説明

電気駆動車両制御システム、速度制御装置、速度制御方法及び速度制御プログラム

【課題】 減速不作動状態が発生した際にその状態を的確に検出して、電気駆動車両の走行安定性を維持しつつ、走行安全性をさらに向上させる。
【解決手段】 本発明の電気駆動車両制御システム内の速度制御装置18は、所定期間毎に電気駆動車両の平均速度に関する情報を算出する平均化処理部31と、電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別する判別部34とを備える。そして、判別部34は、電気駆動車両に対して回生動作による減速操作が行われた際に、所定期間毎に算出された電気駆動車両の平均速度に関する情報に基づいて、電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気駆動車両の速度制御を行うための電気駆動車両制御システム、該制御システムに用いられる速度制御装置、該速度制御装置における速度制御方法、及び、該速度制御装置に実装される速度制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気駆動車両の駆動システムでは、一般に、駆動時に電気エネルギーを電動機に供給して運動エネルギーに変換し、制動時にはこの電動機を発電機として動作させ、その際に発生する電気エネルギーを消費することにより制動力を得る。すなわち、従来の電気駆動車両では、車両駆動用電動機の回生動作により減速操作を行う。
【0003】
そこで、従来、電気駆動車両において、減速操作の信頼性を向上させるために、様々な減速操作の手法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
特許文献1には、電動機で回生される起電力を複数の抵抗器で消費する際に、複数の抵抗器のうちのいずれかの抵抗器を含む系で故障が発生すると、他の抵抗器を含む系で起電力を消費する手法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、ブレーキ時に発生する電気エネルギーを吸収するために強制空冷のブレーキ抵抗器を設け、また、主発電機とは電気的に独立した補助発電機を同軸上に設ける技術が提案されている。そして、特許文献2では、補助発電機の出力で、送風機用インバータを駆動して、交流送風機を運転し、ブレーキ抵抗器を冷却している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−230084号公報
【特許文献2】特開2006−166684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電気駆動車両において、電動機の回生動作による減速操作を行っても、例えば、車両重量や走行路の傾斜及び状態などの影響により、車両が減速しない場合(以下、この状態を「減速不作動状態」という)がある。しかしながら、上述した従来の電気駆動車両における減速操作の手法では、上述のような減速不作動状態が発生した際の操作については十分考慮されていない。
【0008】
減速操作を行っているにも関わらず、車両が減速しない減速不作動状態が発生すると、危険な状況となり、走行の安全性という点では大きな問題となる。それゆえ、減速不作動状態が発生した場合には、それを検出して、機械式ブレーキによる減速操作や操縦者への警告が必要となる。しかしながら、減速不作動状態の検出を行っても、減速不作動状態を正確に判別することができなければ、走行安定性が損なわれる懸念がある。
【0009】
本発明は上記現況に鑑みなされたものである。本発明の目的は、減速不作動状態が発生した際にその状態を的確に検出して、電気駆動車両の走行安定性を維持しつつ、走行安全性をさらに向上させることができる電気駆動車両制御システム、並びに、その速度制御装置、速度制御方法及び速度制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の電気駆動車両制御システムは、電気駆動車両のエンジンに接続される発電機と、発電機に接続され、発電機が出力する交流電力を直流電力に変換する第1電力変換器と、第1電力変換器に接続され、第1電力変換器が出力する直流電力を交流電力に変換する第2電力変換器と、第2電力変換器に接続され、第2電力変換器が出力する交流電力により駆動され、車輪を回転駆動する電動機と、電気駆動車両の速度に関する情報を検出する速度検出部と、速度検出部で検出される電気駆動車両の速度に関する情報に基づいて減速操作を制御する速度制御装置とを備える構成とする。そして、速度制御装置が、所定期間毎に電気駆動車両の平均速度に関する情報を算出する平均化処理部と、電気駆動車両に対して電動機の回生動作により減速操作が行われた際に、平均化処理部で算出された所定期間毎の電気駆動車両の平均速度に関する情報に基づいて、電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別する判別部とを有することを特徴とする。
【0011】
なお、本明細書でいう「速度(又は平均速度)に関する情報」とは、電気駆動車両の速度(又は平均速度)そのものの情報だけでなく、電気駆動車両の速度(又は平均速度)と対応付け可能な任意のパラメータ(情報)も含む意味である。例えば、インバータの回転速度(又は回転平均速度)や電動機の回転速度(又は回転平均速度)なども「速度(又は平均速度)に関する情報」に含まれる。
【0012】
また、本発明の速度制御装置は、所定期間毎に電気駆動車両の平均速度に関する情報を算出する平均化処理部と、電気駆動車両に対して回生動作による減速操作が行われた際に、平均化処理部で算出された所定期間毎の電気駆動車両の平均速度に関する情報に基づいて、電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別する判別部とを備える構成にする。
【0013】
さらに、本発明の速度制御方法及び速度制御プログラムでは、まず、所定期間毎に電気駆動車両の平均速度に関する情報を算出する。次いで、電気駆動車両に対して回生動作による減速操作が行われた際に、所定期間毎に算出された電気駆動車両の平均速度に関する情報に基づいて、電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、減速操作時に、電気駆動車両の平均速度に関する情報に基づいて、電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別する。これにより、本発明によれば、減速不作動状態が発生した際にその状態を的確に検出することができ、電気駆動車両の走行安定性を維持しつつ、走行安全性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気駆動車両制御システムの概略ブロック構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る速度制御装置の概略ブロック構成図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る速度制御装置において、減速操作時に行う減速不作動状態の判別処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】比較例の速度制御装置の概略ブロック構成図である。
【図5】本発明及び比較例間における減速不作動状態の判別精度の差異を説明するための図である。
【図6】変形例の速度制御装置の概略ブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の電気駆動車両制御システムの一構成例を、図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されない。なお、本発明の主な用途は電気自動車であるが、本発明は、電気自動車だけでなく、車両駆動用電動機の回生動作により減速操作を行う電気駆動車両であれば、任意の電気駆動車両に適用可能である。
【0017】
[電気駆動車両制御システムの構成]
図1に、本発明の一実施形態に係る電気駆動車両制御システム及びそれを備える電気駆動車両の概略構成を示す。なお、図1には、減速操作の制御に関連する要部のみを示す。
【0018】
電気駆動車両100は、エンジン1と、減速ペダル2と、電気駆動車両制御システム3と、ギア4と、機械式ブレーキ5と、車輪6とを備える。
【0019】
エンジン1は、電気駆動車両制御システム3内の後述する発電機11に機械的に接続される。減速ペダル2は、電気駆動車両制御システム3内の後述する制御装置18に電気的に接続される。ギア4は、電気駆動車両制御システム3内の後述する速度検出器17を介して後述の電動機15に機械的に接続される。また、ギア4及び機械式ブレーキ5は、車輪6の回転軸に取り付けられる。
【0020】
電気駆動車両制御システム3は、電気駆動車両100の速度制御を行う。電気駆動車両制御システム3は、発電機11と、第1電力変換器12と、平滑コンデンサ13と、第2電力変換器14と、電動機15と、電力消費装置16と、速度検出器17(速度検出部)と、制御装置18(速度制御装置)と、モニタ19(警告装置)とを備える。
【0021】
発電機11は、エンジン1に機械的に接続され、エンジン1により駆動される。そして、発電機11は、エンジン1に駆動されることにより交流電力を生成し、該生成した交流電力を第1電力変換器12に出力する。
【0022】
第1電力変換器12は、発電機11に電気的に接続され、発電機11から入力された交流電力を直流電力に変換し、その変換した直流電力を出力する。
【0023】
平滑コンデンサ13は、第1電力変換器12に並列接続され、第1電力変換器12から出力された直流電力を平滑(整流)して安定化する。
【0024】
第2電力変換器14は、第1電力変換器12及び平滑コンデンサ13に電気的に並列接続される。そして、第2電力変換器14は、第1電力変換器12から平滑コンデンサ13を介して入力された直流電力を交流電力に変換して、該変換した交流電力を電動機15に出力する。
【0025】
電動機15は、第2電力変換器14に電気的に接続され、第2電力変換器14から入力された交流電力により駆動される。そして、電動機15は、ギア4を介して車輪6を駆動することにより、電気駆動車両100を前進又は後進させる。これにより、電気駆動車両100が加速する。なお、本明細書でいう「加速」には、速度が時間とともに増大する状態だけでなく、速度一定の状態も含む意味である。
【0026】
また、電気駆動車両100の減速時には、電動機15は、電気駆動車両100の運動エネルギーを電気エネルギー(交流電力)に変換する発電機として動作する。そして、電動機15は、この際に変換した交流電力を回生して、第2電力変換器14に出力する。この回生動作時に第2電力変換器14に入力された交流電力は、第2電力変換器14で直流電力に変換され、該変換された直流電力は、電力消費装置16に出力される。
【0027】
電力消費装置16は、第2電力変換器14に並列接続され、電気駆動車両100の回生動作時に、第2電力変換器14から入力された直流電力(回生電力)を消費する。これにより、電気駆動車両100に対して電気ブレーキが作動し、電気駆動車両100が減速される。なお、回生動作時に入力された直流電力が電力消費装置16で消費しきれない場合には、電気駆動車両100が減速せず、上述した減速不作動状態が発生する。
【0028】
本実施形態では、電力消費装置16を電気駆動車両制御システム3の内部に設ける例を説明するが、本発明はこれに限定されない。電力消費装置16は、回生電力を消費する抵抗と、該抵抗に回生電力を供給する電力変換部とで構成される。抵抗では、回生電力を消費するので熱を発生する。それゆえ、抵抗のみを電気駆動車両制御システム3の外部に設けてもよい。また、電力消費装置16を電気駆動車両制御システム3の外部に設けてもよい。
【0029】
速度検出器17は、電動機15とギア4とを繋ぐ回転軸の回転速度を検出する。そして、速度検出器17は、検出した回転速度(車両速度)を制御装置18に出力する。
【0030】
制御装置18は、減速ペダル2、電力消費装置16、第2電力変換器14、速度検出器17、モニタ19及び機械式ブレーキ5に接続され、電気駆動車両制御システム3の速度調整動作全般を制御する。
【0031】
具体的には、制御装置18は、減速ペダル2から入力される減速ペダルの踏み込み量(以下、減速ペダル量という)、及び、速度検出器17から入力される車両速度に基づいて、電力消費装置16及び第2電力変換器14を制御して、電気駆動車両100を減速動作させる。また、制御装置18は、必要に応じて減速指令信号を機械式ブレーキ5に出力し、電気駆動車両100に対して機械ブレーキを作動させる。
【0032】
また、本実施形態では、制御装置18は、減速ペダル2から入力される減速ペダル量、及び、速度検出器17から入力される車両速度に基づいて、電気駆動車両100が減速不作動状態にあるか否かを判別する。そして、制御装置18は、この判別結果をモニタ19に出力する。本実施形態では、この判別処理により、減速不作動状態を的確に検出して、電気駆動車両100の走行安定性を維持しつつ、走行安全性をより向上させる。すなわち、電気駆動車両100の走行安定性及び走行安全性の両立を図る。なお、この減速不作動状態の判別処理及び制御装置18の構成については、後で詳述する。
【0033】
モニタ19は、制御装置18に接続され、制御装置18で行われた減速不作動状態の判別処理の結果を表示する。なお、本実施形態では、減速不作動状態の警告装置として、モニタ19の代わりに、例えば、アラーム装置、警告ランプ等を用いてもよい。また、モニタ19に例えば、アラーム装置、警告ランプ等を設けてもよい。
【0034】
[制御装置の構成]
図2に、本実施形態における電気駆動車両制御システム3の制御装置18(速度制御装置)の概略ブロック構成を示す。制御装置18は、第1判定部21と、第2判定部22と、論理積部23と、減速不作動判別部24とを備える。
【0035】
第1判定部21は、減速ペダル2に接続され、車両走行中に減速ペダル2から出力される減速ペダル量が所定の閾値(第1の閾値)を越えているか否か判定する。これにより、運転者により減速操作が実施されている否かを判定する。図2に示す例では、減速ペダル量の閾値を95%とする。なお、ここでは、減速ペダル2を最大に踏み込んだ状態での減速ペダル量を100%とする。
【0036】
また、第1判定部21は、論理積部23に接続され、減速ペダル量が所定の閾値(図2に示す例では95%)以上である場合に、減速操作が実施されている旨の信号、例えば「H(High)」(又は「1」)レベルの信号を論理積部23に出力する。それ以外の場合には、例えば「L(Low)」(又は「0」)レベルの信号を論理積部23に出力する。
【0037】
第2判定部22は、速度検出器17に接続され、第2判定部22には、速度検出器17の出力を車両速度に換算して得られる現在の車両速度検出値Vが入力される。そして、第2判定部22は、入力された車両速度検出値Vが所定の閾値(第2の閾値)を越えているか否か判定する。これにより、現在、車両が走行中である否かを判定する。
【0038】
また、第2判定部22は、論理積部23に接続され、現在の車両速度検出値Vが所定の閾値(図2に示す例では1km/h)以上である場合に、車両が走行中である旨の信号、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号を論理積部23に出力する。それ以外の場合には、例えば「L」(又は「0」)レベルの信号を論理積部23に出力する。
【0039】
論理積部23は、第1判定部21の出力信号と、第2判定部22の出力信号との論理積を算出する。また、論理積部23は、減速不作動判別部24に接続され、論理積の算出結果を減速不作動判別部24に出力する。
【0040】
減速ペダル量が所定の閾値(図2に示す例では95%)以上であり、かつ、車両速度検出値Vが所定の閾値(図2に示す例では1km/h)以上である場合に、論理積部23は、減速不作動状態の判別処理を実施する旨の信号SB、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号を減速不作動判別部24に出力する。すなわち、減速操作が行われ、かつ、車両が走行している場合に、論理積部23は、減速不作動状態の判別処理を実施する旨の信号SBを減速不作動判別部24に出力する。それ以外の場合には、論理積部23は、例えば「L」(又は「0」)レベルの信号SBを減速不作動判別部24に出力する。
【0041】
減速不作動判別部24は、論理積部23から入力される信号SBに基づいて、減速不作動状態の判別処理を実施する。具体的には、上述のように、論理積部23から例えば「H」(又は「1」)レベルの信号SBが入力された場合に、減速不作動判別部24は動作し、減速不作動状態の判別処理を実施する。一方、論理積部23から例えば「L」(又は「0」)レベルの信号SBが入力された場合には、減速不作動判別部24は動作せず、減速不作動状態の判別処理を実施しない。
【0042】
また、減速不作動判別部24は、モニタ19に接続され、減速不作動状態の判別処理の結果をモニタ19に出力する。
【0043】
なお、本実施形態では、減速不作動判別部24における減速不作動状態の判別処理は、減速ペダル量及び車両速度検出値Vのサンプリング間隔で実施する。ここでは、減速ペダル量及び車両速度検出値Vのサンプリング間隔を0.1秒とし、0.1秒間隔で減速不作動状態の判別処理を実施する例を説明する。ただし、減速不作動判別部24での判別処理の周期はこの例に限定されず、例えば用途、必要とする判別精度等に応じて適宜設定できる。
【0044】
[減速不作動判別部の構成及び減速不作動状態の判別原理]
ここで、減速不作動判別部24のより詳細な構成及び減速不作動状態の判別原理を、図2を参照しながら説明する。減速不作動判別部24は、ローパスフィルタ30と、平均化処理部31と、データ保持部32と、減算部33と、判別部34とを備える。
【0045】
ローパスフィルタ30は、速度検出器17に接続され、速度検出器17から入力される車両速度検出値Vに含まれるノイズ等を除去する。また、ローパスフィルタ30は、平均化処理部31に接続され、ノイズ除去した車両速度検出値Vnを平均化処理部31に出力する。
【0046】
平均化処理部31は、ノイズ除去された車両速度検出値Vnの所定期間の平均値、すなわち、電気駆動車両100の平均速度Vm1を算出する。ここでは、平均化処理部31は、1秒間の平均速度Vm1を算出する。本実施形態では、車両速度検出値Vnはローパスフィルタ30から0.1秒のサンプリング周期で入力されるので、平均化処理部31は、10サンプル分の車両速度検出値Vnの平均速度Vm1を算出することになる。また、平均化処理部31は、データ保持部32及び減算部33に接続され、算出した平均速度Vm1をデータ保持部32及び減算部33に出力する。
【0047】
なお、本実施形態では、平均化処理部31において、10サンプル分の車両速度検出値Vnを一時記憶し、その記憶した車両速度検出値Vnに基づいて平均速度Vm1を算出する。その後、平均化処理部31は、平均化処理をリセットし、次の1秒間の電気駆動車両100の平均速度Vm1を新たに算出し直す。すなわち、本実施形態では、平均化処理部31における平均速度Vm1の算出処理及び出力処理は、1秒毎に行われる。それゆえ、信号処理の経路において、平均化処理部31より下流側に位置する各処理部の動作も1秒周期で行われる。なお、平均速度Vm1の算出処理及び出力処理の周期はこの例に限定されず、例えば用途、必要とする判別精度等に応じて適宜設定される。
【0048】
データ保持部32は、平均化処理部31から入力された電気駆動車両100の平均速度Vm1を所定期間(この例では1秒間)、保持する。また、データ保持部32は、減算部33に接続され、所定期間、保持した平均速度Vm2を減算部33に出力する。
【0049】
減算部33は、平均化処理部31から入力される現在の電気駆動車両100の平均速度Vm1から、データ保持部32から入力される、現在から所定期間(この例では1秒)前の平均速度Vm2を減算し、電気駆動車両100の平均速度の差分ΔV(=Vm1−Vm2)を算出する。また、減算部33は、判別部34内の後述する第1減速判定部41及び第2減速判定部43に接続され、算出した電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVを第1減速判定部41及び第2減速判定部43に出力する。
【0050】
判別部34は、減算部33で算出された電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVに基づいて、電気駆動車両100が減速不作動状態にあるか否かを判別する。
【0051】
判別部34は、第1減速判定部41と、第1カウンタ42と、第2減速判定部43と、第2カウンタ44と、反転部45と、論理和部46と、判別結果出力部47とを備える。
【0052】
第1減速判定部41は、減算部33から入力された電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVが0km/h以上であるか否かを判定する。また、第1減速判定部41は、第1カウンタ42に接続され、平均速度の差分ΔVが0km/h以上である場合、すなわち、減速操作が行われているにも関わらず、車両速度が減速していない場合に、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号を第1カウンタ42に出力する。それ以外の場合には、第1減速判定部41は、第1カウンタ42に信号を出力しない。
【0053】
第1カウンタ42は、第1減速判定部41からの入力信号をカウントする。具体的には、第1カウンタ42は、第1減速判定部41から所定時間(ここでは1秒)毎に連続して入力される信号をカウントする。また、第1カウンタ42は、判別結果出力部47に接続され、カウント数が所定値以上となった場合に、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号を判別結果出力部47に出力する。なお、第1カウンタ42は、第1減速判定部41から連続して信号が入力されない場合には、入力信号が不連続となる度にカウント数をリセットする。
【0054】
第2減速判定部43は、減算部33から入力された電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVが0km/h未満であるか否かを判定する。また、第2減速判定部43は、第2カウンタ44に接続され、平均速度の差分ΔVが0km/h未満である場合、すなわち、電気駆動車両100が減速している場合に、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号を第2カウンタ44に出力する。それ以外の場合には、第2減速判定部43は、第2カウンタ44に信号を出力しない。
【0055】
第2カウンタ44は、第2減速判定部43からの入力信号をカウントする。具体的には、第2カウンタ44は、第2減速判定部43から所定時間(ここでは1秒)毎に連続して入力される信号をカウントする。また、第2カウンタ44は、論理和部46に接続され、カウント数が所定値以上となった場合に、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号を論理和部46に出力する。なお、第2カウンタ44は、第2減速判定部43から連続して信号が入力されない場合には、入力信号が不連続となる度にカウント数をリセットする。
【0056】
反転部45は、図示しないが論理積部23に接続され、反転部45には論理積部23の出力信号SBが入力される。そして、反転部45は、論理積部23の出力信号SBを反転する。また、反転部45は、論理和部46に接続され、論理積部23の出力信号SBの反転信号を論理和部46に出力する。
【0057】
論理和部46は、第2カウンタ44の出力信号と、反転部45の出力信号との論理和を算出する。また、論理和部46は、判別結果出力部47に接続され、第2カウンタ44の出力信号及び反転部45の出力信号の少なくとも一方から、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号が入力されれば、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号を判別結果出力部47に出力する。すなわち、論理和部46は、電気駆動車両100が所定期間連続して減速している場合、又は、論理積部23の出力信号SBが例えば「L」(又は「0」)レベルの信号である場合に、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号を判別結果出力部47に出力する。
【0058】
判別結果出力部47は、第1カウンタ42の出力信号が入力された際には、現在の車両走行状態が減速不作動状態である旨の信号をモニタ19に出力する。それ以外の場合(論理和部46の出力信号が入力された場合)には、判別結果出力部47は、現在の車両走行状態が減速不作動状態で無い(減速操作が正常に行われている)旨の信号をモニタ19に出力する。
【0059】
すなわち、本実施形態では、減速操作が行われているにも関わらず、電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVが所定時間連続して0km/h以上となるとき(車両が減速しないとき)に、減速不作動状態が発生していると判別し、その判別結果をモニタ19に表示する。これにより、運転者にリアルタイムで減速不作動状態が発生していることを知らせることができる。
【0060】
なお、本実施形態では、第1減速判定部41及び第2減速判定部43で用いる閾値を0km/hとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、車両速度検出値Vの検出誤差や、減速不作動判別部24で行う各種処理の誤差などを考慮して、第1減速判定部41及び第2減速判定部43で用いる閾値を0km/h±δvとしてもよい。なお、δvの値は、例えば、車両速度検出値Vの検出精度や、減速不作動判別部24での各種処理精度などを考慮して適宜設定される。
【0061】
[減速不作動状態の判別処理]
次に、本実施形態の制御装置18による電気駆動車両100の速度制御手法の一例を説明する。なお、ここでは、特に、速度制御時に行う減速不作動状態の判別処理を、図3を参照しながら説明する。なお、図3は、減速不作動状態の判別処理の手順を示すフローチャートである。
【0062】
まず、制御装置18は、減速ペダル2から入力される減速ペダル量、及び、速度検出器17から入力される車両速度に基づいて、減速不作動状態の判別処理を実施するか否かを判別する(ステップS1)。
【0063】
具体的には、制御装置18は、減速ペダル量が所定の閾値(図2に示す例では95%)以上であり、かつ、車両速度検出値Vが所定の閾値(図2に示す例では1km/h)以上である場合に、減速不作動状態の判別処理を実施すると判定し、減速不作動状態の判別処理を実施する旨の信号SBを減速不作動判別部24に出力する。
【0064】
ステップS1において、制御装置18が減速不作動状態の判別処理を実施しないと判定した場合には、ステップS1はNO判定となる。この場合、制御装置18は、ステップS1を繰り返し、減速ペダル2から入力される減速ペダル量、及び、速度検出器17から入力される車両速度の監視を継続する。
【0065】
一方、ステップS1において、制御装置18が減速不作動状態の判別処理を実施すると判定した場合には、ステップS1はYES判定となる。この場合、制御装置18は、検出した車両速度検出値Vをローパスフィルタ30に入力する。そして、ローパスフィルタ30は、入力された車両速度検出値Vに対して所定のフィルタ処理を施し、車両速度検出値Vのノイズを除去する(ステップS2)。
【0066】
次いで、平均化処理部31は、ノイズ除去された車両速度検出値Vnに対して平均化処理を行い、電気駆動車両100の所定期間(本実施形態では1秒)の平均速度Vm1を算出する(ステップS3)。なお、ステップS3で算出された平均速度Vm1は、減算部33だけでなくデータ保持部32にも出力され、データ保持部32では入力された平均速度Vm1を1秒間保持する。
【0067】
次いで、減算部33は、現在の電気駆動車両100の平均速度Vm1と、現在から所定期間前の平均速度Vm2との差分ΔVを算出する(ステップS4)。
【0068】
次いで、制御装置18は、減算部33で算出された電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVが、0km/h以上であるか否かを判定する(ステップS5)。
【0069】
ステップS5において、電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVが0km/h未満である場合には、ステップS5はNO判定となる。この場合、制御装置18は、減速不作動状態が発生していないと判別し、減速不作動状態の判別処理を終了する。
【0070】
一方、ステップS5において、電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVが0km/h以上である場合には、ステップS5はYES判定となる。この場合、制御装置18は、電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVが0km/h以上である状態が、所定期間(本実施形態では1秒)間隔で所定回数連続して発生しているか否かを判定する(ステップS6)。具体的には、本実施形態では、第1カウンタ35のカウント数が所定の閾値を越えたか否かを判定する。
【0071】
ステップS6において、電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVが0km/h以上である状態が所定回数連続して発生していない場合には、ステップS6はNO判定となる。この場合、制御装置18は、減速不作動状態が発生していないと判別し、減速不作動状態の判別処理を終了する。
【0072】
一方、ステップS6において、電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVが0km/h以上である状態が所定回数連続して発生している場合には、ステップS6はYES判定となる。この場合、制御装置18は、減速不作動状態が発生していると判別し、モニタ19に減速不作動状態が発生している旨の警告信号を出力する(ステップS7)。本実施形態では、上述のようにして、減速不作動状態の判別を行いながら、電気駆動車両100の速度制御を行う。
【0073】
上述のように、本実施形態では、減速操作を行っているときにのみ、電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVに基づいて減速不作動状態が発生しているか否かを判別する。それゆえ、本実施形態では、減速不作動状態の判別を、よりリアルタイムで正確に行うことができる。
【0074】
また、本実施形態では、制御装置18から出力された減速不作動状態が発生している旨の警告信号に基づいて、モニタ19に減速不作動状態の発生の情報を表示し、減速不作動状態の発生を操縦者に視覚的に知らせることができる。この場合、運転者に、よりリアルタイムで減速不作動状態の発生を知らせることができ、例えば、機械式ブレーキ5による減速操作等の対応を迅速に行うことができる。
【0075】
すなわち、本実施形態では、電気駆動車両100の走行安定性を維持しつつ、走行安全性をさらに向上させることができる。
【0076】
なお、本実施形態では、図2に示す制御装置18の各部をハードウェアで構成して上述した減速不作動状態の判別処理を実現してもよいが、所定のプログラム(ソフトウェア)を用いて上記各種処理を実行してもよい。この場合には、減速不作動状態の判別処理のプログラム(速度制御プログラム)は、制御装置18内の図示しない例えばROM(Read Only Memory)等の記憶部に格納される。
【0077】
また、減速不作動状態の判別処理のプログラムは予め記憶部に実装してもよいし、外部から別途、制御装置18に実装して上記判別処理を実行する構成にしてもよい。この場合、減速不作動状態の判別処理を実行するためのプログラムを、光ディスクや半導体メモリなどの媒体から配布する構成にしてもよいし、インターネットなどの伝送手段を介してダウンロードする構成にしてもよい。
【0078】
[比較例]
上記実施形態の電気駆動車両制御システム3の制御装置18では、上述のように、電気駆動車両100の速度を平均化処理部31で平均化し、その平均速度に基づいて、減速不作動状態の発生状況を判別する。この電気駆動車両100の速度の平均化処理により、より正確に減速不作動状態を判別することが可能になる。この理由を、本実施形態の制御装置18と、以下に示す比較例の制御装置とを比較しながら具体的に説明する。
【0079】
図4に、比較例の制御装置の概略ブロック構成を示す。なお、図4に示す比較例の制御装置200において、図2に示す上記実施形態の制御装置18と同様の構成には、同じ符号を付して示す。比較例の制御装置200では、電気駆動車両の速度(車両速度検出値V)を平均化処理せずに、減速不作動状態の発生状況を判別する。
【0080】
比較例の制御装置200は、第1判定部21と、第2判定部22と、第1論理積部203と、減速不作動判別部204とを備える。なお、比較例の制御装置200では、車両速度検出値Vの平均化処理を行わないので、制御装置200内の各部は、上記実施形態の平均化処理部31における平均化処理期間(1秒)と同じ周期(サンプリング周期)で動作するものとする。
【0081】
比較例の第1判定部21、第2判定部22及び第1論理積部203の構成は、それぞれ、上記実施形態の制御装置18の第1判定部21、第2判定部22及び論理積部23と同様の構成である。ただし、比較例では、第1論理積部203からの出力信号SAは1秒周期で出力される。
【0082】
減速不作動判別部204は、第1論理積部203から信号SAが入力された場合に減速不作動状態の判別処理を実施する。比較例の減速不作動判別部204の各部の構成、機能及び動作は次の通りである。
【0083】
減速不作動判別部204は、ローパスフィルタ210と、第1データ保持部211〜第3データ保持部213と、第1減算部214〜第3減算部216と、判別部217とを備える。
【0084】
ローパスフィルタ210は、速度検出器17に接続され、速度検出器17から入力される車両速度検出値Vに含まれるノイズ等を除去する。また、ローパスフィルタ210は、第1データ保持部211及び第1減算部214に接続され、ノイズ除去した車両速度検出値Vn1(現在値)を第1データ保持部211及び第1減算部214に出力する。
【0085】
第1データ保持部211は、ローパスフィルタ210から入力された車両速度検出値Vn1を所定期間(この例では1秒間)、保持する。また、第1データ保持部211は、第2データ保持部212、第1減算部214及び第2減算部215に接続され、所定期間、保持した車両速度検出値Vn2(1サンプリング期間(1秒)前の車両速度検出値)を第2データ保持部212、第1減算部214及び第2減算部215に出力する。
【0086】
第2データ保持部212は、第1データ保持部211から入力された車両速度検出値Vn2を所定期間(1秒間)、保持する。また、第2データ保持部212は、第3データ保持部213、第2減算部215及び第3減算部216に接続され、所定期間、保持した車両速度検出値Vn3(2サンプリング期間(2秒)前の車両速度検出値)を第3データ保持部213、第2減算部215及び第3減算部216に出力する。
【0087】
第3データ保持部213は、第2データ保持部212から入力された車両速度検出値Vn3を所定期間(1秒間)、保持する。また、第3データ保持部213は、第3減算部216に接続され、所定期間、保持した車両速度検出値Vn4(3サンプリング期間(3秒)前の車両速度検出値)を第3減算部216に出力する。
【0088】
第1減算部214は、ローパスフィルタ210から入力される車両速度検出値の現在値(Vn1)から、第1データ保持部211から入力される1サンプリング期間前の車両速度検出値Vn2を減算し、車両速度検出値の差分ΔV1(=Vn1−Vn2)を算出する。また、第1減算部214は、判別部217の後述する第1減速判定部221に接続され、算出した車両速度検出値の差分ΔV1を第1減速判定部221に出力する。
【0089】
第2減算部215は、第1データ保持部211から入力される1サンプリング期間前の車両速度検出値Vn2から、第2データ保持部212から入力される2サンプリング期間前の車両速度検出値Vn3を減算し、車両速度検出値の差分ΔV2(=Vn2−Vn3)を算出する。また、第2減算部215は、判別部217の後述する第2減速判定部222に接続され、算出した車両速度検出値の差分ΔV2を第2減速判定部222に出力する。
【0090】
第3減算部216は、第2データ保持部212から入力される2サンプリング期間前の車両速度検出値Vn3から、第3データ保持部213から入力される3サンプリング期間前の車両速度検出値Vn4を減算し、車両速度検出値の差分ΔV3(=Vn3−Vn4)を算出する。また、第3減算部216は、判別部217の後述する第3減速判定部223に接続され、算出した車両速度検出値の差分ΔV3を第3減速判定部223に出力する。
【0091】
判別部217は、各減算部で算出された車両速度検出値の各差分(ΔV1〜ΔV3)に基づいて、電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別する。判別部217は、第1減速判定部221と、第2減速判定部222と、第3減速判定部223と、第2論理積部224とを備える。
【0092】
第1減速判定部221は、第1減算部214から入力された車両速度検出値の現在の差分ΔV1が0km/h以上であるか否かを判定する。また、第1減速判定部221は、第2論理積部224に接続され、車両速度検出値の差分ΔV1が0km/h以上である場合には、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号を第2論理積部224に出力する。それ以外の場合には、第1減速判定部221は、例えば「L」(又は「0」)レベルの信号を第2論理積部224に出力する。
【0093】
第2減速判定部222は、第2減算部215から入力された車両速度検出値の1サンプリング期間前の差分ΔV2が0km/h以上であるか否かを判定する。また、第2減速判定部222は、第2論理積部224に接続され、車両速度検出値の差分ΔV2が0km/h以上である場合には、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号を第2論理積部224に出力する。それ以外の場合には、第2減速判定部222は、例えば「L」(又は「0」)レベルの信号を第2論理積部224に出力する。
【0094】
第3減速判定部223は、第3減算部216から入力された車両速度検出値の2サンプリング期間前の差分ΔV3が0km/h以上であるか否かを判定する。また、第3減速判定部223は、第2論理積部224に接続され、車両速度検出値の差分ΔV3が0km/h以上である場合には、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号を第2論理積部224に出力する。それ以外の場合には、第3減速判定部223は、例えば「L」(又は「0」)レベルの信号を第2論理積部224に出力する。
【0095】
第2論理積部224は、第1減速判定部221の出力信号と、第2減速判定部222の出力信号と、第3減速判定部223の出力信号との論理積を算出する。また、第2論理積部224はモニタ19に接続され、論理積の算出結果(減速不作動状態の判別結果)をモニタ19に出力する。
【0096】
第2論理積部224は、3サンプリング期間連続して算出した車両速度検出値の差分ΔV1〜ΔV3が全て0km/h以上である場合に、例えば「H」(又は「1」)レベルの信号をモニタ19に出力する。それ以外の場合には、第2論理積部224は、例えば「L」(又は「0」)レベルの信号をモニタ19に出力する。
【0097】
3サンプリング期間連続して算出した車両速度検出値の差分ΔV1〜ΔV3が全て0km/h以上である状態では、減速操作を行っているにも関わらず、3サンプリング期間、連続して減速していないので、比較例では、この場合に、現在、減速不作動状態が発生していると判断する。
【0098】
[減速不作動状態における判別動作の比較]
ここで、上記実施形態の制御装置18(図2)と、上記比較例の制御装置200(図4)との間における減速不作動状態の判別動作の違いを、図5を参照しながら説明する。図5は、上記実施形態及び上記比較例間における車両速度検出値の検出動作の違いを示す図である。なお、図5に示す特性の横軸は時間であり、縦軸は車両速度検出値である。
【0099】
上記実施形態の制御装置18及び上記比較例の制御装置200のいずれにおいても、ローパスフィルタを用いて速度検出器17で検出された車両速度検出値Vに含まれるノイズ等を除去する。このローパスフィルタは、主に、走行路が悪路の場合に発生する車両速度検出値の振動成分を除去することを目的とするが、低周波振動成分のノイズまで完全に除去することは困難である。それゆえ、ローパスフィルタから出力される車両速度検出値Vnには低周波振動成分のノイズが含まれる。
【0100】
それゆえ、減速不作動状態が発生している状況において実際に得られる車両速度検出値Vnの変化特性は、例えば、図5中の実線で示す特性のように、車両速度検出値Vnが低周波振動成分のノイズに対応する周期で増減しながら時間とともに上昇する特性となる。
【0101】
一方、減速不作動状態が発生している状況において、上記実施形態の手法で算出した車両速度検出値Vnの平均値(Vm)の変化特性は、図5中の四角印で示す特性となり、上記比較例の手法(平均化処理無し)で算出した車両速度検出値Vn1の変化特性は、図5中の白抜き丸印で示す特性となる。
【0102】
図5から明らかなように、ローパスフィルタから出力される車両速度検出値Vnに低周波振動成分のノイズが含まれる場合、比較例では、減速不作動状態の発生の有無の判定に用いる車両速度検出値Vn1が時間とともに単調増加せず、例えば時刻A及びBでは1サンプリング前から減速しているという判定結果が得られる。この場合、時刻A及びBにおいて、減速不作動状態が発生していないと判別される。すなわち、車両速度検出値Vn1に対して平均化処理を行わない比較例では、実際に減速不作動状態が発生していても、誤判断する可能性が高い。
【0103】
それに対して、車両速度検出値Vnに対して平均化処理を行う本実施形態では、図5に示すように、減速不作動状態の発生の有無の判別に用いる車両速度検出値Vmが時間とともに単調増加した特性となる。すなわち、本実施形態のようにローパスフィルタから出力される車両速度検出値Vnに対して平均化処理を施し、その平均化処理された車両速度検出値に基づいて減速不作動状態の発生の有無を判別した場合、低周波振動成分のノイズの影響を低減することができる。それゆえ、本実施形態では、より正確に減速不作動状態の判別が可能になる。
【0104】
なお、本実施形態では、減速不作動判別部24内の各部の設定値(カウンタの閾値等)、平均化処理のサンプル数、サンプリング周期、ローパスフィルタ30の設定周波数(遮断周波数)等を、例えば、用途、使用環境等の条件に応じて適宜設定することにより、より一層正確な減速不作動状態の判別が可能になる。
【0105】
[変形例]
上記実施形態では、減速不作動状態の判別処理において電気駆動車両100の平均速度の差分ΔVが0km/h以上である状態が所定周期間隔で所定回数連続して発生しているか否かを判別するために、第1カウンタ42及び第2カウンタ44を用いる例を説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0106】
例えば、現在から所定サンプリング期間前までの複数の平均速度の差分を算出し、その複数の平均速度の差分の論理積を演算することにより、減速不作動状態の判別処理を行う構成にしてもよい。変形例では、その一例を示す。
【0107】
図6に、変形例の制御装置の概略ブロック構成を示す。なお、図6に示す変形例の制御装置300において、図2に示す上記実施形態の制御装置18と同様の構成には、同じ符号を付して示す。
【0108】
制御装置300は、第1判定部21と、第2判定部22と、第1論理積部303と、減速不作動判別部304とを備える。なお、この例の制御装置300では、減速不作動判別部304において、上記実施形態と同様に、ローパスフィルタ30から出力される車両速度検出値Vnに対して平均化処理を行うので、平均化処理の期間(1秒)より短いサンプリング周期(0.1秒)で減速ペダル量及び車両速度検出値Vの読み取り動作を行う。
【0109】
この例の第1判定部21、第2判定部22及び第1論理積部303の構成は、それぞれ、上記実施形態の制御装置18の第1判定部21、第2判定部22及び論理積部23と同様の構成である。
【0110】
減速不作動判別部304は、ローパスフィルタ30と、平均化処理部31と、第1データ保持部311〜第3データ保持部313(データ保持部)と、第1減算部314〜第3減算部316(減算部)と、判別部317とを備える。また、判別部317は、第1減速判定部321〜第3減速判定部323と、第2論理積部324とを有する。
【0111】
この例のローパスフィルタ30及び平均化処理部31の構成は、それぞれ、上記実施形態の制御装置18の対応するそれらと同様の構成である。
【0112】
また、この例の第1データ保持部311〜第3データ保持部313、及び、第1減算部314〜第3減算部316は、それぞれ、図4に示す比較例の制御装置200の第1データ保持部211〜第3データ保持部213、及び、第1減算部214〜第3減算部216と同様の構成である。
【0113】
さらに、この例の判別部317内の第1減速判定部321〜第3減速判定部323、及び、第2論理積部324は、それぞれ図4に示す比較例の制御装置200の判別部217内の第1減速判定部221〜第3減速判定部223、及び、第2論理積部224と同様の構成である。すなわち、この例の減速不作動判別部304は、上記実施形態の減速不作動判別部24において、平均化処理部31の信号処理の下流側に位置する各部の構成を比較例の構成で置き換えたものとなる。
【0114】
この例の制御装置300では、現在から所定サンプリング期間前(図6の例では2サンプリング期間前)までの平均速度の差分(ΔVm1〜ΔVm3)に基づいて平均速度の差分が0km/h以上である状態が所定回数連続して発生しているか否かを判定することにより、現在、減速不作動状態が発生しているか否かを判別する。
【0115】
ただし、この例では、上記実施形態と同様に、平均化処理された車両速度検出値の差分に基づいて減速不作動状態の発生の有無を判別するので、より正確に減速不作動状態を判別することが可能になる。
【0116】
なお、上記変形例では、3つのデータ保持部を用いて、現在から2サンプリング期間前までの平均速度の差分(ΔVm1〜ΔVm3)を算出する構成例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、4つ以上のデータ保持部を用いて、現在から3サンプリング期間以上前までの平均速度の差分を算出する構成にしてもよい。このデータ保持部の数は、例えば、必要とする減速不作動状態の判別精度等に応じて適宜変更することができる。
【0117】
上記実施形態及び変形例では、判別部が、所定期間毎に得られる電気駆動車両の平均速度から算出される平均速度の差分に基づいて、電気駆動車両が減速不作動状態であるか否かを判定する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、判別部が、平均速度の差分でなく、所定期間毎に得られる電気駆動車両の平均速度の大小関係を直接監視して、電気駆動車両が減速不作動状態であるか否かを判定する構成にしてもよい。
【0118】
また、上記実施形態及び変形例では、速度検出器17で検出した電気駆動車両の速度に基づいて、電気駆動車両が減速不作動状態であるか否かを判定する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、インバータの回転速度や電動機の回転速度などのように電気駆動車両の速度に対応付け可能な情報(速度に関する情報)を検出して、電気駆動車両が減速不作動状態であるか否かを判定してもよい。
【0119】
この場合には、上記実施形態及び変形例で説明した制御手法において、速度の代わりに、例えばインバータの回転速度や電動機の回転速度などを検出する。そして、その検出結果に基づいて、平均速度の代わりに、例えばインバータの平均回転速度や電動機の平均回転速度など(平均速度に関する情報)を算出する。それ以外の処理は、上記実施形態及び変形例で説明した制御手法と同様である。この場合にも上記実施形態及び変形例と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0120】
1…エンジン、2…減速ペダル、3…電気駆動車両制御システム、4…ギア、5…機械式ブレーキ、6…車輪、11…発電機、12…第1電力変換器、13…平滑コンデンサ、14…第2電力変換器、15…電動機、16…電力消費装置、17…速度検出器、18…制御装置、19…モニタ、21…第1判定部、22…第2判定部、23…論理積部、24…減速不作動判別部、30…ローパスフィルタ、31…平均化処理部、32…データ保持部、33…減算部、34…判別部、41…第1減速判定部、42…第1カウンタ、43…第2減速判定部、44…第2カウンタ、45…反転部、46…論理和部、47…判別結果出力部、100…電気駆動車両


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気駆動車両のエンジンに接続される発電機と、
前記発電機に接続され、前記発電機が出力する交流電力を直流電力に変換する第1電力変換器と、
前記第1電力変換器に接続され、前記第1電力変換器が出力する直流電力を交流電力に変換する第2電力変換器と、
前記第2電力変換器に接続され、前記第2電力変換器が出力する交流電力により駆動され、車輪を回転駆動する電動機と、
前記電気駆動車両の速度に関する情報を検出する速度検出部と、
前記速度検出部で検出される前記電気駆動車両の速度に関する情報に基づいて減速操作を制御する速度制御装置とを備え、
前記速度制御装置が、
所定期間毎に前記電気駆動車両の平均速度に関する情報を算出する平均化処理部と、
前記電気駆動車両に対して前記電動機の回生動作により減速操作が行われた際に、前記平均化処理部で算出された前記所定期間毎の前記電気駆動車両の平均速度に関する情報に基づいて、前記電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別する判別部とを有することを特徴とする電気駆動車両制御システム。
【請求項2】
前記速度制御装置が、さらに、
前記平均化処理部で算出された前記電気駆動車両の平均速度に関する情報を前記所定期間、保持するデータ保持部と、
所定の時刻に前記平均化処理部で算出された前記電気駆動車両の平均速度に関する情報から、前記データ保持部で保持された、該所定の時刻より前記所定期間前の前記電気駆動車両の平均速度に関する情報を減算して平均速度の差分に関する情報を算出する減算部とを有し、
前記判別部が、前記減算部で算出された前記平均速度の差分に関する情報に基づいて、前記電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別することを特徴とする請求項1に記載の電気駆動車両制御システム。
【請求項3】
前記判別部は、前記電気駆動車両の減速ペダルの踏み込み量が第1の閾値以上であり、かつ、前記速度検出部で検出される前記電気駆動車両の速度に関する情報が第2の閾値以上である場合に、前記電気駆動車両の前記平均速度に関する情報に基づいて、前記電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別することを特徴とする請求項1又は2に記載の電気駆動車両制御システム。
【請求項4】
前記判別部は、前記電気駆動車両の前記平均速度に関する情報に基づいて、前記電気駆動車両が前記所定期間の間隔で所定回数連続して加速しているか否かを判定することにより、前記電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気駆動車両制御システム。
【請求項5】
さらに、前記判別部で前記電気駆動車両が減速不作動状態にあると判断された際に、警告を発する警告装置を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気駆動車両制御システム。
【請求項6】
前記電気駆動車両の速度に関する情報が前記電気駆動車両の速度であり、かつ、前記電気駆動車両の平均速度に関する情報が前記電気駆動車両の平均速度であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気駆動車両制御システム。
【請求項7】
所定期間毎に電気駆動車両の平均速度に関する情報を算出する平均化処理部と、
前記電気駆動車両に対して回生動作による減速操作が行われた際に、前記平均化処理部で算出された前記所定期間毎の前記電気駆動車両の平均速度に関する情報に基づいて、前記電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別する判別部とを備える速度制御装置。
【請求項8】
電気駆動車両の平均速度に関する情報を算出する平均化処理部と、該電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別する判別部とを備える速度制御装置の速度制御方法であって、
前記平均化処理部が、所定期間毎に電気駆動車両の平均速度に関する情報を算出するステップと、
前記判別部が、前記電気駆動車両に対して回生動作による減速操作が行われた際に、前記所定期間毎に算出された前記電気駆動車両の平均速度に関する情報に基づいて、前記電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別するステップとを含む速度制御方法。
【請求項9】
所定期間毎に電気駆動車両の平均速度に関する情報を算出する処理と、
前記電気駆動車両に対して回生動作による減速操作が行われた際に、前記所定期間毎に算出された前記電気駆動車両の平均速度に関する情報に基づいて、前記電気駆動車両が減速不作動状態にあるか否かを判別する処理とを電気駆動車両の速度制御装置に実装して実行させる速度制御プログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−96556(P2012−96556A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243129(P2010−243129)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】