説明

防振装置

【課題】防振装置の重量の増大を招くことなしに、筒体とコア部材との間の本体ゴムへのサージング現象の発生に起因する動的ばね定数のピーク値を有効に低減させ、また、そのピークの発生周波数を調整することで、たとえば、エンジンマウントとして用いた場合に、車両の燃費性の低下を防止しつつ、乗り心地性を向上させ得る防振装置を提供する。
【解決手段】筒体2と、筒体2の中心軸線の一方側に片寄せて該筒体2と同心に配置したコア部材3と、筒体2の内周面をコア部材3に連結する環状の本体ゴム4とを具え、前記本体ゴム4の外表面を、コア部材3側に凸となる円錐台状に形成してなる防振装置1であって、前記環状の本体ゴム4を、該本体ゴム4の周方向で、周方向長さが不均等な複数の仮想領域に区分し、それらの区分域の相互で、本体ゴム4の半径方向の少なくとも一部分の厚みを相違させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筒体と、筒体の中心軸線の一方側に片寄せて該筒体と同心に配置したコア部材と、筒体の内周面をコア部材に連結する環状の本体ゴムとを具え、前記本体ゴムの外表面を、コア部材側に凸となる円錐台状に形成してなる、エンジンマウントとして用いて好適な防振装置に関するものであり、とくには、装置の使用に際し、筒体とコア部材との間に介装した本体ゴムに発生するおそれのある、いわゆるサージング現象を有効に抑制して、防振装置に、常に所期したとおりの防振機能を発揮させる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
振動発生側の部材と振動伝達側の部材とのそれぞれに、いずれも剛性部材としての筒体およびコア部材をそれぞれ取り付けて、それらの剛性部材の間に介装した本体ゴムの弾性変形をもって、所望の防振機能を発揮するこの種の防振装置では、たとえば、前記本体ゴムの剛性部材との接着面を固定端とし、本体ゴム自身をばね質量としたばね―質量系の固有振動数である1000Hz前後の周波数の振動が、振動発生側の部材から入力された場合に、本体ゴムそれ自身が自励振動して振幅が急激に増大し、硬いばね特性が生じる、いわゆるサージング現象が生じることになり、防振装置に、所期したとおりの防振機能を発揮させ得なくなることがあった。
【0003】
このことに対し従来、特許文献1及び2のそれぞれに記載された防振装置では、上記のサージング現象に起因する防振機能の低下を防止するため、「本体ゴム弾性体」に、それの質量を増大させるための「リング部材」ないしは、「独立マス部材」を設けていることとしているが、かかる防振装置では、これらの「リング部材」ないしは「独立マス部材」を設けたことによって、防振装置全体としての質量が増大し、装置の軽量化を図ることが困難となって、とくに、エンジンマウントとして用いられる防振装置では、車両の燃費の低下が余儀なくされるという問題があった。
【0004】
ところで、特許文献3に開示されているような、図7に示す防振装置50においては、環状の本体ゴム51の外表面を、コア部材52側に凸となる円錐台状に形成し、その本体ゴム51の、コア部材52を挟んだ直径方向の対抗域に、内外表面の双方からゴム厚みを減少させる窪み53、54を設け、これによって、本体ゴム51を、装置50への入力振動に対し、互いに異なる周波数領域で、それぞれの質量に応じた動的ばね特性を発揮する、本体ゴム51の周方向の、ゴム厚みの厚い領域A1、A2と、薄い領域A3、A4とに分割して仮想的に観念することができ、このように観念した場合、防振装置50の本体ゴム51全体の、入力周波数の変化に伴う動的ばね定数は、図8のグラフに実線で示すように、ゴム厚みの厚い領域A1、A2及び、薄い領域A3、A4の各々のばね定数を加算したものとなって、図示の防振装置50では、本体ゴムの動的ばね定数の、サージングによるピーク値が、本体ゴムに窪みを設けない防振装置に比して低減されると考えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−267069号公報
【特許文献2】特開2002−227921号公報
【特許文献3】特開2010−106866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、図7に示す防振装置50では、図9に平面図で示すように、本体ゴム51の、ゴム厚みの厚い領域A1、A2及び、薄い領域A3、A4のそれぞれの周方向長さがいずれも等しく、また、ゴム厚みの厚い領域A1及びA2の相互が、本体ゴム51の中心軸線と直交する方向で、コア部材52を挟んだ直径方向の対抗域に位置することから、装置への入力振動に対し、図8に示すように、ゴム厚みの厚い領域A1とA2、薄い領域A3とA4がそれぞれ、同様の周波数幅で、同様の動的ばね特性を発揮することに起因して、それらのばね定数を足し合わせて得られる、本体ゴム51全体の動的ばね定数のピーク値を、たとえば、エンジンマウントに要求される車両の乗り心地性を十分に向上させるほどには大きく低減することができなかった。
【0007】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決するためになされたものであり、それの目的とするところは、防振装置の重量の増大を招くことなしに、筒体とコア部材との間の本体ゴムへのサージング現象の発生に起因する動的ばね定数のピーク値を有効に低減させ、また、そのピークの発生周波数を調整することで、たとえば、エンジンマウントとして用いた場合に、車両の燃費性の低下を防止しつつ、乗り心地性を向上させ得る防振装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の防振装置は、筒体と、筒体の中心軸線の一方側に片寄せて該筒体と同心に配置したコア部材と、筒体の内周面をコア部材に連結する環状の本体ゴムとを具え、前記本体ゴムの外表面を、コア部材側に凸となる円錐台状に形成してなる防振装置であって、前記環状の本体ゴムを、該本体ゴムの周方向で、周方向長さが不均等な複数の仮想領域に区分し、それらの区分域の相互で、本体ゴムの半径方向の少なくとも一部分の厚みを相違させてなるものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明の防振装置によれば、環状の本体ゴムを、該本体ゴムの周方向で、周方向長さが不均等な複数の仮想領域に区分し、それらの区分域の相互で、本体ゴムの半径方向の少なくとも一部分の厚みを相違させたことにより、装置の使用に際する入力振動に対し、周方向長さが不均等で、かつ、半径方向の少なくとも一部分のゴム厚みが相互に相違する前記複数の区分域のそれぞれが、ばね力及び質量の相違に基き、互いに異なる周波数幅で、異なる動的ばね特性を発揮することになって、各区分域の動的ばね定数のピークを、広い周波数領域にわたって分散させることができるので、それらの動的ばね定数を加算してなる、本体ゴム全体の動的ばね定数のピーク値を、大幅に低減させることができる。
【0010】
このことに加えて、それぞれの区分域の周方向長さ及び厚みを適宜選択することにで、区分域のそれぞれの動的ばね定数のピークを、より広い周波数領域にわたって分散させることにより、それらを足し合わせて得られる、本体ゴム全体の動的ばね定数の、ピーク値の発生周波数を、入力振動の、たとえば1000Hz程度の周波数よりも高周波数域もしくは低周波数域に大きくシフトさせることができる。
そして、これらの結果として、本体ゴム自身の自励振動に起因して生じるサージング現象が、装置の防振機能に及ぼす影響を十分に軽減できるので、たとえば、エンジンマウントとして用いた場合には、車両の乗り心地性を有効に向上させることができる。
【0011】
しかもここでは、本体ゴムに、従来技術のような「リング部材」等を設けることを要せず、たとえば、本体ゴムの外表面や内表面への、窪みの形成ないしは肉盛り等によって、本体ゴムの周方向で厚みを変化させるに過ぎないので、装置の質量の大幅な増大を招くことなしに、上述した効果をもたらすことができ、車両の燃費の低下等の懸念は生じ得ない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一の実施形態を示す、装置の中心軸線を含む縦断面図である。
【図2】他の実施形態を示す、図1と同様の図である。
【図3】図2に示す装置の平面図である。
【図4】図2の装置の、本体ゴムの各区分域を示す、装置の半部の縦断面図である。
【図5】図4(a)の要部を示す拡大縦断面図である。
【図6】図2の装置の本体ゴムの、入力振動周波数に対する動的ばね定数を示すグラフである。
【図7】従来の防振装置を示す斜視図である。
【図8】図7の装置の本体ゴムの、入力振動周波数に対する動的ばね定数を示すグラフである。
【図9】図7に示す防振装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照しつつ、この発明の実施の形態について説明する。
図示の防振装置1は、金属材料、プラスチック材料その他の剛性材料からなる筒体2と、筒体2の中心軸線の一方側(図では上方側)に片寄せて筒体2と同心に配置した、これもまた剛性材料からなるコア部材3と、筒体2の内周面をコア部材3に連結する環状の本体ゴム4とを具える。
なおここで、本体ゴム4の外表面は、コア部材3側に凸となる円錐台状に形成する。
【0014】
かかる防振装置1は、筒体2を、いずれも図示しない振動の発生側部材もしくは伝達側部材のいずれか一方に取り付けるとともに、コア部材3を、図では、上端面に形成した雌ねじ部3aで、振動の発生側部材もしくは伝達側部材の他方に取り付けることにより使用に供され、振動の発生側部材からの入力振動を、本体ゴム4の弾性変形をもって吸収するとともに減衰して、入力振動の、伝達側部材への伝達を防止するべく機能する。
【0015】
ところで、この発明は、図2に示すような液封入式防振装置11に適用することもできる。
図2に示す防振装置11は、筒体12と、筒体12の中心軸線の一方側に片寄せて筒体12と同心に配置したコア部材13と、筒体12の内周面をコア部材13に連結する環状の本体ゴム14とを具える点で、図1に示すものと同様であるが、さらに、筒体12の中心軸線の他方側(図では下方側)に、その他方側の開口部を液密に密閉するダイヤフラム15を設けるとともに、筒体12の内部に、通路構成部材16の内周面にメンブラン17を固着してなる仕切壁18を液密に取付けることで、非圧縮性の液体を封入してなる二つの液室19、20を区画形成し、これらの液室19、20の相互を、通路構成部材16の外周側に構成される制限通路21によって連通させてなる。
【0016】
そして、この防振装置11は、上述した装置1と同様にして、図示しない振動の発生側部材及び伝達側部材のそれぞれに取り付けられて、振動の発生側部材からの入力振動を、本体ゴム14の弾性変形による吸収・減衰に加えて、装置内部の液体が、制限通路21を介して二の液室19、20の相互間で流動するときの液柱共振、制限通路21が液体に及ぼす流動抵抗等によって減衰させて、入力振動の、伝達側部材への伝達を防止するべく機能するものである。
【0017】
ところで、この種の防振装置11に、コア部材13及び筒体12のそれぞれに各接着面で固定された本体ゴム14自身をばね質量としたばね―質量系の固有振動周波数に近い、たとえば1000Hz前後の周波数の振動が、振動発生側の部材から入力された場合は、本体ゴム14それ自身が自励振動することに起因する振幅及び動的ばね定数の増大を招く、いわゆるサージング現象が生じるおそれがあるため、これに対処するべく、この発明では、図3に平面図で示すように、環状の本体ゴム14を、その本体ゴム14の周方向で、周方向長さが不均等な複数個、たとえば四個の仮想領域S1〜S4に、図に仮想線で示す如く区分し、それらの区分域S1〜S4の相互で、たとえば、図2に示すような、区分域の内周面の一部分に窪み22を設けること等によって、本体ゴム14の半径方向の少なくとも一部分の厚みを相違させる。
【0018】
より詳細には、この実施形態の装置11では、図4(a)に、装置半部の縦断面図で示すように、本体ゴム14に、窪みや肉盛り部分を形成しない領域とする区分域S1の厚みを基準とし、区分域S2で、図4(b)に示すように、本体ゴム14の内周面に、区分域S2の周方向の全長にわたって、筒体12とコア部材13との間の略中央部分の厚みを、区分域S1の同様の部分の厚みによりも減少させる窪み22を形成する。
【0019】
また、区分域S3では、図4(c)に示すように、本体ゴム14の内周面に、区分域S3の周方向の全長にわたって、筒体12とコア部材13との間でコア部材寄りの部分の厚みを、区分域S1の同様の部分の厚みによりも減少させる窪み23を形成する。
この窪み23の容積は、装置に所望の特性を発揮させるため、たとえば、前述した窪み22の容積の約1/2倍もしくは1/3倍とすることができる他、窪み22の容積の2倍とすることもできる。
なおここで、このような窪み23は、図示は省略するが、コア部材13の表面が液室19に露出する状態となるように形成することも可能である。
【0020】
そして、区分域S4では、図4(d)に示すように、本体ゴム14の内外表面の双方に、それらの内外表面のそれぞれを本体ゴム14の外方に凸とする肉盛り部分24a、24bを設けて、本体ゴム14の厚みを、区分域S1の、半径方向の対応する部分の厚みよりも厚くする。
なおここでは、図示の実施形態を詳説したが、この発明は、この実施形態に限定されるものではなく、図示は省略するが、たとえば、環状の本体ゴムを、周方向長さが不均等な二個または、五個以上の仮想領域に区分するとともに、各区分域の周方向長さを適宜変更して、本体ゴムの外表面に窪みを形成すること等も可能である。
【0021】
ここにおいて、「本体ゴム」は、コア部材13の表面を被覆するゴム部分25及び、筒体12の内周面を被覆するゴム部分26は厚み寸法に含まず、自身の圧縮・剪断変形をもって、装置の軸線方向の入力振動の吸収及び減衰に実質的に寄与する部分をいうものとし、具体的には、図5に、基準厚みを有するものとした区分域S1を拡大して示すように、装置11の縦断面で、筒体12及びコア部材13の相互を連結するゴム部分の内外表面のそれぞれの直線状部分を、図に破線で示す如く、各直線状部分の延在方向に延ばしてなる直線L1、L2と、筒体12の内周面と、コア部材13の表面とのそれぞれによって囲まれる部分を意味する。
【0022】
そして、本体ゴムの「厚み」は、図5に断面図で示す、前記直線L1、L2のそれぞれの、コア部材13の表面との各接点の相互を結ぶ線分の中点C1と、前記直線L1、L2のそれぞれの、筒体12の内周面との各接点の相互を結ぶ線分の中点C2とを通る直線に直交する方向(D)に測った、本体ゴム14の長さをいうものとする。
【0023】
このように、本体ゴム14の仮想的な複数の区分域S1〜S4の相互で、本体ゴム4の半径方向の厚みを相違させることにより、各区分域S1〜S4のばね力及び質量が相互に異なるものとなるため、区分域S1〜S4のそれぞれのピークが、図6のグラフに破線で示すように、互いに異なる周波数幅で、異なる共振ばね特性を、広い周波数領域にわたって分散しつつ発揮することになるので、それらを加算して得られる、本体ゴム14全体の動的ばね定数のピークは、図6に実線で示すように、先述したような従来技術に比して大幅に低減されることになる。
【0024】
しかも、区分域S1〜S4の周方向長さ及び厚みの選択のいかんによっては、区分域S1〜S4のそれぞれの動的ばね定数のピークを、より広い周波数領域にわたって分散させることができ、この場合は、本体ゴム14全体の動的ばね定数のピークの発生周波数を、入力振動の周波数よりも高周波数域もしくは低周波数域に大きくシフトさせることも可能となって、サージング現象を引き起こす、本体ゴム14の自励振動それ自体の発生を有効に防止することができる。
【符号の説明】
【0025】
1、11 防振装置
2、12 筒体
3、13 コア部材
3a、13a 雌ねじ部
4、14 本体ゴム
15 ダイヤフラム
16 通路構成部材
17 メンブラン
18 仕切壁
19、20 液室
21 制限通路
22、23 窪み
24a、24b 肉盛り部分
25、26 被覆ゴム
S1〜S4 区分域
L1、L2 直線
C1、C2 中点
D 本体ゴムの厚み方向



【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体と、筒体の中心軸線の一方側に片寄せて該筒体と同心に配置したコア部材と、筒体の内周面をコア部材に連結する環状の本体ゴムとを具え、前記本体ゴムの外表面を、コア部材側に凸となる円錐台状に形成してなる防振装置であって、
前記環状の本体ゴムを、該本体ゴムの周方向で、周方向長さが不均等な複数の仮想領域に区分し、それらの区分域の相互で、本体ゴムの半径方向の少なくとも一部分の厚みを相違させてなる防振装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−137152(P2012−137152A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290411(P2010−290411)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】