説明

電気式溶融炉及び電気式溶融炉の動作方法

【課題】運転中に炉底電極の折損が生じているか否かを確認することのできる、電気式溶融炉及び電気式溶融炉の動作方法を提供する。
【解決手段】電源装置を用いて、前記溶融用電流の印加を開始する工程と、開始する工程の後に、前記炉底電極と前記主電極との間の電圧差を測定しながら、前記主電極を降下させる工程と、炉底電極と前記炉底電極との間の電圧差に基いて、メタル層とスラグ層との間の境界を検知し、検知結果に基いて、前記主電極の高さを前記メタル成分に接触するような高さに制御する工程と、制御する工程の後に、前記電源装置が、前記溶融用電流の印加を停止する工程と、停止する工程の後に、前記抵抗測定装置を用いて、前記炉底電極と前記主電極との間の電気抵抗値を計測することにより、運転中抵抗値を求める工程と、運転中抵抗値に基いて、前記炉底電極が折損しているか否かを判定する工程と、炉底電極が折損していないと判定された場合に、前記電源装置を用いて、前記溶融用電流の印加を再開する工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式溶融炉、及び電気式溶融炉の動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ごみ等の廃棄物は、燃焼炉などを用いて焼却される。焼却により、灰が生じる。灰は、溶融炉によって溶融され、処理される。灰を溶融させるために、電気式溶融炉が用いられることがある。電気式溶融炉は、灰が投入される炉体、炉体の上部に設けられた主電極、炉体の底部に設けられた炉底電極、及び電源装置を備えている。電源装置により、主電極と炉底電極との間が通電される。このときの電気エネルギーにより、灰が溶融する。溶融した灰は、メタル層とスラグ層とに分離され、処理される。
【0003】
電気式溶融炉を安定して運転させるために、種々の技術が知られている。例えば、特許文献1(特許第3585344号)には、メタル層とスラグ層との境界を検出することを目的とした技術が開示されている。特許文献1には、プラズマトーチを炉底まで下降させるトーチ昇降装置と、プラズマトーチと接地電極との間の抵抗値を検出する抵抗計とを具備し、抵抗計の抵抗値の変化に基いて、プラズマトーチと炉底部の当接位置を基準として、ベースメタルの湯面レベルを検出する点が記載されている。
【0004】
また、特許文献2(特許第3709945号)には、主電極に隣り合って炉蓋を貫通して昇降可能に挿入したレベル検出用電極を設ける点、レベル検出用電極と炉底電極との間で通電すべく、定電流回路を有する電源を接続し、電流と電圧とを計測しつつ、レベル検出用電極を昇降させる点、及び、昇降の過程で、電圧の電流に対する比が不連続に変化するレベル検出用電極の位置を検出することにより、溶融スラグ層および溶融メタル層のレベルを検出する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3585344号
【特許文献2】特許第3709945号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気式溶融炉を安全に運転するためには、各部に損傷が無いことを確認しなければならない。損傷の有無が確認される部分の1つに、炉底電極が挙げられる。炉底電極が折損していると、炉底電極の電気抵抗が増大して熱が発生し、炉底電極の近傍において炉体が溶損してしまう可能性がある。
【0007】
そこで、運転前に、炉底電極が折損しているか否かを確認することが考えられる。炉底電極の折損の有無を確認するために、炉底電極の抵抗値を測定することが考えられる。図1を参照して、炉底電極の抵抗値の計測方法の一例について説明する。
【0008】
図1には、電気式溶融炉1が描かれている。この電気式溶融炉1は、炉体2、主電極3、炉底電極4、および電源装置5を有している。炉底電極4は、炉体2の底壁部分を貫通するように、取り付けられている。主電極3は、炉体2の上壁部分を貫通するように、設けられている。電源装置5の一端は、主電極クランプ6を介して、主電極3に接続されている。また、電源装置5の他端は、炉底電極クランプ7を介して、炉底電極4に接続されている。炉体2の内部には、灰が投入される。灰は、運転時に溶融され、メタル層とスラグ層とに分離される。比重の違いから、スラグ層は、メタル層上に形成される。メタル層は、炉体2の底面において、炉底電極4と接触する。運転前の段階においても、炉体2内には、前回の運転時に生成されたメタル層及びスラグ層が、残存している。もしくは、スラグ層は殆ど除去されている場合もある。運転前に炉底電極4の抵抗値を測定するために、テスター8が取り付けられる。テスター8の一端は、炉体2の内部に挿入され、メタル層に接触させられる。メタル層上にスラグ層が残存している場合には、スラグ層を除去してメタル層を露出させることにより、テスター8の一端をメタル層に接触させることができる。一方、テスター8の他端は、炉底電極4に接続される。この状態で、テスター8を用いて、テスター8の両端間の電気抵抗値が測定される。炉底電極4に折損が生じている場合には、測定の結果得られる電気抵抗値が異常に大きくなる。従って、この測定結果に基いて、炉底電極4の折損の有無を判断することができる。
【0009】
図1に示した手法によれば、炉の運転前であれば、炉底電極4の折損の有無を判断することができる。しかしながら、一般的なテスターではケーブルの抵抗値とプローブとメタルおよびプローブと炉底電極との接触抵抗値が実際に計測したい炉底電極の抵抗値よりも大きいため,炉底電極4の折損の有無を判断できない。また,炉の立ち上げ時において、炉体2が熱膨張し、炉底電極4が炉体2から圧力を受けることがある。そのため、運転前には問題がなくても、立ち上げ時における炉体2の熱膨張により、炉底電極4が折損してしまうことがある。運転中においては、炉体2の内部は高温であるため(例えば、1500℃〜1600℃)、炉体2内に人が立ち入ることはできない。また、メタル層上にはスラグ層が形成されている。そのため、テスター8の一端をメタル層に接触するように炉体2内に挿入することが困難である。テスター8の一端がメタル層に接触せずにスラグ層にのみ接触している場合、測定の結果得られる抵抗値は、スラグ層による誤差を多く含んでしまい、炉底電極4の抵抗値を正確に知ることができない。すなわち、図1に示した手法では、運転中に炉底電極4に折損が生じているか否かを確認することは困難である。
【0010】
尚、本明細書中において、運転中とは、炉体2の内部が高温状態になっている期間を示すものとする。
【0011】
また、既述の特許文献1および2には、スラグ層とメタル層との間の境界を検出する点については記載されているが、運転中に炉底電極の折損の有無を確認する点については、記載されていない。
【0012】
従って、本発明の目的は、運転中に炉底電極の折損が生じているか否かを確認することのできる、電気式溶融炉及び電気式溶融炉の動作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る電気式溶融炉の動作方法は、灰が投入される炉体と、前記炉体の底部に配置された炉底電極と、前記炉体の上部に、昇降自在に配置された、主電極と、前記炉底電極と前記主電極との間に、前記灰が溶融するような溶融用電流を印加する、電源装置と、前記電源装置とは別に設けられ、前記炉底電極と前記主電極との間の電気抵抗値を測定する、抵抗測定装置とを具備する電気式溶融炉の動作方法である。この動作方法は、前記電源装置を用いて、前記溶融用電流の印加を開始する工程と、前記開始する工程の後に、前記炉底電極と前記主電極との間の電圧差を測定しながら、前記主電極を降下させる工程と、前記炉底電極と前記炉底電極との間の電圧差に基いて、メタル層とスラグ層との間の境界を検知し、検知結果に基いて、前記主電極の高さを前記メタル成分に接触するような高さに制御する工程と、前記制御する工程の後に、前記電源装置が、前記溶融用電流の印加を停止する工程と、前記停止する工程の後に、前記抵抗測定装置を用いて、前記炉底電極と前記主電極との間の電気抵抗値を計測することにより、運転中抵抗値を求める工程と、前記運転中抵抗値に基いて、前記炉底電極が折損しているか否かを判定する工程と、前記炉底電極が折損していないと判定された場合に、前記電源装置を用いて、前記溶融用電流の印加を再開する工程とを具備する。
【0014】
この発明によれば、炉底電極と主電極との間の電圧差を測定しながら主電極を降下させることにより、メタル層とスラグ層との間の境界を検知することができる。そのため、運転中であっても、主電極をメタル層に確実に接触させることができる。主電極をメタル層に接触させた後、主電極と炉底電極との間の抵抗値が測定される。メタル層の抵抗値は十分に小さいため、得られた抵抗値に基いて、炉底電極が折損しているか否かを判定することができる。すなわち、炉の運転中であるにも関わらず、炉底電極が折損しているか否かを判定することが可能となる。但し、溶融用電流と電圧から抵抗値を求める場合、溶融用電流は非常に大きいため,溶融用電流と電圧から抵抗値を測定した場合、誤差が大きくなりすぎ、炉底電極の折損を判断することができない。これに対して、上述の発明では、溶融用電流の印加が一時的に停止された後、電源装置とは別に設けられた抵抗測定装置により、主電極と炉底電極との間の抵抗値が測定される。これにより、正確に抵抗値を求めることが可能となり、炉底電極が折損しているか否かを正確に判定することが可能となる。
【0015】
本発明に係る電気式溶融炉は、灰が投入される炉体と、前記炉体の底部に配置された炉底電極と、前記炉体の上部に、昇降自在に配置された、主電極と、前記炉底電極と前記主電極との間に、前記灰が溶融するような溶融用電流を印加する、電源装置と、前記電源装置とは別に設けられ、前記炉底電極と前記主電極との間の電気抵抗値を測定する、抵抗測定装置とを具備する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、運転中に炉底電極の折損が生じているか否かを確認することのできる、電気式溶融炉及び電気式溶融炉の動作方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電気式溶融炉の一例を示す概略図である。
【図2】実施形態に係る電気式溶融炉1を示す概略図である。
【図3】電気式溶融炉の動作方法を概略的に示すフローチャートである。
【図4】ステップS1における動作を詳細に示すフローチャートである。
【図5】ステップS1における動作を説明するための説明図である。
【図6】ステップS3〜S5の動作を詳細に示すフローチャートである。
【図7】主電極が降下した後の状態を示す概略図である。
【図8】実験例の結果を示すグラフである。
【図9】クランプ含有抵抗値の計測手法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
図2は、本実施形態に係る電気式溶融炉1を示す概略図である。本実施形態では、電気式溶融炉1として、プラズマ灰溶融炉が用いられるものとする。図2に示されるように、電気式溶融炉1は、炉体2、主電極3、炉底電極4、電源装置5、及び低抵抗計9を備えている。
【0020】
炉体2は、内部に空間を有しており、その内部空間に処理対象物である灰を受け入れる。
【0021】
主電極3は、炉体2の上壁部を貫通するように設けられている。主電極3は、昇降可能となるように、炉体2に取り付けられている。主電極3としては、例えば、黒鉛電極などを用いることができる。
【0022】
炉底電極4は、炉体2の底壁部を貫通するように設けられている。炉体2に投入された灰は、炉底電極4の上端と接している。
【0023】
電源装置5は、一端で主電極クランプ6を介して、主電極3に接続されている。電源装置5の他端は、炉底電極クランプ7を介して、炉底電極4に接続されている。電源装置5としては、例えば、直流電源装置を用いることができる。電源装置5は、主電極3と炉底電極4との間に電圧を印加し、主電極3と炉底電極4との間にプラズマ電流(溶融用電流)を発生させる。炉体2の内部では、灰が、プラズマ電流によって加熱され、溶融する。溶融した灰は、メタル層とスラグ層とに分離される。比重の違いから、メタル層が下層となり、スラグ層はメタル層の上に形成される。尚、電源装置5には、主電極3と炉底電極4との間にプラズマ電流が流れているときに、主電極3と炉底電極との間の電流及び電圧を測定する機能が設けられている。
【0024】
低抵抗計9は、主電極3と炉底電極4との間の電気抵抗値を測定するために設けられている。低抵抗計9としては、電源装置5に設けられた電流及び電圧の測定機能よりも、精度が高いものが用いられる。本実施形態では、低抵抗計9として、直流4端子型の抵抗計が用いられる。この低抵抗計9は、一対の電流発生用端子10(10−1、10−2)、及び一対の電圧計測用端子11(11−1、11−2)を有している。電流発生用端子10−1は、主電極クランプ6に接続されており、電流発生用端子10−2は、炉底電極クランプ7に接続されている。電圧計測用端子11−1は、炉体2の外部で、主電極3に接続されている。電圧計測用端子11−2は、炉体2の外部で、炉底電極4に接続されている。電流発生用端子10−1と低抵抗計9の本体との間、及び、電圧計測用端子11−1と本体との間には、スイッチ12が設けられている。スイッチ12がオン状態の場合、一対の電流発生用端子10及び本体により形成される閉回路に定電流が流され、一対の電圧計測用端子11間の電圧が測定される。測定結果に基いて、一対の電圧計測用端子11間の抵抗値を求めることができる。なお,4端子型の抵抗計は直流に限定されるものではない。
【0025】
続いて、本実施形態に係る電気式溶融炉1の動作方法について説明する。図3は、電気式溶融炉の動作方法を概略的に示すフローチャートである。まず、電気式溶融炉1を運転する前に、炉底電極4の抵抗値を運転前抵抗値として計測する(ステップS1)。次いで、電気式溶融炉1を立ち上げ、運転を開始する(ステップS2)。次いで、運転中に、炉底電極4の抵抗値を運転中抵抗値として計測する(ステップS3)。次いで、運転前抵抗値と運転中抵抗値とを比較し、炉底電極4に折損があるか否かを判定する(ステップS4)。判定の結果、正常であれば、運転を継続する(ステップS5)。一方、炉底電極4が異常である場合には、運転を停止し、炉底電極4を調査する(ステップS6)。
【0026】
以下に、各ステップの詳細について説明する。
【0027】
ステップS1;運転前抵抗値の計測
図4は、ステップS1における動作を詳細に示すフローチャートである。また、図5は、本ステップにおける動作を説明するための説明図である。図4及び図5を参照して、ステップS1の動作について詳述する。
【0028】
まず、主電極3を降下させ、炉体2内に存在するメタル層に接触させる。この際、まず、図5に示されるように、メタル層を露出させ、露出部分に、メタル層よりも柔軟性が高い導電性材料13(導電ペーストなど)を配置する。その後、主電極3を降下させ、配置された導電性材料13に接触させる。これにより、主電極3と炉底電極4とは、メタル層及び導電性材料13を介して接続される(ステップS1−1)。次いで、スイッチ12をオンにし、低抵抗計9を用いて、一対の電圧計測用端子11間の抵抗値を計測する(ステップS1−2)。ステップS1−2における計測結果は、運転前抵抗値として記録される(ステップS1−3)。
【0029】
運転前の段階では、メタル層は固形状である。そのため、主電極3とメタル層とを直接接触させると、接触抵抗が大きくなってしまい、正確に運転前抵抗値を計測することが困難になる。これに対して、上述のように導電性材料13を用いることにより、接触抵抗を低減することができ、正確に運転前抵抗値を計測することが可能となる。
【0030】
ステップS2;運転開始
次いで、主電極3を上昇させる。そして、スイッチ12をオフにし、電源装置5を起動する。これにより、主電極3と炉底電極4との間にプラズマ電流が流れ、灰が溶融する。
【0031】
ステップS3;運転中抵抗値の計測
次いで、ステップS3の動作を詳述する。図6は、ステップS3〜S5の動作を詳細に示すフローチャートである。
【0032】
まず、電源装置5により、主電極3と炉底電極4間の電圧及び電流を測定しながら、主電極3を降下させる(ステップS3−1)。
【0033】
図7は、主電極3が降下した後の状態を示す概略図である。灰は、炉体2の内部で溶融され、メタル層とスラグ層とに分離されている。そのため、主電極3は、まず、スラグ層と接触する。主電極3を更に降下させると、主電極3はメタル層に接触する。ここで、スラグ層とメタル層とは、抵抗値が大きく異なる。メタル層の抵抗値は、スラグ層の抵抗値よりも、十分に小さい。従って、主電極3がメタル層に接触した瞬間、電源装置5による電圧測定結果が、ほぼ0ボルトになる。すなわち、主電極3の降下中に電源装置5によって電圧を測定することにより、スラグ層とメタル層との境界を検知することができ、確実に主電極3をメタル層に接触させることができる。尚、メタル層の抵抗値とスラグ層の抵抗値との違いは大きいため、灰が溶融するような大電圧が主電極3と炉底電極4との間に印加されている状態であっても、境界を検知することが可能である(ステップS3−2)。
【0034】
次いで、主電極3をメタル層に接触させた状態で、主電極3の降下を停止させる(ステップS3−3)。
【0035】
次いで、電源装置5をオフ状態にする(ステップS3−4)。
【0036】
次いで、炉体2をアースする。炉体2は、プラズマによって帯電していることがある。炉体2が帯電していると、後述する抵抗値の測定時において、低抵抗計9が故障してしまうことがある。炉体2をアースすることにより、炉体2に蓄積された電荷を除去することができ、低抵抗計9の故障が防止される(ステップS3−5)。
【0037】
次いで、スイッチ12をオン状態に制御する。これにより、主電極3及び炉底電極4に接続される回路が、計測用回路に切り替えられる(ステップS3−6)。
【0038】
次いで、低抵抗計9を用いて、一対の電圧測定用端子11間の抵抗値を、運転中抵抗値として計測する。この際、電源装置5がオフ状態にされているので、精度よく、運転中抵抗値を計測することが可能である(ステップS3−7)。
【0039】
ステップS4;折損有無の判定
次いで、運転前抵抗値と運転中抵抗値との差分を計算する(ステップS4−1)。運転中に炉底電極4に折損が生じていた場合、運転前抵抗値と運転中抵抗値との差分が大きくなる。そこで、計算により求められた差分値を、折損が生じている場合の差分を示すしきい値と比較することにより、炉底電極4が折損しているか否かを判定する。尚、しきい値は、あらかじめ、過去の運転実績や実験データなどを用いて、設定しておくことができる(ステップS4−2)。
【0040】
ステップS5;運転継続
ステップS4において、炉底電極4が折損していないと判定した場合には、スイッチ12をオフ状態とし、各電極に接続される回路を運転用回路に切り替える(ステップS5−1)。その後、電源装置5をオン状態にし(ステップS5−2)、主電極3を上昇させる(ステップS5−3)。主電極3を、通常位置まで上昇させて、運転を継続する(ステップS5−4)。
【0041】
ステップS6;調査
ステップS4において、炉底電極4が折損していると判定された場合には、運転を中止し、炉底電極4を調査する。
【0042】
以上説明したステップS1〜S6の動作により、運転中において炉底電極4が折損しているか否かを判定することができる。
【0043】
本実施形態によれば、ステップS3において、電圧及び電流を測定しながら主電極3を降下させることにより、灰を溶融させつつも、主電極3をメタル層に確実に接触させることができる。そして、電源装置5がオフ状態にされた後、電源装置5とは別に設けられた低抵抗計9を用いて主電極3と炉底電極4との間の抵抗値が測定される。この際、主電極3と炉底電極4との間には、灰を溶融させるよう大電圧が印加されていないため、正確に抵抗値(運転中抵抗値)を測定することができる。この運転前抵抗値と運転中抵抗値との差分を求め、差分をしきい値と比較することにより、運転中であっても、炉底電極4に折損が生じているか否かを正確に判定することができる。
【0044】
本実施形態の作用効果を具体的に説明するため、本発明者らにより行なわれた実験例について説明する。図8は、実験例の結果を示すグラフである。図8において、横軸は運転時間を示し、縦軸は、差分値を示している。時刻0に炉を立ち上げ、所定間隔でステップS3の処理を行い、運転中抵抗値と運転前抵抗値との差分値(運転中抵抗値−運転前抵抗値)を求めた。そして、時刻t3の後に、炉底電極4に折損を生じさせた。なお、閾値としては、Rtという値を設定した。また、主電極3としては、黒鉛電極を使用した。
【0045】
図8に示されるように、実験の結果、炉底電極4に折損を生じさせる前(時刻t以前)においては、差分値がしきい値Rtを下回っていた。そして、折損を生じさせた後に得られた測定結果(図中、B)において、差分値がしきい値Rtを超えることが確認された。すなわち、炉底電極4に折損が生じていることを判定することができた。尚、図8中、時刻t2の前後(Aで囲われている部分)では、差分値は、しきい値Rtを下回っているものの、不規則に変化している。この部分は、主電極3のニップル(電極継ぎ足し部)の数が変化している部分であると考えられる。主電極3(黒鉛電極)は、運転中において、経時的に削られていく。不足分を補うため、ニップルを用いて、黒鉛電極が継ぎ足される。ニップルの数により、主電極3の抵抗値が若干変化する。時刻t2の前後においては、ニップルを継ぎ足したため、運転中抵抗値が若干変化し、差分値が不規則に変化したものと考えられる。
【0046】
尚、本実施形態では、電気式溶融炉1として、プラズマ灰溶融炉を例として説明を行なった。但し、電気式溶融炉1としては、プラズマ灰溶融炉に限定されるものではない。主電極3と炉底電極4とを有し、主電極3と炉底電極4との間で電気エネルギーを用いて灰を溶融させる炉であれば、プラズマ灰溶融炉以外の炉を電気式溶融炉1として用いることも可能である。
【0047】
また、本実施形態では、低抵抗計9として、直流4端子型の抵抗計が用いられる場合について説明した。但し、低抵抗計9としては、炉底電極4の折損の有無を判定できる程度の精度を有しているものであれば、必ずしも直流4端子型の抵抗計を用いる必要はなく、他の抵抗計を用いることも可能である。但し、電気式溶融炉1はサイズが比較的大きいため、本体と主電極3との間、及び本体と炉底電極4との間を電気的に接続するために、長いケーブルが必要となる。直流4端子型の抵抗計は、ケーブルの電気抵抗を無視することができるため、好ましく用いることができる。
【0048】
また、本実施形態では、一対の電圧測定用端子11を、主電極3及び炉底電極4に接触させることにより、運転中抵抗値が求められる。ここで、一対の電圧測定用端子11の接続先を変更することにより、炉の状態をより詳しく知ることが可能となる。例えば、主電極クランプ6が主電極3に正しく取り付けられていないと、クランプ−電極間の抵抗が増大し、発熱する場合がある。そこで、ステップS3−5(図6参照)の後に、図9に示されるように、電圧測定用端子11−1を、主電極クランプ6に接触させる。そして、一対の電圧測定用端子11(11−1、11−2)間の抵抗値を、測定する。このときの測定結果は、主電極クランプ6と主電極3との間の接触抵抗を含んだ値(クランプ含有抵抗値)となっている。従って、クランプ含有抵抗値と、ステップS3で得られた運転中抵抗値との差分を求めることにより、主電極3と主電極クランプ6との間の接触抵抗値を求めることができる。求めた接触抵抗値に基いて、主電極クランプ6が正しく主電極3に取り付けられているか否かを判断し、正しく取り付けられている場合にのみ、運転を継続する。同様にして、炉底電極クランプ7が炉底電極4に正しく取り付けられているか否かも、判断することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1 プラズマ式電気溶融炉
2 炉体
3 主電極
4 炉底電極
5 電源装置
6 主電極クランプ
7 炉底電極クランプ
8 テスター
9 低抵抗計
10(10−1、10−2) 電流発生用端子
11(11−1、11−2) 電圧測定用端子
12 スイッチ
13 導電性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
灰が投入される炉体と、
前記炉体の底部に配置された炉底電極と、
前記炉体の上部に、昇降自在に配置された、主電極と、
前記炉底電極と前記主電極との間に、前記灰が溶融するような溶融用電流を印加する、電源装置と、
前記電源装置とは別に設けられ、前記炉底電極と前記主電極との間の電気抵抗値を測定する、抵抗測定装置と、
を具備する電気式溶融炉の動作方法であって、
前記電源装置を用いて、前記溶融用電流の印加を開始する工程と、
前記開始する工程の後に、前記炉底電極と前記主電極との間の電圧差を測定しながら、前記主電極を降下させる工程と、
前記炉底電極と前記主電極との間の電圧差に基いて、メタル層とスラグ層との間の境界を検知し、検知結果に基いて、前記主電極の高さを前記メタル成分に接触するような高さに制御する工程と、
前記制御する工程の後に、前記電源装置が、前記溶融用電流の印加を停止する工程と、
前記停止する工程の後に、前記抵抗測定装置を用いて、前記炉底電極と前記主電極との間の電気抵抗値を計測することにより、運転中抵抗値を求める工程と、
前記運転中抵抗値に基いて、前記炉底電極が折損しているか否かを判定する工程と、
前記炉底電極が折損していないと判定された場合に、前記電源装置を用いて、前記溶融用電流の印加を再開する工程と、
を具備する
電気式溶融炉の動作方法。
【請求項2】
請求項1に記載された電気式溶融炉の動作方法であって、
更に、
前記溶融用電流の印加を開始する工程の前に、前記炉底電極と前記主電極との間の電気抵抗値を計測することにより、運転前抵抗値を求める工程、
を具備し、
前記判定する工程は、
前記運転前抵抗値と前記運転中抵抗値との差分を計算する工程と、
前記差分に基いて、折損の有無を判定する工程と、を含む
電気式溶融炉の動作方法。
【請求項3】
請求項2に記載された電気式溶融炉の動作方法であって、
前記折損の有無を判定する工程は、前記差分を、予め定められた折損有無判断用しきい値と比較し、比較結果に基いて、折損しているか否かを判定する工程を含んでいる
電気式溶融炉の動作方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載された電気式溶融炉の動作方法であって、
前記運転前抵抗値を求める工程は、
前記メタル層を露出させる工程と、
前記露出させる工程の後に、前記メタル層の露出部分に、前記メタル層よりも柔軟性が高い導電性材料を配置する工程と、
前記導電性材料を配置する工程の後に、前記主電極を降下させて前記導電性材料に接触させる工程と、
前記接触させる工程の後に、前記抵抗測定装置を用いて、前記運転前抵抗値を測定する工程とを含む
電気式溶融炉の動作方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された電気式溶融炉の動作方法であって、
前記抵抗測定装置は、4端子抵抗計を含んでいる
電気式溶融炉の動作方法。
【請求項6】
請求項5に記載された電気式溶融炉の動作方法であって、
前記電源装置は、前記主電極と接触する主電極クランプを介して前記主電極と接続され、前記炉底電極と接触する炉底電極クランプを介して前記炉底電極と接続され、
更に、
前記停止する工程の後に、前記抵抗測定装置を用いて、前記炉底電極と前記炉底電極クランプとの間の電気抵抗値、又は、前記主電極と前記主電極クランプとの間の電気抵抗値を、クランプ接触抵抗値として計測する工程と、
前記クランプ接触抵抗値に基いて、前記炉底電極クランプ又は前記主電極クランプが、正常に取り付けられているか否かを判定する工程と、
を具備し、
前記溶融用電流の印加を再開する工程は、前記炉底電極クランプ又は前記主電極クランプが正常に取り付けられている場合に、前記溶融用電流の印加を再開する工程を含んでいる
電気式溶融炉の動作方法。
【請求項7】
請求項6に記載された電気式溶融炉の動作方法であって、
前記4端子抵抗計は、電圧を測定するための2つの電圧測定用端子を備え、
前記運転中抵抗値を求める工程は、前記2つの電圧測定用端子の一方を前記主電極に接触させ、前記2つの電圧測定用端子の他方を前記炉底電極に接触させることにより、前記運転中抵抗値を計測する工程を含み、
前記クランプ接触抵抗値として計測する工程は、
前記2つの電圧測定用端子の一方を前記主電極又は前記炉底電極に接触させ、前記2つの電圧測定用端子の他方を前記炉底電極クランプまたは前記主電極クランプに接触させることにより、クランプ含有抵抗値を計測する工程と、
前記クランプ含有抵抗値と前記運転中抵抗値とに基いて、前記クランプ接触抵抗値を求める工程とを含んでいる
電気式溶融炉の動作方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載された電気式溶融炉の動作方法であって、
前記電源装置は、前記溶融用電流として、プラズマ電流を発生させる
電気式溶融炉の動作方法。
【請求項9】
灰が投入される炉体と、
前記炉体の底部に配置された炉底電極と、
前記炉体の上部に、昇降自在に配置された、主電極と、
前記炉底電極と前記主電極との間に、前記灰が溶融するような溶融用電流を印加する、電源装置と、
前記電源装置とは別に設けられ、前記炉底電極と前記主電極との間の電気抵抗値を測定する、抵抗測定装置と、
を具備する
電気式溶融炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−21708(P2012−21708A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160034(P2010−160034)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(501370370)三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】