説明

電子部品用絶縁塗料およびこれを利用した電子部品

【課題】良好な揺変性と形状保持性を有する電子部品用絶縁塗料、およびこれを利用した電子部品を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)固体分散型アミン系潜在性硬化剤、(C)シリコーンオイルで処理されている無機微粒子(C1)とアルキル基を有するシランカップリング剤で処理されている無機微粒子(C2)からなる揺変剤を含有し、25℃において液状である電子部品用絶縁塗料および、上記絶縁塗料を電子部品に塗装後、加熱硬化させ絶縁層を設けたことを特徴とする電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な揺変性と形状保持性を有する電子部品用絶縁塗料、およびこれを利用した電子部品に関する。特にコンデンサー,抵抗器,ハイブリッドIC、温度センサなどの小型電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品には耐湿性及び絶縁性の付与並びに機械的保護を目的とし外装塗装が施されている。この塗装は電子部品の耐湿特性、機械的特性に大きな影響を与えるものである。
【0003】
電子部品を塗装する方法にはディップコート法、注型法、粉体塗装法等が知られているが、中でもこの中で、ディップコート法は型や特殊な装置が不要であるため、生産設備にかかるコストが低く抑えられることから盛んに用いられている。
【0004】
このディップコート法は、熱硬化性樹脂、硬化剤、揺変剤、添加剤等からなる塗料に電子部品を浸漬被覆した後、加熱硬化することにより電子部品表面に塗膜を形成する方法である。
【0005】
従来、ディップコート法に使用される塗料は2液硬化タイプのものが主流である。2液硬化タイプであると設計の自由度が高く低温での硬化性や優れた硬化物物性などを容易に実現することができる。しかしながら、2液硬化タイプであると2液を混合した後の可使時間が短いため、可使時間を超えた塗料を廃棄せざるを得ないという欠点があった。
【0006】
このため、1液硬化タイプの塗料が注目されており、その際、硬化剤としては酸無水物を用いるものが知られている。しかし、酸無水物は吸湿により変質しやすいので常温・常湿において容易に塗料表面が皮張りしやすく2液硬化タイプと同様、可視時間が短いという問題がある。
【0007】
さらにディップコート法に用いられる塗料に要求される特性としては、形状保持性と揺変性を挙げることができる。
形状保持性を持つためには降伏値を持つ流体(すなわち塑性流体)となる必要がある。ここで降伏値とは、流動が起こる最小の剪断応力を意味する。したがって、十分な降伏値を持つ塑性流体は、厚く塗布しても自重によりたれ落ちることがなくなるため、形状保持性を有することになる。
揺変性とは等温状態において剪断変形を与えることによって、見かけ粘度が一時的に低下し、静置して時間が経つと元の見かけ粘度が回復する性質である。
これらの性質を付与することにより、厚く塗布しても液ダレしにくく、しかも塗装における作業性が良好なものとなる。
【0008】
形状保持性と揺変性を付与するために揺変剤を配合することが知られている。例えば、揺変剤として親水性のコロイダルシリカを配合する方法(非特許文献1参照)、トリエタノールアミン,低級カルボン酸トリエタノールアミン塩,無機酸トリエタノールアミン塩などを配合する方法(特許文献1参照)、揺変剤として微粉末ケイ酸化合物成分とカルボン酸、カルボン酸鉛などを配合する方法(特許文献2参照)等を挙げることができる。
【0009】
これらのものは、いずれにおいてもある程度の揺変性は見られるものの(1)昨今の電子部品の小型・軽量化等を目的とした形状の複雑化により電子部品の形状に追従することが困難となってきていること(2)塗料の見かけ粘度が回復するまでの時間が早いことの2つの要因から、電子部品の端部に空気が残る現象が生じ、この残存する空気の影響により、耐湿性や耐ヒートサイクル性に影響を及ぼすことが問題となっていた。
この問題に対し、塗料を低粘度化することにより電子部品の端部に空気が残る現象を解消しようとすると今度は形状を保持することができなくなり液ダレが生じるという問題があった。
このため、1液硬化タイプでありながら皮張りが生じることがなく、良好な揺変性と形状保持性を有する塗料の開発が産業界から望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−156127号公報
【特許文献2】特開2002−226674号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】総説エポキシ樹脂 第3巻 エポキシ樹脂技術協会編
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、一液硬化型でありながら皮張りが生じることがなく、良好な揺変性と形状保持性を有する電子部品用絶縁塗料、およびこれを利用した電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、かかる課題を解決する為に鋭意検討を行った結果、特定の硬化剤に揺変剤として特定の無機微粒子を所定量配合することにより、良好な揺変性と形状保持性が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本発明は、以下の電子部品用絶縁塗料およびこれを利用した電子部品を提供するものである。
(1)(A)エポキシ樹脂、(B)固体分散型アミン系潜在性硬化剤、(C)シリコーンオイルで処理されている無機微粒子(C1)とアルキル基を有するシランカップリング剤で処理されている無機微粒子(C2)からなる揺変剤を含有し、25℃において液状である電子部品用絶縁塗料。
(2)前記(C)成分の配合量が前記(A)成分100質量部に対して3〜12質量部であって、前記(C1)成分と(C2)成分の配合比が1:1〜8:1であることを特徴とする(1)に記載の電子部品用絶縁塗料。
(3)(1)又は(2)に記載の電子部品用絶縁塗料を電子部品に塗装後、加熱硬化させ絶縁層を設けたことを特徴とする電子部品。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、エポキシ樹脂に所定の硬化剤と表面処理が施された無機微粒子を2種類併用することにより、1液硬化タイプでありながら皮張りが生じることがなく、更にディップコート法において要求される良好な揺変性と形状保持性を有する電子部品用絶縁塗料を提供する。さらにこの塗料を浸漬被覆し加熱硬化することにより絶縁層を形成した電子部品を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の電子部品用絶縁塗料及びこれを利用した電子部品の形態について具体的に説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し、適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲のものである。
【0017】
[塗料]
本発明の電子部品用絶縁塗料は、(A)エポキシ樹脂、(B)固形の潜在性硬化剤、(C)揺変剤を必須成分とするものである。
【0018】
本発明において使用される前記(A)成分は、分子内に2個以上のオキシラン基を有するもので、従来からよく知られているものを用いることができる。そのようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノール−ノボラック型または、臭素化ノボラック型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型もしくはAD型エポキシ樹脂、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ペンタエリストールポリグリシジルエーテル等の脂肪族系エポキシ樹脂、脂肪族若しくは芳香族アミンとエピクロルヒドリンから得られるエポキシ樹脂、脂肪族若しくは芳香族カルボン酸エピクロルヒドリンから得られるエポキシ樹脂、複素環エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂等を使用することができる。また、電子部品絶縁用塗料が25℃で液状を示す限り、常温固体状のエポキシ樹脂を使用することができる。これらのエポキシ樹脂は1種類だけ使用してもよいし、2種類以上使用してもよい。 このなかでも、電子部品との密着性の観点からビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0019】
本発明において使用される前記(B)成分は、固体分散型アミン系潜在性硬化剤である。
前記(B)成分を使用することにより、酸無水物系硬化剤において見られていた皮張りを生じることがないため塗料の加使時間を長くさせることができる。
【0020】
本発明において、固体分散型アミン系潜在性硬化剤とは、室温ではエポキシ樹脂に不溶の固体であるが、加熱することにより溶解し、硬化剤として機能するアミン系硬化剤のことを指す。このようなものとしては、例えば、常温で固体のイミダゾール化合物、ジシアンジアミド及びその誘導体、アミン−エポキシアダクト系化合物、アミン−尿素アダクト系化合物、酸性あるいは塩基性化合物の中和、中性塩である錯化合物を挙げることができる。これらの中で特に、吸水性を必要とする用途においてはイミダゾール化合物を使用することが好ましい。このアミン−エポキシアダクト系化合物は、エポキシ化合物にアミン化合物を付加反応させることにより形成されたものである。これらの硬化剤は1種類だけ使用してもよいし、2種類以上使用してもよい。
【0021】
イミダゾール系硬化剤としては、例えば、2−ヘプタデシルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−(2′−メチル−イミダゾリル−(1′))−エチル−S−トリアジン、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−(2′−ウンデシルイミダゾリル)−エチル−S−トリアジン、および2−メチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−(2′−メチル−イミダゾリル−(1′))−エチル−S−トリアジンイソシアヌル酸付加物、マイクロカプセル化イミダゾール等を挙げることができる。これらの硬化剤は1種類だけ使用してもよいし、2種類以上使用してもよい。
【0022】
このアミン−エポキシアダクト系化合物は、エポキシ化合物にアミン化合物を付加反応させることにより形成されたもの指す。
エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、カテコール、レゾルシノールなどの多価フェノール又はグリセリンやポリエチレングリコールのような多価アルコールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエーテル、p‐ヒドロキシ安息香酸、β‐ヒドロキシナフトエ酸のようなヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル、フタル酸、テレフタル酸のようなポリカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエステル、4,4′‐ジアミノジフェニルメタンやm‐アミノフェノールなどとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルアミン化合物、エポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、エポキシ化ポリオレフィンなどの多官能性エポキシ化合物やブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレートなどの単官能性エポキン化合物などがある。
【0023】
また、アミン化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、n‐プロピルアミン、2‐ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、4,4‐ジアミノジシクロヘキシルメタンのような脂肪族アミン類、4,4′‐ジアミノジフェニルメタン、2‐メチルアニリンなどの芳香族アミン化合物、2‐エチル‐4‐メチルイミダゾール、2‐エチル‐4‐メチルイミダゾリン、2,4‐ジメチルイミダゾリン、ピペリジン、ピペラジンなどの含窒素複素環化合物、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジ‐n‐プロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、N‐メチルピペラジンなどのアミン化合物や、2‐メチルイミダゾール、2‐エチルイミダゾール、2‐エチル‐4‐メチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾールなどのイミダゾール化合物のような、分子内に第三級アミノ基を有する第一級若しくは第二級のアミン類、2‐ジメチルアミノエタノール、1‐メチル‐2‐ジメチルアミノエタノール、1‐フェノキシメチル‐2‐ジメチルアミノエタノール、2‐ジエチルアミノエタノール、1‐ブトキシメチル‐2‐ジメチルアミノエタノール、1‐(2‐ヒドロキシ‐3‐フェノキシプロピル)‐2‐メチルイミダゾール、1‐(2‐ヒドロキシ‐3‐フェノキシプロピル)‐2‐エチル‐4‐メチルイミダゾール、1‐(2‐ヒドロキシ‐3‐ブトキシプロピル)‐2‐メチルイミダゾール、1‐(2‐ヒドロキシ‐3‐ブトキシプロピル)‐2‐エチル‐4‐メチルイミダゾール、1‐(2‐ヒドロキシ‐3‐フェノキシプロピル)‐2‐フェニルイミダゾリン、1‐(2‐ヒドロキシ‐3‐ブトキシプロピル)‐2‐メチルイミダゾリン、2‐(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6‐トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N‐β‐ヒドロキシエチルモルホリン、2‐ジメチルアミノエタンチオール、2‐メルカプトピリジン、2‐ベンゾイミダゾール、2‐メルカプトベンゾイミダゾール、2‐メルカプトベンゾチアゾール、4‐メルカプトピリジン、N,N‐ジメチルアミノ安息香酸、N,N‐ジメチルグリシン、ニコチン酸、イソニコチン酸、ピコリン酸、N,N‐ジメチルグリシンヒドラジド、N,N‐ジメチルプロピオン酸ヒドラジド、ニコチン酸ヒドラジド、イソニコチン酸ヒドラジドなどのような、分子内に第三級アミノ基を有するアルコール類、フェノール類、チオール類、カルボン酸類及びヒドラジド類などがある。
【0024】
さらに、付加反応の際に分子内に活性水素を2個以上有する活性水素化合物、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシノール、ピロガロール、フェノールノボラック樹脂などの多価フェノール類、トリメチロールプロパンなどの多価アルコール類、アジピン酸、フタル酸などの多価カルボン酸類、1,2‐ジメチルカプトエタン、2‐メルカプトエタノール、1‐メルカプト‐3‐フェノキシ‐2‐プロパノール、メルカプト酢酸、アントラニル酸、乳酸などを共存させて得られるものを用いることができる。このようにすると、得られるエポキシ樹脂の保存安定性を向上させることができるので有利である。
【0025】
これらのアミン−エポキシアダクト系化合物として、例えば、味の素ファインテクノ社製「アミキュアPN−23、アミキュアMY−24、アミキュアAH−203」、ADEKA社製「ハードナーX−3361S、ハードナーX−3670S」などの商品名で市販されている。
【0026】
次に、アミン−尿素アダクト系化合物は、アミン化合物とイソシアネート化合物との反応により得られる化合物であって、この際のアミン化合物としては、アミン−エポキシアダクト系化合物のアミン化合物として例示したものが用いられる。また、イソシアネート化合物としては、例えば、n‐ブチルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、フェニルイソシアネート、ベンジルイソシアネートなどの単官能イソシアネート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5‐ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタン‐4,4‐ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、1,3,6‐ヘキサメチレントリイソシアネートなどの多官能イソシアネート化合物や、これらの多官能イソシアネート化合物と活性水素化合物との反応によって得られる末端イソシアネート基含有化合物などがある。
【0027】
このような末端イソシアネート基含有化合物としては、例えば、トルイジンイソシアネートとトリメチロールプロパンとの反応により得られる末端イソシアネート基を有する付加化合物、トルイレンジイソシアネートとペンタエリスリトールとの反応により得られる末端イソシアネート基を有する付加化合物などのイソシアネート化合物、又は例えば、尿素、チオ尿素などの尿素化合物との反応生成物を挙げることができる。
【0028】
本発明で使用される前記(B)成分の平均粒子径は5〜50μmであることが好ましい。5μm未満であると反応性を制御しにくくなり可使時間が短くなる恐れがある。50μmより大きいと分散性が悪くなり、塗装時に外観不良となるからである。
【0029】
本発明において使用される前記(B)成分の配合割合は、前記エポキシ樹脂に含まれる官能基1当量に対して、その硬化剤中の官能基の当量数が0.3〜1.2当量であることが好ましい。0.3当量以下であると硬化不足を引き起こす可能性があり、1.2当量より多いと耐湿性等の特性が悪くなる恐れがあるためである。硬化不足の防止と耐湿性等の観点から更に好ましくは0.6〜1.1当量の範囲である。
【0030】
本発明において使用される前記(C)成分は、シリコーンオイルで処理されている無機微粒子(C1)とアルキル基を有するシランカップリング剤で処理されている無機微粒子(C2)である。
本発明において前記(C)成分を使用する目的は、形状保持性(液ダレ防止)と揺変性の向上である。本発明において、揺変性の向上とは、見かけ粘度が回復するまでの時間が長くなり、後述する空気抜け性が向上することを指す。
【0031】
本発明で使用される前記(C)成分の平均粒子径は、平均一次粒子径として5〜200nmであることが好ましい。外表面積が大きいほど揺変性付与効果が大きいためである。更に好ましくは、5〜40nmである。
【0032】
本発明において使用される前記(C)成分の配合量は、前記(A)成分100質量部あたり3〜12質量部の範囲であることが好ましい。3質量部以下であると、硬化前形状保持性が悪くなるからであり、12質量部より多いと空気抜け性が悪くなるためである。硬化前形状保持性と空気抜け性を考慮すると更に好ましくは4〜9質量部の範囲である。
【0033】
本発明において使用される前記(C1)成分は、液状樹脂中で室温下ならびに高温(硬化)下において液ダレを防止することができ、形状保持性を向上することができる。
【0034】
本発明において使用される前記(C1)成分としては、例えば、日本アエロジル社製「アエロジルR202」や同社製「アエロジルRY200」、CABOT社製「キャボシルTS720」等を挙げることができる。
【0035】
本発明において使用される前記(C2)成分は液状樹脂中で室温下での液ダレを防止する効果を有する。更に、見かけ粘度へ回復するまでの時間が長いという特徴を有しており、揺変性を向上させることができる。
【0036】
本発明において使用される前記(C2)成分としては、例えば、日本アエロジル社製「アエロジルR805、R816、R972、R974」を挙げることができる。
この中でも、チキソトロピック指数が大きくなり硬化前形状保持性が向上するため、アエロジルR805を使用することが好ましい。
【0037】
本発明において使用される前記(C1)成分と(C2)成分を併用することにより、見かけ粘度へ回復する時間が異なる揺変剤を使用することによって、ディップコート法による塗装中の樹脂粘度を調整することが可能となるとともに、電子部品の引き上げ時には液ダレのない硬化前形状保持性に優れた塗料を得ることができる。
【0038】
尚、上述の効果が顕著に得られる好ましい範囲は、前記(C1)成分と(C2)成分の配合比は1:1〜8:1の場合である。
(C2)成分の配合比が8:1より小さい場合には揺変性が低下するため空気抜け性が悪くなり、(C2)成分の配合比が1:1より大きい場合には硬化後の形状安定性が悪くなるからである。空気抜け性と形状安定性の観点から更に好ましくは5:1〜8:1の範囲である。
またこの範囲であると、2種類の揺変剤は高温(硬化)時の形状保持性が若干異なるため、電子部品の引き上げ時に尖った形状が部分的に生じた場合でもこれを修復することが可能となるという効果を有する。
【0039】
[調整]
本発明の電子部品用絶縁塗料は、前記(A)、(B)及び(C)成分をプラネタリーミキサーなどで均一に混合することにより調製することができる。
【0040】
本発明の電子部品用絶縁塗料には、前記成分の他、反応性希釈剤、無機充填剤、硬化促進剤、難燃剤、顔料、安定化剤、消泡剤、酸化防止剤、レベリング剤等の慣用の補助成分を適宜配合することができる。
【0041】
本発明において使用される反応性希釈剤としては、従来から知られている反応性希釈剤をその使用目的に応じて適宜使用することができる。例えば、エポキシ基を有する反応性希釈剤を挙げることができる。このエポキシ基を有する反応性希釈剤としては、例えばn‐ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2‐エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、3級カルボン酸グリシジルエステル、ビニルシクロヘキセンモノエポキシドなどのモノエポキシド、ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6‐ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンジオキシドなどのジエポキシドなどを挙げることができる。これらの反応性希釈剤は1種類だけ使用してもよいし、2種類以上使用してもよい。
反応性希釈剤の配合量は、通常、エポキシ樹脂100質量部当たり5〜60質量部である。配合量が5質量部未満であると、組成物の粘度を下げるという効果が得られず、60質量部より多いと、電子部品への接着力が低下するからである。組成物の粘度を下げる効果と電子部品への接着性を考慮すると更に好ましくは3〜20重量部の範囲である。
【0042】
[部品]
本発明の電子部品用絶縁塗料が塗装される電子部品の形状・材質は、特に限定されないが、本発明の絶縁塗料は、特に非平面部を有する立体構造物に好適に使用され本発明の効果が有効に発揮される。即ち、本発明の絶縁塗料が凹凸を有する形状に対しての追従性が良好であることから、例えば、箱状物、波板状物、袋状物、筒状物、棒状物、穴あき状物等にも好適に使用される。
【0043】
本発明の絶縁塗料はディップコート法により目的とする電子部品に対して塗装され、加熱硬化される。硬化塗膜の厚みはその使用目的に応じて適宜選択すればよい。本発明においては1〜4mmであることが好ましい。1mm未満であると耐ヒートサイクル性が悪くなるからであり、4mmより厚いと硬化不良を起こし生産効率が悪くなるからである。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の電子部品用絶縁塗料及びこれを用いた電子部品について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明の電子部品用絶縁塗料、これを用いた電子部品についてはこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例の電子部品用絶縁塗料については、皮張り性、硬化前形状保持性を評価し、電子部品用絶縁塗料を用いた電子部品については、硬化後形状保持性、空気抜け性の評価を行った。
【0045】
(1) 皮張り性
電子部品用絶縁塗料を温度25℃、湿度85%の環境下で静置し、72時間後の液面の状態を目視にて観察した。
評価基準は以下の通りである。
○ :皮張りがないもの
× :皮張りがあるもの
【0046】
(2)硬化前形状保持性
後述する実施例1〜11、比較例1〜11により得られた電子部品用絶縁塗料をセラミックコンデ
ンサ(リード付きタイプ)に熱硬化後の塗膜が2.5mmとなるようにディップコートし、ディップコート直後と1時間放置後の形状を目視にて観察した。
評価基準は以下の通りである。
○ :形状の変化なし
△ :形状の変化はわずかにあるものの、液ダレはしていない
× :液ダレを起こしているもの
【0047】
(3)硬化後形状保持性
硬化前形状保持性の評価で使用した塗装済みのセラミックコンデンサを100℃で120分硬化させ、塗装部分の形状を以下の基準にて評価した。
○ :硬化前の形状と比較してほとんど変化がなく先端もレベリングしているもの
△ :硬化前の形状と比較してほとんど変化がないが先端がレベリングされず尖っているもの
× :液ダレが発生しているもの
【0048】
(4)空気抜け性
前記硬化後形状保持性の評価において液ダレが発生していないものの硬化塗膜をリード線と平行な方向で切断し、その塗装面の気泡の有無を目視にて確認した。
尚、本評価は、被試験片として、上記塗装後のセラミックコンデンサを5本用いて行なった。
評価基準は以下の通りである。
○ :気泡のあるものが1本もないもの
△ :気泡のあるものが1〜2本であるもの
× :気泡のあるものが3本以上であるもの
【0049】
実施例1
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量190)100質量部、固形分散型アミン系硬化剤(2,4
- ジアミノ - 6 - [2' - メチルイミダゾリル -
(1')] - エチル - s - トリアジンイソシアヌル酸付加物)4質量部、アルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子(日本アエロジル社製、製品名アエロジルR805)1質量部、シリコーンオイルで処理された無機微粒子(キャボット社製、製品名キャボシルTS720)4質量部、硬化促進剤(富士化成社製、フジキュアFXE1000)4質量部、反応性希釈剤(2−エチルヘキシルグリシジルエーテル)8質量部をプラネタリーミキサーで均一に混合することにより本発明の電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0050】
実施例2
固体分散型アミン系硬化剤の種類を2,4 - ジアミノ
- 6 - [2' - メチルイミダゾリル - (1')] - エチル - s - トリアジンに変更し、配合量を5質量部、硬化促進剤の配合量を5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0051】
実施例3
固体分散型アミン系硬化剤の種類をジシアンジアミドに、その配合量を8質量部に、反応性希釈剤の種類をシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルに、その配合量を18質量部に、硬化促進剤の配合量を6質量部に変更した以外は実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0052】
実施例4
アルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子の配合量を0.6質量部に変更した以外は実施例3と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0053】
実施例5
シリコーンオイルで処理された無機微粒子の配合量を4質量部、硬化促進剤の種類を味の素ファインケミカル社製アミキュアPN40に変更した以外は実施例3と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0054】
実施例6
硬化剤の配合量を3質量部、シリコーンオイルで処理された無機微粒子の配合量を5質量部、アルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子の配合量を0.4質量部、硬化促進剤の種類を富士化成社製、フジキュアFXB1050に変更した以外は実施例2と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0055】
実施例7
硬化剤の種類を2 - ヘプタデシルイミダゾール、配合量を3質量部、アルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子の配合量を4.5質量部、シリコーンオイルで処理された無機微粒子の配合量を4.5質量部に変更した以外は実施例3と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0056】
実施例8
硬化促進剤の種類を富士化成社製FXR1081に変更した以外は実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0057】
実施例9
シリコーンオイルで処理された無機微粒子の種類を日本アエロジル社製アエロジルR202に変更した以外は実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0058】
実施例10
アルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子の種類を日本アエロジル社製アエロジルR974に変更した以外は、実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0059】
実施例11
ビスフェノールA型エポキシ樹脂をエポキシ当量が170のビスフェノールF型エポキシ樹脂に変更し、反応性希釈剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0060】
実施例12
シリコーンオイルで処理された無機微粒子の配合量を8質量部、アルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子の配合量を5質量部に変更した以外は実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表1に示す。
【0061】
比較例1
ジシアンジアミドの配合量を7質量部、シリコーンオイルで処理された無機微粒子の配合量を6質量部、アルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子の配合量を0質量部、無機微粒子として炭酸カルシウムを15質量部、フジキュアFXE1000の配合量を5質量部に変更した以外は実施例3と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表2に示す。
【0062】
比較例2
シリコーンオイルで処理された無機微粒子の配合量を3質量部に変更した以外は比較例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表2に示す。
【0063】
比較例3
ジシアンジアミドの配合量を6質量部、シリコーンオイルで処理された無機微粒子の配合量を7質量部、硬化促進剤の配合量を4質量部に変更し、親水性の無機微粒子アエロジル300を1.5質量部追加した以外は比較例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表2に示す。
【0064】
比較例4
ジシアンジアミドの配合量を8質量部、フジキュアFXE1000の配合量を4質量部に変更した以外は比較例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表2に示す。
【0065】
比較例5
アルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子を配合しなかった以外は実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表2に示す。
【0066】
比較例6
シリコーンオイルで処理された無機微粒子を配合しなかった以外は実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表2に示す。
【0067】
比較例7
固体分散型アミン系硬化剤に変えて酸無水物系硬化剤(新日本理化社製、リカシッドMT500TZ)、を98質量部配合し、硬化促進剤をアミキュアMY24、配合量を6質量部、シリコーンオイルで処理された無機微粒子をアエロジルR202、配合量を10質量部に変更し、反応性希釈剤とアルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子を配合しなかった以外は実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表2に示す。
【0068】
比較例8
シリコーンオイルで処理された無機微粒子を配合せず、アルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子の配合量を9質量部に変更した以外は比較例6と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表2に示す。
【0069】
比較例9
シリコーンオイルで処理された無機微粒子、アルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子を配合せず、親水性の無機微粒子アエロジル300を10質量部配合した以外は実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表2に示す。
【0070】
比較例10
アルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子を配合せず、親水性の無機微粒子アエロジル300を1.5質量部配合した以外は実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表2に示す。
【0071】
比較例11
シリコーンオイルで処理された無機微粒子、アエロジル300を1.5質量部配合しアルキル基を有するシランカップリング剤で処理された無機微粒子の配合量を8質量部に変更した以外は実施例1と同様にして電子部品用絶縁塗料を得た。そのものの物性を表2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1の結果から、本発明の電子部品用絶縁塗料は固形分散型アミン系硬化剤に揺変剤としてシリコーンオイルで処理された無機微粒子とアルキル基でシランカップリングされた無機微粒子を所定量併用した場合に優れた空気抜け性(揺変性)と硬化前・硬化後の形状保持性を有していることがわかる。
ここで硬化後の形状保持性が優れているのは各々の揺変剤の高温(硬化)時の形状保持性が若干異なるため、電子部品の引き上げ時に尖った形状が部分的に生じた場合でもこれを修復することが可能となるからであると推測される。
また、表2の結果から揺変剤としてシリコーンオイルで処理された無機微粒子が配合されない場合には、硬化前もしくは硬化後の形状保持性が悪いことが確認できる。
一方、揺変剤としてアルキル基でシランカップリング処理された無機微粒子が配合されていない場合には、空気抜け性が悪いことが確認できる。
更に、揺変剤として親水性の無機微粒子のみを使用した場合には硬化後形状保持性の悪いことが確認できる。親水性シリカを使用した場合には高温下で水素結合が切断され形状保持性が低下するためであると推測される。
硬化剤として、酸無水物系のものを使用した場合には、皮張りが生じており塗布液の安定性が見られないことも確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の電子部品用絶縁塗料は皮張りが生じることなく安定である。またデイップコートする際の形状安定性と硬化後の形状安定性の双方に優れている。さらに、揺変性にも優れており、硬化時に空気が残存することもなく硬化後の電子部品は長期信頼性に優れるものである。
よって本発明の電子部品用絶縁塗料は、デイップコート用の塗料として各種コンデンサー、抵抗器、ハイブリッドIC、温度センサなどの小型電子部品に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)固体分散型アミン系潜在性硬化剤、(C)シリコーンオイルで処理されている無機微粒子(C1)とアルキル基を有するシランカップリング剤で処理されている無機微粒子(C2)からなる揺変剤を含有し、25℃において液状である電子部品用絶縁塗料。
【請求項2】
前記(C)成分の配合量が前記(A)成分100質量部に対して3〜12質量部であって、前記(C1)成分と(C2)成分の配合比が1:1〜8:1であることを特徴とする請求項1に記載の電子部品用絶縁塗料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子部品用絶縁塗料を電子部品に塗装後、加熱硬化させ絶縁層を設けたことを特徴とする電子部品。

【公開番号】特開2010−211968(P2010−211968A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54258(P2009−54258)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000108454)ソマール株式会社 (81)
【Fターム(参考)】