集合導体
【課題】渦電流の発生を抑制すると共に、集合導体における導体占積率を向上させる。
【解決手段】各々、全体横断面形状を分割した一部分の矩形状の横断面を有する複数の導体線3が無撚り状態で一体化した集合導体10であって、各導体線3は、導体素線1と、導体素線1の外周に設けられて導体素線1の電気抵抗値よりも大きい電気抵抗値を有する金属又は金属化合物からなる被覆層2とを備えている。
【解決手段】各々、全体横断面形状を分割した一部分の矩形状の横断面を有する複数の導体線3が無撚り状態で一体化した集合導体10であって、各導体線3は、導体素線1と、導体素線1の外周に設けられて導体素線1の電気抵抗値よりも大きい電気抵抗値を有する金属又は金属化合物からなる被覆層2とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の導体線が一体化して構成された集合導体に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の導体線が束ねられて一体に構成された集合導体として種々のものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、断面円形よりなるエナメル線の複数本を横2列となるように配列撚合わせし、全体の横断面が長方形状の平型撚線となるように構成してなるリッツ線が開示されている。そして、これによれば、巻線における占積率を向上させることができる、と記載されている。
【0004】
特許文献2には、複数本の絶縁素線を束ねた集合線の外側に自己融着層を設けた自己融着集合線として、導体上に絶縁層と自己融着層とを順次形成した自己融着絶縁素線の複数本が自己融着層相互を接着して平行に束ね合わされ、束ね合わさった集合線の外周に熱可塑性の自己融着層が形成されたものが開示されている。そして、これによれば、外側の自己融着層を形成する焼き付け時に絶縁素線のばらけを生じにくく、偏向コイル等の複雑な形状に巻線する際にも絶縁素線の飛び出しや断線がなく、導体断面積が大きく高いコイル占積率を確保できる、と記載されている。
【0005】
特許文献3には、複数本の自己融着性平角エナメル線を集合、転位、撚合わせて得られる撚線の外周に絶縁テープを螺旋巻きしてなる自己融着性転位電線において、自己融着性平角エナメル線が自己潤滑・自己融着性平角エナメル線であるものが開示されている。そして、これによれば、転位電線の製造作業及びコイル巻線作業時には素線同志が優れた相互滑り性を発揮し、しかもコイルの熱融着時には素線相互が強固に熱融着できる、と記載されている。
【特許文献1】特開平2−242531号公報
【特許文献2】特開平9−161547号公報
【特許文献3】特開平11−203948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電気自動車の駆動には、インダクションモーター(誘導モーター)、ブラシ付きDCモーター、ブラシレスDCモーター等がよく利用されている。
【0007】
例えば、上記インダクションモーターは、円筒状に形成されたステータコアと、ステータコアに取り付けられたコイルと、ステータコアの内周壁に一定のギャップをもって回転可能に配置されたローターとを備え、上記コイルに発生する誘導磁界により、上記ローターを回転させて駆動力を得るものである。
【0008】
上記ステータコアは、その内周壁又は外周壁において、周方向に交互に形成された凹条部(スロット)及び凸条部を複数備えている。そして、各スロットには、コイルを構成するエナメル線等の導体線が配置される。
【0009】
図14は、各凸条部130aの間のスロット130bに、円形の横断面を有する導体線103が複数本配置された断面図である。ここで、導体線103は、電流が流れる導体素線101とその周囲を覆う被覆層102とを備えている。そして、図14では、スロット130bに円形の横断面を有する導体線103を配置させているので、各導体線103の間にデッドスペースが形成され、スロット130bの内部における導体線103の充填率が低くなっている。
【0010】
また、近年、ハイブリッド車等の電気自動車用のモーターは、インバータで発生させた高周波の交流によって駆動することが多いので、例えば、図14の場合には、導体線103に流れる電流が表皮効果によって導体素線101の表面付近に集中して交流抵抗が大きくなってしまう。
【0011】
そこで、スロット130bの内部における導体線103の充填率、すなわち、所定面積に占める導体の面積(導体占積率)を高めると共に、表皮効果及び渦電流による交流抵抗を低くするために、スロットの内部に挿入する導体として、例えば、上記特許文献1〜3に記載されたような集合導体を利用することができる。
【0012】
そして、上記のような集合導体では、複数の導体線が束ねられていることにより、表皮電流が分断されると共に、隣接する導体線の間で渦電流が打ち消されるので交流抵抗を低くできる。しかしながら、上記特許文献1〜3の集合導体は、複数の導体線が撚り状態に束ねられて構成されているため、その撚り構造によって、デッドスペースが形成されて導体占積率が低下したり、撚り状態の集合導体自体が局所的なコイルを形成する結果、渦電流が発生することが避けられない。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、渦電流の発生を抑制すると共に、集合導体における導体占積率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明では、各々、全体横断面形状を分割した一部分の形状の横断面を有する複数の導体線を、無撚り状態で一体化した。
【0015】
具体的に本発明に係る集合導体は、各々、全体横断面形状を分割した一部分の形状の横断面を有する複数の導体線が無撚り状態で一体化した集合導体であって、上記各導体線は、導体素線と、該導体素線の外周に設けられて上記導体素線の電気抵抗値よりも大きい電気抵抗値を有する金属又は金属化合物からなる被覆層とを備えていることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、集合導体を構成する各導体線が集合導体の全体横断面形状を分割した一部分の形状の横断面を有していると共に、各導体線を構成する導体素線同士が被覆層を介して束ねられているので、集合導体における導体占積率が向上する。また、集合導体を構成する各導体線が無撚り状態に束ねられているので、集合導体自体が局所的なコイルを形成せず、渦電流の発生が抑制される。したがって、渦電流の発生を抑制すると共に、集合導体における導体占積率を向上させることが可能になる。
【0017】
さらに、各導体線同士の間は、電位差が比較的小さいので、導体素線よりも電気抵抗値が大きい金属により構成された被覆層によって、これら各導体線の導体素線同士の間の絶縁性を必要且つ十分に確保することが可能となる。
【0018】
上記導体線の最外周に結着層を有していてもよい。そのことにより、各導体線同士を確実に結着させることが可能となる。
【0019】
上記導体素線の横断面は、矩形状に形成されていてもよい。
【0020】
上記の構成によれば、導体線を構成する導体素線の横断面が矩形状であるので、導体線の横断面も矩形状になる。そのため、各導体線の側面を重ね合わせることにより、導体線が幅方向及び高さ方向に容易に整列されるので、集合導体における導体占積率を向上させることが可能になる。
【0021】
上記導体素線が銅又は銅合金により形成されると共に、上記被覆層がニッケル又はニッケル合金により形成されていてもよい。また、上記導体素線が銅又は銅合金により形成されると共に、上記被覆層が錫又は錫合金により形成されていてもよい。また、上記導体素線が金属により形成されると共に、上記被覆層が上記導体素線の酸化物により形成されていてもよい。
【0022】
この構成によれば、一般的で安価な材料によって被覆層を構成できる。
【0023】
インバータ駆動されるモーターが用いられる電気自動車では、モーターの高効率化のために、モーターを構成するステータコアのスロットの内部における導体占積率の向上が望まれている。したがって、本発明は、インバータ駆動されるモーターのコイル用として特に有効である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、各々、全体横断面形状を分割した一部分の形状の横断面を有する複数の導体線が無撚り状態に一体化され、各導体線の被覆層が導体素線よりも電気抵抗値が大きい金属又は金属化合物により構成されているため、渦電流の発生を抑制すると共に、集合導体における導体占積率を向上させることができる。さらに、導体素線よりも電気抵抗値が大きい金属又は金属化合物からなる被覆層によって、これら各導体線の導体素線同士の間の絶縁性を必要且つ十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
図1は、本実施形態に係る集合導体10の斜視図である。
【0027】
集合導体10は、図1に示すように、無撚り状態で幅方向(図中横方向)及び高さ方向(図中縦方向)に整列するよう一体化された複数の導体線3により構成されている。集合導体10は、インバータ駆動されるモーターのコイルとして好適に用いられる。
【0028】
導体線3は、矩形状の横断面を有する線状の導体素線1と、その導体素線1を覆うように設けられた被覆層2とを備えている。導体線3(導体素線1)の矩形状の横断面形状は、各々、集合導体10の矩形状の全体横断面形状を分割した一部分の形状になっている。
【0029】
ここで、導体線3(導体素線1)の横断面形状である矩形状とは、図6〜図10に示すような形状である。すなわち、矩形状には、図6に示すような角部が直角である横断面正方形、図7に示すような角部が直角である横断面長方形、図8に示すような角部がRである横断面正方形、図9に示すような角部がR状である横断面長方形、及び図10に示すように、対向する一対の辺が平行であり且つ他方が弧状である形状(横断面トラック状)等が含まれる。
【0030】
上記図6〜図10の各形状は、導体の母線をダイスによる伸線として形成したり、ローラ圧延等の加工成型装置により加工形成することができる。
【0031】
また、図10の横断面トラック状のものは、丸線の母線を一方向から圧延して、加工成型すればよい。
【0032】
そして、各導体線3は、被覆層2を介して互いに結着され、一体化している。被覆層2には、被覆層2自体が結着性を有する材料であったり、被覆層の最外周に結着層を有しているものを適用すればよい。例えば、断面図である図11〜図13に示すような断面構造を有するものが挙げられる。
【0033】
すなわち、図11に示すように、絶縁層5と、その絶縁層5に積層された結着層6とにより、被覆層2を形成してもよい。また、図11に示すように、絶縁層5を一対の結着層6による挟み込んだ形状としてもよい。さらにまた、図13に示すように、結着層6自体によって被覆層2を形成してもよい。
【0034】
導体線3(導体素線1)の横断面形状は、占積率や生産性の観点から、上記矩形状が好ましいが、その他に、三角形、六角形などの多角形であってもよい。また、矩形状の横断面を有する導体素線1は、集合導体10の全体の断面に対して、デッドスペース(導体が存在しない空間)を小さくすることが容易にでき、種々のサイズの集合導体10に適応させることができる。
【0035】
さらに、矩形状の横断面を有する導体素線1において、長辺の長さを短辺の1倍〜1.5倍(好ましくは1倍〜1.2倍)とすることで、m行×n列(例えば、m,nは整数であって、m≧1、n≧2であることが好ましい。1≦m≦4、5≦n≦20であることがさらに好ましい。m<1、n<5であると集合導体としての利点(単線との差異)が小さくなり、4<m、20<nであると無撚り状態で一体化させることが困難になる傾向となる。)の整列構造等(図1では3行6列)に整列させたときに、集合導体10の全体に対する導体素線1の占積率が向上すると共に、導体素線1の表面積を増大させることができるので、ハイブリッド車等の電気自動車に用いられるモーター(高周波の交流が流れる導体線を含む)の小型化及び軽量化を実現させることができる。
【0036】
なお、集合導体10を構成する各導体素線1の横断面形状は、全て同じでなくてもよい。
【0037】
導体素線1のサイズは、例えば、一辺が0.05mm〜2mm(好ましくは0.05mm〜1mm)であり、0.03mmφ〜2.0mmφの丸線に対応するサイズであればよく、この場合、横断面積は、0.0007mm2〜4mm2となる。
【0038】
導体素線1の材質は、例えば銅、アルミニウム、銀、鉄、金又はそれらの合金などを適用できる。
【0039】
被覆層2は、導体素線1よりも電気抵抗値が大きい金属又は金属化合物により構成されている。ここで、電気抵抗値とは、20℃における導体素線1及び被覆層2の電気抵抗値を意味する。
【0040】
例えば、導体素線1が銅又は銅合金である場合、被覆層2にはニッケル又はニッケル合金を適用することで、絶縁性が確保される点で好適である。
【0041】
また、導体素線1が銅又は銅合金である場合、被覆層として、錫又は錫合金を適用することで、集合導体10の端部へのハンダ処理を良好に行うことができる。
【0042】
ニッケル又はニッケル合金、及び錫又は錫合金等は、メッキや蒸着等により、導体素線1の外周に形成することが可能である。
【0043】
また、被覆層2として、金属化合物を適用する場合、例えば、導体素線1の酸化物を被覆層として適用が可能である。すなわち、導体素線1が銅又は銅化合物である場合には酸化銅膜が被覆層2となり、導体素線1がアルミニウム又はアルミニウム合金である場合には酸化アルミニウム膜等が被覆層2となる。これらの酸化膜は、導体素線1を酸化雰囲気に連続的に通過させることにより形成できる。
【0044】
その他、酸化膜以外には、硫化膜及び窒化膜等を被覆層2に適用することが可能であり、これらの被覆層2は、蒸着や化学処理等により形成することができる。
【0045】
被覆層2の層厚(膜厚)は、例えば、0.01〜10μm程度に形成することが好ましいが、被覆層2の形成方法や種類に応じて異なる。
【0046】
上記被覆層2は、公知の絶縁層(ディッピングや電着により形成される絶縁層)よりも薄く形成できるので、集合導体10における導体素線1が占める割合を大きくできる点で好ましい。
【0047】
また、導体線3の最外層には、隣接する導体線3同士を結着させる結着層を設けることが好ましい。そのことにより、各導体線3同士を結着層を介して一体化させることができる。
【0048】
結着材の材質としては、融着材として、ポリビニルブチラール系、ポリアミド系、エポキシ系及びポリエステル系等の熱融着性を有する樹脂や、アルコール可溶に変性されたポリアミド系等のアルコール融着性を有する樹脂が挙げられ、接着剤として、EVA系、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、クロロプレン系、シアノアクリレート系、シリコーン系、ニトリル系、PVC系及び酢酸ビニル系の樹脂が挙げられる。なお、結着材は、上記のような樹脂によって構成されているので、各導体素線1同士の間の絶縁性を向上させることもできる。
【0049】
なお、結着材の層厚は、0.5μm〜3μmである。また、結着材は、集合導体10において各導体線3を固定できれば、導体線3の最外周に均一に形成されていなくてもよく、不均一に結着材の存在する箇所や存在しない箇所があってもよいが、集合導体10を加工(曲げや捻り等)しても各導体線3がばらけないという観点から、導体線3の最外周全面に結着材を形成することが好ましい。
【0050】
また、集合導体10の最外層に耐圧性が必要な場合には、集合導体10の表面に、ポリイミド系、アラミド系、ポリエステル系及びナイロン系等の絶縁性を有するテープを巻装したり、ポリアミドイミド系、ポリエステルイミド系、ポリエステル系、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系、ポリイミド系及びポリビニルホルマール系等の樹脂をディップ塗装してもよい。
【0051】
上記構成の集合導体10は、図2に示すように、モーターを構成するステータコア30の各スロット30bの内部に複数層(例えば、4層)に整列して配置される。これによれば、通常の円形横断面を有する導体線103が複数本配置された場合(図14参照)のように、スロットの内部においてデッドスペースが形成されることを抑制できる。
【0052】
ここで、ステータコア30は、全体として円筒状に形成され、その内周壁又は外周壁において、周方向に交互に形成された凸条部30a及び凹条部(スロット30b)を複数備えている。なお、図2では、曲面状のステータコア30を平面状に置き換えて模式的に図示しているが、スロット30bは、例えば、底部分の幅が4mm程度であり、開口部分の幅が6mm程度であり、深さが30mm程度である。
【0053】
次に、上記構成の集合導体10の製造装置及び製造方法について一例を挙げて説明する。ここで、集合導体10は、図3の上面図、及び図4の側面図に示す集合導体製造装置50を用いて製造される。
【0054】
この集合導体製造装置50には、複数の巻き出しロール20と、第1ガイドロール21と、第1ダイス22aと、結着処理室23と、第2ダイス22bと、第2ガイドロール24と、巻き取りロール25とが一列に連なるように設けられている。
【0055】
各巻き出しロール20には、ニッケルメッキ膜等の被覆層2が導体素線1に被覆して構成された導体線3が、それぞれ巻き付けられている。導体線3の表面には予め結着材が設けられている。
【0056】
第1ガイドロール21は、各巻き出しロール20から巻き出される導体線10を第1ダイス22aに案内するように構成されている。
【0057】
第1ダイス22aは、図3のV−V線断面図である図5に示すように、断面矩形状の筒体により構成され、各第1ガイドロール21から供給される複数の導体線3の配置を矯正して、幅方向及び高さ方向に整列させるようになっている。
【0058】
結着処理室23は、整列させた導体線3同士を互いに結着させるためのものである。ここで、結着材に熱融着性を有する融着材を用いる場合の結着処理室23は、整列させた複数の導体線3を加熱するヒーターを備えている。また、結着材にアルコール融着性を有する融着材を用いる場合の結着処理室23は、整列させた複数の導体線3にアルコールを塗布するコーターを備えている。さらに、結着材に接着剤を用いる場合の結着処理室23は、整列させた複数の導体線3に接着剤を塗布するコーターと、塗布された接着剤を乾燥(硬化)させるヒーターとを備えている。
【0059】
第2ダイス22bは、第1ダイス22aと同様に、複数の導体線3を幅方向及び高さ方向に整列状態に矯正するための矯正治具である。すなわち、複数の導体線3は、上記第1ダイス22a、結着処理室23及び第2ダイス22bによって、互いに結着されて1本の集合導体10に形成される。
【0060】
第2ガイドロール24は、第2ダイス22bから供給される集合導体10を巻き取りロール25に案内するように構成されている。そして、巻き取りロール25は、第2ガイドロール24により案内された集合導体10を巻き取るようになっている。
【0061】
以下に、結着材として熱融着性を有する融着材を用いた場合の集合導体10の製造方法について説明する。
【0062】
まず、矩形状の横断面を有する導体素線1の表面に、例えばニッケルの金属メッキを施すことにより、表面に被覆層2を備えた導体線3を形成する。
【0063】
続いて、導体線3の表面に、エポキシ系ワニスをディップ塗装することにより、表面に結着材を設ける。このとき、結着材が塗布された導体線3を複数の巻き出しロール20にそれぞれ巻き取る。
【0064】
さらに、各巻き出しロール20を集合導体製造装置50にセットして、各巻き出しロール20から導体線3を巻き出し、第1ガイドロール21を経由させて、図5に示すように、複数の導体線3を第1ダイス22a及び第2ダイス22bの内部に整列状態に配置させる。
【0065】
次いで、結着処理室23を作動させ、整列状態に配置された各導体線3を加熱する。このとき、隣接する導体線3同士が相互に融着一体化して、集合導体10が得られる。
【0066】
最後に、第2ガイドロール24を経由させて、集合導体10を巻き取りロール25に巻き取る。
【0067】
以上のようにして、集合導体10を製造することができる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態の集合導体10によれば、集合導体10を構成する各導体線3が集合導体10の矩形状の全体横断面形状を隙間なく分割した一部分の形状、すなわち、矩形状の横断面を有しており、各導体線3の側面同士が結着材を介して密に結着されているので、集合導体10における導体占積率を向上させることができる。そのことに加えて、集合導体10を構成する各導体線3が無撚り状態に束ねられているので、集合導体10自体が局所的なコイルを形成しないため、渦電流の発生を抑制することができる。したがって、本実施形態の集合導体10によれば、渦電流の発生を抑制すると共に、集合導体10における導体占積率を向上させることができる。
【0069】
さらに、集合導体10は、複数の導体線3が無撚り状態で束ねられて構成されているので、集合導体10における導体素線1の表面積を増大させて表皮電流を増加させることができる。さらにまた、隣接する導体線3同士の間で渦電流が互いに打ち消し合うため、交流抵抗を低くでき、電流損失を小さくすることができる。したがって、上記集合導体10をモータに適用すると、そのモーター効率を高めることができる。
【0070】
加えて、集合導体10では、メッキや蒸着等により、被覆層2を薄く形成することができるので、集合導体10及び各導体線3における導体占積率が向上し、モーター効率を高める点でさらに好ましい。
【0071】
さらに、集合導体10は、各導体線3同士が結着材によって固定されているので、曲げ等の変形によっても、各導体線3を整列した状態で保持することができる。そして、集合導体10は、単線の導体線から直接に成形するよりも、容易に成形できいるので、種々の形状のコイルに適応させることができる。
【0072】
さらに、隣接する導体素線1同士の間の電位差は比較的小さいため、被覆層2を、例えば銅からなる導体素線1よりも電気抵抗値が大きいニッケル等の金属により構成することによって、各導体素線1同士の間の絶縁性を必要且つ十分に確保することができる。また、比較的高温の使用条件にも耐え得る点で好ましい。
【0073】
さらに、集合導体10は、各導体線3が樹脂により構成された結着材によって結着されているので、溶剤処理や加熱等によって結着状態を解除できる。また、集合導体10は、矩形状の横断面を有する平角線であるため、ハンドリングが容易である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、本発明は、集合導体における導体占積率を向上させることができるので、インバータ駆動されるモーターのコイル用の導体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施形態の集合導体を示す斜視図である。
【図2】ステータコアのスロットの内部に集合導体を配置させた状態を示す断面図である。
【図3】集合導体を製造する集合導体製造装置の上面図である。
【図4】集合導体を製造する集合導体製造装置の側面図である。
【図5】図4中のV−V線に沿った第1ダイスの断面図である。
【図6】導体線の矩形状の横断面を拡大して示す断面図である。
【図7】導体線の矩形状の横断面を拡大して示す断面図である。
【図8】導体線の矩形状の横断面を拡大して示す断面図である。
【図9】導体線の矩形状の横断面を拡大して示す断面図である。
【図10】導体線の矩形状の横断面を拡大して示す断面図である。
【図11】被覆層の断面構造を拡大して示す断面図である。
【図12】被覆層の断面構造を拡大して示す断面図である。
【図13】被覆層の断面構造を拡大して示す断面図である。
【図14】ステータコアのスロットの内部に円形の横断面を有する導体線を配置させた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1 導体素線
2 被覆層
3 導体線
5 絶縁層
6 結着層
10 集合導体
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の導体線が一体化して構成された集合導体に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の導体線が束ねられて一体に構成された集合導体として種々のものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、断面円形よりなるエナメル線の複数本を横2列となるように配列撚合わせし、全体の横断面が長方形状の平型撚線となるように構成してなるリッツ線が開示されている。そして、これによれば、巻線における占積率を向上させることができる、と記載されている。
【0004】
特許文献2には、複数本の絶縁素線を束ねた集合線の外側に自己融着層を設けた自己融着集合線として、導体上に絶縁層と自己融着層とを順次形成した自己融着絶縁素線の複数本が自己融着層相互を接着して平行に束ね合わされ、束ね合わさった集合線の外周に熱可塑性の自己融着層が形成されたものが開示されている。そして、これによれば、外側の自己融着層を形成する焼き付け時に絶縁素線のばらけを生じにくく、偏向コイル等の複雑な形状に巻線する際にも絶縁素線の飛び出しや断線がなく、導体断面積が大きく高いコイル占積率を確保できる、と記載されている。
【0005】
特許文献3には、複数本の自己融着性平角エナメル線を集合、転位、撚合わせて得られる撚線の外周に絶縁テープを螺旋巻きしてなる自己融着性転位電線において、自己融着性平角エナメル線が自己潤滑・自己融着性平角エナメル線であるものが開示されている。そして、これによれば、転位電線の製造作業及びコイル巻線作業時には素線同志が優れた相互滑り性を発揮し、しかもコイルの熱融着時には素線相互が強固に熱融着できる、と記載されている。
【特許文献1】特開平2−242531号公報
【特許文献2】特開平9−161547号公報
【特許文献3】特開平11−203948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電気自動車の駆動には、インダクションモーター(誘導モーター)、ブラシ付きDCモーター、ブラシレスDCモーター等がよく利用されている。
【0007】
例えば、上記インダクションモーターは、円筒状に形成されたステータコアと、ステータコアに取り付けられたコイルと、ステータコアの内周壁に一定のギャップをもって回転可能に配置されたローターとを備え、上記コイルに発生する誘導磁界により、上記ローターを回転させて駆動力を得るものである。
【0008】
上記ステータコアは、その内周壁又は外周壁において、周方向に交互に形成された凹条部(スロット)及び凸条部を複数備えている。そして、各スロットには、コイルを構成するエナメル線等の導体線が配置される。
【0009】
図14は、各凸条部130aの間のスロット130bに、円形の横断面を有する導体線103が複数本配置された断面図である。ここで、導体線103は、電流が流れる導体素線101とその周囲を覆う被覆層102とを備えている。そして、図14では、スロット130bに円形の横断面を有する導体線103を配置させているので、各導体線103の間にデッドスペースが形成され、スロット130bの内部における導体線103の充填率が低くなっている。
【0010】
また、近年、ハイブリッド車等の電気自動車用のモーターは、インバータで発生させた高周波の交流によって駆動することが多いので、例えば、図14の場合には、導体線103に流れる電流が表皮効果によって導体素線101の表面付近に集中して交流抵抗が大きくなってしまう。
【0011】
そこで、スロット130bの内部における導体線103の充填率、すなわち、所定面積に占める導体の面積(導体占積率)を高めると共に、表皮効果及び渦電流による交流抵抗を低くするために、スロットの内部に挿入する導体として、例えば、上記特許文献1〜3に記載されたような集合導体を利用することができる。
【0012】
そして、上記のような集合導体では、複数の導体線が束ねられていることにより、表皮電流が分断されると共に、隣接する導体線の間で渦電流が打ち消されるので交流抵抗を低くできる。しかしながら、上記特許文献1〜3の集合導体は、複数の導体線が撚り状態に束ねられて構成されているため、その撚り構造によって、デッドスペースが形成されて導体占積率が低下したり、撚り状態の集合導体自体が局所的なコイルを形成する結果、渦電流が発生することが避けられない。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、渦電流の発生を抑制すると共に、集合導体における導体占積率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明では、各々、全体横断面形状を分割した一部分の形状の横断面を有する複数の導体線を、無撚り状態で一体化した。
【0015】
具体的に本発明に係る集合導体は、各々、全体横断面形状を分割した一部分の形状の横断面を有する複数の導体線が無撚り状態で一体化した集合導体であって、上記各導体線は、導体素線と、該導体素線の外周に設けられて上記導体素線の電気抵抗値よりも大きい電気抵抗値を有する金属又は金属化合物からなる被覆層とを備えていることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、集合導体を構成する各導体線が集合導体の全体横断面形状を分割した一部分の形状の横断面を有していると共に、各導体線を構成する導体素線同士が被覆層を介して束ねられているので、集合導体における導体占積率が向上する。また、集合導体を構成する各導体線が無撚り状態に束ねられているので、集合導体自体が局所的なコイルを形成せず、渦電流の発生が抑制される。したがって、渦電流の発生を抑制すると共に、集合導体における導体占積率を向上させることが可能になる。
【0017】
さらに、各導体線同士の間は、電位差が比較的小さいので、導体素線よりも電気抵抗値が大きい金属により構成された被覆層によって、これら各導体線の導体素線同士の間の絶縁性を必要且つ十分に確保することが可能となる。
【0018】
上記導体線の最外周に結着層を有していてもよい。そのことにより、各導体線同士を確実に結着させることが可能となる。
【0019】
上記導体素線の横断面は、矩形状に形成されていてもよい。
【0020】
上記の構成によれば、導体線を構成する導体素線の横断面が矩形状であるので、導体線の横断面も矩形状になる。そのため、各導体線の側面を重ね合わせることにより、導体線が幅方向及び高さ方向に容易に整列されるので、集合導体における導体占積率を向上させることが可能になる。
【0021】
上記導体素線が銅又は銅合金により形成されると共に、上記被覆層がニッケル又はニッケル合金により形成されていてもよい。また、上記導体素線が銅又は銅合金により形成されると共に、上記被覆層が錫又は錫合金により形成されていてもよい。また、上記導体素線が金属により形成されると共に、上記被覆層が上記導体素線の酸化物により形成されていてもよい。
【0022】
この構成によれば、一般的で安価な材料によって被覆層を構成できる。
【0023】
インバータ駆動されるモーターが用いられる電気自動車では、モーターの高効率化のために、モーターを構成するステータコアのスロットの内部における導体占積率の向上が望まれている。したがって、本発明は、インバータ駆動されるモーターのコイル用として特に有効である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、各々、全体横断面形状を分割した一部分の形状の横断面を有する複数の導体線が無撚り状態に一体化され、各導体線の被覆層が導体素線よりも電気抵抗値が大きい金属又は金属化合物により構成されているため、渦電流の発生を抑制すると共に、集合導体における導体占積率を向上させることができる。さらに、導体素線よりも電気抵抗値が大きい金属又は金属化合物からなる被覆層によって、これら各導体線の導体素線同士の間の絶縁性を必要且つ十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
図1は、本実施形態に係る集合導体10の斜視図である。
【0027】
集合導体10は、図1に示すように、無撚り状態で幅方向(図中横方向)及び高さ方向(図中縦方向)に整列するよう一体化された複数の導体線3により構成されている。集合導体10は、インバータ駆動されるモーターのコイルとして好適に用いられる。
【0028】
導体線3は、矩形状の横断面を有する線状の導体素線1と、その導体素線1を覆うように設けられた被覆層2とを備えている。導体線3(導体素線1)の矩形状の横断面形状は、各々、集合導体10の矩形状の全体横断面形状を分割した一部分の形状になっている。
【0029】
ここで、導体線3(導体素線1)の横断面形状である矩形状とは、図6〜図10に示すような形状である。すなわち、矩形状には、図6に示すような角部が直角である横断面正方形、図7に示すような角部が直角である横断面長方形、図8に示すような角部がRである横断面正方形、図9に示すような角部がR状である横断面長方形、及び図10に示すように、対向する一対の辺が平行であり且つ他方が弧状である形状(横断面トラック状)等が含まれる。
【0030】
上記図6〜図10の各形状は、導体の母線をダイスによる伸線として形成したり、ローラ圧延等の加工成型装置により加工形成することができる。
【0031】
また、図10の横断面トラック状のものは、丸線の母線を一方向から圧延して、加工成型すればよい。
【0032】
そして、各導体線3は、被覆層2を介して互いに結着され、一体化している。被覆層2には、被覆層2自体が結着性を有する材料であったり、被覆層の最外周に結着層を有しているものを適用すればよい。例えば、断面図である図11〜図13に示すような断面構造を有するものが挙げられる。
【0033】
すなわち、図11に示すように、絶縁層5と、その絶縁層5に積層された結着層6とにより、被覆層2を形成してもよい。また、図11に示すように、絶縁層5を一対の結着層6による挟み込んだ形状としてもよい。さらにまた、図13に示すように、結着層6自体によって被覆層2を形成してもよい。
【0034】
導体線3(導体素線1)の横断面形状は、占積率や生産性の観点から、上記矩形状が好ましいが、その他に、三角形、六角形などの多角形であってもよい。また、矩形状の横断面を有する導体素線1は、集合導体10の全体の断面に対して、デッドスペース(導体が存在しない空間)を小さくすることが容易にでき、種々のサイズの集合導体10に適応させることができる。
【0035】
さらに、矩形状の横断面を有する導体素線1において、長辺の長さを短辺の1倍〜1.5倍(好ましくは1倍〜1.2倍)とすることで、m行×n列(例えば、m,nは整数であって、m≧1、n≧2であることが好ましい。1≦m≦4、5≦n≦20であることがさらに好ましい。m<1、n<5であると集合導体としての利点(単線との差異)が小さくなり、4<m、20<nであると無撚り状態で一体化させることが困難になる傾向となる。)の整列構造等(図1では3行6列)に整列させたときに、集合導体10の全体に対する導体素線1の占積率が向上すると共に、導体素線1の表面積を増大させることができるので、ハイブリッド車等の電気自動車に用いられるモーター(高周波の交流が流れる導体線を含む)の小型化及び軽量化を実現させることができる。
【0036】
なお、集合導体10を構成する各導体素線1の横断面形状は、全て同じでなくてもよい。
【0037】
導体素線1のサイズは、例えば、一辺が0.05mm〜2mm(好ましくは0.05mm〜1mm)であり、0.03mmφ〜2.0mmφの丸線に対応するサイズであればよく、この場合、横断面積は、0.0007mm2〜4mm2となる。
【0038】
導体素線1の材質は、例えば銅、アルミニウム、銀、鉄、金又はそれらの合金などを適用できる。
【0039】
被覆層2は、導体素線1よりも電気抵抗値が大きい金属又は金属化合物により構成されている。ここで、電気抵抗値とは、20℃における導体素線1及び被覆層2の電気抵抗値を意味する。
【0040】
例えば、導体素線1が銅又は銅合金である場合、被覆層2にはニッケル又はニッケル合金を適用することで、絶縁性が確保される点で好適である。
【0041】
また、導体素線1が銅又は銅合金である場合、被覆層として、錫又は錫合金を適用することで、集合導体10の端部へのハンダ処理を良好に行うことができる。
【0042】
ニッケル又はニッケル合金、及び錫又は錫合金等は、メッキや蒸着等により、導体素線1の外周に形成することが可能である。
【0043】
また、被覆層2として、金属化合物を適用する場合、例えば、導体素線1の酸化物を被覆層として適用が可能である。すなわち、導体素線1が銅又は銅化合物である場合には酸化銅膜が被覆層2となり、導体素線1がアルミニウム又はアルミニウム合金である場合には酸化アルミニウム膜等が被覆層2となる。これらの酸化膜は、導体素線1を酸化雰囲気に連続的に通過させることにより形成できる。
【0044】
その他、酸化膜以外には、硫化膜及び窒化膜等を被覆層2に適用することが可能であり、これらの被覆層2は、蒸着や化学処理等により形成することができる。
【0045】
被覆層2の層厚(膜厚)は、例えば、0.01〜10μm程度に形成することが好ましいが、被覆層2の形成方法や種類に応じて異なる。
【0046】
上記被覆層2は、公知の絶縁層(ディッピングや電着により形成される絶縁層)よりも薄く形成できるので、集合導体10における導体素線1が占める割合を大きくできる点で好ましい。
【0047】
また、導体線3の最外層には、隣接する導体線3同士を結着させる結着層を設けることが好ましい。そのことにより、各導体線3同士を結着層を介して一体化させることができる。
【0048】
結着材の材質としては、融着材として、ポリビニルブチラール系、ポリアミド系、エポキシ系及びポリエステル系等の熱融着性を有する樹脂や、アルコール可溶に変性されたポリアミド系等のアルコール融着性を有する樹脂が挙げられ、接着剤として、EVA系、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、クロロプレン系、シアノアクリレート系、シリコーン系、ニトリル系、PVC系及び酢酸ビニル系の樹脂が挙げられる。なお、結着材は、上記のような樹脂によって構成されているので、各導体素線1同士の間の絶縁性を向上させることもできる。
【0049】
なお、結着材の層厚は、0.5μm〜3μmである。また、結着材は、集合導体10において各導体線3を固定できれば、導体線3の最外周に均一に形成されていなくてもよく、不均一に結着材の存在する箇所や存在しない箇所があってもよいが、集合導体10を加工(曲げや捻り等)しても各導体線3がばらけないという観点から、導体線3の最外周全面に結着材を形成することが好ましい。
【0050】
また、集合導体10の最外層に耐圧性が必要な場合には、集合導体10の表面に、ポリイミド系、アラミド系、ポリエステル系及びナイロン系等の絶縁性を有するテープを巻装したり、ポリアミドイミド系、ポリエステルイミド系、ポリエステル系、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系、ポリイミド系及びポリビニルホルマール系等の樹脂をディップ塗装してもよい。
【0051】
上記構成の集合導体10は、図2に示すように、モーターを構成するステータコア30の各スロット30bの内部に複数層(例えば、4層)に整列して配置される。これによれば、通常の円形横断面を有する導体線103が複数本配置された場合(図14参照)のように、スロットの内部においてデッドスペースが形成されることを抑制できる。
【0052】
ここで、ステータコア30は、全体として円筒状に形成され、その内周壁又は外周壁において、周方向に交互に形成された凸条部30a及び凹条部(スロット30b)を複数備えている。なお、図2では、曲面状のステータコア30を平面状に置き換えて模式的に図示しているが、スロット30bは、例えば、底部分の幅が4mm程度であり、開口部分の幅が6mm程度であり、深さが30mm程度である。
【0053】
次に、上記構成の集合導体10の製造装置及び製造方法について一例を挙げて説明する。ここで、集合導体10は、図3の上面図、及び図4の側面図に示す集合導体製造装置50を用いて製造される。
【0054】
この集合導体製造装置50には、複数の巻き出しロール20と、第1ガイドロール21と、第1ダイス22aと、結着処理室23と、第2ダイス22bと、第2ガイドロール24と、巻き取りロール25とが一列に連なるように設けられている。
【0055】
各巻き出しロール20には、ニッケルメッキ膜等の被覆層2が導体素線1に被覆して構成された導体線3が、それぞれ巻き付けられている。導体線3の表面には予め結着材が設けられている。
【0056】
第1ガイドロール21は、各巻き出しロール20から巻き出される導体線10を第1ダイス22aに案内するように構成されている。
【0057】
第1ダイス22aは、図3のV−V線断面図である図5に示すように、断面矩形状の筒体により構成され、各第1ガイドロール21から供給される複数の導体線3の配置を矯正して、幅方向及び高さ方向に整列させるようになっている。
【0058】
結着処理室23は、整列させた導体線3同士を互いに結着させるためのものである。ここで、結着材に熱融着性を有する融着材を用いる場合の結着処理室23は、整列させた複数の導体線3を加熱するヒーターを備えている。また、結着材にアルコール融着性を有する融着材を用いる場合の結着処理室23は、整列させた複数の導体線3にアルコールを塗布するコーターを備えている。さらに、結着材に接着剤を用いる場合の結着処理室23は、整列させた複数の導体線3に接着剤を塗布するコーターと、塗布された接着剤を乾燥(硬化)させるヒーターとを備えている。
【0059】
第2ダイス22bは、第1ダイス22aと同様に、複数の導体線3を幅方向及び高さ方向に整列状態に矯正するための矯正治具である。すなわち、複数の導体線3は、上記第1ダイス22a、結着処理室23及び第2ダイス22bによって、互いに結着されて1本の集合導体10に形成される。
【0060】
第2ガイドロール24は、第2ダイス22bから供給される集合導体10を巻き取りロール25に案内するように構成されている。そして、巻き取りロール25は、第2ガイドロール24により案内された集合導体10を巻き取るようになっている。
【0061】
以下に、結着材として熱融着性を有する融着材を用いた場合の集合導体10の製造方法について説明する。
【0062】
まず、矩形状の横断面を有する導体素線1の表面に、例えばニッケルの金属メッキを施すことにより、表面に被覆層2を備えた導体線3を形成する。
【0063】
続いて、導体線3の表面に、エポキシ系ワニスをディップ塗装することにより、表面に結着材を設ける。このとき、結着材が塗布された導体線3を複数の巻き出しロール20にそれぞれ巻き取る。
【0064】
さらに、各巻き出しロール20を集合導体製造装置50にセットして、各巻き出しロール20から導体線3を巻き出し、第1ガイドロール21を経由させて、図5に示すように、複数の導体線3を第1ダイス22a及び第2ダイス22bの内部に整列状態に配置させる。
【0065】
次いで、結着処理室23を作動させ、整列状態に配置された各導体線3を加熱する。このとき、隣接する導体線3同士が相互に融着一体化して、集合導体10が得られる。
【0066】
最後に、第2ガイドロール24を経由させて、集合導体10を巻き取りロール25に巻き取る。
【0067】
以上のようにして、集合導体10を製造することができる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態の集合導体10によれば、集合導体10を構成する各導体線3が集合導体10の矩形状の全体横断面形状を隙間なく分割した一部分の形状、すなわち、矩形状の横断面を有しており、各導体線3の側面同士が結着材を介して密に結着されているので、集合導体10における導体占積率を向上させることができる。そのことに加えて、集合導体10を構成する各導体線3が無撚り状態に束ねられているので、集合導体10自体が局所的なコイルを形成しないため、渦電流の発生を抑制することができる。したがって、本実施形態の集合導体10によれば、渦電流の発生を抑制すると共に、集合導体10における導体占積率を向上させることができる。
【0069】
さらに、集合導体10は、複数の導体線3が無撚り状態で束ねられて構成されているので、集合導体10における導体素線1の表面積を増大させて表皮電流を増加させることができる。さらにまた、隣接する導体線3同士の間で渦電流が互いに打ち消し合うため、交流抵抗を低くでき、電流損失を小さくすることができる。したがって、上記集合導体10をモータに適用すると、そのモーター効率を高めることができる。
【0070】
加えて、集合導体10では、メッキや蒸着等により、被覆層2を薄く形成することができるので、集合導体10及び各導体線3における導体占積率が向上し、モーター効率を高める点でさらに好ましい。
【0071】
さらに、集合導体10は、各導体線3同士が結着材によって固定されているので、曲げ等の変形によっても、各導体線3を整列した状態で保持することができる。そして、集合導体10は、単線の導体線から直接に成形するよりも、容易に成形できいるので、種々の形状のコイルに適応させることができる。
【0072】
さらに、隣接する導体素線1同士の間の電位差は比較的小さいため、被覆層2を、例えば銅からなる導体素線1よりも電気抵抗値が大きいニッケル等の金属により構成することによって、各導体素線1同士の間の絶縁性を必要且つ十分に確保することができる。また、比較的高温の使用条件にも耐え得る点で好ましい。
【0073】
さらに、集合導体10は、各導体線3が樹脂により構成された結着材によって結着されているので、溶剤処理や加熱等によって結着状態を解除できる。また、集合導体10は、矩形状の横断面を有する平角線であるため、ハンドリングが容易である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、本発明は、集合導体における導体占積率を向上させることができるので、インバータ駆動されるモーターのコイル用の導体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施形態の集合導体を示す斜視図である。
【図2】ステータコアのスロットの内部に集合導体を配置させた状態を示す断面図である。
【図3】集合導体を製造する集合導体製造装置の上面図である。
【図4】集合導体を製造する集合導体製造装置の側面図である。
【図5】図4中のV−V線に沿った第1ダイスの断面図である。
【図6】導体線の矩形状の横断面を拡大して示す断面図である。
【図7】導体線の矩形状の横断面を拡大して示す断面図である。
【図8】導体線の矩形状の横断面を拡大して示す断面図である。
【図9】導体線の矩形状の横断面を拡大して示す断面図である。
【図10】導体線の矩形状の横断面を拡大して示す断面図である。
【図11】被覆層の断面構造を拡大して示す断面図である。
【図12】被覆層の断面構造を拡大して示す断面図である。
【図13】被覆層の断面構造を拡大して示す断面図である。
【図14】ステータコアのスロットの内部に円形の横断面を有する導体線を配置させた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1 導体素線
2 被覆層
3 導体線
5 絶縁層
6 結着層
10 集合導体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々、全体横断面形状を分割した一部分の形状の横断面を有する複数の導体線が無撚り状態で一体化した集合導体であって、
上記各導体線は、導体素線と、該導体素線の外周に設けられて上記導体素線の電気抵抗値よりも大きい電気抵抗値を有する金属又は金属化合物からなる被覆層とを備えていることを特徴とする集合導体。
【請求項2】
請求項1に記載された集合導体において、
上記導体線の最外周に結着層を有していることを特徴とする集合導体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された集合導体において、
上記導体素線の横断面は、矩形状に形成されていることを特徴とする集合導体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1つに記載された集合導体において、
上記導体素線が銅又は銅合金により形成されると共に、上記被覆層がニッケル又はニッケル合金により形成されていることを特徴とする集合導体。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1つに記載された集合導体において、
上記導体素線が銅又は銅合金により形成されると共に、上記被覆層が錫又は錫合金により形成されていることを特徴とする集合導体。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか1つに記載された集合導体において、
上記導体素線が金属により形成されると共に、上記被覆層が上記導体素線の酸化物により形成されていることを特徴とする集合導体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1つに記載された集合導体において、
インバータ駆動されるモーターのコイル用であることを特徴とする集合導体。
【請求項1】
各々、全体横断面形状を分割した一部分の形状の横断面を有する複数の導体線が無撚り状態で一体化した集合導体であって、
上記各導体線は、導体素線と、該導体素線の外周に設けられて上記導体素線の電気抵抗値よりも大きい電気抵抗値を有する金属又は金属化合物からなる被覆層とを備えていることを特徴とする集合導体。
【請求項2】
請求項1に記載された集合導体において、
上記導体線の最外周に結着層を有していることを特徴とする集合導体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された集合導体において、
上記導体素線の横断面は、矩形状に形成されていることを特徴とする集合導体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1つに記載された集合導体において、
上記導体素線が銅又は銅合金により形成されると共に、上記被覆層がニッケル又はニッケル合金により形成されていることを特徴とする集合導体。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1つに記載された集合導体において、
上記導体素線が銅又は銅合金により形成されると共に、上記被覆層が錫又は錫合金により形成されていることを特徴とする集合導体。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか1つに記載された集合導体において、
上記導体素線が金属により形成されると共に、上記被覆層が上記導体素線の酸化物により形成されていることを特徴とする集合導体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1つに記載された集合導体において、
インバータ駆動されるモーターのコイル用であることを特徴とする集合導体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−227266(P2007−227266A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49240(P2006−49240)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】
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