説明

電動車両の駆動装置

【課題】モータの搭載スペースを小さくすることのできる電動車両の駆動装置を提供する。
【解決手段】電動車椅子1の駆動装置20は、各駆動輪21,22にトルクを付与する走行駆動機構30と、第1駆動輪21と第2駆動輪22とを互いに連結した状態で回転させる駆動輪リンク機構50とを有する。また、走行駆動機構30を駆動する第1モータ40と駆動輪リンク機構50を駆動する第2モータ60とを含む複合モータ70を有する。第1モータ40の第1出力軸43と第2モータ60の第2出力軸63とは互いに同じ回転中心を有し、かつ第1出力軸43および第2出力軸63が互いに独立して回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動輪にトルクを付与する走行駆動機構を備える電動車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の電動車両には、同文献の[図3]に示されるように、右側および左側のそれぞれ3つの駆動輪(走行輪211a,211b,211c)を回転させるモータ(駆動用モータ21)と、互いに連結された状態で3つの駆動輪を回転させるモータ(旋回用モータ31)とが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−243967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記電動車両は、個別に構成された2つのモータを有するため、モータを搭載するために大きなスペースを確保する必要がある。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、モータの搭載スペースを小さくすることのできる電動車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための手段を以下に記載する。
(1)第1の手段は、請求項1に記載の発明すなわち、駆動輪にトルクを付与する走行駆動機構と、走行に関連する状態または搭乗者に関連する状態を変更する機能を備える状態変更機構とを含む電動車両の駆動装置において、前記走行駆動機構を駆動する第1モータと前記状態変更機構を駆動する第2モータとを含む複合モータを備えること、ならびに、前記第1モータの出力軸と前記第2モータの出力軸とが互いに同じ回転中心を有し、かつこれら出力軸が互いに独立して回転することを要旨としている。
【0006】
上記発明によれば、複合モータに第1モータおよび第2モータを含める構成が採用されているため、個別に形成された2つのモータを平行または直列に配置する構成と比較して、モータを搭載するためのスペースを小さくすることができる。
【0007】
(2)第2の手段は、請求項2に記載の発明すなわち、駆動輪にトルクを付与する走行駆動機構を含む電動車両の駆動装置において、車両の走行方向に並べられた第1駆動輪および第2駆動輪を備えること、前記走行駆動機構として、前記第1駆動輪を回転させる第1の走行駆動機構および前記第2駆動輪を回転させる第2の走行駆動機構を備えること、前記第1の走行駆動機構を駆動する第1モータと前記第2の走行駆動機構を駆動する第2モータとを含む複合モータを備えること、ならびに、前記第1モータの出力軸と前記第2モータの出力軸とが互いに同じ回転中心を有し、かつこれら出力軸が互いに独立して回転することを要旨としている。
【0008】
上記発明によれば、複合モータに第1モータおよび第2モータを含める構成が採用されているため、個別に形成された2つのモータを平行または直列に配置する構成と比較して、モータを搭載するためのスペースを小さくすることができる。
【0009】
(3)第3の手段は、請求項3に記載の発明すなわち、請求項1または2に記載の電動車両の駆動装置において、前記第1モータおよび前記第2モータの一方はアウターロータを備えること、前記第1モータおよび前記第2モータの他方はインナーロータを備えること、ならびに、前記インナーロータが前記アウターロータの内側に設けられることを要旨としている。
【0010】
上記発明によれば、インナーロータをアウターロータの内側に設けているため、インナーロータをアウターロータの外側に設ける構成と比較して、モータの構造を簡易にすることができる。
【0011】
(4)第4の手段は、請求項4に記載の発明すなわち、請求項3に記載の電動車両の駆動装置において、前記アウターロータが前記第2モータに設けられること、前記インナーロータが前記第1モータに設けられること、ならびに、前記第1モータの出力軸が前記第2モータの出力軸の内側に設けられることを要旨としている。
【0012】
上記発明においては、アウターロータよりもインナーロータの回転半径が小さいため、第1モータおよび第2モータに同じ大きさの電流が供給されるとき、インナーロータの回転速度がアウターロータの回転速度よりも大きくなる。すなわち、第1モータの出力軸の回転速度が第2モータの出力軸の回転速度よりも大きくなる。このため、インナーロータが第2モータに設けられる構成と比較して、走行駆動機構をより大きな速度で回転させることが可能になる。
【0013】
(5)第5の手段は、請求項5に記載の発明すなわち、請求項1に記載の電動車両の駆動装置、または請求項1を引用する請求項3または4に記載の電動車両の駆動装置において、前記駆動輪として、車両の走行方向に並べられた第1駆動輪および第2駆動輪を備えること、前記状態変更機構として、前記第1駆動輪と前記第2駆動輪とを互いに連結した状態で回転させる駆動輪リンク機構を備えること、ならびに、前記第2モータの出力軸が前記駆動輪リンク機構に接続されることを要旨としている。
【0014】
上記発明においては、アウターロータよりもインナーロータの回転半径が小さいため、第1モータおよび第2モータに同じ大きさの電流が供給されるとき、アウターロータのトルクがインナーロータのトルクよりも大きくなる。すなわち、第2モータの出力軸のトルクが第1モータの出力軸のトルクよりも大きくなる。このため、アウターロータが第1モータに設けられる構成と比較して、状態変更機構により大きなトルクを付与することが可能になる。
【0015】
(6)第6の手段は、請求項6に記載の発明すなわち、請求項1に記載の電動車両の駆動装置、または請求項1を引用する請求項3〜5のいずれか一項に記載の電動車両の駆動装置において、外力に基づいて前記状態変更機構の状態が変化することを抑制する逆入力抑制装置が設けられることを要旨としている。
【0016】
状態変更機構を有する車両においては、同機構の状態を保持する要求があるとき、かつ状態変更機構に外力が作用するとき、この力に抗して状態を保持するために状態変更機構に付与する力を大きくする必要がある。上記発明によれば、逆入力抑制装置が設けられているため、状態変更機構の状態を保持するために必要となる力が小さくなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、モータの搭載スペースを小さくすることのできる電動車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態の電動車椅子について、その斜視構造を示す斜視図。
【図2】同実施形態の電動車椅子について、電気的な構成を模式的に示すブロック図。
【図3】同実施形態の電動車椅子について、走行駆動機構および駆動輪リンク機構を模式的に示す模式図。
【図4】同実施形態の電動車椅子について、複合モータの断面構造を示す断面図。
【図5】同実施形態の電動車椅子について、階段を昇るときの駆動輪の動作を模式的に示す動作図。
【図6】同実施形態の電動車椅子について、階段を降りるときの駆動輪の動作を模式的に示す動作図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態では、本発明の電動車両の駆動装置を電動車椅子に搭載した場合の一例を示している。電動車椅子としては、乗員によるジョイスティックの操作に応じて走行状態が変更されるものを採用している。
【0020】
図1を参照して、電動車椅子1の構成について説明する。
電動車椅子1は、乗員が乗るための車体10と、電動車椅子1の走行に関する各種の駆動を行うための駆動装置20とを有する。
【0021】
駆動装置20は、右側および左側の第1駆動輪21と、右側および左側の第2駆動輪22と、各駆動輪21,22にトルクを付与する走行駆動機構30(図3参照)と、車体10に対する各駆動輪21,22の位置を変更する駆動輪リンク機構50(図3参照)とを有する。なお、駆動輪リンク機構50は、状態変更機構に相当する。また、車体10に対する各駆動輪21,22の位置を変更する機能は、走行に関連する状態を変更する機能に相当する。
【0022】
車体10の右側および左側においては、それぞれ第1駆動輪21および第2駆動輪22が電動車椅子1の走行方向に並べられている。駆動輪リンク機構50は、走行方向に並べられた第1駆動輪21および第2駆動輪22を1つの組として、これら駆動輪21,22を互いにリンクした状態で車体10に対して回転させる。
【0023】
車体10は、乗員が座るための座部11と、背中を支持する背もたれ12と、肘を掛けるための肘掛け13と、足を乗せるための足台14と、座部11の下方に配置されて各機構30,50およびバッテリ(図示略)を収納する本体部15とを有する。
【0024】
右側の肘掛け13には、乗員が電動車椅子1を操作するための操作部16が設けられている。操作部16には、走行方向および走行速度を制御するためのジョイスティック17と、階段を昇るモードおよび階段を降りるモードを選択するための階段ボタン18とが設けられている。
【0025】
図2を参照して、電動車椅子1の電気的な構成について説明する。
電動車椅子1は、走行方向に並べられた各駆動輪21,22の組のそれぞれに対応して設けられた2つの複合モータ70と、各種演算を行う制御部80とを有する。
【0026】
右側の複合モータ70は、右側の走行駆動機構30を駆動する第1モータ40と、右側の駆動輪リンク機構50を駆動する第2モータ60とを有する。左側の複合モータ70は、左側の走行駆動機構30を駆動する第1モータ40と、左側の駆動輪リンク機構50を駆動する第2モータ60とを有する。
【0027】
制御部80は、操作部16の操作状態に基づいて各モータ40,60に対する制御信号を生成する電子制御装置83と、電子制御装置83から出力された制御信号に基づいて第1モータ40に電力を供給する第1駆動回路81と、電子制御装置83から出力された制御信号に基づいて第2モータ60に電力を供給する第2駆動回路82とを有する。
【0028】
操作部16の操作状態を示す操作信号が操作部16から電子制御装置83に入力されたとき、電子制御装置83は第1駆動回路81および第2駆動回路82に制御信号を送信する。第1駆動回路81および第2駆動回路82は、電子制御装置83からの制御信号に応じて第1モータ40および第2モータ60をそれぞれ制御する。
【0029】
電動車椅子1の制御態様について説明する。
電子制御装置83は、乗員により操作部16のジョイスティック17が前方に倒されたとき、ジョイスティック17の操作量に対応した速度で各駆動輪21,22を前方に回転させるための第1モータ40の制御信号を生成する。そして、第1駆動回路81にこの制御信号を出力する。第1駆動回路81は、同制御信号に基づいて第1モータ40に電力を供給する。これにより、各駆動輪21,22がジョイスティック17の操作量に対応した速度で前方に回転する。このとき、電動車椅子1が前進する。
【0030】
電子制御装置83は、乗員により操作部16のジョイスティック17が後方に倒されたとき、ジョイスティック17の操作量に対応した速度で各駆動輪21,22を後方に回転させるための第1モータ40の制御信号を生成する。そして、第1駆動回路81にこの制御信号を出力する。第1駆動回路81は、同制御信号に基づいて第1モータ40に電力を供給する。これにより、各駆動輪21,22がジョイスティック17の操作量に対応した速度で後方に回転する。このとき、電動車椅子1が後退する。
【0031】
電子制御装置83は、乗員により操作部16のジョイスティック17が右方に倒されたとき、ジョイスティック17の操作量に対応した速度で各駆動輪21,22を前方に回転させるための第1モータ40の制御信号を生成する。そして、第1駆動回路81にこの制御信号を出力する。このとき、左側の各駆動輪21,22の回転速度が右側の各駆動輪21,22の回転速度よりも大きくなるように制御信号が生成される。第1駆動回路81は、同制御信号に基づいて第1モータ40に電力を供給する。これにより、ジョイスティック17の操作量に対応した速度で右側および左側の各駆動輪21,22が前方に回転する。このとき、右側の各駆動輪21,22の回転速度と左側の各駆動輪21,22の回転速度との差に基づいて電動車椅子1が右折する。
【0032】
電子制御装置83は、乗員により操作部16のジョイスティック17が左方に倒されたとき、ジョイスティック17の操作量に対応した速度で駆動輪21,22を前方に回転させるための第1モータ40の制御信号を生成する。そして、第1駆動回路81にこの制御信号を出力する。このとき、右側の各駆動輪21,22の回転速度が左側の各駆動輪21,22の回転速度よりも大きくなるように制御信号が生成される。第1駆動回路81は、同制御信号に基づいて第1モータ40に電力を供給する。これにより、ジョイスティック17の操作量に対応した速度で右側および左側の各駆動輪21,22が前方に回転する。このとき、右側の各駆動輪21,22の回転速度と左側の各駆動輪21,22の回転速度との差に基づいて電動車椅子1が左折する。
【0033】
階段ボタンの操作に対応した電動車椅子1の動作について説明する。
電子制御装置83は、乗員により階段ボタン18が押されたとき、ギアボックス51を前方に回転させるための第2モータ60の制御信号を生成する。そして、第2駆動回路82にこの制御信号を出力する。第2駆動回路82は、同制御信号に基づいて第2モータ60に電力を供給する。これにより、ギアボックス51が前方に回転する。このとき、電動車椅子1が階段を昇る。または、電動車椅子1が階段を降りる。
【0034】
図3を参照して、走行駆動機構30および駆動輪リンク機構50の構成について説明する。なお、同図においては、走行駆動機構30を実線で示し、駆動輪リンク機構50を破線で示している。
【0035】
走行駆動機構30の構成について説明する。
走行駆動機構30は、駆動源としての第1モータ40と、第1モータ40の第1出力軸43に設けられる中間ギア31と、中間ギア31と噛み合うとともに中間ギア31を挟んで互いに対向する位置に配置される第1ギア32および第2ギア34とを有する。
【0036】
第1ギア32の第1ギア軸33は、第1駆動輪21の車軸として構成されている。第2ギア34の第2ギア軸35は、第2駆動輪22の車軸として構成されている。これにより、第1モータ40の駆動により第1出力軸43が回転したとき、中間ギア31および第1ギア32を介して第1駆動輪21が回転する。また、中間ギア31および第2ギア34を介して第2駆動輪22が回転する。中間ギア31と第1ギア32とのギア比、および中間ギア31と第2ギア34とのギア比が互いに等しいため、第1駆動輪21および第2駆動輪22は同じ回転速度で回転する。
【0037】
駆動輪リンク機構50の構成について説明する。
駆動輪リンク機構50は、駆動源としての第2モータ60と、第2モータ60の第2出力軸63と接続されるギアボックス51と、第2出力軸63およびギアボックス51との間に設けられる逆入力抑制装置53とを有する。
【0038】
ギアボックス51の内部には、走行駆動機構30の中間ギア31、第1ギア32、および第2ギア34が収納されている。第1ギア軸33および第2ギア軸35は、ギアボックス51の筐体を貫通している。このため、第2モータ60の駆動により第2出力軸63が回転したとき、ギアボックス51に第2出力軸63の軸中心を中心に回転する回転トルクが付与される。このとき、ギアボックス51の筐体と第1ギア軸33および第2ギア軸35とが接触することにより、第2出力軸63の軸中心を中心に回転する回転トルクが第1ギア軸33および第2ギア軸35に付与される。
【0039】
逆入力抑制装置53は、第2出力軸63とリンク軸52との間に設けられている。第2出力軸63が回転したとき、逆入力抑制装置53は第2出力軸63と一体的に回転するとともに、この回転トルクをリンク軸52に伝達する。これにより、リンク軸52およびギアボックス51が回転する。
【0040】
一方、外力に基づく回転トルクがギアボックス51に付与されたとき、逆入力抑制装置53は車体10に対するギアボックス51の回転位置を保持する。すなわち、逆入力抑制装置53はギアボックス51およびリンク軸52に付与された外力の回転トルクを遮断する。このため、駆動輪リンク機構50に外力が作用したとき、駆動輪リンク機構50の状態が保持される。なお、外力に基づく回転トルクは、例えば電動車椅子1が斜面を走行するとき、または電動車椅子1が段差を乗り超えるとき、ギアボックス51に作用する。
【0041】
図4を参照して、複合モータ70の構造について説明する。なお、以下では、モータ70から各駆動輪21,22に向かう回転トルクの伝達方向を下流方向とする。
複合モータ70においては、第1モータ40の出力軸43の軸中心Cと、第2モータ60の出力軸63の軸中心Cとが同心を有する。また、同一のケース71内において、第2モータ60の内側に第1モータ40が配置されている。すなわち、第1モータ40および第2モータ60を構成する各部材が同心状に配置されている。
【0042】
第1モータ40は、ステータ41と、ステータ41の内側で回転するインナーロータ42と、インナーロータ42と一体的に回転する第1出力軸43とを有する。
第2モータ60は、ステータ61と、ステータ61の外側で回転するアウターロータ62と、アウターロータ62と一体的に回転する第2出力軸63とを有する。
【0043】
ケース71は、複合モータ70の外周を形成する外周部72と、外周部72と接続されるとともに第1モータ40のステータ41と第2モータ60のステータ61との間に設けられる隔壁部73とを有する。
【0044】
外周部72の内周には、アウターロータ62が設けられている。アウターロータ62の内周にはコイルが巻き付けられたステータ61が設けられている。ステータ61の内周には、隔壁部73を介在してコイルが巻き付けられたステータ41が設けられている。ステータ41の内周には、インナーロータ42が設けられている。インナーロータ42の内周には、第1出力軸43が設けられている。
【0045】
ステータ61およびステータ41は、隔壁部73に固定されている。アウターロータ62の下流方向の端部、すなわちアウターロータ62の各駆動輪21,22側の端部は、第2出力軸63に接続されている。インナーロータ42は、その内周において第1出力軸43に接続されている。
【0046】
第1モータ40のコイルに電流が流されたとき、インナーロータ42の回転により第1出力軸43が回転する。第2モータ60のコイルに電流が流されたとき、アウターロータ62の回転により第2出力軸63が回転する。
【0047】
図5および図6を参照して、駆動輪リンク機構50の動作について説明する。なお、第1駆動輪21および第2駆動輪22は、駆動輪リンク機構50により走行方向に対する互いの相対的な位置が変化する。同図においては、第1駆動輪21が第2駆動輪22よりも前方にあるときの駆動輪リンク機構50の動作を示している。なお、第2駆動輪22が第2駆動輪22よりも前方にあるとき、駆動輪リンク機構50は第1駆動輪21が第2駆動輪22よりも前方にあるときと同様に動作するため、図示を省略する。
【0048】
図5を参照して、第1駆動輪21が昇段の段差に接触した状態(図5(a))において乗員により階段ボタン18が押されたときの駆動輪リンク機構50の動作について説明する。なお、駆動輪リンク機構50が動作するとき、第1モータ40の駆動により各駆動輪21,22の回転がロックされる。
【0049】
階段の昇りは以下の(X1)〜(X3)の動作により行われる。(X3)の動作が終了した後に段差が検出されたとき、再び(X1)〜(X3)の動作が繰り返される。これにより、電動車椅子1が階段を昇る動作を継続する。
(X1)第2モータ60の駆動によりギアボックス51に回転トルクが付与される。このとき、第1駆動輪21が接地しているため、第2駆動輪22が第1駆動輪21に対して公転する(図5(a))。
(X2)第2駆動輪22が第1駆動輪21の上方に持ち上がる(図5(b))。
(X3)第2駆動輪22が階段の上段に接地する(図5(c))。
【0050】
図6を参照して、第1駆動輪21が降段の段差の手前にある状態(図6(a))において乗員により階段ボタン18が押されたときの駆動輪リンク機構50の動作について説明する。なお、駆動輪リンク機構50が動作するとき、第1モータ40の駆動により各駆動輪21,22の回転がロックされる。
【0051】
階段の降りは以下の(Y1)〜(Y3)の動作により行われる。(Y3)の動作が終了した後に段差が検出されたとき、再び(Y1)〜(Y3)の動作が繰り返される。これにより、電動車椅子1が階段を降りる動作を継続する。
(Y1)第2モータ60の駆動によりギアボックス51に回転トルクが付与される。このとき、第1駆動輪21が接地しているため、第2駆動輪22が第1駆動輪21に対して公転する(図6(a))。
(Y2)第2駆動輪22が第1駆動輪21の上方に持ち上がる(図6(b))。
(Y3)第2駆動輪22が階段の下段に接地する(図6(c))。
【0052】
(実施形態の効果)
本実施形態の電動車椅子1によれば以下の効果が得られる。
(1)電動車椅子1は、走行駆動機構30を駆動する第1モータ40と駆動輪リンク機構50を駆動する第2モータ60とを含む複合モータ70を有する。また、第1出力軸43と第2出力軸63とが互いに同じ軸中心Cを有し、かつこれら出力軸43,63が互いに独立して回転する。この構成によれば、個別に形成された2つのモータを平行または直列に配置する構成と比較して、モータの搭載スペースを小さくすることができる。
【0053】
(2)走行駆動機構のモータと駆動輪リンク機構のモータとを平行に配置する構成においては、走行駆動機構のモータの出力軸と駆動輪リンク機構のモータの出力軸とが離れる。このため、駆動輪リンク機構の出力軸が回転したとき、走行駆動機構の出力軸は駆動輪リンク機構の出力軸に対して公転する。このとき、駆動輪リンク機構の回転にともない走行駆動機構の電力供給線が連れ回りするため、電力供給線がねじれる。また、電力供給線が出力軸に絡まるおそれがある。このため、電力供給線にスリップリングを設ける必要がある。
【0054】
電動車椅子1の複合モータ70においては、第1出力軸43と第2出力軸63とが互いに同じ軸中心Cを有している。この構成によれば、駆動輪リンク機構50の回転にともない走行駆動機構30の第1モータ40への電力供給線が連れ回りすることが抑制される。このため、電力供給線にスリップリングを設ける必要がない。
【0055】
(3)電動車椅子1の複合モータ70においては、第1モータ40のインナーロータ42が第2モータ60のアウターロータ62の内側に設けられている。この構成によれば、インナーロータ42をアウターロータ62の外側に設ける構成と比較して、複合モータ70の構造を簡易にすることができる。
【0056】
(4)電動車椅子1の複合モータ70においては、アウターロータ62がインナーロータ42の外側に設けられている。また、第1出力軸43が第2出力軸63の内側に設けられている。この構成によれば、アウターロータ62よりもインナーロータ42の回転半径が小さいため、第1モータ40および第2モータ60に同じ大きさの電流が供給されるとき、インナーロータ42の回転速度がアウターロータ62の回転速度よりも大きくなる。すなわち、第1出力軸43の回転速度が第2出力軸63の回転速度よりも大きくなる。このため、インナーロータ42が第2モータ60に設けられる構成と比較して、走行駆動機構30をより大きな速度で回転させることが可能になる。
【0057】
(5)電動車椅子1は、第1駆動輪21と第2駆動輪22とを互いに連結した状態で回転させる駆動輪リンク機構50を有する。この構成によれば、アウターロータ62よりもインナーロータ42の回転半径が小さいため、第1モータ40および第2モータ60に同じ大きさの電流が供給されるとき、アウターロータ62のトルクがインナーロータ42のトルクよりも大きくなる。すなわち、第2出力軸63のトルクが第1出力軸43のトルクよりも大きくなる。このため、アウターロータ62が第1モータ40に設けられる構成と比較して、駆動輪リンク機構50により大きなトルクを付与することが可能になる。
【0058】
(6)電動車椅子1は、駆動輪リンク機構50を有するため、駆動輪リンク機構50の状態を保持する要求があるとき、かつ駆動輪リンク機構50に外力が作用するとき、この力に抗して状態を保持するために駆動輪リンク機構50に付与する力を大きくする必要がある。
【0059】
一方、電動車椅子1は、外力に基づいて駆動輪リンク機構50の状態が変化することを抑制する逆入力抑制装置53を有する。このため、逆入力抑制装置53が設けられていない構成と比較して、駆動輪リンク機構50の状態を保持するために必要となる力が小さくなる。これにより、駆動輪リンク機構50の制御により消費される電力量が少なくなる。
【0060】
(7)電動車椅子1の複合モータ70は、第1モータ40のステータ41と第2モータ60のステータ61との間にケース71の隔壁部73を有する。この構成によれば、第1モータ40のステータ41および第2モータ60のステータ61を隔壁部73に固定することができる。これにより、隔壁部73が設けられていない構成と比較して、複合モータ70の組み付け時の誤差を小さくすることができる。
【0061】
(その他の実施形態)
本発明の実施態様は上記実施形態に限られるものではなく、例えば以下に示すように変更することもできる。また以下の各変形例は、上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0062】
・上記実施形態(図3)では、第2モータ60により駆動する機構として駆動輪リンク機構50を採用したが、駆動輪リンク機構50に代えて、駆動輪リンク機構50とは別の状態変更機構を第2モータ60により駆動することもできる。別の状態変更機構としては、搭乗者に関連する状態を変更する機能を備えるものが挙げられる。また、そのような状態変更機構の具体的な例としては以下の(A)〜(C)が挙げられる。
(A)座部11を上方および下方に移動させる状態変更機構。
(B)座部11を前方および後方にスライドさせる状態変更機構。
(C)背もたれ12を前方および後方に傾斜させる状態変更機構。
【0063】
・上記実施形態(図3)では、第1駆動輪21および第2駆動輪22を走行駆動機構30の第1モータ40により駆動したが、第1駆動輪21および第2駆動輪22を各別の走行駆動機構30により駆動することもできる。すなわち、中間ギア31を省略するとともに第1駆動輪21を走行駆動機構30の第1モータ40により駆動し、かつ第2駆動輪22を第1モータ40とは別のモータにより駆動することもできる。
【0064】
・上記変形例において、第1駆動輪21を駆動する走行駆動機構30を第1モータ40により駆動するとともに、第2駆動輪22を駆動する走行駆動機構を第2モータ60により駆動することもできる。なお、この構成において、第1駆動輪21を駆動する走行駆動機構30は、第1の走行駆動機構に相当する。また、第2駆動輪22を駆動する走行駆動機構は、第2の走行駆動機構に相当する。
【0065】
・上記実施形態(図3)では、走行駆動機構30が第1モータ40を有し、かつ駆動輪リンク機構50が第2モータ60を有する構成を採用しているが、走行駆動機構30が第2モータ60を有し、かつ駆動輪リンク機構50が第1モータ40を有する構成を採用することもできる。
【0066】
・上記実施形態(図4)では、第1モータ40はインナーロータ42を備えているが、インナーロータ42に代えて、アウターロータを備えることもできる。
・上記実施形態(図4)では、第2モータ60はアウターロータ62を備えているが、アウターロータ62に代えて、インナーロータを備えることもできる。
【0067】
・上記実施形態(図3)では、駆動輪リンク機構50に逆入力抑制装置53を設けたが、逆入力抑制装置53を省略することもできる。この場合、外力に基づく回転トルクがギアボックス51に付与されたときには、この回転トルクと逆方向の回転トルクを第2モータ60により付与することにより、ギアボックス51が回転することを抑制することができる。
【0068】
・上記実施形態(図1)では、右側および左側にそれぞれ第1駆動輪21および第2駆動輪22を備える4輪の電動車椅子に本発明を適用したが、右側および左側にそれぞれ1つ、または3つ以上の駆動輪を備える電動車椅子に本発明を適用することもできる。
【0069】
・上記実施形態(図1)では、電動車椅子に本発明を適用したが、乗員が立位で搭乗する電動車両に本発明を適用することもできる。また、電気自動車に本発明を適用することもできる。
【0070】
・本発明の適用対象となる電動車両の駆動装置は上記実施形態に例示の構成に限られるものではない。すなわち、駆動輪にトルクを付与する走行駆動機構を含む電動車両の駆動装置であれば、いずれの構成を有する電動車両の駆動装置に対しても本発明を適用することができる。また、その場合にも上記実施形態の効果に準じた効果が得られる。
【符号の説明】
【0071】
1…電動車椅子(電動車両)、10…車体、20…駆動装置、21…第1駆動輪、22…第2駆動輪、30…走行駆動機構、40…第1モータ、42…インナーロータ、43…第1出力軸(第1モータの出力軸)、50…駆動輪リンク機構(状態変更機構)、51…ギアボックス、52…リンク軸、53…逆入力抑制装置、60…第2モータ、62…アウタ−ロータ、63…第2出力軸(第2モータの出力軸)、70…複合モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪にトルクを付与する走行駆動機構と、走行に関連する状態または搭乗者に関連する状態を変更する機能を備える状態変更機構とを含む電動車両の駆動装置において、
前記走行駆動機構を駆動する第1モータと前記状態変更機構を駆動する第2モータとを含む複合モータを備えること、
ならびに、前記第1モータの出力軸と前記第2モータの出力軸とが互いに同じ回転中心を有し、かつこれら出力軸が互いに独立して回転すること
を特徴とする電動車両の駆動装置。
【請求項2】
駆動輪にトルクを付与する走行駆動機構を含む電動車両の駆動装置において、
車両の走行方向に並べられた第1駆動輪および第2駆動輪を備えること、
前記走行駆動機構として、前記第1駆動輪を回転させる第1の走行駆動機構および前記第2駆動輪を回転させる第2の走行駆動機構を備えること、
前記第1の走行駆動機構を駆動する第1モータと前記第2の走行駆動機構を駆動する第2モータとを含む複合モータを備えること、
ならびに、前記第1モータの出力軸と前記第2モータの出力軸とが互いに同じ回転中心を有し、かつこれら出力軸が互いに独立して回転すること
を特徴とする電動車両の駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動車両の駆動装置において、
前記第1モータおよび前記第2モータの一方はアウターロータを備えること、
前記第1モータおよび前記第2モータの他方はインナーロータを備えること、
ならびに、前記インナーロータが前記アウターロータの内側に設けられること
を特徴とする電動車両の駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動車両の駆動装置において、
前記アウターロータが前記第2モータに設けられること、
前記インナーロータが前記第1モータに設けられること、
ならびに、前記第1モータの出力軸が前記第2モータの出力軸の内側に設けられること
を特徴とする電動車両の駆動装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電動車両の駆動装置、または請求項1を引用する請求項3または4に記載の電動車両の駆動装置において、
前記駆動輪として、車両の走行方向に並べられた第1駆動輪および第2駆動輪を備えること、
前記状態変更機構として、前記第1駆動輪と前記第2駆動輪とを互いに連結した状態で回転させる駆動輪リンク機構を備えること、
ならびに、前記第2モータの出力軸が前記駆動輪リンク機構に接続されること
を特徴とする電動車両の駆動装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電動車両の駆動装置、または請求項1を引用する請求項3〜5のいずれか一項に記載の電動車両の駆動装置において、
外力に基づいて前記状態変更機構の状態が変化することを抑制する逆入力抑制装置が設けられること
を特徴とする電動車両の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−17251(P2013−17251A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146429(P2011−146429)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】