説明

電圧駆動型半導体素子の駆動装置および方法

【課題】 従来の電圧駆動型半導体素子の駆動装置では、複数の駆動回路による駆動の切り換えを、遅延回路を用いて行っていたので、電圧駆動型半導体素子の特性ばらつきや温度特性の影響により、遅延時間の設定が困難であった。
【解決手段】 IGBT1等の電圧駆動型半導体素子の駆動装置10であって、IGBT1のターンオン時に、該IGBT1のゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtを検出し、検出した時間変化率dVge/dtに基づいてIGBT1の駆動制御を行い、前記ターンオン時には、ゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtが閾値Vth1以上となる第1区間S1と、該第1区間S1に続く、ゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtが閾値Vth1未満となる第2区間S2とが存在し、第2区間S2におけるゲート抵抗値rが、第1区間S1におけるゲート抵抗値rよりも低い値となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターンオン時に発生するサージ電圧を低減しつつ、ターンオン損失の減少を図ることができる、電圧駆動型半導体素子の駆動装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IGBT(Insulated gate bipolar transistor)やMOSGTO(Metal oxide gate turn−off thyristor)等は、絶縁ゲートに加える電圧で電流を制御できる、いわゆる電圧駆動型半導体素子であり、電流駆動型のバイポーラトランジスタやGTOよりも駆動電力が小さいため、電源やインバータ等に広く用いられている。
このような電圧駆動型半導体素子におけるターンオン時には、ゲート抵抗の値が小さければコレクタ電流の時間変化率が大きくなって、大きなサージ電圧が発生することとなる一方、ゲート抵抗の値が大きければコレクタ電流の時間変化率が小さくなり、ターンオン損失が増大することとなっていた。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば特許文献1に記載されるように、ターンオンの開始時にはゲート抵抗の値を高く設定して、コレクタ電流の時間変化率を小さくすることによりサージ電圧を低減し、ターンオン開始から一定時間経過後にゲート抵抗を低い抵抗値に切り換えて、ターンオン損失を低減するような、駆動制御が行われている。
この駆動制御においては、電圧駆動型半導体素子の駆動回路を複数用意して、一方の駆動回路と電圧駆動型半導体素子とを高い抵抗値のゲート抵抗を介して接続するとともに、他方の駆動回路と電圧駆動型半導体素子とを低い抵抗値のゲート抵抗を介して接続し、一方の駆動回路による駆動と他方の駆動回路による駆動とを、遅延回路を用いて切り換えるように構成して、ゲート抵抗の値を切り換えるようにしていた。
また、一方の駆動回路による駆動と他方の駆動回路による駆動との切り換えは、コレクタ−エミッタ間の電圧Vceや、ゲート電圧Vgeや、コレクタ電流Iceの検出回路を設けて、検出したこれらの値に基づいて行う方法等もある。
【特許文献1】特開平9−46201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述の特許文献1に記載された技術のように、複数の駆動回路による駆動の切り換えを、遅延回路を用いて行った場合、電圧駆動型半導体素子の特性ばらつきや温度特性の影響を受けて、該遅延回路にて設定される遅延時間もばらつくため、該遅延時間の設定が困難となる。
また、コレクタ−エミッタ間の電圧Vceを検出するための検出回路においては、該検出回路に含まれるツェナーダイオードに高い耐圧特性が求められるため、複数のツェナーダイオードを直列接続する必要があって回路規模が大きくなってしまう。さらに、コレクタ−エミッタ間の電圧Vceには、他相の電圧性スイッチングノイズが乗るため、コレクタ−エミッタ間の電圧Vceを誤検出してしまう恐れがある。
また、ゲート電圧Vgeを検出対象とした場合、電圧駆動型半導体素子のゲート閾値電圧(コレクタ電流Iceが流れ始めるゲート電圧)が温度特性を有していて、その温度特性が素子毎に異なるため、ゲート電圧Vgeの検出回路における駆動切換の閾値の設定が困難となる。
【0005】
また、コレクタ電流Iceを検出対象とした場合は、コレクタ電流Iceを検出するためのセンス用素子を電圧駆動型半導体素子と並列に設ける必要があるが、電圧駆動型半導体素子およびセンス用素子に電流が流れるタイミングが、過渡的にずれてしまうため、ターンオン時やターンオフ時におけるコレクタ電流Iceの検出精度が悪くなってしまう。さらに、複数の電圧駆動型半導体素子を並列接続した回路では、ターンオン時やターンオフ時に、コレクタ電流Iceが、該複数の電圧駆動型半導体素子に均等に流れない場合があるため、電圧駆動型半導体素子の特性によっては、ゲート抵抗値の切り換えタイミングがずれてしまうという問題がある。
また、特許文献1に記載の技術では、切り換えが行われるゲート抵抗と同じ数だけのゲート駆動回路が必要となって、回路規模が大きくなるとともに、それぞれのゲート駆動回路に対して電流駆動能力が必要となるため、装置の小型化が困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する電圧駆動型半導体素子の駆動装置および方法は、以下の特徴を有する。
即ち、請求項1記載のごとく、電圧駆動型半導体素子の駆動装置であって、電圧駆動型半導体素子のターンオン時に、該電圧駆動型半導体素子のゲート電圧の時間変化率を検出し、検出したゲート電圧の時間変化率に基づいて電圧駆動型半導体素子の駆動制御を行う。
これにより、遅延回路を用いて駆動制御を行った場合のように、電圧駆動型半導体素子の特性ばらつきや温度特性の影響を受けることがなく、高精度な駆動制御を行うことができ、制御条件の設定を容易に行うことができる。
【0007】
また、請求項2記載のごとく、前記ターンオン時には、ゲート電圧の時間変化率が一定値以上となる第1の区間と、該第1の区間に続く、ゲート電圧の時間変化率が一定値未満となる第2の区間とが存在し、第2の区間におけるゲート抵抗値が、第1の区間におけるゲート抵抗値よりも低い値となるように制御する。
これにより、遅延回路を用いてゲート抵抗値を切り換えた場合のように、電圧駆動型半導体素子の特性ばらつきや温度特性の影響を受けることがなく、高精度な制御を行うことができ、ゲート抵抗値の切り換えタイミングの設定を容易に行うことができる。
さらに、高精度での制御が可能となることで、第2の区間の時間が短くなっても正確なスイッチング制御を行うことができ、高速制御が可能となる。
また、駆動装置を低い耐圧特性の素子を用いて構成できるため回路規模を小さくすることができるとともに、他相のスイッチングノイズの影響を受け難いので、誤検出の発生を抑えることができる。
【0008】
また、請求項3記載のごとく、前記電圧駆動型半導体素子の駆動装置は、第1のゲート抵抗、および第1のゲート抵抗と並列に設けられる第2のゲート抵抗と、第1のゲート抵抗に接続された第1のスイッチング素子、および第2のゲート抵抗に接続された第2のスイッチング素子とを備え、前記第1の区間には第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子の何れか一方をオンして、前記第2の区間には第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子の両方をオンする。
これにより、ゲート抵抗毎にゲート駆動回路を設けた場合に比べて駆動回路等を小型化することができる。
【0009】
また、請求項4記載のごとく、電圧駆動型半導体素子のターンオン時に、該電圧駆動型半導体素子のゲート電圧の時間変化率を検出し、ターンオン時におけるゲート電圧の時間変化率が一定値以上となる第1の区間のゲート抵抗値よりも、該第1の区間に続く、ゲート電圧の時間変化率が一定値未満となる第2の区間のゲート抵抗値を、低く制御する。
これにより、遅延回路を用いてゲート抵抗値を切り換えた場合のように、電圧駆動型半導体素子の特性ばらつきや温度特性の影響を受けることがなく、高精度な制御を行うことができ、ゲート抵抗値の切り換えタイミングの設定を容易に行うことができる。
さらに、高精度での制御が可能となることで、第2の区間の時間が短くなっても正確なスイッチング制御を行うことができ、高速制御が可能となる。
また、駆動装置を低い耐圧特性の素子を用いて構成できるため回路規模を小さくすることができるとともに、他相のスイッチングノイズの影響を受け難いので、誤検出の発生を抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電圧駆動型半導体素子の高精度な駆動制御を行うことができ、制御条件の設定を容易に行うことができるとともに、高速制御を行うことが可能となる。
また、駆動装置の回路規模を小さくすることができるとともに、誤検出の発生を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0012】
まず、本発明にかかる電圧駆動型半導体素子の駆動装置の概略構成について説明する。
図1に示すように、電圧駆動型半導体素子であるIGBT1の駆動装置10は、IGBT1のターンオン用のスイッチング素子Q1・Q3と、IGBT1のターンオフ用のスイッチング素子Q2と、IGBT1のゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtを検出するゲート電圧変化率検出回路2と、ゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtの値と予め設定される閾値Vth1とを比較する比較回路3と、前記ターンオン用のスイッチング素子Q1・Q3およびターンオフ用のスイッチング素子Q2のオン・オフ制御を行う制御回路4と、IGBT1の駆動用電源6と、IGBT1のゲート抵抗R1・R2・R3とを備えている。
また、IGBT1にはダイオードDが並列接続されている。
【0013】
ゲート抵抗R1とゲート抵抗R3、およびゲート抵抗R2とゲート抵抗R3とは、それぞれ直列接続され、該ゲート抵抗R1とゲート抵抗R2とは並列接続されており、スイッチング素子Q3はゲート抵抗R1およびゲート抵抗R3を介してIGBT1に接続され、スイッチング素子Q1・Q2はゲート抵抗R2およびゲート抵抗R3を介してIGBT1に接続されている。
【0014】
また、制御回路4は、ターンオン時およびターンオフ時に、それぞれスイッチング素子Q1およびスイッチング素子Q2をオン・オフ制御するとともに、ターンオン時に比較回路3からの出力に応じて前記スイッチング素子Q3のオン・オフ制御を行う。
制御回路4におけるスイッチング素子Q3のオン・オフ制御は、比較回路3に入力されたゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtが閾値Vth1よりも大きいか否かに基づいて行われる。つまり、比較回路3から、時間変化率dVge/dtが閾値Vth1よりも大きい旨の比較結果が出力されるとスイッチング素子Q3をオフして、時間変化率dVge/dtが閾値Vth1以下である旨の比較結果が出力されるとスイッチング素子Q3をオンする制御を行う。
【0015】
前記ゲート電圧変化率検出回路2は、例えば、抵抗とコンデンサを用いたCR微分回路にて構成されている。また、ゲート電圧変化率検出回路2は、図2に示すように、オペアンプを用いて微分回路にて構成することも可能である。
そして、例えば、このように構成される駆動装置10とIGBT1との組を6組備えて、3相モータ駆動用のインバータが構成される。
【0016】
次に、駆動装置10のターンオン時における動作を、図3に示すタイミングチャートを用いて説明する。
ターンオン開始時(時刻t1)には、まず制御回路4に対して外部からIGBTターンオン信号が入力され、該制御回路4によりスイッチング素子Q1がオンされる。
【0017】
スイッチング素子Q1がオンされると、IGBT1のゲート抵抗値rが、ゲート抵抗R2の抵抗値r2とゲート抵抗R3の抵抗値r3とを加えた値となった状態で、該IGBT1が充電される。
つまり、ターンオン開始時におけるゲート抵抗値rは、「r=r2+r3」となっている。
【0018】
IGBT1の充電が開始されると、ゲート電圧Vgeが上昇して、ゲート電圧変化率検出回路2により検出されるゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtが閾値Vth1を超えるため、スイッチング素子Q3は制御回路4によりオフされる。
【0019】
一方、ターンオン開始時からゲート電圧Vgeが上昇するが、IGBT1のコレクタ電流Iceはゲート電圧Vgeが予め設定された閾値Vth2に達するまでの時刻t2までは流れず、ゲート電圧Vgeが閾値Vth2を超えると流れ始める。
コレクタ電流Iceは流れ始めから上昇していき、やがて時刻t3となると定常値に落ち着く。
【0020】
この、ターンオン開始の時刻t1からコレクタ電流Iceが定常値となる時刻t3までの間を第1区間S1と称する。
この第1区間S1では、スイッチング素子Q3はオフされ、スイッチング素子Q1のみがオン状態となっている。
【0021】
第1区間S1において、上昇過程にあるコレクタ電流Iceの時間変化率dIce/dtが大きくなると、IGBT1と並列接続されるダイオードDにリカバリーサージ電圧が発生してしまう。リカバリーサージ電圧が発生すると、ダイオードDやIGBT1が破壊されたり、このサージ電圧に起因して生じたノイズにより誤動作が引き起こされたりする恐れがある。
【0022】
従って、本制御装置10においては、ゲート抵抗R2とゲート抵抗R3とを直列接続してゲート抵抗値rをr2+r3と大きな値とすることで、上昇時におけるコレクタ電流Iceの時間変化率dIce/dtを低減し、リカバリーサージ電圧の発生を抑制するようにしている。
【0023】
コレクタ電流Iceが定常値となる時刻t3以降は、コレクタ電圧Vceの時間変化率が減少し始める。
このとき、IGBT1のコレクタ・ゲート間容量Ccgに充電がなされるため、ゲート電圧Vgeが一定値となり、ゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtが0となって閾値Vth1以下の値となる。
【0024】
時刻t3以降に、ゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtが閾値Vth1以下の値となると、スイッチング素子Q3が制御回路4によりオンされ、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q3とが共にオンされた状態となる。
この状態ではゲート抵抗値rは、「r=1/((1/r1)+(1/r2))+r3」となっている。なお、ここでr1はゲート抵抗R1の抵抗値である。
【0025】
時刻t3以降、コレクタ電圧Vceが低下して飽和電圧に達すると、再度ゲート電圧Vgeが上昇し始めるが、このコレクタ電圧Vceが飽和電圧に達してゲート電圧Vgeが上昇し始める時刻が時刻t4であり、時刻t3から時刻t4までの間を第2区間S2と称する。
この第2区間S2では、ゲート抵抗値rはr=1/((1/r1)+(1/r2))+r3となっており、前述の第1区間におけるゲート抵抗値r=r2+r3よりも小さな値となっている。
【0026】
このように、第2区間S2では、第1区間S1よりも低いゲート抵抗値rにてターンオンするようにしているので、第1区間S1と同じゲート抵抗値rでターンオンさせた場合に比べて、第2区間S2の時間を短くすることができ、その結果ターンオン損失を低減することが可能となっている。
【0027】
次に、コレクタ電圧Vceが飽和電圧に達した後(時刻t4以降)は、ゲート電圧Vgeが再度上昇を開始する。ゲート電圧Vgeは、該ゲート電圧Vgeが駆動用電源6の電圧に達する時刻t5まで上昇し、ゲート電圧Vgeが駆動用電源6の電圧に達した後は一定となる。
【0028】
なお、時刻t4以降、ゲート電圧Vgeが上昇している間は、ゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtが閾値Vth1を超えるためスイッチング素子Q3はオフされ、ゲート電圧Vgeが駆動用電源6の電圧に達して一定となる時刻t5以降は、ゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtが閾値Vth1以下となるためスイッチング素子Q3はオンされる。また、この時刻t4以降(時刻t5以降も含む)を第3区間S3と称する。
【0029】
この第3区間S3では、コレクタ電流Iceおよびコレクタ電圧Vceが共に定常値を示す定常状態となっているため、ゲート抵抗値rの大小、つまりスイッチング素子Q3のオン・オフはリカバリーサージ電圧やターンオン損失の大きさには関係しない。
従って、スイッチング素子Q3をオン制御するかオフ制御するかは問わない。
【0030】
ここで、ターンオン時におけるゲート抵抗値rを、第1区間S1および第2区間S2を通じてr=r2+r3に設定して、ゲート抵抗値を一定とした場合の、ゲート電圧Vge、コレクタ電流Ice、コレクタ電圧Vce、およびターンオン損失Pの波形を図4に示す。
【0031】
また、ターンオン時におけるゲート抵抗値rを、第1区間S1ではr=r2+r3に設定し、第2区間S2では第1区間S1での値よりも小さなr=1/((1/r1)+(1/r2))+r3に設定して、ゲート抵抗値を切り換えた場合の、ゲート電圧Vge、コレクタ電流Ice、コレクタ電圧Vce、およびターンオン損失Pの波形を図5に示す。
【0032】
図4、図5によると、ゲート抵抗値一定の場合とゲート抵抗値切り換えの場合とでは、リカバリーサージ電圧を示すコレクタ電流Iceのピーク値Ipの大きさは同等である。
一方、図5に示すゲート抵抗値切り換えの場合の第2区間S2の時間tbは、図4に示すゲート抵抗値一定の場合の第2区間S2の時間taよりも短くなっており、ターンオン損失Pが減少していることが分かる。
【0033】
以上のように、本駆動装置10においては、第2区間S2でのゲート抵抗値S2が、第1区間S1でのゲート抵抗値S1よりも小さくなるように、該第1区間S1と第2区間S2とでゲート抵抗値rを切り換えている。
この場合、ゲート抵抗値rの切り換えは、ゲート電圧変化率検出回路2により検出されたゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtに基づいて行っているので、遅延回路を用いて切り換えを行った場合のように、IGBT1の特性ばらつきや温度特性の影響を受けることがなく、高精度な制御を行うことができ、ゲート抵抗値rの切り換えタイミングの設定を容易に行うことができる。
【0034】
つまり、IGBT1毎の特性ばらつきや温度特性の影響によりゲート電圧Vgeの絶対値がばらついたとしても、該ゲート電圧Vgeを微分して得られる時間変化率dVge/dtは略一定となることから、閾値Vth1の設定が容易となる。
さらに、高精度での制御が可能となることで、第2区間S2の時間tbが短くなっても正確なスイッチング制御を行うことができ、高速制御が可能となる。
【0035】
また、ゲート電圧変化率検出回路2および比較回路3は、ゲート電圧Vgeを微分して比較する回路であり、通常ゲート電圧Vgeは−15V〜15Vまたは0V〜15Vの範囲の値をとることから、ゲート電圧変化率検出回路2および比較回路3も低い耐圧特性(例えば35V以下)の素子を用いて構成することができ、回路規模を小さくすることができる。
さらに、IGBT1のゲート・エミッタ間容量は、およそ0.001μF〜0.1μF程度の巨大なコンデンサとなっており、ゲート電圧Vgeはこの容量性負荷に発生する電圧であるため、他相のスイッチングノイズの影響を受け難い。従って、ゲート電圧変化率検出回路2では誤検出の発生が抑えられる。
【0036】
また、ターンオン時における第2区間S2ではゲート電圧Vgeは平坦となるが、このときのゲート電圧Vgeは、温度特性やIGBT1毎のばらつきを有しているため、ゲート電圧Vgeを検出対象とした場合、には閾値の設定が困難となる。
しかし、ゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtは温度特性やIGBT1毎のばらつきの影響は殆ど受けないため、閾値Vth1の設定が容易となる。
【0037】
また、ゲート抵抗値rの切り換えを時間変化率dVge/dtに基づいて行った場合は、コレクタ電流Iceを検出対象とした場合のように、センス用素子を設ける必要がなく検出精度が悪化することもない。
さらに、図6に示すように、複数のIGBT1およびIGBT1’を並列接続した回路においても、切り換えタイミングがずれることもない(図6においては、ダイオードDを省略している)。
【0038】
また、ゲート抵抗値rの切り換えは、スイッチング素子Q1を常時オン状態にしつつ、スイッチング素子Q3をオン・オフ切り換えすることによって行っているので、ゲート抵抗毎にゲート駆動回路を設けた場合に比べて駆動回路を小型化することができる。
また、ターンオン時のゲート電圧Vgeの時間変化率dVge/dtは基本的に正の値を示すため、その信号を扱うゲート電圧変化率検出回路2を単電源で構成することができ、電源回路の簡素化、小型化を実現することができる。
【0039】
また、本駆動装置10では、ターンオン時の初期である第1区間S1ではゲート抵抗値rを高く設定してゆっくりとスイッチングを行い、その次の第2区間S2ではゲート抵抗値rを低く設定して速くスイッチングを行う、といったように2段階のスイッチングを行っているが、3段階に分けてスイッチングを行うことも可能である。
【0040】
つまり、前記第1区間S1を、時刻t1〜時刻t2までの区間と時刻t2〜時刻t3までの区間とに分割し、時刻t1〜時刻t2の区間ではゲート抵抗値rを低く設定して(スイッチング素子Q3をオンして)速くスイッチングし、時刻t2〜時刻t3の区間ではゲート抵抗値rを高く設定して(スイッチング素子Q3をオフして)遅くスイッチングする。第2区間S2は2分割の場合と同様にスイッチング素子Q3をオンして、速いスイッチングを行う。
これにより、ターンオン時間を短くしながらリカバリーサージ電圧を抑制することができる。
【0041】
但し、このような3段階に分割したスイッチングを行った場合は、2つの区間に分割される第1区間S1において、ゲート電圧変化率検出回路2、比較回路3、および制御回路4の応答時間や、スイッチング素子Q3のスイッチング時間の影響により、スイッチング素子Q3のオン状態からオフ状態への切り換えタイミングが遅れて、コレクタ電流Iceが変化し始めているときに速くスイッチングしてしまい、リカバリーサージ電圧が増加してしまうといった恐れがある。
【0042】
これに対し、2段階に分割してスイッチングを行った場合は、第1区間S1のスイッチング素子Q3がオフされた状態から第2区間S2のオンされた状態への切り換えタイミングが遅れたとしても、リカバリーサージ電圧は増加することがなく、駆動装置10は安定方向へ制御されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明にかかるIGBTの駆動装置を示す回路図である。
【図2】ゲート電圧変化率検出回路2の別実施例を示す回路図である。
【図3】ターンオン時のタイミングチャートを示す図である。
【図4】ターンオン時におけるゲート抵抗値を、第1区間および第2区間を通じて一定に設定した場合の、ゲート電圧、コレクタ電流、コレクタ電圧、およびターンオン損失の波形を示す図である。
【図5】ターンオン時におけるゲート抵抗値を、第1区間よりも第2区間の方が小さくなるように切り換えた場合の、ゲート電圧、コレクタ電流、コレクタ電圧、およびターンオン損失の波形を示す図である。
【図6】複数のIGBTを並列接続した場合の駆動装置を示す回路図である。
【符号の説明】
【0044】
1 IGBT
2 ゲート電圧変化率検出回路
3 比較回路
4 制御回路
R1・R2・R3 ゲート抵抗
Q1・Q2・Q3 スイッチング素子
dVge/dt (ゲート電圧の)時間変化率
Ice コレクタ電流
Vge ゲート電圧
Vce コレクタ電圧
P ターンオン損失

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧駆動型半導体素子の駆動装置であって、
電圧駆動型半導体素子のターンオン時に、該電圧駆動型半導体素子のゲート電圧の時間変化率を検出し、検出したゲート電圧の時間変化率に基づいて電圧駆動型半導体素子の駆動制御を行うことを特徴とする電圧駆動型半導体素子の駆動装置。
【請求項2】
前記ターンオン時には、ゲート電圧の時間変化率が一定値以上となる第1の区間と、該第1の区間に続く、ゲート電圧の時間変化率が一定値未満となる第2の区間とが存在し、
第2の区間におけるゲート抵抗値が、第1の区間におけるゲート抵抗値よりも低い値となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の電圧駆動型半導体素子の駆動装置。
【請求項3】
前記電圧駆動型半導体素子の駆動装置は、
第1のゲート抵抗、および第1のゲート抵抗と並列に設けられる第2のゲート抵抗と、
第1のゲート抵抗に接続された第1のスイッチング素子、および第2のゲート抵抗に接続された第2のスイッチング素子とを備え、
前記第1の区間には第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子の何れか一方をオンして、前記第2の区間には第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子の両方をオンすることを特徴する請求項1または請求項2に記載の電圧駆動型半導体素子の駆動装置。
【請求項4】
電圧駆動型半導体素子のターンオン時に、該電圧駆動型半導体素子のゲート電圧の時間変化率を検出し、
ターンオン時におけるゲート電圧の時間変化率が一定値以上となる第1の区間のゲート抵抗値よりも、該第1の区間に続く、ゲート電圧の時間変化率が一定値未満となる第2の区間のゲート抵抗値を、低く制御することを特徴とする電圧駆動型半導体素子の駆動方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−222593(P2006−222593A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32484(P2005−32484)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】