説明

電気車制御装置

【課題】 滑走防止弁を設けることも、VVVFインバータ装置からブレーキ制御装置へ速度センサ信号の配線を増加することも行わずに、車輪滑走を防止することが可能な電気車制御装置を提供することである。
【解決手段】 可変電圧可変周波数制御方式のVVVFインバータ装置1によって車両駆動用交流電動機3a〜3dを駆動し、車両駆動用交流電動機3a〜3dで駆動される駆動車輪2a〜2dのブレーキ力をブレーキ制御装置5で制御する。VVVFインバータ装置1は、車両駆動用交流電動機3a〜3dの速度をもとに駆動車輪2a〜2dが滑走したことを検知する。ブレーキ制御装置5は、VVVFインバータ装置1から滑走検知信号を受け取り空気ブレーキ力の指令値を弱めて駆動車輪2a〜2dのブレーキ力を弱め滑走を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両駆動用交流電動機をVVVFインバータ装置で駆動する電気車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動車輪にブレーキを掛けたときに車輪がロックして車輪滑走が発生することがある。このような車輪滑走が発生したときは、空気ブレーキ力を弱めて車輪滑走を防止する。この空気ブレーキ力を弱める方法として滑走防止弁が用いられおり、この滑走防止弁は車輪の滑走を検知して、そのときに空気ブレーキ力を弱めることでブレーキ力を減少させて滑走を抑えるものである。
【0003】
また、車両駆動用交流電動機の速度信号から車輪速度を計算して車輪滑走を検知する方法がある。図7は従来の電気車制御装置の構成図である。VVVFインバータ装置1は、駆動車輪2a〜2dに回転力や電気ブレーキ力を与える車両駆動用交流電動機3a〜3dを制御し、駆動車輪2a〜2dには機械的ブレーキ力を与えるための空気ブレーキ装置4a〜4dが設けられている。車両駆動用交流電動機3a〜3dの速度は、車両駆動用交流電動機3a〜3dから配線6a〜6dでブレーキ制御装置5の滑走検知部7に入力され、この速度信号から車輪速度を計算して車輪滑走を検知する。滑走検知部7で車輪滑走が検知されると、ブレーキ制御装置5の空気ブレーキ力指令演算部8は空気ブレーキ4a〜4dを弱めて車輪滑走を抑制する。
【0004】
さらにまた、車体の滑走防止制御の信頼性を向上させるために、遊輪式のタッチローラ(接触回転)型センサを車体に設置し、そのセンサから得られる移動機の実測度データ及び車輪回転数データより車輪のロックを検知可能な手段を有し、車輪ロック時にブレーキ緩めを行いロックを解除し再粘着を行うことにより滑走を防止し、停止させることができるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−251724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、滑走防止弁はコスト的な都合からすべての車両に取り付けられるわけではなく、車両駆動用交流電動機の取り付けられている電動車に対しては滑走防止弁が備え付けられないこともある。また、滑走防止弁が電動車に備えられていても、滑走を検知するための速度センサが電動車のすべての軸に取り付けられているとは限らない。そのため滑走を検知できる軸は限られていて、滑走検知用の速度センサのついていない軸が滑走した場合、滑走により車輪がロックしても検知できずに、最悪の場合、車輪の一部が平坦状に削れるいわゆる車輪フラットを招く恐れがある。
【0006】
また、図7に示した従来例ではVVVFインバータ装置1からブレーキ制御装置5への配線が複雑になり、配線を要する速度センサ信号が増加するのでコストアップとなる。
【0007】
本発明の目的は、滑走防止弁を設けることも、VVVFインバータ装置からブレーキ制御装置へ速度センサ信号の配線を増加することも行わずに、車輪滑走を防止することが可能な電気車制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気車制御装置は、可変電圧可変周波数制御方式のVVVFインバータ装置によって車両駆動用交流電動機を駆動し、前記車両駆動用交流電動機で駆動される駆動車輪のブレーキ力をブレーキ制御装置で制御する電気車制御装置において、前記車両駆動用交流電動機の速度をもとに前記駆動車輪が滑走したことを検知するVVVFインバータ装置と、前記VVVFインバータ装置から滑走検知信号を受け取り空気ブレーキ力の指令値を弱めて前記駆動車輪のブレーキ力を弱め滑走を抑えるブレーキ制御装置とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、滑走防止弁を設けることも、VVVFインバータ装置からブレーキ制御装置へ速度センサ信号を送信する配線も不要であるため、それらのハードウエアの追加によるコストアップを抑えることができ、車輪滑走が発生したときに有効にブレーキ力を抑えることによって車輪滑走を防止して、車輪フラットを防止することが可能な電気車制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係わる電気車制御装置の構成図である。VVVFインバータ装置1は、駆動車輪2a〜2dに連結された車両駆動用交流電動機3a〜3dを制御するものであり、車両駆動用交流電動機3a〜3dの速度をもとに駆動車輪2a〜2dが駆動車輪が滑走したことを検知する滑走検知部7を有している。滑走検知部7は駆動車輪2a〜2dが駆動車輪が滑走したときは滑走検知信号をブレーキ制御装置5の空気ブレーキ力指令演算部8に出力する。空気ブレーキ力指令演算部8は、滑走検知信号を受け取ると空気ブレーキ装置4a〜4dに空気ブレーキ力の指令値を弱めて駆動車輪2a〜2dのブレーキ力を弱め滑走を抑える。
【0011】
すなわち、VVVFインバータ装置1の内部に車両駆動用交流電動機3a〜3dの速度から滑走を検知する滑走検知部7を設け、その滑走検知部7から出力される滑走検知信号をブレーキ制御装置5の空気ブレーキ指令演算部7に送る。ブレーキ制御装置5の空気ブレーキ指令演算部7は、この滑走検知信号により空気ブレーキ力の指令を弱めて滑走を抑える。VVVFインバータ装置1からブレーキ制御装置5への滑走検知信号の送信は、専用配線を用いて直接電気信号で送る方法あるいは演算処理装置(CPU)同士のデータ伝送で送る方法等がある。
【0012】
図2は本発明の第1の実施の形態に係わる電気車制御装置の動作を示す特性図である。車両駆動用交流電動機3a〜3dの速度の変化(時点t1〜時点t2)からVVVFインバータ装置1の滑走検知部7によって滑走を検知して、その滑走検知信号をブレーキ制御装置5の空気ブレーキ力指令演算部8に送る。ブレーキ制御装置5の空気ブレーキ力指令演算部8は滑走検知信号が成立している間は空気ブレーキ力指令を絞って滑走を抑える。
【0013】
第1の実施の形態によれば、駆動車輪2a〜2dの滑走検知信号のみをブレーキ制御装置5へ送ることにより、ブレーキ制御装置5で車輪滑走を認識できる。そして、そのときに空気ブレーキ力を絞ることで車輪滑走を抑えることができる。これにより、滑走防止弁は不要となり、さらにVVVFインバータ装置1からブレーキ制御装置5への速度信号の配線も不要となる。配線の追加は滑走検知信号をやりとりする配線、またはCPU同士の伝送のみで、わずかなコストアップで駆動軸の滑走を抑える電気車制御装置を提供できる。
【0014】
(第2の実施の形態)
図3は本発明の第2の実施の形態に係わる電気車制御装置の構成図である。この第2の実施の形態は、図1に示した第1の実施の形態に対し、滑走検知部7に加え電気ブレーキ力フィードバック出力部9を追加して設け、車両駆動用交流電動機3a〜3dで実際に発生しているブレーキ力より、滑走検知部7からの滑走検知信号分だけ大きな値の電気ブレーキ力フィードバック信号を出力するようにしたものである。
【0015】
図3において、VVVFインバータ装置1の内部には車両駆動用交流電動機3a〜3dの速度から滑走を検知する滑走検知部7と、電気ブレーキ力フィードバック出力部9とが設けられている。一般に電気ブレーキ力フィードバック信号は現在の電気ブレーキ力をリアルタイムに表し、その信号はブレーキ制御装置5へ渡される。ブレーキ力は車両駆動用交流電動機3a〜3dで発生する電気ブレーキ力とブレーキシューで発生する空気ブレーキ力との合計であり、ブレーキ制御装置5は電気ブレーキ力フィードバック信号が小さくなったら空気の指令による空気ブレーキ力を増加し、逆に大きくなったら空気ブレーキ力を減少させることで合計のブレーキ力を一定に保つ制御を行っている。
【0016】
図4は本発明の第2の実施の形態に係わる電気車制御装置の動作を示す特性図である。VVVFインバータ装置1が滑走検知部7によって電動機速度をもとに滑走を検知すると(時点t1〜時点t2)、滑走検知信号を電気ブレーキ力フィードバック出力部9へ送る。電気ブレーキ力フィードバック出力部9は滑走検知部7から送られてくる滑走検知信号を受け取ると電気ブレーキ力フィードバック信号を実際の電気ブレーキ力より大きくしてブレーキ制御装置5へ出力する。その結果、ブレーキ制御装置5は空気ブレーキ力指令を小さくし、ブレーキ力が弱まり滑走を抑えることができる。VVVFインバータ装置1からブレーキ制御装置5への滑走検知信号の送信は、専用配線を用いて直接電気信号で送る方法あるいは演算処理装置(CPU)同士のデータ伝送で送る方法等がある。
【0017】
第2の実施の形態によれば、電気ブレーキ力フィードバック信号を滑走時に実際の電気ブレーキ力より大きくすることにより、ブレーキ制御装置5で空気ブレーキ力を減少でき、ブレーキ力を抑えることにより車輪滑走を抑えることができる。これにより、滑走防止弁は不要となり、さらにVVVFインバータ装置1からブレーキ制御装置5への速度信号の配線も不要となる。従来のシステムから配線の追加することなしで駆動軸の滑走を抑える電気車制御装置を提供できる。
【0018】
(第3の実施の形態)
図5は本発明の第3の実施の形態に係わる電気車制御装置の構成図である。この第3の実施の形態は、図1に示した第1の実施の形態に対し、ブレーキ制御装置5の空気ブレーキ力指令演算部8に代えて電気ブレーキ力指令演算部10を設け、電気ブレーキ力指令演算部10から電気ブレーキ力指令をVVVFインバータ装置1の電気ブレーキ力制御部11に出力するようにしたものである。
【0019】
VVVFインバータ装置1の内部には、車両駆動用交流電動機3a〜3dの速度から滑走を検知する滑走検知部7および電気ブレーキを制御する電気ブレーキ力制御部11を有している。
【0020】
VVVFインバータ装置1の内部の滑走検知部7から出力される滑走検知信号は、ブレーキ制御装置5の電気ブレーキ力指令演算部10へ送られる。なお、VVVFインバータ装置1からブレーキ制御装置5への滑走検知信号は専用配線を用いて直接電気信号で送る方法や演算処理装置(CPU)同士の伝送で送る方法等がある。
【0021】
そして、ブレーキ制御装置5の電気ブレーキ力指令演算部10は、VVVFインバータ装置1の内部の滑走検知部7から滑走検知信号を受け取ることにより、VVVFインバータ装置1へ指令する電気ブレーキ力の指令値を弱め、そのことによって駆動車輪2a〜2dのブレーキ力を弱めて滑走を抑える。
【0022】
図6は本発明の第3の実施の形態に係わる電気車制御装置の動作を示す特性図である。電動機速度の変化(時点t1〜時点t2)からVVVFインバータ装置1の滑走検知部7によって滑走を検知して、その滑走検知信号をブレーキ制御装置5の電気ブレーキ力指令演算部10に送る。ブレーキ制御装置5の電気ブレーキ力指令演算部10は、この滑走検知信号によりVVVFインバータ装置1の電気ブレーキ力制御部11へ指令する電気ブレーキ力指令を弱める。これによりブレーキ力が弱まり滑走を抑えることができる。
【0023】
本発明の第3の実施の形態によれば、駆動車輪2a〜2dの滑走検知信号のみをブレーキ制御装置5の電気ブレーキ力指令演算部10へ送ることにより、ブレーキ制御装置5で車輪滑走を認識できる。そして、そのときに電気ブレーキ力指令を絞ることによってブレーキ力を絞ることができ車輪滑走を抑えることができる。これにより、滑走防止弁は不要となり、さらにVVVFインバータ装置1からブレーキ制御装置5への速度信号の配線も不要となる。配線の追加は滑走検知信号をやりとりする配線、またはCPU同士の伝送のみで、わずかなコストアップで駆動軸の滑走を抑える電気車制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わる電気車制御装置の構成図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係わる電気車制御装置の動作を示す特性図。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係わる電気車制御装置の構成図。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係わる電気車制御装置の動作を示す特性図。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係わる電気車制御装置の構成図。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係わる電気車制御装置の動作を示す特性図
【図7】従来の電気車制御装置の構成図。
【符号の説明】
【0025】
1…VVVFインバータ装置、2…駆動車輪、3…車両駆動用交流電動機、4…空気ブレーキ装置、5…ブレーキ制御装置、6…配線、7…滑走検知部、8…空気ブレーキ力指令演算部、9…電気ブレーキ力フィードバック出力部、10…電気ブレーキ力指令演算部、11…電気ブレーキ力制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変電圧可変周波数制御方式のVVVFインバータ装置によって車両駆動用交流電動機を駆動し、前記車両駆動用交流電動機で駆動される駆動車輪のブレーキ力をブレーキ制御装置で制御する電気車制御装置において、前記車両駆動用交流電動機の速度をもとに前記駆動車輪が滑走したことを検知するVVVFインバータ装置と、前記VVVFインバータ装置から滑走検知信号を受け取り空気ブレーキ力の指令値を弱めて前記駆動車輪のブレーキ力を弱め滑走を抑えるブレーキ制御装置とを備えたことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項2】
可変電圧可変周波数制御方式のVVVFインバータ装置によって車両駆動用交流電動機を駆動し、前記車両駆動用交流電動機で駆動される駆動車輪のブレーキ力をブレーキ制御装置で制御する電気車制御装置において、前記車両駆動用交流電動機の速度をもとに前記駆動車輪が滑走したことを検知し前記車両駆動用交流電動機で実際に発生しているブレーキ力よりその滑走検知信号分だけ大きな値の電気ブレーキ力フィードバック信号を出力するVVVFインバータ装置と、前記VVVFインバータ装置から電気ブレーキ力フィードバック信号を受け取り空気ブレーキ力の指令値を弱めて前記駆動車輪のブレーキ力を弱め滑走を抑えるブレーキ制御装置とを備えたことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項3】
可変電圧可変周波数制御方式のVVVFインバータ装置によって車両駆動用交流電動機を駆動し、前記車両駆動用交流電動機で駆動される駆動車輪のブレーキ力をブレーキ制御装置で制御する電気車制御装置において、前記車両駆動用交流電動機の速度をもとに前記駆動車輪が滑走したことを検知するVVVFインバータ装置と、前記VVVFインバータ装置から滑走検知信号を受け取り前記VVVFインバータ装置へ指令する電気ブレーキ力の指令値を弱めて前記駆動車輪のブレーキ力を弱め滑走を抑えるブレーキ制御装置とを備えたことを特徴とする電気車制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−271615(P2008−271615A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106769(P2007−106769)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】