説明

電子写真装置

【課題】画像形成装置の異常や周辺環境の急激な変化によって電子写真感光体表面に発生する酸化ケイ素膜について、軽微なレベルでも検知可能で、その処理を施すことができる電子写真装置を提供することを目的としている。
【解決手段】反射光を計測する光学センサを設け、膜厚を演算する手段として、反射光を反射率に変換する手段、通紙枚数に対応する基準の反射率を予め算出し設定する手段、該基準の反射率と計測された反射率から電子写真感光体の表面層の表面に形成された酸化ケイ素膜の膜厚を演算する手段を具備し、該膜厚を演算する手段を用いて算出された酸化ケイ素膜の膜厚の結果に基づいて、該酸化ケイ素膜に係る処理を行う処理手段を有する電子写真装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体のフィルミングと呼ばれる現象の中でも、ケイ素化合物で形成された表面層が変質し酸化ケイ素膜が生成される現象の評価、判定及び判定に基づく処理を行う電子写真装置に関するものである。
なお、本発明において、「酸化ケイ素膜が生成される現象の評価」には、酸化ケイ素膜生成の検知、酸化ケイ素膜の膜厚の演算が含まれる。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成装置は、繰り返し画像形成を行うことで、画像流れ、濃度薄、黒ポチ、白ポチに代表される画像不良が発生する場合がある。
これらの画像不良の原因は様々であるが、電子写真感光体に着目した場合には、電子写真感光体の表面に原因があることが多い。
代表例の一つとしては、電子写真感光体の表面に画像形成に関係する物質が付着する現象がある。付着物の例としては、紙粉、トナー中に含まれる樹脂成分やワックス成分が挙げられる。
また、二つ目の代表例としては、トナー中に含まれるシリカ粒子や酸化チタン粒子が、電子写真感光体表面へ食い込む現象がある。
さらに、三つ目の代表例としては、電子写真感光体表面の表面層が変質する現象がある。表面層が変質する現象の例としては、画像形成装置の異常や周辺環境の急激な変化によって、電子写真形成装置内に発生するオゾンによる酸化や印加される電流電圧に起因する酸化、クリーニング不良による特異な摩耗、熱的な変質が挙げられる。
【0003】
このような付着、食い込み、変質は一般的には区別されることなく、総じて「フィルミング現象」と言われている。
そして、このフィルミング現象によって画像不良が発生するために、電子写真感光体の交換やサービスマンによる回復作業が必要となっている。
このように、フィルミング現象はサービスマンによるメンテナンス無しで正常に稼動し続ける限界枚数であるDutyCycleを下げ、ランニングコストの上昇にもつながっている。
【0004】
そのために、電子写真装置では、フィルミング現象を検知し、サービスマンによるメンテナンス無しでフィルミング現象を回復させ、画像不良の発生を抑制する方法がいくつか提案されている。
そして、特に一般的に提案されているのは、フィルミング現象の中でも、前述したトナー中に含まれる樹脂成分やワックス成分の付着によるフィルミング現象を検知する方法である。
提案される理由としては、トナー中に含まれる樹脂成分やワックス成分の付着によるフィルミング現象は、光学的な反射光や散乱光の変化が大きく、検知が容易なためである。
【0005】
その検知手段の例としては、反射光や散乱光の変化が大きいことを利用して、トナー像又は転写紙を担持する担持体に光を照射し、反射される光量と基準とする光量を単純に比較する光学的方法が提案されている(特許文献1)。
そして、このような方法で検知されたフィルミングを除去する方法としては、次のようなものが提案されている。
例えば、フィルミング除去用の機構を備える方法、もともと電子写真感光体に接しているクリーニングブレードのような部材の摺擦力を変化させる方法が提案されている。また、トナー量を変化させる方法やフィルミング除去用の除去剤を加える方法も提案されている。
【特許文献1】特開平05−273893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなフィルミング検知方法の提案にも次のような課題がある。
それは、前述のようなトナー中に含まれる樹脂成分やワックス成分の付着のフィルミング現象と異なり、表面層の変質によって酸化ケイ素膜が生成されるフィルミング現象が発生した場合に、軽微な変質の検知や正しい検知ができないという課題である。
軽微な変質の検知ができない原因は、表面層の変質によって酸化ケイ素膜が生成されるフィルミング現象では、トナー中に含まれる樹脂成分やワックス成分の付着のフィルミング現象と比べて、光学的な光量の変化が小さいためである。
そのため、基準となる光量と単純に比較する検知方法では、通紙枚数に対応した摩耗に伴う反射光の変化と区別が難しく、厳しい判定基準を設けることが困難であり軽微な変質を検知できないことになる。
【0007】
また、正しい検知ができない原因は、付着物のフィルミング現象では、付着物を除去した後の表面層の膜厚は変化しないが、表面層の変質によるフィルミング現象では、変質部分を除去した後は、表面層の膜厚が変化するためである。
そのため、表面層の変質によって酸化ケイ素膜が発生するフィルミング現象では、フィルミング部分を除去した後は、酸化ケイ素膜がない状態でも表面層の膜厚に基づいた基準となる光量とはじめからズレが発生するために正しい検知ができなくなる。
従って、本発明は、上述したように画像形成装置の異常や周辺環境の急激な変化によって発生する表面層の変質によって酸化ケイ素膜が生成されるフィルミング現象について、軽微な検知における課題を解決する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この上記の目的は以下の構成及び方法の電子写真装置によって達成される。
本発明は、導電性基体の上に形成された光導電層と、光導電層の上にケイ素化合物で形成された表面層を、少なくとも含む電子写真感光体を有する電子写真装置であって、
少なくとも発光素子と受光素子とを含み、反射光を計測可能な光学センサと、受光素子が受け取った反射光の光量に対応する電気信号を反射率に換算する反射率変換部と、表面層の表面が酸化ケイ素膜に変質しない場合における通紙枚数に対応する基準の反射率を算出する基準反射率算出部と、基準の反射率と、反射率変換部によって換算された反射率とから表面層の表面の変質によって形成された酸化ケイ素膜の膜厚を演算する酸化ケイ素膜算出部と、酸化ケイ素膜算出部を用いて算出された酸化ケイ素膜の膜厚に基づいて、酸化ケイ素膜に係る処理を行う処理部と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、電子写真感光体へ接する摺擦部材をさらに具備し、処理部が摺擦部材の摺擦力を制御することを第2の特徴とする。
また、本発明は、電子写真装置の状態を表示する表示器をさらに具備し、処理部が表示器に電子写真感光体の状態を示す信号を出力することを第3の特徴とする。
また、本発明は、複数の光学センサが電子写真感光体の長手方向に配置され、複数の摺擦部材が電子写真感光体の長手方向に配置され、処理部が複数の光学センサによって計測され算出された各計測位置での酸化ケイ素膜の膜厚に応じて、摺擦部材の摺擦力を変更する制御を行うことを第4の特徴とする。
また、本発明は、複数の光学センサが電子写真感光体の長手方向に配置され、処理部が表示器に、光学センサによって計測され算出された、各計測位置での酸化ケイ素膜の膜厚に応じた信号を出力することを第5の特徴とする。
また、本発明は、表面層がSi、C、およびHで構成されていることを第6の特徴とする。
【0010】
また、ここでいう「通紙枚数に対応する基準の反射率」とは、現時点における電子写真感光体の状態から、正常な電子写真装置の状態と正常な環境で任意の枚数を印刷したと仮定する場合に、任意の枚数を印刷した後に予測される反射率である。
ここで任意の枚数を印刷した後の反射率を予測する理由は、電子写真プロセスでは印刷を繰り返すことで電子写真感光体の表面層の膜厚が変化するために反射率が変化するためである。
膜厚が変化するのは、プロセス中の例えば、帯電、感光、トナーによる現像、通紙、転写、除電、クリーンニングによって摩耗するためである。
電子写真感光体の表面層が摩耗する理由は、電子写真プロセスにおいて、クリーニングブレードや紙と電子写真感光体の表面層との間に存在するトナー粒子が、電子写真感光体が回転する際に研磨剤として作用するためである。
そして、このことから分かるように、電子写真感光体の回転数と電子写真感光体の摩耗量は、クリーンニングブレードの押し付け圧力やトナー量が正常な状態であれば大きく変動しない。
そのため、電子写真感光体の回転数と摩耗量はほぼ対応する、電子写真感光体の回転数とほぼ対応する通紙枚数にも摩耗量は対応する。
よって、正常な電子写真装置の状態と正常な環境で印刷が行われた場合にも、電子写真感光体は摩耗によって反射率は変化し、その際の電子写真感光体の摩耗量は通紙枚数にほぼ対応する。
このことから、電子写真感光体の正常な摩耗量に対応する反射率及び酸化ケイ素膜の膜厚を判断するための反射率である「基準となる反射率」には、任意の印刷枚数を印刷したと仮定した「通紙枚数に対応する基準となる反射率」を用いる。
【0011】
そして、請求項1に記載の発明によれば、少なくとも発光素子と受光素子とから構成される反射光を計測する光学センサを設け、反射光を反射率に変換する反射率変換部を有することで、反射率を取得できる。
また、予め通紙枚数に対応する基準の反射率を算出し設定することにより、通紙に起因した表面層の摩耗による反射率と表面層膜厚が算出され、酸化ケイ素膜の有無を判定する基準となる。
そして、表面層の表面の変質によって形成された酸化ケイ素膜の膜厚を演算する酸化ケイ素膜算出部を有することにより、酸化ケイ素膜の膜厚が算出できる。
さらに、算出された酸化ケイ素膜の膜厚の結果に基づいて、酸化ケイ素膜に係る処理を行う処理部を有することにより、電子写真感光体を良好な状態に維持できる。
【0012】
次に、請求項2に記載の発明によれば、摺擦部材を用いて、酸化ケイ素膜を除去する。このことにより、電子写真感光体の表面が酸化ケイ素膜に変質されていない状態になり、電子写真感光体の表面を良好な状態に維持できる。
また、請求項3に記載の発明によれば、電子写真装置の状態を表示する表示器により、電子写真感光体の情報を表示し、酸化ケイ素膜への対処を促すことで電子写真感光体を良好な状態にできる。
そして、請求項4および5に記載の発明によれば、複数の光学センサを具備することにより、局所的な酸化ケイ素膜の検知がとなり、画像形成装置の異常箇所の特定や酸化ケイ素膜の検知の精度を向上できる。
最後に、請求項6に記載の発明によれば、表面層がSi、C、Hで構成された表面層であることにより、表面層と表面層以外の層で屈折率に差を設けることで、通紙枚数に対応する基準の反射率の算出や酸化ケイ素膜の膜厚の算出がより高精度に算出できる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明の構成及び方法の電子写真装置により、画像形成装置の異常や周辺環境の急激な変化によって発生する酸化ケイ素膜の検知が精度良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、図を用いて本発明の実施の形態をさらに詳細に説明する。
図1(A)及び図1(B)には、本発明の電子写真装置内の概略構成を示す。
図1(A)は、酸化ケイ素膜に係る処理を行う処理手段として、摺擦部材を摺擦手段として酸化ケイ素膜を除去する。
図1(B)は、酸化ケイ素膜に係る処理を行う処理手段として、電子写真装置の状態を表示する表示手段により、電子写真感光体の情報を表示する。
そして、図1(A)及び図1(B)に示すように、電子写真装置内には、測定対象となる表面層を持つ電子写真感光体110、発光素子121と受光素子122からなる光学センサ120、膜厚演算処理部130、処理部140が備えられている。電子写真感光体110の表面層はケイ素化合物で形成されている。
【0015】
<光学センサ>
光学センサ120は、発光素子121と受光素子122とを含み、反射光を計測可能である。
発光素子121としては、例えばハロゲン光源、ニクロム光源のような一般的に用いられる光源を、測定対象となる表面層の吸収波長域に合わせて用いればよい。表面層による光の吸収が可視光領域で現れるようなものの場合には、可視光の光源としてよく利用されるハロゲン光源を用いればよい。また、可視光領域において透明な層の場合には、赤外線の光源としてよく利用されるニクロム光源を用いればよい。もちろん、他の光源を用いることも可能であり、測定対象となる表面層の吸収波長域に合わせて用いればよい。
受光素子122としては、例えば、CCDが用いられ、測定対象となる表面層の吸収波長域に合わせて光学フィルタを併用する。または、分光光度計を用いれば広範囲にわたる吸収波長域に合わせることができる。また、発光素子と受光素子が一体型の測定プローブのごとき光学センサを用いてもよい。
そして、光学センサを電子写真感光体の長手方向に複数具備して、該電子写真感光体の複数の位置で検知を行うようにしてもよい。
【0016】
<膜厚演算処理部>
膜厚演算処理部130には、反射率変換部131、基準反射率算出部132、酸化ケイ素膜算出部133が含まれている。
膜厚演算処理を行う膜厚演算処理部130は、マイクロコンピュータ、膜厚演算プログラム、通紙枚数に対応した摩耗による表面層膜厚の予測データ、予め算出される基準の反射率データを含んでいる。
マイクロコンピュータには、例えば、ワンチップマイコンが用いられる。または、電子写真装置の制御に用いられているCPU(中央演算装置)を用いてもよい。マイクロコンピュータは、CPU(中央演算装置)、ブートプログラムを記憶するROM、各種処理結果を一時的に記憶するRAMを含む。
【0017】
反射率変換部131は、受光素子122が受け取った反射光の光量に対応する電気信号を反射率に換算する。換算する基準としては、例えば、アルミニウムのシリンダ表面における反射光の光量に対応する電気信号を基準として反射率に換算する。
基準反射率算出部132は、表面層の表面に酸化ケイ素膜が形成されない場合における通紙枚数に対応した摩耗による表面層膜厚の変化を記憶しておく。そして、特定の枚数毎に予め表面層膜厚から反射率を算出する。
また、表面層の表面の変質によって酸化ケイ素膜が生成された際に、酸化ケイ素膜に係る処理として摺擦手段による酸化ケイ素膜の除去を行った後には、表面層の膜厚が変化する。そのため基準の反射率を求める際は、表面層の膜厚に補正を加える必要がある。
酸化ケイ素膜算出部133では、実測された反射率(前記反射率変換部によって換算された反射率)と、基準反射率算出部132で算出された基準となる反射率から、表面層の表面の変質によって形成された酸化ケイ素膜の膜厚を算出する。算出する場合には、基準となる反射率を算出する際の表面層の膜厚を用いて演算を行う。
【0018】
<処理部>
処理部140は、膜厚演算処理部130で算出された酸化ケイ素膜の膜厚に基づいて評価を行い、酸化ケイ素膜に係る処理を行う処理手段を制御する。
処理部140としては、例えば、ワンチップマイコンの如き電気信号を出力するポートを持ち、処理手段への信号を出力でき、評価及び判定の処理のための演算が可能なCPU(中央演算装置)を備えていればよい。
または、電子写真装置の制御に用いられているCPU(中央演算装置)や膜厚演算処理部のマイクロコンピュータを共用して用いてもよい。
処理手段としては、摺擦部材を用いた酸化ケイ素膜除去手段がある。例えば、図1(A)に示すようなクリーニングブレード141を摺擦部材として、摺擦部材の摺擦力を制御する機構によって酸化ケイ素膜除去を行う処理手段がある。摺擦部材の材質としては、例えば、ポリウレタンを用いることができる。
【0019】
また、摺擦力を制御するために摺擦部材を駆動させる動力142としては、例えば、モータを用いることができる。そして、摺擦部材の角度や摺擦部材の短軸方向の中心と電子写真感光体の表面との距離を変更することで電子写真感光体への摺擦部材の押し付け圧力を制御する。
また、別の処理手段としては、電子写真装置の状態を表示する方法がある。表示手段としては、例えば、図1(B)に示すようなLEDライトによる状態表示器143や電子写真装置に具備されている液晶パネルがある。
さらに、他の処理手段としては、特定の信号を機器や人間に発信する方法がある。例えば、電子写真装置を制御しているCPU(中央演算装置)へ装置停止要求信号の発信やトナー供給量の調整要求信号の発信、画像形成パラメータの変更要求信号を発信してもよい。
また、サービスセンターにオンラインで信号を発信することで連絡を行ってもよい。
【0020】
<表面層>
表面層は、例えば、シリコン原子を主成分として含む非単結晶堆積膜で、アモルファス水素化炭化ケイ素(以下、a−SiC:Hという)、アモルファス窒化ケイ素(以下、a−SiNという)が使用できる。また、炭化水素を主成分とする有機化合物にシリコン粒子を添加したものやシリコンゴムを用いても良い。
また、表面を保護する表面層として、厚さ方向に元素の構成比や密度を変化させた層を用いてもよい。
しかし、表面層が酸化ケイ素膜のみで形成される場合は、本発明には含まれない。
続いて、以上のように構成された電子写真装置で、酸化ケイ素膜の検知、膜厚の評価及び判定、酸化ケイ素膜に係る処理の動作について例を挙げて以下に説明する。
一連の流れについては、図2のフローチャートで示したように計測、演算、判定、処理が含まれる。
【0021】
<通紙枚数の取得>
まず、電子写真装置の通紙枚数は不明で、電子写真感光体は未使用の状態から開始されるとするので、現時点における電子写真装置の通紙枚数Srealの取得を行う(ステップS201)。
<基準となる反射率を与える通紙枚数と摩耗量を設定>
次に、計測された反射率と比較するための基準となる反射率を算出するための設定を行う。
基準となる反射率は、現在の通紙枚数Srealから任意の通紙枚数ΔSを印刷した後の通紙枚数Ssimに対して予測される反射率であるため、任意の通紙枚数ΔSをSrealに追加した値をSsimとして設定する(ステップS202)。
そして、通紙枚数Ssimによって発生する表面層の摩耗量ΔDを取得する(ステップS203)。
このとき任意の通紙枚数ΔSは、使用するマイクロコンピュータの演算処理時間がΔS枚の印刷時間より短くなるように設定すればよい。
【0022】
<基準となる反射率の演算>
そして、通紙枚数Ssim及び表面層の摩耗量ΔDから、基準となる反射率を算出するための演算を行う(ステップS204)。演算方法としては、例えば、フレネル係数を用いた方法や特性マトリクスを用いて算出することができる。
【0023】
例として、フレネル係数を用いて演算する場合は、図3のフローチャートのような手順で行う。
まず1番目のステップとして、入射媒質の層を加えてj個の層で電子写真感光体を構成しているj層の解析モデルとし、基板側から各層について、L(1)、L(2)、L(3)・・・L(i−1)、L(i)、L(i+1)・・・L(j)層とする。同様に各層の屈折率N(1)、N(2)、N(3)・・N(i−1)、N(i)、N(i+1)・・・N(j)として設定する(ステップS301)。また、同様に各層の膜厚をD(1)、D(2)、D(3)・・・・D(j)及び消衰係数K(1)、K(2)、K(3)・・・K(j)を設定する(ステップS301)。
【0024】
2番目のステップとしては、L(j)層は入射媒質の層とし、L(j−1)層については、表面層の膜厚から摩耗量ΔDを差し引いた膜厚を設定する(ステップS302)。
3番目のステップとしては、対象とする反射率の波長範囲について、はじめに演算する波長λSを演算する波長λとして設定する(ステップS303)。複数の波長で反射率を算出する方法としては、対象の波長領域において、任意の波長間隔Δλとし、開始の波長と終了の波長をそれぞれλSとλEとして演算すればよい。
4番目のステップは、はじめに変数iを1と設定して(ステップS304)、前述の2番目及び3番目のステップで設定された屈折及び消衰係数、式(1)〜式(6)を用いて、A1(1)、A2(1)、B1(1)、B2(1)、C2(1)、C2(1)の計算を行う(ステップS305)。
【0025】
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

【0026】
5番目のステップとしては、4番目のステップと同様に、j層までの各層における反射率の複素屈折率の位相変化を表すδ(i)とγ(i)について算出する。算出には屈折率N(i)、消衰係数K(i)、膜厚D(i)及び演算する波長λ、式(7)および(8)を用いて計算して算出する(ステップS306)。
【0027】
【数7】

【数8】

【0028】
その後は、変数iをi=2、3・・・jと順次更新しながら(ステップS307)、i+1がj以上と判定されるまで(ステップS308)、計算S305、S306を繰り返し行う。
その後、変数iを1と設定する(ステップS309)。
【0029】
6番目のステップとしては、図4に示すような、基板に接するL(1)層の反射波のフレネル係数ρ(1)を式(9)とする。そして、L(1)層の上下面による多重繰り返し反射を考慮したL(2)層のフレネル係数ρ’(2)を式(10)として計算を行う(ステップS310)。
【0030】
【数9】

【数10】

【0031】
このとき式(10)内の変数X(2)、Y(2)、V(2)、W(2)は、式(11)から式(14)及びA1(2)、A2(2)、B1(2)、B2(2)、X(1)、Y(1)、V(1)、W(1)、δ(1)、γ(1)の値を用いて算出する(ステップS311)。
【0032】
【数11】

【数12】

【数13】

【数14】

【0033】
そして、その後は、図5に示すような関係であるために、iをi=2、3・・・jと順次更新しながら(ステップS312)、i+1がj以上と判定されるまで(ステップS313)、同様の操作をi+1がjになるまで繰り返し行う。
操作としては、X(i+1)、Y(i+1)、V(i+1)、W(i+1)について、A1(i+1)、A2(i+1)、B1(i+1)、B2(i+1)、δ(i)、γ(i)及び式(15)から式(18)を用いて算出する操作を繰り返す(ステップS311)。
【0034】
【数15】

【数16】

【数17】

【数18】

【0035】
その結果、最終的には入射媒質における反射率を得るためのL(j)層のX(j)、Y(j)、V(j)、W(j)が算出される。
【0036】
8番目のステップとしては、X(j)、Y(j)、V(j)、W(j)及び式(19)、式(20)を用いて、反射率R(λ)及び反射の位相変化φr(λ)の算出を行う(ステップS314)。そして、設定した波長λ毎の反射率R(λ)及び反射の位相変化φr(λ)のデータ保存を行う(ステップS315)。
【0037】
【数19】

【数20】

【0038】
最後の9番目のステップとしては、演算する波長λが、対象とする波長範囲の終了波長λEであるかの判定を行う(ステップS316)。そして、終了波長λEでなければ演算する波長λを変更する。任意の波長間隔Δλで演算する場合は、現在の波長λにΔλを加算し波長λを更新して設定する(ステップS317)。
そして、新たに設定された波長λにおいて、2番目から9番目のステップの操作を同様に行い、反射率R(λ)及び反射の位相変化φr(λ)を算出する。
以上の操作を対象とする波長範囲で繰り返し行い、基準となる反射率Rsimを取得する(ステップS318)。
【0039】
<計測>
次に、反射光の測定を行う(ステップS205)。発光素子からの光を電子写真感光体の表面へ垂直に照射して、反射光を受光素子により受光する。
【0040】
<計測された反射光を換算して反射率Rrealを取得>
そして、受光された反射光量を膜厚演算処理部の反射率変換部で、予め記憶させておいたアルミニウムシリンダ表面の反射光量を基準として反射率に換算し、計測された反射率Rrealを取得する(ステップS206)。
【0041】
<基準となる反射率Rsimと計測された反射率Rrealの比較検討>
このようにして得られた、基準となる反射率Rsimと計測された反射率Rrealの差分について、任意に設けた閾値ΔRと比較を行う(ステップS207)。
また、対象の波長領域が広い場合は、各波長で基準となる反射率Rsimと計測された反射率Rrealの反射率の差分をとり、対象の波長領域すべての差分を足し合わせた値を任意に設けた閾値ΔRと比較を行ってもよいし、特定の波長だけ比較してもよい。
そして、閾値ΔRより小さい場合は、現在の通紙枚数Srealを取得しながら(ステップS208)、印刷を続ける。印刷は、Srealが基準となる反射率Rsimを算出した通紙枚数Ssimと比較して(ステップS209)、等しくなるまでは計測S205及び反射率変換S206、比較検討S207を続ける。
現在の通紙枚数Srealが基準となる反射率Rsimを算出した通紙枚数Ssimと等しくなった場合は、基準となる反射率Rsimを更新する。
一方、計測された反射率Rrealと基準となる反射率Rsimとの差分が、閾値ΔRより大きい場合には、膜厚演算処理部の酸化ケイ素膜算出部において酸化ケイ素膜の膜厚の演算を行う(ステップS210)。
【0042】
<酸化ケイ素膜の膜厚算出>
表面層の表面の変質によって形成された酸化ケイ素膜の膜厚の演算については、図6のフローチャートのような手順で演算を行う。
まず、1番目のステップとして、基準となる反射率Rsimの演算S204で使用したj層の解析モデルに酸化ケイ素膜の層を加えて、(j+1)層の解析モデルに変更する。
この際、酸化ケイ素膜を加えた(j+1)層で反射率を演算する場合には、入射媒体の層をL(j+1)として、入射媒体の膜厚屈折率をD(j+1)に屈折率をN(j+1)に、消衰係数をK(j+1)に再設定する(ステップS601)。
また、酸化ケイ素膜の層をL(j)として、酸化ケイ素膜の屈折率をN(j)、消衰係数をK(j)に設定する(ステップS602)。
【0043】
2番目のステップとしては、生成されたと仮定する酸化ケイ素膜の膜厚DsioをL(j)層のD(j)に設定する(ステップS603)。
3番目のステップとしては、L(j−1)層の膜厚D(j−1)が酸化ケイ素膜の生成によって変化したと仮定して、L(j−1)層の膜厚D(j−1)を変更する(ステップS604)。
そして、4番目のステップとしては、基準となる反射率Rsimの演算の算出で行った演算手法により、酸化ケイ素膜を含んだ(j+1)層の解析モデルで演算して反射率Rsimを取得する(ステップS620)。
【0044】
演算の流れとしては、基準となる反射率を演算する流れと同様であるが、まず波長λの設定をし(ステップS605)、変数iに1を設定する(ステップS606)。次に、変数(i+1)が(j+1)になるまで変数iを順次変化させて、各々(j+1)個のA1(i)、A2(i)、B1(i)、B2(i)、C2(i)、C2(i)を算出する(ステップS607)。同様に、δ(i)とγ(i)を算出する(ステップS608)。変数iに1を設定して(ステップS611)、フレネル係数ρ’(2)を算出する(ステップS612)。その後は、変数(i+1)が(j+1)になるまで変数iを順次変化させて、X(i+1)、Y(i+1)、V(i+1)、W(i+1)を演算する(ステップS614)。
最終的には入射媒質における反射率を得るためのL(j+1)層のX(j+1)、Y(j+1)、V(j+1)、W(j+1)が算出され、反射率R(λ)及び反射の位相変化φr(λ)の算出を行う(ステップS616)。そして、対象の波長領域で同様の操作を繰り返して、酸化ケイ素膜を含んだ層構成での反射率Rsimを取得する(ステップS620)。
【0045】
5番目のステップとしては、酸化ケイ素膜を含んだ層構成での反射率Rsimと計測された反射率Rrealの差分について絶対値を取り、任意の閾値ΔRと比較する(ステップS621)。
得られた差分が、任意の閾値ΔR以上の場合は、生成されたと仮定される酸化ケイ素膜の膜厚Dsioに任意の酸化ケイ素膜ΔDsioを加算する(ステップS622)。そして、生成されたと仮定される酸化ケイ素膜の膜厚Dsioを更新して、再度反射率Rsimを演算し、再び差分の絶対値を検討する。
一方、酸化ケイ素膜を含んだ層構成での反射率Rsimと計測された反射率Rrealの差分が、任意の閾値ΔR未満の場合は、繰り返しの演算を終了し、その時点での酸化ケイ素膜の膜厚Dsioを酸化ケイ素膜の膜厚として取得する(ステップS623)。
【0046】
<酸化ケイ素膜の評価>
そして、酸化ケイ素膜の膜厚の演算(ステップS210)で得られた酸化ケイ素膜の膜厚は、膜厚に基づいて処理部で評価を行う(ステップS211)。
評価としては、光学センサが1つの場合は1箇所での膜厚に基き、処理の必要性や処理レベルについて評価を行う。また、光学センサを複数の位置で複数具備した場合には、位置による酸化ケイ素膜の膜厚の違いに基き、各位置での処理の必要性及び電子写真装置の状態について評価する。
この評価に基づいて、酸化ケイ素膜の除去の処理時間や摺擦部材における摺擦力を制御し、電子写真感光体の位置によって摺擦力を変えて処理を行う。
【0047】
<酸化ケイ素膜に関わる処理>
そして、酸化ケイ素膜に関わる処理として、電子写真感光体の状態を表示する処理または酸化ケイ素膜を除去する処理を行う(ステップS212)。
【0048】
<表面層の膜厚及び摩耗量の補正>
酸化ケイ素膜の除去の処理が終了した時点で、表面層の膜厚が変化するので、通紙枚数に対する摩耗量ΔDを補正する(ステップS213)。補正する量としては、生成された酸化ケイ素膜の膜厚Dsioを摩耗量ΔDに加算する。
以上のような基準となる反射率の算出、実際の反射率の計測、酸化ケイ素膜の膜厚の算出、酸化ケイ素膜の膜厚の評価及び制御と処理を繰り返し行いながら、画像形成を行っていく。
また、酸化ケイ素膜除去を行った結果及び算出された酸化ケイ素膜の膜厚分布をフィードバックし、その後の電子写真プロセスに関わる処理を行ってもよい。
例えば、前述したトナーによる磨耗を利用し、供給するトナー量を調整してもよい。または、摺擦力を処理中に変更する等のフィードバックをかけても良い。更には、処理に要した時間、摺擦力等のデータを次回の処理条件にフィードバックしても良い。
そして、酸化ケイ素膜が形成される原因や電子写真プロセスとの相関関係が特定される場合には、電子写真装置の設定において、例えば、帯電条件や露光条件、ドラムヒータ温度、空回転時間を自動で変更したり、設定変更を促す表示を行ったりしても良い。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により説明する。
また、本発明は、上述したように画像形成装置の異常や周辺環境の急激な変化によって発生する酸化ケイ素膜の検知および処理を目的としている。そのため、画像形成装置の異常や周辺環境の急激な変化がない状況では酸化ケイ素膜が検知されない。
従って、以下の方法で本発明の効果を確認した。
【0050】
まず、図7に示した堆積膜形成装置を用い、堆積膜形成条件は表1に示した条件で、アルミ製の円筒状基体の表面に、図8に示した電荷注入阻止層8201および光導電層8202、表面層8301を堆積させて電子写真感光体を15本作成した。
図7に示した堆積膜形成装置について説明すると、図7の装置は、大きく反応容器7110を有する堆積装置7100、原料ガス供給装置7200、および、反応容器7110内を減圧する為の排気装置(図示せず)から構成されている。
堆積装置7100中の反応容器7110内にはアースに接続された導電性基体7112、導電性基体加熱用ヒーター7113、および、原料ガス導入管7114が設置され、さらにカソード電極7111には高周波マッチングボックス7115を介して高周波電源7120が接続されている。
原料ガス供給装置7200は、SiH4,CH4,NO,B26の原料ガスボンベ7221〜7225、バルブ7231〜7235、圧力調整器7261〜7265、流入バルブ7241〜7245、流出バルブ7251〜7255およびマスフローコントローラ7211〜7215から構成され、各原料ガスを封入したガスのボンベは補助バルブ7260を介して反応容器7110内の原料ガス導入管7114に接続されている。
次にこの装置を使った堆積膜の形成方法について説明する。まず、反応容器7110を固定しておき、あらかじめ脱脂洗浄した導電性基体7112を反応容器7110に受け台7123を介して設置する。次に、排気装置(図示せず)を運転し、反応容器7110内を排気する。真空計7119の表示を見ながら、反応容器7110内の圧力がたとえば1Pa以下の所定の圧力になったところで、基体加熱用ヒーター7113に電力を供給し、導電性基体7112を例えば50℃から350℃の所望の温度に加熱する。このとき、ガス供給装置7200より、Ar、He等の不活性ガスを反応容器7110に供給して、不活性ガス雰囲気中で加熱を行うこともできる。
次に、ガス供給装置7200より堆積膜形成に用いるガスを反応容器7110に供給する。すなわち、必要に応じバルブ7231〜7235、流入バルブ7241〜7245、流出バルブ7251〜7255を開き、マスフローコントローラ7211〜7215に流量設定を行う。各マスフローコントローラの流量が安定したところで、真空計7119の表示を見ながらメインバルブ7118を操作し、反応容器7110内の圧力が所望の圧力になるように調整する。所望の圧力が得られたところで高周波電源7120より高周波電力を印加すると同時に高周波マッチングボックス7115を操作し、反応容器7110内にプラズマ放電を生起する。その後、速やかに高周波電力を所望の電力に調整し、堆積膜の形成を行う。
所定の堆積膜の形成が終わったところで、高周波電力の印加を停止し、バルブ7231〜7235、流入バルブ7241〜7245、流出バルブ7251〜7255、および補助バルブ7260を閉じ、原料ガスの供給を終えると同時に、メインバルブ7118を開き、反応容器7110内を1Pa以下の圧力まで排気する。
以上の方法で、堆積層の形成を行った。
また、作成した堆積膜の各層については、予め単膜で作成した膜を高速分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製、M2000U)を用いて、屈折率、消衰係数、膜厚の値を求めておいた。各値は表1には示す。
その際の測定条件は、測定波長245〜1000nm、入射角55°、60°、及び65°で測定し、その測定値をもとに算出した。
作成した15本の電子写真感光体の表面層ついて、作成後に、研磨機を用いて100Å削った電子写真感光体を5本、500Å削った電子写真感光体を5本、1000Å削った電子写真感光体を5本ずつ作成した。
作成した各5本計15本については、それぞれ電子写真感光体の長手方向に4cm間隔で5点、400nmから750nmまでの波長領域で反射率を計測して反射波形を取得した。
【0051】
【表1】

【0052】
次に、表面層8301の表面に、図9に示したスパッタリング装置を用いて、異なる膜厚で酸化ケイ素膜を堆積させた。
図9に示したスパッタリング装置を使用した堆積膜形成の方法について以下に説明する。まず、反応容器9101内に酸化ケイ素膜の形成に必要なケイ素を含有するターゲット9611、9711をセットした後、バルブ9502を開いて排気装置により反応容器9101内部を排気しておく。同時に酸化ケイ素膜を堆積させる基体9100を扉9106よりロードロック室9103内にセットする。次に扉9106を閉じ、バルブ9501を開いてロードロック室9103内部を排気する。
反応容器9101、ロードロック室9103内部がともに十分な真空度、例えば0.1Pa以下になったところで、バルブ9505を開き、移送ハンド等(図示せず)で基体9100を反応容器9101内に設置する。
その後、移送ハンド等(図示せず)をロードロック室9103内に戻し、ゲートバルブ9505を閉じる。
次にスパッタガス及び反応性ガス等を、それぞれバルブ9513、9523、9533、9543を開いて、供給手段9400より反応容器9101内に供給する。反応容器9101に接続された真空計9102により、所定の圧力になったところで電源9662、9772より電力を印加してグロー放電を発生させる。
この際、回転軸9107をモータ9108により回転させることで、基体9100の周方向に均一に堆積膜を得ることができる。
所定の堆積膜が形成されたところで、電源9662、9772よりの電力の供給を止め、堆積膜の形成を終える。
同時にバルブ9513、9523、9533、9543を閉じ、反応性ガス、スパッタガス等の供給を終え、いったん反応容器9101内を例えば0.1Pa以下の圧力まで排気し、ゲートバルブ9505を開いて基体9100をロードロック室9103に引き上げ、ゲートバルブ9505を閉じる。
ゲートバルブ9505が閉じたことを確認した後、バルブ9507を開き、ロードロック室9103内を大気圧とし、扉9106を開いて、基体9100を取り出し、酸化ケイ素膜の形成を終える。以上の方法で、酸化ケイ素膜層の形成を行った。
また、このとき、100Å削った電子写真感光体5本には100Åの酸化ケイ素膜を堆積させ、500Å削った電子写真感光体5本には500Åの酸化ケイ素膜を堆積させ、1000Å削った電子写真感光体5本には1000Åの酸化ケイ素膜を堆積させた。
また、堆積させた酸化ケイ素膜についても、他の層と同様に、基板上に単膜で堆積させて分光エリプソメトリーを用いて屈折率、消衰係数を求めた。値は表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
そして、酸化ケイ素膜を異なる膜厚で堆積させた15本について、それぞれ電子写真感光体の長手方向に4cm間隔で5点、400nmから750nmまでの波長領域で反射率を計測し反射波形を取得した。
図10に酸化ケイ素膜の膜厚が100Å、500Å、1000Åの各々の反射波形を示す。
そして、図10から明らかなように、100Åと500Åにおける膜厚と反射率の関係と、500Åと1000Åにおける膜厚と反射率の関係では、酸化ケイ素膜の膜厚と反射率の関係が異なる。
膜厚を100Å、500Å、1000Åと厚くした場合、反射率については、100Åから500Åでは反射率が低下するが、500Åから1000Åでは全体的に反射率が上昇する傾向にある。
以上のように作成した電子写真感光体について、それぞれ100Å、500Å、1000Åの酸化膜ケイ素膜が発生した状態の電子写真感光体と仮定した。
【0055】
<実施例1>
実施例1では、図1(A)に示すように、酸化ケイ素膜を検知できるように光学センサを電子写真感光体の長手方向の中間位置に設置し、クリーニングブレードの摺擦力を制御できるようにキヤノン株式会社製複写機iR6000(商品名)を改造した。
光学センサは1個で、受光素子として分光光度計を用い、反射率を算出する対象の波長領域を400nmから750nmまでとして検知及び膜厚の算出を実施した。
このとき、前述した膜厚が100Å及び500Å、1000Åの酸化ケイ素膜が堆積した電子写真感光体を用いて検知及び膜厚の算出を実施した。
そして、処理として酸化ケイ素膜の除去を行う際、100枚の印刷で1Å摩耗するようにクリーニングブレード141の摺擦力を制御した。
摺擦力の制御は、制御用モータ142を用いて、クリーニングブレード141を電子写真感光体110に押しつける圧力を調節することで行った。
このようにして、酸化ケイ素膜の除去が完了する枚数まで摺擦力を制御した。
【0056】
評価としては、処理後の電子写真感光体の酸化ケイ素膜が摺擦手段によって除去されたことを確認するために、酸化膜ケイ素膜の除去後に電子写真感光体を取り出し、酸化膜ケイ素膜を堆積させる前に計測した位置5点で反射率を計測し、堆積前との比較を行った。
比較においては、まず酸化膜ケイ素膜を堆積させる前に測定した基準の反射スペクトルをΨA、処理後の反射スペクトルをΨBとした。
また、Npは対象の波長領域400nmから750nmまでで反射率の値を取得した波長の個数とした。また、Ra(λ)は酸化ケイ素膜を堆積させる前に測定した基準の反射率で波長がλのときの値、Rb(λ)は酸化ケイ素膜への処理を行った後に測定した反射率で波長がλのときの値とした。
【0057】
次に、反射スペクトルΨA及び反射スペクトルΨBについて、式(21)にあるように、それぞれのスペクトルからNp個の波長位置で反射率Ra(λ)とRb(λ)を取り出し、Ra(λ)とRb(λ)の差分の絶対値を算出した。そして、Ra(λ)で割った値を波長領域全体で足し合わせて、反射率を取得したポイント数Npで割ったものをΔRave.とした。
【0058】
【数21】

【0059】
ΔRave.が、小さいほど酸化膜ケイ素膜を堆積させる前に測定した基準の反射スペクトルΨAに近いことになる。
本実施例では、1nm間隔で400nmから750nmまでの反射率を取得したので、データ点数であるNpは、351個となった。
そして、5点ある計測位置をNo.1〜No.5として、それぞれ指標ΔRave.を求め、5点での平均も算出した。
また、基準として酸化ケイ素膜を除去する前のΔRave.及び5点での平均も算出した。
その結果は、表3に示す。
【0060】
<実施例2>
実施例2では、キヤノン株式会社製複写機iR6000(商品名)を、図11に示すように電子写真感光体11001の長手方向に、光学センサ11011〜11015を配置するように改造した。
また、クリーニングブレード11030を摺擦部材として、電子写真感光体11001の長手方向で摺擦力を制御できるように制御モータ11021〜11025を具備した。
そして、複数の光学センサ11011〜11015によって計測され算出された、各計測位置での酸化ケイ素膜の膜厚に応じて、クリーニングブレード11030の摺擦力を変更する制御を行った。
この際、予め制御モータ11021〜11025の各点における駆動量とクリーニングブレード11030の各点における電子写真感光体11001との摺擦力の関係を実験で確認しておいた。
そして、堆積された酸化ケイ素膜の膜厚分布に対して、酸化ケイ素膜除去後に酸化ケイ素膜を堆積する前の下地となった表面層の膜厚分布に極力適するように制御を行った。
そして、実施例1と同様に反射率を算出する対象の波長領域を400nmから750nmまでとして検知及び膜厚の算出を実施した。
このとき、実施例1と同様に、前述した膜厚が100Å及び500Å、1000Åの酸化ケイ素膜が堆積した電子写真感光体を用いて検知及び膜厚の算出を実施した。
評価も実施例1と同様に行った。
その結果は表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3によれば、指標であるΔRave.が小さくなり酸化ケイ素膜を堆積させる前の反射スペクトルΨAに近づいていることから、本発明では、膜厚が100Åの軽微な変質も高精度で検知できることが判明した。
そして、同様に表3によれば、酸化ケイ素膜が異なる膜厚100Å、500Å、1000Åで堆積させたどの場合でも、除去前のΔRave.より小さくなっている。よって、100Åから1000Åまでのどの膜厚でも検知及び除去が適切に行われていることが判明した。
また、このことから前述した酸化ケイ素膜の膜厚と反射率の関係が異なる場合においても、本発明では正確に膜厚を検知できることが判明した。
さらに、同じ酸化ケイ素膜の膜厚において、最大値と最小値の差が実施例1より実施例2で小さくなっていることから、複数の光学センサで検知して処理を制御することによって、電子写真感光体の長手方向の各位置で適切に除去が行われたことが判明した。
【0063】
<実施例3>
実施例3では、図1(B)にあるように、酸化ケイ素膜を検知できるように光学センサを電子写真感光体の長手方向の中間位置に設置し、酸化ケイ素膜の検知及び膜厚の結果を液晶パネルに表示できるようにキヤノン株式会社製複写機iR6000(商品名)を改造した。
このとき、実施例1と同様に、光学センサには分光光度計を1個用い、反射率を算出する対象の波長領域を400nmから750nmまでとして、酸化ケイ素膜の検知及び膜厚の算出を実施した。
このとき、前述した酸化ケイ素膜の膜厚がそれぞれ100Å及び500Å、1000Å堆積した電子写真感光体を用いて検知及び膜厚の算出を実施した。
評価としては、酸化ケイ素膜の発生の予告及び検知された酸化ケイ素膜の膜厚を液晶パネルに表示させて評価した。
酸化ケイ素膜発生の予告の設定としては、酸化ケイ素膜が50Å以上で「レベル1」、400Å以上で「レベル2」、900Å以上で「レベル3」、1200Å以上で「レベル4」と表示させ処理の正否を以下の基準で評価して確認した。
○・・・酸化ケイ素の膜厚とレベルの表示が合っている
×・・・酸化ケイ素の膜厚とレベルの表示が異なる
また、各膜厚の電子写真感光体を3本ずつ使用して、表示された酸化ケイ素膜の膜厚を平均し、堆積した酸化ケイ素膜の膜厚と比較して、膜厚の算出の精度を評価した。
その結果は、表4に示す。
【0064】
<実施例4>
実施例4では、実施例3における電子写真感光体のアモルファス水素化炭化ケイ素(a−SiC:H)膜の表面層を1μmのアモルファス窒化ケイ素(a−SiN)膜に変更して、その上に酸化ケイ素膜を100Å及び500Å、1000Å堆積させた。そして、実施例3と同様の実験を行った。
その結果は表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
表4によれば、電子写真感光体の状態を適切に表示できることがわかった。
また、酸化ケイ素膜を100Å及び500Å、1000Å堆積させたどの場合でも、算出される酸化ケイ素膜の膜厚は正しく算出されていることが判明した。
さらに、実施例3と実施例4では、実施例3において、算出された酸化ケイ素膜の膜厚と実際の膜厚の誤差が小さいことから、Si、C、およびHで構成された表面層では、算出される膜厚の誤差が小さいことがわかった。
以上の結果から、本発明の構成及び方法の電子写真装置により、画像形成装置の異常や周辺環境の急激な変化によって発生する酸化ケイ素膜のフィルミング現象を精度良く検知できることがわかった。
その結果、電子写真感光体の表面を良好に維持でき、酸化ケイ素膜に起因する画像不良の発生を抑制でき、メンテナンス周期の延長が可能になることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に用いることができる電子写真装置の構成の概略図であって、(A)は摺擦部材を摺擦手段として酸化ケイ素膜を除去し、(B)は電子写真装置の状態を表示する表示手段により電子写真感光体の情報を表示する。
【図2】本発明に用いることができる一連の操作を示したフローチャート。
【図3】本発明に用いることができる基準となる反射率の演算を示したフローチャート。
【図4】基板と接する層でのフレネル係数に用いる概念図。
【図5】基板と接する層以外でのフレネル係数に用いる概念図。
【図6】本発明に用いることができる酸化ケイ素膜の膜厚の演算を示したフローチャート。
【図7】実施例1〜3で製造した電子写真感光体の堆積膜形成方法に用いられるプラズマCVD法を用いた堆積膜形成容器の例を模式的に示した縦断面図。
【図8】実施例1〜3で作製した電子写真用感光体における層構成を示す図。
【図9】実施例1〜3で作製した電子写真感光体の堆積膜形成に用いられるスパッタリング法を用いた堆積膜形成容器の例を模式的に示した縦断面図。
【図10】実施例1〜3における酸化ケイ素膜を堆積させた後の酸化ケイ素膜の膜厚と波長と反射率との関係を示す図。
【図11】実施例2における電子写真装置の構成の概略図。
【符号の説明】
【0068】
7100 堆積装置
7110 反応容器
7111 カソード電極
7112 円筒状基体
7113 基体加熱用ヒーター
7114 ガス導入管
7115 高周波マッチングボックス
7116 ガス配管
7117 リークバルブ
7118 メインバルブ
7119 真空計
7120 高周波電源
7121 絶縁材料
7123 受け台
7200 ガス供給装置
7211〜7215 マスフローコントローラ
7221〜7225 ボンベ
7231〜7235 バルブ
7241〜7245 流入バルブ
7251〜7255 流出バルブ
7260 補助バルブ
7261〜7265 圧力調整器
8101 円筒状基体
8201 電荷注入阻止層
8202 光導電層
8301 表面層
9100 基体
9101 処理容器
9102 圧力計
9103 ロードロック室
9104 圧力計
9105 基体ホルダ
9106 搬入出扉
9107 回転軸
9108 回転モータ
9109 接地部材
9110 キャップ
9111〜9112 スパッタリングガス導入ノズル
9113 反応ガス、窒素原子添加ガス導入ノズル
9201 排気装置
9202 排気装置
9301 排気路
9302 搬送路
9303 排気路
9304〜9305 スパッタリングガス供給路
9306 反応ガス、窒素原子添加ガス供給路
9400 ガス供給装置
9411〜9421 スパッタリングガスボンベ
9431、9441 ガスボンベ
9412、9422、9432、9442 レギュレータ
9413、9423、9433、9443 マスフローコントローラ
9303 排気路
9501〜9506 弁
9507 リーク弁
9511〜9514、9521〜9524、9531〜9534 弁
9541〜9543 弁
9600 ターゲットユニット
9611 ターゲット
9612 スパッタリング面
9621 ターゲットホルダ
9631 磁石
9641 絶縁物
9651、9652 冷媒循環パイプ
9661 電源ケーブル
9662 電源
9700 ターゲットユニット
9711 ターゲット
9712 スパッタリング面
9721 ターゲットホルダ
9731 磁石
9741 絶縁物
9751、9752 冷媒循環パイプ
9771 電源ケーブル
9772 電源
10001 電子写真感光体
10011~10015 光学センサ
10021~10025 制御モータ
10030 クリーニングブレード



【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体の上に形成された光導電層と、前記光導電層の上にケイ素化合物で形成された表面層を、少なくとも含む電子写真感光体を有する電子写真装置であって、
少なくとも発光素子と受光素子とを含み、反射光を計測可能な光学センサと、
前記受光素子が受け取った反射光に対応する電気信号を反射率に換算する反射率変換部と、
前記表面層の表面が酸化ケイ素膜に変質しない場合における通紙枚数に対応する基準の反射率を算出する基準反射率算出部と、
前記基準の反射率と、前記反射率変換部によって換算された反射率とから前記表面層の表面の変質によって形成された酸化ケイ素膜の膜厚を演算する酸化ケイ素膜算出部と、
前記酸化ケイ素膜算出部を用いて算出された酸化ケイ素膜の膜厚に基づいて、前記酸化ケイ素膜に係る処理を行う処理部と、
を具備することを特徴とする電子写真装置。
【請求項2】
前記電子写真感光体へ接する摺擦部材をさらに具備し、
前記処理部が前記摺擦部材の摺擦力を制御することを特徴とする請求項1に記載の電子写真装置。
【請求項3】
前記電子写真装置の状態を表示する表示器をさらに具備し、
前記処理部が前記表示器に前記電子写真感光体の状態を示す信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の電子写真装置。
【請求項4】
複数の前記光学センサが前記電子写真感光体の長手方向に配置され、
前記処理部が複数の前記光学センサによって計測され算出された各計測位置での酸化ケイ素膜の膜厚に応じて、前記摺擦部材の摺擦力を変更する制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の電子写真装置。
【請求項5】
複数の前記光学センサが前記電子写真感光体の長手方向に配置され、
前記処理部が前記表示器に、前記光学センサによって計測され算出された、各計測位置での酸化ケイ素膜の膜厚に応じた信号を出力することを特徴とする請求項3に記載の電子写真装置。
【請求項6】
前記表面層がSi、C、およびHで構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−145447(P2010−145447A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319258(P2008−319258)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】