説明

金属化合物、薄膜形成用原料及び薄膜の製造方法

本発明の金属化合物は、下記一般式(I)で表されるもので、融点が低く液体の状態で輸送が可能であり且つ蒸気圧が大きく気化させやすく、しかも他の金属化合物と混合しても配位子交換や化学反応により変質せず、金属化合物を気化させて薄膜を形成するCVD法等の薄膜製造方法に用いられる原料に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアミノアルコールを配位子とした新規な金属化合物(鉛化合物、チタニウム化合物及びジルコニウム化合物)、該金属化合物を含有してなる薄膜形成用原料、並びに該原料を用いた金属含有薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛、チタニウム又はジルコニウムを含有する薄膜は、主に高誘電体キャパシタ、強誘電体キャパシタ、ゲート絶縁膜、バリア膜等の電子部品の部材として用いられている。
【0003】
上記の薄膜の製造法としては、火焔堆積法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、化学気相成長(以下、単にCVDと記載することもある)法等が挙げられるが、組成制御性及び段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、ALD(Atomic Layer Deposition)法を含む化学気相成長法が最適な製造プロセスである。
【0004】
MOD法やCVD法においては、薄膜に金属を供給するプレカーサとして有機配位子を用いた金属化合物が用いられている。鉛化合物については、ジピバロイルメタンを配位子として用いたビス(ジピバロイルメタナト)鉛が用いられているが、これは充分な揮発性を有しているものではない。チタニウム化合物及びジルコニウム化合物については、末端に金属原子に配位するドナー基であるエーテル基やアミノ基を有するアルコールを配位子とした金属化合物が、比較的大きい蒸気圧を有すること及び安定した薄膜の製造条件を与えることが報告されている。例えば、特許文献1及び特許文献2にはエーテルアルコールを用いた金属化合物が報告されており、特許文献3にはアミノアルコールを用いた金属化合物が報告されている。
【0005】
また、エーテルアルコールとアミノアルコールを配位子に用いた鉛化合物については、非特許文献1に報告されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−321824号公報
【特許文献2】特開2002−69641号公報
【特許文献3】特開2000−351784号公報
【非特許文献1】Inorganic Chemistry, Vol.29, No.23, 1990, p4640-4646
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CVD法等の金属化合物を気化させて薄膜を形成する方法に用いられる原料に適する金属化合物に求められる性質は、融点が低く液体の状態で輸送が可能であること及び蒸気圧が大きく気化させやすいことである。また、多成分の金属化合物を混合した金属化合物組成物として使用する場合には、混合時或いは保存時に配位子交換や化学反応により変質しないことが求められる。しかし、鉛、チタニウム及びジルコニウムについては、これらの点で充分に満足し得る金属化合物はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、検討を重ねた結果、3級アルコキシドの立体障害効果を付与した特定の金属化合物が上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0009】
本発明は、下記一般式(I)で表される金属化合物、これを含有してなる薄膜形成用原料及びこの薄膜形成用原料を用いて金属含有薄膜を形成する薄膜の製造方法を提供するものである。
【0010】
【化1】

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の薄膜の製造方法に用いられるCVD装置の一例を示す概要図である。
【図2】図2は、本発明の薄膜の製造方法に用いられるCVD装置の一例を示す概要図である。
【図3】図3は、本発明の薄膜の製造方法に用いられるCVD装置の一例を示す概要図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の金属化合物は、上記一般式(I)で表されるものであり、特にCVD法やALD法等の気化工程を有する薄膜製造方法のプレカーサとして好適なものである。本発明は、配位子末端に強いドナー効果と大きな立体障害を有するジアルキルアミノ基を導入することに加え、三級アルコールとして酸素原子の近隣に立体障害を導入することにより、金属原子と酸素原子との間の電気的極性を緩和及び/又は遮蔽して、金属化合物の分子会合抑制による高揮発化効果の付与及び不必要な化学反応の抑制を可能にした。
【0013】
上記一般式(I)において、R1、R2、R3及びR4で表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチル、イソブチルが挙げられ、Aで表されるアルカンジイル基は、炭素数の合計が1〜8のものであれば、直鎖でもよく、任意の位置に1以上の分岐を有していてもよい。該基としては、末端のドナー基であるジアルキルアミノ基が金属原子に配位したときにエネルギー的に安定な構造である5員環又は6員環構造を与える基が好ましい。好ましい基としては、下記一般式(II)で表される基が挙げられる。また、本発明の金属化合物は、光学異性体を有する場合もあるが、その光学異性により区別されるものではない。
【0014】
【化2】

【0015】
配位子中の末端ドナー基が金属原子に配位して環構造を形成した場合を下記一般式(III)に表す。本発明の金属化合物は、一般式(I)で代表して表しているが、一般式(III)で表される金属化合物と区別されるものではなく、両方を含む概念である。
【0016】
【化3】

【0017】
本発明の金属化合物の具体例としては、下記化合物No.1〜No.36が挙げられる。
【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
化合物を気化させる工程を有する薄膜の製造方法において本発明の金属化合物を原料として用いる場合は、上記のR1〜R4及びAは、分子量が小さいものが蒸気圧が大きいので好ましく、具体的には、R1〜R4はメチル基が好ましく、Aはメチレン基が好ましい。また、気化工程を伴わないMOD法による薄膜の製造方法において本発明の金属化合物を原料として用いる場合は、上記のR1〜R4及びAは、使用される溶媒に対する溶解性、薄膜形成反応によって任意に選択することができる。
【0022】
本発明の金属化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造することができる。製造方法としては、該当する3級アミノアルコールを用いた周知一般の金属アルコキシドの合成方法を応用することができ、例えば、金属のハロゲン化物、硝酸塩等の無機塩又はその水和物と、該当するアルコール化合物とを、ナトリウム、水素化ナトリウム、ナトリウムアミド、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、アンモニア、アミン等の塩基の存在下で反応させる方法、金属ハロゲン化物、硝酸塩等の無機塩又はその水和物と、該当するアルコール化合物のナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等のアルカリ金属アルコキシドとを反応させる方法、金属メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、ブトキシド等の低分子アルコールの金属アルコキシドと、該当するアルコール化合物とを交換反応させる方法、金属ハロゲン化物、硝酸塩等の無機塩と反応性中間体を与える誘導体とを反応させて反応性中間体を得てから、これとアルコール化合物とを反応させる方法が挙げられる。
【0023】
本発明の金属化合物は、上記一般式(I)におけるMが鉛原子の場合は、塩化鉛とビス(トリメチルシリル)アミノリチウムを反応させて反応性中間体であるビス(ビス(トリメチルシリル)アミノ)鉛を合成し、これと3級アミノアルコールとの反応により得ることができ、上記一般式(I)におけるMがチタニウム原子又はジルコニウム原子の場合は、金属アルコキシドと3級アミノアルコールとのアルコール交換反応により得ることができる。
【0024】
本発明の薄膜形成用原料は、以上説明した本発明の金属化合物を薄膜のプレカーサとして含有するものであり、その形態は、該薄膜形成用原料が適用される薄膜の製造方法(例えば、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、ALD法を含むCVD法)によって異なる。本発明の金属化合物は、その物性からCVD用原料として特に有用である。
【0025】
本発明の薄膜形成用原料が化学気相成長(CVD)用原料である場合、その形態は使用されるCVD法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0026】
上記の輸送供給方法としては、CVD用原料を原料容器中で加熱及び/又は減圧することにより気化させ、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に堆積反応部へと導入する気体輸送法、CVD用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて、堆積反応部へと導入する液体輸送法がある。液体輸送法において複数の薄膜形成用原料を用いる場合、気化室を薄膜形成用原料毎に複数設けて、各気化室で気化させた蒸気をそれぞれ反応堆積部へ導入してもよく、気化室に複数の薄膜形成用原料を導入し、該気化室で気化させた混合蒸気を反応堆積部へ導入してもよい。気体輸送法の場合は、上記一般式(I)で表される本発明の金属化合物そのものがCVD用原料となり、液体輸送法の場合は、上記一般式(I)で表される金属化合物そのもの又は該金属化合物を有機溶剤に溶かした溶液がCVD用原料となる。
【0027】
また、多成分系のCVD法においては、CVD用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、本発明の金属化合物のみによる混合物或いは混合溶液、又は本発明の金属化合物と他のプレカーサとの混合物或いは混合溶液がCVD用原料である。例えば、強誘電体であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)のカクテルソースとしては、上記例示の化合物No.1〜12から選ばれる少なくとも一種類と化合物No.13〜24から選ばれる少なくとも一種類と化合物No.25〜36から選ばれる少なくとも一種類とからなる混合物或いは混合溶液が好ましい。また、上記一般式(I)におけるMが鉛原子である本発明の金属化合物、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)チタニウム及びテトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)ジルコニウムの混合物或いは混合溶液も、PZTのカクテルソースとして好ましく用いることができる。
【0028】
上記のCVD用原料に使用する有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることが出来る。該有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独で又は二種類以上の混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中における本発明の金属化合物及び他のプレカーサの合計量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
【0029】
また、多成分系のCVD法の場合において本発明の金属化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、CVD用原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0030】
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β−ジケトン及びシクロペンタジエン化合物等から選択される一種類又は二種類以上の有機配位化合物と金属との化合物が挙げられる。また、プレカーサの金属種としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、珪素、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムが挙げられる。
【0031】
また、上記のCVD用原料には、必要に応じて、本発明の金属化合物及び他のプレカーサに安定性を付与するため、求核性試薬を含有させてもよい。該求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ−ジケトン類が挙げられ、安定剤としてのこれらの求核性試薬の使用量は、プレカーサ1モルに対して0.1モル〜10モルの範囲で使用され、好ましくは1〜4モルで使用される。
【0032】
本発明の薄膜の製造方法は、本発明の金属化合物及び必要に応じて用いられる他のプレカーサを気化させた蒸気、並びに必要に応じて用いられる反応性ガスを基板上に導入し、次いで、プレカーサを基板上で分解及び/又は化学反応させて薄膜を基板上に成長、堆積させるCVD法によるものである。本発明の薄膜の製造方法は、原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法等を用いることができる。
【0033】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化性のものとしては、酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては、水素が挙げられ、また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等が挙げられる。
【0034】
また、上記の輸送供給方法としては、前記の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0035】
シングルソース法の場合は、本発明の金属化合物のみをプレカーサとして用いてもよく、本発明の金属化合物及び他のプレカーサを用いてもよい。本発明の金属化合物及び他のプレカーサを用いる場合は、薄膜形成反応に関わる分解挙動が類似している組み合わせが好ましい。この場合の好ましい組み合わせの例としては、鉛プレカーサに本発明の金属化合物を用い、チタニウムプレカーサ及びジルコニウムプレカーサにテトラアルコキシドを用いたものが挙げられる。テトラアルコキシドのチタニウムプレカーサの好ましい例としては、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)チタニウム及びテトラキス(第3ブトキシ)チタニウムが挙げられ、テトラアルコキシドのジルコニウムプレカーサの好ましい例としては、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)及びテトラキス(第3ブトキシ)ジルコニウムが挙げられる。また、例えば、鉛プレカーサに化合物No.1を用いた場合、チタニウムプレカーサとしては、テトラキス(エトキシ)チタニウム、テトラキス(2−プロポキシ)チタニウム、テトラキス(ブトキシ)チタニウム、テトラキス(第3ブトキシ)チタニウム、テトラキス(第3アミル)チタニウム、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)チタニウムが好ましく、ジルコニウムプレカーサとしては、テトラキス(エトキシ)ジルコニウム、テトラキス(2−プロポキシ)ジルコニウム、テトラキス(ブトキシ)ジルコニウム、テトラキス(第3ブトキシ)ジルコニウム、テトラキス(第3アミル)ジルコニウム、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)ジルコニウムが好ましい。
尚、シングルソース法において用いる他のプレカーサを含有する薄膜形成用原料は、他のプレカーサそのものでもよく、他のプレカーサを前記有機溶剤に溶かした溶液であってもよい。有機溶剤中における他のプレカーサの含有量は0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。また、他のプレカーサを含有する上記薄膜形成用原料は、前記求核性試薬を含有してもよく、その使用量は、他のプレカーサ1モルに対して0.1モル〜10モル、好ましくは1〜4モルである。
【0036】
また、上記の堆積方法としては、原料ガス又は原料ガスと反応性ガスとを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD、熱及びプラズマを使用するプラズマCVD、熱及び光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALD(Atomic Layer Deposition)が挙げられる。
【0037】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基板温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度は、本発明の金属化合物が充分に反応する温度である160℃以上が好ましく、250〜800℃がより好ましい。また、反応圧力は、熱CVD又は光CVDの場合、大気圧〜10Paが好ましく、プラズマを使用する場合は、10〜2000Paが好ましい。また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.5〜5000nm/分が好ましく、1〜1000nm/分がより好ましい。また、ALDの場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0038】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な電気特性を得るためにアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、500〜1200℃であり、600〜800℃が好ましい。
【0039】
本発明の薄膜形成用原料を用いた本発明の薄膜の製造方法により製造される薄膜は、他の成分のプレカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス等の所望の種類の薄膜とすることができる。製造される薄膜の種類としては、例えば、鉛、チタニウム、ジルコニウムのそれぞれの酸化物薄膜、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、希土類元素添加型チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ビスマス、希土類元素添加型チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタニウム添加型シリケート、ジルコニウム添加型シリケート、ジルコニウム添加型アルミナ、イットリウム安定化酸化ジルコニウム、希土類元素とジルコニウムとの複合酸化物薄膜、希土類元素と珪素とジルコニウムとの複合酸化物薄膜、チタンとタンタルの複合酸化物、窒化チタニウム、窒化ジルコニウムが挙げられる。これらの薄膜の用途としては、例えば、酸化物セラミックスを利用するものとしては、高誘電キャパシタ膜、ゲート絶縁膜、強誘電キャパシタ膜、コンデンサ薄膜が挙げられ、窒化物セラミックスを利用するものとしては、バリア層が挙げられ、ガラスを利用するものとしては、光ファイバ、光導波路、光増幅器、光スイッチ等の光学ガラスが挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び評価例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0041】
[実施例1]化合物No.1の製造
乾燥アルゴンガス雰囲気下で、遮光反応フラスコに二塩化鉛0.478mol、脱水処理を行ったジエチルエーテル2000ml、ビス(トリメチルシリル)アミノリチウム0.935molを仕込み、25℃で、24時間攪拌した。溶媒のジエチルエーテルを留去して得た残渣に脱水処理を行ったヘキサン3000mlを加えた後、固相を濾別して溶液を得た。該溶液に、1−ジメチルアミノ−2−メチル−2−プロパノール1.03molを滴下し、25℃で24時間攪拌した後、ヘキサン及び副生成物であるヘキサメチルジシラザンを留去した。13〜15Pa、塔頂温度90〜95℃のフラクションから収率38%で白色結晶を得た。該白色結晶について、更に減圧蒸留により精製を行い結晶を得た。この精製よる回収率は90%であった。得られた結晶は、目的物である化合物No.1と同定された。得られた結晶の分析値を以下に示す。
【0042】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
鉛;48.1質量%(理論値47.1%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.45:s:12)(2.26:s:12)(2.56:s:4)
(3)TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量9.665mg)
融点61℃、50質量%減少温度191℃
【0043】
[実施例2]化合物No.13の製造
乾燥アルゴンガス雰囲気下で、反応フラスコにテトラキス(2−プロポキシ)チタニウム0.100mol、脱水処理を行ったキシレン60ml、1−ジメチルアミノ−2−メチル−2−プロパノール0.440molを滴下し、副生する2−プロパノールを留去しながら、135℃で18時間反応を行った。キシレンを留去して得た残渣について減圧蒸留を行った。5〜7Pa、塔頂温度122〜124℃のフラクションから淡黄色液体を収率48%で得た。該淡黄色液体について更に減圧蒸留により精製を行い液体を得た。この精製よる回収率は94%であった。得られた液体は、目的物である化合物No.13と同定された。得られた液体の分析値を以下に示す。
【0044】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
チタニウム;9.43質量%(理論値9.34%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.50:s:24)(2.36:s:24)(2.48:s:8)
(3)TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量6.175mg)
50質量%減少温度239℃
【0045】
[実施例3]化合物No.25の製造
乾燥アルゴンガス雰囲気下で、反応フラスコにテトラキス(2−プロポキシ)ジルコニウムの2−プロピルアルコール付加物0.100mol、脱水処理を行ったキシレン60ml、1−ジメチルアミノ−2−メチル−2−プロパノール0.440molを滴下し、副生する2−プロパノールを留去しながら、135℃で10時間反応を行った。キシレンを留去して得た残渣について減圧蒸留を行った。8〜10Pa、塔頂温度139〜140℃のフラクションから無色液体を収率53%で得た。該無色液体について更に減圧蒸留により精製を行い液体を得た。この精製よる回収率は92%であった。得られた液体は、目的物である化合物No.25と同定された。得られた液体の分析値を以下に示す。
【0046】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
ジルコニウム;16.8質量%(理論値16.4%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.45:s:24)(2.37:s:24)(2.53:s:8)
(3)TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量7.975mg)
50質量%減少温度242℃
【0047】
[評価例1]鉛化合物の揮発性評価
下記に示す比較化合物1及び2について、上記実施例1と同条件でTG−DTAにより熱挙動を観察した。これらの結果及び化合物No.1の熱挙動の結果を表1に示す。
【0048】
【化7】

【0049】
【表1】

【0050】
上記表1より、化合物No.1を比較化合物と比べると、化合物No.1は分子量が最も大きいが最も揮発性に優れることが分かり、化合物No.1は、比較化合物1及び比較化合物2よりもCVD法用鉛プレカーサとして適するものであることが確認できた。
【0051】
[評価例2]チタニウム化合物及びジルコニウム化合物の揮発性評価
下記に示す比較化合物3及び4について、上記実施例2及び3と同条件でTG−DTAにより熱挙動を観察した。これらの結果並びに化合物No.13及び化合物No.25の熱挙動の結果を表2に示す。
【0052】
【化8】

【0053】
【表2】

【0054】
上記表2より、化合物No.13及びNo.25はそれぞれ対応する比較化合物に比べ分子量が大きいにもかかわらず、揮発性に優れることが分かり、化合物No.13及び化合物No.25は、比較化合物よりもCVD法用プレカーサとして適するものであることが確認できた。
【0055】
[評価例3]組成物の安定性評価
化合物No.1、化合物No.13及び化合物No.25をモル比率1:1:1で混合した組成物について、混合直後、及び混合後100℃で24時間保存後それぞれにおいてTG−DTAを測定した。測定は上記実施例1と同条件で行った。
混合直後の組成物サンプルは、揮発による質量減少を示し、50質量%減少温度は230℃、300℃残分は1.5%であった。100℃24時間保存後の組成物サンプルは、揮発による質量減少を示し、50質量%減少温度は230℃、300℃残分は1.6%であった。これらの結果から、混合物は変質していないことが確認できた。
【0056】
[実施例4]PZT薄膜の製造
図1に示すCVD装置を用いて、シリコンウエハ上に以下の条件で、PZT薄膜を製造した。製造した薄膜について、膜厚及び組成を蛍光X線で測定した。測定結果を以下に示す。
(製造条件)
鉛原料:化合物No.1(原料温度;170℃、圧力;1300Pa、キャリアガス;アルゴン200sccm)、チタニウム原料:化合物No.13(原料温度;182℃、圧力;1300Pa;キャリアガス;アルゴン200sccm)、ジルコニウム原料:化合物No.25(原料温度;175℃、圧力;1300Pa;キャリアガス;アルゴン200sccm)、酸化ガス:酸素300sccm、反応圧力1300Pa、反応温度(基盤温度):400℃、成膜時間:25分
(結果)
膜厚;120nm、組成比(モル);Pb/Ti/Zr=1.00/0.55/0.47
【0057】
[実施例5]PZT薄膜の製造
図1に示すCVD装置を用いて、シリコンウエハ上に以下の条件で、PZT薄膜を製造した。製造した薄膜について、膜厚及び組成を蛍光X線で測定した。測定結果を以下に示す。
(製造条件)
鉛原料:化合物No.1(原料温度;170℃、圧力;1300Pa、キャリアガス;アルゴン200sccm)、チタニウム原料:テトラキス(第3ブトキシ)チタニウム(原料温度;125℃、圧力;1300Pa;キャリアガス;アルゴン200sccm)、ジルコニウム原料:テトラキス(第3ブトキシ)ジルコニウム(原料温度;125℃、圧力;1300Pa;キャリアガス;アルゴン200sccm)、酸化ガス:酸素 300sccm、反応圧力1300Pa、反応温度(基盤温度):400℃、成膜時間:20分
(結果)
膜厚;130nm、組成比(モル);Pb/Ti/Zr=1.00/0.52/0.58
【0058】
[実施例6]PZT薄膜の製造
水分量を1ppm未満に脱水したエチルシクロヘキサン500mlに、化合物No.1を0.1モル、化合物No.13を0.05モル及び化合物No.25を0.05モル加え、CVD用原料を得た。このCVD用原料を用いて図2に示すCVD装置により、以下の条件及び工程で薄膜を製造した。得られた薄膜の膜厚及び組成を上記実施例4と同様にして測定した。測定結果を以下に示す。
(条件)
原料流量;1.20sccm、反応温度(基板温度);300℃、反応性ガス;水蒸気
(工程)
下記(1)〜(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、300サイクル繰り返し、最後に600℃で3分間アニール処理を行った。
(1)気化室温度:170℃、気化室圧力1300〜1400Paの条件で気化させたCVD用原料の蒸気を導入し、系圧1300 〜1400Paで1秒間堆積させる。
(2)2秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
(3)水蒸気を導入し、系圧力1300Paで1秒間反応させる。
(4)2秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
(結果)
膜厚:85nm、組成比(モル);Pb/Ti/Zr=1.00/0.56/0.49
【0059】
[実施例7]PZT薄膜の製造
水分量を1ppm未満に脱水したエチルシクロヘキサンに、化合物No.1は0.2モル/リットルの濃度で、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)チタニウム及びテトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)ジルコニウムは0.1モル/リットルの濃度でそれぞれ溶解し、各金属化合物を含有するCVD用原料をそれぞれ得た。これらのCVD用原料を用いて図3に示すCVD装置により、シリコンウエハ上に以下の条件で、PZT薄膜を製造した。製造した薄膜について、膜厚及び組成を蛍光X線により測定した。測定結果を以下に示す。
(製造条件)
鉛原料:濃度0.2モル/リットルの化合物No.1のエチルシクロヘキサン溶液(原料流量;0.5sccm)、チタニウム原料:濃度0.1モル/リットルのテトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)チタニウム溶液(原料流量;0.55sccm)、ジルコニウム原料:濃度0.1モル/リットルのテトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)ジルコニウム溶液(原料流量;0.45sccm)、気化室温度:180℃、酸化ガス:酸素 200sccm、反応圧力1300Pa〜1400Pa、反応温度(基盤温度):480℃、成膜時間:10min、アニール:酸素雰囲気下480℃で3分
(結果)
膜厚;80nm、組成比(モル);Pb/Ti/Zr=1.00/0.56/0.47
【0060】
[実施例8]PZT薄膜の製造
水分量を1ppm未満に脱水したエチルシクロヘキサン1000mlに、化合物No.1を0.1モル、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)チタニウムを0.055モル、及びテトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)ジルコニウムを0.045モル加え、CVD用原料を得た。このCVD用原料を用いて図2に示すCVD装置により、以下の条件で薄膜を製造した。得られた薄膜の膜厚及び組成を上記実施例4と同様にして測定した。測定結果を以下に示す。
(製造条件)
原料流量:1.5sccm、気化室温度:180℃、酸化ガス:酸素 200sccm、反応圧力1300Pa〜1400Pa、反応温度(基盤温度):480℃、成膜時間:8min、アニール:酸素雰囲気下480℃で3分
(結果)
膜厚; 50nm、組成比(モル);Pb/Ti/Zr=1.00/0.57/0.48
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、融点が低く液体の状態で輸送が可能であり且つ蒸気圧が大きいため気化させやすく、しかも他の金属化合物と混合しても化学反応により変質することのない鉛化合物、チタニウム化合物及びジルコニウム化合物を提供することができる。また、本発明によれば、これらの化合物を用いることにより、CVD法等の気化工程を有する薄膜製造方法に好適な薄膜形成用原料及びCVD法による薄膜製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される金属化合物。
【化1】

【請求項2】
上記一般式(I)において、Aがメチレン基である請求の範囲第1項に記載の金属化合物。
【請求項3】
上記一般式(I)において、Mが鉛原子である請求の範囲第1又は2項に記載の金属化合物。
【請求項4】
上記一般式(I)において、Mがチタニウム原子である請求の範囲第1又は2項に記載の金属化合物。
【請求項5】
上記一般式(I)において、Mがジルコニウム原子である請求の範囲第1又は2項に記載の金属化合物。
【請求項6】
請求の範囲第1〜5項のいずれかに記載の金属化合物を含有してなる薄膜形成用原料。
【請求項7】
請求の範囲第3項に記載の金属化合物、請求の範囲第4項に記載の金属化合物、及び請求の範囲第5項に記載の金属化合物を含有してなる薄膜形成用原料。
【請求項8】
請求の範囲第3項に記載の金属化合物、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)チタニウム及びテトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)ジルコニウムを含有してなる薄膜形成用原料。
【請求項9】
請求の範囲第6、7又は8項に記載の薄膜形成用原料を気化させて得た金属化合物を含有する蒸気を基体上に導入し、これを分解及び/又は化学反応させて基体上に金属含有薄膜を形成する薄膜の製造方法。
【請求項10】
請求の範囲第3項に記載の金属化合物を含有してなる薄膜形成用原料、請求の範囲第4項に記載の金属化合物を含有してなる薄膜形成用原料及び請求の範囲第5項に記載の金属化合物を含有してなる薄膜形成用原料を気化させて金属化合物を含有する蒸気を得た後、得られた金属化合物を含有する蒸気を基体上に導入し、これを分解及び/又は化学反応させて基体上に金属含有薄膜を形成する薄膜の製造方法。
【請求項11】
請求の範囲第3項に記載の金属化合物を含有してなる薄膜形成用原料、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)チタニウムを含有してなる薄膜形成用原料及びテトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)ジルコニウムを含有してなる薄膜形成用原料を気化させて金属化合物を含有する蒸気を得た後、得られた金属化合物を含有する蒸気を基体上に導入し、これを分解及び/又は化学反応させて基体上に金属含有薄膜を形成する薄膜の製造方法。
【請求項12】
請求の範囲第3項に記載の金属化合物を含有してなる薄膜形成用原料、テトラキス(第3ブトキシ)チタニウムを含有してなる薄膜形成用原料及びテトラキス(第3ブトキシ)ジルコニウムを含有してなる薄膜形成用原料を気化させて金属化合物を含有する蒸気を得た後、得られた金属化合物を含有する蒸気を基体上に導入し、これを分解及び/又は化学反応させて基体上に金属含有薄膜を形成する薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/063685
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516552(P2005−516552)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016579
【国際出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】