説明

金属酸化物、圧電材料および圧電素子

【課題】鉛やアルカリ金属を使用せず、広い温度領域で安定した結晶構造を有し、高い絶縁性及び圧電性を備えている圧電材料およびそれを用いた圧電素子を提供する。
【解決手段】正方晶の結晶構造を有する、Ba(SiGeTi)O(ただし0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.5、x+y+z=1)で表される酸化物からなる圧電材料。上記の圧電材料が一対の電極によって挟持された圧電素子において、前記一対の電極の少なくとも一つがSrRuOまたはNiである圧電素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電材料として好適に利用することができる金属酸化物およびそれを用いた圧電素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電材料は、電極を有する圧電材料である圧電素子を利用した超音波モーター、振動センサー、インクジェットヘッド、変圧器、フィルター等のデバイスに用いられている。また圧電材料で強誘電性を有するものは強誘電体メモリ等のデバイスにも用いられている。
【0003】
これまでデバイスに使用されてきた圧電材料の主なものは鉛を含有しており、例えば代表的なものとして、PbTiOとPbZrOを固溶したPZT(クレバイト社製品名)が使用されている。しかしながら近年、鉛の人体へ与える悪影響が懸念されており、各国ではRoHS指令等でガラスや高温はんだに対する鉛の使用が規制され始めている。そのため、各種デバイスに使用されている圧電材料においても、現存する材料の代替として鉛を使用しない非鉛材料が求められているものの、現在開発されている非鉛圧電材料の多くは、相転移温度が実用温度領域にあり、絶縁性が悪い等の問題がある。
【0004】
その代表的な材料としては、BaTiOが挙げられる。絶縁性については、BaTiOでは、Tiは形式電荷で4+となり、d電子は0個であるため、バンドギャップは3.2eVと大きく、絶縁性は良い事が分かっている(非特許文献1)。
【0005】
しかし、BaTiOの結晶構造は、低温から高温に向かって菱面体晶−斜方晶−正方晶−立方晶と転移し、正方晶の温度領域は−5℃から130℃の範囲と狭く、特に130℃以上の立方晶では常誘電体となり、圧電性を消失してしまうため、実用上に問題がある。そのため何等かの材料をドープする事により、温度範囲を用途に合わせて調整して使用されているが、それと引き換えに圧電特性を劣化させる恐れがある。
【0006】
その他の材料系に関しては、例えば、AサイトがBiの系で正方晶構造を取るBiCoOがある。このBiCoOは、c/aが1.27と大きく、−250℃未満240℃以上の広い範囲で、安定した正方晶構造を有するため、デバイスとしての実用温度領域は広い。しかし、BiCoO構造では、Coは形式電荷で3+となり、d軌道が形式的に6個の電子で占有された状態となり、バンドギャップは0.6eVと小さく絶縁性が低下する(非特許文献2)。
【0007】
絶縁性を高める目的で、他の元素をドーピングするという方法も考えられるが、これもまた同時に圧電特性を劣化させてしまう可能性があるため、適切な方法とは言えない。また、アルカリ金属を含む圧電材料は環境劣化しやすいという問題がある。
【0008】
以上の状況を鑑みると、絶縁性が高く、広い温度領域で安定した正方晶構造を有した圧電材料を提供することが必要であると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M.Cardona,Phys. Rev.140 (1965)A651.
【非特許文献2】Yoshitaka URATANI,Tatsuya SHISHIDOU,Fumiyuki ISHII and Tamio OGUCHI、JPN.J.APPL.PHYS.,PART1 44,7130(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、広い温度領域で安定した正方晶構造を有し、高い絶縁性を備えた圧電材料およびそれを用いた圧電素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する金属酸化物は、正方晶の結晶構造を有する、Ba(SiGeTi)O(ただし0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.5、x+y+z=1)で表される金属酸化物である。
【0012】
また、上記の課題を解決する圧電材料は、上記の金属酸化物を含む圧電材料である。
また、上記の課題を解決する圧電素子は、上記の圧電材料が一対の電極によって挟持された圧電素子である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、広い温度領域で安定した正方晶構造を有し、高い絶縁性を備えた圧電材料およびそれを用いた圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るBa(SiGe1−x)Oの正方晶ペロブスカイト構造を説明する図である。
【図2】Ba(SiGe1−x)Oの各xでの圧電定数e31を説明する図である。
【図3】Ba(SiGe1−x)Oの各xでの圧電定数e33を説明する図である。
【図4】Ba(SiGe1−x)Oの各xでの分極値を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る金属酸化物は、正方晶の結晶構造を有する、Ba(SiGeTi)O(ただし0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.5、x+y+z=1)で表される金属酸化物である。
【0016】
本発明の金属酸化物は、圧電材料に用いることができる。以下では圧電材料としての説明を行なうが、本発明の金属酸化物は、誘電体としての特性を活かしてコンデンサ材料など他の用途に用いることもでき、圧電材料にのみ使用が限定されることはない。
【0017】
以下、本発明の金属酸化物を含む圧電材料について説明する。
本発明に係る圧電材料は、正方晶の結晶構造を有する、Ba(SiGeTi)O(ただし0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.5、x+y+z=1)で表される酸化物からなることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る圧電素子は、正方晶の結晶構造を有する、Ba(SiGeTi)O(ただし0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.5、x+y+z=1)で表わされる酸化物からなる圧電材料が一対の電極によって挟持された圧電素子において、前記一対の電極の少なくとも一つがSrRuOまたはNiであることを特徴とする。
【0019】
電極を特にSrRuOまたはNiとすることで、前記圧電材料が正方晶構造をとりやすくなることが分かった。したがって、SrRuOまたはNiを電極に選ぶ事で、正方晶構造の圧電材料を形成する際に有利である。
【0020】
前記酸化物において、0.75≦x≦1、0≦y≦0.25、z=0であることが好ましい。上記の組成範囲においては、特に大きな圧電定数e31の値をとるため、好適である。
【0021】
また、前記酸化物において、0.2≦x≦0.3、0.7≦y≦0.8、z=0であることが好ましい。上記の組成範囲においては、圧電定数e33の値が特に大きく好ましい。
【0022】
また、本発明による圧電材料は、前記Ba(SiGe1−x)Oにおいて、x=1であることで、圧電定数e31のピーク値が得られる。
また、本発明による圧電材料は、前記Ba(SiGe1−x)Oにおいて、x=0.25であることで、圧電定数e33のピーク値が得られる。
【0023】
以下では、本発明の金属酸化物に含まれる元素及び、その電子状態をシミュレーションする手法について説明する。
SiGeTiは、イオンの状態ではd電子が全く存在しない、または全てのd軌道が10個の電子で占有されている(以下、形式電荷がd^0またはd^10と表現する、但し「^」は上付きの添字を表す)。形式電荷がd^0またはd^10のSi、Ge、Tiを用いることで、絶縁性の高い圧電材料を得られる。
【0024】
また、広い温度領域で結晶構造を安定させるためには、テトラゴナリティー(単位結晶格子のa軸長に対するc軸長の比)が高い構造を用いる事が好ましい。本発明においては、正方晶の結晶構造を有するBa(SiGeTi)O(ただし0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.5)圧電材料を使用することで、高いテトラゴナリティーを有し、高い絶縁性を得られる。
【0025】
本発明の金属酸化物の特性は、第一原理計算と呼ばれる電子状態計算のシミュレーションと実験による2つの方法で確認した。まず、第一原理計算の概要について説明する。
【0026】
第一原理計算とはフィッティングパラメータ等を一切使用しない電子状態計算手法の総称であり、単位格子や分子等を構成する各原子の原子番号と座標を入力するだけで、電子状態計算が可能な手法である。
【0027】
第一原理計算手法の一つとして、擬ポテンシャル法と呼ばれる計算手法がある。この手法は、単位格子等を構成する各原子のポテンシャルを予め用意し電子状態計算を行う方法であり、構造最適化の計算も可能であるという利点を有している。
【0028】
また、任意の組成比の原子を含む系の電子状態計算は、仮想結晶近似(VirtualCrystal Approximation:VCA)と呼ばれる手法により、比較的簡単に且つ高精度に求めることが出来る。このVCAは、複数の原子をある組成比で混合した仮想原子のポテンシャルを予め用意し電子状態計算を行う方法である。従って、VCAを用いた擬ポテンシャル法により電子状態計算を行えば、任意の組成比の原子を含む系の最安定構造での電子状態を計算することが可能となる。
【0029】
このVCAを用いた擬ポテンシャル法の第一原理計算パッケージプログラムとして、コーネル(Cornell)大学のゴンズ(X.Gonze)教授が中心となって開発した、「ABINIT」と呼ばれるパッケージプログラムがある。本明細書における第一原理計算による圧電定数の値は、全て「ABINIT」を用いて計算を行った結果である。
【0030】
(シミュレーションでの評価方法の説明)
ここで、第一原理計算による使用可能温度領域と絶縁性の評価方法について述べる。
使用可能温度領域については、Ba(SiGeTi)Oを構造最適化し、テトラゴナリティー(c/a比)を導出することで分かる。一般に、テトラゴナリティーが大きい程、構造相転移温度は高い。例えばBaTiOのテトラゴナリティーは1.01であり、130℃以上で圧電性を消失する。すなわち、BaTiOよりも大きいテトラゴナリティーを有する材料が得られれば、使用可能温度領域は高温側に広いことが推定できる。
【0031】
また、絶縁性に関しては、バンドギャップを計算することで評価できる。一般にバンドギャップが狭いと絶縁性は低く、バンドギャップが広いと絶縁性は高いと言われている。BiCoOのバンドギャップは、0.6eVと狭く、そのため絶縁性も低い。よって、0.6eVより広いバンドギャップを有する圧電材料が得られれば、BiCoOよりも高い絶縁性であると分かる。
【0032】
(製法の説明)
次に、本発明による圧電材料を得るための製法について説明する。
本実施例のBa(SiGeTi)Oの形態は、限定されず、焼結体であるセラミックスでも薄膜でもよい。
【0033】
セラミックス状の圧電材料を作製する場合は、各金属成分を含有する原料粉を所望のモル組成が得られるように混合して、焼結させる。Ba成分の原料粉としてはBaCOやBaOが挙げられる。前者のBaCOを用いる場合は、本焼結に先立った仮焼結工程により、脱炭酸反応を進めておくことが好ましい。一方、後者のBaOは空気中の水分と反応してしまうので、グローブボックスなどの不活性雰囲気中で取り扱うことが好ましい。Si成分の原料分としてはSiOが挙げられる。Ge成分の原料粉としてはGeOが挙げられる。Ti成分の原料粉としては、TiOが挙げられる。
【0034】
前記原料粉の混合物は、その成分組成比によっては常圧下の焼結で十分に固溶しないおそれがある。その場合は、原料粉に圧力を加えながら焼結させる高圧合成法など別種のエネルギーを併用すれば目的物を得られるようになる。これ以外にも、通電加熱法やマイクロ波焼結法、ミリ波焼結法といった手法も用いることができる。
【0035】
高圧合成法により原料粉を焼結させる場合は、KClOなどの酸化剤を併用することが好ましい。
一方、薄膜状の圧電材料を作製する場合は、スパッタリング法、ゾルゲル法、レーザーアブレーション法、CVD法などの公知の方法を用いて成膜が可能である。例えばスパッタ装置による成膜の場合、BaCO、及びSiO、GeO、TiOを任意のモル比で混合した粉末を10MPaで一軸加圧した成型体をターゲットとして用意し、ArとO雰囲気で、RFマグネトロンスパッタリングにより成膜する。さらに、基板加熱も同時に行うことで、結晶化が促進できる。成膜された金属酸化物に含まれるSiGeTiの物質量の和に対するのBaの物質量の比は、波長分散型蛍光X線による組成分析をした時に0.99〜1.1の範囲となるように調整されることが望ましい。
【0036】
また、薄膜状の圧電材料を設ける基板は、STO(100)単結晶上に(100)配向のSROが成膜された基板が好ましい。または、Si(100)ウェハ上に、YSZ(100)、CeO(100)、LaNiO(100)を成膜し、その上にSrRuOを(100)配向で成膜した基板、もしくはNiが成膜された基板を用いると、基板上に正方晶構造の本発明による金属酸化物が生成しやすいため、よりこのましい。また、成膜後の冷却速度を調整することで、Ba(SiGeTi)Oの正方晶構造が得やすくなる。
【0037】
前述した方法により成膜されたBa(SiGeTi)O薄膜上に上部電極として、SRO、Au、Pt、Ag、Ni等から選択した導電性材料を成膜、もしくはペーストすることで、圧電材料が一対の電極によって挟持された圧電素子を得られる。
【0038】
また、この例以外にもBa(SiGeTi)Oの格子定数に近い結晶質の基板を下地に用いることで、正方晶の結晶構造を有する圧電材料を作製することができる。
【0039】
(実験サンプルの評価方法の説明)
ここで、実験サンプルの相転移温度の測定方法と、絶縁性の測定方法について述べる。
【0040】
Ba(SiGeTi)O圧電材料がどの程度の温度範囲で好適に使用できるかを調べるためには、実験サンプルの雰囲気温度を変化させながらX線回折測定を行うことによって結晶構造の変異点、すなわち相転移温度を調べれば良い。本発明では室温(25℃)から200℃まで温度を上昇させながらX線回折測定を行なった。以下この測定を高温XRD法と呼ぶ。
【0041】
その際、デバイスとして好適に使用するためには、室温から200℃の間に相転移点が無いことが望ましい。
また、絶縁性の良否は、作製した圧電素子の両端の電極に直流電圧を付加し、その際の抵抗値を測定することで判断できる。実用上のデバイスとして使用するためには、10GΩ・cm以上の電気抵抗値を有することが望ましい。
【0042】
ここまで酸素数はすべて3と表記したが、焼成条件、成膜条件等により3.0未満になってもよい。しかしながら、酸素欠陥が多くなると、材料の抗電界が大きくなり、低電界での圧電性が発現しなくなる。そのため、本実施形態の酸素数は、2.9以上が望ましい。
【0043】
なお、以下の説明では室温とは25℃を指す。
【実施例1】
【0044】
以下、本発明を適用した実施例について図面に基づいて説明する。
実施例1から5
図1は、本発明に係るBa(SiGe1−x)Oの正方晶ペロブスカイト構造を説明する図である。
【0045】
図1に示すBa(SiGe1−x)O(ただし、0≦x≦1)で表される単一格子の正方晶ペロブスカイト構造において、Oイオンが形成する八面体のおよそ中央領域にSiやGeが配置され、BaイオンがOイオンと面心構造を形成している。ここで、Si、Geは、形式電荷でそれぞれd^0、d^10となり、前述したように絶縁性が良い元素の組み合わせで構成されている。
【0046】
表1にBa(SiGe1−x)Oの各xでの第一原理計算によって構造最適化した計算結果を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1において、テトラゴナリティーは、どのxでも1.30以上で、1.01のテトラゴナリティ−を有するBaTiOよりも大きい。この結果からBa(SixGe1−x)Oの、どのxであってもBaTiOよりも広い温度領域で正方晶構造が安定して保たれることが期待される。また、Ba(SiGe1−X)OのX=0、0.5、1の場合でバンドギャップを導出したところ、それぞれ1.1eV、1.2eV、1.6eVであった。ただし、この結果は、局所密度近似を使用した手法で導出したものであり、一般にこの手法で導出したバンドギャップは過小評価される。従って、少なくともBiCoO等の有数のd電子を含む材料よりもバンドギャップは大きく(BiCoOのバンドギャップは0.6(eV))、Ba(SiGe1−X)Oの絶縁性が高いと言える。
【0049】
次に、Ba(SiGe1−x)Oの各xでの圧電定数についての計算結果を図2および図3に示す。e31、e33は圧電定数を示す。
図2から分かるように、x=1.0(つまりBaSiO)では、圧電定数e31が最も大きくなる。
【0050】
また、図3から分かるように、x=0.25(つまりBa(Si0.25Ge0.75)O)では、圧電定数e33が最も大きくなる。ここで、圧電定数e31、e33とは、歪一定において、単位電界あたりに発生する応力を表すもので、正方晶構造であれば、e31=e32は、z軸方向の電界に対するx、y軸方向の応力であり、e33はz軸方向の電界に対するz軸方向の応力を表す。
【0051】
以上により、Ba(SiGe1−x)Oは0.2≦x≦0.3であることで、安定的に高い圧電定数e33を有する圧電材料となることがわかる。
図4は、Ba(SiGe1−x)Oの各xでの自発分極Pをベリーの位相により求めた計算結果である。x=1で最高値をとり、全てのxで0.94C/m以上が得られていることから、強誘電性に優れた材料であることも証明された。このことから、本発明の圧電材料は強誘電体メモリ等のデバイスにも適用可能である。
【0052】
実施例6
次に、Ba(SiGeTi)O(x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z<1)のy=0の場合の第一原理計算結果について説明する。
以下ではBa(SiGeTi)Oのy=0の場合は、全てBa(SiTi1−x)Oと記す。
【0053】
実施例1と同様に、第一原理計算によりBa(SiTi1−X)Oのx=0.5の場合を導出した。
その結果、c/aが1.29となり、バンドギャップは、2.0eVであった。この事から、BiCoOよりも絶縁性が高く、BaTiOよりも広い温度領域で正方晶構造が安定して保たれることが分かった。
【0054】
次に、Ba(Si0.5Ti0.5)Oを高圧合成により作製した実験結果について説明する。本実施例においては、炭酸バリウム(BaCO)と二酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)を2:1:1のモル比で混合した。この混合粉を微量のKClOを酸化剤として敷き詰めた白金カプセルに封入して、1200℃、6GPaの条件で焼結させた。その結果、室温で正方晶構造が主相であるBa(Si0.5Ti0.5)O焼結体が得られた。
【0055】
前述の方法により作製したBa(Si0.5Ti0.5)Oを高温XRD法で構造解析したが、室温から200℃までの温度範囲で構造相転移は見られなかった。この事から、Ba(Si0.5Ti0.5)Oの相転移温度は200℃以上であり、実用温度領域が広いことが分かる。また、得られたBa(Si0.5Ti0.5)Oの両面に電極となるPtをペーストし、直流電圧(10V、室温)による抵抗値を測定したところ、20GΩ・cmの高い絶縁性が得られた。
【0056】
実施例7
次に、Ba(SiGeTi)O(x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z<1)のx=0の場合を例に実施形態の説明を行う。
以下ではBa(SiGeTi)Oのx=0の場合は、全てBa(GeTi1−Y)Oと記す。
【0057】
実施例1と同様に、第一原理計算によりBa(GeTi1−Y)Oのy=0.5の場合を導出した。
その結果、c/aが1.24となり、バンドギャップは、1.18eVであった。この事から、BiCoOよりも絶縁性が高く、BaTiOよりも広い温度領域で正方晶構造が安定して保たれることが期待される。
【0058】
次に、Ba(Ge0.5Ti0.5)Oを高圧合成により作製した実験結果について説明する。本実施例においては、炭酸バリウム(BaCO)と酸化ゲルマニウム(GeO)、酸化チタン(TiO)を2:1:1のモル比で混合し、実施例6と同様にして室温で正方晶構造が主相であるBa(Ge0.5Ti0.5)O焼結体を得た。
【0059】
上記方法により作製したBa(Ge0.5Ti0.5)Oは、室温から200℃の温度範囲で構造相転移を示さなかった。この事から、Ba(Ge0.5Ti0.5)Oの相転移温度は200℃以上であり、実用温度領域が広いことが分かる。また、得られたBa(Ge0.5Ti0.5)Oの両面に電極となるPtをペーストし、直流電圧(10V、室温)による抵抗値を測定したところ、23GΩ・cmの高い絶縁性が得られた。
【0060】
実施例8
BaSiO薄膜の実施例を示す。
次に、実施例5に示したBaSiOの場合を例にRFマグネトロンスパッタ装置を用いた実施形態の説明を行う。本実施例においては、BaCOとSiOを任意のモル比(例えば、1:1)で混合した粉末を10MPaで一軸加圧した成型体をターゲットとして用意し、ArとO雰囲気で、基板加熱温度を600℃で50nm厚の成膜を行った。また、基板にはSTO(100)単結晶基板上に(100)配向SROが成膜された電極付き基板を用いた。
【0061】
さらに、成膜されたBaSiO上に、Au電極を成膜することで、圧電素子を作製した。
前述した方法により作製したBaSiOは室温で正方晶構造が主相であり、室温から200℃までの温度範囲でXRD測定による構造相転移は見られなかった。この事から、BaSiOの相転移温度は200℃以上であり、BaTiOよりも実用温度領域が広いことが分かる。また、直流電圧(10V、室温)よる抵抗値を測定したところ、15GΩ・cmの高い絶縁性が得られた。
【0062】
実施例9
Ba(Si0.2Ge0.8)O薄膜の実施例を示す。
次に、実施例8と同様にBa(Si0.2Ge0.8)O薄膜を作製した。本実施例においては、BaCOとSiO、GeOを任意のモル比(例えば、5:1:4)で混合した粉末を10MPaで一軸加圧した成型体をターゲットとして用意し、ArとO雰囲気で、基板加熱温度を600℃で50nm厚の成膜を行った。
【0063】
さらに、成膜されたBa(Si0.2Ge0.8)O上に、Au電極を成膜することで、圧電素子を作製した。
作製したBa(Si0.2Ge0.8)Oは室温で正方晶構造が主相であり、室温から200℃までの温度範囲でXRD測定による構造相転移は見られなかった。この事から、Ba(Si0.2Ge0.8)Oの相転移温度は200℃以上であり、BaTiOよりも実用温度領域が広いことが分かる。また、直流電圧(10V、室温)による抵抗値を測定したところ、17GΩ・cmの高い絶縁性が得られた。
【0064】
以上の実施例においてはAサイトをBaに固定したが、その他にCaやSr等のアルカリ土類金属によっても同様の効果が得られることを確認した。
また、本実施例においては、Ba(SiGeTi)Oの単相を例に示したが、その他の正方晶構造以外の材料と組み合わせて作製し、所望の構造相転移温度、絶縁性、圧電特性に調整して使用できる。
【0065】
ここで、以上の実施例1乃至9において、Ba(SiGeTi)Oの各X,Y,Zの具体的値を例として記載したが、その他に、X+Y+Z=1、0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z<1を満たす他のX、Y、Zの組み合わせにおける組成によっても同様の効果が得られる事は言うまでも無い。
【0066】
比較例1:BaTiO
まず本発明との比較用にBaTiOを高圧合成により作製した。原料粉として酸化バリウム(BaO)と酸化チタン(TiO)をAr雰囲気のグローブボックス中で1:1のモル比で混合した。この混合粉を、微量のKClOを酸化剤として敷き詰めた白金カプセルに封入して、1200℃、6GPaの高圧合成により、BaTiO焼結体を作製した。
【0067】
前述した方法により作製したBaTiOを高温XRD法によって結晶構造を分析した結果、室温で正方晶構造であり、130℃で構造相転移が見られた。従って、実用温度領域は130℃以下となる。
【0068】
また、得られたBaTiOの両端面に電極となるPtをペーストし、直流電圧(10V、室温)による抵抗値を測定したところ、40GΩ・cmであった。
【0069】
比較例2:Ba(Ge0.2Ti0.8)O
次に、本発明との比較用にBa(Ge0.2Ti0.8)Oを高圧合成により作製した。比較例1と同様に炭酸バリウム(BaCO)と酸化ゲルマニウム(GeO)、酸化チタン(TiO)を5:1:4のモル比で混合し、微量のKClOを酸化剤として添加した後、1200℃、6GPaの高圧合成により、Ba(Ge0.2Ti0.8)O焼結体を作製した。
【0070】
前述した方法により作製したBa(Ge0.2Ti0.8)Oを高温XRD法によって結晶構造を分析した結果、室温で正方晶構造であり、構造相転移温度は100℃以下であった。従って、実用温度領域はBaTiOよりも小さいことが分かった。
【0071】
また、得られたBa(Ge0.2Ti0.8)Oの両端面に電極となるPtをペーストし、直流電圧(10V、室温)による抵抗値を測定したところ、30GΩ・cmであった。
【0072】
以上の比較例及び実施例で説明したサンプルに関して、各組成に対する室温(25℃)での結晶系、抵抗値(GΩ・cm)、バンドギャップ(eV)、相転移温度の一覧を表2に示す。なお実施例5及び実施例8は同じ行に記入した。
【0073】
表2より、本発明の圧電材料がBaTiOと遜色ない抵抗値を有し、かつ室温から200℃の間に相転移温度を持たないことから幅広い温度で安定して圧電特性を発揮することが分かる。
【0074】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の圧電材料は、鉛やアルカリ金属を使用せず、広い温度領域で安定した結晶構造を有し、高い絶縁性及び圧電性を備えているので、電極を有する圧電材料である圧電素子を利用した超音波モーター、振動センサー、インクジェットヘッド、変圧器、フィルター等のデバイス、また強誘電性を利用した強誘電体メモリ等のデバイスに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正方晶の結晶構造を有する、Ba(SiGeTi)O(ただし0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.5、x+y+z=1)で表される金属酸化物。
【請求項2】
0.75≦x≦1、0≦y≦0.25、z=0であることを特徴とする請求項1記載の金属酸化物。
【請求項3】
0.2≦x≦0.3、0.7≦y≦0.8、z=0であることを特徴とする請求項1記載の金属酸化物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項記載の金属酸化物を含む圧電材料。
【請求項5】
請求項4記載の圧電材料が一対の電極によって挟持された圧電素子。
【請求項6】
前記一対の電極の少なくとも一つがSrRuOまたはNiであることを特徴とする請求項5記載の圧電素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−6688(P2010−6688A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122468(P2009−122468)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度文部科学省元素戦略プロジェクトの委託研究の平成20年度の成果で、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】