説明

電界効果型有機トランジスタの製造方法

【課題】 オンオフ比が改善され、閾値電圧が低い、長期的に安定な特性を有する電界効果型有機トランジスタの製造方法を提供する。
【解決手段】 ソース電極15、ドレイン電極14、ゲート電極12、ゲート絶縁層13及び有機半導体層16を有する電界効果型有機トランジスタの製造方法であって、該有機半導体層16を形成する工程が、350℃以下の融点を有する有機半導体を液相プロセスで成膜した後に室温または室温以上の温度から室温より低い温度T1 に冷却する第1工程、次いで温度T1 から室温まで昇温する第2工程を含む電界効果型有機トランジスタの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界効果型有機トランジスタの製造方法に関し、特に表示デバイス、情報タグ、IC等のエレクトロ分野に有用な有機半導体層を有する電界効果型有機トランジスタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機半導体を利用した有機トランジスタは、シリコントランジスタでは困難とされるプラスチック基板上への製造や大画面化が可能である。特に可溶性有機半導体を利用したものは真空プロセスを必要としない為に低コスト化が可能であり、フレキシブルな電子ペーパー、情報タグ等の新しいデバイスへの適用が期待されている。
【0003】
特許文献1は、可溶性有機半導体として、共役高分子化合物のポリ(3−アルキルチオフェン)からなる移動度が10-2cm2 /Vsの有機材料活性層を用いた電界効果型有機トランジスタが開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、有機半導体層を真空プロセスあるいは液相プロセスで成膜した後、電界効果型有機トランジスタの原理を究明する目的で室温以下の温度において評価を行っている。
【特許文献1】特開平10−190001号公報
【非特許文献1】“SCIENCE”,VOL.280,p.1741(1998年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電界効果型有機トランジスタは未だ実用レベルの特性が得られていない。特に有機半導体として共役高分子化合物を利用した場合、成膜に真空プロセスを必要としないことより、コスト面では有利であるが、特性面では移動度が低い、オンオフ比が低い、閾値電圧が高い、経時的に劣化し易い等の多くの課題が未解決である。前記特許文献1では共役高分子化合物の構造を工夫することで移動度及びオンオフ比を改善できることを開示しているが、まだ、十分な特性とはいえず、また経時的な特性の安定性に関しては検討されていない。
【0006】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、オンオフ比が改善され、閾値電圧が低い、長期的に安定な特性を有する電界効果型有機トランジスタの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、ゲート絶縁層及び有機半導体層を有する電界効果型有機トランジスタの製造方法であって、該有機半導体層を形成する工程が、350℃以下の融点を有する有機半導体を液相プロセスで成膜した後に室温または室温以上の温度から室温より低い温度T1 に冷却する第1工程、次いで温度T1 から室温まで昇温する第2工程を含むことを特徴とする電界効果型有機トランジスタの製造方法である。
【0008】
前記T1 は0℃より低い温度であることが好ましく、また−20℃より低い温度であることがより好ましく、更に−40℃より低い温度であることがより好ましい。
前記T1 に冷却する速度及び室温まで昇温する速度は20℃/min以下であることが好ましい。
【0009】
前記第1工程及び第2工程は真空中または乾燥不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。また、前記T1 で1分以上保持する工程3を含むことが好ましい。
前記有機半導体は300℃以下の融点を有することが好ましく、また200℃以下の融点を有することがより好ましい。
【0010】
前記有機半導体は液晶性を有することが好ましい。前記有機半導体が共役高分子化合物からなることが好ましく、ポリチオフェン誘導体であることがより好ましい。前記共役高分子化合物の重量平均分子量は5,000〜100,000であることが好ましい。前記共役高分子化合物は配向していることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、閾値電圧が低い、長期的に安定な特性を有する電界効果型有機トランジスタの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明はソース電極、ドレイン電極及びゲート電極の3つの電極と、ゲート絶縁層及び有機半導体層とで構成された電界効果型有機トランジスタの製造方法であって、該有機半導体層を形成する工程が、350℃以下の融点を有する有機半導体を含有し、該有機半導体を成膜した後に室温または室温以上の温度から室温より低い温度T1 に冷却する第1工程、次いで温度T1 から室温まで昇温する第2工程を含むことを特徴とする。
【0013】
これまで、有機半導体層を真空プロセスあるいは液相プロセスで成膜した後、電界効果型有機トランジスタの原理を究明する目的で室温以下での温度において評価を行っている例は幾つかの文献(例えば、前記非特許文献1)で開示される。しかしながら、一度室温以下に冷却した後、室温に戻して特性を比較したものやその工程の有効性を開示するものはない。
【0014】
本発明は350℃以下の融点を有する有機半導体を成膜した後に、室温より低い温度にすることで有機半導体の閾値電圧の変動が小さく、特性が安定化することを見出したものである。
【0015】
ここで記述する室温とは20℃から30℃の間の温度を示す。また、電界効果型トランジスタの製造とは電界効果型有機トランジスタを搭載するデバイスと結合するまでの工程を示す。
【0016】
前記T1 は0℃より低い温度であることが好ましく、また−20℃より低い温度であることがより好ましく、更に−40℃より低い温度であることがより好ましい。前記T1 に冷却する速度及び室温まで昇温する速度は20℃/min以下、好ましくは10℃/min以下であることが望ましい。
【0017】
前記第1工程及び第2工程は真空中または乾燥不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。さらに、前記T1 で1分以上保持する工程3を含むことが好ましい。
本発明の製造方法が有効である理由は明確ではないが、有機半導体化合物はファンデルワールス力という比較的弱い相互作用により分子同士が結合している。また、異方性を有していることより、液晶のように準安定状態を取る場合がある。特に高分子化合物においては緩和時間が長いために室温に放置していても経時的に構造が変化してしまう場合が多々ある。従って室温より低い温度にすることでその化合物の最安定の構造に落ち着き、秩序構造が高く、また安定な膜が得られるものと推測される。
【0018】
前記有機半導体は300℃以下の融点を有することが好ましく、また200℃以下の融点を有することがより好ましい。また、前記有機半導体は液晶性を有することが好ましい。前記有機半導体は、例えば(1)ポリアセチレン誘導体、チオフェン環を有するポリチオフェン誘導体、ポリ(3−アルキルチオフェン)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ベンゼン環を有するポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、窒素原子を有するポリピリジン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリキノリン誘導体等の共役高分子化合物、(2)トリフェニレン誘導体に代表されるディスコチック液晶、フェニルナフタレン誘導体、ベンゾチアゾール誘導体に代表されるスメクチック液晶、(3)ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン−ビチオフェン)共重合体に代表される液晶ポリマー等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、好ましくは共役高分子化合物であり、ポリチオフェン誘導体が特に好ましい。例えば以下に示す構造の化合物が挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
(式中、R1 、R2 、R3 、R4 はH、Fまたは炭素原子数が1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、パーフルオロアルキル基を示す。nは正の整数を示す。)
これらの共役高分子化合物の分子量は特に限定はされないが、溶媒に対する可溶性、成膜性等を考慮すると重量平均分子量が5,000から100,000が好ましい。
【0022】
また、共役高分子化合物は配向していることが好ましい。配向方法としてはラビング法、温度勾配法、摩擦転写法、磁場あるいは電界印加による配向法等が挙げられる。
本発明の有機半導体層は液相プロセスによって成膜される。例えばキャスティング法、スピンコート法、浸漬コート法、スクリーン印刷法、マイクロモールド法、マイクロコンタクト法、ロール塗布法、インクジェット法、LB法等が挙げられる。有機半導体を溶解する溶媒としては、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン等が用いられる。
【0023】
本発明の電界効果型有機トランジスタの構造は、プレーナー型、スタガー型または逆スタガー型の何れにおいても有効であるが、プレーナー型を一例に図1を用いて本発明の電界効果型有機トランジスタの構造を説明する。図1は本発明の電界効果型有機トランジスタの一例を示す断面模式図である。同図において、本発明の電界効果型有機トランジスタは、絶縁性基板11上にゲート電極12を配置し、その上にゲート絶縁層13を配置し、更にその上にソース電極15およびドレイン電極14を配置し、その上に有機半導体層16そして最上部に保護膜17を配置してなるものである。
【0024】
本発明で用いるゲート絶縁層は特に限定はされないがSiO2 、SiN、Al23 、Ta25 等の無機材料、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン等の有機材料および有機無機ハイブリッド材料を用いることができる。好ましくは、低コストにつながる液相プロセスを利用できるという観点から有機化合物が好ましい。
【0025】
絶縁性基板としては特に限定されないが、例えばガラス、石英等の無機材料のほかアクリル系、ビニル系、エステル系、イミド系、ウレタン系、ジアゾ系、シンナモイル系等の感光性高分子化合物、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等の有機材料、有機無機ハイブリッド材料を用いることができる。また、これらの材料を2層以上積層させて用いることもでき、絶縁耐圧を上げる目的で効果がある。
【0026】
さらに本発明で用いるゲート電極、ソース電極およびドレイン電極は導電体であれば特に限定はされないが、例えばAl、Cu、Ti、Au、Pt、Ag、Cr等の金属材料、ポリシリコン、シリサイド、ITO(Indium Tin Oxide)、SnO2 等の無機材料も好適であるが、ハイドープされたポリピリジン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンに代表される導電性高分子および炭素粒子、銀粒子等を分散した導電性インク等を用いることができる。特にフレキシブル電子ペーパー等に用いる場合、各電極は導電性高分子および炭素粒子、銀粒子等を分散した導電性インク等であるものが基板との熱膨張をそろえ易く好ましい。
【0027】
これら各電極、ゲート絶縁層の形成方法は特に限定はされないが有機材料の場合、電解重合法、キャスティング法、スピンコート法、浸漬コート法、スクリーン印刷法、マイクロモールド法、マイクロコンタクト法、ロール塗布法、インクジェット法、LB法等で形成することができる。また、用いる材料により真空蒸着法、CVD法、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法、スパッタ法等も有効な形成方法である。また、これらはフォトリソグラフおよびエッチング処理により所望の形状にパターニングすることができる。その他、ソフトリソグラフ、インクジェット法も有効なパターニング方法である。また、必要に応じて各電極からの引出し電極や保護膜等を形成することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
図2は本発明の実施例に用いる電界効果型有機トランジスタを示す断面模式図である。ゲート電極21としてn型に高ドープされたシリコン基板、ゲート絶縁層22としてSiO2 、ソース電極24およびドレイン電極23として金、有機半導体層25を形成する有機半導体としてポリ(3−ヘキシルチオフェン)(重量平均分子量67,000、融点230℃)を用いる。以下に製造手順を示す。
【0029】
シリコン基板上に熱酸化膜SiO2 (300nm)を形成する。その上にリフトオフ法によりチャネル長50μm、チャネル幅50mmのクロム(5nm)/金(100nm)ソースドレイン両電極を作製する。ポリ(3−ヘキシルチオフェン)の1wt%クロロホルム溶液をスピンコート法により膜厚100nmとなる様に塗布し、窒素雰囲気下、120℃で12時間放置し、その後冷却速度10℃/minで−10℃まで冷却する。−10℃で1時間保持した後、昇温速度10℃/minで室温まで昇温し、有機半導体層を形成する。ゲート電極、ドレイン電極、ソース電極の各電極に0.1mmφの金線を銀ペーストで配線し、電界効果型有機トランジスタ素子を作製する。
【0030】
次にゲート電圧を0V〜−50V、ソース−ドレイン電極間の電圧0V〜−50Vでのドレイン電流を測定し、良好なIV特性が得られることが確認された。
次にドレイン電流の平方根とゲート電圧の関係からドレイン電流Id=0に外挿することにより閾値電圧Vthを求め、更に式(1)から移動度μを算出する。
【0031】
【数1】

【0032】
(式中、μは移動度、Idはドレイン電流(A)、Wはチャネル幅(cm)、Lはチャネル長(cm)、Ciはゲート絶縁層の単位面積あたりの容量(F/cm2 )、Vgはゲート電圧(V)、Vthは閾値電圧(V))
また、ゲート電圧0V、ソース−ドレイン電極間−50Vのときのドレイン電流(オフ電流)とゲート電圧−50V、ソース−ドレイン電極間−50Vのときのドレイン電流(オン電流)の比からオンオフ比を算出する。
【0033】
実施例2
実施例1で形成する有機半導層の形成方法が、1wt%クロロホルム溶液をスピンコート法により塗布し、真空下、120℃で12時間放置し、その後冷却速度20℃/minで−40℃まで冷却する。−40℃で1時間保持した後、昇温速度20℃/minで室温まで昇温し、有機半導体層を形成する形成方法に代える以外は実施例1と同様の方法で電界効果型有機トランジスタ素子を作製する。
【0034】
ゲート電圧を0V〜−50V、ソース−ドレイン電極間の電圧0V〜−50Vでのドレイン電流を測定し、良好なIV特性が得られることが確認される。実施例1と同様の方法で移動度、オンオフ比、閾値電圧を求めることができる。
【0035】
実施例3
実施例1で形成する有機半導層の形成方法が、1wt%クロロホルム溶液をスピンコート法により塗布し、真空下、120℃で12時間放置し、その後冷却速度20℃/minで−100℃まで冷却する。−100℃で1時間保持した後、昇温速度20℃/minで室温まで昇温し、有機半導体層を形成する形成方法に代える以外は実施例1と同様の方法で電界効果型有機トランジスタ素子を作製する。
【0036】
ゲート電圧を0V〜−50V、ソース−ドレイン電極間の電圧0V〜−50Vでのドレイン電流を測定し、良好なIV特性が得られることが確認される。また、実施例1と同様の方法で移動度、オンオフ比、閾値電圧を求めることができる。
【0037】
比較例1
次に比較実験として、実施例1で形成する有機半導層の形成方法が、1wt%クロロホルム溶液をスピンコート法により塗布し、真空下、120℃で12時間放置し、室温まで冷却して有機半導体層を形成する形成方法に代える以外は実施例1と同様の方法で電界効果型有機トランジスタ素子を作製し、実施例1と同様の方法で移動度、オンオフ比、閾値電圧を求めることができる。
【0038】
その結果、実施例1〜3で作製される電界効果型有機トランジスタは比較例1で作製されるものに比べ、移動度は2〜3倍大きくなり、オンオフ比が1〜2桁改善され、閾値電圧が小さくなることが確認される。
【0039】
実施例4
実施例1で使用する有機半導体をポリ(3−ドデシルチオフェン)(重量平均分子量57,000、融点175℃)に代える以外は実施例1と同様の方法で電界効果型有機トランジスタ素子を作製する。
【0040】
ゲート電圧を0V〜−50V、ソース−ドレイン電極間の電圧0V〜−50Vでのドレイン電流を測定し、良好なIV特性が得られることが確認される。実施例1と同様の方法で移動度、オンオフ比、閾値電圧を求めることができる。
【0041】
実施例5
実施例4で有機半導層の形成方法が、1wt%クロロホルム溶液をスピンコート法により塗布し、真空下、120℃で12時間放置し、その後冷却速度20℃/minで−150℃まで冷却する。−150℃で1時間保持した後、昇温速度20℃/minで室温まで昇温し、有機半導体層を形成する形成方法に代える以外は実施例4と同様の方法で電界効果型有機トランジスタ素子を作製する。
【0042】
ゲート電圧を0V〜−50V、ソース−ドレイン電極間の電圧0V〜−50Vでのドレイン電流を測定し、良好なIV特性が得られることが確認される。実施例1と同様の方法で移動度、オンオフ比、閾値電圧を求めることができる。
【0043】
比較例2
次に比較実験として、実施例4で形成する有機半導層の形成方法が、1wt%クロロホルム溶液をスピンコート法により塗布し、真空下、120℃で12時間放置し、室温まで冷却して有機半導体層を形成する形成方法に代える以外は実施例4と同様の方法で電界効果型有機トランジスタ素子を作製し、実施例1と同様の方法で移動度、オンオフ比、閾値電圧を求めることができる。
【0044】
その結果、実施例4または5で作製される電界効果型有機トランジスタは比較例2で作製されるものに比べ、移動度は10〜15倍大きくなり、オンオフ比が1〜2桁改善され、閾値電圧が小さくなることが確認される。
【0045】
実施例6
図3は本発明の実施例に用いる電界効果型有機トランジスタを示す断面模式図である。ゲート電極31としてn型に高ドープされたシリコン基板、ゲート絶縁層32としてポリイミド、ソース電極34およびドレイン電極33として金、有機半導体層35を形成する有機半導体としてポリ(9,9−ジドデシルフルオレン−コ−ビチオフェン)(重量平均分子量21,000、液晶相140℃〜230℃)を用いる。以下に製造手順を示す。
【0046】
シリコン基板上にポリアミック酸をスピンコート法で塗布し、200℃で焼成しポリイミド膜を形成する。その表面を布で擦りラビング処理を施す。ポリ(9,9−ジドデシルフルオレン−コ−ビチオフェン)の1wt%ジクロロベンゼン溶液をスピンコート法により塗布し、真空下、180℃で3時間放置し、その後冷却速度20℃/minで−100℃まで冷却する。−100℃で1時間保持した後、昇温速度20℃/minで室温まで昇温し、有機半導体層を形成する。その上に金(50nm)を真空蒸着し、チャネル長50μm、チャネル幅10mmのソースドレイン両電極を作製する。この時、電流が流れる方向とラビング方向が平行になるようにソースドレイン両電極を配置する。ゲート電極、ドレイン電極、ソース電極の各電極に0.1mmφの金線を銀ペーストで配線し、電界効果型有機トランジスタ素子を作製する。
【0047】
次にゲート電圧を0V〜−50V、ソース−ドレイン電極間の電圧0V〜−50Vでのドレイン電流を測定し、良好なIV特性が得られることが確認される。実施例1と同様の方法で移動度、オンオフ比、閾値電圧を求めることができる。また、初期の閾値電圧Vth1とし、室温で1ヶ月放置した後の閾値電圧Vth2としたとき、下記の式(2)によりその変動率を求めたところ10%以下の変動であることを確認する。
【0048】
【数2】

【0049】
実施例7
実施例6で形成する有機半導層の形成方法が、1wt%クロロホルム溶液をスピンコート法により塗布し、真空下、180℃で3時間放置し、その後冷却速度20℃/minで−150℃まで冷却する。−150℃で1時間保持した後、昇温速度20℃/minで室温まで昇温し、有機半導体層を形成する形成方法に代える以外は実施例6と同様の方法で電界効果型有機トランジスタ素子を作製する。
【0050】
ゲート電圧を0V〜−50V、ソース−ドレイン電極間の電圧0V〜−50Vでのドレイン電流を測定し、良好なIV特性が得られることが確認される。実施例1と同様の方法で移動度、オンオフ比、閾値電圧を求めることができる。また、実施例6と同様に変動率を求めたところ10%以下の変動であることを確認する。
【0051】
実施例8
実施例6で形成する有機半導層の形成方法が、1wt%クロロホルム溶液をスピンコート法により塗布し、真空下、180℃で3時間放置し、その後冷却速度20℃/minで−250℃まで冷却する。−250℃で1時間保持した後、昇温速度20℃/minで室温まで昇温し、有機半導体層を形成する形成方法に代える以外は実施例6と同様の方法で電界効果型有機トランジスタ素子を作製する。
【0052】
ゲート電圧を0V〜−50V、ソース−ドレイン電極間の電圧0V〜−50Vでのドレイン電流を測定し、良好なIV特性が得られることが確認される。実施例1と同様の方法で移動度、オンオフ比、閾値電圧を求めることができる。また、実施例6と同様に変動率を求めたところ10%以下の変動であることを確認する。
【0053】
比較例3
次に比較実験として実施例6で形成する有機半導層の形成方法が、1wt%クロロホルム溶液をスピンコート法により塗布し、真空下、180℃で3時間放置し、室温まで冷却して有機半導体層を形成する形成方法に代える以外は実施例6と同様の方法により電界効果型有機トランジスタを作製し、上記と同様の手法で移動度、オンオフ比、閾値電圧を求める。
【0054】
その結果、実施例4〜6で作製される電界効果型有機トランジスタは比較例2で作製されるものに比べ、移動度は10倍〜30倍大きくなり、オンオフ比が2〜3桁改善され、閾値電圧が小さくなることが確認される。また実施例6と同様に変動率を求めたところ50%以上の変動であることを確認する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の電界効果型有機トランジスタは、オンオフ比が改善され、閾値電圧が低く、長期的に安定な特性を有するので、表示デバイス、情報タグ、IC等のエレクトロ分野における電界効果型有機トランジスタに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の電界効果型有機トランジスタの断面模式図である。
【図2】実施例で用いる電界効果型有機トランジスタの断面模式図である。
【図3】実施例で用いる電界効果型有機トランジスタの断面模式図である。
【符号の説明】
【0057】
11 絶縁性基板
12、21、31 ゲート電極
13、22、32 ゲート絶縁層
14、23、33 ドレイン電極
15、24、34 ソース電極
16、25、35 有機半導体層
17 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、ゲート絶縁層及び有機半導体層を有する電界効果型有機トランジスタの製造方法であって、該有機半導体層を形成する工程が、350℃以下の融点を有する有機半導体を液相プロセスで成膜した後に室温または室温以上の温度から室温より低い温度T1 に冷却する第1工程、次いで温度T1 から室温まで昇温する第2工程を含むことを特徴とする電界効果型有機トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記T1 が0℃より低い温度である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記T1 が−20℃より低い温度である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記T1 が−40℃より低い温度である請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記T1 に冷却する速度及びT1 から室温まで昇温する速度が20℃/min以下である請求項1乃至4のいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程及び第2工程が真空中または乾燥不活性ガス雰囲気下で行われる請求項1乃至5のいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項7】
さらに前記T1 で1分以上保持する第3工程を有する請求項1乃至5のいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記有機半導体が300℃以下の融点を有する請求項1乃至7のいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記有機半導体が200℃以下の融点を有する請求項1乃至7のいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記有機半導体が液晶性を有する請求項1乃至9のいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記有機半導体が共役高分子化合物からなる請求項1乃至10のいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記共役高分子化合物がポリチオフェン誘導体である請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
前記共役高分子化合物の重量平均分子量が5,000〜100,000である請求項11または12記載の製造方法。
【請求項14】
前記共役高分子化合物が配向している請求項11乃至13のいずれかの項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−49774(P2006−49774A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232381(P2004−232381)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】