電動パワーステアリング装置
【課題】 電動モータ20やモータ駆動回路32の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させる。
【解決手段】 加速度センサ70により検出される加速度Gに基づいて、車両が加速状態となった回数をカウントするとともに、そのカウント値から一定時間以上加速状態とならなかった回数を減算する。この加減算されたカウント値に基づいて、カウント値が大きいほど、電動モータ20の上限電流値を下げる。従って、電動モータ20やモータ駆動回路32が過熱防止温度に到達する前から、電動モータ20の出力制限を徐々に行うことができるため、従来のように操舵アシスト制限の突然の開始により操舵フィーリングが急変してしまうといった不具合を生じない。
【解決手段】 加速度センサ70により検出される加速度Gに基づいて、車両が加速状態となった回数をカウントするとともに、そのカウント値から一定時間以上加速状態とならなかった回数を減算する。この加減算されたカウント値に基づいて、カウント値が大きいほど、電動モータ20の上限電流値を下げる。従って、電動モータ20やモータ駆動回路32が過熱防止温度に到達する前から、電動モータ20の出力制限を徐々に行うことができるため、従来のように操舵アシスト制限の突然の開始により操舵フィーリングが急変してしまうといった不具合を生じない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者による操舵ハンドルの操舵操作をアシストするための電動モータを備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドルの操舵操作に対して操舵アシストトルクを発生する電動モータと、この電動モータの通電を制御する電子制御ユニットとを備える。電子制御ユニットは、主要部がマイクロコンピュータから構成され電動モータの目標通電制御量を演算する演算回路と、この演算回路からの指令信号に応じて電動モータに通電するモータ駆動回路を備える。
【0003】
演算回路は、例えば、操舵トルクセンサにより検出した操舵ハンドルに働く操舵トルクと車速センサにより検出した車速とに基づいて目標アシストトルク値を演算し、この目標アシストトルク値に対応する目標電流値と電流センサにより検出した実際に電動モータに流れる実電流値との偏差に応じて電動モータに印加すべき電圧指令値を演算する。そして、この電圧指令値に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路に出力する。モータ駆動回路は、演算回路からのPWM制御信号にしたがってスイッチング素子をオン/オフして、電圧指令値に応じた電圧を電動モータに印加する。こうして電動モータにより発生した操舵アシストトルクと、運転者により操舵ハンドルに加えられた操舵トルクとに和により転舵輪の向きが変えられる。
【0004】
このような電動パワーステアリング装置においては、電動モータやモータ駆動回路が過熱して損傷してしまうことを防止するために、それらの温度をモニターし、モニター温度が過熱防止用の設定温度を上回る場合には、電動モータに流す電流を制限するようにしている。こうした過熱防止を図る電動パワーステアリング装置としては、例えば、特許文献1等に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−362393
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、温度をモニターして過熱保護を図るシステムの場合、実際にモニター温度が過熱防止温度に達してから電流制限を行うものであるため、操舵アシスト制限が突然開始されてしまい、ハンドル操作が急に重くなってしまう。
【0007】
本発明の目的は、上記問題に対処するためになされたもので、電動モータやモータ駆動回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させることにある。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、ステアリング機構に設けられて操舵アシストトルクを発生する電動モータと、運転者の操舵操作に基づいて前記電動モータに流す目標電流値を算出する目標電流値算出手段と、前記算出された目標電流値にしたがって前記電動モータを駆動制御するモータ駆動制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、
車両の加速度あるいは減速度を表す情報を取得する情報取得手段と、前記取得した情報に基づいて、車両の加速度が基準加速度を超える加速状態となった回数、あるいは、車両の減速度が基準減速度を越える制動状態となった回数をカウントするカウント手段と、前記加速状態となった回数から、基準時間内に一度も前記加速状態とならなかった回数を減算した値、あるいは、前記制動状態となった回数から、基準時間内に一度も前記制動状態とならなかった回数を減算した値を算出する減算手段と、記減算手段により算出された値が大きいほど、前記電動モータの目標電流値の上限値を下げる、あるいは、前記電動モータの目標電流値に乗じる電流制限用係数を小さい値にする電流制限手段とを備えたことにある。
【0009】
本発明においては、目標電流値算出手段が電動モータに流す目標電流値を算出し、モータ駆動制御手段が算出された目標電流値にしたがって電動モータを駆動制御する。例えば、目標電流値算出手段は、ステアリングシャフトに働く操舵トルクを検出し、操舵トルクの増加に伴って増加する目標電流値を算出する。そして、電動モータに流れる電流が目標電流値となるようにモータ駆動制御手段が電動モータを駆動制御する。山岳路を走行しているとき等、大きな操舵トルクが頻繁に働く場合には、電動モータが過負荷になりやすい。電動モータの過負荷時においては、電動モータ自身あるいはモータ駆動回路の発熱が大きくなり、それらを過熱から保護する必要がある。
【0010】
そこで本発明では、情報取得手段とカウント手段と減算手段とを備え、電動モータが過負荷になると思われる走行を加速度あるいは減速度から事前に検知する。情報取得手段は、車両の加速度あるいは減速度を表す情報を取得する。カウント手段は、車両の加速度が基準加速度を超える加速状態となった回数、あるいは、車両の減速度が基準減速度を越える制動状態となった回数をカウントする。例えば、加速度センサの検出値と基準値との比較により加速状態あるいは制動状態を判定して、加速状態あるいは制動状態となった回数をカウントする。また、基準加速度や基準減速度は数値で表されるものに限らず、基準となる加速状態や制動状態を表すものであっても良い。例えば、トラクションコントロールシステムが作動した回数を車両が加速状態となった回数とみなしてカウントしてもよいし、アンチロックブレーキシステムが作動した回数を車両が制動状態となった回数とみなしてカウントするようにしてもよい。尚、カウント手段は、一連の加速状態(あるいは制動状態)を1回の加速状態(あるいは制動状態)としてカウントするものである。
【0011】
そして、減算手段が、加速状態となった回数から基準時間内に一度も加速状態とならなかった回数を減算した値(つまり、加速状態とならなかった連続時間が基準時間を超えるたびに前記加速状態となった回数から1減算した値)、あるいは、制動状態となった回数から基準時間内に一度も制動状態とならなかった回数を減算した値(つまり、減速状態とならなかった連続時間が基準時間を超えるたびに前記減速状態となった回数から1減算した値)を算出する。この減算手段により算出された値は、車両の走行状態を表し、加速状態あるいは制動状態が頻繁に発生するような走行状態ほど大きな値となる。また、こうした走行状態においては、電動モータやモータ駆動回路の発熱も大きくなると推測される。
【0012】
そこで、電流制限手段は、減算手段により算出された値が大きいほど、電動モータの目標電流値の上限値を下げる、あるいは、電動モータの目標電流値に乗じる電流制限用係数を小さい値にする。従って、電動モータやモータ駆動回路が過熱防止温度に到達する前から、電動モータの出力制限を徐々に行うことができるため、従来のように操舵アシスト制限の突然の開始により操舵フィーリングが急変してしまうといった不具合を生じない。この結果、電動モータやモータ駆動回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させるができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成図である。
【図2】第1実施形態としての操舵アシスト制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図3】アシストトルクマップを表すグラフである。
【図4】第1実施形態としての上限電流値算出ルーチンを表すフローチャートである。
【図5】上限電流値マップを表すグラフである。
【図6】上限電流値算出ルーチンの第1変形例を表すフローチャートである。
【図7】上限電流値算出ルーチンの第2変形例を表すフローチャートである。
【図8】第2実施形態としての操舵アシスト制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図9】第2実施形態としての上限電流値算出ルーチンを表すフローチャートである。
【図10】電流制限用係数マップを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置を示す概略図である。
【0015】
この車両の電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドル11の操舵により転舵輪である左右前輪FW1,FWを転舵するステアリング機構10と、ステアリング機構10に設けられ操舵アシストトルクを発生する電動モータ20と、電動モータ20を駆動制御する電子制御ユニット30(以下、アシストECU30と呼ぶ)とを備えている。
【0016】
ステアリング機構10は、操舵ハンドル11に上端を一体回転するように接続したステアリングシャフト12を備え、ステアリングシャフト12の下端にはピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合ってラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には、図示しないタイロッドおよびナックルアームを介して左右前輪FW1,FW2が転舵可能に接続されている。左右前輪FW1,FW2は、ステアリングシャフト12の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に操舵される。
【0017】
ステアリングシャフト12には、操舵トルクセンサ41が設けられる。操舵トルクセンサ41は、操舵ハンドル11の回動操作によってステアリングシャフト12に作用する操舵トルクを検出する。以下、操舵トルクセンサ41により検出されるトルクの値を操舵トルクTと呼ぶ。操舵トルクTは、その符号(正負)によりトルクの働く方向(右方向、左方向)を表し、その絶対値によりトルクの大きさを表す。
【0018】
ラックバー14には、操舵アシスト用の電動モータ20(例えば、ブラシレスモータ)が組み付けられている。電動モータ20の回転軸は、ボールねじ機構21を介してラックバー14に動力伝達可能に接続されていて、その回転により左右前輪FWL,FWRに転舵力を付与して操舵操作をアシストする。ボールねじ機構21は、減速器および回転−直線変換器として機能するもので、電動モータ20の回転を減速するとともに直線運動に変換してラックバー14に伝達する。本実施形態においては、電動モータ20をラックバー14に組み付けるが、これに代えて、電動モータ20の回転を減速器を介してステアリングシャフト12に伝達してステアリングシャフト12を軸線周りに駆動するように構成してもよい。
【0019】
電動モータ20には、回転角センサ42が組み込まれている。回転角センサ42は、電動モータ20の回転子の回転角を検出する。この回転角は、電動モータ20の通電制御に用いられる。
【0020】
アシストECU30は、CPU,ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要部として備えたマイコン部31と、モータ駆動回路32とを備えている。モータ駆動回路32は、例えば、三相インバータ回路にて構成されマイコン部31からのPWM制御信号を入力して、内部のスイッチング素子のデューティ比を制御することにより電動モータ20への通電量を調整する。モータ駆動回路32には、電動モータ20に流れる電流を検出する電流センサ43が設けられる。この電流センサ43により検出される電流値をモータ電流imと呼ぶ。
【0021】
マイコン部31は、図示しない通信インタフェースを介してCAN(Controller Area Network)通信システムと接続されている。CAN通信システムには、スキッドECU50,エンジンECU60等の車両制御装置と、加速度センサ70,車速センサ71,操舵角センサ72,ヨーレートセンサ73等のセンサ類とが接続されている。加速度センサ70は、車両の水平方向の加速度Gを表す加速度信号を出力する。加速度Gは、車両の前方への速度が増加する加速度を正の値で、車両の前方への速度が減少する減速度を負の値で表すことにする。車速センサ71は、車速Vを表す車速信号を出力する。操舵角センサ72は、ステアリングシャフト12に設けられ、操舵ハンドル11の中立位置に対する操舵角θを表す操舵角信号を出力する。ヨーレートセンサ73は、車体のヨーレートγを表すヨーレート信号を出力する。操舵角θおよびヨーレートγは、その絶対値により大きさを表し、符号(正負)により左右方向が識別される。各センサ70〜73は、その検出信号をCAN通信システムに送信する。
【0022】
スキッドECU50は、図示しない車輪速センサ、ブレーキペダルセンサ等のセンサ類とブレーキアクチュエータを接続し、これらセンサの検出信号およびCAN通信システムから送られてくるセンサ検出信号に基づいて、急ブレーキ時の車輪ロックを防止するアンチロックブレーキ制御、急発進,急加速時の駆動輪のスリップを防止するトラクション制御、車両の旋回方向の安定性を確保する挙動安定制御を行う。また、アンチロックブレーキ制御、トラクション制御、挙動安定制御に係る制御状態を表す制御信号をCAN通信システムに出力する。
【0023】
次に、マイコン部31の実施する操舵アシスト制御について説明する。尚、操舵アシスト制御については2つの実施形態を説明するため、最初に説明する操舵アシスト制御を第1実施形態の操舵アシスト制御と呼ぶ。図2は、マイコン部31により実施される操舵アシスト制御ルーチンを表す。操舵アシスト制御ルーチンは、マイコン部31のROM内に制御プログラムとして記憶され、イグニッションスイッチ(図示略)がオンされて初期診断が完了した後に起動し、所定の短い周期で繰り返される。
【0024】
本制御ルーチンが起動すると、マイコン部31は、まず、ステップS11において、車速センサ71によって検出された車速Vと、操舵トルクセンサ41によって検出された操舵トルクTとを読み込む。
【0025】
続いて、ステップS12において、図3に示すアシストトルクマップを参照して、入力した車速Vおよび操舵トルクTに応じて設定される基本アシストトルクTasを計算する。アシストトルクマップは、マイコン部31のROM内に記憶されるもので、操舵トルクTの増加にしたがって基本アシストトルクTasも増加し、しかも、車速Vが低くなるほど大きな値となるように設定される。尚、図3のアシストトルクマップは、右方向の操舵トルクTに対する基本アシストトルクTasの特性を表すが、左方向の特性については方向が反対になるだけで絶対値でみれば同じである。
【0026】
続いて、マイコン部31は、ステップS13において、この基本アシストトルクTasに補償トルクを加算して目標指令トルクT*を計算する。この補償トルクは、操舵角θに比例して大きくなるステアリングシャフト12の基本位置への復帰力と、操舵速度ωに比例して大きくなるステアリングシャフト12の回転に対向する抵抗力に対応した戻しトルクとの和として計算する。この計算に当たっては、CAN通信システムに送信される操舵角情報から操舵角θを取得するとともに、操舵角θを時間で微分することにより操舵速度ωを算出して行う。尚、操舵角θの検出は、回転角センサ42により検出されるモータ回転角から算出するようにしてもよい。
【0027】
次に、マイコン部31は、ステップS14において、目標指令トルクT*に対応した電流値である目標電流値ias*を計算する。目標電流値ias*は、目標指令トルクT*をトルク定数で除算することにより求められる。
【0028】
続いて、マイコン部31は、ステップS15において、電動モータ20に流すことのできる上限値である上限電流値ilimを計算する。上限電流値ilimは、電動モータ20やモータ駆動回路32の過電流保護を図るために設定される。この上限電流値ilimの計算処理については、図4に示すサブルーチンを用いて後述する。
【0029】
続いて、マイコン部31は、ステップS16において、先のステップS14で計算した目標電流値ias*がステップS15で設定した上限電流値ilimよりも大きいか否かを判断する。そして、目標電流値ias*が上限電流値ilimよりも大きい場合には(S16:Yes)、ステップS17において、目標電流値ias*を上限電流値ilimに設定する。一方、目標電流値ias*が上限電流値ilim以下であれば、目標電流値ias*を変更しない。
【0030】
続いて、マイコン部31はステップS18において、電動モータ20に流れるモータ電流imを電流センサ43から読み込む。続いて、ステップS19において、このモータ電流imと先に計算した目標電流値ias*との偏差Δiを計算し、この偏差Δiに基づくPI制御(比例積分制御)により目標指令電圧v*を計算する。尚、目標指令電圧v*の計算に当たっては、3相のモータ電流をd−q座標系の2相電流(d軸電流、q軸電流)に変換し、2相の目標電流値ias*(d軸目標電流値、q軸目標電流値)との偏差を計算する。そして、2相/3相変換により2相の電流偏差に応じた3相の目標指令電圧v*を計算する。
【0031】
そして、マイコン部31は、ステップS20において、目標指令電圧v*に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路32に出力して本制御ルーチンを一旦終了する。本制御ルーチンは、所定の速い周期で繰り返し実行される。従って、本制御ルーチンの実行により、モータ駆動回路32のスイッチング素子のデューティ比が制御されて、運転者の操舵操作に応じた所望のアシストトルクが得られる。
【0032】
次に、ステップS15の上限電流値算出処理について説明する。図4は、マイコン部31により実施される上限電流値算出ルーチンを表す。上限電流値算出ルーチンは、操舵アシスト制御ルーチンのステップS15として組み込まれて所定の短い周期で繰り返される。
【0033】
上限電流値算出ルーチンが起動すると、マイコン部31は、ステップS21において、加速度センサ70により検出される加速度GをCAN通信を介して読み込む。続いて、ステップS22において、フラグFが「0」であるか否かを判断する。このフラグFは、後述する処理から分かるように、現在の車両の走行状態が所定の加速状態にあるか否かを表すフラグであって、本ルーチンの起動時においては「0」(非加速状態)に設定されている。従って、マイコン部31は、F=0との判断により、その処理をステップS23に進める。
【0034】
マイコン部31は、ステップS23において、加速度Gが予め設定した基準加速度Ga1を越えているか否かを判断する。加速度Gが基準加速度Ga1以下である場合(S23:No)には、続くステップS24において、タイマ値tが設定時間taに達したか否かを判断する。このタイマ値tは、車両が所定の加速状態となっていない連続時間を表すもので、本ルーチンの起動時においては、t=0に設定されている。従って、マイコン部31は、ここでは、「No」と判断し、続くステップS25においてタイマ値tを値「1」だけインクリメントする。
【0035】
続いて、マイコン部31は、ステップS26において、図5に示す上限電流値マップを参照して上限電流値ilimを算出する。上限電流値マップは、後述するカウント値Nと上限電流値ilimとの関係を対応付けたもので、カウント値Nが大きくなるにしたがって減少する上限電流値ilimを設定する。カウント値Nは、本ルーチンの起動時においては「0」(N=0)に設定されている。従って、ここでは、上限電流値ilimは、最大値となるilim1に設定される。
【0036】
マイコン部31は、上限電流値ilimを算出すると、本ルーチンを一旦抜けて、メインルーチン(図3の操舵アシスト制御)のステップS16に処理を進める。上限電流値算出ルーチンは、所定の短い周期で繰り返される。従って、加速度Gが基準加速度Ga1以下となっているあいだは、タイマ値tが加算されていくことになる。そして、タイマ値tがtaに達する前に、加速度Gが基準加速度Ga1を越えると(S23:Yes)、マイコン部31は、その処理をステップS27に進める。
【0037】
マイコン部31は、ステップS27において、カウント値Nを値「1」だけインクリメントし、続くステップS28において、フラグFを「1」に設定する。続いて、マイコン部31は、ステップS26において、このカウント値N(=1)に基づいて、上限電流値マップを参照して上限電流値ilimを計算する。上限電流値マップは、カウント値Nが0〜N1となるあいだは、上限電流値ilimを最大のilim1に設定し、カウント値NがN1より大きくなると、カウント値Nが大きくなるにしたがって減少する上限電流値ilimを設定する。また、カウント値NがN2より大きくなる場合には、上限電流値ilimを最小となる一定のilim2に設定する。従って、ここでは、まだカウント値Nが小さいため(N<N1)、上限電流値ilimは、最大値となるilim1に設定される。尚、本実施形態においては、上限電流値マップを使って上限電流値ilimを算出する構成を採用しているが、カウント値Nと上限電流値ilimとの関係を表す関数をROM等の記憶素子に記憶しておき、この関数を用いてカウント値Nから上限電流値ilimを算出するようにしてもよい。
【0038】
マイコン部31は、ステップS26にて上限電流値ilimを計算すると本ルーチンをいったん抜ける。そして、次回からは、フラグFが「1」に設定されているため、ステップS22の判断が「No」となり、ステップS29からの加速状態の終了判断処理を開始する。
【0039】
マイコン部31は、いったん車両が加速状態となったと判定した(S23:Yes)後は、ステップS29において、加速度Gが基準加速度Ga2を下回ったか否かを繰り返し判断する。この基準加速度Ga2は、基準加速度Ga1よりも小さな値に設定され加速状態の終了を判定する判定値である。加速度Gが基準加速度Ga2を下回らないあいだは(S29:No)、そのまま、ステップS26の上限電流値ilimの算出処理に移行する。この場合、カウント値Nは変更されていないため、上限電流値ilimも変更されない。
【0040】
マイコン部31は、こうした処理を繰り返し、加速度Gが基準加速度Ga2を下回ったことを検出すると(S29:Yes)、加速状態が終了したとして、ステップS30において、フラグFを「0」にリセットし、ステップS31においてタイマ値をゼロクリアする。従って、次回からは、フラグFが「0」にリセットされているため、ステップS22の判断が「Yes」となり、ステップS23からの加速状態の開始判断処理が開始される。
【0041】
マイコン部31は、ステップS23において、加速度Gが基準加速度Ga1以下であると判定しているあいだは、タイマ値tを値「1」ずつインクリメントしていく。つまり、加速状態とならない連続時間を計測していく。そして、タイマ値tが設定時間taに達しないうちに加速度Gが基準加速度Ga1を上回った場合には(S23:Yes)、上述したようにステップS27において、カウント値Nを値「1」だけインクリメントし、ステップS28においてフラグFを「1」に設定する。従って、加速走行が頻繁に行われた場合には、カウント値Nが次第に増加していく。
【0042】
一方、非加速状態となる連続時間を表すタイマ値tが設定時間taに到達した場合には、ステップS32において、カウント値Nを値「1」だけデクリメントし、ステップS33において、タイマ値tをゼロクリアする。従って、加速走行が余り行われない穏やかな走行中においては、設定時間ta経過する度にカウント値Nが「1」ずつ減少していく。尚、マイコン部31は、ステップS32において減算したカウント値Nがマイナス(−1)になる場合には、カウント値Nを「0」に設定する。
【0043】
従って、カウント値Nは、車両が加速状態となる頻度を表す指標となる。換言すれば、カウント値Nが大きいほど、加速状態となる頻度が高い走行状態にあると言える。マイコン部31は、このように設定した最新のカウント値Nに基づいて、上限電流値マップから上限電流値ilimを算出する。
【0044】
山岳路等の曲がりくねった道路を走行しているときには、操舵操作が繰り返されるため電動モータ20が過負荷状態となりやすい。電動モータ20が過負荷状態となるとき、電動モータ20やモータ駆動回路32(以下、両者をモータ回路と総称する)が大きく発熱する。従って、モータ回路の過熱による損傷防止、つまり、過熱保護を図る必要が生じるが、従来においては、モータ回路の温度検出を行い、その温度検出値が過熱防止用温度に達したときに電動モータ20の出力を制限するようにしていたため、操舵アシスト制限が突然開始されてしまい、ハンドル操作が急に重くなっていた。
【0045】
操舵操作が繰り返されるような車両走行中では、車両が加速と減速とを交互に繰り返す状況になるケースが多い。そこで、本実施形態においては、車両が加速状態となる頻度を表すカウント値Nに基づいて、電動モータ20が過負荷状態となりやすい走行状態を検出し、カウント値Nの増加にしたがって徐々に上限電流値ilimを低減する。従って、モータ回路の温度が上昇してくる前から、徐々に電動モータ20の出力制限を開始して過熱防止を図ることができる。このため、モータ回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させるができる。
【0046】
次に、上限電流値算出ルーチンに係る第1変形例について説明する。上述した実施形態においては、電動モータ20が過負荷状態となりやすい走行状態を、車両が加速状態となる頻度から推定しているが、電動モータ20が過負荷状態となりやすい走行状態は、車両が制動状態となる頻度からも推定することができる。そこで、第1変形例においては、減速度に基づいてカウント値Nを設定する。
【0047】
図6は、第1変形例としての上限電流値算出ルーチンを表すフローチャートである。この第1変形例の上限電流値算出ルーチンは、上述した第1実施形態の上限電流値算出ルーチンにおけるステップS23とステップS29の判断処理に代えて、ステップS231とステップS291の判断処理を行うものであり、他の処理については第1実施形態の処理と同一である。従って、第1実施形態と同一の処理については、図面に同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0048】
マイコン部31は、第1変形例の上限電流値算出ルーチンを開始すると、加速度センサ70により検出される加速度Gを読み込み(S21)、フラグFが「0」の場合には(S22:Yes)、ステップS231において、加速度Gが予め設定した基準減速度−Gb1よりも小さいか否かを判断する。加速度センサ70は、車両が減速している場合には、負の値を示す加速度G(=減速度)を出力する。また、基準減速度−Gb1は負の値である。従って、このステップS231では、車両が基準減速度−Gb1よりも大きな減速度で減速する制動状態(加速度Gが負の値で、その絶対値がGb1よりも大きくなる制動状態)となっているか否かを判断する。
【0049】
加速度センサ70により検出される加速度Gが基準減速度−Gb1以上となる場合には、マイコン部31は、ステップS231において「No」と判定して、その処理をステップS24に進める。一方、加速度Gが基準減速度−Gb1を下回る場合には、マイコン部31は、ステップS231において「Yes」と判定して、その処理をステップS27に進める。つまり、車両が基準減速度−Gb1よりも大きな減速度で減速する制動状態であると判定した場合(S231:Yes)にはカウント値Nを「1」だけインクリメントし、そのような制動状態ではない、つまり、非制動状態であると判定した場合(S231:No)には非制動状態の継続時間を計測してタイマ値tが設定時間taに達したときにカウント値Nを「1」だけデクリメントする。
【0050】
また、マイコン部31は、いったん制動状態であると判定した場合には、フラグFを「1」に設定し(S28)、その後は、ステップS291において、制動状態の終了判断処理を開始する。このステップS291においては、加速度Gが基準減速度−Gb2を上回っているか否かを判断する。この基準減速度−Gb2は、基準減速度−Gb1よりも大きな(絶対値は小さい)負の値に設定され制動状態の終了を判定する判定値である。加速度Gが基準減速度−Gb2を上回らないあいだは(S291:No)、そのまま、ステップS26の上限電流値ilimの算出処理に移行する。この場合、カウント値Nは変更されていないため、上限電流値ilimも変更されない。
【0051】
マイコン部31は、こうした処理を繰り返し、加速度Gが基準減速度−Gb2を上回ったことを検出すると(S291:Yes)、制動状態が終了したとして、ステップS30において、フラグFを「0」にリセットし、ステップS31においてタイマ値tをゼロクリアする。従って、次回からは、フラグFが「0」にリセットされているため、ステップS22の判断が「Yes」となり、ステップS231からの制動状態の開始判断処理が開始される。
【0052】
このように、第1変形例においては、加速度Gが基準減速度−Gb1を下回る制動状態(つまり、減速度が基準減速度を上回る制動状態)を検知するたびにカウント値Nを「1」ずつインクリメントし、制動状態が検出されない連続時間が設定時間ta経過する度にカウント値Nを「1」ずつデクリメントする。従って、このカウント値Nは、車両が制動状態となる頻度を表す指標となる。換言すれば、カウント値Nが大きいほど、制動状態となる頻度が高い走行状態にあると言える。マイコン部31は、このように設定した最新のカウント値Nに基づいて、上限電流値マップから上限電流値ilimを算出する。
【0053】
操舵操作が繰り返されるような車両走行中では、車両が加速と減速とを交互に繰り返す状況になるケースが多い。そこで、第1変形例においては、車両が制動状態となる頻度を表すカウント値Nに基づいて、電動モータ20が過負荷状態となりやすい走行状態を検出し、カウント値Nの増加にしたがって徐々に上限電流値ilimを低減する。従って、モータ回路の温度が上昇してくる前から、徐々に電動モータ20の出力制限を開始して過熱防止を図ることができる。このため、モータ回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させるができる。
【0054】
次に、上限電流値算出ルーチンに係る第2変形例について説明する。この第2変形例は、上述した第1実施形態と第1変形例とを組み合わせたもので、車両が加速状態および制動状態となる頻度から上限電流値ilimを算出する。
【0055】
図7は、第2変形例としての上限電流値算出ルーチンを表すフローチャートである。この第2変形例の上限電流値算出ルーチンは、上述した第1実施形態の上限電流値算出ルーチンにおけるステップS23とステップS29の判断処理に代えて、ステップS232とステップS292の判断処理を行うものであり、他の処理については第1実施形態の処理と同一である。従って、第1実施形態と同一の処理については、図面に同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0056】
マイコン部31は、第2変形例の上限電流値算出ルーチンを開始すると、加速度センサ70により検出される加速度Gを読み込み(S21)、フラグFが「0」の場合には(S22:Yes)、ステップS232において、加速度Gが予め設定した基準減速度−Gb1から基準加速度Ga1のあいだに収まっているか否かを判断する。つまり、車両が、加速度Gが基準加速度Ga1より大きくなる加速状態、あるいは、加速度Gが基準減速度−Gb1より小さくなる(絶対値としては大きくなる)制動状態でないか否かを判断する。
【0057】
マイコン部31は、加速度Gが基準減速度−Gb1から基準加速度Ga1のあいだに収まっていない場合(S232:No)には、その処理をステップS27に進め、逆に、加速度Gが基準減速度−Gb1から基準加速度Ga1のあいだに収まっている場合、(S232:Yes)には、その処理をステップS24に進める。つまり、車両が加速状態、あるいは、制動状態であると判断した場合には、カウント値Nを「1」だけインクリメントし、そのような状態ではないと判定した場合には、その状態の継続時間を計測してタイマ値tが設定時間taに達したときにカウント値Nを「1」だけデクリメントする。
【0058】
また、マイコン部31は、いったん加速状態あるいは制動状態であると判定した場合には、フラグFを「1」に設定し(S28)、その後は、ステップS292において、加速状態あるいは制動状態の終了判断処理を開始する。このステップS292においては、加速度Gが予め設定した基準減速度−Gb2から基準加速度Ga2のあいだに収まっているか否かを判断する。加速度Gが基準減速度−Gb2から基準加速度Ga2のあいだに収まらないあいだは(S292:No)、そのまま、ステップS26の上限電流値ilimの算出処理に移行する。この場合、カウント値Nは変更されていないため、上限電流値ilimも変更されない。
【0059】
マイコン部31は、こうした処理を繰り返し、加速度Gが基準減速度−Gb2から基準加速度Ga2のあいだに収まったことを検出すると(S292:Yes)、加速状態あるいは制動状態が終了したとして、ステップS30において、フラグFを「0」にリセットし、ステップS31においてタイマ値tをゼロクリアする。従って、次回からは、フラグFが「0」にリセットされているため、ステップS22の判断が「Yes」となり、ステップS232からの判断処理が開始される。
【0060】
このように、第2変形例においては、車両が加速状態または制動状態になるたびに、カウント値Nを「1」ずつインクリメントし、また、車両が加速状態あるいは制動状態とならない連続時間が設定時間ta経過するたびにカウント値Nを「1」ずつデクリメントする。従って、カウント値Nは、車両が加速状態および制動状態となる頻度を表す指標となる。そして、このカウント値Nから電動モータ20が過負荷状態となりやすい走行状態を検出し、カウント値Nが大きくなるほど上限電流値ilimを低減する。従って、モータ回路の温度が上昇してくる前から、徐々に電動モータ20の出力制限を開始して過熱防止を図ることができる。この結果、モータ回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させるができる。尚、第2変形例で用いる基準加速度Ga1,Ga2および基準減速度Gb1,Gb2は、第1実施形態および第1変形例で用いたものと同じ値に設定すればよい。
【0061】
次に、第2実施形態の電動パワーステアリング装置について説明する。上述した第1実施形態およびその変形例1,2においては、上限電流値ilimを使ってモータ回路の過熱防止を図ったが、第2実施形態においては、目標電流値ias*に電流制限用係数α(0≦α≦1)を乗じることによりモータ回路の過熱防止を図る。以下、第2実施形態について説明するが、第2実施形態は、第1実施形態に対してマイコン部31の処理が異なるだけであるため、ここでは相違点についての説明に留める。
【0062】
図8は、第2実施形態に係る操舵アシスト制御ルーチンを表すフローチャートである。この第2実施形態の操舵アシスト制御ルーチンは、上述した第1実施形態の操舵アシスト制御ルーチンにおけるステップS15〜S17の処理に代えて、ステップS50とステップS51の処理を行うものであり、他の処理については第1実施形態の処理と同一である。また、図9は、そのステップS50の処理である電流制限用係数算出ルーチンを表すフローチャートである。この電流制限用係数算出ルーチンは、第1実施形態の上限電流値算出ルーチンのステップS26の処理に代えて、ステップS261の処理を行うものであり、他の処理については第1実施形態の処理と同一である。従って、図8,図9において、第1実施形態と同一の処理については、図面に同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0063】
操舵アシスト制御ルーチンが起動すると、マイコン部31は、各種パラメータ(T,V,θ,ω)に基づいて目標電流値ias*を算出する(S11〜S14)。続いて、ステップS50において、電流制限用係数αの算出処理を実行する。このステップS50の処理については後述する。マイコン部31は、ステップS50により電流制限用係数αを算出すると、続くステップS51において、目標電流値ias*に電流制限用係数αを乗じた値(α・ias*)を求め、この値を、新たな目標電流値ias*として設定する。マイコン部31は、この目標電流値ias*とモータ電流imとの偏差Δiに基づいて目標指令電圧v*を計算し、目標指令電圧v*に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路32に出力して電動モータ20を駆動制御する(S18〜S20)。
【0064】
マイコン部31は、ステップS50の電流制限用係数αの算出にあたって、図9に示す電流制限用係数算出ルーチンを実行する。この電流制限用係数算出ルーチンでは、走行状態に応じて加減算したカウント値Nを使って、ステップS261において、電流制限用係数αを算出する。電流制限用係数αは、図10に示す電流制限用係数マップを参照して算出される。電流制限用係数マップは、カウント値Nと電流制限用係数αとの関係を対応付けたもので、カウント値Nが大きくなるにしたがって減少する電流制限用係数αを設定する。この例においては、カウント値Nが0〜N1となるあいだは、一定値「1」となる電流制限用係数αを設定し(α=1)、カウント値NがN1より大きくなると、カウント値Nの増加にしたがって減少する電流制限用係数αを設定する。また、カウント値NがN2より大きくなる場合には、電流制限用係数αを最小となる一定値αminに設定する。尚、本実施形態においては、電流制限用係数マップを使って電流制限用係数αを算出する構成を採用しているが、カウント値Nと電流制限用係数αとの関係を表す関数をROM等の記憶素子に記憶しておき、この関数を用いてカウント値Nから電流制限用係数αを算出するようにしてもよい。
【0065】
この第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、モータ回路の温度が上昇してくる前から、徐々に電動モータ20の出力制限を開始して過熱防止を図ることができる。このため、モータ回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させることができる。尚、図9に示す電流制限用係数算出ルーチンは、車両が加速状態となる頻度に基づいてカウント値Nを加減算する構成の例を示しているが、第1実施形態の2つの変形例1,2のように、制動状態となる頻度、あるいは、加速状態および制動状態となる頻度に基づいてカウント値Nを計算する構成のものにも適用することができる。
【0066】
以上、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、本実施形態においては、加速度センサ70により検出される加速度Gに基づいて、車両の加速状態あるいは制動状態を判別しているが、スキッドECU50により実行されるトラクション制御あるいはアンチロックブレーキ制御の作動状態を表す制御信号をCAN通信システムを介して読み込み、この制御信号に基づいて加速状態あるいは制動状態を検出することもできる。
【0068】
スキッドECU50は、車両の急発進,急加速を検出したときに、駆動輪がスリップしないように、エンジンECU60やブレーキアクチュエータ(図示略)に対してトラクション制御信号を出力して、エンジンの出力を下げたりブレーキ制動を働かしたりする。従って、このトラクション制御信号が出力されたときには、車両の加速度が基準加速度を超える加速状態にあるとみなすことができる。また、スキッドECU50は、急ブレーキを検出したときに、車輪がロックしないように、ブレーキアクチュエータに対してアンチロックブレーキ制御信号を出力してブレーキ制動力を減少させる。従って、このアンチロックブレーキ制御信号が出力されたときには、車両の減速度が基準減速度を超える制動状態にあるとみなすことができる。そこで、加速度Gに代えて、スキッドECU50の制御状態を表す制御信号に基づいてカウント値Nを加減算するようにしてもよい。
【0069】
この場合、例えば、図4に示す上限電流値算出ルーチンでは、ステップS21において、スキッドECU50の制御状態を表す制御信号を読み込むようにし、ステップS23において、トラクション制御信号が出力されているか否かを判断すればよい。また、ステップS29においては、トラクション制御信号の出力が停止されたか否かを判断すればよい。
【0070】
同様に、図6に示す上限電流値算出ルーチンでは、ステップS231において、スキッドECU50の制御状態を表す制御信号を読み込むようにし、ステップS23において、アンチロックブレーキ制御信号が出力されているか否かを判断すればよい。また、ステップS291においては、アンチロックブレーキ制御信号の出力が停止されたか否かを判断すればよい。
【0071】
また、図7に示す上限電流値算出ルーチンでは、ステップS232において、スキッドECU50の制御状態を表す制御信号を読み込むようにし、ステップS23において、アンチロックブレーキ制御信号あるいはトラクション制御信号が出力されているか否かを判断すればよい。また、ステップS292においては、検出した制御信号の出力が停止されたか否かを判断すればよい。
【0072】
また、スキッドECU50の制御信号にて車両の加速状態あるいは制動状態を検出する構成は、第2実施形態においても同様に適用できるものである。
【0073】
また、スキッドECU50に代えて、エンジンECU60の制御状態情報を取得して車両の加速状態を検出するようにしてもよい。例えば、エンジンECU60からアクセル情報を取得し、アクセル開度の増加速度が基準速度を上回る場合に、車両の加速度が基準加速度を超える加速状態であるとみなすこともできる。この場合、例えば、図4に示す上限電流値算出ルーチンでは、ステップS21において、エンジンECU60の制御状態を表す信号を読み込むようにし、ステップS23において、アクセル開度の増加速度が基準速度を上回るか否かを判断すればよい。また、ステップS29においては、アクセル開度の増加が停止したか否かを判断すればよい。尚、エンジンECU60の制御状態情報に基づいて車両の加速状態を判定する構成は、第2実施形態においても同様に適用できるものである。
【符号の説明】
【0074】
10…ステアリング機構、11…操舵ハンドル、12…ステアリングシャフト、20…電動モータ、30…アシストECU、31…マイコン部、32…モータ駆動回路、41…操舵トルクセンサ、50…スキッドECU、60…エンジンECU、70…加速度センサ、71…車速センサ、72…操舵角センサ、73…ヨーレートセンサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者による操舵ハンドルの操舵操作をアシストするための電動モータを備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドルの操舵操作に対して操舵アシストトルクを発生する電動モータと、この電動モータの通電を制御する電子制御ユニットとを備える。電子制御ユニットは、主要部がマイクロコンピュータから構成され電動モータの目標通電制御量を演算する演算回路と、この演算回路からの指令信号に応じて電動モータに通電するモータ駆動回路を備える。
【0003】
演算回路は、例えば、操舵トルクセンサにより検出した操舵ハンドルに働く操舵トルクと車速センサにより検出した車速とに基づいて目標アシストトルク値を演算し、この目標アシストトルク値に対応する目標電流値と電流センサにより検出した実際に電動モータに流れる実電流値との偏差に応じて電動モータに印加すべき電圧指令値を演算する。そして、この電圧指令値に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路に出力する。モータ駆動回路は、演算回路からのPWM制御信号にしたがってスイッチング素子をオン/オフして、電圧指令値に応じた電圧を電動モータに印加する。こうして電動モータにより発生した操舵アシストトルクと、運転者により操舵ハンドルに加えられた操舵トルクとに和により転舵輪の向きが変えられる。
【0004】
このような電動パワーステアリング装置においては、電動モータやモータ駆動回路が過熱して損傷してしまうことを防止するために、それらの温度をモニターし、モニター温度が過熱防止用の設定温度を上回る場合には、電動モータに流す電流を制限するようにしている。こうした過熱防止を図る電動パワーステアリング装置としては、例えば、特許文献1等に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−362393
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、温度をモニターして過熱保護を図るシステムの場合、実際にモニター温度が過熱防止温度に達してから電流制限を行うものであるため、操舵アシスト制限が突然開始されてしまい、ハンドル操作が急に重くなってしまう。
【0007】
本発明の目的は、上記問題に対処するためになされたもので、電動モータやモータ駆動回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させることにある。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、ステアリング機構に設けられて操舵アシストトルクを発生する電動モータと、運転者の操舵操作に基づいて前記電動モータに流す目標電流値を算出する目標電流値算出手段と、前記算出された目標電流値にしたがって前記電動モータを駆動制御するモータ駆動制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、
車両の加速度あるいは減速度を表す情報を取得する情報取得手段と、前記取得した情報に基づいて、車両の加速度が基準加速度を超える加速状態となった回数、あるいは、車両の減速度が基準減速度を越える制動状態となった回数をカウントするカウント手段と、前記加速状態となった回数から、基準時間内に一度も前記加速状態とならなかった回数を減算した値、あるいは、前記制動状態となった回数から、基準時間内に一度も前記制動状態とならなかった回数を減算した値を算出する減算手段と、記減算手段により算出された値が大きいほど、前記電動モータの目標電流値の上限値を下げる、あるいは、前記電動モータの目標電流値に乗じる電流制限用係数を小さい値にする電流制限手段とを備えたことにある。
【0009】
本発明においては、目標電流値算出手段が電動モータに流す目標電流値を算出し、モータ駆動制御手段が算出された目標電流値にしたがって電動モータを駆動制御する。例えば、目標電流値算出手段は、ステアリングシャフトに働く操舵トルクを検出し、操舵トルクの増加に伴って増加する目標電流値を算出する。そして、電動モータに流れる電流が目標電流値となるようにモータ駆動制御手段が電動モータを駆動制御する。山岳路を走行しているとき等、大きな操舵トルクが頻繁に働く場合には、電動モータが過負荷になりやすい。電動モータの過負荷時においては、電動モータ自身あるいはモータ駆動回路の発熱が大きくなり、それらを過熱から保護する必要がある。
【0010】
そこで本発明では、情報取得手段とカウント手段と減算手段とを備え、電動モータが過負荷になると思われる走行を加速度あるいは減速度から事前に検知する。情報取得手段は、車両の加速度あるいは減速度を表す情報を取得する。カウント手段は、車両の加速度が基準加速度を超える加速状態となった回数、あるいは、車両の減速度が基準減速度を越える制動状態となった回数をカウントする。例えば、加速度センサの検出値と基準値との比較により加速状態あるいは制動状態を判定して、加速状態あるいは制動状態となった回数をカウントする。また、基準加速度や基準減速度は数値で表されるものに限らず、基準となる加速状態や制動状態を表すものであっても良い。例えば、トラクションコントロールシステムが作動した回数を車両が加速状態となった回数とみなしてカウントしてもよいし、アンチロックブレーキシステムが作動した回数を車両が制動状態となった回数とみなしてカウントするようにしてもよい。尚、カウント手段は、一連の加速状態(あるいは制動状態)を1回の加速状態(あるいは制動状態)としてカウントするものである。
【0011】
そして、減算手段が、加速状態となった回数から基準時間内に一度も加速状態とならなかった回数を減算した値(つまり、加速状態とならなかった連続時間が基準時間を超えるたびに前記加速状態となった回数から1減算した値)、あるいは、制動状態となった回数から基準時間内に一度も制動状態とならなかった回数を減算した値(つまり、減速状態とならなかった連続時間が基準時間を超えるたびに前記減速状態となった回数から1減算した値)を算出する。この減算手段により算出された値は、車両の走行状態を表し、加速状態あるいは制動状態が頻繁に発生するような走行状態ほど大きな値となる。また、こうした走行状態においては、電動モータやモータ駆動回路の発熱も大きくなると推測される。
【0012】
そこで、電流制限手段は、減算手段により算出された値が大きいほど、電動モータの目標電流値の上限値を下げる、あるいは、電動モータの目標電流値に乗じる電流制限用係数を小さい値にする。従って、電動モータやモータ駆動回路が過熱防止温度に到達する前から、電動モータの出力制限を徐々に行うことができるため、従来のように操舵アシスト制限の突然の開始により操舵フィーリングが急変してしまうといった不具合を生じない。この結果、電動モータやモータ駆動回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させるができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成図である。
【図2】第1実施形態としての操舵アシスト制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図3】アシストトルクマップを表すグラフである。
【図4】第1実施形態としての上限電流値算出ルーチンを表すフローチャートである。
【図5】上限電流値マップを表すグラフである。
【図6】上限電流値算出ルーチンの第1変形例を表すフローチャートである。
【図7】上限電流値算出ルーチンの第2変形例を表すフローチャートである。
【図8】第2実施形態としての操舵アシスト制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図9】第2実施形態としての上限電流値算出ルーチンを表すフローチャートである。
【図10】電流制限用係数マップを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置を示す概略図である。
【0015】
この車両の電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドル11の操舵により転舵輪である左右前輪FW1,FWを転舵するステアリング機構10と、ステアリング機構10に設けられ操舵アシストトルクを発生する電動モータ20と、電動モータ20を駆動制御する電子制御ユニット30(以下、アシストECU30と呼ぶ)とを備えている。
【0016】
ステアリング機構10は、操舵ハンドル11に上端を一体回転するように接続したステアリングシャフト12を備え、ステアリングシャフト12の下端にはピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合ってラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には、図示しないタイロッドおよびナックルアームを介して左右前輪FW1,FW2が転舵可能に接続されている。左右前輪FW1,FW2は、ステアリングシャフト12の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に操舵される。
【0017】
ステアリングシャフト12には、操舵トルクセンサ41が設けられる。操舵トルクセンサ41は、操舵ハンドル11の回動操作によってステアリングシャフト12に作用する操舵トルクを検出する。以下、操舵トルクセンサ41により検出されるトルクの値を操舵トルクTと呼ぶ。操舵トルクTは、その符号(正負)によりトルクの働く方向(右方向、左方向)を表し、その絶対値によりトルクの大きさを表す。
【0018】
ラックバー14には、操舵アシスト用の電動モータ20(例えば、ブラシレスモータ)が組み付けられている。電動モータ20の回転軸は、ボールねじ機構21を介してラックバー14に動力伝達可能に接続されていて、その回転により左右前輪FWL,FWRに転舵力を付与して操舵操作をアシストする。ボールねじ機構21は、減速器および回転−直線変換器として機能するもので、電動モータ20の回転を減速するとともに直線運動に変換してラックバー14に伝達する。本実施形態においては、電動モータ20をラックバー14に組み付けるが、これに代えて、電動モータ20の回転を減速器を介してステアリングシャフト12に伝達してステアリングシャフト12を軸線周りに駆動するように構成してもよい。
【0019】
電動モータ20には、回転角センサ42が組み込まれている。回転角センサ42は、電動モータ20の回転子の回転角を検出する。この回転角は、電動モータ20の通電制御に用いられる。
【0020】
アシストECU30は、CPU,ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要部として備えたマイコン部31と、モータ駆動回路32とを備えている。モータ駆動回路32は、例えば、三相インバータ回路にて構成されマイコン部31からのPWM制御信号を入力して、内部のスイッチング素子のデューティ比を制御することにより電動モータ20への通電量を調整する。モータ駆動回路32には、電動モータ20に流れる電流を検出する電流センサ43が設けられる。この電流センサ43により検出される電流値をモータ電流imと呼ぶ。
【0021】
マイコン部31は、図示しない通信インタフェースを介してCAN(Controller Area Network)通信システムと接続されている。CAN通信システムには、スキッドECU50,エンジンECU60等の車両制御装置と、加速度センサ70,車速センサ71,操舵角センサ72,ヨーレートセンサ73等のセンサ類とが接続されている。加速度センサ70は、車両の水平方向の加速度Gを表す加速度信号を出力する。加速度Gは、車両の前方への速度が増加する加速度を正の値で、車両の前方への速度が減少する減速度を負の値で表すことにする。車速センサ71は、車速Vを表す車速信号を出力する。操舵角センサ72は、ステアリングシャフト12に設けられ、操舵ハンドル11の中立位置に対する操舵角θを表す操舵角信号を出力する。ヨーレートセンサ73は、車体のヨーレートγを表すヨーレート信号を出力する。操舵角θおよびヨーレートγは、その絶対値により大きさを表し、符号(正負)により左右方向が識別される。各センサ70〜73は、その検出信号をCAN通信システムに送信する。
【0022】
スキッドECU50は、図示しない車輪速センサ、ブレーキペダルセンサ等のセンサ類とブレーキアクチュエータを接続し、これらセンサの検出信号およびCAN通信システムから送られてくるセンサ検出信号に基づいて、急ブレーキ時の車輪ロックを防止するアンチロックブレーキ制御、急発進,急加速時の駆動輪のスリップを防止するトラクション制御、車両の旋回方向の安定性を確保する挙動安定制御を行う。また、アンチロックブレーキ制御、トラクション制御、挙動安定制御に係る制御状態を表す制御信号をCAN通信システムに出力する。
【0023】
次に、マイコン部31の実施する操舵アシスト制御について説明する。尚、操舵アシスト制御については2つの実施形態を説明するため、最初に説明する操舵アシスト制御を第1実施形態の操舵アシスト制御と呼ぶ。図2は、マイコン部31により実施される操舵アシスト制御ルーチンを表す。操舵アシスト制御ルーチンは、マイコン部31のROM内に制御プログラムとして記憶され、イグニッションスイッチ(図示略)がオンされて初期診断が完了した後に起動し、所定の短い周期で繰り返される。
【0024】
本制御ルーチンが起動すると、マイコン部31は、まず、ステップS11において、車速センサ71によって検出された車速Vと、操舵トルクセンサ41によって検出された操舵トルクTとを読み込む。
【0025】
続いて、ステップS12において、図3に示すアシストトルクマップを参照して、入力した車速Vおよび操舵トルクTに応じて設定される基本アシストトルクTasを計算する。アシストトルクマップは、マイコン部31のROM内に記憶されるもので、操舵トルクTの増加にしたがって基本アシストトルクTasも増加し、しかも、車速Vが低くなるほど大きな値となるように設定される。尚、図3のアシストトルクマップは、右方向の操舵トルクTに対する基本アシストトルクTasの特性を表すが、左方向の特性については方向が反対になるだけで絶対値でみれば同じである。
【0026】
続いて、マイコン部31は、ステップS13において、この基本アシストトルクTasに補償トルクを加算して目標指令トルクT*を計算する。この補償トルクは、操舵角θに比例して大きくなるステアリングシャフト12の基本位置への復帰力と、操舵速度ωに比例して大きくなるステアリングシャフト12の回転に対向する抵抗力に対応した戻しトルクとの和として計算する。この計算に当たっては、CAN通信システムに送信される操舵角情報から操舵角θを取得するとともに、操舵角θを時間で微分することにより操舵速度ωを算出して行う。尚、操舵角θの検出は、回転角センサ42により検出されるモータ回転角から算出するようにしてもよい。
【0027】
次に、マイコン部31は、ステップS14において、目標指令トルクT*に対応した電流値である目標電流値ias*を計算する。目標電流値ias*は、目標指令トルクT*をトルク定数で除算することにより求められる。
【0028】
続いて、マイコン部31は、ステップS15において、電動モータ20に流すことのできる上限値である上限電流値ilimを計算する。上限電流値ilimは、電動モータ20やモータ駆動回路32の過電流保護を図るために設定される。この上限電流値ilimの計算処理については、図4に示すサブルーチンを用いて後述する。
【0029】
続いて、マイコン部31は、ステップS16において、先のステップS14で計算した目標電流値ias*がステップS15で設定した上限電流値ilimよりも大きいか否かを判断する。そして、目標電流値ias*が上限電流値ilimよりも大きい場合には(S16:Yes)、ステップS17において、目標電流値ias*を上限電流値ilimに設定する。一方、目標電流値ias*が上限電流値ilim以下であれば、目標電流値ias*を変更しない。
【0030】
続いて、マイコン部31はステップS18において、電動モータ20に流れるモータ電流imを電流センサ43から読み込む。続いて、ステップS19において、このモータ電流imと先に計算した目標電流値ias*との偏差Δiを計算し、この偏差Δiに基づくPI制御(比例積分制御)により目標指令電圧v*を計算する。尚、目標指令電圧v*の計算に当たっては、3相のモータ電流をd−q座標系の2相電流(d軸電流、q軸電流)に変換し、2相の目標電流値ias*(d軸目標電流値、q軸目標電流値)との偏差を計算する。そして、2相/3相変換により2相の電流偏差に応じた3相の目標指令電圧v*を計算する。
【0031】
そして、マイコン部31は、ステップS20において、目標指令電圧v*に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路32に出力して本制御ルーチンを一旦終了する。本制御ルーチンは、所定の速い周期で繰り返し実行される。従って、本制御ルーチンの実行により、モータ駆動回路32のスイッチング素子のデューティ比が制御されて、運転者の操舵操作に応じた所望のアシストトルクが得られる。
【0032】
次に、ステップS15の上限電流値算出処理について説明する。図4は、マイコン部31により実施される上限電流値算出ルーチンを表す。上限電流値算出ルーチンは、操舵アシスト制御ルーチンのステップS15として組み込まれて所定の短い周期で繰り返される。
【0033】
上限電流値算出ルーチンが起動すると、マイコン部31は、ステップS21において、加速度センサ70により検出される加速度GをCAN通信を介して読み込む。続いて、ステップS22において、フラグFが「0」であるか否かを判断する。このフラグFは、後述する処理から分かるように、現在の車両の走行状態が所定の加速状態にあるか否かを表すフラグであって、本ルーチンの起動時においては「0」(非加速状態)に設定されている。従って、マイコン部31は、F=0との判断により、その処理をステップS23に進める。
【0034】
マイコン部31は、ステップS23において、加速度Gが予め設定した基準加速度Ga1を越えているか否かを判断する。加速度Gが基準加速度Ga1以下である場合(S23:No)には、続くステップS24において、タイマ値tが設定時間taに達したか否かを判断する。このタイマ値tは、車両が所定の加速状態となっていない連続時間を表すもので、本ルーチンの起動時においては、t=0に設定されている。従って、マイコン部31は、ここでは、「No」と判断し、続くステップS25においてタイマ値tを値「1」だけインクリメントする。
【0035】
続いて、マイコン部31は、ステップS26において、図5に示す上限電流値マップを参照して上限電流値ilimを算出する。上限電流値マップは、後述するカウント値Nと上限電流値ilimとの関係を対応付けたもので、カウント値Nが大きくなるにしたがって減少する上限電流値ilimを設定する。カウント値Nは、本ルーチンの起動時においては「0」(N=0)に設定されている。従って、ここでは、上限電流値ilimは、最大値となるilim1に設定される。
【0036】
マイコン部31は、上限電流値ilimを算出すると、本ルーチンを一旦抜けて、メインルーチン(図3の操舵アシスト制御)のステップS16に処理を進める。上限電流値算出ルーチンは、所定の短い周期で繰り返される。従って、加速度Gが基準加速度Ga1以下となっているあいだは、タイマ値tが加算されていくことになる。そして、タイマ値tがtaに達する前に、加速度Gが基準加速度Ga1を越えると(S23:Yes)、マイコン部31は、その処理をステップS27に進める。
【0037】
マイコン部31は、ステップS27において、カウント値Nを値「1」だけインクリメントし、続くステップS28において、フラグFを「1」に設定する。続いて、マイコン部31は、ステップS26において、このカウント値N(=1)に基づいて、上限電流値マップを参照して上限電流値ilimを計算する。上限電流値マップは、カウント値Nが0〜N1となるあいだは、上限電流値ilimを最大のilim1に設定し、カウント値NがN1より大きくなると、カウント値Nが大きくなるにしたがって減少する上限電流値ilimを設定する。また、カウント値NがN2より大きくなる場合には、上限電流値ilimを最小となる一定のilim2に設定する。従って、ここでは、まだカウント値Nが小さいため(N<N1)、上限電流値ilimは、最大値となるilim1に設定される。尚、本実施形態においては、上限電流値マップを使って上限電流値ilimを算出する構成を採用しているが、カウント値Nと上限電流値ilimとの関係を表す関数をROM等の記憶素子に記憶しておき、この関数を用いてカウント値Nから上限電流値ilimを算出するようにしてもよい。
【0038】
マイコン部31は、ステップS26にて上限電流値ilimを計算すると本ルーチンをいったん抜ける。そして、次回からは、フラグFが「1」に設定されているため、ステップS22の判断が「No」となり、ステップS29からの加速状態の終了判断処理を開始する。
【0039】
マイコン部31は、いったん車両が加速状態となったと判定した(S23:Yes)後は、ステップS29において、加速度Gが基準加速度Ga2を下回ったか否かを繰り返し判断する。この基準加速度Ga2は、基準加速度Ga1よりも小さな値に設定され加速状態の終了を判定する判定値である。加速度Gが基準加速度Ga2を下回らないあいだは(S29:No)、そのまま、ステップS26の上限電流値ilimの算出処理に移行する。この場合、カウント値Nは変更されていないため、上限電流値ilimも変更されない。
【0040】
マイコン部31は、こうした処理を繰り返し、加速度Gが基準加速度Ga2を下回ったことを検出すると(S29:Yes)、加速状態が終了したとして、ステップS30において、フラグFを「0」にリセットし、ステップS31においてタイマ値をゼロクリアする。従って、次回からは、フラグFが「0」にリセットされているため、ステップS22の判断が「Yes」となり、ステップS23からの加速状態の開始判断処理が開始される。
【0041】
マイコン部31は、ステップS23において、加速度Gが基準加速度Ga1以下であると判定しているあいだは、タイマ値tを値「1」ずつインクリメントしていく。つまり、加速状態とならない連続時間を計測していく。そして、タイマ値tが設定時間taに達しないうちに加速度Gが基準加速度Ga1を上回った場合には(S23:Yes)、上述したようにステップS27において、カウント値Nを値「1」だけインクリメントし、ステップS28においてフラグFを「1」に設定する。従って、加速走行が頻繁に行われた場合には、カウント値Nが次第に増加していく。
【0042】
一方、非加速状態となる連続時間を表すタイマ値tが設定時間taに到達した場合には、ステップS32において、カウント値Nを値「1」だけデクリメントし、ステップS33において、タイマ値tをゼロクリアする。従って、加速走行が余り行われない穏やかな走行中においては、設定時間ta経過する度にカウント値Nが「1」ずつ減少していく。尚、マイコン部31は、ステップS32において減算したカウント値Nがマイナス(−1)になる場合には、カウント値Nを「0」に設定する。
【0043】
従って、カウント値Nは、車両が加速状態となる頻度を表す指標となる。換言すれば、カウント値Nが大きいほど、加速状態となる頻度が高い走行状態にあると言える。マイコン部31は、このように設定した最新のカウント値Nに基づいて、上限電流値マップから上限電流値ilimを算出する。
【0044】
山岳路等の曲がりくねった道路を走行しているときには、操舵操作が繰り返されるため電動モータ20が過負荷状態となりやすい。電動モータ20が過負荷状態となるとき、電動モータ20やモータ駆動回路32(以下、両者をモータ回路と総称する)が大きく発熱する。従って、モータ回路の過熱による損傷防止、つまり、過熱保護を図る必要が生じるが、従来においては、モータ回路の温度検出を行い、その温度検出値が過熱防止用温度に達したときに電動モータ20の出力を制限するようにしていたため、操舵アシスト制限が突然開始されてしまい、ハンドル操作が急に重くなっていた。
【0045】
操舵操作が繰り返されるような車両走行中では、車両が加速と減速とを交互に繰り返す状況になるケースが多い。そこで、本実施形態においては、車両が加速状態となる頻度を表すカウント値Nに基づいて、電動モータ20が過負荷状態となりやすい走行状態を検出し、カウント値Nの増加にしたがって徐々に上限電流値ilimを低減する。従って、モータ回路の温度が上昇してくる前から、徐々に電動モータ20の出力制限を開始して過熱防止を図ることができる。このため、モータ回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させるができる。
【0046】
次に、上限電流値算出ルーチンに係る第1変形例について説明する。上述した実施形態においては、電動モータ20が過負荷状態となりやすい走行状態を、車両が加速状態となる頻度から推定しているが、電動モータ20が過負荷状態となりやすい走行状態は、車両が制動状態となる頻度からも推定することができる。そこで、第1変形例においては、減速度に基づいてカウント値Nを設定する。
【0047】
図6は、第1変形例としての上限電流値算出ルーチンを表すフローチャートである。この第1変形例の上限電流値算出ルーチンは、上述した第1実施形態の上限電流値算出ルーチンにおけるステップS23とステップS29の判断処理に代えて、ステップS231とステップS291の判断処理を行うものであり、他の処理については第1実施形態の処理と同一である。従って、第1実施形態と同一の処理については、図面に同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0048】
マイコン部31は、第1変形例の上限電流値算出ルーチンを開始すると、加速度センサ70により検出される加速度Gを読み込み(S21)、フラグFが「0」の場合には(S22:Yes)、ステップS231において、加速度Gが予め設定した基準減速度−Gb1よりも小さいか否かを判断する。加速度センサ70は、車両が減速している場合には、負の値を示す加速度G(=減速度)を出力する。また、基準減速度−Gb1は負の値である。従って、このステップS231では、車両が基準減速度−Gb1よりも大きな減速度で減速する制動状態(加速度Gが負の値で、その絶対値がGb1よりも大きくなる制動状態)となっているか否かを判断する。
【0049】
加速度センサ70により検出される加速度Gが基準減速度−Gb1以上となる場合には、マイコン部31は、ステップS231において「No」と判定して、その処理をステップS24に進める。一方、加速度Gが基準減速度−Gb1を下回る場合には、マイコン部31は、ステップS231において「Yes」と判定して、その処理をステップS27に進める。つまり、車両が基準減速度−Gb1よりも大きな減速度で減速する制動状態であると判定した場合(S231:Yes)にはカウント値Nを「1」だけインクリメントし、そのような制動状態ではない、つまり、非制動状態であると判定した場合(S231:No)には非制動状態の継続時間を計測してタイマ値tが設定時間taに達したときにカウント値Nを「1」だけデクリメントする。
【0050】
また、マイコン部31は、いったん制動状態であると判定した場合には、フラグFを「1」に設定し(S28)、その後は、ステップS291において、制動状態の終了判断処理を開始する。このステップS291においては、加速度Gが基準減速度−Gb2を上回っているか否かを判断する。この基準減速度−Gb2は、基準減速度−Gb1よりも大きな(絶対値は小さい)負の値に設定され制動状態の終了を判定する判定値である。加速度Gが基準減速度−Gb2を上回らないあいだは(S291:No)、そのまま、ステップS26の上限電流値ilimの算出処理に移行する。この場合、カウント値Nは変更されていないため、上限電流値ilimも変更されない。
【0051】
マイコン部31は、こうした処理を繰り返し、加速度Gが基準減速度−Gb2を上回ったことを検出すると(S291:Yes)、制動状態が終了したとして、ステップS30において、フラグFを「0」にリセットし、ステップS31においてタイマ値tをゼロクリアする。従って、次回からは、フラグFが「0」にリセットされているため、ステップS22の判断が「Yes」となり、ステップS231からの制動状態の開始判断処理が開始される。
【0052】
このように、第1変形例においては、加速度Gが基準減速度−Gb1を下回る制動状態(つまり、減速度が基準減速度を上回る制動状態)を検知するたびにカウント値Nを「1」ずつインクリメントし、制動状態が検出されない連続時間が設定時間ta経過する度にカウント値Nを「1」ずつデクリメントする。従って、このカウント値Nは、車両が制動状態となる頻度を表す指標となる。換言すれば、カウント値Nが大きいほど、制動状態となる頻度が高い走行状態にあると言える。マイコン部31は、このように設定した最新のカウント値Nに基づいて、上限電流値マップから上限電流値ilimを算出する。
【0053】
操舵操作が繰り返されるような車両走行中では、車両が加速と減速とを交互に繰り返す状況になるケースが多い。そこで、第1変形例においては、車両が制動状態となる頻度を表すカウント値Nに基づいて、電動モータ20が過負荷状態となりやすい走行状態を検出し、カウント値Nの増加にしたがって徐々に上限電流値ilimを低減する。従って、モータ回路の温度が上昇してくる前から、徐々に電動モータ20の出力制限を開始して過熱防止を図ることができる。このため、モータ回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させるができる。
【0054】
次に、上限電流値算出ルーチンに係る第2変形例について説明する。この第2変形例は、上述した第1実施形態と第1変形例とを組み合わせたもので、車両が加速状態および制動状態となる頻度から上限電流値ilimを算出する。
【0055】
図7は、第2変形例としての上限電流値算出ルーチンを表すフローチャートである。この第2変形例の上限電流値算出ルーチンは、上述した第1実施形態の上限電流値算出ルーチンにおけるステップS23とステップS29の判断処理に代えて、ステップS232とステップS292の判断処理を行うものであり、他の処理については第1実施形態の処理と同一である。従って、第1実施形態と同一の処理については、図面に同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0056】
マイコン部31は、第2変形例の上限電流値算出ルーチンを開始すると、加速度センサ70により検出される加速度Gを読み込み(S21)、フラグFが「0」の場合には(S22:Yes)、ステップS232において、加速度Gが予め設定した基準減速度−Gb1から基準加速度Ga1のあいだに収まっているか否かを判断する。つまり、車両が、加速度Gが基準加速度Ga1より大きくなる加速状態、あるいは、加速度Gが基準減速度−Gb1より小さくなる(絶対値としては大きくなる)制動状態でないか否かを判断する。
【0057】
マイコン部31は、加速度Gが基準減速度−Gb1から基準加速度Ga1のあいだに収まっていない場合(S232:No)には、その処理をステップS27に進め、逆に、加速度Gが基準減速度−Gb1から基準加速度Ga1のあいだに収まっている場合、(S232:Yes)には、その処理をステップS24に進める。つまり、車両が加速状態、あるいは、制動状態であると判断した場合には、カウント値Nを「1」だけインクリメントし、そのような状態ではないと判定した場合には、その状態の継続時間を計測してタイマ値tが設定時間taに達したときにカウント値Nを「1」だけデクリメントする。
【0058】
また、マイコン部31は、いったん加速状態あるいは制動状態であると判定した場合には、フラグFを「1」に設定し(S28)、その後は、ステップS292において、加速状態あるいは制動状態の終了判断処理を開始する。このステップS292においては、加速度Gが予め設定した基準減速度−Gb2から基準加速度Ga2のあいだに収まっているか否かを判断する。加速度Gが基準減速度−Gb2から基準加速度Ga2のあいだに収まらないあいだは(S292:No)、そのまま、ステップS26の上限電流値ilimの算出処理に移行する。この場合、カウント値Nは変更されていないため、上限電流値ilimも変更されない。
【0059】
マイコン部31は、こうした処理を繰り返し、加速度Gが基準減速度−Gb2から基準加速度Ga2のあいだに収まったことを検出すると(S292:Yes)、加速状態あるいは制動状態が終了したとして、ステップS30において、フラグFを「0」にリセットし、ステップS31においてタイマ値tをゼロクリアする。従って、次回からは、フラグFが「0」にリセットされているため、ステップS22の判断が「Yes」となり、ステップS232からの判断処理が開始される。
【0060】
このように、第2変形例においては、車両が加速状態または制動状態になるたびに、カウント値Nを「1」ずつインクリメントし、また、車両が加速状態あるいは制動状態とならない連続時間が設定時間ta経過するたびにカウント値Nを「1」ずつデクリメントする。従って、カウント値Nは、車両が加速状態および制動状態となる頻度を表す指標となる。そして、このカウント値Nから電動モータ20が過負荷状態となりやすい走行状態を検出し、カウント値Nが大きくなるほど上限電流値ilimを低減する。従って、モータ回路の温度が上昇してくる前から、徐々に電動モータ20の出力制限を開始して過熱防止を図ることができる。この結果、モータ回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させるができる。尚、第2変形例で用いる基準加速度Ga1,Ga2および基準減速度Gb1,Gb2は、第1実施形態および第1変形例で用いたものと同じ値に設定すればよい。
【0061】
次に、第2実施形態の電動パワーステアリング装置について説明する。上述した第1実施形態およびその変形例1,2においては、上限電流値ilimを使ってモータ回路の過熱防止を図ったが、第2実施形態においては、目標電流値ias*に電流制限用係数α(0≦α≦1)を乗じることによりモータ回路の過熱防止を図る。以下、第2実施形態について説明するが、第2実施形態は、第1実施形態に対してマイコン部31の処理が異なるだけであるため、ここでは相違点についての説明に留める。
【0062】
図8は、第2実施形態に係る操舵アシスト制御ルーチンを表すフローチャートである。この第2実施形態の操舵アシスト制御ルーチンは、上述した第1実施形態の操舵アシスト制御ルーチンにおけるステップS15〜S17の処理に代えて、ステップS50とステップS51の処理を行うものであり、他の処理については第1実施形態の処理と同一である。また、図9は、そのステップS50の処理である電流制限用係数算出ルーチンを表すフローチャートである。この電流制限用係数算出ルーチンは、第1実施形態の上限電流値算出ルーチンのステップS26の処理に代えて、ステップS261の処理を行うものであり、他の処理については第1実施形態の処理と同一である。従って、図8,図9において、第1実施形態と同一の処理については、図面に同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0063】
操舵アシスト制御ルーチンが起動すると、マイコン部31は、各種パラメータ(T,V,θ,ω)に基づいて目標電流値ias*を算出する(S11〜S14)。続いて、ステップS50において、電流制限用係数αの算出処理を実行する。このステップS50の処理については後述する。マイコン部31は、ステップS50により電流制限用係数αを算出すると、続くステップS51において、目標電流値ias*に電流制限用係数αを乗じた値(α・ias*)を求め、この値を、新たな目標電流値ias*として設定する。マイコン部31は、この目標電流値ias*とモータ電流imとの偏差Δiに基づいて目標指令電圧v*を計算し、目標指令電圧v*に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路32に出力して電動モータ20を駆動制御する(S18〜S20)。
【0064】
マイコン部31は、ステップS50の電流制限用係数αの算出にあたって、図9に示す電流制限用係数算出ルーチンを実行する。この電流制限用係数算出ルーチンでは、走行状態に応じて加減算したカウント値Nを使って、ステップS261において、電流制限用係数αを算出する。電流制限用係数αは、図10に示す電流制限用係数マップを参照して算出される。電流制限用係数マップは、カウント値Nと電流制限用係数αとの関係を対応付けたもので、カウント値Nが大きくなるにしたがって減少する電流制限用係数αを設定する。この例においては、カウント値Nが0〜N1となるあいだは、一定値「1」となる電流制限用係数αを設定し(α=1)、カウント値NがN1より大きくなると、カウント値Nの増加にしたがって減少する電流制限用係数αを設定する。また、カウント値NがN2より大きくなる場合には、電流制限用係数αを最小となる一定値αminに設定する。尚、本実施形態においては、電流制限用係数マップを使って電流制限用係数αを算出する構成を採用しているが、カウント値Nと電流制限用係数αとの関係を表す関数をROM等の記憶素子に記憶しておき、この関数を用いてカウント値Nから電流制限用係数αを算出するようにしてもよい。
【0065】
この第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、モータ回路の温度が上昇してくる前から、徐々に電動モータ20の出力制限を開始して過熱防止を図ることができる。このため、モータ回路の過熱保護と操舵フィーリングの急変防止とを両立させることができる。尚、図9に示す電流制限用係数算出ルーチンは、車両が加速状態となる頻度に基づいてカウント値Nを加減算する構成の例を示しているが、第1実施形態の2つの変形例1,2のように、制動状態となる頻度、あるいは、加速状態および制動状態となる頻度に基づいてカウント値Nを計算する構成のものにも適用することができる。
【0066】
以上、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、本実施形態においては、加速度センサ70により検出される加速度Gに基づいて、車両の加速状態あるいは制動状態を判別しているが、スキッドECU50により実行されるトラクション制御あるいはアンチロックブレーキ制御の作動状態を表す制御信号をCAN通信システムを介して読み込み、この制御信号に基づいて加速状態あるいは制動状態を検出することもできる。
【0068】
スキッドECU50は、車両の急発進,急加速を検出したときに、駆動輪がスリップしないように、エンジンECU60やブレーキアクチュエータ(図示略)に対してトラクション制御信号を出力して、エンジンの出力を下げたりブレーキ制動を働かしたりする。従って、このトラクション制御信号が出力されたときには、車両の加速度が基準加速度を超える加速状態にあるとみなすことができる。また、スキッドECU50は、急ブレーキを検出したときに、車輪がロックしないように、ブレーキアクチュエータに対してアンチロックブレーキ制御信号を出力してブレーキ制動力を減少させる。従って、このアンチロックブレーキ制御信号が出力されたときには、車両の減速度が基準減速度を超える制動状態にあるとみなすことができる。そこで、加速度Gに代えて、スキッドECU50の制御状態を表す制御信号に基づいてカウント値Nを加減算するようにしてもよい。
【0069】
この場合、例えば、図4に示す上限電流値算出ルーチンでは、ステップS21において、スキッドECU50の制御状態を表す制御信号を読み込むようにし、ステップS23において、トラクション制御信号が出力されているか否かを判断すればよい。また、ステップS29においては、トラクション制御信号の出力が停止されたか否かを判断すればよい。
【0070】
同様に、図6に示す上限電流値算出ルーチンでは、ステップS231において、スキッドECU50の制御状態を表す制御信号を読み込むようにし、ステップS23において、アンチロックブレーキ制御信号が出力されているか否かを判断すればよい。また、ステップS291においては、アンチロックブレーキ制御信号の出力が停止されたか否かを判断すればよい。
【0071】
また、図7に示す上限電流値算出ルーチンでは、ステップS232において、スキッドECU50の制御状態を表す制御信号を読み込むようにし、ステップS23において、アンチロックブレーキ制御信号あるいはトラクション制御信号が出力されているか否かを判断すればよい。また、ステップS292においては、検出した制御信号の出力が停止されたか否かを判断すればよい。
【0072】
また、スキッドECU50の制御信号にて車両の加速状態あるいは制動状態を検出する構成は、第2実施形態においても同様に適用できるものである。
【0073】
また、スキッドECU50に代えて、エンジンECU60の制御状態情報を取得して車両の加速状態を検出するようにしてもよい。例えば、エンジンECU60からアクセル情報を取得し、アクセル開度の増加速度が基準速度を上回る場合に、車両の加速度が基準加速度を超える加速状態であるとみなすこともできる。この場合、例えば、図4に示す上限電流値算出ルーチンでは、ステップS21において、エンジンECU60の制御状態を表す信号を読み込むようにし、ステップS23において、アクセル開度の増加速度が基準速度を上回るか否かを判断すればよい。また、ステップS29においては、アクセル開度の増加が停止したか否かを判断すればよい。尚、エンジンECU60の制御状態情報に基づいて車両の加速状態を判定する構成は、第2実施形態においても同様に適用できるものである。
【符号の説明】
【0074】
10…ステアリング機構、11…操舵ハンドル、12…ステアリングシャフト、20…電動モータ、30…アシストECU、31…マイコン部、32…モータ駆動回路、41…操舵トルクセンサ、50…スキッドECU、60…エンジンECU、70…加速度センサ、71…車速センサ、72…操舵角センサ、73…ヨーレートセンサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング機構に設けられて操舵アシストトルクを発生する電動モータと、
運転者の操舵操作に基づいて前記電動モータに流す目標電流値を算出する目標電流値算出手段と、
前記算出された目標電流値にしたがって前記電動モータを駆動制御するモータ駆動制御手段と
を備えた電動パワーステアリング装置において、
車両の加速度あるいは減速度を表す情報を取得する情報取得手段と、
前記取得した情報に基づいて、車両の加速度が基準加速度を超える加速状態となった回数、あるいは、車両の減速度が基準減速度を越える制動状態となった回数をカウントするカウント手段と、
前記加速状態となった回数から、基準時間内に一度も前記加速状態とならなかった回数を減算した値、あるいは、前記制動状態となった回数から、基準時間内に一度も前記制動状態とならなかった回数を減算した値を算出する減算手段と、
前記減算手段により算出された値が大きいほど、前記電動モータの目標電流値の上限値を下げる、あるいは、前記電動モータの目標電流値に乗じる電流制限用係数を小さい値にする電流制限手段と
を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
ステアリング機構に設けられて操舵アシストトルクを発生する電動モータと、
運転者の操舵操作に基づいて前記電動モータに流す目標電流値を算出する目標電流値算出手段と、
前記算出された目標電流値にしたがって前記電動モータを駆動制御するモータ駆動制御手段と
を備えた電動パワーステアリング装置において、
車両の加速度あるいは減速度を表す情報を取得する情報取得手段と、
前記取得した情報に基づいて、車両の加速度が基準加速度を超える加速状態となった回数、あるいは、車両の減速度が基準減速度を越える制動状態となった回数をカウントするカウント手段と、
前記加速状態となった回数から、基準時間内に一度も前記加速状態とならなかった回数を減算した値、あるいは、前記制動状態となった回数から、基準時間内に一度も前記制動状態とならなかった回数を減算した値を算出する減算手段と、
前記減算手段により算出された値が大きいほど、前記電動モータの目標電流値の上限値を下げる、あるいは、前記電動モータの目標電流値に乗じる電流制限用係数を小さい値にする電流制限手段と
を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−260469(P2010−260469A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113457(P2009−113457)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]