説明

電子部品封止用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた電子部品装置

【課題】流動性や硬化性等の成形性に優れるとともに、ガラス転移温度が高く、耐熱性に関して優れた効果を発揮する電子部品封止用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)、下記構造単位(1)を含む構造を有し、かつ示差走査熱量分析(DSC)法によるガラス転移温度が−5℃〜70℃の範囲であるアリル化フェノール樹脂(B)、硬化促進剤(C)、無機質充填剤(D)を含有する電子部品封止用エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子等の封止に用いられる電子部品封止用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた電子部品装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、トランジスター、IC、LSI等の各種半導体素子は、外部環境からの保護および半導体素子のハンドリングを簡易にする観点から、セラミックパッケージやプラスチックパッケージ等により封止され半導体装置化されている。前者のセラミックパッケージは、構成材料そのものが耐熱性を有し、耐湿性にも優れているため、高温高湿雰囲気下に対しても耐久性を備えており、機械的強度にも優れ、信頼性の高い封止が可能であるという利点を有している。
【0003】
しかしながら、上記セラミックパッケージは、構成材料が比較的高価であることや、量産性に劣るという問題点を有することから、近年は後者のプラスチックパッケージによる樹脂封止が主流となっている。上記プラスチックパッケージによる樹脂封止には、従来から、耐熱性に優れるという性質を利用してエポキシ樹脂組成物が用いられており、良好な実績をおさめている。
【0004】
このような半導体素子を封止するためのエポキシ樹脂組成物としては、一般的に主材としてのエポキシ樹脂、硬化剤としてのフェノール樹脂、硬化促進剤としてのアミン系化合物、その他任意成分として弾性付与剤としてのゴム成分、無機質充填剤としてのシリカ粉末等からなる構成成分が、特にトランスファー成形時の封止作業性等の点に優れたものとして用いられている。
【0005】
一方、アリル基を有するフェノール樹脂を硬化剤として使用してなる半導体封止材等の絶縁材料は、これまでにも様々なものが報告されているが、耐熱性が充分ではなく、この耐熱性に関して未だ充分なものが得られていないのが実情である。
【0006】
上記アリル基を有するフェノール樹脂を含有する半導体封止材料等の絶縁材料としては、例えば、接着性の向上を図ったもの(特許文献1参照)、耐吸湿性を改良したもの(特許文献2,3参照)、硬化性樹脂組成物の溶融粘度を低下させたもの(特許文献4参照)、レーザーマーキング性を向上させたもの(特許文献5参照)、低熱膨張性を有するもの(特許文献6参照)等があげられる。これら絶縁材料は、各々の特性については良好な特性を示すものの、耐熱性の向上に関しては充分な物性が得られていない。また、耐熱性を向上させた例として、アリル基を有するフェノール樹脂とビスマレイミド化合物とを含む熱硬化性樹脂組成物が提案されている(特許文献7参照)が、上記ビスマレイミド化合物を含む熱硬化性樹脂組成物は、成形に関しては、封止材料等として一般的に知られているエポキシ樹脂−フェノール樹脂系の硬化反応と比べて反応性に乏しく、作業性に劣るという欠点を有している。さらに、アリル基を有するフェノール樹脂およびエポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物を用いることによりガラス転移温度を向上させたものが提案されている(特許文献8〜11)が、いずれの場合も後硬化温度は200℃以下であるため、アリル基は硬化しておらず耐熱性の向上には至っていない。すなわち、アリル基の熱硬化は、200℃より高い温度を必要とし、非常に反応性が低いため、アリル基を積極的に硬化させることによって、耐熱性を向上させるということはこれまで検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−306828号公報
【特許文献2】特開平7−145300号公報
【特許文献3】特開平7−118367号公報
【特許文献4】特開平9−31167号公報
【特許文献5】特開平4−249526号公報
【特許文献6】特開平6−263841号公報
【特許文献7】特開平3−237126号公報
【特許文献8】特開2001−11161号公報
【特許文献9】特開平5−132539号公報
【特許文献10】特開平5−320317号公報
【特許文献11】特開平6−136093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、大型家電製品や産業機器において、大電力の制御等を行なう半導体装置として、例えば、トランジスターやダイオード、サイリスター等のパワーデバイス等がある。このようなパワーデバイスは電力変換器での損失を大幅に低減するために、Si素子からSiC素子やGaN素子への置き換えが検討されている。このように、SiC素子やGaN素子に置き換えることにより大容量化が可能となるが、その結果、高電圧下に曝され、半導体素子の発熱が200〜250℃と非常に大きくなると考えられ、封止樹脂の耐熱性に劣るとなると、パッケージや半導体素子の損傷,破壊が起こる可能性が高くなることになる。
【0009】
このような状況から、封止樹脂の耐熱性を向上させる方法として、シリコーンオイルや、ゴム成分を封止用樹脂組成物中に添加することが考えられるが、これら添加成分はリードフレームと封止樹脂との界面に滲出する恐れがあり、界面での接着力が低下する傾向がみられる等の問題がある。
【0010】
一方、半導体素子を封止する成形方法として、液状封止樹脂材料を用いたスクリーン印刷やディスペンス成形、さらにトランスファー成形、シート成形、コンプレッション成形等、種々の成形方法が存在するが、いずれの成形方法を用いる場合であれ、封止材料となる熱硬化性樹脂組成物には流動性および硬化性が要求される。
【0011】
上記熱硬化性樹脂組成物の中には高耐熱性を備えたものもあるが、反応速度が遅く硬化性不良のために成形性が悪くなる傾向がみられる。また、熱硬化反応時にガス等の副生成物が発生する樹脂組成物もある。したがって、このような樹脂組成物を半導体封止材料用途に用いた場合、成形(樹脂封止)中にガス等の副生成物が発生して、封止樹脂中にボイド等が形成され、デバイスの故障が発生したり等、信頼性が低下するという問題が生じる。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、流動性や硬化性等の成形性に優れるとともに、ガラス転移温度が高く、耐熱性に関して優れた効果を発揮する電子部品封止用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた電子部品装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、下記の(A)〜(D)成分を含有する電子部品封止用エポキシ樹脂組成物であって、上記(B)成分であるアリル化フェノール樹脂が、示差走査熱量分析(DSC)法によるガラス転移温度が−5℃〜70℃の範囲である電子部品封止用エポキシ樹脂組成物を第1の要旨とする。
(A)エポキシ樹脂。
(B)硬化剤:下記に示す構造単位(1)および下記に示す構造単位(2)を含み、上記構造単位(1)と構造単位(2)の合計量に対する構造単位(1)のモル比率[構造単位(1)/〔構造単位(1)+構造単位(2)〕×100]が40〜100%であるアリル化フェノール樹脂。
【化1】

【化2】

(C)硬化促進剤。
(D)無機質充填剤。
【0014】
そして、本発明は、上記電子部品封止用エポキシ樹脂組成物を用いて、電子部品を樹脂封止してなる電子部品装置を第2の要旨とする。
【0015】
本発明者らは、成形性の低下を招くことなく、耐熱性に優れた封止材料を得るために鋭意検討を重ねた。その結果、上記特定範囲のガラス転移温度を有するアリル化フェノール樹脂〔(B)成分〕であって、かつそのアリル化率、すなわち、上記構造単位(1)と構造単位(2)の合計量に対する構造単位(1)のモル比率[構造単位(1)/〔構造単位(1)+構造単位(2)〕×100]が40〜100%となるアリル化フェノール樹脂〔(B)成分〕を用いると、低粘度であり、かつ高いガラス転移温度を備えたものが得られ、結果、耐熱性に優れた封止樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明は、硬化剤として、前記構造単位(1)のモル比率が特定範囲であり、かつ特定範囲のガラス転移温度を備えたアリル化フェノール樹脂〔(B)成分〕を含有する電子部品封止用エポキシ樹脂組成物である。このため、流動性や硬化性等の成形性に優れ、かつガラス転移温度が高く、耐熱性に優れた効果を発揮する封止材料が得られる。したがって、上記電子部品封止用エポキシ樹脂組成物を用いて得られる電子部品装置では、高い耐熱信頼性等の特性を備えたものを得ることができる。
【0017】
また、エポキシ樹脂〔(A)成分〕と特定のアリル化フェノール樹脂〔(B)成分〕の配合割合を、(B)成分のフェノール性水酸基1当量に対して(A)成分のエポキシ当量が0.5〜3.0となるよう設定すると、反応性の向上に関してより一層効果的である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0019】
本発明の電子部品封止用エポキシ樹脂組成物(以下、「エポキシ樹脂組成物」と略すことがある)は、エポキシ樹脂(A成分)と、特定のアリル化フェノール樹脂(B成分)と、硬化促進剤(C)成分と、無機質充填剤(D成分)とを用いて得られるものであって、通常、粉末状もしくはこれを打錠したタブレット状になっている。
【0020】
〈エポキシ樹脂〉
上記エポキシ樹脂(A成分)としては、多官能エポキシ樹脂が好ましく用いられ、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、フラン環含有ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。そして、これらエポキシ樹脂の中でも、耐熱性の観点から、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
また、上記エポキシ樹脂(A成分)のエポキシ当量は、100〜3000当量(g/eq.)の範囲であることが好ましく、より好ましくは100〜1000当量(g/eq.)の範囲、特に好ましくは100〜500当量(g/eq.)の範囲である。すなわち、上記エポキシ当量が上記範囲を外れ小さ過ぎると、得られる硬化物の架橋点密度が高くなることに起因するためか破断伸び率が大きくなり難く好ましくなく、逆に上記エポキシ当量が上記範囲を外れ大き過ぎると、硬化性が悪くなる傾向がみられる。
【0022】
上記エポキシ樹脂(A成分)の含有量は、電子部品封止用エポキシ樹脂組成物全体の3〜15重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは5〜10重量%である。すなわち、エポキシ樹脂(A成分)の含有量が上記範囲を外れると、電子部品封止用エポキシ樹脂組成物の線膨張係数が適切な範囲となり難い傾向がみられるからである。
【0023】
〈特定のアリル化フェノール樹脂〉
上記エポキシ樹脂(A成分)とともに用いられる特定のアリル化フェノール樹脂(B成分)は、上記エポキシ樹脂(A成分)を硬化させる作用を有する硬化剤であり、下記に示す構造単位(1)および下記に示す構造単位(2)を含有するフェノール樹脂である。
【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
そして、上記アリル化フェノール樹脂(B成分)としては、上記構造単位(1)と構造単位(2)の合計量に対する構造単位(1)のモル比率[構造単位(1)/〔構造単位(1)+構造単位(2)〕×100]が40〜100%である必要がある。特に好ましくはモル比率が80〜100%である。上記構造単位(1)と構造単位(2)の合計量に対する構造単位(1)のモル比率[構造単位(1)/〔構造単位(1)+構造単位(2)〕×100]は、アリル化率ともいい、これが40〜100%でなければならず、特に好ましくは80〜100%である。すなわち、上記アリル化率が上記範囲を外れ小さすぎると、得られる硬化物のガラス転移温度が低くなり耐熱性に劣るからである。
【0027】
また、上記アリル化フェノール樹脂(B成分)は、示差走査熱量分析(DSC)法によるガラス転移温度が−5℃〜70℃の範囲である必要がある。上記ガラス転移温度が上記範囲を外れ低すぎると、得られるエポキシ樹脂組成物のブロッキング性が悪くなり、上記範囲を外れ高すぎると、得られるエポキシ樹脂組成物の粘度が高くなるからである。なお、上記示差走査熱量分析(DSC)法によるガラス転移温度とは、例えば、JIS K7121(1987年制定)「プラスチックの転位温度測定方法」に準拠して示差走査熱量測定を行い、その測定による中間点のガラス転移温度をアリル化フェノール樹脂のガラス転移温度とする。具体的には、測定対象のアリル化フェノール樹脂(B成分)を約10mg量り取り、これをアルミパンに入れて密閉し、示差走査熱量測定装置(エスアイアイナノテクノロジー社製、DSC6200)を用いることによりガラス転移温度を測定し算出することができる。
【0028】
上記アリル化フェノール樹脂(B成分)は、例えば、つぎのようにして合成することができる。すなわち、フェノールノボラック樹脂、ハロゲン化アリル、塩基性化合物および溶媒を混合して加熱撹拌することにより、アリルエーテル化したフェノール樹脂が得られる。つぎに、得られたアリルエーテル化したフェノール樹脂を180〜200℃にて加熱することにより、アリルエーテル化したフェノール樹脂の一部または全部のアリル基がクライゼン転位することにより目的のアリル化フェノール樹脂(B成分)を合成することができる。このようにして合成し得られたアリル化フェノール樹脂は、先に述べたように、前記構造単位(1)および構造単位(2)を含有するアリル化フェノール樹脂である。
【0029】
上記特定のアリル化率を有し、さらにDSC法によるガラス転移温度が特定範囲であるアリル化フェノール樹脂(B成分)とするためには、上記合成時にハロゲン化アリルおよび塩基性化合物の量を調整すればよく、上記ガラス転移温度に関しては、使用するフェノールノボラック樹脂の分子量を調整することにより調整することも可能である。具体的には、目的とする特定のアリル化率に関しては、上記ハロゲン化アリルを、フェノールノボラック樹脂の水酸基当量に対し、当量〜2倍当量となるよう添加すればよい。また、上記塩基性化合物を、フェノールノボラック樹脂の水酸基当量に対し、当量〜2倍当量となるよう添加すればよい。そして、上記ガラス転移温度については、上述のとおり、同じアリル化率であってもフェノールノボラック樹脂の分子量を調整することにより制御することが可能である。例えば、アリル化率100%のアリル化フェノール樹脂(B成分)については、前述あるいは後述に記載の方法にて測定,算出してなる重量平均分子量およびガラス転移温度に関し、重量平均分子量が599の揚合、ガラス転移皿度は−28℃であるのに対し、重量平均分子量が2866の場合、ガラス転移温度は−5℃で、重量平均分子量が3647の場合、ガラス転移温度は13℃となり、アリル化フェノール樹脂(B成分)を高分子量化することでガラス転移温度が上昇するため、重量平均分子量の調整によりガラス転移温度を制御することができる。
【0030】
なお、アリル化フェノール樹脂の重量平均分子量は、例えば、つぎのようにして測定,算出される。すなわち、アリル化フェノール樹脂を0.1%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調整し、25℃で1日放置する。その後、0.45μmメンブランフィルターにて濾過し、得られた濾液について分子量測定を行なう。この分子量測定には、例えば、GPC(東ソー社製、HLC−8120GPC、カラム:東ソー社製GMHXL、GMHXL、G3000HXL)が用いられる。また、この場合の測定条件は、カラム温度40℃、溶離液テトラヒドロフラン、流速0.8mL/分、注入量100μLである。そして、検出器は、示差屈折計を用い、ポリスチレン換算により数平均分子量(Mn)とともに重量平均分子量(Mw)を算出する。
【0031】
また、オルソアリルフェノールとホルマリンとを混合し、これに酸触媒を添加して加熱撹拌することによっても同様に、目的の特定のアリル化率を有し、さらにDSC法によるガラス転移温度が特定範囲であるアリル化フェノール樹脂(B成分)を合成することができる。この場合のアリル化率の調整に関しては、例えば、上記オルソアリルフェノールとホルマリンを任意の割合で混合して重合することにより目的のアリル化率に調整することができる。また、この場合のガラス転移温度については、先に述べたように、重量平均分子量の調整を行なうことによって制御することができる。
【0032】
上記A成分とB成分の配合割合は、B成分中のフェノール性水酸基1当量に対してA成分のエポキシ当量が0.5〜3.0となるよう設定することが反応性の観点から好ましい。さらに、上記反応性の観点から、より好ましくは0.6〜2.0当量の範囲であり、特に好ましくは0.8〜1.5当量の範囲である。
【0033】
さらに、上記エポキシ樹脂(A成分)に対する硬化剤成分として、上記アリル化フェノール樹脂(B成分)以外のフェノール樹脂を、本発明の硬化を阻害しない範囲内で用いてもよい。このようなフェノール樹脂としては、例えば、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂等の各種フェノール樹脂があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。上記アリル化フェノール樹脂(B成分)以外のフェノール樹脂を用いる場合は、具体的には、B成分を含むフェノール樹脂成分(硬化剤成分)全体の60重量%以下となるように設定することが好ましい。
【0034】
〈硬化促進剤〉
上記A成分およびB成分とともに用いられる硬化促進剤(C成分)としては、具体的には、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレートやトリフェニルホスフィン等の有機リン系硬化促進剤、2−メチルイミダゾールやフェニルイミダゾール等のイミダゾール系硬化促進剤、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノネン−5等の三級アミン系硬化促進剤、ホウ素系硬化促進剤、リン−ホウ素系硬化促進剤等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、市場での汎用性やコストの点から、有機リン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤が好ましく用いられる。
【0035】
上記硬化促進剤(C成分)の含有量は、上記A成分およびB成分の合計量に対して0.001〜10重量%に設定することが好ましく、より好ましくは0.05〜5重量%の範囲である。すなわち、硬化促進剤の含有量が少なすぎると、硬化性が悪化する傾向がみられ、逆に硬化促進剤の含有量が多すぎると、電気特性の悪化や、耐熱性の低下につながる傾向がみられるからである。
【0036】
〈無機質充填剤〉
上記A〜C成分とともに用いられる無機質充填剤(D成分)としては、例えば、石英ガラス、タルク、シリカ粉末(溶融シリカ粉末や結晶性シリカ粉末等)、アルミナ粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化珪素粉末等の各種粉末があげられる。これら無機質充填剤は、破砕状、球状、あるいは摩砕処理したもの等いずれのものでも使用可能である。そして、これら無機質充填剤は単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、得られるエポキシ樹脂組成物の硬化体の熱線膨張係数が低減することにより内部応力を低減することができ、その結果、封止後の基板の反りを抑制することができるという点から、上記シリカ粉末を用いることが好ましく、上記シリカ粉末の中でも溶融シリカ粉末を用いることが、高充填性、高流動性という点から特に好ましい。上記溶融シリカ粉末としては、球状溶融シリカ粉末、破砕溶融シリカ粉末があげられるが、流動性という観点から、球状溶融シリカ粉末を用いることが好ましい。
【0037】
また、無機質充填剤(D成分)の平均粒子径は、1〜30μmの範囲であることが好ましく、特に好ましくは2〜20μmの範囲のものである。なお、上記無機質充填剤(D成分)の平均粒子径は、例えば、母集団から任意の測定試料を取り出し、市販のレーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0038】
そして、上記無機質充填剤(D成分)の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体の70〜90重量%の範囲に設定することが好ましく、特に好ましくは80〜90重量%である。すなわち、無機質充填剤(D成分)の含有量が少なすぎると、エポキシ樹脂組成物の硬化体の熱線膨張係数が大きくなるために、硬化体の反りが大きくなる傾向がみられる。一方、無機質充填剤(D成分)の含有量が多すぎると、エポキシ樹脂組成物の流動性が低下するために、電子部品や基板との接着性が低下する傾向がみられるからである。
【0039】
〈各種添加剤〉
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、上記A〜D成分以外に、必要に応じて、上記エポキシ樹脂組成物の機能を損なわない範囲で各種添加剤を配合することができる。例えば、接着性付与剤、静電気対策のための導電性付与剤、難燃剤、イオン捕捉剤、酸化防止剤、低応力化剤、離型剤、流動性付与剤、吸湿剤、着色剤、顔料等があげられる。
【0040】
上記離型剤としては、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸カルシウム等の化合物があげられ、例えば、カルナバワックスや酸化ポリエチレン系ワックス等が用いられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0041】
上記難燃剤としては、有機リン系化合物、酸化アンチモン、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0042】
上記顔料には、静電除去効果を有するカーボンブラック等を用いることができる。
【0043】
さらに、上記各種添加剤以外に、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等の各種カップリング剤を適宜用いることができる。
【0044】
〈エポキシ樹脂組成物の硬化〉
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記特定のアリル化フェノール樹脂(B成分)を含有するため、これを用いて電子部品を樹脂封止する際には、上記B成分中のアリル基を積極的に硬化させることが好ましい。このように、特定のアリル化フェノール樹脂(B成分)を含有するエポキシ樹脂組成物は、1段階目の反応工程として100〜200℃の加熱にてエポキシ−フェノール硬化による硬化反応が起こり、2段階目の反応工程として220〜350℃の加熱にて熱分解に強いアリル基を硬化させることにより硬化物が得られる。本発明では、このアリル基の硬化反応によって硬化物の熱分解を抑制し、ガラス転移温度の向上を実現するものである。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製する場合、トランスファー成形、シート成形、コンプレッション成形、スクリーン印刷、ディスベンション成形等の成形性を考慮すると、プレ硬化させるためには、温度は100〜200℃で反応させることが好ましく、150〜200℃であることがより好ましい。また、上記温度での反応時間は、1〜60分間であり、より好ましくは1〜30分間加熱することであり、特に好ましくは1〜10分間加熱することである。続いて、後硬化として100〜200℃で2〜6時間の加熱を行なう。そして、アリル基の硬化反応を促進するために、上記反応条件にて反応させた後、180〜220℃で10〜3000分間加熱し、さらに220〜350℃で10〜6000分間加熱する、特に好ましくは220〜300℃で10〜1440分間加熱することにより、熱分解を抑制し、ガラス転移温度の高い硬化物を得ることができる。上記温度領域が上記範囲を外れ低過ぎると、アリル基が充分反応することが困難となり、耐熱性およびガラス転移温度の向上に悪影響を及ぼす恐れがあるため好ましくなく、逆に上記温度領域を外れ高過ぎると、得られる硬化物の熱分解により耐熱性の低下につながる恐れがある。また、B成分中のアリル基は、樹脂封止してなるデバイスの高温(200℃〜250℃)での使用環境下で、徐々に反応を進行させることにより、長期高温条件下で本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物の構造の一部が切断した場合においても、架橋を修復し、長期耐熱性を付与するものである。
【0046】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて硬化反応により得られる硬化物は、耐熱性に特に優れることから、各種電子部品、例えば、半導体封止材料以外に、プリント配線板用積層板およびプリント配線板、半導体搭載モジュール等の電子材料等に好適に用いられる。
【実施例】
【0047】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0048】
まず、エポキシ樹脂組成物の作製に先立ってアリル化フェノール樹脂を合成した(合成例B−1〜B−8)。
【0049】
〔合成例B−1:アリル化フェノール樹脂の合成(APN−1)〕
フェノールノボラック樹脂(GS−180、群栄化学社製、水酸基当量105g/eq.)105部、アリルブロマイド(東京化成社製)181.5部、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)207.3部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。ついで、室温まで冷却後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮することにより、アリル化率が100%のアリルエーテル化フェノール樹脂を得た。つぎに、得られたアリルエーテル化フェノール樹脂を窒素雰囲気下、200℃で24時間加熱撹拌することにより、クライゼン転位率が100%の目的とするアリル化フェノール樹脂(APN−1)を得た。
【0050】
〔合成例B−2:アリル化フェノール樹脂の合成(APN−2)〕
フェノールノボラック樹脂(GS−180、群栄化学社製、水酸基当量105g/eq.)105部、アリルブロマイド(東京化成社製)121.0部、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)138.2部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。ついで、室温まで冷却後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮することにより、アリル化率が82%のアリルエーテル化フェノール樹脂を得た。つぎに、得られたアリルエーテル化フェノール樹脂を窒素雰囲気下、200℃で24時間加熱撹拌することにより、クライゼン転位率が100%の目的とするアリル化フェノール樹脂(APN−2)を得た。
【0051】
〔合成例B−3:アリル化フェノール樹脂の合成(APN−3)〕
フェノールノボラック樹脂(GS−180、群栄化学社製、水酸基当量105g/eq.)105部、アリルブロマイド90.7部(束京化成社製)、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)138.2部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。ついで、室温まで冷却後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業会社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業会社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮することにより、アリル化率が63%のアリルエーテル化フェノール樹脂を得た。つぎに、得られたアリルエーテル化フェノール樹脂を窒素雰囲気下、200℃で24時間加熱撹拌することにより、クライゼン転位率が100%の目的とするアリル化フェノール樹脂(APN−3)を得た。
【0052】
〔合成例B−4:アリル化フェノール樹脂の合成(APN−4)〕
フェノールノボラック樹脂(GS−180、群栄化学社製、水酸基当量105g/eq.)105部、アリルブロマイド(束京化成社製)60.5部、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)103.7部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。ついで、室温まで冷却後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮することにより、アリル化率が44%のアリルエーテル化フェノール樹脂を得た。つぎに、得られたアリルエーテル化フェノール樹脂を窒素雰囲気下、200℃で24時間加熱撹拌することにより、クライゼン転位率が100%の目的のとするアリル化フェノール樹脂(APN−4)を得た。
【0053】
〔合成例B−5:アリル化フェノール樹脂の合成(APN−5)〕
フェノールノボラック樹脂(GS−180、群栄化学社製、水酸基当量105g/eq.)105部、アリルブロマイド(東京化成社製)30.3部、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)69.1部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。ついで、室温まで冷却後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮することにより、アリル化率が20%のアリルエーテル化フェノール樹脂を得た、つぎに、得られたアリルエーテル化フェノール樹脂を窒素雰囲気下、200℃で24時間加熱撹拌することにより、クライゼン転位率が100%の目的のとするアリル化フェノール樹詣(APN−5)を得た。
【0054】
〔合成例B−6:アリル化フェノール樹脂の合成(APN−6)〕
フェノールノボラック樹脂(GS−200、群栄化学社製、水酸基当量105g/eq.)105部、アリルブロマイド(束京化成社製)181.5部、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)207.3部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。ついで、室温まで冷却後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮することにより、アリル化率が100%のアリルエーテル化フェノール樹脂を得た。つぎに、得られたアリルエーテル化フェノール樹脂を窒素雰囲気下、200℃で24時間加熱撹拌することにより、クライゼン転位率が100%の目的とするアリル化フェノール樹脂(APN−6)を得た。
【0055】
〔合成例B−7:アリル化フェノール樹脂の合成(APN−7)〕
フェノールノボラック樹脂(HF−3M、明和化成社製、水酸基当量105g/eq.)105部、アリルブロマイド(東京化成社製)181.5部、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)207.3部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。ついで、室温まで冷却後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮することにより、アリル化率が100%のアリルエーテル化フェノール樹脂を得た。つぎに、得られたアリルエーテル化フェノール樹脂を窒素雰囲気下、200℃で24時間加熱撹拌することにより、クライゼン転位率が100%の日的とするアリル化フェノール樹脂(APN−7)を得た。
【0056】
〔合成例B−8:アリル化フェノール樹脂の合成(APN−8)〕
フェノールノボラック樹脂(HF−4M、明和化成社製、水酸基当鍛105g/eq.)105部、アリルブロマイド(東京化成社製)181.5部、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)207.3部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。ついで、室温まで冷却後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮することにより、アリル化率が100%のアリルエーテル化フェノール樹脂を得た。つぎに、得られたアリルエーテル化フェノール樹脂を窒素雰囲気下、200℃で24時間加熱撹拌することにより、クライゼン転位率が100%の目的とするアリル化フェノール樹脂(APN−8)を得た。
【0057】
一方、市販のアリル化フェノール樹脂〔B−9(APN−9)〕を準備した。
〔B−9:アリル化フェノール樹脂(APN−9)〕
水酸基当量146、アリル化率100%(群栄化学工業社製、XPL−4437E)
【0058】
さらに、上記アリル化フェノール樹脂以外に、下記に示す各成分を準備した。
【0059】
〔フェノールノボラック樹脂〕
水酸基当量105(群栄化学工業社製、GS−180)
【0060】
〔エポキシ樹脂〕
トリフェノールメタン型エポキシ樹脂(エポキシ当量170:日本化薬社製、EPPN−501HY)
【0061】
〔無機質充填剤〕
溶融球状シリカ粉末(平均粒子径20μm)
【0062】
〔硬化促進剤〕
トリフェニルホスフィン(東京化成工業社製、TPP)
【0063】
〔離型剤〕
酸化ポリエチレンワックス(酸価17:ヘキスト社製、PED521)
【0064】
〔顔料〕
カーボンブラック
【0065】
〔カップリング剤〕
γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−803)
【0066】
〔アリル化フェノール樹脂B−1〜B−9の物性測定〕
つぎに、前述のようにして得られたアリル化フェノール樹脂B−1〜B−9(APN−1〜9)の物性を下記に示す方法に従って測定し、評価した。その結果を後記の表1に示す。
【0067】
〔分子量〕
各アリル化フェノール樹脂B−1〜B−9(APN−1〜9)を0.1%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調整し、25℃で1日放置した。その後、0.45μmメンブランフィルターにて濾過し、得られた濾液について分子量測定を行った。分子量測定に使用した装置は、GPC(東ソー社製、HLC−8120GPC、カラム:東ソー社製GMHXL、GMHXL、G3000HXL)である。また、測定条件は、カラム温度40℃、溶離液テトラヒドロフラン、流速0.8mL/分、注入量100μLである。そして、検出器は、示差屈折計を用い、ポリスチレン換算により数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)、さらには両者の比〔重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)〕を算出した。
【0068】
〔アリル化率〕
逆ゲーテッドデカップリング法を用いて13C−NMRスペクトル法により求めた水酸基およびアリルエーテルと結合しているベンゼン環上炭素(CB)と、アリル基のメチレン基の炭素(CA)のピーク積分値を次式に代入することにより、アリル化率を算出した。
アリル化率(%)=(CA)/(CB)×100
【0069】
〔アリル化フェノール樹脂のガラス転移温度〕
JIS K7121(1987年制定)「プラスチックの転位温度測定方法」に準拠して示差走査熱量測定を行い、中間点ガラス転移温度をアリル化フェノール樹脂のガラス転移温度とした。具体的には、上記アリル化フェノール樹脂を約10mg量り取り、アルミパンに入れて密閉し、示差走査熱量測定装置(エスアイアイナノテクノロジー社製、DSC6200)を用いてガラス転移温度を算出した。
【0070】
【表1】

【0071】
〔実施例1〜6、比較例1〜4〕
後記の表2〜表3に示す各成分を同表に示す割合で常温にて配合し、80〜120℃に加熱したロール混練機に5分間かけて溶融混練し溶融混合物を得た。つぎに、この溶融物を冷却した後、固体状になったものを粉末状に粉砕することによりエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0072】
このようにして得られた実施例および比較例のエポキシ樹脂組成物を用い、下記に示す方法に従って、特性を測定・評価した。これらの結果を後記の表2〜表3に併せて示す。
【0073】
〔ブロッキング性〕
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、22℃×相対湿度70%の環境下で10g/cm2の荷重を24時間負荷した後、2mmメッシュの篩にて50回篩い2mmメッシュの篩に残った材料の割合(%)を測定し算出した。
エポキシ樹脂組成物のブロッキング性は以下の基準に基づいて評価した。
○:10%未満
×:10%以上
【0074】
〔エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度〕
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、トランスファー成形(175℃×3分間)により硬化物(長さ20mm×幅3mm×厚み3mm)を作製し、得られた硬化物を後硬化(175℃×5時間の後に、200℃×5時間、最後に250℃×10時間)することによりテストピースを作製した。これをリガク社製のTMA装置(型番MG800GM)を用いて昇温速度5℃/分で測定し、線膨張係数とともにガラス転移温度を求めた。
エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度に基づく良否は以下の基準に基づいて評価した。
○:250℃以上
×:250℃未満
【0075】
〔粘度〕
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、島津製作所社製の高架式フローテスターにより175℃における最低溶融粘度(Pa・s)を求めた。
エポキシ樹脂組成物の粘度に基づく良否は以下の基準で評価した。
○:80Pa・s未満
×:80Pa・s以上
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
上記結果から、実施例品は、いずれもガラス転移温度が260℃を超えて高く耐熱性に優れたものであることがわかる。しかも、ブロッキング性に関しても非常に良好な結果が得られ、かつ低粘度を有することから、成形時の流動性にも優れていることがわかる。
【0079】
これに対して、ガラス転移温度は特定範囲であるがアリル化率が低いアリル化フェノール樹脂を用いた比較例2品は、ブロッキング性および流動性に関しては良好な結果が得られたが、ガラス転移温度が低く耐熱性に劣ることがわかる。また、100%のアリル化率であるがガラス転移温度が特定範囲を超えて高いアリル化フェノール樹脂を用いた比較例3品は、ブロッキング性が良好でガラス転移温度が高く耐熱性には優れたものであったが、粘度が高く流動性に劣るものであった。さらに、ガラス転移温度は特定範囲であるがアリル化率が0%である、すなわち、通常のフェノールノボラック樹脂を用いた比較例品は、ブロッキング性および流動性に関しては良好な結果が得られたが、ガラス転移温度が低く耐熱性に劣ることがわかる。
【0080】
なお、比較例1では、混練後の混合物が液状であるため、冷却,粉砕ができず、測定用のエポキシ樹脂組成物そのものを作製することができず、ガラス転移温度および粘度の測定に供することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の電子部品封止用エポキシ樹脂組成物は、例えば、トランジスターやダイオード、サイリスター等のパワーデバイス等における封止材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(D)成分を含有する電子部品封止用エポキシ樹脂組成物であって、上記(B)成分であるアリル化フェノール樹脂が、示差走査熱量分析(DSC)法によるガラス転移温度が−5℃〜70℃の範囲であることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂組成物。
(A)エポキシ樹脂。
(B)硬化剤:下記に示す構造単位(1)および下記に示す構造単位(2)を含み、上記構造単位(1)と構造単位(2)の合計量に対する構造単位(1)のモル比率[構造単位(1)/〔構造単位(1)+構造単位(2)〕×100]が40〜100%であるアリル化フェノール樹脂。
【化1】

【化2】

(C)硬化促進剤。
(D)無機質充填剤。
【請求項2】
上記(A)成分と(B)成分の配合割合が、(B)成分のフェノール性水酸基1当量に対して(A)成分のエポキシ当量が0.5〜3.0となるよう設定されている請求項1記載の電子部品封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
上記(B)成分であるアリル化フェノール樹脂において、上記構造単位(1)と構造単位(2)の合計量に対する構造単位(1)のモル比率[構造単位(1)/〔構造単位(1)+構造単位(2)〕×100]が80〜100%である請求項1または2記載の電子部品封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子部品封止用エポキシ樹脂組成物を用いて、電子部品を樹脂封止してなる電子部品装置。

【公開番号】特開2013−14709(P2013−14709A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149456(P2011−149456)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】