説明

金属酸化物膜の製造方法、および、金属酸化物膜の製造装置

【課題】本発明は、基材の形態に関わらず、透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を得ることができる金属酸化物膜の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】本発明は、スプレー装置により、金属源として金属塩または金属錯体が溶解した金属酸化物膜形成用溶液を霧化し、霧化された上記金属酸化物膜形成用溶液と金属酸化物膜形成温度以上の温度以上に加熱した基材とを接触させることにより、上記基材上に金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の製造方法であって、上記基材を上記金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱することを特徴とする、金属酸化物膜の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を得ることが可能な金属酸化物膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、化合物半導体、特に金属酸化物膜は光電変換素子や表示素子の材料として広く用いられてきた。このような金属酸化物膜の多くはスパッタリング法、蒸着法、CVD法、イオンプレーティング法、印刷法などによって製造されてきたが、これらの手法は高価な装置が必要であったり、別途焼成工程が必要であったりする等の問題点があった。
【0003】
このような問題に対して、溶液から基材上に直接金属酸化物膜を成膜するソフト溶液プロセスが提唱されている(非特許文献1)。このようなソフト溶液プロセスは、通常、焼成や高真空状態を必要としないことから、上述した装置等の問題を解決することができる。さらに、金属酸化物膜形成用溶液に基材を接触させることから、複雑な構造部を有する基材であっても、上記溶液が構造部内に容易に侵入することができ、均一な金属酸化物膜が得られる。
【0004】
具体的なスプレー熱分解法による金属酸化物膜の製造方法としては、例えば、特許文献1においては、金属化合物の構成成分を有する溶液を超音波振動子によって霧化させて液滴とし、ドライエアー等のキャリアガスとともに、予め加熱された成膜用基材上に噴きつけ、金属化合物膜を形成する方法が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載された方法のように、従来のスプレー熱分解法による金属酸化物膜の製造方法においては、金属酸化物膜が形成される基材を、金属酸化物膜が形成される成膜面とは反対面から加熱する方法が用いられてきた。
しかしながら、このような加熱方法では、例えば、上記基材として、厚みの厚い基材、メッシュ状の基材、多孔質な基材、または表面凹凸を有する基材などは、成膜面を所望の温度に加熱することが困難であったり、または、成膜面の温度を均一することが困難であるという問題点があった。
【0006】
【非特許文献1】資源と素材 Vol.116 p.649−655(2000)
【特許文献1】特開2001−259494公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、基材の形態に関わらず、透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を得ることができる金属酸化物膜の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明はスプレー装置により、金属源として金属塩または金属錯体が溶解した金属酸化物膜形成用溶液を霧化し、霧化された上記金属酸化物膜形成用溶液と金属酸化物膜形成温度以上の温度以上に加熱した基材とを接触させることにより、上記基材上に金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の製造方法であって、上記基材を上記金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱することを特徴とする、金属酸化物膜の製造方法を提供する。
【0009】
本発明によれば、上記基材を金属酸化物膜形成温度以上に加熱する際に、金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱することにより、基材の形態に関わらず前記成膜面を所望の温度に均一に加熱することができる。このため、本発明によれば基材の形態に関わらず、透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を得ることができる。
【0010】
本発明においては上記基材を上記成膜面側から加熱する方法が、赤外線を照射する方法であることが好ましい。赤外線を照射する方法によれば、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材と接触させる際に、金属酸化物膜形成用溶液を基材と均一に接触させることができるため、より透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0011】
また、本発明においては、上記成膜面側から加熱する方法に加えて、上記基材を上記成膜面とは反対面からも加熱しても良い。上記基材を上記成膜面とは反対面からも加熱することにより、上記基材の表裏での温度差を低減することができるため、加熱時に基材が反ることを効果的に防止することができるからである。
【0012】
本発明は金属酸化物膜形成用溶液を用い、基材上に金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の製造装置であって、上記基材を保持するステージと、上記ステージ上に保持された基材を、金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱する表面加熱装置と、上記金属酸化物膜形成用溶液を霧化するスプレー装置と、上記スプレー装置に上記金属酸化物膜形成用溶液を供給する金属酸化物膜形成用溶液供給装置と、を有することを特徴とする金属酸化物膜の製造装置を提供する。
【0013】
本発明によれば、上記ステージ上に保持された基材を、金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱する表面加熱装置を有することにより、基材の形態に関わらず前記成膜面を所望の温度に均一に加熱することができる。このため、本発明によれば基材の形態に関わらず、透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を形成できる金属酸化物の製造装置を得ることができる。
【0014】
本発明においては、上記表面加熱装置が、赤外線を照射する装置であることが好ましい。上記表面加熱装置が赤外線を照射する装置であることにより、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材と接触させる際に、金属酸化物膜形成用溶液を基材と均一に接触させることができる。このため、より透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を形成できる金属酸化物膜の製造装置を得ることができるからである。
【0015】
また、本発明においては、上記ステージに保持された基材を、金属酸化物膜が形成される成膜面とは反対面から加熱する裏面加熱装置を有していても良い。上記裏面加熱装置を有することにより、上記基材を上記成膜面とは反対面からも加熱することが可能になるため、上記基材の表裏での温度差を低減することができる。このため、加熱時に基材が反ることを効果的に防止することができるからである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、金属酸化物膜を形成する基材の形態に関わらず、透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、金属酸化物膜の製造方法、および、金属酸化物膜の製造装置に関するものである。以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法、および、金属酸化物膜の製造装置について詳細に説明する。
【0018】
A.金属酸化物膜の製造方法
まず、本発明の金属酸化物膜の製造方法について説明する。本発明の金属酸化物膜の製造方法は、スプレー装置により、金属源として金属塩または金属錯体が溶解した金属酸化物膜形成用溶液を霧化し、霧化された上記金属酸化物膜形成用溶液と金属酸化物膜形成温度以上の温度以上に加熱した基材とを接触させることにより、上記基材上に金属酸化物膜を形成する方法であって、上記基材を上記金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱することを特徴とするものである。
【0019】
このような本発明の金属酸化物膜の製造方法について図を参照しながら説明する。図1は本発明の金属酸化物膜の製造方法の一例を説明する概略図である。図1に例示するように本発明の金属酸化物膜の製造方法は、スプレー装置1により、金属源として金属塩または金属錯体が溶解した金属酸化物膜形成用溶液2を霧化し、霧化された上記金属酸化物膜形成用溶液2と、成膜面側から金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱された基材3とを接触させることにより(図1(a))、基材3上に金属酸化物膜4を得る方法である(図1(b))。
【0020】
従来のスプレー熱分解法による金属酸化物膜の製造方法としては、基材を加熱する際に、金属酸化物膜が形成される成膜面とは反対面から加熱する方法が用いられてきた。
しかしながら、このような方法は、基材の厚み方向の熱伝導により間接的に上記成膜面を加熱することになるため、例えば厚みの大きい基材や、メッシュ状または多孔質等の基材等の熱伝導性に劣る基材を用いた場合には、成膜面を所望の温度に到達させることが困難となるという問題があった。
この点、本発明によれば、上記基材を金属酸化物膜形成温度以上に加熱する際に、金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱することにより、成膜面を直接加熱することができるため、基材の形態に関わらず前記成膜面を所望の温度に均一に加熱することができる。このため、本発明によれば基材の形態に関わらず、透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を得ることができる。
【0021】
ここで、本発明に用いられる「金属酸化物膜形成温度」について説明する。本発明において、「金属酸化物膜形成温度」とは、金属源に含まれる金属元素が酸素と結合し、基材上に金属酸化物膜を形成することが可能な温度をいい、金属塩、金属錯体といった金属源の種類、溶媒等の金属酸化物膜形成用溶液の組成によって大きく異なるものである。本発明において、このような「金属酸化物膜形成温度」は、以下の方法により測定することができる。すなわち、実際に所望の金属源を含有する金属酸化物膜形成用溶液を用意し、基材の加熱温度を変化させて接触させることにより、金属酸化物膜を形成することができる最低の基材加熱温度を測定する。この最低の基材加熱温度を本発明における「金属酸化物膜形成温度」とすることができる。この際、金属酸化物膜が形成したか否かは、通常、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)より得られた結果から判断し、結晶性のないアモルファス膜の場合は、光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB 200i−XL)より得られた結果から判断するものとする。
【0022】
以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法について、構成毎に詳細に説明する。
【0023】
1.基材の加熱方法
まず、本発明の製造方法において、基材を上記「金属酸化物膜形成温度」以上に加熱する方法について説明する。本発明における基材の加熱方法としては、金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱する方法であり、かつ、「金属酸化物膜形成温度」以上に加熱することができる方法であれば特に限定されるものではない。このような本発明における加熱方法としては、対流加熱方法、伝導加熱方法、および、輻射加熱方法のいずれであっても用いることができるが、なかでも対流加熱方法または輻射加熱方法が好ましく用いられる。
【0024】
上記対流加熱方法としては、通常、空気やガス等を媒体とし、これらの媒体を加熱した後に、上記基材の成膜面に接触させることにより加熱する方法が用いられる。また、上記輻射加熱方法としては、通常、分子振動を誘起する電磁波を上記基材の成膜面に照射することにより加熱する方法が用いられる。
本発明においては、上記対流加熱方法および輻射加熱方法のいずれであっても好適に用いることができるが、なかでも輻射加熱方法を用いることが好ましい。輻射加熱方法は対流加熱方法のように媒体を必要としないため、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材と接触させる際に、金属酸化物膜形成用溶液を基材と均一に接触させることができる。このため、より透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を形成することができるからである。
【0025】
上記輻射加熱方法を用いる場合に用いられる電磁波としては、通常、赤外線が用いられる。本発明において、上記電磁波として赤外線を用いる場合、その波長としては基材に吸収され、かつ、基材を所望の金属酸化物膜形成温度以上に加温できる波長を有する赤外線であれば特に限定されない。
したがって、本発明に用いられる赤外線の波長は基材の種類等に応じて、短波長赤外線、中波長赤外線、および長波長赤外線を任意に選択して用いればよい。
赤外線の選択例としては、例えば、上記基材として金属系基材を用いる場合は短波長赤外線、上記基材として、樹脂系基材またはガラス系基材を用いる場合は中波長赤外線、また、上記基材としてセラミック系基材を用いる場合は長波長赤外線を用いることを例示することができる。
ここで、上記短波長赤外線は波長0.8μm〜2.5μmの範囲内のもの、上記中波長赤外線は波長2.5μm〜25μmの範囲内のもの、および、上記長波長赤外線は波長25μm〜1000μmの範囲内のものを指すものとする。
【0026】
このように本発明における基材の加熱方法として、赤外線を照射する方法を用いる場合における赤外線を照射する装置は、所望の波長を有する赤外線を照射できる装置であれば特に限定されない。このような装置としては例えば、短波長赤外線ヒーター、中波長赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、カーボンヒーター等を例示することができる。
【0027】
本発明における基材の加熱方法としては、上記成膜面側から加熱する方法に加えて、上記基材を上記成膜面とは反対面から加熱する方法(以下、裏面加熱方法と称する場合がある。)を用いても良い。このような裏面加熱方法を用いることにより、上記基材の表裏での温度差を低減することができるため、基材の表裏での熱膨張率の差を低減することができる。これにより、金属酸化物膜を形成する際に基材が反ることを効果的に防止することができるからである。
【0028】
本発明に用いられる上記裏面加熱方法としては、上記対流加熱方法、伝導加熱方法、および、輻射加熱方法のいずれも用いることが可能であるが、伝導加熱方法を用いることが好ましい。このような伝導加熱方法としては、上記基材をホットプレート上に配置する方法を例示することができる。また、上記ホットプレートの形状としては、基材の形状等に合わせて任意に選択することができるが、具体的には、平板型、円筒型等を挙げることができる。
【0029】
2.スプレー装置
次に、本発明に用いられるスプレー装置について説明する。本発明に用いられるスプレー装置としては、後述する金属酸化物膜形成用溶液を所望の程度に霧化することができるスプレー方式を備える装置であれば特に限定されない。このようなスプレー方式としては、例えば、エアースプレー方式、エアーレススプレー方式、または回転霧化スプレー方式、超音波霧化方式、静電霧化方式等を例示することができる。
【0030】
また、本発明に用いられるスプレー装置のノズル径としては、所望の金属酸化物膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、具体的には、10μm〜1000μmの範囲内、なかでも50μm〜500μmの範囲内、特に100μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0031】
また、本発明に用いられるスプレー装置が後述する金属酸化物膜形成用溶液を吐出する吐出量としては、所望の金属酸化物膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、具体的には、0.0001L/min〜0.1L/minの範囲内、なかでも0.0001L/min〜0.05L/minの範囲内、特に0.001L/min〜0.01L/minの範囲内であることが好ましい。
【0032】
3.金属酸化物膜形成用溶液
次に、本発明の金属酸化物膜の製造方法に用いられる金属酸化物膜形成用溶液について説明する。本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、少なくとも後述する金属源および溶媒を含有するものである。なかでも本発明においては、金属酸化物膜形成用溶液が酸化剤および/または還元剤を含有していることが好ましい。酸化剤、還元剤を添加することにより、より低い温度で金属酸化物膜を形成することができ、さらに温度が低いことから、霧化された金属酸化物膜形成用溶液が、基材に到達する前に酸化され金属酸化物微粒子となることを防止することができ、透明性等の高い金属酸化物膜を形成することができるからである。
【0033】
(1)金属源
上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる金属源について説明する。上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる金属源は基材上に形成される金属酸化物膜を構成するものである。
【0034】
本発明に用いられる金属源は、後述する溶媒に溶解するものであれば特限定されるものではなく、金属塩であっても良く、金属錯体であっても良い。なお、本発明における「金属錯体」とは、金属イオンに対して無機物または有機物が配位したもの、あるいは、分子中に金属−炭素結合を有する、いわゆる有機金属化合物を含むものである。
【0035】
上記金属酸化物膜形成用溶液における上記金属源の濃度としては、金属源が金属塩の場合、通常0.001mol/L〜10mol/Lであり、なかでも0.01mol/L〜1mol/Lであることが好ましく、金属源が金属錯体である場合、通常0.001mol/L〜10mol/Lであり、なかでも0.01mol/L〜1mol/Lであることが好ましい。濃度が上記範囲以下であると、金属酸化物膜成膜に時間がかかり、工業的に好適でない可能性があり、濃度が上記範囲以上であると、均一な膜厚の金属酸化物膜を得ることができない可能性があるからである。
【0036】
このような金属源を構成する金属元素としては、所望の金属酸化物膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ta、Cr、Ga、Sr、Nb、Mo、Pd、Sb、Te、Ba、および、Wからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0037】
上記金属塩としては、具体的には、上記金属元素を含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。なかでも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩を使用することが好ましい。これらの化合物は汎用品として入手が容易だからである。
【0038】
また、上記金属錯体としては、具体的には、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、カルシウムジ(メトキシエトキシド)、グルコン酸カルシウム一水和物、クエン酸カルシウム四水和物、サリチル酸カルシウム二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物、ジシクロペンタジエニル鉄(II)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛、ストロンチウムジピバロイルメタナート、イットリウムジピバロイルメタナート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、トリシクロヘキシルすず(IV)ヒドロキシド、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、タンタル(V)エトキシド、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物、クエン酸鉛(II)三水和物、シクロヘキサン酪酸鉛等を挙げることができる。さらには、クロム(III)アセチルアセトナート、トリフルオロメタンスルホン酸ガリウム(III)、ストロンチウムジピバロイルメタナート、五塩化ニオブ、モリブデニルアセチルアセトナート、パラジウム(II)アセチルアセトナート、塩化アンチモン(III)、テルル酸ナトリウム、塩化バリウム二水和物、塩化タングステン(VI)等を挙げることができる。なかでも、本発明においては、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、ストロンチウムジピバロイルメタナート、ペンタエトキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物を使用することが好ましい。
また、本発明においては、金属酸化物膜形成用溶液が上記金属元素を2種類以上含有していても良く、複数種の金属元素を使用することにより、例えば、ITO、Gd−CeO、Sm−CeO、Ni−Fe等の複合金属酸化物膜を得ることができる。
【0039】
(2)酸化剤
上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる酸化剤について説明する。上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる酸化剤は、上述した金属源が溶解してなる金属イオン等の酸化を促進する働きを有するものである。金属イオン等の価数を変化させることにより、金属酸化物の発生しやすい環境とすることができ、従来の方法に比べ、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。
【0040】
上記金属酸化物膜形成用溶液における酸化剤の濃度としては、酸化剤の種類に応じて異なるものではあるが、通常0.001mol/L〜1mol/Lであり、なかでも0.01mol/L〜0.1mol/Lであることが好ましい。濃度が上記範囲以下であると、基材加熱温度を低下させる効果を充分に発揮することができない可能性があり、濃度が上記範囲以上であると、得られる効果に大差が見られず、コスト上好ましくないからである。
【0041】
このような酸化剤としては、後述する溶媒に溶解し、金属イオン等の酸化を促進することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、過酸化水素、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、酸化銀、二クロム酸、過マンガン酸カリウム等が挙げられ、なかでも過酸化水素、亜硝酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0042】
(3)還元剤
上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる還元剤について説明する。上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる還元剤は、分解反応により電子を放出し、水の電気分解によって水酸化物イオンを発生させ、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上げる働きを有するものである。金属酸化物膜形成用溶液のpHが上昇することで、金属酸化物膜の発生しやすい環境とすることができ、従来の方法に比べ、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。
【0043】
上記金属酸化物膜形成用溶液における還元剤の濃度としては、還元剤の種類に応じて異なるものではあるが、通常0.001〜1mol/lであり、なかでも0.01〜0.1mol/lであることが好ましい。濃度が上記範囲以下であると、基材加熱温度を低下させる効果を充分に発揮することができない可能性があり、濃度が上記範囲以上であると、得られる効果に大差が見られず、コスト上好ましくないからである。
【0044】
このような還元剤としては、後述する溶媒に溶解し、分解反応により電子を放出することができるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ボラン−tert−ブチルアミン錯体、ボラン−N,Nジエチルアニリン錯体、ボラン−ジメチルアミン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体等のボラン系錯体、水酸化シアノホウ素ナトリウム、水酸化ホウ素ナトリウムを挙げることができ、なかでもボラン系錯体を使用することが好ましい。
【0045】
また、本発明においては、還元剤と上述した酸化剤とを組み合わせて使用しても、従来の方法に比べ、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。このような還元剤および酸化剤の組合せとしては、基材加熱温度を低下させることができる組合せであれば特に限定されるものではないが、例えば、過酸化水素または亜硝酸ナトリウムと任意の還元剤との組合せ、任意の酸化剤とボラン系錯体との組合せ等が挙げられ、なかでも、過酸化水素とボラン系錯体との組合せが好ましい。
【0046】
(4)溶媒
上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる溶媒は、上述した還元剤および金属源等を溶解することができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、金属源が金属塩の場合は、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、トルエン、およびこれらの混合溶媒等を挙げることができ、金属源が金属錯体の場合は、水、上述した低級アルコール、トルエン、およびこれらの混合溶媒を挙げることができる。また、本発明のおいては、上記溶媒を組み合わせて使用しても良く、例えば、水への溶解性は低いが有機溶媒への溶解性は高い金属錯体と、有機溶媒への溶解性は低いが水への溶解性が高い還元剤とを使用する場合は、水と有機溶媒とを混合することにより両者を溶解させ、均一な金属酸化物膜形成用溶液とすることができる。
【0047】
(5)添加剤
また、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液には、セラミックス微粒子、補助イオン源、および界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0048】
上記セラミックス微粒子が上記金属酸化物膜形成用溶液に含有されることにより、上記セラミックス微粒子を取り囲むように金属酸化物膜が形成され、異種セラミックスの混合膜を得ることや金属酸化物膜の体積増加を図ることができる。また、上記セラミックス微粒子の含有量は、使用する部材の特徴に合わせて適宜選択されることが好ましい。
【0049】
このようなセラミックス微粒子は、上記目的を達成することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えばITO、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、珪素酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、セリウム酸化物、カルシウム酸化物、マンガン酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸バリウム等を挙げることができる。
【0050】
また、上記補助イオン源は、還元剤の熱分解等により生じる電子と反応し水酸化物イオンを発生するものであり、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させ、プールベ線図における金属酸化物領域あるいは金属水酸化物領域へ誘導し、金属酸化物膜の発生しやすい環境となり、従来の方法に比べ、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。また、上記補助イオン源の使用量は、使用する金属源や還元剤に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
【0051】
このような補助イオン源としては、具体的には、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、次臭素酸イオン、硝酸イオン、および亜硝酸イオンからなる群から選択されるイオン種を挙げることができる。
【0052】
また、上記界面活性剤は、上記金属酸化物膜形成用溶液と基材表面との界面に作用するものであり、金属酸化物膜形成用溶液と基材表面との接触面積を向上させることができ、均一な金属酸化物膜を得ることができる。また、上記界面活性剤の使用量は、使用する金属源や還元剤に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
【0053】
このような界面活性剤は、具体的にはサーフィノール485、サーフィノールSE、サーフィノールSE−F、サーフィノール504、サーフィノールGA、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104PPM、サーフィノール104E、サーフィノール104PA等のサーフィノールシリーズ(以上、全て日信化学工業(株)社製)、NIKKOL AM301、NIKKOL AM313ON(以上、全て日光ケミカル社製)等を挙げることができる。
【0054】
4.基材
次に、本発明の金属酸化物膜の製造方法に用いられる基材について説明する。本発明の金属酸化物膜の製造方法においては、基材を金属酸化物膜形成温度以上に加熱する際に、金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱するため、本発明に用いられる基材の形態に特に制約はなく、任意の形態を有する基材を用いることができる。
【0055】
本発明に用いられる基材の具体的な形態としては、本発明の金属酸化物膜の製造方法により製造される金属酸化物膜の種類や用途等に応じて適宜決定すればよい。このような形態としては、例えば、平滑な表面を有するもの、微細構造部を有するもの、穴が開いているもの、溝が刻まれているもの、メッシュ状であるもの、多孔質であるもの、多孔質膜を備えたものであっても良い。なかでも、本発明においては平滑な表面を有するもの、微細構造部を有するもの、溝が刻まれているもの、多孔質であるもの、多孔質膜を備えたものが好適に使用される。
【0056】
また、本発明においては上述したように基材を成膜面側から加熱するため、基材の厚みとしても特に制約はなく、本発明の金属酸化物膜の製造方法により製造される金属酸化物膜の種類や用途等に応じて任意の厚みを有する基材を用いることができる。
【0057】
本発明に用いられる基材の材料としては、上記加熱温度に対する耐熱性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えばガラス、SUS、金属板、セラミック基板、耐熱性プラスチック等を挙げることができ、なかでもガラス、SUS、金属板、セラミック基板を使用することが好ましい。汎用性があり、充分な耐熱性を有しているからである。
【0058】
5.接触方法
次に、スプレー装置により霧化された金属酸化物膜形成用溶液と、金属酸化物膜形成用温度以上の温度まで加熱した基材との接触方法について説明する。
【0059】
本発明における上記接触方法としては、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液と、上記加熱された基材とを接触させる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材に噴霧する方法、霧化された金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法等が挙げられる。
【0060】
上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材に噴霧する方法において、霧化された金属酸化物膜形成用溶液の液滴の径としては、特に限定されるものではないが、具体的には、0.01μm〜1000μm、なかでも0.1μm〜300μmであることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、液滴が基材に接触する際に、基材温度が低下せず、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0061】
また、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材に噴霧する方法において、霧化された金属酸化物膜形成用溶液の吐出量としては、特に限定されるものではないが、具体的には、0.0001〜0.1リットル/minの範囲内、なかでも0.0001〜0.05リットル/minの範囲内、特に0.001〜0.01リットル/minの範囲内であることが好ましい。上記範囲を超える場合は、基材温度の低下を引き起こす可能性があり、上記範囲に満たない場合は、金属酸化物膜の成膜に時間がかかり、コスト上好ましくないからである。
【0062】
上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材に噴霧する方法としては、所望の金属酸化物膜を形成することができる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、固定された基材上に噴霧する方法、移動する基材上に噴霧する方法等を挙げることができる。
【0063】
上記固定された基材上に噴霧する方法としては、例えば、図2に示すように、固定された基材3を基材の成膜面上に設けられた加熱装置8により金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱し、この基材3に対して、スプレー装置1を用いて霧化された金属酸化物膜形成用溶液2を噴霧する方法等が挙げられる。
一方、上記移動する基材上に噴霧する方法としては、例えば、図3に示すように、基材3を、ローラー5〜7を用いて連続的に移動させながら基材の成膜面上に設けられた加熱装置8により金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱し、この基材3に対して、スプレー装置3を用いて霧化された金属酸化物膜形成用溶液2を噴霧する方法等が挙げられる。この方法は、連続的に金属酸化物膜を形成することができるという利点を有する。
【0064】
また、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材に噴霧する方法において、用いられる基材の形状としては、スプレー装置による噴霧ができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、板状、筒状の基材を用いることができる。上記筒状の基材を用いた場合、スプレー装置が筒の内部に入り込むことができれば、筒の内面に金属酸化物膜を形成することができる。
【0065】
一方、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法において、霧化された金属酸化物膜形成用溶液の液滴の径としては、特に限定されるものではないが、具体的には、0.01μm〜300μm、なかでも0.1μm〜100μmであることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、基材温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0066】
上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、図4に示すように、スプレー装置1を用いて金属酸化物膜形成用溶液2をミスト状にした空間に、基材3を基材の成膜面上に設けられた加熱装置8により金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱しながら通過させる方法等を挙げることができる。
【0067】
また、本発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液と加熱された基材とを接触させるのであるが、その際、基材は上述した「金属酸化物膜形成温度」以上の温度まで加熱される。このような「金属酸化物膜形成温度」は、金属塩、金属錯体といった金属源の種類、溶媒等の金属酸化物膜形成用溶液の組成によって異なるものであるが、金属酸化物膜形成用溶液に酸化剤および/または還元剤を加えない場合、通常400℃〜1000℃の範囲内とすることができ、なかでも、450℃〜700℃の範囲内であることが好ましい。
一方、金属酸化物膜形成用溶液に酸化剤および/または還元剤を加える場合、通常150℃〜400℃の範囲内とすることができ、なかでも、200℃〜400℃の範囲内であることが好ましい。
特に、本発明において、基材上にITO膜を形成する場合は、300℃〜500℃の範囲内、なかでも、350℃〜450℃の範囲内であることが好ましい。また、基材上にアルミナを形成する場合は、400℃〜600℃の範囲内、なかでも、450℃〜550℃の範囲内であることが好ましい。また、基材上にガドリニウムドーピングセリアを形成する場合は、300〜600℃の範囲内、なかでも、350〜500℃の範囲内であることが好ましい。
【0068】
また、本発明において、基材を加熱する手順としては、基材を所望の温度まで加熱することができる手順であれば特に限定されるものではないが、例えば、霧化された金属酸化物膜形成用溶液と基材とを接触させながら、基材を加熱する方法、または霧化された金属酸化物膜形成用溶液と基材とを接触させる前に、予め基材を加熱する方法等を挙げることができ、本発明においては、なかでも、前者の方法が好ましい。基材温度を安定して保持することができるからである。基材の加熱方法については、上記「1.基材の加熱方法」の項において説明した内容と同様であるためここでの説明は省略する。
【0069】
6.その他
また、本発明の金属酸化物膜の製造方法においては、上述した接触方法等により得られた金属酸化物膜の洗浄を行っても良い。上記金属酸化物膜の洗浄は、金属酸化物膜の表面等に存在する不純物を取り除くために行われるものであって、例えば、金属酸化物膜形成用溶液に使用した溶媒を用いて洗浄する方法等を挙げることができる。
【0070】
B.金属酸化物膜の製造装置
次に、本発明の金属酸化物膜の製造装置について説明する。本発明の金属酸化物膜の製造装置は、金属酸化物膜形成用溶液を用い、基材上に金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の製造装置であって、上記基材を保持するステージと、上記ステージ上に保持された基材を、金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱する表面加熱装置と、上記金属酸化物膜形成用溶液を霧化するスプレー装置と、上記スプレー装置に上記金属酸化物膜形成用溶液を供給する金属酸化物膜形成用溶液供給装置とを有することを特徴とするものである。
【0071】
このような本発明の金属酸化物膜の製造装置について図を参照しながら説明する。図5は本発明の金属酸化物膜の製造装置の一例を示す概略図である。図5に例示するように、本発明の金属酸化物膜の製造装置としては、基材11を保持するステージ12と、上記基材11を加熱する表面加熱装置13と、金属源として金属塩または金属錯体が溶解した金属酸化物膜形成用溶液14を霧化するスプレー装置15と、上記スプレー装置15に上記金属酸化物膜形成用溶液14を供給する金属酸化物膜形成用溶液供給装置16と、を備えるものである。
このような例においては、目的とする位置に金属酸化物膜形成用溶液を噴霧するために、ステージ12が移動するものであっても良く、スプレー装置15が移動するものであっても良く、ステージ12およびスプレー装置15の両方が移動するものであっても良い。さらに、ステージ12は、図5に示されたX、Y方向に移動するだけではなく、水平面から所定の角度で傾斜するものであっても良い。
【0072】
本発明によれば、上記ステージ上に保持された基材を、金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱する表面加熱装置を有することにより、基材の形態に関わらず前記成膜面を所望の温度に均一に加熱することができる。このため、本発明によれば基材の形態に関わらず、透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を形成できる金属酸化物膜の製造装置を得ることができる。
【0073】
以下、本発明の金属酸化物膜の製造装置の各構成について詳細に説明する。なお、本発明に用いられるスプレー装置、基材、金属酸化物膜形成用溶液については、上述した「A.金属酸化物膜の製造方法」に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0074】
1.表面加熱装置
まず、本発明に用いられる表面加熱装置について説明する。本発明に用いられる表面加熱装置は、ステージ上に保持された基材を金属酸化物膜が形成される成膜面側から直接加熱する装置である。
【0075】
本発明に用いられる表面加熱装置としては、基材の成膜面を所望の温度に加熱できる装置であれば特に限定されるものではない。このような表面加熱装置としては対流型加熱装置、伝導型加熱装置、および輻射型加熱装置を挙げることができる。なかでも本発明においては対流型加熱装置、または、輻射型加熱装置を用いることが好ましい。
【0076】
上記対流型加熱装置としては、通常、空気やガス等を媒体とし、これらの媒体を加熱した後に、上記基材の成膜面に接触させることにより加熱する装置が用いられる。また、上記輻射加熱方法としては、通常、分子振動を誘起する電磁波を上記基材の成膜面に照射することにより加熱する装置が用いられる。
本発明においては、上記対流型加熱装置および輻射型加熱装置のいずれであっても好適に用いることができるが、なかでも輻射型加熱装置を用いることが好ましい。輻射加熱型装置によれば、対流型加熱装置のように基材を加熱するのに媒体を必要としないため、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材と接触させる際に、金属酸化物膜形成用溶液を基材と均一に接触させることができる。このため、より透明性、緻密性、密着性等に優れた金属酸化物膜を形成できる金属酸化物膜の製造装置を得ることができるからである。
【0077】
本発明における表面加熱装置として、上記輻射型加熱装置を用いる場合の電磁波としては、通常、赤外線が用いられる。本発明において、上記電磁波として赤外線を用いる場合の波長については、上記「A.金属酸化物膜の製造方法」の項に記載した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0078】
本発明における基材の加熱方法として、赤外線を照射する方法を用いる場合における赤外線を照射する装置は、所望の波長を有する赤外線を照射できる装置であれば特に限定されない。このような装置の例については、上記「A.金属酸化物膜の製造方法」の項に記載したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0079】
2.裏面加熱装置
本発明の金属酸化物膜の製造装置には、上記表面加熱装置に加えて、ステージに保持された基材を、金属酸化物膜が形成される成膜面とは反対面から加熱する裏面加熱装置を有しても良い。このような上記裏面加熱装置を有することにより、上記基材を上記成膜面とは反対面からも加熱することが可能になるため、上記基材の表裏での温度差を低減することができることから、表裏での熱膨張率の差を低減することができる。このため、加熱時に基材が反ることを効果的に防止することができるからである。
【0080】
上記裏面加熱装置としては、上記対流型加熱装置、伝導型加熱装置、および、輻射型加熱装置のいずれも用いることが可能であるが、伝導型加熱方法を用いることが好ましい。このような伝導型加熱装置としては、例えば、基材を保持できるホットプレートを例示することができる。
上記ホットプレートの形状としては、基材の形状等に合わせて任意に選択することができるが、具体的には、平板型、円筒型等を挙げることができる。
【0081】
また、本発明に用いられる上記裏面加熱装置は、後述するステージの機能を備えるものであっても良い。
【0082】
3.ステージ
本発明に用いられるステージは、基材を保持するために用いられるものである。本発明に用いられるステージとしては、上述した基材の加熱温度に対して充分な耐熱性を有するものであれば特に限定されるものではない。また、本発明に用いられるステージは、上述した表面加熱装置または裏面加熱装置により加熱された基材およびステージを冷却するために、冷却機構を備えるものであっても良い。
【0083】
4.金属酸化物膜形成用溶液供給装置
本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液供給装置は、上記スプレー装置に金属酸化物膜形成用溶液を供給する装置である。本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液供給装置は、金属酸化物膜形成用溶液が充填され、金属酸化物膜形成用溶液を所望の量で上記スプレー装置に供給できるものであれば特に限定されるものではない。
【0084】
また、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液供給装置は、金属酸化物膜形成用溶液を均一に保つための撹拌機能、金属酸化物膜形成用溶液の液温を調整する温度調整機能等を有していても良い。
【0085】
5.用途
本発明の金属酸化物膜の製造装置は、金属酸化物膜形成用溶液を用い、基材上に金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜を形成するのに用いられるものである。なかでも本発明の金属酸化物膜の製造装置は、上記「A.金属酸化物膜の製造方法」の項において記載した金属酸化物膜の製造方法を実施するのに好適に用いられる。
【0086】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0088】
(1)実施例1
本実施例においては、SUSメッシュ積層基材にアルミナ絶縁膜を付与した。
【0089】
まず、アルミニウムアセチルアセトナート0.1mol/Lとなるように溶媒1000ml(エタノール15%−トルエン85%の混合溶媒)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液を得た。
次に、厚さ0.2mmのメッシュ(SUS304、50mm×50mm、メッシュ幅10μm)を40枚重ねて拡散接合し、80mmの厚さを有したSUSハニカムメッシュ積層体を基材とした。
【0090】
上記基材をハロゲンランプ(ウシオライティング社製)で成膜面を500℃に加熱し、この基材に上記金属酸化物膜形成用溶液500mLをエアレススプレー(A7Aエアレスオートガン、クロスカットノズル1/12、ノズル径114μm、ノードソン社製)を用いて10mL/minスプレーすることにより金属酸化物膜を形成し、上記基材上にアルミナ膜を得た。
【0091】
上記方法により得られた金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、Al膜が形成していることを確認した。
また、デジタルマルチメータ(アズワン製 CDM-2000D)を用いて、80mmの分厚さを有したSUSハニカムメッシュ積層体上に設けたアルミナ膜の表面抵抗を測定したところ、OVERLOAD(測定範囲以上の抵抗)であった。
さらに、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって測定したところ、膜厚は900±150nmであった。この結果、80mmの分厚さを有したSUSハニカムメッシュ積層体の表面を完全に絶縁できた。
【0092】
(2)比較例
本比較例においては、実施例1において用いた基材を成膜面側からでなく、基材成膜面と反対側からホットプレート(アズワン社製)で加熱したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミナ膜を得た。
【0093】
ホットプレート表面は540℃に加熱できたが、80mmの分厚さを有したSUSハニカムメッシュ積層体の表面は260℃であった。
【0094】
上記方法により得られた金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、アルミナ膜を形成していることが確認できなかった。さらに、デジタルマルチメータ(アズワン製 CDM-2000Dを用いて、80mmの分厚さを有したSUSハニカムメッシュ積層体上に設けたアルミナ膜の表面抵抗を測定したところ、5200Ωであった。
断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって測定したところ、膜厚は300±200nmであった。この結果、80mmの分厚さを有したSUSハニカムメッシュ積層体の表面を絶縁できなかった。
【0095】
(3)実施例2
本実施例においては、実施例1において用いた基材を成膜面側から加熱し、さらに、比較例1において用いた基材成膜面と反対側からホットプレート(アズワン社製)で加熱し、実施例1と同様にしてアルミナ膜を得た。すなわち、本実施例においては、上記基材をハロゲンランプ(ウシオライティング社製)で成膜面を500℃に加熱し、かつ基材のホットプレート面も500℃に加熱し、80mmの分厚さを有したSUSハニカムメッシュ積層体上下方向から同時に加熱した。この操作により、熱膨張によるわずかな基材の反りが抑えられたことを目視にて確認できた。
【0096】
上記方法により得られた金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、Al膜が形成していることを確認した。
また、デジタルマルチメータ(アズワン製 CDM-2000D)を用いて、80mmの分厚さを有したSUSハニカムメッシュ積層体上に設けたアルミナ膜の表面抵抗を測定したところ、OVERLOAD(測定範囲以上の抵抗)であった。
さらに、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって測定したところ、膜厚は900±30nmであった。この結果、80mmの分厚さを有したSUSハニカムメッシュ積層体の表面を完全に絶縁できただけでなく、膜厚均一性に優れたアルミナ膜を基材上に得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の金属酸化物膜の製造方法の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図3】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図4】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図5】本発明の金属酸化物膜の製造装置の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0098】
1、15 … スプレー装置
2、14 … 金属酸化物膜形成用溶液
3、11 … 基材
4、… 金属酸化物膜
5〜7 … ローラー
12 … ステージ
13 …表面加熱装置
16 …金属酸化物膜形成用溶液供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレー装置により、金属源として金属塩または金属錯体が溶解した金属酸化物膜形成用溶液を霧化し、霧化された前記金属酸化物膜形成用溶液と金属酸化物膜形成温度以上の温度以上に加熱した基材とを接触させることにより、前記基材上に金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の製造方法であって、
前記基材を、前記金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱することを特徴とする、金属酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
前記基材を前記成膜面側から加熱する方法が、赤外線を照射する方法であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項3】
前記基材を前記成膜面とは反対面からも加熱することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項4】
金属酸化物膜形成用溶液を用い、基材上に金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の製造装置であって、
前記基材を保持するステージと、前記ステージ上に保持された基材を、金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱する表面加熱装置と、前記金属酸化物膜形成用溶液を霧化するスプレー装置と、前記スプレー装置に前記金属酸化物膜形成用溶液を供給する金属酸化物膜形成用溶液供給装置と、を有することを特徴とする、金属酸化物膜の製造装置。
【請求項5】
前記表面加熱装置が、赤外線を照射する装置であることを特徴とする、請求項4に記載の金属酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記ステージに保持された基材を、金属酸化物膜が形成される成膜面とは反対面から加熱する裏面加熱装置を有することを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の金属酸化物膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−238393(P2007−238393A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64768(P2006−64768)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】