説明

電子ペン装置

【課題】 長時間使用する場合であっても、描画性能が維持される電子ペン装置を提供する。
【解決手段】 本発明の電子ペン装置10は、電子ペン11が、電磁波送信手段と、超音波送信手段とを備える送信部を有し、受信部12が、電磁波受信手段と、少なくとも2つの超音波受信手段と、超音波が前記超音波送信手段から前記超音波受信手段に到達するまでの超音波伝搬時間を算出するデータ処理手段とを備え、データ処理装置14が、前記超音波送信手段と前記超音波受信手段との距離を計算して前記電子ペン11の位置を算出し、画像表示装置13上に電子ペン11の位置を表示し、前記超音波受信手段が、画像表示装置13の表示面側に配置され、移動手段15により、画像表示装置13に対して相対的に移動可能であり、前記移動が、画像表示装置13の表示面に対する垂直方向の移動を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ペン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波を用いてその伝搬時間を測定し、電子ペン等の座標入力装置等の位置検出を行う方法や装置(電子ペン装置)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この電子ペン装置は、一定波形の超音波信号と赤外線トリガー信号とを一定周期で送信する電子ペンと、電子ペンから送信された2つの信号を受信する受信部とを備える。この電子ペン装置では、前述の受信部が、赤外線トリガー信号の到達時点と超音波信号の到達時点とから電子ペンの位置を特定する。
【0003】
前述の電子ペン装置を、企業における会議や学校での授業向け等に適用する場合、大画面のものを使用する必要があるため、多くの場合、プロジェクタとプロジェクタにより投影されるスクリーンが用いられている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、スクリーン投影型の電子ペン装置では、描画時に電子ペンを操作する人の影がスクリーンに映りこんでしまう。
【0004】
一方、近年の薄型テレビの大画面化や地上波デジタル放送への対応により、学校向けに大型の画像表示装置(例えば、プラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイパネル等)が導入されてきている。また、企業における会議システムにおいても、机の中に埋め込まれた大型の画像表示装置が導入されてきている。これらに伴い、企業での会議や学校での授業向け等に、大型の画像表示装置を、電子ペン装置に適用する要望が高まってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6118205号明細書
【特許文献2】特開2005−128611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
画像表示装置を電子ペン装置に適用すると、特に、大型の画像表示装置を用いた場合、時間が経つにつれて応答速度や応答精度等の描画性能が低下する場合がある。
【0007】
本発明の目的は、長時間使用する場合であっても、描画性能が維持される電子ペン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の電子ペン装置は、
送信部を有する電子ペンと、受信部と、画像表示装置と、データ処理装置と、移動手段とを備え、
前記送信部が、
超音波の送信タイミングを表す電磁波信号を送信する電磁波送信手段と、
前記超音波を送信する超音波送信手段とを備え、
前記受信部が、
前記電磁波送信手段が送信する電磁波信号を受信する電磁波受信手段と、
前記超音波送信手段が送信する超音波を受信する超音波受信手段と、
前記受信した超音波から超音波到達時点を検出し、前記電磁波信号を送信した時点と前記検出された超音波到達時点とから、超音波が前記超音波送信手段から前記超音波受信手段に到達するまでの超音波伝搬時間を算出するデータ処理手段とを備え、
前記超音波受信手段が、少なくとも2つ備えられており、
前記少なくとも2つの超音波受信手段は、相互に離れて配置され、
前記データ処理装置が、
算出した前記超音波伝搬時間と前記超音波受信手段相互の距離とに基づき、前記超音波送信手段と前記超音波受信手段との距離を計算して前記電子ペンの位置を算出し、前記画像表示装置上に前記電子ペンの位置を表示し、
前記超音波受信手段が、
前記画像表示装置の表示面側に配置され、
前記移動手段により、前記画像表示装置に対して相対的に移動可能であり、
前記移動が、前記画像表示装置の表示面に対する垂直方向の移動を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長時間使用する場合であっても、描画性能が維持される電子ペン装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の電子ペン装置の実施形態1における一例の構成を示す平面図である。
【図2】本発明の電子ペン装置の実施形態1における一例の構成を示す側面図である。
【図3】本発明の電子ペン装置の実施形態1における一例の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の電子ペン装置の実施形態1における一例の構成を示すブロック図に信号の流れを表示した図である。
【図5】本発明の電子ペン装置の実施形態1において用いられるM系列データにより位相変調された超音波駆動信号の波形図の一例である。
【図6】超音波受信手段のプラズマディスプレイパネルからの位置と超音波受信ゲインとの関係を示すグラフである。
【図7】(a)は、関連技術の電子ペン装置の一例の構成を示す平面図である。(b)は、プラズマディスプレイパネルの使用時間とプラズマディスプレイパネルの表面温度との関係を示すグラフである。(c)は、プラズマディスプレイパネルの使用時間と超音波受信手段の受信ゲインとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の電子ペン装置について、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0012】
(実施形態1)
図1から4に、本実施形態の電子ペン装置の一例の構成を示す。図1は、本実施形態の電子ペン装置の平面図である。図2は、本実施形態の電子ペン装置の側面図である。図3および4は、本実施形態の電子ペン装置のブロック図である。図1から4において、同一部分には、同一符号を付している。図1から4に示すとおり、この電子ペン装置10は、電子ペン11と、受信部12と、プラズマディスプレイパネル(PDP)13と、データ処理装置14と、アクチュエータ15と、温度センサ16と、位置センサ17とを備えている。データ処理装置14は、受信部12、PDP13、アクチュエータ15、温度センサ16および位置センサ17に電気的に接続されている。受信部12は、アクチュエータ15上に搭載されて、PDP13の表示面側で、PDP13表面の外側に配置されている。受信部12は、アクチュエータ15によりPDP13の表示面に対して、垂直方向(図2の矢印方向)に移動可能である。
本実施形態でのPDP13は、本発明における「画像表示装置」に相当する。本実施形態でのアクチュエータ15は、本発明における「移動手段」に相当する。本実施形態での温度センサ16は、本発明における「温度測定手段」に相当する。本実施形態での位置センサ17は、本発明における「移動距離測定手段」に相当する。
【0013】
電子ペン11は、送信部100と、スイッチ111とを備えている。送信部100は、制御回路101と、M系列波形生成回路102と、超音波駆動回路103と、超音波送信器104と、赤外線駆動回路105と、赤外線送信器106とを備えている。制御回路101は、M系列波形生成回路102、赤外線駆動回路105およびスイッチ111に電気的に接続されている。M系列波形生成回路102は、超音波駆動回路103に電気的に接続されている。超音波駆動回路103は、超音波送信器104に電気的に接続されている。赤外線駆動回路105は、赤外線送信器106に電気的に接続されている。
本実施形態での制御回路101、M系列波形生成回路102、超音波駆動回路103および超音波送信器104は、本発明における「超音波を送信する超音波送信手段」に相当する。本実施形態での制御回路101、赤外線駆動回路105および赤外線送信器106は、本発明における「超音波の送信タイミングを表す電磁波信号を送信する電磁波送信手段」に相当する。
【0014】
受信部12は、超音波受信器201−1および201−2と、サンプリング回路202と、赤外線受信器203と、検出回路204と、メモリ205と、データ処理回路206とを備えている。超音波受信器201−1および201−2は、サンプリング回路202に電気的に接続されている。赤外線受信器203は、検出回路204に電気的に接続されている。サンプリング回路202および検出回路204は、メモリ205に電気的に接続されている。メモリ205は、データ処理回路206に電気的に接続されている。データ処理回路206は、データ処理装置14に電気的に接続されている。
本実施形態での超音波受信器201−1および201−2、並びにサンプリング回路202は、本発明における「超音波送信手段が送信する超音波を受信する超音波受信手段」に相当する。本実施形態での赤外線受信器203および検出回路204は、本発明における「電磁波送信手段が送信する電磁波信号を受信する電磁波受信手段」に相当する。超音波受信器201−1と超音波受信器201−2とは、相互に離れて配置されている。
なお、本実施形態の電子ペン装置では、受信部12は、PDP13の下方に配置されているが、本発明は、この例に限定されず、その配置位置は、PDP13の表示面側であればよく、例えば、PDP13の上方に配置されても、側方に配置されてもよい。
【0015】
制御回路101は、例えば、中央演算処理回路(CPU)を備える。制御回路101が実行する制御は、後述する。なお、本実施形態の電子ペン装置を構成する電子ペンが、例えば、操作部、表示部、メモリ等を備える場合には、制御回路101は、例えば、これらの部材と電気的に接続されていてもよい。
【0016】
超音波送信器104は、例えば、圧電素子または磁歪素子等から構成される。前記圧電素子は、電圧駆動型であり消費電力が小さい。前記圧電素子としては、例えば、セラミック系圧電素子、ポリフッ化ビニリデン等のフィルム状の圧電素子等があげられる。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデン等のフィルム状の圧電素子が、機械的なQが低く残留振動が短いため、変調波に追従した超音波を発信できるため好ましい。超音波受信器201−1および201−2は、例えば、圧電素子、磁歪素子またはマイクロフォン等から構成される。前記圧電素子としては、例えば、前述のものがあげられる。
【0017】
赤外線送信器106としては、例えば、発光ダイオードが用いられる。赤外線受信器203としては、例えば、フォトダイオードが用いられる。
【0018】
本発明において、画像表示装置とは、例えば、熱源を有するディスプレイを示す。本実施形態の電子ペン装置では、画像表示装置として、プラズマディスプレイパネルが用いられているが、本発明は、この例に限定されない。前記画像表示装置は、例えば、プラズマディスプレイパネル、EL(Electro Luminescence)ディスプレイパネル等の画素自体が発光するディスプレイであってもよい。また、前記画像表示装置は、例えば、蛍光管やLED(Light Emitting Diode)等の光源を備える液晶ディスプレイパネル等であってもよい。前記画像表示装置表面は、硬質材料で構成されていることが好ましい。このようにすることで、例えば、電子ペンによる適度な押圧を確保しつつ、画像表示装置表面の傷付きを防止可能である。前記硬質材料としては、例えば、ガラスやハードコート層が表面に形成された透明樹脂等があげられる。
【0019】
データ処置装置14は、例えば、後述する制御を実行するソフトウエアを具備するパーソナルコンピュータ(PC)である。
【0020】
アクチュエータ15は、従来公知のものを用いることができ、例えば、ステッピングモータ等があげられる。なお、本発明における移動手段は、アクチュエータに限定されない。
【0021】
本実施形態の電子ペン装置では、前述のとおり、超音波受信器201−1および201−2を備える受信部12は、アクチュエータ15により、PDP13の表示面に対して、垂直方向(図2の矢印方向)に移動可能である。この結果、本実施形態の電子ペン装置では、長時間使用する場合であっても、応答速度や応答精度等の描画性能が維持される。この効果が奏されるメカニズムは、以下のとおりである。なお、以下のメカニズムは推定であり、本発明を何ら制限ないし限定するものではない。
【0022】
すなわち、超音波は、空気の粗密波として伝搬するため、伝搬媒体となる空気の流れの影響を受けて、その指向性が変化する場合がある。例えば、プラズマディスプレイパネルや、液晶ディスプレイパネル等の画像表示装置を用いる場合には、特に、大型のものを使用すると、例えば、その表面温度が50℃を超えることがある。このように画像表示装置の表面温度が高くなると、その表面の空気の流れが、例えば、上昇気流のような挙動を示す。この空気の流れにより、超音波の伝搬方向が画像表示装置の表面から離れる方向に変化(指向性の変化)してしまうと推定される。このため、例えば、使用時間の経過に伴い、画像表示装置の表面温度が上昇することで、超音波受信手段における受信感度が低下し、応答速度や応答精度等の描画品質が劣化する。さらに、この描画品質の劣化は、超音波受信手段から遠い位置で顕著である。
【0023】
図7を用いて、前記受信感度の低下を具体的に説明する。図7(a)に示す電子ペン装置70は、50インチサイズのプラズマディスプレイパネル(PDP)73を画像表示装置とする。このPDP73の画面長辺の両側に、それぞれ超音波送信手段(電子ペン)701と超音波受信手段を備える受信部72とを設置する。同図における符号702は、PDP73の表面温度を測定する位置を示す。図7(b)は、使用時間と温度測定位置702におけるPDP73の表面温度との関係を示すグラフである。図示のとおり、使用時間が経つにつれて、PDP73表面の温度が上昇している。図7(c)は、使用時間と超音波受信手段での超音波受信ゲインとの関係を示すグラフである。図示のとおり、時間が経つにつれて、超音波受信ゲインが大きく下がっている。このように、画像表示装置表面の温度上昇による空気の流れの変化(上昇気流)が、超音波の指向性(伝搬方向)を変化させ、超音波受信手段における超音波受信ゲインを低下させていると推定される。
【0024】
PDP13の表面温度が上昇した状態で、超音波受信器201−1および201−2を備える受信部12を、PDP13表面に対して垂直方向(図2において、矢印の方向)に移動させた場合の受信部12の位置と、前記超音波受信器での超音波受信ゲインとの関係を図6に示す。図示のとおり、受信部12をPDP13表面から垂直方向に離していくと、受信部12のPDP13表面からの高さが、超音波送信器104(電子ペン11)のPDP13表面からの高さより高い位置で、一旦超音波受信ゲインが大きくなりその後低下に転じる。このような現象は、本発明者等が初めて見出したものである。これは、超音波送信器104(電子ペン11)から送信される超音波の指向性が、PDP13表面に対して平行であるところ、PDP13表面の温度上昇により発生した上昇気流によって、超音波の指向性が変化したためと推定される。
なお、例えば、プロジェクタを投影するスクリーンを用いる場合には、その表面温度がほとんど上昇しないため、温度変化による描画性能の低下はほとんど起こらない。
【0025】
前述のとおり、超音波の指向性の変化は、例えば、プラズマディスプレイパネル表面の温度変化(温度分布)によると推定される。このため、PDP13の温度を測定する温度センサ16から得られる温度情報に基づき、アクチュエータ15の移動を制御することが好ましい。このようにすることで、PDP13の表面温度に応じて受信部12を最適な位置に移動させることができる。この制御の詳細は、後述する。温度センサ16は、従来公知のものを用いることができる。なお、本発明において、温度測定手段は、温度センサに限定されず、例えば、温度計等であってもよい。
【0026】
アクチュエータ15の移動距離は、例えば、アクチュエータをステッピングモータとした場合、駆動パルス数により制御することも可能であるが、位置センサ17によるフィードバック制御を行えば、より最適な位置を維持することができる。この制御の詳細は、後述する。位置センサ17は、例えば、従来公知のものを用いることができる。
【0027】
つぎに、本実施形態の電子ペン装置の使用方法を説明する。
【0028】
本実施形態の電子ペン装置では、電子ペン11のスイッチ111が押されると、制御回路101は、まず時間計測の基準となるトリガー信号とM系列の4ビット初期条件データとを、赤外線駆動回路105に供給し(a1)、M系列の4ビット初期条件データを、M系列波形生成回路102に供給する(b1)。前述のとおり、制御回路101はCPU等を備えるため、例えば、各信号波形には矩形波が用いられる。
【0029】
赤外線駆動回路105は、制御回路101からの信号に基づき赤外線駆動用信号を生成する(a2)。赤外線送信器106は、この赤外線駆動回路105からの赤外線駆動用信号により駆動され、赤外線を電子ペン11から空間に送出する(a3、電磁波送信工程)。前記赤外線は、赤外線受信器でのサンプリングに対する時間ズレを小さくして計測誤差を最小にするために、矩形波であることが好ましい。前記赤外線は、例えば、複数の電子ペンを用いる場合には、電子ペン毎に重複を生じないように帯域分割されたものを用いてもよい。このようにすることで、受信部において、電子ペンを一意に識別可能となる。
なお、本実施形態の電子ペン装置では、コストメリットの観点から、超音波を送信するタイミングを表す電磁波信号として赤外線を用いているが、本発明は、この例に限定されず、前記電磁波信号は、例えば、電波等であってもよい。電波を用いる場合には、例えば、電波発信器と電波受信器として電波受信アンテナとが用いられる。
【0030】
M系列波形生成回路102は、制御回路101からの前記初期条件データに基づきM系列ビット列を生成し、これを超音波駆動回路103に供給する(b2)。超音波駆動回路103は、このM系列ビット列により超音波信号を位相変調し、超音波駆動信号として濾波器(図示せず)を経由して超音波送信器104に供給する(b3)。超音波送信器104は、この超音波駆動信号により駆動され、赤外線送信器106の送信タイミングに同期して、M系列位相変調された超音波信号を空間に送出する(b4、超音波送信工程)。前記超音波信号の波形は、特に制限されない。前記超音波信号の波形としては、例えば、正弦波、矩形波、三角波、台形波等があげられる。なお、超音波送信器が圧電素子等で構成されている場合には、圧電素子がL、C成分を含むため、例えば、超音波駆動波形が矩形波であっても、超音波送信器から送出される超音波は、擬似的な正弦波となる。
このようにして、赤外線信号と超音波信号は電子ペンから同時に受信部に向けて送出される。実際に電子ペンとして機能させるためには、スイッチが押されている間、一定周期で前述の動作を繰り返す。
【0031】
前記M系列としては、例えば、4次の特性多項式f(x)=x+x+1、あるいはf(x)=x+x+1の性質を有する4ビットシフトレジスタを有し、系列長が15ビットのビット列があげられる。4ビットの初期条件を変更することにより、データの並びが巡回的にシフトした15通りの異なるデータを得ることができる。図5に、M系列データにより位相変調された超音波駆動信号の波形の一例を示す。図示のとおり、この超音波信号の波形は、15ビットのM系列データ「100110101111000」の各1ビットを基本波の1周期に対応させている。0の場合は反転位相とし、1の場合は順位相として、変調波は基本波15周期分の長さとなる。なお、M系列の詳細は、柏木濶著「M系列とその応用」(1996年3月25日,昭晃堂)等に記述されている。
なお、本実施形態の電子ペン装置では、超音波の変調方式として擬似ランダム信号で自己相関性の高いM系列信号を用いて位相変調を行った場合を示しているが、本発明は、この例に限定されない。超音波の変調方式は、特に限定されず、例えば、いわゆるGold系列信号であってもよい。
【0032】
赤外線受信器203は、電子ペン11からの赤外線信号を受信し(a3)、これを電気信号に変換し、トリガーパルスとして出力する(c1)。検出回路204は、赤外線受信器203の出力からトリガーパルスを検出するとトリガーパルスの到達時刻をメモリ205に格納する(c2、電磁波受信工程)。また、検出回路204は、前記M系列の初期条件データを検出するとこれをメモリ205に格納する(c3)。
なお、本実施形態の電子ペン装置では、前記赤外線信号に前記M系列の初期条件データを含ませているが、本発明は、この例に限定されない。前記M系列の初期条件データを赤外線信号に含ませる代わりに、例えば、所定のM系列の初期条件データに基づき生成した位相変調M系列超音波モデル波形をメモリ205に予め格納しておいてもよい。そして、赤外線信号が到達すると、データ処理回路206がこの位相変調M系列超音波モデル波形を、メモリ205から読出すようにしてもよい。
【0033】
前述のとおり、超音波受信器201−1と超音波受信器201−2とは、相互に離れて配置されている。超音波受信器201−1および201−2は、電子ペン11から送信された超音波信号を受信し(b4)、これを電気信号に変換し、サンプリング回路202に出力する(d1、d2)。サンプリング回路202は、超音波受信器201−1と201−2とから出力される電気信号(超音波信号)を一定間隔でサンプルし、位相変調M系列超音波データ波形としてメモリ205に格納する(d3、超音波受信工程)。
【0034】
この超音波信号の受信ゲインを大きくするために、前述のとおり、本実施形態の電子ペン装置では、アクチュエータ15により超音波受信器201−1および201−2を備える受信部12を、PDP13の表示面に対して垂直方向(図2の矢印方向)に移動させる(移動工程)。本実施形態の電子ペン装置では、温度センサ16がPDP13の表面温度を測定し、温度センサ16からデータ処理装置14にPDP13の表面温度の情報が出力される(h、温度測定工程)。データ処理装置14は、この温度情報に基づいて、アクチュエータ15の移動距離を算出し、算出された移動距離をアクチュエータ15に指示する(j)。このとき、例えば、PDP13の画面サイズの情報、PDP13の表面温度とアクチュエータ15の移動距離とを対応させた温度変化テーブル等を、予めデータ処理装置14に入力しておき、これらの情報を参照して(情報参照工程)、アクチュエータ15の移動距離を算出してもよい。なお、前記温度情報は、例えば、データ処理回路206に出力してもよい。また、前記温度変化テーブルの情報は、例えば、実際に測定された温度とアクチュエータの移動距離とに基づいて更新してもよい。
【0035】
本実施形態の電子ペン装置では、例えば、前述の超音波の指向性の変化に対応して、常に大きな超音波受信ゲインを得ることができる位置に、超音波受信器201−1および201−2を備える受信部12を移動させることができる。この結果、長時間使用する場合であっても、描画性能を維持することができる。
【0036】
なお、本実施形態の電子ペン装置では、アクチュエータ15により送信部12を、PDP13に対して垂直方向に移動させることで、前記超音波受信手段に相当する超音波受信器201−1および201−2等を移動させる。ただし、本発明は、この例に限定されず、前記超音波受信手段を移動させられればよい。前記アクチュエータは、例えば、送信部内に搭載され、前記送信部内で、前記超音波受信手段を移動させてもよい。また、前記移動は、前記垂直方向のみの移動に限定されず、大きな超音波受信ゲインを得られる方向であればよい。このため、前記移動は、前記垂直方向の移動を含めばよく、例えば、前記垂直方向を含む斜め方向の移動であってもよい。
また、本実施形態の電子ペン装置では、送信部をアクチュエータにより移動させることで、前記超音波受信手段を画像表示装置に対して相対的に移動させているが、本発明は、この例に限定されない。例えば、画像表示装置を移動させることで、前記超音波受信手段を前記画像表示装置に対して相対的に移動させてもよい。また、前記超音波受信手段および前記画像表示装置の両方を移動させることで、前記超音波受信手段を前記画像表示装置に対して相対的に移動させてもよい。
【0037】
データ処理回路206は、メモリ205からトリガーパルス到達を示すデータを読出し(e1)、格納されているM系列の初期条件データからM系列モデル波形を生成する。このモデル波形を超音波駆動回路103での位相変調と同様に超音波で位相変調し、超音波駆動回路103から超音波送信器104に供給した超音波駆動信号と同じ波形の位相変調超音波M系列モデル波形を生成する。ついで、データ処理回路206は、この位相変調超音波M系列モデル波形とメモリ205に格納されている位相変調M系列超音波データ波形との間で相関処理を行う(e2)。この相関処理の結果、データ処理回路206は、相関値の最初のピークを検出すると、トリガーパルス到達時刻からこの相関値ピークを検出した時点までの経過時間、すなわち、電子ペン11から送信された超音波信号が受信部12に到達するまでの伝搬時間を算出する(データ処理工程)。
【0038】
具体的には、例えば、メモリ205に格納されているトリガー検出時刻をサンプリング開始時刻(t)に設定し、データ処理回路206が位相変調M系列超音波データ波形をメモリ205から読出し、この読み出したデータ波形と前述の位相変調M系列超音波モデル波形との間で下記数式(1)に基づきサンプリング開始時刻(t)における相関値C(t)を算出する。なお、この具体例は、例示であって、本発明を何ら限定ないし制限しない。
【数1】

i:サンプリング時刻変数(整数値)
N:モデル波形のサンプリング数
r(i):サンプリング時刻iのモデル波形の値
f(i+t):サンプリング時刻(i+t)の受信波形の値

つぎに、得られた相関値からピーク値を探索する。ピーク値が検出されなければ、サンプリング開始時刻(t)を単位量1だけインクリメントし、同様にピーク値探索を繰り返す。相関ピーク値が検出されると、前記相関ピーク値の検出時点における変数tに対応するサンプリング時刻をメモリ205から読み出す。つぎに、データ処理回路206はトリガー検出時刻と相関ピーク値検出時刻とから、電子ペン11から送信された超音波信号が受信部12に到達するまでの伝搬時間を算出する。例えば、赤外線トリガーパルスを受信したサンプリング時刻を0とし、サンプリング周期をDTとすると、超音波伝搬時間はt×DTとして算出できる。この超音波伝搬時間計算を2個の超音波受信器に対して行う。
【0039】
データ処理回路206に電気的に接続されたデータ処理装置14は、算出した超音波伝搬時間と超音波受信器相互の間隔長とに基づき、三角測量の原理を適用して、電子ペン11に備えられた超音波送信器104(超音波送信手段)と、超音波受信手段との距離を計算して電子ペン11の位置を算出する(f)。このようにすることで、電子ペン11の位置を、2個の超音波受信手段と超音波送信手段によって決定される平面上に、超音波受信手段からの相対位置として決定することが可能となる。算出された電子ペン11の位置情報は、プラズマディスプレイパネル13上に表示される(g)。このとき、本実施形態の電子ペン装置では、位置センサ17がアクチュエータ15の移動量(超音波受信手段の移動距離)を測定し、位置センサ17からデータ処理装置14にアクチュエータ15の移動量の情報が出力される(i、移動距離測定工程)。データ処理装置14は、この移動量情報に基づき、PDP13上において表示される電子ペン11の位置を補正する(位置補正工程)。このようにすることで、描画性能をより最適な状態で維持可能となる。本実施形態でのデータ処置装置14は、本発明における「位置補正手段」を兼ねている。
なお、電子ペンのプラズマディスプレイパネル(画像表示装置)上への位置変換については、例えば、データ処理装置が具備するソフトウエアにより実行される。また、この際の画面サイズと実際の距離との位置変換については、超音波受信手段(受信部)の位置により変化するため、予め数点のキャリブレーションが必要となる。
【0040】
前述のとおり、本実施形態の電子ペン装置では、赤外線受信器203を備える受信部12が、PDP13表面上より外側に配置されている(図1および2において、PDP13の下方)。このようにすることで、本実施形態のように、例えば、電磁波として赤外線を用いる場合でも、画像表示装置から放射される赤外線によるノイズを回避し、時間基準となるトリガー信号の誤差発生を回避することができる。この結果、本実施形態の電子ペン装置では、より良好な描画性能が得られる。なお、プラズマディスプレイパネルから放射される赤外線は、バースト波に近い特性を示すため、その影響を信号処理等によって除去することは困難である。このため、特に、画像表示装置として、プラズマディスプレイパネルを用いる場合には、前述のように赤外線受信器を配置することで、トリガー信号の誤差発生をより回避することができる。ただし、本発明は、この効果により何ら限定ないし制限されない。
【0041】
以上、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は必ずしも、上記実施形態に制限されるものでなく、その技術的思想の範囲内で当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含む形態を含めることができる。
【符号の説明】
【0042】
10、70 電子ペン装置
11 電子ペン
12、72 受信部
13、73 プラズマディスプレイパネル(PDP、画像表示装置)
14 データ処理装置
15 アクチュエータ(移動手段)
16 温度センサ(温度測定手段)
17 位置センサ(移動距離測定手段)
100 送信部
101 制御回路
102 M系列波形生成回路
103 超音波駆動回路
104 超音波送信器
105 赤外線駆動回路
106 赤外線送信器
111 スイッチ
201−1、201−2 超音波受信器
202 サンプリング回路
203 赤外線受信器
204 検出回路
205 メモリ
206 データ処理回路
701 超音波送信手段
702 温度測定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信部を有する電子ペンと、受信部と、画像表示装置と、データ処理装置と、移動手段とを備え、
前記送信部が、
超音波の送信タイミングを表す電磁波信号を送信する電磁波送信手段と、
前記超音波を送信する超音波送信手段とを備え、
前記受信部が、
前記電磁波送信手段が送信する電磁波信号を受信する電磁波受信手段と、
前記超音波送信手段が送信する超音波を受信する超音波受信手段と、
前記受信した超音波から超音波到達時点を検出し、前記電磁波信号を送信した時点と前記検出された超音波到達時点とから、超音波が前記超音波送信手段から前記超音波受信手段に到達するまでの超音波伝搬時間を算出するデータ処理手段とを備え、
前記超音波受信手段が、少なくとも2つ備えられており、
前記少なくとも2つの超音波受信手段は、相互に離れて配置され、
前記データ処理装置が、
算出した前記超音波伝搬時間と前記超音波受信手段相互の距離とに基づき、前記超音波送信手段と前記超音波受信手段との距離を計算して前記電子ペンの位置を算出し、前記画像表示装置上に前記電子ペンの位置を表示し、
前記超音波受信手段が、
前記画像表示装置の表示面側に配置され、
前記移動手段により、前記画像表示装置に対して相対的に移動可能であり、
前記移動が、前記画像表示装置の表示面に対する垂直方向の移動を含むことを特徴とする電子ペン装置。
【請求項2】
前記移動手段が、アクチュエータであることを特徴とする請求項1記載の電子ペン装置。
【請求項3】
さらに、前記画像表示装置表面の温度を測定する温度測定手段を備えることを特徴とする請求項1または2記載の電子ペン装置。
【請求項4】
さらに、前記超音波受信手段の相対的な移動距離を測定する移動距離測定手段と、
前記移動距離に基づき、前記画像表示装置上において表示される前記電子ペンの位置を補正する位置補正手段とを備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電子ペン装置。
【請求項5】
前記超音波送信手段が、
前記電磁波信号の送信と同時に自己相関性の高い擬似ランダム信号に基づいて超音波を変調することにより超音波駆動信号を生成する手段を備え、
前記超音波駆動信号により駆動され、前記超音波駆動信号の基本周波数より高い周波数の超音波を送信し、
前記データ処理手段が、
前記超音波駆動信号と同じ波形をモデル波形とし、検出された超音波波形と前記モデル波形との間で相関値を算出し、算出された相関値の主ピーク値を検出し、前記電磁波信号の検出時点と前記主ピーク値の検出時点とから超音波伝搬時間を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電子ペン装置。
【請求項6】
前記電磁波受信手段が、前記画像表示装置表面の外側に配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の電子ペン装置。
【請求項7】
前記画像表示装置表面が、硬質材料で構成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電子ペン装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−107919(P2011−107919A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261378(P2009−261378)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】