説明

銅配線、銅配線の形成方法および半導体装置

【課題】銅配線本体の開放表面に形成されるマンガンを含むバリア層に最適な内部構成を持たせて、そのバリア機能を充分に発揮させることができる半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】銅配線1は、電気絶縁層3に銅からなる配線本体8を備える。配線本体の外周81は、電気絶縁層に対向している第1の外周8aと電気絶縁層との間に形成された第1のバリア層7aと、配線本体の外周のうち電気絶縁層に対向していない第2の外周8bに接して形成された第2のバリア層7bとを備える。第1および第2のバリア層はそれぞれマンガンを含む酸化物層からなるとともに、各バリア層内の厚さ方向でマンガンの原子濃度が極大となる位置を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気絶縁層に銅からなる配線本体を備えてなる銅配線、その銅配線の形成方法、およびその銅配線を回路配線として備えた半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抵抗率が2.7μΩ・cmであるアルミニウム(元素記号:Al)などに比較し、銅(元素記号:Cu)は、抵抗率が1.7μΩ・cmと小さく、またエレクトロマイグレーション耐性やストレスマイグレーション耐性が高く、システムLSIやフラッシュメモリー等のシリコン半導体装置や大型の液晶表示装置(略称:LCD)などの半導体装置のための配線の導通部本体(配線本体)をなす材料として利用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−277390号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2006/025347A1号公報
【特許文献3】国際公開番号WO2007/100125A1号公報
【特許文献4】特開平01−202841号公報
【特許文献5】特開平11−186273号公報
【特許文献6】特開2001−44156号公報
【特許文献7】特開2000−068269号公報
【特許文献8】特開2004−266178号公報
【特許文献9】特開2007−096241号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.M.ジィー著、「半導体デバイス(第2版)−基礎理論とプロセス技術−」(ISBN4−7828−5550−8 C3055)、2005年10月5日、産業図書(株)発行第2版第3刷、355〜356頁
【0005】
例えば、中央演算処理装置(略称:CPU)などとして利用されるシリコンシステムLSIのための、例えばダマシン構造の銅配線にあって、配線本体をなす銅は、二酸化珪素(SiO2)膜などからなる層間絶縁膜に設けられたトレンチ(trench)溝又はビア配線間接続孔の内部を埋め込むように配設されている(非特許文献1参照)。
【0006】
この様な構造の銅配線を形成するに際しては、配線本体をなす銅の原子拡散に因り、層間絶縁膜の電気的絶縁性の低下を防止するため、また逆に、層間絶縁膜を構成する酸素(元素記号:O)など原子の拡散に因り銅配線本体の電気抵抗が大きくなるのを回避するため、層間絶縁膜と銅配線本体との中間には、これらの原子の拡散を防止するためのバリア層を設ける構成とするのが一般的である(例えば、特許文献4〜6参照)。
【0007】
銅を配線本体とする銅配線に係るバリア層は、従来から、窒化タングステン(WN)(例えば、特許文献7参照)、タンタル(元素記号:Ta)(例えば、特許文献8参照)、レニウム(元素記号:Re)(例えば、特許文献9参照)などから構成されている。
【0008】
最近では、LSIの集積度を更に上げるために、配線幅を例えば32nm或いはそれ未満に減少させる必要があることに鑑み、銅の自己拡散係数よりも大きな拡散係数を有するマンガン(元素記号:Mn)などの元素を含む銅被膜を材料として用いて、自己形成的に形成されたマンガン酸化物などから薄膜バリア層を形成する技術も開示されている(上記の特許文献1〜3参照)。
【0009】
銅(Cu)の自己拡散係数よりも大きな拡散係数を有する例えば、マンガン(Mn)を含む銅被膜を用いてバリア層を形成するには、例えば、多孔(ポーラス)な二酸化珪素(SiO2)や炭化酸化珪素(SiOC)などの層間絶縁膜に設けたトレンチ溝の内壁を被覆するが如く銅被膜を被着させ、次に、トレンチ溝やビア孔の内部の空間に配線本体をなす銅を埋め込んで充填し、酸素分子を含む雰囲気内で銅被膜及び銅配線本体に加熱処理を施して形成するのが一般的である。
【0010】
この加熱処理に因って、例えば、珪素(元素記号:Si)を含む酸化物からなる層間絶縁膜と銅配線本体の中間には、銅被膜を素にして、珪素(Si)と酸素(O)とマンガン(Mn)とを含むバリア層が形成される(例えば、上記の特許文献1、2参照)。或いは、珪素(Si)と酸素(O)とマンガン(Mn)と銅(Cu)とを含むバリア層が形成される(上記の特許文献3参照)。また、対向する層間絶縁膜が存在していない銅配線本体の上側表面などの、所謂開放表面近傍の領域にも、加熱処理雰囲気内に含まれる酸素分子との反応によりバリア層が形成されることが知られている(例えば、上記の特許文献1〜3参照)。
【0011】
層間絶縁膜と銅配線本体の中間に銅被膜を素として形成されるバリア層にあって、バリア機能を充分に発揮できるバリア層として備えるべき要件、例えば、バリア層の内部でのマンガン(Mn)の原子濃度の分布については既に明らかとなっている(上記の特許文献3参照)。一方で、銅配線本体の開放表面に形成される開放表面側バリア層については、どのような内部構成であれば、有効なバリア機能を発揮できるか、未だ不明瞭の状況にある。また、その有効なバリア機能を備えた開放表面側バリア層は、どのような方法であれば安定して形成することができるのかについても、不明瞭な状況にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明は上記に鑑み提案されたもので、銅配線本体の開放表面に形成される開放表面側バリア層に、最適な内部構成を持たせてそのバリア機能を充分に発揮させることができる銅配線を提供することを目的とする。また有効なバリア機能を備えた開放表面側バリア層を安定して形成することができる銅配線の形成方法、およびその銅配線を回路配線として備えた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、(1)本発明の第1の発明は、電気絶縁層に銅からなる配線本体を備えてなる銅配線において、上記配線本体の外周のうち電気絶縁層に対向している第1の外周と、当該電気絶縁層との間に形成された第1のバリア層と、上記配線本体の外周のうち電気絶縁層に対向していない第2の外周に接して形成された第2のバリア層と、を備え、上記第1および第2のバリア層はそれぞれ、マンガンを含む酸化物層からなるとともに、各バリア層内の厚さ方向でマンガンの原子濃度が極大となる位置を有する、ことを特徴としている。
【0014】
(2)本発明の第2の発明は、上記の(1)項に記載の発明において、上記第2のバリア層を、マンガンの原子濃度が極大となる位置近傍で酸素の原子濃度も極大とするものである。
【0015】
(3)本発明の第3の発明は、上記の(1)または(2)項に記載の発明において、上記第2のバリア層内のマンガンの極大の原子濃度を、第1のバリア層内に存在するマンガンの原子濃度より大とするものである。
【0016】
(4)本発明の第4の発明は、上記の(1)乃至(3)の何れか1項に記載の発明において、上記第3のバリア層内のマンガンは、当該第2のバリア層内の厚さ方向で、マンガンの原子濃度が極大となる位置を中心にして対称的に分布しているものである。
【0017】
(5)本発明の第5の発明は、上記の(2)乃至(4)の何れか1項に記載の発明において、上記第2のバリア層の酸素は、当該第2のバリア層内の厚さ方向で、酸素の原子濃度が極大となる位置を中心にして対称的に分布しているものである。
【0018】
(6)本発明の第6の発明は、電気絶縁層に銅からなる配線本体を備えてなる銅配線を形成する銅配線の形成方法において、上記電気絶縁層に溝状の開口部を設ける工程と、上記開口部の内周面に、原子濃度が1.0原子%以上で25原子%以下のマンガンを含む銅合金被膜を形成する工程と、上記銅合金被膜が形成された開口部に銅を埋め込み銅埋め込み層を形成する工程と、所定条件下での熱処理により、銅合金被膜中のマンガンを電気絶縁層側および銅埋め込み層の外周のうち電気絶縁層が対向していない開放表面側に拡散させ、電気絶縁層側および銅埋め込み層の開放表面側にそれぞれマンガンを含む酸化物からなるバリア層を形成するとともに、そのバリア層で囲まれた内方を銅からなる配線本体として銅配線を形成する工程と、を有し、上記所定条件下での熱処理は、温度が150℃以上で450℃以下、雰囲気ガスの酸素分圧がNMn×DO/DMn(ここでNMn:銅合金被膜に含まれるマンガンの原子濃度、DO:銅合金被膜内での酸素原子の拡散係数、DMn:銅合金被膜内でのマンガンの拡散係数)で求められる銅合金被膜中の酸素原子の濃度NO未満となるように調整された酸素分圧での熱処理である、ことを特徴としている。
【0019】
(7)本発明の第7の発明は、電気絶縁層に銅からなる配線本体を備えてなる銅配線を形成する銅配線の形成方法において、電気絶縁層上に、原子濃度が1.0原子%以上で25原子%以下のマンガンを含む銅合金被膜を形成する工程と、上記銅合金被膜の所定条件下での熱処理により、銅合金被膜中のマンガンを電気絶縁層側および当該銅合金被膜の電気絶縁層に接していない開放表面側に拡散させ、電気絶縁層側および電気絶縁層に接していない開放表面側にそれぞれマンガンを含む酸化物からなるバリア層を形成するとともに、そのバリア層で囲まれた内方を銅からなる配線本体として銅配線を形成する工程と、を有し、上記所定条件下での熱処理は、温度が150℃以上で450℃以下、雰囲気ガスの酸素分圧がNMn×DO/DMn(ここでNMn:銅合金被膜に含まれるマンガンの原子濃度、DO:銅合金被膜内での酸素原子の拡散係数、DMn:銅合金被膜内でのマンガンの拡散係数)で求められた銅合金被膜中の酸素原子の濃度NO未満となるように調整された酸素分圧での熱処理である、ことを特徴としている。
【0020】
(8)本発明の第8の発明は、電気絶縁層に銅配線を回路配線として備えた半導体装置において、上記銅配線が(1)乃至(5)の何れか1項に記載の銅配線である、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1の発明によれば、第1および第2のバリア層はそれぞれ、マンガンを含む酸化物層からなるとともに、各バリア層内の厚さ方向でマンガンの原子濃度が極大となる位置を有するようにしたので、第1および第2のバリア層では、電気伝導を媒介するマンガン(Mn)が確実に電気絶縁性の酸化物に転化されている。このバリア層により、配線本体をなす銅の電気絶縁層への原子拡散、また電気絶縁膜を構成する酸素などの原子の配線本体への原子拡散を確実に防止することができる。したがって、原子拡散に対するバリア性に優れ、且つ電気絶縁性にも優れるバリア層を備えた配線本体をもたらすことができ、しいては、電気抵抗の小さな導電性に優れる配線本体を備えた銅配線を提供することができる。
【0022】
本発明の第2の発明によれば、第2のバリア層は、そのマンガンの原子濃度が極大となる位置近傍で酸素の原子濃度も極大となるようにしたので、第2のバリア層でのマンガンは、より一層確実に酸化物に転化される。そして、この第2のバリア層は、バリア層形成時に酸素を含む雰囲気に露呈する配線本体の表面領域に形成されるので、その雰囲気中から酸素が配線本体へ長時間にわたって侵入するのを確実に防止することができる。したがって、より一層、配線本体を低抵抗で導電性に優れたたものとすることができる。
【0023】
本発明の第3の発明では、第2のバリア層内のマンガンの極大の原子濃度を、第1のバリア層内に存在するマンガンの原子濃度より大とした。この第2のバリア層は、バリア層形成時に酸素を含む雰囲気に露呈する配線本体の開放表面領域に形成されるので、その雰囲気中から酸素が配線本体へ長時間にわたって侵入するのを確実に防止することができる。したがって、より一層、配線本体を低抵抗で導電性に優れたたものとすることができる。
【0024】
本発明の第4の発明によれば、第2のバリア層内のマンガンは、当該第2のバリア層内の厚さ方向で、マンガンの原子濃度が極大となる位置を中心にして対称的に分布しているので、雰囲気中の酸素や、多層配線構造における第2のバリア層に接して存在する絶縁層に含まれる元素が、不純物として第2のバリア層の表面から配線本体側へ侵入すること、及び配線本体から第2のバリア層の表面側へ銅が拡散することによって双方向の移動が生じることを、均等に抑止することができ、優れたバリア性を有するバリア層を得ることができる。これにより、電気的に低抵抗で導電性に優れる配線本体を備えた銅配線をより一層確実にもたらすことができる。
【0025】
本発明の第5の発明によれば、第2のバリア層の酸素は、当該第2のバリア層内の厚さ方向で、酸素の原子濃度が極大となる位置を中心にして対称的に分布しているので、雰囲気中の酸素や、多層配線構造における第2のバリア層に接して存在する絶縁層に含まれる元素が、不純物として配線本体の第2のバリア層の表面から配線本体側へ侵入すること、及び配線本体から第2のバリア層の表面側へ銅が拡散することによって双方向の移動が生じることを、均等に抑止することができ、優れたバリア性を有するバリア層を得ることができる。これにより、電気的に低抵抗で導電性に優れる配線本体を備えた銅配線をより一層確実にもたらすことができる。
【0026】
本発明の第6、第7の発明によれば、原子濃度が1.0原子%以上で25原子%以下のマンガンを含む銅合金被膜に施す熱処理を、温度が150℃以上で450℃以下、雰囲気ガスの酸素分圧が、NMn×DO/DMnで求められる銅合金被膜中の酸素原子の濃度NO未満となるように調整された酸素分圧で行うようにしたので、電気絶縁層側および開放表面側にそれぞれマンガンを含む酸化物からなるバリア層を形成するとともに、そのバリア層は厚さ方向でマンガンの原子濃度が極大となる位置を有する等の特徴を備えるようになる。これにより、電気抵抗が小さく導電性に優れる銅配線本体を備えた銅配線をもたらすことができる。
【0027】
本発明の第8の発明によれば、半導体装置の銅配線を構成する第1および第2のバリア層がそれぞれ、マンガンを含む酸化物層からなるとともに、各バリア層内の厚さ方向でマンガンの原子濃度が極大となる位置を有し、第2のバリア層は、そのマンガンの原子濃度が極大となる位置近傍で酸素の原子濃度も極大となる等の特徴を備えるようにしたので、エレクトロマイグレーション耐性に優れると共に、配線抵抗の小さな半導体装置、例えば配線幅を32ナノメータ(単位:nm)或いはそれ未満の幅とするミクロ配線を必要とする大規模システムLSIなどの装置を提供することができる。
【0028】
また、配線抵抗が小さいが故に、例えば電気信号の伝達に於けるRC時定数が小さく、RC遅延の小さな大型LCDなどの表示装置を構成することができる。また、ダマシン構造型の微小配線を必要とするシリコン(Si)LSIなどの半導体装置を好都合に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る銅配線の構成を示す図であり、(a)は銅配線の断面を模式的に示す図、(b)はバリア層中のマンガンの原子濃度を示す図である。
【図2】この発明の第1の実施形態に係る銅配線の製造手順および構成を概略的に示す説明図であり、(a)は製造手順の前半を、(b)は製造手順の後半をそれぞれ示している。
【図3】この発明の第1の実施形態に係る第1バリア層と第2バリア層の説明図である。
【図4】実施例の銅配線の製造手順および構成を概略的に示す説明図であり、(a)は製造手順の前半を、(b)は製造手順の後半をそれぞれ示している。
【図5】第2バリア層、配線本体、第1バリア層および層間絶縁層でのMn、Cu及び酸素の濃度分布測定結果を示す図である。
【図6】この発明の第2の実施形態に係る銅配線の構成示す図であり、(a)は銅配線の断面を模式的に示す図、(b)はバリア層中のマンガンの原子濃度を示す図である。
【図7】この発明の第2の実施形態に係る銅配線の製造手順を概略的に示す説明図であり、(a)は製造手順の第1段階を、(b)は製造手順の第2段階を、(c)は製造手順の第3段階を、(d)は製造手順の第4段階をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下にこの発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。先ずこの発明の第1の実施形態を図1および図2を用いて説明する。
【0031】
図1はこの発明の銅配線の構成を示す図であり、(a)は銅配線の断面を模式的に示す図、(b)はバリア層中のマンガンの原子濃度を示す図である。この発明の銅配線1は、図1(a)に示すように、電気絶縁層3に銅からなる配線本体8を備えてなり、配線本体8はバリア層7で囲まれている。バリア層7は、第1バリア層7aと第2バリア層7bとからなり、第1バリア層7aは、配線本体8の外周81のうち電気絶縁層3に対向している第1外周8aと、当該電気絶縁層3との間に形成された層である。また、第2バリア層7bは、配線本体8の外周81のうち電気絶縁層3に対向していない第2外周8bに接して形成された層である。
【0032】
そして、この第1バリア層7aおよび第2バリア層7bはそれぞれ、マンガン(Mn)を含む酸化物層からなるとともに、各バリア層7a,7b内の厚さ方向でMnの原子濃度が極大となる位置を有している。
【0033】
このように、この発明では、第1および第2バリア層7a,7bはそれぞれ、マンガンを含む酸化物層からなるとともに、各バリア層内の厚さ方向でマンガンの原子濃度が極大となる位置を有するようにしたので、第1および第2バリア層7a,7bでは、マンガンが確実に電気絶縁性の酸化物に転化される。このバリア層により、配線本体をなす銅の電気絶縁層への原子拡散、また電気絶縁層を構成する酸素などの原子の配線本体への原子拡散を確実に防止することができる。したがって、原子拡散に対するバリア性に優れ、且つ電気絶縁性にも優れるバリア層を備えた配線本体をもたらすことができ、しいては、電気抵抗の小さな導電性に優れる配線本体を備えた銅配線を提供することができる。
【0034】
また、この発明では、第2バリア層7bは、そのマンガンの原子濃度が極大となる位置近傍で酸素の原子濃度も極大となるようにする。また、第2バリア層7b内のマンガンの極大の原子濃度を、第1バリア層7a内に存在するマンガンの原子濃度より大とする。第2バリア層7bは、詳細は後述するように、バリア層形成時に酸素を含む雰囲気に露呈する配線本体8の表面領域に形成されるので、第2バリア層7bを上記のように構成することで、その雰囲気中から酸素が配線本体8へ長時間にわたって侵入するのを確実に防止することができるようになる。したがって、より一層、配線本体8を低抵抗で導電性に優れたたものとすることができる。
【0035】
また、この発明によれば、第2バリア層7b内のマンガンは、当該第2バリア層7b内の厚さ方向で、マンガンの原子濃度が極大となる位置を中心にして対称的に分布させ、第2バリア層7bの酸素も、当該第2バリア層7b内の厚さ方向で、酸素の原子濃度が極大となる位置を中心にして対称的に分布させているので、不純物の第2バリア層7bの表面7sから配線本体8側への侵入、及び配線本体8から第2バリア層7bの表面7s側への銅の自己拡散による双方向の移動を、均等に抑止することができ、優れたバリア性を有するバリア層を得ることができる。これにより、電気的に低抵抗で導電性に優れる配線本体を備えた銅配線をより一層確実にもたらすことができる。
【0036】
図2はこの発明の銅配線の製造手順および構成を概略的に示す説明図であり、(a)は製造手順の前半を、(b)は製造手順の後半をそれぞれ示している。この発明の銅配線1の製造は、図2(a)に示すように、先ず電気絶縁層3に溝状の開口部4を設け、次に開口部4の内周面に、マンガンを含む銅合金被膜5を形成し、続いて銅合金被膜5が形成された開口部4に銅を埋め込み銅埋め込み層6を形成する。そして、所定条件下で熱処理を施すことにより、銅合金被膜5中のマンガンを電気絶縁層3側、および銅埋め込み層6の外周のうち電気絶縁層3が対向していない開放表面6s側に拡散させ、電気絶縁層3側および銅埋め込み層6の開放表面6s側に、それぞれマンガンを含む酸化物からなるバリア層7(第1バリア層7a,第2バリア層7b)を形成するとともに、そのバリア層7で囲まれた内方を銅からなる配線本体8として銅配線1を形成する(図2(b))。なお、所定条件下での熱処理については、後述する。
【0037】
バリア層7は、例えば層間絶縁膜をなす酸化物層(電気絶縁層)3上に被着させた、銅の自己拡散係数と同等以上の拡散係数を有し、且つ、銅より酸化され易いマンガンを主たる添加元素として含む銅合金被膜5を素材として形成する。主たる添加元素とは、銅合金被膜5に添加されている元素の内で、最大の濃度で含まれている元素である。
【0038】
銅合金被膜5は、添加元素としてマンガンを主体的に含み、それ以外の元素を従属的に含めるようにしてもよい。従属的に含まれる添加元素は、やはり、銅の自己拡散係数と同等以上の拡散係数を有し、且つ、銅より酸化され易い元素であるのが好ましい。従属的に含まれる好ましい元素として、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、錫(Sn)、バリウム(Ba)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)を例示できる。
【0039】
マンガンを主体的に含む銅合金被膜5は、例えば、マンガンと銅との合金(Cu・Mn合金)材料をターゲットとしてスパッタリング法で形成する。例えば、マンガンを原子濃度にして1.0%以上で25.0%以下の濃度範囲で含むCu・Mn合金ターゲットを用いて、高周波スパッタ法に依り、原子濃度にして1.0%以上で25.0%以下のマンガンを含む銅合金被膜5を、例えば層間絶縁膜上に被着する。また、例えばイオンプレーティング法、レーザーアブレーション法などの物理的被着手段、又は原子層堆積(略称:ALD)法などの化学的気相堆積(略称:CVD)手段、又はスピンコート手段に依り銅合金被膜を形成する。
【0040】
銅合金被膜5は、緻密な或いは多孔質(ポーラス)の、例えば炭化酸化珪素(SiOC)、窒化酸化珪素(SiNO)、弗化酸化珪素(SiFO)、二酸化珪素(SiO2)などの珪素(Si)を含んでなる電気絶縁層3の表面(開口部4の内周面)上に被着させる。また、緻密な或いは多孔質(ポーラス)の、例えば水素化シルセスキオキサン(略称:HSQ)やメチルシルセスオキサン(略称:MSQ)(上記のS.M.ジィー著、「半導体デバイス(第2版)−基礎理論とプロセス技術−」、346〜347頁参照)などの有機珪素(Si)化合物からなる電気絶縁層、又は、ポリアリレンなどの有機炭水素化物からなる電気絶縁層3の表面上に被着させる。また、酸化タンタル(Ta25:比誘電率=25)や酸化チタン(TiO2:比誘電率=40)(上記のS.M.ジィー著、「半導体デバイス(第2版)−基礎理論とプロセス技術−」、347頁参照)や酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)などの高誘電率の金属酸化物からなる電気絶縁層3の表面(開口部4の内周面)上に被着させる。
【0041】
電気絶縁層3は、数的に単一の、例えばSiO2絶縁膜から構成してもよいし、異なる材料からなる膜、例えば窒化珪素(Si34)膜、或いは炭窒化珪素(SiCN)膜あるいは炭化珪素(SiC)膜と、SiOC膜等の電気絶縁層とを重層させて構成しても構わない。また、例えば平均開口径を1nm程度とする孔を多数有する多孔質のHSQ層やMSQ層などと、その層の表面上に被着させたタンタル(元素記号:Ta)膜などの酸化に因り形成された酸化タンタル(Ta25)層とから構成しても構わない。
【0042】
銅合金被膜5を加熱処理するのは、銅合金被膜5の内部のマンガンを、電気絶縁層3との接合界面若しくは開放表面6sに向けて拡散させるためである。これより、酸素を含む電気絶縁層3との接合領域及び開放表面6sの近傍の領域に、マンガンを含む酸化物層からなるバリア層7を形成する。バリア層7を形成するための加熱処理は、マンガンがイオン価数を2価または3価とするMnイオン(Mn2+またはMn3+)の形態で、(1)電気絶縁層3と銅合金被膜5との間に発生した電界、或いはまた、(2)銅合金被膜5の開放表面6s近傍に発生した、開放表面6sに吸着した雰囲気中の酸素(酸素イオン)に起因して発生する電界による拡散が支配的となる温度で行うのが望ましい。
【0043】
この発明に係るバリア層7を形成するのに好ましい加熱処理の温度は、150℃以上で450℃以下である。450℃を境として、450℃以上であれば、電界に因る拡散よりも、熱拡散が急激に顕著に起こることとなる。一般的な熱拡散が支配的となる高温での加熱処理では、銅合金被膜中のマンガンの表面側への拡散が助長され、形成されるバリア層の層厚は、加熱処理時間(t)の平方根値(√t)にほぼ比例して増加する。例えば、加熱処理終了後の余熱により、マンガンの熱拡散が更に進行し、余熱を受ける時間の平方根値に比例して所望の厚さを超えるバリア層が不安定に帰結される不都合がある。
【0044】
一方、電界によるマンガンの拡散が支配的となる、450℃以下の温度における加熱処理では、形成されるバリア層7の厚さは加熱処理時間(t)の対数値(log(t))に比例して微増する。このため、縦しんば、加熱処理の終了後に余熱を受けても、形成されるバリア層の厚さは急激には増加しない。従って、配線幅(配線ルール)が狭い、例えば32nm或いはそれ未満の線幅の銅配線についての極薄膜バリア層を形成するに好都合となる。
【0045】
上記の、150℃以上で450℃以下の温度の範囲において、電界作用により、マンガンを、銅埋め込み層6の開放表面6s側に効率的に拡散させるためには、酸素を好適な分圧で含む雰囲気内で加熱処理をするのが好ましい。好ましい酸素分圧とは、銅合金被膜5内での、マンガンの拡散係数(DMn(単位:cm2/s))に対する酸素原子の拡散係数(D0(単位:cm2/s))の比率(=D0/DMn)に、銅合金被膜5に含まれるマンガンの原子濃度(NMn(単位:at.%))を乗じた積値(=NMn×D0/DMn)未満となる銅合金被膜5中の酸素の溶解濃度(N0(単位:at.%))を与える分圧で酸素を含む雰囲気内で銅合金被膜5を加熱する必要がある。銅合金被膜5に含まれるマンガンの原子濃度(NMn)は、例えば一般的な2次イオン質量分析法(略称:SIMS)、エレクトロンプローブマイクロアナリシス(略称:EPMA)法、オージェ電子分光法(略称:AES)などにより定量できる。
【0046】
加熱処理温度を絶対温度T(単位:K)、気体定数をR(R=8.3J/mol・K)とすれば、マンガンの拡散係数(DMn)は、
Mn=1.02exp(−200000/RT) ・・・(式1)
で与えられる。
【0047】
また、酸素(O)の拡散係数(DO)は、
0 =1.20×10-2exp(−67000/RT)・・・(式2)
で与えられる。
【0048】
また、銅合金被膜中の酸素の溶解度(Nsol.)(単位:at.%)と雰囲気の酸素分圧(PO2)(単位:atm)とは、次の(式3)に示される関係にある。
sol.=26(PO21/2exp(−126000/RT)・・・(式3)
【0049】
従って、(式1)及び(式2)を利用して比率値D0/DMnを求め、その比率値にNMnを乗じた値をNsol.として(式3)に代入すれば、酸素分圧 (PO2)が求められる。この発明の云う好ましい酸素分圧とは、(式3)から算出される値未満の酸素分圧であり、350℃におけるその値は1.0パスカル(圧力単位:Pa)である。特に好ましい酸素分圧は、0.0001〜0.1Paである。酸素以外の構成雰囲気は真空でも良いし、Cuと反応しない不活性ガスでも良い。
【0050】
Mn×D0/DMnを超えるNsol.を与える様な酸素分圧の雰囲気中で銅合金被膜を加熱処理すると、銅合金被膜中へ多量の酸素が溶解できることとなり、しいては、電気抵抗の小さな配線本体8を形成するのに支障を来たす。また、開放表面等の銅合金被膜5の表面(バリア層7bの表面7s)は、平坦ではなく粗雑な面となり、開放表面などの精緻なパッシベーションなどに不都合を生ずる。
【0051】
上記の雰囲気を構成するCuと反応しない不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム(元素記号:He)、ネオン(元素記号:Ne)、アルゴン(元素記号:Ar)、クリプトン(元素記号:Kr)、キセノン(元素記号:Xe)などがある。中でも、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、またはアルゴン(Ar)とするのが望ましい。特に、銅合金被膜中に取り込み難い、分子の大きなアルゴン(Ar)とするのがさらに好ましい。
【0052】
上記の所定条件下での熱処理により、バリア層7が形成される。このバリア層7は、電気絶縁層3側に接する第1バリア層7aと、銅埋め込み層6の開放表面6s側に形成された第2バリア層7b(配線本体8の上面層)とからなる。
【0053】
次に図3を用いて第1バリア層7aと第2バリア層7bの組成、厚み、マンガン濃度について説明する。
【0054】
第1バリア層7aは、その形成時に電気絶縁層3に接しているため、組成は、(Cu,Mn,Si)Oxとなり、第2バリア層7bは、その形成時に電気絶縁層3に接していないため、組成は、(Cu,Mn)Oxとなり、Siを含まない層となる。Siを含まないことによって、誘電率が高く電気的絶縁性に優れた酸化物層を形成することができるため、配線表面が露出している場合と比較して、耐酸化性に優れるともに、配線間の電気的リークを大幅に低減することができる。
【0055】
また、第1バリア層7aの厚みを、0.5〜5nmとし、一方の第2バリア層7bの厚みは、5〜15nmとし、かつ同一の銅配線1では、常に第2バリア層7bの方が、第1バリア層7aより厚みが厚く形成されるようにした。このように、第2バリア層7bが第1バリア層7aより厚くなるのは、第1バリア層は固相−固相間の反応によるため反応速度が遅く、第2バリア層は固相−気相間の反応によるため反応速度が速いためである。そして、第2バリア層7bの厚みが、5〜15nmと厚く形成されるため、(1)熱処理時に、酸素を含む雰囲気中から酸素が配線本体8へ長時間にわたって侵入するのを確実に防止することができるようになる。(2)また、第2バリア層7bの表面7sから配線本体8側への不純物の侵入、及び配線本体8から第2バリア層7bの表面7s側への銅の自己拡散による双方向の移動を、均等に抑止する効果をより一層向上させることができる。したがって、より優れたバリア性を持たせることができ、より一層、配線本体8を低抵抗で導電性に優れたたものとすることができる。なお、第2バリア層7bが5nm以下であると、上記の優れたバリア性を確保できなくなり、また15nm以上であると、配線本体側の層厚を確保できなくなり、配線本体の抵抗が増加してしまう。
【0056】
また、第2バリア層7bにおけるマンガン濃度の極大値Ibと、第1バリア層7aにおけるマンガン濃度の極大値Iaとを比較すると、その比率Ib/Iaは、1.3〜1.6の範囲内の値をとるのが最適であることが分かった。常にIb>Iaとなる要因は、第2バリア層が固相−気相反応であるため酸素ポテンシャルが大きく、マンガンが表面に拡散するための駆動力が大きいことによる。逆に、第1バリア層は固相−固相反応であるため酸素ポテンシャルが小さく、マンガンが表面に拡散するための駆動力が小さい。この結果、より多くのマンガン原子が表面に拡散してマンガン濃度の高い第2バリア層を形成するからである。そして、第2バリア層7bのマンガン濃度の極大値Ibが、第1バリア層7aのマンガン濃度の極大値Iaより大きく形成されるため、開放表面におけるCu配線の酸化を有効に防止するという効果を奏することができる。
【0057】
(実施例)
この第1の実施形態の実施例を、マンガンを含む銅合金被膜を素材として形成したバリア層を備えたダマシン構造型の銅配線を例にして、図4および図5を用いて詳細に説明する。
【0058】
図4(a)に模式的に示す様に、層間絶縁層30である厚さ150nmのSiO2 層に形成された配線溝(開口部)40の内部の周壁に、Cu・Mn合金膜(銅合金被膜)50を被着させた。配線溝40の横幅(開口幅)は50nmとした。Cu・Mn合金膜50は、高純度Cuからなるターゲットと高純度Mnからなるターゲットを、一般的な高周波スパッタリング装置内で同時にスパッタして形成した。得られたCu・Mn合金膜50中のMnの原子濃度は4原子%と電子エネルギー損失分光(略称EELS)法で定量された。Cu・Mn合金膜50の厚さは30nmとした。
【0059】
次に、スパッタ法で形成した上記のCu・Mn合金膜50をシード(seed)層(種層)として、電解メッキ法に依りCu・Mn合金膜50の表面にCuをメッキして、配線溝40の内部にCu埋め込み層60を形成した。
【0060】
次に、層間絶縁層30の配線溝40の内部に、上記のCu・Mn合金膜50とCu埋め込み層60を備えた構造体を、圧力を1気圧(全圧0.1メガパスカル(MPa))とするアルゴン(Ar)雰囲気中(酸素体積濃度は、0.01vol.ppm(酸素分圧にして0.001Pa)以下である。)で、温度350℃で30分間に亘り加熱処理を施した。
【0061】
酸素体積濃度の0.01vol.ppmは次のように決定した。350℃での、Mnの拡散係数(DMn)は、上記の(式1)から1.7×10-17cm2-1と計算され、また、酸素の拡散係数(DO)は(式2)から4.1×10-8cm2-1と各々、算出された。また、Cu・Mn合金膜50中のMnの原子濃度(NMn)は、4.0×10-2であることから、上記の(式3)から、酸素の溶解度(No)は、1.7×10-11と算出された。従って、雰囲気の酸素分圧は、値1.7×10-11以下の酸素の溶解度を与える10-6気圧(0.1Pa)、即ち、全圧が大気圧のときの酸素濃度として、1vol.ppmを十分に下回る0.01vol.ppmとした。
【0062】
この加熱処理により、Cu・Mn合金膜50から、その合金膜50に含まれるMnを層間絶縁層(SiO2層)30との界面50aに向けて、また、加熱処理雰囲気に開放されているCu埋め込み層60の開放表面60sに向けて熱拡散させ、層間絶縁層(SiO2層)30とCu埋め込み層60(配線本体80)との中間の領域に、図4(b)に示す如く、Mn系酸化物からなる第1バリア層70aを形成した。また、Cu埋め込み層60の開放表面60sの近傍の領域に、配線本体80に接してMn系酸化物からなる第2バリア層70bを形成した。第1バリア層70aの厚さは5nmであり、第2バリア層70bの厚さは7nmであった。また、その第1および第2バリア層70a,70bからなるバリア層70で囲まれた内方は、銅からなる配線本体80として形成された。このようにして、ダマシン構造型の銅配線100を形成した。
【0063】
上記の加熱処理を施した後、図4(b)で縦方向(深さ方向)に、第2バリア層70bの表面70sから、第2バリア層70b、配線本体80、第1バリア層70a、および層間絶縁層30を一般的な電子エネルギー損失分光法(略称EELS)で調査し、元素の濃度分布を測定した。その各層でのMn、Cu及び酸素(O)の濃度分布測定結果を図5に示す。
【0064】
図5は第2バリア層、配線本体、第1バリア層および層間絶縁層でのMn、Cu及び酸素の濃度分布測定結果を示す図である。図5の縦軸は原子濃度を、横軸は、第2バリア層70bの表面70sからの距離(深さ)をそれぞれ示している。図5に示すように、第1バリア層70a、第2バリア層70bの内部には、Mnが局在的に蓄積されていた。Mnの原子濃度は、各バリア層70a,70bの中央部で極大となる様に正規分布曲線状に分布し、Mnの原子濃度が極大となる位置を中心にして対称的に分布している。
【0065】
第2バリア層70bの内部でのMnの原子濃度の極大値は、第1バリア層70aの内部でのMnの原子濃度の極大値より大きく、約1.45倍大きい値を示している。
【0066】
また、第2バリア層70bの内部では、酸素(O)原子は、Mnの原子が極大となる領域で、同じく原子濃度を極大とする様に分布をしていた。また、酸素原子は、第2バリア層70bの中央部で原子濃度を極大としつつ、その層の中央より距離を隔てるとともに、濃度を減ずる様に分布していた。即ち、酸素原子は、Mnの原子と同様に、第2バリア層70bの中央を中心として対称的に正規分布曲線状の濃度分布を呈していた。
【0067】
上記の様に好ましい分圧で酸素を含む雰囲気中で加熱処理を実施したため、Cu埋め込み層60の開放表面60s(第2バリア層70bの表面70s)は、粗雑とはならず平坦な表面であった。また、Cu配線の本体をなす配線本体80の電気抵抗率は、上記の加熱処理後で、純Cuと略同等の1.9μΩ・cmであり(純粋なCuバルク(bulk)の電気抵抗率は1.7μΩ・cmである。)、この発明により、各種の電子装置を構成するに好都合となる、純粋なCuバルク材料に近い低抵抗のCu配線がもたらされることが明らかとなった。
【0068】
次に、この発明の第2の実施形態を図6および図7を用いて説明する。
【0069】
図6はこの発明の第2の実施形態に係る銅配線の構成を示す図であり、(a)は銅配線の断面を模式的に示す図、(b)はバリア層中のマンガンの原子濃度を示す図である。この発明の銅配線11は、図6(a)に示すように、基体19と電気絶縁層13との間に銅からなる配線本体18を備えてなり、配線本体18はバリア層17で囲まれている。バリア層17は、第1バリア層17aと第2バリア層17bとからなり、第1バリア層17aは、配線本体18の外周181のうち電気絶縁層13に対向している第1外周18aと、当該電気絶縁層13との間に形成された層である。また、第2バリア層17bは、配線本体18の外周181のうち電気絶縁層3に対向していない側面側の第2外周18bに接して形成された層である。
【0070】
そして、この第1バリア層17aおよび第2バリア層17bはそれぞれ、マンガンを含む酸化物層からなるとともに、各バリア層17a,17b内の厚さ方向でMnの原子濃度が極大となる位置を有している。
【0071】
このように、この発明の第2の実施形態では、第1および第2バリア層17a,17bはそれぞれ、第1の実施形態のバリア層と同様に、マンガンを含む酸化物層からなるとともに、各バリア層内の厚さ方向でマンガンの原子濃度が極大となる位置を有するようにしたので、第1および第2バリア層17a,17bでは、マンガンが確実に電気絶縁性の酸化物に転化される。このバリア層により、配線本体をなす銅の電気絶縁層への原子拡散、また電気絶縁膜を構成する酸素などの原子の配線本体への原子拡散を確実に防止することができる。したがって、原子拡散に対するバリア性に優れ、且つ電気絶縁性にも優れるバリア層を備えた配線本体をもたらすことができ、しいては、電気抵抗の小さな導電性に優れる配線本体を備えた銅配線を提供することができる。
【0072】
また、この発明の第2の実施形態では、第1の実施形態のバリア層と同様に、第2バリア層17bは、そのマンガンの原子濃度が極大となる位置近傍で酸素の原子濃度も極大となるようにする。また、第2バリア層17b内のマンガンの極大の原子濃度を、第1バリア層17a内に存在するマンガンの原子濃度より大とする。第2バリア層17bは、バリア層形成時に酸素を含む雰囲気に露呈する配線本体18の側面領域に形成されるので、第2バリア層17bを上記のように構成することで、その雰囲気中から酸素が配線本体18へ長時間にわたって侵入するのを確実に防止することができるようになる。したがって、より一層、配線本体8を低抵抗で導電性に優れたたものとすることができる。
【0073】
また、この発明の第2の実施形態では、第1の実施形態のバリア層と同様に、第2バリア層17b内のマンガンは、当該第2バリア層17b内の厚さ方向で、マンガンの原子濃度が極大となる位置を中心にして対称的に分布させ、第2バリア層17bの酸素も、当該第2バリア層17b内の厚さ方向で、酸素の原子濃度が極大となる位置を中心にして対称的に分布させるようにした。したがって、不純物の第2バリア層17bの表面17sから配線本体18側への侵入、及び配線本体18から第2バリア層17bの表面17s側への銅の自己拡散による双方向の移動を、均等に抑止することができ、優れたバリア性を有するバリア層を得ることができる。これにより、電気的に低抵抗で導電性に優れる配線本体を備えた銅配線をより一層確実にもたらすことができる。
【0074】
図7はこの発明の第2の実施形態に係る銅配線の製造手順を概略的に示す説明図であり、(a)は製造手順の第1段階を、(b)は製造手順の第2段階を、(c)は製造手順の第3段階を、(d)は製造手順の第4段階をそれぞれ示している。この第2の実施形態に係る銅配線11の製造は、図7(a)に示すように、先ず電気絶縁性の基体19の表面に、マンガン(Mn)を含む銅・マンガン合金からなる銅合金被膜15を被着させ、次にその銅合金被膜15の上側の表面(上面)を電気絶縁層13で被覆した後(図7(b))、フォトリソグラフィー加工などを施して、銅配線を敷設する領域に限って、銅合金被膜15とその上面の電気絶縁層13を残存させ(図7(c)参照)、続いて第1の実施形態と同じ条件下で熱処理を施す。この熱処理時に雰囲気に直接露呈されるのは、銅合金被膜15の両側の側面の開放表面15sとなる。所定条件下で熱処理を施すことにより、銅合金被膜15中のマンガンを電気絶縁層3側、および銅合金被膜15の2つの開放表面15s側に拡散させ、電気絶縁層13側および銅合金被膜15の開放表面15s側に、それぞれマンガンを含む酸化物からなるバリア層17(第1バリア層17a,第2バリア層17b)を形成するとともに、そのバリア層17と基体19で囲まれた内方を銅からなる配線本体18として銅配線11を形成する(図7(d))。このCu配線の本体をなす配線本体18の電気抵抗率は、上記の第1の実施形態の場合と同様に、純Cuと略同等の1.9μΩ・cmであり(純粋なCuバルクの電気抵抗率は1.7μΩ・cmである。)、各種の電子装置を構成するに好都合となる、純粋なCuバルク材料に近い低抵抗のCu配線がもたらされた。
【0075】
この第2の実施形態における第1バリア層17aと第2バリア層17bの組成、厚み、マンガン濃度を計測し比較した結果、上記の第1の実施形態における結果(図3)と同様の結果が得られた。
【0076】
なお、上記の説明では、基体19と配線本体18との間にバリア層が形成されないものとしたが、基体19に、珪酸ガラスなどのSiを含むものを用いた場合は、この基体19と配線本体18との間にも、第1バリア層17aが形成されるようになる。
【0077】
この発明の第1の実施形態の銅配線1、また第2の実施形態の銅配線11では、従来配線本体が露出していた面をもバリア層で囲むようにしたので、銅配線1の表面、銅配線11の側面に更に絶縁膜などを被着させたとしても、絶縁膜から銅配線1,11側へ向けての絶縁膜の構成物質や不純物の拡散、また銅配線1,11をなす銅の絶縁膜へむけての拡散の双方向の拡散を抑止できる。このため、電気抵抗の小さな銅配線を複数備えた、例えば低消費電力の液晶表示装置(LCD)、平面表示装置(略称:FDP)、有機エレクトロルミネッセンス(略称:EL)装置、無機EL装置などの半導体装置を構成することができる。
【0078】
また、この発明の第1の実施形態の銅配線1、また第2の実施形態の銅配線11では、バリア層7,70がそれぞれ、マンガンを含む酸化物層からなるとともに、各バリア層7,70内の厚さ方向でマンガンの原子濃度が極大となる位置を有し、また第2バリア層7b,70bは、そのマンガンの原子濃度が極大となる位置近傍で酸素の原子濃度も極大となる等の特徴を備えるようにしたので、エレクトロマイグレーション耐性に優れると共に、配線抵抗の小さな半導体装置、例えば配線幅を32ナノメータ(単位:nm)或いはそれ未満の幅とするナノ配線を必要とする大規模システムLSIなどの装置を提供することができる。また、配線抵抗が小さいが故に、例えば電気信号の伝達に於けるRC時定数が小さく、RC遅延の小さな大型LCDなどの表示装置を構成することができる。また、ダマシン構造型の微小配線を必要とするシリコン(Si)LSIなどの半導体装置を好都合に構成することができる。
【0079】
さらに、この発明の第1の実施形態の銅配線1、また第2の実施形態の銅配線11では、従来配線本体が露出していた面をも第2バリア層7b(70b),17bで覆い、その第2バリア層7b(70b),17bは、表面の平滑性、平坦性を損なうことなく形成できるため、例えば多重のタンデム構造型の銅配線を備えたシリコン大規模システムLSIなどの半導体装置を構成することができる。
【符号の説明】
【0080】
1,11 銅配線
3 電気絶縁層
4 開口部
5 銅合金被膜
6 銅埋め込み層
6s 銅埋め込み層の開放表面
7,70 バリア層
7a,70a 第1バリア層
7b,70b 第2バリア層
7s,70s 第2バリア層の表面
8 配線本体
81 配線本体の外周
8a 第1外周
8b 第2外周
11 銅配線
13 電気絶縁層
15 銅合金被膜
15s 銅合金被膜の側面の開放表面
17 バリア層
17a 第1バリア層
17b 第2バリア層
17s 第2バリア層の表面
18 配線本体
18a 第1外周
18b 第2外周
181 配線本体の外周
19 基体
30 層間絶縁層
40 配線溝(開口部)
50 Cu・Mn合金膜(銅合金被膜)
50a Cu・Mn合金膜と層間絶縁層との界面
60 Cu埋め込み層
60s Cu埋め込み層の開放表面
70 バリア層
70a 第1バリア層
70b 第2バリア層
70s 第2バリア層の表面
80 配線本体
100 銅配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁層に銅からなる配線本体を備えてなる銅配線において、
上記配線本体の外周のうち電気絶縁層に対向している第1の外周と、当該電気絶縁層との間に形成された第1のバリア層と、
上記配線本体の外周のうち電気絶縁層に対向していない第2の外周に接して形成された第2のバリア層と、を備え、
上記第1および第2のバリア層はそれぞれ、マンガンを含む酸化物層からなるとともに、各バリア層内の厚さ方向でマンガンの原子濃度が極大となる位置を有する、
ことを特徴とする銅配線。
【請求項2】
上記第2のバリア層は、マンガンの原子濃度が極大となる位置近傍で酸素の原子濃度も極大となる、請求項1に記載の銅配線。
【請求項3】
上記第2のバリア層内のマンガンの極大の原子濃度は、第1のバリア層内に存在するマンガンの原子濃度より大である、請求項1または2に記載の銅配線。
【請求項4】
上記第2のバリア層内のマンガンは、当該第2のバリア層内の厚さ方向で、マンガンの原子濃度が極大となる位置を中心にして対称的に分布している、請求項1乃至3の何れか1項に記載の銅配線。
【請求項5】
上記第2のバリア層の酸素は、当該第2のバリア層内の厚さ方向で、酸素の原子濃度が極大となる位置を中心にして対称的に分布している、請求項2乃至4の何れか1項に記載の銅配線。
【請求項6】
電気絶縁層に銅からなる配線本体を備えてなる銅配線を形成する銅配線の形成方法において、
上記電気絶縁層に溝状の開口部を設ける工程と、
上記開口部の内周面に、原子濃度が1.0原子%以上で25原子%以下のマンガンを含む銅合金被膜を形成する工程と、
上記銅合金被膜が形成された開口部に銅を埋め込み銅埋め込み層を形成する工程と、
所定条件下での熱処理により、銅合金被膜中のマンガンを電気絶縁層側および銅埋め込み層の外周のうち電気絶縁層が対向していない開放表面側に拡散させ、電気絶縁層側および銅埋め込み層の開放表面側にそれぞれマンガンを含む酸化物からなるバリア層を形成するとともに、そのバリア層で囲まれた内方を銅からなる配線本体として銅配線を形成する工程と、を有し、
上記所定条件下での熱処理は、
温度が150℃以上で450℃以下、雰囲気ガスの酸素分圧がNMn×DO/DMn(ここでNMn:銅合金被膜に含まれるマンガンの原子濃度、DO:銅合金被膜内での酸素原子の拡散係数、DMn:銅合金被膜内でのマンガンの拡散係数)で求められる銅合金被膜中の酸素原子の濃度NO未満となるように調整された酸素分圧での熱処理である、
ことを特徴とする銅配線の形成方法。
【請求項7】
電気絶縁層に銅からなる配線本体を備えてなる銅配線を形成する銅配線の形成方法において、
電気絶縁層上に、原子濃度が1.0原子%以上で25原子%以下のマンガンを含む銅合金被膜を形成する工程と、
上記銅合金被膜の所定条件下での熱処理により、銅合金被膜中のマンガンを電気絶縁層側および当該銅合金被膜の電気絶縁層に接していない開放表面側に拡散させ、電気絶縁層側および電気絶縁層に接していない開放表面側にそれぞれマンガンを含む酸化物からなるバリア層を形成するとともに、そのバリア層で囲まれた内方を銅からなる配線本体として銅配線を形成する工程と、を有し、
上記所定条件下での熱処理は、
温度が150℃以上で450℃以下、雰囲気ガスの酸素分圧がNMn×DO/DMn(ここでNMn:銅合金被膜に含まれるマンガンの原子濃度、DO:銅合金被膜内での酸素原子の拡散係数、DMn:銅合金被膜内でのマンガンの拡散係数)で求められた銅合金被膜中の酸素原子の濃度NO未満となるように調整された酸素分圧での熱処理である、
ことを特徴とする銅配線の形成方法。
【請求項8】
電気絶縁層に銅配線を回路配線として備えた半導体装置において、
上記銅配線が請求項1乃至5の何れか1項に記載の銅配線である、
ことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−98300(P2010−98300A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214534(P2009−214534)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(507012870)合同会社先端配線材料研究所 (11)
【Fターム(参考)】