との間に、還元熱処理室および成膜室の互いの雰囲気を実質的に独立した雰囲気とする雰囲気遮断部が設けられ、さらに、還元熱処理室および成膜室のそれぞれにガス供給機構および排気機構が設けられている酸化物薄膜の成膜装置とそれを用いた成膜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化物薄膜の成膜装置および成膜方法に関し、特に長尺基板上への酸化物薄膜の成膜に際して、還元熱処理と成膜とを互いに独立した雰囲気下で行う酸化物薄膜の成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超電導体の発見以来、ケーブル、限流器、電磁石などの機器への応用を目指した高温超電導線材の開発が活発になされている。現在の代表的な高温超電導体は、REBaCu7−δ(ここに、REは希土類元素を示す。)などの酸化物であり、優れた高温超電導線材を得るためには、前記の酸化物について配向性の高い薄膜を形成する必要がある。
【0003】
このため、長尺の線材の基板として、例えばNiなど、金属原子が2軸配向した長尺の配向金属基板を用いて、この配向金属基板上に酸化物薄膜をエピタキシャル成長させることにより配向金属基板と同じ2軸配向性を有する中間層を形成し、前記中間層の上にさらに超電導層をエピタキシャル成長させることにより中間層と同じ2軸配向性を有する超電導層を形成することが行われている。
【0004】
しかし、このような配向金属基板を用いても、配向金属基板表面が酸化されて酸化層が形成されている場合には、配向金属基板表面の2軸配向性が損なわれ、中間層として形成されるCeOなどの酸化物薄膜は独自の配向(<111>軸が基板面に対して垂直方向に配向した1軸配向)をとりやすく、配向金属基板にエピタキシャルな中間層を形成することが困難となるため、超電導に適した配向を有する超電導層を形成することが困難となる。
【0005】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1には、酸化物薄膜の形成の直前に配向金属基板を還元雰囲気下で熱処理を行うことにより、配向金属基板表面の酸化層を除去することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−1935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、1つの処理室(処理がなされる部屋)内で搬送されていく長尺の基板に還元熱処理を行った直後に酸化物薄膜の形成を行ったり、上流側の還元熱処理室で還元熱処理がなされた長尺の基板を開口された通路を介して下流側の成膜室へ搬送し、その室内で酸化物薄膜の形成を行ったりしている。
【0008】
このとき、処理が行われる室が1つの場合はもちろん、2つの処理室で処理を行う場合であっても、ガス供給機構は還元熱処理室に、排気機構は成膜室に設けられているため、酸化層を除去する還元熱処理と、酸化層が除去された基板への酸化物薄膜の形成を行う成膜処理とが、同じ組成の雰囲気中で行われることとなる。
【0009】
しかしながら、還元熱処理と成膜処理とでは、最適な雰囲気の組成は相違する。即ち、還元熱処理では、酸化層から酸素を除去するという面から、雰囲気中の還元性ガス、例えば水素は、分圧が大きいほど好ましい。しかし、成膜処理では、還元性ガスの分圧が大きいと、酸化物薄膜を形成するための酸素と結合して、酸化物薄膜に酸素欠損を生じる恐れがあり、分圧をあまり大きくすることは好ましくない。
【0010】
そこで、基板表面の酸化層の除去よりも酸化物薄膜の形成の方を優先する(重要である)ため、酸化物薄膜の形成に適した雰囲気組成、即ち還元性ガスの組成を小さくした雰囲気とし、酸化層を除去するための補償として、熱処理時間を長くしたり、熱処理温度を高くすることが考えられる。
【0011】
しかし、熱処理時間を長くするためには、基板の搬送速度を下げたり、処理室を長くしたりする必要があり、大幅なコストアップを招く恐れがある。
【0012】
また、熱処理温度を高くした場合には、短時間での酸化層除去が可能となるが、その一方で、張力による基板の伸びや、基板である配向金属の再結晶化による表面平坦性の悪化や結晶配向性の悪化などの悪影響も発生し、品質の低下を招く恐れがある。
【0013】
そこで、本発明は、上記した諸問題に鑑み、酸化物薄膜の形成の直前に配向金属基板を還元雰囲気下で熱処理を行うに際して、必要以上に熱処理時間を長くしてコストアップを招くことがなく、また、必要以上に熱処理温度を高くして品質の低下を招くことがない酸化物薄膜の成膜装置およびこのような装置を用いた酸化物薄膜の成膜方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としてなされたものであり、基板表面からの酸化層の除去と基板表面への酸化膜の形成を行う各々の処理室の雰囲気を互いに独立させて、それぞれの処理に好適な雰囲気となるように制御するものである。以下、各請求項の発明を説明する。
【0015】
請求項1に記載の発明は、
長尺の配向金属基板の表面の酸化層を除去する還元熱処理室の直後に、前記還元熱処理室より搬送された前記配向金属基板の表面に酸化物薄膜を成膜する成膜室を備えた酸化物薄膜の成膜装置であって、
前記還元熱処理室と前記成膜室との間に、前記還元熱処理室および前記成膜室の互いの雰囲気を実質的に独立した雰囲気とする雰囲気遮断部が設けられ、
さらに、前記還元熱処理室および前記成膜室のそれぞれにガス供給機構および排気機構が設けられていることを特徴とする酸化物薄膜の成膜装置である。
【0016】
本請求項の発明により、還元熱処理室および成膜室をそれぞれの処理に最適な雰囲気となるように制御して、基板の酸化層の除去と酸化物薄膜の形成とを各々に最適な雰囲気下で連続して行うことができるため、長尺基板上へ優れた酸化物薄膜を形成することができる。
【0017】
雰囲気遮断部は、還元熱処理室と成膜室とを区切るものであり、長尺基板が通ることができるだけの小さな孔が設けられており、この孔の近傍以外では、還元熱処理室と成膜室の雰囲気ガスが混合しないようになっているため、容易に、還元熱処理室および成膜室の互いの雰囲気を実質的に独立した雰囲気とすることができる。
【0018】
そして、各処理室におけるそれぞれの雰囲気の設定は、各処理室に設けられたガス供給機構(例えば、ガス供給装置)および排気機構(例えば、排気装置)により行うことができる。ガスの供給、排気を制御することにより、還元熱処理室および成膜室の雰囲気をそれぞれ独立して最適な雰囲気に調整することができる。
【0019】
このように、還元熱処理室および成膜室の互いの雰囲気が実質的に独立しており、各処理室にガス供給機構および排気機構が設けられているため、還元熱処理室についても酸化層を除去するための最適な雰囲気を設定することができ、還元熱処理を、酸化物薄膜の形成に適した雰囲気(還元性ガスの組成を小さくした雰囲気)の下で行う必要がなく、熱処理時間を必要以上に長くしたり、熱処理温度を必要以上に高くして行う必要がない。その結果、短時間に、高温での処理による各悪影響の発生を防止して、還元熱処理を行うことができ、コストアップを抑制することができる。
【0020】
また、成膜室においても、同様に良好な酸化物薄膜を形成するための最適な雰囲気を設定することができる。その結果、前記した最適な雰囲気下での還元熱処理とも相俟って、充分に酸化層が除去された配向金属基板上に、優れた品質の酸化物薄膜を形成することができる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、
前記雰囲気遮断部が、排気機構を有していることを特徴とする請求項1に記載の酸化物薄膜の成膜装置である。
【0022】
本請求項の発明においては、雰囲気遮断部が排気機構を有しているため、還元熱処理室および成膜室の互いの雰囲気をより独立した雰囲気とすることができる。
【0023】
請求項3に記載の発明は、
前記成膜室が、第1の成膜室および第2の成膜室より構成されており、
前記第1の成膜室と前記第2の成膜室との間に、互いの雰囲気を実質的に独立した雰囲気とする雰囲気遮断部が設けられている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物薄膜の成膜装置である。
【0024】
本請求項の発明においては、成膜室を、互いが実質的に独立した雰囲気の第1の成膜室と第2の成膜室とに分けて設けているため、各室の雰囲気を還元性または酸化性など適宜変更することにより、基板の酸化層の除去と酸化物薄膜の形成において、よりきめ細かい対応が可能となり、より優れた品質の酸化物薄膜を形成することができる。
【0025】
請求項4に記載の発明は、
長尺の配向金属基板の表面に酸化物薄膜を成膜する成膜方法であって、
所定の雰囲気に制御された還元熱処理室において、前記配向金属基板の表面の酸化層を除去する還元熱処理工程と、
前記酸化層が除去された前記配向金属基板を、雰囲気遮断部を経由して、前記還元熱処理室の直後に設けられると共に、前記還元熱処理室の雰囲気から実質的に独立した所定の雰囲気に制御された成膜室に搬送する搬送工程と、
前記成膜室において、前記還元熱処理室より搬送された前記配向金属基板の表面に酸化物薄膜を成膜する成膜工程と
を有することを特徴とする酸化物薄膜の成膜方法である。
【0026】
本請求項の発明においては、雰囲気遮断部により互いの雰囲気が実質的に独立し、それぞれ還元熱処理および成膜に適した所定の雰囲気にされた還元熱処理室および成膜室において、還元熱処理と成膜処理を行うため、充分に酸化層が除去された配向金属基板上に、優れた酸化物薄膜を形成することができる。
【0027】
請求項5に記載の発明は、
前記成膜工程が、
第1の成膜室において、還元雰囲気下で、前記還元熱処理室より搬送された前記配向金属基板の表面に第1の酸化物薄膜を成膜する第1の成膜工程と、
前記第1の酸化物薄膜が成膜された前記配向金属基板を、雰囲気遮断部を経由して第2の成膜室に搬送する搬送工程と、
前記第2の成膜室において、酸化雰囲気下で、前記第1の酸化物薄膜の表面に第2の酸化物薄膜を成膜する第2の成膜工程と
を有することを特徴とする請求項4に記載の酸化物薄膜の成膜方法である。
【0028】
酸化物薄膜の形成は、酸化雰囲気下で行うことが好ましい。しかし、酸化雰囲気下では、基板表面に酸化物薄膜が成膜される前に、還元熱処理により酸化層を除去した配向金属基板が再び酸化されてしまう。
【0029】
このため、本請求項の発明においては、予め、第1の成膜工程において還元雰囲気下で第1の酸化物薄膜を薄く形成させる。これにより、酸化雰囲気下で酸化物薄膜の成膜を行う本来の酸化物薄膜の成膜工程である第2の成膜工程において、前記の薄く形成された第1の酸化物薄膜が、基板が再び酸化されることを防止するバリヤとして機能し、基板が酸化されることなく、第2の酸化物薄膜として酸素欠損のない酸化物薄膜を形成させることができる。なお、第1の成膜工程における還元雰囲気は、第1の酸化物薄膜が酸素欠損状態にならないように、弱還元雰囲気にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、酸化物薄膜の形成の直前に配向金属基板を還元雰囲気下で熱処理を行うに際して、必要以上に熱処理時間を長くしてコストアップを招くことがなく、また、必要以上に熱処理温度を高くして品質の低下を招くことがない酸化物薄膜の成膜装置およびこのような装置を用いた酸化物薄膜の成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る酸化物薄膜の成膜装置の要部の構成を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る酸化物薄膜の成膜装置の雰囲気遮断部の構成を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る酸化物薄膜の成膜装置の雰囲気遮断室の構成を示す図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係る酸化物薄膜の成膜装置の要部の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例により得られた薄膜についてのX線回折図である。
【図6】本発明の実施例により得られた薄膜についてのX線回折図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明をその最良の実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0033】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態は、還元熱処理室と成膜室の間に、長尺基板を通すための小孔を有する雰囲気遮断部を設けることにより、両室の雰囲気ガスが互いに混ざり合うことを抑制し、両室の雰囲気をそれぞれ実質的に独立して各処理に最適な雰囲気に保つことができる酸化物薄膜の成膜装置の例である。以下、図1を参照しつつ本実施の形態を説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態に係る長尺の基板上への酸化物薄膜の成膜装置の要部の構成を示す図である。図1において、10は長尺の基板であり、21は基板10の供給ロールであり、22は巻取りロールである。また、30は還元熱処理室であり、31は還元熱処理室30内部に設けられたヒータであり、35は還元熱処理室30へ所定のガスを供給するためのガス供給装置であり、36は排気装置である。
【0035】
40は成膜室であり、41は成膜室40の内部に設けられたヒータであり、45は成膜室40へ所定のガスを供給するためのガス供給装置であり、46は排気装置である。また、90は基板10上に酸化物薄膜を形成するためのターゲット(材料)である。また、還元熱処理室30と成膜室40の間には、雰囲気遮断部として、小孔50aを有する雰囲気遮断壁50が設けられている。
【0036】
そして、11は還元熱処理が施される前の基板10の表面の酸化層であり、91は基板10の表面に形成された酸化物薄膜である。
【0037】
本実施の形態に係る酸化物薄膜の成膜装置では、Ni基合金製の配向されたテープ状の長尺の基板10が供給ロール21から巻出され、還元熱処理室30、雰囲気遮断壁50に設けられた小孔50a、成膜室40を経由して搬送された後、巻取りロール22に巻取られる。途中、還元熱処理室30内の加熱された還元雰囲気に晒されることにより、上下両表面の酸化層11が還元され、その直後に成膜室40内で基板10の下面に酸化物薄膜91が形成される。
【0038】
そして、還元熱処理室30と成膜室40のそれぞれには、ガス供給機構としてのガス供給装置35、45および排気機構としての排気装置36、46が設けられており、それぞれの雰囲気を実質的に独立して最適な雰囲気、即ち、還元熱処理室30の雰囲気を還元に最適な雰囲気に、成膜室40の雰囲気を成膜に最適な雰囲気に保つことができる。
【0039】
還元に最適な還元熱処理室30の雰囲気としては、例えば水素雰囲気のように強い還元雰囲気とすることが好ましい。強い還元雰囲気とすることにより、還元熱処理時の温度を特に高温にすることなく短時間に還元熱処理を施すことができる。
【0040】
成膜に最適な成膜室40の雰囲気としては、ArやAr+H等の不活性雰囲気または弱い還元雰囲気とすることが好ましい。これは、成膜室40の雰囲気を強い還元雰囲気とした場合には、形成した酸化物薄膜91に酸素欠損が生じる恐れがあるためである。一方、酸素欠損の発生を防ぐために、成膜室40の雰囲気をAr+酸素のように酸素を含んだ雰囲気とした場合には、還元熱処理された基板10が成膜室40に移った時に酸化されてしまう恐れがあり、また、小孔50aの近傍で両室の雰囲気が混合し、反応して水が生成する恐れがある。
【0041】
具体的には、例えば、還元熱処理室30と成膜室40に同一の組成のAr+Hからなる雰囲気ガスを用いて、ガス供給装置35、45および排気装置36、46を調整して、還元熱処理室30のガス圧を高くして還元熱処理室30の水素分圧を高くすることにより、還元熱処理室30の雰囲気を還元熱処理に適した雰囲気にする一方、成膜室40のガス圧を低くすることにより、成膜室の雰囲気を成膜に適した雰囲気にすることが挙げられる。
【0042】
なお、小孔50aの断面の大きさおよび雰囲気遮断壁50の厚さは、基板10が無理なく通過でき、かつ還元熱処理室30と成膜室40の雰囲気ガスが極力混合しないように適宜設定されている。
【0043】
本実施の形態においては、還元熱処理室30の直後に成膜室40が設けられているため、還元熱処理を行った後直ちに成膜を行うことができ、成膜前に基板が酸化されることを抑制することができる。
【0044】
なお、一般的には、基板10が還元熱処理室30内で雰囲気に晒される時間は5〜20分程度であり、温度としては還元熱処理室30(および還元熱処理室における基板の温度)が850〜1000℃程度、成膜室40(および成膜室における基板の温度)が600〜870℃程度である。
【0045】
なお、基板10としては、例えば薄膜超電導線材の基板に用いられる配向金属基板であれば特に限定はされず、例えば、幅10mm、厚さ100μm程度の長尺のNiやNi−W合金(Ni95モル%、Fe5モル%)等を用いることができる。
【0046】
また、雰囲気遮断壁50は、通過する長尺の基板10の断面形状、寸法に合わせて、小孔50aの断面の大きさを可変としても、取り換え可能としても良い。
【0047】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、前記第1の実施の形態に係る成膜装置の雰囲気遮断壁50の厚さを大きくする成膜装置の例である。以下、図2を参照しつつ本実施の形態を説明する。
【0048】
図2は、本実施の形態に係る長尺の基板上への酸化物薄膜の成膜装置の雰囲気遮断部の構成を示す図である。本実施の形態に係る成膜装置の場合、雰囲気遮断壁50の厚さを厚くすることにより小孔50aの長さが長くなり、還元熱処理室30と成膜室40の雰囲気ガスがより混ざり難くなり、両室の雰囲気をそれぞれ充分に独立させてより最適な雰囲気に保つことができる。
【0049】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態は、還元熱処理室と成膜室との間に、雰囲気遮断部として、排気機構が設けられた雰囲気遮断室を設けた成膜装置の例である。以下、図3を参照しつつ本実施の形態を説明する。
【0050】
図3は、本実施の形態に係る成膜装置の雰囲気遮断室の構成を示す図である。図3において、52は還元熱処理室30と成膜室40の間に設けられた雰囲気遮断室であり、53は還元熱処理室30と雰囲気遮断室52との間に設けられた雰囲気遮断壁であり、54は成膜室40と雰囲気遮断室52との間に設けられた雰囲気遮断壁であり、53a、54aはそれぞれ雰囲気遮断壁53、54に設けられた小孔である。また、56は雰囲気遮断室52に設けられた排気装置である。
【0051】
本実施の形態においては、還元熱処理室30と成膜室40間に2つの雰囲気遮断壁53、54が設けられているだけでなく、さらに雰囲気遮断室52を設け、排気装置56で小孔53a、54aから雰囲気遮断室52内に侵入してきた雰囲気ガスを排除するため、還元熱処理室30と成膜室40の雰囲気の雰囲気ガスが混ざることをほぼ完全に阻止することができる。
【0052】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態は、成膜工程を2段階に分けて成膜処理を行う酸化物薄膜の成膜装置の例である。以下、図4を参照しつつ本実施の形態を説明する。
【0053】
図4は、本実施の形態に係る長尺の基板上への酸化物薄膜の成膜装置の要部の構成を示す図である。図4において、60は第1の成膜室であり、61は第1の成膜室60の内部に設けられたヒータであり、62はターゲットである。また、65は第1の成膜室60へ所定のガスを供給するためのガス供給装置であり、66は排気装置である。
【0054】
そして、70は第2の成膜室であり、71は第2の成膜室70の内部に設けられたヒータであり、72はターゲットである。また、75は第2の成膜室70へ所定のガスを供給するためのガス供給装置であり、76は排気装置である。
【0055】
また、第1の成膜室60と第2の成膜室70との間には、小孔を有する雰囲気遮断壁51が設けられている。そして、92は第1の成膜室60において基板10の表面に形成された第1の酸化物薄膜であり、93は第2の成膜室70において形成された第2の酸化物薄膜である。なお、図1に示した符号と同じ符号については、説明が重複するため省略する。
【0056】
本実施の形態に係る酸化物薄膜の成膜装置では、長尺の基板10は、還元熱処理室30内の加熱された還元雰囲気に晒されることにより、上下両表面の酸化層11が還元された後、雰囲気遮断壁50を経由して第1の成膜室60に搬送される。
【0057】
第1の成膜室60は、ガス供給装置65および排気装置66により、還元雰囲気に設定されており、搬送されてきた基板10の表面には、第1の酸化物薄膜92が薄く形成される。還元雰囲気であるため、第1の酸化物薄膜92の形成に際して、基板10の表面が再度酸化されることはない。なお、第1の酸化物薄膜92の形成は基板表面の酸化を防止するバリヤを形成させることが目的であるため、第1の成膜室60は、酸素欠損が生じない程度に薄く成膜されるように、還元熱処理室30内よりも弱い還元雰囲気とすることが好ましい。
【0058】
第1の酸化物薄膜92が形成された基板10は、引き続いて、雰囲気遮断壁51を経由して第2の成膜室70に搬送される。
【0059】
第2の成膜室70は、ガス供給装置75および排気装置76により、酸化雰囲気に設定されており、搬送されてきた基板10の表面に形成された第1の酸化物薄膜92の上に、所定の厚さの第2の酸化物薄膜93が形成される。基板10の表面には既に第1の酸化物薄膜92が形成されているため、酸化雰囲気であっても、基板10の表面が酸化されることはない。また、酸化雰囲気であるため、第2の酸化物薄膜93には、酸素欠損が生じることもない。
【0060】
(実施例)
以下、本発明を、実施例を参照しつつ具体的に説明する。
配向Ni基板上に、前記第3の実施の形態に係る成膜装置を使用してCeO膜を形成した。この際、還元熱処理室と成膜室の何れにも雰囲気ガスとして3モル%のHを含むArを導入し、さらに成膜室の圧力は最適な成膜条件である5.2Paに保持し、還元熱処理室のガス圧をガス供給装置および排気装置を用いて制御し、これにより還元熱処理室内での還元性ガスであるHの分圧を表1に示すように調整した。また、還元熱処理の温度は850℃とし、成膜温度は650℃とした。
【0061】
形成された各CeO膜につき、薄膜の評価を行った。具体的には、X線回折(θ−2θ法)を用いて、必要とする(100)配向を示す(200)回折ピークと、好ましくない配向を示す(111)回折ピーク、2つの強度を測定し、以下に示す式により配向率を求め、その指標とした。
配向率={(200)ピーク強度}/{(111)ピーク強度+(200)ピーク強度}
結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、還元熱処理室の雰囲気ガスの圧力を高くするほど、CeO膜の配向率が高くなることが分かる。これは、還元性ガスHの分圧を高くするほど、Ni製配向基板表面の酸化層がより一層除去されて、その直後に基板表面に形成される酸化物薄膜、即ちCeO膜の配向性が向上するためである。
【0064】
表1の3番目に示す還元熱処理室のH分圧が0.20Pa、配向率が93.1%の薄膜について、X線回折を行った結果を図5に示す。図5に示すように、この薄膜の場合、矢印で示す位置に、わずかではあるが酸素欠損を示すピークが見られた。これは、成膜室の雰囲気圧が5.2Paという弱還元雰囲気下で、成膜を行ったためと推測される。
【0065】
次に、前記第4の実施の形態に係る成膜装置を使用してCeO膜を形成した。この際、還元熱処理室と第1の成膜室の何れにも雰囲気ガスとして3モル%のHを含むArを導入し、還元熱処理室の圧力は6.7Paに、第1の成膜室の圧力は5.2Paとなるように、各ガス供給装置および排気装置を用いて制御した。これにより、還元熱処理室は還元雰囲気となり、第1の成膜室は弱還元雰囲気となる。また、第2の成膜室には雰囲気ガスとして0.5モル%のOを含むArを導入し、2.6Paの圧力となるように、ガス供給装置および排気装置を用いて制御した。これにより、第2の成膜室は酸化雰囲気となる。
【0066】
得られた薄膜についての、X線回折を行った結果を図6に示す。図6に示すように、この薄膜の場合には、酸素欠損を示すピークは見られなかった。なお、この場合の配向率は、92.9%であった。
【0067】
以上より、成膜室として、還元雰囲気の第1の成膜室および酸化雰囲気の第2の成膜室を設けて、第1の成膜工程において基板表面の酸化を防止するバリヤ層としての第1の酸化物薄膜を薄く形成させ、第2の成膜工程において第1の酸化物薄膜の表面に第2の酸化物薄膜を形成させることにより、酸素欠損のない優れた酸化物薄膜が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0068】
10 基板
11 酸化層
21 供給ロール
22 巻取りロール
30 還元熱処理室
31、41、61、71 ヒータ
35、45、65、75 ガス供給装置
36、46、56、66、76 排気装置
40 成膜室
50、51、53、54 雰囲気遮断壁
50a、53a、54a 小孔
52 雰囲気遮断室
60 第1の成膜室
62、72、90 ターゲット
70 第2の成膜室
91 酸化物薄膜
92 第1の酸化物薄膜
93 第2の酸化物薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の配向金属基板の表面の酸化層を除去する還元熱処理室の直後に、前記還元熱処理室より搬送された前記配向金属基板の表面に酸化物薄膜を成膜する成膜室を備えた酸化物薄膜の成膜装置であって、
前記還元熱処理室と前記成膜室との間に、前記還元熱処理室および前記成膜室の互いの雰囲気を実質的に独立した雰囲気とする雰囲気遮断部が設けられ、
さらに、前記還元熱処理室および前記成膜室のそれぞれにガス供給機構および排気機構が設けられていることを特徴とする酸化物薄膜の成膜装置。
【請求項2】
前記雰囲気遮断部が、排気機構を有していることを特徴とする請求項1に記載の酸化物薄膜の成膜装置。
【請求項3】
前記成膜室が、第1の成膜室および第2の成膜室より構成されており、
前記第1の成膜室と前記第2の成膜室との間に、互いの雰囲気を実質的に独立した雰囲気とする雰囲気遮断部が設けられている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物薄膜の成膜装置。
【請求項4】
長尺の配向金属基板の表面に酸化物薄膜を成膜する成膜方法であって、
所定の雰囲気に制御された還元熱処理室において、前記配向金属基板の表面の酸化層を除去する還元熱処理工程と、
前記酸化層が除去された前記配向金属基板を、雰囲気遮断部を経由して、前記還元熱処理室の直後に設けられると共に、前記還元熱処理室の雰囲気から実質的に独立した所定の雰囲気に制御された成膜室に搬送する搬送工程と、
前記成膜室において、前記還元熱処理室より搬送された前記配向金属基板の表面に酸化物薄膜を成膜する成膜工程と
を有することを特徴とする酸化物薄膜の成膜方法。
【請求項5】
前記成膜工程が、
第1の成膜室において、還元雰囲気下で、前記還元熱処理室より搬送された前記配向金属基板の表面に第1の酸化物薄膜を成膜する第1の成膜工程と、
前記第1の酸化物薄膜が成膜された前記配向金属基板を、雰囲気遮断部を経由して第2の成膜室に搬送する搬送工程と、
前記第2の成膜室において、酸化雰囲気下で、前記第1の酸化物薄膜の表面に第2の酸化物薄膜を成膜する第2の成膜工程と
を有することを特徴とする請求項4に記載の酸化物薄膜の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−163679(P2010−163679A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60763(P2009−60763)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】