説明

電動パワーステアリング装置

【課題】 減速歯車機構における動力伝達効率を向上させて耐久寿命に優れた電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】 金属製の駆動歯車と、金属製芯管の外周に、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体に設けてなる従動歯車とからなる減速歯車機構を有し、前記駆動歯車を支持する玉軸受の内輪転動溝の曲率半径の玉直径に対する割合が50.5%以上56.5%以下で、外輪転動溝の曲率半径の玉直径に対する割合が52.5%以上59.0%以下であり、かつ、前記玉軸受に、40℃における動粘度が12〜55mm/sである基油に、増ちょう剤として金属石けんを配合したグリース組成物が封入されている電動パワーステアリング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置に関し、特に金属製の駆動歯車と、金属製芯管の外周に、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体に形成した従動歯車を備え、前記駆動歯車を支持する玉軸受にグリース組成物を封入してなる電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に組み込まれる電動パワーステアリング装置は、例えば図1及び図2に示すように構成される。図示されるように、中空のステアリングコラム50にステアリングシャフト70が挿通され、ハウジング120に収納された転がり軸受90、91により回転自在に支承されている。ステアリングシャフト70は中空軸であり、トーションバー80が収容されている。また、出力軸60側において、ステアリングシャフト70の外周面にウォームホイール11が設けてあり、このウォームホイール11にウォーム12が噛合してある。これらウォームホイール11とウォーム12とで構成される減速歯車機構は、電動モータに連結し、ハウジング120に収納される。ここで、ウォーム12は電動モータ100の回転軸に連結しており、駆動歯車に相当し、一方ウォームホイール11は従動歯車に相当する。
【0003】
また、ウォーム12は、一対の玉軸受等の転がり軸受110で支持されて電動モータ100と連結しており、ハウジング120の一対の転がり軸受110の間の空間には、通常、ウォーム12とウォームホイール11との両ギア歯間の潤滑のためにグリースが充填されている。更に、転がり軸受110に予圧をかけるとともに、タイヤ側からの微小なキックバック入力が入ってきたときに、ウォーム12を軸方向に動かして電動モータ100が回転しないようにし、ハンドル側にキックバックのみの情報を伝えるために、転がり軸受110のウォーム側にゴム製のダンパー130を取り付けている。
【0004】
上記減速歯車機構では、ウォームホイール11とウォーム12の両方を金属製にすると、ハンドル操作時に歯打ち音や振動音等の不快音が発生するという不具合を生じていた。そこで、図3に示すように、ウォーム12を金属製として、ウォームホイール11に、金属製の芯管1の外周に、樹脂製で外周面にギア歯10を形成してなる樹脂部3を接着剤8を用いて一体化させたものを使用して騒音対策を行っている。
【0005】
上記樹脂部3には、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のベース樹脂に、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を配合した材料の他、強化材を含有しないMC(モノマーキャスト)ナイロン、ポリアミド6、ポリアミド66等が使用されている。中でも、寸法安定性やコストを考慮して、強化材を含有しないMCナイロン、ガラス繊維を含有したポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46等が主流となっている。
【0006】
しかし、近年、電動パワーステアリング装置では、大型車への適用、あるいは車内の居住空間確保を目的とした装置小型化に対応するために、減速歯車機構20のウォーム12とウォームホイール11との接触面圧の増大が避けられなくなってきている。このような背景から従来では、減速歯車機構における伝達動力の摩擦損失を最小限に抑えるために、ギア諸元やギア潤滑用のグリース組成物に対して種々の試みがなされており、本出願人も先に、樹脂の摩耗を抑えることを目的として、ポリオレフィンワックスを配合したグリース組成物を提案している(特許文献1参照)。しかし、これらの改良だけでは十分な効果が得られなくなりつつある。
【特許文献1】特開平9−194867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、ウォームを支持する転がり軸受の軸受諸元及び封入グリース組成物に着眼し、減速歯車機構における動力伝達効率を向上させて耐久寿命に優れた電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は下記に示す伝導パワーステアリング装置を提供する。
(1)電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置であって、
前記減速歯車機構が、金属製の駆動歯車と、金属製芯管の外周に、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体に設けてなる従動歯車とからなり、
前記駆動歯車を支持する玉軸受の内輪転動溝の曲率半径の玉直径に対する割合が50.5%以上56.5%以下で、外輪転動溝の曲率半径の玉直径に対する割合が52.5%以上59.0%以下であり、かつ、
前記玉軸受に、40℃における動粘度が12〜55mm/sである基油に、増ちょう剤として金属石けんを配合したグリース組成物が封入されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
(2)前記グリース組成物において、基油の少なくとも50質量%以上が極性基を有する潤滑油であり、増ちょう剤がリチウム石けんであることを特徴とする上記(1)記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電動パワーステアリング装置は、ウォームを支持する玉軸受に特定のグリース組成物を封入して軸受トルクの低減を図り、更には内外輪転動溝の曲率半径を特定してヘルツの接触楕円を小さくして差動すべりを軽減し、軸受トルクを更に低減させる。そして、これらの結果として減速歯車機構における動力伝達効率が向上し、長寿命の電動パワーステアリング装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0011】
本発明において、電動パワーステアリング装置自体の構成には制限がなく、例えば図1及び図2に示す電動パワーステアリング装置を例示することができる。また、減速歯車機構は、図3に示すように、樹脂部3を備えるウォームホイール11と金属製のウォーム12とから構成される。
【0012】
尚、ウォームホイール11について好ましい実施形態を説明すると、金属製の芯管1と樹脂部3との一体化に使用される接着剤8として例えばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤またはトリアジンチオール化合物を用いることができる。
【0013】
樹脂部3を形成するベースポリマーとしては、吸水性や耐疲労性の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミドMXD6、ポリアミド6I6T、変性ポリアミド6T等が好適に挙げられるが、中でもポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が耐疲労性に優れ好ましい。また、これらポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂と相溶性を有する他の樹脂と混合してもよい。例えば、無水マレイン酸等の酸で変性したポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィンコポリマー、プロピレン−α−オレフィンコポリマー等)が挙げられる。
【0014】
これらポリアミド樹脂、またはポリアミド樹脂と他の樹脂との混合樹脂は、樹脂単独でも一定以上の耐久性を示し、ウォームホイール11の相手材である金属製のウォーム12の摩耗に対して有利に働き、減速ギアとして十分に機能する。しかしながら、より過酷な使用条件で使用されると、ギア歯10が破損や摩耗することも想定されるため、信頼性をより高めるために、強化材を配合することが好ましい。
【0015】
補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等が好ましく、上記に挙げたポリアミド樹脂との接着性を考慮してシランカプッリング剤で表面処理したものが更に好ましい。また、これらの補強材は複数種を組み合わせて使用することができる。衝撃強度を考慮すると、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状物を配合することが好ましく、更にウォ−ム12の損傷を考慮するとウィスカー状物を繊維状物と組み合わせて配合することが好ましい。混合使用する場合の混合比は、繊維状物及びウィスカー状物の種類により異なり、衝撃強度やウォーム12の損傷等を考慮して適宜選択される。これらの補強材は、全体の5〜40重量%、特に10〜30重量%の割合で配合することが好ましい。補強材の配合量が5重量%未満の場合には、機械的強度の改善が少なく好ましくない。補強材の配合量が40重量%を超える場合には、ウォーム12を損傷し易くなり、ウォーム12の摩耗が促進されて耐久性が不足する可能性があり好ましくない。
【0016】
更に、ポリアミド樹脂組成物には、成形時及び使用時の熱による劣化を防止するために、ヨウ化物系熱安定化剤やアミン系酸化防止剤を、それぞれ単独あるいは併用して添加されていてもよい。
【0017】
樹脂部3を形成するには、上記のベース樹脂と補強材、必要に応じて酸化防止剤や熱安定化剤、更には充填材等を、ベース樹脂の溶融温度以上の温度で混練し、得られた溶融混練物を、芯管1を配置した金型に充填して硬化させればよい。そして、切削加工により、樹脂部3の外周面にギア歯10を形成してウォームホイール11が得られる。
【0018】
本発明においては、減速歯車機構20のウォーム12を支持する転がり軸受110として以下に説明する玉軸受を用いる。
【0019】
玉軸受は内輪と外輪との間に複数の玉を転動自在に保持してなるが、本発明では、内輪転動溝を、玉直径に対して50.5%以上56.5%以下の割合の曲率半径で形成するとともに、外輪転動溝を、玉直径に対して52.5%以上59.0%以下の割合の曲率半径で形成する。このように両転動溝を形成することにより、玉の表面と、内・外輪の転動溝との接触部での弾性変形量が小さくなり、即ちヘルツの接触楕円が小さくなり、差動すべりを軽減して軸受トルクの低減が図られる。内輪転動溝の曲率半径が玉直径の50.5%未満、もしくは外輪転動溝の曲率半径が玉直径の52.5%未満では、ヘルツの接触楕円が大きすぎて差動すべりが増大し、軸受トルクも過大となる。内輪転動溝の曲率半径が玉直径の56.5%超、もしくは外輪転動溝の曲率半径が玉直径の59.0%超では、ヘルツの接触楕円が小さくなりすぎて接触面圧が増大し、軸受寿命が短くなる。より好ましくは、内輪転動溝の曲率半径は玉直径の51%以上56%以下であり、外輪転動溝の曲率半径は玉直径の53%以上58%以下である。
【0020】
尚、深溝玉軸受の内輪及び外輪は、通常、それぞれ玉直径の52%の曲率半径で転動溝が形成されている。これは、JIS規格の「転がり軸受の動定格荷重及び定格寿命の計算方法 解説」(JIS B 1518−1992)の解説「表2 軌道溝の半径及び減少係数」において、単列深溝玉軸受の動定格荷重の計算に、断面形状の曲率半径としてR52%が示されていることによるもので、本出願人による軸受カタログにおいても動定格荷重及び静定格荷重等を内輪軌道及び外輪軌道の各断面形状の曲率半径として転動体直径の52%を用いて計算している。このように、内輪転動溝及び外輪転動溝はともに、玉直径の52%の曲率半径で形成するのが一般的であり、本発明における内輪転動溝及び外輪転動溝は特異な断面形状となっている。
【0021】
また、上記玉軸受には潤滑のためにグリース組成物が封入されるが、本発明では、40℃における動粘度が12〜55mm/sである基油に、増ちょう剤として金属石けんを配合したグリース組成物が封入される。このようなグリース組成物を用いることにより、軸受トルクを更に軽減でき、減速歯車機構における動力伝達効率を増大させることができるようになる。
【0022】
基油の動粘度が12mm/s(40℃)未満であると、油膜形成能力に劣り、軸受寿命が低下する。また、基油の動粘度が55mm/s(40℃)を越えると、基油の粘性抵抗に由来して軸受トルクが増大する。軸受トルクの軽減のためには、基油の動粘度は14〜30mm/sがより好ましく、14〜26mm/sが最適である。
【0023】
また、増ちょう剤の金属石けんは油性効果を有するため、摺動面に吸着して抵抗を低減し、それにより軸受トルクも低減する。金属石けんとしては、リチウム、カルシウム、バリウム等の金属石けん、リチウム、カルシウム、バリウム等の複合石けんを好適に使用できる。中でも、リチウム石けんは上記の効果が高く、好ましい。リチウム石けんとしては、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムあるいはステアリン酸リチウムが挙げられる。
【0024】
尚、基油の種類は、金属石けんとの相性が良いことから、エステル油やアルキルジフェニルエーテル油等のように分子中に極性基を有する潤滑油が好ましい。このような極性潤滑油は、合成炭化水素油や鉱油等の無極性潤滑油に比して、同一の混和ちょう度にグリースを増ちょうした場合、軸受回転中の離油を少なく抑えることができる。無極性潤滑油と金属石けんとを組み合わせたグリース組成物は、軸受回転中の離油が顕著となり、グリース潤滑における所謂チャンネリングが実現できなくなり、軸受の動トルクが増大してしまう。これは、離油が多すぎると、軸受内でグリース組成物の一部が離油分により軟化し、流動性が良くなり過ぎて離油した基油と、軟化したグリース組成物とが絶えず転動溝に流入する、所謂チャ−ニングが起こるためである。また、このグリースの軟化は、漏洩が同大して軸受耐久性にも悪影響を及ぼす。
【0025】
このように、基油は極性潤滑油が好ましいが、目的に応じて無極性潤滑油を混合することもできる。その場合、上記の効果を維持するために、極性潤滑油を基油全量の50質量%以上とすることが好ましい。
【0026】
上記グリース組成物の混和ちょう度は、220〜300とすることが好ましい。混和ちょう度が220未満では、グリースが硬すぎて軸受の起動トルクが過大となる。これに対し、混和ちょう度が300を越えると、グリースが軟らかすぎて漏洩が多くなり、軸受寿命が短くなる。このような混和ちょう度となるように、増ちょう剤である金属石けんの配合量を調整する。
【0027】
また、上記グリース組成物には、必要に応じて、各種の添加剤を添加してもよい。何れも公知のもので構わず、例えば、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛等の酸化防止剤、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤、脂肪酸、動植物油等の油性向上剤、ベンゾトリアゾールの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレン等の粘度指数向上剤等を単独または2種以上組み合わせて添加することができる。これらの添加量には制限がないが、グリース全量の10質量%以下が適当である。
【実施例】
【0028】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
【0029】
(試験−1:基油動粘度の検証)
クロスローレット加工を施し、脱脂した外径55mm、幅18mmのS45C製の芯管を、スプルー及びディスクゲートを装着した金型に配置し、ガラス繊維を30質量%含有するポリアミド6を射出成形して外径65mm、幅18mmのウォームホイールブランク材とし、次いで樹脂部の外周を切削加工してギア歯を形成して図3に示すウォームホイールを作製した。また、S45C材製のウォームを用意して減速ギア機構を構成し、両ギア歯にグリースを満遍なく塗布した。
【0030】
一方、それぞれ動粘度の異なるジエステル油と鉱油とを1:1(質量比)の割合で混合し、動粘度の異なる基油を用意し、これにリチウム石けんを配合して試験グリースを調製した。尚、試験グリースの混和ちょう度は何れも250に統一した。
【0031】
そして、内輪転動溝が玉直径の54.0%の曲率半径で形成され、外輪転動溝が玉直径の55.0%の曲率半径で形成された6201ZZ玉軸受に、上記で調製した試験グリースを軸受空間の35容積%となるように封入して試験軸受とし、この試験軸受で上記ウォームを支持して試験機(電動パワーステアリング装置相当物)に組み込み、雰囲気温度80℃で、回転速度1000min−1にて1秒毎に正逆交互に回転させた。500時間経過、ウォームから軸受を取り外し、NSKアンデロンメータを用いてアンデロン値を測定し、電動パワーステアリング装置に組み込む前のアンデロン値からの上昇値を求めた。
【0032】
また、上記と同様の試験機を用いて300min−1で回転したときの減速ギア機構の入力トルクと出力トルクとを測定し、動力伝達効率を算出した。
【0033】
このようにして得られた基油動粘度と、アンデロン値上昇量または動力伝達効率との関係をグラフ化して図4に示すが、軸受耐久性及び動力伝達効率の両方を満足する基油動粘度は、12〜55mm/s(40℃)であると判断できる。
【0034】
(試験−2:基油及び増ちょう剤の種類の検証)
表1に示す配合にて試験軸受を調製して上記と同様の試験を行い、アンデロン値の上昇量と動力伝達効率とを求めた。結果を表1に併記するが、実施例2と比較例3との比較から、増ちょう剤としてジウレアよりも金属石けんを用いる方が、動力伝達効率において有利であることが判る。また、実施例1、実施例2、実施例3と、比較例1との比較から、無極性基油よりも極性基油を用いる方が、動力伝達効率の向上に有利であることが判る。 更に、実施例4、実施例5と、比較例4との比較から、極性基油と無極性基油とを混合して使用する場合、極性基油が基油全量の50質量%以上であれば、電力伝達効率及び軸受耐久性に優れることが判る。
【0035】
【表1】

【0036】
(試験−3:内輪転動溝及び外輪転動溝の曲率半径の検証)
呼び番号「6201ZZ」玉軸受を基に、内輪転動溝及び外輪転動溝の曲率半径を種々変えて作製し、上記実施例4の組成のグリースを軸受空間の35容積%封入して試験軸受とし、簡易型のスピンドルに組み込み、雰囲気温度25℃、予圧30N、回転速度1000min−1の条件で軸受動トルクを測定した。また、各試験軸受について、簡易型のスピンドルに組み込み、雰囲気温度100℃、予圧30N、回転速度1000min−1の条件で軸受耐久寿命を測定した。
【0037】
軸受動トルクの測定結果を図5に、外輪転動溝の曲率半径が玉直径の52.5%で、内輪転動溝の曲率半径が玉直径の50.2%である試験軸受の軸受動トルクを1とする相対値にて示す。図示されるように、内輪転動溝の曲率半径が玉直径の50.5%以上、好ましくは51.0%以上で、外輪転動溝の曲率半径が玉直径の52.5%以上であれば、軸受の低トルク化が図られることが判る。これに対し、内輪転動溝の曲率半径が玉直径の50.5%未満、あるいは外輪転動溝の曲率半径が玉直径の52.5%未満であると、ヘルツの接触面積の増大に伴い、差動すべりが増大し、軸受トルクが過大になる。
【0038】
また、軸受耐久寿命の測定結果を図6に、同じく外輪転動溝の曲率半径が玉直径の52.5%で、内輪転動溝の曲率半径が玉直径の50.2%である試験軸受の軸受動トルクを1とする相対値にて示す。図示されるように、十分な軸受耐久寿命を得るには、内輪転動溝の曲率半径が玉直径の50.5〜56.5%、好ましくは51.0〜56.0%で、外輪転動溝の曲率半径が玉直径の52.5〜59%である必要があることが判る。内輪転動溝の曲率半径が玉直径の50.5%未満、あるいは外輪転動溝の曲率半径が玉直径の52.5%未満であると、差動すべりが大きすぎて摩耗が発生し、軸受耐久寿命が低下する。また、内輪転動溝の曲率半径が玉直径の56.5%、あるいは外輪転動溝の曲率半径が玉直径の59.0%未満を越えると、ヘルツの接触面積の縮小から接触面圧が増大し、軸受耐久寿命が低下する。
【0039】
以上の結果から、本発明で使用する玉軸受は、内輪転動溝の曲率半径の玉直径に対する割合が50.5%以上56.5%以下で、外輪転動溝の曲率半径の玉直径に対する割合が52.5%以上59.0%以下である必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】電動パワーステアリング装置の一例を示す一部断面構成図である。
【図2】図1のAA断面図であり、電動モータと減速歯車機構との連結部周辺を示す概略構成図である。
【図3】ウォームホイール及びウォームの一例を示す斜視図である。
【図4】実施例で得られた、基油動粘度と、動力伝達効率またはアンデロン値上昇量との関係を示すグラフである。
【図5】実施例で得られた、内輪転動溝の曲率半径の玉直径に対する割合と、動トルク比との関係を示すグラフである。
【図6】実施例で得られた、内輪転動溝の曲率半径の玉直径に対する割合と、軸受耐久寿命との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
1 芯管
3 樹脂部
8 接着剤
10 ギア歯
11 ウォームホイール
12 ウォーム
13 歯部
14 凹部
15 潤滑剤含有ポリマー
50 ステリングコラム
70 ステアリングシャフト
80 トーションバー
90 軸受
91 軸受
100 電動モータ
110 転がり軸受
120 ハウジング
130 ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置であって、
前記減速歯車機構が、金属製の駆動歯車と、金属製芯管の外周に、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体に設けてなる従動歯車とからなり、
前記駆動歯車を支持する玉軸受の内輪転動溝の曲率半径の玉直径に対する割合が50.5%以上56.5%以下で、外輪転動溝の曲率半径の玉直径に対する割合が52.5%以上59.0%以下であり、かつ、
前記玉軸受に、40℃における動粘度が12〜55mm/sである基油に、増ちょう剤として金属石けんを配合したグリース組成物が封入されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記グリース組成物において、基油の少なくとも50質量%以上が極性基を有する潤滑油であり、増ちょう剤がリチウム石けんであることを特徴とする請求項1記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−44349(P2006−44349A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225282(P2004−225282)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】